JP3579573B2 - 炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軟鋼・高張力鋼よりなる中板・厚板で構成される狭開先V形継手の片面溶接に適用されるもので、高温割れのない健全な裏波ビード(初層ビード)が得られ、耐高温割れ性に優れた片面溶接を行うことができる、炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
中板・厚板での溶接の能率化を図るため、被溶接物の開先をその断面積を減少させるべく狭開先化し、シールドガスである炭酸ガスが安価であることなどから広く普及している炭酸ガスアーク溶接にて狭開先V形突合せ継手を片面溶接するようにした炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法が提案されている。周知のように片面溶接では、開先裏面に開先長手方向に沿って裏当て材を当て、開先表面の側から片面初層溶接を行って、該裏当て材で溶融金属を支えて裏波ビード(片面初層溶接ビード、あるいは単に初層ビードという)を形成し、次いで2層目以後の溶接を行って狭開先継手の溶接を完了させるようにしている。
【0003】
このような片面溶接方法の一例が、特公平4−45270号に示されている。この従来の片面溶接方法では、狭開先V形突合せ継手(開先角度:50°、ルートギャップ:0mm)において裏当て材を用い裏波ビードを形成する片面初層溶接に際し、鉄粉を主体とした金属粉からなる開先内充填剤を開先内に所定量散布し、太径(φ2.0mm)のメタル系フラックス入りワイヤ(スラグ系ワイヤに比べてスラグ形成剤が少ないワイヤ)を用いて溶接するようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし前記従来の炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法では、裏波ビード(初層ビード)に高温割れが発生することがあるという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、裏当て材、開先内充填剤及び炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤを用い、狭開先を有する被溶接物を片面溶接する炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法において、高温割れのない健全な裏波ビード(初層ビード)が得られ、耐高温割れ性に優れた片面溶接を行うことができる、炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決する本発明に係る炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法は、裏当て材、開先内充填剤及び炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤを用い、狭開先を有する被溶接物を片面溶接する炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法において、前記被溶接物の開先が開先角度55°以下、ルートギャップ2mm以下(0mmを含む)の狭開先であり、裏当て材を用い裏波ビードを形成する片面初層溶接に際し、平均粒径0.3mm以上、かつ酸素量が200ppm以下の開先内充填剤を開先内に開先ルートより高さ2mm以上散布し、炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤとして、ワイヤ径1.2〜1.6mmの、ソリッドワイヤ、若しくは、フラックス成分として含有される酸化物が2重量%(ワイヤ全重量に対する重量%)以下のメタル系フラックス入りワイヤを用いて、片面初層溶接金属の酸素含有量が550ppm以下となる溶接を行うことを特徴とするものである。また、前記片面初層溶接に際し、溶接電流:350〜500A、溶接速度:30cm/分以下に設定するようにしている。
【0007】
【発明の実施の形態】
片面溶接における初層ビードの高温割れは、溶接金属の凝固時に割れが発生するもので、凝固中の溶接金属に負荷される拘束力、溶接金属の成分、溶接条件などに起因して発生するものである。この高温割れは、ビード表面にビード幅のほぼ中央を開先長手方向に沿って生じる表面縦割れの形態、あるいは、ビード表面に達していない内部縦割れの形態をとるものである。本発明に係る片面溶接方法では、開先角度55°以下でルートギャップ2mm以下(0mmを含む)の狭開先V形突合せ継手を炭酸ガスアーク溶接による片面溶接するにあたり、初層ビード(裏波ビード)に高温割れを発生することなく片面初層溶接を行うために、以下▲1▼〜▲6▼の構成としている。なお、前記狭開先継手の開先角度の下限は30°に設定している。
【0008】
▲1▼平均粒径0.3mm以上、かつ酸素量が200ppm以下の開先内充填剤を開先内に開先ルートより高さ2mm以上散布すること:前記狭開先の片面初層溶接では、開先が狭いために、溶融池が開先長手方向に沿って細長く延びるとともに溶融池幅が一定でなく不規則に変動し、かつ該溶融池が上下にも不規則に大きく動揺し、このように溶融池が細長く、かつ形状不安定となり、そのために溶融池の凝固が一斉かつ均一になされないことで、高温割れが発生し易いということが分かった。また、前記した溶融池が細長く、かつ形状不安定となることに起因して、アーク長(ワイヤ先端と溶融池との距離)が大きく変動しアークが不安定となり、このアークが不安定になることで前記の溶融池不安定現象が助長されるという悪循環が生じていることが分かった。
【0009】
そこで、開先内に開先内充填剤(例えば鋼粒)を開先ルートより高さ2mm以上散布することにより、図1に示すように、散布された開先内充填剤で狭開先の底部が埋められてあたかも開先ルートギャップが広くなった状態となる。この状態でアークを発生させ充填剤を溶融しながら溶接を行うと、充填剤なしの場合に比べて溶融池が幅方向に広がって大きくなり、かつ不規則に動揺することなく安定し、溶融池が安定化することでアーク長の変動も小さくアークも安定化する。この溶融池及びアークの安定化により溶融池の凝固が均一になされて、高温割れの発生を抑制することができる。しかし散布高さが2mm未満ではこのような溶融池及びアークの安定化による高温割れ抑制効果が発揮されない。
【0010】
一方、開先内充填剤は、その平均粒径が0.3mm以上、かつ酸素含有量が200ppm以下とする必要がある。開先内充填剤の平均粒径が0.3mmより小さいと、溶接時のシールドガス(炭酸ガス)の吹き付けによって飛ばされて散布高さが乱され、アークが不安定になることで溶融池も動揺し不安定になる。したがって、開先内充填剤の平均粒径の下限値は0.3mmとする。なお、平均粒径が3mmを超えると該充填剤をアークで溶かし難くなる。また、後述するように、初層ビードの良好な耐高温割れ性を確保するため片面初層溶接金属の酸素含有量を550ppm以下にすべく、酸素含有量が200ppm以下の開先内充填剤を用いる必要がある。
【0011】
▲2▼炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤのワイヤ径は1.2〜1.6mmであること:太径ワイヤほどワイヤ剛性が大きくなり、ワイヤ送給性不安定に起因するアーク不安定(アーク長変動)がしばしば発生する。その結果、溶融池が不安定となり該溶融池の凝固が均一になされず高温割れが発生し易くなる。ワイヤ径がφ1.6mmより太いものでは耐高温割れ性が大幅に悪くなる。一方、ワイヤ径がφ1.2mmより細いものでは使用溶接電流範囲が低く安定した裏波ビードが得られない(開先裏面側に裏波ビードが安定して出ない)。したがって、ワイヤ径は1.2〜1.6mmの範囲とした。
【0012】
▲3▼炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤとして、ソリッドワイヤ、若しくは、フラックス成分として含有される酸化物が2重量%(ワイヤ全重量に対する重量%)以下のメタル系フラックス入りワイヤを用いること:後述するように、初層ビードの良好な耐高温割れ性を確保するため片面初層溶接金属の酸素含有量を550ppm以下にすべく、ソリッドワイヤ(一般に酸素含有量が50〜200ppm程度である)、若しくは、酸化物が2重量%以下のメタル系フラックス入りワイヤを用いる必要がある。
【0013】
▲4▼片面初層溶接金属の酸素含有量が550ppm以下:片面初層溶接金属の酸素含有量が550ppmを超える場合は、初層ビードの耐高温割れ性が悪くなる。したがって、良好な耐高温割れ性を得るためには初層溶接金属中の酸素含有量の上限は550ppmとする必要がある。初層溶接金属の酸素含有量が高温割れに対してどのような作用をするのか、その作用機構自体は明らかではない。しかし、酸素含有量が多く550ppmを超えると、若干の固溶酸素により固液共存温度領域が広がり耐高温割れ性が悪くなる、あるいは、酸化物(介在物)が比較的低融点酸化物となり耐高温割れ性が悪くなる、と推定される。
【0014】
▲5▼溶接電流が350〜500Aであること:溶接電流が大きいほど、アーク力も強くなって溶融池が不規則に大きく動揺し形状不安定になり易く耐高温割れ性が悪くなる。その上限は500Aである。一方、350Aより低いと、アーク力が弱くて安定した裏波ビードが得られない(開先裏面側に裏波ビードが安定して出ない)。したがって、片面初層溶接時の溶接電流は、350〜500Aの範囲がよい。
【0015】
▲6▼溶接速度が30cm/分以下であること:溶接速度が大きいほど、溶融池が細長く延びて形状不安定になり易く耐高温割れ性が悪くなる。その上限は30cm/分である。なお、溶接速度が15cm/分より小では、溶融池がアーク発生点前方に大きく先行するために裏波ビードが安定して出ないので、下限値は15cm/分が望ましい。ただし、水平に対して若干の昇り傾斜となっている継手では、溶融池の先行が起こりにくく裏波ビードが出やすいので、当然ながら溶接速度が15cm/分より小でも安定した裏波ビードが得られる場合がある。
【0016】
なお、裏当て材としては、その構成(構造、材料)は特に制限されず、一般に市販されている耐火物(セラミックス)製の裏当て材を用いることができる。また、裏当て材としてビード形状を良好に整えるために裏当てフラックスなどを使用しても差し支えない。
【0017】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例とともに説明する。表1及び表2に示す供試材料を使用し、表3に示す初層溶接条件(個別の電流及び速度は表6に示す)にて、狭開先V形突合せ継手の炭酸ガスアーク溶接による片面初層溶接を実施し、裏波ビード(初層ビード)の高温割れ発生の有無を調べた。
【0018】
表2に使用した充填剤(本例では鋼粒)の化学成分の範囲を示している。充填剤の化学成分は、基本的には本例では使用ソリッドワイヤ(JIS Z 3312 YGW11相当品)相当の化学成分であれば差し支えない。また、初層溶接の運棒法については、表3のようにオシレート幅2mmの単純横振りのオシレートを行ったが、他のオシレート法、またはオシレートしないストレート運棒でも差し支えない。
【0019】
図2はテストピース(溶接試験用の狭開先V形突合せ継手)の説明図で、その(a)は平面図、(b)は側面図である。耐高温割れを評価するために拘束板付きのテストピースを製作した。同図に示すように、2枚の開先付き供試鋼板1を突き合わせてなる狭開先V形突合せ継手(板厚t:20mm、幅W:300mm、長さL:600mm)の裏面に4枚の拘束板2を溶接接合してテストピースを製作した。各拘束板2はその脚部(開先長手方向に対し直角方向へ延びる部位)をすみ肉溶接(全長)して継手裏面に溶接接合してある。符号3は開先面内仮付け溶接部、4は裏当て材である。
【0020】
図3は開先内充填剤(本例では鋼粒)の平均粒径φm を説明するための図である。同図に示すように、1個の充填剤における最大長さをφmax(x)とし、その中央点から垂直で、かつ最大長さのところをφy とし、φmax(x)φy 平面からの垂直の長さをφz とし、φ’=(φmax(x)+φy +φz )/3を求める。任意の20個の充填剤の各φ’を測定し、これら20個のφ’の平均値を充填剤の平均粒径φm としている。
【0021】
メタル系フラックス入りワイヤ(メタル系FCWと略称される)については、表4に示す化学成分の鋼製外皮(JIS G 3141 SPCC 相当)を用い、該鋼製外皮内にフラックスを充填したものを線引きし、表5に示すフラックス成分組成を持つ2種類のメタル系フラックス入りワイヤ(ワイヤ▲1▼:酸化物総和1重量%、ワイヤ▲2▼:酸化物総和3重量%)を製作した。両ワイヤのワイヤ径はφ1.4mmである。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
【表4】
【0026】
【表5】
【0027】
【表6】
【0028】
片面初層溶接の試験結果を表6に示す。なお、表6の「初層溶接金属の酸素含有量」の欄の「―」印は、安定した裏波ビードが得られなかったので、酸素量を測定しなかったものである。また、No.7の比較例では、開先裏面に裏波ビードが出なかったので、耐高温割れ性の評価は除外している。
【0029】
試験結果から、No.1〜8の比較例では本発明で規定する要件の何れかを欠くために、次のような問題があった。No.1は開先内充填剤の平均粒径が下限値を下回るため、アーク及び溶融池不安定に起因した高温割れが発生し、No.2は充填剤の散布高さが下限値を下回るため、溶融池及びアークに起因した高温割れが発生した。また、No.3は充填剤の酸素量が上限値を上回るため、初層溶接金属の酸素含有量が550ppmを超え、耐高温割れ性が悪化し、高温割れが発生した。No.4はワイヤ径2mmの太径ワイヤのため、ワイヤ送給不安定に起因した高温割れが発生した。
【0030】
また、No.5は溶接電流が上限値を上回るため、溶融池が大きく動揺し融池不安定に起因した高温割れが発生し、No.6は溶接速度が上限値を上回るため、溶融池が細長く延び溶融池不安定に起因した高温割れが発生した。No.7は溶接電流が下限値を下回り、開先裏面に裏波ビードが出なかった。また、No.8は、酸化物含有量が上限値を超えたメタル系フラックス入りワイヤを使用したため、初層溶接金属の酸素含有量が550ppmを超え、耐高温割れ性が悪化し、高温割れが発生した。
【0031】
これに対して、本発明例(No.9〜No.13)では、高温割れのない健全な裏波ビード(初層ビード)が得られた。
【0032】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明に係る炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法によると、裏当て材、開先内充填剤及び炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤを用い、狭開先被溶接物を片面溶接する方法において、開先角度55°以下でルートギャップ2mm以下(0mmを含む)の狭開先V形突合せ継手について、高温割れのない健全な裏波ビード(初層ビード)が得られ、耐高温割れ性に優れた片面溶接を行うことができ、中板・厚板鋼板の溶接能率化の進展に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】狭開先V形突合せ継手(ルートギャップ0mm)の開先内に充填剤を散布した様子を模式的に示す図である。
【図2】実施例におけるテストピース(溶接試験用の狭開先V形突合せ継手)の説明図である。
【図3】開先内充填剤の平均粒径を説明するための図である。
【符号の説明】
1…供試鋼板 2…拘束板 3…開先面内仮付け溶接部 4…裏当て材
Claims (2)
- 裏当て材、開先内充填剤及び炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤを用い、狭開先を有する被溶接物を片面溶接する炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法において、
前記被溶接物の開先が開先角度55°以下、ルートギャップ2mm以下(0mmを含む)の狭開先であり、裏当て材を用い裏波ビードを形成する片面初層溶接に際し、平均粒径0.3mm以上、かつ酸素量が200ppm以下の開先内充填剤を開先内に開先ルートより高さ2mm以上散布し、炭酸ガスシールドアーク溶接用ワイヤとして、ワイヤ径1.2〜1.6mmの、ソリッドワイヤ、若しくは、フラックス成分として含有される酸化物が2重量%(ワイヤ全重量に対する重量%)以下のメタル系フラックス入りワイヤを用いて、片面初層溶接金属の酸素含有量が550ppm以下となる溶接を行うことを特徴とする炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法。 - 溶接電流:350〜500A、溶接速度:30cm/分以下に設定し、前記片面初層溶接を行う請求項1記載の炭酸ガスアーク溶接による片面溶接方法。
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