JP3754487B2 - 軸受装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多孔質体に潤滑油又は潤滑グリースを含浸させた多孔質含油軸受と、合成樹脂基材に潤滑成分を分散保持させた固形状の樹脂潤滑組成物とを有する軸受装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
焼結合金等の多孔質体に、支持すべき軸の摺動面と滑りを生じる軸受面を形成すると共に、潤滑油(又は潤滑グリース)を含浸させた多孔質含油軸受は、軸受内部の気孔に保持された油を、軸受面と軸の摺動面との相対的な滑り運動に伴う吸い込み・押し込み作用によって、軸受内部と軸受すきまとの間を循環させながら潤滑を行なう点に特徴を有するものである。しかしながら、高温雰囲気下で連続運転したような場合では、熱膨張と圧力発生等に伴う油の動きによって、ある程度の油の損失があることは避けられない。例えば、軸受端面から漏れ出た油がハウジングを伝わって流失する、軸受すきまから漏れ出た油が軸を伝わって流失する等の現象が起こる。軸受内部から油が流失すると、気孔内に空気が入り込み、空気と油とが混在して循環することになるため、軸受すきまにおける油膜形成範囲が狭められることが予想される。
【0003】
特に、軸姿勢を縦(上下方向)にして配置される場合が多く、毎分1万回転前後の高速で運転されるレーザビームプリンタ用モータのような装置では、重力と遠心力の影響も加わるため、下方への油の動きが問題となる。図6(a)に示すように、例えば上側の軸受20aの下端面20a1から漏れ出た油は、一部は気孔(空孔)の毛細管現象によって再び軸受内部に戻るが、ハウジングに付着した油などはハウジングを伝わって下方へ流失してしまう。また、軸受すきまから漏れ出た油は軸の回転による遠心力で飛ばされて流失してしまう。そのような油の流失は、上下に離隔配置された一対の軸受20a、20bのうち、特に上側の軸受20aにおいて問題となる。また、同図(b)に示す軸流ファンのような装置では、軸受20の端面とスラストワッシャ21との摺動でスラスト荷重を支持するため、回転するワッシャ21から振り切られた油が軸受外に流失しやすい。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
軸受内部からの油の流失に対する対策として、補油機構を設けることが考えられる。補油機構として、油を含ませたフェルト(繊維状油補給物)を、軸受端面または外周面に接触させて配置した構成が知られている。しかし、フェルトを用いた構成では、以下のような問題点があった。
【0005】
▲1▼ フェルトの変形によって、軸受との接触状態が維持されない場合がある。特に、図6(a)に示すような縦軸姿勢の場合、フェルトの変形によって、上側の軸受20aの端面20a1との間にすきまができてしまうと、補油機構としての機能を果たし得なくなる。
【0006】
▲2▼ フェルトが軸に接触するようなことがあると、軸受すきまにフェルトの繊維くずが巻き込まれて、トルク上昇、トルク変動、軸振れ増加などの支障をきたすおそれがある。
【0007】
また、特開平6-173953号公報に開示されているように、二つの軸受間にグリースを充填した構成もある。しかし、このようなグリースを充填する構成では、以下のような問題点がある。
【0008】
▲3▼ 軸受を設置する工程とグリースを充填する工程とが必要で、作業が煩雑化する。また、軸受面にグリースが付着すると高トルクの原因となる。これを避けるためには、グリースを充填する際に予め軸受に軸を挿入しておかなければならず、組立作業が煩雑化する。
【0009】
▲4▼ 回転中にグリースが軸にまとわりつくことがあり、トルク変動の原因となる。
【0010】
本発明は、上記に指摘したような弊害を生じさせることなく、軸受内部からの油の流失を抑制し、また、軸受内部に油を効果的に補給することができる構成を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、多孔質体に、支持すべき軸の摺動面と滑りを生じる軸受面を形成すると共に、潤滑油又は潤滑グリースを含浸させた多孔質含油軸受と、合成樹脂基材に潤滑成分を分散保持させた固形状の樹脂潤滑組成物とを備え、軸は、上端部にロータが装着されると共に、上下方向に離隔配置された一対の前記多孔質含油軸受で支持され、樹脂潤滑組成物は、上側の多孔質含油軸受の下端面及び下側の多孔質含油軸受の上端面のうち、少なくとも上側の多孔質含油軸受の下端面と接触するように配置されている構成を有するものである。
【0012】
請求項2の発明は、上記構成において、多孔質含油軸受と樹脂潤滑組成物とを一体化したものである。
【0013】
本発明における固形状の樹脂潤滑組成物は、合成樹脂基材に潤滑成分を分散保持させた構造を有するため、軸受内部から樹脂潤滑組成物との接触面に漏れ出ようとする油に対して壁の役目を果たし、油の流失を抑制する。また、軸受すきま等から漏れ出た油を吸収して、回収する役割も果たす。さらに、軸受内部から油が流失して空孔が生じた場合には、空孔部の毛細管力によって、樹脂潤滑組成物に分散保持された潤滑成分が、両者の接触面を介して軸受内部に補給される。このように、本発明における固形状の樹脂潤滑組成物は、▲1▼油漏出抑制、▲2▼油回収、▲3▼油補給(補油)の3つの機能を併せもつ。
【0014】
軸の上端部にロータを装着すると共に、軸を上下方向に離隔配置した一対の多孔質含油軸受で支持する軸受装置では{図6(a)参照}、前述のように、遠心力に加え、重力の影響もあるため、多孔質含油軸受の下端面や軸受すきまの下方からの油の漏れ出しが問題となる。特に、上側の多孔質含油軸受は、軸の上端部にロータが装着されていることにより、下側の多孔質含油軸受に比べて、軸回転時のモーメント荷重を多く受けるので、油の漏れ出しが生じやすく、また、油の漏れ出しによる影響も大きい。本発明は、このような軸受装置において、上記の固形状の樹脂潤滑組成物を少なくとも上側の多孔質含油軸受の下端面と接触するように配置することによって、軸受内部の保油量を常時適正量に保ち、もって、安定した軸受機能を長期にわたって維持させ、軸受寿命を向上させることをその基本的思想とする。それ故、多孔質含油軸受、固形状の樹脂潤滑組成物の形状・寸法、材質、両者の接触態様等は、そのような基本的思想の範囲内において、諸般の事情(使用条件、コスト性等)を考慮して適宜設定、選択、変更することができる。
【0015】
固形状の樹脂潤滑組成物の上記3つの機能(特に、▲1▼油漏出抑制機能、▲3▼補油機能)をより効果的に発揮させるため、樹脂潤滑組成物の油吸収力よりも多孔質含油軸受の毛細管力の方が大きくなるように設定するのが望ましい(請求項3)。ここでの毛細管力は、多孔質含油軸受の基材(多孔質体)に存在する気孔(空孔)の毛細管現象により得られるものである。
【0016】
本発明における多孔質含油軸受の基材(多孔質体)は、通常、鉄、銅、亜鉛、ニッケル等、または、これらを組み合わせた合金の微粉粒に混合、圧縮成形(又は発砲成形)、焼成、表面硬化等の処理を施して得られる均一な多孔質組織を有する焼結体であって、およそ50μm以下(多くは10μm以下)の多数の気孔(細孔、空孔とも呼ばれる。)が分布しているのが一般的である。軸受の形状は特に限定されるものではなく、平面軸受、スラスト軸受、ジャーナル軸受など、支持すべき軸の摺動面と滑りを生じる軸受面を有する形状であれば本発明の対象となり得る。また、本発明の多孔質含油軸受は、回転要素を支持するものに限られず、軸方向への摺動要素を支持するものも含まれる。
【0017】
本発明における樹脂潤滑組成物は、合成樹脂基材に潤滑成分を分散保持させた固形状のものであれば、特に限定されるものではないが、潤滑グリース又は潤滑油と、超高分子量ポリオレフィン粉末とを含む混合物を固形化したものを用いるのが、所期の効果を達成する上で望ましい(請求項4)。
【0018】
より具体的には、潤滑グリース5〜99重量%に、平均分子量1×106 〜5×106 である超高分子量ポリオレフィンの粉末95〜1重量%を混合すると共に、前記超高分子量ポリオレフィン粉末のゲル化点以上で且つ前記潤滑グリースの滴点以下の温度で分散保持させたものを用いることができる(請求項5)。
【0019】
あるいは、潤滑油5〜99重量%に、平均分子量1×106 〜5×106 である超高分子量ポリオレフィンの粉末95〜1重量%を混合すると共に、前記超高分子量ポリオレフィン粉末のゲル化点以上の温度で分散保持させたものを用いることができる(請求項6)。
【0020】
さらに、上記成分に油の滲出抑制剤1〜50重量%を添加混合しても良い(請求項7、請求項8)。油の滲出抑制剤としては、例えば固体ワックスを用いることができる(請求項9)。
【0021】
高温条件下で運転するような場合には、本発明における樹脂潤滑組成物として、反応性有機基を有する変性シリコーンオイルと、前記反応性有機基に反応する有機基を有する硬化剤とを、潤滑油又は潤滑グリース中で重合反応させて、前記潤滑油又は潤滑グリースをシリコーンの三次元網目構造体で保持したものであり、かつ、前記潤滑油又は潤滑グリースとして、前記変性シリコーンオイル及び前記硬化剤に相溶性のないものを採用した固形状の樹脂潤滑組成物を用いることもできる(請求項10)。
【0022】
前記変性シリコーンオイルと前記硬化剤との合計量が、この樹脂潤滑組成物の全重量に対して20〜80重量%であり、かつ、前記変性シリコーンオイルと前記硬化剤との重量比が10:1から1:10の範囲であるように成分調整すると良い。また、前記変性シリコーンオイル又は前記硬化剤の反応性有機基の官能基当量は、50〜5000g/molに設定すると良い。
【0023】
前記変性シリコーンオイルがアミノ変性シリコーンオイルであり、かつ、前記硬化剤がビスフェノール型エポキシ化合物である構成を採用することができる。あるいは、前記変性シリコーンオイルがアミノ変性シリコーンオイルであり、かつ、前記硬化剤が環式脂肪族エポキシ化合物である構成を採用することができる。
【0024】
また、本発明における樹脂潤滑組成物として、反応性有機基及びこの反応性有機基に反応する有機基を有する変性シリコーンオイルを、潤滑油又は潤滑グリース中で重合反応させて、前記潤滑油又は潤滑グリースをシリコーンの三次元網目構造体で保持したものであり、かつ、前記潤滑油又は潤滑グリースとして、前記変性シリコーンオイルに相溶性のないものを採用した固形状の樹脂潤滑組成物を用いても良い(請求項11)。
【0025】
前記変性シリコーンオイルの反応性有機基の官能基当量は、50〜5000g/molに設定すると良い。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0027】
図1に例示するレーザビームプリンタのスキャナモータにおいて、軸受装置は、ロータ1とステータ2との間の励磁力によって高速回転する軸3を、ハウジング4に対して回転自在に支持する役割をもち、焼結合金等からなる多孔質体(基材)に、軸3の外周面3aと微小な軸受すきま6を介して対向する軸受面5aを形成すると共に、潤滑グリース(又は潤滑油)を含浸させた多孔質含油軸受5と、合成樹脂基材に潤滑成分例えば潤滑油(又は潤滑グリース)を分散保持させた固形状の樹脂潤滑組成物7とを備えている。この実施形態において、軸3は縦軸姿勢であり、上下方向に離隔配置した一対の多孔質含油軸受5の軸受面5aで、軸3を滑り接触支持する構成にしてある。樹脂潤滑組成物7は、一対の多孔質含油軸受5の間に介装される。一対の多孔質含油軸受5および樹脂潤滑組成物7はいずれもリング形状であり、それぞれの上下方向に相対向した端面同士(上側の多孔質含油軸受5の下端面5bと樹脂潤滑組成物7の上端面7b、下側の多孔質含油軸受5の上端面5cと樹脂潤滑組成物7の下端面7c)が相互に接触している。尚、樹脂潤滑組成物7の内周面7aと軸3の外周面3aとの間のすきまは、軸受すきま6の2倍以上の大きさに設定されている。これは、トルクの上昇を招かないように配慮したものである。
【0028】
樹脂潤滑組成物7は、例えば、次のような方法で製作することができる。すなわち、所定量の潤滑グリース又は潤滑油と、所定量の超高分子量ポリオレフィンの粉末とを均一に混合し、所定形状の型に流し込んで、超高分子量ポリオレフィン粉末のゲル化点以上で、且つ、潤滑グリースを用いた場合はその滴点以下の温度で分散保持させ、常温で冷却することによって得られる。
【0029】
この実施形態に用いる超高分子量ポリオレフィン粉末は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブデン若しくはこれらの共重合体からなる粉末、または、それぞれ単独の粉末を配合した混合粉末であってもよく、この実施形態における各粉末の分子量は、粘度法により測定される平均分子量が1×106 〜5×106 である。前記のような平均分子量の範囲にあるポリオレフィンは、剛性及び保油性において低分子量のポリオレフィンより優れ、高温に加熱してもほとんど流動することがない。このような超高分子量ポリオレフィンの配合割合は、樹脂潤滑組成物7の全重量に対して95〜1重量%とするのが良いが(潤滑グリース又は潤滑油の配合割合は5〜99重量%とするのが良い)、樹脂潤滑組成物の所望の離油度、粘り強さ及び硬さに応じて適宜調整することができる。超高分子量ポリオレフィンの量が多いほど、所定温度で分散保持させた後のゲルの硬さは大きくなる。
【0030】
この実施形態に用いる潤滑グリースは、特に限定されるものではなく、石けん又は非石けんで増稠した潤滑グリースとして、リチウム石けん−ジエステル系、リチウム石けん−ポリαオレフィン系、リチウム石けん−ジアルキルジフェニルエーテル系、リチウム石けん−鉱油系、ナトリウム石けん−鉱油系、アルミニウム石けん−鉱油系、リチウム石けん−ジエステル鉱油系、非石けん−ジエステル系、非石けん−鉱油系、非石けん−ポリオールエステル系、リチウム石けん−ポリオールエステル系などのグリースが挙げられる。同じくこの実施形態に用いる潤滑油も特に限定されるものではなく、ジエステル系、鉱油系、ジエステル鉱油系、ポリオールエステル系、ポリαオレフィン系、ジアルキルジフェニルエーテル系などの潤滑油を挙げることができる。なお、潤滑グリースの基油、又は、潤滑油は、多孔質含油軸受に当初含浸される潤滑油と同じものであることが望ましいが、潤滑特性を損なわない限りにおいて、多少異なるものであっても良い。
【0031】
上記の超高分子量ポリオレフィンの融点は、上記平均分子量に対応して異なるため、一概には言えないが、例えば粘度法による平均分子量が2×106 のものの融点は136℃である。同平均分子量の市販品としては、三井石油化学工業社製:ミペロン(登録商標)XM−220などがある。
【0032】
上記のような潤滑成分としての潤滑グリース又は潤滑油を、超高分子量ポリオレフィンの基材(マトリックス)に分散保持させるには、上記した材料を混合した後、超高分子量ポリオレフィンがゲル化を起こす温度以上で、かつ、潤滑グリースを用いた場合は、その滴点未満の温度、例えば150〜200℃で加熱する。
【0033】
この実施形態における樹脂潤滑組成物7は、超高分子量ポリオレフィン基材に潤滑成分としての潤滑グリース又は潤滑油を分散保持させた構造を有するため、特に上側に配置された多孔質含油軸受5の下側面5bから、軸3の回転に伴う油の流動によって漏れ出ようとする油に対して壁の役目を果たし、軸受内部からの油の流失を抑制する。また、軸受すきま6から漏れ出た油を吸収して、回収する役割も果たす。さらに、多孔質含油軸受5の内部から油が流失して空孔が生じた合には、空孔部の毛細管力によって、樹脂潤滑組成物7に分散保持された潤滑成分が、両者の接触面(5bと7b、5cと7c)を介して多孔質含油軸受5に補給される。このように、樹脂潤滑組成物7は、▲1▼油漏出抑制、▲2▼油回収、▲3▼補油の3つの機能を併せもつ。したがって、多孔質含油軸受5の内部には常に油が満たされた状態になり、長期にわたって良好な潤滑性能が維持される。そのため、この実施形態の多孔質含油軸受5は長期にわたって優れた軸受機能を発揮し、また長寿命である。さらに、従来のフェルトと違って繊維状のものを含まないので、軸受隙間内に繊維などのゴミが入り込むこともなく、グリースと違って固形状であるため、回転する軸にまとわりつくことがなく、トルク変動の原因となることもない。そして、固形状であるので取り扱いが極めて容易で、組立時の効率が良い。
【0034】
尚、上記のような樹脂潤滑組成物7の機能を実効あらしめるため、樹脂潤滑組成物7の油吸収力よりも多孔質含油軸受5の毛細管力の方が大きくなるように設定するのが望ましい。この油吸収力と毛細管力との関係を概念的に表現すると、(1)多孔質含油軸受5に油の満たされていない空孔が生じた場合には、樹脂潤滑組成物7から多孔質含油軸受5に油が補給され、(2)樹脂潤滑組成物7がその保油能力の100%、油を保有していない場合でも、多孔質含油軸受5から樹脂潤滑組成物7に油が移動・流入することがなく、(3)多孔質含油軸受5の下側に樹脂潤滑組成物7が接触配置された場合でも、上記▲1▼油漏出抑制、▲2▼油回収の機能を有する関係に設定するのがより望ましいと言うことができる。
【0035】
また、軸受面5aの全面積に占める気孔の面積の割合は2〜10%の範囲にすると良い。望ましくは5%前後とするのが良い。
【0036】
図2は、この実施形態に係わるレーザビームプリンタモータ(図1)と、固形状の樹脂潤滑組成物を備えていない従来のレーザビームプリンタモータ{図6(a)}を用いて、上側の多孔質含油軸受の試験前後での保油量を調べた結果を示している。図6(a)に示す従来品では、100hの運転後、約30%の油が流失してしまっていたのに対して、図1に示す実施形態品では、100hの運転後でも保油量の変化は認められなかった。樹脂潤滑組成物7の上述したような3つの機能によって、多孔質含油軸受5の保油量が維持されたものと考えられる。
【0037】
ところで、高温雰囲気下で使用される場合や、高速回転で使用され摩擦による発熱が大きい場合は、樹脂潤滑組成物7からの油の滲み出しが過剰になる場合も想定される。このような場合には、樹脂潤滑組成物7に滲出抑制剤を加えることによって、接触面7b、7cに滲み出す油の離油率を適度に抑え、多孔質含油軸受5への補油量を適正なものとすることができる。この滲出抑制剤としては、ワックス(ロウ)のうち、固体ワックスまたはこれを含む低分子量ポリオレフィンなどの配合物を使用する。上記固体ワックスとしてはカルナバロウ、カンデリナロウ等の植物性ワックス、ミツロウ、虫白ロウ等の動物性ワックス、またはパラフィンロウなどの石油系ワックスが挙げられる。このような滲出抑制剤は、樹脂潤滑組成物7の全重量に対して、1〜50重量%の割合で配合すると良い。この配合割合が多いほど離油率を抑制でき、油が滲み出る速度が小さくなるが、50重量%を越えると、樹脂潤滑組成物7の強度を低下させるので好ましくない。
【0038】
図3に示す実施形態は、固形状の樹脂潤滑組成物7の軸方向長さを短くして、その上端面7bを上側の多孔質含油軸受5の下端面5bにのみ接触させたものである。前述のように、縦軸姿勢の構造では、油の流出は特に上側の多孔質含油軸受5において問題となるので、そのことに配慮したものである。
【0039】
図4(a)〜図4(d)に示す実施形態は、いずれも、多孔質含油軸受5と固形状の樹脂潤滑組成物7とを一体化したものである。図4(a)は、多孔質含油軸受5の一方の端面に円盤状の樹脂潤滑組成物7を接触状態で被嵌したものである。尚、他方の端面にも同様の樹脂潤滑組成物7を接触状態で被嵌しても良い。図4(b)〜(d)は、多孔質含油軸受5の基材(多孔質体)に充填空間8を設けて、この充填空間8に樹脂潤滑組成物7を充填固化させたものであり、図4(b)は、多孔質体の外周面に軸方向の溝を設けてこの溝に樹脂潤滑組成物7を充填したもの、図4(c)は多孔質体に軸方向の貫通孔を設けてこの孔に樹脂潤滑組成物7を充填したもの、図4(d)は、多孔質体を軸方向に沿って放射状に切除してこの切除部分に樹脂潤滑組成物7を充填したものである。図4(a)〜図4(d)の何れの構造でも、多孔質含油軸受5と樹脂潤滑組成物7とが一体化されているので、上述したような効果が得られると同時に、ハウジング4への組み込みを従来品と全く同じ工程で行なうことができ、組み込み作業を効率化することができる。
【0040】
なお、図4(a)の構成では、樹脂潤滑組成物7の体積を大きくすることが可能であるので、より多くの油を保持することができ、その一方、図4(b)〜図4(d)の構成では、軸受寸法を単品軸受と同じにすることができるので、特に設計変更をすることなく、従来装置にそのまま組み込むことができるという利点がある。
【0041】
図5に示す実施形態は、図4(a)〜(d)に示すような一体型の軸受装置を横軸姿勢の軸流ファンに適用したものである。多孔質含油軸受5の外周面および端面に複数の溝状の充填空間を設けて、樹脂潤滑組成物7を充填してある。そして、多孔質含油軸受5の一端面にスラストワッシャ11を接触させている。
【0042】
高温条件下で運転するような場合には、以上説明した樹脂潤滑組成物7に代えて、反応性有機基を有する変性シリコーンオイルと、前記反応性有機基に反応する有機基を有する硬化剤とを、潤滑油又は潤滑グリース中で重合反応させて、前記潤滑油又は潤滑グリースをシリコーンの三次元網目構造体で保持したものであり、かつ、前記潤滑油又は潤滑グリースとして、前記変性シリコーンオイル及び前記硬化剤に相溶性のないものを採用した固形状の樹脂潤滑組成物を用いることもできる。
【0043】
前記変性シリコーンオイルと前記硬化剤との合計量が、この樹脂潤滑組成物の全重量に対して20〜80重量%であり、かつ、前記変性シリコーンオイルと前記硬化剤との重量比が10:1から1:10の範囲であるように成分調整すると良い。また、前記変性シリコーンオイル又は前記硬化剤の反応性有機基の官能基当量は、50〜5000g/molに設定すると良い。前記変性シリコーンオイルがアミノ変性シリコーンオイルであり、かつ、前記硬化剤がビスフェノール型エポキシ化合物である構成を採用することができる。あるいは、前記変性シリコーンオイルがアミノ変性シリコーンオイルであり、かつ、前記硬化剤が環式脂肪族エポキシ化合物である構成を採用することができる。
【0044】
前記変性シリコーンオイルとしては、シリコーンの側鎖又は末端にアミノ基、エポキシ基、水酸基、メルカプト基、カルボキシル基などが結合した周知の変性シリコーンオイルを特に限定することなく用いることができる。
【0045】
前記変性シリコーンオイルと前記硬化剤の反応性有機基との組合せは、互いに反応する有機基であれば任意に選定して組み合わせることができる。また、有機基の組合せ例は、一方の有機基がシリコーンオイル又は硬化剤のいずれかに結合することを限定したものではなく、例えば、アミノ基とエポキシ基の組合せであれば、アミノ変性シリコーンオイルとエポキシ硬化剤、および、エポキシ変性シリコーンオイルとアミノ硬化剤の両方の組合せを含む。すなわち、変性シリコーンオイルと硬化剤の反応性有機基との好ましい組合せの例は、ヒドロキシル基とイソシアナート基、ヒドロキシル基とカルボキシル基、ヒドロキシル基とエポキシ基、又はアミノ基とイソシアナート基、アミノ基とカルボキシル基、アミノ基とエポキシ基などである。
【0046】
また、変性シリコーンオイルの反応性有機基以外の部分を金属で置換してもよく、例えばシリコーンの一部をアルミニウムやチタン等の金属で置換したメタロシロキサンを用いれば、より耐熱性に優れた組成物が得られる。
【0047】
前記エポキシ基を有する硬化剤として好ましい化合物の具体例としては、ビスフェノール型エポキシ化合物、環式脂肪族エポキシ化合物が挙げられる。ビスフェノール型エポキシ化合物としては、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの反応物があり、その市販品として例えば油化シェルエポキシ社製「エピコート825、827、834、815」が挙げられ、またビスフェノールFとエピクロルヒドリンの反応物として、例えば油化シェルエポキシ社製「エピコート8070」が挙げられる。
【0048】
環式脂肪族エポキシ化合物としては、アリサイクリックジエポキシアセタール(例えばチバガイギー社製「CY175」)、アリサイクリックジエポキシアジペート(例えばチバガイギー社製「CY177」)、アリサイクリックジエポキシカルボキシレート(例えばチバガイギー社製「CY179」)、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレート、ジメチルグリシジルフタレート、ジメチルグリシジルヘキサヒドロフタレート、ダイコー酸グリシジルエステル、ダイコー酸グリシジルエステル変成物、アロコティックジグリシジルエステル、シクロアリファティックジグリシジルエステルなどが挙げられる。
【0049】
前記潤滑油は、シリコーンと相溶性のない潤滑油であり、例えば鉱油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、エーテル油、フッ素油、リン酸エステル油などのシリコーン油以外の潤滑油が挙げられる。また、このような潤滑油の2種以上を混合した混合油であっても、同様にシリコーンとの相溶性がなければ、それらの混合油を用いることができる。
【0050】
前記潤滑グリースは、上記のような潤滑油を基油として、金属石けんや非石けん(ジウレア、ベントン、ポリウレア等)の増稠剤を添加して適当な粘度にし、必要に応じて極圧剤等の各種添加剤を添加したものである。この実施形態に用いる潤滑グリース(増稠剤−基油)を以下に例示する。
【0051】
リチウム石けん−ジエステル油系、リチウム石けん−鉱油系、リチウム石けん−合成炭化水素系、ナトリウム石けん−鉱油系、アルミニウム石けん−鉱油系、リチウム石けん−ジエステル油系、非石けん−ジエステル油系、非石けん−鉱油系、非石けん−ポリオールエステル油系、非石けん−エーテル油系、非石けん−合成炭化水素系、リチウム石けん−ポリオールエステル油系などである。
【0052】
この実施形態の樹脂潤滑組成物は、潤滑油又は潤滑グリースから成る成分をシリコーンの三次元網目構造体で保持した際、潤滑油又は潤滑グリースとシリコーンとの相溶性がないので、三次元網目構造体によって形成される、潤滑油又は潤滑グリースを保持する空間が、潤滑油又は潤滑グリースとシリコーンの相溶性がある場合に比べて大きくなり、かつ、それらは連通した空間を形成する。そのため、樹脂潤滑組成物の内部に保持された潤滑又は潤滑グリースが、連通孔を経て組成物表面に滲み出すことが可能となる。
【0053】
尚、シリコーンオイルを重合反応させる温度は、180°C以下、室温〜150°C程度であるから、樹脂基材や潤滑成分を熱劣化させることなく、製造後の樹脂潤滑組成物はシリコーン特有の耐熱性他の好ましい物性を有する。
【0054】
また、樹脂潤滑組成物として、反応性有機基及びこの反応性有機基に反応する有機基を有する変性シリコーンオイルを、潤滑油又は潤滑グリース中で重合反応させて、前記潤滑油又は潤滑グリースをシリコーンの三次元網目構造体で保持したものであり、かつ、前記潤滑油又は潤滑グリースとして、前記変性シリコーンオイルに相溶性のないものを採用した固形状の樹脂潤滑組成物を用いても良い。前記変性シリコーンオイルの反応性有機基の官能基当量は、50〜5000g/molに設定すると良い。
【0055】
以上に説明した固形状の樹脂潤滑組成物に、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば炭酸カルシウム、タルク、シリカ、クレー、マイカなどの鉱物性粉末類、ガラス繊維、アスベスト、石英ウール、カーボン繊維、金属繊維その他の無機繊維類、もしくは、これらを素材とする不織・編織布、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、ポリエステル繊維その他の有機繊維、または、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミドその他の熱硬化性・熱可塑性樹脂を添加しても良い。
【0056】
尚、本発明の軸受装置は、レーザビームプリンタ、軸流ファンや換気扇、扇風機などの電気製品、自動車用電装品などの各種のモータ等に広範囲に利用することができ、特にその耐久性を著しく向上させることができる。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、軸の上端部にロータを装着すると共に、軸を上下方向に離隔配置した一対の多孔質含油軸受で支持する軸受装置において、固形状の樹脂潤滑組成物を少なくとも上側の多孔質含油軸受の下端面と接触するように配置したので、多孔質含油軸受の保油量を常時適正量に保ち、もって、安定した軸受機能を長期にわたって維持させ、軸受寿命を向上させることができる。しかも、従来のフェルトを用いる構成に比べ、よりコンパクト化して単位体積あたりの保油量を多くできると同時に、フェルトの繊維クズが軸受すきまに入り込んでトルク変動等を生じさせるといった弊害もない。また、グリースそのものを使用する構成と比較しても、固形状であるため取り扱いが容易で、回転軸にグリースがまとわりついて回転変動を引き起こすこともない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図2】実施形態品と従来軸受との比較実験結果を示す図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示す斜視図である。
【図5】本発明の他の実施形態を示す断面図である。
【図6】従来の多孔質含油軸受の断面図である。
【符号の説明】
3 軸
3a 外摺動面
5 多孔質含油軸受
5a 軸受面
6 軸受すきま
7 樹脂潤滑組成物
Claims (11)
- 多孔質体に、支持すべき軸の摺動面と滑りを生じる軸受面を形成すると共に、潤滑油又は潤滑グリースを含浸させた多孔質含油軸受と、合成樹脂基材に潤滑成分を分散保持させた固形状の樹脂潤滑組成物とを備え、
前記軸は、上端部にロータが装着されると共に、上下方向に離隔配置された一対の前記多孔質含油軸受で支持され、
前記樹脂潤滑組成物は、上側の前記多孔質含油軸受の下端面及び下側の前記多孔質含油軸受の上端面のうち、少なくとも上側の前記多孔質含油軸受の下端面と接触するように配置されていることを特徴とする軸受装置。 - 前記多孔質含油軸受と前記樹脂潤滑組成物とを一体化した請求項1記載の軸受装置。
- 前記樹脂潤滑組成物の油吸収力よりも前記多孔質含油軸受の毛細管力の方が大である請求項1記載の軸受装置。
- 前記樹脂潤滑組成物が、潤滑グリース又は潤滑油と、超高分子量ポリオレフィン粉末とを含む混合物を固形化したものである請求項1記載の軸受装置。
- 前記樹脂潤滑組成物が、潤滑グリース5〜99重量%に、平均分子量1×106 〜5×106である超高分子量ポリオレフィンの粉末95〜1重量%を混合すると共に、前記超高分子量ポリオレフィン粉末のゲル化点以上で且つ前記潤滑グリースの滴点以下の温度で分散保持させたものである請求項4記載の軸受装置。
- 前記樹脂潤滑組成物が、潤滑油5〜99重量%に、平均分子量1×106 〜5×106である超高分子量ポリオレフィンの粉末95〜1重量%を混合すると共に、前記超高分子量ポリオレフィン粉末のゲル化点以上の温度で分散保持させたものである請求項4記載の軸受装置。
- 前記樹脂潤滑組成物が、潤滑グリース5〜99重量%に、平均分子量1×106 〜5×106である超高分子量ポリオレフィンの粉末95〜1重量%を混合すると共に、油の滲出抑制剤1〜50重量%を添加混合して、前記超高分子量ポリオレフィン粉末のゲル化点以上且つ前記潤滑グリースの滴点以下の温度で分散保持させたものである請求項4記載の軸受装置。
- 前記樹脂潤滑組成物が、潤滑油5〜99重量%に、平均分子量1×106 〜5×106である超高分子量ポリオレフィンの粉末95〜1重量%を混合すると共に、油の滲出抑制剤1〜50重量%を添加混合して、前記超高分子量ポリオレフィン粉末のゲル化点以上の温度で分散保持させたものである請求項4記載の軸受装置。
- 油の滲出抑制剤が固体ワックスである請求項7又は8記載の軸受装置。
- 前記樹脂潤滑組成物が、反応性有機基を有する変性シリコーンオイルと、前記反応性有機基に反応する有機基を有する硬化剤とを、潤滑油又はグリース中で重合反応させて、前記潤滑油又はグリースをシリコーンの三次元網目構造体で保持したものであり、かつ、前記潤滑油又はグリースとして、前記変性シリコーンオイル及び前記硬化剤に相溶性のないものを採用した請求項1記載の軸受装置。
- 前記樹脂潤滑組成物が、反応性有機基及びこの反応性有機基に反応する有機基を有する変性シリコーンオイルを、潤滑油又はグリース中で重合反応させて、前記潤滑油又はグリースをシリコーンの三次元網目構造体で保持したものであり、かつ、前記潤滑油又はグリースとして、前記変性シリコーンオイルに相溶性のないものを採用した請求項1記載の軸受装置。
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