JP3758321B2 - エンジンの空燃比制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明はエンジンの空燃比制御装置、特に始動時の燃料噴射量を制御するものに関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジンの始動時(クランキング時)の燃料噴射量を始動時水温に応じて演算するもの(特開昭58−25533号公報参照)、エンジン始動時の燃料噴射量の初期値を始動時吸気温に応じて与えるとともに、エンジン始動時の燃料噴射量をその初期値から始動後時間とともに徐々に減少させるようにしたもの(特開昭59−168231号公報参照)、エンジン始動時の燃料噴射量を回転数により補正するもの(特開平3−225046号公報参照)がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、エンジンの過渡時(加減速時だけでなく始動時や燃料リカバー時を含む)における空燃比の目標値からのずれは、吸気マニホールドや吸気ポートに付着し、液状のまま壁面を伝ってシリンダーへと流れ込む、いわゆる壁流燃料の量的変化に起因するものであり、この壁流燃料による過不足分を過渡補正量KATHOSとして燃料補正を行うものが提案されている(特開平3−134237号公報参照)。
【0006】
このものでは、付着倍率MFHTVOと分量割合KMFとの2つの値を、エンジン負荷、エンジン回転数およびエンジン温度に基づいて予め定めており、そのときのエンジン負荷、エンジン回転数およびエンジン温度(あるいは燃料付着部の温度予測値)に基づいて付着倍率MFHTVOと分量割合KMFを求め、これらから
MFH=TP×MFHTVO …(31)
ただし、TP:シリンダ空気量相当の燃料噴射パルス幅
の式により平衡付着量MFHを計算し、このMFHとKMFおよび付着量MFを用いて
VMF=(MFH−MF)×KMF …(32)
の式で1サイクル当たり(一噴射当たり)の付着量(これを付着速度という)VMFを求め、最終的に
Ti=(TP×KBLRC+KATHOS)×α+Ts …(33)
ただし、α:空燃比フィードバック補正係数
KBLRC:空燃比学習値
Ts:無効パルス幅
の式により同期燃料噴射パルス幅Tiを計算している。
【0007】
ここで、(32)式のMFは1サイクル毎(1噴射毎)に
MF=MF-1Ref+VMF …(34)
ただし、MF-1Ref:1噴射前(1サイクル前)のMF
の式によりVMFの積算値としてサイクリックに求められる値(予測変数である)のことで、MFHがステップ的に変化するとき、このMFHに対して一次遅れで応答する。また、分量割合KMFはMFHとその時点での付着量MFの差(MFH−MF)の燃料を燃料噴射量の補正にどの程度反映させるのかを示す係数のことである。
【0008】
さて、低温始動時には吸気ポートの壁面(以下、単にポート壁面という)だけでなくシリンダ内壁にも気化できない燃料が付着する。しかしながら、特開平3−134237号公報の装置では、このシリンダ内壁に付着する壁流燃料については全く考慮していないので、始動時の空燃比の理論空燃比への制御性に改善の余地が残っている。
【0009】
そこで本発明は、ポート壁面だけでなくシリンダ内壁にも付着する壁流燃料を考慮して過渡補正量を演算することにより、空燃比の始動時の目標値への制御性を改善することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、図21に示すように、運転条件に応じた基本噴射量を演算する手段51と、シリンダ内付着速度を含むシリンダ内壁に付着する壁流燃料についての変数と、ポート部付着速度を含むポート壁面に付着する壁流燃料についての変数とを別個に導入し、これらの変数に基づいてポート壁面およびシリンダ内壁に付着する壁流燃料に関する過渡補正量KATHOSを演算する手段52と、この過渡補正量KATHOSで前記基本噴射量を補正して燃料噴射量を求める手段53と、この噴射量の燃料をエンジンに供給する手段54とを設け、始動初回の燃料噴射時だけ始動初回の燃料噴射量と始動時水温に基づいて前記過渡補正量の演算に用いるシリンダ内付着速度VMFCおよびポート部付着速度VMFを別々に演算する。
【0016】
第2の発明では、第1の発明において図22に示すように、シリンダ壁面に付着する壁流燃料が存在するときに前記過渡補正量を演算する手段が、少なくともエンジン温度に基づいてポート部平衡付着量MFHを演算する手段61と、エンジン温度と始動後時間に基づいてポート部分量割合KMFを演算する手段62と、前記ポート部平衡付着量MFHとその時点でのポート部付着量MFとの差(MFH−MF)を演算する手段63と、少なくともエンジン温度に基づいてシリンダ内平衡付着量MFCHを演算する手段64と、エンジン温度と始動後時間に基づいてシリンダ内分量割合KMFCを演算する手段65と、前記シリンダ内平衡付着量MFCHとその時点でのシリンダ内付着量MFCとの差(MFCH−MFC)を演算する手段66と、このシリンダ内付着量差(MFCH−MFC)と前記シリンダ内分量割合KMFCとに基づいてシリンダ内付着速度VMFC(たとえばVMFC=(MFCH−MFC)×KMFC)を演算する手段67と、燃料噴射に同期して今回噴射時の前記シリンダ内付着速度VMFCを今回噴射前の前記シリンダ内付着量MFCに加算することによりシリンダ内付着量MFCを更新する手段68と、前記ポート部付着量差(MFH−MF)、前記ポート部分量割合KMF、前記シリンダ内平衡付着量MFCHおよび前記シリンダ内分量割合KMFCに基づいてポート部付着速度VMF(たとえばVMF=(MFH−MF)×KMF−MFC×KMFC×係数ABYOMA)を演算する手段69と、燃料噴射に同期して今回噴射時の前記ポート部付着速度VMFを今回噴射前の前記ポート部付着量MFに加算することによりポート部付着量MFを更新する手段70と、前記ポート部付着速度VMF、前記シリンダ内付着量MFCおよび前記シリンダ内分量割合KMFCに基づいて過渡補正量KATHOS(たとえばKATHOS=VMF−MFC×KMFC)を演算する手段71とからなる。
【0018】
第3の発明では、第2の発明において前回エンジン停止時の冷却水温に基づいて前記シリンダ内付着量MFCおよび前記ポート部付着量MFの残存量を推定し、その推定値を前記シリンダ内付着量MFCおよび前記ポート部付着量MFの初期値として設定する。
【0019】
第4の発明では、第2または第3の発明において図23に示すように、シリンダ壁面に付着する壁流燃料が存在しなくなったときに前記過渡補正量を演算する手段が、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいてポート部平衡付着量MFHを演算する手段81と、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいてポート部分量割合KMFを演算する手段82と、前記ポート部平衡付着量MFHとその時点でのポート部付着量MFとの差(MFH−MF)を演算する手段83と、このポート部付着量差(MFH−MF)と前記ポート部分量割合KMFとに基づいてポート部付着速度VMF(たとえばVMF=(MFH−MF)×KMF)を演算する手段84と、燃料噴射に同期して今回噴射時の前記ポート部付着速度VMFを今回噴射前の前記ポート部付着量MFに加算することによりポート部付着量MFを更新する手段85と、前記ポート部付着速度VMFを前記過渡補正量KATHOS(たとえばKATHOS=VMF)として演算する手段86とからなる。
【0026】
第5の発明では、第1から第4までのいずれか一つの発明において未燃分補正率Kubで前記基本噴射量を増量補正(たとえば(1+Kub)を基本噴射量に乗算)する。
【0027】
第6の発明では、第2、第3、第4、第5のいずれか一つの発明において前記シリンダ内付着速度VMFCを演算する際に用いるシリンダ内付着量MFCを前記未燃分補正率Kubで増量補正(たとえば(1+Kub)をMFCに乗算)しかつ前記ポート部付着速度VMFを演算する際に用いるシリンダ内付着量MFCを前記未燃分補正率Kubで減量補正(たとえば(1−Kub)をMFCに乗算)する。
【0028】
第7の発明では、第6の発明において前記シリンダ内付着量MFCを増量補正する際の未燃分補正率Kubを未燃分のシリンダ内残存率Cで補正(たとえばCをKubに乗算)する。
【0029】
第8の発明では、第6または第7の発明において充填効率が100%のときのシリンダ空気量Ga0を演算する手段と、このシリンダ空気量を燃料噴射量単位に換算する手段と、この換算した値TP100をシリンダ空気量相当の燃料噴射量TPとして設定する手段とを備え、安定性補正率KSTBで前記シリンダ空気量相当の燃料噴射量TPを増量補正する。
【0030】
第9の発明では、第1から第4まで、第5のいずれか一つの発明において安定性補正率KSTBで前記基本噴射量を増量補正する。
【0037】
【発明の効果】
低温始動時にはポート壁面だけでなくシリンダ内壁にも燃料が付着するのに、このシリンダ内壁に付着する壁流燃料について考慮していないのでは、そのシリンダ内壁に付着する壁流燃料の分がエラーとなって空燃比の理論空燃比への制御性が落ちるのであるが、第1の発明では、ポート壁面およびシリンダ内壁に付着する壁流燃料を考慮して過渡補正量を演算するので、低温始動時にシリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在する場合でも、空燃比の理論空燃比への制御性が向上する。
また、始動初回の燃料噴射時においてエンジンの状態検出に信憑性が乏しいときは、始動初回のシリンダ内とポート部の各付着速度が実際と大きく異なる場合が考えられるが、第1の発明では、始動初回の噴射時のみ燃料噴射量と水温に基づいて各付着速度を演算するので、始動初回にもシリンダ内とポート部の各付着速度を実際に近づけることができる。
【0038】
第2の発明では、ポート壁面に付着する壁流燃料だけなく、シリンダ内壁に付着する壁流燃料をも対象にして始動時燃料モデルを作り、これを理論的に解いて得られた過渡補正量KATHOSの式にしたがって、壁流燃料に関する補正量を求めているので、過渡補正量を精度良く求めることができる。
【0040】
シリンダ内付着量とポート部付着量の初期値を0としてよいのは、前回のエンジン運転時にエンジンの暖機が完了しており(このときシリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在しない)、かつ前回のエンジン停止後の放置時間が充分なとき(このときポート壁面に付着する壁流燃料が存在しない)である。したがって、前回のエンジン運転時にエンジンの暖機が完了する前にエンジンを停止したときにもシリンダ内付着量に初期値の0を入れたり、ポート壁面に付着する壁流燃料が存在している状態で再始動するようなときにもポート部付着量に初期値の0を入れたのでは、シリンダ内壁やポート壁面に残存する壁流燃料の分だけ壁流燃料の量と変化の見積もりに誤差が生じてくるのであるが、第3の発明では、シリンダ内壁やポート壁面に壁流燃料が残存していても、今回の始動当初から壁流燃料の量と変化の見積もりに誤差が生じてくることがない。
【0041】
第5の発明では、シリンダ内に吸入された燃料のうち気化が不十分で燃焼に寄与しない分(未燃分)があっても理論空燃比の混合気が得られる。
【0042】
第6の発明では、未燃分があるときでも、シリンダ内付着速度を演算する際に用いるシリンダ内付着量とポート部付着速度を演算する際に用いるシリンダ内付着量とを精度良く与えることができる。
【0043】
第7の発明では、シリンダ内壁に付着する壁流燃料が排気行程で排出されずに、あるいはオイル溶解分として排出されずに次サイクルまで残存する場合でも、シリンダ内付着速度を演算する際に用いるシリンダ内付着量を精度良く与えることができる。
【0044】
第8と第9の各発明では、燃焼安定性から要求される空燃比(理論空燃比よりもリッチ側の値)となるようにシリンダ空気量相当の燃料噴射量または基本噴射量を増量補正するので、低温始動時に燃焼速度が低下しても安定した燃焼が得られる。
【0045】
【発明の実施の形態】
図1において、1はエンジン本体で、吸入空気はエアクリーナから吸気通路2を通ってシリンダ3に供給される。燃料は、運転条件に応じて所定の空燃比となるようにコントロールユニット11よりの噴射信号に基づき燃料噴射弁4からエンジンの吸気ポート2aに向けて噴射される。
【0046】
コントロールユニット11にはクランク角センサ5からのRef信号(4気筒では180°ごと、6気筒では120°ごとに発生)と1°信号、エアフローメータ6からの吸入空気量信号、水温センサ7からの冷却水温信号等が入力され、これらに基づいて基本噴射パルス幅TP0を算出するとともに、排気通路8の三元触媒(図示しない)の上流側に設置したO2センサ9からの空燃比(酸素濃度)信号に基づいて空燃比のフィードバック制御を行うほか、壁流燃料に関する補正を行う。
【0047】
コントロールユニット11ではまた、未燃分補正と安定性補正を行う。シリンダ3内に吸入された燃料のうち気化が不十分で燃焼に寄与しない燃料(未燃分)があり、この未燃分だけ増量補正するようにしたのが未燃分補正である。また、低温時の燃焼速度の低下により理論空燃比では安定した燃焼が得られない場合があるので、燃焼安定性から要求される空燃比(理論空燃比よりもリッチ側の値)となるように燃料増量するのが安定性補正である。なお、未燃分補正については特願平8−173803号に、また安定性補正については特願平7−55890号に詳しい説明がある。
【0048】
さて、特に燃焼の不安定な低温始動時には多めの燃料噴射量を設定しなければならないのであるが、始動時の燃料噴射量を始動時水温や始動時吸気温に応じて設定する従来装置では、シリンダ空気量に影響を与える大気圧やコンプレッション圧力等の始動条件が異なっても同じ量の燃料噴射量しか設定されないため、始動時の空燃比が理論空燃比を外れて過剰にリッチとなることがある。たとえば、始動時水温や始動時吸気温に応じた始動時の燃料噴射量を平地(標高0m)の大気圧状態でマッチングした場合に、高地(たとえば標高3000m)で始動を行うときは、もともと多めの燃料噴射量に対して大気圧の低下分だけシリンダ空気量が減少するので、始動時の空燃比が理論空燃比を外れて過剰にリッチとなってしまうのである。
【0049】
一方、低温始動時にはポート壁面に付着する壁流燃料だけでなくシリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在する。しかしながら、従来装置(たとえば特開平3−134237号公報参照)では、このシリンダ内壁に付着する壁流燃料についてまでは考慮していないので、空燃比の始動時の目標値(理論空燃比)への制御性に改善の余地が残っている。
【0050】
そこで本発明は、シリンダ空気量に基づいて始動時の燃料噴射量を演算するとともに、シリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在すると推定されるあいだはポート壁面だけでなくシリンダ内壁にも付着する壁流燃料を考慮して過渡補正量を演算する。
【0051】
コントロールユニット2で実行されるこの発明の制御の内容を、以下のフローチャートにしたがって説明する。
【0052】
図2のフローチャートは、シリンダ空気量相当の燃料噴射パルス幅TPを演算するためのもので、一定時間毎(たとえば4ms毎)に実行する。ただし、始動時の燃料噴射量に限って別のフローにより演算される従来装置と相違して、本発明ではクランキング時(始動時)から図2によりTPを演算する。
【0053】
ステップ1では始動時であるかどうかをスタータースイッチ(図2、図1ではSt/Swで略記)からの信号により判定する。スタータースイッチがONのとき(始動時)はステップ2に進み、エンジン回転数の読み込みが可能かどうかを判断する。Ref信号間の時間を計測し、その計測時間よりエンジン回転数を演算しているので、始動時には2回目のRef信号が入力するまで回転数の読み込みができないからである。したがって、始動時に2回目のRef信号が入力するまでは回転数の読み込みが不可能であると判断し、ステップ3、4、5に進む。ステップ3〜5は始動時かつ2回目のRef信号が入力するまでの操作である。ステップ3では、始動時水温TWINTより図3を内容とするテーブルを検索してシリンダ空気量相当の燃料噴射パルス幅の初期値TP100を求め、これをステップ4においてTPに移す。TP100は、充填効率ηcを100%としたときのシリンダ空気量相当の燃料噴射パルス幅である。
【0054】
詳述すると、シリンダ空気量Ga[kg/サイクル]は
Ga=ηc×Ve×ρa …(1)
ただし、Ve:行程容積[m3/サイクル]
ρa:空気密度[kg/m3]
の式により求めることができ、これは
TP=K0×Ga …(2)
K0:パルス幅換算のための定数[ms/kg]
の式よりシリンダ空気量相当の燃料噴射パルス幅TP[ms/サイクル]に換算することができる。なお、GaやTPの単位の1サイクル当たりは、1気筒の1回の吸気行程当たりのことである。
【0055】
ここで、(1)式のηcが100%のときのシリンダ空気量相当の燃料噴射パルス幅をTP100[ms/サイクル]とおけば、(1)、(2)式より
TP100=K0×Ve×ρa …(3)
の式が得られる。(3)式のK0、Veは一定値、ρaは温度の関数であるから、TP100は始動時水温TWINTの関数となる。そこで、図3に示したようにTWINTをパラメータとしてTP100のテーブルを予め作成してあるわけである。
【0056】
TP100をTPの初期値とするのは次の理由からである。エンジン回転数が低くかつシリンダ3への間欠的な吸気により脈動する空気量が若干の位相差を伴いつつエアフローメータ6で検出される始動クランキング時に回転数とエアフローメータ検出値から、通常時(始動後)と同じに基本噴射パルス幅TP0を演算すると、TP0がエアフローメータ検出値と同じように振動波形となり、さらに始動時に2回目のRef信号が入力するまで回転数が不明であるので、始動時に2回目のRef信号が入力する前にはなんらかの回転数初期値を用いてTP0を演算せざるを得ない。つまり、始動時に2回目のRef信号が入力する前は、不確かな回転数初期値を用いてTP0を演算して用いるより、充填効率を100%としてTPを演算したほうが後述するTPエラーが小さくなるため、本実施形態では回転数の検出が可能となる前は始動時水温で決まるTP100をTPの初期値として用いるようにしているのである。
【0057】
ステップ5ではTP100の値をさらにメモリのTP(old)に移す。TP(old)はTPの前回値を格納しておくためのものである。
【0058】
これに対して、始動時に回転数の読み込みが可能となったときは、ステップ2よりステップ6、7、8、9に進む。つまり、ステップ6〜9はスタータースイッチONかつ2回目のRef信号の入力時よりスタータースイッチがONよりOFFに切換わる直前まで(始動時かつ回転数の読み込みが可能のとき)の操作である。ただし2回目のRef信号の入力と同時にエンジン回転数が演算されるものとする。
【0059】
ステップ6では、エンジン回転数Neとエアフローメータにより検出される吸入空気量Gaとから
TP0=K×Ga/Ne …(4)
ただし、K:定数
の式により基本噴射パルス幅TP0を計算する。
【0060】
ここで、MPI(マルチポイントインジェクション)かつシーケンシャル噴射方式の場合で考えると、TP0は
であり、この(5)式においてK0×60/2=Kとおくことで(4)式が得られるのである。
【0061】
ステップ7では始動クランキング中における基本噴射パルス幅TP0の平滑化係数DUMPを演算し、このDUMPを用い、ステップ8において
TP=DUMP×TP0+(1−DUMP)×TP(old) …(6)
ただし、TP(old):TPの前回値
の式によりシリンダ空気量相当の燃料噴射パルス幅TPを更新する。
【0062】
(4)式により演算される基本噴射パルス幅TP0は振動波形であるためこのままでは燃料噴射パルス幅として用いることができないので、この吸気振動の影響を抑制するため、(6)式により平滑化処理を行うわけである。
【0063】
この場合、(6)式のDUMPの値は、エンジン安定性から決まるTPの要求変動率に基づいて定める。たとえば、TP変動率とエンジン安定性との間にはおよそ図4の関係があり、エンジン安定性を許容範囲内に収めるためにはTP変動率を図示の基準レベル以下にする必要があるので、TP変動率がこの基準レベル以下になるようにフィルターゲイン(つまり平滑化係数)を定めるのである。なお、後述する加重平均係数FLOADとの関係では、FLOADのうちTP0を平滑化する機能だけを取り出したものがDUMPに相当する。
【0064】
ステップ9では次回演算のためTPの値をメモリのTP(old)に移しておく。なお、ステップ5においてTP100をTP(old)に移していることより、上記(6)式におけるTP(old)の初期値はTP100である。
【0065】
一方、スタータースイッチがOFFのとき(始動完了後)はステップ1よりステップ10、11、12、13に進む。
【0066】
ステップ10〜13は従来と同じである。ステップ10ではエンジン回転数Neとエアフローメータで検出される吸入空気量Gaから
TP0=K×Ga/Ne …(7)
の式により基本パルス幅TP0を求め、ステップ11では回転数と負荷(たとえばTP)から図5を内容とするマップを検索して加重平均係数FLOADを求める。ステップ12では
TP=FLOAD×TP0+(1−FLOAD)×TP(old)…(8)
ただし、TP(old):TPの前回値
の式によりシリンダ空気量相当の燃料噴射パルスTPを更新する。ステップ13では次回演算のためTPの値をメモリのTP(old)に移しておく。
【0067】
(8)式の加重平均係数FLOADには定常時に基本噴射パルス幅TP0を平滑化する機能と、過渡時に吸気系容積による位相差(エアフローメータで検出される空気量よりもシリンダ空気量のほうが位相が遅れる)を補正するための機能がある。ステップ7のDUMPとの関係では、FLOADのうちTP0を平滑化する機能だけを取り出したものがDUMPになるわけである。
【0068】
なお、(8)式のTP(old)の初期値は、スタータースイッチがONに切換わる直前に上記(6)式で更新されたTPの値である。
【0069】
図6は平地(標高0m)の大気圧状態でのTP100を用いて図2のルーチンによりTPを演算した場合に、高地(たとえば標高3000m)での影響がTPエラーにどの程度出るのかを示した実験データである。ただし、TPエラーは
TPエラー[%]=100−(TP/TPr)×100 …(9)
ただし、TPr:真のシリンダ空気量から決まるシリンダ空気量相当の燃
料噴射パルス幅
の式で与えられる値である。
【0070】
図6より平地大気圧状態のとき初期エラーはほとんどない(ただし、そのごは基本噴射パルス幅TP0の変動に伴い加重平均処理だけでは消すことができない変動分が残っている)。ところが、高地での大気密度が平地より約30%小さくなるため、平地大気圧状態でのTP初期値(=TP100)を高地で用いたのでは、40%以上ものTPエラーが生じ、そのごはエアフローメータで検出された真の空気量をもとにTPを演算するため、時間経過とともに徐々にTPエラーが小さくなっている。このように、平地大気圧状態でのTP100を始動時のTP初期値として設定したとき、高地始動時での初期エラーが大きくなるのであるが、高地始動時にTPエラーがほぼ安定するまでの時間が約1秒であることを考えると、始動時噴射量全体に対して殆ど影響することはないと考えられる。
【0071】
図7のフローチャートは目標燃空比相当量TFBYAを演算するためのもので、図2とは独立に10ms毎に実行する。
【0072】
ステップ21では、冷却水温TWと始動後時間TASより図8を内容とするマップを検索して未燃分補正率Kubを、またステップ22では冷却水温TWから図9を内容とするテーブルを検索して安定性補正率KSTBをそれぞれ求め、ステップ23において
TFBYA=(1+Kub)×KSTB …(10)
の式により目標燃空比相当量TFBYAを計算する。
【0073】
ここで、シリンダ3内に吸入された燃料のうち気化が不十分で燃焼に寄与しない燃料パーセント(たとえばピストンリングからクランクケース内に流れこみオイルに溶けこむ燃料や燃焼されずにそのまま排出されるHCがある)を未燃分といい、この未燃分により理論空燃比よりもリーン側の空燃比となる。そこで、(10)式のKubによりこの未燃分だけ燃料を増量補正するわけである。未燃分の量に影響する燃料と空気の混合状態は、一般に吸気ポート2a壁面や吸気バルブ表面の各温度、シリンダ3の壁温等により決まり、これらの温度は、冷却水温TWと始動後時間TASにより推定できるので、Kubの特性を図8としたものである。また、低温時には燃焼速度の低下から理論空燃比では安定した燃焼が得られない場合があり、燃焼安定性から要求される空燃比(理論空燃比よりもリッチ側の値)に設定するための増量補正率が(10)式のKSTBである。
【0074】
たとえば、図20は低温始動より空燃比フィードバック制御が開始される前の様子を示し、同図において、KubとKSTBはずっと働いている(冷却水温の上昇とともに減少してゆく)。
【0075】
図10のフローチャートは過渡補正値KATHOSを演算するためのもので、図2、図7とは独立に10ms毎に実行する。ただし、KATHOSの演算には目標燃空比相当量TFBYAが必要となるので、図7の後に図10を実行する。また、TPもKATHOSの演算に必要となるが、図2の演算周期のほうが図10の演算周期より短いので、図10の演算タイミングではTPはすでに演算されている。
【0076】
なお、燃料供給だけについていえば、エンジン始動時における理論空燃比からのずれは、MPIの場合、吸気ポート2a壁面(吸気バルブ表面を含む)に付着し、液状のまま壁面を伝ってシリンダ3へと流れ込む、いわゆる壁流燃料の量的変化に起因するものであり、この壁流燃料による過不足分を過渡補正量Kathosとして燃料補正を行うものが公知である(たとえば特開平3−134237号公報参照)。
【0077】
本発明では、この壁流燃料について、吸気ポート2a壁面に付着する壁流燃料に加えて、シリンダ3内壁に付着する壁流燃料についても新たに考慮するので、吸気ポート2a壁面に付着する壁流燃料についての値であるときは「ポート部」を、これに対してシリンダ3内壁に付着する壁流燃料についての値であるときは「シリンダ内」を名称の前に付けて両者を区別する。また、従来より壁流燃料を扱う際の変数として平衡付着量MFH、付着倍率MFHTVO、分量割合KMF、付着速度VMF、付着量MFなどが知られており、これらはもともと吸気ポート壁面に付着する壁流燃料についての値であるため、そのまま吸気ポート壁面に付着する壁流燃料についての変数として使用し、シリンダ内壁に付着する壁流燃料については、別の記号を用いる(シリンダ内平衡付着量をMFCH、シリンダ内付着倍率をMFCHTV、シリンダ内分量割合をKMFC、シリンダ内付着速度をVMFC、シリンダ内付着量をMFCとする)。
【0078】
なお、MPI、シーケンシャル噴射で考えると、実際の現象としては、1気筒毎に独立に状態量(壁流量)が決まるので、1サイクル(エンジン2回転)毎の変化量を演算する必要がある。しかしながら、演算負荷やメモリの節約等の理由によりSPIと同様に、各気筒を区別することなく全気筒分の状態量として扱う。したがって、Ref信号の入力毎(4気筒の場合、半回転毎)の変化量を演算している。全気筒分状態量として扱うことによる誤差はわずかであることは確認済みである。
【0079】
ステップ31では、シリンダ内付着量MFC(後述する図18により演算される)をみてシリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在するかどうかを判定する。ここで、冷間始動直後はシリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在し、始動後の時間が経過するとともに減少し、やがてなくなるため、このシリンダ内壁に付着する壁流燃料の予測値であるMFCは低温始動直後に正の値をもち、始動よりの時間経過とともに減少し、やがて0になる。したがって、MFC>0のときはシリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在すると判断してステップ32、33、34、35、36、37、38に進む。つまり、ステップ32〜38はシリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在するときにKATHOSを演算するための操作である。
【0080】
ステップ32では、TP(図2によりすでに得ている)とTFBYA(図7によりすでに得ている)を用いて
MFCH=MFCHTV×TP×TFBYA …(11)
ただし、FCHTV:シリンダ内付着倍率
の式によりシリンダ内平衡付着量MFCHを計算する。
【0081】
ここで、MFCHTVは、単位シリンダ空気量相当燃料噴射パルス幅当たりかつ全気筒分のシリンダ内平衡付着量のことで、冷却水温TWから図11を内容とするテーブルを検索して求める。MFCHTVをTWに応じて求めるのは、後述するポート部付着倍率MFHTVOと同様に、温度の影響が非常に大きいからである。
【0082】
また、MFCHTVは、後述するMFHTVOと同様に、目標燃空比相当量TFBYA=1.0に対するマッチングデータであり、シリンダ内平衡付着量MFCHはTFBYAにほぼ比例することから、(11)式に示したように、TFBYA=1.0に対する値(MFCHTV×TP)をTFBYA倍することによって、そのときのTFBYAに対応して過不足なくシリンダ内平衡付着量MFCHを与えるのである。
【0083】
ステップ33では冷却水温TWと始動後時間TASから図12を内容とするマップを検索してシリンダ内分量割合KMFCを求める。KMFCは、後述するポート部分量割合KMFと同様に、シリンダ内平衡付着量MFCHに対して現時点でのシリンダ内付着量MFCが1サイクル当たり(4気筒でエンジン半回転毎)にどの程度の割合で接近するのかの割合を表す係数である。
【0084】
このようにして求めたMFCH、KMFCと、後述する図18により演算されるシリンダ内付着量MFCとを用い、ステップ34において、
VMFC=MFCH−(C×Kub+1)×MFC×KMFC…(12)
ただし、C:未燃分のシリンダ内残存率
の式によりシリンダ内付着速度VMFCを計算する。
【0085】
ここで、Cはシリンダ内壁に付着する壁流燃料が排気行程で排出されずに、あるいはオイル溶解分として排出されずに次サイクルまで残存する率を表す。このCはシリンダ内壁温の影響が大きいため、冷却水温TWと始動後時間TASから図13を内容とするマップを検索して求める。
【0086】
なお、(12)式は、すぐ後で述べる(14)、(15)式とともに、始動時燃料モデルを用いて理論的に求めたもので、これらの式がどのようにして得られるかは、後で詳述する。
【0087】
ステップ32〜34がシリンダ内壁に付着する壁流燃料に関する値を求めたのに対して、ステップ35〜37はポート部に付着する壁流燃料に関する値を求める部分である。まず、ステップ35では、ステップ32と同様にTP(図2によりすでに得ている)とTFBYA(図7によりすでに得ている)を用いて
MFH=MFHTVO×TP×TFBYA …(13)
ただし、MFHTVO:ポート部付着倍率
の式によりポート部平衡付着量MFHを計算する。
【0088】
ここで、(13)式のポート部付着倍率MFHTVOは、単位シリンダ空気量相当燃料噴射パルス幅当たり、かつ全気筒分のポート部平衡付着量のことであり、冷却水温TWから図14を内容とするテーブルを検索して求める。
【0089】
また、MFHTVOは、目標燃空比相当量TFBYA=1.0に対するマッチングデータであり、ポート部平衡付着量MFHはTFBYAにほぼ比例することから、(13)式に示したように、TFBYA=1.0に対する値(MFHTVO×TP)をTFBYA倍することによって、そのときのTFBYAに対応して過不足なくポート部平衡付着量MFHを与えるのである。
【0090】
ステップ36では、ポート部平衡付着量MFHに対して、現時点でのポート部付着量(予測変数)MFが1サイクル当たり(4気筒でエンジン半回転毎)にどの程度の割合で接近するかの割合を表す係数(つまり分量割合)KMFをステップ36において負荷(TP)と始動後時間TASから図15を内容とするマップを検索して求める。
【0091】
このようにして求めたMFH、KMF、前述のKMFC(ステップ33ですでに得ている)と、後述する図18により演算されるポート部付着量MF、シリンダ内付着量MFCとを用い、ステップ37において、
ただし、ABYOMA:係数
の式よりポート部付着速度(1サイクル当たりのポート部付着量のこと)VMFを計算する。
【0092】
(14)式のABYOMAは低周波分の応答ゲインAに基づく数値であり、ポート部壁温の影響が大きいため、冷却水温TWから図16を内容とするテーブルを検索して求める。
【0093】
このVMF、前述のKMFC(ステップ33ですでに得ている)と、後述する図18により演算されるシリンダ内付着量MFCとを用い、ステップ38では
KATHOS=VMF−(1+Kub)×MFC×KMFC…(15)
の式により過渡補正量KATHOSを計算する。
【0094】
一方、シリンダ内付着量MFCが存在しなくなった(つまりMFC=0)ときは、ステップ31よりステップ39、40、41、42に進む。ステップ39〜42は従来と同様である。ステップ39、40ではステップ35、36と同じにポート部平衡付着量MFHとポート部分量割合KMFを求め、これらと後述する図18により演算されるポート部付着量MFとを用い、ステップ41において
VMF=(MFH−MF)×KMF …(16)
の式によりポート部付着速度VMFを計算し、この値をステップ42でKATHOSに入れる。
【0095】
このようにして、図10のルーチンによれば、冷間始動直後でシリンダ内壁に付着する壁流燃料の影響が大きい場合からその影響がなくなるときまで、シリンダ内とポート部に付着する各壁流燃料量を精度良く予測し、その各壁流燃料の変化と量に応じた過渡補正量KATHOSを設定するので、冷間始動直後のような壁流燃料の状態変化が激しい場合でも空燃比を理論空燃比へと最適に保つことができる。
【0096】
図17のフローチャートは同期燃料噴射パルス幅Tiを演算するためのもので、図2、図7、図10と独立に10ms毎に実行する。ただし、Tiの演算には目標燃空比相当量TFBYA、過渡補正量KATHOSが必要となるので、図7、図10の後に続けて実行する。TPもTiの演算に必要となるが、図2の演算周期のほうが図17の演算周期より短いので、図17の演算タイミングではTPはすでに演算されている。
【0097】
ステップ51ではすでに得ているTP、TFBYA、KATHOSを用いて
ただし、α:空燃比フィードバック補正係数
KBLRC:空燃比学習値
Ts:無効噴射パルス幅
の式により燃料噴射弁に与える同期燃料噴射パルス幅Tiを計算する。
【0098】
(17)式の空燃比フィードバック補正係数αは制御空燃比が理論空燃比を中心とするいわゆるウィンドウに収まるようにO2センサ出力に基づいて演算される値、KBLRCはαに基づいて演算される空燃比学習値、無効噴射パルス幅Tsは噴射弁が噴射信号を受けてから実際に開弁するまでの作動遅れを補償するための値である。また、(17)式はシーケンシャル噴射(1気筒当たりエンジン2回転に1回)の場合の式であるため、数字の2が入っている。なお、O2センサが活性化するまではαがクランプされている(α=1.0)。
【0099】
ただし、従来と相違して、始動時も(17)式でTiが演算されるのであり、従来装置のように始動時の噴射量を演算するフローが別にあるわけではない。
【0100】
次に、図18のフローチャートは噴射タイミングに同期(具体的にはRef信号同期)したフローチャートである。
【0101】
所定の各気筒の噴射タイミングになると、ステップ61において噴射を実行したあと、ステップ62でMFCよりシリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在するかどうかを判定する。MFC>0(シリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在する)のときはステップ63に進んで、後述するポート部付着量MFと同様に、上記の(12)式で得たシリンダ内付着速度VMFCを用いて次回の処理時に用いるシリンダ内付着量MFCを、
MFC=MFC-1Ref+VMFC …(18)
ただし、MFC-1Ref:1噴射前(1サイクル前)のMFC
の式により更新し、このMFCを次回噴射タイミングでの処理のため、ステップ64においてメモリのMFC-1Refに移しておく。
【0102】
(18)式中の右辺のMFC-1Refは前回噴射終了時(4気筒でエンジン半回転前)の全気筒分のシリンダ内付着量であり、これに今回の噴射時に加えられるシリンダ内付着速度VMFCを加算した値が今回の噴射終了時点での全気筒分のシリンダ内付着量MFC(左辺のMFC)となる。この左辺の全気筒分のシリンダ内付着量MFCの値が次回のVMFCの演算時に用いられる。(18)式で左辺と右辺にシリンダ内付着量が出てくるのは、全気筒分のシリンダ内付着量を各気筒を区別することなく噴射タイミング毎にサイクリックに更新していく構成であるからである。
【0103】
ステップ65では上記の(14)式で得たポート部付着速度VMFを用いて次回の処理時に用いるポート部付着量MFを、
MF=MF-1Ref+VMF …(19)
ただし、MF-1Ref:1噴射前(1サイクル前)のMF
の式により更新し、このMFを次回噴射タイミングでの処理のため、ステップ66においてメモリのMF-1Refに移しておく。
【0104】
(19)式中の右辺のMF-1Refは前回噴射終了時(4気筒でエンジン半回転前)の全気筒分のポート部付着量であり、これに今回の噴射時に加えられるポート部付着速度VMFを加算した値が今回の噴射終了時点での全気筒分のポート部付着量MF(左辺のMF)となる。この左辺の全気筒分のポート部付着量MFの値が次回のVMFの演算時に用いられる。(19)式で左辺と右辺にシリンダ内付着量が出てくるのも、全気筒分のポート部付着量を各気筒を区別することなく噴射タイミング毎にサイクリックに更新していく構成であるからである。
【0105】
シリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在しないときは、ステップ62よりステップ63、64を飛ばして、ステップ65、66の操作を実行する。このときは従来と同じである。
【0106】
図19のフローチャートは、シリンダ内付着量MFC、ポート部付着量MFの初期設定を行うためのもので、イグニッションスイッチがOFFよりONへの切換時に1度だけ実行する。
【0107】
ステップ71、72ではシリンダ内付着量MFCとポート部付着量MFにそれぞれ初期値の0を入れる。ただし、MFCとMFの初期値を0としてよいのは、前回のエンジン運転時にエンジンの暖機が完了しており(このときシリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在しない)、かつ前回のエンジン停止後の放置時間が充分なとき(このときポート壁面に付着する壁流燃料が存在しない)である。
【0108】
したがって、前回のエンジン運転時にエンジンの暖機が完了する前にエンジンを停止したときにもシリンダ内付着量MFCに初期値の0を入れたり、ポート壁面に付着する壁流燃料が存在している状態で再始動するようなときにもポート部付着量MFに初期値の0を入れたのでは、シリンダ内壁やポート壁面に残存する壁流燃料の分だけ壁流燃料の量と変化の見積もりに誤差が生じてくる。しかしながら、シリンダ壁面やポート壁面に残存する壁流燃料の量は前回停止時の冷却水温に基づいて推定することができるので、その推定した値をMFCやMFの初期値として与えればよい。
【0109】
上記の(12)、(14)、(15)式は始動時燃料モデルを用いて理論的に求めたもので、これらの式をどのようにして得たのかを次に述べる。
【0110】
燃料状態式を、
ただし、Gfst(k):kサイクル目の定常噴射量(理論空燃比時)
Gftr(k):kサイクル目の過渡補正量
Gwf(k−1):k−1サイクル目のポート部壁流燃料量
Gwfc(k−1):k−1サイクル目のシリンダ内壁流燃料
量
Tfa:定常時の空燃比補正率
Kub:未燃分補正率
A:低周波分の1サイクル目の応答ゲイン
C:未燃分燃料の筒内残存率
τp:ポート部壁流燃料の時定数
τc:シリンダ内壁流燃料の時定数
Δt:制御周期
の各基本式で表す。
【0111】
なお、1−▲1▼〜1−▲5▼式においてGfi(k)、Gfst(k)、Gftr(k)、Gfc(k)、Gwf(k−1)、Gfbn(k)、Gwfc(k−1)、ΔGwf(k)、ΔGwfc(k)の単位は1サイクル当たり(4気筒ではエンジン半回転毎)の燃料質量である。また、低周波分の1サイクル目の応答ゲインAは特願平8−173802号で詳細に開示しているが、本発明とは直接関係しないのでその説明は省略する。
【0112】
ここで、シリンダ内燃焼寄与燃料量を要求値通りとするための過渡補正量と壁流変化量を考える。
【0113】
Gfbn(k)=Gfst(k)×Tfa …2−▲1▼
2−▲1▼式に1−▲1▼式、1−▲2▼式、1−▲3▼式を代入して過渡補正量Gftr(k)について整理すると、
の式が得られる。
【0114】
1−▲4▼式に1−▲1▼式、2−▲2▼式を代入してポート部壁流変化量ΔGwf(k)について整理すると、
の式が得られる。
【0115】
1−▲5▼式に1−▲1▼式、1−▲2▼式、2−▲2▼式を代入してシリンダ内壁流変化量ΔGwfc(k)について整理すると、
の式が得られる。
【0116】
2−▲4▼式に対して、
Gfst(k)→TP(k)、
Tfa×(1+Kub)→TFBYA、
Gfi(n)→Ti(k)、
{C×Kub/(1+Kub)}×(τc/Δt)→MFCHTV、
MFCHTV×TP(k)×TFBYA→MFCH(k)、
Gwfc(k)→MFC(k)、
ΔGwfc(k)→VMFC(k)、
Δt/τc→KMFC
の置き換えを行うと、2−▲4▼式は
となる。
【0117】
2−▲3▼式に対して
A×τP/Δt→MFHTVO、
MFHTVO×TP(k)×TFBYA→MFH(k)、
Gwf(k)→MF(k)、
ΔGwf(k)→VMF(k)、
(Δt/τP)/(1−A)→KMF
A/(1−A)→ABYOMA、
1/A→ONEBYA、
の置き換えを行うと、2−▲3▼式は、
となる。
【0118】
2−▲2▼式に対して
Gftr(k)→KATHOS(k)
の置き換えを行うと、2−▲2▼式は、
となる。
【0119】
このようにして、(12)、(14)、(15)式に対応する式とともに、(18)、(19)式が得られた。
【0120】
なお、上記の(12)、(14)式から類推すれば、
となり、MFCのサイクル数が3−▲1▼、3−▲7▼式と、またMFのサイクル数が3−▲7▼式と異なり、1だけずれているようにも思えるが、上記の(12)、(14)式は演算ルーチン上における式、3−▲1▼、3−▲7▼式は理論式であるため、両者が矛盾するものではない。
【0121】
ここで、本発明の実施形態の作用を説明する。
【0122】
始動完了の前にエアフローメータにより検出される空気量Gaに基づいて燃料噴射パルス幅を演算することのない従来例に対して、実施形態では、始動時かつ回転数の読み込みが可能となったタイミングより始動完了までのあいだも、エアフローメータにより検出される空気量Gaに基づいてシリンダ空気量相当の燃料噴射パルス幅TPを求めている。
【0123】
ここで、ホットワイヤー式(あるいはベーン式、カルマン渦式)のエアフローメータにより検出される空気量は質量流量であり、大気圧やコンプレッション圧力等の始動条件が異なっても、その異なる条件での質量流量が検出される。たとえば大気圧が低下する高地でのGaは低地より小さくなる。そして、この小さくなるGaに比例してTPを定めているので、高地ではTPも大気圧の低下分だけ低地より小さくなる。つまり、低地と高地とで空気量と燃料量の割合が変わることがないため、もともと多めの燃料を供給する低温始動時に、大気圧やコンプレッション圧力等の始動条件が異なることがあっても、低温始動時の空燃比が過剰にリッチになることがないのである。
【0124】
ただし、始動クランキング時はエンジン回転数が低くかつシリンダ3への間欠的な吸気により脈動する空気量が若干の位相差を伴いつつエアフローメータ6で検出されるため、回転数とエアフローメータ検出値から、通常時(始動後)と同じに基本噴射パルス幅TP0を演算したのでは、TP0がエアフローメータ検出値と同じように振動波形となり、好ましくないのであるが、実施形態では、脈動するTP0に対して平滑化係数DUMPにより平滑化を行った値をシリンダ空気量相当の燃料噴射パルス幅TPとしているので、始動クランキング時の吸気脈動の影響を抑制することができる。
【0125】
実施形態ではまた、始動時かつ回転数の読み込みが不可能のあいだは充填効率が100%のときのシリンダ空気量相当の燃料噴射パルス幅TP100を用いるので、始動時に2回目のRef信号が入力する前に不確かな回転数初期値を用いて燃料噴射量を演算して用いる従来装置の場合より、TPエラーを小さくすることができる。
【0126】
ただし、高地では大気密度が平地より約30%小さくなるため、平地大気圧状態でのTP初期値(=TP100)を高地始動時にも用いたのでは、40%以上ものTPエラーが生じるのであるが(実験結果)、高地始動時にTPエラーがほぼ安定するまでの時間が約1秒であることを考えると、始動時噴射量全体に対して殆ど影響することはない。
【0127】
実施形態ではまた、未燃分補正を行うので、シリンダ内に吸入された燃料のうち気化が不十分で燃焼に寄与しない分(つまり未燃分)があっても理論空燃比の混合気が得られる。さらに燃焼安定性から要求される空燃比(理論空燃比よりもリッチ側の値)となるようにTPを増量補正するので、低温始動時に燃焼速度が低下しても安定した燃焼が得られる。
【0128】
実施形態ではその一方で、ポート壁面に付着する壁流燃料だけなく、シリンダ内壁に付着する壁流燃料をも対象にして始動時燃料モデルを作り、これを理論的に解いて得られた過渡補正量KATHOSの式にしたがって、壁流燃料に関する補正量を求めているので、低温始動時にシリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在する場合でも、始動時の空燃比の理論空燃比への制御性が向上する。
【0129】
このようにして、実施形態では、始動時にシリンダ空気量に見合ったTPと、混合状態や燃焼安定性から要求される空燃比に設定するための定常空燃比補正率である目標燃空比相当量TFBYAと、ポート壁面のほかシリンダ内壁に付着する壁流燃料をも考慮した過渡補正量KATHOSとで始動時の燃料噴射量が最適に設定されることから、図20に示したように、エンジン要求値に対して過不足のない空燃比の実現が可能となっている。なお、図20は、実施形態による始動時の各変数TP、TFBYA、KATHOS、Ti、Neおよび空燃比の変化を示している。
【0130】
なお、図20において現行固定パルス幅として示したもの(破線参照)は、
(1)クランキング時に
TIST=TST×KNST×KTST …(22)
ただし、TST:始動時基本噴射パルス幅
KNST:回転数補正係数
KTST:時間補正係数
の式により始動時燃料噴射パルス幅TIST計算し、
(2)イグニッションスイッチがスタート位置からON位置になったとき(始動完了後)
ただし、α:空燃比フィードバック補正係数
KBLRC:空燃比学習値
Ts:無効噴射パルス幅
の式により同期燃料噴射パルス幅Tiを計算するようにした場合のものである。なお、(22)式のTSTは水温により定まり低水温側で大きくなる値、KNSTは回転数により定まり高回転側で減少する値、KTSTは始動後時間により定まり始動後時間とともに減少する値である。また、(23)式のKATHOSの演算に使用される平衡付着量MFHは
MFH=MFHTVO×TP …(24)
の式により計算される値であり、実施形態のMFHの計算式である上記の(13)式と相違する(TFBYAをもパラメータとして演算するものでない)。
【0131】
実施形態では、シリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在するときの付着倍率(MFCHTV、MFHTVO)を冷却水温TWから、またシリンダ内壁に付着する壁流燃料が存在するときの分量割合(KMFC、KMF)を冷却水温と始動後時間TASからそれぞれ演算しているが、さらにエンジン負荷や回転数をもパラメータとして演算するようにしてもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態の制御システム図である。
【図2】シリンダ空気量相当の燃料噴射パルス幅TPの演算を説明するためのフローチャートである。
【図3】TP100の内容を示す特性図である。
【図4】TP変動率とエンジン安定性の関係を示す図である。
【図5】加重平均係数FLOADの内容を示す特性図である。
【図6】平地始動のときと高地始動のときの各TPエラーの特性図である。
【図7】目標燃空比相当量TFBYAの演算を説明するためのフローチャートである。
【図8】未燃分補正率Kubの内容を示す特性図である。
【図9】安定性補正率KSTBの内容を示す特性図である。
【図10】過渡補正量KATHOSの演算を説明するためのフローチャートである。
【図11】シリンダ内付着倍率MFCHTVの内容を示す特性図である。
【図12】シリンダ内分量割合KMFCの内容を示す特性図である。
【図13】未燃分のシリンダ内残存率Cの内容を示す特性図である。
【図14】ポート部付着倍率MFHTVOの内容を示す特性図である。
【図15】ポート部分量割合KMFの内容を示す特性図である。
【図16】係数ABYOMAの内容を示す特性図である。
【図17】同期燃料噴射パルス幅Tiの演算を説明するためのフローチャートである。
【図18】噴射タイミング毎に実行するフローチャートである。
【図19】付着量の初期設定を説明するためのフローチャートである。
【図20】第1実施形態の作用を説明するための波形図である。
【図21】第1の発明のクレーム対応図である。
【図22】 第2の発明のクレーム対応図である。
【図23】 第4の発明のクレーム対応図である。
【符号の説明】
1 エンジン本体
2a 吸気ポート
3 シリンダ
4 燃料噴射弁
5 クランク角センサ
6 エアフローメータ
11 コントロールユニット
Claims (9)
- 運転条件に応じた基本噴射量を演算する手段と、
シリンダ内付着速度を含むシリンダ内壁に付着する壁流燃料についての変数と、ポート部付着速度を含むポート壁面に付着する壁流燃料についての変数とを別個に導入し、これらの変数に基づいてポート壁面およびシリンダ内壁に付着する壁流燃料に関する過渡補正量を演算する手段と、
この過渡補正量で前記基本噴射量を補正して燃料噴射量を求める手段と、
この噴射量の燃料をエンジンに供給する手段と
を設け、
始動初回の燃料噴射時だけ始動初回の燃料噴射量と始動時水温に基づいて前記過渡補正量の演算に用いるシリンダ内付着速度およびポート部付着速度を別々に演算する
ことを特徴とするエンジンの空燃比制御装置。 - シリンダ壁面に付着する壁流燃料が存在するときに前記過渡補正量を演算する手段は、少なくともエンジン温度に基づいてポート部平衡付着量を演算する手段と、エンジン温度と始動後時間に基づいてポート部分量割合を演算する手段と、前記ポート部平衡付着量とその時点でのポート部付着量との差を演算する手段と、少なくともエンジン温度に基づいてシリンダ内平衡付着量を演算する手段と、エンジン温度と始動後時間に基づいてシリンダ内分量割合を演算する手段と、前記シリンダ内平衡付着量とその時点でのシリンダ内付着量との差を演算する手段と、このシリンダ内付着量差と前記シリンダ内分量割合とに基づいてシリンダ内付着速度を演算する手段と、燃料噴射に同期して今回噴射時の前記シリンダ内付着速度を今回噴射前の前記シリンダ内付着量に加算することによりシリンダ内付着量を更新する手段と、前記ポート部付着量差、前記ポート部分量割合、前記シリンダ内平衡付着量および前記シリンダ内分量割合に基づいてポート部付着速度を演算する手段と、燃料噴射に同期して今回噴射時の前記ポート部付着速度を今回噴射前の前記ポート部付着量に加算することによりポート部付着量を更新する手段と、前記ポート部付着速度、前記シリンダ内付着量および前記シリンダ内分量割合に基づいて過渡補正量を演算する手段とからなることを特徴とする請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前回エンジン停止時の冷却水温に基づいて前記シリンダ内付着量および前記ポート部付着量の残存量を推定し、その推定値を前記シリンダ内付着量および前記ポート部付着量の初期値として設定することを特徴とする請求項2に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- シリンダ壁面に付着する壁流燃料が存在しなくなったときに前記過渡補正量を演算する手段は、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいてポート部平衡付着量を演算する手段と、エンジン負荷、エンジン回転数および温度に基づいてポート部分量割合を演算する手段と、前記ポート部平衡付着量とその時点でのポート部付着量との差を演算する手段と、このポート部付着量差と前記ポート部分量割合とに基づいてポート部付着速度を演算する手段と、燃料噴射に同期して今回噴射時の前記ポート部付着速度を今回噴射前の前記ポート部付着量に加算することによりポート部付着量を更新する手段と、前記ポート部付着速度を前記過渡補正量として演算する手段とからなることを特徴とする請求項2または3に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 未燃分補正率で前記基本噴射量を増量補正することを特徴とする請求項1から4までのいずれか一つに記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記シリンダ内付着速度を演算する際に用いるシリンダ内付着量を前記未燃分補正率で増量補正しかつ前記ポート部付着速度を演算する際に用いるシリンダ内付着量を前記未燃分補正率で減量補正することを特徴とする請求項2、3、4、5のいずれか一つに記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 前記シリンダ内付着量を増量補正する際の未燃分補正率を未燃分のシリンダ内残存率で補正することを特徴とする請求項6に記載のエンジンの空燃比制御装置。
- 充填効率が100%のときのシリンダ空気量を演算する手段と、
このシリンダ空気量を燃料噴射量単位に換算する手段と、
この換算した値シリンダ空気量相当の燃料噴射量として設定する手段と
を備え、
安定性補正率で前記シリンダ空気量相当の燃料噴射量を増量補正することを特徴とする請求項6または7に記載のエンジンの空燃比制御装置。 - 安定性補正率で前記基本噴射量を増量補正することを特徴とする請求項1から4まで、5のいずれか一つに記載のエンジンの空燃比制御装置。
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