JP3782150B2 - ステレオ楽音制御装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、広がり感のある残響音を生成する楽音制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のステレオサウンドシステムにおいては、図7に示すように右音源の楽音波形データSRは、右音源用の残響装置20Rによって残響音データが付加され、右音源用のサウンドシステム21Rへ送られる。また、左音源の楽音波形データSLは、左音源用の残響装置20Lによって残響音データが付加され、左音源用のサウンドシステム21Lへ送られる。このようなステレオ残響音を生成する装置は、特開昭57−116500号公報に開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来装置では、右音源用の残響装置20Rと左音源用の残響装置20Lとが互いに独立しており、右音源用のサウンドシステム21Rからは右音源の楽音とその残響音が発音され、左音源用のサウンドシステム21Lからは左音源の楽音とその残響音が発音される。このため、右音源の残響音は右に偏り、左音源の残響音は左に偏って、左右の広がり感が十分に得られない。
【0004】
例えばピアノを弾く場合に、低音(高音)は奏者の左方向(右方向)から発音されるから、直接音は奏者の左耳(右耳)に大きなレベルで到達する。また、この低音の残響音は奏者の周囲の壁に複雑に反射して左右の耳へ到達する。すなわち、奏者の左方(右方)の壁に反射した楽音の一部は奏者の左耳(右耳)に到達し、他の一部は奏者の右方(左方)の壁へ到達してさらに反射されて奏者の右耳(左耳)に到達する。
【0005】
ところが、上記従来装置では右音源用の残響装置20Rによって生成される残響音と、左音源用の残響装置20Lで生成される残響音とは互いに独立している。このため、上記従来装置では、右音源の残響音が奏者の右側において複数回反射する残響音と、左音源の残響音が奏者の左方において複数回反射する残響音が生成されるに過ぎない。すなわち、上記のように奏者の左方(右方)の壁に反射されて右方(左方)の壁へ至り、さらに反射されて奏者の右耳(左耳)に到達するような反射音を作り出すことができない。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は、楽音発生手段から発生された楽音データを第1の出力手段と第2の出力手段から出力し、さらに、第1の出力手段から出力された楽音データを遅延させて第2の出力手段から出力させ、第2の出力手段から出力された楽音データを遅延させて第1の出力手段から出力させるようにしたものである。
【0007】
【作用】
例えば、ステレオサウンドシステムにおいて、右音源用のサウンドシステムから左音源の残響音が遅延されて発音され、左音源用のサウンドシステムから右音源の残響音が遅延されて発音される。これにより、残響音の広がり感が向上し、より自然音に近い残響効果を得ることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
1.全体回路
図1は左右2チャンネルのステレオサウンドを発音する電子楽器の全体回路を示す。キーボード1の各キーは、楽音の発音/消音の操作を行うものであり、キーボードスキャン回路2によってスキャンされ、キー操作、すなわちキーオン、キーオフを示すデータが検出され、CPU5によってRAM6に書き込まれる。そして、それまでRAM6に記憶されていた各キーのオン、オフの状態を示すデータと比較され、各キーのオンイベント、オフイベントの判別が、CPU5によって行われる。これにより、オン/オフに係るキーのポジションが検出される。また、スキャンは周期的に行われるので、キーのオン/オフのタイミングも検出される。なお、上記キーボード1は、電子弦楽器、電子管(リード)楽器、電子打(パッド)楽器、コンピュータのキーボード等で代用される。このキーボード1とキーボードスキャン回路2では、キーオン、キーオフ、音高の検出のほか、打鍵の遅速または強弱(タッチ)が検出されてタッチデータとしてCPU5へ送られる。
【0009】
パネルスイッチ群3の各スイッチは、パネルスキャン回路4によってスキャンされる。このスキャンにより、各スイッチのオン、オフを示すデータが検出され、CPU5によってRAM6に書き込まれる。そして、それまでRAM6に記憶されていた各スイッチのオン、オフの状態を示すデータと比較され、各スイッチのオンイベント、オフイベントの判別が、CPU5によって行われる。
【0010】
上記キーオン、キーオフ、オンイベント、オフイベント、各スイッチのオンイベント、オフイベントのデータは、MIDI(ミュージカル・インスツルメント・デジタル・インターフェイス)回路(図示略)を介して、他の処理装置(電子楽器)からも発生され受け取られ、または他の処理装置(電子楽器)へも発生され送られる。
【0011】
上記パネルスイッチ群3の各スイッチのオン/オフに応じた楽音制御信号と、上記キーボード1の各キーのオン/オフに応じた楽音データは、トーンジェネレータ8へ送られる。トーンジェネレータ8には、複数チャンネル分、例えば32チャンネル分の楽音生成系が時分割処理により生成されており、楽音をポリフォニックに発音させることができる。上記32チャンネルの楽音生成系は、キーボード1の1つのオンキーに対して2チャンネルずつ割り当てられる。この2チャンネルはステレオ楽音を実現するためのものであり、この2チャンネルのうち一方のチャンネルに右音源の楽音データが割り当てられ、他方のチャンネルに左音源の楽音データが割り当てられる。
【0012】
これら各チャンネルに割り当てられた各楽音の楽音データに応じて生成された各楽音波形データは、右音源の波形データと左音源の楽音波形データとに分けられ、左右の楽音波形データが、それぞれパンポット回路9へ送られる。トーンジェネレータ8で生成された楽音の波形データは、自然音における直接音に相当する楽音の波形データである。パンポット回路9からは右音源の楽音波形データSRと左音源の楽音波形データSLとが区別されて出力される。パンポット回路9では、右音源と左音源の楽音波形データのレベル制御(音量制御)または位相制御が行われ、ステレオ楽音化が行われる。
【0013】
右音源の楽音波形データSRは、右音源用の残響装置10Rによって残響音が付加されて、右音源用のサウンドシステム11Rへ送られる。左音源の楽音波形データSLは、左音源用の残響装置10Lによって残響音が付加されて、左音源用のサウンドシステム11Lへ送られる。サウンドシステム11R、11Lは、D−A変換器で楽音の波形データをアナログ信号に変換し、増幅器で増幅したのちスピーカから可聴音として楽音を発音する。また、右音源の残響音データRVRは左音源用の残響装置10Lへも送られ、左音源の残響音データRVLは右音源用の残響装置10Rへも送られる。
【0014】
2.データテーブル(ROM7)
ROM7内には図2に示すようなディレイタイムデータDT1、DT2、DT3、DT4と減衰率データA、B、C、Dのデータテーブル16が記憶されている。これらのデータは、音楽的ファクタ毎、及び発音開始からの経過時間毎、エンベロープレベルまたはエンベロープフェーズ毎に多層的に記憶されている。また、DT1、DT3≦(DT2、DT4)/2であり、0<A、B、C、D<1である。なお、減衰率は入力レベルに対する出力レベルの変化率でも良い。これら各データDT1〜4、A、B、C、Dの各値は何れかが同じであっても良いし、全て異なっていても良い。また、DT1、DT3<DT2、DT4であれば良い。
【0015】
上記発音経過時間は音長を表し、発音開始(キーオン)からの経過時間、エンベロープ等である。音楽的ファクタは、音高的ファクタ、音色的ファクタ、タッチ的ファクタ、パート的ファクタ、エフェクト的ファクタ、リズム的ファクタ、クオンタイズ情報、音像情報(ステレオ的ファクタ、音像形成データ)、変調情報、テンポ情報、音量情報、フォルマント情報、またはエンベロープ情報(エンベロープレベル)等である。
【0016】
上記音高的ファクタは、例えば音高、音域等である。上記音色的ファクタは、例えば楽器(ピアノ、バイオリン、フルート、ドラム等)の種類、高調波成分、ノイズ成分、楽音波形の形状(正弦波、三角波、鋸波、またはピアノの楽音波形やフルートの楽音波形等の楽器の種類に応じた楽音波形等)等である。上記タッチ的ファクタは、例えばキー操作の速さまたは強さ、イニシャルタッチ、アフタータッチ、ベロシティ等である。
【0017】
上記パート的ファクタは、具体的には、メロディ、伴奏、コード、ベース等の演奏パート、楽器の種類等の楽器的ファクタに応じた楽音パート、ピアノの上鍵盤、下鍵盤、足鍵盤のように楽器の部分に応じた楽器パートである。また、上記音像情報(ステレオ的ファクタ、音像形成データ)は、音像ポジションを決めるデータであって、例えば各チャンネルの楽音のレベルを設定するレベル設定データ、各チャンネルの楽音の位相を設定する位相設定データであって、これらのデータによって音像の位置(方向)、大きさ等が設定される。
【0018】
3.第1実施例の残響装置10R、10L
図3は右音源用の残響装置10R及び左音源用の残響装置10Lを示す。右音源用の残響装置10Rは、2つのディレイ回路30、31と2つのクロックジェネレータ40、41とレジスタ44を備えている。同様に、左音源用の残響装置10Rは、2つのディレイ回路32、33と2つのクロックジェネレータ42、43とレジスタ45を備えている。上記ディレイ回路30〜33は、例えばCCD(Charge Coupled device)またはBBD(Bucket Brigade Device)で構成されている。
【0019】
CPU5によってROM7のデータテーブルからディレイタイムデータDT1、DT2と減衰率データA、Cが読み出されて、右音源用の残響装置10Rへ送られる。また、CPU5によってROM7のデータテーブルからディレイタイムデータDT3、DT4と減衰率データB、Dが読み出されて、左音源用の残響装置10Lへ送られる。これらのディレイタイムデータと減衰率データは、発音経過時間と音楽的ファクタに応じてROM7から読み出される。
【0020】
クロックジェネレータ40〜43はプログラマブル・クロックジェネレータである。CPU5によってROM7から読み出されたディレイタイムデータDT1、DT2、DT3、DT4がプログラムデータとして入力され、これによってクロックジェネレータ40〜43からはディレイタイムデータDT1、DT2、DT3、DT4に応じた周期のクロック信号φ1、φ2、φ3、φ4が出力される。レジスタ44、45には、CPU5によってROM7のデータテーブルから読み出された減衰率データA、B、C、Dが記憶され、これらの減衰率データは所定タイミングで乗算器36〜39へ送られる。
【0021】
右音源用の残響装置10R内のディレイ回路30は、クロック信号φ1に同期して入力データを遅延させて出力する。このディレイ回路30のフィードバックループには乗算器36が介在されており、フィードバックデータに減衰率データAが乗じられ、加算器34を介してフィードバックされる。同様に、左音源用の残響装置10L内のディレイ回路32は、クロック信号φ3に同期して入力データを遅延させて出力する。このディレイ回路32のフィードバックループには乗算器38が介在されており、フィードバックデータに減衰率データBが乗じられ、加算器35を介してフィードバックされる。
【0022】
右音源用の残響装置10R内のディレイ回路31は、クロック信号φ2に同期して左音源用の残響装置10L内のディレイ回路32の出力データRVLを遅延させる。このディレイ回路31の出力データには乗算器37によって減衰率データCが乗じられ、加算器34を介してディレイ回路30へ入力される。また、左音源用の残響装置10L内のディレイ回路33は、クロック信号φ4に同期して右音源用の残響装置10R内のディレイ回路30の出力データRVRを遅延させる。このディレイ回路33の出力データには乗算器39によって減衰率データDが乗じられ、加算器35を介してディレイ回路32に入力される。
【0023】
従って、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRは、減衰率Dが乗じられて、ディレイタイムDT4とディレイタイムDT3とを合わせた遅延時間後に左音源用の残響装置10Lから出力される。また、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLは、減衰率Cが乗じられて、ディレイタイムDT2とディレイタイムDT1とを合わせた遅延時間後に右音源用の残響装置10Rから出力される。
【0024】
4.発音動作
キーボード1のキーが打鍵されると、キーボードスキャン回路2から打鍵されたキーのオンイベント信号がCPU5へ送られる。CPU5は、キーオンイベントがあったキーのキーナンバデータとパネルスキャン回路4から送られるスイッチのオン/オフデータや数値データに応じた楽音制御データをRAM6から読み出してトーンジェネレータ8へ送る。トーンジェネレータ8は、パネルスイッチ群3において設定された音楽的ファクタ及びキーナンバデータに応じた基本楽音波形データをRAM6から読み出す。そして、この基本楽音波形データにエンベロープを付加したり、楽音制御データに応じた変調を行って波形を整形する等の信号処理を行う。
【0025】
これにより、自然音における直接音に相当する楽音の左右の音源の波形データ、すなわち上記直接音データSが生成される。この直接音データSはパンポット回路9へ送られる。パンポット回路9では、パネルスイッチ群3において設定されたまたは自動演奏データ内の音像位置データに応じて、左右の音源の楽音波形データのレベル制御または位相制御が行われる。パンポット回路9によって生成された右音源の楽音波形データSRは右音源用の残響装置10Rへ送られ、左音源の楽音波形データSLは左音源用の残響装置10Lへ送られる。これらステレオシステムのレベル制御(音量制御)または位相制御は特願平3−204404号の明細書及び図面が参照される。
【0026】
右音源用の残響装置10Rでは、ディレイ回路30によって右音源の楽音波形データSRがディレイタイムDT1毎に繰り返し遅延され、減衰される。さらに、左音源用の残響装置10Lから出力された残響音データRVLがディレイ回路31によってディレイタイムDT2だけ遅延され、減衰率データCが乗じられてディレイ回路30の入力データに合成される。また、左音源用の残響装置10Lでは、ディレイ回路32によって左音源の楽音波形データSLがディレイタイムDT3毎に繰り返し遅延され、減衰される。さらに、右音源用の残響装置10Rから出力された残響音データRVRがディレイ回路33によってディレイタイムDT4だけ遅延され、減衰率データDが乗じられてディレイ回路32の入力データに合成される。
【0027】
右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRには、右音源の楽音波形データSRの残響音データのみでなく、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLをディレイタイムDT2で遅延させた残響音データも含まれる。従って、右音源用の残響装置10Rからは、ディレイタイムφ1毎に右音源の楽音波形データSRと左音源の残響音データRVLが繰り返し遅延され、減衰された楽音波形データが残響音データRVRとして出力される。
【0028】
同様に、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLには、左音源の楽音波形データSLの残響音データのみでなく、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRをディレイタイムDT4で遅延された残響音データも含まれる。従って、左音源用の残響装置10Lからは、ディレイタイムφ3毎に左音源の楽音波形データSLと右音源用の残響音データRVRが繰り返し遅延され、減衰された楽音波形データが残響音データRVLとして出力される。
【0029】
さらに、右音源用の残響装置10Rのディレイ回路30には、このディレイ回路30から出力されて左音源用の残響装置10Lによって遅延された右音源の楽音波形データSRの残響音成分が、ディレイ回路31を介して入力される。同様に、左音源用の残響装置10Lのディレイ回路32には、このディレイ回路32から出力されて右音源用の残響装置10Rによって遅延された左音源の楽音波形データSLの残響音成分が、ディレイ回路33を介して入力される。
【0030】
右音源用の残響装置10Rから出力された残響音データRVRは右音源用のサウンドシステム11Rへ送られ、これによりサウンドシステム11Rから右音源の楽音及び残響音が発音される。左音源用の残響装置10Lから出力された残響音データRVLは左音源用のサウンドシステム11Lへ送られ、これによりサウンドシステム11Lから左音源の楽音及び残響音が発音される。
【0031】
5.残響音成分
右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRには、右音源の楽音波形データSRが繰り返し遅延された残響音成分ZR、左音源の残響装置10Lから出力される左音源の楽音波形データSLの残響音成分が繰り返し遅延された残響音成分ZLR、前記残響音成分ZRが左音源用の残響装置10Lによって遅延された後に再び右音源用の残響装置10Rに入力されて繰り返し遅延された残響音成分ZRLR、この残響音成分ZRLRが左音源用の残響装置10Lと右音源用の残響装置10Rとによって交互に繰り返し遅延された残響音成分ZRLRA、この残響音成分ZRLRAが繰り返し遅延された残響音成分ZRLRB、前記残響音成分ZLRが左音源用の残響装置10Lと右音源用の残響装置10Rとによって交互に繰り返し遅延された残響音成分ZLRA、及びこの残響音成分ZLRAが繰り返し遅延された残響音成分ZLRB等が含まれている。
【0032】
上記残響音成分ZRは右音源の楽音が演奏者または聴者の右側で何度も反射されて右耳に到達する残響音、残響音成分ZLRは左音源の楽音が演奏者または聴者の右側で何度も反射されて右耳に到達する残響音、上記残響音成分ZRLRは右音源の楽音が演奏者または聴者の左側で反射され後に右側で複数回反射されて右耳に到達する残響音、上記残響音成分ZRLRAは右音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射されて右耳に到達する残響音に相当する。
【0033】
また、上記残響音成分ZRLRBは右音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射された後に演奏者または聴者の右側で複数回反射されて右耳に到達する反射音、上記残響音成分ZLRAは左音源の楽音が演奏者の左右で交互に複数回反射されて右耳に到達する残響音、上記残響音成分ZLRBは左音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射された後に演奏者または聴者の右側で複数回反射されて右耳に到達する反射音に相当する。
【0034】
同様に、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLには、左音源の波形データSLが繰り返し遅延された残響音成分ZL、右音源の残響装置10Rから出力される右音源の波形データSRの残響音成分が繰り返し遅延された残響音成分ZRL、前記残響音成分ZLが右音源用の残響装置10Rによって遅延された後に再び左音源用の残響装置10Lに入力されて繰り返し遅延された残響音成分ZLRL、この残響音成分ZLRLが右音源用の残響装置10Rと左音源用の残響装置10Lとによって交互に繰り返し遅延された残響音成分ZLRLA、この残響音成分ZLRLAが繰り返し遅延された残響音成分ZLRLB、前記残響音成分ZRLが右音源用の残響装置10Rと左音源用の残響装置10Lとによって交互に繰り返し遅延された残響音成分ZRLA、及びこの残響音成分ZRLAが繰り返し遅延された残響音成分ZRLB等が含まれている。
【0035】
そして、上記残響音成分ZLは左音源の楽音が演奏者または聴者の左側で何度も反射されて左耳に到達する残響音、残響音成分ZRLは右音源の楽音が演奏者または聴者の左側で何度も反射されて左耳に到達する残響音、上記残響音成分ZLRLは左音源の楽音が演奏者または聴者の右側で反射され後に左側で複数回反射されて左耳に到達する残響音、上記残響音成分ZLRLAは左音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射されて左耳に到達する残響音に相当する。
【0036】
また、上記残響音成分ZLRLBは左音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射された後に演奏者または聴者の左側で複数回反射されて左耳に到達する反射音、上記残響音成分ZRLAは右音源の楽音が演奏者の左右で交互に複数回反射されて左耳に到達する残響音、上記残響音成分ZRLBは右音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射された後に演奏者または聴者の左側で複数回反射されて左耳に到達する反射音に相当する。
【0037】
このように本実施例では、右音源用の残響装置10Rの残響音データRVRが左音源用の残響装置10Lへ送られ、ディレイ回路33によって遅延された後にディレイ回路32へ入力されている。また、左音源用の残響装置10Lの残響音データRVLが右音源用の残響装置10Rへ送られ、ディレイ回路31によって遅延された後にディレイ回路30へ入力されている。これによって本実施例では、演奏者または聴者の右側で発音された右音源の楽音と演奏者または聴者の左側で発音された左音源の楽音とが、左右の壁で複雑に反射してできる残響音が生成され、残響効果の左右の広がり感を高めることができる。
【0038】
6.第2実施例の残響装置10R、10L
図4に示すように、第2実施例の残響装置10R、10Lは、第1実施例におけるディレイ回路31、33と、クロックジェネレータ41、43を省略したものである。この他の構成部分は第1実施例と同じである。本実施例では、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRは、減衰率Dが乗じられて、ディレイタイムDT3後に左音源用の残響装置10Lから出力される。また、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLは、減衰率Cが乗じられて、ディレイタイムDT1後に右音源用の残響装置10Rから出力される。
【0039】
従って、残響音データRVRが左音源用の残響装置10Lに入力されてからから出力されるまでの遅延時間、及び残響音データRVLが右音源用の残響装置10Rに入力されてから出力されるまでの遅延時間は、第1実施例の場合よりも短くなる。この場合、ディレイ回路30等が第1の出力手段及び第2の遅延手段に相当し、また、ディレイ回路32等が第2の出力手段及び第1の遅延手段に相当する。
【0040】
7.第3実施例の残響装置10R、10L
図5に示すように、第3実施例の残響装置10R、10Lは、第1実施例におけるディレイ回路30、32と、クロックジェネレータ40、42を省略し、右音源の楽音の波形データSRと左音源の楽音の波形データSLとが、遅延もフィードバックも減衰もされずに出力されるようにしたものである。また、レジスタ44には減衰率データCのみが記憶され、所定タイミングで出力され、レジスタ45には減衰率データDのみが記憶され、所定タイミングで出力される。
【0041】
本実施例では、右音源の楽音の波形データSRは、加算器34を介して出力されると共に左音源用の残響装置10Lへ送られる。残響装置10Lへ送られた右音源の楽音の波形データSRは、ディレイ回路33によって遅延され、乗算器39によって減衰率データDが乗じられ、加算器35を介して出力される。また、左音源の楽音の波形データSLは、加算器35を介して出力されると共に右音源用の残響装置10Rへ送られる。残響装置10Rへ送られた左音源の楽音の波形データSLは、ディレイ回路31によって遅延され、乗算器37によって減衰率データCが乗じられ、加算器34を介して出力される。
【0042】
これにより本実施例では、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRには、左音源の楽音の波形データSLの遅延データが含まれる。また、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLには、右音源の楽音の波形データSRの遅延データが含まれる。また、本実施例では、フィードバックループが設けられていないので、遅延と減衰を繰り返して残響音データが作り出されるのではなく、一回の遅延と減衰を行った残響音データが出力される。
【0043】
従って、本実施例では、右音源の楽音が演奏者または聴者の左方の壁で反射された初期反射音と、左音源の楽音が演奏者または聴者の右方の壁で反射された初期反射音とが生成され、左右の広がり感が得られる。本実施例では、加算器34等が第1の出力手段に相当し、加算器35等が第2の出力手段に相当し、ディレイ回路33が第1の遅延手段に相当し、ディレイ回路31が第2の遅延手段に相当する。
【0044】
8.第4実施例の残響装置10R、10L
図6に示すように、第4実施例の残響装置10R、10Lは、第1実施例におけるディレイ回路31、33と、クロックジェネレータ41、43を省略し、さらにディレイ回路30、32のフィードバックループを省略したものである。また、第3実施例と同様に、レジスタ44には減衰率データCのみが記憶され、所定タイミングで出力され、レジスタ45には減衰率データDのみが記憶され、所定タイミングで出力される。
【0045】
本実施例では、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRは、減衰率Dが乗じられて、ディレイタイムDT3後に左音源用の残響装置10Lから出力される。また、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLは、減衰率Cが乗じられて、ディレイタイムDT1後に右音源用の残響装置10Rから出力される。これにより本実施例では、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRには、左音源の楽音の波形データSLの遅延データが含まれる。また、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLには、右音源の楽音の波形データSRの遅延データが含まれる。
【0046】
また、本実施例では、フィードバックループが設けられていないので、遅延と減衰を繰り返して残響音データが作り出されるのではなく、一回の遅延と減衰を行った残響音データが出力される。この遅延時間DT1、DT3は、上記第3実施例における遅延時間DT2、DT4よりも短い。従って、本実施例では、上記第3実施例と同様に、右音源の楽音が演奏者または聴者の左方の壁で反射された初期反射音と、左音源の楽音が演奏者または聴者の右方の壁で反射された初期反射音とが生成され、左右の広がり感が得られる。この場合、ディレイ回路30等が第1の出力手段及び第2の遅延手段に相当し、また、ディレイ回路32等が第2の出力手段及び第1の遅延手段に相当する。
【0047】
上述した各実施例では、音像形成データに応じてディレイタイムDT1〜DT4、減衰率データA〜Dが変化する。例えば音像が右へシフトすると、ディレイタイムDT1〜DT4、減衰率データA〜Dは、左音源よりも右音源の方が大きくなる(または小さくなる)。
【0048】
9.変形例
なお、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、残響音には、後期残響音のほかに、初期反射音が含まれる。また、本発明がステレオシステムに適用される場合には、ステレオチャンネル数は左右の2チャンネルに限られず、左右上下等の3チャンネル以上であっても良い。また、本発明はモノラルシステムにも適用できる。さらに、パンポット回路9が省略され、同じ楽音波形データが左右の残響装置10R、10Lに入力されても良い。
【0049】
また、遅延時間を決定するためのクロックジェネレータ40〜43は、左右の残響装置10R、10Lについて共通のものとしても良い。同様に、減衰率データを供給するためのレジスタ44、45も、左右の残響装置10R、10Lについて共通のものとしても良い。さらに、上記ディレイタイムDT1、DT3はディレイタイムDT2、DT4とは異なっていても良いし、等しくても良い。
【0050】
また、上記ディレイタイムDT1、DT2、DT3、DT4、または減衰率A、B、C、Dの値を可変としても良い。例えばパネルスイッチ群3にツマミ、スイッチ、ベンダー、テンキー等の設定手段が設けられ、この設定手段がマニュアル操作されることによってディレイタイムDT1〜DT4及び減衰率A〜Dの値が設定される。また、上記反射・残響装置10R、10Lは、DSP(Digital Signal Processor)またはマイクロコンピュータLSIに置き換えられても良く、上記の動作をソフトウェアによる処理によって行っても良い。
本件出願当初の特許請求の範囲は以下の通りであった。
[1]楽音データを発生する少なくとも1つの楽音発生手段と、 この楽音発生手段から発生された楽音データを出力する第1の出力手段と、 上記楽音発生手段から発生された楽音データを出力する、上記第1の出力手段とは異なる第2の出力手段と、 上記第1の出力手段から出力される楽音データを遅延させて上記第2の出力手段から出力させる第1の遅延手段と、 上記第2の出力手段から出力される楽音データを遅延させて上記第1の出力手段から出力させる第2の遅延手段とを備えたことを特徴とする楽音制御装置。
[2]上記楽音制御装置は、上記楽音発生手段から発生された楽音データにつき音像を形成するための音像形成データ発生手段と、この音像形成データ発生手段から発生された音像形成データに基づいて、上記楽音発生手段から発生された楽音データに対して音像を形成する制御を行って、複数の楽音データを発生する音像制御手段とをさらに有し、上記第1の出力手段及び上記第2の出力手段は、この音像制御手段から発生された楽音データを出力し、これにより上記楽音制御装置は音像形成機能を有することを特徴とする請求項1記載の楽音制御装置。
[3]上記第1の出力手段または上記第2の出力手段は、入力される楽音データを1回または繰り返し遅延させて残響音を生成することを特徴とする請求項1または2記載の楽音制御装置。
[4]上記第1の出力手段または上記第2の出力手段の遅延時間は、上記第1の遅延手段または上記第2の遅延手段の遅延時間より小さく、これにより上記出力手段は自己の本来の楽音データを他の出力手段を経由して送られてくる楽音データより遅らせて出力することを特徴とする請求項3記載の楽音制御装置。
[5]上記第1の出力手段における遅延時間と、上記第2の出力手段における遅延時間とはほぼ等しく、または上記第1の遅延手段における遅延時間と、上記第2の遅延手段における遅延時間とはほぼ等しいことを特徴とする請求項3または4記載の楽音制御装置。
[6]上記第1の出力手段若しくは上記第2の出力手段における遅延内容、または上記第1の遅延手段若しくは上記第2の遅延手段における遅延内容における、遅延される楽音データの減衰率または遅延率は、音高的ファクタ、音色的ファクタ、タッチ的ファクタ、音長的ファクタ、ステレオ的ファクタまたは設定エフェクト量に応じて変更され異なっていることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の楽音制御装置。
[7]音像を形成してステレオサウンドを作るための複数チャンネルの楽音データを発生する楽音発生手段と、 この楽音発生手段から発生された複数チャンネルの楽音データのうち互いに異なる一つのチャンネルの楽音データを入力して、そのまま遅延させずに、または一回だけ遅延させて、あるいはフィードバックを行って繰り返し遅延させて、さらに、そのままのレベルで、または一回だけ減衰させて、あるいはフィードバックを行って繰り返し減衰させて、チャンネル毎に別々に設けられたサウンドシステムへ出力する複数の出力手段と、 各チャンネルの出力手段へ入力された楽音データまたは出力された楽音データを、そのまま遅延させずに、または遅延させて、さらに減衰させて、他のチャンネルの出力手段の入力側または出力側の楽音データに合成させる複数の遅延手段とを備えたことを特徴とする楽音制御装置。
【0051】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、例えばステレオサウンドシステムにおいて、右チャンネルのサウンドシステムから左音源の残響音が遅延されて発音され、左チャンネルのサウンドシステムから右音源の残響音が遅延されて発音される。これにより、右チャンネルの残響音には左チャンネルの残響音成分が含まれ、左チャンネルの残響音には右チャンネルの残響音成分が含まれる。従って、演奏者または聴者の右側に発生した楽音が左方の壁で反射された残響音、および演奏者または聴者の左側に発生した楽音が右方の壁で反射された残響音に相当する残響音を生成することができ、残響音の広がり感が向上し、より自然音に近い残響効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電子楽器の全体回路を示す図である。
【図2】 ROM7内のディレイタイムデータと減衰率データを記憶したデータテーブル16を示す図である。
【図3】 第1実施例における残響装置10R、10Lのブロック図である。
【図4】 第2実施例における残響装置10R、10Lのブロック図である。
【図5】 第3実施例における残響装置10R、10Lのブロック図である。
【図6】 第4実施例における残響装置10R、10Lのブロック図である。
【図7】 従来装置における残響音形成回路のブロック図である。
【符号の説明】
1…キーボード、3…パネルスイッチ群、5…CPU、6…RAM、7…ROM、8…トーンジェネレータ、9…パンポット回路、10R、10L…残響装置、11R、11L…サウンドシステム、30〜33…ディレイ回路、40〜43…クロックジェネレータ、44、45…レジスタ、34、35…加算器、36〜39…乗算器。
【発明の属する技術分野】
この発明は、広がり感のある残響音を生成する楽音制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来のステレオサウンドシステムにおいては、図7に示すように右音源の楽音波形データSRは、右音源用の残響装置20Rによって残響音データが付加され、右音源用のサウンドシステム21Rへ送られる。また、左音源の楽音波形データSLは、左音源用の残響装置20Lによって残響音データが付加され、左音源用のサウンドシステム21Lへ送られる。このようなステレオ残響音を生成する装置は、特開昭57−116500号公報に開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来装置では、右音源用の残響装置20Rと左音源用の残響装置20Lとが互いに独立しており、右音源用のサウンドシステム21Rからは右音源の楽音とその残響音が発音され、左音源用のサウンドシステム21Lからは左音源の楽音とその残響音が発音される。このため、右音源の残響音は右に偏り、左音源の残響音は左に偏って、左右の広がり感が十分に得られない。
【0004】
例えばピアノを弾く場合に、低音(高音)は奏者の左方向(右方向)から発音されるから、直接音は奏者の左耳(右耳)に大きなレベルで到達する。また、この低音の残響音は奏者の周囲の壁に複雑に反射して左右の耳へ到達する。すなわち、奏者の左方(右方)の壁に反射した楽音の一部は奏者の左耳(右耳)に到達し、他の一部は奏者の右方(左方)の壁へ到達してさらに反射されて奏者の右耳(左耳)に到達する。
【0005】
ところが、上記従来装置では右音源用の残響装置20Rによって生成される残響音と、左音源用の残響装置20Lで生成される残響音とは互いに独立している。このため、上記従来装置では、右音源の残響音が奏者の右側において複数回反射する残響音と、左音源の残響音が奏者の左方において複数回反射する残響音が生成されるに過ぎない。すなわち、上記のように奏者の左方(右方)の壁に反射されて右方(左方)の壁へ至り、さらに反射されて奏者の右耳(左耳)に到達するような反射音を作り出すことができない。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明は、楽音発生手段から発生された楽音データを第1の出力手段と第2の出力手段から出力し、さらに、第1の出力手段から出力された楽音データを遅延させて第2の出力手段から出力させ、第2の出力手段から出力された楽音データを遅延させて第1の出力手段から出力させるようにしたものである。
【0007】
【作用】
例えば、ステレオサウンドシステムにおいて、右音源用のサウンドシステムから左音源の残響音が遅延されて発音され、左音源用のサウンドシステムから右音源の残響音が遅延されて発音される。これにより、残響音の広がり感が向上し、より自然音に近い残響効果を得ることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
1.全体回路
図1は左右2チャンネルのステレオサウンドを発音する電子楽器の全体回路を示す。キーボード1の各キーは、楽音の発音/消音の操作を行うものであり、キーボードスキャン回路2によってスキャンされ、キー操作、すなわちキーオン、キーオフを示すデータが検出され、CPU5によってRAM6に書き込まれる。そして、それまでRAM6に記憶されていた各キーのオン、オフの状態を示すデータと比較され、各キーのオンイベント、オフイベントの判別が、CPU5によって行われる。これにより、オン/オフに係るキーのポジションが検出される。また、スキャンは周期的に行われるので、キーのオン/オフのタイミングも検出される。なお、上記キーボード1は、電子弦楽器、電子管(リード)楽器、電子打(パッド)楽器、コンピュータのキーボード等で代用される。このキーボード1とキーボードスキャン回路2では、キーオン、キーオフ、音高の検出のほか、打鍵の遅速または強弱(タッチ)が検出されてタッチデータとしてCPU5へ送られる。
【0009】
パネルスイッチ群3の各スイッチは、パネルスキャン回路4によってスキャンされる。このスキャンにより、各スイッチのオン、オフを示すデータが検出され、CPU5によってRAM6に書き込まれる。そして、それまでRAM6に記憶されていた各スイッチのオン、オフの状態を示すデータと比較され、各スイッチのオンイベント、オフイベントの判別が、CPU5によって行われる。
【0010】
上記キーオン、キーオフ、オンイベント、オフイベント、各スイッチのオンイベント、オフイベントのデータは、MIDI(ミュージカル・インスツルメント・デジタル・インターフェイス)回路(図示略)を介して、他の処理装置(電子楽器)からも発生され受け取られ、または他の処理装置(電子楽器)へも発生され送られる。
【0011】
上記パネルスイッチ群3の各スイッチのオン/オフに応じた楽音制御信号と、上記キーボード1の各キーのオン/オフに応じた楽音データは、トーンジェネレータ8へ送られる。トーンジェネレータ8には、複数チャンネル分、例えば32チャンネル分の楽音生成系が時分割処理により生成されており、楽音をポリフォニックに発音させることができる。上記32チャンネルの楽音生成系は、キーボード1の1つのオンキーに対して2チャンネルずつ割り当てられる。この2チャンネルはステレオ楽音を実現するためのものであり、この2チャンネルのうち一方のチャンネルに右音源の楽音データが割り当てられ、他方のチャンネルに左音源の楽音データが割り当てられる。
【0012】
これら各チャンネルに割り当てられた各楽音の楽音データに応じて生成された各楽音波形データは、右音源の波形データと左音源の楽音波形データとに分けられ、左右の楽音波形データが、それぞれパンポット回路9へ送られる。トーンジェネレータ8で生成された楽音の波形データは、自然音における直接音に相当する楽音の波形データである。パンポット回路9からは右音源の楽音波形データSRと左音源の楽音波形データSLとが区別されて出力される。パンポット回路9では、右音源と左音源の楽音波形データのレベル制御(音量制御)または位相制御が行われ、ステレオ楽音化が行われる。
【0013】
右音源の楽音波形データSRは、右音源用の残響装置10Rによって残響音が付加されて、右音源用のサウンドシステム11Rへ送られる。左音源の楽音波形データSLは、左音源用の残響装置10Lによって残響音が付加されて、左音源用のサウンドシステム11Lへ送られる。サウンドシステム11R、11Lは、D−A変換器で楽音の波形データをアナログ信号に変換し、増幅器で増幅したのちスピーカから可聴音として楽音を発音する。また、右音源の残響音データRVRは左音源用の残響装置10Lへも送られ、左音源の残響音データRVLは右音源用の残響装置10Rへも送られる。
【0014】
2.データテーブル(ROM7)
ROM7内には図2に示すようなディレイタイムデータDT1、DT2、DT3、DT4と減衰率データA、B、C、Dのデータテーブル16が記憶されている。これらのデータは、音楽的ファクタ毎、及び発音開始からの経過時間毎、エンベロープレベルまたはエンベロープフェーズ毎に多層的に記憶されている。また、DT1、DT3≦(DT2、DT4)/2であり、0<A、B、C、D<1である。なお、減衰率は入力レベルに対する出力レベルの変化率でも良い。これら各データDT1〜4、A、B、C、Dの各値は何れかが同じであっても良いし、全て異なっていても良い。また、DT1、DT3<DT2、DT4であれば良い。
【0015】
上記発音経過時間は音長を表し、発音開始(キーオン)からの経過時間、エンベロープ等である。音楽的ファクタは、音高的ファクタ、音色的ファクタ、タッチ的ファクタ、パート的ファクタ、エフェクト的ファクタ、リズム的ファクタ、クオンタイズ情報、音像情報(ステレオ的ファクタ、音像形成データ)、変調情報、テンポ情報、音量情報、フォルマント情報、またはエンベロープ情報(エンベロープレベル)等である。
【0016】
上記音高的ファクタは、例えば音高、音域等である。上記音色的ファクタは、例えば楽器(ピアノ、バイオリン、フルート、ドラム等)の種類、高調波成分、ノイズ成分、楽音波形の形状(正弦波、三角波、鋸波、またはピアノの楽音波形やフルートの楽音波形等の楽器の種類に応じた楽音波形等)等である。上記タッチ的ファクタは、例えばキー操作の速さまたは強さ、イニシャルタッチ、アフタータッチ、ベロシティ等である。
【0017】
上記パート的ファクタは、具体的には、メロディ、伴奏、コード、ベース等の演奏パート、楽器の種類等の楽器的ファクタに応じた楽音パート、ピアノの上鍵盤、下鍵盤、足鍵盤のように楽器の部分に応じた楽器パートである。また、上記音像情報(ステレオ的ファクタ、音像形成データ)は、音像ポジションを決めるデータであって、例えば各チャンネルの楽音のレベルを設定するレベル設定データ、各チャンネルの楽音の位相を設定する位相設定データであって、これらのデータによって音像の位置(方向)、大きさ等が設定される。
【0018】
3.第1実施例の残響装置10R、10L
図3は右音源用の残響装置10R及び左音源用の残響装置10Lを示す。右音源用の残響装置10Rは、2つのディレイ回路30、31と2つのクロックジェネレータ40、41とレジスタ44を備えている。同様に、左音源用の残響装置10Rは、2つのディレイ回路32、33と2つのクロックジェネレータ42、43とレジスタ45を備えている。上記ディレイ回路30〜33は、例えばCCD(Charge Coupled device)またはBBD(Bucket Brigade Device)で構成されている。
【0019】
CPU5によってROM7のデータテーブルからディレイタイムデータDT1、DT2と減衰率データA、Cが読み出されて、右音源用の残響装置10Rへ送られる。また、CPU5によってROM7のデータテーブルからディレイタイムデータDT3、DT4と減衰率データB、Dが読み出されて、左音源用の残響装置10Lへ送られる。これらのディレイタイムデータと減衰率データは、発音経過時間と音楽的ファクタに応じてROM7から読み出される。
【0020】
クロックジェネレータ40〜43はプログラマブル・クロックジェネレータである。CPU5によってROM7から読み出されたディレイタイムデータDT1、DT2、DT3、DT4がプログラムデータとして入力され、これによってクロックジェネレータ40〜43からはディレイタイムデータDT1、DT2、DT3、DT4に応じた周期のクロック信号φ1、φ2、φ3、φ4が出力される。レジスタ44、45には、CPU5によってROM7のデータテーブルから読み出された減衰率データA、B、C、Dが記憶され、これらの減衰率データは所定タイミングで乗算器36〜39へ送られる。
【0021】
右音源用の残響装置10R内のディレイ回路30は、クロック信号φ1に同期して入力データを遅延させて出力する。このディレイ回路30のフィードバックループには乗算器36が介在されており、フィードバックデータに減衰率データAが乗じられ、加算器34を介してフィードバックされる。同様に、左音源用の残響装置10L内のディレイ回路32は、クロック信号φ3に同期して入力データを遅延させて出力する。このディレイ回路32のフィードバックループには乗算器38が介在されており、フィードバックデータに減衰率データBが乗じられ、加算器35を介してフィードバックされる。
【0022】
右音源用の残響装置10R内のディレイ回路31は、クロック信号φ2に同期して左音源用の残響装置10L内のディレイ回路32の出力データRVLを遅延させる。このディレイ回路31の出力データには乗算器37によって減衰率データCが乗じられ、加算器34を介してディレイ回路30へ入力される。また、左音源用の残響装置10L内のディレイ回路33は、クロック信号φ4に同期して右音源用の残響装置10R内のディレイ回路30の出力データRVRを遅延させる。このディレイ回路33の出力データには乗算器39によって減衰率データDが乗じられ、加算器35を介してディレイ回路32に入力される。
【0023】
従って、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRは、減衰率Dが乗じられて、ディレイタイムDT4とディレイタイムDT3とを合わせた遅延時間後に左音源用の残響装置10Lから出力される。また、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLは、減衰率Cが乗じられて、ディレイタイムDT2とディレイタイムDT1とを合わせた遅延時間後に右音源用の残響装置10Rから出力される。
【0024】
4.発音動作
キーボード1のキーが打鍵されると、キーボードスキャン回路2から打鍵されたキーのオンイベント信号がCPU5へ送られる。CPU5は、キーオンイベントがあったキーのキーナンバデータとパネルスキャン回路4から送られるスイッチのオン/オフデータや数値データに応じた楽音制御データをRAM6から読み出してトーンジェネレータ8へ送る。トーンジェネレータ8は、パネルスイッチ群3において設定された音楽的ファクタ及びキーナンバデータに応じた基本楽音波形データをRAM6から読み出す。そして、この基本楽音波形データにエンベロープを付加したり、楽音制御データに応じた変調を行って波形を整形する等の信号処理を行う。
【0025】
これにより、自然音における直接音に相当する楽音の左右の音源の波形データ、すなわち上記直接音データSが生成される。この直接音データSはパンポット回路9へ送られる。パンポット回路9では、パネルスイッチ群3において設定されたまたは自動演奏データ内の音像位置データに応じて、左右の音源の楽音波形データのレベル制御または位相制御が行われる。パンポット回路9によって生成された右音源の楽音波形データSRは右音源用の残響装置10Rへ送られ、左音源の楽音波形データSLは左音源用の残響装置10Lへ送られる。これらステレオシステムのレベル制御(音量制御)または位相制御は特願平3−204404号の明細書及び図面が参照される。
【0026】
右音源用の残響装置10Rでは、ディレイ回路30によって右音源の楽音波形データSRがディレイタイムDT1毎に繰り返し遅延され、減衰される。さらに、左音源用の残響装置10Lから出力された残響音データRVLがディレイ回路31によってディレイタイムDT2だけ遅延され、減衰率データCが乗じられてディレイ回路30の入力データに合成される。また、左音源用の残響装置10Lでは、ディレイ回路32によって左音源の楽音波形データSLがディレイタイムDT3毎に繰り返し遅延され、減衰される。さらに、右音源用の残響装置10Rから出力された残響音データRVRがディレイ回路33によってディレイタイムDT4だけ遅延され、減衰率データDが乗じられてディレイ回路32の入力データに合成される。
【0027】
右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRには、右音源の楽音波形データSRの残響音データのみでなく、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLをディレイタイムDT2で遅延させた残響音データも含まれる。従って、右音源用の残響装置10Rからは、ディレイタイムφ1毎に右音源の楽音波形データSRと左音源の残響音データRVLが繰り返し遅延され、減衰された楽音波形データが残響音データRVRとして出力される。
【0028】
同様に、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLには、左音源の楽音波形データSLの残響音データのみでなく、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRをディレイタイムDT4で遅延された残響音データも含まれる。従って、左音源用の残響装置10Lからは、ディレイタイムφ3毎に左音源の楽音波形データSLと右音源用の残響音データRVRが繰り返し遅延され、減衰された楽音波形データが残響音データRVLとして出力される。
【0029】
さらに、右音源用の残響装置10Rのディレイ回路30には、このディレイ回路30から出力されて左音源用の残響装置10Lによって遅延された右音源の楽音波形データSRの残響音成分が、ディレイ回路31を介して入力される。同様に、左音源用の残響装置10Lのディレイ回路32には、このディレイ回路32から出力されて右音源用の残響装置10Rによって遅延された左音源の楽音波形データSLの残響音成分が、ディレイ回路33を介して入力される。
【0030】
右音源用の残響装置10Rから出力された残響音データRVRは右音源用のサウンドシステム11Rへ送られ、これによりサウンドシステム11Rから右音源の楽音及び残響音が発音される。左音源用の残響装置10Lから出力された残響音データRVLは左音源用のサウンドシステム11Lへ送られ、これによりサウンドシステム11Lから左音源の楽音及び残響音が発音される。
【0031】
5.残響音成分
右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRには、右音源の楽音波形データSRが繰り返し遅延された残響音成分ZR、左音源の残響装置10Lから出力される左音源の楽音波形データSLの残響音成分が繰り返し遅延された残響音成分ZLR、前記残響音成分ZRが左音源用の残響装置10Lによって遅延された後に再び右音源用の残響装置10Rに入力されて繰り返し遅延された残響音成分ZRLR、この残響音成分ZRLRが左音源用の残響装置10Lと右音源用の残響装置10Rとによって交互に繰り返し遅延された残響音成分ZRLRA、この残響音成分ZRLRAが繰り返し遅延された残響音成分ZRLRB、前記残響音成分ZLRが左音源用の残響装置10Lと右音源用の残響装置10Rとによって交互に繰り返し遅延された残響音成分ZLRA、及びこの残響音成分ZLRAが繰り返し遅延された残響音成分ZLRB等が含まれている。
【0032】
上記残響音成分ZRは右音源の楽音が演奏者または聴者の右側で何度も反射されて右耳に到達する残響音、残響音成分ZLRは左音源の楽音が演奏者または聴者の右側で何度も反射されて右耳に到達する残響音、上記残響音成分ZRLRは右音源の楽音が演奏者または聴者の左側で反射され後に右側で複数回反射されて右耳に到達する残響音、上記残響音成分ZRLRAは右音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射されて右耳に到達する残響音に相当する。
【0033】
また、上記残響音成分ZRLRBは右音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射された後に演奏者または聴者の右側で複数回反射されて右耳に到達する反射音、上記残響音成分ZLRAは左音源の楽音が演奏者の左右で交互に複数回反射されて右耳に到達する残響音、上記残響音成分ZLRBは左音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射された後に演奏者または聴者の右側で複数回反射されて右耳に到達する反射音に相当する。
【0034】
同様に、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLには、左音源の波形データSLが繰り返し遅延された残響音成分ZL、右音源の残響装置10Rから出力される右音源の波形データSRの残響音成分が繰り返し遅延された残響音成分ZRL、前記残響音成分ZLが右音源用の残響装置10Rによって遅延された後に再び左音源用の残響装置10Lに入力されて繰り返し遅延された残響音成分ZLRL、この残響音成分ZLRLが右音源用の残響装置10Rと左音源用の残響装置10Lとによって交互に繰り返し遅延された残響音成分ZLRLA、この残響音成分ZLRLAが繰り返し遅延された残響音成分ZLRLB、前記残響音成分ZRLが右音源用の残響装置10Rと左音源用の残響装置10Lとによって交互に繰り返し遅延された残響音成分ZRLA、及びこの残響音成分ZRLAが繰り返し遅延された残響音成分ZRLB等が含まれている。
【0035】
そして、上記残響音成分ZLは左音源の楽音が演奏者または聴者の左側で何度も反射されて左耳に到達する残響音、残響音成分ZRLは右音源の楽音が演奏者または聴者の左側で何度も反射されて左耳に到達する残響音、上記残響音成分ZLRLは左音源の楽音が演奏者または聴者の右側で反射され後に左側で複数回反射されて左耳に到達する残響音、上記残響音成分ZLRLAは左音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射されて左耳に到達する残響音に相当する。
【0036】
また、上記残響音成分ZLRLBは左音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射された後に演奏者または聴者の左側で複数回反射されて左耳に到達する反射音、上記残響音成分ZRLAは右音源の楽音が演奏者の左右で交互に複数回反射されて左耳に到達する残響音、上記残響音成分ZRLBは右音源の楽音が演奏者または聴者の左右で交互に複数回反射された後に演奏者または聴者の左側で複数回反射されて左耳に到達する反射音に相当する。
【0037】
このように本実施例では、右音源用の残響装置10Rの残響音データRVRが左音源用の残響装置10Lへ送られ、ディレイ回路33によって遅延された後にディレイ回路32へ入力されている。また、左音源用の残響装置10Lの残響音データRVLが右音源用の残響装置10Rへ送られ、ディレイ回路31によって遅延された後にディレイ回路30へ入力されている。これによって本実施例では、演奏者または聴者の右側で発音された右音源の楽音と演奏者または聴者の左側で発音された左音源の楽音とが、左右の壁で複雑に反射してできる残響音が生成され、残響効果の左右の広がり感を高めることができる。
【0038】
6.第2実施例の残響装置10R、10L
図4に示すように、第2実施例の残響装置10R、10Lは、第1実施例におけるディレイ回路31、33と、クロックジェネレータ41、43を省略したものである。この他の構成部分は第1実施例と同じである。本実施例では、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRは、減衰率Dが乗じられて、ディレイタイムDT3後に左音源用の残響装置10Lから出力される。また、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLは、減衰率Cが乗じられて、ディレイタイムDT1後に右音源用の残響装置10Rから出力される。
【0039】
従って、残響音データRVRが左音源用の残響装置10Lに入力されてからから出力されるまでの遅延時間、及び残響音データRVLが右音源用の残響装置10Rに入力されてから出力されるまでの遅延時間は、第1実施例の場合よりも短くなる。この場合、ディレイ回路30等が第1の出力手段及び第2の遅延手段に相当し、また、ディレイ回路32等が第2の出力手段及び第1の遅延手段に相当する。
【0040】
7.第3実施例の残響装置10R、10L
図5に示すように、第3実施例の残響装置10R、10Lは、第1実施例におけるディレイ回路30、32と、クロックジェネレータ40、42を省略し、右音源の楽音の波形データSRと左音源の楽音の波形データSLとが、遅延もフィードバックも減衰もされずに出力されるようにしたものである。また、レジスタ44には減衰率データCのみが記憶され、所定タイミングで出力され、レジスタ45には減衰率データDのみが記憶され、所定タイミングで出力される。
【0041】
本実施例では、右音源の楽音の波形データSRは、加算器34を介して出力されると共に左音源用の残響装置10Lへ送られる。残響装置10Lへ送られた右音源の楽音の波形データSRは、ディレイ回路33によって遅延され、乗算器39によって減衰率データDが乗じられ、加算器35を介して出力される。また、左音源の楽音の波形データSLは、加算器35を介して出力されると共に右音源用の残響装置10Rへ送られる。残響装置10Rへ送られた左音源の楽音の波形データSLは、ディレイ回路31によって遅延され、乗算器37によって減衰率データCが乗じられ、加算器34を介して出力される。
【0042】
これにより本実施例では、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRには、左音源の楽音の波形データSLの遅延データが含まれる。また、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLには、右音源の楽音の波形データSRの遅延データが含まれる。また、本実施例では、フィードバックループが設けられていないので、遅延と減衰を繰り返して残響音データが作り出されるのではなく、一回の遅延と減衰を行った残響音データが出力される。
【0043】
従って、本実施例では、右音源の楽音が演奏者または聴者の左方の壁で反射された初期反射音と、左音源の楽音が演奏者または聴者の右方の壁で反射された初期反射音とが生成され、左右の広がり感が得られる。本実施例では、加算器34等が第1の出力手段に相当し、加算器35等が第2の出力手段に相当し、ディレイ回路33が第1の遅延手段に相当し、ディレイ回路31が第2の遅延手段に相当する。
【0044】
8.第4実施例の残響装置10R、10L
図6に示すように、第4実施例の残響装置10R、10Lは、第1実施例におけるディレイ回路31、33と、クロックジェネレータ41、43を省略し、さらにディレイ回路30、32のフィードバックループを省略したものである。また、第3実施例と同様に、レジスタ44には減衰率データCのみが記憶され、所定タイミングで出力され、レジスタ45には減衰率データDのみが記憶され、所定タイミングで出力される。
【0045】
本実施例では、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRは、減衰率Dが乗じられて、ディレイタイムDT3後に左音源用の残響装置10Lから出力される。また、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLは、減衰率Cが乗じられて、ディレイタイムDT1後に右音源用の残響装置10Rから出力される。これにより本実施例では、右音源用の残響装置10Rから出力される残響音データRVRには、左音源の楽音の波形データSLの遅延データが含まれる。また、左音源用の残響装置10Lから出力される残響音データRVLには、右音源の楽音の波形データSRの遅延データが含まれる。
【0046】
また、本実施例では、フィードバックループが設けられていないので、遅延と減衰を繰り返して残響音データが作り出されるのではなく、一回の遅延と減衰を行った残響音データが出力される。この遅延時間DT1、DT3は、上記第3実施例における遅延時間DT2、DT4よりも短い。従って、本実施例では、上記第3実施例と同様に、右音源の楽音が演奏者または聴者の左方の壁で反射された初期反射音と、左音源の楽音が演奏者または聴者の右方の壁で反射された初期反射音とが生成され、左右の広がり感が得られる。この場合、ディレイ回路30等が第1の出力手段及び第2の遅延手段に相当し、また、ディレイ回路32等が第2の出力手段及び第1の遅延手段に相当する。
【0047】
上述した各実施例では、音像形成データに応じてディレイタイムDT1〜DT4、減衰率データA〜Dが変化する。例えば音像が右へシフトすると、ディレイタイムDT1〜DT4、減衰率データA〜Dは、左音源よりも右音源の方が大きくなる(または小さくなる)。
【0048】
9.変形例
なお、本発明は上記実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、残響音には、後期残響音のほかに、初期反射音が含まれる。また、本発明がステレオシステムに適用される場合には、ステレオチャンネル数は左右の2チャンネルに限られず、左右上下等の3チャンネル以上であっても良い。また、本発明はモノラルシステムにも適用できる。さらに、パンポット回路9が省略され、同じ楽音波形データが左右の残響装置10R、10Lに入力されても良い。
【0049】
また、遅延時間を決定するためのクロックジェネレータ40〜43は、左右の残響装置10R、10Lについて共通のものとしても良い。同様に、減衰率データを供給するためのレジスタ44、45も、左右の残響装置10R、10Lについて共通のものとしても良い。さらに、上記ディレイタイムDT1、DT3はディレイタイムDT2、DT4とは異なっていても良いし、等しくても良い。
【0050】
また、上記ディレイタイムDT1、DT2、DT3、DT4、または減衰率A、B、C、Dの値を可変としても良い。例えばパネルスイッチ群3にツマミ、スイッチ、ベンダー、テンキー等の設定手段が設けられ、この設定手段がマニュアル操作されることによってディレイタイムDT1〜DT4及び減衰率A〜Dの値が設定される。また、上記反射・残響装置10R、10Lは、DSP(Digital Signal Processor)またはマイクロコンピュータLSIに置き換えられても良く、上記の動作をソフトウェアによる処理によって行っても良い。
本件出願当初の特許請求の範囲は以下の通りであった。
[1]楽音データを発生する少なくとも1つの楽音発生手段と、 この楽音発生手段から発生された楽音データを出力する第1の出力手段と、 上記楽音発生手段から発生された楽音データを出力する、上記第1の出力手段とは異なる第2の出力手段と、 上記第1の出力手段から出力される楽音データを遅延させて上記第2の出力手段から出力させる第1の遅延手段と、 上記第2の出力手段から出力される楽音データを遅延させて上記第1の出力手段から出力させる第2の遅延手段とを備えたことを特徴とする楽音制御装置。
[2]上記楽音制御装置は、上記楽音発生手段から発生された楽音データにつき音像を形成するための音像形成データ発生手段と、この音像形成データ発生手段から発生された音像形成データに基づいて、上記楽音発生手段から発生された楽音データに対して音像を形成する制御を行って、複数の楽音データを発生する音像制御手段とをさらに有し、上記第1の出力手段及び上記第2の出力手段は、この音像制御手段から発生された楽音データを出力し、これにより上記楽音制御装置は音像形成機能を有することを特徴とする請求項1記載の楽音制御装置。
[3]上記第1の出力手段または上記第2の出力手段は、入力される楽音データを1回または繰り返し遅延させて残響音を生成することを特徴とする請求項1または2記載の楽音制御装置。
[4]上記第1の出力手段または上記第2の出力手段の遅延時間は、上記第1の遅延手段または上記第2の遅延手段の遅延時間より小さく、これにより上記出力手段は自己の本来の楽音データを他の出力手段を経由して送られてくる楽音データより遅らせて出力することを特徴とする請求項3記載の楽音制御装置。
[5]上記第1の出力手段における遅延時間と、上記第2の出力手段における遅延時間とはほぼ等しく、または上記第1の遅延手段における遅延時間と、上記第2の遅延手段における遅延時間とはほぼ等しいことを特徴とする請求項3または4記載の楽音制御装置。
[6]上記第1の出力手段若しくは上記第2の出力手段における遅延内容、または上記第1の遅延手段若しくは上記第2の遅延手段における遅延内容における、遅延される楽音データの減衰率または遅延率は、音高的ファクタ、音色的ファクタ、タッチ的ファクタ、音長的ファクタ、ステレオ的ファクタまたは設定エフェクト量に応じて変更され異なっていることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の楽音制御装置。
[7]音像を形成してステレオサウンドを作るための複数チャンネルの楽音データを発生する楽音発生手段と、 この楽音発生手段から発生された複数チャンネルの楽音データのうち互いに異なる一つのチャンネルの楽音データを入力して、そのまま遅延させずに、または一回だけ遅延させて、あるいはフィードバックを行って繰り返し遅延させて、さらに、そのままのレベルで、または一回だけ減衰させて、あるいはフィードバックを行って繰り返し減衰させて、チャンネル毎に別々に設けられたサウンドシステムへ出力する複数の出力手段と、 各チャンネルの出力手段へ入力された楽音データまたは出力された楽音データを、そのまま遅延させずに、または遅延させて、さらに減衰させて、他のチャンネルの出力手段の入力側または出力側の楽音データに合成させる複数の遅延手段とを備えたことを特徴とする楽音制御装置。
【0051】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、例えばステレオサウンドシステムにおいて、右チャンネルのサウンドシステムから左音源の残響音が遅延されて発音され、左チャンネルのサウンドシステムから右音源の残響音が遅延されて発音される。これにより、右チャンネルの残響音には左チャンネルの残響音成分が含まれ、左チャンネルの残響音には右チャンネルの残響音成分が含まれる。従って、演奏者または聴者の右側に発生した楽音が左方の壁で反射された残響音、および演奏者または聴者の左側に発生した楽音が右方の壁で反射された残響音に相当する残響音を生成することができ、残響音の広がり感が向上し、より自然音に近い残響効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 電子楽器の全体回路を示す図である。
【図2】 ROM7内のディレイタイムデータと減衰率データを記憶したデータテーブル16を示す図である。
【図3】 第1実施例における残響装置10R、10Lのブロック図である。
【図4】 第2実施例における残響装置10R、10Lのブロック図である。
【図5】 第3実施例における残響装置10R、10Lのブロック図である。
【図6】 第4実施例における残響装置10R、10Lのブロック図である。
【図7】 従来装置における残響音形成回路のブロック図である。
【符号の説明】
1…キーボード、3…パネルスイッチ群、5…CPU、6…RAM、7…ROM、8…トーンジェネレータ、9…パンポット回路、10R、10L…残響装置、11R、11L…サウンドシステム、30〜33…ディレイ回路、40〜43…クロックジェネレータ、44、45…レジスタ、34、35…加算器、36〜39…乗算器。
Claims (8)
- 音像を形成してステレオサウンドを作るための複数のステレオチャンネルの楽音データを発生する楽音発生手段と、
この楽音発生手段から発生された複数のステレオチャンネルの楽音データに対して、所定位置に音像を形成するための音像形成データに基づいて音像を形成する制御を行う音像形成手段と、
この音像形成手段で音像形成制御された各ステレオチャンネルの楽音データをステレオチャンネル毎に設けられた複数の出力手段へそれぞれ出力して音像を形成させ、
この複数のステレオチャンネルの楽音データのうち、一つのステレオチャンネルの楽音データを遅延させて減衰させ、他のステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して、当該他のステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
当該他のステレオチャンネルの楽音データを遅延させて減衰させ、上記一つのステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して、当該一つのステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
上記他のステレオチャンネルの楽音データに合成された楽音データも同様に遅延させて減衰させ、上記一つのステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して、当該一つのステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
上記一つのステレオチャンネルの楽音データに合成された楽音データも同様に遅延させて減衰させ、上記他のステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して、当該他のステレオチャンネルの出力手段へ出力させ、
これにより、これら一つ及び他のステレオチャンネルの間での遅延、減衰及び合成を帰還的に繰り返し、これにより残響音を生成する遅延合成手段と、
この遅延合成手段における遅延の時間を、上記音像形成データに応じて変化させ、これにより音像位置に応じて上記残響生成の遅延時間を変化させ、しかも同遅延の時間を、上記楽音データの発音開始からの経過時間に応じても変化させ、これにより楽音データの発音開始からの経過時間に応じても上記残響生成の遅延時間を変化させる音像遅延手段とを備えたことを特徴とするステレオ楽音制御装置。 - 音像を形成してステレオサウンドを作るための複数のステレオチャンネルの楽音データを発生する楽音発生手段と、
この楽音発生手段から発生された複数のステレオチャンネルの楽音データに対して、所定位置に音像を形成するための音像形成データに基づいて音像を形成する制御を行う音像形成手段と、
この音像形成手段で音像形成制御された各ステレオチャンネルの楽音データをステレオチャンネル毎に設けられた複数の出力手段へそれぞれ出力して音像を形成させ、
この複数のステレオチャンネルの楽音データのうち、一つのステレオチャンネルの楽音データを他のステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して遅延させ減衰させて、当該他のステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
当該他のステレオチャンネルの楽音データを上記一つのステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して遅延させ減衰させて、当該一つのステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
上記他のステレオチャンネルの楽音データに合成されて遅延されて減衰された楽音データも、同様に上記一つのステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して遅延させ減衰させて、当該一つのステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
上記一つのステレオチャンネルの楽音データに合成されて遅延されて減衰された楽音データも、同様に上記他のステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して遅延させ減衰させて、当該他のステレオチャンネルの出力手段へ出力させ、
これにより、これら一つ及び他のステレオチャンネルの間での合成、遅延及び減衰を帰還的に繰り返し、これにより残響音を生成する合成遅延手段と、
この合成遅延手段における遅延の時間を、上記音像形成データに応じて変化させ、これにより音像位置に応じて上記残響生成の遅延時間を変化させ、しかも同遅延の時間を、上記楽音データの発音開始からの経過時間に応じても変化させ、これにより楽音データの発音開始からの経過時間に応じても上記残響生成の遅延時間を変化させる音像遅延手段とを備えたことを特徴とするステレオ楽音制御装置。 - 上記遅延合成手段における上記減衰の量または上記合成遅延手段における上記減衰の量を、上記音像形成データに応じて変化させ、これにより音像位置に応じて上記残響生成の減衰量を変化させる音像減衰手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2記載のステレオ楽音制御装置。
- 上記ステレオ楽音制御装置は、上記楽音データを遅延させて各ステレオチャンネルの出力手段へ出力する遅延手段を備えていることを特徴とする請求項1、2または3記載のステレオ楽音制御装置。
- 上記ステレオ楽音制御装置は、上記楽音データを遅延させて各ステレオチャンネルの出力手段へ出力する遅延手段を備えており、この遅延手段における遅延時間は、上記遅延合成手段における遅延時間、または上記合成遅延手段における遅延時間とはほぼ等しいことを特徴とする請求項1、2、3または4記載のステレオ楽音制御装置。
- 上記ステレオ楽音制御装置は、上記楽音データを遅延させて各ステレオチャンネルの出力手段へ出力する遅延手段を備えており、この遅延手段における遅延時間、上記遅延合成手段における遅延時間、または上記合成遅延手段における遅延時間は、音高的ファクタ、音色的ファクタ、タッチ的ファクタ、音長的ファクタまたは設定エフェクト量に応じて変更されることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載のステレオ楽音制御装置。
- 音像を形成してステレオサウンドを作るための複数のステレオチャンネルの楽音データを発生させ、
この発生された複数のステレオチャンネルの楽音データに対して、所定位置に音像を形成するための音像形成データに基づいて音像を形成する制御を行わせ、
この音像形成制御された各ステレオチャンネルの楽音データをステレオチャンネル毎に設けられた複数の出力手段へそれぞれ出力して音像を形成させ、
この複数のステレオチャンネルの楽音データのうち、一つのステレオチャンネルの楽音データを遅延させて減衰させ、他のステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して、当該他のステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
当該他のステレオチャンネルの楽音データを遅延させて減衰させ、上記一つのステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して、当該一つのステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
上記他のステレオチャンネルの楽音データに合成された楽音データも同様に遅延させて減衰させ、上記一つのステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して、当該一つのステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
上記一つのステレオチャンネルの楽音データに合成された楽音データも同様に遅延させて減衰させ、上記他のステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して、当該他のステレオチャンネルの出力手段へ出力させ、
これにより、これら一つ及び他のステレオチャンネルの間での遅延、減衰及び合成を帰還的に繰り返しさせ、これにより残響音を生成させ、
この遅延の時間を、上記音像形成データに応じて変化させ、これにより音像位置に応じて上記残響生成の遅延時間を変化させ、しかも同遅延の時間を、上記楽音データの発音開始からの経過時間に応じても変化させ、これにより楽音データの発音開始からの経過時間に応じても上記残響生成の遅延時間を変化させることを特徴とするステレオ楽音制御方法。 - 音像を形成してステレオサウンドを作るための複数のステレオチャンネルの楽音データを発生させ、
この発生された複数のステレオチャンネルの楽音データに対して、所定位置に音像を形成するための音像形成データに基づいて音像を形成する制御を行わせ、
この音像形成制御された各ステレオチャンネルの楽音データをステレオチャンネル毎に設けられた複数の出力手段へそれぞれ出力して音像を形成させ、
この複数のステレオチャンネルの楽音データのうち、一つのステレオチャンネルの楽音データを他のステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して遅延させ減衰させて、当該他のステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
当該他のステレオチャンネルの楽音データを上記一つのステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して遅延させ減衰させて、当該一つのステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
上記他のステレオチャンネルの楽音データに合成されて遅延されて減衰された楽音データも、同様に上記一つのステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して遅延させ減衰させて、当該一つのステレオチャンネルの出力手段へ出力させるとともに、
上記一つのステレオチャンネルの楽音データに合成されて遅延されて減衰された楽音データも、同様に上記他のステレオチャンネルの遅延前の楽音データに帰還合成して遅延させ減衰させて、当該他のステレオチャンネルの出力手段へ出力させ、
これにより、これら一つ及び他のステレオチャンネルの間での合成、遅延及び減衰を帰還的に繰り返しさせ、これにより残響音を生成させ、
この遅延の時間を、上記音像形成データに応じて変化させ、これにより音像位置に応じて上記残響生成の遅延時間を変化させ、しかも同遅延の時間を、上記楽音データの発音開始からの経過時間に応じても変化させ、これにより楽音データの発音開始からの経過時間に応じても上記残響生成の遅延時間を変化させることを特徴とするステレオ楽音制御方法。
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