JP3789059B2 - Tig溶接用フラックス入りワイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フラックスが内部に充填されたTIG溶接用のフラックス入りワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
TIG溶接はクリーンな溶接方法として広く利用されているが、TIG溶接による深い溶け込み深さを得ることは困難である。そのため、図6に示すように、被溶接体3に断面積の大きな開先6を形成し、開先6の底面と被溶接体裏面との距離であるルートフェイスAを薄くした開先を形成して、溶け込み不良を補うことが行われている。
【0003】
一方、フラックスは、溶接時の入熱量が同値であればより深い溶け込みを得ることが可能であるところ、開先表面にフラックスを塗布して、溶け込みを深くすることも行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、図6に示すような断面積の大きい開先6を形成して溶接を行う場合、何層にも亘って溶接を行う必要がある。また、フラックスを開先へ塗布することは、大変な手間と時間を要するだけでなく、一旦塗布したフラックスは、被溶接体に衝撃が加わったり、他のものと接触すると剥げ落ちることがある。この剥げ落ちた部分では、溶接の溶け込み深さを十分に得ることができず、溶接不良の原因となる。
【0005】
そこで、本発明は、開先にフラックスを塗布する作業を省き、被溶接体に深い溶け込みを与えることができるTIG溶接用フラックス入りワイヤを提供する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明では、TIG溶接するための内部にフラックス(2)が充填されたフラックス入りワイヤであって、前記フラックス(2)は、SiO2とCr2O3とで構成され、これらの混合比率は、SiO2が20〜80重量%、Cr2O3が20〜80重量%であり、このフラックス(2)は、前記フラックス入りワイヤに5〜25重量%の比率で充填されたTIG溶接用フラックス入りワイヤにより上記課題を解決する。
【0007】
本発明によれば、フラックス(2)が溶接ワイヤに充填されているので、溶接開始直後に、ワイヤを送ることにより、ワイヤが溶けて溶融池表面を溶融フラックスが覆うことになる。したがって、フラックスを開先に別途、塗布する必要がなくなる。
【0008】
また、充填されるフラックス(2)は、20〜80重量%のSiO2と20〜80重量%Cr2O3とで構成されているので、溶融池の溶湯を深さ方向に沿って対流させる事ができる。この為、溶融池の表面張力のを低減させ、溶け込みを深くする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、本発明のフラックス入りワイヤの4つの実施形態について、長手方向に直交する方向の断面をそれぞれ示している。
【0011】
これらワイヤは、細長く厚さの薄い外皮材1で、フラックス2の外周を被覆するようにして形成されている。外皮材1は、元々細長い板状の部材である。この板状の外皮材1をその幅方向の両側端を、その長手方向の全域に亘って突き合わせるようにして円状に曲成させ、その内部にフラックス2を包込んで、ワイヤ完成品の前段階の準完成品が形成される。その後、準完成品内部に形成された空間を圧縮して全長に亘って均一な線径になるように前記準完成品をその長手方向に引き抜き加工して、本発明にかかるフラックス入りワイヤが形成される。この際、図1(c)又は図1(d)のように、外皮材1の両側端同士を絡めるようにしてワイヤを形成すると充填されたフラックス2の漏れ出しを効果的に防止できる。
【0012】
なお、内部に充填するフラックス2のワイヤ全重量に対するし比率は、5〜25重量%とするのがよく、好ましくは、10〜20重量%とするとよい。一方、比率が5重量%に満たないと、以下に説明する本発明の作用効果を有効に発揮できない恐れが有り、また、25重量%を超える場合には、引き抜き加工の際に外皮材の両側端をうまく密着させることが困難となる場合がある。
【0013】
次に、本発明のフラックス入りワイヤに充填されるフラックスについて、その詳細を説明する。
【0014】
一般に、溶接深さは、母材の表面張力、粘性、溶湯温度その他の各因子により決定される。本願発明の発明者は種々の実験を行い、TIG溶接をする際、使用されるフラックスに含有されるSiO2、Cr2O3の混合比率が、溶融池の表面張力に影響を及ぼすことを究明した。
【0015】
フラックスをCr2O3とSiO2とで構成し、Cr2O3を20〜80重量%、SiO2を20〜80重量%の比率にしたものを使用してステンレス鋼にTIG溶接すると、溶融池の表面張力が、600dyne/cm以下となり、この範囲以外の範囲の場合に比し、大幅に表面張力を低下させることができる。これは、図2に示すように、このフラックスが溶融池の溶融4を電極の中心CLに向けて対流させるとともに母材3の深さ方向に沿って対流させる為である。
【0016】
なお、Cr2O3とSiO2との混合比率は、好ましくは、Cr2O3を40〜80重量%、SiO2を20〜60重量%とすると更によい。一方、Cr2O3の混合比率が20重量%より小さく、かつ、SiO2の混合比率が80重量%より大きい場合には、溶融池の表面張力が大きくなる。また、Cr2O3の混合比率が80重量%より大きく、かつ、SiO2の混合比率が20重量%より小さい場合にも溶融池の表面張力は大きくなる。
【0017】
以上、被溶接体がステンレス鋼であるものについて説明したが、これには限定されず、他の比溶接体にTIG溶接を施しても同様である。
【0018】
【実施例】
フラックスをCr2O3とSiO2とで構成し、Cr2O3とSiO2との混合比率を種々変化させたフラックスをワイヤに充填し、これらフラックス入りワイヤを使用して、ステンレス鋼にビードオンプレート溶接試験を行い、溶け込み深さを測定した。溶接時の条件は、200A、10Vで、トーチを10cm/minの速度で移動させて行い、試験に使用したステンレス鋼は板厚が8mmのSUS304の板材で、その化学成分は表1に示すものを使用した。
【0019】
【表1】
【0020】
図3は、Cr2O3とSiO2との混合比率と溶け込み深さの関係を示し、横軸はCr2O3とSiO2との混合比率を、縦軸は溶接深さをそれぞれ表している。また、図4にCr2O3とSiO2との混合比率と、(溶け込み深さ)/(ビード幅)で表されるアスペクト比との関係を示し、横軸はCr2O3とSiO2との混合比率を、縦軸は前記アスペクト比をそれぞれ表している。なお、溶け込み深さとは図5のDで表される部分を、ビード幅とは図4のWで表される部分をいう。
【0021】
図3から明らかなように、SiO220〜80重量%、Cr2O320〜80重量%の範囲で、溶け込み深さDを約4〜6mmとすることができる。特に、SiO2が40重量%、Cr2O3が60重量%のとき、溶け込み深さDを約6mmとすることができる。これは、従来のTIG溶接ワイヤで溶接した場合の3mmに比べ、2倍の溶け込み深さを得ることになる。また、図4から判るように、SiO220〜80重量%、Cr2O320〜80重量%の範囲で、アスペクト比は0.45〜0.8の値を得ている。特に、SiO2が40重量%、Cr2O3が60重量%のとき、その値は、0.8と従来のワイヤの0.4に対し2倍の値を得ている。このことは、本発明のフラックス入りワイヤで溶接すると、幅方向よりも深さ方向へ溶け込んで、深い溶け込み深さを得ることができることを意味している。
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、フラックスが溶接ワイヤに充填されているので、溶接開始直後に、ワイヤを送ることにより、ワイヤが溶けて溶融池表面を溶融フラックスが覆うため、フラックスを開先に別途、塗布する必要がなくなる。また、深い溶け込みを得ることができるので、何層にも亘って溶接する必要もなくなり、溶接作業の作業時間を大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の4つの実施形態にかかるフラックス入りワイヤの縦断面図。
【図2】溶接の際生ずる溶融池の溶湯の対流を示す説明図。
【図3】SiO2とCr2O3との混合比率と、溶け込み深さの関係を示す図。
【図4】SiO2とCr2O3との混合比率と、アスペクト比との関係を示す図。
【図5】溶け込み深さ及びビード幅を示す説明図。
【図6】被溶接体の開先形状を示す縦断面図。
【符号の説明】
1 外皮材
2 フラックス
4 溶融
D 溶け込み深さ
W ビード幅
Claims (1)
- TIG溶接するための内部にフラックスが充填されたフラックス入りワイヤであって、
前記フラックスは、SiO2とCr2O3とで構成され、これらの混合比率は、SiO2が20〜80重量%、Cr2O3が20〜80重量%であり、
このフラックスは、前記フラックス入りワイヤに5〜25重量%の比率で充填されていることを特徴とするTIG溶接用フラックス入りワイヤ。
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