JP3931381B2 - 炭素膜片含有高分子材料の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素膜の膜片を分散させた高分子材料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ゴムや樹脂等の高分子材料からなる物品であって、表面の潤滑性(摺動性)が良好であることが求められる物品がある。例えば、自動車用ワイパーブレード等のワイパーでは水等を拭き取るために柔軟性が求められるとともに、ウィンドガラスに対しスムースに摺動するために表面の潤滑性が求められる。また、スキー板では軽量で且つ表面が潤滑性であることが求められる。
【0003】
さらに各種電線の被覆材料は、配線等においてその表面が他の物品や部材に対し摺動せしめられることがあるから、これも潤滑性が求められることがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
高分子材料であって、実用上求められる十分な潤滑性を有する材料は見いだされていない。そこで、高分子材料からなる物品の表面を潤滑性のある薄膜で被覆することにより、高分子材料の有する柔軟性及び(又は)軽量性等と潤滑性との双方を備えた物品を得ることも考えられるが、この場合、他物品との摺動により該膜が摩耗すると潤滑性が低下してしまう。
【0005】
焼結により生成させた粒子状の窒化ケイ素等のセラミックを高分子材料中に分散させることも行われているが、これらは粒子状であるため基材の機械的強度を著しく低下させる。また、同様に焼結により生成させた粒子状のグラファイトを高分子材料中に分散させることが行われているが、この場合実用上求められるだけの十分な潤滑性が得られない。
【0006】
そこで本発明は、高分子材料であって、実用上求められるだけの潤滑性を有するとともに摩耗によってもその潤滑性が低下せず、しかも該材料の機械的強度が損なわれていない高分子材料の製造方法を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は潤滑性のある炭素膜片を含有する炭素膜片含有高分子材料(或いは炭素膜片含有高分子物品)を提供しようとするものである。
前記課題を解決するために本発明は、(a)炭素膜片を製造する工程であって、容量結合型プラズマCVD装置を用い、該装置における真空容器内を所定の成膜真空度に維持するとともに該真空容器内に炭素膜形成のための原料ガスを導入し、電力印加電極に高周波電力を印加して対向電極との間にプラズマを発生させて該電力印加電極上に潤滑性のある炭素膜を形成し、該電力印加電極の加熱及び冷却を繰り返すことで該電極から炭素膜片を剥離させ、該炭素膜片を回収する工程と、
(b)この炭素膜片を高分子材料又はその前駆体に添加して最終的に炭素膜片を含有する高分子材料を生成させる工程と
を含む炭素膜片含有高分子材料の製造方法を提供する。
【0009】
前記対向電極は真空容器がこれを兼ねていてもよいし、真空容器とは別に設けられていてもよい。
本発明の炭素膜片含有高分子材料によると、高分子材料全体に潤滑性のある炭素膜の膜片が分散されているため摩耗しても良好な潤滑性が保たれる。また、添加する材料が膜状片であるため高分子材料本来の強度が損なわれない。
【0010】
また本発明の炭素膜片含有高分子材料の製造方法によると、高分子材料に分散させる炭素膜片の製造のための前記(a)工程においては、電力印加電極上に炭素膜を形成し、該電極の加熱及び冷却を繰り返す。該電極の加熱及び冷却はプラズマを発生させた状態で行ってもよい。電極材料である金属の熱膨張率は該電極上に形成しようとする炭素膜の熱膨張率より一般にかなり大きいため、電力印加電極の加熱及び冷却を繰り返すことにより該電極上に形成された炭素膜は膜片となって剥離する。そして、この剥離した膜片を回収し、前記(b)工程において、該膜片を高分子材料又はその前駆体(例えば樹脂モノマーや生ゴム)に添加して、最終的に炭素膜片含有高分子材料(或いは炭素膜片含有高分子物品)を得る。(a)工程により高分子材料に添加する炭素膜片が容易に得られ、(b)工程により実用上求められるだけの潤滑性を有するとともに摩耗によってもその潤滑性が低下せず、該材料本来の強度が損なわれていない高分子材料を容易に製造することができる。なお、電力印加電極にこのようなヒートサイクルを加えなくても炭素膜片は剥離するが、この場合膜厚が厚くなる。
【0011】
前記電力印加電極は冷却手段及び加熱手段を備えいるとともに、少なくとも膜形成面が形成しようとする膜と熱膨張率が異なる材料からなっていてもよい。
【0013】
本発明の炭素膜片含有高分子材料において、前記の潤滑性のある炭素膜は、代表的にはDLC(Diamond Like Carbon) 膜とすることができる。DLC膜は、潤滑性良好で且つ高硬度であり、また比較的低温で形成できる等成膜を容易に行うことができる。
本発明の炭素膜片含有高分子材料の製造方法の(a)工程においては、プラズマCVD法においてDLC膜形成のために一般に行われているように、成膜圧力を10-3〜数Torr程度、膜形成される電力印加電極の温度を200℃程度以下とすることによりDLC膜を得ることができる。
【0014】
本発明の方法において、炭素膜形成のための原料ガスとしては、炭素膜形成に一般に用いられるメタン(CH4 )、エタン(C2 H6 )、プロパン(C3 H8 )、ブタン(C4 H10)、アセチレン(C2 H2 )、ベンゼン(C6 H6 )、4フッ化炭素(CF4 )、6フッ化2炭素(C2 F6 )等の炭素化合物ガスを用いることができ、必要に応じて、これらの炭素化合物ガスにキャリアガスとして水素ガス、不活性ガス等を混合したものを用いることができる。
【0015】
また、炭素膜形成のための原料ガスとして、これらの炭素化合物ガスに窒素含有ガス又は(及び)フッ素含有ガスを添加したガスを用いることにより、得られる炭素膜片は、窒素−炭素化合物又はフッ素−炭素化合物又はこれら双方を含むものとなる。窒素含有ガスとしては、窒素(N2 )ガス、1酸化窒素(NO)ガス、3フッ化窒素(NF3 )ガス等を用いることができ、フッ素含有ガスとしては、フッ素(F2 )ガス、3フッ化窒素(NF3 )ガス、6フッ化硫黄(SF6 )ガス、4フッ化炭素(CF4 )ガス、4フッ化ケイ素(SiF4 )ガス、6フッ化2ケイ素(Si2 F6 )ガス、3フッ化塩素(ClF3 )ガス、フッ化水素(HF)ガス等を用いることができる。
【0016】
本発明の炭素膜片含有高分子材料において、炭素膜片が窒素−炭素化合物を含むときには該膜片はより高硬度なものとなり、フッ素−炭素化合物を含むときには該膜片の潤滑性が向上して該膜片を含む高分子材料全体の潤滑性が一層優れたものとなる。
また、本発明の炭素膜片含有高分子材料及びその製造方法において、前記高分子材料はゴム及び樹脂のうちの少なくとも1種の材料とすることができる。
【0017】
ゴムとしては、天然ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム等を例示できる。
樹脂では、熱硬化性樹脂としては、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等を例示できる。
【0018】
また、熱可塑性樹脂では、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ2塩化ビニル、ポリビニルブチラート、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルホルマール等)、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエーテル、ポリエステル系樹脂(ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体等)、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート、変性アクリル等)、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、66、610、11等)、セルロース系樹脂(エチルセルロース、酢酸セルロース、プロピルセルロース、酢酸・酪酸セルロース、硝酸セルロース等)、ポリカーボネート、フェノキシ系樹脂、フッ素系樹脂(3フッ化塩化エチレン、4フッ化エチレン、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン、フッ化ビニリデン等)、ポリウレタン等を例示できる。
【0019】
本発明の炭素膜片含有高分子材料において、前記炭素膜片は、それには限定されないが、最終的に高分子材料に対して1体積%〜50体積%程度、より好ましくは5体積%〜20体積%程度の濃度で含まれていることが好ましい。これは、この範囲内とすることにより、十分な潤滑性が得られるとともに、高分子材料本来の強度の低下は実用上問題のない程度に抑えられるからである。
【0020】
また、炭素膜片は、それには限定されないが、0.1μm〜1μm程度、より好ましくは0.1μm〜0.3μm程度の厚さで、0.1mm2 〜5mm2 程度、より好ましくは1mm2 〜3mm2 程度の大きさのものとすることが好ましい。前記範囲の厚さとすることにより、膜片が円滑に剥離するとともに、前記割合で高分子材料と混合した場合の膜片の全表面積が大きくなり、潤滑性を効果的に向上させることができるようになる。また、前記範囲の大きさとすることにより、膜片が円滑に剥離するとともに、潤滑性を効果的に向上させることができるようになる。
【0021】
膜片の厚さ及び大きさは、例えば電力印加電極の加熱・冷却のヒートサイクルを調整することで制御できる。
加熱については電力印加電極の設定温度(目標温度)を100℃〜200℃程度とし、速やかに該温度まで電極を加熱するようにして約5分間〜20分間程度加熱操作し、冷却については電力印加電極の設定温度(目標温度)を−20℃〜0℃程度とし、速やかに電極を冷却するようにして約5分間〜20分間程度冷却操作することで、概ね前記範囲の厚さ及び大きさの炭素膜片が得られる。
【0022】
また炭素膜片は、高分子材料の潤滑性を向上させ、且つ、高分子材料自体の強度の低下を抑制する上で、特に繊維状であることが好ましい。この場合の繊維厚さは0.1μm〜1μm程度、繊維幅は1mm〜3mm程度とし、繊維長さは1mm〜50mm程度とすることが好ましい。
電力印加電極の膜形成面に多数の溝を例えば並行に設けておくことにより、得られる膜片を溝幅や隣合う溝間の幅に応じた幅の繊維状のものとすることができる。繊維状の炭素膜片の幅を前記範囲とするためには、電極表面の溝幅及び隣合う溝間の幅は0.5mm〜5mm程度、好ましくは1mm〜3mm程度とすればよい。
【0023】
本発明方法においては、高周波電力として、13.56MHz以上の所定周波数の基本高周波電力に該所定周波数の10000分の1以上10分の1以下の範囲の変調周波数で振幅変調を施した状態の高周波電力を用いることが好ましい。
【0024】
成膜用原料ガスプラズマ化のために印加する高周波電力にこのような変調を施すことにより、プラズマ中の電子・イオンの温度が制御されて、プラズマ中のパーティクル発生の原因となるラジカルの生成が低減する一方、成膜に寄与するラジカルの生成は妨げられず、このような変調を加えない場合に比べてダスト発生が低減し、それにより欠陥の少ない良質の膜を形成することができる。また、膜厚均一性を向上させることができる。さらに、成膜速度を著しく低下させないで、或いは向上させて成膜を行うことができる。
【0025】
変調前の基本高周波電力は、サイン波、矩形波、のこぎり波、三角波等、種々の波形のものを用いることができる。
基本高周波電力の周波数として13.56MHz以上のものを用いるのは、これより小さくなってくるとプラズマ密度が不足しがちになるからである。また、基本高周波電力の周波数は高周波電源コスト等からして500MHz程度までとすればよい。
【0026】
また、変調周波数として前記範囲のものが好ましいのは、変調周波数が基本高周波電力の周波数の10000万分の1より小さくなってくると成膜速度が急激に低下するからであり、10分の1より大きくなってくるとマッチングがとり難くなるからである。すなわち、高周波電力がガスプラズマ化のために十分に消費されず、一部反射波として戻ってしまい、また、徒に費用がかかるようになるからである。
【0027】
また、前記パルス変調のデューティ比(オン時間/オン+オフ時間)は10%〜90%程度、代表的には50%程度とすればよい。これは、10%より小さいと成膜速度が低下するからであり、90%より大きいと電力印加時間が長くなり過ぎて変調を施すことによる効果が少なくなるからである。
電力印加電極は少なくとも膜形成面がアルミニウム又はアルミニウムを主成分とする材料からなるものであることが好ましい。アルミニウムは、熱膨張率が大きい金属であり炭素との熱膨張率の差が大きいために、電極からの炭素膜の剥離が円滑となり、短時間で大量の炭素膜片を得ることができる。
【0028】
剥離する膜片を回収し易いように、電力印加電極は膜形成面が鉛直方向又は略鉛直方向を向くように設置すればよい。このとき、剥離した炭素膜片を回収する手段として、該電力印加電極の下方に設けたトレイ等を用いればよい。
本発明に係る炭素膜片含有高分子材料の炭素膜片製造は、以上説明したようにプラズマCVD法において膜形成される電力印加電極の加熱・冷却を繰り返す方法の他、蒸着法において、炭素と熱膨張率が異なる材料からなる物品上に膜形成するとともに該物品の加熱・冷却を繰り返す方法、イオンプレーティング法において、炭素と熱膨張率が異なる材料からなる物品上に膜形成するとともに該物品の加熱・冷却を繰り返す方法等によっても行うことができる。しかし、これらより容量結合型プラズマCVD装置による方が膜形成面への粒子の入射エネルギが小さいため、膜片が剥離し易い点で有利である。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、膜片製造装置の1例の概略構成を示す図である。この装置は、従来用いられている容量結合型プラズマCVD装置の代表例である平行平板型プラズマCVD装置を利用したもので、電力印加電極に、加熱手段及び冷却手段を設けるとともに膜片回収用トレイを設置したものである。この装置は、成膜室として用いられる真空容器1を有し、その中に電極2及びこの電極2に対向する電極3が設けられている。
【0030】
電極2は、電極3との間に導入される成膜用原料ガスに電力を印加してプラズマ化させるための電力印加電極で、マッチングボックス21を介して高周波電源22が接続されている。また、加熱手段及び冷却手段としてここではヒータ23及び冷却水配管24が付設されている。電極3は接地電極である。電極2は電極3と対向する面が鉛直方向になるように設置されている。なお、ここでは電極2の膜形成面は平坦な形状であるが、該面に、1mm〜3mmの幅の多数の細溝を隣合う溝間幅を0.5mm〜5mmとして形成したものを用いることもでき、このとき、溝内及び隣合う溝間に形成された膜が繊維状に剥離したものが得られる。
【0031】
また、電極2の下方には膜片回収トレイ4が設置されている。
また、真空容器1には排気装置11を接続してあるとともに、成膜用原料ガスのガス供給部5が接続されている。ガス供給部5には、マスフローコントローラ511、512・・・及び弁521、522・・・を介して接続された1又は2以上の成膜用原料ガスのガス源531、532・・・が含まれる。
【0032】
この膜片製造装置を用いて本発明方法における炭素膜片の製造を行うにあたっては、真空容器1内が排気装置11の運転にて所定真空度とされるとともに、ガス供給部5から炭素膜形成のためのメタン、エタン等の成膜用原料ガスが導入される。また、高周波電源22からマッチングボックス21を介して電極2に高周波電力が供給され、それによって導入されたガスがプラズマ化され、このプラズマの下で電極2表面に炭素膜が形成される。
【0033】
このとき、成膜真空度、電極2の温度、電極2に供給する高周波電力、容器1内に導入する成膜用原料ガスの種類及び流量等を制御又は適宜選択することにより、形成される膜を潤滑性のある炭素膜、例えばDLC膜とすることができる。
成膜中、電極2はヒータ23への通電及び冷却水配管24への通水が交互に繰り返され、加熱について、電極設定温度(目標温度)を100℃〜200℃程度として略5分間〜20分間程度加熱され、冷却については、加熱後、電極設定温度を−20℃〜0℃程度、或いは10℃程度までとして加熱に引き続き略5分間〜20分間程度冷却され、これを1サイクルとするヒートサイクルが繰り返される。加熱及び冷却は1サイクルでそれぞれほぼ同時間ずつ行われる。電極2と電極2の上に形成される炭素膜とでは熱膨張率が大きく異なるため、炭素膜は電極2上に形成されては剥離する。剥離した炭素膜片は回収トレイ4の上に回収される。前記条件で成膜を行うことにより、大きさ0.1mm2 〜5mm2 、厚さ0.1μm〜1μmの炭素膜片が得られる。
【0034】
このようにして得られた炭素膜片を、溶融樹脂やゴム等の高分子材料、或いは樹脂モノマーや生ゴム等の高分子材料の前駆体に、最終的な濃度が高分子材料に対して1体積%〜50体積%となるように添加して、硬化等させ、炭素膜片含有高分子材料を得る。
このようにして得られた本発明に係る炭素膜片含有高分子材料は、潤滑性のある炭素膜片が含まれているため材料全体として潤滑性良好であり、摩耗してもその潤滑性が維持される。また、添加する材料が粒子状でなく、膜片状であるため、基材である高分子材料本来の機械的強度の低下が抑制されている。
【0035】
また、膜片製造装置の他の例として図2に概略構成を示す装置も考えられる。この装置は、図1の装置において、高周波電源22にさらに任意波形発生装置25が接続されたものである。
この装置を用いて、本発明における炭素膜片の製造を行うにあたっては、図1の装置によると同様にして炭素膜形成を行い、ガスプラズマ化にあたり、高周波電源22及び任意波形発生装置25により形成したパルス変調高周波電力を電極2に印加する。該パルス変調高周波電力は、13.56MHz以上の所定周波数の基本高周波電力に該所定周波数の10000分の1以上10分の1以下の範囲の変調周波数で振幅変調を施した状態の高周波電力とする。また、デューティ比(オン時間/オン時間+オフ時間)は10〜90%の範囲で定める。その他は図1の装置によると同様にして炭素膜片が得られる。
【0036】
高周波電力にこのようなパルス変調を施すことにより、このような変調を加えない場合に比べて膜質及び膜厚均一性を向上させるとができる。また、成膜速度を著しく低下させないで、或いは向上させて成膜を行うことができる。
【0037】
【実施例】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はそれらの実施例に限られるものではない。
実施例4(図2の装置による)
実施例1において、ガスプラズマ化用高周波電力として、周波数13.56MHz、300Wの基本高周波電力に、10kHzの変調周波数、デューティ比50%でパルス変調を施した高周波電力を用いた。その他は実施例1と同様にして炭素膜片を得た。
実施例5
実施例1において、電極2として、その膜形成面に隣合う溝間の幅を1mmとして、深さ0.5mm、幅2mmの多数の並行溝加工を施したものを用い、その他は実施例1と同様にして繊維状の炭素膜片を得た。
比較例4
比較例1において、電極2として、その膜形成面に、隣合う溝間の幅を1mmとして、深さ0.5mm、幅2mmの多数の並行溝加工を施したものを用い、その他は比較例1と同様にして炭素膜片を得た。
【0038】
次に、実施例5及び比較例4において、それぞれ電極2の膜形成面の溝の幅を前記2mmを含め1〜5mmに変化させて、各場合の剥離膜片の幅を測定し、その分布を調べた。結果を図3(A)(実施例5)及び図3(B)(比較例4)に示す。これによると、成膜中にヒートサイクルを加えなくても剥離膜片が得られるが、幅が比較的広く且つ幅の分布が比較的広くなった。一方、溝加工を施した電極を用いて成膜中にヒートサイクルを加えることにより、比較的幅の狭い繊維状の膜片が得られ、しかも幅の分布も狭かった。このような炭素膜片を高分子材料中に分散させることにより性状が均一な材料が得られる。
【0039】
また、前記実施例4において、基本高周波電力に施すパルス変調周波数を前記10kHzを含め100Hz〜100kHzの範囲で変化させて、各変調周波数での成膜速度を測定した。結果を図4に示す。なお、図4のグラフの横軸中のCWは連続放電の場合を表している。成膜速度は1kHzで最も高く連続放電の場合(200Å/min)とほぼ同様の速度となり、変調周波数がそれより低くなり或いは高くなると成膜速度は低下した。
【0040】
また、前記実施例4において、基本高周波電力に施すパルス変調周波数を10kHzを含め100Hz〜100kHzの範囲で変化させて、得られる膜片の膜厚均一性を測定した。膜厚均一性は、40cm×40cmのサイズの電極2上でほぼ等間隔で任意に選んだ10点での膜厚を測定しそのばらつきを求めたものである。結果を図5に示す。これによると、前記の変調周波数の範囲では、連続放電の場合(約±25%)より膜厚均一性は良好であり、変調周波数が低い方が膜厚均一性は良好であった。
【0041】
従って、成膜速度及び膜厚均一性の双方を満足させるためには、変調周波数を1kHz〜10kHz程度、さらに言えば1kHz程度(基本高周波電力の周波数13.56MHzの約10000分の1)とすることが望ましいことが分かる。
次に、実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた炭素膜片について、硬度、SUJ−2材(JIS G4805 高炭素クロム軸受鋼鋼材)との摩擦係数、膜厚を測定した結果を次表1に示す。硬度はヌープ硬度を測定し、摩擦係数はピンオンディスク法で測定した。ピンオンディスク法において、ボールは3/8インチのSUJ−2材からなるものを用い、荷重50gf、摩擦速度0.1m/secの条件で測定した。
表1より、ヒートサイクルを加えて成膜した実施例1〜3ではこれを加えない比較例1〜3に比べて、剥離がスムースに行われるため、薄い膜が得られたことが分かる。
【0042】
また、フッ素を含む成膜用原料ガスを用いて成膜した実施例3及び比較例3の炭素膜片は、メタンガスのみを用いて成膜した実施例1及び比較例1の炭素膜片より摩擦係数が小さいことが分かる。
また、窒素を含む成膜用原料ガスを用いて成膜した実施例2及び比較例2の炭素膜片は、メタンガスのみを用いて成膜した実施例1及び比較例1の炭素膜片より硬度が高いことが分かる。
【0043】
次に、実施例1、2、3、5及び比較例1、2、3、4で得られた各炭素膜片をそれぞれエチレン−プロピレン−ジエン系モノマーの3元共重合体(EPDM)に10体積%分散させたものを製造した。各炭素膜片含有EPDMを平板状に成形したもの、未処理のEPDMを同様に成形したもの、及び、このEPDM物品に図1の装置を用い比較例1の条件で厚さ1μmの炭素膜を形成したものについて、それぞれ前記と同様の条件にしてピンオンディスク法でSUJ−2材との摩擦係数(初期の値及び1km走行後の値)及び1km走行後の摩耗深さを測定した。結果を次表2に示す。
* :ピンを走行直後に走行不可能となった。
【0044】
**:0.3kmで走行不可能となった。
表2より、初期の摩擦係数は基材に炭素膜を被覆した物品の方が小さいが、実施例1、2、3、5の炭素膜片を含有する物品ではピンを1km走行させた後も初期と略同じ摩擦係数が保たれた。
一方、基材に炭素膜を被覆した物品ではピンを1km走行させた後には、未処理の物品と同様に摩擦係数が2.0以上(推定)となった。
【0045】
また、電力印加電極に多数の溝を設けて製造した実施例5の炭素膜片を含む物品では、溝を設けないで製造した実施例1〜3の炭素膜片を含有する物品より、膜片の幅が小さい分、摩擦係数が小さくなりまた摩耗深さも浅かった。
また、ヒートサイクルを加えて製造した実施例1〜3及び実施例5の炭素膜片を含有する物品は、ヒートサイクルを加えない比較例1〜4の炭素膜片を含有する物品に比べて摩耗深さが浅かった。これは、実施例1〜3及び実施例5の炭素膜片の方が膜厚が均一で、それだけ均一な分散が可能であることに起因すると考えられる。
【0046】
【発明の効果】
本発明によると、高分子材料であって、実用上求められるだけの潤滑性を有するとともに摩耗によってもその潤滑性が低下せず、しかも該材料の機械的強度が損なわれていない高分子材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】膜片製造装置の1例の概略構成を示す図である。
【図2】膜片製造装置の他の例の概略構成を示す図である。
【図3】本発明実施例(図(A))及び比較例(図(B))における電力印加電極表面の溝幅と得られる剥離膜片の幅及びその分布との関係を示す図である。
【図4】本発明において高周波電力に施すパルス変調周波数と成膜速度との関係を示す図である。
【図5】本発明において高周波電力に施すパルス変調周波数と膜厚均一性との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 真空チャンバ
11 排気装置
2 電力印加電極
21 マッチングボックス
22 高周波電源
23 ヒータ
24 冷却水配管
25 任意波形発生装置
3 接地電極
4 膜片回収トレイ
5 成膜用原料ガス供給部
Claims (4)
- (a)炭素膜片を製造する工程であって、容量結合型プラズマCVD装置を用い、該装置における真空容器内を所定の成膜真空度に維持するとともに該真空容器内に炭素膜形成のための原料ガスを導入し、電力印加電極に高周波電力を印加して対向電極との間にプラズマを発生させて該電力印加電極上に潤滑性のある炭素膜を形成し、該電力印加電極の加熱及び冷却を繰り返すことで該電極から炭素膜片を剥離させ、該炭素膜片を回収する工程と、
(b)この炭素膜片を高分子材料又はその前駆体に添加して最終的に炭素膜片を含有する高分子材料を生成させる工程とを含み、
前記電力印加電極として、膜形成面に溝幅及び隣り合う溝間の幅がそれぞれ1mm〜3mmの線状の溝が形成されたものを用いることを特徴とする炭素膜片含有高分子材料の製造方法。 - 前記電力印加電極に印加する高周波電力を、13.56MHz以上の所定周波数の基本高周波電力に該所定周波数の10000分の1以上10分の1以下の範囲の変調周波数で振幅変調を施した状態の高周波電力とする請求項1記載の炭素膜片含有高分子材料の製造方法。
- 前記炭素膜片をダイアモンド状炭素(DLC)膜の膜片とする請求項1又は2記載の炭素膜片含有高分子材料の製造方法。
- 前記炭素膜形成のための原料ガスに窒素含有ガス又は(及び)フッ素含有ガスを添加する請求項1、2又は3記載の炭素膜片含有高分子材料の製造方法。
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