JP3737044B2 - ミシンのボビン交換装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ミシンにおいて、下糸が無くなった又は残り少なくなったボビン及びそれを収容したボビンケース(以下、旧ボビンセットという)を釜から取り外し、下糸が満巻されたボビン及びそれを収容したボビンケース(以下、新ボビンセットという)を釜に取り付ける、ボビン交換装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来のミシンのボビン交換装置としては、次のようなものが知られている。
(1)特開平7−8666号公報に記載されたボビン交換装置は、多数個の新ボビンセットを円周配列状にプリセットしておくボビン収容装置と、新ボビンセットを一個ずつ把持するボビン外し装置(進退駆動装置を含む)と、ボビン外し装置を釜とボビン収容装置との間で昇降させる昇降装置とから構成されている。このボビン外し装置を上昇及び前進させて釜の旧ボビンセットを把持し、ボビン外し装置を後退させて旧ボビンセットを釜から取り外し、ボビン外し装置を下降及び前進させて旧ボビンセットをボビン収容装置の空き部に受け渡し解放する。続いて、ボビン収容装置を回転させて新ボビンセットをボビン外し装置に把持させ、再びボビン外し装置を後退、上昇及び前進させて新ボビンセットを釜に取り付け解放する。
【0003】
(2)特開平8−191974号公報に記載されたボビン交換装置は、新ボビンセットをプリセットしておくダミー軸と、2つのボビンセットの把持手段を有して釜軸に平行な軸を中心に回転する回転アームと、回転アームを回転させる回転駆動装置と、回転アームを軸線方向に移動させる軸線移動装置と、から構成されている。この回転アームを回転及び前進させて一方の把持手段でダミー軸の新ボビンセットを把持し、回転アームを後退、回転及び前進させて他方の把持手段で釜の旧ボビンセットを把持し、回転アームを後退させて旧ボビンセットを釜から取り外し、回転アームを回転させて一方の把持手段に把持された新ボビンセットを釜に対向させ、回転アームを前進させて新ボビンセットを釜に取り付け解放する。
【0004】
(3)特開2000−157774公報に記載されたボビン交換装置は、釜の前方において複数のボビンセットをプリセットしておくストッカーと、釜とストッカーの間に延びて2本の案内溝を有する案内プレートと、ボビンセットを把持して2本の案内溝に案内されて釜とストッカーの間を移動するチャック部材と、チャック部材の駆動機構とから構成されている。このチャック部材を釜方向に前進させて釜の旧ボビンセットを把持し、チャック部材をストッカー方向に後退させて旧ボビンセットを釜から取り外すとともに、その後退中に2本の案内溝に沿ってチャック部材を180度回転させて、旧ボビンセットをチャック部材の空き部に受け渡し解放する。続いて、ストッカーを回転させて新ボビンセットをチャック部材に把持させ、再びチャック部材を釜方向に前進させるとともにその前進中に2本の案内溝に沿ってチャック部材を180度回転させて、新ボビンセットを釜に取り付け解放する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記(1)のボビン交換装置は、1つのボビン外し装置で、前進→把持→後退→下降→前進→解放→把持→後退→上昇→前進→解放という多くの動作を順に行うため、ボビン交換に時間がかかるとか、進退駆動装置と昇降装置とが必要になるとかという問題があった。同じく上記(3)のボビン交換装置は、1つのチャック部材で、前進→把持→後退→解放→把持→前進→解放という多くの動作を順に行うため、やはりボビン交換に時間がかかるという問題があった。
【0006】
また、上記(1)及び(2)のボビン交換装置には、作業者が手作業によって新ボビンセットをプリセットしにくいという問題もあった。すなわち、ミシンのテーブルの前端から釜まではかなりの奥行きがあり、その釜の下方にプリセット位置、すなわち上記(1)ではボビン収容装置、上記(2)ではダミー軸をそれぞれ設けることになる。作業者はそのプリセット位置への新ボビンセットのプリセットを手作業で行わなければならないが、プリセット位置までの奥行きが大きいため、テーブルの下に潜り込んだり手を伸ばしたりして無理な姿勢で行わなければならなかった。
【0007】
つまり、従来のボビン交換装置には、1つの把持装置で多くの動作を順に行うためボビン交換に時間がかかるという問題と、新ボビンセットのプリセット位置までの奥行きが大きく作業者がプリセットしにくいという問題とを、共に解消したものは見あたらない。
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決し、少なくとも2つの把持機構に旧ボビンセットの把持と新ボビンセットの把持とを並行させることでボビン交換に要する時間が短縮され、また、新ボビンセットのプリセット位置までの奥行きが小さくなり作業者が新ボビンセットをプリセットしやすいボビン交換装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係るミシンのボビン交換装置は、釜の軸線に対して直交するアーム軸線の回りに回転可能に設けられるとともにボビンセットを把持する少なくとも2つの把持機構をアーム軸線回りで所定角度間隔をおいて備えた回転アームと、該回転アームを前進及び後退させる進退駆動手段と、該回転アームを回転させる回転駆動手段とを含み、該回転アームの後退端において後側に位置する把持機構を新ボビンセットのプリセット位置としたことを特徴とする。
【0010】
ここで、釜の軸線に対して直交するアーム軸線としては、垂直軸線又は水平軸線を例示できる。
【0011】
把持機構の数は、特に限定されないが、2つを180°間隔で、4つを90度間隔で、又は6つを60度間隔で備えることが好ましい。勿論、3つを120°間隔で、5つを72度間隔で備えてもよい。
【0012】
進退駆動手段は、特定の手段に限定されず、エアシリンダ、油圧シリンダ、電磁ソレノイド、リニアモータ等の直線運動する駆動源のみ若しくはこれらとレバー、リンク等との組合わせ、又は、電気モータ、電磁回転ソレノイド等の回転運動する駆動源とスクリューネジやラックアンドピニオンとの組合わせ等を例示できる。
【0013】
回転駆動手段は、特定の手段に限定されず、エアシリンダ、油圧シリンダ、電磁ソレノイド、リニアモータ等の直線運動する駆動源とクランク、ラックアンドピニオン等との組合わせ、又は、電気モータ、電磁回転ソレノイド等の回転運動する駆動源のみ若しくはこれらと加減速ギヤとの組合わせ等を例示できる。
【0014】
また、回転駆動手段は、進退駆動手段の駆動源を併用し、回転アームの前進又は後退の運動を回転運動に変換して回転アームを回転させる回転変換機構とすることもできる。この回転変換機構は、特定の機構に限定されず、次のa,bを例示できる。
a:回転アームのアーム軸線(具体的には、例えば垂直回転軸又は水平回転軸)の回りに設けたピニオンギヤと、前進及び後退しないラックギヤと、該ラックギヤを回転アームの前進又は後退の途中で一時的にピニオンギヤと噛合させる噛合機構とからなる機構。
b:回転アームのアーム軸線(具体的には、例えば垂直回転軸又は水平回転軸)の回りに設けたピニオンギヤと、前進及び後退しないラックギヤと、該ピニオンギヤを回転アームの前進又は後退の途中で一時的にラックギヤと噛合させる噛合部材とからなる機構。
【0015】
把持機構は、特定の機構に限定されないが、ボビンケースのロックレバーを把持するタイプの機構を例示できる。このタイプの把持機構としては、ボビンケースの正面を当接させる当接部材と、ボビンケースのロックレバーを立てる把持爪と、立てられたロックレバーを受ける把持面とを含み、把持爪と把持面とによりロックレバーにおいてボビンセットを把持する機構を例示できる。
【0016】
把持機構に、ボビンセットの把持のロック機構(把持爪を閉鎖位置にロックする機構)を装備するのが好ましい。ロック機構としては、特に限定されないが、把持面に結合されたスライド可能な第一スライダと、把持爪に結合されたスライド可能な第二スライダと、第一スライダの穴とロック時にスライドしない部材(例えばアームブロック)の穴とにまたがって嵌り得るストッパピンと、第二スライダとロック時にスライドしない部材(例えば第一スライダ)の穴とにまたがって嵌り得るストッパピンとを含む機構を例示できる。
【0017】
また、把持機構に、ボビンセットの把持のロック解除機構(前記ロック機構を解除する機構)を装備するのが好ましい。ロック解除機構としては、特に限定されないが、回転アームの回転範囲内に設けられた回転しないドック及び/又は回転アームの前進又は後退の範囲内に設けられた前進及び後退しないドックと、該ドックにより押されて動くように把持機構に設けられた作動片と、該作動片の動きによりストッパピンを押して前記両穴へのまたがりを無くす押圧ピンとを含む機構を例示できる。
【0018】
上記把持機構において、把持爪が的確に動作するように、把持爪を回転アームのアームブロックに開閉可能に支持し、アームブロックに第一スライダ及び第二スライダを設け、第一スライダに当接部材及び把持面を結合し、アームブロックと第一スライダと第二スライダとの相対移動を把持爪の開閉運動に変換するレバーを設けるとよい。
【0019】
さらに、ロック機構として、第二スライダを第一スライダに相対移動不能に結合する結合ピンと、アームブロックに第一スライダ及び第二スライダを相対移動不能に係止する係止ピンとを含む機構を設けるとよい。
【0020】
また、ロック解除機構として、回転アームの後退端及び前進端と対応する定位置に設けられたドックと、該ドックに係合して結合ピン及び係止ピンの作用を解除する作動片とを含む機構を設けるとよい。
【0021】
次に、プリセット位置の直後に、新ボビンセットをくぐらせるセット用ガイド穴を備えたセット治具を設けることが好ましい。
【0022】
また、プリセット位置の直後には、新旧のボビンセットを把持機構との間で授受するセット治具を設けるとよい。ボビンセットの取付及び取外操作を容易にするために、該セット治具は、前後方向に摺動可能な摺動体と、摺動体に釜の軸線に対して直交する軸線(例えば水平軸線)の回りで回転可能に支持されたボビン装着板と、該装着板を後退端及び前進端でバックアップする部材とを備えることが好ましい。さらに、新ボビンセットを正しい向きで把持機構に取り付けるために、ボビン装着板にボビンセットの回転を規制する部材を設けることが好ましい。
【0023】
回転アームを釜の軸線に対して直交する水平軸線の回りに回転させる場合、同一水平面内で前進及び後退させることも可能であるが、メンテナンス時にミシンベッドへ容易にアクセスできる点で、回転アームを前進時に上昇させ、後退時に下降させるガイドを設けることが好ましい。この場合、回転アームを前後及び上下方向へスムーズに駆動できるように、回転アームを平行四節リンク機構に支持し、該リンク機構を進退駆動手段の駆動源に連結するのが望ましい。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した第一実施形態例について、図1〜図8を参照して説明する。ミシン(例えば刺繍ミシン)は単頭又は複数頭のミシンヘッド(図示略)とその下方のベッド1とを備え、ベッド1には、ベッド1に挿通する駆動軸(図示略)に結合された釜2と、ベッド1の上面を覆う針板3とが設けられている。
【0025】
釜2の前方には、下糸が無くなった又は残り少なくなったボビン4及びそれを収容したボビンケース5(以下、旧ボビンセット6という)を釜2から取り外し、下糸が満巻されたボビン7及びそれを収容したボビンケース8(以下、新ボビンセット9という)を釜2に取り付ける、ボビン交換装置が設けられている。
【0026】
ボビン交換装置は、
ベッド1にブラケット19により取り付けられて前後方向に延びるベースフレーム10と、
ベースフレーム10に対し進退可能に支持されたスライドベース20と、
スライドベース20に対し垂直軸線(釜軸2aとは直角をなす)の回りに回転可能に設けられるとともに、ボビンセット6,9を把持する2つの把持機構40を垂直軸線回りで180°間隔をおいて備えた回転アーム30と、
スライドベース20及び回転アーム30を前進及び後退させる進退駆動手段としてのエアシリンダ28と、
回転アーム30を回転させる回転駆動手段としての回転変換機構60とからなり、
回転アーム30の後退端において後側に位置する把持機構を新ボビンセットのプリセット位置としている。
【0027】
[ベースフレーム10]
ベースフレーム10は、前後方向に延びる底板11とその後端(作業者にとっては手前端)及び前端(作業者にとっては奥端)に起立した後壁12及び前壁13とからなり、後壁12と前壁13との間には一対の案内バー14が架設されている。また、後壁12の右上部には、新ボビンセット9をくぐらせるセット用ガイド穴15を備えたセット治具16が取り付けられている。
【0028】
[スライドベース20]
スライドベース20はブロック状に形成され、該ブロックに形成された一対の案内穴21に前記案内バー14が摺動可能に挿通されることにより進退可能に支持されている。スライドベース20の上部には一段下がった右肩面22と左肩面23とが形成され、下部には左側がえぐられることにより左横向面24と左下向面25とが形成されている。
【0029】
[エアシリンダ28]
エアシリンダ28はベースフレーム10の後壁12の後側に取り付けられ、そのロッド29は後壁12を挿通してスライドベース20の後面に接合されている。
【0030】
[回転アーム30]
回転アーム30は、180°反対方向に延びる2つのアームブロック31が基端の連結部32で一体的に連結されてなり、この連結部32において前記スライドベース20の中央に回転可能に軸着された垂直回転軸33の上部に取り付けられている。アームブロック31には後述する第一、第二スライダを収容する凹所34が形成され、アームブロック31の上面には凹所34を覆う蓋35がネジで取り付けられている。回転アーム30は垂直回転軸33とともに垂直軸線の回りに回転するので、回転時に上方向にスペースをとらない利点がある。
【0031】
[把持機構40]
把持機構40は、各アームブロック31の先端に設けられた、ボビンケース5,8の正面を当接させる当接部材41と、ボビンケース5,8のロックレバー5a,8aを立てる把持爪42と、立てられたロックレバー5a,8aを受ける把持面43とを含む。把持面43にはロックレバー5a,8aの係合孔に入り込む係合突起43aが形成されている。
【0032】
当接部材41と把持面43とは、アームブロック31に前後スライド可能に設けられた第一スライダ44の先端部に結合されている。第一スライダ44は、その基端部にアームブロック31を摺動可能に挿通したボルト45が螺着されるとともに、ボルト45に外挿された圧縮バネ46により常に先端側へ付勢されている。第一スライダ44が退入すると把持面43が把持爪42と協動してロックレバー5a,8aを挟み得る位置となるようになっている。
【0033】
把持爪42は、基端近くでアームブロック31に回転可能に軸着されるとともに、基端に設けられた係合ピン47が、アームブロック31に前後スライド可能に設けられた第二スライダ48の係合溝49に係合されて結合されている。第二スライダ48は、その基端部にアームブロック31を摺動可能に挿通したボルト50が螺着されるとともに、ボルト50に外挿された圧縮バネ51により常に先端側へ付勢されている。第二スライダ48が退入すると把持爪42が閉じ、第二スライダ48が進出すると把持爪42が開くようになっている。
【0034】
第一スライダ44には、退入時の第一スライダ44の穴とアームブロック31の穴とにまたがって嵌り得るストッパピン52が、第二スライダ48には、退入時の第二スライダ48の穴と第一スライダ44の穴とにまたがって嵌り得るストッパピン53が、それぞれ上下摺動可能に設けられている。また、アームブロック31の下面には作動片54がボルト55により間隔をおいて上下動可能に取り付けられ、作動片54の上面には前記ストッパピン52,53をそれぞれ下から押し上げ得る押圧ピン56,57が設けられている。
【0035】
一方、回転アーム30の回転範囲内にある前記スライドベース20の右肩面22には、前側から後側へかけて高くなる斜面を備えたドック58が取り付けられている。回転アーム30が後退する途中で後述する回転変換機構60により回転するときに、図6(b)に示すように、旧ボビンセット6を把持した側のアームブロック31の作動片54がドック58に乗り上げて、押圧ピン56,57がストッパピン52,53を押し上げ、その結果、把持機構40が解放される。なお、同アームブロック31の回転が完了したときには、図6(a)に示すように、作動片54は再び下降するようになっている。また、新ボビンセット9を釜2へ装着する側のアームブロック31も後退する途中で回転するときに作動片54がドッグ58に乗り上げるが、その時には何も把持していないので、何事も起きない。
【0036】
また、回転アーム30の前進範囲内にある前記ベースフレーム10の前壁13の左上部には、後側から前側へかけて高くなる斜面を備えたドック59が取り付けられている。前記回転により新ボビンセット9を釜2へ装着する側のアームブロック31が前側になって、回転アーム30が前進するときに、新ボビンセット9を把持したアームブロック31の作動片54がドック59に乗り上げて、押圧ピン56,57がストッパピン52,53を押し上げるようになっている。
【0037】
つまり、旧ボビンセット6を把持する側のアームブロック31の作動片54はドック58に乗り上げるが、ドック59には乗り上げない。また、新ボビンセット9を釜2へ装着する側のアームブロック31の作動片54はドック58にもドック59にも乗り上げる。
【0038】
当初、第一スライダ44及び第二スライダ48が進出しているとき、把持爪42は開いており、ストッパピン52は第一スライダ44の穴のみに嵌っており、ストッパピン53は第二スライダ48の穴のみに嵌っている。
【0039】
次に、当接部材41がボビンケース5,8の正面又はセット治具16の前面に当接して押されると、第一スライダ44及び第二スライダ48が退入し、把持爪42が閉じてロックレバー5a,8aを立てるとともに把持面43と協動して把持し、もってボビンセット6,9を把持するとともに、ストッパピン52が自重(バネ力でもよい)により下がって第一スライダ44の穴とアームブロック31の穴とにまたがって嵌り、ストッパピン53が自重(バネ力でもよい)により下がって第二スライダ48の穴と第一スライダ44の穴とにまたがって嵌る。従って、ボビンセット6,9の把持状態と、第一スライダ44及び第二スライダ48の退入状態とがロックされる。なお、周知の通り、ロックレバー5a,8aを立てると、ボビンケース5,8に対するボビン4,7の係合状態もロックされる。
【0040】
次に、前記の通り作動片54がドック58,59に乗り上げて、押圧ピン56,57がストッパピン52,53を押し上げると、ストッパピン52は前記両穴へのまたがりが無くなって第一スライダ44の穴のみに嵌り、ストッパピン53は前記両穴へのまたがりが無くなって第二スライダ48の穴のみに嵌るため、第一スライダ44及び第二スライダ48は圧縮バネ46,51により進出し、把持爪42は開いてボビンセット6,9の把持を解放し、当接部材41はボビンセット6,9を押し出す。
【0041】
従って、第一スライダ44、第二スライダ48及びストッパピン52,53が、把持爪42と把持面43とによるボビンセット6,9の把持のロック機構に相当し、ドック58,59、作動片54及び押圧ピン56,57が、該把持のロック解除機構に相当する。
【0042】
[回転変換機構60]
回転変換機構60は、ベースフレーム10の底板11の上面左側に左右方向のスライド可能に設けられたスライド片61と、スライド片61の右側に立設されたラックギヤ62と、垂直回転軸33の回りに設けられて一時的にラックギヤ62と噛合するピニオンギヤ63と、底板11の下側からスライド片61を常に外側へと内側へとの中立状態に付勢する付勢バネ機構64と、スライド片61の左側に立設された被押圧片65と、スライドベース20の左下向面25から下方へ突設されて被押圧片65を左右方向にスライドさせる押圧ピン66とからなる。このスライド片61、付勢バネ機構64、被押圧片65及び押圧ピン66が、ラックギヤ62を回転アーム30の後退の途中で一時的にピニオンギヤ63と噛合させる噛合機構を構成している。
【0043】
すなわち、スライドベース20及び回転アーム30の前進時には、押圧ピン66が被押圧片65の後側斜面65a(左縁から右前側へ傾斜する)に乗り上げてスライド片61を左側へスライドさせ、ラックギヤ62とピニオンギヤ63との噛合を防ぐため、回転アーム30は回転しない。一方、スライドベース20及び回転アーム30の後退時には、押圧ピン66が被押圧片65の前側斜面65b(右縁から左後側へ傾斜する)に乗り上げてスライド片61を右側へスライドさせ、ラックギヤ62とピニオンギヤ63とを噛合させるため、回転アーム30は180°回転する。
【0044】
なお、回転アーム30の垂直回転軸33の下部はスライドベース20の下面より下方へ突出し、該突出端には長細のガイド片67が取り付けられている。また、ベースフレーム10の底板11には、後端部と前端部とで幅狭部68aになり中央部で幅広部68bになるガイド穴68が形成されている。そして、ベースフレーム10の後端部と前端部とで回転アーム30が回転不要のときに、ガイド片67が幅狭部68aに嵌合して回転アーム30の回転を防止する。また、ベースフレーム10の中央部で回転アーム30が回転必要のときにガイド片67が幅広部68bに回転可能に入り込むことで回転アーム30の回転を許容する。
【0045】
以上の説明から分かる通り、本実施形態では、把持機構40の作動も回転変換機構60の作動も、エアシリンダ28を併用し(エアシリンダ28によるスライドベース20及び回転アーム30の進退を利用し)、その進退を適当なタイミングで機械的に変換して作動させているため、その他の駆動源を必要としない。よって、複数の駆動源を使用する場合の複雑な制御回路が不要になるとともに、コストダウンも可能である。
【0046】
以上のように構成されたボビン交換装置を使用して、ボビン交換する方法を工程順に説明する。
(1)図7(a)に示すように、釜2に旧ボビンセット6が取り付けられ、刺繍ミシンは運転中とする。このとき回転アーム30は後退端にあり、前側に位置するアームブロック31の把持機構40は把持爪42が開いており、後側に位置するアームブロック31の把持機構40の当接部材41はセット治具16の直前に位置している(プリセット位置)。作業者は、新ボビンセット9をセット用ガイド穴15にくぐらせて、後側の当接部材41に当接させるとともにさらに前に押し込む。すると、前記の通り、把持爪42が閉じてロックレバー8aが把持され、新ボビンセット9の把持状態と第一スライダ44及び第二スライダ48の退入状態とがロックされる。これでプリセットが完了する。
【0047】
このように、回転アーム30の後退端において後側に位置する把持機構40を新ボビンセット9のプリセット位置としているので、ミシンのテーブルの前端からプリセット位置までの奥行きが容易に手が届く程度に小さくなり、作業者は新ボビンセット9を容易にプリセットすることができる。さらに、本実施形態ではプリセット位置の直後にセット用ガイド穴15を備えたセット治具16を設けたので、新ボビンセット9をセット用ガイド穴15にくぐらせるだけで把持機構40に対し正しい位置に正しい姿勢で対応させることができ、容易且つ確実に把持させることができる。なお、ミシンの運転中でも、新ボビンセットのプリセットを行うことができる。
【0048】
(2)釜2の旧ボビンセット6のボビン4における下糸が無くなった又は残り少なくなったことを検出装置(図示略)が検出すると、刺繍ミシンの制御装置(図示略)は自動的に運転を停止させる。このとき、自動的に又は作業者が手動スイッチを操作することにより、図7(b)に示すように、エアシリンダ28が作動してロッド29を繰り出し、スライドベース20及び回転アーム30が前進する。前記の通り、この前進時にはラックギヤ62とピニオンギヤ63とが噛合しないので、回転アーム30は回転せず、後側のアームブロック31の作動片54は右肩面22のドック58に乗り上がらないので、新ボビンセット9の把持が維持される。なお、左肩面23にはドックが無い。
【0049】
前進端で、前側のアームブロック31の当接部材41は旧ボビンセット6のボビンケース5に当接して押されるので、前記の通り、把持爪42が閉じてロックレバー5aが把持され、旧ボビンセット6の把持状態と第一スライダ44及び第二スライダ48の退入状態とがロックされる。
【0050】
(3)続いて、図7(c)に示すように、エアシリンダ28が逆作動してロッド29を退入させ、スライドベース20及び回転アーム30が後退する。前記の通り、この後退の途中でラックギヤ62とピニオンギヤ63とが噛合するため、図7(d)に示すように、回転アーム30は平面から見て時計回り方向に180°回転する。この回転の途中で、図6(b)に示すように、旧ボビンセット6を把持した側のアームブロック31の作動片54がドック58に乗り上げると、前記の通り、把持爪42は開いて旧ボビンセット6の把持を解放し、当接部材41は旧ボビンセット6を押し出すため、図8(a)に示すように、旧ボビンセット6は下方に設けられた回収箱(図示略)に落下する。
【0051】
後端端で、図8(b)に示すように、旧ボビンセット6を解放した側のアームブロック31がセット治具16の直前に位置し、新ボビンセット9を把持した側のアームブロック31が前側に向く。
【0052】
(4)次に、図8(c)に示すように、再びエアシリンダ28が作動してロッド29を繰り出し、スライドベース20及び回転アーム30が前進する。前記の通り、この前進時にはラックギヤ62とピニオンギヤ63とが噛合しないので、回転アーム30は回転しない。
【0053】
前進端の直前で、新ボビンセット9のボビン7の中心穴に釜軸2aが入り込み、前側のアームブロック31の作動片54は前壁13のドック59に乗り上がり、把持爪42を開こうとする。しかし、前進端で、当接部材41は押されたままとなるので、しばらく把持爪42は閉じたままとなる。
【0054】
(5)続いて、図8(d)に示すように、再びエアシリンダ28が逆作動してロッド29を退入させ、スライドベース20及び回転アーム30が後退する。この後退の初期に、当接部材41が新ボビンセット9を押さえながら進出し、その途中で把持爪42が開いて新ボビンセット9の把持を解放するため、新ボビンセット9は釜2に確実に取り付けられる。この後退の途中でラックギヤ62とピニオンギヤ63とが噛合するため、回転アーム30は平面から見て時計回り方向に180°回転する。後端端で、図7(a)の状態に戻る。
【0055】
本実施形態のボビン交換装置によれば、回転アーム30に2つの把持機構40を180°間隔をおいて備えるので、回転アーム30を前進→後退させて一方の把持機構40で旧ボビンセット6を把持→解放するときには、既に並行して他方の把持機構40で新ボビンセット9を把持しているので、再び回転アーム30を前進させれば直ちに新ボビンセット9の取り付けに進むことができる。従って、ボビン交換に要する時間を短縮できる。
【0056】
次に、本発明を具体化した第二実施形態例について、図9〜図24を参照して説明する。図9及び図10に示すように、ミシン(例えば刺繍ミシン)は単頭又は複数頭のミシンヘッド(図示略)とその下方のベッド101とを備え、ベッド101には、ベッド101に挿通する釜軸102aに結合された釜102と、ベッド101の上面を覆う針板103とが設けられている。そして、ベッド101の手前下側には、旧ボビンセット106を釜102から取り外し、新ボビンセット109を釜102に取り付ける、ボビン交換装置が設置されている。
【0057】
この実施形態のボビン交換装置は、
前後方向に延びるベースフレーム110と、
ベースフレーム110に対し進退可能に支持されたスライドベース120と、スライドベース120に対し水平軸線(釜軸102aとは直角をなす)の回りに回転可能に設けられるとともに、ボビンセット106,109を把持する2つの把持機構140を水平軸線回りで180°間隔をおいて備えた回転アーム130と、
スライドベース120及び回転アーム130を所定のストロークで前進及び後退させる進退駆動手段としてのエアシリンダ128と、
回転アーム130をストローク途中で回転させて2つの把持機構140の向きを前後逆に反転させる回転駆動手段としての回転変換機構160と、
プリセット位置で新旧のボビンセット106,109を把持機構140との間で授受するセット治具170と、
から構成されている。なお、第一実施形態と同様、回転アーム130の後退端において後側に位置する把持機構140を新ボビンセット109のプリセット位置としている。
【0058】
[ベースフレーム110]
ベースフレーム110は1枚の板材で形成され、ベッド101の脚部104にブラケット119で垂直に取り付けられている。ベースフレーム110の上縁には、後端側(作業者にとっては手前側)の直線部と前端側(作業者にとっては奥側)の曲線部とからなるガイド111が形成され、このガイド111に沿って回転アーム130が前進時に上昇し、後退時に下降するように案内される。ベースフレーム110の左側面には後端ブロック112と前端ブロック113とが取り付けられ、両ブロック112,113間に上下一対の案内バー114が水平に架設されている。そして、案内バー114にスライドベース120が進退可能に支持されている。
【0059】
[スライドベース120]
図11及び図12に示すように、スライドベース120は平行四節リンク機構を構成する4本のリンク121〜124を備え、後リンク121に案内バー114が摺動可能に挿通され、前リンク122の上端に回転アーム130の水平回転軸133が支持されている。ベースフレーム110には、スライドベース120を前後上下に案内する水平板及び傾斜板からなる案内部材125と、スライドベース120を後退端で停止保持する後ストッパ126と、スライドベース120を前進端で停止保持する前ストッパ127とが配設されている。案内部材125の後端にはフック125aが形成され、スライドベース120の後退端において、前リンク122と下リンク124とを係止して、水平回転軸133を左右及び上下方向の定位置に保持するようになっている。
【0060】
[エアシリンダ128]
エアシリンダ128は後端ブロック112の後側に取り付けられている。エアシリンダ128のロッド129は後端ブロック112に挿通され、後リンク121の上下方向中間部に結合されている。そして、エアシリンダ128によりスライドベース120が所定のストロークで前進及び後退され、スライドベース120のリンク作用により回転アーム130がガイド111の曲線カム形状に従って滑らかに上昇及び下降されるようになっている。この構成によれば、回転アーム130が昇降動作を伴って前後に移動するので、プリセット位置を釜102より低位に設定でき、メンテナンス時の釜102周辺部へのアクセスが容易となり、また、テーブル等を大幅に改造することなく、既存のミシンに本装置を簡単に追加装備することができる。
【0061】
[回転アーム130]
図13〜図16に示すように、回転アーム130は前後方向に長いアームブロック131を備え、その中央部に軸受132がベースフレーム110側に突出するように組み付けられている。軸受132には水平回転軸133が挿通され、軸受132の突端外周にはガイド111上を摺動及び回転する係合輪134が形成されている。ボビンセット106,109を把持する2つの把持機構140はアームブロック131に前後逆向きの形態で上下2段に設けられている。回転アーム130は水平回転軸133を中心にして回転するので、回転時に左右方向にスペースをとらない利点がある。
【0062】
[把持機構140]
2つの把持機構140は略同様に構成され、アームブロック131の先端においてボビンセット106,109の正面(ボビンケースの正面)を当接させる当接部材141と、ボビンケースのロックレバー105を立てる把持爪142と、立てられたロックレバー105を受ける把持面143とを含む。把持爪142はアームブロック131の先端部に軸135により開閉回動可能に支持されている。当接部材141及び把持面143は第一スライダ144の先端部に設けられ、把持面143にロックレバー105の係合孔に入り込む係合突起143aが形成されている。なお、釜102におけるボビンセット106,109の取付角度の変化に順応できるように、当接部材141を前後方向の軸線回りで首振り可能に設けてもよい。
【0063】
前記第一スライダ144はアームブロック131の凹所131aに前後方向へ摺動可能に支持され、基端側のボルト145に外挿された圧縮バネ146により先端側へ付勢されている。第一スライダ144の中間部には前後に長い孔144bが形成され、アームブロック131には長孔144bに嵌合するスライドピン138が立設されている。スライドピン138にはレバー139の基端が結合され、その先端には把持爪142の係合溝149に嵌合する係合ピン147が設けられている。第一スライダ144と隣接する位置には、第二スライダ148がアームブロック131の凹所131bを前後方向へ摺動可能に支持されている。
【0064】
第二スライダ148は、基端側のボルト150に外挿された圧縮バネ151により先端側へ付勢されるとともに、アームブロック131に固定した押え118によって浮き上がり防止されている。第二スライダ148の先端には、把持爪142の開閉量を調整するための調整板136がボルト137により長孔148aを介し左右方向へ位置調整可能に取り付けられ、調整板136の先端ピン115がレバー139の長孔139aに嵌合されている。そして、レバー139が、アームブロック131と第一スライダ144と第二スライダ148との相対移動を把持爪142の開閉運動に変換するようになっている。
【0065】
第二スライダ148の中間部には結合ピン152が左右方向へ摺動可能に挿着され、バネ153で第一スライダ144側へ付勢されている。第一スライダ144の裏面には、結合ピン152に係合して第二スライダ148を基端側へ退入させる段部144aが形成されている。また、第一スライダ144には係止ピン154が上下方向へ摺動可能に挿着され、バネ155でアームブロック131側へ付勢されている。アームブロック131のスライダ支持面には長溝131cと凹溝131dとが形成され、長溝131cに作動片156が左右方向へ摺動可能に嵌合され、バネ157でベースフレーム110側へ付勢されている。
【0066】
作動片156には、図16に示すように、先端のカム部156aと、これに隣接する凹部156bと、係止ピン154が係合する傾斜部156c(図14の係止ピン154側が低い)と、それより高い凸部156dと、結合ピン152を受け入れる受入部156eと、凹溝131d内に突出して作動片156を抜け止めするピン156f(図14参照)とが設けられている。一方の作動片156のカム部156aは裏面側を切除して形成され、他方の作動片156のカム部156aは表面側を切除して形成されている。そして、回転アーム130の後退端及び前進端と対応する定位置において、ベースフレーム110にはカム部156aに係合可能な後ドッグ158及び前ドッグ159(図12参照)が設けられている。
【0067】
ここで、把持機構140の作用を図17及び図18に基づいて説明する。図17(a)〜(d)は、把持機構140が旧ボビンセット106を釜102から取り出すときの動作を示すものであるが、把持機構140は新ボビンセット109をセット治具170から受け取るときも同様に動作する。
【0068】
(a)回転アーム130が釜102に向かって前進するときは、前側の把持機構140において、第一スライダ144及び第二スライダ148が圧縮バネ146,151によりアームブロック131の前端側位置に保持され、把持爪142が旧ボビンセット106を受入可能な全開位置に配置されている。
(b)回転アーム130が釜102の直前位置に達すると、当接部材141が旧ボビンセット106に当接し、上側の作動片156が前ドッグ159と対向する。しかし、図16(b)に示すように、この作動片156のカム部156aは、裏面側を切除して形成されているため、前ドッグ159と係合しない。
【0069】
(c)回転アーム130がさらに前進すると、第一スライダ144がアームブロック131上で後方へ退入し、該スライダ144の段部144aが結合ピン152を押し、第二スライダ148が第一スライダ144と共に後方へ退入し、レバー139が図の時計回り方向へ回動し、把持爪142が閉じる。把持爪142はロックレバー105を立て、把持面143に押し付け、旧ボビンセット106を把持する。このとき、結合ピン152は2つのスライダ144,148を結合した状態で、作動片156の受入部156eに進入する。係止ピン154は作動片156の傾斜部156cを乗り越えてその後側面に係合する。そして、結合ピン152及び係止ピン154からなるロック機構により、把持爪142が閉鎖位置にロックされる。
(d)この状態で、回転アーム130が後退し、把持機構140が旧ボビンセット106を釜102から取り出す。
【0070】
図18(a)〜(d)は、把持機構140が新ボビンセット109を釜102に取り付けるときの動作を示すものであるが、把持機構140は旧ボビンセット106をセット治具170に引き渡すときも同様に動作する。なお、旧ボビンセット106の取出後には、回転アーム130が180°回転して、2つの把持機構140が前後逆となるので、図18には図17と別の把持機構140が示されている。
【0071】
(a)回転アーム130が釜102に向かって前進するときは、前側の把持機構140において、図17(d)と同様に、把持爪142が新ボビンセット109を把持し、結合ピン152及び係止ピン154が把持爪142を閉鎖位置にロックしている。
(b)回転アーム130が釜102の直前位置に達すると、当接部材141が新ボビンセット109に当接し、上側の作動片156が前ドッグ159と対向する。このときは、図16(d)に示すように、作動片156のカム部156aが、表面側を切除して形成されているため、前ドッグ159と係合する。
【0072】
(c)回転アーム130がさらに前進すると、新ボビンセット109が釜102に着座し、第一スライダ144が停止するとともに、前ドッグ159及び作動片156からなるロック解除機構が作動し、前ドッグ159が作動片156を押し込む。そして、作動片156の凸部156dが結合ピン152を第一スライダ144の段部144aから押し出し、係止ピン154が傾斜部156cから凹部156b側にシフトし、把持爪142のロック状態が解除される。従って、第一スライダ144の停止状態で、第二スライダ148が圧縮バネ151により前方へ摺動され、双方の相対移動によりレバー139が図の反時計回り方向へ回動し、把持爪142が開き、新ボビンセット109が解放される。
【0073】
(d)回転アーム130が後退すると、前ドッグ159が作動片156から離れ、作動片156がバネ157により押し出され、第一スライダ144が圧縮バネ146により前方へ摺動される。このとき、係止ピン154は作動片156の凹部156bを通過したのち傾斜部156c側に戻り、結合ピン152は第一スライダ144の段部144aに係合する。そして、アームブロック131の後退に伴いレバー139が図の反時計回り方向へ僅かに回動し、把持爪142が全開し、把持機構140が図17(a)と同じ状態に戻り、新ボビンセット109の取り付けを完了する。
【0074】
なお、把持機構140が新ボビンセット109をセット治具170から受け取るときは、図16(a)に示すように、下側の作動片156のカム部156aが後ドッグ158に係合しないので、図17の場合と同様に、ロック解除機構が作動しない。また、把持機構140が旧ボビンセット106をセット治具170に引き渡すときは、図16(c)に示すように、下側の作動片156のカム部156aが後ドッグ158に係合するので、図18の場合と同様に、ロック解除機構が作動する。
【0075】
[回転変換機構160]
図19及び図20に示すように、回転変換機構160は、ベースフレーム110に固定されて前進及び後退しないラックギヤ162と、ラックギヤ162に固着された噛合板161と、水平回転軸133上に摺動自在に支持されたピニオンギヤ163と、ピニオンギヤ163を中立位置(図19a参照)に保持するスプリング164,165と、軸受132を前リンク122に切離可能に結合する2本のクラッチピン166とから構成されている。噛合板161には、回転アーム130の前進時にピニオンギヤ163をラックギヤ162と噛み合わない位置(図19b参照)にシフトさせる後カム面167と、回転アーム130の後退時にピニオンギヤ163をラックギヤ162と噛み合う位置(図19c参照)にシフトさせる前カム面168とが形成されている。
【0076】
クラッチピン166はピニオンギヤ163に固定され、前リンク122及び軸受132にはクラッチピン166の端部が挿入される孔116,117が形成されている。一方のスプリング164は軸受132の孔117に挿入され、クラッチピン166を押してピニオンギヤ163を前リンク122側へ付勢している。他方のスプリング165は前リンク122とピニオンギヤ163との間に介装され、ピニオンギヤ163を軸受132側へ付勢している。そして、回転アーム130の前進時には、クラッチピン166の両端部が孔116,117に係止され、アームブロック131がクラッチピン166を介しスライドベース120に水平な姿勢で結合される。
【0077】
また、回転アーム130の後退途中では、ピニオンギヤ163が噛合板161によってラックギヤ162に一時的に噛み合わされ、クラッチピン166が前リンク122の孔116から脱出し、アームブロック131と水平回転軸133とピニオンギヤ163とがクラッチピン166により一体回転可能に結合され、スライドベース120の後退に伴って回転アーム130が180°回転される。なお、後ストッパ126及び前ストッパ127は斜状のカム面126a,127aを備え(図12参照)、回転アーム130の後退端及び前進端でピニオンギヤ163を前リンク122に押し付けてその回転を規制し、ボビン着脱時における回転アーム130の揺れを防止できるようになっている。
【0078】
[セット治具170]
図21及び図22に示すように、セット治具170は、ベースフレーム110の右側面後端部に取り付けられた前後一対のブラケット171と、両ブラケット171間に架設された上下2本のガイドバー172と、ガイドバー172に沿って前後方向へ摺動する摺動体173と、摺動体173に水平軸174により回転可能に支持されたボビン装着板175と、該装着板175を後退端及び前進端でバックアップする当接片176とから構成されている。ボビン装着板175には、新旧ボビンセット(新ボビンセット109を図示)を支持する支持ピン177と、ボビンセット106,109の回転を規制する規制板178とが取着され、規制板178にボビンケースの掛止片107が掛止される切欠179が形成されている。当接片176はベースフレーム110にブロック180を介し軸181で上下に回動可能に支持されている。
【0079】
新ボビンセット109を把持機構140に取り付ける方法を図22(a)〜(d)に従って説明する。
(a)ボビン装着板175を後退端に配置し、当接片176を下に倒し、新ボビンセット109を支持ピン177に挿入して装着板175に取り付ける。このとき、装着板175は当接片176でバックアップされているので前方へ移動するおそれがない。
(b)当接片176を跳ね上げ、装着板175を水平軸174の回りで180°回転する。
(c)新ボビンセット109を前向きに反転したのち、装着板175を前方へ押し出す。
(d)新ボビンセット109を当接部材141に押し付け、把持爪142を閉じ、新ボビンセット109を把持機構140に取り付けたのち、当接片176を下に倒し、旧ボビンセット106を受け取る際の装着板175の後方移動を防止する。
【0080】
旧ボビンセット106は、前記と逆の順序で、把持機構140から装着板175に移載し、装着板175を後向きに反転したのち、セット治具170から取り外す。このセット治具170によれば、規制板178が新ボビンセット109の回転を規制するので、新ボビンセット109を正しい姿勢で押し込み、把持爪142を確実に閉鎖動作させることができる。また、旧ボビンセット106を装着板175に移載して取り出すため、ボビンセット106が落下して損傷するおそれもない。なお、ミシンの運転中でも、新ボビンセット109のプリセットを行うことができる。
【0081】
以上のように構成されたボビン交換装置を使用してボビン交換する方法を、図23(a)〜(d)及び図24(e)〜(h)に従って説明する。
(a)刺繍ミシンの運転中は、回転アーム130が後退端にあり、前側の把持機構140はアームブロック131の上側で釜102を向き、後側の把持機構140はアームブロック131の下側でセット治具170と対向している。このとき、両把持機構140の把持爪142は、それぞれボビンセット106,109を受入可能な全開位置に配置されている(図17a及び図18d参照)。
【0082】
(b)作業者は、セット治具170を用いて、新ボビンセット109を後側の把持機構140に取り付ける(図22d参照)。
この実施形態のボビン交換装置によれば、回転アーム130の後退端において後側に位置する把持機構140を新ボビンセット109のプリセット位置としているので、ミシンのテーブルの前端からプリセット位置までの奥行きが容易に手が届く程度に小さくなり、作業者は新ボビンセット109を容易にプリセットすることができる。
【0083】
(c)旧ボビンセット106のボビンにおける下糸が無くなった又は残り少なくなったことを検出装置(図示略)が検出すると、刺繍ミシンが自動的に運転を停止する。そして、自動的に又は作業者が手動スイッチを操作することにより、エアシリンダ128が作動してロッド129を繰り出し、スライドベース120及び回転アーム130が前進する。この前進時には、ピニオンギヤ163がラックギヤ162と噛合しないので(図19b参照)、回転アーム130は回転することなく水平姿勢を保って釜102に到着する。そして、前側の把持機構140の把持爪142が閉じて旧ボビンセット106を把持する(図17c参照)。
【0084】
(d)エアシリンダ128が逆作動してロッド129を退入させ、スライドベース120及び回転アーム130が後退する。この後退途中で、ピニオンギヤ163がラックギヤ162と噛み合い、アームブロック131がスライドベース120から切り離される(図19c参照)。そして、回転アーム130が図の反時計回り方向に180°回転し、新ボビンセット109を把持する把持機構140が前向きに、旧ボビンセット106を把持する把持機構140が後向きに反転する。
【0085】
(e)回転アーム130が後退端で停止すると、後側の把持機構140において、作動片156が後ドッグ158に係合し(図16c参照)、把持爪142が開いて旧ボビンセット106を解放し、旧ボビンセット106が把持機構140からセット治具170の装着板175に移載される。
【0086】
(f)再びエアシリンダ128が作動してロッド129を繰り出し、スライドベース120及び回転アーム130が前進する。このときも、ピニオンギヤ163はラックギヤ162と噛合しないので、回転アーム130は回転することなく水平姿勢を保って釜102に到着する。そして、前側の把持機構140において、作動片156が前ドッグ159に係合し(図16d参照)、把持爪142が開いて新ボビンセット109を解放する(図18c参照)。この間に、セット治具170において、装着板175を反転し、旧ボビンセット106を取り外す。
【0087】
(g)エアシリンダ128が逆作動してロッド129を退入させ、スライドベース120及び回転アーム130が後退する。この後退途中で、ピニオンギヤ163がラックギヤ162と噛合し、回転アーム130が180°回転し、ボビンセットを把持しない2つの把持機構140が前後逆向きに反転する。
(h)回転アーム130が後退端で停止し、この位置で2つの把持機構140が把持爪142を開いた状態で待機する。
【0088】
本実施形態のボビン交換装置によれば、1本のエアシリンダ128の動力で回転アーム130及び把持機構140が動作するので、複数の駆動源を必要とせず、制御回路を簡略化でき、コストダウンが可能である。また、回転アーム130は2つの把持機構140を前後に備え、一方の把持機構140が旧ボビンセット106を釜102から取り出したときには、既に他方の把持機構140が新ボビンセット109を把持しているので、直ちに回転アーム130を前進させて新ボビンセット109を釜102に取り付けることができ、もって、ボビン交換に要する時間を短縮できる。
【0089】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
【0090】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明のミシンによれば、少なくとも2つの把持機構に旧ボビンセットの把持と新ボビンセットの把持とを並行させることでボビン交換に要する時間が短縮され、また、新ボビンセットのプリセット位置までの奥行きが小さくなり作業者が新ボビンセットをプリセットしやすい、という優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施形態に係るボビン交換装置を後側から見た斜視図である。
【図2】同ボビン交換装置を前側から見た斜視図である。
【図3】同ボビン交換装置をその回転アーム(仮想線)を除いて見た平面図である。
【図4】同回転アームの平面図である。
【図5】同ボビン交換装置の側面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】同ボビン交換装置によるボビン交換方法の前半工程の平面図である。
【図8】同ボビン交換装置によるボビン交換方法の後半工程の平面図である。
【図9】本発明の第二実施形態に係るボビン交換装置の右側面図である。
【図10】同ボビン交換装置の平面図である。
【図11】同ボビン交換装置のベースフレーム及びスライドベースを示す左側面図である。
【図12】同ベースフレーム及びスライドベースの平面図である。
【図13】同ボビン交換装置の回転アームを示す右側面図である。
【図14】同回転アームの平面図である。
【図15】同回転アームの左側面図である。
【図16】同回転アームにおいて把持機構の作動片を示す断面図である。
【図17】同把持機構のボビン取外動作を示す機構図である。
【図18】同把持機構のボビン取付動作を示す平面図である。
【図19】同ボビン交換装置の回転変換機構を示す断面図である。
【図20】同回転変換機構の作用を示す右側面図である。
【図21】同ボビン交換装置のセット治具を示し、(a)は斜視図、(b)は平断面図である。
【図22】同セット治具の作用を示す右側面図である。
【図23】同ボビン交換装置によるボビン交換方法の前半工程を示す右側面図である。
【図24】同ボビン交換方法の後半工程を示す右側面図である。
【符号の説明】
1 ベッド
2 釜
6 旧ボビンセット
9 新ボビンセット
10 ベースフレーム
15 セット用ガイド穴
16 セット治具
20 スライドベース
28 エアシリンダ
30 回転アーム
33 垂直回転軸
40 把持機構
41 当接部材
42 把持爪
43 把持面
44 第一スライダ
48 第二スライダ
52,53 ストッパピン
54 作動片
56,57 押圧ピン
58,59 ドック
60 回転機構
62 ラックギヤ
63 ピニオンギヤ
101 ベッド
102 釜
105 ロックレバー
106 旧ボビンセット
109 新ボビンセット
110 ベースフレーム
111 ガイド
120 スライドベース
128 エアシリンダ
130 回転アーム
131 アームブロック
133 水平回転軸
134 係合輪
139 レバー
140 把持機構
141 当接部材
142 把持爪
143 把持面
144 第一スライダ
148 第二スライダ
152 結合ピン
154 係止ピン
156 作動片
158 後ドック
159 前ドック
160 回転変換機構
161 噛合板
162 ラックギヤ
163 ピニオンギヤ
166 クラッチピン
170 セット治具
173 摺動体
174 水平軸
175 ボビン装着板
176 当接片
178 規制板

Claims (19)

  1. 釜の軸線に対して直交するアーム軸線の回りに回転可能に設けられるとともにボビンセットを把持する少なくとも2つの把持機構をアーム軸線回りで所定角度間隔をおいて備えた回転アームと、該回転アームを前進及び後退させる進退駆動手段と、該回転アームを回転させる回転駆動手段とを含み、該回転アームの後退端において後側に位置する把持機構を新ボビンセットのプリセット位置としたことを特徴とするミシンのボビン交換装置。
  2. アーム軸線は垂直軸線である請求項1記載のミシンのボビン交換装置。
  3. アーム軸線は水平軸線である請求項1記載のミシンのボビン交換装置。
  4. 回転駆動手段は、進退駆動手段の駆動源を併用し、回転アームの前進又は後退の運動を回転運動に変換して回転アームを回転させる回転変換機構である請求項1〜3のいずれか一項に記載のミシンのボビン交換装置。
  5. 回転変換機構は、回転アームのアーム軸線の回りに設けたピニオンギヤと、前進及び後退しないラックギヤと、該ラックギヤを回転アームの前進又は後退の途中で一時的にピニオンギヤと噛合させる噛合機構とからなる請求項4記載のミシンのボビン交換装置。
  6. 回転変換機構は、回転アームのアーム軸線の回りに設けたピニオンギヤと、前進及び後退しないラックギヤと、該ピニオンギヤを回転アームの前進又は後退の途中で一時的にラックギヤと噛合させる噛合部材とからなる請求項4記載のミシンのボビン交換装置。
  7. 把持機構は、ボビンケースの正面を当接させる当接部材と、ボビンケースのロックレバーを立てる把持爪と、立てられたロックレバーを受ける把持面とを含み、把持爪と把持面とによりロックレバーにおいてボビンセットを把持する機構である請求項1〜6のいずれか一項に記載のミシンのボビン交換装置。
  8. ボビンセットの把持のロック機構は、把持面に結合されたスライド可能な第一スライダと、把持爪に結合されたスライド可能な第二スライダと、第一スライダの穴とロック時にスライドしない部材の穴とにまたがって嵌り得るストッパピンと、第二スライダとロック時にスライドしない部材の穴とにまたがって嵌り得るストッパピンとを含む機構である請求項7記載のミシンのボビン交換装置。
  9. ボビンセットの把持のロック機構は、把持面に結合されたスライド可能な第一スライダと、把持爪に結合されたスライド可能な第二スライダと、第一スライダの穴とアームブロックの穴とにまたがって嵌り得るストッパピンと、第二スライダと第一スライダの穴とにまたがって嵌り得るストッパピンとを含む機構である請求項7記載のミシンのボビン交換装置。
  10. ボビンセットの把持のロック解除機構は、回転アームの回転範囲内に設けられた回転しないドックと、該ドックにより押されて動くように把持機構に設けられた作動片と、該作動片の動きによりストッパピンを押して前記両穴へのまたがりを無くす押圧ピンとを含む機構である請求項7、8又は9記載のミシンのボビン交換装置。
  11. ボビンセットの把持のロック解除機構は、回転アームの前進又は後退の範囲内に設けられた前進及び後退しないドックと、該ドックにより押されて動くように把持機構に設けられた作動片と、該作動片の動きによりストッパピンを押して前記両穴へのまたがりを無くす押圧ピンとを含む機構である請求項7、8又は9記載のミシンのボビン交換装置。
  12. 把持爪を回転アームのアームブロックに開閉可能に支持し、アームブロックに第一スライダ及び第二スライダを設け、第一スライダに当接部材及び把持面を結合し、アームブロックと第一スライダと第二スライダとの相対移動を把持爪の開閉運動に変換するレバーを備えた請求項7記載のミシンのボビン交換装置。
  13. 把持爪を閉鎖位置にロックする機構を備え、該ロック機構は、第二スライダを第一スライダに相対移動不能に結合する結合ピンと、アームブロックに第一スライダ及び第二スライダを相対移動不能に係止する係止ピンとを含む請求項12記載のミシンのボビン交換装置。
  14. ロック機構を解除する機構を備え、該ロック解除機構は、回転アームの後退端及び前進端と対応する定位置に設けられたドックと、該ドックに係合して結合ピン及び係止ピンの作用を解除する作動片とを含む請求項13記載のミシンのボビン交換装置。
  15. プリセット位置の直後に、新ボビンセットをくぐらせるセット用ガイド穴を備えたセット治具を設けた請求項1〜14のいずれか一項に記載のミシンのボビン交換装置。
  16. プリセット位置の直後に、ボビンセットを把持機構との間で授受するセット治具を備え、該セット治具は、前後方向に摺動可能な摺動体と、摺動体に釜の軸線に対して直交する軸線の回りで回転可能に支持されたボビン装着板と、該装着板を後退端及び前進端でバックアップする部材とを含む請求項1〜14のいずれか一項に記載のミシンのボビン交換装置。
  17. ボビン装着板に、ボビンセットの回転を規制する部材を設けた請求項16記載のミシンのボビン交換装置。
  18. 回転アームを前進時に上昇させ、後退時に下降させるガイドを備えた請求項3記載のミシンのボビン交換装置。
  19. 回転アームを平行四節リンク機構に支持し、該リンク機構を進退駆動手段の駆動源に連結した請求項18記載のミシンのボビン交換装置。
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