JP7244283B2 - 3電極片面ガスシールドアーク溶接方法 - Google Patents

3電極片面ガスシールドアーク溶接方法 Download PDF

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Description

本発明は、被溶接材により形成された開先の3電極片面ガスシールドアーク溶接方法に関し、特に板厚が22mmを超える被溶接材の溶接において、裏ビード及び表ビード形状が良好で、スパッタ発生量が少なく、溶接欠陥が無い健全な溶接金属が高能率に得られる3電極片面ガスシールドアーク溶接方法に関する。
各種溶接構造物の建造時の溶接において、合理化及び効率化のために種々の高能率溶接法が採用されている。中でも突合せ溶接の比率が高い造船や橋梁等では片面溶接が適用されている。
片面溶接方法としては、従来からサブマージアーク溶接方法が造船の板継溶接として盛んに実施されている。例えば特許文献1には片面サブマージアーク溶接装置が開示されており、特許文献2や特許文献3には、3電極または4電極を使用して片面サブマージアーク溶接する方法が開示されている。
しかし、特許文献1に開示されている片面サブマージアーク溶接装置は、実施設備が大がかりとなり、短尺溶接では煩雑で適用できない等の問題がある。
一方、短尺溶接が可能な片面ガスシールドアーク溶接方法が実用化されている。特許文献4~6には、開先裏面に裏当材を当接して先行電極にソリッドワイヤまたはフラックス入りワイヤ、後行電極にフラックス入りワイヤを用いてガスシールドアーク溶接で片面溶接する技術の開示がある。これらは被溶接材の板厚12~25mmを2電極で片面ガスシールドアーク溶接するというものである。しかし、特許文献4~6の開示技術においても、被溶接材の板厚が22mmを超えると、裏ビードが出ない場合や裏ビードの形状が不良になる場合があり、また初層と2層目の間に融合不良が生じたり、さらに、初層に高温割れが生じる場合が多く、実際の施工においては種々の問題があった。
特開2012-665号公報 特開平5-337651号公報 特開2005-246385号公報 特開平9-206945号公報 特開平10-202368号公報 特開2000-102871号公報
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、特に被溶接材の板厚が22mmを超える短尺から長尺の溶接において、裏ビード及び表ビード形状が良好で、スパッタ発生量が少なく、溶接欠陥が無い健全な溶接金属が高能率に得られる3電極片面ガスシールドアーク溶接方法を提供することを目的とする。
本発明の要旨は、被溶接材における開先角度30~55°のVまたはY形状の開先裏面に裏当材を当接して3電極片面ガスシールドアーク溶接する3電極片面ガスシールドアーク溶接方法であって、該開先内に鋼粒を被溶接材板厚の1/5~1/2の高さまで充填し、先行電極ワイヤと中間電極ワイヤとの電極間距離、及び中間電極ワイヤと後行電極ワイヤとの電極間距離をそれぞれ80~300mmとし、先行電極ワイヤの溶接電流密度を250A/mm2以上、中間電極ワイヤの溶接電流密度を220A/mm2以上及び後行電極ワイヤの溶接電流密度を200A/mm2以上とし、かつ先行電極ワイヤの揺動を65~115回/分、中間電極ワイヤと後行電極ワイヤの揺動をそれぞれ30~90回/分で溶接することを特徴とする。
また、先行電極ワイヤはソリッドワイヤ、中間電極ワイヤはワイヤ全質量に対してスラグ形成剤の合計が1質量%以下であるメタル系フラックス入りワイヤ、後行電極ワイヤはワイヤ全質量に対してスラグ形成剤の合計を4~9質量%含むルチール系フラックス入りワイヤを用いることを特徴とする。
さらに、中間電極ワイヤの極性はワイヤマイナスであることも特徴とする3電極片面ガスシールドアーク溶接方法にある。
本発明の3電極片面ガスシールドアーク溶接方法によれば、特に被溶接材の板厚が22mmを超える短尺から長尺の溶接において、裏ビード及び表ビード形状が良好で、スパッタ発生量が少なく、融合不良やスラグ巻き込みなどの溶接欠陥が無い健全な溶接金属が高能率に得られる。
本発明の3電極片面ガスシールドアーク溶接方法に用いる被溶接材の開先部を示す図である。
本発明者らは、上記課題を解決するために、板厚が22mmを超える被溶接材の3電極片面ガスシールドアーク溶接方法について、裏ビード及び表ビード形状が良好で、スパッタ発生量が少なく、融合不良やスラグ巻き込み等の溶接欠陥が無い健全な溶接金属を高能率に得るべく詳細に検討した。
図1は、本発明を適用した3電極片面ガスシールドアーク溶接方法に用いる被溶接材の開先部を示す。被溶接材1の裏面1aに裏当材2を当接し、被溶接材1を開先角度θの開先とし鋼粒3を開先底部4に充填する。なお、Gはギャップを示す。
前記被溶接材1を用いて種々検討した結果、被溶接材1の裏面1aに裏当材2を当接し、開先角度θ、鋼粒充填高さ、電極間距離、各電極の溶接電流密度及び各電極の揺動回数を限定することによって、裏ビード及び表ビード形状が良好で、スパッタ発生量が少なく、融合不良やスラグ巻き込み等の溶接欠陥が無い健全な溶接金属が高能率に得られることを見出した。
また、先行電極ワイヤ、中間電極ワイヤ及び後行電極ワイヤの種類及びスラグ形成剤の量を限定することによって、裏ビード及び表ビードの形状、耐欠陥性がさらに良好で、中間電極の極性をワイヤマイナスとすることによって、さらにスパッタ発生量が少なくなることも見出した。
以下、本発明の3電極片面ガスシールドアーク溶接方法の各限定理由について詳細に説明する。
[開先角度30~55°のVまたはY形状の開先]
被溶接材1の開先角度θを30~55°とすることによって、裏ビードが均一で形状も良好となる。開先角度θが30°未満である場合、裏ビードが出ないかビード形状が不均一で不良となる。また開先角度θが30°未満である場合には、高温割れも生じやすくなる。一方、被溶接材1の開先角度θが55°を超えると、裏ビードが出すぎて溶け落ちが生じやすくなる。また被溶接材1の開先角度θが55°を超えると、開先断面積が大きくなるので3電極1パス溶接で片面ガスシールドアーク溶接するのが困難となる。したがって、被溶接材1の開先角度θは30~55°とする。
なお、開先底部にギャップGを設ける場合は5mm以下とする。ギャップGが5mmを超えると、裏ビードが出すぎて溶け落ちが生じやすくなる。また、Y開先の場合のルートフェイスは3mm以下とする。ルートフェイスが3mmを超えると、裏ビードが均一に出なくなりやすい。さらに、開先面に仮付けをする場合は、裏ビードを安定して出すために被溶接材1の裏面1aから7mm以下とすることが好ましい。
裏当材2は、セラミック固形裏当材を使用するのがマグネットや拘束治具を用いる必要がないので好ましいが、ガラステープ併用の銅板裏当材またはフラックス銅裏当材を用いても同様の効果が得られる。
[鋼粒を被溶接材板厚の1/5~1/2まで充填]
鋼粒3を被溶接材の1/5~1/2まで開先内に充填することによって、アークが安定して裏ビードが均一で形状も良好となる。鋼粒3の開先内への充填が被溶接材1における板厚tの1/5未満であると、裏ビードが出すぎて溶け落ちが生じやすくなる。一方、鋼粒3の開先内への充填が被溶接材1における板厚tの1/2を超えると、裏ビードが出ないか裏ビード形状が不良となる。
なお、鋼粒3の粒度は、粒径1.5mm以下であることがアークの安定性及び裏ビードの形状を良好にすることから好ましい。また、成分は主にFeからなるが、耐割れ性から鋼粒3の全質量に対する質量%でCは0.10質量%以下、S及びPは0.020質量%以下が好ましく、他の成分は、溶接金属の強度及び靭性を考慮してSi、Mn、Mo、その他脱酸剤や合金剤を含有させることもできる。以上の粒度と成分を満足すれば、各種サイズの鋼ワイヤをカットした粒状体でもよい。
[先行電極ワイヤと中間電極ワイヤとの電極間距離、及び中間電極ワイヤと後行電極ワイヤとの電極間距離をそれぞれ80~300mm]
先行電極ワイヤ(以下、L極という。)と中間電極ワイヤ(以下、T1極という。)の電極間距離が80~300mmであると、L極及びT1極のアークが安定しスパッタ発生量が少なくなり、また裏ビードが均一で形状も良好となる。L極とT1極の電極間距離が80mm未満であると、L極及びT1極のアークが不安定になってスパッタ発生量が多くなる。一方、L極とT1極の電極間距離が300mmを超えると、溶接装置が大きくなるので好ましくない。したがって、先行電極ワイヤと中間電極ワイヤの電極間距離は、80~300mmとする。
T1極と後行電極ワイヤ(以下、T2極という。)の電極間距離が80~300mmであると、特にT1極のアークが安定してスパッタ発生量が少なくなる。T1極とT2極の電極間距離が80mm未満であると、T1極のアークが不安定となりスパッタ発生量が多くなる。一方、T1極とT2極の電極間距離が300mmを超えると、溶接装置が大きくなるので好ましくない。したがって、中間電極ワイヤと後行電極ワイヤとの電極間距離は、80~300mmとする。
[先行電極ワイヤの電流密度:250A/mm2以上]
L極の電流密度を250A/mm2以上にすることによって、裏ビードが均一でビード形状も良好となる。L極の電流密度が250A/mm2未満であると、裏ビード形状が不良となる。なお、L極の電流密度の上限は、耐割れ性から350A/mm2であることが好ましい。また、L極のワイヤ径は、ワイヤ断面積当たりの溶接電流密度が高いことと耐割れ性から1.4~1.6mmであることが好ましい。
[中間極ワイヤの電流密度:220A/mm2以上]
T1極の電流密度を220A/mm2以上にすることによって、L極の溶接金属の開先止端部を完全に溶かして融合不良が生じることを防止できる。T1極の電流密度が220A/mm2未満であると、L極の溶接金属の開先止端部に融合不良が生じやすくなる。
なお、T1極の電流密度の上限は、スパッタ発生量の抑制から320A/mm2以下であることが好ましい。また、T1極のワイヤ径は、ワイヤ断面積当たりの溶接電流密度が比較的高くアークを安定にするために1.2~1.6mmであることが好ましい。
[後行極ワイヤの電流密度:200A/mm2以上]
T2極の電流密度を200A/mm2以上にすることによって、T1極の溶接金属の開先止端部を完全に溶かして融合不良が生じることを防止できる。T2極の電流密度が200A/mm2未満であると、T1極の溶接金属の開先止端部に融合不良が生じやすくなる。
なお、T2極の電流密度の上限は、表ビードの形状を良好にすることから300A/mm2以下であることが好ましい。また、T2極のワイヤ径は、表ビード形状を良好にするために1.2~1.6mmであることが好ましい。
[先行電極ワイヤの揺動:65~115回/分]
L極の揺動を65~115回/分とすることによって、裏ビードが均一に出てビード形状も良好となる。L極の揺動が65回/分未満であると、裏ビードの波形が粗くなり良好な裏ビードが得られない。一方、L極の揺動が115回/分を超えると、アークが不安定になり良好な裏ビードが得られない。
なお、揺動回数は、L極の一往復動を1回とする。また、L極の揺動幅(オシレート幅)は、良好な裏ビードを得るために3~5mmであることが好ましい。
[中間電極ワイヤの揺動:30~90回/分]
T1極の揺動を30~90回/分とすることによって、L極の溶接金属の開先止端部を完全に溶かして融合不良が生じることを防止できる。T1極の揺動が30回/分未満であると、L極の溶接金属の開先止端部に融合不良が生じやすくなる。一方、T1極の揺動が90回/分を超えると、アークが不安定になりスパッタ発生量が多くなる。
なお、T1極の揺動幅は、L極の溶接金属の開先止端部を完全に溶かすために6~10mmであることが好ましい。
[後行電極ワイヤの揺動:30~90回/分]
T2極の揺動を30~90回/分とすることによって、表ビードの形状が良好となる。T2極の揺動が30回/分未満であると、表ビードの波形が粗くなりビード形状が不良となる。一方、T2極の揺動が90回/分を超えると、アークが不安定になり表ビードの形状が不良となる。
なお、T2極の揺動幅は、T1極の溶接金属の開先止端部を完全に溶かすために6~10mmであることが好ましい。
[先行電極ワイヤ:ソリッドワイヤ]
L極をソリッドワイヤとすることによって、裏ビードが出やすくビード形状が安定するのでより好ましい。L極にメタル系フラックス入りワイヤを用いた場合、良好な裏ビード形状が得られる条件範囲がやや狭くなる。また、L極にルチール系フラックス入りワイヤを用いた場合、裏ビードが出なくなるかビード形状が不良となりやすくなる。したがって先行電極ワイヤは、ソリッドワイヤとすることが好ましいが、これに限定されるものではない。
なお、ソリッドワイヤ成分は、ワイヤ全質量に対して、Cを耐割れ性から0.10質量%以下、Siを脱酸剤及びビード形状の改善から0.5~1.5質量%、Mnを脱酸剤、耐割れ性及び機械的性能から1.5~2.5質量%、Tiを溶接金属の靭性確保から0.1~0.5質量%含むことが好ましい。さらに、溶接金属の強度確保からMoを1.5質量%以下、溶接金属の靭性確保からBを0.01質量%以下含むことも好ましい。
[中間電極ワイヤ:スラグ形成剤の合計がワイヤ全質量に対して1質量%以下のメタル系フラックス入りワイヤ]
T1極は、アークが最も不安定になりやすいので、酸化物及び弗素化合物からなるスラグ形成剤の合計をワイヤ全質量に対して1質量%以下のメタル系フラックス入りワイヤを用いることが好ましい。酸化物及び弗素化合物からなるスラグ形成剤の合計が1%を超えると、スラグ生成量が多くなって、T2極でスラグを完全に溶融できない場合がありスラグ巻き込み欠陥が生じやすくなる。一方、T1極にソリッドワイヤを用いると、アークが不安定となってスパッタ発生量が多くなる。したがって、中間電極ワイヤは、スラグ形成剤の合計がワイヤ全質量に対して1質量%以下のメタル系フラックス入りワイヤとされていることが好ましいが、これに限定されるものではない。
なお、スラグ形成剤は、SiO2、TiO2、Al23、Na2O、K2Oなどの酸化物と、NaF、AlF3、Na3AlF6、Na2SiF6等の弗素化合物の合計をいう。メタル系フラックス入りワイヤのその他は、金属Si,Fe-Si、金属Mn、Fe-Mn、Fe-Si-Mn、Fe-Ti、Fe-Al、Al-Mg、鉄粉等の金属及び合金粉である。
[後行電極ワイヤ:ワイヤ全質量に対してスラグ形成剤の合計を4~9質量%含むルチール系フラックス入りワイヤ]
T2極は、表ビードの形状を良好にするためにスラグ形成剤の合計をワイヤ全質量に対して4~9質量%含むルチール系フラックス入りワイヤを用いることが好ましい。スラグ形成剤の合計が4質量%未満であると、スラグ被包性が悪くなり表ビードの形状が不良となる。一方、スラグ形成剤の合計が9質量%を超えると、スラグ生成量が多くなってスラグ巻き込み欠陥が生じやすくなる。したがって、後行電極ワイヤは、ワイヤ全質量に対してスラグ形成剤の合計を4~9質量%含むルチール系フラックス入りワイヤとされていることが好ましいが、これに限定されるものではない。
なお、スラグ形成剤は、TiO2を3~6質量%含み、その他はSiO2、Al23、Na2O、K2Oなどの酸化物と、NaF、AlF3、Na3AlF6、Na2SiF6等の弗素化合物の合計をいう。また、ルチール系フラックス入りワイヤには、溶接金属の強度及び靭性を調整するために、前記酸化物及び弗素化合物の他、金属Si、Fe-Si、金属Mn、Fe-Mn、Fe-Si-Mn、Fe-Ti、Fe-Al、Al-Mg、鉄粉等の金属及び合金粉を含む。
[中間電極ワイヤの極性はワイヤマイナス]
ガスシールドアーク溶接の電極の極性は、一般的に溶接作業性が良好で溶け込み深さが得られるワイヤプラス(以下、DCEPという。)が用いられるが、本発明の3電極片面ガスシールドアーク溶接方法においては、T1極でアークが不安定でスパッタ発生量が多くなるので、T1極の極性はワイヤマイナス(以下、DCENという。)としてアークを安定させスパッタ発生量を抑制することが好ましい。
なお、本発明を適用した3電極片面ガスシールドアーク溶接方法において使用するシールドガスはCO2ガス等である。
以下、実施例により本発明の効果を具体的に説明する。
表1に示す成分の鋼板を表6及び表7に示すVまたはY開先に加工してセラミック固形裏当材を開先裏面に当接して表2に示す成分鋼粒を開先内に充填して、表3に示すソリッドワイヤ、表4に示すメタル系フラックス入りワイヤ及び表5に示すルチール系フラックス入りワイヤを用いて、表6及び表7に示す各種条件で3電極片面ガスシールドアーク溶接を実施した。なお、シールドガスは炭酸ガスを用い、流量は各電極50リットル/分とした。試験体の長さは1500mmとした。なお、表6、7において、先行電極ワイヤ(L)と中間電極ワイヤ(T1)との電極間距離は、T1の欄に、中間電極ワイヤ(T1)と後行電極ワイヤ(T2)との電極間距離は、T1の欄に、それぞれ記載している。
Figure 0007244283000001
Figure 0007244283000002
Figure 0007244283000003
Figure 0007244283000004
Figure 0007244283000005
Figure 0007244283000006
Figure 0007244283000007
調査項目は、各電極のアークの安定性とスパッタ発生量、裏ビード及び表ビード形状を調査した後、X線透過試験を実施して溶接欠陥の有無を調査した。なお、欠陥があった試験は欠陥箇所を切断して欠陥の発生位置及び欠陥の種類を調査した。それらの結果を表8に示す。
Figure 0007244283000008
表6及び表8中試験No.1~試験No.9は本発明例、表7及び表8中試験No.10~試験No.20は比較例である。本発明例である試験No.1、試験No.2及び試験No.6~試験No.9は、開先角度、鋼粒充填高さ、L極とT1極の電極間距離、T1極とT2極の電極間距離、L極の電流密度と揺動回数、T1極の電流密度と揺動回数及びT2極の電流密度と揺動回数が本発明において規定した範囲内であり、L極にソリッドワイヤ、T1極にスラグ形成剤の合計を適量含むメタル系フラックス入りワイヤ及びT2極にスラグ形成剤の合計が適量なルチール系フラックス入りワイヤを用い、T1極の極性がDCENであるので、各電極ともアークが安定してスパッタ発生量が少なく、裏ビード及び表ビードの形状が良好で溶接欠陥がなく、極めて満足な結果であった。
なお、試験No.3は、L極にワイヤ記号M2のメタル系フラックス入りワイヤを用いたので、裏ビード形状がやや不安定であった。また、試験No.4は、T1極にワイヤ記号S2のソリッドワイヤを用いたので、T1極のスパッタ発生量がやや多かった。さらに、試験No.5は、T1極の極性がDCEPであるので、T1極のアークがやや不安定でスパッタ発生量がやや多かった。
また、試験No.1~試験No.9につき、別途溶接金属の機械的性能を調査した結果、引張試験(JIS Z 2201 A2号)は板厚中央部の引張強さが550~620MPa、衝撃試験(JIS Z 2202 4号)は表側表面下2mmの吸収エネルギーが試験温度0℃で100~140J、裏面下2mmの吸収エネルギーが0℃で60~100J得られた。
比較例中試験No.10は、開先角度θが狭いので、裏ビード形状が不均一で、高温割れも生じた。また、T1極の極性がDCEPであるので、T1極のアークがやや不安定でスパッタ発生量がやや多かった。
試験No.11は、開先角度θが広いので、裏ビードが出すぎて溶け落ちが生じたので溶接を中止した。
試験No.12は、鋼粒の充填高さが低いので、裏ビードが出すぎて溶け落ちが生じたので溶接を中止した。
試験No.13は、鋼粒の充填高さが高いので、裏ビードが出なかった。また、T2極のワイヤ記号F6のルチール系フラックス入りワイヤのスラグ形成剤の合計が多いので、最終層開先部にスラグ巻き込み欠陥が生じた。
試験No.14は、L極とT1極の電極間距離が短いので、L極及びT1極のアークが不安定でスパッタ発生量が多かった。また、T1極にワイヤ記号M4のスラグ形成剤の合計が多いメタル系フラックス入りワイヤを用いたので、最終層開先部にスラグ巻き込み欠陥が生じた。
試験No.15は、T1極とT2極の電極間距離が短いので、T1極のアークが不安定でスパッタ発生量が多かった。また、L極にワイヤ記号F1のルチール系フラックス入りワイヤを用いたので、裏ビードの形状が不良であった。さらに、T2極にワイヤ記号F5のスラグ形成剤の少ないルチール系フラックス入りワイヤを用いたので、表ビードの形状が不良であった。
試験No.16は、L極の電流密度が低いので、裏ビードが出なかった。また、T1極の揺動回数が少ないので、2層目の開先部に融合不良が生じた。さらに、T1極の極性がDCEPであるので、T1極のアークがやや不安定でスパッタ発生量がやや多かった。
試験No.17は、T1極の電流密度が低いので、2層目の開先部に融合不良が生じた。また、L極にワイヤ記号M2のメタル系フラックス入りワイヤを用いたので、裏ビードが安定しなかった。
試験No.18は、T2極の電流密度が低いので、最終層開先部に融合不良が生じた。また、T1極の揺動回数が多いので、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。
試験No.19は、L極の揺動回数が少ないので、裏ビードの波形が粗くなった。また、T2極の揺動回数が少ないので、表ビードの波形が粗くなった。
試験No.20は、L極の揺動回数が多いので、L極のアークが不安定で裏ビード形状が不良であった。また、T2極の揺動回数が多いので、T2極のアークが不安定で表ビードの形状が不良であった。
1 被溶接材
2 裏当材
3 鋼粒
4 開先底部

Claims (3)

  1. 被溶接材における開先角度30~55°のVまたはY形状の開先裏面に裏当材を当接して3電極片面ガスシールドアーク溶接する3電極片面ガスシールドアーク溶接方法であって、
    該開先内に鋼粒を被溶接材板厚の1/5~1/2の高さまで充填し、
    先行電極ワイヤと中間電極ワイヤとの電極間距離、及び中間電極ワイヤと後行電極ワイヤとの電極間距離をそれぞれ80~300mmとし、
    先行電極ワイヤの溶接電流密度を250A/mm2以上、中間電極ワイヤの溶接電流密度を220A/mm2以上及び後行電極ワイヤの溶接電流密度を200A/mm2以上とし、
    かつ先行電極ワイヤの揺動を65~115回/分、中間電極ワイヤと後行電極ワイヤの揺動をそれぞれ30~90回/分で溶接することを特徴とする3電極片面ガスシールドアーク溶接方法。
  2. 先行電極ワイヤはソリッドワイヤ、中間電極ワイヤはワイヤ全質量に対してスラグ形成剤の合計が1質量%以下であるメタル系フラックス入りワイヤ、後行電極ワイヤはワイヤ全質量に対してスラグ形成剤の合計を4~9質量%含むルチール系フラックス入りワイヤを用いることを特徴とする請求項1に記載の3電極片面ガスシールドアーク溶接方法。
  3. 中間電極ワイヤの極性はワイヤマイナスであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の3電極片面ガスシールドアーク溶接方法。
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