JP3783766B2 - 赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法 - Google Patents

赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法に関する。特に、フーリエ変換赤外分光器(FT−IR)を用いて温室効果ガスを測定する方法に関する。
【0002】
【背景技術】
近年、環境問題への関心が高まる中、地球温暖化の問題が注目されるようになってきている。地球温暖化は、CO2、NOx、メタン、PFC(perfluoro carbon)等の温室効果ガス(greenhouse gas)の大気中の濃度増加に伴って進行する。これらの温室効果ガスは赤外線領域に強い吸収をもち、大気中に放出されると、地表から放射されるエネルギーを吸収する。この吸収されたエネルギーは上空の宇宙空間と下層の地表に向かって放出される。この場合、地表から放出されたエネルギーの一部が温室効果ガスによって再び地表に戻されるため、地表の温度が上昇する。このような機構により、温室効果ガスは地球温暖化効果をもたらすと考えられている。
【0003】
温室効果ガスによる温暖化の影響の程度を比較する指標として、地球温暖化係数(global warming potential;GWP)がある。このGWPは、CO21単位重量に比べてそれぞれのガス1単位重量がどれだけの温暖化効果を持つかを表したものである。温室効果ガスの中でも温暖化効果が高いガスとしてPFCが挙げられる。PFCはGWP値がきわめて高く、たとえばCF4のGWP値はCO2の約6500倍である。また、PFCは他のガスと比較して安定であり、大気中の寿命が非常に長く、たとえばCF4では大気寿命が約50,000年である。したがって、PFCは一度大気中に放出されると長年にわたって地球を暖めることになる。
【0004】
このPFCは、半導体デバイスの製造工程において通常用いられるものであり、特に低圧プラズマを利用した装置で多く用いられている。例えばドライエッチング装置では、SiO2やSi34のエッチングにCF4、C48等のPFCが使用されている。また、CVD装置では、装置に付着したシリコン化合物等の膜をクリーニングするために、C26等のガスプラズマが多く用いられる。さらに、ウエハを冷却する溶媒として液体PFCが用いられている。しかしながら、前述したように、PFCは高い温暖化効果を有するため、PFCの排出量の削減が国際的に求められている。1997年12月に行なわれたCOP3京都会議では、日本におけるPFC等の排出を、1995年を基準として2010年までに6%削減することで合意がなされた。その後、1999年のWSC(世界半導体会議)のESH(環境・安全・健康)タスクフォースでは、1995年の総排出量を基準として2010年までに10%の削減を達成しようという案が合意された。
【0005】
ここで、PFCの排出量の削減を実証するためには、工場から排出されるPFCガスを測定する必要がある。現状では、工場から排出されるPFCガスを実際に測定することは難しいため、PFCを使用する半導体製造装置から排出されるPFCガスを測定して、投入ガスあたりの排出ガス量の比(エミッションファクター)と、工場で消費するガス量とから、PFCの排出量を規定することとなっている。エミッションファクターは、半導体製造装置から実際に排出されるPFCガスを測定して算出されるものである。半導体製造装置から実際に排出されるPFCガスの測定は、1998年4月にアメリカ合衆国カリフォルニア州のモントレーにて開催されたGlobal Semiconductor Industry Conference on Perfluorocompound Emissions Controlにおいて配布された、Intel社のJ.Mayersらによる「Emissions Characterization Package Rev.2.4(通称「インテルプロトコル」)」というガイドライン(現在は、「Equipment Environmental Characterization Guidelines Rev.3.0」)に従って行なわれている。このインテルプロトコルでは、四重極質量分析装置(QMAS)とフーリエ変換赤外分光器(FT−IR)等を用いて、排出されるPFCガスを測定する方法が記載されている。しかしながら、FT−IRを用いた測定については、詳細な記載がないため、測定の方法によって結果が大きくばらつく場合がある。したがって、このインテルプロトコルを補完するために、より簡便な方法で排ガス中のPFCを再現性良く測定できる方法の開発が求められていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、赤外吸収分光器を用いて、排ガス中の各成分をより簡便でかつ再現性良く測定する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
(A)本発明の赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法は、
プロセス化学物質を選択する手順と、
前記プロセス化学物質に対応する定量ターゲット化学物質を選択する手順と、前記プロセス化学物質および前記定量ターゲット化学物質の予想濃度範囲を指定する手順と、
前記プロセス化学物質および前記定量ターゲット化学物質の予想濃度範囲に対応するライブラリをそれぞれ選択する手順と、
前記ライブラリに基づいて、ガスの赤外吸収分光測定により得られたデータの解析を行なう手順と、を含む。
【0008】
ここで、プロセス化学物質とは、プロセスで使用される化学物質をいう。また、定量ターゲット化学物質とは、ガス中に前記プロセス化学物質が含まれていることにより、ガス中に含まれている可能性がある化学物質をいう。
【0009】
また、ライブラリとは、前記化学物質の赤外吸収分光測定により得られたデータの解析を行なう際に、正確な濃度測定を行なうために、前記化学物質の既知の濃度に対応してあらかじめ測定された吸光度データをいう。
【0010】
本発明の温室効果ガス測定方法によれば、混合ガス中の各成分の濃度を、より簡便な方法でかつ精度良く測定することができる。
【0011】
本発明の温室効果ガス測定方法としては、以下の(1)〜(3)に示す態様が例示できる。
【0012】
(1) 前記ガス中の各化学物質毎に、複数の既知濃度における吸光度データからなるライブラリを作成し、
このライブラリに基づいて、前記ガス中の各化学物質毎に、主ピーク領域および副ピーク領域に関する濃度−吸光面積についての検量線データを作成し、
そして、前記検量線データに基づいて、前記ガスの赤外吸収分光測定により得られたデータの解析を行なう手順において、
前記ガス中の各成分の予想濃度範囲が、前記主ピーク領域に関する検量線データのリニアリティが小さい領域に含まれる場合、前記副ピーク領域に関する検量線データを用いて前記濃度を決定することができる。
【0013】
ここで、主ピーク領域とは、ガスの赤外吸収波形中、最も高いピークを含む領域をいう。また、副ピーク領域とは、ガスの赤外吸収波形中、主ピーク領域とは異なる領域に位置するピークを含む領域をいい、成分によっては2以上存在する。
【0014】
また、検量線データとは、ガス中の各成分の濃度と吸光面積との関係を示すデータであり、赤外線吸収測定の際には、前記予想濃度範囲に対応してライブラリが選択され、選択されたライブラリに対応する検量線データに基づいてデータ解析が行なわれる。
【0015】
また、前記主ピーク領域に関する検量線データのリニアリティが小さい領域とは、前記主ピーク領域に関する検量線データにおいて、濃度と吸光面積との関係が、前記副ピーク領域に関する検量線データと比較して、リニアリティが小さい領域をいう。この方法によれば、前記副ピーク領域に関する検量線データを用いて前記濃度を決定することにより、ガス中の各成分の濃度を精度良く測定することができる。
【0016】
あるいは、前記ガス中の各成分の予想濃度範囲が、前記副ピーク領域に関する検量線データのリニアリティが小さい領域に含まれる場合、前記主ピーク領域に関する検量線データを用いて前記濃度を決定することができる。ここで、前記副ピーク領域に関する検量線データのリニアリティが小さい領域とは、前記副ピーク領域に関する検量線データにおいて、濃度と吸光面積との関係が、前記主ピーク領域に関する検量線データと比較して、リニアリティが小さい領域をいう。
【0017】
この方法によれば、前記主ピーク領域に関する検量線データを用いて前記濃度を決定することにより、ガス中の各成分の濃度を精度良く測定することができる。
【0018】
また、この場合、前記主ピーク領域に関する検量線データ、および前記副ピーク領域に関する検量線データの両方を用いて前記濃度を決定することもできる。
【0019】
(2)前記プロセス化学物質は、CF4、CHF3、C24、C26、C38、C48、C58、HF、SiF4、NF3、SF6、およびN2Oのうち少なくとも1つを含むことができる。
【0020】
(3)前記定量ターゲット化学物質は、CF4、CHF3、C24、C26、C38、C48、C58、COF2、HF、SiF4、OF2、NF3、SO2、SF6、SO22、SOF2、NO、N2O、NO2、CO、およびCO2のうち少なくとも1つを含むことができる。
【0021】
(B)本発明の赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法は、
ガスに対する赤外吸収分光測定により得られたデータの解析を行なう際に、
ガス中の各成分について、主ピーク領域および副ピーク領域にそれぞれに関して、濃度に対する吸光面積を示す検量線を作成し、
前記ガス中の各成分の濃度が、主ピーク領域に関する検量線のリニアリティが小さい領域に含まれると想定される場合、副ピーク領域に関する検量線を用いて前記濃度を決定する方法である。この方法によれば、前述した効果を奏することができる。
【0022】
(C)本発明の赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法は、
ガスに対する赤外吸収分光測定により得られたデータの解析を行なう際に、
ガス中の各成分について、主ピーク領域および副ピーク領域にそれぞれに関して、濃度に対する吸光面積を示す検量線を作成し、
前記ガス中の各成分の濃度が、副ピーク領域に関する検量線のリニアリティが小さい領域に含まれると想定される場合、主ピーク領域に関する検量線を用いて前記濃度を決定する方法である。この方法によれば、前述した効果を奏することができる。
【0023】
(B)または(C)の方法のいずれにおいても、主ピーク領域に関する検量線および副ピーク領域に関する検量線の両方を用いて前記濃度を決定することができる。
【0024】
また、前記検量線中でリニアリティが低い部分について、該部分の近傍に検量ポイントを増やす補正を該検量線について行なうことができる。
【0025】
ここで、検量ポイントとは、ガス中の各成分について、所定の濃度に対する吸光面積の値を示すデータをいう。また、前記検量線中でリニアリティが低い部分とは、ガス中の各成分について、濃度と吸光面積との間に成立する一定の関係を示す式からずれている部分のことをいう。このように補正を行なうことにより、前記検量線のリニアリティを高めることができる。その結果、補正後の検量線に関するデータ(検量線データ)に基づいてデータの解析を行なうことにより、前記ガスに含まれる成分の濃度を正確に算出することができる。
【0026】
また、前記検量線中でリニアリティが高い部分の検量線については、リニアリティが高い部分の1個又は2個の検量ポイントを用いて前記検量線を作成することができる。この方法によれば、少ない検量ポイントでも精度の高い検量線を作成することができる。
【0027】
(D)本発明の赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法は、
ガスに対する赤外吸収分光測定により得られた吸収波形に基づいてデータの解析を行なう際に、
前記ガス中の成分のうち、他の成分のピークと重複しないピークを有する成分から優先的に定量し、該成分のピークを前記吸収波形から順次差し引く手順を含む。
【0028】
この方法によれば、各成分についてピークが一致または重複する場合であっても、各成分の濃度を精度良く測定することができる。
【0029】
この場合、以下の手順(a)〜(j)を含むことができる。
【0030】
(a)前記ガスの吸収波形からNOおよびSO22のピークをそれぞれ差し引いて、NOおよびSO22を定量する手順、
(b)前記手順(a)により得られた吸収波形からCOF2のピークを差し引いて、COF2を定量する手順、
(c)前記手順(b)により得られた吸収波形からSOF2のピークを差し引いて、SOF2を定量する手順、
(d)前記手順(c)により得られた吸収波形からOF2のピークを差し引いて、OF2を定量する手順、
(e)前記手順(d)により得られた吸収波形からSF6、NF3、およびC48のピークをそれぞれ差し引いて、SF6、NF3、およびC48を定量する手順、
(f)前記手順(e)により得られた吸収波形からC38およびSiF4のピークをそれぞれ差し引いて、C38およびSiF4を定量する手順、
(g)前記手順(f)により得られた吸収波形からN2O、C26、およびC24のピークをそれぞれ差し引いて、N2O、C26、およびC24を定量する手順、
(h)前記手順(g)により得られた吸収波形からCF4、SO2、およびCOのピークをそれぞれ差し引いて、CF4、SO2、およびCOを定量する手順、
(i)前記手順(a)〜(h)より得られた前記ガスの吸収波形からCHF3を定量する手順、および
(j)前記ガスの吸収波形,および前記手順(a)〜(i)より得られた前記ガスの吸収波形のうちのいずれかから、HF、CO2、およびNO2のピークを差し引く手順。
【0031】
さらに、この場合、前記手順(a)〜(j)に加えて、以下の特徴(1)〜(8)のうち1または2以上を有することができる。
【0032】
(1)HF、CO2、およびNO2については、前記手順(j)で定量するかわりに、前記手順(a)〜前記手順(i)のいずれかの手順で定量するか、あるいは前記手順(a)〜前記手順(i)と異なるが前記手順(j)より前に行なう手順で定量すること。
【0033】
(2)SF6については、前記手順(e)で定量するかわりに、前記手順(f)〜前記手順(j)のいずれかの手順で定量するか、あるいは前記手順(f)〜前記手順(j)と異なるが前記手順(e)より後に行なう手順で定量すること。
【0034】
(3)CF4については、前記手順(h)で定量するかわりに、前記手順(i)または前記手順(j)で定量するか、あるいは前記手順(i)および前記手順(j)と異なるが前記手順(h)より後に行なう手順で定量すること。
【0035】
(4)SiF4については、前記手順(f)で定量するかわりに、前記手順(g)〜前記手順(j)のいずれかの手順で定量するか、あるいは前記手順(g)〜前記手順(j)と異なるが前記手順(f)より後に行なう手順で定量すること。
【0036】
(5)COについては、前記手順(h)で定量するかわりに、前記手順(i)または前記手順(j)で定量するか、あるいは前記手順(i)および前記手順(j)と異なるが前記手順(h)より後に行なう手順で定量すること。
【0037】
(6)C26については、前記手順(g)で定量するかわりに、前記手順(h)〜前記手順(j)のいずれかの手順で定量するか、あるいは前記手順(h)〜前記手順(j)と異なるが前記手順(g)より後に行なう手順で定量すること。
【0038】
(7)C24については、前記手順(g)で定量するかわりに、前記手順(h)〜前記手順(j)のいずれかの手順で定量するか、あるいは前記手順(h)〜前記手順(j)と異なるが前記手順(g)より後に行なう手順で定量すること。
【0039】
(8)C48については、前記手順(e)で定量するかわりに、前記手順(f)で定量するか、あるいは前記手順(f)と異なるが前記手順(d)より後で前記手順(g)より前に行なう手順で定量すること。
【0040】
(E)本発明の赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法は、
ガスに対する赤外吸収分光測定を行なう際に、ガス中の1成分以上を校正ガスとすることができる。
【0041】
この方法において、校正に用いる校正ガスの濃度を、濃度の対数値でみて等間隔となるように複数の値設定する。この方法によれば、検量ポイントが対数で見て等間隔に配置できるので、少ない検量ポイントで精度の高い検量線を作成することができる。
【0042】
また、この方法において、前記校正ガスとしてCF4またはSF6を選択する場合、
前記校正ガスについて、主ピーク領域に関して濃度に対する吸光面積を示す検量線を作成し、
前記主ピーク領域に関する検量線のうちリニアリティに優れた部分にて校正を行なうことができる。この方法によれば、精度の高い校正を行なうことができる。
【0043】
本発明において、赤外吸収分光器を用いた測定の対象となるガスは、CF4、CHF3、C24、C26、C38、C48、C58、COF2、HF、SiF4、OF2、NF3、SO2、SF6、SO22、SOF2、NO、N2O、NO2、CO、およびCO2のうち少なくとも1つを含むことができる。
【0044】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0045】
(測定システムの概要)
本実施の形態においては、C48を用いるドライエッチング装置から排出されるガスの成分を、FT−IRにて測定する方法を例に取り説明する。図1は、本実施の形態で用いるガス測定システムを模式的に示す図である。
【0046】
用いるガスがPFCの場合、排ガス中には、CF4、CHF3、C24、C26、C38、C48、C58、COF2、HF、SiF4、OF2、NF3、SO2、SF6、SO22、SOF2、NO、N2O、NO2、CO、およびCO2等が含まれている可能性がある。
【0047】
たとえば、ドライエッチング装置のチェンバ12内でC48のガスプラズマを発生させる場合、ポンプを用いてドライエッチング装置のチェンバ12内をほぼ真空状態にした後、所定量のC48を導入し高電圧を印加する。これにより、C48のガスプラズマが発生する。このガスプラズマがCVDに用いられる。この場合、CVDに用いられたC48のうち所定の割合のものはCF4等へと分解されるが、残りはそのままC48の形でチェンバ12から排出される。この排ガスをポンプ14を用いて吸引し、N2ボンベ20から供給されるN2ガスで排ガスを希釈した後、FT−IR10に導入して、排ガス中の各成分について赤外吸収を測定する。測定後は、排ガスはFT−IR10から排気ライン26を経て除害装置16へと導入され、除害装置16にて排ガス中の有害物質が除去された後、大気へと放出される。
【0048】
本実施の形態においては、FT−IR10としてMIDAC社製IGA2000を使用した。また、測定においては1cm長のセルを使用し、温度および圧力の補正を行なった。なお、測定に用いる装置およびセルはこれに限定されるわけではない。
【0049】
(測定方法)
<測定手順>
図1に示すFT−IR10に導入された排ガスの赤外吸収を測定する際には、主に以下の(1)〜(5)に示す手順にしたがって行なう。
【0050】
(1)プロセス化学物質を選択する手順。
【0051】
(2)前記プロセス化学物質に対応する定量ターゲット化学物質を選択する手順。
【0052】
(3)前記プロセス化学物質および前記定量ターゲット化学物質の予想濃度範囲を指定する手順。
【0053】
(4)前記プロセス化学物質および前記定量ターゲット化学物質の予想濃度範囲に対応するライブラリをそれぞれ選択する手順。
【0054】
(5)前記ライブラリに基づいて、前記ガスの赤外吸収分光測定により得られたデータの解析を行なう手順。
【0055】
手順(1)〜(5)を実行するために、図2を用いて、排ガス中のプロセス化学物質および定量ターゲット化学物質について、予想濃度範囲、および予想濃度範囲に対応する検量線を作成するためのライブラリを選択する。図2は、選択された排ガス中のプロセス化学物質に基づいて、コンピュータを用いた処理によって定量ターゲット化学物質等を選択するための表計算シートを模式的に示す図である。この表計算シートは、たとえばディスプレイ上に表示される。この場合、ディスプレイは、コンピュータによる処理の内容を表示するために設置されたものである。あるいは、測定機中のアルゴリズム中にあってもよい。
【0056】
なお、前述したインテルプロトコルでは、PFCを含む排ガス中の成分を測定する場合、前記プロセス化学物質として、CF4、CHF3、C24、C26、C38、C48、C58、HF、SiF4、NF3、SF6、およびN2O等が例示されている。また、前記定量ターゲット化学物質として、CF4、CHF3、C24、C26、C38、C48、C58、COF2、HF、SiF4、OF2、NF3、SO2、SF6、SO22、SOF2、NO、N2O、NO2、CO、およびCO2等が例示されている。
【0057】
以下、測定手順について順に説明する。
【0058】
(1)まず、プロセス化学物質を選択する。本実施の形態においては、ドライエッチング装置でガスプラズマ発生に用いたC48がプロセス化学物質に該当する。図2に示す画面には、排ガス中に含まれると想定される物質を列挙させておき、この中からプロセス化学物質を選択する。
【0059】
(2)次に、プロセス化学物質に対応する定量ターゲット化学物質を選択する。表計算シートでは、プロセス化学物質に対応する定量ターゲット化学物質をあらかじめリンクさせておく。これにより、図2に示す画面においてプロセス化学物質(図2ではC48)を選択すると、図3に示すように、定量ターゲット化学物質が自動的に選択され、画面に表示される。
【0060】
(3)つづいて、プロセス化学物質および定量ターゲット化学物質の予想濃度範囲を各成分毎に指定する。また、プロセス化学物質および定量ターゲット化学物質以外に、排ガス中に含まれていると想定される成分(図3においては、NO、NO2等)についても同様に、予想濃度範囲を指定する。
【0061】
(4)この表計算シートは、画面上に表示された各成分の予想濃度範囲に対応するライブラリとリンクしている。すなわち、各成分の予想濃度範囲とライブラリとがリンクしており、各成分の予想濃度範囲を選択すると、この予想濃度範囲に対応するライブラリが選択され、画面上に表示される。
【0062】
ところで、排ガスに含まれる各成分は、表1に示すように、赤外吸収スペクトル中に主ピーク領域と副ピーク領域を有する。表1においては、各成分において、主ピーク領域を示す範囲を◎で、副ピーク領域を示す範囲を○でそれぞれ示す。なお、表1において、CF4、CHF3、C26以外の成分については、主ピーク領域のみ示す。
【0063】
【表1】
Figure 0003783766
【0064】
一方、前述したライブラリは、ガス中の各成分について、主ピーク領域および副ピーク領域にそれぞれに関する検量線データを含む。この検量線データは濃度と吸光面積との関係を示すデータであり、本発明の赤外線吸収測定の際には、予想濃度範囲に対応してライブラリが選択され、ライブラリに対応する検量線データに基づいてデータ解析が行なわれる。すなわち、ライブラリが選択されると、測定すべきピーク領域が選択され、このピーク領域に対応する検量線データに基づいてデータ解析が行なわれる。このライブラリについては後述する。
【0065】
図3には、各成分の予想濃度範囲に対応して選択されたライブラリが表示されている。たとえばCF4の予想濃度範囲が〜10ppm−mである場合、この予想濃度範囲に対応して選択されたライブラリは「CF4_10A」である。このライブラリは、CF4について、波数が1230−1305cm-1の範囲のピーク領域の検量線データを用いてデータ解析を行なうために設置されたものである。また、CHF3の予想濃度範囲が〜10ppm−mである場合、この予想濃度範囲に対応して選択されたライブラリは「TFM_10A」である。このライブラリは、CHF3について、波数が1090−1247cm-1の範囲のピーク領域の検量線データを用いてデータ解析を行なうために設置されたものである。
【0066】
図3において、CHF3の予想濃度範囲が〜10ppm−mと選択されている場合、選択されたライブラリは「TFM_10A」である。ここで、図4に示すように、このCHF3の予想濃度範囲を60〜ppm−mに変えると、この予想濃度範囲に対応してライブラリも変更され、「TFM_60A」というライブラリが新たに選択される。
【0067】
なお、1の予想濃度範囲に対して2以上のライブラリを選択することも可能である。たとえば、図5に示すように、CHF3の予想濃度範囲として10〜60ppm−mを選択すると、この予想濃度範囲に対応して、「TFM_10A」、「16A」、「60A」という3つのライブラリが選択される。この「TFM_10A」、「16A」、「60A」というライブラリは、CHF3について、それぞれ波数が1090−1247cm-1、1316−1437cm-1、2980−3080cm-1の範囲のピーク領域の検量線データを用いてデータ解析を行なうために設置されたものである。
【0068】
(5)このようにして選択されたライブラリに基づいて、排ガスについて赤外吸収分光測定を行なう。このライブラリを基づいてデータ解析を行なうことにより、各成分の吸光面積から濃度を算出することができる。
【0069】
<ライブラリの最適化>
前述した手順にしたがって、CHF3、CF4、C48の混合ガスを、これらのガスの混合比を120秒ごとに変えて流し、この混合ガスについて経時的に赤外線吸収測定を行なった。測定にあたっては、表4に示すように、CHF3、CF4、C48それぞれについて、ライブラリ中の主ピーク領域の検量線データに基づいてデータの解析を行なった。データ解析により得られた各ガスの濃度の経時変化を図6に示す。なお、CHF3、CF4、C48の混合ガスは、表2に示すように、120秒ごとに9段階に濃度を変えて流した。また、測定に際しては、混合ガスはAr中に混合させた後、さらに一定量のN2で希釈したものを測定した。このため、図6において、縦軸はArおよびN2を含むガス中の各ガスの濃度を示している。また、図6では、CHF3、CF4、C48をそれぞれ5、10、25、50、または100[cc/min]で流した場合における、ArおよびN2を含むガス中における流量から概算される濃度を横線で示している。
【0070】
【表2】
Figure 0003783766
【0071】
図6を参照すると、CHF3およびC48については、実際に流したガスの濃度と測定により得られたガスの濃度との間に大きな差はなかった。これに対し、CF4では、濃度が大きい場合(100cc/min)に、実際に流した濃度と測定により得られた濃度との間にずれが生じた。このずれの原因として、以下に示す(1)および(2)が考えられる。
【0072】
(1)前述したように、排ガス中の各成分は、表1に示すように、赤外吸収波形中に主ピーク領域と副ピーク領域を有する。たとえば、CF4においては、表1および図7に示すように、1230−1305cm-1に主ピーク領域を、2160−2200cm-1に副ピーク領域をそれぞれ有する。さらに、図8(a),(b)に、CF4の主ピーク領域(1230−1305cm-1)の拡大図を示す。なお、図8(b)は図8(a)よりも分解能を高くして測定した結果を示している。図7では、CF4の主ピーク領域に存在するピークはシングルピークにみえるが、拡大すると図8(a),(b)に示すように、CF4の主ピーク領域には複数のピークが存在する。したがって、この場合、濃度を算出するために吸光度を測定する場合に、これらの複数のピークの存在を無視して検量線を作成した場合、誤差が大きくなることがある。
【0073】
(2)図8(a),(b)は、CF4が異なる濃度を有する場合における、主ピーク領域(1230−1305cm-1)の赤外吸収波形を示しており、CF4の濃度が、ピークが高い順から103.5ppm−m,10.3ppm−m,3.63ppm−m,0.41ppm−mである場合の赤外吸収波形を示す。図8(a),(b)において、波形と横軸(波数)で囲まれた面積(吸光面積)は、CF4の濃度に比例する。このことから、図8(a),(b)を参照して、吸光面積からCF4の濃度を算出することができる。
【0074】
CF4の主ピーク領域においては、図8(b)に示すように、CF4の濃度が0.41ppm−m,3.63ppm−m,10.3ppm−mと順に大きくなるにつれて、波形に含まれるピークが高くなる。しかしながら、CF4の濃度がさらに103.5ppm−mとなった場合、一番高いピークは、濃度に比例して高くならず、ある吸光度のところで飽和してしまう。したがって、主ピーク領域に基づく検量線データを用いる場合、CF4の濃度が比較的大きいところでは、吸光面積がCF4の濃度に比例しないため、吸光面積に基づいて正確な濃度を算出することができないことがある。
【0075】
以上の(1)および(2)に示す理由により、たとえばCF4については、各ガスに関するライブラリに基づいてデータの解析を行なう際に、ライブラリ中の主ピーク領域の検量線データをそのまま使用すると、実際の濃度と測定により得られる濃度との間にずれを生じる場合がある。このずれを低減し、正確な濃度を得るために、ライブラリの最適化を行なう必要がある。以下、ライブラリの最適化について説明する。
【0076】
1.濃度によるライブラリの選択
前述したように、たとえば、CF4においては、表1および図7に示すように、1230−1305cm-1に主ピーク領域を、2160−2200cm-1に副ピーク領域をそれぞれ有する。CF4の場合、前述したように、主ピーク領域に基づく検量線データを用いてデータの解析を行なうと、濃度が比較的大きいところでは、吸光面積がCF4の濃度に比例しないため、吸光面積に基づいて正確な濃度を算出することができないことがある。
【0077】
CF4において、主ピーク領域および副ピーク領域それぞれにおける濃度と吸光面積との関係(検量線)を図9に示す。図9を参照すると、主ピーク領域に関する検量線では、CF4の濃度が小さい範囲では、吸光面積はCF4の濃度に比例して大きくなるのに対し、CF4の濃度が大きい範囲(100ppm−m以上の範囲)では、前述したように、吸光面積がCF4の濃度に比例しなくなる。すなわち、主ピーク領域に関する検量線では、CF4の濃度が小さい範囲ではリニアリティが優れているのに対し、CF4の濃度が大きい範囲ではリニアリティが小さい。なお、図9において、縦軸(吸光面積)は、主ピーク領域に関する検量線ではグラフの左端の目盛りを、副ピーク領域に関する検量線では右端の目盛りをそれぞれ用いた値で示される。
【0078】
以上の点を解決するために、ガス中のCF4の濃度が大きいと想定される場合、換言すると、ガス中のCF4の濃度が主ピーク領域に関する検量線のリニアリティが小さい範囲に含まれると想定される場合には、副ピーク領域に関する検量線を用いて濃度を決定する。すなわち、副ピーク領域に関する検量線に関するデータ(検量線データ)に基づいてデータの解析を行なう。これにより、CF4の濃度を正確に算出することができる。
【0079】
一方、副ピーク領域に関する検量線では、CF4の濃度が大きい範囲では、吸光面積はCF4の濃度に比例して大きくなるのに対し、CF4の濃度が小さい範囲(1ppm−m未満の範囲)では、吸光面積がCF4の濃度に比例しなくなる。すなわち、副ピーク領域に関する検量線では、CF4の濃度が大きい範囲ではリニアリティが優れているのに対し、CF4の濃度が小さい範囲ではリニアリティが小さい。この原因の一つとしては、図7に示すように、CF4においては、副ピーク領域に存在するピークの高さは、主ピーク領域に存在するピークの高さと比較して非常に小さいため、CF4の濃度が小さい範囲では、ノイズの影響でCF4のピークを正確に読み取ることが難しく、誤差が大きくなることが考えられる。したがって、CF4の濃度が小さい範囲では、副ピーク領域に基づく検量線は正確なものが得られにくいと考えられる。
【0080】
以上の点を解決するために、ガス中のCF4の濃度が小さいと想定される場合、換言すると、ガス中のCF4の濃度が副ピーク領域に関する検量線のリニアリティが小さい範囲に含まれると想定される場合には、主ピーク領域に関する検量線を用いて濃度を決定する。すなわち、主ピーク領域に関する検量線に関するデータ(検量線データ)に基づいてデータの解析を行なう。これにより、CF4の濃度を正確に算出することができる。
【0081】
CF4と同様に、CHF3およびC26について、主ピーク領域および副ピーク領域にそれぞれ関する検量線を図10および図11に示す。CHF3は、主ピーク領域、副ピーク領域のどちらに関する検量線もリニアリティに優れている。一方、C26は、CF4と同様に、濃度が小さい範囲では主ピーク領域に関する検量線のリニアリティが優れており、一方、濃度が大きい範囲では、主ピーク領域に関する検量線よりも、副ピーク領域に関する検量線のリニアリティの方が優れている。したがって、C26の濃度を正確に算出するために、ガス中の濃度が小さい範囲では、主ピーク領域に関する検量線を用いて濃度を決定し、ガス中の濃度が大きい範囲では、副ピーク領域に関する検量線を用いて濃度を決定することが望ましい。なお、図10において、縦軸(吸光面積)は、主ピーク領域に関する検量線ではグラフの左端の目盛りを、副ピーク領域に関する2本の検量線では右端の目盛りをそれぞれ用いた値で示される。また、図11において、縦軸(吸光面積)は、主ピーク領域および副ピーク領域(1082−1162cm-1)にそれぞれ関する検量線ではグラフの左端の目盛りを、副ピーク領域(2005−2095cm-1)に関する検量線では右端の目盛りをそれぞれ用いた値で示される。
【0082】
2.検量ポイントの増設
前述したように、たとえばCF4の濃度を測定する際に主ピーク領域に基づく検量線を用いる場合、前述したように、濃度が100ppm−m近傍になると、主ピーク領域に含まれるピークのうち一番高いピークは、ある吸光度付近で飽和してしまい、吸光面積がCF4の濃度に比例せず、濃度と吸光度との関係を示す検量線のリニアリティが低くなる。このため、吸光度に基づいて正確な濃度を算出することができないことがある。
【0083】
この点を解決するために、主ピーク領域に基づく検量線でリニアリティが低い部分について、この部分近傍に検量ポイントを増やす補正を検量線について行なう。たとえばCF4の場合、図9に示すように、10−100ppm−mの濃度範囲に、少なくとも3つの検量ポイントを増設する。検量ポイントを設置する位置、濃度範囲、数等は、対象となるガスによって適宜調整する。このように補正を行なうことにより、主ピーク領域に基づく精度を高めることができる。以上の測定方法により補正を行なった検量線に関するデータ(検量線データ)に基づいてデータの解析を行なうことにより、CF4の濃度を正確に算出することができる。
【0084】
一方、前記検量線中でリニアリティが高い部分の検量線については、リニアリティが高い部分の1個又は2個の検量ポイントを用いて前記検量線を作成することができる。たとえば、図9において、CF4の主ピーク領域に関する検量線を作成する際に、検量線中でリニアリティが高い部分(濃度が0.1−10ppm−mの範囲)については、1又は2個の検量ポイントを用いて検量線を作成することができる。以上のように、リニアリティが高い部分では、少ない検量ポイントでも精度の高い検量線を作成することができる。
【0085】
以上に示した方法で最適化した検量線を用いて、図6に示す測定結果に対して、データの解析を行なった。このデータ解析により得られた各ガスの濃度の経時変化を図12に示す。最適化した検量線においては、表3に示すように、CHF3については、主ピーク領域とともに副ピーク領域に関する検量線のデータを用いた。さらに、CF4については、補正後の検量線のデータを用いて解析を行なった。
【0086】
【表3】
Figure 0003783766
【0087】
【表4】
Figure 0003783766
【0088】
ここで、最適化前の検量線を用いたデータ解析により得られた図6のグラフと、最適化された検量線を用いたデータ解析により得られた図12のグラフとを比較すると、CHF3およびCF4の両方について、特に濃度が高い領域(100cc/min)において、実際に流したガスの濃度に近い値が得られた。
【0089】
以上に示したように、排ガス中の各ガスに関する検量線を最適化することにより、各ガスの濃度をより正確に測定することができる。
【0090】
なお、前述したCF4の場合においては、排ガス中の各CF4の予想濃度範囲が、主ピーク領域に関する検量線データのリニアリティが小さい領域に含まれる場合に、副ピーク領域に関する検量線データ等を用いて前記濃度を決定する方法について示したが、用いる化学物質によっては、化学物質の予想濃度範囲が、副ピーク領域に関する検量線データのリニアリティが小さい領域に含まれる場合、主ピーク領域に関する検量線データを用いて前記濃度を決定することもできる。
【0091】
<検量方法>
次に、排ガスについてFT−IRで測定して得られた吸収波形から、排ガスに含まれる各成分を検量する方法について説明する。
【0092】
実際の排ガスには複数の成分が含まれているため、測定により得られる吸収波形は、複数の成分についての吸収波形を合成したものである。PFCを含む排ガスに含まれると想定されるガスの赤外吸収波形を図13に示す。実際の排ガスの測定により得られる吸収波形は、図13に示す波形を合成したものである。したがって、排ガス中の各成分の濃度を測定する際、異なる成分同士でピークが一致する場合、濃度の計算が難しく、正確な濃度を測定するのが難しい場合があった。
【0093】
本実施の形態においては、ガスに対する赤外吸収分光測定により得られた吸収波形に基づいてデータの解析を行なう際に、ガス中の成分のうち、他の成分のピークと重複しないピークを有する成分から優先的に定量し、該成分のピークを前記吸収波形から順次差し引くことにより、各成分の濃度を決定していく。この検量方法について、図13および図14を参照して説明する。図14は、上述した検量方法の手順を説明するための図である。なお、図14中、太い実線で示された矢印が横に延びる範囲は、各ガスの定量が可能である範囲を示し、点線で示された矢印は、手順を説明するための矢印であり、細い実線(縦線)は、手順を区分するための線である。
【0094】
(1)まず、排ガス中に含まれていると想定されるすべてのガスの赤外吸収波形(ライブラリ)を用意する。この方法では、想定したガス以外のガスが排ガス中に含まれていた場合、検量が終了した時点で吸収波形にそのガスのピークが残ることに留意する。
【0095】
各ガスの赤外吸収波形を比較し、想定されるガスのうち、ピークが他のいずれのガスのピークとも重ならないガスを決定し、吸収波形から差し引く。図13においては、HF、CO2、NO2が、ピークが他のいずれのガスのピークとも重ならないガスに該当する。これらのガスについてそれぞれ吸収波形から差し引くことにより各ガスを定量する。なお、これらのガスは、吸収波形から差し引いても他のガスのピークの形状に影響を及ぼすことはないため、この時点で吸収波形から差し引くかわりに、後の手順にて差し引いてもよい。
【0096】
(2)次に、ガス中の成分のうち、他の成分のピークと重複しないピークを有する成分を優先的に定量し、この成分のピークを吸収波形から差し引く。図13においては、NOとSO22がこれに該当するため、NOとSO22のピークをそれぞれ吸収波形から差し引き、それぞれ定量を行なう。NOとSO22のピークを吸収波形から差し引くことにより得られた新たな吸収波形には、他の成分のピークと重複しないピークとして、COF2のピークが含まれる。したがって、次に、COF2のピークを吸収波形から差し引き、定量を行なう。これにより新たな吸収波形が得られる。以下、図14に示す順にしたがって、吸収波形中にピークがなくなるまで順次この手順を繰り返す。すなわち、前述した手順により得られた吸収波形からさらにSOF2のピークを差し引き、定量を行なう。つづいて、前述した手順により得られた吸収波形からOF2のピークを差し引き、定量を行なう。つづいて、前述した手順により得られた吸収波形からSF6、NF3、およびC48のピークをそれぞれ差し引き、それぞれ定量を行なう。なお、SF6については、この手順で定量するかわりに、この手順以降のどの手順で定量してもよい。また、C48については、この手順で定量するかわりに、この手順以降であって、N2O、C26、およびC24を定量する前の手順で定量することができる。つづいて、前述した手順により得られた吸収波形からC38およびSiF4のピークをそれぞれ差し引き、それぞれ定量を行なう。なお、SiF4については、この手順で定量するかわりに、この手順以降のどの手順で定量してもよい。つづいて、前述した手順により得られた吸収波形からN2O、C26、およびC24のピークをそれぞれ差し引き、それぞれ定量を行なう。なお、C26およびC24については、この手順で定量するかわりに、この手順以降のどの手順で定量してもよい。つづいて、前述した手順により得られた吸収波形からCF4、SO2、およびCOのピークをそれぞれ差し引き、それぞれ定量を行なう。なお、CF4およびCOについては、この手順で定量するかわりに、この手順以降のどの手順で定量してもよい。つづいて、前述した手順より得られた前記ガスの吸収波形からCHF3を定量する。
【0097】
以上に示したようにデータを解析し、各成分について順次定量を行なう。なお、図14に示す手順は一例であり、ピークを差し引く手順は排ガス中に含まれる成分等によって適宜決定される。
【0098】
この方法によれば、各成分についてピークが一致または重複する場合であっても、各成分の濃度を精度良く測定することができる。
【0099】
<校正ガス>
また、ガスに対する赤外吸収分光測定を行なう際には、ガス中の1成分以上を校正ガスとすることができる。この方法によれば、精度の高い校正を行なうことができる。
【0100】
ここで、校正に用いる校正ガスの濃度を、濃度の対数値でみて等間隔となるように複数の値設定することが望ましい。校正に用いる複数の校正ガスのうち最も高い濃度を有する校正ガスを基準(=1とする)とした場合、濃度が高いものから順に、1、1/x、1/x2、1/x3、1/x4,…1/xn(xは任意の数)の濃度を有する校正ガスを使用する。たとえば、校正ガスに用いる複数のガスのうち、一番大きい濃度を有するものの濃度をaとすると、他の校正ガスの濃度は、濃度が高いものから順に、a/x,a/x2、a/x3、a/x4,…a/xnの濃度を有することが望ましい。さらに、校正ガスに用いる複数のガスのうち、一番大きい濃度を有するものの濃度をaとしたときに、一番濃度が小さい校正ガスの濃度が約a/20となるような校正ガスを用いるのがより望ましく、この場合、nはたとえば4〜5であるのが望ましい。
【0101】
この方法によれば、検量ポイントが対数で見て等間隔に配置できるので、少ない検量ポイントで精度の高い検量線を作成することができる。
【0102】
特に、校正ガスとしてCF4またはSF6を選択する場合、校正ガスについて、主ピーク領域に関して濃度に対する吸光面積を示す検量線を作成し、主ピーク領域に関する検量線のうちリニアリティに優れた部分にて校正を行なうことが望ましい。
【0103】
以上に示したように、本発明の赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法によれば、より簡便な方法で排ガス中の成分の濃度を正確にかつ再現性良く測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態で用いるガス測定システムを模式的に示す図である。
【図2】選択されたプロセス化学物質に基づいて、コンピュータを用いた処理によって定量ターゲット化学物質等を選択するための表計算シートを模式的に示す図である。
【図3】ディスプレイに表示される表計算シート上での処理の内容を模式的に示す図である。
【図4】ディスプレイに表示される表計算シート上での処理の内容を模式的に示す図である。
【図5】ディスプレイに表示される表計算シート上での処理の内容を模式的に示す図である。
【図6】赤外吸収分光測定結果について、最適化する前のライブラリを用いたデータ解析により得られた各ガスの濃度の経時変化を示す図である。
【図7】CF4の主ピーク領域と副ピーク領域とを示す図である。
【図8】CF4の主ピーク領域の拡大図である。
【図9】CF4において、主ピーク領域および副ピーク領域それぞれにおける濃度と吸光面積との関係(検量線)を示す図である。
【図10】CHF3において、主ピーク領域および副ピーク領域それぞれにおける濃度と吸光面積との関係(検量線)を示す図である。
【図11】C26において、主ピーク領域および副ピーク領域それぞれにおける濃度と吸光面積との関係(検量線)を示す図である。
【図12】赤外吸収分光測定結果について、最適化されたライブラリを用いたデータ解析により得られた各ガスの濃度の経時変化を示す図である。
【図13】CFCを含む排ガス中の各成分の赤外吸収波形を示す図である。
【図14】本発明の検量方法の一例を説明するための図である。
【符号の説明】
10 FT−IR(フーリエ変換赤外分光器)
12 ドライエッチングチェンバ
14 ポンプ
16 除害装置
18 エッチングガス
20 N2ボンベ
22 圧力センサ
23 温度センサ
24 排気ポンプ
26 排気ライン
28 分光器導入ライン

Claims (10)

  1. プロセス化学物質を選択する手順と、
    前記プロセス化学物質に対応する定量ターゲット化学物質を選択する手順と、
    前記プロセス化学物質の予想濃度範囲に対応する選択ピーク領域を含む第1のライブラリを指定する手順と、
    前記定量ターゲット化学物質の予想濃度範囲に対応する選択ピーク領域を含む第2のライブラリを指定する手順と、
    前記第1および第2のライブラリに基づいて、ガスの赤外吸収分光測定により得られたデータの解析を行なう手順と、を含む、赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法。
  2. 請求項1において、
    前記ガス中の各化学物質毎に、複数の既知濃度における吸光度データを作成し、
    このライブラリに基づいて、前記ガス中の各化学物質毎に、主ピーク領域および副ピーク領域に関する濃度−吸光面積についての検量線データを作成し、
    そして、前記検量線データに基づいて、前記ガスの赤外吸収分光測定により得られたデータの解析を行なう手順において、
    前記ガス中の各成分の予想濃度範囲が、前記主ピーク領域に関する検量線データのリニアリティが小さい領域に含まれる場合、前記副ピーク領域に関する検量線データを用いて前記濃度を決定する、赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法。
  3. 請求項1において、
    前記ガス中の各化学物質毎に、複数の既知濃度における吸光度データからなるライブラリを作成し、
    このライブラリに基づいて、前記ガス中の各化学物質毎に、主ピーク領域および副ピーク領域に関する濃度−吸光面積についての検量線データを作成し、
    そして、前記検量線データに基づいて、前記ガスの赤外吸収分光測定により得られたデータの解析を行なう手順において、
    前記ガス中の各成分の予想濃度範囲が、前記副ピーク領域に関する検量線データのリニアリティが小さい領域に含まれる場合、前記主ピーク領域に関する検量線データを用いて前記濃度を決定する、赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法。
  4. 請求項2または3において、
    前記主ピーク領域に関する検量線データ、および前記副ピーク領域に関する検量線データの両方を用いて前記濃度を決定する、赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかにおいて、
    前記プロセス化学物質は、CF4、CHF3、C24、C26、C38、C48、C58、HF、SiF4、NF3、SF6、およびN2Oのうち少なくとも1つを含む、赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法。
  6. 請求項1〜5のいずれかにおいて、
    前記定量ターゲット化学物質は、CF4、CHF3、C24、C26、C38、C48、C58、COF2、HF、SiF4、OF2、NF3、SO2、SF6、SO22、SOF2、NO、N2O、NO2、CO、およびCO2のうち少なくとも1つを含む、赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかにおいて、
    前記ガスに対する赤外吸収分光測定を行なう際に、該ガス中の1成分以上を校正ガスとする、赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法。
  8. 請求項7において、
    前記校正ガスの濃度を、濃度の対数値でみて等間隔となるように複数の値設定する、赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法。
  9. 請求項7または8において、
    前記校正ガスとしてCF4またはSF6を選択する場合、
    前記校正ガスについて、主ピーク領域に関して濃度に対する吸光面積を示す検量線を作成し、
    前記主ピーク領域に関する検量線のうちリニアリティに優れた部分にて校正を行なう、赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法。
  10. 請求項1〜9のいずれかにおいて、
    前記ガスは、CF4、CHF3、C24、C26、C38、C48、C58、COF2、HF、SiF4、OF2、NF3、SO2、SF6、SO22、SOF2、NO、N2O、NO2、CO、およびCO2のうち少なくとも1つを含む、赤外吸収分光器を用いた温室効果ガス測定方法。
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