JP3756018B2 - 多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体用の多結晶シリコンを製造するためのCVD反応炉で発生する排ガスからH2 を精製するために、排ガス中の塩化物を分離除去する多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体用の多結晶シリコンを製造するためのCVD反応炉では、例えば次の3つの反応が同時並行的に起こる。
▲1▼ 4SiHCl3 →Si+3SiCl4 +2H2
▲2▼ SiHCl3 +H2 →Si+3HCl
▲3▼ SiHCl3 +H2 →SiH2 Cl2 +HCl
【0003】
即ち、CVD反応炉に原料ガスとしてトリクロロシラン(SiHCl3 )及び水素(H2 )が供給されると、▲1▼及び▲2▼の反応により多結晶シリコン(Si)が製造されると同時に、四塩化珪素(SiCl4 )、塩化水素(HCl)及び水素(H2 )が発生する。また、▲3▼の反応によりジクロロシラン(SiH2 Cl2 )及び塩化水素(HCl)が発生する。
【0004】
このため、CVD反応炉からは、未反応の原料ガスを含め、四塩化珪素(SiCl4 )、トリクロロシラン(SiHCl3 )、ジクロロシラン(SiH2 Cl2 )、塩化水素(HCl)及び水素(H2 )の混合ガスが、排ガスとして排出される。
【0005】
ところで、この排ガスは原料ガスであるトリクロロシラン(SiHCl3 )及び水素(H2 )を含んでいる。このため、排ガス中の塩化物が分離除去され、水素(H2 )が精製される。精製された水素(H2 )ガスは原料ガスとしてCVD反応炉に導入される。排ガス中から分離除去された塩化物についても、トリクロロシラン(SiHCl3 )が抽出され、原料ガスとして再使用される。
【0006】
排ガスから水素ガスを精製するために、排ガス中の塩化物を分離除去する排ガス処理方法としては、例えば特開平9−263405号公報に記載されたものがある。
【0007】
特開平9−263405号公報に記載された排ガス処理方法では、先ず、CVD反応炉から排出された排ガスが1段目の冷却器に送られ、排ガス中の塩化物がある程度凝縮除去される。次いで、その排ガスが加圧され、2段目の冷却器に送られることにより、排ガス中に残る塩化物が凝縮除去され、塩化物を僅かに含む水素ガスが得られる。最後に、この水素ガスが活性炭に通され、ガス中の塩化物が吸着除去されることにより、CVD反応炉での再使用が可能な高純度の水素ガスが得られる。
【0008】
冷却器での塩化物の除去効率を高めるためには、そのままでは凝縮しにくい低沸点の塩化物(HCl、SiH2 Cl2 )を、高沸点の塩化物(SiHCl3 、SiCl4 )に変成させる、塩化物化が有効である。この塩化物化のために、特開平9−263405号公報に記載された排ガス処理方法では、活性炭の触媒作用が用いられており、その活性炭の配置位置としては、加圧機と2段目の冷却器の間が好ましいとされている。
【0009】
1段目の冷却器を通過して加圧された排ガスを活性炭に通すことにより、排ガス中の低沸点のHClが、同じく排ガス中の比較的低沸点のSiH2 Cl2 等と反応し、高沸点のSiHCl3 ,SiCl4 に変成される。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、この活性炭の触媒作用による塩化物の変成処理では、後で詳しく述べるが、CVD反応炉での原料ガスであるSiHCl3 の生成反応と消費反応が同時並行的に起こっており、従来の排ガス処理方法では、SiHCl3 の消費反応が大きく優り、その結果、活性炭層の通過により、有用物であるSiHCl3 が減少し、2段目の冷却器でのSiHCl3 の回収効率を低下させていることが判明した。
【0011】
本発明の目的は、塩化物の分離除去効率を上げるために用いた活性炭による変成処理で問題となるSiHCl3 の回収効率の低下を抑制して、SiHCl3 の回収効率の向上を図る多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
CVD反応炉から排出される排ガスを、活性炭の触媒作用により変成処理する場合、活性炭層では次の2つの反応が同時並行的に進行する。
▲4▼ HCl+SiH2 Cl2 →SiHCl3 +H2
▲5▼ HCl+SiHCl3 →SiCl4 +H2
【0013】
即ち、CVD反応炉から排出される排ガスを冷却による凝縮分離の後、活性炭触媒により変成処理する場合、活性炭層中でのHClとSiH2 Cl2 の反応により、SiHCl3 が変成されるが(▲4▼)、それと同時に、過剰に存在するHClが、変成されたSiHCl3 とも反応して、更に高沸点の塩化物であるSiCl4 に変成してしまう(▲5▼)。SiHCl3 は原料ガスであるため、理想は▲4▼の反応であり、そのためには冷却器の出口でのガス組成はSiH2 Cl2 :HCl=1:1であることが望まれるが、現実のガス組成はSiH2 Cl2 :HCl=1:2.5程度であり、その結果、▲5▼の反応が多く起こり、原料ガスであるSiHCl3 が消費されることになる。
【0014】
即ち、冷却器での塩化物の凝縮量はガス冷却温度に依存し、従来はより多くの塩化物を凝縮させるために、ガス冷却温度は−40℃未満に制御されている。しかし、このガス冷却温度が例えば−42℃の場合、冷却器の出口でのガス組成はSiH2 Cl2 :HCl=1:2.5程度となり、余剰のHClが多く存在するために、▲4▼の反応で変成されたSiHCl3 までもが▲5▼の反応によりSiCl4 に変成され、活性炭層の通過によりSiHCl3 が減少する結果となる。
【0015】
本発明の多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法は、かかる知見に基づいて開発されたものであり、第1の排ガス処理方法は、半導体用の多結晶シリコンを製造するためのCVD反応炉から排出される排ガスを冷却して排ガス中の塩化物を凝縮回収した後、その排ガスを活性炭に通して排ガス中の低沸点の塩化物をを高沸点の塩化物に変成させる際に、前記凝縮回収での排ガスの冷却温度を−40〜−30℃とするものである。
【0016】
また第2の排ガス処理方法は、前記活性炭に通す前の排ガスにSiH2 Cl2 を添加するものである。
【0017】
第1の排ガス処理方法では、凝縮回収での排ガスの冷却温度を−40℃以上と従来より高くすることで、活性炭に供給される排ガス中のSiH2 Cl2 に対するHClの比率が下がり、活性炭層での▲5▼の反応が抑制されることにより、SiHCl3 の損失が低減され、更には変成によりSiHCl3 の量が増大する。
【0018】
凝縮回収での排ガスの冷却温度を高めることにより排ガス中のSiH2 Cl2 に対するHClの比率が下がるのは、HClはいずれにしても非常に凝縮しにくいのに対し、SiH2 Cl2 は冷却温度を高めることにより凝縮が抑制されるためである。
【0019】
ここにおけるガス冷却温度は、活性炭に供給される排ガス中のSiH2 Cl2 に対するHClの比率を下げる点からは高い方がよく、−35℃以上が特に好ましいが、後述するようにそのガスを加圧する場合は、−30℃を超えると加圧で塩化物が液化する可能性があり、危険であるので、−30℃以下に抑える。冷却器でのガス冷却温度を−35〜−30℃とすることにより、冷却器の出口での排ガス中のSiH2 Cl2 に対するHClの比率は1.8程度まで低減される。
【0020】
また、第2の排ガス処理方法では、活性炭に通す前の排ガスにSiH2 Cl2 を添加することにより、凝縮回収での排ガスの冷却温度に関係なく、活性炭に供給される排ガス中のSiH2 Cl2 に対するHClの比率が下がり、活性炭層での▲5▼の反応が抑制される結果、SiHCl3 の変成量が増大する。
【0021】
ここにおけるSiH2 Cl2 の添加量については、HClに対するSiH2 Cl2 の比率はモル比で1〜1.5が理想であるが、1〜2の範囲内であれば、SiHCl3 の減少を防止する効果は得られるので、この比率が1〜2、望ましくは1〜1.5となるように選択することが推奨される。
【0022】
添加するSiH2 Cl2 は、系内で排ガスから分離回収したものを使用するのが経済的で好ましい。
【0023】
いずれの排ガス処理方法においても、活性炭による変成処理を受けた排ガスは、残存する塩化物を除去することが必要である。この方法としては、その排ガスを再度冷却して排ガス中の塩化物を凝縮除去するものが、設備が簡単で好ましい。活性炭による変成処理により、後段の塩化物除去設備は簡単なものとなる。
【0024】
2回目の冷却では、凝縮量を増やすために、1回目の冷却後の排ガスを加圧することが好ましい。ここにおける加圧力は、高いほど塩化物の凝縮を促進するが、高圧プロセスでの危険性や経済性を考慮して10kg/cm2 G未満が好ましい。2回目の冷却の後の排ガスについては、再度活性炭に通して、排ガス中に残存する塩化物の全てを吸着除去することが好ましい。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の排ガス処理方法を実施するのに適した多結晶シリコン製造設備のガス系統図である。
【0026】
本実施形態では、CVD反応炉1に原料ガスとしてトリクロロシラン(SiHCl3 )及び水素(H2 )が供給される。これにより、CVD反応炉1では、多結晶シリコン(Si)が製造されると同時に、四塩化珪素(SiCl4 )、ジクロロシラン(SiH2 Cl2 )、塩化水素(HCl)及び水素(H2 )が発生する。その結果、CVD反応炉1からは、未反応の原料ガスを含め、四塩化珪素(SiCl4 )、トリクロロシラン(SiHCl3 )、ジクロロシラン(SiH2 Cl2 )、塩化水素(HCl)及び水素(H2 )の混合ガスからなる排ガスAが排出される。
【0027】
この排ガスAは、1段目の冷却器2に送られる。これにより、排ガスA中の塩化物の一部〔主に低沸点であるHCl以外の塩化物(SiCl4 ,SiHCl3 ,SiH2 Cl2 )〕が凝縮除去される。ここにおけるガス冷却温度は、−40〜−30℃、好ましくは−35〜−30℃の範囲内に設定される。これにより、冷却器2から排出される排ガスBは、SiH2 Cl2 に対するHClの比率の低いものになる。除去された塩化物は精製され、このうちSiHCl3 は原料ガスとして再使用される。
【0028】
冷却器2から排出される排ガスBは、コンプレッサ3で加圧され、1段目の活性炭充填塔4に送られる。活性炭充填塔4では、活性炭の触媒作用により、凝縮しにくい低沸点のHClが比較的低沸点のSiH2 Cl2 と反応し、比較的高沸点のSiHCl3 に変成されるが、それと同時に、変成されたSiHCl3 が、過剰に存在するHClと反応して、更に高沸点の塩化物であるSiCl4 に変成する。しかし、冷却器2でのガス冷却温度を上げ、排ガスB中のSiH2 Cl2 に対するHClの比率を下げているので、後者のSiHCl3 の消費反応が抑制される。その結果、活性炭充填塔4から排出される排ガスCは、原料ガスであるSiHCl3 を多く含むものとなる。
【0029】
活性炭充填塔4から排出される排ガスCは、次に2段目の冷却器5に送られる。これにより、排ガスC中に残る塩化物の多くが凝縮除去される。ここにおけるガス冷却温度は、塩化物の除去効率を優先して低温が望ましく、具体的には−35℃以下、特に−40℃以下が好ましい。
【0030】
冷却器5では、排ガスCが加圧されていることに加え、前段の活性炭充填塔4で低沸点のHCl及び比較的低沸点のSiH2 Cl2 が比較的高沸点のSiHCl3 及びSiCl4 に変成されているので、排ガスC中の塩化物が効率よく凝縮除去される。しかも、除去された塩化物は精製され、このうちSiHCl3 は原料ガスとして再使用されるが、1段目の冷却器2での冷却温度操作により、排ガスC中のSiHCl3 の分率が増大しているので、SiHCl3 の回収効率が高い。
【0031】
冷却器5から排出される排ガスDは、僅かの塩化物を含む水素ガスである。こガスは、2段目の活性炭充填塔6に送られ、僅かに残る塩化物が活性炭により吸着除去されることにより、高純度の水素ガスEになる。この水素ガスEは、CVD反応炉1に原料ガスとして再供給される。
【0032】
表1〜表3は、1段目の冷却器2でのガス冷却温度を変化させたときのガスA〜Eの組成を調査したものであり、表1はそのガス冷却温度を−42℃とした従来例を示し、表2,3はそのガス冷却温度を−37℃,−32℃とした本発明例を示す。2段目の冷却器5でのガス冷却温度は、いずれの場合も−50℃とした。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
いずれの場合も、1段目の冷却器2から排出される排ガスBを活性炭充填塔4で変成処理したので、これに続く凝縮処理と吸着処理により、原料ガスとして使用可能な高純度の水素ガスEが得られる。
【0037】
しかし、1段目の冷却器2でガス冷却温度を−42℃とした従来例(表1)では、1段目の冷却器2から排出される排ガスB中のSiH2 Cl2 に対するHClの比率が高く、その結果、活性炭充填塔4を通過した排ガスC中のSiHCl3 の分率が著しく低下している。これは、SiHCl3 の回収効率の低下を意味する。
【0038】
これに対し、1段目の冷却器2でガス冷却温度を−37℃,−32℃とした本発明例(表2,3)では、1段目の冷却器2から排出される排ガスB中のHClの分率が低下し、SiH2 Cl2 の分率が上昇した結果、活性炭充填塔4の通過による排ガスC中のSiHCl3 の分率低下が抑制されており、特に、1段目の冷却器2でガス冷却温度を−32℃とした例(表3)では、活性炭充填塔4の通過により、排ガスC中のSiHCl3 の分率が通過前と比べて増大している。
【0039】
従って、本発明例では、SiHCl3 の回収効率が従来より増大することになる。即ち、塩化物の分離除去効率を上げるために用いた活性炭による変成処理で問題となるSiHCl3 の回収効率の低下が、高い分離除去効率を維持しつつ抑制乃至回避されるのである。
【0040】
上記実施例では、SiHCl3 の回収効率を高めるために1段目の冷却器2でガス冷却温度を上昇させたが、これに代えて或いはこれと共に、冷却器2から排出される排ガスBにSiH2 Cl2 を添加することも可能である。
【0041】
表4は、1段目の冷却器2でのガス冷却温度が−42℃のとき、冷却器2から排出される排ガスBにSiH2 Cl2 を添加した場合の、ガスA〜Eの組成を調査したものである。
【0042】
【表4】
【0043】
排ガスB中のSiH2 Cl2 量を、SiH2 Cl2 の添加によって0.34モル%から0.9モル%に増加させたことにより、排ガスC中のSiHCl3 量は1.03モル%から1.83モル%に増加した(表1参照)。
【0044】
【発明の効果】
以上に説明した通り、本発明の多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法は、活性炭による変成処理を用いることにより塩化物の分離除去効率を上げ、設備の簡略化を図ることができる。しかも、活性炭による変成処理で問題となるSiHCl3 の回収効率の低下を、高い分離除去効率を維持しつつ抑制乃至回避し、この点からも経済性を高めることができる。従って、この排ガス処理方法は、多結晶シリコンの製造コスト低減に大きな効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の排ガス処理方法を実施するのに適した多結晶シリコン製造設備のガス系統図である。
【符号の説明】
1 CVD反応炉
2 1段目の冷却器
3 コンプレッサ
4 塩化物を変成処理するための活性炭充填塔
5 2段目の冷却器
6 塩化物を吸着除去するための活性炭充填塔
Claims (4)
- 半導体用の多結晶シリコンを製造するためのCVD反応炉で発生する排ガスからH2 を精製するために、排ガス中の塩化物を分離除去する多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法において、前記排ガスを冷却して排ガス中の塩化物を凝縮回収した後、その排ガスを活性炭に通して排ガス中の低沸点の塩化物を高沸点の塩化物に変成させる際に、前記凝縮回収での排ガスの冷却温度を−40〜−30℃とすることを特徴とする多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法。
- 半導体用の多結晶シリコンを製造するためのCVD反応炉で発生する排ガスからH2 を精製するために、排ガス中の塩化物を分離除去する多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法において、前記排ガスを冷却して排ガス中の塩化物を凝縮除去した後、その排ガスを活性炭に通して排ガス中の低沸点の塩化物を高沸点の塩化物に変成させる際に、活性炭に通す前の排ガスにSiH2 Cl2 を添加することを特徴とする多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法。
- 請求項1又は請求項2に記載の多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法において、塩化物を凝縮除去した後の排ガスを加圧して活性炭に通し、その後、再度冷却して排ガス中の塩化物を凝縮除去することを特徴とする多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法。
- 請求項3に記載の多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法において、2回目の冷却の後の排ガスを再度活性炭に通して、排ガス中に残存する塩化物の全てを吸着除去することを特徴とする多結晶シリコン製造プロセスでの排ガス処理方法。
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