JP3765133B2 - 自動変速機制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、設定されたシフトレンジ応じて最高変速段が決定され、走行状態に応じて変速段を変更する自動変速機制御装置に関し、特に、アップシフト時の運転者への影響を考慮して変速機制御を変更する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動変速機のシフトレンジを設定するために、シフトレバーが設けられている。運転者はシフトレバーを操作してシフトレンジを設定する。この際、運転者は、シフトレバーがどこにあるかを目視にて確認し、シフトレバーを移動するといった操作を行なう必要がある。このような作業を不要とし、自動変速機の操作性を向上することが求められている。この要求に応えるため、シフトレンジを設定する操作手段として、シフトレバーの他に、第2の操作手段を備えた制御装置が提案され、例えば、特開平5−196118号公報の図2に開示されている。
【0003】
同公報の装置において、シフトレンジを設定するための第2の操作手段は、ステアリングの中央部に設けられた押しボタンスイッチである。このスイッチは、電子制御装置と接続されている。電子制御装置は、スイッチ操作に応じてシフトレンジを設定し、設定したシフトレンジに従って自動変速機を制御する。例えば、シフトレバー操作によってDレンジが設定されている。そして、スイッチ操作に応じて電子制御装置が3レンジを設定している。この時、電子制御装置は、3レンジが実際のシフトレンジであるとみなして自動変速機を制御する。すなわち、電子制御装置は、1速から3速の間でシフトチェンジを行い、3速にてエンジンブレーキがかかるように、自動変速機を制御する。
【0004】
上記の従来装置によれば、運転者は、シフトレバーを目視したりする必要がなく、スイッチ操作によってシフトレンジを容易に変更することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
シフトレバー操作によって、例えば、2レンジからDレンジへのアップレンジを行う場合を考える。2速のエンジンブレーキを利用しながら降坂路を走行し、その後、平坦路に入ってDレンジへ戻すような状況である。このとき、運転者は、シフトレバーをシフトレーンに沿って2レンジからDレンジのポジションへ移動する。シフトレバーは、移動途中で、3レンジ、4レンジのポジションを通過する。このようなシフトレバーの移動とともに、まず3速が設定されてエンジンブレーキがかかり、次に4速が設定されてエンジンブレーキがかかり、それから5速が設定される。変速段が順次変更されていくので、エンジンブレーキが急に抜けてしまうといったことはなかった。
【0006】
一方、スイッチ操作によってアップレンジを行うとき、電子制御装置は「どの範囲でシフトチェンジを行うか」という設定を電子制御装置内部で変更する。この設定変更の実行のみであるので、場合によっては2レンジから5レンジへと直接にアップレンジが行われる可能性があった。この飛び越しアップレンジにともなって、変速段が、2速から5速へアップシフトされる。そして、2速でかかっていたエンジンブレーキが急に抜けてしまう。
【0007】
このように、スイッチ操作によってシフトレンジを設定する制御装置では、飛び越しアップレンジが行われ、エンジンブレーキを効かせる最高変速段が、2段以上変更されることがある。そしてこの時、隣接する変速段を飛ばして飛び越しアップシフトが行われ、エンジンブレーキ感が急激に変化してしまい、運転者に違和感を与える可能性があった。
【0008】
また、飛び越しアップシフトが行われる際に、自動変速機の変速機構に設けられた摩擦係合装置が大きな負荷を受けるので、摩擦係合装置の摩擦材の耐久性が低下し摩耗してしまう可能性があった。
【0009】
本発明の目的は、上記の課題に対応し、飛び越しアップシフトが発生するような場合に、運転者に与える違和感を軽減し、また、自動変速機の摩擦係合装置に加わる負荷を低減することができる自動変速制御装置を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、設定される変速段の最高段を定めるシフトレンジを設定するシフトレンジ設定手段と、設定されたシフトレンジの範囲内で所定条件に応じて変速段を変更し、所定の変速段にてエンジンブレーキがかかるようにする動力伝達制御手段と、を有する自動変速機制御装置であって、運転者の操作によって、前記シフトレンジ設定手段により低速側の所定のシフトレンジに設定されている状態から、全ての変速段を選択し得るシフトレンジへ切り換えられこの操作によるアップレンジに伴って、前記動力伝達制御手段が、エンジンブレーキのかかった変速段から隣接段を飛ばして飛び越しアップシフトするとき、前記動力伝達制御手段は、車両にエンジンブレーキが作用するアップシフト実行の途中に、アップシフト前後の変速段の中間変速段を設定するとともに、この中間変速段にてエンジンブレーキをかけることを特徴とする。
【0011】
上記の構成では、運転者の操作によって、前記シフトレンジ設定手段により低速側の所定のシフトレンジに設定されている状態から、全ての変速段を選択し得るシフトレンジへ切り換えられ、この操作によるアップレンジに伴って、前記動力伝達制御手段が、エンジンブレーキのかかった変速段から隣接段を飛ばして飛び越しアップシフトするとき、まず、車両にエンジンブレーキが作用するアップシフト前後の変速段の中間変速段が設定され、この中間変速段にてエンジンブレーキがかかる。それから、アップシフト後の変速段が設定される。このように減速走行時における飛び越しアップシフトにおいて、そのアップシフトが複数段階に分けて行われ、エンジンブレーキ感が複数回に分けて変化するので、運転者受ける違和感が軽減される。
【0012】
また、上記のように、アップシフトが複数段階に分けて行われるので、低速段から高速段へと一度に切り換えられることはない。従って、自動変速機の摩擦係合装置に対して大きな負荷は作用せず、摩擦材の摩耗の促進が回避される。なお、中間変速段は、一つだけ設定してもよく、また複数設定してもよい。アップシフトは、中間変速段の設定数に応じた回数に分けて行われる。
【0013】
また、中間変速段の設定時間は、車速や走行路の条件に応じて適宜調整してもよい。車速が高いとき、また坂路やコーナーでは、エンジンブレーキ感の変化の影響が強いので、中間変速段の設定時間を長くする。一方、車速が低いとき、また平坦路や直線路では、エンジンブレーキ感の変化の影響が弱い。そこで、中間変速段を設定して運転者が受ける違和感を低減しつつ、この中間変速段の設定時間を比較的短くしてアップシフトの応答性を高める。このような調整により、エンジンブレーキ感の変化の影響とアップシフトの応答性を両立した設定が可能となる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態の自動変速機制御装置について、図面を参照し説明する。
【0015】
この装置の制御対象である自動変速機は、トルクコンバータと遊星歯車機構とを備え、前進5速、後進1速の変速段を設定できるように構成されている。遊星歯車機構には、クラッチやブレーキなどの複数の摩擦係合装置が設けられていて、さらに、各摩擦係合装置を動作させるためのサーボ手段が設けられている。サーボ手段への油圧の供給に応じて各摩擦係合装置が動作することにより、1速から5速までのシフトチェンジが行われる。また、1速から3速では、各摩擦係合装置の動作により、車軸側からの逆駆動力をエンジンに伝えるか否かの切換えが行われる。この切換えに応じて、エンジンブレーキの効く状態と効かない状態とが切り換えられる。なお、4速および5速では、常時、エンジンブレーキが効くように構成されている。
【0016】
図17〜図19は、このような自動変速機と、これを制御する油圧制御装置の構成の一例を示している。まず、これらの図面を参照し、自動変速機及び油圧制御装置の詳細な構成を説明する。
【0017】
上記のように、自動変速機は、前進5段・後進1段の変速段を設定することができ、そのギヤトレーンの一例を図17に示してある。図17において、自動変速機Aはトルクコンバータ113を介してエンジンEに連結されている。このトルクコンバータ113は、エンジンEのクランク軸114に連結されたポンプインペラ115と、自動変速機Aの入力軸116に連結されたタービンランナー117と、これらポンプインペラ115とタービンランナー117との間を連結するロックアップクラッチ118と、一方向クラッチ119によって一方向の回転が阻止されているステータ120とを備えている。
【0018】
上記自動変速機Aは、ハイおよびローの2段の切り換えを行う副変速部121と、後進段および前進4段の切り換えが可能な変速部122とを備えている。副変速部121は、サンギヤS0、リングギヤR0、およびキャリヤK0に回転可能に支持されてそれらサンギヤS0およびリングギヤR0に噛み合わされているピニオンP0からなる遊星歯車装置123と、サンギヤS0とキャリヤK0との間に設けられたクラッチC0および一方向クラッチF0と、サンギヤS0とハウジング129との間に設けられたブレーキB0とを備えている。
【0019】
主変速部122は、サンギヤS1、リングギヤR1、およびキャリヤK1に回転可能に支持されてそれらサンギヤS1およびリングギヤR1に噛み合わされているピニオンP1からなる第1遊星歯車装置124と、サンギヤS2、リングギヤR2、およびキャリヤK2に回転可能に支持されてそれらサンギヤS2およびリングギヤR2に噛み合わされているピニオンP2からなる第2遊星歯車装置125と、サンギヤS3、リングギヤR3、およびキャリヤK3に回転可能に支持されてそれらサンギヤS3およびリングギヤR3に噛み合わされているピニオンP3からなる第3遊星歯車装置126とを備えている。
【0020】
上記サンギヤS1とサンギヤS2とは互いに一体的に連結され、リングギヤR1とキャリヤK2とキャリヤK3とが一体的に連結され、そのキャリヤK3は出力軸127に連結されている。また、リングギヤR2がサンギヤS3に一体的に連結されている。そして、リングギヤR2およびサンギヤS3と中間軸128との間に第1クラッチC1が設けられ、サンギヤS1およびサンギヤS2と中間軸128との間に第2クラッチC2が設けられている。
【0021】
また、ブレーキ手段として、サンギヤS1およびサンギヤS2の回転を止めるためのバンド形式の第1ブレーキB1がハウジング129に設けられている。また、サンギヤS1およびサンギヤS2とハウジング129との間には、第1一方向クラッチF1およびブレーキB2が直列に設けられている。この第1一方向クラッチF1は、サンギヤS1およびサンギヤS2が入力軸116と反対の方向へ逆回転しようとする際に係合させられるように構成されている。
【0022】
キャリヤK1とハウジング129との間には第3ブレーキB3が設けられており、リングギヤR3とハウジング129との間には、第4ブレーキB4と第2一方向クラッチF2とが並列に設けられている。この第2一方向クラッチF2は、リングギヤR3が逆回転しようとする際に係合させられるように構成されている。上記クラッチC0,C1,C2、ブレーキB0,B1,B2,B3,B4は、油圧が作用することにより摩擦材が係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
【0023】
そして副変速部121におけるクラッチC0の回転数すなわち入力回転数を検出するC0センサ130と、主変速部122における第2クラッチC2の回転数を検出するC2センサ131が設けられている。なお、これらのセンサ130,131は、後述する自動変速機用電子制御装置に接続されている。
【0024】
上記の自動変速機Aでは、前進5段と後進段とを設定することができ、これらの変速段を設定するための各摩擦係合装置の係合・解放の状態を図18の係合作動表に示してある。なお、図18において○印は係合状態、◎印は係合してもトルク伝達に関係しないことを、●印はエンジンブレーキを効かせるために係合することを、空欄は解放状態をそれぞれ示す。
【0025】
上記の図18に示す各変速レンジおよび変速段を設定するために図19に示す油圧回路が油圧制御装置に設けられている。すなわちスロットル開度に応じたライン圧PLの供給を受けるマニュアルバルブ140と上述した各摩擦係合装置の油圧サーボ手段との間に、第1速エンジンブレーキ用の第4ブレーキB4に対するコントロール圧PCの給排を制御する1−2シフトバルブ141、第3速達成用の第2ブレーキB2に対するドライブレンジ圧PDの給排を制御する2−3シフトバルブ142、第3速エンジンブレーキ用の第1ブレーキB1に対するコントロール圧PCの給排と第4速および第5速達成用の第2クラッチC2に対するドライブレンジ圧PDの給排とを制御する3−4シフトバルブ143、ブレーキB0とクラッチC0とへのライン圧PLの供給を切り換える4−5シフトバルブ144が設けられている。
【0026】
さらに、ドライブレンジ圧(Dレンジ圧)を元圧として変速中にリニアソレノイドバルブSLNの出力する信号圧で調圧してコントロール圧PCを発生させるプレッシャーコントロールバルブ145、コントロール圧PCの2−3シフトバルブ142に対する給排を切り換えるエンジンブレーキリレーバルブ146、クラッチC0に対する4−5シフトバルブ144を介したライン圧PLの給排を切り換えるC0エキゾーストバルブ147が設けられている。
【0027】
なお、第1シフトソレノイドバルブSOL1は2−3シフトバルブ142の切換用の信号圧を出力し、第2シフトソレノイドバルブSOL2は1−2シフトバルブ141の切換用の信号圧を出力し、第3シフトソレノイドバルブSOL3は1−2シフトバルブ141を介してC0エキゾーストバルブ147に切換用の信号圧を出力するようになっている。また第4シフトソレノイドバルブSOL4はエンジンブレーキリレーバルブ146とC0エキゾーストバルブ147とに切換用の信号圧を出力し、リニアソレノイドバルブSLNはプレッシャーコントロールバルブ145に調圧用の信号圧を出力するようになっている。さらに第1ブレーキB1および第4ブレーキB4以外の摩擦係合装置にはアキュームレータが付設されている。
【0028】
上記の各部の構成および機能についてさらに詳しく説明すると、マニュアルバルブ140は、図示しない第1レンジ操作機構としてのシフトレバーにケーブルなどの機械的な手段で連結されてシフトレバーに連動するスプールバルブによって構成されており、ライン圧PLを入力ポート148から供給されて、スプール149の摺動位置に応じて入力ポート148を各出力ポートに連通させて出力するものである。具体的には、DポジションではDレンジポート150のみから出力し、“3”ポジションではこれに加えて“3”レンジポート151から出力し、“2”ポジションではさらに“2”レンジポート152から出力し、LポジションではさらにLレンジポート153から出力するようになっている。これに対してRポジションではRレンジポート154から出力し、またNポジションでは全ての出力ポートを閉じ、Pポジションでは入力ポート148をドレーンポートEXに連通させる。なお、上記の自動変速機Aでは“4”レンジを選択することができるが、これは、最高速段である第5速を禁止する変速レンジであり、マニュアルバルブ140ではスプール149が中心軸線を中心にして回動し、上記の“2”レンジポート152から油圧が出力される。
【0029】
つぎにプレッシャーコントロールバルブ145は、バネによって一方向に押圧されたスプールとプランジャとを有しており、Dレンジ圧PDを入力とし、これをリニアソレノイドバルブSLNの出力信号で調圧し、コントロール圧PCをエンジンブレーキリレーバルブ146を経て2−3シフトバルブ142に供給する。
【0030】
エンジンブレーキリレーバルブ146は、バネによって一方向に押圧されたスプールとプランジャとを備えた切換弁であって、“2”レンジ圧がプランジャに印加されるとともに、リニアソレノイドバルブSLNの信号圧をスプールに印加され、いずれかの油圧による2−3シフトバルブ142へのコントロール圧PCの供給と、その油圧の解放による2−3シフトバルブ142からのコントロール圧PCの排出を切り換える。
【0031】
2−3シフトバルブ142は、バネによって一方向に押圧されたスプールを備えた切換弁であり、第1シフトソレノイドバルブSOL1の信号圧およびLレンジ圧の印加により、コントロール圧PCの3−4シフトバルブ143と、1−2シフトバルブ141とへの供給の切換、およびDレンジ圧の油路L1aと油路L1bとへの連通とドレーンの切り換えとを行う。
【0032】
1−2シフトバルブ141は、バネによって一方向に押圧されたスプールを備えた切換弁であり、第2ソフトソレノイドバルブSOL2の信号圧および油路L1aからの油圧により、コントロール圧PCの第4ブレーキB4への供給とこのブレーキB4からの排圧との切り換え、および第3シフトソレノイドバルブSOL3の信号圧の油路LS32への供給とその油路LS32からの排出との切り換えを行う。
【0033】
3−4シフトバルブ143は、ピストンを介してバネによって一方向に押圧されたスプールを備えた切換弁であり、第2シフトソレノイドバルブSOL2の信号圧、油路L1bからの油圧および油路L3からの油圧により、油路LS3からの第3シフトソレノイドバルブSOL3の信号圧の油路LS34を介した4−5シフトバルブ144への供給と遮断、油路L1aの油路L1eへの連通と遮断およびコントロール圧PCの第1ブレーキB1への供給とそのブレーキB1からの排圧とを制御する。
【0034】
4−5シフトバルブ144は、バネによって一方向に押圧されたスプールを備えた切換弁であり、油路LS34からの信号圧と油路L2の油圧により、ライン圧PLのC0エキゾーストバルブ147への供給と排出との切り換え、油路LL1を介したブレーキB0への供給とそのブレーキB0からの排出とを制御する。
C0エキゾーストバルブ147は、バネによって一方向に押圧されたスプール155とプランジャ156とを備えた切換弁であり、油路LS4を経由した第4ソレノイドバルブSOL4の信号圧、油路LS32を経由した第3ソレノイドバルブSOL3の信号圧および油路L1dの油圧により、4−5シフトバルブ144を経由したライン圧PLを油路LL3を経由してクラッチC0に供給し、またこのクラッチC0から排出するようになっている。
【0035】
上記のように構成された油圧制御装置において、図示のニュートラルポジションでは、4−5シフトバルブ144およびC0エキゾーストバルブ147を経由してライン圧PLがクラッチC0に供給されているが、マニュアルバルブ140を経由する油路が遮断されているため、第1クラッチC1の油圧はドレーンされている。なお、図における各バルブの中心線を挟む位置のずれは、スプール変位の限界位置を示し、特に各シフトバルブについては、中心線の左右に数字の振り分けで、位置と変速段とを対応させている。
【0036】
上記の油圧制御装置によれば、シフト装置を手動操作することに伴うマニュアルバルブ140のポジションの選択に応じて、車速とエンジン負荷(例えばスロットル開度)に対応した電子制御によりレンジ圧の調圧と各シフトソレノイドバルブSOL1,〜SOL3がON/OFF制御されて、各変速段が設定される。すなわち各クラッチおよびブレーキが図18に示すように制御されて一方向クラッチ(OWC)との関連で、各変速段が設定され、また第4ソレノイドバルブSOL4のON/OFFに伴うその信号圧の出力によってエンジン(E/G)ブレーキ状態を得ることができる。
【0037】
例えばDレンジで第3速を設定している状態で第4ソレノイドバルブSOL4から信号圧を出力されると、エンジンブレーキリレーバルブ146のスプールが図19の左半分に示す位置に移動させられ、その結果、Dレンジ圧を元圧としたコントロール圧PCが2−3シフトバルブ142を介して3−4シフトバルブ143に供給され、ここから第1ブレーキB1に油圧が供給されてこれが係合する。すなわち第3速でエンジンブレーキが効く状態になる。
【0038】
またDレンジの第2速の状態で第4ソレノイドバルブSOL4が信号圧を出力すると、C0エキゾーストバルブ147のスプールの一端側に油圧が供給されるので、そのスプールが図19の左半分に示す位置に移動し、4−5シフトバルブ144を介して供給されたライン圧PLが副変速部121におけるクラッチC0に供給されてこれが係合し、第2速でエンジンブレーキを効かせることができる。
【0039】
さらにDレンジの第1速で第4ソレノイドバルブSOL4が信号圧を出力すると、上述した第3速の場合と同様に、エンジンブレーキリレーバルブ146から2−3シフトバルブ142にコントロール圧PCが出力され、さらにそのコントロール圧PCが2−3シフトバルブ142から1−2シフトバルブ141に供給され、ここから第4ブレーキB4に送られて、これが係合する。すなわち第1速でエンジンブレーキを効かせることができる。
【0040】
なお、第1速ないし第5速の各変速段は、第1ないし第3のシフトソレノイドバルブSOL1,〜SOL3をON/OFF制御して、その出力圧によって各シフトバルブ41,〜44を適宜に切り換え動作させることにより設定され、これは従来の装置と同様であり、図19の油圧から容易に知られるところである。
【0041】
このように上記の自動変速機Aでは、各変速段を電気的に制御して設定することができ、また第3速以下の変速段でのエンジンブレーキを、第4ソレノイドバルブSOL4を電気的に制御することにより設定できる。このような機能を利用して、この発明にかかるレンジ制御装置は、前進レンジの切り換えを電気的に行うように構成されている。以下に説明する制御装置では、後述する機械的制御または電気的制御により、駐車(P)レンジ、後進(R)レンジ、ニュートラル(N)レンジ、および下記の前進レンジが設定される;
(1)Dレンジ:1速から5速の範囲で変速段を設定する。4速および5速にてエンジンブレーキが効く;
(2)4レンジ:1速から4速の範囲で変速段を設定する。4速にてエンジンブレーキが効く;
(3)3レンジ:1速から3速の範囲で変速段を設定する。3速にてエンジンブレーキが効く;
(4)2レンジ:1速または2速を設定する。2速でエンジンブレーキが効く;
(5)Lレンジ:1速のみを設定する。エンジンブレーキが効く;
ここで前進走行時、通常、Dレンジが設定される。4レンジ〜Lレンジが設定されるのは、主として、エンジンブレーキを利用するためである。この4レンジ〜Lレンジは、エンジンブレーキレンジと呼ばれている。
【0042】
図1は、本実施形態の制御装置の構成を示している。図1に示すように、本実施形態の制御装置は、制御手段として、油圧制御装置1およびT−ECU3を備える。また、シフトレンジを設定するための操作手段として、シフトレバー装置5およびカット機構7を備える。
【0043】
図2は、油圧制御装置1の構成を示しており、前述の図19に相当するブロック図である。前述のように、油圧制御装置1は油圧回路21を備えており、この油圧回路21は、シフト弁やリレー弁などの図示しない複数の制御弁を有している。油圧制御装置1には、さらに、制御弁を移動させるための複数のソレノイド23(図19のSOL1など)が設けられており、このソレノイド23はT−ECU3と接続されている。
【0044】
油圧回路21には、オイルポンプから油圧が供給される。油圧回路21では各制御弁の位置に応じた油圧経路が設定され、この油圧経路に従って自動変速機Aのサーボ手段に油圧が供給される。ソレノイド23を駆動して各制御弁の位置の組み合わせを変更すると異なる油圧経路が設定される。この新たな油圧経路に従って、自動変速機Aのサーボ手段が動作し、シフトチェンジが行われ、また、エンジンブレーキ制御が行われる。
【0045】
また、油圧回路21には、マニュアル弁25(図19のマニュアルバルブ140に相当)が設けられている。マニュアル弁25は、ケーブル27(またはロッド)を介してシフトレバー装置5と接続されている。すなわち、マニュアル弁25の移動は、シフトレバー装置5の動作を機械的に伝達することにより行われる。マニュアル弁25は、軸方向に移動することにより、P、R、N、D、4、3、2およびLレンジに対応する位置をとる。
【0046】
さらに、油圧回路21は、マニュアル弁25に関連して、以下のように設定されている。マニュアル弁25がDレンジの位置にある時には、制御弁の位置の組み合わせにより、1速から5速の設定が可能である。そして、ソレノイド23がすべて駆動不能となった場合には、5速が設定される。また、マニュアル弁25が3レンジの位置にある時には、制御弁の位置の組み合わせにより、1速から4速の設定が可能である。そして、ソレノイド23がすべて駆動不能となった場合には、4速が設定される。その他のエンジンブレーキレンジに関しても、同様に油圧回路が設定されている。
【0047】
次に、シフトレバー装置5について説明する。シフトレバー装置5は、後述する機械的制御によりシフトレンジを設定するための操作手段であり、シフトレーンと、このシフトレーンにそって移動するシフトレバーを有する。図3には、シフトレバー装置5のシフトレーンが示されている。シフトレーンには、図示のように、各シフトレンジに対応するポジション(P、R、N、D、4、3、2、L)が設定されている。シフトレバーの各ポジションへの移動に伴って、油圧制御装置1に設けられたマニュアル弁25が、そのポジションに対応する位置に移動する。
【0048】
また、シフトレーンの下方には、メインスイッチ35が設けられている。このメインスイッチ35は、ESR(Electric Shift Range Control System)モードを設定解除するためのスイッチである。このメインスイッチ35の操作により、後述するカット機構7がアクティブ状態とノンアクティブ状態とに切り換えられる。すなわち、メインスイッチ35が一度押されると、カットレバー33の操作に応じてカット機構7が機能する。メインスイッチ35がもう一度押されると、運転者がカットレバー33を操作しても、カット機構7は機能しない。なお、ESRモードの設定は、イグニッションオフとともに自動キャンセルされる。
【0049】
図4は、本制御装置を搭載したステアリング30の付近の図であって、カット機構7を示している。カット機構7は、電気的制御によりシフトレンジを設定するための操作手段であり、ステアリングコラムから突出するように設けられたカットレバー33を有する。カットレバー33は、運転者の操作によって3方向に倒すことができるように構成されている。倒されたカットレバー33は、運転者が手を離すと、自動的に元の位置に戻る。
【0050】
図5は、カットレバー33の機能を示す説明図である。運転者は、カットレバー33を用いて、下記の3種類の操作を行う;
「カット操作」:時計まわり方向にカットレバー33を倒す;
「カットオフ操作」:反時計まわり方向にカットレバー33を倒す;
「キャンセル操作」:カットレバー33を手前側(ステアリング30の側)に倒す;
上記の3種の操作は、それぞれ、T−ECU3によって検出される。
【0051】
なお、カットレバー33の位置や長さの設定は、運転者がステアリング30を握ったまま指先でカットレバー33を操作できるように設定されており、かつ、図4に示すようにステアリング30の向こうに隠れるように設定されている。このような設定により、運転者の指が誤ってカットレバー33に触れてしまうことによるミス操作の発生が防止される。そのほか、前述のメインスイッチ35は、カットレバー33の先端に設けてもよい。
【0052】
次に、T−ECU3について説明する。T−ECU3は電子制御装置であり、油圧制御装置1のソレノイド23の駆動を制御している。T−ECU3は、シフトレバー装置5におけるシフトレバーのポジションを検出する。また、カット機構7における各種の操作を検出し、また、メインスイッチ35の操作を検出する。また、T−ECU3には、C/Cスイッチ9から、クルーズコントロール装置の操作に関する情報が入力される。また、T−ECU3には、車速やスロットル開度、エンジン作動状態(例えばエンジン負荷)などの情報が入力される。T−ECU3は、検出した情報や入力情報に基づいて、シフトレンジを設定する。そして、設定したシフトレンジの範囲内で、入力情報に基づいて変速段を決定する。さらに、決定した変速段が実現されるように、油圧制御装置1のソレノイド23を駆動させる。また、シフトレンジに関する情報を、シフトレバー位置インジケータ11やESRインジケータ13に出力して表示させる。
【0053】
次に、本実施形態の自動変速機制御装置の動作について説明する。
【0054】
「シフトレンジの機械的制御」
運転者がシフトレバー装置5を操作すると、この操作が、ケーブル27を介して、油圧制御装置1のマニュアル弁25へ機械的に伝達される。そして、マニュアル弁25が、シフトレバーのポジションに応じて移動する。マニュアル弁25の位置に対応してシフトレンジが設定される。一方、T−ECU3は、シフトレバーのポジションに基づいて、設定されたシフトレンジを検出する。そして、このシフトレンジ内でシフトチェンジが行われ、また所定の変速段でエンジンブレーキがかかるように、油圧制御装置1のソレノイド23へ制御信号を出力する。
【0055】
機械的制御により設定されたシフトレンジは、基準のシフトレンジとなる。この基準のシフトレンジの設定状態は、後述する電気的制御により実際の制御のシフトレンジが変更された場合でも、そのまま保持される。従って、電気的な制御手段たるカット機構7がフェイルした時には、実際のシフトレンジが、この基準のシフトレンジに戻る。
【0056】
また、T−ECU3は、設定されたシフトレンジをインパネに設けられたシフトレバー位置インジケータ11に表示する。図6は、シフトレバー位置インジケータ11を示しており、P、R、N、D、4、3、2、Lの文字が表示され、設定中のシフトレンジ(図6ではDレンジ)の部分に下線が表示されている。
【0057】
「シフトレンジの電気的制御(ESRモード)」
(1)モード設定
上記の機械的制御が行われている状態でメインスイッチ35が押されると、T−ECU3がESRモードを設定する。電気的制御は、ESRモードが設定された状態において行われる。ただし、ESRモードは、シフトレバーがDレンジのポジションにあるときのみ設定される。シフトレバーが他のポジションにあるときにメインスイッチ35が押されても、T−ECU3はこの操作を受け付けない。
【0058】
T−ECU3は、インパネに設けられたESRインジケータ13に、ESRモードが設定されていることを表示する。図7は、ESRインジケータ13の表示を示している。図7の上段は、ESRモード設定前の状態であって、何も表示されていない。図7の中段は、ESRモードが設定された状態であり、「メイン」と表示されている。
【0059】
(2)カット機構7の操作に対応する制御
ESRモードが設定された後にカット機構7が操作されると、T−ECU3は、この操作を検出してESRレンジを設定する。「ESRレンジ」とは、カットレバー33の操作に応じてT−ECU3が設定するシフトレンジをいう。ESRレンジを設定するとき、T−ECU3は、制御用の変速パターンを変更する。
【0060】
例えば、T−ECU3が、ESRレンジとして3レンジを設定したとする。この場合、マニュアル弁25はDレンジの位置にあり、油圧回路21の設定上、1速から5速までのシフトチェンジが可能である。しかし、T−ECU3は、ソレノイド23に対して、1速から3速までのシフトチェンジのみを指示する。このように、実際のシフトレンジは、DレンジからESRレンジへ変更される。
【0061】
なお、ESRレンジは、T−ECU3によって設定される実際のシフトレンジであり、従って、いわゆるスポーツモード(変速段がホールドされる)とは異なる。以下、ESRレンジとして設定された4レンジをE−4レンジといい、3レンジをE−3レンジ、2レンジをE−2レンジ、LレンジをE−Lレンジという。
【0062】
図8は、カット機構7の操作と、設定されるESRレンジの対応関係を示している。図中、「cut」は、「カット操作(カットレバー33を時計まわり方向に倒す)」に対応するシフトレンジ変更を、「cutoff」は、「カットオフ操作(カットレバー33を反時計まわり方向に倒す)」に対応するシフトレンジ変更を、「キャンセル」は、「キャンセル操作(カットレバー33を手前に倒す)」に対応するシフトレンジ変更を示す。
【0063】
図8に示すように、「カット操作」に対応して、ESRレンジが一つずつ下側に変更される。ただし、すでにLレンジが設定されているときは、ESRレンジは変更されない。また、T−ECU3は、変速段毎に上限車速を設定している。そして、実車速がこの上限車速よりも高いときには、ESRレンジを変更しない。ESRレンジの変更に伴ってダウンシフトが発生したときにエンジン回転数が高くなりすぎるのを回避するためである。また「カットオフ操作」に対応して、ESRレンジを一つずつ上側に変更する。ただし、Dレンジが設定されているときは、カットオフ操作が行われてもESRレンジは変更されない。また「キャンセル操作」が行われると、シフトレンジは、シフトレバーのポジション(Dレンジ)に戻る。
【0064】
また、ESRモードの設定中にシフトレバーが操作されたとき、T−ECU3は、ESRモードを解除する。この時、シフトレンジは、前述の機械的制御により、操作後のシフトレバーのポジションに対応して設定される。
【0065】
また、ESRモードの設定中において、Dレンジまたは4レンジが設定されている時は、C/Cスイッチ9からの入力信号に応じたクルーズコントロール制御が許可される。しかし、カット操作によりESRレンジが3レンジ以下に変更されると、クルーズコントロール制御が禁止される。また、ESRモードの設定中において、3レンジからLレンジが設定されている時には、T−ECU3は、C/Cスイッチ9からの入力信号を受け付けない。
【0066】
(4)ESRレンジの表示
図7の下段に示すように、T−ECU3は、設定中のESRレンジ(D、4、3、2、Lのいずれか)をESRインジケータ13に表示する。図7は、ESRレンジとして、3レンジが表示された状態である。運転者は、シフトレバー位置インジケータ11によりシフトレバーのポジションを確認し、ESRインジケータ13によりT−ECU3が設定している実際のシフトレンジを確認することができる。そして、シフトレバーのポジションと実際のシフトレンジの相違を考慮して運転する。
【0067】
「全体の制御」
以上に、機械的制御と電気的制御に分けて、本制御装置によるシフトレンジの設定について説明した。次に、図9のフローチャートに従って、T−ECU3がESRモードに関連して行う全体処理について説明する。
【0068】
スタート(S10)の後、入力信号を処理し(S12)、シフトレバーのポジションを検出する(S14)。シフトレバーがDレンジ以外のポジションにあるときは、シフトレバー位置インジケータ11の表示と(S32)、ESRインジケータ13の表示(この場合は不灯)を行って(S34)、リターンする(S36)。シフトレバーがDレンジのポジションにあるときは、ESRモードが設定されているか否かを判断し(S16)、設定されていなければ上記と同様のインジケータ表示を行う。
【0069】
一方、ESRモード設定中の場合、運転者によるシフトレバーの操作を調べる(S18)。シフトレバーが移動したときは、ESRモードを解除して、移動後のシフトレバーのポジションを優先し、このポジションのシフトレンジを設定する(S20)。そして、各インジケータを表示してリターンする(S32〜S36)。このとき、ESRインジケータは不灯となる。
【0070】
また、シフトレバーが操作されないときは、「キャンセル操作」を調べる(S22)。「キャンセル操作」が行われたときは、前述の図8に示すように、ESRレンジをキャンセルしてDレンジへ戻る(S23)。このときESRインジケータ13には、「メイン」を表示するか、あるいは「メイン」と「D」を表示する。
【0071】
ステップS22で、「キャンセル操作」が行われないとき、さらにカットレバー33の「カット操作」を調べ(S24)、「カット操作」が行われたときはダウンレンジを行う(S26)。「カット操作」が行われないとき、「カットオフ操作」を調べ(S28)、「カットオフ操作」が行われたときは、アップレンジを行う(S30)。「カットオフ操作」が行われないとき、また、上記のレンジ変更を行った後は、各インジケータの表示を行ってリターンする(S32〜S36)。
【0072】
「飛び越しアップレンジに対応する処理」
図9の制御において、ステップS18でシフトレバーが切り換えられたとき、ステップS20にて飛び越しアップレンジが発生する可能性がある。また、ステップS22で「キャンセル操作」が行われたとき、ステップS23にて飛び越しアップレンジが発生する可能性がある。これらの飛び越しアップレンジに対応するため、本実施形態では以下のような制御を行う。
【0073】
図10は、飛び越しアップレンジに対応するための処理を示すフローチャートである。まず、前述の図9と同様に、スタートすると(S42)入力信号を処理し(S44)、シフトレバーのポジションを検出して(S46)、シフトレバーがDレンジ以外のポジションにあるときはリターンする(S62)。シフトレバーがDレンジになければ、前述のようにESRモードは設定されないからである。シフトレバーがDレンジのポジションにあるときは、ESRモードが設定されているか否かを判断し(S48)、設定されていなければリターンする(S62)。
【0074】
ESRモードが設定されているときは、E−LレンジからDレンジへのアップシフト、またはE−2レンジからDレンジへのアップシフトが発生するかを調べる(S50)。ここで該当するのは、E−LレンジまたはE−2レンジを設定して走行しているときに、図9のステップS22でキャンセル操作が行われた場合である。
【0075】
ステップS50がNOの場合は、E−Lレンジから4レンジへのアップシフト、またはE−2レンジから4レンジへのアップシフトが発生するかを調べる(S52)。ここで該当するのは、E−LレンジまたはE−2レンジを設定して走行しているときに、図9のステップS18でシフトレバーが操作されて4レンジのポジションへ移動し、ESRモードが解除された場合である。
【0076】
ステップS50およびステップS52がNOのときはリターンする。これに伴い、図9のステップS20またはS23にてアップレンジが行われる。一方、ステップS50またはステップS52がYESのときは、飛び越しアップレンジが発生することを考慮して以下のような制御を行う。
【0077】
エンジン吸気系に設けられたスロットルの開度θを検出することにより、エンジンブレーキが実質的に作用しているか否かを調べる(S54)。なお、ステップS54では、実際にエンジンブレーキが作用しているか否かを検出することができれば、他の判断を行ってもよい。従って、例えば、スロットル開度が所定の0付近の値であるか否かを検出してもよく、また、車両が被駆動状態(エンジントルクが車輪を駆動していない状態)であるか否かを検出してもよい。また、スロットル開度でなく、アクセル開度を検出した場合にも、ほぼ同様の結果が得られる。
【0078】
ステップS54でYES(スロットル開度θが0)のときは、エンジンブレーキが実質的に作用している。そこで、次に、実車速Vと所定車速VAを比較する(S56)。所定車速VAは、車速とエンジンブレーキの関係を考慮し、また、車速とシフトチェンジ時に自動変速機の摩擦係合装置に加わる仕事量との関係を考慮して、極低車速に設定されている。
【0079】
実車速Vが所定車速VA以上の場合、エンジンブレーキが強く効いている。そして、アップレンジをそのまま実行したときに2段以上のアップシフト(飛び越しアップシフト)が発生する場合がある。飛び越しアップシフトの結果、エンジンブレーキが急に抜けて運転者が違和感を受ける可能性がある。また、飛び越しアップシフトにともなって摩擦係合装置に大きな負荷がかかってしまうおそれがある。そこで、実車速Vが所定車速VA以上のときは、アップレンジのシーケンス制御を実施する(S58)。
【0080】
図11は、ステップS58におけるアップレンジのシーケンス制御を示している。同図に示すように、一端、アップレンジ前後の中間のESRレンジを設定し、それからアップレンジ後のシフトレンジを設定する。
【0081】
例えばE−2レンジからDレンジへアップレンジするとき、一旦、E−3またはE−4レンジを設定する。上記のシーケンス制御に応じ、アップシフトも段階的に行われる。すなわち、2速でエンジンブレーキがかかった状態から、まず、3速または4速が設定されてエンジンブレーキがかかり、それから5速へのアップシフトが行われる(ただし、上記の例において、車速によっては、アップレンジとともに2速から4速へアップシフトすることもある。このときは、2速から3速へアップシフトし、それから4速へアップシフトする。)。
【0082】
なお、アップレンジのシーケンス制御を行う場合、ESRインジケータ13の表示は、アップレンジの開始とともに、アップレンジ後の表示へ切り換えられる。シーケンス制御の中間レンジは、ESRインジケータ13に表示されない。このような表示によって運転者の利便性が向上する。
【0083】
一方、前述のステップS54でスロットル開度θが0でない場合、実質的にエンジンブレーキがかかっていない。従って、エンジンブレーキが問題とならないので、アップシフトの応答性を重視する。そこで、アップレンジのシーケンス制御を行わずに、そのまま飛び越しアップレンジを実行する(S60)。
【0084】
また、前述のステップS56で実車速Vが所定車速VAよりも低いときは、エンジンブレーキがほとんど効かない。車速が低いのでシフトチェンジの時に自動変速機の摩擦係合装置に作用する仕事量も少ない。そこで、この場合もアップシフトの応答性を重視して、ステップS60へ進み、飛び越しアップレンジを実行する。
【0085】
以上のように、本実施形態では、スロットル開度と車速に基づいてエンジンブレーキの作動状態を判断している。この判断では、飛び越しアップレンジとともにエンジンブレーキの急な抜けが発生するような状況を検出し、また、自動変速機の摩擦係合装置に大きな負荷がかかる状況を検出している。この検出結果に基づき、アップレンジのシーケンス制御を行う。すなわち、アップレンジを2段階にわけて行う。一段階目のアップレンジとともにシフトチェンジが行われ、エンジンブレーキが部分的に抜ける。さらに、次のアップレンジにとともにシフトチェンジが行われ、残りのエンジンブレーキが抜ける。エンジンブレーキが段階的に抜けるので、運転者の受ける違和感が低減される。
【0086】
また上記のように、アップシフトが2回に分けて行われるので、それぞれのアップシフトは、近接した変速段の間で行われる。従って、自動変速機の摩擦係合装置に対して大きな負荷が作用しない。
【0087】
なお、上記の実施形態では、飛び越しアップレンジのうちで、ステップS50またはステップS52に該当する場合のみを、シーケンス制御の対象とした。これ以外の飛び越しアップレンジ(例えばE−3レンジからDレンジへのアップレンジ)は、エンジンブレーキの変化による影響が小さいので、シーケンス制御の対象としていない。
【0088】
「その他の実施の形態」
(1)車速が高いほど、エンジンブレーキの抜けが運転者にもたらす違和感が大きい。従って、車速が高い場合には、エンジンブレーキが抜けるまでに時間がかかることが望ましい。
【0089】
そこで、図12の実線Aに示すように、車速が高い場合ほど、エンジンブレーキ力の抜けスピード(アップレンジ前のエンジンブレーキ状態から、アップレンジ後のエンジンブレーキ状態へ変化するまでの時間)が低くなるように設定する。このような設定は、アップレンジのシーケンス制御において(図10のステップS58)、アップレンジの中間で設定されるESRレンジへの経由時間(設定時間)を調整することにより実現される。経由時間を長くすることにより、エンジンブレーキ力の抜けスピードを低くすることができる。
【0090】
以上の構成により、車速が高いときには、エンジンブレーキ力の抜けスピードを低くして、運転者に与える違和感を軽減することができる。一方、車速が低いときには、エンジンブレーキ力の抜けスピードを高くして、運転者に違和感を与えないようにしつつ、アップシフトの応答性を高くすることができる。
【0091】
(2)登坂路、降坂路では、平坦路と比べ、エンジンブレーキをより効果的に利用した運転が行われる。従って、運転者は、エンジンブレーキの作動状態についてよく注意している。エンジンブレーキが抜けたときに運転者が受ける違和感は、登坂路、降坂路走行中のほうが強い。
【0092】
そこで、図10のフローチャートにおいて、ステップS58の前に、所定角度以上の登坂道、降坂路を走行中であるか否かを検出するステップを設ける。登坂路、降坂路を走行中のときは、ステップS58にて、図12に示すようにエンジンブレーキ力の抜けスピード(すなわち、シーケンス制御における中間設定レンジの経由時間)を調整する。図12において、実線Aは平坦路の場合を、点線Bは登坂路、降坂路の場合を示している。
【0093】
以上の構成により、運転者が違和感を強く受ける坂路では、エンジンブレーキ力の抜けスピードを低くして、運転者に与える違和感を軽減することができる。一方、平坦路では、アップレンジのシーケンス制御により運転者が受ける違和感を軽減しつつ、エンジンブレーキ力の抜けスピードを高くしてアップシフトの応答性を高くすることができる。
【0094】
(3)運転者は、コーナリング走行中、直線路と比べ、エンジンブレーキの作動状態についてよく注意している。エンジンブレーキが抜けたときに運転者が受ける違和感は、コーナリング走行中のほうが強い。
【0095】
そこで、上記の(2)と同様の構成により、ステップS58の手前でコーナリング走行を検出して、ステップS58でエンジンブレーキ力の抜けスピードを調整する(図12、点線B)。
【0096】
以上の構成により、運転者が違和感を強く受けるコーナリング走行中は、エンジンブレーキ力の抜けスピードを低くして、運転者に与える違和感を軽減することができる。一方、直線路では、アップレンジのシーケンス制御により運転者が受ける違和感を軽減しつつ、エンジンブレーキ力の抜けスピードを高くしてアップレンジの応答性を高くすることができる。
【0097】
(4)実施形態1では、アップレンジをシーケンスに変更した。これに対し、図9のステップS58を変更し、アップレンジをシーケンスに行わず、代わりに、アップレンジに伴うシフトチェンジをシーケンスに行う。
【0098】
E−2レンジからDレンジへのアップレンジを例にして説明する。この場合、アップレンジは、前述の図11によらずに、E−2レンジからDレンジへ一段階で行われる。一方、アップシフトについては、まず、2速を3速(または4速)にアップシフトしてエンジンブレーキをかけ、それから5速へアップシフトする。図13は、この態様において、アップシフトの途中で設定される中間変速段を示している。
【0099】
上記の構成によっても、実施形態1と同様の効果、すなわち、運転者への違和感を低減し、かつ、自動変速機の摩擦係合装置への負荷を軽減する効果が得られる。なお、この構成を上記の(1)〜(3)の構成と組み合わせてもよいことはもちろんである。
【0100】
(5)図14は、シフトレバー装置5の変形例を示している。同図の場合、シフトレーンには、エンジンブレーキレンジとして、3レンジおよびLレンジのみが設けられている。この場合、通常は、シフトレバー装置5によりDレンジを設定する。そして、カット機構7を操作して、各エンジンブレーキレンジを設定する。カット機構7がフェイルしたときのみ、シフトレバー装置5を使ってエンジンブレーキレンジを設定する。この構成では、シフトレバー装置5が小型化されている。そこで、シフトレバー装置5をインパネに設けたり、ステアリングコラムに設けることができる
なお、上記の構成では、シフトレバー操作により4レンジが設定されることはない。そこで、当然、図10のステップS52は削除される。
【0101】
また、シフトレーンには、Sportポジションが設けられている。このポジションにシフトレバーがあるときは、スポーツモード(原則として、運転者が変速操作を行われないかぎり、変速段をホールドするモード)が設定される。
【0102】
(6)図15も、図14と同様の変形例である。この変形例では、通常は、シフトレバーをLレンジのポジションに移動させることができない。運転者はFailスイッチ37を押したときに、シフトレバーをLレンジのポジションへ移動することができる。なお、Failスイッチ37は、Pレンジのロック解除スイッチと共用にしてもよい。
【0103】
(7)図16は、この変形例における、ステアリングの付近を示す説明図である。この変形例では、カット機構7が、ステアリング30の中央付近に設けられたカットスイッチ38およびカットオフスイッチ39を備えている。カットスイッチ38を押し下げる操作が「カット操作」であり、カットオフスイッチ39を押し下げる操作が「カットオフ操作」である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】 図1の装置に含まれる油圧制御装置の構成を示す説明図である。
【図3】 シフトレーンに設けられた、各シフトレンジに対応するポジションを示す説明図である。
【図4】 図1の制御装置を搭載した車両のステアリングの付近を示す説明図である。
【図5】 カット機構に備えられたカットレバーの機能を示す説明図である。
【図6】 シフトレバー位置インジケータの表示を示す説明図である。
【図7】 ESRインジケータの表示を示す説明図である。
【図8】 カット機構の操作に対応したESRレンジの設定変更の内容を示す説明図である。
【図9】 T−ECUが行う全体処理を示すフローチャートである。
【図10】 飛び越しアップシフトに対する処理を示すフローチャートである。
【図11】 飛び越しアップレンジのシーケンス制御において設定される中間のシフトレンジを示す説明図である。
【図12】 エンジンブレーキ力の抜けスピードの調整内容を示す説明図である。
【図13】 飛び越しアップレンジのシーケンス制御において設定される中間の変速段を示す説明図である。
【図14】 実施形態の変形例における、シフトレバー装置の構成を示す説明図である。
【図15】 実施形態の変形例における、シフトレバー装置の構成を示す説明図である。
【図16】 実施形態の変形例における、ステアリングの付近を示す説明図である。
【図17】 実施形態の制御対象である自動変速機のギヤトレーンの一例を示すスケルトン図である。
【図18】 図17の自動変速機において、各変速段を設定するための摩擦係合装置の係合、解放状態を示す説明図である。
【図19】 図17の自動変速機を制御するための油圧制御装置における油圧回路の一例であって、油圧回路の一部を示す部分油圧回路図である。
【符号の説明】
1 油圧制御装置、3 T−ECU、5 シフトレバー装置、7 カット機構、11 シフトレバー位置インジケータ、13 ESRインジケータ、21 油圧回路、23 ソレノイド、25 マニュアル弁、27 ケーブル、33 カットレバー、35 メインスイッチ。

Claims (9)

  1. 設定される変速段の最高段を定めるシフトレンジを設定するシフトレンジ設定手段と、
    設定されたシフトレンジの範囲内で所定条件に応じて変速段を変更し、所定の変速段にてエンジンブレーキがかかるようにする動力伝達制御手段と、
    を有する自動変速機制御装置であって、
    運転者の操作によって、前記シフトレンジ設定手段により低速側の所定のシフトレンジに設定されている状態から、全ての変速段を選択し得るシフトレンジへ切り換えられこの操作によるアップレンジに伴って、前記動力伝達制御手段が、エンジンブレーキのかかった変速段から隣接段を飛ばして飛び越しアップシフトするとき、
    前記動力伝達制御手段は、車両にエンジンブレーキが作用するときのそのアップシフト実行の途中に、アップシフト前後の変速段の中間変速段を設定するとともこの中間変速段にてエンジンブレーキをかけることを特徴とする自動変速機制御装置。
  2. 請求項1に記載の自動変速機制御装置であって、前記シフトレンジ設定手段は、前記動力伝達制御手段に対して電気的な信号によりシフトレンジを設定可能な、自動変速機制御装置。
  3. 請求項1に記載の自動変速機制御装置であって、前記動力伝達制御手段は、車両の走行速度に応じて、アップシフトの制御を変更する、自動変速機制御装置。
  4. 請求項3に記載の自動変速機制御装置であって、前記動力伝達制御手段のアップシフトの制御の変更は、中間の変速段を経由するアップシフト制御と中間の変速段を飛び越すアップシフト制御を、車両の走行速度に応じて選択するものである、自動変速機制御装置。
  5. 請求項3に記載の自動変速機制御装置であって、前記動力伝達制御手段のアップシフトの変更は、中間の変速段の経由時間を、車両の走行速度に応じて変更するものである、自動変速機制御装置。
  6. 請求項1に記載の自動変速機制御装置であって、前記動力伝達制御手段は、スロットル開度に応じて、アップシフトの制御を変更する、自動変速機制御装置。
  7. 請求項1に記載の自動変速機制御装置であって、前記動力伝達制御手段は、前記アップシフトの前後の変速段に応じて、経由する変速段を変更する、自動変速機制御装置。
  8. 請求項2に記載の自動変速機制御装置であって、前記シフトレンジ設定手段はレバーを有し、そのレバーを第1の方向に動かすと、選択される変速レンジの最高段が1段低速側となり、第1の方向と逆の第2の方向に動かすと前記最高段が1段高速側となる、自動変速機制御装置。
  9. 請求項1に記載の自動変速機の制御装置であって、
    現在選択されている変速レンジを表示する表示部を備え、アップシフト前後の変速段が隣接する変速段ではないときに中間の変速段を経由するアップシフトが行われる際に、前記表示部は、前記シフトレンジ定手段の操作前の変速レンジの表示から、直接操作後の変速レンジの表示に表示が切り替わる、自動変速機制御装置。
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