JP3743172B2 - L−ホモシステインの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、L−ホモシステインの製造方法に関し、詳細には医薬、農薬の重要な合成中間体であるL−ホモシステインを、微生物反応を利用して製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
L−ホモシステインは、医薬、農薬の分野における重要な合成中間体である。これまでに知られているL−ホモシステインの製造方法は、L−メチオニンを原料とする化学的な合成方法のみであった。しかしながらこの方法は、高価なL−メチオニンを用いるなど、工業的には不利であった。
【0003】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記問題点について検討を重ねた結果、特定の微生物の作用によりホモシステインチオラクトンを立体選択的に加水分解し、L−ホモシステインが製造できることを見出し、本発明を完成するにいたった。
即ち、本発明はホモシステインチオラクトンに、チオエステルを立体選択的に不斉加水分解する能力を有し、フザリウム属に属する微生物及びアグロバクテリウム属に属する微生物から選ばれる微生物の菌体及び/または該菌体処理物を作用させて、立体配置がLである光学活性体を加水分解した後、反応液よりL−ホモシステインを回収することを特徴とするL−ホモシステインの製造方法に存する。
【0004】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明においては、原料としてホモシステインチオラクトンを用い、これに微生物の菌体又は該菌体処理物を作用させて、L−ホモシステインを製造する。
本発明において使用する微生物は、ホモシステインチオラクトンを立体選択的に加水分解する能力を有するものであればいずれを用いても良いが、好ましい例としては例えばフザリウム属を挙げることが出来る。
【0005】
また、好ましい種としては例えば、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)、フザリウム・パリドロセウム(Fusarium pallidoroseum)またはアグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)などを挙げることが出来る。
上記の微生物の具体的な菌株としては、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)IFO30701、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)IFO9955、フザリウム・パリドロセウム(Fusarium pallidoroseum)IFO30200の菌株またはアグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)MCI3624を挙げることが出来る。
【0006】
上記微生物は、野生株、変異株、あるいは細胞融合もしくは遺伝子組換え法などの遺伝学的手法により誘導される組換え株などのいずれの株であってもよい。
また、上記の菌株のうちIFO30701、IFO9955、IFO30200は公知の菌株であり、(財)発酵研究所(IFO)から容易に入手することが出来る。
MCI3624株は、本発明者らにより天然土壌から分離された細菌であり、工業技術院生命工学技術研究所にFERM P−16939として寄託されている。
MCI3624株の菌学的性質は以下の通りである。
【0007】
MCI3624株の同定結果
1.形態的性質
(1)細胞の形 桿状
(2)細胞の多形性 なし
(3)運動性 なし
(4)胞子の有無 なし
【0008】
2.培養的性質
(1)肉汁寒天平板培養 30℃ 1〜2日間培養後 円形、半レンズ状、うす黄、不透明、光沢のコロニーを形成。コロニー表面は平滑
(2)肉汁液体培養 混濁が見られるが、液面における膜の形成はない
(3)肉汁ゼラチン穿刺培養 ゼラチン液化なし
(4)リトマス・ミルク 弱いアルカリ
【0009】
3.生理学的性質
【0010】
4.化学分類学的性質
(1)主要なイソプレノイドキノン ユビキノン Q10
(2)DNA中のG+C含量 59.7 モル%
【0011】
5.分類学的考察
(1)属の同定
本菌株MCI3624株は1)グラム陰性桿菌、2)絶対好気性、3)芽胞を形成しない、4)運動性なし、5)O−Fテストは酸化型、6)硝酸塩還元能及び脱窒素能を有する、7)硫化水素を生成しない、8)主要なイソプレノイドキノンはユビキノンQ10を有する、8)DNA中のG+C含量は59.7モル%などの特徴を持っている。これらの特徴から、本菌株はバージェイズマニュアル・システマティック・バクテリオロジー[Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology]第1巻、234〜256頁(1984)に記載されているリゾビアシーエ科(Rhizobiaceae)に含まれる、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)及びリゾビウム属(Rhizobium)に帰属することが示唆された。
【0012】
(2)種の同定
現在、16S rRNA塩基配列の解析結果から、アグロバクテリウム属とリゾビウム属は属レベルでまとまった菌群であることが判明している。従って本菌株の種を決定するため、16S rRNAの塩基配列(1446塩基)を決定した。得られた結果に基づいてデータベース検索を行ったところ、本菌株はアグロバクテリウム ツメファシエンス(Agrobactrium tumefaciens)に最も近縁であることが判明した。
【0013】
インターナショナル ジャーナル オブ システマティック バクテリオロジー[International Journal Systematic Bacteriology]第43巻、694−702頁(1993)によると、アグロバクテリウム属にはアグロバクテリウム ツメファシエンス(A.tumefaciens)、アグロバクテリウム ラディオバクター(A.radiobacter)、アグロバクテリウム リゾゲネス(A.rhizogenes)、アグロバクテリウム ビティス(A.vitis)及びアグロバクテリウムルビ(A.rubi)の5種が知られているが、アグロバクテリウム ツメファシエンスとアグロバクテリウム ラディオバクターは16S rRNAの解析から同一種として統合され、アグロバクテリウム ラディオバクターとなっている。従って本菌株はアグロバクテリウム ラディオバクターと99.6%の相同値を示し、他種(相同値94.5〜97.8%)より高い相同性を示した。さらに生理学的性質においても、1)37℃での生育、2)クエン酸の資化性、3)エリスリトール及びアラビトールの資化性、4)硝酸塩の還元などの点で明らかに他種とは区別された。
以上の結果から、本菌株MCI3624株をアグロバクテリウム ラディオバクター(Agrobacterium radiobacter)と同定した。
【0014】
本発明の製造方法においては、上記微生物の1種あるいは2種以上が菌体及び/または菌体処理物として用いられる。具体的には、上記微生物を培養して得られた菌体をそのまま、あるいは培養して得られた菌体を公知の手法で処理したもの、即ち、アセトン処理したもの、凍結乾燥処理したもの、菌体を物理的または酵素的に破砕したもの等の菌体処理物を用いることができる。また、これらの菌体または菌体処理物から、ホモシステインチオラクトンに作用しこれをL−ホモシステインへ変換する能力を有する酵素画分を粗製物あるいは精製物として取り出して用いることも可能である。さらには、このようにして得られた菌体、菌体処理物、酵素画分等をポリアクリルアミドゲル、カラギーナンゲル等の担体に固定化したもの等を用いることも可能である。そこで本明細書において、「菌体及び/または該菌体処理物」の用語は、上述の菌体、菌体処理物、酵素画分、及びそれらの固定化物全てを含有する概念として用いられる。
【0015】
以下に、本発明の製造方法について具体的に説明する。
本発明の製造方法において微生物は、通常、培養して用いられるが、この培養については定法通り行うことができる。本微生物の培養の為に用いられる培地には本微生物が資化しうる炭素源、窒素源、及び無機イオン等が含まれる。炭素源としては、グルコース等の炭水化物、グリセロール等のアルコール類、有機酸その他が適宜使用される。窒素源としては、肉エキス、NZアミン、トリプトース、酵母エキス、ポリペプトン、コーンスティープリカーその他が適宜使用される。無機イオンとしては、リン酸イオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、マンガンイオン、モリブデンイオンその他が必要に応じ適宜使用される。更に、イノシトール、パントテン酸、ニコチン酸アミドその他のビタミン類を必要に応じ添加することは有効である。また、チオラクトンやラクトン類を添加することも有効である。培養は、好気的条件下に、pH約3〜8、温度約20〜35℃の適当な範囲に制御しつつ15〜100時間行う。
【0016】
ホモシステインチオラクトンに上記微生物を作用させてL−ホモシステインを製造する方法として、本微生物を培養し、得られた菌体懸濁液にホモシステインチオラクトンを添加し反応させL−ホモシステインを得る方法、培地にホモシステインチオラクトンを添加し培養と反応を同時に行う方法、あるいは培養終了後、ホモシステインチオラクトンを添加して更に反応を行う方法等を用いることができる。反応温度は15〜40℃が好ましく、pH4〜10の範囲である。ホモシステインチオラクトン濃度は0.1〜50%の範囲が望ましく、必要ならばホモシステインチオラクトンは反応の間、追補添加される。また、必要に応じて金属イオンを添加することにより反応が促進される場合がある。
培養及び反応で得られたL−ホモシステインの採取方法としては晶析などの通常の分離・精製方法により行うことができる。
【0017】
【実施例】
いかに実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、その要旨を越えない限り本発明の技術分野における通常の変更をすることができる。
実施例1
グルコース 10.0g/L、ポリペプトン 5.0g/L、酵母エキス 5.0g/L及びコーンスティープリカー 5.0g/L(pH6.0)の組成からなる液体培地50mLに、フザリウム・オキシスポラム(Fusariumoxysporum) IFO30701を接種し、27℃で72時間好気的に培養した。培養終了後、菌体を集め50mM塩化カリウム水溶液で洗浄した。これに10.0g/Lのホモシステインチオラクトンを含む100mMMES緩衝液(pH6.0)を加え、全量を50mLとし30℃で24時間反応させた。反応終了時のホモシステイン生成蓄積量は6.5g/Lであり、得られたL−ホモシステインの光学純度は60%e.e.であった。
【0018】
実施例2
第1表に示す微生物の菌体をそれぞれ、グルコース 10.0g/L、ポリペプトン 5.0g/L、酵母エキス 5.0g/L、コーンスティープリカー5.0g/L(pH6.0)の組成からなる液体培地50mLに接種し、27℃で72時間好気的に培養した。培養終了後、菌体を集め50mM塩化カリウム水溶液で洗浄した。これに10.0g/Lのホモシステインチオラクトンを含む100mMMES緩衝液(pH6.0)を加え、全量を50mLとし30℃で24時間反応させた。得られた結果を表1に示す。
【0019】
【表1】
第1表 ホモシステイン 光学純度 絶対配置
微生物 (g/L)(%e.e.)
フザリウム・ソラニIFO9955 3.1 50 L
フザリウム・パリドロセウムIFO30200 3.5 45 L
【0020】
実施例3
ニュートリエントブロス 8.0g/l、シュークロース 5.0g/l、酵母エキス 1.0g/lの組成からなる液体培地10mlに、アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)MCI3624を接種し、28度で24時間好気的に培養した。培養終了後、菌体を集め、0.85%塩化ナトリウムで懸濁し菌体懸濁液0.8mlを得た。この菌体懸濁液0.4mlに250mMのホモシステインチオラクトンを0.4ml、pH7.0の1Mリン酸緩衝液0.2mlを加え、37度で24時間反応させた。反応終了時のホモシステインの蓄積量は50mMであり、得られたL−ホモシステインの光学純度は79.6%e.e.であった。
【0021】
【発明の効果】
本発明の微生物を用いたL−ホモシステインの製造方法は従来の方法に比べ安価な方法であることから、L−ホモシステインの工業的な生産を行う際に非常に有効である。
Claims (1)
- ホモシステインチオラクトンに、チオエステルを立体選択的に不斉加水分解する能力を有し、フザリウム属に属する微生物及びアグロバクテリウム属に属する微生物から選ばれる微生物の菌体及び/または該菌体処理物を作用させて、立体配置がLである光学活性体を加水分解した後、反応液よりL−ホモシステインを回収することを特徴とするL−ホモシステインの製造方法。
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JPH11169192A JPH11169192A (ja) | 1999-06-29 |
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JP25087098A Expired - Fee Related JP3743172B2 (ja) | 1997-10-07 | 1998-09-04 | L−ホモシステインの製造方法 |
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