JP4193360B2 - ドリル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、被削材を穿孔するのに用いられるドリルに関し、例えば、プリント基板や、微少な金属部品、プラスチック等の被削材に小径深穴の孔部を穿孔するのに用いられる小型ドリルに関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に小型ドリルは、穿孔すべき穴がきわめて小径であり、ドリル本体の先端側に例えば直径0.05〜3.175mm程度の小径棒状の刃先部が設けられ、後端側にドリル本体を工作機械の回転軸に把持するための比較的大径のシャンク部が刃先部と一体にまたはろう付けや締まり嵌め等で接続されて設けられている。刃先部の材質は、通常、超硬合金が採用され、シャンク部は超硬合金やスチール等の鋼材等が採用されている。
【0003】
従来の小型ドリルでは、回転軸線周りに回転される小型ドリルの刃先部の周面に、刃先部の先端から基端側に向けて回転軸線周りにねじれる2条の切屑排出溝が対向して形成されている。
このような2条の切屑排出溝が設けられた従来の小型ドリルでは、2条の切屑排出溝によって芯厚が薄くなりドリルの剛性が低くなるので、とくに穴径が1mm以下、かつ穴深さと穴径との比が5以上のような小径深穴加工の場合、穴曲がりによる穴位置精度低下、刃先部の折損が発生してしまう。
【0004】
上記のような問題を解決するために、USP5584617に開示されているような小型ドリルがある。図9はこのような小型ドリルの刃先部を示す側面図であり、図10は同小型ドリルの刃先部の断面図である。この小型ドリル1は、刃先部2とシャンク部とを備え、刃先部2は、図9に示すように、その先端から基端側に向けて回転軸線O周りにねじれる1条の切屑排出溝3が設けられており、なおかつ切屑排出溝3のねじれ角γを刃先部2の先端から基端側に向かうにしたがい連続的に大きくさせて、切り屑の排出処理を向上させる点に特徴がある。
【0005】
また、刃先部2の断面において、図10に示すように、刃先部2の切屑排出溝3を除く外周面はマージン4によって構成されており、被削材の穿孔の際には、このマージン4が加工穴の内壁面と接触してドリルの直進性を得ることになる。このような構成とされた従来の小型ドリル1では、切屑排出溝3が1条のみであるため、刃先部2の芯厚dを薄くすることがなく、剛性を高く保つことができ、穴位置精度を向上させることが可能となる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、被削材の穿孔の際に発生する切り屑が、切屑排出溝3によって刃先部2の基端側にうまく運ばれずにマージン4とマージン4が接触している加工穴の内壁面との間に入り込んでしまうことがあり、この切り屑がそのまま加工穴の内壁面に付着したり、あるいは、切り屑が内壁を擦ってしまうことにより、加工穴の内壁面粗さを低下させるといった問題がしばしば起こっている。
このような現象は、穿孔する穴の穴径が1mm以下、かつ穴深さと穴径との比が5以上となるような小径深穴加工の場合により発生しやすく、大きな問題となっていた。
【0007】
とくに被削材としてプリント基板を穿孔する場合などでは、加工穴の内壁面にスミアと呼ばれる付着物が発生し、穿孔後の加工穴にスミアが残っているとその後のメッキ処理工程などで問題となるため、スミアを機械的に除去する工程が必要となってくる。これにより、スミアが加工穴の内壁面粗さを低下させるだけでなく、製品の歩留まり低下の大きな原因となっていた。
【0008】
さらに、上述した1条の切屑排出溝3を備えた小型ドリル1では、ドリル剛性が高いために、穿孔の際の小型ドリル1の送り速度を高めて高能率の加工を行うことが可能になるが、送り速度を高める弊害として、加工穴にバリが発生したり、内壁面粗さが低下するといった問題があり、高能率及び高精度の加工の両方を同時に達成することは難しかった。
【0009】
また、昨今では、高能率加工を達成するための手段として、穴明け加工が終了した後の小型ドリル1の引き抜き速度を高めて、穴明け加工速度を高めることが行われるが、小型ドリル1の引き抜き(図9に示す白抜き矢印方向が小型ドリル1の引き抜き方向である。)の際には、図9及び図10に示すように、切屑排出溝3とマージン4とが交差する2本の稜線のうち、切屑排出溝3のドリル回転方向T前方側を向く壁面に連なる稜線3Aが、小型ドリル1の回転軸線O周りの回転により回転方向Tと逆向きに発生する応力P1と、小型ドリル1の引き抜きに対して引き抜き方向と逆向きに発生する応力P2との合成応力Pを受けることになる。このため、小型ドリル1の引き抜き速度を高めると、切屑排出溝3とマージン4との交差稜線3Aにかかる合成応力Pが大きくなってしまい、刃先部2が折損するという問題がしばしば発生している。とくに、このような傾向はねじれ角γが大きい小型ドリル1に顕著に現れる。
【0010】
本発明は、上述のような課題に鑑みて、加工穴の内壁面粗さを向上でき、穴位置精度が高く、さらに、ドリル引き抜き時の刃先部の折損を防止できるドリルを提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、刃先部の周面に該刃先部の先端から基端側に向けて回転軸線周りにねじれる切屑排出溝が形成され、該切屑排出溝の回転方向を向く壁面の先端側領域をすくい面とし、該すくい面と先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルにおいて、前記刃先部の周面に該刃先部の先端から基端側に向けて回転軸線周りに切屑排出溝と逆向きにねじれる仕上げ刃付き溝が形成され、前記仕上げ刃付き溝は、前記切屑排出溝が前記刃先部の周面を1回転周回する長さより長く形成されている、または前記切屑排出溝が前記刃先部の周面を1回転半周回する長さとなる位置まで形成されていることを特徴とする。
このような構成とすると、加工穴の内壁面を擦るマージンが形成されている部分に仕上げ刃付き溝が形成されることになるため、マージンと加工穴の内壁面との間に入り込んだ切り屑を仕上げ刃付き溝によって除去して排出するとともに、その加工穴の内壁面を仕上げ刃により再度切削して仕上げ加工することができ、穴内壁面精度を向上させることができる。
さらに、仕上げ刃付き溝が切屑排出溝と逆向きにねじれて形成されているため、穴明け加工後のドリル引き抜き時において、仕上げ刃付き溝とマージンとの交差稜線の受ける応力が、切屑排出溝とマージンとの交差稜線が受ける応力を緩和させるように働き、引き抜き速度を高めたときに発生する刃先部の折損事故を防止することができる。
また、仕上げ刃付き溝を、切屑排出溝が刃先部の周面を1回転周回する長さより長く形成し、または切屑排出溝が刃先部の周面を1回転半周回する長さとなる位置まで形成することで、加工穴の内壁面を仕上げ加工するのに十分な長さの仕上げ刃付き溝を得ることができる。
ここで、仕上げ刃付き溝の形成されている長さが、切屑排出溝が刃先部の周面を1回転周回する長さより短かったり、1回転半周回する長さとなる位置まで形成されていなかったりすると、削り残しが発生しやすくなり、加工穴の内壁面精度を向上させる効果が得られない。
【0012】
また、前記刃先部の周面に形成される切屑排出溝が1条のみであることを特徴とする。
このような構成とすると、刃先部の2条の切屑排出溝が設けられた従来のドリルに比べて芯厚を厚くとることができ、高いドリル剛性を得ることができる。
【0013】
また、前記仕上げ刃付き溝のねじれ角βが−80°≦β≦−10°の範囲に設定されることを特徴とする。
このような構成とすると、ドリル引き抜き時に、仕上げ刃付き溝とマージンとの交差稜線にかかる応力を、切屑排出溝とマージンとの交差稜線にかかる応力と相殺させて緩和するのに好適な向きに発生させることができる。
ここで、仕上げ刃付き溝のねじれ角βが−80°より小さい、あるいは−10°より大きいと、仕上げ刃付き溝とマージンとの交差稜線にかかる応力を、切屑排出溝とマージンとの交差稜線にかかる応力と相殺させて十分に緩和するような向きに発生させることができず、刃先部の折損防止効果が得られない。
【0015】
また、前記仕上げ刃付き溝の仕上げ刃がなす刃物角θが80゜≦θ≦120゜の範囲に設定されていることを特徴とする。
このような構成としたことにより、仕上げ刃の耐欠損性を確保するとともに、良好な切れ味を確保することができる。
ここで、仕上げ刃付き溝の仕上げ刃がなす刃物角θが80゜より小さくなると、仕上げ刃にかかる切削抵抗が大きくなって欠損しやすくなり、一方、刃物角θが120゜より大きくなると、仕上げ刃の切れ味が低下して、加工穴の内壁面精度を向上させるという効果が得られなくなってしまう。
【0016】
また、前記刃先部の断面に内接する最大の円の直径dが前記刃先部の最大外径Dに対してなす割合d/D(以下、芯厚比率と称する。)が60%以上であることを特徴とする。
このような構成とすると、刃先部の芯厚を十分に確保して、ドリル剛性を高く保つことができ、さらに、仕上げ刃付き溝の大きさを必要以上に大きくすることがない。
ここで、芯厚比率d/Dが60%より小さいと、刃先部の芯厚が薄くなってしまい、十分なドリル剛性を保つことができなくなってしまう。
【0017】
また、前記仕上げ刃付き溝の溝深さaが前記刃先部の最大外径Dに対してなす割合a/D(以下、溝深さ比率と称する。)が5%以上とされるとともに、前記仕上げ刃付き溝の溝幅bが前記刃先部の最大外径Dに対してなす割合b/D(以下、溝幅比率と称する。)が10%以上とされることを特徴とする。
このような構成としたことにより、マージンと加工穴の内壁面との間に入り込み、仕上げ刃付き溝により除去される切り屑、あるいは仕上げ刃の仕上げ加工により発生する切り屑を逃がすのに十分なスペースを確保できる。
なお、溝深さ比率a/Dが5%より小さく設定されたり、溝幅比率b/Dが10%より小さく設定されていると、仕上げ刃付き溝のスペースを十分に確保することができず、仕上げ刃付き溝による切り屑の除去効率が悪化する。
【0018】
また、前記刃先部の最大外径Dが1mm以下、かつ前記刃先部の有効刃長Lと前記刃先部の最大外径Dとの比L/Dが5以上であることを特徴とする。
このような構成としたことにより、とくに、穴位置精度の低下や穴内壁面精度の低下といった問題が発生しやすい小径深穴の孔部を穿孔する際に本発明を有効に活用できる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を添付した図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の第一実施形態による小型ドリルの刃先部の側面図、図2は同小型ドリルの刃先部の断面図、図3は図2における要部拡大図、図4は図3における要部拡大図、図5は同小型ドリルの刃先部の断面についての説明図である。
【0020】
本発明の第一実施形態による小型ドリル10は刃先部11とシャンク部とから構成され、刃先部11は図1に示すように、その先端から基端まで同一の外径Dをもつようなストレートタイプとされている。すなわち、刃先部11の外径Dは最大外径Dとされる。
【0021】
また、刃先部11にはその先端から基端側に向けて、回転軸線Oを中心に螺旋状に一定のねじれ角αでねじれて、外周面に開口する1条の切屑排出溝12が設けられている。この切屑排出溝12は、刃先部11の先端から基端に亘って外周面を約3回転半周回するように形成されており、なおかつ、一定の溝深さおよび溝幅をもつものである。これにより、刃先部11の断面に内接する最大の円の直径d(いわゆる刃先部11の芯厚d)が、刃先部11の先端から基端まで一定とされている。
【0022】
さらに、同じく刃先部11の先端から基端側に向けて、回転軸線Oを中心に刃先部11の外周面に開口する1条の仕上げ刃付き溝13が螺旋状に切屑排出溝12と逆向きに一定のねじれ角βでねじれて形成されている。このとき、切屑排出溝12のねじれ角αを正の角とするならば、仕上げ刃付き溝13のねじれ角βは負の角となって、−80゜≦β≦−10゜の範囲に設定されており、本第一実施形態においては、例えば、仕上げ刃付き溝13のねじれ角βと切屑排出溝12のねじれ角αの両者の絶対値が同一とされている(β=−α)。
【0023】
ここで、仕上げ刃付き溝13は、図2に示すように、切屑排出溝12よりドリル回転方向T後方側に位置し、回転軸線O側に向かって凹むような凹曲面をなす壁面14によって凹溝状に形成されている。また、本第一実施形態において、仕上げ刃付き溝13は刃先部11の先端から基端まで形成されている、換言すれば、仕上げ刃付き溝13は切屑排出溝12が刃先部11の外周面を約3回転半周回する長さとなる位置まで(切屑排出溝12と同じ長さ)形成されている。
このとき、仕上げ刃付き溝13は、切屑排出溝12によって複数に分断されたようになっている。
【0024】
また、図1に示すように、切屑排出溝12の小型ドリル10の回転方向Tを向く壁面の先端側領域をすくい面とし、このすくい面と刃先部11の先端逃げ面16との交差稜線部には切刃17が形成されている。先端逃げ面16は、切刃17の回転方向Tのすぐ後方に位置する第一逃げ面16aと、第一逃げ面16aに連なって回転方向T後方側に位置する第二逃げ面16bと、さらに、第二逃げ面16bに連なって回転方向T後方側に位置する第三逃げ面16cとで構成されている。
【0025】
刃先部11において、切屑排出溝12及び仕上げ刃付き溝13を除く外周面は、図2に示すように、マージン18によって構成されているが、このマージン18は、刃先部11の外周面に開口する仕上げ刃付き溝13が設けられていることにより2つに分断されている、換言すれば、刃先部11の外周面において、従来マージン18とされていた部分に仕上げ刃付き溝13が形成されていることになる。さらに、マージン18は、図1に示すように、切屑排出溝12と同様に刃先部11の先端から基端側に向けて小型ドリル10の回転方向Tの後方側にねじれて螺旋状に形成されており、仕上げ刃付き溝13により複数に分断されるものの刃先部11の有効刃長L全長に亘って形成されている。
【0026】
また、図2及び図3に示すように、仕上げ刃付き溝13を形成する壁面14のドリル回転方向T後方側領域に位置して回転方向Tを向く壁面をすくい面14aとし、このすくい面14aとマージン18との交差稜線に仕上げ刃15(切刃)が形成されている。また、仕上げ刃15がなす刃物角θは80°≦θ≦120°の範囲に設定され、本第一実施形態においては、例えばθ=100°に設定されている。
ここで、仕上げ刃15の刃物角θとは、刃先部11の断面視において、すくい面14aが、回転軸線Oを中心としマージン18を円弧とする仮想の円上で、すくい面14aとマージン18とが交差する点Xにおける接線A方向となす角のことを示す。
【0027】
また、仕上げ刃付き溝13を構成する壁面14の回転方向T前方側領域に位置する前方側壁面14bは、図3に示すように、マージン18となす角φ(刃先部11の断面視において、前方側壁面14bが、回転軸線Oを中心としマージン18を円弧とする仮想の円上で前方側壁面14bとマージン18とが交差する点Yにおける接線B方向となす角)が、120°以上に設定されており、本第一実施形態においては、例えばφ=160°に設定されている。
さらに、より詳しく言えば、図4に示した拡大断面図のように、マージン18と前方側壁面14bとの接続部分(すなわち、前方側壁面14bとマージン18とが交差する点Y付近)がなめらかな凸曲面をなすように形成されている。なお、この接続部分は、滑らかに接続されていなくてもよいし、多段となるように形成されていてもよい。
【0028】
また、仕上げ刃付き溝13の溝深さa(すなわち、図3における刃先部11の断面視において、回転軸線Oを中心としマージン18を円弧とする仮想の円と、この仮想の円と同心で仕上げ刃付き溝13と接する円rとの径方向の距離)が刃先部11の最大外径Dに対してなす割合a/D(溝深さ比率a/D)は5%以上とされており、さらに、仕上げ刃付き溝13の溝幅b(すなわち、図3における刃先部11の断面視において、仕上げ刃付き溝13を構成する壁面14がマージン18と交差する2点間を結んだ距離)が刃先部11の最大外径Dに対してなす割合b/D(溝幅比率b/D)が10%以上とされている。
【0029】
また、刃先部11の最大外径D(本第一実施形態においては、刃先部11の断面視で、回転軸線Oを中心とし、マージン18を円弧とする仮想の円の直径)が1mm以下、なおかつ、刃先部11の有効刃長Lと最大外径Dとの比L/Dは5以上となるように刃先部11が形成されている。
【0030】
さらに、図2に示すように、刃先部11の断面に内接する最大の円の直径d(いわゆる、刃先部11の芯厚d)が、刃先部11の最大外径Dに対してなす割合d/D(芯厚比率d/D)が60%以上とされている。ここで、本第一実施形態においては、図2に示すように、マージン18と切屑排出溝12とに内接する円が最大の直径dをもち、その芯厚比率d/Dは例えば65%とされて、刃先部11の先端から基端まで一定とされている。
【0031】
このとき、芯厚比率d/Dが60%以上に設定されていることから、必然的に仕上げ刃付き溝13の溝深さaが制限されることになり、この仕上げ刃付き溝13が確保できるスペースは最大でも、図5に示すように、刃先部11の断面に内接する最大の円(芯厚dを示す円)に接するような大きさとなる。このため、仕上げ刃付き溝13は、切屑排出溝12の大きさと比較して十分に小さいことになり、仕上げ刃付き溝13がドリル剛性を不容易に低めてしまうことがない。
【0032】
以上のような構成とされた小型ドリル10は、その刃先部11に1条の切屑排出溝12と1条の仕上げ刃付き溝13が形成されたものであるが、仕上げ刃付き溝13が確保するスペースは、切屑排出溝12が確保するスペースよりも十分に小さいために、刃先部11の芯厚を十分に確保できることとなり、従来の2条の切屑排出溝が設けられた小型ドリルと比較して、圧倒的にドリル剛性が高い。
【0033】
しかも、加工穴の内壁面を擦るマージン18に仕上げ刃付き溝13が形成されているため、被削材の穿孔の際に、マージン18と加工穴の内壁面との間に入り込んだ切り屑を仕上げ刃付き溝13によって除去して排出するとともに、その加工穴の内壁面を仕上げ刃15により再度切削して仕上げ加工することができ、穴内壁面精度を向上させることができる。
【0034】
また、ドリル剛性を高く保つことができるために、被削材の穿孔の際に小型ドリル10の送り速度を高めても、穴曲がりや刃先部11の折損が生じることがなく、高能率の穴明け加工を行うことが可能になるとともに、高送りにした弊害として生じる加工穴におけるバリの発生や内壁面粗さの低下という問題に対しても、上記の仕上げ刃付き溝13の仕上げ刃15によって加工穴の内壁面を再度切削することで、このような問題点を解消できる。
その結果、加工穴の内壁面粗さを良好に維持しながら従来の2条の切屑排出溝が形成された小型ドリルよりも高能率の穴明け加工を行うことができる。
【0035】
また、被削材に穴明け加工を施した後の小型ドリル10の引き抜き時には、図6に示す刃先部11の拡大側面図のように、切屑排出溝12とマージン18とが交差して形成される2本の稜線のうちで、切屑排出溝12のドリル回転方向T前方側に向く壁面に連なる稜線12Aが、小型ドリル10の回転軸線O周りの回転により回転方向Tと逆向きに受ける応力P1と、ドリル引き抜き方向(図6に示す白抜き矢印方向)と逆向きに受ける応力P2との合成応力Pを受けることになる。
【0036】
同じく、ドリル引き抜き時には、仕上げ刃付き溝13とマージン18とが交差して形成される2本の稜線にも応力がかかることになるが、この2本の稜線のうち、図6の刃先部11の拡大側面図において、切屑排出溝12の回転方向T後方側に近い稜線13A(すなわち、仕上げ刃付き溝13の仕上げ刃15ではない方の稜線13A)には、通常、小型ドリル10の引き抜き速度よりも回転速度の方がはるかに高いために応力がほとんどかからず、これに対し、図6の拡大側面図において、切屑排出溝12の回転方向Tを向く壁面に連なる稜線、すなわち、仕上げ刃付き溝13の仕上げ刃15には、小型ドリル10の回転軸線O周りの回転による応力を主とした合成応力Qが、仕上げ刃15の延材する方向と略直交する方向(仕上げ刃付き溝13のねじれに対して約90゜異なる方向)からかかることなる。
【0037】
この仕上げ刃15が受ける合成応力Qが、切屑排出溝12とマージン18との交差稜線12Aにかかる合成応力Pを打ち消すように働き、ドリル引き抜き時に刃先部11にかかる負荷を緩和させることができる。
これにより、ドリル引き抜き速度を高めたとしても、刃先部11の折損事故を防止することができ、穴明け加工速度が高まり、さらなる高能率加工を行うことが可能になる。
【0038】
また、仕上げ刃付き溝13は、従来の2本の切屑排出溝が設けられた小型ドリルに採用されても、加工穴の内壁面粗さの向上及びドリル引き抜き時の刃先部11の折損事故防止という効果を奏するものであるが、ドリル剛性の問題を考慮すると、刃先部11に1条の切屑排出溝12が形成された小型ドリル10に採用することで、高能率の穴明け加工と高精度の穴明け加工の両方が同時に達成できることとなる。
【0039】
しかも、本第一実施形態による小型ドリル10は、刃先部11の最大外径Dが1mm以下、かつ刃先部11の最大外径Dと有効刃長Lとの比L/Dが5以上であることから、とくに穴位置精度の低下や穴内壁面精度の低下といった問題が発生しやすい小径深穴の孔部を穿孔する際に本発明を有効に活用できる。
また、被削材としてプリント基板等に小径深穴の孔部を穿孔する場合のように、加工穴の内壁面にスミア等が付着して問題になる場合であっても、仕上げ刃付き溝13によるスミアの除去、及び仕上げ刃15による内壁面の仕上げ加工等ができることにより、加工穴の内壁面粗さを向上できる。このため、従来、問題とされていたスミアによる内壁面精度の低下を防ぐことができるだけでなく、スミアの除去工程が必要とならないために製品の歩留まりを高く保つことができる。
【0040】
また、仕上げ刃付き溝13のねじれ角βが−80°≦β≦−10°の範囲に設定されていることにより、仕上げ刃付き溝13の仕上げ刃15にかかる応力Qを、切屑排出溝12とマージン18との交差稜線12Aにかかる応力Pと緩和させるのに好適な向きに発生させることができ、小型ドリル10の引き抜き時に刃先部11にかかる負荷を低減して、刃先部11の折損を防止する効果を十分に得ることができる。
ここで、仕上げ刃付き溝13のねじれ角βが−80°より小さい、あるいは−10°より大きいと、仕上げ刃15にかかる応力Qを、切屑排出溝12とマージン18との交差稜線12Aにかかる応力Pと緩和させるのに十分な向きに発生させることができず、刃先部11の折損防止効果が得られない。
なお、仕上げ刃付き溝13のねじれ角βは、上述した効果をより確かなものとするために、−70°≦β≦−20°の範囲に設定されるのが好ましい。
【0041】
また、仕上げ刃付き溝13は、切屑排出溝12が刃先部11を1回転周回する長さより長く形成されていることにより、加工穴の内壁面を仕上げ加工するのに十分な長さの仕上げ刃15を形成できて、加工穴の内壁面の安定した仕上げ加工を行うことができる。
ここで、仕上げ刃付き溝13の形成されている長さが、切屑排出溝12が刃先部11の外周面を1回転周回する長さより短いと、削り残しが発生しやすくなり、加工穴の内壁面精度を向上させる効果が十分に得られない。
【0042】
また、仕上げ刃付き溝13の仕上げ刃15がなす刃物角θが80゜≦θ≦120゜の範囲に設定されていることにより、仕上げ刃15の耐欠損性を確保するとともに、良好な切れ味を確保することができる。
ここで、仕上げ刃15がなす刃物角θが80゜より小さくなると、仕上げ刃15にかかる切削抵抗が大きくなって欠損しやすくなり、一方、刃物角θが120゜より大きくなると、仕上げ刃15の切れ味が低下して、加工穴の内壁面を仕上げ加工して面粗さを良好にするという効果が得られなくなってしまう。
なお、仕上げ刃15がなす刃物角θは、上述した効果をより確かなものとするために、80°≦θ≦90°の範囲に設定されるのが好ましい。
【0043】
また、芯厚比率d/Dが刃先部11の全長に亘って60%以上とされていることから、刃先部11の芯厚を十分に確保でき、ドリル剛性を高く保つことができるとともに、仕上げ刃付き溝13が形成される空間を必要以上に大きくすることがない。
ここで、芯厚比率d/Dが60%より小さいと、刃先部11の芯厚が薄くなってしまい、十分なドリル剛性を保つことができなくなってしまう。
【0044】
また、溝深さ比率a/Dが5%以上とされるとともに、溝幅比率b/Dとが10%以上であることにより、マージン18と加工穴の内壁面との間に入り込んでしまい仕上げ刃付き溝13により除去される切り屑や仕上げ刃15による切削で生じる切り屑を逃がすのに十分なスペースを確保できる。
なお、溝深さ比率a/Dが5%より小さく設定されたり、溝幅比率b/Dが10%より小さく設定されていると、マージン18と加工穴の内壁面との間に入り込んだ切り屑や仕上げ刃15による切削で生じる切り屑を逃がすための仕上げ刃付き溝13のスペースを十分に確保することができなくなってしまう。
【0045】
なお、第一実施形態においては、刃先部11の外径Dがその先端から基端まで一定とされたストレートタイプの小型ドリルについて説明したが、これに限定されることなく、刃先部11の外径が先端から基端側に向かうにしたがい、徐々に小さくなるようなバックテーパを有する小型ドリルでもよい。この場合、刃先部11の先端側部分の外径が最大外径Dとなる。
【0046】
また、以上説明した第一実施形態のようなストレートタイプの小型ドリル10に限らず、刃先部11の先端部分のみが一段拡径したようなアンダーカットタイプのドリルでもよく、このような場合の小型ドリルを本発明の第二実施形態として説明する。
なお、第二実施形態は、刃先部11の形状と、刃先部11の外周面(マージン18)に形成された仕上げ刃付き溝13の構成のみが異なるものであり、上述した第一実施形態と同様の部分については同一の符号を用いてその説明を省略する。
【0047】
まず、図7に本発明の第二実施形態による小型ドリルの刃先部の側面図を示す。
第二実施形態による小型ドリル20は、図7に示すように、刃先部11が、その先端部分に位置する第一刃先部11Aと、第一刃先部11Aの後端側に位置し、第一刃先部11Aの外径Dより小さい外径をもつ第二刃先部11Bとから構成されるようなアンダーカットタイプとされている。このとき、第一刃先部11Aの外径Dが、刃先部11の最大外径Dとなり、加工穴の内壁面を擦るマージン18は第一刃先部11Aの外周面に形成されていることになる。
なお、切屑排出溝12は、刃先部11の先端から基端まで一定のねじれ角αで形成されて刃先部11の外周面を約3回転半周回しており、刃先部11において、その先端から切屑排出溝12が刃先部11の外周面を約1回転半周回する長さとなる位置までが第一刃先部11Aとされている。
【0048】
この第二実施形態による小型ドリル20は、図7に示すように、刃先部11の先端から基端側に向けて回転軸線Oを中心に刃先部11の外周面に開口する1条の仕上げ刃付き溝13が螺旋状に切屑排出溝12と逆向きに一定のねじれ角β(−80゜≦β≦−10゜)でねじれて形成されている。また、本第二実施形態においては、例えば、仕上げ刃付き溝13のねじれ角βと切屑排出溝12のねじれ角αの両者の絶対値が同一とされて(β=−α)、第一刃先部11Aの全長に亘って形成されている、換言すれば、切屑排出溝12が刃先部11の外周面を約1回転半周回する長さとなる位置まで形成されている。
【0049】
上記のようなアンダーカットタイプとされた第二実施形態による小型ドリル20では、刃先部11に形成される仕上げ刃付き溝13が、切屑排出溝12が刃先部11の外周面を1回転周回する長さより長く、かつ第一刃先部11Aの全長に亘って形成されているため、仕上げ刃付き溝13の形成される長さを必要十分に確保でき、仕上げ刃付き溝13によってもたらされる効果を何の遜色もなく奏するものであり、上述した本発明の第一実施形態による小型ドリルと同様の効果を奏する。しかも、刃先部11の基端側部分に、その外径が一段縮径した第二刃先部11Bが形成されていることにより多少のドリル剛性は失うものの、加工穴の内壁面に接触するマージン18の面積が減少することになって、加工穴の内壁面精度をより向上させることが可能になる。
【0050】
なお、アンダーカットタイプとされる小型ドリルでは、仕上げ刃付き溝13が刃先部11の全長に亘って形成されていてもよいが、第一刃先部11A(マージン18が形成されている部分)に形成されていれば十分であり、仕上げ刃付き溝13が、第二刃先部11Bの基端まで形成されている必要はない。
【0051】
なお、本実施形態においては、刃先部11の切屑排出溝12及び仕上げ刃付き溝13を除く外周面はマージン18のみで構成されているが、これに限定されることなく、例えば、図8に示すように、刃先部11の切屑排出溝12及び仕上げ刃付き溝13を除く外周面が、マージン18とマージン18のドリル回転方向T後方側に位置して一定の2番取り深さcをもつ2番取り面19とで構成されていてもよい。
【0052】
また、さらに、刃先部11の切屑排出溝12及び仕上げ刃付き溝13を除く外周面がマージン18と2番取り面19とで構成され、このマージン18が2番取り面19によって例えば2つに分断されていて、2つに分断されたマージン18のうち、少なくとも一方のマージン18に、仕上げ刃付き溝13が形成されるようにしてもよい。
【0053】
なお、本実施形態においては、刃先部11の外周面に設けられる仕上げ刃付き溝13が1条のみとされているが、これに限定されることなく、複数の仕上げ刃付き溝13が設けられていてもよい。
さらに、この仕上げ刃付き溝13のねじれ角βを、刃先部11の基端側に向かうにしたがい連続的に変化させてもよい。例えば、ねじれ角βを刃先部11の基端側に向かうにしがたい連続的に大きくさせたり、あるいは連続的に小さくしたりしてもよい。
【0054】
また、本実施形態においては、芯厚比率d/Dが刃先部の先端から基端まで一定とされているが、これに限定されることなく、芯厚比率d/Dを刃先部11の先端から基端側に向かうにしたがい、徐々に大きくさせてもよい。
また、本実施形態においては、刃先部11の周面に設けられる切屑排出溝12が1条のみとされているが、これに限定されることなく刃先部に2条以上の切屑排出溝12が設けられていてもよい。
【0055】
また、本実施形態においては、回転軸線O周りにねじれる切屑排出溝12のねじれ角αを刃先部11の先端から基端まで一定としたが、そのねじれ角αを先端から基端側に向かうにしたがい連続的に変化させてもよい。
さらに、本実施形態においては、刃先部の最大外径Dが1mm以下、かつ有効刃長Lと最大外径Dとの比L/Dが5以上となるような小型ドリルについて説明したが、この範囲に限定されることなく、これより大きい最大外径Dをもつドリルや、L/Dが5より小さいドリルでも構わない。
【0056】
【実施例】
本発明の一例による小型ドリルを実施例1〜21とし、これに加えて各種の構成を有する小型ドリル(比較例1,2及び従来例1〜8)を用いて被削材の穴明け試験を行った。
【0057】
実施例1〜21,比較例1,2は、その刃先部11に1条の切屑排出溝12が形成され、さらに、1条の仕上げ刃付き溝13が、切屑排出溝12と逆向きにねじれて刃先部11の先端から基端まで形成されているが、実施例1〜21は、刃先部11の芯厚比率d/D及び仕上げ刃付き溝13の仕上げ刃15がなす刃物角θが本発明の範囲(60%≦d/D、80゜≦θ≦120゜)に設定されたものであり、比較例1,2は、仕上げ刃付き溝13の仕上げ刃15がなす刃物角θが本発明の範囲よりも大きく設定されたものである。
さらに、従来例1〜6は、その刃先部11に1条の切屑排出溝12が形成されているが、仕上げ刃付き溝13が形成されていないものであり、従来例7,8は、その刃先部11に2条の切屑排出溝12が形成されているのに加え、仕上げ刃付き溝13が形成されていないものである。
【0058】
なお、実施例1〜21、比較例1,2及び従来例7,8は、その切屑排出溝12のねじれ角αが刃先部11の先端から基端まで一定の40゜、さらに、実施例1〜21、比較例1,2においては仕上げ刃付き溝13のねじれ角βが刃先部11の先端から基端まで一定の−40゜とされており、これに対し、従来例1〜6は、その切屑排出溝3のねじれ角γが刃先部2の先端で30゜とされ、基端側に向かうにしたがい、ねじれ角γが連続的に大きくなり基端側部分で60゜とされている。
【0059】
以上のような小型ドリル(実施例1〜21、比較例1,2及び従来例1〜8)を用いて、2種類の穴明け試験(内壁面精度と穴位置精度を評価する試験と、耐折損性を評価する試験)を行い、得られた結果から各小型ドリルの性能を検討した。
まず、実施例1〜13、比較例1,2、従来例1〜3,7を用いて行った内壁面精度と穴位置精度を評価する穴明け試験の試験条件と結果を表1に示す。
【表1】
【0060】
本実施例1〜13、比較例1,2及び従来例1〜3,7は共通して、刃先部11の外径Dが該刃先部11の先端から基端まで一定の0.15mmであるストレートタイプで、有効刃長Lが2.5mmである(L/D=16.7)。さらに、実施例1〜14、比較例1,2の刃先部11に形成された仕上げ刃付き溝13は、その溝深さaが10μm(溝深さ比率a/Dが10%)、溝幅bが20μm(溝幅比率b/Dが20%)とされている。
【0061】
上記のような構成の小型ドリル(実施例1〜13、比較例1,2及び従来例1〜3,7)を用い、被削材とされる基板(厚み0.2mmのBTレジンの両面板を5枚重ねたもの)にあて板(厚み0.2mmのLE400)と敷板(厚み1.6mmのベークライト樹脂板)をつけて、穴明け試験を行った。ドリルの回転数は160000min-1(rpm)、送り速度は12.5μm/rev.としてステップ送りはせず、ドリル引き抜き速度は5m/min(引き抜き時に刃先部の折損が生じにくい程度の低い条件)で被削材の穴明け加工を行い、7000穴を加工した後の加工穴の内壁の最大面粗さと、6901〜7000穴目の100穴の平均穴位置精度(重ねた基板において最下層に位置する基板のねらい穴位置に対する各穴位置のずれの平均値)を測定した。
【0062】
表1に示すように、本発明の一例である実施例1〜13では穿孔した加工穴の内壁面粗さがどれも13μmより小さい値に収まり、なおかつ、平均穴位置精度がどれも38μmより小さい値となり、加工穴の内壁面精度及び平均穴位置精度が良好であるという結果が得られた。
【0063】
また、仕上げ刃付き溝13の仕上げ刃15の刃物角θが135゜及び140゜とされ、本発明の範囲よりも大きく設定されている比較例1,2では、平均穴位置精度はそれぞれ40μm、33μmと良好な値が得られたが、仕上げ刃15の刃物角θが大きくて切れ味が悪いために、加工穴の内壁面を良好に仕上げ加工することができず、内壁面粗さが23μm,22μmとなって、本発明の一例である実施例1〜17と比較して、内壁面粗さが劣るという結果が得られた。
【0064】
さらに、刃先部11に仕上げ刃付き溝13が形成されていない従来例1〜3では、平均穴位置精度はどれも42μm以下となり良好であったものの、仕上げ刃15による仕上げ加工ができないので、内壁面粗さがどれも30μm程度となり、実施例1〜13と比較して、良好な内壁面粗さを得ることができなかった。
さらに、刃先部11に2条の切屑排出溝が設けられ、仕上げ刃付き溝13が形成されていない従来例7では、芯厚が薄く剛性を高く保つことができないので、平均穴位置精度が72μmと非常に悪く、さらに、内壁面粗さも28μmとなって良い結果が得られなかった。
【0065】
次に、実施例14〜21、従来例4〜6,8を用いて行った耐折損性を評価する穴明け試験の試験条件と結果を表2に示す。
【表2】
【0066】
本実施例14〜21、従来例4〜6,8は共通して、刃先部11の外径Dが該刃先部11の先端から基端まで一定の0.15mmであるストレートタイプで、有効刃長Lが2.0mmである(L/D=13.3)。さらに、実施例14〜21の刃先部11に形成された仕上げ刃付き溝13は、その溝深さaが10μm(溝深さ比率a/Dが10%)、溝幅bが20μm(溝幅比率b/Dが20%)とされている。
【0067】
上記のような構成の小型ドリル(実施例14〜21、従来例4〜6,8)を10本ずつ用い、被削材とされる基板(厚み0.2mmのBTレジンの両面板を7枚重ねたもの)にあて板(厚み0.2mmのLE400)と敷板(厚み1.6mmのベークライト樹脂板)をつけて、穴明け試験を行った。ドリルの回転数は160000min-1(rpm)、送り速度は20μm/rev.としてステップ送りはせず、ドリル引き抜き速度は25m/minで被削材の穴明け加工を行い、4000穴を加工するまでに刃先部の折損が生じた小型ドリルの本数を測定した。
【0068】
表2に示すように、本発明の一例である実施例14〜21は、それらの折損発生本数が、実施例14と実施例17がそれぞれ1本のみ、その他は0本となり、引き抜き時に刃先部11にかかる負荷を仕上げ刃付き溝13によって効果的に緩和できており、ドリル引き抜き時における耐折損性が非常に優れていることが分かる。
【0069】
また、従来例4〜6は、仕上げ刃付き溝13が形成されていないために本実施例ほどの耐折損性を得ることができず、それぞれ折損発生本数が5,6,4本となり、実施例14〜21と比較して耐折損性が劣るということが分かる。
さらに、刃先部11に2条の切屑排出溝12が設けられた従来例8に至っては、2条の切屑排出溝12により芯厚が薄くなって、刃先部11の強度が得られず、10本中10本が折損したという結果になり、全く耐折損性を有しなかった。
【0070】
以上、表1及び表2に示した試験結果をまとめると、以下の表3のようになる。
【表3】
【0071】
表3に示したように、本発明による実施例は、仕上げ刃15の刃物角θが本発明の範囲よりも外れている比較例や、刃先部11に1条の切屑排出溝が設けられているが仕上げ刃付き溝13が形成されていない従来例、及び2条の切屑排出溝を有する従来例と比較して、加工穴の内壁面精度及び穴位置精度が良好であり、しかもドリル引き抜き時の耐折損性も確保できるという結果が得られた。
【0072】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のドリルによれば、切屑排出溝とは別に、刃先部の周面のマージンとされる部分に、切屑排出溝と逆向きにねじれる仕上げ刃付き溝を形成しているから、マージンと加工穴の内壁面との間に入り込んだ切り屑を仕上げ刃付き溝によって除去して排出するとともに、その加工穴の内壁面を仕上げ刃により再度切削することができ、穴内壁面精度を向上させることができる。
さらに、仕上げ刃付き溝が切屑排出溝と逆向きにねじれて形成されていることから、ドリル引き抜き時に、仕上げ刃付き溝とマージンとの交差稜線部分が受ける応力が、切屑排出溝とマージンとの交差稜線部分が受ける応力を緩和するように働き、ドリル引き抜き速度を高めても、刃先部の折損事故を防止することができて、高能率の加工が可能となる。
また、仕上げ刃付き溝を、切屑排出溝が刃先部を1回転周回する長さより長く、または切屑排出溝が刃先部の周面を1回転半周回する長さとなる位置まで形成することにより、加工穴の内壁面を仕上げ加工するのに十分な長さの仕上げ刃を確保することができる。
【0073】
また、刃先部に設けられる切屑排出溝が1条のみであるから、芯厚を薄くすることなく高いドリル剛性を得られて穴位置精度を向上させることができる。さらに、高いドリル合成を得られることから、被削材の穿孔の際のドリルの送り速度を高めて高能率加工を行うことができるとともに、送り速度を高めた弊害として発生する加工穴のバリや内壁面精度の低下といった問題を、仕上げ刃付き溝の仕上げ刃によって解決することができ、高能率加工及び高精度加工の両方を同時に達成することが可能になる。
【0074】
また、仕上げ刃付き溝のねじれ角βが−80゜≦β≦−10゜の範囲に設定されているから、仕上げ刃付き溝とマージンとの交差稜線にかかる応力を、切屑排出溝とマージンとの交差稜線にかかる応力と緩和させるのに好適な向きに発生させることができて、ドリル引き抜き時に刃先部の折損を防止する効果が得られる。これにより、ドリル引き抜き速度を高めることが可能になり、穴明け加工速度が高まり高能率の加工を行うことができる。
【0075】
また、仕上げ刃付き溝の仕上げ刃がなす刃物角θが80゜≦θ≦120゜の範囲に設定されていることにより、仕上げ刃の耐欠損性及び切れ味を確保することができる。
【0076】
また、芯厚比率d/Dが60%以上であることを特徴とすることにより、刃先部の芯厚を十分に確保でき、ドリル剛性を高く保つことができるとともに、仕上げ刃付き溝が形成する空間を必要以上に大きくすることがない。
また、溝深さ比率a/Dが5%以上とされるとともに、溝幅比率b/Dが10%以上であることにより、マージンと加工穴の内壁面との間に入り込み、仕上げ刃付き溝により除去される切り屑や仕上げ刃による切削で生じる切り屑を逃がすのに十分なスペースを確保できる。
【0077】
また、刃先部の最大外径Dが1mm以下、かつ刃先部の最大外径Dと有効刃長Lとの比L/Dが5以上であることを特徴とすることにより、とくに穴位置精度の低下や内壁面精度の低下といった問題が発生しやすい小径深穴の孔部を穿孔する際に本発明を有効に活用できる。さらに、プリント基板等に小径深穴の孔部を穿孔する際に問題となるスミアを効果的に除去して内壁面精度を良好に保つとともに、スミアの除去工程が必要でなくなり生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第一実施形態による小型ドリルの刃先部を示す側面図である。
【図2】 本発明の第一実施形態による小型ドリルの刃先部の断面図である。
【図3】 図2における要部拡大図である。
【図4】 図3における要部拡大図である。
【図5】 本発明の第一実施形態による小型ドリルの刃先部の断面を示す説明図である。
【図6】 本発明の第一実施形態による小型ドリルを引き抜くときに刃先部にかかる力を説明する刃先部の拡大側面図である。
【図7】 本発明の第二実施形態による小型ドリルの刃先部を示す側面図である。
【図8】 本発明の実施形態による小型ドリルの刃先部の断面を示す説明図である。
【図9】 従来の小型ドリルの刃先部を示す側面図である。
【図10】 図9における小型ドリルの刃先部の断面図である。
【符号の説明】
10,20 小型ドリル
11 刃先部
12 切屑排出溝
13 仕上げ刃付き溝
14 壁面
15 仕上げ刃
16 先端逃げ面
17 切刃
18 マージン
a 溝深さ
b 溝幅
d 刃先部の断面に内接する最大の円の直径
D 刃先部の最大外径
L 有効刃長
P 応力
Q 応力
T 回転方向
α ねじれ角
β ねじれ角
θ 刃物角
Claims (8)
- 刃先部の周面に該刃先部の先端から基端側に向けて回転軸線周りにねじれる切屑排出溝が形成され、該切屑排出溝の回転方向を向く壁面の先端側領域をすくい面とし、該すくい面と先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルにおいて、
前記刃先部の周面に該刃先部の先端から基端側に向けて回転軸線周りに切屑排出溝と逆向きにねじれる仕上げ刃付き溝が形成され、
前記仕上げ刃付き溝は、前記切屑排出溝が前記刃先部の周面を1回転周回する長さより長く形成されていることを特徴とするドリル。 - 刃先部の周面に該刃先部の先端から基端側に向けて回転軸線周りにねじれる切屑排出溝が形成され、該切屑排出溝の回転方向を向く壁面の先端側領域をすくい面とし、該すくい面と先端逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されたドリルにおいて、
前記刃先部の周面に該刃先部の先端から基端側に向けて回転軸線周りに切屑排出溝と逆向きにねじれる仕上げ刃付き溝が形成され、
前記仕上げ刃付き溝は、前記切屑排出溝が前記刃先部の周面を1回転半周回する長さとなる位置まで形成されていることを特徴とするドリル。 - 請求項1または請求項2に記載のドリルにおいて、
前記刃先部の周面に形成される切屑排出溝が1条のみであることを特徴とするドリル。 - 請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のドリルにおいて、
前記仕上げ刃付き溝のねじれ角βが−80゜≦β≦−10゜の範囲に設定されていることを特徴とするドリル。 - 請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のドリルにおいて、
前記仕上げ刃付き溝の仕上げ刃がなす刃物角θが80゜≦θ≦120゜の範囲に設定されることを特徴とするドリル。 - 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のドリルにおいて、
前記刃先部の断面に内接する最大の円の直径dが前記刃先部の最大外径Dに対してなす割合d/Dが60%以上とされることを特徴とするドリル。 - 請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のドリルにおいて、
前記仕上げ刃付き溝の溝深さaが前記刃先部の最大外径Dに対してなす割合a/Dが5%以上とされるとともに、
前記仕上げ刃付き溝の溝幅bが前記刃先部の最大外径Dに対してなす割合b/Dが10%以上とされることを特徴とするドリル。 - 請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のドリルにおいて、
前記刃先部の最大外径Dが1mm以下、かつ前記刃先部の有効刃長Lと前記刃先部の最大外径Dとの比L/Dが5以上であることを特徴とするドリル。
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