JP3736596B2 - グリース組成物及び転がり軸受 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は各種産業機械や車両等の回転部材や摺動部材に適用されるグリース組成物に関し、特に高温、高速回転で使用される機器の回転部材や摺動部材に好適なグリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入した転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種産業機械や車両等の軸受に封入されるグリースにおいて、鉱油を基油としたグリースは、エステル油、シリコーン油、エーテル油等の合成潤滑油を基油としたグリースよりも酸化されやすく、高温における潤滑寿命が短いという欠点がある。特に、凡用グリースとして広く使用されているリチウム石けんを増ちょう剤とするグリースは、130℃以上の高温では、酸化劣化により短時間でグリース構造が破壊し、潤滑作用を低下させる。これは、主に増ちょう剤である金属石けんが触媒となって基油を酸化させるためである。
【0003】
このため、最近では、石けんグリースと異なり、金属元素を含まず酸化安定性に優れたウレア化合物を増ちょう剤とするウレアグリース、炭化水素系アミンとイソシアネートを反応させて得られるジウレアを増ちょう剤とするウレアグリース、更には高温での潤滑性能に優れた合成油を基油とし、ウレア化合物を増ちょう剤とするウレアグリースが市場で脚光を浴びるようになっている。
【0004】
【発明が解決しょうとする課題】
一方、グリースは各種の機械装置に一旦充填されると、長時間使用される場合が多く、その間常に空気と接触しているため、より熱安定性、酸化安定性に優れることが望まれている。更に、年々機械の小型化、軽量化、高速化が進み、またメンテナンスフリーの浸透により使用条件がますます苛酷になってきており、グリース組成物に対する要求性能も一段と厳しくなっている。このような要望に対して、上記ウレアグリースも十分に応えているとは言い難い状況にある。
例えば、自動車の電動ファンモータなどでは、近年のエンジンルームの部品の高集積化、小型化が進み、それに伴い軸受の使用温度も上昇し、従来からの脂肪族、脂環族、芳香族のウレアグリースでは対応できなくなってきている場合もある。
【0005】
このような状況から、特に高温における長寿命化の要求は、軸受メーカーにとっても最重要課題の一つとして取り上げられ、安価な長寿命のグリース組成物の開発が強く望まれている。また、使用上限温度の要求もますます上昇しているのが現状である。本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、安価で、且つ高温での潤滑性能並びに潤滑寿命が向上し、耐熱性に優れたグリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入した転がり軸受を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、グリース組成物の増ちょう剤として、分子骨格中に特定フッ素原子を含有する特定のウレア化合物を用いることにより、その高温における潤滑寿命を大幅に向上できることを見い出し、本発明を完成するに至った。即ち、上記の目的は、合成油を基油とし、下記一般式〔1〕で表され、かつ、R 2 を骨格中に含むジイソシアネート1モルと、R 1 ,R 3 を骨格中に含むモノアミン2モルとの反応生成物であり、1分子中に1〜6個のフッ素原子を有するジウレア化合物を増ちょう剤としてグリース全量の15〜25重量%含有することを特徴とするグリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入した転がり軸受により達成される。
【化7】
Figure 0003736596
(式中、R 2 は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基を表し、R 1 、R 3 は炭素数6〜7で、フッ素原子数0〜3の芳香族系官能基を有し、かつ、少なくとも一方がフッ素原子を有し、合計フッ素原子数が2〜4である。)
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のグリース組成物に関して、更に詳細に説明する。
本発明のグリース組成物は、一般のグリース組成物と同様に、基油と増ちょう剤とを含有する。
本発明で使用される基油としては、合成炭化水素油、エーテル油、エステル油等の合成油を単独もしくは混合して適宜使用できる。
尚、合成炭化水素油としてはポリ−α−オレフィン油等を、エーテル油としてはジアルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル油等を、エステル油としてはジエステル油、ポリオールエステル油、又はこれらのコンプレックスエステル油、芳香族エステル油等を挙げることができる。
中でも、高温、高速での潤滑性能並びに潤滑寿命を考慮すると、特にエステル油、エーテル油の含有が望ましい。
【0008】
本発明のグリース組成物は、上記の基油に、増ちょう剤として下記一般式〔I〕で表されるジウレア化合物を配合する
【0009】
【化1】
Figure 0003736596
【0010】
式中、R2 は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基を表し、またR1 、R3 は炭素数6〜7で、かつフッ素原子数0〜3の芳香族系官能基を表し、かつR1 、R3 の少なくとも一方にフッ素原子を含有する。
【0011】
この一般式〔I〕で表されるジウレア化合物は、基油中で、R2 を骨格中に含むジイソシアネート1モルに対して、R1 またはR3 を骨格中に含むモノアミンを合計で2モルの割合で反応させることにより得られる。
2 を骨格中に含むジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニレンジイソシアネート、ジメチルジフェニレンジイソシアネート、あるいはこれらのアルキル置換体等を好適に使用できる。
【0012】
1 、R3 は炭素数6〜7で、かつフッ素原子数0〜3の芳香族系官能基を表し、かつR1 、R3 の少なくとも一方にフッ素原子を含有する。ここでフッ素原子数が多すぎると基油との親和性が悪くなるので、フッ素原子数はR1 とR3 との合計で2〜4が好ましい。
本発明において使用できるR1 またはR3 としてフッ素原子を分子骨格中に含むモノアミンとしては、例えば次の化合物が挙げられる。
【0013】
【化2】
Figure 0003736596
【0014】
【化3】
Figure 0003736596
【0015】
また、本発明において使用できるR1 またはR3 としてフッ素原子を分子骨格中に含まないモノアミンとしては、例えば次の化合物が挙げられる。
【0016】
【化4】
Figure 0003736596
【0017】
記一般式〔I〕で表されるジウレア化合物の配合量は、グリース組成物全量に対して15〜25重量%となるように基油に配合される。
また、本発明においては従来公知の増ちょう剤を併用することができる。
これらの増ちょう剤としては、例えば4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートとアニリンとの反応生成物、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートとシクロヘキシルアミンとの反応生成物、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンとの反応生成物の他、アルミニウム、バリウム、カルシウム、リチウム、ナトリウム等の金属石鹸、リチウムコンプレックス、カルシウムコンプレックス、アルミニウムコンプレックスなどの複合金属石鹸、上記以外のジウレア、トリウレア、テトラウレア、ポリウレア等のウレア化合物、あるいは、シリカゲル、ベントナイト等の無機系化合物、ウレタン化合物、ウレア・ウレタン化合物、ナトリウムテレフタレート化合物などを適宜使用できる。
【0018】
本発明のグリース組成物には、従来より公知の各種添加剤を配合することができる。
〔極圧剤〕
極圧剤として、例えば以下の化合物を使用することができる。
有機金属系のものとしては、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン等の有機モリブデン化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオリン酸亜鉛、亜鉛フェネート等の有機亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸アンチモン、ジチオリン酸アンチモン等の有機アンチモン化合物、ジチオカルバミン酸セレン等の有機セレン化合物、ナフテン酸ビスマス、ジチオカルバミン酸ビスマス等の有機ビスマス化合物、ジチオカルバミン酸鉄、オクチル酸鉄等の有機鉄化合物、ジチオカルバミン酸銅、ナフテン酸銅等の有機銅化合物、ナフテン酸鉛、ジチオカルバミン酸鉛等の有機鉛化合物、マレイン酸スズ、ジブチルスズスルファイド等の有機スズ化合物、あるいは、アルカリ金属、アルカリ土類金属の有機スルホネート、フェネート、ホスホネート、金、銀、チタン、カドミウム等の有機金属化合物も必要なら使用できる。硫黄系化合物としては、ジベンジルジスルフィド等のスルフィドあるいはポリスルフィド化合物、硫化油脂類、無灰系カルバミン酸化合物類、チオウレア系化合物、もしくはチオカーボネート類等を使用ことができる。
リン酸系極圧剤としては、トリオクチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート等のリン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル等のリン酸エステル系化合物を使用することができる。
また、その他、塩素化パラフィン等のハロゲン系の極圧剤、あるいは、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、PTFE、硫化アンチモン、窒化硼素などの硼素化合物等の固体潤滑剤を使用することができる。
【0019】
〔油性剤〕
油性剤として、例えば以下の化合物を使用することができる。
即ち、オレイン酸やステアリン酸等の脂肪酸、オレイルアルコール等の脂肪酸アルコール、ポリオキシエチレンステアリン酸エステルやポリグリセリルオレイン酸エステル等の脂肪酸エステル、リン酸、トリクレジルホスフェート、ラウリル酸エステルまたはポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸等のリン酸エステル等を使用することができる。
【0020】
〔酸化防止剤〕
一般に使用される酸化防止剤も必要に応じて併用出来る。例えば、ゴム、プラスチック、潤滑油等に添加する老化防止剤、オゾン劣化防止剤、酸化防止剤から適宜選択して使用する。例えば、以下の化合物を使用することができる。
即ち、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ジピリジルアミン、フェノチアジン、N−メチルフェノチアジン、N−エチルフェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、p,p′−ジオクチルジフェニルアミン、N,N′−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン等のアミン系化合物、2,6−ジ−tert−ジブチルフェノール等のフェノール系化合物等を使用することができる。
【0021】
〔防錆剤・金属不活性化剤〕
防錆剤として、例えば以下の化合物を使用することができる。
即ち、有機スルホン酸のアンモニウム塩、バリウム、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等アルカリ金属、アルカリ土類金属の有機スルホン酸塩、有機カルボン酸塩、フェネート、ホスホネート、アルキルもしくはアルケニルこはく酸エステル等のアルキル、アルケニルこはく酸誘導体、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル、オレオイルザルコシン等のヒドロキシ脂肪酸類、1−メルカプトステアリン酸等のメルカプト脂肪酸類あるいはその金属塩、ステアリン酸等の高級脂肪酸類、イソステアリルアルコール等の高級アルコール類、高級アルコールと高級脂肪酸とのエステル、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプトチアジアゾール等のチアゾール類、2−(デシルジチオ)−ベンゾイミダゾール、ベンズイミダゾール等のイミダゾール系化合物、あるいは、2,5−ビス(ドデシルジチオ)ベンズイミダゾール等のジスルフィド系化合物、あるいは、トリスノニルフェニルフォスファイト等のリン酸エステル類、ジラウリルチオプロピオネート等のチオカルボン酸エステル系化合物等を使用することができる。
また、亜硝酸塩等も使用することができる。
金属不活性化剤として、例えばベンゾトリアゾールやトリルトリアゾール等のトリアゾール系化合物を使用することができる。
【0022】
上記本発明のグリース組成物は、常法に従い、分子骨格中にフッ素原子を含有する上記一般式〔I〕で表されるジウレア化合物を増ちょう剤として所定量を基油に添加し、更に必要に応じて上記の各種添加剤の所定量を添加して混練機により混練することにより得られる。
また、このグリース組成物は各種の転がり軸受に封入することにより、該軸受に優れた潤滑作用を付与することができるが、特に高温、高速回転での使用に供される転がり軸受に好適である。
【0023】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜3及び比較例1〜3)
2,4−ジフルオロアニリン、アニリン(ANと略記)及び4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDIと略記)を適宜組み合わせて油中で反応させ、実施例1〜3の増ちょう剤として下表に示すジウレアグリースを得た。
また、アニリン、シクロヘキシルアミン(CYと略記)、オクチルアミン(OCと略記)及びMDIを適宜組み合わせて油中で反応させ、比較例1〜3の増ちょう剤として下表に示すジウレアグリースを得た。これら比較例の増ちょう剤は、従来から一般に使用されているウレア化合物である。
尚、これらのジウレアグリースには、防錆剤としてバリウムスルホネートを2重量%、酸化防止剤として、p,p’−ジオクチルジフェニルアミンを2重量%、金属不活性化剤としてベンゾトリアゾールを0.05重量%を添加してある。得られたグリース組成物を軸受耐久試験に供し、寿命時間を測定した。試験方法は、ASTM D 1741の軸受寿命試験機に類似した試験機を用い、転がり軸受(呼び番号:6203VVC3)に各試験グリースを0.8g封入し、温度180℃、ラジアル荷重20kgf、アキシアル荷重20kgfの下で10000rpmの回転数で高速回転させ、焼き付きに至るまでの時間を測定した。
測定結果を下記表に示す。
【0024】
【表1】
Figure 0003736596
【0025】
一般的に高温用グリースにはこの種の軸受耐久試験において600時間以上の寿命が要求されるが、上記表の結果から判るように、比較例のグリースが何れも600時間未満であるのに対し、本発明に係る実施例のグリースは何れも1000時間以上の寿命を示し満足すべき結果が得られた。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のグリース組成物は、上記特定のフッ素原子を含有するウレア化合物を使用することにより、高温での潤滑寿命を大幅に改善でき、特に高温、高速回転に供される軸受に好適に使用することができる。また、本発明の転がり軸受は、前記グルース組成物を封入したことにより、特に高温、高速回転での使用に好適である。

Claims (6)

  1. 合成油を基油とし、下記一般式〔1〕で表され、かつ、R 2 を骨格中に含むジイソシアネート1モルと、R 1 ,R 3 を骨格中に含むモノアミン2モルとの反応生成物であり、1分子中に1〜6個のフッ素原子を有するジウレア化合物を増ちょう剤としてグリース全量の15〜25重量%含有することを特徴とするグリース組成物。
    Figure 0003736596
    (式中、R 2 は炭素数6〜15の芳香族系炭化水素基を表し、R 1 、R 3 は炭素数6〜7で、フッ素原子数0〜3の芳香族系官能基を有し、かつ、少なくとも一方がフッ素原子を有し、合計フッ素原子数が2〜4である。)
  2. 前記基油が、エステル油またはエーテル油であることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
  3. 前記ジウレア化合物の1分子当たりのフッ素原子数2〜4であることを特徴とする請求項1または2に記載のグリース組成物。
  4. 前記モノアミンの一方がp−フルオロアニリン及び2,4−ジフルオロアニリンの少なくとも一方であり、他方がアニリンであることを特徴とする請求項3記載のグリース組成物。
  5. 前記モノアミンの一方が2,4−ジフルオロアニリンであり、他方がアニリンであることを特徴とする請求項4記載のグリース組成物。
  6. 請求項1〜5の何れか1項に記載のグリース組成物を封入してなることを特徴とする転がり軸受
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