JP3835902B2 - ドリル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ドリル加工と穴内壁面のリーマ加工とを同時に行なうドリルその他の穴あけ工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
リーマ加工は、予めドリル加工により穿設された下穴に倣い、所望の穴精度と仕上面を得る仕上加工である。しかし、下穴径の良否によって切込み量が変動し、期待する穴精度に加工できない場合もあり不便であった。また、ドリル加工とリーマ加工とによる2工程の加工は加工能率が悪い等の問題もあった。
【0003】
そこで、安定した切削を維持するためと加工能率の向上を図るために、ドリル加工とリーマ加工とを同時に行い得る工具として公知にされているものを以下に例示する。
【0004】
図6に示すバニシングドリルは、円柱状のシャンクに連なる異形断面の工具本体の先端部に互いに対向する切れ刃20と、この切れ刃20に連なる回転方向x後方の斜面21と、この斜面21の縁から軸方向後方に延びる案内面22とを形成しているものである。切れ刃20は、先端部の軸心から径方向外側にいくにしたがい後端側に後退する一定の切れ刃角を有しており、切れ刃20の軸心近傍を超硬合金で構成し、外周側をろう付け固定されたダイヤモンド焼結体で構成している。
【0005】
実開平2−97510号公報に開示されたものを簡単に説明すると、図7に示す如く、シャンクに連なる刃部の先端部に一対の第1の切れ刃30を備えるとともに、第1の切れ刃30と交叉する方向にも別の一対の第2の切れ刃31を備えている。第1の切れ刃30は超硬合金から成るシャンクと一体として形成され、第2の切れ刃31はダイヤモンド焼結体をシャンクにろう付けにて接合して形成されている。
【0006】
第1の切れ刃30は、軸心から径方向外側にいくにしたがい軸方向後方側に所定の切れ刃角でもって傾斜して形成されている。また第2の切れ刃31は、第1の切れ刃30の最大外径より径方向外側に位置されるとともに、軸方向後方側に配置されている。これにより、第1の切れ刃30による下穴の穿設された直後に、第2の切れ刃31による一定の取り代の切削が行われる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ここで以下に、従来技術の問題点を記述する。
【0008】
前記第1の従来技術は、外周刃をダイヤモンド焼結体により形成し、加工精度の向上を図ったものであるにもかかわらず、切削初期の喰い付き性が悪く、工具本体先端部に振れ回りを誘発したり、穴径の拡大代を増大させたり、穴内壁面の仕上面粗さを大きくする場合がある。また仕上代の一定しない加工はチッピングや欠損を生ずることがあり、切削不能となる危険性もある。これは、ダイヤモンド焼結体自体の性質が高硬度である反面、脆い材料であることによるものである。
【0009】
また、前記第2の従来技術は、第1の切れ刃と第2の切れ刃とが工具本体の同一の軸心に対して交叉するように配置されたものであり、第2の切れ刃において一定量の取り代を確保できる構成となっている。しかしながら、工具本体は完全な剛体ではないため、切削抵抗により撓んだり振れ回ったり振動を生じたりすることがある。工具本体の回転中心軸の一定しないいわゆる歩行運動をすると、第1の切れ刃若しくは第2の切れ刃又はその双方の切込みに変動を生ずることになる。かかる場合に、工具の撓みや振動を防止するための配慮がなされていないと、加工穴が楕円形状となったり多角形状となったり穴径を拡大したりして、所望の穴径精度・仕上面粗さを確保することができなくなる。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記の如き課題に鑑みなされたもので、回転軸対称断面を成す工具本体は、円柱形状のシャンク部と円の一部が扇状に切欠きされた異形断面の刃部とから構成され、その刃部の先端部には、先端角でもって傾斜する一対の先行切れ刃と当該先行切れ刃より軸方向に後退し、かつ、直径の大なる一対の仕上切れ刃とを互いに離間して兼ね備えるようにしたドリルにおいて、少なくとも前記仕上切れ刃はダイヤモンド焼結体により構成され、当該仕上切れ刃の回転方向後方には、直径方向に互いに対向する一対のパット部が形成され、当該パット部は、前記仕上切れ刃より軸方向にさらに後退して配置されるとともに、当該パット部の直径を前記先行切れ刃の直径と前記仕上切れ刃の直径との間にあるように配置されたことを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について、図を参照しながら説明する。
【0012】
図1乃至図3は、本発明によるドリルを示したものである。工具本体1は、回転軸対称断面の円柱形状を成すシャンク部と円の一部が扇状に切欠きされた異形断面の刃部2とから概略構成されている。刃部2の外周には、切りくずを搬出するための一対のドリル溝4a、4bと一対のリーマ溝5a、5bとが軸線oの方向に沿って条設されている。ドリル溝4a、4bとリーマ溝5a、5bは、加工中に生成された切りくずを切削液とともにこれらの溝を通し、工具本体1の先端側から後端側に円滑に搬出するためのものである。工具回転方向xに対して、リーマ溝5a、5bの後方には、切削液を供給するための逃がし部6が形成されている。
【0013】
刃部2の先端部には、ドリル刃として作用する先行切れ刃7a、7bおよび工具本体1にろう付け固定されたリーマ刃として作用する一対の仕上げ切れ刃8a、8b並びに条片としてのパット部9a、9bとが備わっている。図1に示す如く、先端視、それらの位置関係は、先行切れ刃7a、7b・仕上げ切れ刃8a、8b・パット部9a、9bの順に回転方向x後方に順次離間して位置する関係にある。径方向に対する位置関係は、先行切れ刃7a、7b・パット部9a、9b・仕上切れ刃8a、8bの順に径方向外側に位置する関係にある。図2に示すように、軸直角方向から見た場合の軸方向の位置関係は、先行切れ刃7a、7b・仕上げ切れ刃8a、8b・パット部9a、9bの順に軸方向後方に位置する関係にある。
【0014】
先行切れ刃7a、7bは、先端から遠ざかる方向に所定の角度α(以下「先端角」という。)でもって傾斜する切れ刃を有している。ドリル加工は、工具本体軸線方向の切削力(以下「スラスト」という。)および回転方向の切削力が同時に作用する加工であるため、工具本体自体の剛性と切れ刃強度の双方の機械的性質に優れていることが必要である。特に、切れ刃の軸心近傍は、スラストが極めて強く作用する箇所であるため、切れ刃欠損に対する配慮が一層必要とされる。従って、先行切れ刃7a、7bについては、シャンクと同一の材料により一体として形成することが強度的に有利な構成となる。
【0015】
次に、仕上げ切れ刃8a、8bと先行切れ刃7a、7bは、各切れ刃と工具の軸心oとを結んだときに形成される開き角度β(以下「交叉角」という。)で配設されている。交叉角βは90°より小さい角度を成しているが、浅く条設されたリーマ溝5a、5bにおいて切りくずの排出を円滑に行なうために、交叉角βは45°より大きい角度に設定するのがよい。仕上げ切れ刃8a、8bは、先行切れ刃7a、7bより軸方向に後退しかつその直径より大なる直径を成している。
【0016】
仕上げ切れ刃8a、8bによる加工は、先行切れ刃7a、7bによる下穴加工に引き続いて行われるため、下穴径のコントロールという煩わしさから解放された、所定の取り代γの精度のよい一発加工を行なうことができる。但し、所望の精度を維持するために切れ刃の摩耗や溶着などについての配慮も必要である。
【0017】
仕上げ切れ刃8a、8bは先行切れ刃7a、7bより軸方向後方に位置しているため、スラストがかかることはなく、主として回転方向の切削力を考慮すれば足りる。また、微小切削を担う切れ刃であることから、その構成材料としては靭性の高い材料よりもむしろ、硬度の高い耐摩耗性に優れる材料が適する。その一方、溶着は、加工物の種類・切れ刃の構成材料などによる影響を受ける。殊に、アルミニウム合金を加工物とする場合には、溶着・構成刃先の生成・脱落が連続的に繰り返されるため、耐溶着性に優れる材料を選択する必要がある。
【0018】
ダイヤモンド焼結体は、耐溶着性が高く溶着性の強いアルミニウム合金などの切削に最適する。また、耐摩耗性も高いため鋭利な切れ刃形状が維持され、仕上面のむしれ・掘り起こし等も避けることができる。
【0019】
そこで、本発明は、仕上げ切れ刃をダイヤモンド焼結体により構成することにより、安定したリーマ加工と良好な加工精度を得ることに成功している。
【0020】
尚、高硬度である反面、脆い材料であるダイヤモンド焼結体の切れ刃チッピングを防止するために、切込み量となる取り代γを0.02mm〜0.08mm、特に好ましくは0.03mm〜0.75mmの範囲内から選択するのがよい。
【0021】
パット部9a、9bは仕上げ切れ刃8a、8bの回転方向x後方に後続して位置し、直径方向に対しては互いに対向するように配置されている。また、刃部の回転軌跡を示した図3より、パット部9a、9bは前記仕上切れ刃8a、8bより軸方向にさらに後退して配置されている。さらに、パット部9a、9bの直径は、先行切れ刃7a、7bの直径と仕上げ切れ刃8a、8bの直径との間にある。仕上切れ刃8a、8bの半径R3とパット部9a、9bの半径R2との半径差R3―R2、即ち、後退量δは、加工物の種類・加工条件などに基づいて0.001mm〜0.06mm、特に好ましくは0.002mm〜0.05mmに設定するのがよい。このことにより、仕上切れ刃8a、8bによる穴内壁面の仕上面粗さが維持され、工具本体1の振れ・振動も抑制され、仕上切れ刃7a、7bによる求心性の良い加工を行なうことができる。
【0022】
パット部9a、9bの外周側面10は湾曲した円弧形状に形成され、その曲率は加工穴内壁の曲率と同一あるいは幾分小さく形成されている。これにより、パット部9a、9bの外周側面10が加工穴の内壁面に接触するときのバニシングを抑制することができるとともに、良好な仕上面粗さを維持することができる。
【0023】
従来、パット部9a、9bがバニシング作用を行ない得るようにするため、仕上切れ刃8a、8bと同一の外径に構成されていた。そのこと故に、加工穴内壁に対する押圧力が過大になるとき、過剰のバニシングにより穴径が拡大し過ぎたり、加工穴内壁の仕上げ面粗さが悪くなるなどの不具合を生じることがあった。例えば、アルミニウム合金の下穴加工では穴径が縮小傾向を示すことがあり、これによりパット部9a、9bの押圧力が増加し仕上げ面粗さを悪くしたり、さらには、真円度や真直度の良くない穴を形成したりすることがあった。そこで、本発明は、かかる問題を回避し良好で安定した穴径精度と仕上げ面粗さを得るために、パット部9a、9bの直径を先行切れ刃7a、7bの直径と仕上げ切れ刃8a、8bの直径との間にあるよう設定している。
【0024】
図4および図5は、本発明の第2・第3の実施形態を示したものである。第1の実施形態と同一構成部分は同一番号を付して詳細な説明を省略する。
【0025】
図4は、ドリル刃として作用する先行切れ刃7a、7bの軸心近傍を衝撃に強い材料で構成し、外周側を摩耗に強い材料で構成したものである。即ち、軸心近傍をシャンクと同一材料の超硬合金で構成し、外周側をダイヤモンド焼結体その他の硬質焼結体で構成したものである。切削距離にほぼ比例するすきとり摩耗の激しい箇所となる切れ刃の外周部は、殊に、耐欠損性より耐摩耗性が重要となるからである。
【0026】
図5は、工具本体1の半径方向の切削力のアンバランスによりパット部9a、9bが加工穴内壁へ押圧される際に、内壁面にキズをつけることのないようにするため、溶着物等の生成し難いダイヤモンド焼結体をパット部9a、9bの構成材料としたものを示している。
【0027】
【発明の効果】
上述したように、ドリル加工とリーマ加工の同時加工により、短時間で精度のよい加工穴を形成することができる。また、仕上切れ刃による一定量の取り代の確保された安定した切削が行われ、期待される穴径精度と仕上面粗さを維持することができる。また、高硬度である反面、脆い材料であるダイヤモンド焼結体から成る仕上切れ刃のチッピングを防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すドリルの正面図である。
【図2】第1の実施形態に係わるドリルの側面図である。
【図3】第1の実施形態の刃部の回転軌跡を示す説明図である。
【図4】本発明の第2の実施形態を示すドリルの正面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態を示すドリルの正面図である。
【図6】仕上切れ刃を有する従来のドリルの一例を示す正面図である。
【図7】仕上切れ刃を有する従来のドリルの他の一例を示す正面図である。
【符号の説明】
7a、7b 先行切れ刃
8a、8b 仕上切れ刃
9a、9b パット部
δ 後退量
R1 先行切れ刃の刃先半径
R2 パット部の半径
R3 仕上げ切れ刃の刃先半径
Claims (3)
- 回転軸対称断面を成す工具本体1は、円柱形状のシャンク部と円の一部が扇状に切欠きされた異形断面の刃部2とから構成され、その刃部2の先端部には、先端角αでもって傾斜する一対の先行切れ刃7a、7bと当該先行切れ刃7a、7bより軸方向に後退し、かつ、直径の大なる一対の仕上切れ刃8a、8bとを互いに離間して兼ね備えるようにしたドリルにおいて、
少なくとも前記仕上切れ刃8a、8bはダイヤモンド焼結体により構成され、当該仕上切れ刃8a、8bの回転方向x後方には、直径方向に互いに対向する一対のパット部9a、9bが形成され、当該パット部9a、9bは、前記仕上切れ刃8a、8bより軸方向にさらに後退して配置されるとともに、当該パット部9a、9bの直径を前記先行切れ刃7a、7bの直径と前記仕上切れ刃8a、8bの直径との間にあるように配置されたことを特徴とするドリル。 - 前記仕上切れ刃8a、8bの半径R3と前記パット部9a、9bの半径R2との半径差R3―R2、即ち、前記パット部9a、9bの後退量δが0.002〜0.500mmとなるように形成されたことを特徴とする請求項1記載のドリル。
- 前記パット部9a、9bがダイヤモンド焼結体により構成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のドリル。
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