JP3783316B2 - 粉体成形法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、粉体成形法に係り、特に、セラミック粉、金属粉、あるいはそれらの複合体などの粉体から成形体を形成するための粉体成形法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セラミック粉、金属粉、あるいはそれらの複合体からなる粉体から各種部品の成形体を形成する従来の粉体成形法としては、加圧成形法(乾式加圧、ラバープレス)、鋳込成形法、ドクターブレード法、可塑成形法(押出、射出)などが知られており、実際に様々な成形体が得られている。
【0003】
ここで、射出成形法は、複雑形状品の成形が可能で、かつ、寸法精度に優れるという長所を有する反面、コストが高くて、成形後のバインダー類の脱脂に長時間を要するといった問題点を有している。
【0004】
最近、この射出成形法の問題点を解消する新規な粉体成形法が提案されている(特願平6−185536号参照)。
【0005】
この粉体成形法は、セラミック粉、金属粉、あるいはそれらの複合体からなる粉体と、分散剤と、バインダーとなる架橋性化合物と、この架橋性化合物を架橋して硬化させる硬化剤と、この架橋性化合物を均一に分散させて流動性を与える非架橋性化合物とからなるスラリーを、型内に流し込んで所定形状に成形した後、この成形体を抽出液体中に浸漬すると共に、非架橋性化合物のみを抽出除去し、その後、この成形体中の架橋性化合物を加熱除去するものである。
【0006】
この粉体成形法は、脱脂時間が短く、かつ、良好な成形体を安価に形成することができるという点で優れている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この粉体成形法においては、成形体が複雑で非対称形状の場合、非架橋性化合物の抽出除去をかなりゆっくりと行わないと、成形体における表面積が大きい所(複雑形状部)での抽出速度が速いため、成形体が変形したり、割れてしまうおそれがあるといった問題を有していた。
【0008】
そこで本発明は、上記課題を解決し、複雑で非対称形状の成形体から非架橋性化合物を急速に抽出除去しても、変形や割れのない良好な成形体を形成することが可能な粉体成形法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、セラミック粉、金属粉、あるいはそれらの複合体からなる粉体と、バインダーとなる架橋性化合物と、その架橋性化合物との分散性又は相溶性を有した非架橋性低分子化合物と、その非架橋性低分子化合物中に分散・溶解する非架橋性高分子化合物を含んだスラリーを、型内に流し込んで所定形状に成形した後、その成形体を抽出液体中に浸漬すると共に、上記非架橋性低分子化合物のみを抽出除去し、その後、その成形体中の上記架橋性化合物および上記非架橋性高分子化合物を加熱除去するものである。
【0010】
請求項2の発明は、上記粉体100wt%に対して、上記架橋性化合物を0.5〜40wt%、上記非架橋性高分子化合物を0.5〜40wt%、上記非架橋性低分子化合物を1wt%以上添加・混合する請求項1記載の粉体成形法である。
【0011】
請求項3の発明は、上記非架橋性高分子化合物が、多糖類、蛋白質、ポリビニルアルコール系高分子化合物、セルロース系高分子化合物のいずれかの単体またはそれらを2種以上混合したものである請求項1または請求項2記載の粉体成形法である。
【0012】
請求項4の発明は、上記抽出液体が、上記架橋性化合物および上記非架橋性高分子化合物に対する親和性よりも上記非架橋性低分子化合物に対する親和性の方が大きい請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の粉体成形法である。
【0013】
請求項5の発明は、上記スラリーが、上記架橋性化合物を架橋させると共に、硬化させる硬化剤を含有する請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の粉体成形法である。
【0014】
上記数値範囲を限定した理由を以下に説明する。
【0015】
粉体100wt%に対する架橋性化合物の添加・混合量を0.5〜40wt%と限定したのは、添加・混合量が0.5wt%未満では非架橋性低分子化合物の抽出除去時の強度が不十分となり、かつ、非架橋性低分子化合物が常温で液体である場合、成形体の保形性が不十分となるためであり、添加・混合量が40wt%よりも多いと架橋性化合物の加熱除去時に割れが生じるようになるためである。
【0016】
粉体100wt%に対する非架橋性高分子化合物の添加・混合量を0.5〜40wt%と限定したのは、添加・混合量が0.5wt%未満では成形体が複雑で非対称形状の場合、非架橋性低分子化合物の抽出除去時の変形や割れの発生が顕著となるためであり、添加・混合量が40wt%よりも多いと非架橋性高分子化合物の加熱除去時に割れが生じるようになるためである。
【0017】
粉体100wt%に対する非架橋性低分子化合物の添加・混合量を1wt%以上と限定したのは、添加・混合量が1wt%未満では架橋性化合物並びに非架橋性高分子化合物の加熱除去時に割れが生じるようになるためである。
【0018】
以上の構成によれば、セラミック粉、金属粉、あるいはそれらの複合体からなる粉体と、バインダーとなる架橋性化合物と、その架橋性化合物との分散性又は相溶性を有した非架橋性低分子化合物と、その非架橋性低分子化合物中に分散・溶解する非架橋性高分子化合物を含んだスラリーを、型内に流し込んで所定形状に成形した後、その成形体を抽出液体中に浸漬すると共に、上記非架橋性低分子化合物のみを抽出除去し、その後、その成形体中の上記架橋性化合物および上記非架橋性高分子化合物を加熱除去するため、複雑で非対称形状の成形体から非架橋性化合物を急速に抽出除去しても、変形や割れのない良好な成形体を形成することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
本発明の粉体成形法のフローチャートを図1に示す。
【0021】
図1に示すように、先ず、セラミック粉、金属粉、あるいはそれらの複合体からなる100wt%の粉体1に対して、バインダーとなる架橋性化合物2を0.5〜40wt%、架橋性化合物2との分散性又は相溶性を有した非架橋性低分子化合物4を1wt%以上、非架橋性低分子化合物4中に分散・溶解する非架橋性高分子化合物3を0.5〜40wt%、および架橋性化合物2を架橋させると共に硬化させる硬化剤5を添加・混合してスラリー6を形成する。
【0022】
粉体1としては、特に限定するものではなく、例えば、アルミナ粉、部分安定化ジルコニア粉、窒化ケイ素粉などのように、比較的、化学的安定性の高い材質のものが挙げられる。
【0023】
架橋性化合物2としては、特に限定するものではないが、高分子化することによって粉体1の周囲に不溶析出すると共に、比較的容易に加熱除去できるものが好ましく、例えば、尿素樹脂、メラミン樹脂、マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、グアナミン樹脂などが挙げられる。尚、これらを単独で、或いは、2種以上混合して用いてもよいことは言うまでもない。
【0024】
非架橋性低分子化合物4としては、特に限定するものではないが、混練時および成形時に液体であり、かつ、抽出除去が可能な程度の分子量のものが好ましく、例えば、イソプロピルアルコール、ジブチルフタレート、t−ブチルアルコール、パラフィンワックスなどが挙げられる。尚、これらを単独で、或いは、2種以上混合して用いてもよいことは言うまでもない。
【0025】
非架橋性高分子化合物3としては、特に限定するものではないが、既に高分子化しており、非架橋性低分子化合物4中に溶解・分散し、かつ、混練・成形・抽出除去時に固体であるものが好ましく、例えば、多糖類、蛋白質、ポリビニルアルコール系高分子化合物、セルロース系高分子化合物などが挙げられる。尚、これらを単独で、或いは、2種以上混合して用いてもよいことは言うまでもない。
【0026】
硬化剤5は、上述した架橋性化合物2の種類に応じて適宜選択されるものであるため、特に限定するものではなく、例えば、キシレンジアミンなどのアミン化合物や、酸無水物などが挙げられる。また、硬化剤5の添加・混合量も、上述した架橋性化合物2の種類に応じて適宜選択されるものである。
【0027】
抽出液体は、上述した架橋性化合物2、非架橋性高分子化合物3、および非架橋性低分子化合物4の種類に応じて適宜選択されるものであるため、特に限定するものではなく、例えば、トルエン、ジオクチルフタレート、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
【0028】
次に、スラリー6を所定形状の型内に流し込んで成形体7を形成する。この時、スラリー6は極めて良好な流動性を有しており、かつ、混練途中で硬化することがないため、常圧(1kgf/cm2 (9.8×104 Pa))での型注入が可能となる。
【0029】
図1における型注入後の成形体の概念図を図2に示す。尚、図1同様の部材には同じ符号を付している。
【0030】
図2に示すように、成形体7は、分散した粉体1の周囲に不溶析出した架橋性化合物2と、各架橋性化合物2間に連なって集まった非架橋性化合物9とからなるものである。ここで、非架橋性化合物9は、非架橋性低分子化合物4中に網目状或いは格子状に非架橋性高分子化合物3が連なってなるものである。
【0031】
図2における成形体から非架橋性低分子化合物を抽出除去する際の概念図を図3に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付している。
【0032】
次に、図3に示すように、成形体7を抽出液体L中に浸漬すると共に、その成形体7中の非架橋性化合物9から非架橋性低分子化合物4のみを抽出除去し、成形体7aとする。この時、非架橋性低分子化合物4のみを抽出除去することで、非架橋性高分子化合物3が成形体7aの強度を保持するため、成形体7が複雑で非対称形状であっても、変形や割れが生じない。
【0033】
ここで、抽出液体Lとしては、架橋性化合物2および非架橋性高分子化合物3に対する親和性より、非架橋性低分子化合物4に対する親和性の方が大きいものを用い、例えば、架橋性化合物2がエポキシ樹脂、非架橋性高分子化合物3がメチルセルロース、非架橋性低分子化合物4がイソプロピルアルコールの場合、抽出液体Lとしてトルエンを用いる。
【0034】
次に、成形体7a中の架橋性化合物2および非架橋性高分子化合物3を加熱除去して成形体7bとした後、成形体7bに焼結を施して焼結体8を得る。
【0035】
すなわち、本発明の粉体成形法によれば、非架橋性化合物として架橋性化合物との分散性又は相溶性を有する非架橋性低分子化合物と、非架橋性低分子化合物中に分散・溶解する非架橋性高分子化合物の2種類を用いており、成形体から非架橋性化合物を抽出除去する際に、非架橋性低分子化合物のみを抽出除去し、非架橋性高分子化合物で成形体の強度を保持しているため、複雑で非対称形状の成形体から非架橋性化合物を急速に抽出除去しても成形体の変形や割れがない。
【0036】
また、成形体から非架橋性化合物を抽出除去するための時間が短縮されるため、製造コストを抑えることができる。
【0037】
【実施例】
(実施例1)
100wt%のアルミナ粉末に対して、架橋性化合物として5wt%のジアリルフタレートプレポリマー、非架橋性高分子化合物として5wt%のカルボキシルエチルセルロース、非架橋性低分子化合物として30wt%のジブチルフタレートを添加すると共に、ボールミルで湿式混合してスラリーを形成する。
【0038】
このスラリーに架橋触媒として有機過酸化物を加えた後、160℃に温度保持された成形用金属型(L字形状、厚み5mm、長さ150mm)内に常圧で注入する。その後、約30分間放置してスラリーを硬化させ、型抜して成形体を形成する。この時、成形体の保形性は十分であり、非常に強固であった。
【0039】
次に、この成形体を、ジオクチルフタレートからなる抽出液体中に12時間浸漬する。抽出液体中に浸漬後の成形体においては、成形体中から非架橋性低分子化合物であるジブチルフタレートが略完全に抽出除去されており、また、変形や割れも見受けられなかった。
【0040】
その後、この成形体を5〜15℃/minの昇温速度で加熱して600℃まで昇温させ、加熱除去加工を施す。加熱除去加工後の成形体においては、成形体中から架橋性化合物であるジアリルフタレートプレポリマーおよび非架橋性高分子化合物であるカルボキシルエチルセルロースが完全に除去されており、また、クラックも見受けられなかった。
【0041】
最後に、この成形体に焼結加工を施して焼結体を作製する。焼結体においては、密度が3.98g/cm3 であり、従来の焼結体と比較しても遜色はなく、また、変形や割れもなども皆無であった。
【0042】
(実施例2)
100wt%の部分安定化ジルコニア粉末に対して、架橋性化合物として7wt%の脂肪族系エポキシ樹脂、非架橋性高分子化合物として4wt%のエチルセルロース、非架橋性低分子化合物として25wt%のt−ブチルアルコールを添加すると共に、20℃に保持しながらディスパーザで湿式混合してスラリーを形成する。
【0043】
このスラリーに、硬化剤として1.5wt%のキシレンジアミンを加えた後、70℃に温度保持された成形用樹脂型(インペラ形状、直径150mm)内に常圧で注入する。その後、約30分間放置してスラリーを硬化させ、型抜して成形体を形成する。この時、成形体の保形性は十分であり、非常に強固であった。
【0044】
次に、この成形体を、メチルエチルケトンからなる抽出液体中に24時間浸漬する。抽出液体中に浸漬後の成形体においては、成形体中から非架橋性低分子化合物であるt−ブチルアルコールが略完全に抽出除去されており、また、複雑で非対称形状部であるインペラ翼部においても変形や割れが見受けられなかった。
【0045】
その後、この成形体を5〜15℃/minの昇温速度で加熱して600℃まで昇温させ、加熱除去加工を施す。加熱除去加工後の成形体においては、成形体中から架橋性化合物である脂肪族系エポキシ樹脂および非架橋性高分子化合物であるエチルセルロースが完全に除去されており、また、クラックも見受けられなかった。
【0046】
最後に、この成形体に焼結加工を施して焼結体を作製する。焼結体においては、密度が6.04g/cm3 であり、従来の焼結体と比較しても遜色はなく、また、変形や割れもなども皆無であった。
【0047】
(比較例1)
実施例2において、非架橋性高分子化合物として4wt%のエチルセルロースを用いずにスラリーを形成し、後は実施例2と同様にして抽出液体中に24時間浸漬する。抽出液体中に浸漬後の成形体においては、成形体中から非架橋性低分子化合物であるt−ブチルアルコールが略完全に抽出除去されているものの、複雑で非対称形状部であるインペラ翼部が大きく変形しており、焼結体の作製まで至らなかった。
【0048】
本発明の粉体成形法により作製した焼結体は、各種産業用機械、エネルギー機器、航空・宇宙用機器などに適用することができる。
【0049】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、次のような優れた効果を発揮する。
【0050】
(1) 非架橋性化合物として非架橋性低分子化合物と非架橋性低分子化合物中に分散・溶解する非架橋性高分子化合物の2種類を用い、成形体から非架橋性化合物を抽出除去する際に、非架橋性低分子化合物のみを抽出除去し、非架橋性高分子化合物で成形体の強度を保持することで、複雑で非対称形状の成形体から非架橋性化合物を急速に抽出除去しても成形体の変形や割れがない。
【0051】
(2) 成形体から非架橋性化合物を抽出除去するための時間を短縮することで、製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の粉体成形法のフローチャートである。
【図2】図1における型注入後の成形体の概念図である。
【図3】図2における成形体から非架橋性低分子化合物を抽出除去する際の概念図である。
【符号の説明】
1 粉体
2 架橋性化合物
3 非架橋性高分子化合物
4 非架橋性低分子化合物
5 硬化剤
6 スラリー
7,7a 成形体
L 抽出液体
Claims (5)
- セラミック粉、金属粉、あるいはそれらの複合体からなる粉体と、バインダーとなる架橋性化合物と、その架橋性化合物との分散性又は相溶性を有した非架橋性低分子化合物と、その非架橋性低分子化合物中に分散・溶解する非架橋性高分子化合物を含んだスラリーを、型内に流し込んで所定形状に成形した後、その成形体を抽出液体中に浸漬すると共に、上記非架橋性低分子化合物のみを抽出除去し、その後、その成形体中の上記架橋性化合物および上記非架橋性高分子化合物を加熱除去することを特徴とする粉体成形法。
- 上記粉体100wt%に対して、上記架橋性化合物を0.5〜40wt%、上記非架橋性高分子化合物を0.5〜40wt%、上記非架橋性低分子化合物を1wt%以上添加・混合する請求項1記載の粉体成形法。
- 上記非架橋性高分子化合物が、多糖類、蛋白質、ポリビニルアルコール系高分子化合物、セルロース系高分子化合物のいずれかの単体またはそれらを2種以上混合したものである請求項1または請求項2記載の粉体成形法。
- 上記抽出液体が、上記架橋性化合物および上記非架橋性高分子化合物に対する親和性よりも上記非架橋性低分子化合物に対する親和性の方が大きい請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の粉体成形法。
- 上記スラリーが、上記架橋性化合物を架橋させると共に、硬化させる硬化剤を含有する請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の粉体成形法。
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