JP3756543B2 - 有機リン−ルテニウム錯体触媒成分の分離および再使用方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、有機リン−ルテニウム錯体を触媒とする有機カルボニル化合物の水素化反応生成液から、有機リン−ルテニウム錯体触媒成分を分離し、分離したルテニウム錯体を水素化反応に再使用する方法に関するものである。詳しくは、本発明は、第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体を触媒としてジカルボン酸又はその誘導体を水素化し、その反応生成液からルテニウム錯体及び/又は有機リン系化合物を分離し、分離したルテニウム錯体等を水素化反応に再使用する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
第3級有機リン系化合物を配位子として有する有機リン−ルテニウム錯体は、均一触媒反応による各種カルボニル化合物の水素化反応に使用されている。
このルテニウム錯体触媒は、化学的に比較的安定であり、反応生成物と触媒液とを蒸留により分離し、触媒液を反応域へ循環して再使用したり、あるいは反応生成物をガスストリッピングにより反応域から流出させて分離し、触媒液を反応域に残留させたままで連続的に反応を行わせることができる。しかしながら、これらの反応においては種々の高沸点副生物が生成することは避けられず、これらの反応を連続的に実施する場合には触媒液中に高沸点物質が蓄積するので、触媒液の一部を連続的に又は間欠的に反応系から抜き出すことが必要である。
【0003】
当然の事ながら、この抜き出した液にはルテニウムが含まれているため、廃棄するためにはその処理が必要となる。しかしながら、ルテニウムを含有する液は燃焼させると、有毒で腐食性の強いRuO4が生成するため、焼却処理は制限される。また、産業廃棄物処理業者等に処理を依頼すると、抜き出し液の質量見合いで費用がかかるため、量が多い場合経済的に不利になる。従って、この抜き出し液中のルテニウムを濃縮できれば、その経済的効果は非常に大きいといえる。さらには、もしこの抜き出し液から、ルテニウム錯体を効率よく回収でき、これを反応に再利用できれば、廃液処理にかかる負担を大幅に軽減できる上、経済的にも触媒費を大幅に減ずることができ、また排出するルテニウムの絶対量が減るので環境汚染防止の上からも好ましいと言え、その効果は絶大なものがある。しかし、そのためには、反応液から活性な形態を保持したまま錯体触媒を分離回収することが必要となる。
【0004】
従来、ロジウム等の第8族金属を分離回収する方法としては、強酸による抽出法(特公昭46ー43219号)、過酸化物による分解法(米国特許第3547964号、特開昭51ー63388号)等が知られているが、いずれの方法も酸を使用するため、装置材質の腐食の問題がある。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体を、有機カルボニル化合物の水素化反応生成液から、経済的に、且つ、効率よく回収し、さらにこの回収したルテニウム錯体を水素化反応に再利用する方法について鋭意検討した結果、水素化反応生成液から所望の生成物及び必要に応じ反応溶媒を除去して得られる触媒液を、塩基性物質を含む極性溶媒、或いは塩基性物質水溶液と非極性有機溶媒で抽出処理することにより、ルテニウム錯体及び/又は有機リン系化合物に富む有機相を回収し得ることを見いだした。また、このようにして回収されたルテニウム錯体は水素化反応に再利用することができ、特に無水コハク酸からγ−ブチロラクトンを効果的に製造することができることを見いだし本発明を達成した。
【0006】
即ち、本発明は、第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体を触媒として含む有機カルボニル化合物の水素化反応生成液からルテニウム錯体を効率よく経済的に回収し、且つ必要に応じてそれを水素化反応に再利用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体の存在下有機カルボニル化合物を水素化し、得られた反応液から目的生成物を必要に応じ反応溶媒と共に除去して得た触媒液を、塩基性物質を含む極性溶媒、或いは塩基性物質水溶液と非極性有機溶媒で抽出処理することにより、ルテニウム錯体及び/又は有機リン系化合物に富む有機相を回収し、更に該有機相を分取後、有機溶媒を留去してルテニウム錯体及び/又は有機リン系化合物を効率よく分離すること、並びにかくして得られたルテニウム錯体含有分離液を必要ならば酸で処理した後、水素化反応に供することよりなる有機リン−ルテニウム錯体触媒成分の分離及び再使用方法を要旨とするものである。
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、少なくとも1種の第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体を含む有機カルボニル化合物の水素化反応生成液から、ルテニウム錯体を濃縮分離し、必要に応じて分離回収したルテニウム錯体をその水素化反応に再利用するものであるが、この水素化反応としてはカルボニル化合物の水素化、例えば脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸無水物、脂肪族ジカルボン酸ジエステル等の水素化反応が挙げられる。
上記脂肪族ジカルボン酸としては、飽和及び/又は不飽和のジカルボン酸、例えば、マレイン酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、メチルコハク酸、グルタル酸等が挙げられる。また、上記脂肪族ジカルボン酸無水物としては、飽和及び/又は不飽和のジカルボン酸無水物、例えば、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水メチルコハク酸、無水グルタル酸等が挙げられる。さらに、上記脂肪族ジカルボン酸ジエステルとしては上記脂肪族ジカルボン酸のジアルキルエステル、例えばマレイン酸ジメチル、フマル酸ジエチル、コハク酸ジ−n−ブチル等が挙げられる。γ−ブチロラクトンを目的とする場合には、無水マレイン酸、無水コハク酸、マレイン酸、コハク酸、フマル酸が挙げられる。
本発明は、特に第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体を均一系触媒として使用し、無水コハク酸を水素化してγ−ブチロラクトンを生成する反応液からルテニウム錯体を濃縮分離し、再度水素化反応に使用する場合に有効である。
【0009】
本発明に用いるルテニウム錯体触媒としては、少なくとも1種の第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体であれば特に限定されないが、例えば無水コハク酸を水素化してγ−ブチロラクトンを生成する触媒は、通常、(イ)ルテニウム、(ロ)第3級有機ホスフィン及び(ハ)pka値が2より小さい酸の共役塩基を含有し、場合により中性配位子を含有しているルテニウム錯体であり、その調製に用いる各成分の具体例は次の通りである。
【0010】
(イ)ルテニウム;
ルテニウムとしては、金属ルテニウム及びルテニウム化合物の何れも使用することができる。ルテニウム化合物としては、ルテニウムの酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、無機酸塩、有機酸塩又は錯化合物が使用され、具体的には、例えば二酸化ルテニウム、四酸化ルテニウム、二水酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、ヨウ化ルテニウム、硝酸ルテニウム、酢酸ルテニウム、トリス(アセチルアセトン)ルテニウム、ヘキサクロロルテニウム酸ナトリウム、テトラカルボニルルテニウム酸ジカリウム、ペンタカルボニルルテニウム、シクロペンタジエニルジカルボニルルテニウム、ジブロモトリカルボニルルテニウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ヒドリドルテニウム、ビス(トリ−n−ブチルホスフィン)トリカルボニルルテニウム、ドデカカルボニルトリルテニウム、テトラヒドリドデカカルボニルテトラルテニウム、オクタデカカルボニルヘキサルテニウム酸ジセシウム、ウンデカカルボニルヒドリドトリルテニウム酸テトラフェニルホスホニウム等が挙げられる。これ等の金属ルテニウム及びルテニウム化合物の使用量は、水素化反応溶液1リットル中のルテニウムとして0.0001〜100ミリモル、好ましくは、0.001〜10ミリモルである。
【0011】
(ロ)第3級有機ホスフィン;
有機ホスフィンは、主触媒である(イ)のルテニウムの電子状態を制御したり、ルテニウムの活性状態を安定化するのに寄与するものと考えられる。
有機ホスフィンの具体例としては、トリ−n−オクチルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、ジメチル−n−オクチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン類、トリシクロヘキシルホスフィンのようなトリシクロアルキルホスフィン類、トリフェニルホスフィンのようなトリアリールホスフィン類、ジメチルフェニルホスフィンのようなアルキルアリールホスフィン類、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンのような多官能性ホスフィン類が挙げられる。中でもトリアルキルホスフィンが好ましく、更にはトリオクチルホスフィンが好ましい。有機ホスフィンの使用量は通常、ルテニウム1モルに対して、3〜1000モル程度、好ましくは5〜100モルである。すなわち、ルテニウム1モルに対し有機ホスフィンは通常3モル配位すると考えられるが、本発明では配位に必要なモル数以上の有機ホスフィンを用いるのが好ましい。反応系内でのこの過剰の有機ホスフィンの存在形態は必ずしも明らかではないが、系内に存在する基質等と何等かの結合をしているものと推定される。また、有機ホスフィンは、それ自体単独で、あるいはルテニウム触媒との複合体の形で反応系に供給することができる。
【0012】
(ハ)pka値が2より小さい酸の共役塩基;
pka値が2より小さい酸の共役塩基は、ルテニウム触媒の付加的促進剤として作用し、触媒調製中又は反応系中において、pka値が2より小さい酸の共役塩基を生成するものであればよく、その供給形態としては、pka値が2より小さいブレンステッド酸又はその各種の塩等が用いられる。具体的には例えば、硫酸、亜硫酸、硝酸、亜硝酸、過塩素酸、燐酸、ホウフッ化水素酸、ヘキサフルオロ燐酸、タングステン酸、燐モリブデン酸、燐タングステン酸、シリコンタングステン酸、ポリケイ酸、フルオロスルホン酸等の無機酸類、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ラウリルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸、あるいはこれ等の酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が挙げられる。また、これ等の酸の共役塩基が反応系で生成すると考えられる酸誘導体、例えば酸ハロゲン化物、酸無水物、エステル、酸アミド等の形で添加しても同様の効果が得られる。
これ等の酸又はその塩の使用量は、ルテニウム1モルに対して0.01〜1000モル、好ましくは0.1〜100モル、更に好ましくは0.5〜20モルの範囲である。
【0013】
上記(イ)、(ロ)及び(ハ)の成分の外に、場合により含有することができる中性配位子としては、水素;エチレン、プロピレン、ブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ブタジエン、シクロペンタジエン、シクロオクタジエン、ノルボナジエン等のオレフィン類;一酸化炭素、ジエチルエーテル、アニソール、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、シクロヘキサノン、プロピオン酸、カプロン酸、酪酸、安息香酸、酢酸エチル、酢酸アリル、安息香酸ベンジル、ステアリン酸ベンジル等の含酸素化合物;酸化窒素、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、シクロヘキシルイソニトリル、ブチルアミン、アニリン、トルイジン、トリエチルアミン、ピロール、ピリジン、N−メチルホルムアミド、アセトアミド、1,1,3,3−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン、カプロラクタム、ニトロメタン等の含窒素化合物;二硫化炭素、n−ブチルメルカプタン、チオフェノール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、チオフェン、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等の含硫黄化合物;トリブチルホスフィンオキシド、エチルジフェニルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド、ジエチルフェニルホスフィネート、ジフェニルメチルホスフィネート、ジフェニルエチルホスフィネート、o,o−ジメチルメチルホスホノチオレート、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の有機ホスフィン以外の含燐化合物が挙げられる。
【0014】
ルテニウム錯体触媒を用いる水素化反応において、原料物質自体を溶媒として反応を実施することができるが、反応の進行、反応物の処理操作を考慮し原料物質以外に他の溶媒を使用するのが有利である。
このような溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、アニソール、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、アセトフェノン等のケトン類、メタノール、エタノール,n−ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類;フェノール類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トルイル酸等のカルボン酸類;酢酸メチル、酢酸n−ブチル、安息香酸ベンジル等のエステル類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素;n−ヘキサン、n−オクタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素;ジクロロメタン、トリクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化炭化水素;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のカルボン酸アミド;ヘキサメチル燐酸トリアミド、N,N,N',N'-テトラエチルスルファミド等のその他のアミド類;N,N'-ジメチルイミダゾリドン、N,N,N,N-テトラメチル尿素等の尿素類;ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン等のスルホン類;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド等のスルホキシド類;γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類;トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグライム(テトラエチレングリコールジメチルエーテル)、18-クラウン−6等のポリエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート等の炭酸エステル類が挙げられる。
【0015】
この水素化反応を行うには、反応容器に原料物質並びに有機ホスフィンの濃度を予め調節した前記の触媒成分、必要により反応溶媒を含む触媒液を導入し、更に水素を通入する。水素は窒素あるいは二酸化炭素等の反応に不活性なガスで希釈されたものであってもよい。反応温度は、通常50〜250℃、好ましくは100〜250℃、さらに好ましくは150〜220℃である。反応系内の水素分圧は特に限られるものではないが、工業的実施上は通常0.1〜100kg/cm2、好ましくは1〜50kg/cm2である。反応生成液から蒸留、抽出等の通常の分離手段により目的生成物を分離する。
分離後の残留物は、その中に含まれる触媒組成濃度を定常的にチェックして、液中の有機ホスフィン濃度を常に前記の所定濃度に保持するように、循環過程において適宜有機ホスフィンを補給して反応器に循環する。
【0016】
本発明方法では、前記のような水素化反応生成液からルテニウム錯体を濃縮分離するが、まず反応生成液から目的生成物を分離し、さらに必要に応じ反応に使用した反応溶媒を留去し濃縮された触媒液を取得する。
反応液から溶媒を留去しておくと、次いで行われる抽出処理の際の分液性が良好となることが多い。特に、水素化反応において油水相溶性の溶媒を使用する場合には、予め溶媒を留去した後に抽出処理を行なわないと、分液が良好に行われない場合がある。従って、なるべく反応溶媒を除去してから抽出処理を行うのが好ましく、残存する有機溶媒の量が0〜20重量%、好ましくは、0〜10重量%、さらに好ましくは0〜5重量%となるように溶媒を留去する。
【0017】
反応液からの反応溶媒の留去は、通常の蒸留により行うことができ、溶媒の種類によっては、減圧蒸留を採用してもよい。いずれの方法においても液中に存在するルテニウム錯体の変性を防止するために、蒸留時の塔底温度を220℃以下に保ちながら行うことが好ましい。
次いで、得られた触媒液を塩基性物質を含んでいる極性溶媒、特に水溶液で処理する。この塩基性物質含有溶媒による処理は、反応液中に含まれている有機化合物の一部を極性溶媒に可溶、例えば水溶性の物質に変換して有機化合物を極性溶媒相に分配せしめ、主にルテニウム錯体を含む液相と分離することにある。
例えば、反応液中のカルボン酸等の有機酸は、塩基性物質と塩を形成して極性溶媒に可溶となり、ポリエステルなどの高沸点物質は加溶媒分解して極性のより高い物質となり、極性溶媒に可溶な物質に変換される。このようにしてこれらの有機化合物は塩基性物質を含む極性溶媒相に分配され、ルテニウム錯体含有相と分離することができる。
【0018】
本発明に使用される塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、トリエチルアミン、n−プロピルアミン等の有機アミン類及びアンモニアが挙げられるが、工業的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が簡便である。
塩基性物質の使用量は、水素化反応生成物の性質によって異なるが、目的生成物を分離後の反応液中に含まれている酸性物質を中和したり、ポリエステル等の高沸点物質を部分的または完全に加溶媒分解するのに必要な量である。高沸点物質の加溶媒分解はそのごく一部行うだけでも分解生成物は水溶性を発現し、ルテニウム錯体との分離に寄与する。他方、塩基性物質の使用量に特に上限は無いが、経済性、排水問題等の観点から、中和や加溶媒分解などの塩基性物質が消費される反応に必要な量であれば十分である。従って、通常、反応液中に含まれている溶質成分のうち塩基性物質と反応可能な官能基モル数の0.001〜10倍モル量、好ましくは0.01〜1.0倍モル量である。その際、塩基性物質と反応可能な官能基モル数は、反応液の中和滴定等により求めることができる。
【0019】
塩基性物質を溶解する極性溶媒としては、20℃における誘電率(ε)が15以上、好ましくは20以上であって、望ましくは沸点が50〜150℃の溶媒、例えば水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられるが、経済性及び安全性から水又は低級アルコールが好適に使用される。
塩基性物質の溶液で触媒液を処理する際の温度は、通常、0〜150℃、好ましくは20〜100℃の範囲から選ばれる。
塩基性物質含有溶液による触媒液の処理は、両者を十分接触させれば良く、通常攪伴下接触させる。攪伴時間は、塩基性物質との反応が終了し、分配平衡に達するまで行うのが好ましいが、その途中で打ち切ることもでき、通常10分〜5時間の範囲から適宜選定される。
【0020】
塩基性物質を水溶液として使用する場合は、ルテニウム錯体との分離効率を良くするために、水と分離する比較的低極性、つまり非極性有機溶媒が使用される。非極性有機溶媒としては、20℃における誘電率(ε)が6以下、好ましくは4以下の有機溶媒であって、その沸点が50〜200℃、好ましくは50〜150℃のもの、具体的には、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン(クメン)などの芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、プロピルエーテル、ブチルエーテル、エチルフェニルエーテル、メチルフェニルエーテル(アニソール)などのエーテル類、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサンなどのオキサン類、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素、ジクロロメタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素などである。
【0021】
触媒液を塩基性物質の水溶液と非極性有機溶媒とで処理する際の処理の順序は特に制限されず、1)触媒液をまず水溶液で処理した後、水相を除去し、残留物を有機溶媒で抽出するか、2)触媒液中に水溶液と有機溶媒とを同時に添加して抽出するかのいずれの方法も採用することができる。
触媒液を塩基性物質の極性溶媒溶液で処理する場合、攪伴後エマルジョンであった内容液は、塩基性物質の溶液相とそれに不溶なオイル相の2相に分液する。このうち、ルテニウム錯体は主にオイル相に分配され、極性溶媒相に分配されるルテニウム錯体はごくわずかである。典型的には90%以上のルテニウム錯体がオイル相に分配される。また、処理により遊離した有機リン系化合物のほとんどが、オイル相に分配される。
【0022】
特に、触媒液を塩基性物質水溶液と非極性有機溶媒とで同時に処理する場合は、攪拌後、エマルジョンであった内容液が有機溶媒相、水相及びそれに不溶なオイル相の3相に、または有機溶媒相と水相の2相に分液するのが見いだされる。このうち、ルテニウム錯体は、主に有機溶媒相に分配される。一方、水相及びオイル相に分配するルテニウム錯体はごく僅かしかなく、典型的な場合、90%以上の割合で有機溶媒相にルテニウム錯体を分配できる。
【0023】
また、処理により遊離した有機リン系化合物は、有機溶媒相或いは有機溶媒相とオイル相の両方にほぼ等量づつ分配される。
最後に得られた有機溶媒相から有機溶媒を留去すれば、ルテニウム錯体又は有機リン系化合物が高濃度に濃縮されたオイル状の残留物を得ることができる。
【0024】
この油状物にはルテニウム錯体が高濃度で含まれているので、これを水素化反応に循環使用出来れば工業的に極めて有用である。ところで、この様にして得られたルテニウム錯体が高濃度に濃縮された油状物には、高温の水素化反応条件下におくと配位子である有機リン系化合物(有機ホスフィン)を遊離する物質が含まれている。この物質は水素化反応液中には無く、ルテニウム錯体を塩基性物質で処理して濃縮分離する過程において有機ホスフィン誘導体から変性して生成したものと考えられる。従って、回分反応において、この回収されたルテニウム錯体を主たる触媒として用いる場合には、反応系に大量の有機ホスフィンが存在することになり水素化反応に好ましくない影響を及ぼす。すなわち、有機ホスフィン及び無水コハク酸の双方が高濃度で存在すると両者は容易に反応してしまい、水素化反応が阻害される。
【0025】
かかる場合には、回収されたルテニウム錯体を含む油状物を水素化反応に再使用する前に酸で処理するのが好ましい。この酸処理により、有機ホスフィンは酸との反応物に変換され水素化反応に供してしても何等の悪影響を及ぼさなくなる。使用する酸としては、前記の触媒を調製する際に使用されるpka値が2より小さい酸であれば使用することができるが、これらのうちメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ラウリルスルホン酸等のアルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸,p−トルエンスルホン酸等のアリールスルホン酸が好ましく、特にp−トルエンスルホン酸が好ましい。
【0026】
酸の使用量は酸の種類によって異なるが、通常、油状物に含まれる反応条件下で遊離する有機ホスフィンと当量(遊離酸量として)乃至はそれ以上である。
油状物を酸で処理するにあたり、水素化反応に使用する反応溶媒に油状物を溶解して処理するのが効果的である。反応溶媒の使用量は特に制限されないが、水素化反応条件における溶媒濃度とほぼ等しくするのが好ましい。
酸による処理は、通常20〜300℃、好ましくは、100〜250℃の範囲で行われ、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で処理するのが好ましい。
以上のように酸処理をして回収したルテニウム錯体を含有する溶液は、これに無水コハク酸等の基質を加えて水素化反応を実施することができ、その反応活性は、新しく調製した触媒と同等であり、有効に触媒として回収されるのである。
なお、典型的な連続反応の場合には、大量に循環される循環液と反応生成液との混合物中に基質と回収されたルテニウム触媒とが導入されることになるので、反応系での基質及び有機ホスフィンの濃度は低くなり、回分反応の場合の如き反応阻害は生じない。
上記回収したルテニウム錯体触媒を用いる水素化反応条件としては前記した反応条件が採用可能であるが、触媒が効率よく回収できることから触媒濃度を高くし、低圧化する条件、例えばルテニウム濃度(金属として)100〜500ppm,反応圧力(水素分圧)1〜50kg/cm2、反応温度150〜220℃の範囲内で実施するのが工業的に有利である。
【発明の効果】
【0027】
本発明方法によれば、第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体を、水素化反応生成液から経済的且つ効率よく濃縮分離し、得られた分離液を水素化反応に再使用することを可能にするものであるので、工業的に有用な方法である。
【実施例】
次に、本発明を実施例及び参考例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
参考例 1
ルテニウム−トリオクチルホスフィン−パラトルエンスルホン酸系触媒を用いた無水コハク酸の水素化反応を次の通り行った。
反応は図1に示す気液分離器(1)、蒸留塔(2)付きの循環装置を使用して行った。触媒容器(3)に0.056重量%のトリス(アセチルアセトン)ルテニウム、0.51重量%のトリオクチルホスフィン、0.22重量%のパラトルエンスルホン酸をトリグライム(トリエチレングリコール ジメチルエーテル)に溶解し、窒素雰囲気下200℃で2時間加熱処理し、新触媒容器(5)に入れ新フィード触媒液とした。この触媒液を3500ml/h.の流量でオートクレーブ(8)に供給し、気液分離後、蒸留塔の缶出液として回収リサイクルしておいた。
【0029】
一方、水素圧縮機(6)より7.9Nm3/h.の水素ガスをオートクレーブに送り40気圧に調節した。オートクレーブを205℃へ昇温し、無水コハク酸80重量%、γ−ブチロラクトン20重量%から成る原料液を375g/h.の流量で連続的に供給した。
反応液は60℃に冷却後、常圧で気液分離した後、蒸留塔で生成物の水及びγ−ブチロラクトンと触媒液を分離し、触媒液は触媒容器に戻すが、反応開始7日後よりそのうちの一部の流れとして29g/h.の流量で触媒液を抜き出し、抜き出し触媒容器(4)に保存した。
【0030】
抜き出した分に相当する29g/h.の流量で新触媒容器(5)から新触媒をオートクレーブに補給した。反応は、30日間連続して行ったが7日目以降安定した成績が得られた。反応液、生成液中の原料、生成物、高沸点物質の定量は、ガスクロマトグラフィーおよびGPCにより行った。7日目以降の反応成績は平均して、次の通りであった。
無水コハク酸転化率 99.5%
γ−ブチロラクトン 97.5%
H.B.化率 2.5%
又、抜き出し触媒液の組成は下記の通りであった。
無水コハク酸+コハク酸 4重量%
γ−ブチロラクトン 4重量%
トリグライム 65重量%
高沸点物質 26重量%
Ru濃度 92ppm
【0031】
参考例 2
上記参考例1で得られた抜き出し触媒液の濃縮を以下のようにして行った。
抜き出し触媒液878.1gを減圧蒸留装置付きのジャケット式反応器にいれ、減圧蒸留により溶媒であるトリグライムを留去した。この時、液温を160℃以下に保つように減圧度を70mmHg〜5mmHgの範囲でコントロールした。溶媒留去後、濃縮触媒液を295.75g得た。質量の濃縮率は33.68%であった。
この様にして得られた触媒濃縮液をトリグライムで希釈して、後記条件のガスクロマトグラフィーで分析したところ、トリオクチルホスフィンのピークは観測されなかった。これにより、抽出処理前の濃縮液にはトリオクチルフォスフィンは存在していないことがわかる。
【0032】
実施例 1
参考例1で得られた無水コハク酸の水素化反応の抜き出し触媒液(組成;トリグライム;65%、γ−ブチロラクトン;4%、無水コハク酸及びコハク酸の合計;4%、高沸点物質;26%、Ru含有量92ppm)94.9g及び0.1NNaOH水溶液113.1gを分液ロートに入れ、室温で約5分間振り混ぜた。静置して2相に分液した後、それぞれの相に分けた。この時の各相の質量は、上層の水層が197.4g、下層のオイル相が、10.6gであった。従って、オイル相の質量は、仕込の反応液を基準とすると11.1%に濃縮されたことになる。一方、この時の各相中のルテニウム濃度は、水相が0.45ppm,オイル相が758ppmであった。オイル相/水相のルテニウムの分配比は99.0/1.0であった。
【0033】
比較例 1
実施例1で0.1N NaOH水溶液の代わりに脱塩水を用いた以外、実施例1と同様な実験を行った。その結果、振り混ぜたのち、静置しても白濁するのみで内容液は全く分液しなかった。
【0034】
実施例 2
参考例1で得られた無水コハク酸の水素化反応の抜き出し触媒液511.41g及び0.1N NaOH水溶液504.90gを1リットルの密閉できる容器に入れ、約5分間振り混ぜた。静置して2相に分液した後、この2相をデカンテーションで分離した。このうち水相は、983.49gあり、そのルテニウム含有量をICP分析にて測定した結果、0.38ppmであった。
一方、下層のオイル相は、32.85gであった。このオイル相にトルエン200ml入れ、約5分間振り混ぜた後静置した。この時、上層にトルエン相、下層にトルエン不溶のオイル相の2相に分離するのが観察され、この2相をデカンテーションで分離した。下層のオイル相は25.43gあり、そのルテニウム含有量をICPで測定したところ11.8ppmであった。
トルエン相を100gの脱塩水で5回洗浄した後、エバポレーションにより濃縮し、褐色の油状濃縮物を得た。これの質量は9.97gであり、そのルテニウム含有量をICPで測定したところ4320ppmであった。
従って、この濃縮物の質量は、仕込の触媒液を基準とすると、1.9%に濃縮されたことになる。この時のトルエン相/オイル相/水相のルテニウム分配比は、98.5/0.7/0.8であった。
【0035】
実施例 3
参考例2で得られた触媒濃縮液114.02g,0.1N NaOH水溶液331.72g及びトルエン132.67gを攪拌機付き抽出槽に入れ、内温40℃で1時間攪伴した。静置すると、約5分で上からトルエン相、水相、トルエン及びアルカリ水溶液のいずれにも不溶のオイル相の3相に分液した。この3相を各々分離し、その質量と含有ルテニウム濃度をICP分析により定量し次の結果を得た。
この時のトルエン相/水相/オイル相へのルテニウム分配比は、98.8/0/1.2であった。
トルエン相のトルエンをエバポレーションで留去し、10.59gの残物を得た。これは、仕込んだ触媒濃縮液を基準とすると9.3%に濃縮されたことになる。
【0036】
実施例 4
参考例2で得られた触媒濃縮液108.39g,0.5N NaOH水溶液315.32g及びトルエン126.1gを攪拌機付き抽出槽に入れ、内温40℃で1時間攪伴した。静置すると、約5分で上からトルエン相、水相、トルエン及びアルカリ水溶液のいずれにも不溶のオイル相の3相に分液した。この3相を各々分離し、その質量と含有ルテニウム濃度をICP分析により定量し次の結果を得た。
この時のトルエン相/水相/オイル相へのルテニウム分配比は、97.8/0/2.2であった。
トルエン相のトルエンをエバポレーションで留去し、10.80gの残物を得た。これは、仕込んだ触媒濃縮液を基準とすると10.0%に濃縮されたことになる。
【0037】
実施例 5
参考例2で得られた触媒濃縮液122.43g,3.0N NaOH水溶液356.19g及びトルエン122.43gを攪拌機付き抽出槽に入れ、内温40℃で1時間攪伴した。静置すると、約5分でトルエン相及び水相の2相に分液した。この2相を各々分離し、その質量と含有ルテニウム濃度をICP分析により定量し次の結果を得た。
この時のトルエン相/水相へのルテニウム分配比は、97.8/0であった。
トルエン相のトルエンをエバポレーションで留去し、28.22gの残物を得た。これは、仕込んだ触媒濃縮液を基準とすると23.0%に濃縮されたことになる。
【0038】
実施例 6
参考例2で得られた触媒濃縮液123.7g,1N−NaOH水溶液359.6g及びキシレン144gを攪拌機付き抽出槽に入れ、内温40℃で1時間攪伴した。静置すると、約15分で上からキシレン相、水相、キシレン及びアルカリ水溶液のいずれにも不溶のオイル相の3相に分液した。この3相を各々分離し、その質量と含有ルテニウム濃度をICP分析により定量し次の結果を得た。
この時のキシレン相/水相/オイル相へのルテニウム分配比は、99.4/0/0.6であった。
キシレン相のキシレンをエバポレーションで留去し、19.5gの残物を得た。これは、仕込んだ触媒濃縮液を基準にすると15.76%に濃縮されたことになる。
【0039】
実施例 7
参考例2で得られた触媒濃縮液124.6g,0.1N−NaOH水溶液364.2g及びベンゼン145.1gを攪拌機付き抽出槽に入れ、内温40℃で1時間攪伴した。静置すると、約15分で上からベンゼン相、水相、ベンゼン及びアルカリ水溶液のいずれにも不溶のオイル相の3相に分液した。この3相を各々分離し、その質量と含有ルテニウム濃度をICP分析により定量し次の結果を得た。
この時のベンゼン相/水相/オイル相へのルテニウム分配比は、95.6/0/4.4であった。
ベンゼン相のベンゼンをエバポレーションで留去し、9.4gの残物を得た。これは、仕込んだ触媒濃縮液を基準にすると7.5%に濃縮されたことになる。
【0040】
実施例 8
参考例2で得られた触媒濃縮液115g,0.1N−NaOH水溶液334.56g及びデカン133.82gを攪拌機付き抽出槽に入れ、内温40℃で1時間攪伴した。静置すると、約15分で上からデカン相、水相、デカン及びアルカリ水溶液のいずれにも不溶のオイル相の3相に分液した。この3相を各々分離し、その質量と含有ルテニウム濃度をICP分析により定量し次の結果を得た。
この時のデカン相/水相/オイル相へのルテニウム分配比は、89.77/0/10.23であった。
デカン相のデカンをエバポレーションで留去し、0.42gの残物を得た。これは、仕込んだ触媒濃縮液を基準にすると0.3%に濃縮されたことになる。
【0041】
実施例 9
参考例2で得られた触媒濃縮液106.48g,0.1N−NaOH水溶液309.75g及びヘプタン123.90gを攪拌機付き抽出槽に入れ、内温40℃で1時間攪伴した。静置すると、約15分で上からヘプタン相、水相、ヘプタン及びアルカリ水溶液のいずれにも不溶のオイル相の3相に分液した。この3相を各々分離し、その質量と含有ルテニウム濃度をICP分析により定量し次の結果を得た。
質 量 Ru濃度
ヘプタン相 115.49g 274 ppm
水 相 377.57g 0 ppm
オイル相 36.99g 67.5ppm
この時のヘプタン相/水相/オイル相へのルテニウム分配比は、92.00/0/8.00であった。
ヘプタン相のヘプタンをエバポレーションで留去し、0.52gの残物を得た。これは、仕込んだ触媒濃縮液を基準にすると0.48%に濃縮されたことになる。
【0042】
実施例 10
参考例2で得られた触媒濃縮液(ICPにより測定した全リン量は4000ppmである。)114.02g,0.1N NaOH水溶液331.72g及びトルエン132.67gを攪拌機付き抽出槽に入れ、内温40℃で1時間攪伴した。静置すると、約5分で上からトルエン相、水相、トルエン及びアルカリ水溶液のいずれにも不溶のオイル相の3相に分液した。このトルエン相を分離し、それに含まれるトリオクチルホスフィン量を下記条件のガスクロマトグラフィーで分析したところ、80ppmであった。
【0043】
【0044】
実施例 11
参考例2で得られた触媒濃縮液108.39g,0.5N NaOH水溶液315.32g及びトルエン126.1gを攪拌機付き抽出槽に入れ、内温40℃で1時間攪伴した。静置すると、約5分で上からトルエン相、水相、トルエン及びアルカリ水溶液のいずれにも不溶のオイル相の3相に分液した。このトルエン相を分離し、それに含まれるトリオクチルホスフィン量を上記条件のガスクロマトグラフィーで分析したところ、63ppmであった。
【0045】
実施例 12
参考例2で得られた触媒濃縮液122.43g,3.0N NaOH水溶液356.19g及びトルエン122.43gを攪拌機付き抽出槽に入れ、内温40℃で1時間攪伴した。静置すると、約5分で上からトルエン相、水相、トルエン及びアルカリ水溶液のいずれにも不溶のオイル相の3相に分液した。このトルエン相を分離し、それに含まれるトリオクチルホスフィン量を上記条件のガスクロマトグラフィーで分析したところ、198ppmであった。
【0046】
実施例 13
参考例1で得られた無水コハク酸の水素化反応液501.51g及び0.1N NaOH水溶液506.04gを密閉できる容器に入れ、約5分間振り混ぜた。約5時間静置すると、水相の底に褐色のオイルが沈降するのが観察された。デカンテーションにより水相を除き、29.6gのオイル相分を得た。このオイル分をトルエンで抽出(トルエン100mlで1回、50mlで2回)し、得られたトルエン相を水で洗浄(100mlで5回)した。次いで、トルエン相をエバポレーションで濃縮したところ、褐色のオイル8.28gが得られた。
この褐色のオイルに水素化反応の溶媒であるトリグライムを加え、全量を200gとし、さらにパラトルエンスルホン酸を825mg加えて、窒素をバブリングしながら200℃で10分処理した。なお、以上の操作はすべて窒素雰囲気下で行った。
【0047】
この触媒液175gに無水コハク酸20g及びγ−ブチロラクトン5gを窒素下で混合した。この混合液のルテニウム濃度は123ppmであった。この混合液を、あらかじめ窒素置換しておいた誘導攪拌機付きの500mlオートクレーブに窒素を圧送し、窒素を5KG導入した。その後、オートクレーブを加熱し、内温を200℃とした。途中、120℃になったところで、攪拌を開始した。内温が200℃となったところで、0分のサンプルを採取した後、内圧をパージし、水素を導入して内圧を40KGとして水素化反応を開始した。途中、消費される水素は、逐次補充し、内圧の40KGを保持した。反応は1時間継続し、途中、3分、60分でサンプルを採取した。0分及び3分に採取したサンプルに残存する無水コハク酸とコハク酸の合計量を液体クロマトグラフィーで定量し、これより初期の1次速度定数を算出したところ、21.9h.-1であった。
【0048】
抽出回収したルテニウム含有オイルをトリグライムで希釈する操作までを、空気雰囲気下で行った以外は、上記操作と同様にして行った。水素化反応の1次速度定数は20.3h.ー1であった。
【0049】
実施例 14
参考例2で得られた無水コハク酸の水素化反応液の濃縮液172.23gを密閉できる容器に入れ、150℃に加熱したオイルバスで加熱溶解した。これに0.1N NaOH水溶液501.35g及びトルエン189.63gを加え約5分振り混ぜた。以上の操作は窒素下で行ったが、以下の操作は空気雰囲気下で取り扱った。約3時間静置すると、トルエン相、水相及び両相に不溶なオイル相の3相に分液した。このトルエン相を分取し、エバポレーションで濃縮したところ、褐色のオイル9.45gが得られた。この褐色のオイルに水素化反応の溶媒であるトリグライムを加えて全量を200gとし、さらに、パラトルエンスルホン酸を737mg加えて、窒素をバブリングしながら200℃で10分処理した。
実施例13と同様にして、無水コハク酸、γ−ブチロラクトンを添加した。この混合液中のルテニウム濃度は136ppmであった。ついで、無水コハク酸の水素化反応を実施例13と同様にしておこなった。水素化反応の1次速度定数は25.3h.ー1であった。
【0050】
参考例 3
ジャケット式反応器にトリス(アセチルアセトン)ルテニウム0.222g.トリオクチルホスフィン2.068g,パラトルエンスルホン酸0.902g,トリグライム346.82gを入れ、窒素雰囲気下200℃で2時間加熱処理し、新触媒とした。
この新触媒による無水コハク酸の水素化反応を実施例13と同様にして行った。なお、無水コハク酸を加えた後の反応液のルテニウム濃度は、141(計算値)ppmであり、水素化反応の1次速度定数は、21.4h.ー1であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例1に示す無水コハク酸の水素化反応を実施した循環反応系の概略図
【符号の説明】
1 気液分離器
2 蒸留塔
3 触媒容器
4 抜出し触媒容器
5 新触媒容器
6 圧縮機
7 原料容器
8 反応器(オートクレーブ)
Claims (26)
- 第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体の存在下、有機カルボニル化合物を水素化して得られる反応液から目的生成物を除去して得た触媒液を、塩基性物質を含む極性溶媒で抽出処理し、主として塩基性物質を含有する液相と主としてルテニウム錯体を含有する液相とに相分離することを特徴とするルテニウム錯体の分離方法。
- 第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体の存在下に有機カルボニル化合物を水素化し、得られた反応液から目的生成物を除去して得た触媒液を、塩基性物質を含む極性溶媒で抽出処理し、主として塩基性物質を含有する液相と主としてルテニウム錯体を含有する液相とに相分離し、該ルテニウム錯体含有液相を必要に応じ酸で処理した後、水素化反応に供することを特徴とするルテニウム錯体の再使用方法。
- 第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体の存在下、有機カルボニル化合物を水素化して得られる反応液から目的生成物を除去して得た触媒液を、塩基性物質を含む水溶液及び非極性有機溶媒で順次又は同時に抽出処理し、主として塩基性物質を含有する水溶液相と主としてルテニウム錯体を含有する有機溶媒相を形成させて相分離し、該有機溶媒相から有機溶媒を留去することを特徴とするルテニウム錯体の分離方法。
- 第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体の存在下に有機カルボニル化合物を水素化し、得られた反応液から目的生成物を除去して得た触媒液を、塩基性物質を含む水溶液及び非極性有機溶媒で順次又は同時に抽出処理し、主として塩基性物質を含有する水溶液相と主としてルテニウム錯体を含有する有機溶媒相を形成させて相分離し、該有機溶媒相から有機溶媒を留去して残留物を得、該残留物を必要に応じ酸で処理した後、水素化反応に供することを特徴とするルテニウム錯体の再使用方法。
- 第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体及び過剰の第3級有機リン系化合物の存在下、有機カルボニル化合物を水素化して得られた反応液から目的生成物を除去して得た触媒液を、塩基性物質を含む極性溶媒で処理し、塩基性物質含有相と第3級有機リン系化合物を含む液相に相分離することを特徴とする有機リン系化合物の回収方法。
- 第3級有機リン系化合物を配位子として有するルテニウム錯体及び過剰の第3級有機リン系化合物の存在下、有機カルボニル化合物を水素化して得られた反応液から目的生成物を除去して得た触媒液を、塩基性物質を含む水溶液及び非極性有機溶媒で順次又は同時に抽出処理し、主として塩基性物質を含有する水溶液相と主として第3級有機リン系化合物を含有する有機溶媒相を形成させて相分離し、該有機溶媒相から有機溶媒を留去することを特徴とする有機リン系化合物の回収方法。
- 極性溶媒は20℃における誘電率(ε)が15以上の溶媒であることを特徴とする請求項1、2または5のいずれかに記載の方法。
- 極性溶媒が水または低級アルコール類から選ばれることを特徴とする請求項1、2または5のいずれかに記載の方法。
- 有機カルボニル化合物が脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸無水物及び脂肪族ジカルボン酸ジエステルから選ばれることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
- 有機カルボニル化合物が無水コハク酸であることを特徴とする請求項9に記載の方法。
- 第3級有機リン系化合物がトリアルキルホスフィンであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
- 第3級有機リン系化合物がトリオクチルホスフィンであることを特徴とする請求項11に記載の方法。
- 非極性溶媒は20℃における誘電率(ε)が6以下の有機溶媒であることを特徴とする請求項3、4または6のいずれかに記載の方法。
- 非極性有機溶媒が脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、エーテル類、ケトン類、ハロゲン化炭化水素及びこれらの混合物から選ばれることをを特徴とする請求項3、4又は6のいずれかに記載の方法。
- 非極性有機溶媒がトルエン、キシレン、ヘプタン及びデカンから選ばれたものであることを特徴とする請求項13または14に記載の方法。
- 酸がアルキルスルホン酸又はアリールスルホン酸であることを特徴とする請求項2又は4に記載の方法。
- 酸がパラトルエンスルホン酸であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
- 触媒液は、反応液から更に反応に用いた溶媒を留去して得られることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
- 反応溶媒は温度220℃以下で反応液から留去されることを特徴とする請求項18に記載の方法。
- ルテニウム錯体を含む有機溶媒層から有機溶媒を留去した残留物を反応溶媒に溶解し、酸で処理することを特徴とする請求項4に記載の方法。
- 酸の使用量は、残留物中に含まれる第3級有機ホスフィン(遊離酸として)の当量以上であることを特徴とする請求項2、4、16、17又は18のいずれかに記載の方法。
- 塩基性物質は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、有機アミン類及びアンモニアから選ばれることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
- 塩基性物質が水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムであることを特徴とする請求項22に記載の方法。
- トリアルキルホスフィンを配位子とするルテニウム錯体を含む反応溶媒中で、無水コハク酸を水素化し、反応生成物からγ−ブチロラクトン及び水を留去して触媒液を取得し、該触媒液の少なくとも一部に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム水溶液を加えて抽出処理し、形成されたルテニウム錯体に富む相を水相から分離することを特徴とするルテニウム錯体の分離方法。
- トリアルキルホスフィンを配位子とするルテニウム錯体を含む反応溶媒中で、無水コハク酸を水素化し、反応生成物からγ−ブチロラクトン及び水を除き、次いで反応溶媒を蒸留塔で塔底温度220℃以下に維持しながら留去して触媒液を取得し、該触媒液の少なくとも一部に水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム水溶液及び脂肪族又は芳香族の炭化水素を加えて抽出処理し、形成されたルテニウム錯体に富む脂肪族又は芳香族の炭化水素相を水相及びオイル相から分離し,分離した該炭化水素相から該炭化水素を留去して残留物を得、これに反応溶媒を添加した後酸で処理し、処理後の触媒液を水素化反応に供して水素化を行うことを特徴とするルテニウム錯体の再使用方法。
- 水素化反応を、反応溶液中のルテニウム錯体濃度(金属ルテニウムとして)100〜500ppm、反応圧力(水素分圧)1〜50kg/cm2及び反応温度150〜220℃の範囲で実施することを特徴とする請求項25に記載の方法。
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