JP3987754B2 - チタンまたはチタン合金のmig溶接方法 - Google Patents

チタンまたはチタン合金のmig溶接方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、船舶、建築構造物などに使用されるチタンまたはチタン合金部材の溶接の際に使用されるチタンまたはチタン合金のMIG溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、チタンまたはチタン合金は、高い耐食性が要求される船舶、建築構造物、自動車、自動二輪車等に使用されており、最近においてはその使用量が益々増加している。このチタンまたはチタン合金の溶接に際しては、現在では、主に非消耗電極式溶接方法の1種であるTIG溶接方法(タングステンイナートガスメタル溶接方法)を採用している。これに対して、消耗電極式溶接方法であるMIG溶接方法(イナートガスメタルアーク溶接方法)では、TIG溶接方法に比較して数倍以上の溶接能率が得られるという利点を有するものの、純チタン製の溶接ワイヤを用いてMIG溶接を行った場合、溶接アークが極めて不安定になる。
【0003】
これは、チタンおよびチタン合金をMIG溶接方法で溶接した場合、アークは陰極点を維持するために、チタンおよびチタン合金の被溶接材の表面酸化膜が残存する位置にアークが激しく移動して暴れるワンダリング現象が生じるため、溶接スパッタが多量に発生し、母材となるチタンおよびチタン合金にスパッタが付着する。また、このワンダリング現象によって溶接ビードが蛇行するという問題があり、溶接部の外観不良が頻発している。このため、チタンおよびチタン合金をMIG溶接方法で溶接するという危険は極力忌避されてきた。
【0004】
一方、TIG溶接方法を採用した場合には、高融点の非消耗電極を使用してアークを発生させて、母材に生成される溶融池に、溶接ワイヤを供給しながら溶接を行うためにスパッタ発生はない。また、電極側が負極性で、被溶接側が正極性であるために、被溶接材表面に生成する酸化膜を除去するクリーニング作用がないことから上記ワンダリング現象が生じることはなく、依って、溶接ビードは蛇行はなく、良好な溶接外観形状が得られる。このために、チタンおよびチタン合金の溶接に際しては専らTIG溶接方法が採用されていた。
【0005】
また、TIG溶接では溶接トーチを適正な位置に保持しつつ、溶接ワイヤも適正な位置に保持する必要がある。そのために、工場等で溶接トーチと溶接ワイヤを適切な位置に保持できる装置を準備できる場合は良いものの、非溶接物が大型の構造物である場合には、溶接作業者がこれら溶接トーチと溶接ワイヤ等を適切な位置に保持しつつ、溶接進行に伴って移動しなければならないために溶接作業者にかかる負担は想像もできない。更に、溶接トーチ内に溶接ワイヤを送給するガイド装置が組み込まれているものは、MIG溶接用半自動溶接トーチに比較して極めて高価である。加えて、TIG溶接は、MIG溶接に比べて溶接入熱が小さいために溶接時間が長く、そのために溶接能率が悪いという問題がある。また、溶接時間が長いためにシールドガスに使用するガス量が多量となり、コスト高となる。
【0006】
例えば、特開昭59−226159号公報には、加工組織をなす2本のチタン帯板の長さ方向端面を突き合わせ、TIG溶接して溶接部近傍の母材部を軟化焼鈍することで破断することのないチタン帯板の接続方法が開示されている。このように、従来ではチタン帯板の溶接に際しては専らTIG溶接方法での溶接が行われている。また、特開2000−280076号公報には、不活性ガスに微量の酸化性ガスを添加したシールドガス、及びチタン又はチタン合金の消耗電極を使用してパルス溶接電流を通電して溶接するチタン又はチタン合金のアーク溶接方法が開示されている。しかし、シールドガスから酸素或いは酸化物を供給すると溶接アークを安定化させるだけでなく、溶接金属内に大量の酸素が混入するために、溶接部が硬化し、伸びが低下するなどの機会的特性の劣化を招くことになる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑み、チタン又はチタン合金MIG溶接であっても、安定、かつ高能率に、かつ半自動溶接による現場溶接を可能とし、溶接時間短縮によるシールドガス使用量低減によるコスト削減を図ることのできる、チタンまたはチタン合金のMIG溶接方法を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その要旨は次の通りである。
(1)チタンまたはチタン合金の溶接において、純チタンの溶接ワイヤ表面、溶接前の被溶接材の開先表面の何れか一方、または両者の表面に熱処理を伴う表面処理方法により、10nm〜10μmの厚さの酸化膜であって、Al とTiO の2層皮膜またはこれらが混在した皮膜からなる酸化膜を付与してことを特徴とするチタンまたはチタン合金のMIG溶接方法。
(2)前記酸化膜がAl:0.5〜10質量%含むことを特徴とする(1)記載のチタンまたはチタン合金のMIG溶接方法。
(3)前記酸化膜が、更にO:1.0質量%以下を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載のチタンまたはチタン合金のMIG溶接方法。
(4)前記MIG溶接が、以下の条件を満たすパルス溶接電流を用いて溶接することを特徴とする(1)〜(3)の何れかの項に記載のチタンまたはチタン合金のMIG溶接方法。
【0009】
300A≦(ピーク電流)≦500A
2.0≦(ピーク電流)/(ベース電流)≦5.0
【0010】
【発明の実施の形態】
先ず、MIG溶接に使用する溶接装置について図1を用いて説明する。図1において、被溶接材1に対し、溶接部位の直上に、中心に溶接ワイヤ8、その外周に別途設けたシールドガス供給装置3から供給されるシールドガス4を溶融地5に向けて噴射する噴射口を備えたMIG溶接用トーチ2を配置し、溶接電流を通電して溶接作業を行い、溶接ビード6を形成する。一般に、チタンまたはチタン合金は鋼などに比べて低温で酸化し易く、鋼で用いる溶接トーチ先端のみのガスシールドでは、溶接金属が酸化して硬化し、溶接金属の良好な伸びが得られなくなる。そのために、溶接直後の溶接トーチの後方にシールドボックスを設けて、溶接アーク点の後方もArガスなどの不活性ガスでシールドする。
【0011】
本発明で用いる上記シールドガス供給装置3は、シールドガス供給パイプ3−1から供給されたシールドガスをシールドボックス3−2内に一旦取り込み、このシールドボックス3−2内に、シールドガスが溶接ビード6の表面に均一に供給されるように、溶接方向と平行にガス供給パイプ3−3を配置し、ガス出口3−4を溶接ビード6と反対の出口に複数箇所設けてガス出口から噴射するシールドガス4′をシールドボックス3−2内の上壁に当ててから、下面の溶接ビード6に当てる方法が採用される。
【0012】
図2に従来方法によるMIG溶接を行った場合のワンダリング現象によるスパッタの飛散状況を、また図3に溶接ビード外観の模式図をそれぞれ示した。図2に示すように、従来のチタンおよびチタン合金のMIG溶接においては、アークが陰極点を維持するために溶接アークが極めて不安定になり、被溶接材の表面酸化膜が残存する位置にアークが激しく移動して暴れるワンダリング現象のために溶接スパッタが多量に発生し、母材表面にスパッタ7が飛散して付着する。また、図3に示すように、上記スパッタの飛散・付着に加え、ワンダリング現象によって溶接ビードが蛇行し、溶接部の外観不良の発生および溶接金属の強度低下となる。図3において、ワンダリング現象が起こると溶接ビード始端部の外側に、上記ワンダリング現象によってアークがうねり幅方向に移動した痕跡が残り、極めて劣悪な溶接ビード形状となる。
【0013】
そこで、本発明においては、チタンまたはチタン合金の溶接において、断面外形が1.6〜2.0mmの純チタンの溶接ワイヤ表面、溶接前の被溶接材の開先表面の何れか一方、または両者の表面に熱処理を伴う表面処理方法により、10nm〜10μmの厚さの酸化膜であって、Al とTiO の2層皮膜またはこれらが混在した皮膜からなる酸化膜を付与して溶接することを特徴とするチタンまたはチタン合金のMIG溶接方法で、この酸化膜は、好ましくは、Al:0.5〜10質量%、必要に応じて、更にO:1.0質量%以下を含み、MIG溶接に際しては、以下の条件を満たすパルス溶接電流を用いて溶接することによりワンダリング現象を起こさず、安定してMIG溶接しうる条件を見いだしたものである。
【0014】
300A≦(ピーク電流)≦500A
2.0≦(ピーク電流)/(ベース電流)≦5.0
上述した本発明においては、純チタンの溶接ワイヤの表面、或いは溶接前の被溶接材の開先表面に、Al或いはAl粉末を塗布して、大気中で350℃以上では5分以上、500℃以上では1分以上加熱保持する熱処理を伴う表面処理方法で、10nm〜10μmの厚さの酸化膜を付与することでMIG溶接を行うものである。このようにして得られた酸化膜の構造は、AlとTiOの2層構造を有した酸化膜であるが、熱処理条件によってはAlとTiOが混在した層となる場合もあり、このような混在層であってもよい。なお、上記酸化膜の膜中においてAlとTiOの2層構造の場合、或いはこれらの混在層の場合においてもTiO/Alの比は1:1〜1:10であることが好ましい。本発明において、酸化膜の厚さを10nm〜10μmと限定した理由は、酸化膜の厚みが10nm未満の殆ど酸化膜がないような状態ではワンダリング現象およびビード蛇行幅が大きく、ビード形状が不良となる。また、酸化膜の厚みが10μmを超えると同様にワンダリング現象およびビード蛇行幅が大きく、ビード形状が不良となる。これは、酸化膜の増大に伴い、酸素量が増加するために陰極点が出来やすくなり過ぎて、却って溶接アークが不安定になるためと考えられる。
【0015】
また、本発明においてAlを塗布後、200℃以上で1分以上保持するか、Al粉末を塗布後不活性ガス雰囲気中で200℃以上で1分以上保持することで上記酸化膜厚み10nm〜10μmが得られる。これらの熱処理は電熱炉または誘導加熱炉を用いて熱処理することで表面処理を行うことが好ましい。
【0016】
また、本発明においては、MIG溶接に際し、溶接電源にパルス溶接電源を用い、かつ、300A≦(ピーク電流)≦500A、および2.0≦(ピーク電流)/(ベース電流)≦5.0、の条件を満たすパルス溶接電流を用いて溶接することによりワンダリング現象を起こさず、安定してMIG溶接しうる条件を採用することが好ましい。
【0017】
すなわち、図5に示すように、上記条件内でMIG溶接することにより極めて良好な溶接ビード(図5中の◎)を得ることができる(図4参照)。また、上記条件を外れた場合においても良好な溶接ビード(図5中の○)を得ることができる。なお、上記の良好な溶接ビード外観とはワンダリング現象幅(Ww)が0mm、ビード蛇行幅(Wb)が0.2超0.6mm以下を云う。また、極めて良好な溶接ビード外観とはワンダリング現象幅(Ww)が0mm、ビード蛇行幅(Wb)が0.2mm以下を云う。
【0018】
このような溶接ワイヤを用い、かつ上述で特定した溶接条件を採用してチタン或いはチタン合金をMIG溶接した場合には、チタンまたはチタン合金の溶着部の組成が、質量%で、Al:0.5〜10%、O:0〜1.0%、残部チタンである溶着金属を得ることができる。
【0019】
また、本発明においては、溶接時の溶滴移行を規則的、かつスムースに行うため、一般にパルス溶接電流を用いて溶接電流をパルス状に制御して溶接することが知られているが、本発明におけるMIG溶接においては、通常の直流溶接電源の代わりに、直流パルス溶接電源を用いてパルス溶接電流を使用することで、ワンダリング現象幅、或いは溶接ビード蛇行幅を更に減少させることができる。
【0020】
【実施例】
<実施例1>
熱処理を伴う表面処理により、純チタン溶接ワイヤ表面にAl:5質量%を含む0nmから200nmの酸化被膜を付与し、該溶接ワイヤで、被溶接材料として、板厚:12.7mmのV開先(90°)を有する純チタン材を、溶接ピーク電流:500A、溶接ベース電流:150A、溶接電圧:30V、溶接速度:100cm/min、流量:251/minのArガスをシールドガスとして用い、径1.6mmφの溶接ワイヤでMIG溶接を行った。その結果を表1に示した。
【0021】
【表1】
Figure 0003987754
【0022】
なお、表1において、ワンダリング現象幅とは、ワンダリング現象によりアークが不安定となってワンダリング現象が大きくなり、溶接ビード始端部の外側にワンダリング現象の痕跡が残る幅をいい、溶接ビード蛇行幅とは、溶接ビード始端部が最も凹んでいる位置を通って溶接方向に平行な直線と、溶接ビード始端部が最も出っ張っている位置を通って溶接方向に平行な直線との最短距離をいう。
(図3参照)
<実施例2>
熱処理を伴う表面処理により、被溶接チタン材の開先表面にAl:5質量%を含む0nmから200nmの酸化被膜を付与し、純チタン溶接ワイヤで、被溶接材料として、板厚:12.7mmのV開先(90°)を有する純チタン材を、溶接ピーク電流:500A、溶接ベース電流:150A、溶接電圧:30V、溶接速度:100cm/min、流量:251/minのArガスをシールドガスとして用い、径1.6mmφの溶接ワイヤでMIG溶接を行った。その結果を表2に示した。
【0023】
【表2】
Figure 0003987754
【0024】
表2および図5から分かるように、ピーク溶接電流が300〜500Aで、かつピーク電流/ベース電流が2.0〜5.0の範囲内にある場合にはワンダリング幅およびビード蛇行幅が著しく減少し、溶接ビードの外観形状も極めて良好であった。
【0025】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は、チタン又はチタン合金MIG溶接であっても、安定、かつ高能率に、かつ半自動溶接による現場溶接を可能とし、溶接時間短縮によるシールドガス使用量低減によるコスト削減を図ることのできる、チタンまたはチタン合金のMIG溶接方法の提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【図1】 MIG溶接装置の外観模式図。
【図2】 MIG溶接法の外観模式図。
【図3】 従来のMIG溶接による溶接ビードの平面模式図。
【図4】 本発明によるMIG溶接による溶接ビードの平面模式図。
【図5】 パルス溶接時の適正溶接電流範囲を示す図。
【符号の説明】
1…被溶接材
2…MIG溶接用トーチ
3…シールドガス供給装置
3−1…シールドガス供給パイプ
3−2…シールドボックス
3−3…ガス供給パイプ
3−4…ガス出口
4、4’ …シールドガス
5…溶融池
6…溶接ビード
7…スパッタ
8…溶接ワイヤ

Claims (4)

  1. チタンまたはチタン合金の溶接において、純チタンの溶接ワイヤ表面、溶接前の被溶接材の開先表面の何れか一方、または両者の表面に熱処理を伴う表面処理方法により、10nm〜10μmの厚さの酸化膜であって、Al とTiO の2層皮膜またはこれらが混在した皮膜からなる酸化膜を付与して溶接することを特徴とするチタンまたはチタン合金のMIG溶接方法。
  2. 前記酸化膜がAl:0.5〜10質量%含むことを特徴とする請求項1記載のチタンまたはチタン合金のMIG溶接方法。
  3. 前記酸化膜が、更にO:1.0質量%以下を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のチタンまたはチタン合金のMIG溶接方法。
  4. 前記MIG溶接が、以下の条件を満たすパルス溶接電流を用いて溶接することを特徴とする請求項1〜3の何れかの項に記載のチタンまたはチタン合金のMIG溶接方法。
    300A≦(ピーク電流)≦500A
    2.0≦(ピーク電流)/(ベース電流)≦5.0
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