JP3775546B2 - 熱可塑性重合体組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融接着性および透明性に優れる熱可塑性重合体組成物、並びに該熱可塑性重合体組成物の層と他の材料からなる層を有する積層構造体およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、透明性、柔軟性、弾性、力学的特性、耐油性および成形加工性に優れ、しかも各種の材料に共通して強固に溶融接着して、該熱可塑性重合体組成物の層と該材料からなる層を有する種々の積層構造体や複合体を溶融接着によって簡単に且つ円滑に製造することのできる熱可塑性重合体組成物、並びに該熱可塑性重合体組成物の層と他の材料の層を有する積層構造体およびその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
スチレン系重合体ブロックとジエン系重合体ブロックを有するブロック共重合体(以下「スチレン・ジエンブロック共重合体」ということがある)およびその水素添加物は、常温でゴム弾性を有し且つ加熱により可塑化・溶融して成形加工を容易に行うことができ、しかも柔軟性と力学的特性のバランスに優れていることから、いわゆる熱可塑性弾性体(熱可塑性エラストマー)の1種として近年種々の分野で広く用いられている。
【0003】
その代表的な用途の1つとしては、スチレン・ジエンブロック共重合体および/またはその水素添加物の層と、プラスチックおよび/または金属の層を有する積層構造体(複合体)を挙げることができる。そして前記した積層構造体におけるプラスチック層には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネートなどの合成樹脂が用いられている。また、前記した積層構造体における金属層としては、ステンレス、鉄、アルミニウム、銅、ブリキ、トタンなどの各種金属の使用が試みられている。
【0004】
上記した積層構造体は、スチレン・ジエンブロック共重合体および/またはその水素添加物の層が柔らかで、良好な手触り、弾力性、防振性、防音性、緩衝作用(クッション作用)、破損防止機能などの特性を有し、一方上記したプラスチックおよび/または金属の層が形状保持機能、補強作用、固定機能などを有する。そのため、前記積層構造体は高付加価値製品として近年注目されており、シート、フィルム、複雑な形状を有する各種成形品などの形態にして、例えば、自動車や車両用のインストルメントパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラー、アシストグリップなどの各種部材、ドア、窓枠材などの建築用資材、電気製品の各種スイッチやツマミ、医療用ギプス等々の各種製品への使用が試みられている。
【0005】
しかしながら、スチレン・ジエンブロック共重合体およびその水素添加物は、極性の低い材料であり、そのために極性の低い同種のプラスチック等との溶融接着や溶融一体成形は可能であるが、極性の高いプラスチックや金属との溶融接着が困難である。そのため、極性の高い材料と積層して複合化する場合は、凹凸などの係止部(嵌合部)をスチレン・ジエンブロック共重合体やその水素添加物からなる部材(層)およびプラスチックや金属からなる部材(層)に設けて、両者を係合(嵌合)させて結合する方法や別の結合手段を用いるなどの機械的接合方法、或いは接着剤を用いる接合方法が採用されている。
しかし、凹凸などの係合部を設ける方法は、各々の部材を形成するための金型の構造が複雑になるため、金型の製作に時間や手間がかかったりコストの上昇を招き、しかも両方の部材を係合(嵌合)するという繁雑な作業が必要である。
また、接着剤を用いる方法は、両方の部材を製造時や製造してから接着剤を用いて両者を接着させるという点で工程が複雑になる。しかも、使用される接着剤が必ずしも両方の材料に対して高い接着力を有するとは限らず、そのために接着不良、接着強度の持続性、耐水性などの点で問題がある。その上、接着剤に用いられる有機溶剤による作業環境や地球環境の悪化の問題がある。
【0006】
そこで、スチレン・ジエンブロック共重合体やその水素添加物などの熱可塑性弾性体の熱融着性を向上させるための技術が従来から色々提案されており、そのような従来技術として、スチレン・ジエンブロック共重合体またはその水素添加物に熱可塑性ポリウレタンエラストマーを配合した熱融着性組成物が知られている(特開平6−167898号公報、特開平8−72204号公報)。しかしながら、この熱融着性組成物を用いる場合は、それと積層する材料の種類などによっては充分な接着強度が得られない場合があったり、接着強度の持続性が無いなどの問題がある。しかも、この熱融着性組成物では、スチレン・ジエンブロック共重合体またはその水素添加物と熱可塑性ポリウレタンエラストマーとの相溶性(溶融分散性)が十分に良好であるとは言えず、そのために良好な機械的特性を示さず、例えば複層射出成形などにより得られる積層成形品では層間剥離や接着力のバラツキなどの問題を生じ易い。
【0007】
さらに、スチレン・ジエンブロック共重合体やその水素添加物などの熱可塑性弾性体を含有する熱可塑性重合体組成物では、それを用いて得られる成形品や積層体などの色調、外観などを良好なものとするために、透明性に優れていることが求められる場合が多いが、スチレン・ジエンブロック共重合体やその水素添加物などの熱可塑性弾性体を主体とする従来の熱可塑性重合体組成物では透明度の低いものが多く、透明性に優れた熱可塑性重合体組成物を得たいとする要望を十分に満し得ていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、スチレン・ジエンブロック共重合体またはその水素添加物などのような、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックを有するブロック共重合体および/またはその水素添加物に基づく熱可塑性重合体組成物であって、該ブロック共重合体が本来有する良好な弾力性、柔軟性、力学的特性、耐油性、成形加工性などの諸特性を損なうことなく、種々の材料に対して強固に且つ容易に溶融接着することができ、しかも透明性に優れる熱可塑性重合体組成物を提供することである。
そして、本発明の目的は、上記した熱可塑性重合体組成物の層と他の材料の層とが溶融接着した積層構造体(複合体)およびその製造方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らは種々検討を重ねてきた。その結果、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックと共役ジエン化合物系重合体ブロックを有するブロック共重合体および/またはその水素添加物、芳香族ビニル化合物系重合体ブロックと共役ジエン化合物系重合体ブロックを有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる付加重合系ブロックとポリウレタンエラストマーブロックを有するポリウレタン系ブロック共重合体、ポリウレタンエラストマー、並びにパラフィン系オイルを含有する熱可塑性重合体組成物が、弾力性、柔軟性、力学的特性、耐油性、成形加工性などの諸特性に優れ、しかも種々の材料に対して強固に且つ容易に溶融接着することを見出して先に出願した(特願平10−80315号)。そして、本発明者らが、この出願発明に基づいてさらに研究を続けたところ、(i)芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック1個と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック1個とが結合したジブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種のジブロック共重合体;(ii)共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック1個の両側に芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックがそれぞれ1個ずつ結合したトリブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種のトリブロック共重合体;(iii)芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックを有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる付加重合系ブロックとポリウレタンエラストマーブロックを有するポリウレタン系ブロック共重合体から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体;(iv)ポリウレタンエラストマー;並びに(v)パラフィン系オイルを含有する熱可塑性重合体組成物が、上記した優れた弾力性、柔軟性、力学的特性、耐油性、成形加工性、種々の材料に対する良好な溶融接着性という諸特性に加えて、さらに透明性にも優れていることを見出して本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、(i) 下記の一般式(i);
【0011】
【化3】
A1−B1 (i)
(式中、A1は芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックを示し、B1は共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックを示す。)
で表されるジブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種のジブロック共重合体(I);
(ii) 下記の一般式(ii);
【0012】
【化4】
A2−B2−A3 (ii)
(式中、A2およびA3はそれぞれ独立して芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックを示し、B2は共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックを示す。)
で表されるトリブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種のトリブロック共重合体(II);
(iii) 芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A4)と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B3)を有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる付加重合系ブロック(C)と、ポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するポリウレタン系ブロック共重合体(III);(iv) ポリウレタンエラストマー(IV);並びに、
(v) パラフィン系オイル(V);
を含有することを特徴とする熱可塑性重合体組成物である。
【0013】
そして、本発明は、上記した熱可塑性重合体組成物からなる層と、他の材料からなる層を有することを特徴とする積層構造体である。
そして、本発明は、熱可塑性重合体組成物を他の材料に対して溶融積層成形して上記の積層構造体を製造する方法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の熱可塑性重合体組成物は、上記したジブロック共重合体(I)、トリブロック共重合体(II)、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)、ポリウレタンエラストマー(IV)およびパラフィン系オイル(V)の5つの成分を含有していることが必要である。例えば、ジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)のいずれか一方が欠けると、透明性に優れる熱可塑性重合体組成物が得られなくなり、またポリウレタン系ブロック共重合体(III)、ポリウレタンエラストマー(IV)およびパラフィン系オイル(V)のうちの1つまたは2つ以上が欠けると、外観、力学的特性および/または溶融接着性において劣ったものとなる。
【0015】
本発明の熱可塑性重合体組成物で用いる上記の一般式(i)で表されるジブロック共重合体(I)は、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックであるA1[以下「芳香族ビニル重合体ブロック(A1)」という]と、共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックであるB1[以下「共役ジエン重合体ブロック(B1)」という]が1個ずつ結合したジブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種からなっている。
また、本発明の熱可塑性重合体組成物で用いる上記の一般式(ii)で表されるトリブロック共重合体(II)は、共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックであるB2[以下「共役ジエン重合体ブロック(B2)」という]の両側に、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックであるA2とA3[以下「芳香族ビニル重合体ブロック(A2)」および「芳香族ビニル重合体ブロック(A3)」という]がそれぞれ結合したトリブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種からなっている。
さらに、本発明で用いるポリウレタン系ブロック共重合体(III)は、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A4)[以下「芳香族ビニル重合体ブロック(A4)」という]と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B3)[以下「共役ジエン重合体ブロック(B3)」という]を有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる付加重合系ブロック(C)と、ポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するポリウレタン系ブロック共重合体である。
【0016】
ジブロック共重合体(I)における芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、トリブロック共重合体(II)における芳香族ビニル重合体ブロック(A2)と芳香族ビニル重合体ブロック(A3)、およびポリウレタン系ブロック共重合体(III)の付加重合系ブロック(C)における芳香族ビニル重合体ブロック(A4)を構成する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、インデン、アセトナフチレンなどのビニル芳香族化合物を挙げることができる。芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)、(A3)および(A4)は、前記した芳香族ビニル化合物の1種のみからなる構造単位を有していても、または2種以上からなる構造単位を有していてもよい。そのうちでも、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)、(A3)および(A4)はスチレンに由来する構造単位から主としてなっていることが好ましい。
【0017】
芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)、(A3)および(A4)は、芳香族ビニル化合物からなる構造単位と共に必要に応じて他の共重合性単量体からなる構造単位を少量有していてもよく、その場合の他の共重合性単量体からなる構造単位の割合は、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)、(A3)または(A4)の重量に基づいて30重量%以下であることが好ましく、10重量%以下であることがより好ましい。
その場合の他の共重合性単量体としては、例えば1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、ブタジエン、イソプレン、メチルビニルエーテルなどのイオン重合性単量体を挙げることができる。
【0018】
また、ジブロック共重合体(I)における共役ジエン重合体ブロック(B1)、トリブロック共重合体(II)における共役ジエン重合体ブロック(B2)、およびポリウレタン系ブロック共重合体(III)の付加重合系ブロック(C)における共役ジエン重合体ブロック(B3)を構成する共役ジエン化合物としては、イソプレン、ブタジエン、ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどを挙げることができる。共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)は、これらの共役ジエン化合物の1種から構成されていてもまたは2種以上から構成されていてもよい。共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および/または(B3)が2種以上の共役ジエン化合物に由来する構造単位を有している場合は、それらの結合形態はランダム、テーパー、一部ブロック状、またはそれらの2種以上の組み合わせからなっていることができる。
【0019】
そのうちでも、共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および/または(B3)は、ゴム物性の改善効果の点から、イソプレン単位を主体とするモノマー単位からなるポリイソプレンブロックまたはその不飽和結合の一部または全部が水素添加された水添ポリイソプレンブロック;ブタジエン単位を主体とするモノマー単位からなるポリブタジエンブロックまたはその不飽和結合の一部または全部が水素添加された水添ポリブタジエンブロック;或いはイソプレン単位とブタジエン単位を主体とするモノマー単位からなるイソプレン/ブタジエン共重合ブロックまたはその不飽和結合の一部または全部が水素添加された水添イソプレン/ブタジエン共重合ブロックであることが好ましい。特に、共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および/または(B3)は、前記したポリイソプレンブロック、イソプレン/ブタジエン共重合ブロックまたはそれらの水素添加されたブロックであることがより好ましい。
【0020】
共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)及び/又は(B3)の構成ブロックとなり得る上記したポリイソプレンブロックでは、その水素添加前には、イソプレンに由来する単位は、2−メチル−2−ブテン−1,4−ジイル基[−CH2−C(CH3)=CH−CH2−;1,4−結合のイソプレン単位]、イソプロペニルエチレン基[−CH(C(CH3)=CH2)−CH2−;3,4−結合のイソプレン単位]および1−メチル−1−ビニルエチレン基[−C(CH3)(CH=CH2)−CH2−;1,2−結合のイソプレン単位]からなる群から選ばれる少なくとも1種の基からなっており、各単位の割合は特に限定されない。
【0021】
共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および/または(B3)の構成ブロックとなり得る上記したポリブタジエンブロックでは、その水素添加前には、そのブタジエン単位の70〜20モル%、特に65〜40モル%が2−ブテン−1,4−ジイル基[−CH2−CH=CH−CH2−;1,4−結合ブタジエン単位]であり、30〜80モル%、特に35〜60モル%がビニルエチレン基[−CH(CH=CH 2 )−CH2−;1,2−結合ブタジエン単位]であることが好ましい。ポリブタジエンブロックにおける1,4−結合量が上記した70〜20モル%の範囲から外れると、そのゴム物性が不良になることがある。
【0022】
共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および/または(B3)の構成ブロックとなり得る上記したイソプレン/ブタジエン共重合ブロックでは、その水素添加前には、イソプレンに由来する単位は2−メチル−2−ブテン−1,4−ジイル基、イソプロペニルエチレン基および1−メチル−1−ビニルエチレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基からなっており、またブタジエンに由来する単位は2−ブテン−1,4−ジイル基および/またはビニルエチレン基からなっており、各単位の割合は特に制限されない。イソプレン/ブタジエン共重合ブロックでは、イソプレン単位とブタジエン単位の配置は、ランダム状、ブロック状、テーパーブロック状のいずれの形態になっていてもよい。そして、イソプレン/ブタジエン共重合ブロックでは、ゴム物性の改善効果の点から、イソプレン単位:ブタジエン単位のモル比が1:9〜9:1であることが好ましく、3:7〜7:3であることがより好ましい。
【0023】
ジブロック共重合体(I)、トリブロック共重合体(II)およびポリウレタン系ブロック共重合体(III)は、熱可塑性重合体組成物の耐熱性および耐候性が良好なものとなる点から、その共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)における不飽和二重結合の一部または全部が水素添加(以下「水添」ということがある)されていることが好ましい。その際の共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)の水添率は50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。
【0024】
また、トリブロック共重合体(II)では、芳香族ビニル重合体ブロック(A2)と芳香族ビニル重合体ブロック(A3)は互いに同じ内容の重合体ブロックであってもまたは異なる内容の重合体ブロックであってもよい。
【0025】
ジブロック共重合体(I)、トリブロック共重合体(II)およびポリウレタン系ブロック共重合体(III)の付加重合系ブロック(C)では、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)、(A3)および(A4)の分子量並びに共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)の分子量は特に制限されないが、水素添加前の状態で、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)、(A3)および(A4)の数平均分子量が2,500〜75,000の範囲内にあり、共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)の数平均分子量が10,000〜150,000の範囲内にあることが、熱可塑性重合体組成物のゴム物性等が優れたものとなる点から好ましい。
また、ジブロック共重合体(I)の全体の数平均分子量が水添前の状態で12,500〜225,000の範囲内にあり、トリブロック共重合体(II)の全体の数平均分子量が水添前の状態で15,000〜300,000の範囲内にあり、そしてポリウレタン系ブロック共重合体(III)における付加重合系ブロック(C)の数平均分子量が水添前の状態で15,000〜300,000の範囲内にあることが、熱可塑性重合体組成物の力学的特性、成形加工性などの点から好ましい。
なお、本明細書でいう数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン検量線から求めた値をいう。
【0026】
本発明の熱可塑性重合体組成物で用いるジブロック共重合体(I)およびトリブロック共重合体(II)は、場合により分子末端に水酸基などの官能基を有していてもよい。
【0027】
また、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)におけるポリウレタンエラストマーブロック(D)は、ポリウレタンエラストマーよりなるブロックであればいずれでもよいが、後述するポリウレタンエラストマー(IV)と同種又は近似したポリウレタンエラストマーより形成されているのが、熱可塑性重合体組成物における重合体同士の相容性が良好になり、熱可塑性重合体組成物およびそれから得られる成形品や積層構造体の力学的特性が優れたものとなる点から好ましい。
【0028】
そして、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)におけるポリウレタンエラストマーブロック(D)は、熱可塑性重合体組成物のゴム物性がより良好なものとなる点から、その数平均分子量が200〜150,000の範囲内にあることが好ましく、500〜50,000の範囲内にあることがより好ましい。
【0029】
ポリウレタン系ブロック共重合体(III)は、1個の付加重合系ブロック(C)と1個のポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するジブロック共重合体であっても、または付加重合系ブロック(C)とポリウレタンエラストマーブロック(D)が合計で3個または4個以上結合したポリブロック共重合体であってもよいが、得られる熱可塑性重合体組成物の相容性、力学物性および成形性の点から、1個の付加重合系ブロック(C)と1個のポリウレタンエラストマーブロック(D)が結合したジブロック共重合体であることが好ましい。
【0030】
ジブロック共重合体(I)、トリブロック共重合体(II)およびポリウレタン系ブロック共重合体(III)の製造法は特に制限されず、上記した構造を有するそれぞれのブロック共重合体を製造し得る方法であればいずれの方法で製造してもよく、また既に市販されているものを用いてもよい。
【0031】
何ら限定されるものではないが、ジブロック共重合体(I)およびトリブロック共重合体(II)は、例えば、アニオン重合やカチオン重合などのイオン重合法、シングルサイト重合法、ラジカル重合法などにより製造することができる。
アニオン重合法による場合は、例えば、アルキルリチウム化合物などを重合開始剤として用いて、n−ヘキサンやシクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中で、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を逐次重合させ、所望の分子構造および分子量を有するジブロック共重合体またはトリブロック共重合体を製造した後、アルコール類、カルボン酸類、水などの活性水素化合物を添加して重合を停止させることにより製造することができる。
そして、前記により製造されるジブロック共重合体またはトリブロック共重合体を好ましくは公知の方法にしたがって不活性有機溶媒中で水添触媒の存在下に水添して、水添されたジブロック共重合体(I)またはトリブロック共重合体(II)を得ることができる。
【0032】
また、水酸基などの官能基で末端を変性したジブロック共重合体(I)またはトリブロック共重合体(II)は、例えば、次のようなアニオン重合法により製造することができる。すなわち、アルキルリチウム化合物などを開始剤として、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中で、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を逐次重合させ、所望の分子構造および分子量に達した時点で、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイドなどのオキシラン骨格を有する化合物、またはε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン(ピバロラクトン)などのラクトン系化合物などを付加させ、次いでアルコール類、カルボン酸類、水などの活性水素含有化合物を添加して重合を停止することにより製造することができる。そして、それにより得られるブロック共重合体を好ましくは、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中でアルキルアルミニウム化合物とコバルト、ニッケルなどからなるチーグラー触媒等の水添触媒の存在下に、反応温度20〜150℃、水素圧力1〜150kg/cm 2 の条件下で水素添加することによって、水添された末端変性ジブロック共重合体(II)またはトリブロック共重合体(II)を得ることができる。
【0033】
さらに、何ら限定されるものではないが、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)は、例えば、ポリウレタンエラストマーと、芳香族ビニル重合体ブロック(A4)と共役ジエン重合体ブロック(B3)を有し且つ末端に官能基、好ましくは水酸基を有する付加重合系ブロック共重合体および/またはその水素添加物を溶融条件下に混練して反応させ、それにより得られるポリウレタン系反応生成物から、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)を抽出・回収することにより得ることができる。
その際に、ポリウレタンエラストマーと、末端に官能基を有する付加重合系ブロック共重合体および/またはその水素添加物との溶融混練は、単軸押出機、2軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて行うことができる。溶融混練条件は、使用するポリウレタンエラストマーや付加重合系ブロック共重合体および/またはその水素添加物の種類、装置の種類などに応じて選択することができるが、一般に180〜250℃の温度で1〜15分間程度行うとよい。
【0034】
また、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)は、上記した方法以外にも、例えば、押出機中などで高分子ジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応させてポリウレタンエラストマーを製造する際の反応の最初にまたは反応の途中に、その反応系に芳香族ビニル重合体ブロック(A4)と共役ジエン重合体ブロック(B3)を有し且つ末端に官能基(好ましくは水酸基)を有する付加重合系ブロック共重合体および/またはその水素添加物を添加することによってポリウレタン系ブロック共重合体(III)を含有するポリウレタン系反応生成物を形成させ、そのポリウレタン系反応生成物からポリウレタン系ブロック共重合体(III)を抽出・回収することによっても得ることができる。
【0035】
上記において、ポリウレタン系反応生成物からのポリウレタン系ブロック共重合体(III)の抽出・回収は、例えば、ポリウレタン系反応生成物を必要に応じて適当な大きさに粉砕し、それをジメチルホルムアミドなどのポリウレタンの良溶媒で処理して未反応のポリウレタンエラストマーを抽出・除去し、次いでシクロヘキサンなどの付加重合系ブロック共重合体および/またはその水素添加物の良好溶媒で処理して未反応の付加重合系ブロック共重合体および/またはその水素添加物を抽出除去し、残った固形物を乾燥することにより行うことができる。
【0036】
また、ポリウレタンエラストマーと、官能基を有する付加重合系ブロック共重合体および/またはその水素添加物との反応により得られる上記したポリウレタン系反応生成物は、ポリウレタンエラストマー、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)、および付加重合系ブロック共重合体の3者から主としてなる混合物である。このポリウレタン系反応生成物中に含まれる前記付加重合系ブロック共重合体は、芳香族ビニル重合体ブロック(A3)と共役ジエン重合体ブロック(B3)を有する付加重合系ブロック共重合体またはその水素添加物であり、また場合によりその分子末端に未反応の水酸基を有している。
そして、ポリウレタン系反応生成物中に含まれる前記付加重合系ブロック共重合体が、1個の芳香族ビニル重合体ブロックと1個の共役ジエン重合体ブロックが結合したジブロック共重合体であるかまたはその水素添加物である場合、或いは1個の共役ジエン重合体ブロックの両側に芳香族ビニル重合体ブロックがそれぞれ結合したトリブロック共重合体であるかまたはその水素添加物である場合は、それらのジブロック共重合体およびトリブロック共重合体は、本発明の熱可塑性重合体組成物で用いるジブロック共重合体(I)およびトリブロック共重合体(II)にそれぞれ相当する。
【0037】
そのため、上記で得られるポリウレタン系反応生成物が、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)およびポリウレタンエラストマー(IV)と共に、ジブロック共重合体(I)またはトリブロック共重合体(II)を含有するものである場合は、ポリウレタン系反応生成物中に含まれるポリウレタン系ブロック共重合体(III)の量、未反応のポリウレタンエラストマーの量、およびジブロック共重合体(I)またはトリブロック共重合体(II)の量を算出し、熱可塑性重合体組成物中における各成分の含有量が好ましい範囲になるように調節しながら、このポリウレタン系反応生成物をそのままで[すなわちポリウレタン系反応生成物からポリウレタン系ブロック共重合体(III)を回収せずに反応生成物の形態のままで]、本発明の熱可塑性重合体組成物の製造に使用してもよい。
【0038】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物で用いるポリウレタンエラストマー(IV)は、高分子ジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の反応により得られるポリウレタンである。
ポリウレタンエラストマー(IV)の形成に用いられる高分子ジオールは、その数平均分子量が1,000〜6,000であることが、ポリウレタンエラストマー(IV)を含有する本発明の熱可塑性重合体組成物の力学的特性、耐熱性、耐寒性、弾性回復性などが良好になる点から好ましい。ここで、本明細書でいう高分子ジオールの数平均分子量は、JIS K1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0039】
ポリウレタンエラストマー(IV)の製造に用い得る高分子ジオールの例としては、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリカーボネートジオールなどを挙げることができ、ポリウレタンエラストマー(IV)はこれらの高分子ジオールの1種または2種以上を用いて形成されていることができる。
【0040】
ポリウレタンエラストマー(IV)の製造に用い得る上記ポリエステルジオールとしては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸成分と低分子ジオールとの反応により得られるポリエステルジオール、ラクトンの開環重合により得られるポリエステルジオールなどを挙げることができる。
より具体的には、前記ポリエステルジオールとしては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの炭素数6〜10の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸などの芳香族ジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体の1種または2種以上と、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどの脂肪族ジオールの炭素数2〜10の脂肪族ジオールの1種または2種以上とを重縮合反応させて得られるポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオールを挙げることができる。
【0041】
ポリウレタンエラストマー(IV)の製造に用い得る上記ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを挙げることができる。
また、ポリウレタンエラストマー(IV)の製造に用い得る上記ポリカーボネートジオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオールなどの脂肪族ジオールの1種または2種以上と、炭酸ジフェニル、炭酸アルキルなどの炭酸エステルまたはホスゲンとを反応させて得られるポリカーボネートジオールを挙げることができる。
【0042】
また、ポリウレタンエラストマー(IV)の製造に用いられる有機ジイソシアネートの種類は特に限定されないが、分子量500以下の芳香族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートおよび脂肪族ジイソシアネートの1種または2種以上が好ましく用いられる。そのような有機ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、水素化4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどを挙げることができ、これらの有機ジイソシアネートのうちでも4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0043】
また、ポリウレタンエラストマー(IV)の製造に用い得る鎖伸長剤としては、ポリウレタンエラストマーの製造に従来から用いられている鎖伸長剤のいずれもが使用でき、その種類は特に限定されない。そのうちでも、鎖伸長剤としては、脂肪族ジオール、脂環式ジオールおよび芳香族ジオールのうちの1種または2種以上が好ましく用いられる。好ましく用いられる鎖伸長剤の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9−ノナンジオール、シクロヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどのジオールを挙げることができる。前記したうちでも、炭素数2〜6の脂肪族ジオールが鎖伸長剤としてより好ましく用いられ、1,4−ブタンジオールが更に好ましく用いられる。
【0044】
本発明の熱可塑性重合体組成物では、ポリウレタンエラストマー(IV)として、高分子ジオール、鎖伸長剤および有機ジイソシアネートを、高分子ジオール:鎖伸長剤=1:0.2〜8.0(モル比)の範囲であり且つ[高分子ジオールと鎖伸長剤の合計モル数]:[有機ジイソシアネートのモル数]=1:0.98〜1.04の範囲であるようにして反応させて得られるポリウレタンエラストマーが好ましく用いられる。そのようなポリウレタンエラストマー(IV)を含有する本発明の熱可塑性重合体組成物は、押出成形、射出成形などの溶融成形時に溶融粘度の急激な上昇がなく、目的とする成形品や積層構造体などの製品を円滑に製造することができ、しかもそれにより得られる製品の耐熱性が良好なものとなる。
【0045】
また、ポリウレタンエラストマー(IV)は、硬度(JIS A硬度;25℃で測定)が55〜90であることが、熱可塑性重合体組成物から得られる成形品や積層構造体などの製品の力学的特性が良好になり且つ適度な硬さを有するようになる点から好ましい。ポリウレタンエラストマー(IV)の硬度が55未満であると、熱可塑性重合体組成物から得られる成形品や積層構造体などの製品の力学的特性が低いものとなり易く、一方ポリウレタンエラストマー(IV)の硬度が90を超えると熱可塑性重合体組成物から得られる成形品や積層構造体などの製品の柔軟性が低いものとなり易い。
【0046】
本発明の熱可塑性重合体組成物において、ポリウレタンエラストマー(IV)として、数平均分子量が2000以上のポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオールをソフトセグメントとするポリウレタンを用いると、すなわちアジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールとの重縮合により得られる数平均分子量が2000以上のポリエステルジオールと、上記した有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタンエラストマーを用いると、柔軟性、弾性、力学的特性、耐油性、成形加工性、溶融接着性という上記した特性に優れ、特に耐圧縮永久歪み性および成形性に一層優れる熱可塑性重合体組成物を得ることができる。
【0047】
ポリウレタンエラストマー(IV)の製造方法は特に限定されず、上記した高分子ジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を使用して、公知のウレタン化反応を利用して、プレポリマー法、ワンショット法のいずれで製造してもよい。そのうちでも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いて連続溶融重合により製造することが好ましい。
【0048】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物では、パラフィン系オイル(V)として、40℃での動粘度が20〜800センチストークス(cst)、流動度が0〜−40℃および引火点が200〜400℃のパラフィン系オイルが好ましく用いられ、40℃での動粘度が50〜600cst、流動度が0〜−30℃および引火点が250〜350℃のパラフィン系オイルがより好ましく用いられる。
【0049】
一般に、プロセスオイルなどとして用いられるオイルは、ベンゼン環やナフテン環などの芳香族環を有する成分、パラフィン成分(鎖状炭化水素)などが混合したものであり、パラフィン鎖を構成する炭素数が、オイルの全炭素数の50重量%以上を占めるものを「パラフィンオイル」と称している。
本発明の熱可塑性重合体組成物で用いるパラフィン系オイル(V)としては、パラフィンオイルと称されているものであればいずれも使用可能であるが、芳香族環を有する成分の含有量が5重量%以下のものが好ましく用いられる。
【0050】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、上記したジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)の合計100重量部に対して、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)を5〜100重量部、ポリウレタンエラストマー(IV)を10〜250重量部、およびパラフィン系オイル(V)を2〜150重量部の割合で含有することが好ましく、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)を10〜80重量部、ポリウレタンエラストマー(IV)を50〜230重量部、およびパラフィン系オイル(V)を3〜100重量部の割合で含有することがより好ましい。
【0051】
ジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)の合計100重量部に対して、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)の含有量が5重量部未満であると、ジブロック共重合体(I)およびトリブロック共重合体(II)とポリウレタンエラストマー(IV)との相溶性が不十分になり、熱可塑性重合体組成物を用いて得られる成形品や積層構造体などの製品に表面荒れや層間の接着性の低下を生じ易くなる。一方、ジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)の合計100重量部に対してポリウレタン系ブロック共重合体(III)の含有量が250重量部を超えると、熱可塑性重合体組成物の溶融流動性が低下し、やはり熱可塑性重合体組成物を用いて得られる成形品や積層構造体などの製品に表面荒れや層間の接着性の低下を生じ易くなる。
【0052】
また、ジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)の合計100重量部に対するポリウレタンエラストマー(IV)の割合が10重量部未満であると、熱可塑性重合体組成物から得られる成形品や積層構造体などの圧縮永久歪みが大きくなり、他の材料との溶融接着性が低下し、成形品表面に荒れを生じ、しかも成形性が不安定になり易い。一方、ジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)の合計100重量部に対するポリウレタンエラストマー(IV)の割合が250重量部を超えると、他の材料との溶融接着性の低下、成形品表面の荒れ、成形品の硬度の上昇を生じ易い。
【0053】
また、ジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)の合計100重量部に対するパラフィン系オイル(V)の割合が2重量部未満であると、成形品表面の荒れを生じ、しかも好適な硬度の成形品を得ることが困難となり易い。一方、ジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)の合計100重量部に対するパラフィン系オイル(V)の割合が150重量部を超えると、他の材料との溶融接着性の低下、引張強度や引張破断伸びなどの力学的特性の低下、成形品表面の荒れ、成形中のスプレー切れなどの問題を生じ易い。
【0054】
そして、本発明の熱可塑性重合体組成物では、ジブロック共重合体(I):トリブロック共重合体(II)の含有割合が、90:10〜10:90の重量比であることが好ましく、80:20〜20:80の重量比であることがより好ましい。ジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)の合計重量に基づいて、ジブロック共重合体(I)の割合が10重量%未満である場合[トリブロック共重合体(II)の割合が90重量%を超える場合]、並びにジブロック共重合体(I)の割合が90重量%を超える場合[トリブロック共重合体(II)の割合が10重量%未満である場合]は、いずれも、透明性に優れる熱可塑性重合体組成物が得られにくくなる。
【0055】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、上記した成分と共に必要に応じてオレフィン系重合体、スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレングリコールなど他の熱可塑性重合体を含有していてもよい。
特に、本発明の熱可塑性重合体組成物中にオレフィン系重合体を含有させると、熱可塑性重合体組成物の加工性、機械的強度を更に向上させることができるので好ましい。オレフィン系重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン樹脂、プロピレンとエチレンや1−ブテンなどの他のα−オレフィンとのブロック共重合体やランダム共重合体などの1種または2種以上を使用することができる。本発明の熱可塑性重合体組成物へのオレフィン系重合体の配合量は、熱可塑性重合体組成物の柔軟性を損なわないようにするために、一般にジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)の合計100重量部に対して200重量部以下であることが好ましい。
【0056】
さらに、本発明の熱可塑性重合体組成物は、補強、増量、着色などの目的で、必要に応じて無機充填剤や染顔料などを含有することができる。本発明の熱可塑性重合体組成物はそれ自体では透明性に優れているため、無機充填剤や染顔料を配合した場合に、無機充填剤や染顔料が有する色調を鮮明に発現させることができ、所望の色調に着色した製品を得ることができる。その際の無機充填剤や染顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、合成珪素、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウムなどを使用できる。無機充填剤や染顔料の配合量は、熱可塑性重合体組成物の柔軟性が損なわれない範囲であることが好ましく、一般にはジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)の合計100重量部に対して100重量部以下が好ましい。
【0057】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物は、上記した成分以外に、必要に応じて滑剤、光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料などの他の成分の1種または2種以上を含有していてもよい。
【0058】
本発明の熱可塑性重合体組成物の製造法は特に限定されず、本発明の熱可塑性重合体組成物において用いられる上記した成分を均一に混合し得る方法であればいずれの方法で製造してもよく、通常溶融混練法が用いられる。溶融混練は、例えば、単軸押出機、2軸押出機、ニーダー、ローラー、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて行うことができ、通常約170〜250℃の温度で約30秒〜5分間程度溶融混練することにより、本発明の熱可塑性重合体組成物を得ることができる。
【0059】
本発明の熱可塑性重合体組成物は熱溶融性であって成形加工性に優れているので、単独で用いて各種の成形品を製造することができ、その場合には透明性、柔軟性、弾性、力学的特性、耐油性に優れる種々の成形品を得ることができる。その際の成形方法としては、熱可塑性重合体に対して一般に用いられている各種の成形方法を使用することができ、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、流延成形などの任意の成形法を採用できる。
【0060】
さらに、本発明の熱可塑性重合体組成物は溶融接着性に極めて優れていて、各種の他の材料(例えば、合成樹脂、ゴム、金属、木材、セラミック、紙、布帛など)と溶融下に強固に接着することができるので、他の材料との積層構造体(複合構造体)の製造に特に有効に使用することができ、したがって、本発明は本発明の熱可塑性重合体組成物の層および他の材料の層を有する積層構造体(複合体)を本発明の範囲に包含する。
本発明の熱可塑性重合体組成物を溶融接着させる他の材料の種類は特に制限されずいずれであってもよいが、本発明の熱可塑性重合体組成物は、特に極性を有する材料に対する溶融接着性に優れている。そのため、本発明は、熱可塑性重合体組成物と極性を有する他の材料との積層構造体をその好ましい態様として包含する。
【0061】
本発明の積層構造体に使用する極性を有する他の材料の具体例としては、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエーテル、ポリスルフォン、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、ゴム強化ポリスチレン(HIPS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体(MS樹脂)、メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体(MBS樹脂)、塩化ビニル系重合体、塩化ビニリデン系重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリフッ化ビニリデンフェノール樹脂、エポキシ樹脂などの各種の合成樹脂;イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブタジエン−スチレンゴム、ブタジエン−アクリロニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリロニトリルゴムなどの各種の合成ゴム;鉄、アルミニウム、銅などの金属やステンレス、ブリキ、トタンなどの各種合金などを挙げることができる。しかしながら、本発明の積層構造体を構成する他の材料は、勿論、前記のものに何ら限定されない。
【0062】
本発明の積層構造体では、層の数、各層の厚さ、形状、構造なども特に制限されず、積層構造体の用途などに応じて決めることができる。
何ら限定されるものではないが、本発明の積層構造体としては、例えば、熱可塑性重合体組成物の1つの層と他の材料の1つの層を有する積層構造体、他の材料を挟んでその両側に熱可塑性重合体組成物の層を有する積層構造体、2つの他の材料の層の間に熱可塑性重合体組成物の層を有する積層構造体、熱可塑性重合体組成物の層を少なくとも1層有し且つ同じか又は異なる他の材料の層を2層以上有する積層構造体などを挙げることができる。
そして、積層構造体が他の材料からなる層を2つ以上有する場合は、それぞれの層を構成する他の材料は同じであっても、または異なっていてもよい。また、積層構造体が本発明の熱可塑性重合体組成物よりなる層を2つ以上有する場合は、それぞれの層を構成する熱可塑性重合体組成物は同じであっても、または異なっていてもよい。
【0063】
本発明の熱可塑性重合体組成物からなる層と他の材料からなる層を有する本発明の積層構造体の製法は特に制限されず、溶融接着により積層構造体を製造する方法であればいずれの方法を採用して行ってもよい。そのうちでも、本発明の積層構造体の製造に当たっては、例えばインサート射出成形法、二色射出成形法、コアバック射出成形法、サンドイッチ射出成形法、インジェクションブレス成形法などの射出成形方法;Tダイラミネート成形法、共押出成形法、押出被覆法などの押出成形法;ブロー成形法;カレンダー成形法;プレス成形法、溶融注型法などの溶融を伴う成形法を採用することができる。
【0064】
前記した成形法のうち、インサート射出成形法による場合は、予め所定の形状および寸法に形成しておいた他の材料を金型内にインサートしておき、そこに本発明の熱可塑性重合体組成物を射出成形して本発明の熱可塑性重合体組成物よりなる層と他の材料よりなる層を有する積層構造体を製造する方法が一般に採用される。この場合に、金型内にインサートしておく他の材料の形成方法は特に制限されない。インサートしておく他の材料が合成樹脂やゴム製品である場合は、例えば、射出成形、押出成形とその所定の寸法への切断、プレス成形、注型などのいずれの方法で製造したものであってもよい。また、インサートしておく他の材料が金属材料である場合は、例えば、金属製品を製造する従来汎用の方法(鋳造、圧延、切断、工作加工、研削加工など)によって所定の形状および寸法に予め形成しておけばよい。
【0065】
また、上記した二色射出成形法によって積層構造体を製造する場合は、二台以上の射出成形機を用いて、金型内に他の材料を射出成形した後に、金型の回転や移動などによって金型キャビティーを交換し、最初の射出成形によって形成した他の材料からなる成形品と第2の金型壁との間に形成された空隙部に本発明の熱可塑性重合体組成物を射出成形して積層構造体を製造する方法が一般に採用される。上記したコアバック射出成形法による場合は、1台の射出成形機と1個の金型を用いて、金型内に他の材料を最初に射出成形して成形品を形成した後、その金型のキャビティーを拡大させ、そこに本発明の熱可塑性重合体組成物を射出成形して積層構造体を製造する方法が一般に採用される。
【0066】
また、前記した射出成形方法において、材料の射出順序を逆にして、金型に最初に本発明の熱可塑性重合体組成物を射出して第1の成形品をつくり、次いで他の材料(熱可塑性樹脂など)を射出成形して積層構造体を製造してもよい。
【0067】
上記した押出成形によって本発明の熱可塑性重合体組成物の層と他の熱可塑性材料の層を有する積層構造体を製造する場合は、内側と外側、上側と下側、左側と右側とに2層以上に分割された金型(押出ダイ部など)を通して、本発明の熱可塑性重合体組成物と他の材料(熱可塑性樹脂等)を2層以上に同時に溶融押出して接合させる方法などが採用できる。また、他の材料が熱可塑性でない場合は、他の材料の上や周囲に、本発明の熱可塑性重合体組成物を溶融下に押出被覆することによって積層構造体を製造することができる。
さらに、例えば、カレンダー成形を行う場合は、溶融可塑化状態にあるかまたは固形状態にある他の材料上に、本発明の熱可塑性重合体組成物を溶融下にカレンダー加工して被覆積層させることにより目的とする積層構造体を製造することができる。また、例えば、プレス成形による場合は、他の材料の配置下に本発明の熱可塑性重合体組成物を用いて溶融プレスを行うことによって積層構造体を製造することができる。
【0068】
本発明の積層構造体の種類、形状、構造、用途などは特に制限されず、上記した本発明の熱可塑性重合体組成物からなる層と他の材料からなる層を有する積層構造体であればそのいずれもが本発明の範囲に包含される。
何ら限定されるものではないが、本発明の積層構造体は、各種工業製品や部品として使用することができる。その具体例としては、インストルメントパネル、センターパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラー、アシストグリップなどの自動車や車両用の各種内装部材;モール等の自動車外装部品;掃除機のバンパー、リモコンスイッチやツマミ、OA機器の各種キートップなどの家電部品;水中メガネ、水中カメラカバーなどの水中使用製品;各種カバー部品;密閉性、防水性、防音性、防振性を目的する各種パッキン付き工業部品;ラック&ピニオンブーツ、サスペンションブーツ、等速ジョイントブーツなどの自動車機能部品;カールコード電線被覆、ベルト、ホース、チューブ、消音ギアなどの電気・電子部品;スポーツ用品;ドア、窓枠材などの建築用資材;各種継手;バルブ部品;医療用ギプス等々の各種製品を挙げることができる。
そして、本発明の熱可塑性重合体組成物からなる層が積層構造体の少なくとも1つの表面に現れている製品においては、該熱可塑性重合体組成物が弾力性で且つ柔軟性を有することにより、接触したときの柔らかい良好な感触を示し、しかも衝撃吸収性(クッション性)を有し、耐衝撃性にも優れているので、安全面でも優れたものとなる。
また、その高い透明性を活かして、本発明の熱可塑性重合体組成物と積層する他の材料の色調を製品に発現させることができる。さらに、本発明の熱可塑性重合体組成物を着色物の形態にする場合も、上述のように鮮明な色調を発現させることができる。
【0069】
【実施例】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されない。また、下記の実施例、比較例または参考例で得られた熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて以下のようにして成形品(試験片)および積層構造体をつくり、それらの物性、すなわち成形品の透明性(ヘイズ値)、硬度、引張破断強度、引張破断伸び、100%モジュラス、引張永久伸びおよび圧縮永久歪み、並びに積層構造体の剥離強度を次のようにして測定した。
【0070】
(1)透明性(ヘイズ値)の測定:
以下の実施例、比較例または参考例で製造した熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、80トン射出成形機(日精樹脂工業株式会社製「IS−80」)を使用して、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件下に射出成形を行って平板状成形品(試験片)(寸法:縦×横×厚み=200mm×200mm×2mm)を製造した。これにより得られた平板成形品を用いて、ヘイズメーター(株式会社村上色彩技術研究所製「反射透過率計HR100」)を使用してヘイズ値を測定した。なお、透明性の試験ではヘイズ値が小さいほど透明性に優れていることを示す。
【0071】
(2)硬度の測定:
以下の実施例、比較例または参考例で製造した熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、80トン射出成形機(日精樹脂工業株式会社製「IS−80」)を使用して、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件下に射出成形を行って平板状成形品(試験片)(寸法:縦×横×厚み=200mm×200mm×2mm)を製造した。これにより得られた平板成形品を用いて、JIS−K6301に準じてA硬度を測定した。
【0072】
(3)引張破断強度、引張破断伸びおよび100%モジュラスの測定:
以下の実施例、比較例または参考例で製造した熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、80トン射出成形機(日精樹脂工業株式会社製「IS−80」)を使用して、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件下に射出成形を行って、3号ダンベル試験片を作製し、そのダンベル試験片を用いて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して、JIS−K6301に準じて、500mm/分の条件下で引張破断強度、引張破断伸びおよび100%モジュラスを測定した。
【0073】
(4)引張永久伸びの測定:
以下の実施例、比較例または参考例で製造した熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、80トン射出成形機(日精樹脂工業株式会社製「IS−80」)を使用して、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件下に射出成形を行って、3号ダンベル試験片を作製した。そのダンベル試験片を用いて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して、100mm/分の条件で伸張し、引張伸びが100%に到達した時点で伸張を止め、その状態のままで10分間保持した。その後、試験片を解放し、さらに10分間放置した後、引張永久伸びを測定した。
【0074】
(5)圧縮永久歪みの測定:
以下の実施例、比較例または参考例で製造した熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、80トン射出成形機(日精樹脂工業株式会社製「IS−80」)を使用して、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件下に射出成形を行って、直径29.0cmおよび厚さ12.7mmの直円柱状の成形品(試験片)を作製し、その試験片を用いてJIS−K6301に準じて、温度70℃、圧縮変形量25%の条件下に22時間放置した時の圧縮変形歪みを測定して、圧縮永久歪みとした。
【0075】
(6)積層構造体における剥離強度の測定:
(i)合成樹脂板との積層構造体における剥離強度:
(a) ABS樹脂(宇部サイコン株式会社「サイコラックT」)、ポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製「L−1250」)、またはポリアミド樹脂(ナイロン66、旭化成工業株式会社製「レオナ1300S」)を用い、80トン射出成形機(日精樹脂工業株式会社製「IS−80」)を使用して、平板状成形品(寸法:縦×横×厚み=200mm×200mm×1mm)をそれぞれ製造した。
(b) 上記(a)で得られた平板状成形品のそれぞれを、平板状の型キャビティ(寸法:200mm×200mm×2mm)内に予め固定配置して置き、そこに以下の実施例、比較例または参考例で製造した熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、80トン射出成形機(日精樹脂工業株式会社製「IS−80」)を使用して、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件下に射出成形を行って、樹脂板の一方の表面に熱可塑性重合体組成物の層が積層した積層構造体(寸法:縦×横×厚み=200mm×200mm×2mm)を製造した。
(c) 上記(b)で得られた積層構造体から剥離強度測定用の試験片(寸法:縦×横×厚み=150mm×25mm×2mm)を切り出し、それを用いてJIS−K6854に記載の「180度剥離試験」に準じて剥離強度を測定した。
(ii)金属板(アルミニウム板)との積層構造体における剥離強度:
合成樹脂板の代わりにアルミニウム板(寸法:200mm×200mm×0.2mm)を用いて、上記(b)と同様に行って、アルミニウム板の一方の表面に熱可塑性重合体組成物の層が積層した積層構造体(寸法:縦×横×厚み=200mm×200mm×2mm)を製造した。それにより得られた積層構造体から剥離強度測定用の試験片(寸法:縦×横×厚み=150mm×25mm×2mm)を切り出し、それを用いてJIS−K6854に記載の「180度剥離試験」に準じて剥離強度を測定した。
【0076】
また、以下の実施例、比較例および参考例で用いたジブロック共重合体(I)、トリブロック共重合体(II−1)、トリブロック共重合体(II−2)、ポリウレタンエラストマー(IV)およびパラフィン系オイル(V)の略号および内容は次のとおりである。
【0077】
[ジブロック共重合体(I)]
ポリスチレンブロック−水添ポリイソプレンブロックからなるジブロック共重合体(数平均分子量100,000、スチレン含量=50重量%、ポリイソプレンブロックにおける水添率=98%)。
【0078】
[トリブロック共重合体(II)]
・トリブロック共重合体( II −1):ポリスチレンブロック−水添ポリイソプレンブロック−ポリスチレンブロックからなるトリブロック共重合体(数平均分子量100,000、スチレン含量=30重量%、ポリイソプレンブロックにおける水添率=98%)。
・トリブロック共重合体( II −2):ポリスチレンブロック−水添ポリイソプレンブロック−ポリスチレンブロックからなるトリブロック共重合体(数平均分子量150,000、スチレン含量=30重量%、ポリイソプレンブロックにおける水添率=98%)。
【0079】
[ポリウレタンエラストマー(IV)]
・ポリウレタンエラストマー(IV−1):株式会社クラレ製「クラミロンU 8165」[ポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオールをソフトセグメントとするポリエステル系ポリウレタンエラストマー]
・ポリウレタンエラストマー(IV−2):株式会社クラレ製「クラミロンU 8765」[ポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオールをソフトセグメントとするポリエステル系ポリウレタンエラストマー]
【0080】]
[パラフィン系オイル(V)]
出光興産株式会社製「PW−380」
【0081】
《製造例1》[ポリウレタン系ブロック共重合体(III)の製造》
(1) 予備乾燥したポリウレタンエラストマー(株式会社製「クラミロンU 8165」)100重量部、および水酸基末端ポリスチレンブロック/1,3−ブタジエン・イソプレン水添共重合体ブロック/ポリスチレンブロックよりなる末端変性トリブロック共重合体(数平均分子量40,000、水添前のブロック共重合体でのスチレン含有量=30重量%、1,3−ブタジエン単位/イソプレン単位のモル比=1/1、1,3−ブタジエン単位およびイソプレン単位の不飽和度=5%、1分子当たりの水酸基含有量=0.8個)(以下これを「SEEPS−OH」ということがある)100重量部を予備混合した後、二軸押出機(プラスチック工業研究所製「BT−30」)に供給して、シリンダー温度220℃およびスクリュー回転数150rpmの条件下に溶融混練し、押し出し、切断してポリウレタン反応生成物のペレットを製造した。
(2) 上記(1)で得られたポリウレタン反応生成物のペレットからジメチルホルムアミドを用いて未反応のポリウレタンを抽出除去し、次いでシクロヘキサンを用いて未反応のSEEPS−OHを抽出除去し、残留した固形物を乾燥することによってポリウレタンブロックとSEEPS−OHから誘導されたブロックからなるジブロック共重合体であるポリウレタン系ブロック共重合体(III)を得た。
【0082】
《実施例1〜8》
(1) 上記したジブロック共重合体(I)、トリブロック共重合体(II)[トリブロック共重合体(II−1)またはトリブロック共重合体(II−2)]、上記の製造例1で製造したポリウレタン系ブロック共重合体(III)、ポリウレタンエラストマー(IV)[ポリウレタンエラストマー(IV−1)またはポリウレタンエラストマー(IV−2)]およびパラフィン系オイル(V)を、下記の表1に示す割合で予備混合した後、二軸押出機(プラスチック工業研究所製「BT−30」)に供給して、シリンダー温度220℃およびスクリュー回転数150rpmの条件下に溶融混練し、押し出し、切断して熱可塑性重合体組成物のペレットをそれぞれ製造した。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、上記した方法で成形品(試験片)および積層構造体を製造し、その透明性(ヘイズ値)、硬度、引張破断強度、引張破断伸び、100%モジュラス、引張永久伸びおよび圧縮永久歪み、並びに積層構造体の剥離強度を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0083】
《比較例1および2》
(1) 上記したトリブロック共重合体(II)[トリブロック共重合体(II−1)またはトリブロック共重合体(II−2)]、ポリウレタンエラストマー(IV−1)およびパラフィン系オイル(V)を、下記の表2に示す割合で予備混合した後、二軸押出機(プラスチック工業研究所製「BT−30」)に供給して、シリンダー温度220℃およびスクリュー回転数150rpmの条件下に溶融混練し、押し出し、切断して熱可塑性重合体組成物のペレットをそれぞれ製造した。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、上記した方法で成形品(試験片)および積層構造体を製造し、その透明性(ヘイズ値)、硬度、引張破断強度、引張破断伸び、100%モジュラス、引張永久伸びおよび圧縮永久歪み、並びに積層構造体の剥離強度を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
【0084】
《参考例1》
(1) 上記したトリブロック共重合体(II−1)、上記の製造例1で製造したポリウレタン系ブロック共重合体(III)、上記のポリウレタンエラストマー(IV−1)およびパラフィン系オイル(V)を、下記の表2に示す割合で予備混合した後、二軸押出機(プラスチック工業研究所製「BT−30」)に供給して、シリンダー温度220℃およびスクリュー回転数150rpmの条件下に溶融混練し、押し出し、切断して熱可塑性重合体組成物のペレットを製造した。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、上記した方法で成形品(試験片)および積層構造体を製造し、その透明性(ヘイズ値)、硬度、引張破断強度、引張破断伸び、100%モジュラス、引張永久伸びおよび圧縮永久歪み、並びに積層構造体の剥離強度を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
なお、この参考例1は、上述した本発明者らによる先願発明(特願平10−80315号)の一部に相当する。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
上記の表1および表2の結果から、ジブロック共重合体(I)、トリブロック共重合体(II)、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)、ポリウレタンエラストマー(IV)およびパラフィン系オイル(V)を含有する実施例1〜8の熱可塑性重合体組成物を用いると、ヘイズ値が低く、しかも硬度、引張破断強度、引張破断伸び、100%モジュラス、引張永久伸び、耐圧縮永久歪み性などの特性をバランス良く備える、透明性、外観、力学的特性、柔軟性、弾性などの各種物性に優れる高品質の成形品が円滑に得られることがわかる。
【0088】
さらに、上記の表1および表2の結果から、実施例1〜8の熱可塑性重合体組成物は、合成樹脂や金属などの種々の材料に対して共通して高い溶融接着性を有しており、例えばインサート射出成形などのような溶融成形によって、各種の材料からなる層と本発明の熱可塑性重合体組成物からなる積層構造体を接着剤などを用いることなく、簡単に且つ円滑に製造し得ること、しかもそれにより得られる積層構造体は高い剥離強度を有しており、層間剥離などを生じないことがわかる。
【0089】
一方、上記の表1および表2の結果から、ジブロック共重合体(I)およびポリウレタン系ブロック共重合体(III)を含有しておらず、トリブロック共重合体(II)、ポリウレタンエラストマー(IV)およびパラフィン系オイル(V)の3者だけを含有している比較例1および比較例2の熱可塑性重合体組成物では、それから得られる成形品のヘイズ値が高く、引張永久伸びが大きく、透明性に劣っており、且つ力学的特性の点でも十分には良好ではないこと、しかも比較例1および2の熱可塑性重合体組成物は合成樹脂および金属のいずれに対しても低い溶融接着性しか示さないことがわかる。
また、上記の表1および表2の結果は、トリブロック共重合体(II)、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)、ポリウレタンエラストマー(IV)およびパラフィン系オイル(V)を含有する参考例1の熱可塑性重合体組成物から得られる成形品は、実施例1〜8の熱可塑性重合体組成物から得られる成形品に比べてヘイズ値が高くて透明度が低いものの、その他の物性では実施例1〜8とほぼ同じであり、また合成樹脂および金属に対する溶融接着性の点でも優れていることを示している。
【0090】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、良好な弾力性、柔軟性、力学的特性、耐油性、成形加工性を有し、しかも溶融接着性に優れていて各種材料に対して共通して溶融下に強固に接着するので、本発明の熱可塑性重合体組成物の層と他の材料からなる層を有する積層構造体や複合体を溶融成形やその他の溶融接着技術によって簡単に且つ円滑に製造することができる。
そして、本発明の熱可塑性重合体組成物は弾力性、柔軟性に優れているので、本発明の熱可塑性重合体組成物からなる層を表面の少なくとも一部に有する積層構造体(複合体)は、柔軟で弾力性のある良好な感触を有し、しかもその衝撃吸収能やクッション作用によって安全面でも優れている。
さらに、本発明の熱可塑性重合体組成物は、その優れた弾力性、柔軟性、力学的特性、耐油性、良好な成形加工性などの特性を活かして、熱可塑性重合体組成物単独でも各種の成形品の製造にも有効に使用することができる。
しかも、本発明の熱可塑性重合体組成物は、ヘイズ値が低く、透明性に優れている。そのため、その高い透明性を活かして、透明性に優れる成形品や積層体を製造することができ、本発明の熱可塑性重合体組成物と積層する他の材料の色調を製品に発現させることができ、また顔料や染料などの着色剤を用いて本発明の熱可塑性重合体組成物を着色する場合は鮮明な色調を有する外観に優れる製品を得ることができる。
【0091】
本発明の熱可塑性重合体組成物からなる成形品、本発明の熱可塑性重合体組成物の層と他の材料からなる層を有する本発明の積層構造体は、上記した優れた特性を活かして、例えば、インストルメントパネル、センターパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラー、アシストグリップなどの自動車や車両用の各種内装部材;モール等の自動車外装部品;掃除機のバンパー、リモコンスイッチやツマミ、OA機器の各種キートップなどの家電部品;水中メガネ、水中カメラカバーなどの水中使用製品;各種カバー部品;密閉性、防水性、防音性、防振性を目的する各種パッキン付き工業部品;ラック&ピニオンブーツ、サスペンションブーツ、等速ジョイントブーツなどの自動車機能部品;カールコード電線被覆、ベルト、ホース、チューブ、消音ギアなどの電気・電子部品;スポーツ用品;ドア、窓枠材などの建築用資材;各種継手;バルブ部品;医療用ギプス等々の広範な用途に極めて有効に用いることができる。
Claims (6)
- (i) 下記の一般式(i);
で表されるジブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種のジブロック共重合体(I);
(ii) 下記の一般式(ii);
で表されるトリブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種のトリブロック共重合体(II);
(iii) 芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A4)と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B3)を有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる付加重合系ブロック(C)と、ポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するポリウレタン系ブロック共重合体(III);(iv) ポリウレタンエラストマー(IV);並びに、
(v) パラフィン系オイル(V);
を含有することを特徴とする熱可塑性重合体組成物。 - ジブロック共重合体(I)とトリブロック共重合体(II)の合計100重量部に対して、ポリウレタン系ブロック共重合体(III)を5〜100重量部、ポリウレタンエラストマー(IV)を10〜250重量部およびパラフィン系オイル(V)を2〜150重量部の割合で含有する請求項1の熱可塑性重合体組成物。
- ジブロック共重合体(I):トリブロック共重合体(II)の含有割合が90:10〜10:90の重量比である請求項1または2の熱可塑性重合体組成物。
- 請求項1〜3のいずれか1項の熱可塑性重合体組成物からなる層および他の材料からなる層を有することを特徴とする積層構造体。
- 他の材料が、合成樹脂および金属から選ばれる少なくとも1種である請求項4の積層構造体。
- 請求項1〜3のいずれか1項の熱可塑性重合体組成物を他の材料に対して溶融積層成形して請求項4または5の積層構造体を製造する方法。
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