JP3772245B2 - 複合型ダンパーによる制振架構 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、建造物の制振技術の分野に属し、更に云えば、大地震時はもとより大地震に比べて遙かに発生頻度が多い小地震や風荷重による建造物の応答(揺れ)を広域に低減する複合型ダンパーによる制振架構及び制振方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、制振ダンパーの設計指針を、建造物の安全レベルの応答(層間変位角が1/100〜1/200程度の揺れ)に作用効果を発揮するように行うと、居住性レベルの応答(層間変位角が1/数万、程度の揺れ)やコンクリートのひび割れレベル(層間変位角が1/数千、程度の揺れ)の応答に対しては殆ど減衰力を発揮しないものとなった。特に鋼材系の制振ダンパーを使用する場合は、層間変位角が1/1000程度の揺れ迄は材料固有の弾性域に留まるため、減衰力を全く期待できない。
【0003】
そこで従来、大地震時、及び小地震や風荷重による建造物の応答(揺れ)を広域に低減することを目的として、複合型ダンパーによる制振架構及び制振方法の開発が進められている。
例えば、特開平3−247870号(特許第2566833号)公報に記載された構造物の制振支持架構及び制振方法は、構造物の架構面内に配置される鋼製の支持架構材(ブレース)を大振幅用ダンパーとなし、前記支持架構材に直列状に結合された制振装置を小振幅用ダンパーとする複合型ダンパーによる構成である。前記制振装置は、双方向のプレートを複数互い違いに積層配置すると共に、各々のプレートで粘弾性体を挟着せしめ、前記粘弾性体のせん断変形で振動エネルギーを吸収する構成とされている。
【0004】
また、特開平3−161628号公報に記載された制振ダンパーは、構造物の柱、梁架構の面内にブレースを介して塑性変形部材を大振幅用ダンパーとして配置すると共に、前記大振幅用ダンパーに粘弾性部材を小振幅用ダンパーとして並列状に結合して組み合せた複合型ダンパーの構成である。
【0005】
(1)上述した特開平3−247870号公報記載の制振技術は、小振幅用ダンパーである制振装置における粘弾性体の強度を、塑性化する支持架構の強度以上に設計する必要があるが、その結果として小振幅時の減衰性能を大きくできない欠点がある。また、大振幅時にも粘弾性体が変形するため、大振幅時の減衰効果が小さくなる欠点もある。更に,小振幅用ダンパーとして弾塑性ダンパー、粘性体ダンパー、或いは摩擦ダンパーなどを使用すると、大振幅時にも支持架構材を塑性化させることができなくなるため、これらのダンパーを使用できないという問題もある。
(2)次に、上記特開平3−161628号公報記載の制振技術の場合は、大振幅用ダンパーと小振幅用ダンパーとを並列に結合した構成であるために、小振幅用ダンパーの作用効果が小さくなる欠点がある。特に、同公報に記載された構成では、実用的な制振効果を望み得ないと認められ、また、大振幅時に小振幅用ダンパーが破壊される欠点が認められる。
(3)従って、本発明の目的は、大振幅時にも過大な変形によって小振幅用ダンパーに損傷が発生せず、また、小振幅用ダンパーの変形による、大振幅時の大振幅用ダンパーの作用効果にロスが発生せず、何らかの原因で小振幅用ダンパーの減衰部材が破損しても、大地震時には大振幅用ダンパーがそれなりの作用効果を発揮する構成に改良した複合型のダンパーによる制振架構を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するための手段として、請求項1記載の発明に係る複合型ダンパーによる制振架構は、
建造物1の柱、梁架構の面内に当該建造物1の安全レベルの応答に対して減衰作用を発揮する鋼材系の大振幅用ダンパー2がブレース状に配置され、
前記大振幅用ダンパー2へ、小地震や風荷重による応答に対して減衰作用を発揮する小振幅用ダンパー3が作用方向の力の伝達が可能に結合して組み合わされていること、
小振幅用ダンパー3は、左右のフランジプレート14、15から軸線方向に平行に複数の抵抗プレート14a、15aが互い違いに配置され、これら抵抗プレート14a、15aの間に粘弾性体16を挟持させ各々貼り合わせて積層した粘弾性ダンパーとして構成されており、ストッパ8として、前記の各抵抗プレート14a、15aおよび粘弾性体16を積層方向に貫通するストッパピン17が、その外径よりも大きい口径のピン孔18の中に通されて同孔18との隙間19の限度に小地震や風荷重を越えるレベルの応答に対する振幅の大きさを限定する構成とされていることを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態及び実施例】
次に、図示した本発明の実施例を説明する。
本発明に係る複合型ダンパーによる制振架構及び制振方法は、主として図1に示した高層又は超高層建物1をはじめとする建造物の柱、梁架構の面内に、図2のようにブレース状に配置された鋼材系の大振幅用ダンパー2と、前記大振幅用ダンパー2に直列状に結合された小振幅用ダンパー3とを組み合せた複合型ダンパーの構成で実施される。図2中の符号4が柱、5が梁である。大振幅用ダンパー2と小振幅用ダンパー3とを直列状に結合し組み合せるとは、両者の間でダンパーの作用方向に力の伝達が確実に行われる結合構造を云う。
【0009】
図2は柱、梁架構の面内の対角線方向にブレースとして配置された大振幅用ダンパー2に、小振幅用ダンパー3が1本の棒状に直線的に組み合わせた実施例を示している。図3は柱、梁架構の面内に山形状に配置された大振幅用ダンパー2の山形頂部のブラケット6と、梁5に取付けたブラケット7との間に小振幅用ダンパー3を結合して組み合わせた実施例を示している。
【0010】
図4は、柱、梁架構の面内に、下位の梁5上にはブレースを山形状に配置した支持架構9(降伏しない部材。ダンパーではない。)を設け、上位の梁5の下にはv字形に配置した大振幅用ダンパー2を設け、これら上下に略対称な形態の大振幅用ダンパー2と支持架構9との中間にせん断変形する小振幅用ダンパー3を結合して組み合わせた実施例を示している。本実施例の場合、支持架構9と大振幅用ダンパー2とは一見似た形状であるが、両者の部材断面の大きさ又は材料の特性を異ならせており、少なくとも支持架構9は降伏しない設計とされている。
【0011】
上記各実施例の大振幅用ダンパー2は、圧縮力によって座屈しない設計であることが重要であり、例えば普通の鋼材に比して小さな応力で降伏する極軟鋼の如き弾塑性部材でH形鋼や円形鋼管を製作し、これに座屈防止用の補剛材を添わせたアンボンドブレース等が好適に採用される。
次に、前記小振幅用ダンパー3の構造、形式は、図5に示した粘弾性ダンパーを適用可能である。本発明の小振幅用ダンパー3にはその振幅の大きさを限定するストッパ8が設けられていることを特徴とする。
【0013】
図5に示した小振幅用ダンパー3は、左右のフランジプレート14,15から軸線方向に平行に複数の抵抗プレート14a,15aを互い違いに配置し、これらの抵抗プレート14a、15aの間にゴムシート、アスファルトのようにせん断変形して抵抗する粘弾性体16を挟持させ、各々貼り合わせて積層した粘弾性ダンパーとして構成されている。そして、振幅の大きさを限定するストッパ8としては、前記の各抵抗プレート14a,15aを積層方向に貫通するストッパピン17を、その外径よりも1mm程度口径が大きいピン孔18の中に通して、前記直径差の隙間19の限度に振幅を限定する構成とされている。従って、この小振幅用ダンパー3も、図2又は図3の如く軸方向へ直線的に作動する複合型ダンパーに好適に適用される。
【0015】
もっとも、ストッパの構造、形式は、上記実施例の限りではない。ダンパーの構造、性能に応じて適切な機構を採用し実施することができる。
いずれにしても、本発明の制振架構及び制振方法の場合は、大振幅用ダンパー2が作用効果を発揮しない小地震や風荷重による建造物の応答、換言すれば、層間変位角が1/1000程度までの居住性レベルの応答やコンクリートのひび割れレベルの応答に対しては、小振幅用ダンパー3が減衰性能を発揮して制振作用を奏する。また、層間変位角が1/100〜1/200程度の所謂建造物の安全レベルの応答に対しては、先ず小振幅用ダンパー3は限定された振幅の大きさに於てストッパ8により減衰性能を発揮しない静的状態となる。そして、大振幅用ダンパー2が、その弾塑性効果により減衰作用を発揮して制振作用を奏する。前記のようにストッパ8により固定化された小振幅用ダンパー3は、大振幅時の過大な変形においても損傷又は破壊する心配はなく、しかも小振幅用ダンパー3の存在が大振幅用ダンパー2の作用効果(制振効果)にロスを生じさせないのである。
【0016】
【本発明が奏する効果】
本発明に係る複合ダンパーによる制振架構は、複合型ダンパーが本来奏する作用効果、即ち大振幅用ダンパー2が作用効果を発揮しない小地震や風荷重による構造物の応答(居住性レベルの応答やコンクリートのひび割れレベルの応答)に対しては、小振幅用ダンパー3が減衰機能を発揮して制振作用を奏する。また、所謂大地震時の構造物の安全レベルの応答に対しては、大振幅用ダンパー2がその弾塑性効果により減衰作用を発揮して制振作用を奏する。
【0017】
とりわけ、前記大地震時の応答においは、小振幅用ダンパー3は限定された振幅の大きさに於いてストッパ8により減衰性能を発揮しない静的状態に固定化され、小振幅用ダンパー3は、大振幅時の過大な変形においても損傷、破壊の心配がなく、しかも小振幅用ダンパー3の存在が大振幅用ダンパー2の作用効果(制振効果)にロスを生じさせない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の制振架構が実施される建物の立面図である。
【図2】 図1のX部に複合型ダンパーが適用された実施例の正面図である。
【図3】 図1のX部に複合型ダンパーが適用された異なる実施例の正面図である。
【図4】 図1のX部に複合型ダンパーが適用された異なる実施例の正面図である。
【図5】 小振幅用ダンパーの一例を示した斜視図である。
【符号の説明】
1 建造物
4 柱
5 梁
2 大振幅用ダンパー
3 小振幅用ダンパー
8 ストッパー
14、15 フランジプレート
14a、15a抵抗プレート
16 粘弾性体
18 ピン孔
17 ストッパピン
19 隙間
Claims (1)
- 建造物の柱、梁架構の面内に当該建造物の安全レベルの応答に対して減衰作用を発揮する鋼材系の大振幅用ダンパーがブレース状に配置され、
前記大振幅用ダンパーへ、小地震や風荷重による応答に対して減衰作用を発揮する小振幅用ダンパーが、作用方向の力の伝達が可能に結合して組み合わされていること、
小振幅用ダンパーは、左右のフランジプレートから軸線方向に平行に複数の抵抗プレートが互い違いに配置され、これら抵抗プレートの間に粘弾性体を挟持させ各々貼り合わせて積層した粘弾性ダンパーとして構成されており、ストッパとして、前記の各抵抗プレートおよび粘弾性体を積層方向に貫通するストッパピンが、その外径よりも大きい口径のピン孔の中に通されて同孔との隙間の限度に小地震や風荷重を越えるレベルの応答に対する振幅の大きさを限定する構成とされていることを特徴とする、複合型ダンパーによる制振架構。
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