JP3777079B2 - カムシャフト - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関に採用されるカムシャフトに関し、更に詳しくは、スリッパフォロワとローラフォロワとを相手部材とするカムシャフトのように、相手部材との接触態様が異なる複数のカムを、その接触態様に応じた特性を有するように形成することによって、カムシャフトの耐久性と信頼性のより一層の向上を図ったものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の内燃機関用のカムシャフトとしては、チル鋳鉄製のカムシャフト、鍛造加工もしくは総切削加工によって形成された鋼製のカムシャフト、または焼結合金製のカムをカム軸に接合した組立型のカムシャフト等がある。さらに、製造されたカムシャフトには、必要に応じ、耐摩耗性の向上や強度の向上を目的とした表面処理や熱処理が施され、全体として特定の性質が付与されている。こうしたカムシャフトは、通常、同一種類の動作態様からなるカムフォロワを相手部材としたものであり、例えばすべり接触タイプのロッカーアームやタペット、または、転がり接触タイプのロッカーアームやタペット、を対象としたものである。
【0003】
このような従来のカムシャフトが、図2に示すような異なる種類の動作態様からなるカムフォロワ(例えばすべり接触タイプのスリッパフォロワ5や転がり接触タイプのローラフォロワ6)を有するロッカーアームを相手部材として使用される場合には、相手部材とカムシャフト1に装着されたカム3、4との接触態様がそれぞれ異なるので、カムシャフト1の耐久性や信頼性の維持が図れないおそれがある。
【0004】
すなわち、スリッパフォロワ5を相手部材とするカム3は、相手部材との摺り合わせにより高温下でのすべり摺動となることから、そうしたすべり接触に耐えることができる耐スカッフィング性(すべり摩擦による焼き付き摩耗が起こりにくい性質)が要求される。一方、ローラフォロワ6を相手部材とするカム4は、相手部材に接触する面の曲率が小さく、その接触面は高面圧下で転がり摺動することから、そうした転がり接触に耐えることができる耐ピッチング性(転がり疲労に基づく表面損傷が起こりにくい性質)が要求される。しかしながら、従来型のカムシャフトでは、そうした要求を同時に満足させることができなかった。
【0005】
上述の問題に対して、特開平11−229824号公報には、相手部材との接触形態が異なる複数のカムを同時に備えるカムシャフトの耐久性や信頼性を向上させるため、その接触態様に応じて異なる特性を備えた材質でそれぞれのカムが形成され、それらのカムがカム軸に装着されてなるカムシャフトが開示されている。このカムシャフトは、スリッパフォロワ5を相手部材とする場合には、チル鋳鉄製のカムを採用して耐スカッフィング性の向上を図り、ローラフォロワ6を相手部材とする場合には、焼き入れ・焼き戻し処理した鋼製のカムを採用して耐ピッチング性の向上を図っている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、相手部材とすべり接触する上述のチル鋳鉄製のカムは、靱性が低く引張り強度も小さいので、カムシャフトに強固に装着することが困難となり、その結果、高回転・高負荷の運転時にずれが生じる可能性がある。また、そうしたずれを防止すべくカムをカム軸に強固に装着すると、カムの薄肉部に割れが発生する可能性がある。こうした問題に対して、上述の特開平11−229824号公報には、再溶融チル化処理によってカムの接触面の強度をより一層向上させているが、根本的な解決には至っていない。また、従来のチル鋳鉄製のカムは、使用条件によってはスリッパフォロワ用またはローラフォロワ用に使用されている例もあるが、後述する本発明の実施例のように、高いピッチング性が要求される用途には適用できないものであった。
【0007】
また、相手部材と転がり接触する上述した鋼製のカムは、焼き入れ・焼き戻し処理によって靱性等の機械的強度の向上を図っているが、コストがかかるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたものであって、内燃機関に採用されるカムシャフトにおいて、相手部材との接触態様が異なる複数のカムを、その接触態様に応じた特性を有するように形成することにより、その耐久性と信頼性をより一層向上させたカムシャフトを提供する。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1のカムシャフトは、相手部材との接触形態が異なる複数のカムを備え、対応する相手部材にすべり接触する第一のカムと転がり接触する第二のカムを拡散接合法によりカム軸に接合したカムシャフトにおいて、前記第一のカムは、C(炭素):1.0〜3.5質量%、Cr(クロム):3.0〜30.0質量%、Mo(モリブデン):0.5〜3.0質量%、Ni(ニッケル):0〜3.0質量%、Si(珪素):0.2〜1.5質量%、Mn(マンガン):1.0質量%以下、P(リン):0.3〜0.8質量%、残部:Fe(鉄)および不可避不純物を有する耐ピッチング性焼結合金の表面に、水蒸気処理膜が形成され、前記第二のカムは、前記耐ピッチング性焼結合金で形成されることに特徴を有する。
【0010】
この発明によれば、対応する相手部材にすべり接触する第一のカムが、耐ピッチング性焼結合金に、耐スカッフィング性を付与する表面処理(水蒸気処理)を施して形成されるので、相手部材との間で優れた耐スカッフィング性を発揮して焼き付きが極めて起こり難いと共に、第一のカムに必要十分な耐ピッチング性も有している。また、対応する相手部材に転がり接触する第二のカムが、耐ピッチング性焼結合金または焼き入れ焼き戻し処理された耐ピッチング性鋼で形成されるので、優れた耐ピッチング性を発揮し、転がり疲労に基づく表面損傷が極めて起こり難い。こうした本発明のカムシャフトは、相手部材との接触態様に応じた特性となるように各々のカムが形成されているので、その耐久性と信頼性をより一層向上させることができる。
【0012】
この発明によれば、耐スカッフィング性を付与する表面処理として水蒸気処理されるので、形成された水蒸気処理膜により、すべり接触する際の相手部材との凝着(すなわち焼き付き)が抑制され、優れた耐スカッフィング性を発揮する。その結果、カムシャフトの耐久性と信頼性を、さらに向上させるとができる。
【0014】
この発明によれば、第一のカムおよび第二のカムが、上述のような特性を有するように形成されているので、拡散接合法または圧入嵌合法によってカムに接合した場合であっても、従来のようなカム軸に装着する際の困難性がないので、強固に接合することができる。その結果、カムシャフトを備える内燃機関の運転時に、カムのずれや割れが起こることがない。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明のカムシャフトを図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1は、本発明のカムシャフト1の全体図の一例であり、図2は、本発明のカムシャフト1が備えるカム3、4が相手部材に接触する態様を示す斜視図であり、図3は、本発明で使用される焼結合金の組織写真であり、図4は、第一のカム3に施された水蒸気処理膜の断面図である。
【0017】
本発明のカムシャフ1トは、図1と図2に示すように、相手部材5、6との接触形態が異なる複数のカム3、4をカム軸2に備えるものであり、対応する相手部材5にすべり接触する第一のカム3と、対応する相手部材6に転がり接触する第二のカム4とを有している。本発明の特徴は、第一のカム3を、耐ピッチング性焼結合金に、耐スカッフィング性を付与する表面処理を施して形成し、第二のカム4を、耐ピッチング性焼結合金または焼き入れ焼き戻し処理された耐ピッチング性鋼から形成したことにある。その結果、接触態様に応じた特性を有するカム3、4を備えることによって、耐久性と信頼性がより一層向上したカムシャフト1とすることができる。
【0018】
カムシャフト1は、カム軸2と、そのカム軸2に拡散接合法または機械的な圧入嵌合法によって接合された複数のカムを備えている。さらに、必要に応じてエンドピースやジャーナルピースが設けられる。カムは、相手部材との接触態様毎に、その接触態様に応じた特性を有するように形成され、相手部材のリフト量や作用角が異なるように適宜設計されてカムシャフト1に装着される。接触態様としては、図2に示すように、スリッパフォロワ5へのすべり接触と、ローラフォロワ6への転がり接触がある。
【0019】
(1)第一のカム
第一のカム3は、優れた耐スカッフィング性、すなわち、対応するスリッパフォロワ5にすべり接触してもすべり摩耗や焼き付きが極めて起こり難い特性を発揮するように、耐ピッチング性焼結合金に、耐スカッフィング性を付与する表面処理を施してされる。
【0020】
先ず、表面処理の対象となる耐ピッチング性焼結合金について説明する。
【0021】
表面処理の対象となる耐ピッチング性焼結合金の成分組成は、C(炭素):1.0〜3.5質量%、Cr(クロム):3.0〜30.0質量%好ましくは4.0〜12.0質量%、Mo(モリブデン):0.5〜3.0質量%、Ni(ニッケル):0〜3.0質量%、Si(珪素):0.2〜1.5質量%、Mn(マンガン):1.0質量%以下、P(リン):0.3〜0.8質量%、残部:Fe(鉄)および不可避不純物を有している。
【0022】
この耐ピッチング性焼結合金は、主要成分となる鉄粉または所定の元素を含んだ鉄系合金粉末中に、最終的な成分組成が上記範囲内になるように所定量の各種金属粉末を添加して焼結合金用粉末を調製し、次いで通常の焼結方法により、先ず、焼結合金用粉末をプレス成形して圧粉体を形成し、その後、その圧粉体を液相焼結法によって焼結処理することにより製造される。
【0023】
得られた耐ピッチング性焼結合金は、図3の金属組織の顕微鏡写真(200倍)に示すように、その組織中に多くの炭化物が析出し、基地部分も、ベイナイト−マルテンサイト−残留オーステナイトからなる基地組織またはベイナイト−パーライト−残留オーステナイトからなる基地組織によって強化されているので、高強度で高い耐摩耗性を有し、優れた耐ピッチング性を有している。
【0024】
次に、耐スカッフィング性を付与する表面処理について説明する。
【0025】
表面処理は、上述の耐ピッチング性焼結合金に、耐スカッフィング性を付与することを目的に施される。そうした目的を達成することができる表面処理であればその種類は特に限定されない。表面処理としては、水蒸気処理やリン酸塩処理を好ましく挙げることができる。
【0026】
図4は、耐ピッチング性焼結合金に水蒸気処理を施して形成された水蒸気処理膜の断面図である。水蒸気処理は、加熱水蒸気中で上記の耐ピッチング性焼結合金を加熱し、その表面に酸化物(Fe3O4)の皮膜を形成させる処理であり、形成された皮膜は、摩擦の際に相手部材との凝着を抑制する作用を有している。そのため、耐ピッチング性焼結合金表面に水蒸気処理膜を形成して得られた第一のカム3は、その焼結合金自体が有する耐ピッチング性はやや低下するものの、相手部材とすべり接触する際の焼き付きが抑制され、耐スカッフィング性が一層向上する。形成された水蒸気処理膜の厚さを1〜15μmとすることによって、前記の効果を十分に達成することができる。水蒸気処理膜の厚さが1μm未満では、前記の効果を十分に発揮することができず、水蒸気処理膜の厚さが15μmを超えると、Fe2O3やFeOの割合が増加するために、相手部材への接触時の初期なじみ性が低下したり、形成された水蒸気処理膜が剥離したりする問題が起こるおそれがある。
【0027】
リン酸塩処理は、上記の耐ピッチング性焼結合金を所定のリン酸塩溶液に浸漬等することによって、その表面に潤滑性乃至耐摩耗性に優れたリン酸塩皮膜を形成させる処理である。耐ピッチング性焼結合金表面にリン酸塩処理皮膜を形成して得られた第一のカム3は、その焼結合金自体が有する耐ピッチング性はやや低下するものの、相手部材とすべり接触する際の初期なじみ性や耐スカッフィング性が一層向上し、しかも低コストでそうした特性を付与できるという利点がある。形成されたリン酸塩処理膜の厚さは、すべり接触条件にあわせて0.5〜7μmの範囲で設定することによって、前記の効果を十分に達成することができる。リン酸塩処理膜の厚さが0.5μm未満では、十分な初期なじみ性を発揮することができず、7μmを超えると、リン酸塩処理膜の成長時間が長くなるので、コストがかかる。
【0028】
なお、水蒸気処理膜をラッピング加工することによって、第一のカムの表面粗さを小さくし、摩擦係数を更に減少させて耐スカッフィング性を向上させることが好ましい。ラッピング加工としては、ペーパーラッピング加工が好ましい。ペーパーラッピングは、エメリー紙等の研磨紙(#1000番程度)を用いて表面を滑らかにする方法であり、薄く形成された水蒸気処理膜を極力除去しない状態で、その表面を所定の表面粗さに均一に仕上げることができるという利点がある。ペーパーラッピング加工による第一のカムの好ましい表面粗さは、Rz(十点平均粗さ)6.3μm以下であり、摩擦係数を更に減少させて耐スカッフィング性をより一層向上させることができる。下限値は特に規定されず、すべり接触条件が厳しい場合でもRz(十点平均粗さ)を小さくすれば耐スカッフィング性を向上させることができる。しかし、下限値を小さくすると、加工コストも拡大するので、それらの調和点が適宜設定される。
【0029】
こうして得られた第一のカム3は、上述の表面処理によって付与された耐スカッフィング性と、上述の焼結合金自体の耐ピッチング性とを有するので、すべり接触タイプのカムとしての要求特性を満たし、カムシャフトに好適に使用することができる。
【0030】
次に、上述の耐ピッチング性焼結合金が含有する各成分元素を上記範囲内に限定した理由を以下に説明する。
【0031】
Cは、高硬度の微細炭化物を形成して十分な耐摩耗性を発揮させるために、1.0質量%以上必要である。しかし、C含有量が3.5質量%を超えると、粗大な炭化物(主にCr炭化物)が焼結合金中で形成され、その粗大な炭化物が液相焼結中に粗大な空孔を生じさせて基地を脆化させる。このため、C含有量を1.0〜3.5質量%に限定する。
【0032】
Crは、相手部材の機械的特性等に合わせ、3.0〜30.0質量%好ましくは4.0〜12.0質量%の範囲で適宜調整される。しかし、Cr含有量が30.0質量%を超えると、Cr炭化物を微細化させる度合いが小さくなり、硬さも過大になる。Cr含有量が3.0質量%未満では、Cr炭化物がやや粗大になってくるので、高硬度の微細炭化物を十分に形成することができない。
【0033】
Moは、基地に固溶して硬度を高め、耐摩耗性を向上させる目的で添加される。しかし、この効果は、Mo含有量が3.0質量%を超えてもほとんど変化しない。Mo含有量が0.5質量%未満では、こうした効果を十分に発揮できない。このため、Mo含有量を0.5〜3.0質量%に限定する。
【0034】
Niは、基地強化の目的で添加され、焼結後の基地組織を、ベイナイト−マルテンサイト−残留オーステナイトからなる基地組織またはベイナイト−パーライト−残留オーステナイトからなる基地組織として強化し、高い引張強さ、優れた耐摩耗性と耐ピッチング性を発揮させる。しかし、Ni含有量が3.0質量%を超えると、多量のオーステナイトが残留し、硬さ低下の原因となることがある。なお、Niを添加しない場合であっても、優れた耐摩耗性と耐ピッチング性を発揮させることができるので、Ni含有量を0〜3.0質量%に限定する。特に、焼結合金中に0〜0.7質量%のNiを含有させると、基地組織のパーライト率の向上と、スカッフの発生要因となる基地中の残留オーステナイト量の低減が図れ、高い耐スカッフィング性を付与することができるので、耐スカッフィング性を重視する場合に好ましい。また、焼結合金中に0.8〜3.0質量%のNiを含有させると、ベイナイト主体の組織にすることができ、高い耐ピッチング性を付与することができるので、耐ピッチング性を重視する場合に好ましい。
【0035】
Siは、CおよびP含有量を低くした際に液相の生成を促進させる成分であるが、Si含有量が0.2質量%未満では液相促進の効果が得られない。一方、Si含有量が1.5質量%を超えると、基地が脆化するほか、粉末の圧粉成形性が低下し、焼結後の焼結合金の変形が大きくなる。このため、Si含有量を0.2〜1.5質量%に限定する。
【0036】
Mnは、基地強化に効果がある。しかし、Mn含有量が1.0質量%を超えると、焼結の進行が抑制されるため、粗大な空孔が残って焼結性が低下する。そのため、Mn含有量の上限を1.0質量%に限定する。
【0037】
Pは、Fe−C−P共晶のステダイトを生じさせる。ステダイトは硬度が非常に高く、凝固点が950℃前後と低いため液相焼結を促進させる。しかし、P含有量が0.8質量%を超えると、ステダイトが過多に生じ、被削性が悪くなる。また、0.3質量%未満では、ステダイトの析出量が少なくなって、高い耐摩耗性が得られず、また、液相も生じにくくなる。このため、P含有量を0.3〜0.8質量%に限定する。
【0038】
なお、上述した以外の成分組成として、Cu、B、V、Ti、Nb、Wの中の一種類以上を必要に応じて適当量添加することができる。
【0039】
(2)第二のカム
第二のカム4は、優れた耐ピッチング性、すなわち、対応するローラフォロワ6に転がり接触しても転がり疲労に基づく表面損傷が起こり難い特性を発揮する材料で形成される。本発明においては、耐ピッチング性焼結合金、または焼き入れ焼き戻し処理された鋼材を好ましく用いることができる。
【0040】
先ず、耐ピッチング性焼結合金製の第二のカムについて説明する。
【0041】
第二のカム4を形成するための耐ピッチング性焼結合金は、上述した耐ピッチング性焼結合金、すなわち第一のカム用として表面処理の対象となる耐ピッチング性焼結合金と同じものが用いられる。従って、その成分組成、その作用、およびその製造方法も、上述の耐ピッチング性焼結合金と同じである。
【0042】
耐ピッチング性焼結合金は、第一のカムと第二のカムに共通することになるので、各々のカムの相手部材の機械的特性に応じてその成分組成を適宜調整し、各々の相手部材に対して好適な特性を発揮するように焼結合金の基地組織を調整することが好ましい。具体的には、耐スカッフィング性を重視する場合には、Ni含有量をやや低めにして、基地組織のパーライト率の向上と、スカッフの発生要因となる基地中の残留オーステナイト量の低減を図り、耐ピッチング性を重視する場合には、Ni含有量をやや高めにして、ベイナイト主体の組織とし、高い耐ピッチング性を付与する。
【0043】
第二のカム4には、第一のカム3ほどの耐スカッフィング性が要求されないので、耐ピッチング性焼結合金に、耐スカッフィング性を付与する表面処理を施すことは不要である。なお、水蒸気処理膜が形成された第二のカム4は、転がり接触によってその水蒸気処理膜が疲労して、剥離やピッチングの原因になることがあるので、転がり接触部分には、なるべく水蒸気処理されない手段をとることが好ましい。
【0044】
こうして得られた第二のカム4は、転がり接触タイプのカムとしての要求特性を満たし、カムシャフトに好適に使用することができる。
【0045】
次に、焼き入れ焼き戻し処理された鋼製の第二のカムについて説明する。
【0046】
第二のカム4としては、S50C(炭素鋼鋼材)、SCr(クロム鋼鋼材)、SCM(クロムモリブデン鋼鋼材)等の焼き入れ焼き戻し処理によって機械的特性、特に靱性や耐疲労特性、を向上させることができる鋼を使用することが好ましい。焼き入れ焼き戻し処理の条件は、通常の方法により、得られるカムの特性を考慮しながら適宜条件設定される。得られた第二のカムは、優れた耐ピッチング性を示し、転がり接触タイプのカムとして好ましく使用できる。なお、焼き入れ焼き戻し処理した鋼製の第二のカムにも、上述の表面処理膜は不要である。
【0047】
(3)カムシャフトの製造
本発明のカムシャフト1は、図1に示すように、鋼管製のカム軸2に、上述した第一のカム3と第二のカム4が、接触形態が異なる相手部材に応じて所定の位置に所定の作用角となるように接合されてなるものである。カムとカム軸の接合方法は、拡散接合による方法と、機械的な圧入嵌合による方法を好ましく適用できる。
【0048】
拡散接合法は、鋼管製のカム軸に、焼結前の圧粉状態の第一のカム用の耐ピッチング性焼結合金と、第二のカム用の耐ピッチング性焼結合金とを、所定の位置および角度で装着し、液相焼結法によって各カムを液相焼結しつつ、カム軸に拡散接合する方法である。本発明においては、第一のカム用の耐ピッチング性焼結合金と第二のカム用の耐ピッチング性焼結合金とが同じ材料であり、しかも、各部材自体の焼結と部材間の拡散接合とを同時に行うことができるので、極めて効率的に焼結と接合を行うことができる。
【0049】
次いで、耐スカッフィング性を付与する表面処理工程を経てカムシャフトが製造される。この表面処理工程の際、転がり接触する第二のカム4用の耐ピッチング性焼結合金の表面にも同時に表面処理が施されるので、第二のカムには、その転がり接触部分にマスキングして、表面処理が施されないような手段をとることが好ましい。また、製造工程上、やむを得ず表面処理が施された場合、例えば水蒸気処理膜が形成された場合には、エメリーペーパー等で母材の一部が露出するまで研磨することにより表面の脆く粗い部分を除去し、Rz3.2μm以下の滑らかな表面にすることが好ましい。
【0050】
拡散接合法によるカムシャフト1の製造は、効率的であると共に、従来のようなカムのずれやカムの割れ等の問題が生じない。
【0051】
圧入嵌合法は、特開平5−10340号公報に示すような方法でカム軸にカムを接合する方法である。すなわち、転造によって所定の位置に隆起部が形成されたカム軸1に、耐ピッチング性焼結合金に耐スカッフィング性を付与する表面処理を施して形成された第一のカム3と、耐ピッチング性焼結合金または焼き入れ焼き戻し処理された鋼で形成された第二のカム4とを、順次、所定の位置に所定の角度で圧入して接合する方法によって、カムシャフトが製造される。耐ピッチング性焼結合金で形成される第一のカムないし第二のカム、および焼き入れ焼き戻し鋼で形成される第二のカムは、何れも引張り強度や疲労強度に優れるので、従来のようなカムのずれやカムの割れ等のおそれなく、それらのカムをカム軸に強固に接合できる。
【0052】
以上のように、本発明のカムシャフト1は、スリッパフォロワ5とローラフォロワ6とを相手部材とするカムシャフトのように、相手部材との接触態様が異なる複数のカム3、4を、その接触態様に応じた特性を有するように形成したので、カムシャフト1の耐久性と信頼性をより一層向上させることができると共に、加工性とコスト面においても優れている。
【0053】
【実施例】
以下、本発明のカムシャフトを更に具体的に説明する。
【0054】
(実施例1)
焼結後の成分組成が、C:2.4質量%、Cr:12.0質量%、Mo:1.0質量%、Si:0.8質量%、Ni:1.5質量%、P:0.5質量%、Fe:残り、となるように各元素を鉄粉中に添加して焼結用粉末を調整した。更に、潤滑剤としてステアリンサン亜鉛を加えて混合した。次いで、5〜7t/cm2 の面圧でプレス成形して圧粉体を成形した後、鋼管製のカム軸に組み付け、真空炉中で1373〜1473°K(平均1433°K)の温度で焼結した後、カム研削盤にて仕上加工し、実施例1の焼結合金製のカムシャフトを得た。
【0055】
(実施例2)
焼結後の成分組成が、C:2.6質量%、Cr:8.0質量%、Mo:2.0質量%、Si:0.8質量%、Ni:1.9質量%、P:0.5質量%、Fe:残り、となるように各元素を鉄粉中に添加して焼結用粉末を調整した。その他は、実施例1と同様として実施例2の焼結合金製のカムシャフトを得た。
【0056】
(実施例3)
焼結後の成分組成が、C:2.0質量%、Cr:4.0質量%、Mo:2.0質量%、Si:0.8質量%、Ni:1.9質量%、P:0.5質量%、Fe:残り、となるように各元素を鉄粉中に添加して焼結用粉末を調整した。その他は、実施例1と同様として実施例3の焼結合金製のカムシャフトを得た。
【0057】
(実施例4〜実施例6)
実施例1〜実施例3で得られた各焼結合金製のカムに、水蒸気処理炉で823〜873°Kの温度で90分間処理し、耐スカッフィング性を付与した実施例4〜実施例6の焼結合金製のカムシャフトを得た。
【0058】
(実施例7)
機械的な圧入嵌合法で用いる転がり接触タイプのカムとして、S50C材を高周波焼き入れ焼き戻し処理した後、鋼管製のカム軸に圧入嵌合法で接合し、さらにカム研削盤で仕上加工し、表面硬さHv720程度の実施例7の焼き入れ焼き戻し鋼製のカムシャフトを得た。
【0059】
(比較例1)
成分組成が、C:3.4質量%、Cr:0.8質量%、Mo:2.0質量%、Ni+Cu:2.0質量%、Si:2.0質量%、B:0.4質量%、Mn:0.7質量%、Fe:残り、となるように各元素を溶解し、冷やし金を設けた鋳型に流し込んで冷却した後、カム研削盤で仕上加工し、比較例1のチル鋳鉄製のカムシャフトを得た。
【0060】
(評価方法)
実施例1〜7および比較例1で得られたカムシャフトと、各カムの相手部材として、すべり接触型のスリッパフォロワと、転がり接触型のローラフォロワとをそれぞれ用いた。試験は、ばねの圧縮量を変更することによりカムにかかる負荷(面圧)を自由に調節できるモータリング試験装置を使用した。
【0061】
耐スカッフィング性は、1000r.p.m.の低速で回転させ、負荷(面圧)を変化させてスカッフィングが発生したときの負荷(面圧)を限界面圧として評価した。耐ピッチング性は、3000r.p.m.の高速で回転させ、負荷(面圧)を変化させてピッチングが発生したときの負荷(面圧)を限界面圧として評価した。なお、ピッチングの発生の判断は、ピッチングの発生時に起こる異音のモニタリングおよび摺動表面の観察によった。
【0062】
(評価結果)
図5は、実施例1〜7で得られたカムの耐スカッフィング性と耐ピッチング性を、比較例1の限界面圧との比較において評価した結果を示すグラフである。なお、図中には、すべり接触する第一のカムに要求される耐スカッフィング性と耐ピッチング性の基準、および転がり接触する第二のカムに要求される耐スカッフィング性と耐ピッチング性の基準をそれぞれ示した。
【0063】
実施例1〜3の焼結合金製のカムおよび実施例7の鋼製のカムは、耐スカッフィング性と耐ピッチング性に関し、転がり接触する第二のカムに要求される基準を何れも超えていた。特に、耐ピッチング性においては、比較例1に示す従来のカムよりも著しく優れていた。
【0064】
実施例4〜6の焼結合金製のカムは、耐スカッフィング性と耐ピッチング性に関し、すべり接触する第一のカムに要求される基準を何れも超えていた。特に、耐スカッフィング性が付与されているので、実施例1〜3のカムに比べて耐スカッフィング性が著しく向上した。一方、水蒸気処理されたことによって、実施例1〜3のカムに比べてやや耐ピッチング性が低下しているものの、第一のカムに要求される基準を超える優れた耐ピッチング性を示していた。また、比較材1に比べ、耐スカッフィング性と耐ピッチング性の何れも良好な結果を示した。
【0065】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、相手部材との接触態様に応じた特性となるように各々のカムが形成されているので、その耐久性と信頼性をより一層向上させることができる。
【0066】
請求項2の発明によれば、形成された水蒸気処理膜により、すべり接触する際の相手部材との凝着が抑制され、優れた耐スカッフィング性を発揮するので、カムシャフトの耐久性と信頼性をさらに向上させるとができる。
【0067】
請求項3の発明によれば、拡散接合法または圧入嵌合法によってカムに接合した場合であっても、従来のようなカム軸に装着する際の困難性がないので、強固に接合することができ、カムシャフトを備える内燃機関の運転時に、カムのずれや割れが起こることがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のカムシャフトの全体図の一例である。
【図2】本発明のカムシャフトが備えるカムが相手部材に接触する態様を示す斜視図である。
【図3】本発明で使用される焼結合金の組織写真である。
【図4】第一のカムに施された水蒸気処理膜の断面図である。
【図5】実施例1〜7で得られたカムの耐スカッフィング性と耐ピッチング性を、比較例1の限界面圧との比較において評価した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 カムシャフト
2 カム軸
3 第一のカム
4 第二のカム
5 スリッパフォロワ
6 ローラフォロワ
7 炭化物
8 基地
9 水蒸気処理膜
Claims (1)
- 相手部材との接触形態が異なる複数のカムを備え、対応する相手部材にすべり接触する第一のカムと転がり接触する第二のカムを拡散接合法によりカム軸に接合したカムシャフトにおいて、
前記第一のカムは、C(炭素):1.0〜3.5質量%、Cr(クロム):3.0〜30.0質量%、Mo(モリブデン):0.5〜3.0質量%、Ni(ニッケル):0〜3.0質量%、Si(珪素):0.2〜1.5質量%、Mn(マンガン):1.0質量%以下、P(リン):0.3〜0.8質量%、残部:Fe(鉄)および不可避不純物を有する耐ピッチング性焼結合金の表面に、水蒸気処理膜が形成され、
前記第二のカムは、前記耐ピッチング性焼結合金で形成されることを特徴とするカムシャフト。
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