JP2005187900A - 表面処理性に優れた冷間工具鋼、金型用部品、および金型 - Google Patents

表面処理性に優れた冷間工具鋼、金型用部品、および金型 Download PDF

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征児 倉田
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利光 藤井
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Abstract

【課題】 高硬度の冷間工具鋼の母材と硬質被膜との密着性を高めて、その硬質被膜の割れや剥離を防止する。
【解決手段】 プレス金型10の母材12として用いられるとともに、表面にVC、TiC等の炭化物の硬質被膜14がCVD等の表面処理によって設けられる冷間工具鋼であって、(a) 1.0〜2.0wt%のC、0.01〜2.0wt%のSi、0.01〜2.0wt%のMn、6.0〜12.0wt%のCr、0.1wt%≦1/2 W+Mo≦4.0wt%を満足するWおよび/またはMo、0.01〜1.0wt%のV、0.0100wt%以下のO、0.200wt%以下のN、0.050wt%以下のP、および0.050wt%以下のAlを基本成分として含有し、(b) 残部が実質的にFeから成るとともに、(c) CおよびCrの含有wt%をそれぞれ[C]、[Cr]で表した時、4[C]≦[Cr]≦6[C]+3、および9≦[C]×[Cr]≦18を共に満足する。
【選択図】 図1

Description

本発明は表面処理性に優れた冷間工具鋼に関するもので、特に、母材の硬度を維持して硬質被膜との密着性を高め、その硬質被膜の割れや剥離を防止する技術に関するものである。
プレス型、曲げ型、抜き型、絞り型、ダイ、パンチやプレート等の金型や金型用部品には高い耐摩耗性が要求されることから、SKD11や8Cr系等の冷間工具鋼が広く用いられている。また、近年では、被加工材の強度も高くなり、金型に掛かる負荷が大きくなってきているため、上記SKD11や8Cr系等の冷間工具鋼に更にCVD(化学気相成長)処理やTD処理(T0YOTA Diffusion Process)などの表面処理(被覆処理)を施し、TiCやVC等の高硬度の炭化物の被膜を形成することにより金型寿命の延長を図ることが増えている。また、被加工材が発熱して金型温度が400〜500℃程度まで上昇するため、硬さ低下や径年変化の防止を目的として高温焼き戻しが行なわれることが多い。更に、特許文献1では、C(炭素)を有効に活用するためにV(バナジウム)を無添加とすることが提案されている。
特開平9−316601号公報
しかしながら、SKD11に表面処理を施してプレス金型として使用する場合、焼入れ・焼戻し後の母材の最高硬度は低温焼戻し、高温焼戻しの何れの場合もHRC(ロックウェルCスケール硬さ)60〜61と低いため、プレス加工時に大きな負荷が掛かる場合には、金型(母材)が変形して硬質被膜が割れたり剥離したりすることがあった。
8Cr系の冷間工具鋼の場合には、高温焼戻しによりHRC62〜63の高硬度が得られるものの、表面処理時に被膜直下の表層部で炭素の欠乏層が生じて硬さ低下が起きるため、やはり金型使用時には変形から硬質被膜の割れや剥離が発生するという問題があった。また、8Cr系冷間工具鋼には表面処理時に割れが起き易いという問題もあった。
一方、前記特許文献1の方法では、Vが無添加であるため、結晶粒の粗大化による靱性の低下や、二次硬化量が少なく、高硬度が得られ難いという問題があった。
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、高硬度の冷間工具鋼の母材と硬質被膜との密着性を高めて、その硬質被膜の割れや剥離を防止し、その冷間工具鋼を用いた金型等の耐久性を向上させることにある。
かかる目的を達成するために、種々の実験、研究を重ねたところ、8Cr系若しくはその周辺の組成において、表面処理温度で母材中に残存する炭化物量を増加させ、表面処理で炭化物の硬質被膜を形成する際の炭素の供給源とすることにより、HRC62以上の母材の硬度を保ったまま、硬質被膜直下の母材表層部の硬さ低下を抑えることができ、母材と硬質被膜との密着性を高められることを見出した。また、炭化物の量は6〜13wt%が適当で、そのためには炭素(C)およびクロム(Cr)の含有率を所定の割合にコントロールすることが有効であることを見出した。
本発明はかかる知見に基づいて為されたもので、第1発明は、表面処理性に優れた冷間工具鋼であって、(a) 1.0〜2.0wt%のC、0.01〜2.0wt%のSi、0.01〜2.0wt%のMn、6.0〜12.0wt%のCr、0.1wt%≦1/2 W+Mo≦4.0wt%を満足するWおよび/またはMo、0.01〜1.0wt%のV、0.0100wt%以下のO、0.200wt%以下のN、0.050wt%以下のP、および0.050wt%以下のAlを基本成分として含有し、(b) 残部が実質的にFeから成るとともに、(c) 前記CおよびCrの含有wt%をそれぞれ[C]、[Cr]で表した時、次式(1) および(2) を何れも満足することを特徴とする。
4[C]≦[Cr]≦6[C]+3 ・・・(1)
9≦[C]×[Cr]≦18 ・・・(2)
第2発明は、第1発明の基本成分に加えて、0.01〜3.0wt%のNi、および0.01〜5.0wt%のCoを更に含有していることを特徴とする。
第3発明は、第1発明または第2発明の基本成分に加えて、1.0wt%以下のNb、1.0wt%以下のTa、1.0wt%以下のTi、0.010wt%以下のB、および1.0wt%以下のCuの何れか1種または2種以上を更に含有していることを特徴とする。
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの基本成分に加えて、0.2wt%以下のS、0.0100wt%以下のCa、0.0100wt%以下のSe、0.0100wt%以下のTe、0.0100wt%以下のZr、0.0100wt%以下のMg、および0.050wt%以下のREM(希土類金属)の何れか1種または2種以上を更に含有していることを特徴とする。
第5発明は、第1発明〜第4発明の何れかの表面処理性に優れた冷間炭素鋼において、前記[C]および[Cr]は次式(3) および(4) を何れも満足することを特徴とする。
4[C]+3≦[Cr]≦4[C]+5 ・・・(3)
10≦[C]×[Cr]≦15 ・・・(4)
第6発明は、第1発明〜第5発明の何れかの表面処理性に優れた冷間炭素鋼において、1000℃以上の所定温度において、6〜13wt%の炭化物が母材中に固溶せずに残存していることを特徴とする。
第7発明は、第6発明の表面処理性に優れた冷間炭素鋼において、前記所定温度で、6〜13wt%の炭化物が母材中に固溶せずに残存している状態で、炭化物の硬質被膜を表面に設ける表面処理が行なわれることを特徴とする。
第8発明は、第7発明の表面処理性に優れた冷間炭素鋼において、(a) 前記硬質被膜はV、Ti、Nb、W、またはCrの炭化物で、(b) 前記表面処理はCVD処理またはTD処理であることを特徴とする。
なお、CVD処理は化学気相成長法による被覆技術で、TD処理はTOYOTA Diffusion Processによる被覆技術である。
第9発明は、第1発明〜第8発明の何れかに記載の表面処理性に優れた冷間工具鋼であって、金型または金型用部品として用いられることを特徴とする。
第10発明は、金型用部品であって、第1発明〜第6発明の何れかに記載の表面処理性に優れた冷間工具鋼の表面に、第7発明または第8発明に記載の硬質被膜が設けられて使用されることを特徴とする。
第11発明は、金型であって、第1発明〜第6発明の何れかに記載の表面処理性に優れた冷間工具鋼の表面に、第7発明または第8発明に記載の硬質被膜が設けられて使用されることを特徴とする。
このような本発明の冷間工具鋼によれば、HRC62程度以上の高硬度が得られるとともに、1000℃以上の表面処理温度において6〜13wt%の炭化物が母材中に固溶せずに残存させられるようになり、その炭化物の炭素が表面処理で形成される硬質被膜の炭素供給源となることにより、硬質被膜直下の母材表層部の硬さ低下が抑制される。これにより、例えばプレス加工時等の負荷時の変形が抑制されて母材と硬質被膜との密着性が高められ、その硬質被膜の割れや剥離が防止されて金型等の耐久性が向上する。
第10発明の金型用部品、第11発明の金型についても、上記冷間工具鋼の表面に炭化物の硬質皮膜が設けられて使用されることから、実質的に同様の効果が得られる。
先ず、含有成分の範囲について具体的に説明する。
〔1.0≦C≦2.0wt%〕
C(炭素)は硬さ、耐摩耗性を確保するために必要な元素である。冷間工具鋼として十分な硬さ、耐摩耗性を確保するためには、1.0wt%以上の添加が必要である。また、過度に添加した場合は溶製時に生成する粗大な共晶炭化物や、焼入れ時に固溶しない炭化物の増加により、靱性や被削性が低下するため、上限を2.0wt%に限定する。好ましくは、1.10≦C≦1.60wt%とする。
〔0.01≦Si≦2.0wt%〕
Si(珪素)は、脱酸剤として必要な元素である。また、パーライトおよびベイナイト焼入れ性の向上、および焼き戻し硬さを増大させるために添加すべき元素である。但し、添加量が多い場合は靱性が低下することから、2.0wt%以下とする。HT後の硬さ向上、被削性向上の観点から、好ましくは0.5≦Si≦1.5wt%とする。
〔0.01≦Mn≦2.0wt%〕
Mn(マンガン)は、脱酸剤として必要な成分であり、また、焼入れ性および硬さの確保のために必要な成分であるが、添加量が多い場合は加工性が低下することから2.0wt%以下とする。
〔6.0≦Cr≦12.0wt%〕
Cr(クロム)は、炭化物を形成して基地の強化や耐摩耗性を向上させるため、また、焼入れ性確保のために6.0wt%以上の添加が必要であるが、過度の添加は、焼入れ性や被削性の低下を招くため、12.0wt%以下とする。好ましくは、7.0≦Cr≦10wt%とする。
〔0.1wt%≦1/2 W+Mo≦4.0wt%〕
W(タングステン)およびMo(モリブデン)は、炭化物を形成して基地の強化や耐摩耗性を向上させるため、また、焼入れ性確保のために必要。このような効果を得るためには、0.1wt%以上の添加が必要であるが、過度の添加は靱性の低下を招くため、上限を4.0wt%とする。
なお、WとMoは同等の効果をもたらし、WはMoの約2倍の原子量であることから、Mo当量で規定する。添加方法は単独でも複合でも可。
〔0.01≦V≦1.0wt%〕
V(バナジウム)は、炭化物を形成し、基地の強化や耐摩耗性を向上させるのに必要。このような効果を得るためには0.01wt%以上の添加が必要であるが、過度に添加すると溶製時に生成する粗大な共晶炭化物や、焼入れ時に固溶せずに残留する炭化物が増え過ぎることによって、靱性の低下を招くため、添加量を1.0wt%以下とする。
〔O≦0.0100wt%〕
O(酸素)は靱性を低下させるため低減することが望ましい。好ましくは、0.0030wt%以下に低減する。
〔N≦0.200wt%〕
N(窒素)は結晶粒微細化や靱性向上、耐摩耗性向上に有効であるが、過度に添加すると粗大な晶出物を形成し、靱性を害するので上限を0.200wt%とする。
〔P≦0.050wt%〕
P(燐)は靱性を低下させるため低減することが望ましい。好ましくは、0.015wt%以下に低減する。
〔Al≦0.050wt%〕
Al(アルミニウム)は脱酸剤として必要な元素であり、鋼中に微量(一般に0.0001wt%以上)含まれる。結晶粒粗大化防止のために有効である。過度に添加すると材料の清浄度が低下したり被削性が低下するため、0.050wt%以下に限定する。
〔1000℃以上の所定温度(被覆処理温度)で母材中に固溶せずに残存する炭化物量:6〜13wt%〕
表面処理で形成される炭化物の硬質被膜の炭素供給源として作用し、硬質被膜直下での硬さ低下を抑えるために、被覆処理を実施する温度において固溶せずに残留する炭化物量が6wt%以上必要。但し、炭化物量が多過ぎると靱性が低下するため、上限を13wt%とする。被膜処理温度での炭化物量は、例えばその処理温度と同じ温度まで加熱した後、油冷などで焼入れ処理を行い、電解抽出などで炭化物を分離してwt%を測定すれば良く、硬質被膜の被覆処理を行なう前或いは開始時において、6〜13wt%の炭化物が残存しておれば良い。
そして、このように炭化物量を6〜13wt%とするためには、CとCrの添加量が前記(1) 式および(2) 式を満足する必要があり、特に前記(3) 式および(4) 式を満足することが望ましい。
〔0.01≦Ni≦3.0wt%〕
Ni(ニッケル)は焼入れ性の向上、基地の強化に有効で、添加可能である。過度に添加すると加工性が低下するため、上限を3.0wt%とする。
〔0.01≦Co≦5.0wt%〕
Co(コバルト)は基地の強化、耐摩耗性向上に有効で、添加可能である。過度に添加すると加工性が低下するため、上限を5.0wt%とする。
〔Nb≦1.0wt%〕
Nb(ニオブ)は、炭化物を形成して焼入れ時の結晶粒粗大化を防止する効果があり、必要に応じて添加することができ、添加する場合は0.001wt%以上が望ましい。過度に添加すると粗大な炭化物が生成し、靱性を低下させるため、上限を1.0wt%とする。
〔Ta≦1.0wt%〕
Ta(タンタル)は、炭化物を形成して焼入れ時の結晶粒粗大化を防止する効果があり、必要に応じて添加することができ、添加する場合は0.001wt%以上が望ましい。過度に添加すると粗大な炭化物が生成し、靱性を低下させるため、上限を1.0wt%とする。
〔Ti≦1.0wt%〕
Ti(チタン)は、炭化物を形成して焼入れ時の結晶粒粗大化を防止する効果があり、必要に応じて添加することができ、添加する場合は0.001wt%以上が望ましい。過度に添加すると粗大な炭化物が生成し、靱性を低下させるため、上限を1.0wt%とする。
〔B≦0.010wt%〕
B(ホウ素)は、焼入れ性を向上させるのに有効な元素であり、必要に応じて添加することが可能で、添加する場合は0.0001wt%以上が望ましい。過度に添加すると熱間加工性や靱性が低下するので、上限を0.010wt%とする。
〔Cu≦1.0wt%〕
Cu(銅)は、基地の強化に有効であり、必要に応じて添加することが可能で、添加する場合は0.001wt%以上が望ましい。過度に添加すると靱性が低下するので、上限を1.0wt%とする。
〔S≦0.2wt%〕
S(硫黄)は、被削性向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することが可能で、添加する場合は0.001wt%以上が望ましい。過度に添加すると靱性が低下するので、上限を0.2wt%とする。
〔Ca≦0.0100wt%〕
Ca(カルシウム)は、被削性向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することが可能で、添加する場合は0.0001wt%以上が望ましい。製造上の歩留りの点、および過度に添加すると靱性が低下する点から、上限を0.0100wt%とする。
〔Se≦0.0100wt%〕
Se(セレン)は、被削性向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することが可能で、添加する場合は0.0001wt%以上が望ましい。過度に添加すると靱性が低下するため、上限を0.0100wt%とする。
〔Te≦0.0100wt%〕
Te(テルル)は、被削性向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することが可能で、添加する場合は0.0001wt%以上が望ましい。過度に添加すると靱性、熱間加工性が低下するため、上限を0.0100wt%とする。
〔Zr≦0.0100wt%〕
Zr(ジルコニウム)は、被削性向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することが可能で、添加する場合は0.0001wt%以上が望ましい。過度に添加すると靱性が低下するため、上限を0.0100wt%とする。
〔Mg≦0.0100wt%〕
Mg(マグネシウム)は、溶製時に脱酸、脱硫元素として作用する。また、高温での強度、延性向上にも効果があり、必要に応じて添加することが可能で、添加する場合は0.0001wt%以上が望ましい。過度に添加すると熱間加工性が低下するため、上限を0.0100wt%とする。
〔REM≦0.050wt%〕
REM(希土類金属)は、靱性向上に有効な元素であり、必要に応じて添加することが可能で、添加する場合は0.0001wt%以上が望ましい。過度に添加すると熱間加工性を害するため、上限を0.050wt%とする。
一方、本発明は、表面処理で炭化物の硬質被膜が表面に設けられて使用される金型や金型用部品、例えばプレス型、曲げ型、抜き型、絞り型、ダイ、パンチやプレートなど、に用いられる冷間工具鋼に好適に適用されるが、金型、金型用部品以外の他の工具等に用いられる冷間工具鋼に適用することもできるなど、種々の態様が可能である。
表面処理としてはCVD処理やTD処理が好適に用いられるが、炭化物の硬質被膜を形成できる他の成膜技術を採用することもできる。
表面処理によって形成される炭化物の硬質被膜としては、TiCやVC、NbCの他、WやCr、Moの炭化物など種々の被膜を採用できる。
母材中に固溶せずに残存している炭化物は、母材すなわち本発明の冷間工具鋼の組成によっても異なるが、例えばFe3 CやCr7 3 等のFe、Crの炭化物が多く、この他にMoやVなどの炭化物も形成される。
図1のプレス金型10は、本発明の冷間工具鋼を用いて母材12が構成されている場合の一例で、第1発明〜第6発明の何れかの組成の冷間工具鋼にて構成されているとともに、プレス成形面側の表面には、1000℃以上の所定の表面処理温度で、CVD処理またはTD処理が行なわれることにより、第8発明に記載のようにV、Ti、Nb、W、またはCrの炭化物から成る硬質被膜14が設けられている。
ここで、母材12は、上記表面処理温度においてFe3 CやCr7 3 等の炭化物が6〜12wt%の割合で固溶せずに残存しており、それらの炭化物の炭素が表面処理で形成される硬質被膜14の炭素供給源となることにより、硬質被膜直下の母材12の表層部の硬さ低下が抑制され、HRC62程度以上の高硬度が維持される。これにより、プレス加工時の負荷に拘らず母材12の表層部の変形が抑制され、母材12と硬質被膜14との密着性が高められ、その硬質被膜14の割れや剥離が防止されてプレス金型10の耐久性が向上する。
次に、図2の手順に従って表1に示す各鋼材(発明鋼1〜15、比較鋼1〜7、従来鋼1〜2)の試験片を作製し、電解抽出(炭化物量測定)、シャルピー衝撃試験、およびスクラッチ試験を行なった結果を説明する。なお、表1の網掛け部分は、本発明の必須成分である請求項1の基本成分について、本発明の数値範囲から外れていることを表している。
Figure 2005187900
図2の溶解工程は、高周波誘導真空溶解炉で溶解し、各鋼材について150kgのインゴットを製造する。鍛造工程では、断面70mm×70mmの大きさに鍛造加工する。熱処理工程では、870℃に3時間保持した後、徐冷して焼きなましする。試験片加工工程では、電解抽出用、シャルピー衝撃試験用、スクラッチ試験用の各試験片を作製する。電解抽出用試験片は10mm×10mm×10mm、シャルピー衝撃試験用試験片は10mm×10mm×55mmで10Rのノッチ、スクラッチ試験用試験片は、12mm×25mm×30mmである。
表面処理工程は、スクラッチ試験用試験片に炭化物の硬質被膜を設けるための処理で、1000〜1100℃の温度でTD処理またはCVD処理により厚さ3〜15μmの硬質被膜(VC、TiC、NbC)を設けるとともに、油冷若しくはガス冷により焼入れを実施した。なお、電解抽出用試験片、シャルピー衝撃試験用試験片については、表面処理を行なわない。
焼入れ・焼戻し工程は、1000〜1100℃に30分保持した後油冷する焼入れ処理、および150〜600℃に1時間保持した後空冷する焼戻し処理を行なう工程で、電解抽出用試験片については焼入れのみ実施し、シャルピー衝撃試験用試験片については焼入れおよび焼戻しの両方を実施した。また、前記表面処理を行なったスクラッチ試験用試験片については、発明鋼1〜8および比較鋼1〜4については焼戻しのみ実施し、発明鋼9〜15および比較鋼5〜7、従来鋼1、2については焼入れ(再焼入れ)および焼戻しの両方を実施した。
電解抽出(炭化物量測定)は、焼入れのままの状態の電解抽出用試験片について、2%塩酸+2%クエン酸水溶液を電解液として電解抽出を行なった。抽出残渣として分離した炭化物の重量を測定し、炭化物のwt%を算出した。
シャルピー衝撃試験は、焼入れ・焼戻しされたシャルピー衝撃試験用試験片について、鋼材の幅方向から試験片を採取(T方向)し、JIS Z2242の規定に従って行い、靱性(吸収エネルギー)を求めた。この値が大きい程、ねばりがあって型が割れ難いことを意味する。
スクラッチ試験は、表面処理により炭化物の硬質被膜が設けられたスクラッチ試験用試験片について、スクラッチ試験機を用いて以下の試験条件で試験を行い、被膜の剥離が生じた時点の荷重で被膜と母材との密着性を評価した。
(試験条件)
・初期荷重10N/mmから徐々に圧下
・ダイヤモンド圧子
表2は、各鋼材の焼入れ温度、焼戻し温度、焼入れ・焼戻し後の硬さ(HRC)、焼入れ時の炭化物量(wt%)、シャルピー衝撃値(J/cm2 )、表面処理材種(硬質被膜の種類)、および剥離荷重(N)を示したものである。かかる結果から明らかなように、本願の発明鋼1〜15は、焼入れ・焼戻し後の硬さがHRC62.7〜64.3で高い硬度が安定して得られるとともに、硬質被膜の剥離荷重も83〜108(N)と高く、高い密着性が得られるのに対し、比較鋼および従来鋼ではHRC57.6〜63.8で剥離荷重が52〜72と低く、十分な密着性が得られない。なお、表2の炭化物量の欄における網掛けは、請求項6の数値範囲から外れていることを表している。
Figure 2005187900
図3の手順に従って表3に示す各鋼材(発明鋼16、従来鋼3)を製造するとともに、金型に加工して炭化物の硬質被膜を設け、実際にプレス加工を行なって金型寿命を調べた結果を説明する。発明鋼16は前記表1の発明鋼5に相当するもので、従来鋼3は前記表1の従来鋼1(SKD11)に相当するものであり、それぞれOやN、Al、Pを略同じ量だけ含有しているとともに、炭化物も略同じ量だけ形成される。また、従来鋼3は、Crの含有量が本発明の数値範囲よりも大きく、前記(1) 式および(2) 式を満たしていない。
Figure 2005187900
図3の製造工程では、大気炉で溶解して2tonのインゴットを溶製し、200mm×500mmの断面に鍛造後、870℃で焼きなまし処理を行なった。金型加工工程では、発明鋼16および従来鋼3について、同一形状の冷間曲げ金型を作製した。表面処理工程では、それぞれの鋼種について、1020℃のTD処理により表面に厚さ10μmのVCコーティングを施した金型、1030℃のCVD処理により厚さ7μmのTiCコーティングを施した金型、および表面処理をしていない金型の3種類を作製した。表面処理した金型は、冷却時に焼入れを兼ねてガス冷却した。焼入れ・焼戻し工程では、表面処理金型については、500〜530℃に8時保持して徐冷する焼戻しを2回行ない、無処理(表面処理無し)の金型については、1030℃に1時間保持した後ガス冷する焼入れ処理を行なった後、上記2回の焼戻しを行なった。仕上げ加工工程では、各金型表面を研磨加工した。そして、実機試験では、厚さ4mmのSUS304鋼を冷間プレスにより曲げ加工し、被膜の剥離や摩耗を目視により観察して金型寿命、すなわち耐久性を判断した。
表4は、各鋼材についてそれぞれ作製したVCコーティング金型、TiCコーティング金型、および無処理金型について、金型寿命に達するまでのプレス回数を示したものである。かかる結果から明らかなように、本願の発明鋼16によれば従来鋼3に比較して、コーティング金型については約1.5倍〜2倍の耐久性が得られるようになった。硬質被膜無しの無処理金型については、何れの鋼種においてもコーティング金型に比べて耐久性が著しく悪いとともに、本発明鋼16と従来鋼3とで大きな違いはなかった。
Figure 2005187900
以上、本発明の実施例を詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
本発明の冷間工具鋼を用いて構成されたプレス金型の一例を示す断面図である。 本発明鋼および比較鋼、従来鋼を用いて各種の試験を行なった実施例2の手順を説明する図である。 本発明鋼および従来鋼を用いて金型を作製し、耐久性試験を行なった実施例3の手順を説明する図である。
符号の説明
10:プレス金型(金型) 12:母材(冷間工具鋼) 14:硬質被膜

Claims (11)

  1. 1.0〜2.0wt%のC、0.01〜2.0wt%のSi、0.01〜2.0wt%のMn、6.0〜12.0wt%のCr、0.1wt%≦1/2 W+Mo≦4.0wt%を満足するWおよび/またはMo、0.01〜1.0wt%のV、0.0100wt%以下のO、0.200wt%以下のN、0.050wt%以下のP、および0.050wt%以下のAlを基本成分として含有し、
    残部が実質的にFeから成るとともに、
    前記CおよびCrの含有wt%をそれぞれ[C]、[Cr]で表した時、次式(1) および(2) を何れも満足する
    4[C]≦[Cr]≦6[C]+3 ・・・(1)
    9≦[C]×[Cr]≦18 ・・・(2)
    ことを特徴とする表面処理性に優れた冷間工具鋼。
  2. 請求項1の基本成分に加えて、0.01〜3.0wt%のNi、および0.01〜5.0wt%のCoを更に含有している
    ことを特徴とする表面処理性に優れた冷間工具鋼。
  3. 請求項1または2の基本成分に加えて、1.0wt%以下のNb、1.0wt%以下のTa、1.0wt%以下のTi、0.010wt%以下のB、および1.0wt%以下のCuの何れか1種または2種以上を更に含有している
    ことを特徴とする表面処理性に優れた冷間工具鋼。
  4. 請求項1〜3の何れか1項の基本成分に加えて、0.2wt%以下のS、0.0100wt%以下のCa、0.0100wt%以下のSe、0.0100wt%以下のTe、0.0100wt%以下のZr、0.0100wt%以下のMg、および0.050wt%以下のREM(希土類金属)の何れか1種または2種以上を更に含有している
    ことを特徴とする表面処理性に優れた冷間工具鋼。
  5. 前記[C]および[Cr]は次式(3) および(4) を何れも満足する
    4[C]+3≦[Cr]≦4[C]+5 ・・・(3)
    10≦[C]×[Cr]≦15 ・・・(4)
    ことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の表面処理性に優れた冷間工具鋼。
  6. 1000℃以上の所定温度において、6〜13wt%の炭化物が母材中に固溶せずに残存している
    ことを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の表面処理性に優れた冷間工具鋼。
  7. 前記所定温度で、6〜13wt%の炭化物が母材中に固溶せずに残存している状態で、炭化物の硬質被膜を表面に設ける表面処理が行なわれる
    ことを特徴とする請求項6に記載の表面処理性に優れた冷間工具鋼。
  8. 前記硬質被膜はV、Ti、Nb、W、またはCrの炭化物で、
    前記表面処理はCVD処理またはTD処理である
    ことを特徴とする請求項7に記載の表面処理性に優れた冷間工具鋼。
  9. 金型または金型用部品として用いられることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の表面処理性に優れた冷間工具鋼。
  10. 請求項1〜6の何れか1項に記載の表面処理性に優れた冷間工具鋼の表面に請求項7または8に記載の硬質被膜が設けられて使用されることを特徴とする金型用部品。
  11. 請求項1〜6の何れか1項に記載の表面処理性に優れた冷間工具鋼の表面に請求項7または8に記載の硬質被膜が設けられて使用されることを特徴とする金型。
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