JP3750835B2 - 鏡面仕上性に優れた高硬度耐食粉末ダイス鋼およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、光ディスク成形用金型等、鏡面仕上げを必要とし且つ高硬度と高耐食性を必要とする特にプラスチック成形金型材料に適する高硬度耐食粉末ダイス鋼およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、耐食高硬度プラスチック金型材料分野には、SUS440CやSKD11クラスの材料またはそれらを適度に成分調整した材料が多く用いられていた。高度の鏡面仕上げが必要とされる用途には、1次炭化物がピンホールの要因となるため、上記の材料よりC、Crを1次炭化物を生成し難いぎりぎりの範囲まで低減し(例えばSKD12類似組成)さらにESR(エレクトロスラグ再溶解法)などの手法で組織の微細化を図るなどの方法が取られてきた。しかしこの方法では得られる材料の熱処理硬さや耐食性に限界があるため、さらにSUS440C相当鋼を粉末化しHIP処理して適用することも実施されている。
【0003】
たとえば特開62−294149号には、SUS440C同等の耐食性を有し、熱処理硬さ58HRCを得られる粉末ダイス鋼に関する提案がなされている。この提案は鏡面仕上性と耐食性を両立させるという点で優れたものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述した粉末冶金法によるSUS440C相当鋼は、鏡面仕上性の点では有利であるものの、熱処理硬さと耐食性の点では、従来のSUS440C材の域を越えていないという問題があった。例えば従来の方法では熱処理硬さ62HRC以上を得ることは困難であり、またSUS440Cに比較して種々の腐食テストにおいて半分以下の腐食減量を得ることも難しい。一方、近年のスーパーエンプラ用金型材料にはこのような高度の耐食性と硬度が要求されることは珍しくなくなろうとしている。熱処理硬さと耐食性の限界の問題は、金型の長寿命化を実現する上で大きな問題となる。
本発明の目的は、耐食性と熱処理硬さを改善し、さらに高度の鏡面仕上性を具備したプラスチック金型材料に適した粉末ダイス鋼およぴその製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の問題を検討し、SUS440C相当鋼に対して従来にない2.3%以上という多量のMoの添加を実現化するとともに、各添加元素の最適化を行うことで熱処理硬さおよび耐食性を大きく改善できることを見いだし本発明に到達した。
【0006】
すなわち本発明は重量%でC;1.0〜1.6%、Si;0.7〜1.5%、Mn;1.5%以下、Cr;15.0〜22.0%、Mo;2.3%〜5.0%、W;2.0%以下、V0.1〜2.0%を含み、且つCr/(C−V/5)の値が13〜20であり、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鏡面仕上性に優れた高硬度耐食粉末ダイス鋼である。
【0007】
本発明においては、Ni;1.5%以下とCo;3.0%以下の1種または2種、あるいはW;2.0%以下を含むことができる。
【0008】
本発明の高硬度耐食粉末ダイス鋼は、たとえば、上記組成を有する粉末を合金粉末を加圧焼結し、インゴットとし、ついで1000〜1150℃の温度範囲内で歪み速度100mm/mm/sec以下にて恒温的鍛造を一回または複数回繰り返し行うことにより得ることができる。加圧焼結の方法としては、熱間静水圧プレスを適用することが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
上述したように、本発明の重要な特徴の一つはMoの2.3%以上の添加を採用したことにある。Moの2.3%以上添加は本発明鋼において耐食性と熱処理硬さの両方を従来なかった極めて高いレベルに到達せしめる作用を担う。
従来SUS440C相当鋼へのMoの2.3%以上の添加は、その熱間加工が極めて困難であるため実用化が試みられたことはなかった。しかし、発明者は今回この問題を鋭意検討した結果熱間加工方法として1000−1150℃の温度範囲内で歪み速度100mm/mm/sec以下にて恒温的鍛造を一回または複数回繰り返し行うことを採用することにより実現が可能であることを見出した。
【0010】
すなわち、Mo2.3%以上添加の本発明鋼は熱間加工温度範囲(通常1200−800℃)での耐力が高く伸びにくい特性を有するため、最適加工条件を外れると直ちに表面割れを生じやすい。
この問題を鋭意検討した結果、100mm/mm/sec以下の通常の鍛造歪み速度にて初期加熱温度および加工終了温度を含め、1000−1500℃、好ましくは1050−1100℃の温度範囲にて繰り返し鍛造を行うことにより所望の寸法に加工可能で有ることを見出した。
【0011】
この発明により従来実用化されていなかったMo2.3%以上添加材の実用化が可能となったのである。
本発明の鋼は、インゴット製造時に熱間静水圧処理を適用することにより、高圧焼結によって組織を微細化した状態で真密度化することができる。これによって熱間加工時の割れを防ぐことができ、高度の鏡面仕上げ加工に耐え得る材料を得ることが可能となる。
【0012】
以下に本発明鋼の成分限定理由を示す。
Mo;2.3%〜5.0%
Moは、本発明においてもっとも重要な元素の一つである。
Moは、Cと結合して微細な複合炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる。また、これらの微細炭化物の存在により、Crが主体となって形成されるM7C3型の炭化物粗大化を抑制する。さらに基地中に固溶して不働態皮膜を強化し耐食性を向上させ、また500℃前後での焼戻しにおいて微細な炭化物として析出して2次硬化硬さを著しく高める。
これらの作用を十分発揮させるためには2.3%以上が必要であり、上述した本発明の製造方法を適用することによって、2.3%以上の添加を可能とできたものである。しかし、5.0%を越えると熱間加工性の劣化を製造方法の調整では補いきれないため、本発明においては、5.0%を上限とした。
【0013】
C;1.0〜1.6%
Cは、熱処理による硬さを確保するとともに、Cr,Mo、W等の炭化物形成元素と結合して硬い炭化物を生成し、金型に必要な耐摩耗性を維持するのに必要な元素である。このような効果を発揮するためには、1.0%以上が必要であるが多すぎると熱間加工性や金型の靭性が劣化するので1.6%を上限とする。
【0014】
Si;0.7〜1.5%
Siは、通常は脱酸材として使用するが、その他の効果として焼戻し工程でのセメンタイトの析出を阻止して、焼戻し2次硬化させるのに有効である。この効果を得るためにSiは0.7%以上必要であるが過剰になると加工性が著しく劣化するので、1.5%以下とした。
Mn;1.5%以下
Mnは、通常Siと同じく脱酸剤として用いられるが焼入れ性の向上にも効果がある。但し、1.5%をこえると焼なまし硬さが下がり難く、また熱間加工性も低下するので1.5%を上限とした。
【0015】
Cr;15.0〜22.0%、Cr/(C−V/5);13〜20
CrはCと結合して硬い炭化物を生成して耐摩耗性を向上させると同時に基地中にも固溶して緻密な不働態皮膜を形成し、耐食性を保持し、また焼入れ性を増大させる重要な元素である。
【0016】
Crが15%未満では耐食性が不足すると共に炭化物量が不足し上記効果が十分得られず、逆にCrが22%をこえると固溶Cが不足して焼入れ焼戻し硬さが下がるので、その範囲を15〜22%に限定した。尚、この範囲は好ましくは16〜20%である。またCrの作用はC量との関係により左右されるので以下の関係を同時に満足させることが必要である。すなわち耐食性維持のためCr量を有効C量(C−V/5)で割った値が13以上必要である。但しこの値が20をこえると焼入れ焼戻し硬さが下がるので13から20に制限する。尚、この値は、望ましくは16から18である。
【0017】
V0.1〜2.0%
Vは、少量添加でオーステナイト結晶粒粗大化防止による靭性向上の効果があり0.1%以上は必要である。また炭化物生成による耐摩耗性増大の効果もある。但し多量に含有すると基地中のC量を減少させ焼入れ硬さが低下したり、また加工性が劣化するので上限を2.0%とした
【0018】
Ni;1.5%以下とCo;3.0%以下の1種または2種
NiとCoは必ずしも添加する必要はないが、両元素は基地中に固溶して耐食性を向上するため必要に応じて添加する。このうちNiは焼入れ性を高めるのに効果的であるが多すぎると残留オーステナイトを増加させて硬さを低下させるので1.5%以下とする。また、Coは基地中に固溶して2次硬化性を向上させるが多すぎると加工性を低下させるし経済性も考慮して、添加する場合には3.0%以下とする。
【0019】
W;2.0%以下
Wは必ずしも添加する必要はないが、Moと同様に硬い炭化物を形成する元素であり、また2次硬化性に寄与し焼入れ焼戻し硬さを高める作用を有するのでMoを必須添加した上で必要に応じて添加される。しかし多量に添加すると熱間加工性を害するので上限を2.0%とするのが良い。
【0020】
【実施例】
次に実施例により本発明を詳述する。
表1に実施例に用いた本発明鋼および従来鋼、比較鋼の化学成分を示す。各試料は真空誘導溶解炉によって溶製後アトマイズにて粉末化し、HIPしてそれぞれ表2に規定した初期加熱温度および加工終了温度を含む温度範囲にて25mm角の棒状に鍛伸テストを行い、表面割れの発生度合いにより評価を行った。尚、鍛伸テストにおける歪み速度は100mm/mm/sec以下の通常の条件である。そして、鍛伸中に割れの発生具合を観察し、その結果を○印(良好)、△印(少し傷)、×印(割れ大)、××印(割れ非常に大、試験片とれず)の4段階で評価をした。その後、850℃で焼なましを施し、次いで試験片に加工した後、焼入れ、焼戻しを施した試料について、硬さ測定と耐食性試験を行った。
【0021】
熱処理条件は焼入れを1125℃に設定し−75℃(ドライアイス+アルコール)のサブゼロ処理を行った後500℃の焼戻しを行い、硬さ、および耐食性試験を行って評価した。
耐食性試験は試験片を鏡面研磨した後5%硫酸溶液中で40℃で5時間浸漬し、腐食の度合いにより○印はSUS440Cに対して腐食減量が30%以上少ない、△印はSUS440Cに対して腐食減量が5〜30%少ない、×印はSUS440Cと同等とする3段階で評価をした。これらの結果を表2に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
表1に示す本発明鋼は鋼の組成を適正に組み合わせることにより、いずれも25mm角への鍛伸が可能であった。また適正な熱処理を行うことにより62HRC以上の硬さを得る事ができた。これらの硬さは従来材であるSUS440Cの粉末材をはるかに凌駕するものであったが、耐食性についても同様にSUS440C粉末材のレベルを大きく上回っていた。
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば金型材の熱処理硬さ、鏡面仕上性、耐食性を飛躍的に改善することができ、スーパーエンプラ成形用金型等の実用化にとって欠くことのできない技術となる。
Claims (4)
- 重量%でC;1.0〜1.6%、Si;0.7〜1.5%、Mn;1.5%以下、Cr;15.0〜22.0%、Mo;2.3%〜5.0%、V0.1〜2.0%を含み、且つCr/(C−V/5)の値が13〜20であり、残部がFeおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする鏡面仕上性に優れた高硬度耐食粉末ダイス鋼。
- Ni;1.5%以下とCo;3.0%以下の1種または2種を含むことを特徴とする請求項1に記載の鏡面仕上性に優れた高硬度耐食粉末ダイス鋼。
- W;2.0%以下を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の鏡面仕上性に優れた高硬度耐食粉末ダイス鋼。
- 重量%でC;1.0〜1.6%、Si;0.7〜1.5%、Mn;1.5%以下、Cr;15.0〜22.0%、Mo;2.3%〜5.0%、V0.1〜2.0%を含み、且つCr/(C−V/5)の値が13〜20、あるいは更にNi;1.5%以下、Co;3.0%以下、W;2.0%以下を含み残部がFeおよび不可避的不純物よりなる合金粉末を加圧焼結し、インゴットとし、ついで1000〜1150℃の温度範囲内で歪み速度100mm/mm/sec以下にて恒温的鍛造を一回または複数回繰り返し行うことを特徴とする鏡面仕上性に優れた高硬度耐食粉末ダイス鋼の製造方法。
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