JP3759395B2 - 熱収縮性ポリ乳酸系二軸延伸フィルム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スナック食品ケース、医薬品ケース、磁気テープ、磁気ディスク等の個包装あるいは集積包装に適したオーバーラッピング用途に使用可能な熱収縮性、ヒートシール性に優れたポリ乳酸系二軸延伸フィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在、機械的強度、耐熱性、寸法安定性に優れる材料としてポリエチレンテレフタレート延伸フィルム、またはポリプロピレン系延伸フィルム等が知られており産業界で幅広く使用されている。
【0003】
しかしながら、これらのプラスチックフィルムは自然環境中に廃棄されると、その化学的安定性のため分解せずゴミとして蓄積する一方である。将来的にはゴミ処分場、埋立地の確保が益々困難になり、また自然環境、野生動物に悪影響を及ぼすなどの問題が懸念されている。これらのプラスチックフィルムに代わり、土壌中において加水分解、次いで微生物分解により無害な分解物となり得るものにポリ乳酸フィルムがある。
【0004】
ポリ乳酸の無延伸フィルムあるいはシートは、強度、伸度が低く、耐衝撃性に劣る材料で、そのままでは成形体として実用性が不足していた。しかし、一軸あるいは二軸延伸し、配向させることによって脆性を向上させることができ、延伸したポリ乳酸フィルムは、情報記録材料(磁気カード)、工業用パッケージ、農業用マルチフィルムなどに展開され、一部は実用化に至っているものもある。
【0005】
しかしながら、これらのポリ乳酸系延伸フィルムにおいては、ポリプロピレン系二軸延伸フィルムに代表されるヒートシール性と熱収縮性を併せ持つフィルムいわゆる低熱収縮オーバーラッピング包装フィルムとして実用化された例はほとんどみられない。熱収縮性二軸延伸フィルムについては、特開平7−256753号公報、特開平9−187863号公報に記載がある。これらはポリ乳酸系重合体からなる熱収縮性二軸延伸フィルムについて記載されているが、いずれもプラスチック製ボトル結束用等の用途に用いられる高い収縮率を有するフィルムであり、前記オーバーラッピング用フィルムとして適合した低レベルの熱収縮性を有し、かつヒートシール性を併せ持つフィルムはなかった。したがって、熱収縮性、ヒートシール性を有するオーバーラッピング用フィルムとして広く用いられている二軸延伸ポリプロピレンフィルムに代わりうる生分解性フィルムへの要望が非常に強かった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、機械的物性に優れ、適度な熱収縮性を有し、かつヒートシール性に優れたオーバーラッピング包装に適したポリ乳酸系二軸延伸フィルムを提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、ポリ乳酸系二軸延伸フィルムについて、樹脂組成、延伸温度、延伸倍率、熱処理温度、リラックス率、表面処理を適宜調整することにより、機械的強度を維持しながらも適度な熱収縮性、ヒートシール性を併せ持ち、かつ印刷、コーティング等の二次加工に耐えうる寸法安定性を有するポリ乳酸系二軸延伸フィルムが得られることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明は、熱融解開始温度が110℃〜155℃であり、かつ100℃での熱収縮率がMD方向で5〜10%、TD方向で5%以下であることを特徴とする熱収縮性ポリ乳酸系二軸延伸フィルムを主旨とするものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
本発明において、ポリ乳酸系二軸延伸フィルムとは、L−乳酸/D−乳酸を主構成単位とするポリ乳酸系重合体からなるフィルムを指す。
【0009】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、樹脂特性としてフィルムの熱融解開始温度が110〜155℃の範囲内であることが必要である。これは本発明の目的であるヒートシール性発現のためである。熱融解開始温度が155℃を超えるように設定すると、印刷時の寸法安定性は優れるが、ヒートシール性が不十分となり実用的ではない。逆に熱融解開始温度が110℃未満となるように設定すると、樹脂自体が非晶性に限りなく近づくため実用的な強度が満足されないだけではなく、熱収縮率の調整、厚みの均一化の面から製造困難となり、実用的なフィルムは得られない。また寸法安定性が悪いため印刷等の二次加工には不適である。フィルムの熱融解開始温度は、DSC(示差熱量測定)により観測される温度であり、昇温速度が10℃/minの測定条件下で求められる。
本発明のフィルムの熱融解開始温度を110〜155℃にするためには、L−乳酸/D−乳酸=99.5/0.5〜92/8(モル比)の組成比を満足させることが好ましい。この範囲内の樹脂を用いることにより、熱収縮率をコントロールするために製造条件を変更しても熱融解開始温度を上記範囲内とすることができる。
【0010】
また、ポリ乳酸系重合体の樹脂物性として数平均分子量は5万〜30万の範囲にあることが好ましく、より好ましくは8万〜15万である。数平均分子量が5万未満の場合、得られるフィルムの機械的強度が不十分となり、かつ延伸、巻き取り工程中での切断も頻繁に起こり操業性の低下を招く。一方、数平均分子量が30万を超えると加熱溶融時の流動性が乏しくなって製膜性が低下する。
【0011】
ポリ乳酸を得るための重合法としては、縮合重合法及び開環重合法のいずれの方法を採用することも可能であり、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えばジイソシアネート化合物、ジエポキシ化合物、酸無水物等を使用してもよい。
【0012】
本発明の熱収縮性ポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、オーバーラッピング包装等に適するために、100℃での熱収縮率がMD方向で5〜10%、TD方向で5%以下であることが必要である。本発明では特定のポリ乳酸系重合体を用い、かつ樹脂特性に合わせて延伸温度、延伸倍率、熱処理温度、リラックス率等のフィルム製造条件を適宜設定することにより、熱収縮率を上記範囲内にコントロールすることが出来る。
MD方向の熱収縮率が10%を超えると熱収縮包装工程時に収縮じわが発生しやすく、かつ熱接着部が剥離しやすくなる。MD方向の熱収縮率が5%未満であると十分な熱収縮性が得られず、包装後の外観にタイト感がなく商品価値を有さない。またTD方向の熱収縮率が5%を超えると、印刷あるいはコーティング等の二次加工において印刷ずれを起こし、美観が著しく損なわれる。
【0013】
また、本発明の熱収縮性ポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、130〜150℃の温度でフィルムを重ね合わせて貼り合わせたときのヒートシール強度が1.30N/cm以上であることが好ましい。ヒートシール強度が1.30N/cmより小さいと、オーバーラッピング用として求められる接着力が不足する。
【0014】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムの少なくとも片面の表面張力が40mN/m以上、好ましくは42mN/m以上になるように表面処理を行うことが好ましい。ポリ乳酸系二軸延伸フィルムの表面張力が40mN/m未満の場合、ヒートシール性が不足するため好ましくない。本来、ポリ乳酸系重合体からなる延伸フィルムの表面張力は、未処理では通常34〜36mN/mと低い。したがって、表面張力を40mN/m以上にするためには、片面もしくは両面を表面処理する必要がある。表面処理の方法としては、一般的に用いられているコロナ処理、プラズマ処理、火炎処理の中から適宜選択できる。これらの中では、簡便さの点からコロナ放電処理が最も好ましい。表面張力が40mN/m以上を満足することが出来れば、フィルム製造工程中いわゆるオンラインでも、スリット時いわゆるオフラインでもよい。
【0015】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムの製造方法としては、Tダイ法、インフレーション法、カレンダー法等が例示できるが、Tダイを用いて溶融混練して押し出すTダイ法が好ましい。
Tダイ法により製造する場合には、ポリ乳酸系重合体にさらに必要に応じて可塑剤、滑剤を適量配合したポリ乳酸系樹脂組成物を押出機ホッパーに供給し、押出機を例えばシリンダー温度180〜260℃、Tダイ温度200〜250℃に加熱し、溶融混練して押し出し、20〜40℃に制御された冷却ロールで冷却し、厚さ100〜500μmの未延伸シートを得る。
【0016】
未延伸シートの二軸延伸方法としては、テンター方式による同軸二軸延伸、ロールとテンターによる逐次二軸延伸法のいずれでもよい。例えば逐次二軸延伸法によって延伸フィルムを製造する場合には、未延伸シートを駆動ロールの回転速度比によって縦方向にロール表面温度50〜80℃で、延伸倍率2.0〜4.0倍で延伸し、引き続き連続して横方向に延伸温度70〜100℃で、延伸倍率2.5〜8.0倍で延伸した後、100℃での熱収縮率がMD方向で5〜10%、TD方向で5%以下になるように、温度100〜150℃で熱処理する条件と、リラックス率2〜8%で熱弛緩処理する条件とをそれぞれ適宜設定すればよい。
【0017】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムの厚みは特に制限なく、用途、要求性能、価格等によって適宜設定すればよいが、一般的には、10〜200μm程度の厚さが用いられる。
【0018】
本発明のポリ乳酸二軸延伸フィルムは、同種もしくは他種のフィルムと積層し積層フィルムとして利用することができる。用途によっては、本発明のフィルムが積層フィルムの少なくとも一方の最外層として設けられたものを利用することができる。
【0019】
本発明のポリ乳酸二軸延伸フィルムにおいては必要に応じて顔料、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、滑剤、結晶核剤、帯電防止剤等を添加することができる。
【0020】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、スナック食品ケース、医薬品ケース、磁気テープ、磁気ディスク等の個包装、あるいは集積包装に適したオーバーラッピング用途の包装用フィルムとして好適である。また、生ごみ包装用袋、封筒の窓貼りフィルム、電気・電子部品等のラッピング、農業用フィルム、プリントラミ等の用途にも用いることができる。
【0021】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものでない。各項目の測定方法及び評価は、下記の方法により行った。
【0022】
(熱融解開始温度)
DSC測定装置により、フィルムサンプル10mgを昇温速度10℃/minで昇温させ、フィルムの融解が始まる温度を熱融解開始温度とした。
【0023】
(表面張力)
JIS−K6768に準じ、20℃×65%の環境下、和光純薬社製濡れ指数測定標準液を使用して、2秒間ではじきの起こらない最高数値の濡れ試薬を以てフィルムの表面張力とした。
【0024】
(引張強度、伸度)
ASTM−D882の測定法に準じて、長さ100mm、幅10mmの試料で測定した。本発明においては、強度がMD、TD共に120MPaを上回るか、伸度が両者共に60%を上回る場合を合格とした。
【0025】
(熱収縮率)
巾10mm、長さ150mmに切り出したフィルムサンプルを、熱風乾燥機において100℃で5分間熱処理した。熱処理前のサンプル長さを100%とし、熱処理後のサンプル長さから熱収縮率を求めた。
【0026】
(ヒートシール強度)
巾15mm、長さ150mmに切り出したフィルムサンプルを、130℃〜150℃の温度範囲内で、0.1MPa×1秒の条件下、テスター産業社製ヒートシーラーを用い、フィルムの表裏同志を重ね合わせ熱融着させた。シールバーは巾10mmとした。熱シールサンプルを300mm/minの剥離速度でT型剥離試験を行い、剥離時の最大応力をヒートシール強度とした。
【0027】
(シュリンク性)
磁気カセットテープケースを対象として、130℃での熱収縮(シュリンク)工程後のフィルム外観を評価した。
○:しわの発生がない、またはタイト感があり見栄えがよい。
△:シール部のしわが目立つ、または熱収縮不足によるだぶつきが見られる。
×:しわが著しい、または外観のだぶつきが著しい。
【0028】
(印刷性)
ポリ乳酸系二軸延伸フィルムの表面処理面に、大日本インキ化学工業社製の二液型ウレタンインキをグラビアコーターにより、赤、白の二色印刷した際の印刷ずれを評価した。
○:印刷ずれなし
△:印刷ずれ有り
×:印刷ずれ著しい
【0029】
実施例1
L−乳酸/D−乳酸=96/4(モル比)、数平均分子量が95,000、MFRが6.0g/10分(210℃)のポリ乳酸系重合体組成物を、コートハンガータイプのTダイを具備した50mmφ押出機を使用して、滞留時間5分、Tダイ温度230℃で溶融押出し、25℃に温度制御されたキャストロールに密着急冷し、厚さ300μmの未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを予熱ロールにより60℃で予熱した後、延伸ロール75℃で3.0倍に縦方向に延伸し、引き続いてテンター内で80℃の延伸温度で横方向に4.0倍延伸した後、横方向のリラックス率を4%として125℃で熱処理を施し、最後に3kV×0.5Aによるコロナ処理を片面に行い、厚さ25μmの二軸延伸フィルムを得た。得られたフィルムの熱融解開始温度は130℃で、コロナ処理面の表面張力は44mN/mであった。
【0030】
実施例2
縦延伸倍率を2.6倍に変更する以外は実施例1と同様として二軸延伸フィルムを得た。
【0031】
実施例3
L−乳酸/D−乳酸=99/1(モル比)、数平均分子量が99,000、MFRが5.6g/10分(210℃)のポリ乳酸系重合体組成物ポリ乳酸系重合体を用い、表1に示す延伸条件でフィルムを得た。
【0032】
実施例4
L−乳酸/D−乳酸=94/6(モル比)、数平均分子量が105,000、MFRが6.8g/10分(210℃)のポリ乳酸系重合体組成物ポリ乳酸系重合体を用い、表1に示す延伸条件でフィルムを得た。
【0033】
実施例5
実施例1に使用したL−乳酸/D−乳酸=96/4(モル比)、数平均分子量が95,000、MFRが6.0g/10分(210℃)のポリ乳酸系重合体組成物を用い、表1に示す延伸条件でフィルムを得た。
【0034】
比較例1
L−乳酸/D−乳酸=100/0(モル比)、数平均分子量が102,000、MFRが6.9g/10分(210℃)のポリ乳酸系重合体組成物ポリ乳酸系重合体を用い、表1に示す延伸条件でフィルムを得た。得られたフィルムは熱融解開始温度が高く、良好なヒートシール性は得られなかった。
【0035】
比較例2
L−乳酸/D−乳酸=90/10(モル比)、数平均分子量が98,000、MFRが6.2g/10分(210℃)のポリ乳酸系重合体組成物ポリ乳酸系重合体を用い、表1に示す延伸条件でフィルムを得た。得られたフィルムは熱融解開始温度が低く、機械的物性不足及び印刷時の加工適性に乏しいものであった。
【0036】
比較例3〜5
熱処理温度及びリラックス率を変更する以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。比較例3、4はMD熱収縮率が高過ぎたため、シュリンク加工後のフィルムにしわが目立ち、外観が好ましくなかった。特に比較例3はTD熱収縮率も高いため、印刷時に印刷ずれが生じた。比較例5は熱収縮率が低過ぎたため、逆にシュリンク性に乏しく外観上だぶつきが著しいものであった。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示したように、実施例1〜5は熱収縮性に優れ、同時に機械的強度、ヒートシール性に優れていた。また、シュリンク、印刷等の二次加工に対し優れた適性を有する。これに対し、比較例1〜5の二軸延伸フィルムは、シュリンク性、印刷性、ヒートシール性、機械的物性のいずれかが不足しており、本発明の目的を達成し得ないものであった。
【0039】
【発明の効果】
本発明のポリ乳酸系二軸延伸フィルムは、機械的物性を損なうことなく、適度な熱収縮性を有し、かつヒートシール性に優れており、食品、医薬品、磁気テープ等のオーバーラッピング包装材料として有用性が高い。またゴミとして廃棄された場合土壌中で微生物により分解され、自然環境、野生動物に対する環境負荷を軽減することが出来る。
Claims (2)
- 熱融解開始温度が110〜155℃であり、かつ100℃での熱収縮率がMD方向で5〜10%、TD方向で5%以下であることを特徴とする熱収縮性ポリ乳酸系二軸延伸フィルム。
- ポリ乳酸系未延伸シートを縦方向にロール表面温度50〜80℃で、延伸倍率2.0〜4.0倍で延伸し、引き続き連続して横方向に延伸温度70〜100℃で、延伸倍率2.5〜8.0倍で延伸した後、温度110〜125℃で熱処理する条件と、リラックス率2〜8%で熱弛緩処理する条件とをそれぞれ適宜設定することを特徴とする請求項1記載の熱収縮性ポリ乳酸系二軸延伸フィルムの製造方法。
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