JP3764755B2 - 「アデノシン5’−三リン酸の製造法及びその応用」 - Google Patents
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Description
本発明は、アデノシン5′−一リン酸(AMP)にポリリン酸キナーゼ、アデニレートキナーゼ及びポリリン酸を作用せしめ、アデノシン5′−三リン酸(ATP)を製造する方法及びその応用に関するものである。
背景技術
近年の遺伝子操作技術の進展により、さまざまな酵素の安価な大量調製が可能となり、従来、微生物菌体を用いた微生物変換あるいは発酵生産により合成されてきた有用生理活性物質が直接酵素反応により安価に製造することが可能となってきている。
ところで、リン酸化反応、アミノ化反応などの高エネルギーを必要とする酵素反応には、ATPがエネルギー供与体あるいはリン酸供与体として必要である。従来の微生物変換あるいは発酵生産においては、ATPは用いた微生物の生体内より供給されるが、酵素法においてはATPを反応系に添加したり、効率的なATPの再生系を開発することが不可欠である。現在、ATPは化学合成法あるいは微生物もしくは酵母菌体を用いてAMPもしくはアデニンから合成されている。しかしながら、ATPの安価な合成法は現時点で確立されておらず、市販されているATPは極めて高価である。また、ATPの再生系としてはホスホクレアチンとホスホクレアチンキナーゼとの組み合わせが実験室レベルで使用されるが、基質、酵素とも極めて高価であるため実用的ではない。また、ポリリン酸キナーゼとポリリン酸の組み合わせも検討されているが、依然高価なATPあるいはADPの使用は不可欠であり、実用化には至っていない。
このようにATPは極めて高価であるのに対し、AMPは比較的安価に製造されうる。そのため、ATPを使用する酵素反応系において、高価なATPを添加するのではなく、安価なAMPからATPを製造する方法、あるいは消費されたATPを効率的に再生する方法の開発が望まれていた。
従って、本発明は高価なATPをAMPより効率的に製造または再生する方法を提供することを目的とするものである。
発明の開示
本発明者らは、上記目的を達成すべく研究を重ねた結果、ポリリン酸キナーゼが、ポリリン酸の存在下でアデニレートキナーゼと共役することによりAMPからATPを合成する活性を有することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、アデノシン5′−二リン酸及びアデノシン5′−三リン酸を添加しない反応系で、アデノシン5′−一リン酸に微生物由来のポリリン酸キナーゼ、微生物由来のアデニレートキナーゼ及びポリリン酸を作用せしめることを特徴とするアデノシン5′−三リン酸の製造法を提供するものである。
また、本発明は、アデノシン5′−三リン酸を消費する酵素反応を利用した化合物の製造法において、アデノシン5′−二リン酸及びアデノシン5′−三リン酸を添加しない反応系で、アデノシン5′−一リン酸に微生物由来のポリリン酸キナーゼ、微生物由来のアデニレートキナーゼ及びポリリン酸を作用せしめてアデノシン5′−三リン酸を生成させ、当該酵素反応に供給することを特徴とする当該化合物の製造法を提供するものである。
さらに、本発明は、アデノシン5′−三リン酸を消費する酵素反応を利用した化合物の製造法において、アデノシン5′−二リン酸及びアデノシン5′−三リン酸を添加しない反応系で、アデノシン5′−一リン酸に微生物由来のポリリン酸キナーゼ、微生物由来のアデニレートキナーゼ及びポリリン酸を作用せしめて、消費したアデノシン5′−三リン酸を再生しながら当該酵素反応を行うことを特徴とする当該化合物の製造法を提供するものである。
さらにまた、本発明は、微生物由来のポリリン酸キナーゼ、微生物由来のアデニレートキナーゼ及びポリリン酸を組み合わせてなる、アデノシン5′−二リン酸及びアデノシン5′−三リン酸を添加することなく、アデノシン5′−一リン酸からアデノシン5′−三リン酸を合成するための試薬を提供するものである。
さらに、また、本発明は、微生物由来のポリリン酸キナーゼ、微生物由来のアデニレートキナーゼ及びポリリン酸を組み合わせてなる、アデノシン5′−二リン酸及びアデノシン5′−三リン酸を添加することなく、アデノシン5′−一リン酸からアデノシン5′−三リン酸を再生するための試薬を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のATP合成系におけるAMP、ADP、ATPの消長を示したものである。
発明を実施するための最良の形態
本発明で使用するポリリン酸キナーゼ(E.C.2.7.4.1)及びアデニレートキナーゼ(E.C.2.7.4.3)はいずれも公知の酵素であり、動物由来、植物由来、微生物由来などのものを使用することができる。このうち、酵素の調製の簡便さなどの点から微生物、特に大腸菌由来のポリリン酸キナーゼ及びアデニレートキナーゼが使用に好都合である。また、近年の遺伝子組み換え技術を利用してポリリン酸キナーゼ遺伝子またはアデニレートキナーゼ遺伝子をクローン化し、大腸菌などを宿主としてポリリン酸キナーゼまたはアデニレートキナーゼを大量生産させ、当該組み換え菌より上記2種類の酵素をそれぞれ調製することも可能である(J.Biol.Chem.,267,22556-22561(1992)、Nucleic Acids Res.,13,7139-7151(1985))。
反応系に添加するポリリン酸キナーゼ及びアデニレートキナーゼは、当該活性を有する限りどのような形態であってもよい。具体的には、微生物の菌体、該菌体の処理物または該処理物から得られる酵素調製物などを例示することができる。微生物の菌体の調製は、当該微生物が生育可能な培地を用い、常法により培養後、遠心分離等で集菌する方法で行うことができる。具体的に、バシラス属または大腸菌類に属する細菌を例に挙げ説明すれば、培地としてはブイヨン培地、LB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキス、1%食塩)または2×YT培地(1.6%トリプトン、1%イーストエキス、0.5%食塩)などを使用することができ、当該培地に種菌を接種後、30〜50℃で10〜50時間程度必要により攪拌しながら培養し、得られた培養液を遠心分離して微生物菌体を集菌することによりポリリン酸キナーゼ活性またはアデニレートキナーゼ活性を有する微生物菌体を調製することができる。
微生物の菌体処理物としては、上記微生物菌体を機械的破壊(ワーリングブレンダー、フレンチプレス、ホモジナイザー、乳鉢などによる)、凍結融解、自己消化、乾燥(凍結乾燥、風乾などによる)、酵素処理(リゾチームなどによる)、超音波処理、化学処理(酸、アルカリ処理などによる)などの一般的な処理法に従って処理して得られる菌体の破壊物または菌体の細胞壁もしくは細胞膜の変性物を例示することができる。
酵素調製物としては、上記菌体処理物からポリリン酸キナーゼ活性またはアデニレートキナーゼ活性を有する画分を通常の酵素の精製手段(塩折処理、等電点沈殿処理、有機溶媒沈殿処理、透析処理、各種クロマトグラフィー処理など)を施して得られる粗酵素または精製酵素を例示することができる。
本発明で使用するAMPは、市販のものが使用できる。使用濃度としては、例えば1〜200mM、好ましくは1〜50mMの範囲から適宜設定することができる。また、添加するポリリン酸も市販のものが使用できる。使用濃度としては、例えば無機リン酸に換算して1〜1000mM、好ましくは10〜100mMの範囲から適宜設定することができる。
ATPの製造法は、例えばpH4〜9の範囲の適当な緩衝液中にAMP及びポリリン酸を添加し、さらに0.001ユニット/ml以上、好ましくは0.001〜10ユニット/mlのポリリン酸キナーゼ、及び0.01ユニット/ml以上、好ましくは0.01〜100ユニット/mlのアデニレートキナーゼを添加し、20℃以上、好ましくは30〜40℃で1〜50時間程、必要により攪拌しながら反応させることにより実施できる。
このようにして調製したATPは、公知の方法にて単離精製することができる。
また、ATPを消費する酵素反応を利用した化合物の製造法においては、AMPに上記ポリリン酸キナーゼ、アデニレートキナーゼ及びポリリン酸を作用せしめて生成させたATPを当該酵素反応に供給しながら反応を行うことにより、当該化合物を製造することができる。特に、ATPを消費する酵素反応を利用した化合物の製造法においては、当該酵素反応により生じたAMP及び/またはADPを原料としてATPを再生しながら反応を行うことが可能なため、効率的に目的とする化合物を製造することができ、例えば、ガラクトキナーゼを用いたガラクトース−1−リン酸合成系、UMPキナーゼを用いたUDP合成系、コリンキナーゼを用いたホスホコリン合成系などATPを消費するあらゆる酵素反応に応用することができる。
このようなATP合成系と酵素反応との反応条件は、小規模試験にて適宜決定すればよく、また目的化合物の単離精製も公知の方法により行うことができる。
実施例
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明がこれに限定されないことは明らかである。また、実施例におけるDNAの調製、制限酵素による切断、T4DNAリガーゼによるDNA連結、並びに大腸菌の形質転換法は全て「Molecular cloning」(Maniatisら編、Cold spring Harbor Laboratory,Cold Spring Habor,New York(1982))に従って行った。また、制限酵素、AmpliTaqDNAポリメラーゼ、T4DNAリガーゼは宝酒造(株)より入手した。さらに、反応液中のヌクレオチド類の定量はHPLC法により行った。具体的には、分離にはYMC社製のODS−AQ312カラムを用い、溶出液として0.5M リン酸−カリウム溶液を用いた。
実施例1;ATPの合成
(1)大腸菌ポリリン酸キナーゼ遺伝子のクローニング
大腸菌K12株JM109菌(宝酒造(株)より入手)の染色体DNAを斉藤と三浦の方法(Biochim.Biophys.Acta.,72,619(1963))で調製した。このDNAをテンペレートとして、以下に示す2種類のプライマーDNAを常法に従って合成し、PCR法により大腸菌ポリリン酸キナーゼ(ppk)遺伝子を増幅した。
PCRによるppk遺伝子の増幅は、反応液100ml中(50mM 塩化カリウム、10mM トリス塩酸(pH8.3)、1.5mM 塩化マグネシウム、0.001%ゼラチン、テンペレートDNA 0.1μg、プライマーDNA(A)(B)各々0.2μM、AmpliTaq DNAポリメラーゼ 2.5ユニット)をPerkin−Elmer Cetus Instrument社製DNA Thermal Cyclerを用いて、熱変性(94℃、1分)、アニーリング(55℃、1.5分)、ポリメライゼーション(72℃、1.5分)のステップを25回繰り返すことにより行った。
遺伝子増幅後、反応液をフェノール/クロロホルム(1:1)混合液で処理し、水溶性画分に2倍容のエタノールを添加しDNAを沈殿させた。沈殿回収したDNAを文献(Molecular cloning、前述)の方法に従ってアガロースゲル電気泳動により分離し、1.0kb相当のDNA断片を精製した。該DNAを制限酵素NcoI及びBamHIで切断し、同じく制限酵素NcoI及びBamHIで消化したプラスミドpTrc99A(Pharmacia Biotech社より入手)とT4DNAリガーゼを用いて連結した。連結反応液を用いて大腸菌JM109菌を形質転換し、得られたアンピシリン耐性形質転換体よりプラスミドpTrc−PPKを単離した。pTrc−PPKは、pTrc99Aのtrcプロモーター下流のNcoI−BamHI切断部位に大腸菌ppk遺伝子を含有するNcoI−BamHI DNA断片が挿入されたものである。
(2)大腸菌ポリリン酸キナーゼの調製
プラスミドpTrc−PPKを保持する大腸菌JM109菌を、100μg/mlのアンピシリンを含有する2×YT培地300mlに植菌し、37℃で振とう培養した。4×108菌/mlに達した時点で、培養液に終濃度1mMになるようにIPTGを添加し、さらに30℃で5時間振とう培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g、10分)により菌体を回収し、60mlの緩衝液(50mM トリス塩酸(pH7.5)、5mM EDTA、0.1%トライトンX−100、0.2mg/mlリゾチーム)に懸濁した。37℃で1時間保温した後、超音波処理を行い、菌体を破砕し、さらに遠心分離(20,000×g、10分)により菌体残さを除去した。このように得られた上清画分を5mM 塩化マグネシウム及び1mM 2−メルカプトエタノールを含有する50mMトリス塩酸(pH7.8)に対して透析を行い、粗酵素液とした。
粗酵素液におけるポリリン酸キナーゼ比活性は、0.19ユニット/mg蛋白質であり、対照菌(pTrc99Aを保持する大腸菌JM109菌)の比活性(0.00018ユニット/mg蛋白質)の約1000倍であった。次に粗酵素液をDEAEトヨパール650M(トーソー(株))を用いて0〜0.5MNaClの濃度勾配にて分画し、ポリリン酸キナーゼ画分を得た。この画分をポリリン酸キナーゼ酵素標品とした。なお、この酵素標品におけるポリリン酸キナーゼの比活性は、0.6ユニット/mg蛋白質であった。
なお、本発明におけるポリリン酸キナーゼ活性の単位(ユニット)は、以下に示す方法で測定、算出したものである。すなわち、5mM塩化マグネシウム、100mM硫安、5mM ADP、及びポリリン酸(無機リン酸として100mM)を含有する25mMトリス塩酸緩衝液(pH7.8)に酵素標品を添加して、37℃で保温することで反応を行い、100℃、1分間の熱処理により反応を停止させる。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて反応液中のATPを定量し、37℃で1分間に1μmoleのATPを生成する活性を1単位(ユニット)とする。
(3)大腸菌アデニレートキナーゼのクローニング
大腸菌K12株JM109菌(宝酒造(株)より入手)の染色体DNAを斉藤と三浦の方法(Biochim.Biophys.Acta.,72,619(1963))で調製した。このDNAをテンペレートとして、以下に示す2種類のプライマーDNAを常法に従って合成し、PCR法により大腸菌アデニレートキナーゼ(adk)遺伝子を増幅した。
PCRによるadk遺伝子の増幅は、反応液100ml中(50mM 塩化カリウム、10mM トリス塩酸(pH8.3)、1.5mM 塩化マグネシウム、0.001%ゼラチン、テンペレートDNA 0.1μg、プライマーDNA(A)(B)各々0.1μM、AmpliTaq DNAポリメラーゼ2.5ユニット)をPerkin−Elmer Cetus Instrument社製DNA Thermal Cyclerを用いて、熱変性(94℃、1分)、アニーリング(56℃、1.0分)、ポリメライゼーション(72℃、3.0分)のステップを25回繰り返すことにより行った。
遺伝子増幅後、反応液をフェノール/クロロホルム(1:1)混合液で処理し、水溶性画分に2倍容のエタノールを添加しDNAを沈殿させた。沈殿回収したDNAを文献(Molecular cloning、前述)の方法に従ってアガロースゲル電気泳動により分離し、1.0kb相当のDNA断片を精製した。該DNAを制限酵素BamHI及びHindIIIで切断し、同じく制限酵素BamHI及びHindIIIで消化したプラスミドpUC18(宝酒造(株)より入手)とT4DNAリガーゼを用いて連結した。連結反応液を用いて大腸菌JM109菌を形質転換し、得られたアンピシリン耐性形質転換体よりプラスミドpUC−ADKを単離した。pUC−ADKは、pUC18のlacプロモーター下流のBamHI−HindIII切断部位に大腸菌adk遺伝子を含有するBamHI−HindIII DNA断片が挿入されたものである。
(4)大腸菌アデニレートキナーゼの調製
プラスミドpUC−ADKを保持する大腸菌JM109菌を、100μg/mlのアンピシリンを含有する2×YT培地300mlに植菌し、37℃で振とう培養した。4×108菌/mlに達した時点で、培養液に終濃度1mMになるようにIPTGを添加し、さらに30℃で5時間振とう培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g、10分)により菌体を回収し、60mlの緩衝液(50mMトリス塩酸(pH7.5)、5mM EDTA、0.1%トライトンX−100、0.2mg/mlリゾチーム)に懸濁した。37℃で1時間保温した後、超音波処理を行い、菌体を破砕し、さらに遠心分離(20,000×g、10分)により菌体残さを除去した。
このように得られた上清画分を5mM 塩化マグネシウム及び1mM 2−メルカプトエタノールを含有する50mMトリス塩酸(pH7.8)に対して透析を行い、粗酵素液とした。粗酵素液におけるアデニレートキナーゼの比活性は、134ユニット/mg蛋白質であり、対照菌(pUC18を保持する大腸菌JM109菌)の比活性(1.9ユニット/mg蛋白質)の約85倍であった。次に粗酵素液をDEAEトヨパール650M(トーソー(株))を用いて0〜0.5MNaClの濃度勾配にて分画し、アデニレートキナーゼ活性のある画分を回収した。この画分をアデニレートキナーゼ酵素標品とした。なお、この酵素標品におけるポリリン酸キナーゼの比活性は、344ユニット/mg蛋白質であった。
なお、本発明におけるアデニレートキナーゼ活性の単位(ユニット)も次の方法で測定、算出した。すなわち、5mM塩化マグネシウム、5mM ATP、及び5mM AMPを含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.8)に酵素標品を添加して37℃で保温することで反応を行い、100℃、1分間の熱処理により反応を停止させる。HPLCを用いて反応液中のADPを定量し、37℃で1分間に2μmoleのADPを生成する活性を1単位(ユニット)とする。
(5)ポリリン酸キナーゼとアデニレートキナーゼによるATPの合成(その1)
10mM 塩化マグネシウム、100mM 硫酸アンモニウム、ポリリン酸(無機リン酸として75mM)、4mM AMPを含有する50mM トリス塩酸緩衝液(pH7.8)に酵素標品あるいは菌体抽出液を添加し、37℃で150分保温した。反応終了後反応液中のヌクレオチドをHPLCを用いて定量した。その結果を表1に示す。
表1に示すように、ポリリン酸キナーゼ並びにアデニレートキナーゼそれぞれ単独ではAMPをリン酸化し、ADP及びATPを生成する活性は存在せず、両者が同時に存在することで初めてAMPのリン酸化が生じた。また、通常の大腸菌(JM109〔pUC18〕)より調製した粗酵素液とポリリン酸キナーゼを混合してもAMPのリン酸化は生じないが、アデニレートキナーゼ高生産株(JM109〔pUC−ADK〕)より調製した粗酵素液をポリリン酸キナーゼと混合すると顕著なAMPのリン酸化反応が生じた。以上のことからポリリン酸キナーゼとアデニレートキナーゼが共存することでAMPのリン酸化が生じることは明らかである。
(6)ポリリン酸キナーゼとアデニレートキナーゼによるATPの合成(その2)
10mM 塩化マグネシウム、100mM 硫酸アンモニウム、ポリリン酸(無機リン酸としてそれぞれ0mM、30mM、75mM、150mM)、4mM AMPを含有する50mM トリス塩酸緩衝液(pH7.8)に0.1ユニット/mlポリリン酸キナーゼ及び0.5ユニット/ml アデニレートキナーゼを添加し、37℃で120分保温した。反応終了後反応液中のヌクレオチドをHPLCを用いて定量した。その結果を表2に示す。
表2に示すように、ポリリン酸キナーゼとアデニレートキナーゼによるリン酸化活性はポリリン酸濃度に依存しているが、高濃度ポリリン酸存在下ではその活性も阻害された。
(7)ポリリン酸キナーゼとアデニレートキナーゼによるATPの合成(その3)
10mM 塩化マグネシウム、100mM 硫酸アンモニウム、ポリリン酸(無機リン酸として75mM)、4mM AMPを含有する50mM トリス塩酸緩衝液(pH7.8)に0.1ユニット/mlポリリン酸キナーゼ及び様々な濃度のアデニレートキナーゼ酵素標品を添加し、37℃で70分保温した。反応終了後反応液中のヌクレオチドをHPLCを用いて定量した。その結果を表3に示す。
(8)ポリリン酸キナーゼとアデニレートキナーゼによるATPの合成(その4)
10mM 塩化マグネシウム、100mM 硫酸アンモニウム、ポリリン酸(無機リン酸として75mM)、4mM AMPを含有する50mM トリス塩酸緩衝液(pH7.8)に0.1ユニット/mlポリリン酸キナーゼ及び2.5ユニット/mlアデニレートキナーゼ酵素標品を添加し、37℃で400分保温した。反応終了後反応液中のヌクレオチドをHPLCを用いて定量した。その結果を図1に示す。反応終了時の反応液中のヌクレオチド濃度は、ATP 2.3mM、ADP 1.3mM、AMP 0.4mMであった。
実施例2;ATP再生系を利用したガラクトース−1−リン酸の製造
(1)大腸菌ガラクトキナーゼの調製
大腸菌ガラクトキナーゼ遺伝子を含有するプラスミドpDR540(Gene,20,231(1982)、ファルマシア社より入手)を保持する大腸菌JM109菌を、100μg/mlのアンピシリンを含有する2×YT培地 300mlに植菌し、37℃で振とう培養した。4×108菌/mlに達した時点で、培養液に終濃度1mMになるようにIPTGを添加し、さらに30℃で5時間振とう培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g、10分)により菌体を回収し、60mlの緩衝液(50mM トリス塩酸(pH7.5)、5mM EDTA、0.1%トライトンX−100、0.2mg/mlリゾチーム)に懸濁した。37℃で1時間保温した後、超音波処理を行い、菌体を破砕し、さらに遠心分離(20,000×g、10分)により菌体残さを除去した。このように得られた上清画分を5mM 塩化マグネシウム及び1mM 2−メルカプトエタノールを含有する50mMトリス塩酸(pH7.8)に対して透析を行い、ガラクトキナーゼ酵素液とした。酵素液におけるガラクトキナーゼの比活性は、1.39ユニット/mg蛋白質であった。
なお、ガラクトキナーゼ活性の単位(ユニット)は、以下に示す方法で測定、算出したものである。5mM塩化マグネシウム、10mM ATP、10mM ガラクトースを含有する100mMトリス塩酸緩衝液(pH7.8)に酵素標品を添加して、37℃で保温することで反応を行い、100℃、1分間の熱処理により反応を停止させる。糖分析装置(ダイオネックス社)を用いて反応液中のガラクトース−1−リン酸を定量し、37℃で1分間に1μmoleのガラクトース−1−リン酸を生成する活性を1単位(ユニット)とする。
(2)ポリリン酸キナーゼとアデニレートキナーゼによるATP再生とガラクトキナーゼによるガラクトース−1−リン酸の合成
10mM 塩化マグネシウム、100mM 硫安、ポリリン酸(無機リン酸として75mM)及び4mM AMPを含有する100mM トリス塩酸緩衝液(pH7.8)に0.1ユニット/mlポリリン酸キナーゼ及び2.5ユニット/mlアデニレートキナーゼ酵素標品を添加し、37℃で120分保温した。該AMPリン酸化反応終了時の反応液中のヌクレオチド濃度は、ATP 1.4mM、ADP 1.7mM、AMP 0.9mMであった。この反応液に終濃度40mMとなるようにD(+)ガラクトースを添加し、さらに1.0ユニット/mlとなるようにガラクトキナーゼを添加し、37℃で4.5時間保温した。反応終了液を糖分析装置(ダイオネックス社)を用いて分析したところ、28.4mMのガラクトース−1−リン酸の生成が確認された。
産業上の利用可能性
本発明により、簡便かつ安価にAMPからATPを製造することが可能となった。このATP合成系をATPを消費する酵素反応系と組み合わせることにより、効率的に目的とする化合物を製造することが可能となった。
Claims (5)
- アデノシン5′−二リン酸及びアデノシン5′−三リン酸を添加しない反応系で、アデノシン5′−一リン酸に微生物由来のポリリン酸キナーゼ、微生物由来のアデニレートキナーゼ及びポリリン酸を作用せしめることを特徴とするアデノシン5′−三リン酸の製造法。
- アデノシン5′−三リン酸を消費する酵素反応を利用した化合物の製造法において、アデノシン5′−二リン酸及びアデノシン5′−三リン酸を添加しない反応系で、アデノシン5′−一リン酸に微生物由来のポリリン酸キナーゼ、微生物由来のアデニレートキナーゼ及びポリリン酸を作用せしめてアデノシン5′−三リン酸を生成させ、当該酵素反応に供給することを特徴とする当該化合物の製造法。
- アデノシン5′−三リン酸を消費する酵素反応を利用した化合物の製造法において、アデノシン5′−二リン酸及びアデノシン5′−三リン酸を添加しない反応系で、アデノシン5′−一リン酸に微生物由来のポリリン酸キナーゼ、微生物由来のアデニレートキナーゼ及びポリリン酸を作用せしめて、消費したアデノシン5′−三リン酸を再生しながら当該酵素反応を行うことを特徴とする当該化合物の製造法。
- 微生物由来のポリリン酸キナーゼ、微生物由来のアデニレートキナーゼ及びポリリン酸を組み合わせてなる、アデノシン5′−二リン酸及びアデノシン5′−三リン酸を添加することなく、アデノシン5′−一リン酸からアデノシン5′−三リン酸を合成するための試薬。
- 微生物由来のポリリン酸キナーゼ、微生物由来のアデニレートキナーゼ及びポリリン酸を組み合わせてなる、アデノシン5′−二リン酸及びアデノシン5′−三リン酸を添加することなく、アデノシン5′−一リン酸からアデノシン5′−三リン酸を再生するための試薬。
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