JP3760507B2 - そり及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スキー板、スノーボード、ボブスレーのそり等の雪の上で用いるためのそりやグラススキー板等の天然又は人工の草の上で用いるためのそり、及びこのようなそりの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
スキー板、スノーボード、ボブスレーのそり、グラススキー板等のそりは、雪や草との滑りを良くするために、通常、滑走面にワックスを塗ったものを使用する。その際、ワックスを溶かして滑走面に塗り、ワックス凝固後、該塗布面を研磨して滑らかにする。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、滑走面にワックスを塗布したそりは、使用中に滑走面が雪、草、砂等と擦れてワックス膜に傷がついたり、一部剥がれたりするため、定期的にワックスを除去して塗り直さなければならず、手間がかかる。
そこで本発明は、滑走面の潤滑性が優れるとともに、その潤滑性を維持するための定期的なメンテナンスを要しない、或いは殆ど要しないそり及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために本発明は、そり基体の滑走面に耐摩耗性、潤滑性のあるDLC( Diamond Like Carbon )膜が形成されているそりを提供する。また本発明は、そり基体の滑走面に耐摩耗性、潤滑性のあるDLC膜を形成する工程を含むそりの製造方法を提供する。
【0005】
本発明におけるそりには、スキー板、スノーボード、ボブスレーのそり等の雪上を滑走するためのもの、グラススキー板等の天然又は人工の草の上を滑走するためのもの等が含まれる。
本発明に係るそりは、そり基体の滑走面に耐摩耗性及び潤滑性を有するDLC膜が形成されている。DLC膜は、潤滑性良好であり、また、雪、草(人工の草を含む)、砂等との摩擦により摩耗し難く、且つ、その厚さを調整することにより該膜で被覆されたそり基体の本来の可撓性を損なわないようにできる程度の適度な硬度を有する炭素膜であり、さらに、比較的低温で形成できる等、成膜を容易に行うことができる。
本発明に係るそりは、そり基体の滑走面に耐摩耗性及び潤滑性を有するDLC膜が形成されているため、雪、草(人工草を含む)等との摺動性がよく、これらの上をスムーズに滑ることができる。また、該DLC膜は雪、草(人工草を含む)、砂等との摩擦により摩耗し難いため、滑走面の潤滑性を維持するための定期的なメンテナンスを要しない、或いは殆ど要しない。
【0006】
本発明におけるそり基体、特にその被成膜滑走面の材質は、そり滑走面の材質として通常採用されているものでよく、木材、樹脂等の1又は2以上を用いることができる。なお、ボブスレー等のように滑走部と搭乗部等のその他の部分とからなるものについては、滑走部のそり滑走面に炭素膜が形成されるため、滑走部基体の被成膜滑走面の材質がこのようなものであればよい。
【0007】
被成膜滑走面を樹脂で形成する場合、熱硬化性樹脂としては、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等を例示できる。
また、熱可塑性樹脂では、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ2塩化ビニル、ポリビニルブチラート、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルホルマール等)、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエーテル、ポリエステル系樹脂(ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体等)、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート、変性アクリル等)、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、66、610、11等)、セルロース系樹脂(エチルセルロース、酢酸セルロース、プロピルセルロース、酢酸・酪酸セルロース、硝酸セルロース等)、ポリカーボネート、フェノキシ系樹脂、フッ素系樹脂(3フッ化塩化エチレン、4フッ化エチレン、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン、フッ化ビニリデン等)、ポリウレタン等を例示できる。
【0009】
また、前記DLC膜の膜厚は、そり基体上に密着性良く形成でき、また、そり基体本来の可撓性を損なわないとともに、そり基体の保護膜として十分機能できる範囲内であればよい。
また、本発明方法においては、前記DLC膜形成に先立ち、前処理として、そり基体の滑走面をフッ素(F)含有ガス、水素(H2 )ガス及び酸素(O2 )ガスから選ばれた少なくとも1種のガスのプラズマに曝す。この場合、本発明のそりにおいて、そり基体は、その滑走面がこのような前処理を施されたものである。
【0010】
前記フッ素含有ガスとしては、フッ素(F2 )ガス、3フッ化窒素(NF3 )ガス、6フッ化硫黄(SF6 )ガス、4フッ化炭素(CF4 )ガス、4フッ化ケイ素(SiF4 )ガス、6フッ化2ケイ素(Si2 F6 )ガス、3フッ化塩素(ClF3 )ガス、フッ化水素(HF)ガス等を挙げることができる。
【0011】
フッ素含有ガスプラズマを採用するときは、これによって被成膜滑走面がフッ素終端され、水素ガスプラズマを採用するときはこれによって被成膜滑走面が水素終端される。フッ素−炭素結合及び水素−炭素結合は安定であるため、前記のように終端処理することで膜中の炭素原子が被成膜滑走面部分のフッ素原子又は水素原子と安定に結合を形成する。そしてこれらのことから、その後形成するDLC膜とそり基体との密着性を向上させることができる。また、酸素ガスプラズマを採用するときは、被成膜滑走面に付着した有機物等の汚れを特に効率良く除去でき、これらのことからその後形成するDLC膜とそり基体との密着性を向上させることができる。
【0012】
本発明において、DLC膜形成に先立って行うプラズマによる被成膜滑走面の前処理は、同種類のプラズマを用いて或いは異なる種類のプラズマを用いて複数回行っても構わない。例えば、該滑走面を酸素ガスプラズマに曝した後、フッ素含有ガスプラズマ又は水素ガスプラズマに曝し、さらにその上にDLC膜を形成するときには、該滑走面がクリーニングされた後、該面がフッ素終端又は水素終端されて、その後形成するDLC膜とそり基体滑走面との密着性は非常に良好なものとなる。
【0013】
また、本発明における炭素膜形成方法としては、木材、樹脂等の比較的耐熱性に劣る材料からなるそり基体に熱的損傷を与えない温度範囲で膜形成できる方法として、プラズマCVD法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、特にプラズマCVD法を用いる場合は、そり基体のプラズマによる前処理と炭素膜形成とを同一の装置で行うことができる。
【0014】
プラズマCVD法により炭素膜を形成する場合のプラズマ原料ガスとしては、炭素膜形成に一般に用いられるメタン(CH4 )、エタン(C2 H6 )、プロパン(C3 H8 )、ブタン(C4 H10)、アセチレン(C2 H2 )、ベンゼン(C6 H6 )等の炭化水素化合物ガス、及び必要に応じて、これらの炭化水素化合物ガスにキャリアガスとして水素ガス、不活性ガス等を混合したものを用いることができる。
【0015】
本発明の炭素膜はそり基体の滑走面に形成されているが、必要に応じ、滑走面に加えてその他の部分の一部又は全部にわたって形成されていてもよい。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は本発明に係るそりの製造に用いることができる成膜装置の概略構成を示す図である。図2は、本発明に係るそりの1例(スキー板)の側面図である。
図1の装置は、排気装置11が付設された真空チャンバ1を有し、チャンバ1内には電極2及びこれに対向する位置に電極3が設置されている。電極3は接地され、電極2にはマッチングボックス22を介して高周波電源23が接続されている。また、電極2にはその上に接触して支持される被成膜基体Sを成膜温度に加熱するためのヒータ21が付設されている。また、チャンバ1にはガス供給部4が付設されて、内部にプラズマ原料ガスを導入できるようになっている。ガス供給部4には、マスフローコントローラ411、412・・・及び弁421、422・・・を介して接続された1又は2以上のプラズマ原料ガスのガス源431、432・・・が含まれる。
【0017】
この装置を用いて本発明に係るそりを製造するにあたっては、そり基体Sをそり基体トレーTで支持して真空チャンバ1内に搬入し、そり基体の滑走面S1を電極3の方に向けて該トレーごと電極2上に配置し、排気装置11の運転にてチャンバ1内部を所定の真空度にする。次いで、ガス供給部4からチャンバ1内にフッ素含有ガス、水素ガス及び酸素ガスのうち1種以上のガスを前処理用ガスとして導入するとともに高周波電源23からマッチングボックス22を介して電極2に高周波電力を供給し、これにより前記導入した前処理用ガスをプラズマ化し、該プラズマの下でそり基体Sの滑走面S1の表面処理を行う。
【0018】
次いで、必要に応じてチャンバ1内を再び真空引きした後、ガス供給部4からチャンバ1内に成膜用原料ガスとして炭化水素化合物ガスを導入するとともに高周波電源23から電極2に高周波電力を供給し、これにより前記導入した炭化水素化合物ガスをプラズマ化し、該プラズマの下で基体Sの滑走面S1に炭素膜Fを形成する。
【0019】
なお、上記表面処理及び炭素膜形成処理においては、図示しない基体駆動手段によりそり基体SをトレーTごと適宜動かして、基体Sの被成膜滑走面S1全体に均一に表面処理及び炭素膜形成が行われるようにする。
このようにして、図2に示すように、そり基体Sの滑走面S1に炭素膜Fが形成された炭素膜被覆そり(ここではスキー板)が得られる。
【0020】
次に、図1の装置を用いて、木材からなるスキー板基体と同材質の試験片の滑走面相当表面にDLC膜を形成した実施例を説明する。
実験例1
前処理用ガスプラズマによる試験片の前処理を行わず、試験片表面に直接DLC膜を形成した。
【0021】
試験片材質 木材
サイズ 10cm×30cm×厚さ1cm
高周波電極2サイズ 40cm×40cm
成膜条件
成膜用原料ガス メタン(CH4 ) 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
成膜真空度 0.1Torr
成膜速度 500Å/min
成膜時間 20min
実験例2
前記実験例1において、成膜に先立ち、試験片に次の条件で水素ガスプラズマによる前処理を施した。成膜条件は前記実験例1と同様とした。
【0022】
前処理条件
前処理用ガス 水素(H2 ) 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理真空度 0.1Torr
処理時間 5min
実験例3
前記実験例1において、成膜に先立ち、試験片に次の条件でフッ素化合物ガスプラズマによる前処理を施した。成膜条件は前記実験例1と同様とした。
【0023】
前処理条件
前処理用ガス 6フッ化硫黄(SF6 ) 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理真空度 0.1Torr
処理時間 5min
実験例4
前記実験例1において、成膜に先立ち、試験片に次の条件で酸素ガスプラズマによる第1の前処理を施し、さらに水素ガスプラズマによる第2の前処理を施した。成膜条件は前記実験例1と同様とした。
【0024】
第1前処理条件
前処理用ガス 酸素(O2 ) 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理真空度 0.1Torr
処理時間 5min
第2前処理条件
前処理用ガス 水素(H2 ) 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理真空度 0.1Torr
処理時間 5min
実験例5
前記実験例1において、成膜に先立ち、試験片に次の条件で酸素ガスプラズマによる第1の前処理を施し、さらにフッ素化合物ガスプラズマによる第2の前処理を施した。成膜条件は前記実験例1と同様とした。
【0025】
第1前処理条件
前処理用ガス 酸素(O2 ) 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理真空度 0.1Torr
処理時間 5min
第2前処理条件
前処理用ガス 6フッ化硫黄(SF6 ) 100sccm
高周波電力 周波数13.56MHz、300W
処理真空度 0.1Torr
処理時間 5min
次に、前記実験例1、2、3、4、5により得られたDLC膜被覆試験片、DLC膜を形成していない未処理の同様の試験片(比較例1)及び同様の試験片の表面に市販のワックスを塗布し、凝固後、該塗布面を研磨したもの(比較例2)について、滑走面相当表面の、アルミニウム材との摩擦係数及びダイアモンド材との摩耗特性をそれぞれ評価した。また、実験例1、2、3、4、5により得られた各DLC膜被覆試験片についてDLC膜と試験片との密着性を評価した。また、比較例2により得られたワックス膜被覆試験片のワックス膜の密着性も評価した。
【0026】
摩擦係数は、試験片表面上でアルミニウムからなるピン状物品を10gの荷重をかけた状態で20mm/secの速度で移動させたときの値を測定し、摩耗特性は、試験片表面上でダイアモンドからなるピン状物品を200gの荷重をかけた状態で20mm/secの速度で移動させ、単位時間あたりに摩耗した厚さを測定することで評価した。膜密着性は、円柱状部材を接着剤を用いて膜表面に接合させ、該円柱状部材を膜に対して垂直方向に引っ張って該膜を試験片本体から剥離させ、剥離に要した力を測定する引っ張り法により評価した。
【0027】
結果を次表に示す。
このように、DLC膜を被覆した実験例1から5の試験片では、アルミニウム材との間の摩擦係数はDLC膜を形成していない比較例1の試験片より小さく、そり基体滑走面にDLC膜を被覆することにより潤滑性が向上することが分かる。また、ダイアモンド材との間の摩耗特性値は、前記比較例1及びワックスを塗布した比較例2の試験片より著しく小さかった。
【0028】
また、前記実験例1から5の各DLC膜の試験片への密着強度は、DLC膜形成に先立ち試験片表面に対しプラズマによる前処理を施した実施例2から5の試験片の方が、前処理を施さない実験例1の試験片よりも大きかった。
以上のことから、そり基体滑走面に炭素膜(特にDLC膜)を形成したそりは、摺動性及び耐摩耗性が優れることが分かる。なお、炭素膜と雪や草との摺動性は、アルミニウムとの摺動性より良好であるため、本発明のそりは雪や草との摺動性が優れるものと考えられる。また、前処理を施して形成した炭素膜は密着性が優れることが分かる。
【0029】
【発明の効果】
以上のように本発明によると、滑走面の潤滑性が優れるとともに、その潤滑性を維持するための定期的なメンテナンスを要しない、或いは殆ど要しないそり及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るそりの製造に用いることができる成膜装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係るそりの1例の側面図である。
【符号の説明】
1 真空チャンバ
11 排気装置
2 高周波電極
21 ヒータ
22 マッチングボックス
23 高周波電源
3 接地電極
4 プラズマ原料ガス供給部
S 被成膜そり基体
S1 基体Sの被成膜滑走面
F 炭素膜
Claims (6)
- 滑走面が木材、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂から選ばれた少なくとも1種の材料からなり、少なくともフッ素(F)含有ガスのプラズマに曝されることでフッ素終端処理されており、該そり基体の滑走面に耐摩耗性及び潤滑性を有するDLC膜がプラズマCVD法にて形成されていることを特徴とするそり。
- 滑走面が木材、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂から選ばれた少なくとも1種の材料からなり、少なくとも水素(H 2 )ガスのプラズマに曝されることで水素終端処理されており、該そり基体の滑走面に耐摩耗性及び潤滑性を有するDLC膜がプラズマCVD法にて形成されていることを特徴とするそり。
- 滑走面が木材、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂から選ばれた少なくとも1種の材料からなり、少なくとも酸素(O 2 )ガスのプラズマに曝されることで清浄化処理されており、該そり基体の滑走面に耐摩耗性及び潤滑性を有するDLC膜がプラズマCVD法にて形成されていることを特徴とするそり。
- 滑走面が木材、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂から選ばれた少なくとも1種の材料からなるそりの該滑走面を少なくともフッ素(F)含有ガスのプラズマに曝すことでフッ素終端処理する工程、及び該フッ素終端処理されたそり基体滑走面にプラズマCVD法にて耐摩耗性、潤滑性を有するDLC膜を形成する工程を含むことを特徴とするそりの製造方法。
- 滑走面が木材、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂から選ばれた少なくとも1種の材料からなるそりの該滑走面を少なくとも水素(H 2 )ガスのプラズマに曝すことで水素終端処理する工程、及び該水素終端処理されたそり基体滑走面にプラズマCVD法にて耐摩耗性、潤滑性を有するDLC膜を形成する工程を含むことを特徴とするそりの製造方法。
- 滑走面が木材、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂から選ばれた少なくとも1種の材料からなるそりの該滑走面を少なくとも酸素(O 2 )ガスのプラズマに曝すことで清浄化処理する工程、及び該清浄化処理されたそり基体滑走面にプラズマCVD法にて耐摩耗性、潤滑性を有するDLC膜を形成する工程を含むことを特徴とするそりの製造方法。
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- 1996-05-30 JP JP13627096A patent/JP3760507B2/ja not_active Expired - Fee Related
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