JP3773160B2 - 耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼ及びその製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼ及びその製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
クレアチンアミジノハイドロラーゼは、クレアチンを加水分解してザルコシン及び尿素を生成する触媒作用を有する酵素であり、ヒトの血清中又は尿中のクレアチン量の測定に用いることができ、腎臓病をはじめとする各種の疾患の診断薬として利用することができる。
従来、アルカリゲネス属由来のクレアチンアミジノハイドロラーゼは、Km値がおおよそ13mMであり、また、耐熱性が45℃程度であるため、より低いKm値を示し、しかも、将来における試薬の液状化での流通、販売を考慮し、より高い温度に対し安定なクレアチンアミジノハイドロラーゼが求められていた。更に、従来、遺伝子改変により、クレアチンアミジノハイドロラーゼの耐熱化を行なった場合、Km値が原株と同等か、更に悪化してしまうことが多く、改変により耐熱性及びKm値が向上したものは存在しなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼ及びその製造法を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記目的に鑑み更に検討し、アルカリゲネス由来のクレアチンアミジノハイドラーゼ遺伝子(特開平8−89255号公報記載)の遺伝子改変を行なった結果、耐熱性クレアチンアミジノハイドラーゼが得られること等を見出し、本発明を完成した。
【0005】
即ち、本発明は、下記の理化学的性質を有する耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼであり、
(a)作用;1モルのクレアチンを加水分解し、1モルのザルコシン及び1モルの尿素を生成する。
(b)基質特異性;クレアチンに基質特異性を有する。
(c)至適pH;7.0〜8.0
(d)安定pH範囲;4.0〜11.0
(e)作用適温の範囲;45℃付近
(f)熱安定性;53℃
(g)分子量;92,000(ゲル濾過法)
また、本発明は、前記の理化学的性質を有する耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼ生産能を有する微生物を培養し、その培養物から耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを採取することを特徴とする耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼの製造法である。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼは、例えば、次のようにして得ることができる。
先ず、単離したアルカリゲネス・エスピー.KS−85株由来クレアチンアミジノハイドロラーゼ遺伝子を含む組み換え体プラスミドpUCE100DNA(特開平8−89255号公報記載)を、大腸菌(E.coli)JM109(pUCE100)(FERM BP−4803)から、例えば、QIAGEN(フナコシ社製)を利用することにより抽出、精製する。
なお、本発明において用いることのできるベクターDNAとしては、上記プラスミドベクターDNAに限定されることなくそれ以外の、例えば、バクテリオファージベクターDNA、プラスミドベタターDNA等を用いることができる。具体的にはpUC118(宝酒造社製)等が好ましい。
【0007】
次いで、配列番号1に示されるアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつクレアチンアミジノハイドロラーゼ活性、好ましくは、耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼ活性を有するタンパク質をコードする耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼ遺伝子を得るには、如何なる方法でもよく、例えば、この組み換え体プラスミドDNAに、例えば、ハイドロキシルアミン、亜硝酸等の化学変異剤やPCR法を用いてランダムに変換する方法等の点変異、市販のキットを利用する部位特異的な置換または欠失変異を生じさせるための周知技術である部位特定変異誘導法;この組み換え体プラスミドDNAを選択的に開裂し、次いで選択されたオリゴヌクレオチドを除去または付加し、連結する方法;オリゴヌクレオチド変異誘導法等が挙げられる。
【0008】
上記処理後の組み換え体DNAを脱塩カラム、QIAGEN(フナコシ社製)等を用いて精製し、種々の組み換え体DNAを得る。
【0009】
このようにして得られた種々の組み換え体DNAを用いて、例えば、大腸菌K12、好ましくは大腸菌JM109(東洋紡社製)、XL1−Blue〔フナコシ(株)製〕等を形質転換または形質導入し、種々のクレアチンアミジノハイドロラーゼ遺伝子断片を保有する組み換え体DNAを含む形質転換体または形質導入体を得ることができる。
【0010】
そして、例えば、形質転換体の場合、得られた形質転換体(その中に種々の耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼ遺伝子を含む組み換え体プラスミドDNAを含有している。)より、目的の性質(耐熱性及びKm値の低い)を有する耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを生産する株を得るには、次のような方法を用いることができる。
【0011】
先ず、得られた上記形質転換体を各コロニー毎にTY培地(50μg Ampicilin,lmM IPTG添加)等で液体培養し、組み換え体プラスミドDNAに含まれる種々の耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを誘導生産させる。培養後、得られた培養物に対し超音波破砕を行ない、その粗酵素抽出液に対し50℃、30分間の熱処理後の残存活性、ラインウエーバー・バークのプロットによるKm値の測定を行なう。また、各変異株の測定結果に対し、同様にして抽出、処理、測定した野生型タンパク質と比較を行ない目的とする形質転換体を選択する。
【0012】
上記のようにして得られた耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼ生産能を有する形質転換体または形質導入体、好ましくは、エッシェリシア属に属する菌株を用いて耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを生産するには、下記のようにして行なうことができる。
上記微生物を培養するには、通常の固体培養法で培養してもよいが、なるべく液体培養法を採用して培養するのが好ましい。
【0013】
また、上記微生物を培養する培地としては、例えば、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、コーンステイープリカー、大豆もしくは小麦麹の浸出液等の1種以上の窒素源に、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化第2鉄、硫酸第2鉄もしくは硫酸マンガン等の無機塩類の1種以上を添加し、更に必要により糖質原料、ビタミン等を適宜添加したものが用いられる。
【0014】
なお、培地の初発pHは、7〜9に調整するのが適当である。また培養は、30〜42℃、好ましくは37℃前後で6〜24時間、通気撹拌深部培養、振とう培養、静置培養等により実施するのが好ましい。培養終了後、該培養物より耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを採取するには、通常の酵素採取手段を用いることができる。
【0015】
培養物から、例えば、濾過、遠心分離等の操作により菌体を分離し、洗菌する。この菌体から耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを採取することが好ましい。この場合、菌体をそのまま用いることもできるが、超音波破砕機、フレンチプレス、ダイナミル等の種々の破壊手段を用いて菌体を破壊する方法、リゾチームの如き細胞壁溶解酵素を用いて菌体細胞壁を溶解する方法、トリトンX−100等の界面活性剤を用いて菌体から酵素を抽出する方法等により、菌体から耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを採取するのが好ましい。
【0016】
このようにして得られた粗酵素液から耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを単離するには、通常の酵素精製に用いられる方法が使用できる。例えば、硫安塩析法、有機溶媒沈澱法、イオン交換クロマトグラフ法、ゲル濾過クロマトグラフ法、吸着クロマトグラフ法、電気泳動法等を適宜組み合わせて行なうのが好ましい。
【0017】
得られた耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼの理化学的性質は、下記の通りである。
(1)作用
1モルのクレアチンを加水分解し、1モルのザルコシン及び1モルの尿素を生成する。
【0018】
(2)基質特異性
クレアチンに基質特異性を有する。
【0019】
(3)至適pH
緩衝液として、50mM酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH4.0〜5.5)、50mM MES緩衝液(pH5.5〜6.5)、50mMリン酸緩衝液(pH6.5〜8.0)、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0〜9.0)、50mM CHES緩衝液(pH9.0〜10.0)及び50mM CAPS緩衝液(pH10.0〜11.0)を用い、夫々のpHにおいて、温度37℃で10分間酵素反応を行なった結果、その相対活性は、図1に示す通りであった。図1より、本酵素の至適pHは、7.0〜8.0であった。
(4)作用適温の範囲
後述の活性測定法における反応液と同一組成よりなる反応液を用い、種々の温度にて本酵素の活性測定を行なった結果、図2に示す通りであった。図2より、本酵素の作用適温の範囲は、45℃付近であった。
【0020】
(5)安定pH範囲
緩衝液として、50mM酢酸ナトリウム−酢酸緩衝液(pH4.0〜5.5)、50mM MES緩衝液(pH5.5〜6.5)、50mMリン酸緩衝液(pH6.5〜8.0)、50mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0〜9.0)、50mM CHES緩衝液(pH9.0〜10.0)及び50mM CAPS緩衝液(pH10.0〜11.0)を用い、pH4.0〜11.0において25℃で17時間夫々処理した後、本酵素の残存活性を測定した結果、図3に示す通りであった。図3より、安定pH範囲は、pH4.0〜11.0であった。
(6)熱安定性
50mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)を用いて、各温度で30分間処理した場合の熱安定性の結果は、図4に示す通りであり、本酵素は、53℃付近迄安定であった。
【0021】
(7)酵素活性測定法
本酵素の活性の測定は、下記条件下で行なった。なお、1分間に1マイクロモルの尿素を生成する酵素活性を1単位とする。
(試薬調製)
1液;基質液)
クレアチン6.63gを50mMリン酸緩衝液(pH7.7)500mlに溶解する。
2液;発色液)
ρ−ジメチルアミノベンズアルデヒド10gを500mlの特級エタノールに溶解し、レジン水575ml、濃塩酸75mlを混合したものと混合する。
【0022】
(測定手順)
1)1液 0.9mlを37℃にて5分間プレインキュベーションする。
2)酵素液(1〜2U/ml程度に調整)0.1mlを混合し、37℃において10分間反応させる。
3)10分間の反応後、上記2液2mlを混合する。
4)2液と混合後、25℃にて20分間放置し、後に435nmの吸光度を測定する。(ODsample)
5)ブランク値の測定は、1液0.9mlを37℃にて10分間インキュベーションした後、上記2液2mlを混合し、更に酵素液0.1mlを混合、25℃にて20分間放置し、その後435nmの吸光度を測定することによって行なった。(ODblank)
【0023】
(活性の計算)
U/ml=△OD※×18.06*×希釈倍率
※(△OD=ODsample−ODblank)
(*尿素検量線より算出した係数)
【0024】
(8)Km値
上記の活性測定法を用い、本酵素のKm値を測定したところ、ラインウエーバー・バークのプロットから、Km値は、8.6mM(クレアチンに対して)であった。
(9)分子量
92,000(ゲル濾過法)
【0025】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。
【0026】
(実施例1)
(1)組み換え体プラスミドpUCE100DNAの調製
大腸菌(E.coli)JM109(pUCE100)(FERM BP−4803)を、TY培地(1%バクトートリプトン、0.5%ペプトン、0.25%NaCl)20mlに接種して、37℃で18時間振とう培養し培養物を得た。この培養物を6000rpmで10分間遠心分離することにより集菌して菌体を得た。この菌体よりQIAGEN tip−100を用いて組み換え体プラスミドpUCE100DNAを抽出して精製し、組み換え体プラスミドpUCE100DNAを70μg得た。
【0027】
(2)変異操作
上記組み換え体プラスミドDNA100μgの内、2μgを用いてXL1−RED(STRATAGENE社製)(増殖の際、プラスミドの複製にエラーを起こし易く変異を生じ易い。)をD.M.Morrisonの方法(Methodin Enzymology,68,326−331,1979)に従って形質転換し、約1500の形質転換株を得たその内のコロニー500個をTY培地20mlに全て植菌し、37℃、18時間振とう培養した。培養後、この培養物を6000rpmで10分間遠心分離することにより集菌して菌体を得た。この菌体よりQIAGEN tip−100(フナコシ社製)を用いてプラスミドpUCE100を抽出して精製し、被変異組み換え体プラスミドpUCE100DNAを70μg得た。このプラスミド5μgを用い、D.M.Morrisonの方法(Method in Enzymology,68,326−331,1979)に従って大腸菌JM109株(東洋紡社製)を形質転換した結果、約2000個の変異を受けたプラスミドを保有する形質転換株約2000個を得た。
【0028】
(3)耐熱性及び基質との反応性が向上した変異株のスクリーニング
先ず、得られた上記形質転換体を各コロニー毎に2mlのTY培地(50μg Ampicilin,1mM IPTG添加)で液体培養し、プラスミドに含まれる種々の耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを誘導生産させた。培養後、得られた培養物に対し超音波破砕を行ない、その粗酵素抽出液に対し50℃、30分間の熱処理後の残存活性を測定し、耐熱性が良好であったものについて、ラインウエーバー・バークのプロットによるKm値の測定を行なった。また、各変異株の測定結果に対し、同様にして抽出処理し、測定した野生型クレアチンアミジノハイドロラーゼと比較を行ない目的を満たす変異株を選択したところ、変異株大腸菌(E.coli)JM109(pUCE100 B-40)より、耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを得た。
大腸菌(E.coli)JM109(pUCE100 B-40)は、工業技術院生命工学工業技術研究所FERM BP-6867に(FERM P-15971号より移管)として寄託されている。
【0029】
(実施例2)
上記のようにして得られた変異株大腸菌(E.coli)JM109(pUCE100 B−40)を、1mMイソプロピル−β−D−ガラクトシドを含むTY培地(1%バクト−トリプトン、0.5%バクト−イーストエクストラクト、0.5%NaCl,pH7.5)100mlの分注された坂口フラスコで16時間振とう培養したのち、同様に調製した30L培養槽中のTY培地20Lに火炎接種した。接種後、回転数450rpm、通気量20L/min、37℃にて約20時間培養した。
【0030】
培養終了後、培養液20Lからマイクローザー(旭化成社製、PW−303)を用いて菌体を集菌し、20mMリン酸緩衝液(pH7.5)にて菌体を洗浄した後、菌体を同緩衝液約10Lに懸濁した。
ステップ1(粗酵素液の調整):上記菌体懸濁液(10L)に、リゾチーム20g(50mMリン酸緩衝、pH7.5、100ml)及び0.55M EDTA、pH8.0、1Lを添加、混合し、30℃で一晩放置した後、5%プロタミン水溶液(pH8.0)500mlを撹拌しながら滴下して除核酸処理を行なった。この水溶液を10mM CAPS−NaOH緩衝液(pH10.0)(以下緩衝液Aとする)に対して透析した。
【0031】
ステップ2(DEAE−セルロース処理):透析液(約28L)に、湿重量で約3kgのセルロースを添加、混合して、耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを吸着させた後、5%グリセリン及び0.05%2−メルカプトエタノール含有緩衝液AにてDEAE−セルロースを洗浄し、次いで、0.5M KCl含有緩衝液Aにて耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを溶出して限外濃縮した。
ステップ3(DEAE−セファロースCL−4B処理):濃縮液(約1.0L)に、緩衝液Aで緩衝化された湿重量で約1.0kgのDEAE−セファロースCL−4Bを添加、混合して、耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを吸着させ0.05M KCl含有 緩衝液AにてDEAE−セファロースCL−4Bを洗浄し、次いで、0.1M KCl含有、緩衝液Aにて耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを溶出して、限外濃縮した。
ステップ4(セファタリルS−200処理):濃縮液(約1.0L)をカラムに詰めたセファクリルS−200にて分子ふるいを行ない、活性画分(2.2g)を収集した。活性画分の比活性は、9U/OD280nmであった。
【発明の効果】
本発明によれば、耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼが効率よく製造でき、本発明は、産業上有用である。
【0032】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】本酵素の至適pHを示す図。
【図2】本酵素の作用適温の範囲を示す図。
【図3】本酵素の安定pH範囲を示す図。
【図4】本酵素の熱安定性を示す図。
Claims (2)
- 下記の理化学的性質を有する大腸菌 JM109(pUCE100 B-40)(FERM BP-6867) 由来の耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼ。
(a)作用;1モルのクレアチンを加水分解し、1モルのザルコシン及び1モルの尿素を生成する。
(b)基質特異性;クレアチンに基質特異性を有する。
(c)至適pH;7.0〜8.0
(d)安定pH範囲;4.0〜11.0
(e)作用適温の範囲;45℃付近
(f)熱安定性;53℃
(g)Km 値; 8.6mM
(h)分子量;92,000(ゲル濾過法) - 請求項1記載の耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼ生産能を有する大腸菌 JM109(pUCE100 B-40)(FERM BP-6867)を培養し、その培養物から耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼを採取することを特徴とする耐熱性クレアチンアミジノハイドロラーゼの製造法。
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