JP4837244B2 - 熱可塑性重合体組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融粘度が低くて溶融流動性および成形加工性に優れ、しかも溶融接着性に優れる熱可塑性重合体組成物、並びに該熱可塑性重合体組成物の層と他の材料からなる層を有する積層構造体およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、溶融粘度が低くて流動し易く成形加工性に優れ、しかも柔軟性、弾性、力学的特性、耐油性に優れ、その上各種の材料に強固に溶融接着して、該熱可塑性重合体組成物の層と他の材料からなる層を有する種々の積層構造体や複合体を簡単に且つ円滑に製造することのできる熱可塑性重合体組成物、並びに該熱可塑性重合体組成物の層と他の材料の層を有する積層構造体およびその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、高分子重合体を用いてフィルム、シート、成形品などの製品を製造することが広く行われているが、重合体の種類や、製品の用途、使用目的などによっては、単一の重合体を用いるだけでは成形加工性に劣ったり、用途や使用目的に合致した物性が得られない場合が多い。そこで、2種以上の重合体をブレンドした重合体組成物を用いたり、積層物の形態にして、成形加工性の改良や、得られる製品の力学的特性や化学的特性等の向上などを図ることが行われている。しかしながら、異種の重合体をブレンドして重合体組成物とする場合に、相容性の良好な組み合わせは比較的少なく、相容性の悪さに起因する不均一性、相間剥離などにより、目的が達成できないことも多い。
【0003】
スチレン系重合体ブロックとジエン系重合体ブロックを有するブロック共重合体(以下「スチレン・ジエンブロック共重合体」ということがある)およびその水素添加物は、常温でゴム弾性を有し且つ加熱により可塑化・溶融して成形加工を容易に行うことができ、しかも柔軟性と力学的特性のバランスに優れていることから、いわゆる熱可塑性弾性体(熱可塑性エラストマー)の1種として近年種々の分野で広く用いられている。
【0004】
その代表的な用途の1つとしては、スチレン・ジエンブロック共重合体および/またはその水素添加物の層と、合成樹脂および/または金属の層を有する積層構造体(複合体)を挙げることができる。そして前記した積層構造体における合成樹脂層には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、メタクリル樹脂、ポリアセタールなどの合成樹脂が用いられている。また、前記した積層構造体における金属層としては、ステンレス、鉄、アルミニウム、銅、ブリキ、トタンなどの各種金属の使用が試みられている。
【0005】
上記した積層構造体は、スチレン・ジエンブロック共重合体および/またはその水素添加物の層が柔らかで、良好な手触り、弾力性、防振性、防音性、緩衝作用(クッション作用)、破損防止機能などの特性を有し、一方上記した合成樹脂や金属の層が形状保持機能、補強作用、固定機能などを有する。そのため、前記積層構造体は高付加価値製品として近年注目されており、シート、フィルム、複雑な形状を有する各種成形品などの形態にして、例えば、自動車や車両用のインストルメントパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラー、アシストグリップなどの各種部材、ドア、窓枠材などの建築用資材、電気製品の各種スイッチやツマミ、医療用ギプス等々の各種製品への使用が試みられている。
【0006】
しかしながら、スチレン・ジエンブロック共重合体およびその水素添加物は、極性の低い材料であり、そのために極性の低い同種の合成樹脂等との溶融接着や溶融一体成形は可能であるが、極性の高い合成樹脂や金属との溶融接着が困難である。そのため、極性の高い材料と積層して複合化する場合は、凹凸などの係止部(嵌合部)をスチレン・ジエンブロック共重合体やその水素添加物からなる部材(層)および合成樹脂や金属からなる部材(層)に設けて、両者を係合(嵌合)させて結合する方法や別の結合手段を用いるなどの機械的接合方法、或いは接着剤を用いる接合方法が採用されている。しかし、凹凸などの係合部を設ける方法は、各々の部材を形成するための金型の構造が複雑になるため、金型の製作に時間や手間がかかったりコストの上昇を招き、しかも両方の部材を係合(嵌合)するという繁雑な作業が必要である。また、接着剤を用いる方法は、両方の部材を製造時や製造してから接着剤を用いて両者を接着させるという点で工程が複雑になる。しかも、使用される接着剤が必ずしも両方の材料に対して高い接着力を有するとは限らず、そのために接着不良、接着強度の持続性、耐水性などの点で問題がある。その上、接着剤に用いられる有機溶剤による作業環境や地球環境の悪化の問題がある。
【0007】
一方、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマーは、耐摩耗性および耐油性に優れ、ゴム弾性を有し、溶融成形が可能なことから、ホース、ベルト、チューブをはじめとして種々の用途に用いられている。しかしながら、熱可塑性ポリエステルエラストマーおよび熱可塑性ポリアミドエラストマーは、硬度が高く柔軟性に乏しく、耐熱水性に劣り、高価格である。また、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、耐熱水性、耐候性に劣るため、その使用範囲が制限されているのが現状である。
【0008】
そこで、スチレン・ジエンブロック共重合体および/またはその水素添加物に対して特定の物性を有するエンジニアリング熱可塑性樹脂をブレンドした組成物が提案されている(特許文献1を参照)。特許文献1には、その組成物が特に導電体およびハンダ付用針金の絶縁体として適すること、および前記エンジニアリング熱可塑性樹脂の1種として熱可塑性ポリウレタンを用いることが開示されている。しかしながら、スチレン・ジエンブロック共重合体と熱可塑性ポリウレタンとは相容性に劣るため、両重合体の特性を十分に発揮させ得ず、有用な重合体組成物が得られない。
【0009】
また、熱可塑性ポリウレタンとスチレン・ジエンブロック共重合体の相容性を向上させることを目的として、熱可塑性ポリウレタンに、スチレン・ジエン共重合体またはその水添物を不飽和ジカルボン酸またはその誘導体で変性した変性重合体を配合した重合体組成物が知られている(特許文献2および3を参照)。しかしながら、この重合体組成物は、相容性の点で未だ十分であると言えず、また成形加工性の点で問題がある。しかも、溶融接着する材料の種類が限られていて、種々の材料に対して共通して溶融接着せず、また該重合体組成物から得られる成形品の表面の荒れが大きいという欠点がある。
【0010】
さらに、硬質の合成樹脂成形体部位と熱可塑性弾性体組成物製部位を有する複合成形体(積層構造体など)を得ることを目的として、硬質の合成樹脂成形体と複合させるための熱可塑性弾性体組成物として、下記の(A)〜(F)の熱可塑性弾性体組成物または重合体組成物を用いることが提案されている。
(A) (i)水添SBSブロックコポリマー、オレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、可塑化ポリ塩化ビニルなどから選ばれる熱可塑性弾性体と(ii)ポリエーテルブロックアミドからなる熱可塑性弾性体組成物(特許文献4を参照)。
(B) 前記(A)の熱可塑性弾性体組成物において、(ii)がポリエーテルブロックアミドの代りにポリエステル系熱可塑性エラストマーである熱可塑性弾性体組成物(特許文献5を参照)。
【0011】
(C) (i’)ポリスチレンブロックと水添または非水添ポリイソプレンブロックからなる付加重合系熱可塑性ブロック弾性体および(ii’)ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーおよびポリウレタン系熱可塑性エラストマーから選ばれる縮合重合系熱可塑性ブロック弾性体よりなる熱可塑性弾性体組成物(特許文献6を参照)。
(D) (ia)ポリスチレンブロックと水添または非水添ポリブタジエンブロックからなる付加重合系熱可塑性ブロック弾性体および(ib)ポリウレタン系熱可塑性ブロック弾性体からなる熱可塑性弾性体組成物(特許文献7を参照)。
【0012】
(E) イソプレンとブタジエンの混合物よりなるジエン系重合体ブロックとポリスチレンブロックからなる水添ブロック共重合体、パラフィン系オイルおよびポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーから選ばれる熱可塑性エラストマーとからなる重合体組成物(特許文献8を参照)。
(F) イソプレン単独またはイソプレンとブタジエンの混合物よりなり、特定のイソプレン結合単位を特定量以上有するジエン系重合体ブロックとポリスチレンブロックからなる水添または非水添のブロック共重合体、およびポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーから選ばれる熱可塑性エラストマーとからなる重合体組成物(特許文献9を参照)。
【0013】
しかしながら、上記(A)〜(F)の熱可塑性弾性体組成物または重合体組成物は、それと複合する硬質の合成樹脂の種類などによっては充分な接着強度が得られない場合があったり、接着強度の持続性が無いなどの問題がある。しかも、上記(A)〜(F)の熱可塑性弾性体組成物または重合体組成物では、水添SBSブロックコポリマーなどの熱可塑性弾性体とポリエーテルブロックアミドまたはポリエステル系熱可塑性エラストマーとの相容性(溶融分散性)、或いはスチレン・ジエンブロック共重合体またはその水素添加物と熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマーまたは熱可塑性ポリアミドエラストマーとの相容性(溶融分散性)が十分に良好であるとは言えず、そのために良好な機械的特性を示さず、例えば複層射出成形などにより得られる積層成形品では層間剥離や接着力のバラツキなどの問題を生じ易い。
【0014】
さらに、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックを有するブロック共重合体および/またはその水素添加物からなる付加重合系ブロック共重合体および熱可塑性ポリウレタンエラストマーからなる熱可塑性重合体組成物に、更に芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックを有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる重合体ブロックと熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロックを有するポリウレタン系ブロック共重合体およびパラフィン系オイルを特定の量で配合した熱可塑性重合体組成物が知られている(特許文献10および11を参照)。特許文献10および11に記載されている熱可塑性重合体組成物は、良好な弾力性、柔軟性、力学特性、耐油性、成形加工性を有し、しかも溶融接着性に優れていて各種の材料に強固に接着するという優れた特性を有する。本発明者らが、特許文献10および11に記載されている熱可塑性重合体組成物に基づいて更に検討を重ねたところ、溶融時の粘度をより低下させて成形加工性を一層向上させること、さらに各種材料との溶融接着性をより向上させることが、この種の熱可塑性重合体組成物を各種成形品や各種材料(例えばポリアミド樹脂)との積層複合体の製造に使用する上で一層望ましいことが判明した。
【0015】
【特許文献1】
特開昭52−150464号公報
【特許文献2】
特開昭56−115352号公報
【特許文献3】
特開昭63−254156公報
【特許文献4】
特開平1−139240号公報
【特許文献5】
特開平3−100045号公報
【特許文献6】
特開平6−65467号公報
【特許文献7】
特開平6−107898号公報
【特許文献8】
特開平8−72204号公報
【特許文献9】
特開平9−124887号公報
【特許文献10】
特開平11−323073号公報
【特許文献11】
特開平11−302495号公報
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、スチレン・ジエンブロック共重合体またはその水素添加物などのような、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックを有する付加重合系ブロック共重合体および/またはその水素添加物に、熱可塑性ポリエステルエラストマーおよび熱可塑性ポリアミドエラストマーから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性エラストマーを配合した熱可塑性重合体組成物において、その溶融流動性をより高めて、各種成形品や積層構造体を製造する際の成形加工性が一層向上した熱可塑性重合体組成物を提供することである。
更に、本発明の目的は、前記付加重合系ブロック共重合体と前記熱可塑性エラストマー組成物との相容性を改良して、該付加重合系ブロック共重合体が本来有する良好な弾力性、柔軟性、力学的特性、耐油性などの諸特性を損なうことなく、種々の材料(例えばポリアミド樹脂)に対して強固に且つ容易に溶融接着することのできる熱可塑性重合体組成物を提供することである。
また、本発明の目的は、上記した熱可塑性重合体組成物の層と他の材料(例えばポリアミド樹脂)の層とが溶融接着した積層構造体(複合体)およびその製造方法を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく本発明者らは種々検討を重ねてきた。その結果、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックを有する付加重合系ブロック共重合体および/またはその水素添加物、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマーおよび熱可塑性ポリアミドエラストマーから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性エラストマー、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックを有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる重合体ブロックと熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロックを有するポリウレタン系ブロック共重合体および場合により更にパラフィン系オイルを含有する熱可塑性重合体組成物において、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックを有する付加重合系ブロック共重合体として、示査走査熱量分析法(DSC)で測定したガラス転移点が−45℃以上のものを使用すると共に、各重合体成分および場合によりさらに加えるパラフィン系オイルの配合割合を特定の範囲にすると、該付加重合系ブロック共重合体が本来有する良好な弾力性、柔軟性、力学的特性、耐油性などの諸特性を維持しながら、溶融流動性が増して成形加工性が一層良好になると共に、各種材料、特に極性を有する合成樹脂や金属に対する溶融接着性が一層向上することを見出した。
更に、本発明者らは、その際に、付加重合系ブロック共重合体として、前記したガラス転移点が−45℃以上の付加重合系ブロック共重合体と共に、ガラス転移点が−45℃未満の同様の付加重合系ブロック共重合体を所定量以下で併用した場合にも、溶融流動性に優れると共に各種の材料に対する溶融接着性に一層優れ、しかも弾力性、柔軟性、力学的特性、耐油性などの諸特性にも優れる熱可塑性重合体組成物が得られることを見出した。
本発明は、上記した知見に基づくものであって、前記した熱可塑性重合体組成物において、前記付加重合系ブロック共重合体およびポリウレタン系ブロック共重合体と併用する熱可塑性エラストマーとして、熱可塑性ポリエステルエラストマーおよび熱可塑性ポリアミドエラストマーから選ばれる少なくとも1種を用いるものである。
【0018】
すなわち、本発明は、
(1)(i) 芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエンから主としてなる重合体ブロックを有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種の付加重合系ブロック共重合体(I);
芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A3)と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B3)を有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる付加重合系ブロック(C)と、熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するポリウレタン系ブロック共重合体(II);および、
熱可塑性ポリエステルエラストマーおよび熱可塑性ポリアミドエラストマーから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性エラストマー(III);
を含有する熱可塑性重合体組成物であって;
(ii) 付加重合系ブロック共重合体(I)が、
・芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A1)を1つ以上と共役ジエンから主としてなる重合体ブロック(B1)を1つ以上有し、重合体ブロック(A1)の含有量が5〜45質量%であり且つ示査走査熱量分析法(DSC)によるガラス転移点が−45℃以上であるブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種の付加重合系ブロック共重合体(Ia)からなるか;または、
・前記付加重合系ブロック共重合体(Ia)と、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A2)を1つ以上と共役ジエンから主としてなる重合体ブロック(B2)を1つ以上有し、重合体ブロック(A2)の含有量が5〜45質量%であり且つ示査走査熱量分析法(DSC)によるガラス転移点が−45℃未満であるブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種の付加重合系ブロック共重合体(Ib)との併用からなり;且つ、
・付加重合系ブロック共重合体(I)における[付加重合系ブロック共重合体(Ia)]:[付加重合系ブロック共重合体(Ib)]の質量比が100:0〜25:75であり;
(iii) 付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)を5〜200質量部の割合および熱可塑性エラストマー(III)を100〜300質量部の割合で含有する;
ことを特徴とする熱可塑性重合体組成物である。
【0019】
また、本発明は、
(2) 付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して、さらにパラフィン系オイル(IV)を300質量部以下の割合で含有する前記(1)の熱可塑性重合体組成物;および、
(3) ポリウレタン系ブロック共重合体(II)における付加重合系ブロック(C)のガラス転移点が−45℃以上である前記(1)または(2)の熱可塑性重合体組成物;
である。
【0020】
さらに、本発明は、
(4) 前記(1)〜(3)のいずれかの熱可塑性重合体組成物からなる層および他の材料からなる層を有することを特徴とする積層構造体;および、
(5) 他の材料が、合成樹脂および金属から選ばれる少なくとも1種である前記(4)の積層構造体;
である。
【0021】
そして、本発明は、
(6) 前記(1)〜(4)のいずれかの熱可塑性重合体組成物を他の材料に対して溶融積層成形して、前記(5)の積層構造体を製造する方法である。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の熱可塑性重合体組成物で用いる付加重合系ブロック共重合体(I)は、上記のように、
・芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A1)[以下「芳香族ビニル重合体ブロック(A1)」という]を1つ以上と共役ジエンから主としてなる重合体ブロック(B1)[以下「共役ジエン重合体ブロック(B1)」という]を1つ以上有し、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)の含有量が5〜45質量%であり且つ示査走査熱量分析法(DSC)によるガラス転移点が−45℃以上であるブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種の付加重合系ブロック共重合体(Ia)のみからなるか;または、
・前記付加重合系ブロック共重合体(Ia)と、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A2)[以下「芳香族ビニル重合体ブロック(A2)」という]を1つ以上と共役ジエンから主としてなる重合体ブロック(B2)[以下「共役ジエン重合体ブロック(B2)」という]を1つ以上有し、芳香族ビニル重合体ブロック(A2)の含有量が5〜45質量%であり且つ示査走査熱量分析法(DSC)によるガラス転移点が−45℃未満であるブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種の付加重合系ブロック共重合体(Ib)との併用からなる。
【0023】
さらに、本発明の熱可塑性重合体組成物で用いるポリウレタン系ブロック共重合体(II)は、上記のように、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A3)[以下「芳香族ビニル重合体ブロック(A3)」という]と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B3)[以下「共役ジエン重合体ブロック(B3)」という]を有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる付加重合系ブロック(C)と、熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するポリウレタン系ブロック共重合体である。
【0024】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)における芳香族ビニル重合体ブロック(A1)および付加重合系ブロック共重合体(Ib)における芳香族ビニル重合体ブロック(A2)、並びにポリウレタン系ブロック共重合体(II)の付加重合系ブロック(C)における芳香族ビニル重合体ブロック(A3)を構成する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、インデン、アセトナフチレンなどの芳香族ビニル化合物を挙げることができる。芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)および(A3)は、前記した芳香族ビニル化合物の1種のみからなる構造単位を有していても、または2種以上からなる構造単位を有していてもよい。そのうちでも、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)および(A3)はスチレンに由来する構造単位から主としてなっていることが好ましい。
【0025】
芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)および(A3)は、芳香族ビニル化合物からなる構造単位と共に必要に応じて他の共重合性単量体からなる構造単位を少量有していてもよく、その場合の他の共重合性単量体からなる構造単位の割合は、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)および(A3)の質量に基づいて45質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。その場合の他の共重合性単量体としては、例えば1−ブテン、ペンテン、ヘキセン、ブタジエン、イソプレン、メチルビニルエーテルなどの付加重合性単量体を挙げることができる。
【0026】
また、付加重合系ブロック共重合体(Ia)における共役ジエン重合体ブロック(B1)、付加重合系ブロック共重合体(Ib)における共役ジエン重合体ブロック(B2)およびポリウレタン系ブロック共重合体(II)の付加重合系ブロック(C)における共役ジエン重合体ブロック(B3)を構成する共役ジエン化合物としては、イソプレン、ブタジエン、ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどを挙げることができる。共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)は、これらの共役ジエン化合物の1種から構成されていてもまたは2種以上から構成されていてもよい。共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および/または(B3)が2種以上の共役ジエン化合物に由来する構造単位を有している場合は、それらの結合形態はランダム、テーパー、ブロック状、またはそれらの2種以上の組み合わせからなっていることができる。
【0027】
そのうちでも、共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および/または(B3)は、ゴム物性の改善効果の点から、イソプレン単位を主体とするモノマー単位からなるポリイソプレンブロックまたはその不飽和二重結合の一部または全部が水素添加(以下「水添」ということがある)された水添ポリイソプレンブロック;ブタジエン単位を主体とするモノマー単位からなるポリブタジエンブロックまたはその不飽和二重結合の一部または全部が水素添加された水添ポリブタジエンブロック;或いはイソプレン単位とブタジエン単位を主体とするモノマー単位からなるイソプレン/ブタジエン共重合体ブロックまたはその不飽和二重結合の一部または全部が水素添加された水添イソプレン/ブタジエン共重合体ブロックであることが好ましい。
【0028】
共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)が、前記したイソプレン/ブタジエン共重合体ブロックまたはその水素添加されたブロックである場合は、イソプレン単位とブタジエン単位の配置は、ランダム状、ブロック状、テーパーブロック状のいずれの形態になっていてもよい。そして、イソプレン/ブタジエン共重合体ブロックでは、ゴム物性の改善効果の点から、イソプレン単位:ブタジエン単位のモル比が、10:90〜90:10であることがより好ましく、30:70〜70:30であることがより好ましい。
【0029】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)、付加重合系ブロック共重合体(Ib)およびポリウレタン系ブロック共重合体(II)では、耐熱性および耐候性が良好なものとなる点から、その共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)における不飽和二重結合の一部または全部が水素添加されていることが好ましい。その際の共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)の水添率は50モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)における芳香族ビニル重合体ブロック(A1)と共役ジエン重合体ブロック(B1)との結合形態、付加重合系ブロック共重合体(Ib)における芳香族ビニル重合体ブロック(A2)と共役ジエン重合体ブロック(B2)との結合形態、およびポリウレタン系ブロック共重合体(II)の付加重合系ブロック(C)における芳香族ビニル重合体ブロック(A3)と共役ジエン重合体ブロック(B3)との結合形態は特に制限されず、直鎖状、分岐状、放射状、またはそれらの2つ以上が組合わさった結合形態のいずれであってもよく、直鎖状の結合形態であることが好ましい。
【0031】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)、付加重合系ブロック共重合体(Ib)および/またはポリウレタン系ブロック共重合体(II)の付加重合系ブロック(C)が、芳香族ビニル重合体ブロックと共役ジエン重合体ブロックとが直線状に結合した構造を有するものである場合は、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)および(A3)をAで、また共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)をBで表したときに、A−Bで表されるジブロック構造、A−B−AまたはB−A−Bで表されるトリブロック構造、A−B−A−BまたはB−A−B−Aで表されるテトラブロック構造、またはAとBとが5個以上直鎖状に結合しているマルチブロック構造を採ることができる。それらのうちでも、A−Bで表されるジブロック構造またはA−B−Aで表されるトリブロック構造であることが、弾力性、力学的特性、溶融接着性、取り扱い性などの点から好ましい。
【0032】
また、前記したトリブロック以上のマルチブロック構造のものでは、2個以上の芳香族ビニル重合体ブロックAは互いに同じ内容のブロックであってもまたは異なる内容のブロックであってもよく、また2個以上の共役ジエン重合体ブロックBは互いに同じ内容のブロックであってもまたは異なる内容のブロックであってもよい。例えば、A−B−Aで表されるトリブロック構造における2個の芳香族ビニル重合体ブロックA、或いはB−A−Bで表されるトリブロック構造における2個の共役ジエン重合体ブロックBは、それらを構成する芳香族ビニル化合物または共役ジエン化合物の種類、ブロックの数平均分子量などが同じであっても、または異なっていてもよい。
【0033】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)では、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)の含有量が、付加重合系ブロック共重合体(Ia)の質量に基づいて、5〜45質量%であることが必要である。
付加重合系ブロック共重合体(Ia)において、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)の含有量が5質量%未満であると、得られる熱可塑性重合体組成物の破断強度が低くなり、一方45質量%を超えると硬くなり、柔軟性を損なう。付加重合系ブロック共重合体(Ia)では、その質量に基づいて、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)の含有量が10〜40質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることがより好ましい。
【0034】
また、付加重合系ブロック共重合体(Ib)においても、芳香族ビニル重合体ブロック(A2)の含有量が、付加重合系ブロック共重合体(Ib)の質量に基づいて、5〜45質量%であることが必要である。
付加重合系ブロック共重合体(Ib)において、芳香族ビニル重合体ブロック(A2)の含有量が5質量%未満であると、得られる熱可塑性重合体組成物の破断強度が低くなり、一方45質量%を超えると硬くなり、柔軟性を損なう。付加重合系ブロック共重合体(Ib)では、その質量に基づいて、芳香族ビニル重合体ブロック(A2)の含有量が10〜40質量%であることが好ましく、15〜35質量%であることがより好ましい。
【0035】
更に、本発明の熱可塑性重合体組成物において付加重合系ブロック共重合体(I)として用いる付加重合系ブロック共重合体(Ia)は、示差走査熱量分析法(DSC)で測定したガラス転移点が、−45℃以上であることが必要である。付加重合系ブロック共重合体(Ia)の前記ガラス転移点が−45℃未満であると、熱可塑性重合体組成物の溶融粘度が高くなり、溶融流動性が低下して、成形加工性が十分に向上せず、しかも他の材料に対する溶融接着性が十分に高くなりにくく、他の材料との接着強度などが不足する。付加重合系ブロック共重合体(Ia)のガラス転移点は、−40℃以上であることが好ましく、−35℃以上であることがより好ましい。
【0036】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)を構成する共役ジエン重合体ブロック(B1)がポリイソプレンブロックである場合は、その水素添加前には、イソプレンに由来する単位は、2−メチル−2−ブテン−1,4−ジイル基[−CH2−C(CH3)=CH−CH2−;1,4−結合のイソプレン単位]、イソプロペニルエチレン基[−CH(C(CH3)=CH2)−CH2−;3,4−結合のイソプレン単位]および1−メチル−1−ビニルエチレン基[−C(CH3)(CH=CH2)−CH2−;1,2−結合のイソプレン単位]のいずれかである。
【0037】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)を構成する共役ジエン重合体ブロック(B1)がポリイソプレンブロックである場合に、付加重合系ブロック共重合体(Ia)の示査走査熱量分析法(DSC)によるガラス転移点(以下単に「ガラス転移点」ということがある)が−45℃以上であるためには、共役ジエン重合体ブロック(B1)をなすポリイソプレンブロックは、その水素添加前には、イソプレン単位のイソプロペニルエチレン基および1−メチル−1−ビニルエチレン基の合計量(1,2−結合および3,4−結合の合計量)が30モル%以上であることが必要である。
【0038】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)を構成する共役ジエン重合体ブロック(B1)がポリブタジエンブロックである場合は、水素添加前には、ブタジエンに由来する単位は、2−ブテン−1,4−ジイル基(−CH2−CH=CH−CH2−;1,4−結合のブタジエン単位)およびビニルエチレン基[−CH(CH=CH)−CH2−;1,2−結合のブタジエン単位]のいずれかである。
【0039】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)を構成する共役ジエン重合体ブロック(B1)がポリブタジエンブロックである場合に、付加重合系ブロック共重合体(Ia)のガラス転移点が−45℃以上であるためには、共役ジエン重合体ブロック(B1)をなすポリブタジエンブロックは、その水素添加前には、ブタジエン単位の50モル%以上がビニルエチレン基(1,2−結合)であることが必要である。
【0040】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)を構成する共役ジエン重合体ブロック(B1)がイソプレン/ブタジエン共重合体ブロックからなる場合は、その水素添加前には、イソプレンに由来する単位は2−メチル−2−ブテン−1,4−ジイル基(1,4−結合)、イソプロペニルエチレン基(3,4−結合)および1−メチル−1−ビニルエチレン基(1,2−結合)のいずれかであり、またブタジエンに由来する単位は2−ブテン−1,4−ジイル基(1,4−結合)およびビニルエチレン基(1,2−結合)のいずれかである。
【0041】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)を構成する共役ジエン重合体ブロック(B1)がイソプレン/ブタジエン共重合体ブロック、特にイソプレン単位:ブタジエン単位のモル比が10:90〜90:10である場合に、付加重合系ブロック共重合体(Ia)のガラス転移点が−45℃以上であるためには、その水素添加前には、イソプレンに由来する単位であるイソプロペニルエチレン基および1−メチル−1−ビニルエチレン基並びにブタジエンに由来する単位であるビニルエチレン基の合計が30モル%以上であることが必要である。
【0042】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物において、付加重合系ブロック共重合体(I)として付加重合系ブロック共重合体(Ia)と共に場合により併用される付加重合系ブロック共重合体(Ib)は、示差走査熱量分析法(DSC)で測定したガラス転移点が−45℃未満である。
付加重合系ブロック共重合体(Ib)を構成する共役ジエン重合体ブロック(B2)がポリイソプレンブロックである場合に、付加重合系ブロック共重合体(Ib)のガラス転移点が−45℃未満であるためには、水素添加前において、ポリイソプレンブロックを構成するイソプレン単位のイソプロペニルエチレン基および1−メチル−1−ビニルエチレン基の合計が30モル%未満である必要がある。
【0043】
付加重合系ブロック共重合体(Ib)を構成する共役ジエン重合体ブロック(B2)がポリブタジエンブロックである場合に、付加重合系ブロック共重合体(Ib)のガラス転移温度が−45℃未満であるためには、水素添加前において、ポリブタジエンブロックを構成するブタジエン単位のビニルエチレン基が50モル%未満であることが必要である。
【0044】
付加重合系ブロック共重合体(Ib)を構成する共役ジエン重合体ブロック(B2)がイソプレン/ブタジエン共重合体ブロック、特にイソプレン単位:ブタジエン単位のモル比が10:90〜90:10である場合に、付加重合系ブロック共重合体(Ib)のガラス転移点が−45℃未満であるためには、水素添加前において、イソプレン/ブタジエン共重合体ブロックを構成するイソプレンに由来する単位であるイソプロペニルエチレン基および1−メチル−1−ビニルエチレン基並びにブタジエンに由来する単位であるビニルエチレン基の合計が30モル%未満である必要がある。
【0045】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、上記のように、付加重合系ブロック共重合体(I)として、付加重合系ブロック共重合体(Ia)のみを含有していてもよいし、または付加重合系ブロック共重合体(Ia)と付加重合系ブロック共重合体(Ib)の両方を含有していてもよい。
熱可塑性重合体組成物が付加重合系ブロック共重合体(Ia)と付加重合系ブロック共重合体(Ib)の両方を含有する場合は、付加重合系ブロック共重合体(Ia)と付加重合系ブロック共重合体(Ib)の合計質量に対して、付加重合系ブロック共重合体(Ib)の含有割合が75質量%以下であることが必要であり、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。付加重合系ブロック共重合体(Ia)と付加重合系ブロック共重合体(Ib)の合計質量に対して、付加重合系ブロック共重合体(Ib)の含有割合が75質量%を超えると、熱可塑性重合体組成物の溶融粘度が高くなって溶融流動性が低下し、成形加工性が低下したものになると共に、他の材料との溶融接着性が低下し易い。
【0046】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)、付加重合系ブロック共重合体(Ib)およびポリウレタン系ブロック共重合体(II)の付加重合系ブロック(C)では、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)または(A3)並びに共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)の分子量は特に制限されないが、水素添加前の状態で、芳香族ビニル重合体ブロック(A1)、(A2)および(A3)の数平均分子量が2,500〜75,000の範囲であり、共役ジエン重合体ブロック(B1)、(B2)および(B3)の数平均分子量が10,000〜250,000であることが、熱可塑性重合体組成物のゴム物性等が優れたものとなる点から好ましい。また、付加重合系ブロック共重合体(Ia)の全体の数平均分子量、付加重合系ブロック共重合体(Ib)の全体の数平均分子量およびポリウレタン系ブロック共重合体(II)における付加重合系ブロック(C)の数平均分子量は、水添前の状態で、15,000〜300,000の範囲であることが、力学的特性、成形加工性などの点から好ましい。なお、本明細書でいう数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン検量線から求めた値をいう。
【0047】
本発明の熱可塑性重合体組成物で用いる付加重合系ブロック共重合体(Ia)および付加重合系ブロック共重合体(Ib)は、上記したブロック構造を有し、一般に分子末端に水酸基などの官能基をもたないブロック共重合体である。
また、本発明の熱可塑性重合体組成物で用いるポリウレタン系ブロック共重合体(II)は、上記したブロック構造を有する付加重合系ブロック(C)と熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)とが結合したポリウレタン系ブロック共重合体である。
【0048】
ポリウレタン系ブロック共重合体(II)を構成する付加重合系ブロック(C)では、芳香族ビニル重合体ブロック(A3):共役ジエン重合体ブロック(B3)の質量比が、1:9〜9:1であることが熱可塑性重合体組成物およびそれから得られる成形品や積層構造体の耐熱性が良好となり且つゴム物性の改良効果が大きくなる点から好ましく、2:8〜8:2であることがより好ましく、3:7〜7:3であることがさらに好ましい。
【0049】
また、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)を構成する付加重合系ブロック(C)のガラス転移点は特に制限されないが、付加重合系ブロック共重合体(Ia)と同じように、付加重合系ブロック(C)のガラス転移点が−45℃以上であることが、熱可塑性重合体組成物の溶融流動性、溶融成形性、溶融接着力などが良好になる点から好ましく、−40℃以上であることがより好ましい。ガラス転移点が−45℃以上である付加重合系ブロック(C)は、付加重合系ブロック共重合体(Ia)と同様のブロック共重合体から構成することができる。
【0050】
また、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)における熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーよりなるブロックであればいずれでもよいが、熱可塑性エラストマー(III)として熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いる場合は、後述する熱可塑性ポリウレタンエラストマーと同種または近似した熱可塑性ポリウレタンエラストマーより形成されていることが、熱可塑性エラストマーとして熱可塑性ポリウレタンエラストマーを使用した際に、熱可塑性重合体組成物における重合体同士の相容性が良好になり、熱可塑性重合体組成物およびそれから得られる成形品や積層構造体の力学的特性が優れたものとなる点から好ましい。
【0051】
ポリウレタン系ブロック共重合体(II)における熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)は、熱可塑性重合体組成物のゴム物性がより良好なものとなる点から、その数平均分子量が200〜150,000であることが好ましく、500〜100,000であることがより好ましい。
【0052】
ポリウレタン系ブロック共重合体(II)は、1個の付加重合系ブロック(C)と1個の熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するジブロック共重合体であっても、または付加重合系ブロック(C)と熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)が合計で3個または4個以上結合したポリブロック共重合体であってもよいが、得られる熱可塑性重合体組成物の相容性、力学物性および成形性の点から、1個の付加重合系ブロック(C)と1個の熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)が結合したジブロック共重合体であることが好ましい。
【0053】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)、付加重合系ブロック共重合体(Ib)およびポリウレタン系ブロック共重合体(II)の製造法は特に制限されず、上記した構造を有するそれぞれのブロック共重合体を製造し得る方法であればいずれの方法で製造してもよく、また既に市販されているものを用いてもよい。
【0054】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)および付加重合系ブロック共重合体(Ib)は、例えば、アニオン重合などのイオン重合法、シングルサイト重合法、ラジカル重合法などにより製造することができる。
そのうちでも、ガラス転移点が−45℃以上である付加重合系ブロック共重合体(Ia)は、アルキルリチウム化合物などの重合開始剤に対してルイス塩基を共触媒として併用してアニオン重合することによって好適に製造することができる。具体的な方法としては、例えば、(イ)アルキルリチウム化合物(重合開始剤)とルイス塩基(共触媒)を用いて芳香族ビニル化合物および共役ジエン系化合物を逐次重合させる方法;(ロ)アルキルリチウム化合物(開始剤)とルイス塩基(共触媒)を用いて芳香族ビニル化合物および共役ジエン系化合物を逐次重合させた後、カップリング剤を加えてカップリングする方法;(ハ)ジリチウム化合物(開始剤)とルイス塩基(共触媒)を用いて共役ジエン系化合物および芳香族ビニル化合物を逐次重合させる方法などを挙げることができる。
【0055】
また、ガラス転移点が−45℃未満である付加重合系ブロック共重合体(Ib)も、例えばアニオン重合により好適に製造することができる。その際の重合方法としては、ルイス塩基を使用せずにアルキルリチウム化合物などの重合開始剤のみを使用して上記した(イ)〜(ハ)と同様にして重合を行う方法などを挙げることができる。
【0056】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)および付加重合系ブロック共重合体(Ib)を製造するためのアニオン重合に用いる上記したアルキルリチウム化合物としては、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ペンチルリチウムなどが挙げられる。カップリング剤としては、安息香酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、酢酸エチル、酢酸メチル、ピバリン酸メチル、ピバリン酸フェニル、ピバリン酸エチル、α,α’−ジクロロ−o−キシレン、α,α’−ジクロロ−m−キシレン、α,α’−ジクロロ−p−キシレン、ビス(クロロエチル)エーテル、ジブロモメタン、ジヨードメタン、フタル酸ジメチル、ジクロロジメチルシラン、ジクロロジフェニルシラン、トリクロロメチルシラン、テトラクロロシラン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。また、ジリチウム化合物としてはナフタレンジリチウム、ジリチオヘキシルベンゼンなどを挙げることができる。
【0057】
アルキルリチウム化合物、ジリチウム化合物などの重合開始剤およびカップリング剤の使用量は、付加重合系ブロック共重合体(Ia)および付加重合系ブロック共重合体(Ib)に求める数平均分子量により決定されるが、一般に、重合に用いる芳香族ビニル化合物および共役ジエン系化合物の合計量の100質量部あたり、アルキルリチウム化合物、ジリチウム化合物などの重合開始剤を0.01〜0.2質量部の範囲の量、カップリング剤を使用する場合は通常0.04〜0.8質量部の範囲の量で使用することが好ましい。
【0058】
また、付加重合系ブロック共重合体(Ia)を製造する際に共触媒として用いられる上記ルイス塩基の具体例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチレンジアミン、N−メチルモルホリンなどのアミン類などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。ルイス塩基の添加量は、通常、重合開始剤として用いるアルキルリチウム化合物またはジリチウム化合物に含有されるリチウム1グラム原子あたり0.1〜1000モルの範囲であることが、ガラス転移点が−45℃以上の付加重合系ブロック共重合体(Ia)を得るために好ましく、1〜100モルの範囲であることがより好ましい。
【0059】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)の製造に際して、リチウム化合物系の重合開始剤に対してルイス塩基を共触媒として用いることにより、付加重合系ブロック共重合体(Ia)を構成する共役ジエン重合体ブロック(B1)における共役ジエン化合物単位の結合様式(具体的にはイソプレン、ブタジエンそれぞれにおける1,4−結合単位、1,2−結合単位および3,4−結合単位)の含有量が前記した範囲となるように反応の制御がなされ、それによって付加重合系ブロック共重合体(Ia)のガラス転移点を−45℃以上にすることができる。
【0060】
付加重合系ブロック共重合体(Ia)および付加重合系ブロック共重合体(Ib)を製造するための重合反応は、溶媒の存在下で行うことが好ましい。溶媒としては、重合開始剤や共触媒に対して不活性で、反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えばヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどの飽和脂肪族炭化水素、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素などを挙げることができる。重合は、いずれの場合も、通常0〜80℃の温度範囲で、0.5〜50時間の範囲で行うことができる。
【0061】
上記した方法により重合を行なった後、各ブロック共重合体を含む重合反応液をメタノールなどの貧溶媒中に注いで各ブロック共重合体を凝固させるか、または重合反応液をスチームと共に熱水中に注いで溶媒を共沸によって除去(スチームストリッピング)した後、乾燥させることにより、付加重合系ブロック共重合体(Ia)および付加重合系ブロック共重合体(Ib)を重合反応液からそれぞれ単離することができる。
【0062】
次いで、上記で得られた付加重合系ブロック共重合体(Ia)または付加重合系ブロック共重合体(Ib)を必要に応じて水素添加することにより、水添された付加重合系ブロック共重合体(Ia)または水添された付加重合系ブロック共重合体(Ib)を得る。水素添加反応は、ラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、Niなどの金属をカーボン、アルミナ、珪藻土などの単体に担持させた不均一系触媒;遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物、アルキルリチウム化合物などとの組み合わせからなるチーグラー系触媒;メタロセン系触媒などの水素添加触媒を使用して行うのがよい。各ブロック共重合体を反応および水素添加触媒に不活性な溶媒に溶解させ、前記した水素添加触媒の存在下に、水素と反応させることにより、水素添加された付加重合系ブロック共重合体(Ia)および水素添加された付加重合系ブロック共重合体(Ib)をそれぞれ製造することができる。
場合によっては、上記した重合反応で得られた各ブロック共重合体を含む重合反応液をそのまま用いて、重合反応液からブロック共重合体を単離せずに、重合反応液をそのままブロック共重合体の水素添加反応に付すこともできる。
水素添加反応は、通常、水素圧力0.1〜20MPa、反応温度20〜250℃、反応時間0.1〜100時間の範囲で行なうことができる。
【0063】
上記水素添加反応により得られる水添付加重合系ブロック共重合体(Ia)または水添付加重合系ブロック共重合体(Ib)は、水素添加反応液を、メタノールなどの該水添ブロック共重合体(Ia)または(Ib)の貧溶媒に注いで凝固させるか、または水素添加反応液をスチームと共に熱水中に注いで溶媒を共沸によって除去(スチームストリッピング)した後、乾燥することにより単離することができる。
【0064】
本発明の熱可塑性重合体組成物に用いるポリウレタン系ブロック共重合体(II)は、例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、芳香族ビニル重合体ブロック(A3)と共役ジエン重合体ブロック(B3)を有し且つ末端に官能基、好ましくは水酸基を有するブロック共重合体および/またはその水素添加物(以下「末端変性付加重合系ブロック共重合体」という)を溶融条件下に混練して反応させ、それにより得られるポリウレタン系反応生成物から、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)を抽出・回収することにより得ることができる。
その際に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、末端変性付加重合系ブロック共重合体との溶融混練は、単軸押出機、2軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて行うことができる。溶融混練条件は、使用する熱可塑性ポリウレタンエラストマーや末端変性付加重合系ブロック共重合体の種類、装置の種類などに応じて選択することができるが、一般に180〜250℃の温度で1〜15分間程度行うとよい。
【0065】
ポリウレタン系ブロック共重合体(II)は、上記した方法以外にも、例えば、押出機中などで高分子ジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を反応させて熱可塑性ポリウレタンエラストマーを製造する際の反応の最初にまたは反応の途中に、その反応系に末端変性付加重合系ブロック共重合体を添加することによって、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)を含有するポリウレタン系反応生成物を形成させ、そのポリウレタン系反応生成物からポリウレタン系ブロック共重合体(II)を抽出・回収することによっても得ることができる。
【0066】
上記において、ポリウレタン系反応生成物からのポリウレタン系ブロック共重合体(II)の抽出・回収は、例えば、ポリウレタン系反応生成物を必要に応じて適当な大きさに粉砕し、それをジメチルホルムアミドなどのポリウレタンの良溶媒で処理して未反応の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを抽出・除去し、次いでシクロヘキサンなどの末端変性付加重合系ブロック共重合体の良溶媒で処理して未反応の末端変性付加重合系ブロック共重合体を抽出除去し、残った固形物を乾燥することにより行うことができる。
【0067】
ポリウレタン系ブロック共重合体(II)の製造に用いる上記の末端変性付加重合系ブロック共重合体には、後述するその製造法に由来して、芳香族ビニル重合体ブロック(A3)と共役ジエン重合体ブロック(B3)を有し末端に官能基を有しない付加重合系ブロック共重合体またはその水素添加物(以下「末端未変性付加重合系ブロック共重合体」という)、すなわち付加重合系ブロック共重合体(Ia)または付加重合系ブロック共重合体(Ib)に相当する重合体が含まれていることが多い。そのため、熱可塑性ポリウレタンエラストマーと、末端変性付加重合系ブロック共重合体との反応により得られるポリウレタン系反応生成物は、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)、未反応の熱可塑性ポリウレタンエラストマー、末端未変性付加重合系ブロック共重合体および未反応の末端変性付加重合系ブロック共重合体の4者の混合物であることが多い。
【0068】
このことから、熱可塑性エラストマー(III)として熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いる場合は、付加重合系ブロック共重合体(Ia)、または付加重合系ブロック共重合体(Ia)および付加重合系ブロック共重合体(Ib)と、熱可塑性ポリウレタンエラストマーおよび必要に応じてパラフィン系オイル(IV)と共に、末端変性付加重合系ブロック共重合体を配合し、組成物中で末端変性付加重合系ブロック共重合体と熱可塑性ポリウレタンエラストマーとを反応させて前記したポリウレタン系反応生成物を形成させ、そのポリウレタン系反応生成物をそのまま本発明の熱可塑性重合体組成物に用いる方法[すなわちポリウレタン系反応生成物からポリウレタン系ブロック共重合体(II)を回収せずに反応生成物の形態のままで本発明の熱可塑性重合体組成物中に存在させる方法]を採用してもよい。
【0069】
ここで、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)の製造に用いる末端変性付加重合系ブロック共重合体は、例えば、次のようなアニオン重合法により製造することができる。すなわち、アルキルリチウム化合物などを重合開始剤として、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中で、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を逐次重合させ、所望の分子構造および分子量に達した時点で、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、スチレンオキサイドなどのオキシラン骨格を有する化合物、またはε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン(ピバロラクトン)などのラクトン系化合物などを付加させ、次いでアルコール類、カルボン酸類、水などの活性水素含有化合物を添加して重合を停止することにより製造することができる。そして、それにより得られるブロック共重合体を好ましくは、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中で、アルキルアルミニウム化合物またはアルキルリチウム化合物と、コバルト、ニッケルなどの遷移金属化合物との組み合わせからなるチーグラー触媒等の水添触媒の存在下に、反応温度20〜250℃、水素圧力0.1〜20MPaの条件下で水素添加することによって、水添された末端変性付加重合系ブロック共重合体を得ることができる。
【0070】
末端変性付加重合系ブロック共重合体は、それが直鎖状構造を有するものである場合は、分子の片末端に1個の水酸基を有していても、または分子の両端に2個の水酸基を有していてもよい。また、末端変性付加重合系ブロック共重合体が分岐状または放射状の構造を有するものである場合は、その分子末端に1個乃至複数個(分岐の数だけ)の水酸基を有していてもよい。例えば、直鎖状構造である場合、末端変性付加重合系ブロック共重合体の1分子当たりの末端水酸基の数は0.5〜1個であることが好ましく、0.7〜1個であることがより好ましい。
【0071】
本発明の熱可塑性重合体組成物では、熱可塑性エラストマー(III)として、熱可塑性ポリエステルエラストマーおよび熱可塑性ポリアミドエラストマーから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性エラストマーを使用する。
【0072】
但し、熱可塑性エラストマー(III)として熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いる場合は、用いることのできる熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、高分子ジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の反応により得られる熱可塑性ポリウレタンである。熱可塑性ポリウレタンエラストマーの形成に用いられる高分子ジオールは、その数平均分子量が1,000〜6,000であることが、熱可塑性重合体組成物の力学的特性、耐熱性、耐寒性、弾性回復性などが良好になる点から好ましい。ここで、本明細書でいう高分子ジオールの数平均分子量は、JIS K1557に準拠してSITE測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0073】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造に用い得る高分子ジオールの例としては、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステルポリカーボネートジオールなどを挙げることができ、熱可塑性ポリウレタンエラストマーはこれらの高分子ジオールの1種または2種以上を用いて形成されていることができる。
【0074】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造に用い得る上記ポリエステルジオールとしては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体から選ばれる少なくとも1種のジカルボン酸成分と低分子ジオールとの反応により得られるポリエステルジオール、ラクトンの開環重合により得られるポリエステルジオールなどを挙げることができる。より具体的には、前記ポリエステルジオールとしては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの炭素数6〜12の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸などの芳香族ジカルボン酸およびそれらのエステル形成性誘導体の1種または2種以上と、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどの炭素数2〜10の脂肪族ジオールの1種または2種以上とを重縮合反応させて得られるポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリバレロラクトンジオールを挙げることができる。
【0075】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造に用い得る上記ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを挙げることができる。また、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造に用い得る上記ポリカーボネートジオールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオールなどの脂肪族ジオールの1種または2種以上と、炭酸ジフェニル、炭酸アルキルなどの炭酸エステルまたはホスゲンとを反応させて得られるポリカーボネートジオールを挙げることができる。
【0076】
また、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造に用いられる有機ジイソシアネートの種類は特に限定されないが、分子量500以下の芳香族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートおよび脂肪族ジイソシアネートの1種または2種以上が好ましく用いられる。そのような有機ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、水素化4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどを挙げることができ、これらの有機ジイソシアネートのうちでも4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0077】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造に用い得る鎖伸長剤としては、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造に従来から用いられている鎖伸長剤のいずれもが使用でき、その種類は特に限定されない。そのうちでも、鎖伸長剤としては、脂肪族ジオール、脂環式ジオールおよび芳香族ジオールのうちの1種または2種以上が好ましく用いられる。好ましく用いられる鎖伸長剤の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,9−ノナンジオール、シクロヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどのジオールを挙げることができる。前記したうちでも、炭素数2〜6の脂肪族ジオールが鎖伸長剤としてより好ましく用いられ、1,4−ブタンジオールが更に好ましく用いられる。
【0078】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、高分子ジオール、鎖伸長剤および有機ジイソシアネートを、高分子ジオール:鎖伸長剤=1:0.2〜8(モル比)の範囲であり且つ[高分子ジオールと鎖伸長剤の合計モル数]:[有機ジイソシアネートのモル数]=1:0.98〜1.04の範囲であるようにして反応させて得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましく用いられる。そのような熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含有する熱可塑性重合体組成物は、押出成形、射出成形などの溶融成形時に溶融粘度の急激な上昇がなく、目的とする成形品や積層構造体などの製品を円滑に製造することができ、しかもそれにより得られる製品の耐熱性が良好なものとなる。
【0079】
また、熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、硬度(タイプ A 硬度;25℃で測定)が55〜90であることが、熱可塑性重合体組成物から得られる成形品や積層構造体などの製品の力学的特性が良好になり且つ適度な硬さを有するようになる点から好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーの硬度が55未満であると、熱可塑性重合体組成物から得られる成形品や積層構造体などの製品の力学的特性が低いものとなり易く、一方熱可塑性ポリウレタンエラストマーの硬度が90を超えると熱可塑性重合体組成物から得られる成形品や積層構造体などの製品の柔軟性が低いものとなり易い。
【0080】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、数平均分子量が2000以上のポリ(3−メチル−1,5−ペンタンアジペート)ジオールをソフトセグメントとする熱可塑性ポリウレタンエラストマー、すなわちアジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールとの重縮合により得られる数平均分子量が2000以上のポリエステルジオールと、上記した鎖伸長剤および有機ジイソシアネートを反応させて得られる熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いると、柔軟性、弾性、力学的特性、耐油性、成形加工性、溶融接着性という上記した特性に優れ、特に耐圧縮永久歪み性および成形性に一層優れる熱可塑性重合体組成物を得ることができる。
【0081】
熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造方法は特に限定されず、上記した高分子ジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を使用して、公知のウレタン化反応を利用して、プレポリマー法、ワンショット法のいずれで製造してもよい。そのうちでも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いて連続溶融重合により製造することが好ましい。
【0082】
さらに、熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、市販の熱可塑性ポリウレタンエラストマーを使用してもよく、何ら限定されるものではないが、具体例としては、株式会社クラレ製の「クラミロンU」(商品名)、BASFポリウレタンエラストマーズ株式会社製の「エラストラン」(商品名)、日本ミラクトラン株式会社製の「ミラクトラン」(商品名)、大日精化工業株式会社製の「レザミンP」(商品名)、旭硝子株式会社製の「ユーファインP」(商品名)などを挙げることができる。
【0083】
本発明の熱可塑性重合体組成物で熱可塑性エラストマー(III)の1種として用いることのできる熱可塑性ポリエステルエラストマーは、熱可塑性のポリエステルエラストマーであればいずれでもよい。本発明で用い得る熱可塑性ポリエステルエラストマーの代表例としては、(i)芳香族系結晶性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリエーテルをソフトセグメントとする熱可塑性ポリエステルエラストマー(以下「ポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマー」ということがある)、および(ii)芳香族系結晶性ポリエステルをハードセグメントとし、脂肪族系ポリエステルをソフトセグメントとする熱可塑性ポリエステルエラストマー(以下「ポリエステル・ポリエステル型熱可塑性ポリエステルエラストマー」ということがある)を挙げることができる。
そのうちでも、本発明の熱可塑性重合体組成物では、熱可塑性ポリエステルエラストマーとして、前記(i)のポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーが、入手の容易性、耐加水分解性などに優れるなどの点から好ましく用いられる。
【0084】
本発明において熱可塑性ポリエステルエラストマーとして好ましく用いられるポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーの製法は特に制限されないが、一般的には、炭素数2〜12の脂肪族および/または脂環族ジオール、芳香族ジカルボン酸またはそのアルキルエステル、および数平均分子量が400〜6,000のポリアルキレンエーテルグリコールを原料として用い、これらをエステル化反応またはエステル交換反応させてオリゴマーを製造し、該オリゴマーを重縮合させることによって得ることができる。
【0085】
ポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーの製造に用いられる上記した炭素数2〜12の脂肪族および/または脂環族ジオールとしては、熱可塑性ポリエステルエラストマーの製造に通常用いられているものであればいずれでもよく、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどを挙げることができ、これらのジオールの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも脂肪族および/または脂環族ジオールとしては、1,4−ブタンジオールおよび/またはエチレングリコール、特に1,4−ブタンジオールを主成分としたものが好ましく用いられる。
【0086】
ポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造するための上記した芳香族ジカルボン酸としては、熱可塑性ポリエステルエラストマーの原料として従来から用いられているものであればいずれでもよく、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などを挙げることができ、これらの芳香族ジカルボン酸の1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸および/または2,6−ナフタレンジカルボン酸、特にテレフタル酸を主成分としたものが好ましく用いられる。
また、ポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造するための上記した芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルとしては、例えば、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジメチルフタレート、2,6−ジメチルナフタレートなどのジメチルエステルなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、ジメチルテレフタレートおよび/または2,6−ジメチルナフタレート、特にジメチルテレフタレートを主成分としたものが好ましく用いられる。
【0087】
ポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造するための上記したポリアルキレンエーテルグリコールとしては、一般に数平均分子量が400〜6,000のものが使用され、そのうちでも数平均分子量が500〜4,000、特に600〜3,000のポリアルキレンエーテルグリコールを使用したものが好ましく用いられる。数平均分子量が400未満のポリアルキレンエーテルグリコールを用いて製造されたポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーは弾性が不足し、しかも破断強度が低い。一方、数平均分子量が6,000を超えるポリアルキレンエーテルグリコールを用いて製造されたポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーを熱可塑性エラストマー(III)として使用した場合は、熱可塑性重合体組成物内で相分離が生じて、熱可塑性重合体組成物の物性が低下する。
【0088】
ポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーの製造に用いられるポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−プロピレンエーテル)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンエーテル)グリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックまたはランダム共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランのブロックまたはランダム共重合体などを挙げることができる。そのうちでも、ポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーはポリテトラメチレンエーテルグリコールを用いて形成されていることが好ましい。
【0089】
ポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーでは、その質量に対して、ポリアルキレンエーテルグリコールに由来する構造部分の含有量が5〜95質量%であることが好ましく、10〜85質量%であることがより好ましく、20〜80質量%であることが更に好ましい。ポリアルキレンエーテルグリコールに由来する構造部分の含有量が95質量%を超えると、縮重合によってポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーを得ることが困難になり易い。
【0090】
ポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーは、上記以外に、3官能のジオール、その他のジオールや他のジカルボン酸およびそのエステルを少量共重合して形成されていてもよく、さらにアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸またはそれらのアルキルエステルなどを共重合成分として使用して形成されていてもよい。
【0091】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物で用い得る、上記(ii)のポリエステル・ポリエステル型熱可塑性ポリエステルエラストマーでは、芳香族系結晶性ポリエステルよりなるハードセグメントは、ポリエステル・ポリエーテル型熱可塑性ポリエステルエラストマーにおける上記した芳香族ポリエステル(ハードセグメント)と同様のポリエステルから構成され、一方ソフトセグメントは脂肪族系ポリエステルから構成される。ソフトセグメントを構成する脂肪族ポリエステルとしては、脂肪族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸と脂肪族ジオールとが縮合したポリエステルオリゴマー;脂肪族ラクトンまたは脂肪族モノオールカルボン酸から合成されたポリエステルオリゴマーを挙げることができる。
【0092】
ポリエステル・ポリエステル型熱可塑性ポリエステルエラストマーのソフトセグメントを構成する、脂肪族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸と脂肪族ジオールとが縮合したポリエステルオリゴマーの例としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル−4,4′−ジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸またはコハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸のうちの1種以上とエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコールなどのジオールのうちの1種以上とが縮合したポリエステルオリゴマーを挙げることができる。
また、ポリエステル・ポリエステル型熱可塑性ポリエステルエラストマーのソフトセグメントを構成する、脂肪族ラクトンまたは脂肪族モノオールカルボン酸から合成されたポリエステルオリゴマーの例としては、ε−カプロラクトン、ω−オキシカプロン酸などから合成されたポリカプロラクトン系ポリエステルオリゴマーを挙げることができる。
【0093】
熱可塑性ポリエステルエラストマーを製造するためのエステル化反応、エステル交換反応、重縮合反応などは、常法に従って行うことができる。
エステル化反応またはエステル交換反応は、通常120〜250℃、好ましくは150〜230℃で行われる。また、重縮合反応は、通常1333Pa以下(10torr以下)の減圧下に、200〜280℃の温度で2〜6時間行われる。
これらの反応における触媒としては、それぞれ、スズ、チタン、亜鉛、マンガンなどの金属のアルコラート化合物、塩化物、酸化物などのうちの1種または2種以上を使用することができ、そのうちでも、有機チタン系化合物、特にテトラブチルチタネートが好ましく用いられる。
【0094】
また、熱可塑性ポリエステルエラストマーの製造に当たっては、助剤として、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、またはそれらの金属塩などを加えてもよい。特に、次亜リン酸アルカリ金属塩を添加して反応を行うと、末端カルボキシル基の含有率が少なくて、耐加水分解性に優れる熱可塑性ポリエステルエラストマーを得ることができる。その際の次亜リン酸アルカリ金属塩としては、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウムなどを挙げることができ、特に次亜リン酸ナトリウムが好ましく用いられる。次亜リン酸アルカリ金属塩の添加量は、生成する熱可塑性ポリエステルエラストマーに対し、好ましくは1〜1,000ppm、より好ましくは3〜200ppm、更に好ましくは5〜80ppmである。次亜リン酸アルカリ金属塩の添加量が1ppm未満であると、添加効果が十分に得られず、一方1,000ppmを超えて添加しても、効果が変わらずかえって重縮合反応を阻害するので好ましくない。
【0095】
次亜リン酸アルカリ金属塩の添加方法は特に制限されず、製造中の溶融ポリマーに次亜リン酸アルカリ金属塩を溶液状、スラリー状、固体状などのどのような状態で添加してもよい。また、次亜リン酸アルカリ金属塩の添加時点としては、少なくとも重縮合反応終了前、すなわちエステル化反応前またはエステル交換反応前から重縮合反応終了の前までの間であればどの時点であってもよい。特に、減圧下での重縮合反応の開始直前に、スラリー状で添加することが重合性の低下が少なく好ましい。
【0096】
熱可塑性ポリエステルエラストマーの製造反応は、他の添加剤、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、トリアゾール系光安定剤などの添加剤やその他の添加剤の存在下に行ってもよい。特に、本発明で用いる熱可塑性ポリエステルエラストマーは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を該熱可塑性エラストマーの質量に基づいて0.01〜1質量%の割合で含有していることができる。
【0097】
本発明では、熱可塑性ポリエステルエラストマーとして、市販のものを用いてもよい。何ら限定されるものではないが、本発明で用い得る市販の熱可塑性ポリエステルエラストマーの例としては、東洋紡績株式会社製の「ペルプレンP」または「ペルプレンS」(商品名)、東レ・デュポン株式会社製の「ハイトレル」(商品名)、日本ジーイープラスチック株式会社製の「ローモッド」(商品名)、日本合成化学工業株式会社製の「ニチゴーポリエスター」(商品名)、帝人株式会社製の「帝人ポリエステルエラストマー」(商品名)などを挙げることができる。
【0098】
本発明の熱可塑性重合体組成物で熱可塑性エラストマー(III)の1種として用い得る熱可塑性ポリアミドエラストマーは、一般に、ポリアミド(ナイロン6,ナイロン66,ナイロン11,ナイロン12など)をハードセグメントとし、ポリエーテルまたはポリエステルをソフトセグメントとするブロック共重合体、すなわちポリエーテル・ポリアミド型熱可塑性ポリアミドエラストマーまたはポリエステル・ポリアミド型熱可塑性ポリアミドエラストマーであり、本発明の熱可塑性重合体組成物では、いずれの熱可塑性ポリアミドエラストマーを使用してもよい。
【0099】
本発明で用い得るポリエーテル・ポリアミド型熱可塑性ポリアミドエラストマーは、一般に下記の一般式(1)で表される。
【0100】
【化1】
HO−(−CO−PA−CO−O−PG−O−)n−H (1)
(式中、PAはハードセグメントをなすポリアミドブロックを示し、PGはソフトセグメントをなすポリエーテルブロックを示し、nは1以上の整数を示す。)
【0101】
本発明で好ましく用いることのできる上記の一般式(1)で表されるポリエーテル・ポリアミド型熱可塑性ポリアミドエラストマーは、例えば米国特許第3,044,978号明細書などに開示されているように、公知の物質である。
上記の一般式(1)で表されるポリエーテル・ポリアミド型熱可塑性ポリアミドエラストマーは、例えば、ポリアミドブロック(ハードセグメント)を構成するためのジアミンとジカルボン酸の塩、ラクタム類またはアミノジカルボン酸と、ポリエーテルブロック(ソフトセグメント)を構成するためのポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコールを、アジピン酸などのジカルボン酸の存在下で重縮合させることによって製造することができる。前記の反応において、アジピン酸などのジカルボン酸は、ポリアミドオリゴマーを形成させる際の分子量調節剤として、さらにポリエーテルジオール結合をつくることによる高分子量化剤として働く。
【0102】
本発明では、市販の熱可塑性ポリアミドエラストマーをそのまま用いてもよい。何ら限定されるものではないが、本発明で用い得る市販の熱可塑性ポリアミドエラストマーの例としては、アトフィナ・ジャパン株式会社製の「ペバックス」(商品名)、ダイセル・ヒュルス社製の「ダイアミド−PAE」(商品名)、宇部興産株式会社製の「UBEポリアミドエラストマー」(商品名)、三菱化学株式会社製の「ノバミッドPAE」(商品名)、大日本インキ化学工業株式会社製の「グリラックスA」(商品名)、エムスジャパン株式会社製の「グリロンELX、ELY」(商品名)などを挙げることができる。
【0103】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、必要に応じて、パラフィン系オイル(IV)を更に含有することができる。本発明で用い得るパラフィン系オイルの種類は特に制限されず、パラフィンオイルと称されているものであればいずれも使用できる。一般に、プロセスオイルなどとして用いられるオイルは、ベンゼン環やナフテン環などの芳香族環を有する成分とパラフィン成分(鎖状炭化水素)などが混合したものであり、パラフィン鎖を構成する炭素数が、オイルの全炭素数の50質量%以上を占めるものを「パラフィンオイル」と称している。
パラフィン系オイル(IV)としては、芳香族環を有する成分の含有量が5質量%以下のものが好ましく用いられる。
【0104】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物では、パラフィン系オイル(IV)として、40℃での動粘度が20〜800mm2/s、流動温度が0〜−40℃および引火点が200〜400℃のパラフィン系オイルが好ましく用いられ、40℃での動粘度が50〜600mm2/s、流動温度が0〜−30℃および引火点が250〜350℃のパラフィン系オイルがより好ましく用いられる。
なお、本明細書におけるパラフィン系オイル(IV)の40℃における動粘度(mm2/s)とは、B型粘度計を使用して、温度40℃で測定した粘度を、40℃におけるパラフィン系オイル(IV)の密度で除した商の値をいう。
【0105】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、付加重合系ブロック共重合体(I)として、ガラス転移点が−45℃以上である上記した付加重合系ブロック共重合体(Ia)のみを含有するか、または該付加重合系ブロック共重合体(Ia)とガラス転移点が−45℃未満の付加重合系ブロック共重合体(Ib)の両方を含有する。
本発明の熱可塑性重合体組成物では、付加重合系ブロック共重合体(Ia):付加重合系ブロック共重合体(Ib)の含有割合が、質量比で100:0〜25:75であることが必要であり、100:0〜40:60であることが好ましく、100:0〜50:50であることがより好ましい。
付加重合系ブロック共重合体(Ia)と付加重合系ブロック共重合体(Ib)の合計質量に対して、付加重合系ブロック共重合体(Ib)の割合が75質量%を超えると、熱可塑性重合体組成物の溶融粘度が高くなって、溶融流動性が低下して、成形加工性に劣るようになり易く、しかも付加重合系ブロック共重合体(I)、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)および熱可塑性エラストマー(III)の間の相容性が低下して成形品や積層構造体における表面荒れ、溶融接着性の低下による層間の接着性の低下などが生じ易くなる。
【0106】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部[付加重合系ブロック共重合体(I)として付加重合系ブロック共重合体(Ia)のみを用いた場合は付加重合系ブロック共重合体(Ia)100質量部、付加重合系ブロック共重合体(Ia)と付加重合系ブロック共重合体(Ib)を併用した場合は両者の合計100質量部;以下同じ]に対して、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)を5〜200質量部の割合で含有することが必要であり、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)を10〜180質量部、特に20〜150質量部の割合で含有することが好ましい。
ポリウレタン系ブロック共重合体(II)の含有割合が、付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して5質量部未満であると、付加重合系ブロック共重合体(I)と熱可塑性エラストマー(III)との相容性が不十分になり、熱可塑性重合体組成物を用いて得られる成形品や積層構造体などの製品に、表面荒れや、層間の接着性の低下を生ずる。一方、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)の含有割合が、付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して200質量部を超えると、やはり熱可塑性重合体組成物を用いて得られる成形品や積層構造体などの製品に、表面荒れや、層間の接着性や引張強度や引張破断伸びなどの力学的特性の低下を生ずる。
【0107】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して、熱可塑性ポリエステルエラストマーおよび熱可塑性ポリアミドエラストマーから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性エラストマー(III)を10〜300質量部の割合で含有することが必要であり、50〜250質量部の割合で含有することが好ましい。
付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して前記熱可塑性エラストマー(III)の含有割合が10質量部未満であると、他の材料との溶融接着性の低下、成形品などにおける表面荒れなどを生じ、しかも成形性が不安定になる。一方、付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して前記熱可塑性エラストマー(III)の含有割合が300質量部を超えると、成形品の柔軟性の低下、成形品の硬度の上昇を生ずる。
【0108】
上記のように、本発明の熱可塑性重合体組成物は必要に応じてパラフィン系オイル(IV)を含有することができるが、その含有量は、付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して300質量部以下であることが好ましく、250質量部以下であることがより好ましい。付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対してパラフィン系オイル(IV)の含有量が300質量部を超えると、他の材料との溶融接着性の低下、引張強度や引張破断伸びなどの力学的特性の低下、成形品表面の荒れ、成形中のスプレー切れなどの問題を生ずる。
【0109】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、上記した成分と共に必要に応じてオレフィン系重合体、スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエチレングリコールなど他の熱可塑性重合体を含有していてもよい。特に、本発明の熱可塑性重合体組成物中にオレフィン系重合体を含有させると、熱可塑性重合体組成物の加工性、機械的強度を更に向上させることができるので好ましい。オレフィン系重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン樹脂、プロピレンとエチレンや1−ブテンなどの他のα−オレフィンとのブロック共重合体やランダム共重合体などの1種または2種以上を使用することができる。本発明の熱可塑性重合体組成物にオレフィン系重合体をさらに配合させる場合に、その配合量は、熱可塑性重合体組成物の柔軟性を損なわないようにするために、一般に付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して200質量部以下であることが好ましい。
【0110】
さらに、本発明の熱可塑性重合体組成物は、必要に応じて無機充填剤を含有することができる。無機充填剤は、本発明の熱可塑性重合体組成物の高硬度化、増量剤としての経済性の改善に有用である。無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー、合成珪素、酸化チタン、カーボンブラック、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの1種または2種以上を使用できる。無機充填剤をさらに配合させる場合、その配合量は、熱可塑性重合体組成物の柔軟性が損なわれない範囲であることが好ましく、通常、付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して200質量部以下が好ましい。
【0111】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物は、上記した成分以外に、必要に応じて滑剤、光安定剤、顔料、難燃剤、帯電防止剤、シリコンオイル、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料など他成分の1種または2種以上を含有していてもよい。
【0112】
本発明の熱可塑性重合体組成物の製造法は特に限定されず、本発明の熱可塑性重合体組成物において用いられる上記した成分を均一に混合し得る方法であればいずれの方法で製造してもよく、通常、溶融混練法が用いられる。溶融混練は、例えば、単軸押出機、2軸押出機、ニーダー、ロール、バンバリーミキサーなどの溶融混練装置を用いて行うことができ、通常、約170〜250℃の温度で約30秒〜15分間程度溶融混練することにより、本発明の熱可塑性重合体組成物を得ることができる。
【0113】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、溶融粘度が低くて、溶融流動性に富み、成形加工性に優れているので、単独で用いて各種の成形品を製造することができ、その場合には柔軟性、弾性、力学的特性、耐油性に優れる種々の成形品を得ることができる。その際の成形方法としては、熱可塑性重合体に対して一般に用いられている各種の成形方法を使用することができ、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、流延成形、スラッシュ成形などの任意の成形法を採用できる。
【0114】
さらに、本発明の熱可塑性重合体組成物は溶融接着性に極めて優れていて、各種の他の材料(例えば、合成樹脂、ゴム、金属、木材、セラミック、紙、布帛など)と溶融下に強固に接着することができるので、他の材料との積層構造体(複合構造体)の製造に特に有効に使用することができ、したがって、本発明は本発明の熱可塑性重合体組成物の層および他の材料の層を有する積層構造体(複合体)を本発明の範囲に包含する。本発明の熱可塑性重合体組成物を溶融接着させる他の材料の種類は特に制限されないが、本発明の熱可塑性重合体組成物は、特に極性を有する材料に対する溶融接着性に優れている。そのため、本発明は、熱可塑性重合体組成物と極性を有する他の材料との積層構造体をその好ましい態様として包含する。
【0115】
本発明の積層構造体に使用する極性を有する他の材料としては、例えばポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリエーテル、ポリスルフォン、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン/無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)、ゴム強化ポリスチレン(HIPS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体(MS樹脂)、メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリロニトリル/スチレン/ブタジエン系共重合体、塩化ビニル系重合体、塩化ビニリデン系重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリフッ化ビニリデンフェノール樹脂、エポキシ樹脂などの各種の合成樹脂;イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブタジエン−スチレンゴム、ブタジエン−アクリロニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリロニトリルゴムなどの各種の合成ゴム;鉄、アルミニウム、銅などの金属やステンレス、ブリキ、トタンなどの各種合金などを挙げることができる。これらの中でも、本発明の熱可塑性重合体組成物はポリアミドに対する溶融接着性に極めて優れる。しかしながら、本発明の積層構造体を構成する他の材料は、勿論、前記のものに何ら限定されない。
【0116】
本発明の積層構造体では、層の数、各層の厚さ、形状、構造なども特に制限されず、積層構造体の用途などに応じて決めることができる。何ら限定されるものではないが、本発明の積層構造体としては、例えば、熱可塑性重合体組成物の1つの層と他の材料の1つの層を有する積層構造体、他の材料を挟んでその両側に熱可塑性重合体組成物の層を有する積層構造体、2つの他の材料の層の間に熱可塑性重合体組成物の層を有する積層構造体、熱可塑性重合体組成物の層を少なくとも1層有しかつ同じかまたは異なる他の材料の層を2層以上有する積層構造体などを挙げることができる。そして、積層構造体が他の材料からなる層を2つ以上有する場合は、それぞれの層を構成する他の材料は同じであっても、または異なっていてもよい。また、積層構造体が本発明の熱可塑性重合体組成物よりなる層を2つ以上有する場合は、それぞれの層を構成する熱可塑性重合体組成物は同じであっても、または異なっていてもよい。
【0117】
熱可塑性重合体組成物からなる層と他の材料からなる層を有する本発明の積層構造体の製法は特に制限されず、溶融接着により積層構造体を製造する方法であればいずれの方法を採用して行ってもよい。そのうちでも、本発明の積層構造体の製造に当たっては、例えばインサート射出成形法、二色射出成形法、コアバック射出成形法、サンドイッチ射出成形法、インジェクションブレス成形法などの射出成形方法;Tダイラミネート成形法、共押出成形法、押出被覆法などの押出成形法;ブロー成形法;カレンダー成形法;プレス成形法;スラッシュ成形法;溶融注型法などの溶融を伴う成形法を採用することができる。
【0118】
前記した成形法のうち、インサート射出成形法による場合は、予め所定の形状および寸法に形成しておいた他の材料を金型内にインサートしておき、そこに本発明の熱可塑性重合体組成物を射出成形して本発明の熱可塑性重合体組成物よりなる層と他の材料よりなる層を有する積層構造体を製造する方法が一般に採用される。この場合に、金型内にインサートしておく他の材料の形成方法は特に制限されない。インサートしておく他の材料が合成樹脂やゴム製品である場合は、例えば、射出成形、押出成形、カレンダー成形とその所定の寸法への切断、プレス成形、注型などのいずれの方法で製造したものであってもよい。また、インサートしておく他の材料が金属材料である場合は、例えば、金属製品を製造する従来汎用の方法(鋳造、圧延、切断、工作加工、研削加工など)によって所定の形状および寸法に予め形成しておけばよい。
【0119】
また、上記した二色射出成形法によって積層構造体を製造する場合は、二台以上の射出装置を用いて、金型内に他の材料を射出成形した後に、金型の回転や移動などによって金型キャビティーを交換し、最初の射出成形によって形成した他の材料からなる成形品と第2の金型壁との間に形成された空隙部に本発明の熱可塑性重合体組成物を射出成形して積層構造体を製造する方法が一般に採用される。上記したコアバック射出成形法による場合は、1台の射出成形機と1個の金型を用いて、金型内に他の材料を最初に射出成形して成形品を形成した後、その金型のキャビティーを拡大させ、そこに本発明の熱可塑性重合体組成物を射出成形して積層構造体を製造する方法が一般に採用される。
【0120】
また、前記した射出成形方法において、材料の射出順序を逆にして、金型に最初に本発明の熱可塑性重合体組成物を射出して第1の成形品をつくり、次いで他の材料(熱可塑性樹脂など)を射出成形して積層構造体を製造してもよい。
【0121】
上記した押出成形によって本発明の熱可塑性重合体組成物の層と他の熱可塑性材料の層を有する積層構造体を製造する場合は、内側と外側、上側と下側、左側と右側とに2層以上に分割された金型(押出ダイ部など)を通して、本発明の熱可塑性重合体組成物と他の材料(熱可塑性樹脂等)を2層以上に同時に溶融押出して接合させる方法などが採用できる。また、他の材料が熱可塑性でない場合は、他の材料の上や周囲に、本発明の熱可塑性重合体組成物を溶融下に押出被覆することによって積層構造体を製造することができる。さらに、例えば、カレンダー成形を行う場合は、溶融可塑化状態にあるかまたは固形状態にある他の材料上に、本発明の熱可塑性重合体組成物を溶融下にカレンダー加工して被覆積層させることにより目的とする積層構造体を製造することができる。また、例えば、プレス成形による場合は、他の材料の配置下に本発明の熱可塑性重合体組成物を用いて溶融プレスを行うことによって積層構造体を製造することができる。
【0122】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物から形成された成形品や層の表面に、各種塗装技術を用いて被覆層を形成させることができる。例えば、本発明の熱可塑性重合体組成物を用いて、インサート射出成形、二色射出成形、コアバック射出成形、サンドイッチ射出成形、インジェクションブレス成形などの射出成形;Tダイラミネート成形、共押出成形、押出被覆などの押出成形;ブロー成形;カレンダー成形;プレス成形;スラッシュ成形;溶融注型などのような溶融を伴う成形技術を使用して成形品や層構造物を製造し、その成形品や層構造物の表面に各種塗装技術(例えば流動浸漬法、静電塗装法、溶射法、吹付塗装など)を用いて、被覆層(コーティング層)を形成して、塗装された各種成形品や積層構造体を製造することができる。
【0123】
本発明の積層構造体の種類、形状、構造、用途などは特に制限されず、上記した本発明の熱可塑性重合体組成物からなる層と他の材料からなる層を有する積層構造体であればそのいずれもが本発明の範囲に包含される。何ら限定されるものではないが、本発明の積層構造体は、各種工業製品や部品として使用することができる。その具体例としては、インストルメントパネル、センターパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラー、アシストグリップなどの自動車や車両用の各種内装部材;モール等の自動車外装部品;掃除機のバンパー、リモコンスイッチやツマミ、OA機器の各種キートップなどの家電部品;水中メガネ、水中カメラカバーなどの水中使用製品;各種カバー部品;密閉性、防水性、防音性、防振性を目的する各種パッキン付き工業部品;ラック&ピニオンブーツ、サスペンションブーツ、等速ジョイントブーツなどの自動車機能部品;カールコード電線被覆、ベルト、ホース、チューブ、消音ギアなどの電気・電子部品;スポーツ用品;ドア、窓枠材などの建築用資材;各種継手;バルブ部品;医療用ギプス等々の各種製品を挙げることができる。そして、本発明の熱可塑性重合体組成物からなる層が積層構造体の少なくとも1つの表面に現れている製品においては、該熱可塑性重合体組成物が弾力性で且つ柔軟性を有することにより、接触したときに柔らかい良好な感触を示し、しかも衝撃吸収性(クッション性)を有し、耐衝撃性にも優れているので、安全面でも優れたものとなる。
【0124】
【実施例】
以下に本発明を参考例、実施例、比較例などにより具体的に説明するが、本発明は以下の例により何ら限定されない。
以下の例(参考例)では、熱可塑性重合体組成物の製造に用いた付加重合系ブロック共重合体(I)[(Ia−1)〜(Ia−3)および(Ib−1)〜(Ib−3)]およびポリウレタン系ブロック共重合体(II)の製造に用いた付加重合系ブロック共重合体のガラス転移点の測定は次のようにして行った。
また、以下の実施例または比較例において成形品および積層構造体の製造に用いた熱可塑性重合体組成物(ペレット)は後述するとおり製造した。それにより得られた熱可塑性重合体組成物(ペレット)のメルトフローレート(MFR)は下記の通り測定した。また、それぞれの熱可塑性重合体組成物(ペレット)を用いて、下記の手順で成形品(試験片)および積層構造体をつくり、それらの物性、すなわち成形品の外観、硬度、引張破断強度、引張破断伸びおよび100%モジュラス、並びに積層構造体の剥離強度を次のようにして測定した。
【0125】
(1)ガラス転移点の測定:
以下の参考例1〜3で製造した付加重合系ブロック共重合体(I)[(Ia−1)〜(Ia−3)および(Ib−1)〜(Ib−3)]またはポリウレタン系ブロック共重合体(II)の製造に用いた付加重合系ブロック共重合体を用い、プレス成形機を使用して厚さ2mmのシートを作製した[成形温度200℃、予熱時間1分、プレス圧力10MPa、プレス時間1分、冷却時間1分(温度30℃)]。得られたシートから約10mgのサンプルを採取し、セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量計「DSC 200」で、温度範囲−50〜50℃、昇温速度10℃/分の測定条件で、窒素雰囲気下にて、ガラス転移温度を測定した。
【0126】
(2)熱可塑性重合体組成物(ペレット)の製造:
以下の実施例および比較例で用いた各材料のうち、パラフィン系オイル以外の重合体材料をドライブレンドし、これにパラフィン系オイルを添加して含浸させて混合物をつくるか、またはパラフィン系オイルを添加しないで混合物を作り、その混合物を2軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX−44XCT」)を使用して、シリンダー温度230℃およびスクリュー回転数150rpmで溶融混練した後、ストランド状に押し出し、切断して、熱可塑性重合体組成物のペレットを製造した。
【0127】
(3)メルトフローレート(MFR)の測定:
上記の(2)で製造した熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、JIS K 7210に準じて、温度230℃、2.16kg荷重におけるMFRを測定して、成形性(溶融流動性)の指標とした。
【0128】
(4)成形品の外観の評価:
上記(2)で製造した熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、射出成形機(東芝機械株式会社製「IS−55EPN;55トン」)を使用して、シリンダー温度220℃および金型温度40℃の条件下に射出成形を行って成形品(試験片)(寸法:縦×横×厚み=100mm×35mm×2mm)を製造し、それにより得られた成形品の外観を目視により観察し、以下の表1に示す評価基準にしたがって評価した。
【0129】
【表1】
【0130】
(5)硬度の測定:
上記の(4)で作製した成形品(試験片)を用いて、JIS K 6253(タイプA)に準じて、硬度を測定した。
【0131】
(6)引張破断強度、引張破断伸びおよび100%モジュラスの測定:
上記の(2)で製造した熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、射出成形機(東芝機械株式会社製「IS−55EPN;55トン」)を使用して、シリンダー温度220℃および金型温度40℃の条件下に成形品(寸法:縦×横×厚み=100mm×35mm×2mm)を製造し、この成形品から5号ダンベル試験片を打ち抜き、JIS K 6251に準じて、引張破断強度、引張破断伸びおよび100%モジュラスを測定した。
【0132】
(7)積層構造体における剥離強度の測定:
(a)金型内に、合成樹脂板(寸法:縦×横×厚み=100mm×35mm×1mm)を予め配置して置き、そこに上記の(2)で製造した熱可塑性重合体組成物のペレットを用いて、射出成形機(東芝機械株式会社製「IS−55EPN;55トン」)を使用して、シリンダー温度220℃および金型温度40℃の条件下に射出成形を行って、樹脂板の一方の表面に熱可塑性重合体組成物の層が積層した積層構造体(寸法:縦×横×厚み=100mm×35mm×2mm)を製造した。
(b)上記(a)で得られた積層構造体から剥離強度測定用の試験片(寸法:縦×横×厚み=80mm×25mm×2mm)を切り出し、それを用いてJIS K 6854に記載の「180度剥離試験」に準じて剥離強度を測定した。
【0133】
また、以下の実施例および比較例で用いた熱可塑性エラストマー(III)およびパラフィン系オイル(IV)の略号と内容、並びに以下の実施例および比較例において積層構造体を製造するのに用いた合成樹脂板を構成する合成樹脂の略号と内容は次のとおりである。
【0134】
[熱可塑性エラストマー(III)]
○III −1:
熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)[株式会社クラレ製「クラミロンU 9190」;ポリテトラメチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテル型ポリウレタンエラストマー]
○III −2:
熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPEE)[東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル4047」:ポリブチレンテレフタレートをハードセグメント、ポリエーテルをソフトセグメントとするポリエーテル型ポリエステルエラストマー]
○III −3:
熱可塑性ポリアミドエラストマー(TPAE)[アトフィナ・ジャパン株式会社製「Pebax3533」:ポリアミドをハードセグメント、ポリエーテルをソフトセグメントとするポリエーテル型ポリアミドエラストマー]
【0135】
[パラフィン系オイル(IV)]
○パラフィン系オイル: 出光興産株式会社製「PW−380」(40℃での動粘度:381.6mm2/s)
【0136】
[積層構造体の製造に用いた合成樹脂板を構成する合成樹脂]
○PC:
ポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製「パンライトL−1225」)
○ABS:
アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂(旭化成株式会社製「スタイラック101」)
○PA66:
ナイロン66樹脂(旭化成株式会社製「レオナS1300」)
○PMMA:
ポリメタクリル酸メチル樹脂(株式会社クラレ製「パラペットG」)
【0137】
《参考例1》[付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)の製造]
(1) 窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン60リットル、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム0.21リットルおよびルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.32リットルを仕込み、50℃に昇温した後、スチレン1.9リットルを加えて2時間重合させ、引き続いてイソプレン12.0リットルを加えて3時間重合を行い、その後スチレン1.9リットルを加えて2時間重合させた。得られた重合反応液をメタノール80リットル中に注いで再沈殿操作を行い、析出した固体を濾別して50℃で20時間乾燥することによって、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体を得た。
(2) 次に、上記(1)で得られたトリブロック共重合体11kgをシクロヘキサン100リットルに溶解し、水添触媒としてPd−C(Pd担持量;5質量%)を該トリブロック共重合体に対して5質量%の割合で添加し、水素圧力2MPa、150℃の温度条件で10時間水素添加反応を行った。放冷、放圧後に、濾過によりPd−C触媒を除去し、濾液を濃縮し、さらに真空乾燥することにより水添ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体[以下これを「付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)」という]を得た。
(3) 上記(2)で得られた付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)のガラス転移点を上記した方法で測定したところ−13℃であり、またこの付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)のスチレン含有量は30質量%、水添率は97%、数平均分子量は70000であった。
【0138】
《参考例2》[付加重合系ブロック共重合体(Ia−2)の製造]
(1) 参考例1の(1)において、溶媒としてシクロヘキサン60リットル、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム0.14リットル、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.31リットルを用い、重合させるモノマーとしてスチレン1.7リットル、イソプレン10.6リットルおよびスチレン1.7リットルを逐次加えて、参考例1の(1)と同様にして重合反応を行って、非水添のポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体[以下これを「付加重合系ブロック共重合体(Ia−2)」という]を得た。
(2) 上記(1)で得られた付加重合系ブロック共重合体(Ia−2)のガラス転移点を上記した方法で測定したところ−15℃であり、またこの付加重合系ブロック共重合体(Ia−2)のスチレン含有量は30質量%、数平均分子量は98000であった(水添率0%)。
【0139】
《参考例3》[付加重合系ブロック共重合体(Ia−3)の製造]
(1) 参考例1の(1)において、溶媒としてシクロヘキサン60リットル、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム0.19リットル、ルイス塩基としてテトラヒドロフラン0.32リットルを用い、重合させるモノマーとしてスチレン0.9リットル、イソプレンとブタジエンの混合モノマー(50:50,質量比)14.4リットルおよびスチレン0.9リットルを逐次加えた以外は、参考例1の(1)と同様にして重合反応を行って、ポリスチレン−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリスチレントリブロック共重合体を得た。
(2) 上記(1)で得られたトリブロック共重合体を参考例1の(2)と同様にして水添して、水添ポリスチレン−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリスチレントリブロック共重合体[以下これを「付加重合系ブロック共重合体(Ia−3)」という]を得た。
(3) 上記(2)で得られた付加重合系ブロック共重合体(Ia−3)のガラス転移点を上記した方法で測定したところ−30℃であり、またこの付加重合系ブロック共重合体(Ia−3)のスチレン含有量は15質量%、水添率は98%、数平均分子量は83000であった。
【0140】
《参考例4》[付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)の製造]
(1) 参考例1の(1)において、溶媒としてシクロヘキサン60リットル、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム0.044リットル、ルイス塩基は添加せずに、重合させるモノマーとしてスチレン1.1リットル、ブタジエン4.5リットルおよびスチレン1.1リットルを逐次加えた以外は、参考例1の(1)と同様にして重合反応を行って、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体を得た。
(2) 上記(1)で得られたトリブロック共重合体を参考例1の(2)と同様にして水添して、水添ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体[以下これを「付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)」という]を得た。
(3) 上記(2)で得られた付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)のガラス転移点を上記した方法で測定したところ−56℃であり、またこの付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)のスチレン含有量は30質量%、水添率は98%、数平均分子量は198000であった。
【0141】
《参考例5》[付加重合系ブロック共重合体(Ib−2)の製造]
(1) 参考例1の(1)において、溶媒としてシクロヘキサン60リットル、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム0.047リットル、ルイス塩基は添加せずに、重合させるモノマーとしてスチレン1.0リットル、イソプレン6.7リットルおよびスチレン1.0リットルを逐次加えた以外は、参考例1の(1)と同様にして重合反応を行って、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体を得た。
(2) 上記(1)で得られたトリブロック共重合体を参考例1の(2)と同様にして水添して、水添ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体[以下これを「付加重合系ブロック共重合体(Ib−2)」という]を得た。
(3) 上記(2)で得られた付加重合系ブロック共重合体(Ib−2)のガラス転移点を上記した方法で測定したところ−61℃であり、またこの付加重合系ブロック共重合体(Ib−2)のスチレン含有量は29質量%、水添率は97%、数平均分子量は187000であった。
【0142】
《参考例6》[付加重合系ブロック共重合体(Ib−3)の製造]
(1) 参考例1の(1)において、溶媒としてシクロヘキサン60リットル、重合開始剤としてsec−ブチルリチウム0.041リットル、ルイス塩基は添加せずに、重合させるモノマーとしてスチレン1.1リットル、イソプレンとブタジエンの混合モノマー(50:50,質量比)6.9リットルおよびスチレン1.1リットルを逐次加えた以外は、参考例1の(1)と同様にして重合反応を行って、ポリスチレン−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリスチレントリブロックからなるトリブロック共重合体を得た。
(2) 上記(1)で得られたトリブロック共重合体を参考例1の(2)と同様にして水添して、水添ポリスチレン−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリスチレントリブロック共重合体[以下これを「付加重合系ブロック共重合体(Ib−3)」という]を得た。
(3) 上記(2)で得られた付加重合系ブロック共重合体(Ib−3)のガラス転移点を上記した方法で測定したところ−60℃であり、またこの付加重合系ブロック共重合体(Ib−3)のスチレン含有量は30質量%、水添率は98%、数平均分子量は212000であった。
【0143】
《参考例7》[ポリウレタン系ブロック共重合体(II−1)の製造]
ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンからなる分子の片末端に水酸基を有するトリブロック共重合体の水添物(SEPS−OH)(数平均分子量88,000、スチレン含量=29質量%、ポリイソプレンブロックにおける水添率=98%、ガラス転移点=−15℃、平均水酸基数=0.9個/分子)100質量部と、熱可塑性ポリウレタン[株式会社クラレ製「クラミロン1180」(商品名);ポリブチレンアジペートをソフトセグメントとするポリエステル系ポリウレタンエラストマー]100質量部をドライブレンドし、二軸押出機(株式会社日本製鋼製「TEX−44XCT」)を用いてシリンダー温度230℃およびスクリュー回転数150rpmの条件下に溶融混練した後、ストランド状に押し出し、切断してペレットをつくり、それにより得られたペレットからジメチルホルアミドを用いて未反応のポリウレタンを抽出除去し、次いでシクロヘキサンを用いて未反応のSEPS−OHを抽出除去し、残留した固形物を乾燥することにより、付加重合系ブロック共重合体(SEPS)と熱可塑性ポリウレタン(「クラミロン1180」)とが結合したポリウレタン系ブロック共重合体[以下これを「ポリウレタン系ブロック共重合体(II−1)」という]を製造した。
【0144】
《参考例8》[ポリウレタン系ブロック共重合体(II−2)の製造]
ポリスチレン−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリスチレンからなる分子の片末端に水酸基を有するトリブロック共重合体の水添物(SEEPS−OH)[数平均分子量115,000、スチレン含量=28質量%、ポリ(イソプレン/ブタジエン)ブロックにおける水添率=98%、ガラス転移点=−15℃、平均水酸基数=0.9個/分子]100質量部と、熱可塑性ポリウレタン(「クラミロン1180」)100質量部をドライブレンドし、二軸押出機(株式会社日本製鋼製「TEX−44XCT」)を用いてシリンダー温度220℃およびスクリュー回転数150rpmの条件下に溶融混練した後、ストランド状に押し出し、切断してペレットをつくり、それにより得られたペレットからジメチルホルアミドを用いて未反応のポリウレタンを抽出除去し、次いでシクロヘキサンを用いて未反応のSEEPS−OHを抽出除去し、残留した固形物を乾燥することにより、付加重合系ブロック(SEEPS)と熱可塑性ポリウレタン(「クラミロン1180」)とが結合したポリウレタン系ブロック共重合体[以下これを「ポリウレタン系ブロック共重合体(II−2)」という]を製造した。
【0145】
《参考例9〜18および実施例1〜2》
(1) 付加重合系ブロック共重合体(I)として、付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)〜(Ia−3)のいずれかを単独で使用するか(参考例12、15および17)または付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)〜(Ia−3)のいずれかと付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)〜(Ib−3)のいずれかを本発明で規定する質量比で使用し(参考例9〜11、13〜14、16、18および実施例1〜2)、更にポリウレタン系ブロック共重合体(II−1)〜(II−2)のいずれかおよび熱可塑性エラストマー(III−1)〜(III−3)のいずれかと共に場合によりパラフィン系オイル(IV)を、下記の表2および表3に示す割合で用いて、上記した方法で熱可塑性重合体組成物のペレットをそれぞれ製造した。
それぞれで得られたペレットのメルトフローレート(MFR)を上記した方法で測定したところ、下記の表2〜表4に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれのペレットを用いて、上記した方法で成形品(試験片)および積層構造体を製造した。その結果得られた成形品の外観の評価を上記した方法で行うと共に、成形品の硬度、引張破断強度、引張破断伸びおよび100%モジュラス、並びに積層構造体の剥離強度を上記した方法で測定したところ、下記の表2および表3に示すとおりであった。
【0146】
《比較例1〜8》
(1) 付加重合系ブロック共重合体(I)として、ガラス転移点が−45℃以上である付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)〜(Ia−3)のいずれをも用いずにガラス転移点が−45℃未満である付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)〜(Ib−3)のいずれかのみを使用するか(比較例1〜7)、または付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)と付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)を併用したものの付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)を75質量%を超える割合で使用し(比較例8)、更にポリウレタン系ブロック共重合体(II−1)〜(II−2)のいずれかおよび熱可塑性エラストマー(III−1)〜(III−3)のいずれかと共にパラフィン系オイル(IV)を、下記の表4および表5に示す割合で用いて、上記した方法で熱可塑性重合体組成物のペレットをそれぞれ製造した。
それぞれで得られたペレットのメルトフローレート(MFR)を上記した方法で測定したところ、下記の表4および表5に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれのペレットを用いて、上記した方法で成形品(試験片)および積層構造体を製造した。その結果得られた成形品の外観の評価を上記した方法で行うと共に、成形品の硬度、引張破断強度、引張破断伸びおよび100%モジュラス、並びに積層構造体の剥離強度を上記した方法で測定したところ、下記の表4および表5に示すとおりであった。
【0147】
【表2】
【0148】
【表3】
【0149】
【表4】
【0150】
【表5】
【0151】
上記の表2および表3の結果にみるように、付加重合系ブロック共重合体(I)として、付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)〜(Ia−3)のいずれかを単独で使用するか、または付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)〜(Ia−3)のいずれかと付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)〜(Ib−3)のいずれかを、付加重合系ブロック共重合体(I)全体の質量に対して付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)〜(Ib−3)の割合が75質量%以下になるように使用し、それにポリウレタン系ブロック共重合体(II−1)および(II−2)のいずれか、並びに熱可塑性エラストマー(III−1)〜(III−3)のいずれかを配合し、場合により更にパラフィン系オイル(IV)を本発明で規定する量で配合した参考例9〜18および実施例1〜2の熱可塑性重合体組成物は、そのMFR値が高くて溶融流動性(成形加工性)に優れること、得られた成形品の表面に荒れがなく外観が優れていること、しかも硬度、引張破断強度、引張破断伸び、100%モジュラスなどの特性をバランス良く備え、総じて各種の合成樹脂に対して良好に溶融接着する。
【0152】
一方、上記の表4および表5にみるように、付加重合系ブロック共重合体(I)として、ガラス転移点が−45℃以上である付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)〜(Ia−3)のいずれをも用いずに、ガラス転移点が−45℃未満である付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)〜(Ib−3)のいずれかのみを使用するか、または付加重合系ブロック共重合体(Ia−1)と付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)を併用したものの付加重合系ブロック共重合体(Ib−1)を75質量%を超える割合で使用した比較例1〜8では、熱可塑性重合体組成物のMFR値が実施例1〜12に比べて低く、溶融流動性(成形加工性)が十分ではない。
さらに、比較例1〜8の熱可塑性重合体組成物を用いて得られた成形品は、外観が不良であったり、強度が不足している場合があり、また他の合成樹脂に対する溶融接着強度も、実施例1〜12の熱可塑性重合体組成物に比べて総じて低く、溶融接着性が十分ではない。特に、比較例1〜8の熱可塑性重合体組成物は、いずれも、ポリアミド(PA66)に対する溶融接着性が著しく劣っている。
【0153】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、溶融流動性が良好で成形加工性に優れ、更には良好な弾力性、柔軟性、力学的特性、耐油性を有している。
しかも、本発明の熱可塑性重合体組成物は、溶融接着性に優れていて各種材料に対して共通して溶融下に強固に接着するため、本発明の熱可塑性重合体組成物を用いて、本発明の熱可塑性重合体組成物の層と他の材料からなる層を有する積層構造体や複合体を溶融成形やその他の溶融接着技術によって簡単にかつ円滑に製造することができる。そして、本発明の熱可塑性重合体組成物は弾力性、柔軟性に優れているので、本発明の熱可塑性重合体組成物からなる層を表面の少なくとも一部に有する積層構造体(複合体)は、柔軟で弾力性のある良好な感触を有し、しかもその衝撃吸収能やクッション作用によって安全面でも優れている。さらに、本発明の熱可塑性重合体組成物は、その優れた弾力性、柔軟性、力学的特性、耐油性、良好な成形加工性などの特性を活かして、熱可塑性重合体組成物単独でも各種の成形品の製造にも有効に使用することができる。
【0154】
そのため、本発明の熱可塑性重合体組成物からなる成形品、本発明の熱可塑性重合体組成物の層と他の材料からなる層を有する本発明の積層構造体は、上記した優れた特性を活かして、例えば、インストルメントパネル、センターパネル、センターコンソールボックス、ドアトリム、ピラー、アシストグリップなどの自動車や車両用の各種内装部材;モール等の自動車外装部品;掃除機のバンパー、リモコンスイッチやツマミ、OA機器の各種キートップなどの家電部品;水中メガネ、水中カメラカバーなどの水中使用製品;各種カバー部品;密閉性、防水性、防音性、防振性を目的する各種パッキン付き工業部品;ラック&ピニオンブーツ、サスペンションブーツ、等速ジョイントブーツなどの自動車機能部品;カールコード電線被覆、ベルト、ホース、チューブ、消音ギアなどの電気・電子部品;スポーツ用品;ドア、窓枠材などの建築用資材;各種継手;バルブ部品;医療用ギプス等の広範な用途に極めて有効に用いることができる。
Claims (6)
- (i) 芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエンから主としてなる重合体ブロックを有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種の付加重合系ブロック共重合体(I);
芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A3)と共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロック(B3)を有するブロック共重合体またはその水素添加物からなる付加重合系ブロック(C)と、熱可塑性ポリウレタンエラストマーブロック(D)を有するポリウレタン系ブロック共重合体(II);および、
熱可塑性ポリエステルエラストマーおよび熱可塑性ポリアミドエラストマーから選ばれる少なくとも1種の熱可塑性エラストマー(III);
を含有する熱可塑性重合体組成物であって;
(ii) 付加重合系ブロック共重合体(I)が、
・芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A1)を1つ以上と共役ジエンから主としてなる重合体ブロック(B1)を1つ以上有し、重合体ブロック(A1)の含有量が5〜45質量%であり且つ示査走査熱量分析法(DSC)によるガラス転移点が−45℃以上であるブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種の付加重合系ブロック共重合体(Ia)からなるか;または、
・前記付加重合系ブロック共重合体(Ia)と、芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロック(A2)を1つ以上と共役ジエンから主としてなる重合体ブロック(B2)を1つ以上有し、重合体ブロック(A2)の含有量が5〜45質量%であり且つ示査走査熱量分析法(DSC)によるガラス転移点が−45℃未満であるブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれる少なくとも1種の付加重合系ブロック共重合体(Ib)との併用からなり;且つ、
・付加重合系ブロック共重合体(I)における[付加重合系ブロック共重合体(Ia)]:[付加重合系ブロック共重合体(Ib)]の質量比が100:0〜25:75であり;
(iii) 付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して、ポリウレタン系ブロック共重合体(II)を5〜200質量部の割合および熱可塑性エラストマー(III)を100〜300質量部の割合で含有する;
ことを特徴とする熱可塑性重合体組成物。 - 付加重合系ブロック共重合体(I)100質量部に対して、さらにパラフィン系オイル(IV)を300質量部以下の割合で含有する請求項1に記載の熱可塑性重合体組成物。
- ポリウレタン系ブロック共重合体(II)における付加重合系ブロック(C)のガラス転移点が−45℃以上である請求項1または2に記載の熱可塑性重合体組成物。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体組成物からなる層および他の材料からなる層を有することを特徴とする積層構造体。
- 他の材料が、合成樹脂および金属から選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の積層構造体。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性重合体組成物を他の材料に対して溶融積層成形して、請求項5に記載の積層構造体を製造する方法。
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