JP3758307B2 - 制動装置用摩擦部材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、ディスク式ブレーキやドラム式ブレーキ等の制動装置に用いられるディスクロータやブレーキドラム等の回転放熱板と制動時に接触するようになっている制動装置用摩擦部材及びその製造方法に関し、特に、回転放熱板に発生する直径節モードの重根を分離でき、所謂ブレーキ鳴きを低減できるようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】
ディスク式ブレーキにおいては、車輪と一体に回転するディスクロータの表面にブレーキパッドのライニングが接触して摩擦熱を発生させる際に、それらディスクロータ及びライニング間の摩擦面に生じる摩擦振動がディスクロータを振動させ、ディスクロータの固有振動を励振する結果、不快なブレーキ鳴きを発生させることがある。
【0003】
そして、ディスクロータのような円板状の物体は、その表面が曲げ振動する例えば直径2節モード(図9(a)参照)、直径3節モード(図9(b)参照)、直径4節モード(図9(c)参照)、直径5節モード(図9(d)参照)、直径6節モード(図9(e)参照)等の振動モード(直径節モード)を呈する固有モードを有するが、その固有モードは、ディスクロータが回転中心軸を中心とした対称性のある物体であることから、重根となる。なお、“重根が存在する”とは、図9(a)〜(e)に示すような一の固有モードの他に、周方向に1/4周期だけずれた同形状の他の固有モードが同一周波数に存在すると考えられる、ということである。
【0004】
つまり、ディスクロータの表面をこれを制止させた状態で加振すると、周方向のいずれの位置を加振点としても、ディスクロータが回転中心軸を中心とした対称性のある物体であるため、その加振点が常に腹となる応答モードが表れるから、図9(a)〜(e)に一点鎖線で示すような直径に沿った軸を考えれば、その軸がディスクロータに対して回転していると考えることができる。すると、振動的には、図9(a)〜(e)に示すような固有モードと、これから1/4周期だけずれた同形状の固有モードという二つの固有モードが存在すると考えることができ、その場合を重根が存在すると考えるのである。
【0005】
そして、実際のディスクロータにおける制動時と同様に、ディスクロータを回転させた状態でその表面を加振すると、加振点が腹となる応答モードは、ディスクロータに対してではなく、恰も空間に静止しているかのように観測される(かかるモードを、空間固定モードと称する。)。このような空間固定モードが表れるということは、常に固有モードの腹が加振点となることを意味するから、そのモードを最も効率良く励振することになり、音響放射効率が最大となるため、実際のブレーキ鳴きの主原因となることが多いのである。
【0006】
なお、このような現象は、ディスク式ブレーキに限ったものではなく、車輪と一体に回転する回転放熱板としてのブレーキドラムの内周面にライニングを押し付けるようになっているドラム式ブレーキにおいても、ブレーキドラムが回転中心軸を中心とした対称性のある円筒であることから、同様に生じる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、ブレーキ鳴きの主原因となる空間固定モードに関しては、「日本機械学会論文集(C編)55巻512号(1984−4)」の「論文No.88-0622A 」にも紹介されている。また、かかる論文では、ディスクロータに質量を付加して重根を分離することがブレーキ鳴きを低減するのに有効であるということも報告されている。
【0008】
確かに、ディスクロータに適宜質量を付加して重根を分離すれば、ブレーキ鳴きを低減することは可能ではあるが、ディスクロータに質量を付加するとそれだけ車両のバネ下質量が増加することになるし、また、内部に冷却風を通過させるベンチホールを有するベンチレーテッドロータにあっては、付加された質量によって冷却風の流れが変わって所望の冷却効果が得られない可能性もある。従って、ディスクロータに質量を付加することは、重根を分離するという点に関しては有効な解決策ではあるが、他の不具合を招く可能性があった。
【0009】
本発明は、このような従来の技術が有する未解決の課題に着目してなされたものであって、回転放熱板に発生する直径節モードの重根を分離できて所謂ブレーキ鳴きを低減できる制動装置用摩擦部材及びその製造方法を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、制動時に制動装置用の回転放熱板と接触する制動装置用摩擦部材であって、前記回転放熱板と接触する部分は、前記回転放熱板の回転方向に並ぶ複数の摩擦領域に分割されているとともに、前記回転放熱板の回転中心軸を円の中心とした場合に、前記複数の摩擦領域のうち隣り合った二つの摩擦領域のそれぞれの前記回転方向の幅の中心位置同士を結ぶ円弧に対する中心角θ1 と、前記摩擦領域の前記回転方向の両端部間を結ぶ円弧に対する中心角θ2 とは、下記(1)、(2)式を満足するようになっている。
【0012】
θ1 =π/n [rad] ……(1)
3π/20n<θ2 <17π/20n [rad] ……(2)
但し、πは円周率、nは2以上の整数である。
【0013】
また、請求項2に係る発明は、上記請求項1に係る発明である制動装置用摩擦部材において、前記nを3以上10以下の整数とした。
そして、請求項3に係る発明は、上記請求項1又は2に係る発明である制動装置用摩擦部材において、前記角度θ2 は、下記(3)式を満足するようになっている。
【0014】
θ2 =π/2n [rad] ……(3)
さらに、請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3に係る発明である制動装置用摩擦部材において、前記隣り合った二つの摩擦領域の少なくとも一方の前記回転方向の両端部のうち、それら摩擦領域同士が対向する側とは逆側の端部を、前記中心角θ1 の整数倍の角度分だけ前記回転方向に延長する延長領域を備えるものである。
【0016】
また、上記目的を達成するために、請求項5に係る発明は、制動時に制動装置用の回転放熱板と接触する制動装置用摩擦部材の製造方法であって、前記回転放熱板と接触する部分を、前記回転放熱板の回転方向に並ぶ複数の摩擦領域に分割するとともに、制動時に前記回転放熱板に発生する直径節モードのうち重根分離を望む直径節モードの次数をn、円周率をπとし、前記回転放熱板の回転中心軸を円の中心としたときに、前記複数の摩擦領域のうち隣り合った二つの摩擦領域のそれぞれの前記回転方向の幅の中心位置同士を結ぶ円弧に対する中心角θ1 と、前記摩擦領域の前記回転方向の両端部間を結ぶ円弧に対する中心角θ2 とが、上記(1)、(2)式を満足するように前記摩擦領域を形成するようになっている。
【0017】
また、請求項6に係る発明は、上記請求項5に係る発明である制動装置用摩擦部材の製造方法において、前記nを3以上10以下の整数とした。
そして、請求項7に係る発明は、上記請求項5又は6に係る発明である制動装置用摩擦部材において、前記角度θ2 は、上記(3)式を満足するようになっている。
【0018】
さらに、請求項8に係る発明は、上記請求項5〜7に係る発明である制動装置用摩擦部材において、前記隣り合った二つの摩擦領域の少なくとも一方の前記回転方向の両端部のうち、それら摩擦領域同士が対向する側とは逆側の端部を、前記中心角θ1 の整数倍の角度分だけ前記回転方向に延長する延長領域を形成するようになっている。
【0019】
ここで、制動装置としての例えばディスク式ブレーキにおいて、制動時に回転放熱板としてのディスクロータ表裏面に制動装置用摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられると、それらブレーキパッドの剛性がディスクロータの固有振動を抑制するように働くから、そのブレーキパッドの剛性分がディスクロータの剛性に付加されたことになって、直径節モードの固有値(共振周波数)が上昇する。また、図9(a)〜(e)に示すような直径節モードと称される振動モードの重根は互いの位相が1/4波長ずれている。よって、その1/4波長ずれた重根のそれぞれに対してブレーキパッドの剛性が均等に働かなければ、上昇した固有値の間にずれが生じ、結果として重根が分離されたことになる。
【0020】
しかしながら、上記のように重根が分離されても、固有値のずれ(共振周波数の差)が小さければ、分離された重根同士がブレーキパッド及びディスクロータ間の摩擦により連成振動を起こし、やはり空間固定モードを発生させることが判った。因みに、本発明者等が精査したところによれば、図10に示すように、上記のようなブレーキパッドをディスクロータに押し付けたことによる共振周波数の差Δfは、直径節モードの次数nが高次側で小さくなる(特に、直径8節モードにおいては重根分離が殆ど期待できない)ことが確認された。これは、次数nが高くなると、直径節モードの波長に対するブレーキパッドのロータ回転方向の幅が長くなって、重根の各固有値に対するブレーキパッドの剛性の影響差が小さくなるからである。要するに、ブレーキパッドのロータ回転方向の幅が、ある直径節モードの1/2波長の整数倍の長さに近い程、その直径節モードに対する重根分離作用が小さくなる。
【0022】
これに対し、請求項1に係る発明によれば、各摩擦領域の配置関係や幅方向寸法が上記(1)、(2)式を満足するため、各摩擦領域の剛性の影響は、任意の直径節モードに含まれる二つのモードの一方に対しては大きく作用し他方に対しては小さく作用するようになり、それら二つのモードの一方の共振周波数は比較的大きく上昇し、他方の共振周波数は大きく上昇はしない。その結果、二つのモードの共振周波数の差が大きくなり、重根の分離作用が顕著になる。
【0023】
また、請求項2に係る発明によれば、制動装置用摩擦部材を現実的な大きさとすることができる。
そして、請求項3に係る発明によれば、上記請求項1に係る発明の作用をより顕著にすることができる。つまり、任意の直径節モードに含まれる二つのモードの共振周波数の差がより大きくなり、重根の分離作用がさらに顕著になる。
【0024】
さらに、請求項4に係る発明によれば、上記請求項1〜3に係る発明の作用を低減させることなく、制動装置用摩擦部材と回転放熱板との接触面積を大きくできるから、nを比較的大きな値に設定したとしても、回転放熱板と接触する部分の面積が極端に小さくなることを避けることができる。
【0025】
そして、請求項5、6、7、8に係る発明によれば、それぞれ上記請求項1、2、3、4に係る発明である制動装置用摩擦部材を製造することができる。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、回転放熱板と接触する部分を適宜分割するようにしたため、車輪と一体に回転する回転放熱板に質量を付加しなくても済むから、バネ下質量を増大する等の不具合を招くことなく、二つのモードの共振周波数の差が大きくなって重根の分離作用が顕著になり、ブレーキ鳴きを低減することができるという効果がある。
【0027】
特に、請求項4及び8に係る発明によれば、上記効果に加えて、nを比較的大きな値に設定したとしても、回転放熱板と接触する部分の面積が極端に小さくなることを避けることができ、十分な制動力を発生させるのに好適な構造が得られるという効果がある。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1乃至図3は本発明の第1の実施の形態の構成を示す図であって、この実施の形態は、制動装置としてのディスク式ブレーキに用いられるブレーキパッドに本発明を適用したものである。
【0029】
即ち、ディスク式ブレーキは、図1に概略構成を断面で示すように、車輪と一体に回転する制動装置用の回転放熱板としてのベンチレーテッドロータ11を、制動装置用摩擦部材としての一対のブレーキパッド12で挟み込み、そのブレーキパッド12のライニング12aとベンチレーテッドロータ11との接触部分の摩擦力を利用して制動を行う装置である。具体的には、車体に固定された図示しないトルクメンバには、ベンチレーテッドロータ11を両側から挟み込むように一対のブレーキパッド12が取り付けられている。ただし、ブレーキパッド12は、ベンチレーテッドロータ11の軸方向(図1左右方向)に進退可能にトルクメンバに支持され、そのトルクメンバには、一方のブレーキパッド12の背面に対向する基部13aと、他方のブレーキパッド12の背面に対向する爪部13bと、これら基部13a及び爪部13b間を連結する連結部13cとから構成されたシリンダボディ13が、スライドピン等を介して軸方向に進退可能に取り付けられている。そして、そのシリンダボディ13の基部13a内には、一方のブレーキパッド12の背面をベンチレーテッドロータ11に向けて押圧可能なピストン14を保持するシリンダ孔15が形成されていて、ピストン14は、図示しないマスタシリンダからシリンダ孔15に供給される油圧により進退するようになっている。
【0030】
従って、制動時に、シリンダ孔15内に油圧が供給されると、ピストン14がベンチレーテッドロータ11側に移動するから、一方のブレーキパッド12がピストン14によって押圧されてベンチレーテッドロータ11側に移動し、そのブレーキパッド12のライニング12aがベンチレーテッドロータ11の一方の面に接触する。そして、ピストン14がさらにベンチレーテッドロータ11側に移動すると、ブレーキパッド12を押圧する力の反力により、シリンダボディ13がピストン14の移動方向とは逆方向に移動するから、その爪部13bがベンチレーテッドロータ11側に移動し、他方のブレーキパッド12が爪部13bによって押圧されてベンチレーテッドロータ11側に移動し、そのブレーキパッド12のライニング12aがベンチレーテッドロータ11の他方の面に接触する。このような動作は、極短い時間内に行われるため、ブレーキペダルを踏み込むのと殆ど同時に一対のブレーキパッド12によってベンチレーテッドロータ11が両側から挟み込まれ、制動が行われるのである。
【0031】
なお、ベンチレーテッドロータ11内には、その斜視図である図2にも示すように、内周面11a(図2には図示せず)及び外周面11d間を貫通するように放射状に延びた複数のベンチホール11Aが形成されている。また、ベンチレーテッドロータ11の内周面11aに連続して一方の面側に同軸に突出した中空の円筒部11Bの端面には、車輪側に取り付ける際に利用される中央貫通孔11b及び複数のボルト孔11cが形成されている。
【0032】
そして、各ブレーキパッド12をライニング12a側から見た正面図である図3に示すように、本実施の形態にあっては、裏金12bに固定されるブレーキパッド12のライニング12aは、ベンチレーテッドロータ11の回転方向(図3の略左右方向、以下、ロータ回転方向と称す。)に並ぶように、二つの扇型の摩擦領域12a1 、12a2 に分割されている。なお、摩擦領域12a1 及び12a2 は、例えば裏金12b表面上に図5に示すような扇型のライニング12aを形成した後に、その中央部を切削等によって取り除くことにより形成される。
【0033】
具体的には、摩擦領域12a1 及び12b1 は、同形状であって、ベンチレーテッドロータ11の回転中心軸Cを中心とする扇型に形成されている。そして、回転中心軸Cを円の中心とした場合に、それら摩擦領域12a1 及び12a2 のロータ回転方向の幅の中心位置同士を結ぶ円弧に対する中心角θ1 は、下記の(4)式を満足するようになっており、また、各摩擦領域12a1 及び12a2 のロータ回転方向の両端部間を結ぶ円弧に対する中心角θ2 は、下記の(5)式を満足するようになっている。
【0034】
θ1 =π/8 [rad] ……(4)
θ2 =π/16 [rad] ……(5)
つまり、中心角θ1 は、次数nを8とした場合の上記(1)式を満足するようになっており、中心角θ2 は、次数nを8とした場合の上記(3)式を満足する(従って、上記(2)式を満足する)ようになっている。
【0035】
本実施の形態にあっては、各ブレーキパッド12のライニング12aを上記のような摩擦領域12a1 及び12a2 に分割しているため、特に直径8節モードに着目すると、図4に示すように、摩擦領域12a1 及び12a2 は重根の一方のモードM1 に対しては腹を中心に作用するから、モードM1 の共振周波数を大きく上昇させるが、摩擦領域12a1 及び12a2 は重根の他方のモードM2 に対しては節を中心に作用するため共振周波数の上昇は小さい。その結果、直径8節モード等について重根が分離されたことになって、ブレーキ鳴きを低減することができる。以下、このような作用効果が発揮される点について詳述する。
【0036】
即ち、直径節モードに対するブレーキパッド12の剛性の影響は、ディスクロータ11に対するライニング12aの反力として考えることができる。
そこで、直径n節モードのディスクロータ11の表面(摩擦摺動面)の振幅をAとすれば、重根のそれぞれの変位x1 、x2 は、下記式で表される。
【0037】
x1 =A・ sin(n・θ) ……(6)
x2 =A・ cos(n・θ) ……(7)
このとき、図5に示すように、ライニング12aを分割しなかった場合のそのライニング12a全体の幅に対応する中心角をθ3 、ライニング12aの単位中心角度当たりの剛性をKとすれば、二つのブレーキパッド12についてそれぞれのライニング12aを摩擦領域12a1 、12a2 に分割した場合のライニング12aの反力による重根の共振周波数の差Δfa と、いずれのブレーキパッド12についてもライニング12aを分割していない場合のライニング12aの反力による重根の共振周波数の差Δfb とは、それぞれ下記(8)、(9)、(10)式のように表される。なお、(8)式の積分の範囲は0〜θ2 であり、(9)、(10)式の積分の範囲は0〜θ3 である。
【0038】
そして、差Δfb の最大値Δfbmaxは、
となる。この結果、差Δfa が差Δfb よりも大きくなる(Δfa −Δfbmax>0)ことが保証される中心角θ2 の範囲は、およそ、
3π/20n<θ2 <17π/20n [rad]
となり、上記(2)式と同じ結果が得られる。これを図示すると、図6に示すようになり、差Δfa と差Δfb との差が最も大きくなるのは、上記(3)式を満足するときであることが判る。
【0039】
つまり、本実施の形態にあっては、中心角θ1 が上記(4)式を満足しているため、直径8節モードに着目すると、図4に示したように、摩擦領域12a1 及び12a2 は、重根の一方のモードM1 に対しては腹を中心に作用し、重根の他方のモードM2 に対しては節を中心に作用するようになっているし、また、中心角θ2 が上記(5)式を満足するため、直径8節モードに関しては重根分離作用が最も顕著になるのである。その結果、ブレーキ鳴きを確実に低減することができるのである。
【0040】
図7及び図8は本発明の第2の実施の形態を示す図であって、本実施の形態も上記第1の実施の形態と同様に、ディスク式ブレーキに用いられるブレーキパッドに本発明を適用したものである。なお、上記第1の実施の形態と同様の構成には、同じ符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0041】
即ち、各ブレーキパッド12は、上記第1の実施の形態と同様に、ライニング12aと裏金12bとから構成されるとともに、ライニング12aは、二つの摩擦領域12a1 及び12a2 を有している。そして、本実施の形態では、摩擦領域12a2 を、摩擦領域12a1 と対向する側とは逆側に延長する延長領域としての第3の摩擦領域12a3 が設けられている。
【0042】
実際には摩擦領域12a3 は摩擦領域12a2 と一体となっているが、摩擦領域12a2 の中心角θ2 とすれば、その残りの部分(中心角θ4 の部分)が摩擦領域12a3 を構成することになる。なお、一方のブレーキパッド12については、第3の摩擦領域12a3 は摩擦領域12a2 を延長するように形成されているが、他方のブレーキパッド12については、図8中の下部に示すように、摩擦領域12a1 を延長するように第3の摩擦領域12a3 が形成されている。これは、ディスクロータ11を挟んで両ブレーキパッド12のライニング12の形状を対称形にすることにより、ディスクロータ11両面に均等にライニング12を押し付けるようにするためである。
【0043】
そして、上記第1の実施の形態と同様に、摩擦領域12a1 及び12a2 のロータ回転方向の幅の中心位置同士を結ぶ円弧に対する中心角θ1 は上記(4)式を満足し、摩擦領域12a1 及び12a2 のロータ回転方向の両端部間を結ぶ円弧に対する中心角θ2 は上記(5)式を満足するようになっている。
【0044】
さらに、第3の摩擦領域12a3 のロータ回転方向の両端部間を結ぶ円弧に対する中心角θ4 は、直径8節モードの1/2波長に相当する中心角θ1 の1倍の角度になっている。つまり、中心角θ4 は、中心角θ1 の整数倍の角度となっている。
【0045】
このような構成であっても、中心角θ1 及びθ2 は上記第1の実施の形態と同じ角度に設定しているため、上記第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。この場合、第3の摩擦領域12a3 の作用が重根分離に影響を与えるようにも思えるが、かかる摩擦領域12a3 の中心角θ4 を直径8節モードの1/2波長の整数倍の角度としているため、摩擦領域12a3 の剛性はモードM1 及びM2 に等しく影響するため、それら各モードの共振周波数の上昇は、摩擦領域12a3 を有しない場合と同様になる。
【0046】
つまり、摩擦領域12a3 を設けた本実施の形態の構成であったとしても、上記第1の実施の形態と同様に、直径8節モードに関しては、差Δfa と差Δfb との差は最大になって、重根を確実に分離することができるのである。
【0047】
そして、摩擦領域12a3 を設けた分だけディスクロータ11とライニング12との摺接面積が大きくなるから、次数nを例えば8等の比較的大きな値に設定したとしても、必要な摺動面積を確保することが可能になる。
【0048】
なお、上記各実施の形態では、中心角θ1 及び中心角θ2 のそれぞれを、上記(4)、(5)式を満足するように設定しているが、これら中心角θ1 及びθ2 は各式を厳密に満足しなければならない訳ではなく、実質的に満足すれば十分な作用効果を奏することができる。特に、中心角θ2 に関しては、上記(2)式を満足すれば、ライニング12を摩擦領域12a1 及び12a2 に分割していない構造のブレーキパッド12を採用した場合に比べて、重根分離作用が良好になってブレーキ鳴きを低減できるという効果を奏することができる。
【0049】
また、上記各実施の形態では、次数nとして8を選択した場合について説明したが、この選択は任意であり、重根を分離したい直径節モードに応じて適宜選定すればよい。因みに、選択される次数nと、重根分離の効果が期待できる直径節モードとの関係は表1の通りである(○…効果有、×…効果無)から、この表1を参考に次数nを適宜選定すればよい。例えば、上記実施の形態のように次数nを8とすれば、1次、2次、6〜9次の直径節モードについて重根を分離できることになる。
【0050】
【表1】
【0051】
ただし、次数nを例えば2のように小さな値に設定すると、ライニング12の面積が極端に大きくなって、車両のスペース的な余裕から実現性が低い場合がある。逆に、次数nを例えば11以上の大きな値に設定すると、中心角θ2 が小さくなり、上記第1の実施の形態のような構成では摺動面積が極小さくなってしまう。従って、現実的には、次数nは3〜10の範囲で選定することが望ましいと言える。
【0052】
そして、上記各実施の形態では、ライニング12を二つの摩擦領域12a1 及び12a2 に分割した場合について説明したが、分割数はこれに限定されるものではなく、三つ以上に分割してもよい。
【0053】
また、上記第2の実施の形態では、延長領域としての第3の摩擦領域12a3 を摩擦領域12a1 及び12a2 のうちの一方についてのみ形成した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、摩擦領域12a1 及び12a2 の両方に摩擦領域12a3 を形成してもよい。
【0054】
そして、上記各実施の形態では、各摩擦領域12a1 〜12a3 を回転中心軸Cを中心とした正確な扇型に形成した場合について説明しているが、これらは厳密な扇型に形成しなくてもよい。しかし、上述の各実施の形態の作用効果をより確実に奏するためには、各摩擦領域12a1 〜12a3 を回転中心軸Cを中心とした扇型に形成することが望ましい。
【0055】
さらに、上記各実施の形態では、本発明に係る制動装置用摩擦部材をディスク式ブレーキのブレーキパッド12に適用した場合について説明したが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではなく、ドラム式ブレーキのブレーキシューに適用しても上記各実施の形態の場合と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ディスク式ブレーキの概略構成を示す断面図である。
【図2】ディスクロータの斜視図である。
【図3】第1の実施の形態におけるブレーキパッドの正面図である。
【図4】第1の実施の形態の作用を説明する説明図である。
【図5】ライニングを分割していないブレーキパッドの正面図である。
【図6】第1の実施の形態による効果が得られる範囲を示すグラフである。
【図7】第2の実施の形態におけるブレーキパッドの正面図である。
【図8】第2の実施の形態の作用を説明する説明図である。
【図9】ディスクロータの固有モードの説明図である。
【図10】通常のブレーキパッドをディスクロータに押し付けたことによる共振周波数の差Δfと直径節モードの次数nとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
11 ディスクロータ(回転放熱板)
12 ブレーキパッド(制動装置用摩擦部材)
12a ライニング(回転放熱板と接触する部分)
12a1 摩擦領域
12a2 摩擦領域
12a3 摩擦領域(延長領域)
12b 裏金
Claims (8)
- 制動時に制動装置用の回転放熱板と接触する制動装置用摩擦部材であって、
前記回転放熱板と接触する部分は、前記回転放熱板の回転方向に並ぶ複数の摩擦領域に分割されているとともに、
前記回転放熱板の回転中心軸を円の中心とした場合に、前記複数の摩擦領域のうち隣り合った二つの摩擦領域のそれぞれの前記回転方向の幅の中心位置同士を結ぶ円弧に対する中心角θ1 と、前記摩擦領域の前記回転方向の両端部間を結ぶ円弧に対する中心角θ2 とは、下記式を満足することを特徴とする制動装置用摩擦部材。
θ1 =π/n [rad]
3π/20n<θ2 <17π/20n [rad]
但し、πは円周率、nは2以上の整数である。 - 前記nは3以上10以下の整数である請求項1記載の制動装置用摩擦部材。
- 前記角度θ2 は、下記式を満足する請求項1又は2記載の制動装置用摩擦部材。
θ2 =π/2n [rad] - 前記隣り合った二つの摩擦領域の少なくとも一方の前記回転方向の両端部のうち、それら摩擦領域同士が対向する側とは逆側の端部を、前記中心角θ1 の整数倍の角度分だけ前記回転方向に延長する延長領域を備える請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の制動装置用摩擦部材。
- 制動時に制動装置用の回転放熱板と接触する制動装置用摩擦部材の製造方法であって、
前記回転放熱板と接触する部分を、前記回転放熱板の回転方向に並ぶ複数の摩擦領域に分割するとともに、
制動時に前記回転放熱板に発生する直径節モードのうち重根分離を望む直径節モードの次数をn、円周率をπとし、
前記回転放熱板の回転中心軸を円の中心としたときに、前記複数の摩擦領域のうち隣り合った二つの摩擦領域のそれぞれの前記回転方向の幅の中心位置同士を結ぶ円弧に対する中心角θ1 と、前記摩擦領域の前記回転方向の両端部間を結ぶ円弧に対する中心角θ2 とが、下記式を満足するように前記摩擦領域を形成することを特徴とする制動装置用摩擦部材の製造方法。
θ1 =π/n [rad]
3π/20n<θ2 <17π/20n [rad] - 前記nは3以上10以下の整数である請求項5記載の制動装置用摩擦部材の製造方法。
- 前記角度θ2 は、下記式を満足する請求項5又は6記載の制動装置用摩擦部材の製造方法。
θ2 =π/2n [rad] - 前記隣り合った二つの摩擦領域の少なくとも一方の前記回転方向の両端部のうち、それら摩擦領域同士が対向する側とは逆側の端部を、前記中心角θ1 の整数倍の角度分だけ前記回転方向に延長する延長領域を形成するようになっている請求項5乃至請求項7のいずれかに記載の制動装置用摩擦部材の製造方法。
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