JP3665606B2 - 動圧型多孔質含油軸受 - Google Patents

動圧型多孔質含油軸受 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、多孔質体に潤滑油あるいは潤滑グリースを含浸させて自己潤滑機能を持たせると共に、軸受隙間に介在する油の動圧油膜によって軸の摺動面を浮上支持する動圧型多孔質含油軸受及び軸受装置に関し、特にレーザビームプリンタのポリゴンミラーや磁気ディスクドライブ用のスピンドルモータなど、高速下で高回転精度が要求される機器の軸受として好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
多孔質含油軸受は、自己潤滑性を有する軸受として広く用いられているが、真円軸受の一種であるため、軸の偏心が小さいところでは、不安定振動が発生しやすく、回転速度の1/2の速度で振れ回るいわゆるホワールが発生しやすい欠点がある。この対策としては、軸受面にヘリングボーン型やスパイラル型などの動圧溝を設けることが挙げられる。多孔質含油軸受に動圧溝を形成し、その動圧作用によって軸を支持し、不安定振動を抑制しようとした従来例としては、実公昭63-19627号公報に記載のものがある。
【0003】
実公昭63-19627号は、多孔質含油軸受の軸受面に、表面目つぶし加工を施した動圧発生用の溝を設けたものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実公昭63-19627号の構造では、以下の問題がある。
【0006】
▲1▼ 溝部が完全に封孔されているので、溝部では多孔質含油軸受の最大の特徴である油の循環が阻害される。従って、一旦軸受隙間に滲み出した油はヘリングボーン溝の作用によって溝の屈曲部に押し込まれ、そこにとどまることになる。軸受隙間内では大きな剪断作用が働いているので、その剪断力と摩擦熱によって溝部にとどまった油は変性しやすく、また、温度上昇によって酸化劣化が早まる傾向にある。従って、軸受寿命が短くなる。これに対し、通常の多孔質含油軸受では、含浸された油は、軸の回転に伴って常に軸受隙間および軸受内部を循環するため、軸受隙間内で連続的に剪断力を受けることはなく、いったん暖められても軸受内部で冷やされるので、温度上昇による酸化劣化の影響は受けにくい。
【0007】
▲2▼ 溝部を封孔処理することは極めて困難である。当該公報では塑性加工により封孔できるとしているが、通常、動圧溝の溝深さはμmオーダーのものであり、この程度の圧縮成形で表面の開孔部が封孔されることはない。また、塑性加工の他の手段としてコーティング等を挙げているが、コーティング被膜の厚さは溝深さよりも薄くする必要があり、数μmのコーティング被膜を傾斜した溝部のみに施すのは極めて困難である。
【0008】
このような状況に鑑み、本発明の解決しようとする課題は、
▲1▼ 通常の多孔質含油軸受のように含浸された油が軸受隙間と軸受内部を循環するようにし、それによって油が劣化しにくい構造とすること、
▲2▼ 工業的に実現可能なものとするため動圧溝に開孔部があっても動圧効果を発揮し得る軸受仕様を見出すこと
にある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
軸受本体(1)の軸受面に動圧溝(ヘリングボーン型やスパイラル型等の複数の傾斜した溝)を設けると、軸方向断面での油の流れは、例えば図2に示すようになる。油は、矢印で示すように軸受本体(1)の軸受面17(内周表面)の開孔部から回転軸(2)との間の軸受隙間(4)に出入りするが、油の循環を適性に保とうとすれば、動圧溝(5)、及び当該溝以外の「背」の部分(6)(何れも図7参照)で開孔部がほぼ均一に分布しているのが望ましい。表面における開孔部の割合が小さくなると、油は動きにくくなり、逆に大きくなると油は動きやすくなる。また、含浸油の粘度も油の動きやすさに関係し、粘度が低いと動きやすく、粘度が高いと動きにくくなる。尚、本明細書において、「開孔部」とは多孔質体である軸受本体の多孔組織をなす細孔が外表面に開口した部分をいう。
【0010】
開孔率が大きく、粘度が低い場合には、油は極めて動きやすくなるが、動圧溝(5)の作用によって軸受隙間(4)に滲み出した油は簡単に軸受本体(1)の内部に戻されるため、動圧効果が小さくなり、高回転精度を維持できないばかりか、軸(2)と軸受本体(1)とが接触することにより、軸受本体(1)が摩耗して軸受機能が損なわれるおそれがある。逆に開孔率が小さく、粘度が高い場合は、油は極めて動きにくくなるので、発生圧力は大きくなるが、適切な循環が阻害され、またトルクも大きくなるため、軸受部分の昇温によって油の劣化が促進される。
【0011】
従って、開孔率と油の粘度には、軸を浮上支持するために必要な油の動圧油膜形成を確保し、同時に、油の適切な循環を確保し得る最適な範囲が存在する。
【0012】
この最適範囲を明らかにすべく、図3及び図4に示すLBP実機モータを用いて評価試験を行った。両図において、(7)はハウジングであり、(8)は、軸(2)に固定された、ハブ(ロータ)である。また、(9)は軸(2)の先端と接触してスラスト負荷を支持するためのスラスト受けである。評価試験に用いた実機モータは、軸径がφ4のもので、ミラーを実装した状態であり、また、回転数は10000rpm、雰囲気温度は40℃とした。
【0013】
図5に評価試験の結果を示す。図5中、「○」は1000時間連続運転した耐久試験で問題のなかったことを示す。「Δ」は500〜1000時間の間で軸振れ上昇(5μm以上)、トルク上昇=回転数低下(10000rpmまで回転数が上がらない)、異音発生などのトラブルを発生し、正常な運転が不可能になったことを示す。「×」は500時間までに上記のようなトラブルが発生したことを示す。
【0014】
以上の評価実験から、開孔率と油の粘度の最適範囲(「×」の存在しない範囲)は、図5に実線で区画する領域、すなわち、以下の条件
▲1▼ 動圧溝を含む軸受面における開孔部の表面積比率が2%以上20%以下であり、
▲2▼ 含浸される油の40℃での動粘度が2cSt以上であり、
▲3▼ 軸受面における開孔部の表面積比率と油の40℃での動粘度が
(3/5)A−1 ≦ η ≦ (40/6)A+(20/3)
ここで、A;開孔部の表面積率 [%]
η;油の40℃での動粘度[cSt]
を満たす場合であることが理解できる。このような範囲で開孔率と油の粘度を選定することにより、軸を浮上支持するために充分な動圧油膜が形成されると同時に、油の適切な循環が確保されるので、高回転精度、長寿命を達成することができる。
【0015】
なお、軸受面における開孔部の表面積比率は望ましくは2%以上、15%以下とするのが良い。
【0016】
動圧溝(5)の溝深さ(h:図7参照)と軸受隙間(半径隙間:c)との比には最適な範囲があり、この範囲外では充分な動圧効果が得られないと考えられる。この最適範囲を明らかにすべく、図6に示すように、図3に示すLBP実機モータの軸(2)を軸振れが測定できるように長いものに入れ替えて評価試験を行った。回転数は10000rpm、試験雰囲気は常温常湿であり、LBP実機モータはφ4でミラー未実装としている。なお、(10)は非接触型の変位計である。
【0017】
以上の条件の下、c/h(c;半径隙間、h;溝深さ)に対する軸振れの値をそれぞれプロットしたところ、図8に示す結果を得た。図8より、c/hが0.5〜4.0の範囲内であれば、軸振れは5μm以下になるが、0.5未満、あるいは4.0より大きくなると5μm以上となる。従って、高精度を維持するためには、c/h=0.5〜4.0の範囲内とするのが望ましい。
【0018】
多孔質含油軸受は、通常無給油で使用されるが、油の飛散、蒸発などにより油が徐々に消耗、流出することが避けられない。その場合には、油膜形成範囲が収縮するため、軸振れなどの回転精度の悪化を招く。特に軸姿勢が縦型で使用される場合が多く、毎分1万回転以上の高速で使用されるレーザビームプリンタ(LBP)用モータ、あるいは磁気ディスクドライブ(HDD)用モータ等では、図12に示すように、遠心力の作用で油が流出し易く、油膜形成性等の潤滑性能の維持が難しかった。
【0019】
LBPやHDDでは、油膜切れを生じることは、高精度の回転を維持する上で、致命的となる。特に軸受本体を単独とした場合には、高速で回転すると、油は周囲の空気も巻き込んで軸受内部を循環するため、軸受隙間に空気が混入することがある。空気の混入を防止するためには、軸受本体の内部に少しでも空孔ができたら油を補給する部材(補油部材)を配置するのが有効な対策となる。
【0020】
このような補油部材として、本発明では、図1に示すように、合成樹脂を基材とし、これに潤滑油又は潤滑グリースを配合あるいは含浸させ、少なくとも20℃以上の温度では、静置した状態でも含有した油が表面に滲み出すようにした固形状の潤滑組成物(3)を軸受本体(1)と接触させて配置している。かかる構成により、軸受本体(1)の油が流失しても、当該軸受本体(1)に接触させて配置した潤滑組成物(3)から新たな油が毛細管現象によって軸受本体(1)の内部に補給されるので、回転軸(2)との間に常時良好な動圧油膜を形成することが可能となる。
【0021】
具体的には、固形状の潤滑組成物(3)は、軸受本体が含有する潤滑油又は当該潤滑油を基油とする潤滑グリース5〜99wt%に、平均分子量が1×106 〜5×106 である超高分子量ポリオレフィンの粉末95〜1wt%を混合すると共に、超高分子量ポリオレフィン粉末のゲル化点以上、かつ、潤滑グリースを用いた場合はグリースの滴点以下の温度で分散保持させることにより、成形される。
【0022】
このように、潤滑組成物を潤滑油あるいは潤滑グリースと超高分子量ポリオレフィン粉末との混合物で構成して固形状とすると、低コストで量産性に富み、取扱いが容易で組込み作業が簡単なものとなる。また、この固形状の潤滑組成物は、常温(20℃程度)以上の温度で内部に含有した油をごく僅かずつ滲出させるので、連続的に軸受へ油を補給し続けることができる。図9は本発明における固形状の潤滑組成物(3)を静置し、放置時間と油分離率を調べた結果である。雰囲気が20℃でも1000時間にわたって僅かずつ油を分離し続けることが理解できる。雰囲気温度が上昇すれば、この分離量も増える。
【0023】
図10は、固形状の潤滑組成物を軸受に密着させた場合と、このような補油部材がなかった場合の比較であり、補油部材がない場合には(「黒四角」で示す)、当初含まれていた油が2000時間の運転で約30%流失してしまうが、補油部材がある場合には(「黒丸」で示す)、軸受本体から油が流失しても補油されるため、その損失量は僅か5%ほどに抑えられることが理解できる。
【0024】
高温雰囲気下で使用される場合や、高速回転で使用され、摩擦による発熱が大きい場合には、固形状の潤滑組成物からの油の滲み出しが多すぎる場合が有るので、潤滑組成物の油滲出抑制剤として、固体ワックス、低分子量ポリエチレン、ポリアミド樹脂のうち1種以上を、1〜50wt%の割合で添加混合するのが好ましい。
【0025】
図1に示すように、軸受本体(1)(多孔質含油軸受A)の軸方向一方側又は両側に、軸受本体(1)と同等若しくはこれよりも僅かに大きい内径を有する円筒状の油漏れ防止部材(11)を配置し、この油漏れ防止部材(11)の内周面に、軸(2)との相対回転に際して軸(2)との間の隙間に軸受本体側へ向けて流れる気流を発生させる気流発生溝(12)を設けてもよい。この気流発生溝(12)は、例えば複数の傾斜溝を設けることによって形成できる。図面では、上下二段に軸受本体(1)を配置し、上段の軸受本体(1)の外側に油漏れ防止部材(11)を配置した場合を例示しているが、当該軸受本体(1)の内側にも油漏れ防止部材(11)を配置することが可能であり、さらに下段の軸受本体(1)の一方側又は両側に油漏れ防止部材(11)を配置することも可能である。
【0026】
この構成であれば、図11に示すように、回転軸(2)と油漏れ防止部材(12)の内周面との間の隙間(13)に、軸(2)の回転に伴って軸受本体(1)の方向(図面下方)へ流れる気流が発生するので、軸受部から油が漏れ出たとしても、軸(2)と油漏れ防止部材(11)との間の隙間(13)を通過できない。この作用によって油漏れが防止される。また、静止時には、当該隙間(13)の毛細管力で油を保持するので、回転が止まっても油が漏れ出ることはない。
【0027】
この場合、油漏れ防止部材(11)を多孔質体とし、且つ隣接する軸受本体(1)との間に空間(14)を設けるとよい。この構成であれば、漏れ出てきた油を多孔質体からなる油漏れ防止部材(11)に吸収することができる。また、静止時には油漏れ防止部材(11)と軸(2)との間の油も吸収できるので、大気にさらされる部分が減り、油の蒸発や発塵を減少させることができる。油漏れ防止部材(11)に吸収された油は、回転に伴って隙間(13)内に引き出され、気流発生溝(12)の作用で生じた気流により空間(14)を介して軸受本体(1)側に返される。
【0028】
図1に示すように、油漏れ防止部材(11)の、軸受本体(1)と反対側の端面(11a)及びチャンファ部(11b)に目潰し加工を施し、この部分の表面開孔率が面積比で5%以下、望ましくは完全に封孔すれば、油漏れ防止部材(11)に吸収された油の蒸発、発塵をさらに減少させることができる。
【0029】
図1に示すように、一端が開放され、他端が閉塞されている円筒状のハウジング(7)内に、軸受本体(1)を圧入固定すると共に、この軸受本体(1)に接触させて固形状の潤滑組成物(3)を収納し、かつ、軸受本体(1)の外側に油漏れ防止部材(11)を配置してハウジング(7)の開口部を閉塞する。この場合、上述のように、軸受に動圧作用があり、さらに潤滑組成物(3)から常時油が補給されるので、常に良好な動圧油膜形成を維持することができ、長期間にわたって高回転精度を維持することができる。また、軸受部からの油の漏洩は、油漏れ防止部材(11)によって補足され、流出することもない。
【0030】
ハウジング(7)の底面(7a)と、これに対向する軸受本体(1)の内側端面(1a)との間に空間(15)を設け、この空間(15)とハウジング外部とが軸受隙間(4)以外の箇所で連通するように空気流通路(16)を設けると、この空気流路(16)は空気抜きとして機能する。これにより、組立時に軸(2)が挿入し易くなる。また、回転時には発熱によって内圧が高まり、軸(ロータ)が押し上げられて回転が不安定となる場合があるが、かかる事態も防止可能となる。
【0031】
回転軸(2)に回転部材、例えばロータ(8)を取り付けると共に、このロータと対向する軸受本体(1)の端面にヘリングボーン型、あるいはスパイラル型等の動圧溝を設け、回転軸(2)の回転時にこの動圧溝で生じる動圧によりスラスト負荷を支持するようにすれば、ラジアル負荷のみならずスラスト負荷も支持できるようになり、スラスト受け(9)が不要となる。
【0032】
この場合、動圧溝を設けた軸受本体(1)の端面における開孔部の表面積比率は、2%以上で20%以下とするのが好ましい。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
【0034】
図1は、本発明にかかる動圧型多孔質含油軸受装置の一例を示すもので、一端が開放され、他端が閉塞されているハウジング(7)内に、軸受面(17)を有する2つの軸受本体(1)を圧入固定し、この軸受本体(1)の内周部に軸(2)(回転軸)を挿入して軸方向に離隔する2つの多孔質含油軸受(A)を構成したものである。軸受本体(1)の材質は特に限定されるものではなく、粉末冶金により、あるいは、鋳鉄、セラミックなどを焼結又は発泡成形することにより、多数の気孔を有する周知の多孔質体状に形成されたものであれば良いが、望ましくは、銅又は鉄、あるいはその両者を主成分とする焼結金属、さらに望ましくは銅を20〜95wt%含有する焼結金属で形成するのが良い。
【0035】
両軸受本体(1)の間には、合成樹脂を基材とし、これに潤滑油又は潤滑グリースを配合した固形状の潤滑組成物(3)が配置され、かつ、開放側(上段)の軸受本体(1)の上方には油漏れ防止部材(11)が配置されていてハウジング(7)の上端開口部を閉塞している。油漏れ防止部材(11)の上側端面(11a)及び上側のチャンファ部(11b)は、封孔処理がなされている。また、閉塞側(下段)の軸受本体(1)の端面(1a)と、ハウジング(7)の底面(7a)との間に空間(15)が設けられ、この空間(15)と外部とが連通するように空気の流通路(16)が設けられている。この空気流通路(16)は、例えば軸受本体(1)、潤滑組成物(3)、及び油漏れ防止部材(11)の外形面の一部に軸方向の切欠きを設けることにより形成される。軸受本体(1)及び油漏れ防止部材(11)の内周面には、複数の傾斜した溝(動圧溝5及び気流発生溝12)が設けられる。油漏れ防止部材(11)は多孔質体で形成されており、潤滑油などは含浸されていない。油漏れ防止部材(11)の材質は、特に限定されるものではなく、粉末冶金により、あるいは、鋳鉄、合成樹脂、セラミックなどを焼結または発泡成形することにより、多数の気孔を有する周知の多孔質体状に成形される。
【0036】
図1に示すように、軸受本体(1)の軸受面(17)に例えばへリングボーン型の動圧溝(5)を設けることによって、回転軸(2)との相対回転時に軸受隙間(4)に動圧油膜が形成され、ホワールなどの不安定振動を効果的に抑制することができる。尚、図1に示す軸受面(17)(図4に示す軸受面も同じ)においては、溝領域5(黒く塗りつぶした部分)が軸方向両側に向かって相反した向きに傾斜し、かつ、相反した向きに傾斜した溝領域5間に環状の背6(白い部分)が設けられている(同図では、環状の背6は軸受面の軸方向中央に位置している。)。軸受隙間(4)の幅(c)は、軸(2)の半径をRとした場合に、
c/R=1/2000〜1/400
とするのが望ましい。また、溝深さをhとした場合、
c/h=0.5〜4.0
とするのが良いが、さらに望ましくは、
c/h=0.5〜3.0
とするのが良い。
【0037】
また、軸受本体(1)の軸受面の開孔率は、表面積比率で、2〜20%とするのが望ましい。2%以下では油の循環が阻害され、20%以上では動圧効果が発揮されず、満足な動圧油膜が形成されないためである。この表面開孔率に応じて油の粘度が選択される。
【0038】
軸受本体(1)に接触させて配置される補油部材(3)は、金属や樹脂などの多孔質体、あるいはフェルトなどの繊維物質に油を含ませた周知のものでもよいが、固形状であり、少なくとも20℃以上の温度で含有する油を表面に滲み出し続ける固形状の潤滑組成物を用いるのが好ましい。この潤滑組成物は、ごく簡単な方法で製作することができる。例えば、所定量の潤滑グリースあるいは潤滑油と、所定量の超高分子量オレフィン粉末とを均一に混合し、所定形状の型に流し込んで、超高分子量ポリオレフィン粉末のゲル化点以上の温度で、さらに潤滑グリースを用いる場合はその滴点以下の温度で分散保持させ、常温で冷却することによって得られる。この発明における超高分子量ポリオレフィン粉末は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブデン若しくはこれらの共重合体からなる粉末、またはそれぞれ単独の粉末を配合した混合粉末であり、各粉末の分子量は、粘度法により測定される平均分子量が1×106 〜5×106 になるように選択される。このような平均分子量の範囲にあるポリオレフィンは、剛性及び保油性において低分子量のポリオレフィンよりも優れ、高温に加熱してもほとんど流動することがない。このような超高分子量ポリオレフィンの潤滑組成物中の配合割合は、95〜1wt%とする。なお、その量は組成物に要求される離油度、粘り強さ及び硬さに左右される。超高分子量ポリオレフィンの量が多いほど、所定の温度で分散保持させた後のゲルの硬さが大きくなる。
【0039】
また、この発明に用いる潤滑グリースは、特に限定されるものではなく、石鹸または非石鹸で増ちょうした潤滑グリースとして、リチウム石鹸−ジエステル系、リチウム石鹸−鉱油系、ナトリウム石鹸−鉱油系、アルミニウム石鹸−鉱油系、リチウム石鹸ージエステル鉱油系、非石鹸−ジエステル系、非石鹸−鉱油系、非石鹸−ポリオールエステル系、リチウム石鹸−ポリオールエステル系などのグリースが挙げられる。同じく潤滑油も特に限定されるものではなく、ジエステル系、鉱油系、ジエステル鉱油系、ポリオールエステル系などの潤滑油を挙げることができる。なお、潤滑グリースの基油あるいは潤滑油は、当初軸受本体(1)に含浸される潤滑油と同じものであることが望ましいが、潤滑特性を損なわない限りにおいて多少異なるものであってもよい。
【0040】
上記した超高分子量ポリオレフィンの融点は、その平均分子量に対応して変化するために一定ではないが、例えば粘度法による平均分子量が2×106 のものの融点は136℃である。同平均分子量の市販品としては、三井石油化学工業株式会社製の「ミペロン(登録商標)XM−220」などがある。従って、潤滑グリースあるいは潤滑油に超高分子量ポリオレフィンを分散保持させるには、上記した材料を混合した後、超高分子量ポリオレフィンがゲル化を起こす温度以上で、且つ潤滑グリースを用いた場合はその滴点未満の温度、例えば150〜200℃に加熱する。
【0041】
このような軸受装置は、レーザビームプリンタのポリゴンミラーモータや磁気ディスクドライブ用のスピンドルモータなどの他、軸流ファンや換気扇、扇風機などの電気製品、自動車用電装品など、各種のモータに広範囲に利用することができ、軸受部周辺を油で汚染させることなく、特にその耐久性を著しく向上させることができる。すなわち、当初多孔質含油軸受内に保持されていた油が流失しても、油漏れ防止部材(11)があるため軸受部の外には流出せず、また、軸受には固形状の潤滑組成物(3)から油が補給されるので、油膜が常に維持され、軸受本体(1)の軸受面に設けた動圧溝(5)の動圧効果によって高い回転精度を常に維持することができる。さらに、起動時の油切れによる摩耗などを防止し、耐久寿命を大幅に向上させることができるのである。この固形状の潤滑組成物は、フェルトと違って繊維状のものを含まないので、軸受隙間内に繊維等のごみが入り込むことがない。さらにグリースと違って固形状であるため、回転する軸(2)にまとわりついたりすることがなく、回転変動の原因とならない。そして、固形状であるため取扱いが極めて容易で組立時の効率が良い。
【0042】
また、磁性流体シールで密封するような構造ではないため、油漏れ防止部材(11)、軸受本体(1)、補油部材(潤滑組成物3)をそれぞれハウジング(7)に圧入等の手段によって固定するだけでよいから、組立時の効率が良く、コストが安い利点がある。
【0043】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、
▲1▼ ホワールなどの不安定振動を抑制することができ、軸振れを小さくして高い回転精度を達成することができる。
▲2▼ 常時、良好な動圧油膜形成を維持することができる。
▲3▼ 耐久性を大幅に向上させることができる。
という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す軸方向断面図である。
【図2】ヘリングボーン型動圧溝を設けた多孔質含油軸受における油の動きを示す軸方向断面図である。
【図3】評価試験用の多孔質含油軸受の軸方向断面図である。
【図4】評価試験用の多孔質含油軸受の軸方向断面図である。
【図5】評価試験の結果を示す図である。
【図6】評価試験用の多孔質含油軸受の軸方向断面図である。
【図7】多孔質含油軸受の半径方向断面図である。
【図8】c/hと軸振れとの関係を求める評価試験の結果を示す図である。
【図9】本発明にかかる固形状潤滑組成物の油分離率の経時変化を示す図である。
【図10】固形状潤滑組成物の有無による比較試験の結果を示す図である。
【図11】油漏れ防止部材を有する多孔質含油軸受における油の動きを示す軸方向断面図である。
【図12】一般的な多孔質含油軸受の軸方向断面図である。
【符号の説明】
1 軸受本体
2 回転軸
3 潤滑組成物
4 軸受隙間
5 動圧溝
7 ハウジング
8 ロータ(ハブ)
11 油漏れ防止部材
12 気流発生溝
16 空気流通路
17 軸受面
A 多孔質含油軸受

Claims (2)

  1. 多孔質体からなる軸受本体に、支持すべき軸の摺動面と軸受隙間を介して対向する軸受面を設けると共に、該軸受面に傾斜状の動圧溝を形成した多孔質含油軸受において、
    前記軸受本体は、銅又は鉄、あるいは、その両者を主成分とし、かつ、銅を20〜95Wt%含有する焼結金属で形成され、
    前記動圧溝を含む軸受面に開孔部がほぼ均一に分布しており、
    前記軸受面における開孔部の表面積比率が2%以上15%以下であり、
    含有する油の40℃での動粘度が2cSt以上であり、
    前記表面積比率と前記動粘度が、以下の式
    (3/5)A−1 ≦ η ≦ (40/6)A+(20/3)
    ここで、A;開孔部の表面積比率 [%]
    η;油の40℃での動粘度[cSt]
    を満足し、
    前記軸受隙間に介在する油の動圧油膜によって軸の摺動面を浮上支持すると共に、前記動圧溝を含む軸受面の開孔部を介して、油を前記軸受本体の内部と軸受隙間との間で循環させる動圧型多孔質含油軸受。
  2. 前記動圧溝の溝深さ(h)と前記軸受隙間(c)との比がc/h=0.5〜4.0であることを特徴とする請求項1記載の動圧型多孔質含油軸受。
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