JP3755191B2 - 床振動減衰器およびそれを備えた鋼製床構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、人の飛び跳ねや走行などの衝撃によって生じる床面の鉛直方向の衝撃振動を速やかに低減し得る床振動減衰器およびそれを備えた鋼製床構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、床板を支持する根太部材は振動減衰の大きい木質系材料が多く用いられ、適当な断面剛性を持つ材料を使用すれば、振動による不快感は問題とされていなかった。ところが、木質系材料では乾燥収縮により部材間に隙間が生じてきしみ音の原因となったり、節などの存在で品質にばらつきが大きいこと、梁に鋼製材料を用いる工業化住宅では梁と木製根太との接合に工夫を要することなどから、床材の支持に鋼製材料を用いることが求められている。
【0003】
通常の鋼製材料は振動減衰が小さいことが難点であり、これを解決する手段としてたとえば特開平5−302643号公報には、図10に示したように、複数の板バネ21を粘弾性体により層状に接合するとともに、端部に錘22を取り付けた動吸振器23を鋼製枠(または鋼製桟)24に固定し、床パネルの振動を低減する手段が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の特開平5−302643号の場合は、板バネ21に接合された粘弾性体の物性を一定に保つ必要があり、特別な装置によって製造しないかぎり、安価に板バネ21と粘弾性体との複合体を得ることが困難であり、板バネ21と錘22などの接合工程も必要で、総合的に動吸振器23の製作には高いコストとなる欠点があった。
【0005】
本発明は、上記のような従来技術の有する課題を解決すべくなされたものであって、製作費が安価で、鋼製材料によって支持された床板の振動を低減し得る床振動減衰器およびそれを備えた鋼製床構造を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
減衰が起こりにくい一質点系の主構造物に、比較的減衰定数が大きいバネと質量が比較的小さい錘からなる動吸振器を取り付けて二質点系の構造とすると、もとの主構造物の振動振幅が早期に減衰することが知られている。本発明はこの現象に着目し、減衰が起こりにくい鋼製材料を床支持材に用いて主構造物とした場合でも、減衰定数が大きいゴムなどの粘弾性体と鋼の錘など簡単で安価な材料からなる制振器を床材または床支持部材に取り付けることで、床面の振動を早期に減衰させることが可能となる。
【0007】
すなわち、本発明の床振動減衰器は、鋼製床板とこの床板を支持する鋼製部材とからなる鋼製床構造に取り付けられる床振動減衰器であって、前記鋼製部材に、錘と粘弾性体とをその積層方向が振動方向に一致するように直列に、鋼製部材と粘弾性体、粘弾性体と錘とをそれぞれ直接あるいは接着剤を介して重なるように積層して取り付けてなることを特徴とする。
なお、前記錘および粘弾性体系の固有振動数が、前記床板の固有振動数の0.7 〜1.0 倍の範囲になるように前記錘の重量と前記粘弾性体のバネ定数を決定するのがよい。
【0008】
また、本発明の鋼製床構造は、鋼製床板とこの床板を支持する鋼製部材とからなり、前記鋼製部材に上下2段の水平フランジを有するC形鋼または溝形鋼を用い、その両フランジ間の空間に錘と粘弾性体とからなり、該錘と該粘弾性体とをその積層方向が振動方向に一致するように直列に、鋼製部材と粘弾性体、粘弾性体と錘とをそれぞれ直接あるいは接着剤を介して重なるように積層して取り付けてなる床振動減衰器を装着して構成することを特徴とする。
なお、前記両フランジ間に鋼棒を差し渡し、前記床振動減衰器の錘と粘弾性体に貫通穴を設け、該貫通穴に前記鋼棒を貫通させて取り付けるのがよく、また、前記鋼製部材に山谷を有する波形状鋼板を用いることもできる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して詳しく説明する。図1は本発明の一実施例に係る住宅用床パネルを示す斜視図であり、図2は同床パネルへの床振動減衰器の取り付け状態を示す斜視図、図3は本発明の床振動減衰器の一例を示す側面図である。
【0010】
これらの図において、1は鋼製枠2の上に根太とされるC形鋼の鋼製部材3と床板4とからなる鋼製床パネルである。5は鋼製部材3の上下の水平フランジ間に取り付けられる床振動減衰器で、下水平フランジの上にゴムなどの粘弾性体6と錘7が載置され、振動方向に一致するように鉛直方向に積層して取り付けて構成される。なお、下水平フランジと粘弾性体6、粘弾性体6と錘7とは接着剤(または粘着剤)8でそれぞれ接合される。
【0011】
このように構成することにより、床面に加わる衝撃は以下のようにして速やかに減衰される。すなわち、鋼製部材3および床板4の鉛直方向の変位、有効質量、等価バネ定数、減衰定数をそれぞれx1 ,m1 ,k1 ,h1 とし、粘弾性体6と錘7の鉛直方向の変位、有効質量、等価バネ定数、減衰定数をそれぞれx2 ,m2 ,k2 ,h2 とすると、F(t) なる加振力が作用したときの振動方程式は、床面のみの場合は(1) 式で、また床面および錘を複合させた場合は(2a), (2b)式で表すことができる。
【0012】
【数1】
【0013】
そして、m2 /m1 =0.09、√(k1 /m1)=140(1/秒) 、h1 =0.06、h2 =0.20として、錘、粘弾性体系の固有振動数n2 と床面のみの固有振動数n1 との比n2 /n1 を0.5 〜1.2 に変化させて、上記式を解くと、衝撃振動が加わってから所定の時間t0 秒後の変位振幅は表1のようになる。なお、n1 およびn2 は下記の(3) , (4) 式で表されるものとする。
【0014】
n1 =(1/2π) √ (k1/m1) ………………(3)
n2 =(1/2π) √ (k2/m2) ………………(4)
【0015】
【表1】
【0016】
そこで、錘7を取り付る粘弾性体6のバネ定数すなわち錘、粘弾性体系の固有振動数を適切に設定した床振動減衰器5を取り付けることにより、床面のみの場合のt0 秒後の変位振幅を1/20程度にまで低減させることが可能となる。また、錘、粘弾性体系の固有振動数n2 を床面のみの固有振動数n1 の0.7 倍から1.0 倍とすると、もっとも効果的に減少させることができる。
【0017】
なお、上記実施例では、床板4の根太とされる鋼製部材3にC形鋼を使用するとして説明したが、本発明はこれに限るものではなく、たとえば図4(a) に示すように溝形鋼3Aを用いてもよく、あるいは図4(b) ,(c) に示すように山谷を有する波形状のデッキプレート3Bを用いるようにしてもよい。なお、図4(c) 中の3Cはデッキプレート取付板である。
【0018】
一方、床振動減衰器5の取り付けの仕方については、図5(a) ,(b) に示すように、鋼製部材3の上下の水平フランジ3a,3bの間に粘弾性体6を2個用いてその間に錘7を挿着するようにすれば、特に接着剤8で接合する必要がない。図6(a) ,(b) はデッキプレート3Bに適用した場合を示したもので、同様に構成することができる。
【0019】
また、図7(a) ,(b) に示すように、上下の水平フランジの間に鋼棒9を差し渡し、一方粘弾性体6および錘7に貫通穴を設け、この貫通穴に鋼棒9を貫通させて取り付けるようにすれば、床振動減衰器5の振動を鉛直方向のみに限ることができ、より効果的な制振効果を得ることができる。
【0020】
【実施例】
図8に示す鋼製枠2の上に波形状のデッキプレート3Bと床板4とを配置した鋼製床パネル1に、本発明の床振動減衰器5を前出図4(b) に示したように、床パネルの中心位置に1個取り付けて振動実験を行った。このとき用いた鋼製床パネル1の寸法は、鋼製枠長さ:3640mm,デッキプレート長さ:1820mmで、その特性はm1 =0.15 kgf・(sec)2/cm ,k1 =3500kgf/cm,h1 =0.06程度である。また、用いられた床振動減衰器5の特性は、m2 =0.01 kgf・(sec)2/cm ,k2 =140kgf/cm ,h2 =0.15程度とした。
【0021】
そして、この鋼製床パネル1に鉛直方向にピーク加振力 65kgf,15Hz,半波の加振力F(t) を加えて所定時間ごとの変位振幅を測定した結果を図9に実線で示した。この図からわかるように、所定時間t0 (1秒以下)後の変位振幅が20μm 程度であった。
なお、比較例として、床振動減衰器5を取り付けない状態の同じ鋼製床パネル1に、同じ条件の加振力F(t) を加えた結果は、同図に点線で示したように、所定時間t0 後の変位振幅は40μm 程度であった。
【0022】
これらの結果からわかるように、本発明の床振動減衰器5を取り付けた場合の変位振幅は、床振動減衰器5を取り付けなかった場合に比べてほぼ半減しており、その効果は明らかである。
なお、本発明の床振動減衰器5の取り付け個数については、鋼製床パネル1の寸法によっても異なるが、1または2個あれば十分である。実施例の床構成材の寸法諸元では、床パネルの振動は鋼製枠の振動が大部分であり、鋼製枠の中央、デッキプレート中央位置に1個、または2本の鋼製枠の中央に1個ずつ取り付ければ十分な効果が期待できる。
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、錘と粘性弾性体とを組み合わせた床振動減衰器を鋼製床パネルに取り付けるようにしたので、安価な製作費で、かつ高い制振効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係る住宅用床パネルを示す斜視図である。
【図2】本発明の床振動減衰器の取り付け状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の床振動減衰器の一例を示す側面図である。
【図4】 (a) 〜(c) は本発明の床振動減衰器の取り付け状態の別の例を示す側面図である。
【図5】 (a) ,(b) は本発明の床振動減衰器の他の構成を示す側面図である。
【図6】 (a) ,(b) は本発明の床振動減衰器の他の構成を示す側面図である。
【図7】 (a) ,(b) は本発明の床振動減衰器の他の構成を示す側面図である。
【図8】本発明の床振動減衰器の適用に係る住宅用床パネルを示す斜視図である。
【図9】本発明の床振動減衰器の振動実験の結果を示す特性図である。
【図10】従来例を示す側面図である。
【符号の説明】
1 鋼製床パネル(鋼製床構造)
2 鋼製枠
3 鋼製部材
3A 溝形鋼
3B デッキプレート(波形状鋼板)
4 床板
5 床振動減衰器
6 粘弾性体
7 錘
8 接着剤
9 鋼棒
Claims (6)
- 鋼製床板とこの床板を支持する鋼製部材とからなる鋼製床構造に取り付けられる床振動減衰器であって、
前記鋼製部材に、錘と粘弾性体とをその積層方向が振動方向に一致するように直列に、鋼製部材と粘弾性体、粘弾性体と錘とをそれぞれ直接あるいは接着剤を介して重なるように積層して取り付けてなることを特徴とする床振動減衰器。 - 前記錘および粘弾性体系の固有振動数が、前記床板の固有振動数の0.7 〜1.0 倍の範囲になるように前記錘の重量と前記粘弾性体のばね定数を決定したことを特徴とする請求項1に記載の床振動減衰器。
- 鋼製床板とこの床板を支持する鋼製部材とからなる鋼製床構造であって、前記鋼製部材に上下2段の水平フランジを有するC形鋼または溝形鋼を用い、その両フランジ間の空間に錘と粘弾性体からなり、該錘と該粘弾性体とをその積層方向が振動方向に一致するように直列に、鋼製部材と粘弾性体、粘弾性体と錘とをそれぞれ直接あるいは接着剤を介して重なるように積層して取り付けてなる床振動減衰器を装着してなることを特徴とする鋼製床構造。
- 前記両フランジ間に鋼棒を差し渡し、前記床振動減衰器の錘と粘弾性体に貫通穴を設け、該貫通穴に前記鋼棒を貫通させて取り付けてなることを特徴とする請求項3記載の鋼製床構造。
- 前記鋼製部材に山谷を有する波形状鋼板を用いることを特徴とする請求項3または4に記載の鋼製床構造。
- 前記床振動減衰器の固有振動数が前記床板の固有振動数の0.7 〜1.0 倍の範囲であることを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の鋼製床構造。
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