JP3761171B2 - バリレスドリル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、軸線まわりに回転させながら被削材に挿入し、穿孔加工するために用いるドリルに関する。
【0002】
【従来の技術】
図14は、従来の技術のドリル1を示す正面図である。図15は、ばり4の発生メカニズムを示す断面図である。ドリル1は、先端部2の全体が尖鋭状に、つまり先端切刃角θ1が180度未満に形成されている。ドリル1を用いて、被削材3を穿孔加工すると、ドリル1を挿通する方向A下流側に、仮想線で示すばり4が発生してしまう。
【0003】
詳細に説明するとドリル1を被削材3に挿入して切削すると、図15(1)に示すように、切削されずに残っている残部6の厚みが小さくなる。さらにドリル1が挿入方向Aへ進行すると、図15(2)に示すように、残部6の中心部が局部的に、ドリル1から受ける軸線方向の荷重によって突き出されて裂け目5を生じる。さらにドリル1が挿入方向Aへ進行すると、図15(3)に示すように、ドリルの切れ刃によって残部6が切削される前に、ドリル1から受ける軸線方向の荷重を支えきれずに塑性変形して、半径方向外方に曲がり、さらにドリル1におされてばり4が生成されてしまう。
【0004】
このようなメカニズムによって、先端部における最外周部の切刃が鈍角的に、つまり半径方向内方になるにつれて突出するように傾斜する形状のドリル1では、ばり4が発生してしまう。被削材3が、たとえば航空機の胴体外表面板に用いられる構造用材である場合、この被削材3は、アルミニウムおよびその合金から成り、純度の高いアルミニウムから成るクラッド層を有している。この純度が高いアルミニウムは、延性が高く、特にばり4が発生し易い。
【0005】
図16は、他の従来の技術のドリル1aの先端部2aを示す正面図である。このドリル1aは、先端部2aの切刃が、外周側領域S1oは、切刃角θ1aが180度を超える角度に、換言すれば、軸線に対して半径方向内方に向かうにつれて没入するように傾斜して形成され、内方側領域S1inは、尖鋭状に外周側領域S1oの最外周部よりも突出して形成されている。外周側領域S1oと内周側領域S1inとは、屈曲して連なっている。このドリル1aは、先端部2aの最外周部の切刃を鋭角的に形成することによって、図15に関連して述べた残部が塑性変形する前に最外周側から切削することによってばりの発生を防止している(たとえば特許文献1および2参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−177421
【特許文献2】
特開平8−300209
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
図16に示すドリル1aは、ばりの発生を防止することはできるが、外周側領域S1oの切刃角θ1aを180度を超える角度にすることによって、内周側領域S1inの突出量ΔH1が小さくなり、求心性が低下して位置ずれを生じてしまう。これに対して、内方側領域を大きくして突出量ΔH1を大きくすることが容易に考えられるが、これでは外周側領域におけるばり防止効果が低下し、ばりの発生を防止できなくなってしまう。
【0008】
また切り屑は、先端部の切刃に垂直な方向に切り屑が発生するので、ドリル1aでは、先端部2aの切刃形状に起因して、切り屑の発生方向が、切り屑を逃がすためのねじれ溝9が延びる方向とは異なってしまう。このように切り屑が、ねじれ溝9が延びる方向とは異なる方向へ発生すると、切り屑がドリル1aに絡み付いてしまい、刃先先端部に切り屑がフタ状に溶着しやすい。したがって切り屑の除去を含めたメンテナンスに手間を要する。このようなドリル1aでは、機械制御による自動穿孔作業には用いることができない。
【0009】
本発明の目的は、ばりの発生、位置ずれおよび切り屑の絡み付きを防止することができるドリルを提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の本発明は、(a)先端部における外周側領域に配置される外周切刃であって、軸線に垂直な平面に沿って形成される外周切刃と、
(b)先端部における内周側領域に配置され、軸線に近づくにつれて先端方向へ向けて突出して形成される内周切刃であって、
(b1)内周側領域の直径が、ドリル外径の2分の1以下であり、
(b2)半径方向内方側の円錐部と、半径方向外方側の円弧部とを有し、
(b3)円錐部が、軸線を中心として先端方向に向けて先細となる円錐面に沿って形成され、
(b4)円弧部が、先端方向と反対方向および半径方向内方に凹む円弧を軸線まわりに回転させた曲面に沿って形成され、円錐部および外周切刃に滑らかに連なる、内周切刃とを有することを特徴とするバリレスドリルである。
【0011】
本発明に従えば、先端部における外周側領域には、外周切刃が設けられ、この外周切刃は、軸線に垂直な平面に沿って形成されている。これによって被削材の残部が塑性変形して外方に曲がる前に、最外周部を打ち抜くようにして切削し、ばりの発生を防止することができる。また先端部における内周側領域には、内周切刃が設けられ、この内周切刃は、軸線に近づくにつれて先端方向へ突出し、軸線上の一点が尖鋭状に形成される。したがって求心性を得て、ドリルの位置ずれを防止することができる。また内周切刃は、半径方向外方側に円弧部を有しており、外周切刃から内周切刃にわたって滑らかに連なって形成されている。これによって1つに連なった切り屑を、切り屑を逃がすためのねじれ溝の延びる方向へ発生させることができる。したがって発生する切り屑がねじれ溝を介して逃がされ、ドリルに絡み付いてしまうことが防がれる。
【0012】
しかも外周切刃が軸線に垂直な平面に沿って形成されているので、内周側領域の直径を大きくすることなく、具体的にはドリル外径の2分の1以下にしたうえで、内周切刃の外周切刃に対する突出量を大きくすることができる。さらに外周切刃から内周切刃にわたって滑らかに連なるようにするための円弧部は、内周切刃に設けられる。したがって1つに連なった切り屑を確実に発生させることができる形状で、ばり発生防止効果を確実に達成できる外周切刃を確保したうえで、求心性が確実に得られるように内周切刃を外周切刃から突出させることができる。したがってばりの発生防止、位置ずれ防止および切り屑の絡み付き防止を、同時にかつ確実に達成することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の一形態のバリレスドリル10の先端部11を示す正面図である。図2は、バリレスドリル10を先端側から見て示す側面図である。図3は、バリレスドリル10を用いて穿孔加工される被削材35を示す断面図である。バリレスドリル(以下単に「ドリル」という場合がある)10は、延性を有する材料から成る被削材35を穿孔加工するために、特に好適に用いられるドリルである。
【0015】
被削材35は、航空機胴体の外板などを構成する板材であり、延性の高い金属材料から成る。航空機胴体の外板である場合、被削材35は、アルミニウム合金から成る基層36と、基層36に積層されるクラッド層37とを有する。さらに具体的に述べると、一般的な旅客機の航空機胴体の外板の場合、A2024−T3およびC188−T3(A2524相当)のアルミニウム合金から成る基層36に、A1230などのA1000系、つまり純アルミニウム系のクラッド層37が設けられている。被削材35の厚みT35は、たとえば5mmであり、クラッド層37の厚みT37は、全体の厚みT35の3%程度である。ドリル10は、このような純度の高いアルミニウムのクラッド層37を有するなど、延性の高い金属材料から成る被削材35の穿孔加工に、好適に用いることができる。
【0016】
また航空機胴体の外板を形成するにあたっては、多数、たとえば面積が30m2程度の1枚の被削材35に対して、250〜600個程度の部品取付け用の基準孔を予め形成する必要がある。このような理由から、航空機胴体の外板を形成するにあたっては、ドリル10を自動制御によっていわば自動的に複数の透孔を穿つ穿孔装置に装着し、この穿孔装置を用いて被削材35が穿孔加工される。このようにドリル10は、穿孔装置に装着されて用いられる。
【0017】
ドリル10は、先端部11に周方向に等間隔に並ぶ、複数枚、本実施の形態では2枚の切刃12を有する。このようにドリル10は、2枚刃のドリルであって、各切刃12から後端部に向かって螺旋状に延びる2条のねじれ溝13が形成されている。
【0018】
ドリル10は、その軸線L10まわりに切刃12がねじれ溝13に臨む方向となる回転方向Cへ回転されながら後端部から先端部11に向かう方向(以下「先端方向」という)B1へ軸線L10に沿って移動され、被削材に先端部11から挿入されて、被削材を各切刃12によって切削して穿孔する。各切刃12によって切削された切り屑は、ねじれ溝13によって先端方向B1と反対の後端方向B2へ逃がされる。ねじれ溝13は、後端方向B2に向かうにつれて回転方向C1と反対方向に旋回するように形成される。
【0019】
ドリル10の先端部11における各切刃12は、軸線L10から大略的に放射状に半径方向に延びている。これら各切刃12は、外周側領域S14では、軸線L10に略垂直に形成され、外周側領域S14の内方にある内周側領域S15では、先端方向B1に向けて突出し、換言するば軸線L10に近づくにつれて先端方向B1へ向かうように形成される。このようにしてドリル10の先端部11は、中心部が軸線L10に沿って尖鋭状に突出している。また各切刃12は、外周側領域S14から内周側領域S15にわたって滑らかに連なって形成される。以下、切刃12の外周側領域S14の部分を、外周切刃20といい、切刃12の内周側領域S15の部分を、内周切刃21という。
【0020】
軸線L10を中心としてドリル10の刃部26(図4に記載)に外接する直径D14の外接仮想円筒14と、軸線L10を中心とする直径D15の区切仮想円筒15とを想定して、外接仮想円筒14と区切仮想円筒15との間の領域が外周側領域S14であり、区切仮想円筒15の内側の領域が内周側領域S15である。区切仮想円筒15の直径D15は、外接仮想円筒14の直径D14の2分の1以下、本実施の形態では2分の1である。したがって区切仮想円筒15の直径と等しい内周側領域S15の直径(同一の符号を付す)D15は、外接仮想円筒14の直径と等しいドリル外径(同一の符号を付す)D14の2分の1(D15×2=D14)である。
【0021】
外周切刃20は、軸線L10に垂直な平面に沿って形成され、軸線L10を含む平面に投影したとき直線となるように形成される。したがって外周切刃20の切刃角θ14は、約180度である。
【0022】
内周切刃21の軸線方向寸法、すなわち内周切刃21の外周切刃20からの突出量ΔH21は、被削材の材質などに基づいて決まる寸法であって、高い求心性を得て位置ずれを防止できる程度以上の寸法である。内周切刃21は、半径方向内方側の円錐部23と、半径方向外方側の円弧部24とを有する。円錐部23は、軸線L10を中心とし、先端方向Bに向かって先細となる円錐面に沿って形成され、軸線L10を含む平面に投影したとき直線となるように形成される。この円錐部23の切刃角θ15は、60度以上130度以下である。
【0023】
円弧部24は、先端方向Bとは反対方向および半径方向内方に向かって凹となる円弧を軸線L10まわりに回転させた曲面に沿って形成され、軸線L10を含む平面に投影したとき円弧となるように形成される。また円弧部24は、円錐部23に滑らかに連なるとともに、外周切刃20に滑らかに連なり、このようにして各切刃12は、外周側領域S14から内周側領域S15にわたって滑らかに連なって形成される。
【0024】
図4は、ドリル10の具体的寸法の一例を示すためにドリル10全体を示す正面図である。図5は、ドリル10の具体的寸法の一例を示すためにドリル10を先端側から示すの側面図である。図6は、ドリル10の具体的寸法の一例を示すためにドリル10の先端部11を示すの正面図である。ドリル10は、たとえばSKH56などの高速工具鋼から成り、後端部側に円筒部の柄部25を有するとともに、先端部側に切刃12が形成される刃部26を有し、柄部25で穿孔装置にチャッキングされて用いられる。ドリル10の回転速度は、たとえば9000min−1であり、送り速度つまり軸線方向の移動速度は、たとえば320mm/分である。
【0025】
たとえば被削材が前述のように主としてアルミニウムから成る航空機胴体を形成するための板材であり、2.5mmφの透孔を穿つためのドリル10である場合、ドリル外径D14が2.5mmφであって、後端から外周刃先20までの軸線方向寸法W10は、約62mmであり、柄部25の軸線方向寸法W25が30mmであり、刃部26の軸線方向寸法W26は、約31mmであり、ねじれ溝13の軸線方向寸法W13は、約30mmである。また外周切刃20の切刃角θ14は、約180度、たとえば178度以上182度以下であり、円錐部23の切刃角θ15は、約90度である。さらに内周切刃21の突出量ΔH21は、約0.7mmであり、円弧部24の曲率半径R24は、約1.1mmである。
【0026】
表1は、ドリルの先端部の形状の差異によるばりの有無、位置ずれおよび切り屑の絡みつきの有無を示す表である。本発明に従うドリルの効果をより明確に示すために、本実施の形態のドリル10を実施例として、比較例として3タイプの従来ドリルと比較して示す。
【0027】
【表1】
【0028】
第1の比較例である標準タイプと呼ばれるドリルは、図14に示すような全体が先端方向へ突出するドリルである。この第1の比較例のドリルでは、位置ずれおよび切り屑の絡み付きは、その発生を防止することができるが、ばりは、その発生を防止することができない。
【0029】
第2の比較例である段付きタイプと呼ばれるドリルは、標準タイプのドリルの外周部が後端方向へ退避して段差が形成されるドリルである。この第2の比較例のドリルでは、位置ずれは、その発生を防止することができるが、切り屑の絡み付きおよびばりは、その発生を防止することができない。
【0030】
第3の比較例であるローソクタイプと呼ばれるドリルは、図16に示すような外周領域と内周領域とが屈曲して連なり、内周側領域が外周側領域に比べて先端方向へ突出するけれども、その突出量が小さいドリルである。この第3の比較例のドリルでは、ばりは、その発生を防止することができるが、位置ずれおよび切り屑の絡み付きは、その発生を防止することができない。
【0031】
実施例である本実施の形態のドリル10は、図1〜図5を参照して説明したドリルである。この実施例のドリル10では、ばり、位置ずれおよび切り屑の絡み付きは、全て、その発生を防止することができる。このように第1〜第3の比較例として示す従来のドリルでは、ばり、位置ずれおよび切り屑の絡み付き全てを防止することはできるという、優れて効果を達成することができなかったが、本実施の形態のドリル10では、この優れた効果を達成することができる。
【0032】
図7は、ドリルにおける先端角θとばり厚さとの関係を示すグラフである。横軸は、先端角θを示し、縦軸は、ばり厚さを示す。先端角θは、ドリル10における外周切刃20の切刃角θ14に相当する。ばり厚さは、ばりの根元における厚さであり、図7に示す値は一例であって、被削材の材質によって変化する。図7の線30から明らかなように、先端角θが70度から80度、90度と大きくなるにつれて、ばり厚さが大きくなり、先端角θが100度において最大ばり厚さを示し、先端角θが100度から、110度、120度、…と大きくなるにつれて、ばり厚さが小さくなり、先端角θが180度から220度の付近で、ばり厚さが最も小さくなり、先端角θが220度を超えると、再びばり厚さが大きくなる。
【0033】
このように先端角θ、つまり外周切刃20における切刃角θ14が180度から220度の範囲にあると、ばりの発生を大きく抑制することができる。つまり本実施の形態のドリル10は、ばりの発生を大きく抑制、換言すればはりの発生を防止することができる。
【0034】
図8は、ばり取りコストを示すグラフである。縦軸は、1年間に要するばり取りコストを示し、図14に示す従来ドリルおよび図1に示す本発明のドリル10に対応するばり取りコストを、棒グラフで示す。図8から明らかなように、棒30で示される従来ドリルを用いた場合のばり取りコストに比べて、棒31で示される本発明のドリル10を用いた場合のばり取りコストに比べて2分の1以下に、換言すれば、従来ドリルを用いた場合に必要であったばり取りコストの50%以上、実際には65%程度のコストΔYを削減することができる。このようにばり取りコストの点からも、ドリル10は、ばりの発生を大きく抑制できることが確認できる。
【0035】
図9は、ドリルの先端部の形状の差異による切り屑39の発生方向Cを示すドリルの正面図であって、図9では、簡略化してドリルを示す。本発明に従うドリルの効果をより明確に示すために、本実施の形態のドリル10を実施例として図9(1)に示し、比較例として3タイプの従来ドリルを図9(2)〜図9(4)に示す。また図10は、切り屑39の種類を示す斜視図である。
【0036】
図9(1)に示す実施例のドリルは、本実施の形態のドリル10である。このドリル10では、1つの切刃12によって切削された切り屑39は、外周切刃20によって切削された部分および内周切刃21によって切削された部分が1つに連なった状態で、軸線L10まわりに旋回する発生方向Cに延びるように発生する。この切り屑39の発生方向Cは、ねじれ溝13に沿う方向である。換言すれば、切り屑Cは、ねじれ溝13に沿って延びるように発生する。
【0037】
図9(2)に示す第1の比較例のドリルは、図14に示すような全体が先端方向へ突出するドリル1である。この第1の比較例のドリル1では、1つの切刃によって切削された切り屑39は、1つに連なった状態で、軸線まわりに旋回する発生方向Cに延びるように発生する。この切り屑39の発生方向Cは、ねじれ溝に沿う方向である。換言すれば、切り屑Cは、ねじれ溝に沿って延びるように発生する。
【0038】
図9(3)に示す第3の比較例のドリルは、図16に示すような外周領域と内周領域とが屈曲して連なり、内周側領域が外周側領域に比べて先端方向へ突出するけれども、その突出量が小さいドリル1aである。この第3の比較例のドリル1aでは、内周側領域の突出した部分における切り屑は微小量で無視でき、1つの切刃によって切削された切り屑39は、1つに連なった状態で、軸線に沿う発生方向Cに延びるように発生する。この切り屑39の発生方向Cは、ねじれ溝とを異なる方向である。換言すれば、切り屑Cは、ねじれ溝からずれて発生する。
【0039】
図9(4)に示す第4の比較例のドリルは、図9(3)の第3の比較例のドリルにおいて、内方側領域を大きくするとともに突出量を大きくしたドリル1bである。この第4の比較例のドリル1bでは、内周側領域および外周側領域それぞれから切り屑39が発生し、相互に分断されて、異なる発生方向Cへ発生する。外周側領域から発生する一方の切り屑39は、第3の比較例のドリル1aと同様に軸線に沿う発生方向Cに延びるように発生し、内周側領域から発生する他方の切り屑39は、第2の比較例のドリル1と同様に軸線まわりに旋回する発生方向Cに延びるように発生する。
【0040】
ドリルによる切削によって発生する切り屑39の形状に基づく分類には、図10(1)に示すような円錐らせん形、図10(2)に示すよな長ピッチ形、図10(3)に示すようなジグザク形、図10(4)に示すような針状形、図10(5)に示すような扇形および図10(6)に示すようなせん移折断形がある。切り屑39のドリル10への絡み付き防止、被削材35の加工後の品質およびドリル10の負荷の観点から、せん移折断形の切り屑39が発生することが臨まれる。円錐らせん形の切り屑39を、ねじれ溝13に沿って発生させることができれば、成長過程、換言すれば、ドリル10の後端方向B2への移動時に、ねじれ溝13の内面に接触して粉砕され、せん移折断形に変化する。したがって円錐らせん形の切り屑39を発生させることができれば、切り屑39のドリル10への絡み付きを防止し、被削材35の加工後の品質を高くし、ドリル10の負荷を小さくすることができる。
【0041】
切り屑39は、その切刃の略法線方向へ軸線からの距離に比例した速度で発生する。前記略法線方向は、切刃が直線状である場合には略垂直な方向である。したがって図9(3)のドリル1aのように軸線に垂直な切刃では、軸線に沿って切り屑39が発生し、長ピッチ形の切り屑39を発生してしまう。このような長ピッチ形の切り屑39は、ドリルに絡み付いてしまうので、連続して複数の透孔を穿つことができない。
【0042】
図9(2)のドリル1のようにねじれ溝に垂直な切刃では、ねじれ溝に沿って切り屑39が発生し、円錐らせん形となる。切り屑39としては、理想的な好ましいけれども、このドリルでは、ばりを発生させてしまう。
【0043】
また図9(4)に示すドリル1bは、ばりの発生を抑えることができ、内周側領域の切刃による切り屑39は、ねじれ溝に沿って円錐らせん形で発生するが、外周側領域の切刃による切り屑39は、図9(3)のドリル1aと同様に長ピッチ形となってしまう。つまり切刃の外周側領域と内周側領域とが屈曲しているので、半径方向で2つに分かれて切り屑39が発生してしまう。したがって一方が長ピッチ形になってしまう。
【0044】
これら比較例に対して、図9(1)に示す本実施の形態のドリル10では、切刃12を外周側領域から内周側領域にわたって滑らかに連なるように形成しているので、切り屑39が半径方向に関して1つに連なって切り屑を発生させることができる。したがって切刃12の半径方向の略中心位置における法線方向に延びるような発生方向Cへ切り屑39を発生させることができる。このように、ばりの発生を抑えるために切刃角を180度にした外周切刃20と、求心性を高めるための内周切刃21とが、滑らかに連なる形状とすることによって、ねじれ溝13に沿って円錐らせん形の切り屑39を発生させ、理想的な好ましい切り屑39を発生させることができる。
【0045】
本実施の形態のドリル10によれば、外周切刃20は、軸線L10に略垂直に、換言すれば切刃角が約180度に形成され、最外周部の切刃が略直角的に形成される。したがって被削材35に穿孔加工するとき、被削材35における切削されずに残る残部が塑性変形して外方に曲がる前に、最外周部を打ち抜くようにして切削し、ばりの発生を防止することができる。
【0046】
また内周切刃21は、軸線L10に近づくにつれて突出し、ドリル10が軸線L10上の一点で尖鋭状に突出するように形成される。しかも外周切刃の切刃角θ14が約180度であるので、内周側領域S15を大きくすることなく、外周切刃20からの突出量ΔH21を大きくすることができる。したがって外周切刃20が、ばり発生防止効果を達成できる十分な領域を外周側領域S14として確保し、かつ内周切刃21によって、求心性を得て位置ずれを防止することができる。
【0047】
さらに切刃12は、外周側領域から内周側領域にわたって滑らかに連なって形成され、外周領域から内周領域にわたって1つに連なって切り屑39を発生させることができる。この切り屑39は、外周領域から内周領域にわたって連なることによって、切り屑39を逃がすためのねじれ溝13の延びる方向に発生する。したがって発生する切り屑39が、円錐らせん形となり、せん移折断形に変化しながら、ねじれ溝13を介して逃がされ、絡み付いてしまうことが防がれる。
【0048】
このようにドリル10は、ばりの発生、位置ずれおよび切り屑の絡み付きを防止する効果を同時に達成することができる。したがって航空機胴体の外板などの形成するための延性の高い材料から成る被削材35に対して、ばりを発生させることなく穿孔加工することができる。また切り屑39の絡み付きが防がれるので、穿孔装置を用いて連続的に、複数の透孔を形成することができる。
【0049】
また内周側領域S15の直径が、ドリル外径の2分の1以下であり、外周側領域S14を十分に確保することができる。このように軸線L10に略垂直な外周切刃21を十分に確保することができ、ばり発生防止の効果を確実に達成することができる。
【0050】
また内周切刃21の円錐部23における切刃角θ15が60度以上130度以下程度に設定されるので、前述のような理想的な切り屑39の発生、高い耐久性および求心性を確実に達成することができる。円錐部21の切刃角θ15が60度未満である場合には、内周切刃21による切り屑の発生が少なくなり、長ピッチ形の切り屑になってしまうおそれがあり、また切り屑が発生しなければ、内周切刃21の摩損が激しくなり、耐久性が低下してしまう。また円錐部21の切刃角θ15が130度を超えると、求心性が低下し、位置ずれを生じてしまうおそれがある。このような不具合を確実に防ぐことができる。
【0051】
図11は、ドリル10の具体的寸法の他の例を示すためにドリル10全体を示す正面図である。図12は、ドリル10の具体的寸法の他の例を示すためにドリル10を先端側から示すの側面図である。図13は、ドリル10の具体的寸法の他の例を示すためにドリル10の先端部11を示すの正面図である。この他の例のドリル10は、たとえばSKH56などの高速工具鋼から成り、後端部側に円筒部の柄部25を有するとともに、先端部側に切刃12が形成される刃部26を有し、柄部25で穿孔装置にチャッキングされて用いられる。ドリル10の回転速度は、たとえば9000min−1であり、送り速度つまり軸線方向の移動速度は、たとえば320mm/分である。
【0052】
たとえば被削材が前述のように主としてアルミニウムから成る航空機胴体を形成するための板材あり、3.3mmφの透孔を穿つためのドリル10である場合、ドリル外径D14が3.3mmφであって、後端から外周刃先20までの軸線方向寸法W10は、約68mmであり、柄部25の軸線方向寸法W25が約30mmであり、刃部26の軸線方向寸法W26は、約37mmであり、ねじれ溝13の軸線方向寸法W13は、約36mmである。また外周切刃20の切刃角θ14は、約180度、たとえば178以上182以下であり、円錐部23の切刃角θ15は、約90度である。さらに内周切刃21の突出量ΔH21は、約0.8mmであり、円弧部24の曲率半径R24は、約1.3mmである。このような寸法であって、図4〜図6で説明した寸法のドリル10と同様の効果を達成することができる。
【0053】
上述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲内において構成を変更することができる。たとえば、航空機胴体の外板以外の構造部材を形成するために穿孔加工する目的で、本発明のドリルを用いても良い。またアルミニウム以外の材料、たとえばマグネシウムなどでもよい。また周方向に設ける切刃の枚数は、1枚および3枚以上であってもよい。また先端部11から後端側に退避した位置に、皿取りするための切刃が設けられるドリルに実施するようにしてもよい。
【0054】
【発明の効果】
請求項1記載の本発明によれば、先端部における外周側領域には、外周切刃が設けられ、この外周切刃は、軸線に垂直な平面に沿って形成されている。これによって被削材の残部が塑性変形して外方に曲がる前に、最外周部を打ち抜くようにして切削し、ばりの発生を防止することができる。また先端部における内周側領域には、内周切刃が設けられ、この内周切刃は、軸線に近づくにつれて先端方向へ突出し、軸線上の一点が尖鋭状に形成される。したがって求心性を得て、ドリルの位置ずれを防止することができる。また内周切刃は、半径方向外方側に円弧部を有しており、外周切刃から内周切刃にわたって滑らかに連なって形成されている。これによって1つに連なった切り屑を、切り屑を逃がすためのねじれ溝の延びる方向へ発生させることができる。したがって発生する切り屑がねじれ溝を介して逃がされ、ドリルに絡み付いてしまうことが防がれる。
【0055】
しかも外周切刃が軸線に垂直な平面に沿って形成されているので、内周側領域の直径を大きくすることなく、具体的にはドリル外径の2分の1以下にしたうえで、内周切刃の外周切刃に対する突出量を大きくすることができる。さらに外周切刃から内周切刃にわたって滑らかに連なるようにするための円弧部は、内周切刃に設けられる。したがって1つに連なった切り屑を確実に発生させることができる形状で、ばり発生防止効果を確実に達成できる外周切刃を確保したうえで、求心性が確実に得られるように内周切刃を外周切刃から突出させることができる。したがってばりの発生防止、位置ずれ防止および切り屑の絡み付き防止を、同時にかつ確実に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の一形態のバリレスドリル10の先端部11を示す正面図である。
【図2】バリレスドリル10を先端側から見て示す側面図である。
【図3】バリレスドリル10を用いて穿孔加工される被削材35を示す断面図である。
【図4】ドリル10の具体的寸法の一例を示すためにドリル10全体を示す正面図である。
【図5】ドリル10の具体的寸法の一例を示すためにドリル10を先端側から示す側面図である。
【図6】ドリル10の具体的寸法の一例を示すためにドリル10の先端部11を示す正面図である。
【図7】ドリルにおける先端角θとばり厚さとの関係を示すグラフである。
【図8】ばり取りコストを示すグラフである。
【図9】ドリルの先端部の形状の差異による切り屑39の発生方向Cを示すドリルの正面図である。
【図10】切り屑の種類を示す斜視図である。
【図11】ドリル10の具体的寸法の他の例を示すためにドリル10全体を示す正面図である。
【図12】ドリル10の具体的寸法の他の例を示すためにドリル10を先端側から示す側面図である。
【図13】ドリル10の具体的寸法の他の例を示すためにドリル10の先端部11を示す正面図である。
【図14】従来の技術のドリル1を示す正面図である。
【図15】ばり4の発生メカニズムを示す断面図である。
【図16】他の従来の技術のドリル1aの先端部2aを示す正面図である。
【符号の説明】
10 バリレスドリル
11 先端部
12 切刃
13 ねじれ溝
20 外周切刃
21 内周切刃
23 円錐部
24 円弧部
L10 軸線
S14 外周領域
S15 内周領域
θ14,θ15 切刃角
Claims (1)
- (a)先端部における外周側領域に配置される外周切刃であって、軸線に垂直な平面に沿って形成される外周切刃と、
(b)先端部における内周側領域に配置され、軸線に近づくにつれて先端方向へ向けて突出して形成される内周切刃であって、
(b1)内周側領域の直径が、ドリル外径の2分の1以下であり、
(b2)半径方向内方側の円錐部と、半径方向外方側の円弧部とを有し、
(b3)円錐部が、軸線を中心として先端方向に向けて先細となる円錐面に沿って形成され、
(b4)円弧部が、先端方向と反対方向および半径方向内方に凹む円弧を軸線まわりに回転させた曲面に沿って形成され、円錐部および外周切刃に滑らかに連なる、内周切刃とを有することを特徴とするバリレスドリル。
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