JP3601568B2 - グリース組成物及び転がり軸受 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は各種産業機械や車両等の回転部材や摺動部材に適用されるグリース組成物及び転がり軸受に関し、特に高温、高速回転で使用される機器の回転部材や摺動部材に好適なグリース組成物及び転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種産業機械や車両等の軸受に封入されるグリースにおいて、鉱油を基油としたグリースは、エステル油、シリコーン油、エーテル油等の合成潤滑油を基油としたグリースよりも酸化されやすく、高温における潤滑寿命が短いという欠点がある。特に、凡用グリースとして広く使用されているリチウム石けんを増ちょう剤とするグリースは、130℃以上の高温では、酸化劣化により短時間でグリース構造が破壊し、潤滑作用を低下させる。これは、主に増ちょう剤である金属石けんが触媒となって基油を酸化させるためである。
【0003】
このため、最近では、石けんグリースと異なり、金属元素を含まず酸化安定性に優れたウレア化合物を増ちょう剤とするウレアグリース、更には高温での潤滑性能に優れた合成油を基油とし、ウレア化合物を増ちょう剤とするウレアグリースが市場で脚光を浴びるようになっている。
【0004】
【発明が解決しょうとする課題】
一方、グリースは各種の機械装置に一旦充填されると、長時間使用される場合が多く、その間常に空気と接触しているため、より熱安定性、酸化安定性に優れることが望まれている。更に、年々機械の小型化、軽量化、高速化が進み、またメンテナンスフリーの浸透により使用条件がますます苛酷になってきており、グリース組成物に対する要求性能も一段と厳しくなっている。このような要望に対して、上記ウレアグリースも十分に応えているとは言い難い状況にある。
例えば、自動車の電動ファンモータなどでは、近年のエンジンルームの部品の高集積化、小型化が進み、それに伴い軸受の使用温度も上昇し、従来からの脂肪族、脂環族、芳香族のウレアグリースでは対応できなくなってきている場合もある。
【0005】
このような状況から、特に高温における長寿命化の要求は、軸受メーカーにとっても最重要課題の一つとして取り上げられ、安価な長寿命のグリース組成物及び転がり軸受の開発が強く望まれている。また、使用上限温度の要求もますます上昇しているのが現状である。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、高温での潤滑性能並びに潤滑寿命が向上したグリース組成物及び転がり軸受を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、グリース組成物の増ちょう剤として、末端に縮合環炭化水素系アミンを有するジウレア化合物を用いることにより、その高温における潤滑寿命を大幅に向上できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記の目的は、本発明の、基油と増ちょう剤とを含有するグリース組成物であって、前記増ちょう剤として、下記一般式〔I〕で表されるジウレア化合物を含有することを特徴とするグリース組成物により達成される。
【0007】
【化2】
【0008】
式中、R2は芳香族系炭化水素基を表し、またR1、R3は炭化水素基または縮合環炭化水素基を表し、かつ同一でも異なっていてもよいが、R1、R3のうち2−インダニル基または5−インダニル基の占める割合が10〜75モル%である。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明のグリース組成物に関して、更に詳細に説明する。
本発明のグリース組成物は、一般のグリース組成物と同様に、基油と増ちょう剤とを含有する。
本発明で使用される基油としては、特に制限されることはなく、鉱油及び合成炭化水素油、エーテル油、エステル油等の合成油を単独もしくは混合して適宜使用できる。
尚、鉱油としてはパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油を挙げることができ、合成炭化水素油としてはポリ−α−オレフィン油等を、エーテル油としてはジアルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル油等を、エステル油としてはジエステル油、ポリオールエステル油、又はこれらのコンプレックスエステル油、芳香族エステル油等を挙げることができる。
中でも、高温、高速での潤滑性能並びに潤滑寿命を考慮すると、合成油が含有されることが望ましく、特にエステル油、エーテル油の含有が望ましい。コスト面からは、鉱油が含有されることが望ましい。
【0010】
本発明のグリース組成物は、上記の基油に、増ちょう剤として上記一般式〔I〕で表される、末端に縮合環炭化水素系アミンを有するジウレア化合物が配合されることを特徴とする。
一般式〔I〕において、R2は芳香族系炭化水素基を表す。
R1、R3は炭化水素基または縮合環炭化水素基を表し、同一でも異なっていてもよいが、R1、R3中に占める2−インダニル基または5−インダニル基の割合は10モル%以上、好ましくは10〜90モル%、更に好ましくは25〜75モル%である。また、R1 、R3 において炭化水素基は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基の何れでもよく、縮合環炭化水素基の炭素数は好ましくは9〜19、更に好ましくは9〜13である。
【0011】
この一般式〔I〕で表されるジウレア化合物は、基油中で、R2 を骨格中に含むジイソシアネート1モルに対して、R1 またはR3 を骨格中に含むモノアミンを合計で2モルの割合で反応させることにより得られる。
R2 を骨格中に含むジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニレンジイソシアネート、ジメチルジフェニレンジイソシアネート、あるいはこれらのアルキル置換体等を好適に使用できる。
【0012】
R1 またはR3 として炭化水素基を骨格中に含むモノアミンとしては、アニリン、シクロヘキシルアミン、オクチルアミン、トルイジン、ドデシルアニリン、オクタデシルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ノニルアミン、エチルヘキシルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ノナデシルアミン、エイコデシルアミン、オレイルアミン、リノレイルアミン、リノレニルアミン、メチルシクロヘキシルアミン、エチルシクロヘキシルアミン、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチルシクロヘキシルアミン、ブチルシクロヘキシルアミン、プロピルシクロヘキシルアミン、アミルシクロヘキシルアミン、シクロオクチルアミン、ベンジルアミン、ベンズヒドリルアミン、フェネチルアミン、メチルベンジルアミン、ビフェニルアミン、フェニルイソプロピルアミン、フェニルヘキシルアミン等を好適に使用できる。
また、R1 またはR3 として縮合環炭化水素基を骨格中に含むモノアミンとして、例えばアミノインデン、アミノインダン、アミノ−1−メチレンインデン、などのインデン系アミン化合物、アミノナフタレン(ナフチルアミン)、アミノメチルナフタレン、アミノエチルナフタレン、アミノジメチルナフタレン、アミノカダレン、アミノビニルナフタレン、アミノフェニルナフタレン、アミノベンジルナフタレン、アミノジナフチルメタン、アミノビナフチル、アミノ−1,2−ジヒドロナフタレン、アミノ−1,4−ジヒドロナフタレン、アミノテトラヒドロナフタレン、アミノオクタリンなどのナフタレン系アミン化合物、アミノペンタレン、アミノアズレン、アミノヘプタレンなどの縮合二環系アミン化合物、アミノフルオレン、アミノ−9−フェニルフルオレンなどのアミノフルオレン系アミン化合物、アミノアントラセン、アミノメチルアントラセン、アミノジメチルアントラセン、アミノフェニルアントラセン、アミノ−9,10−ジヒドロアントラセンなどのアントラセン系アミン化合物、アミノフェナントレン、アミノ−1,7−ジメチルフェナントレン、アミノレテンなどのフェナントレンアミン化合物、アミノビフェニレン、アミノ−s−インダセン、アミノ−as−インダセン、アミノアセナフチレン、アミノアセナフテン、アミノフェナレンなどの縮合三環系アミン化合物、アミノナフタセン、アミノクリセン、アミノピレン、アミノトリフェニレン、アミノベンゾアントラセン、アミノアセアントリレン、アミノアセアントレン、アミノアセフェナントリレン、アミノアセフェナントレン、アミノフルオランテン、アミノプレイアデンなどの縮合四環系アミン化合物、アミノペンタセン、アミノペンタフェン、アミノピセン、アミノペリレン、アミノジベンゾアントラセン、アミノベンゾピレン、アミノコラントレンなどの縮合五環系アミン化合物、アミノコロネン、アミノピラントレン、アミノビオラントレン、アミノイソビオラントレン、アミノオバレンなどの縮合多環系(六環以上)アミン化合物等が好適に使用できる。
【0013】
上記一般式〔I〕で表されるジウレア化合物の配合量は、通常の増ちょう剤の配合量と同様に、グリース状を得られる範囲ならば特に制約はないが、好ましくは、グリース全量に対して5〜40重量%となるように基油に配合される。より好ましくは10〜35重量%である。40重量%を越える量を配合した場合、相対的に基油の量が少なくなり、潤滑作用に悪影響を及ぼす。
【0014】
本発明のグリース組成物には、従来より公知の各種添加剤を配合することができる。
〔極圧剤〕
極圧剤として、例えば以下の化合物を使用することができる。
有機金属系のものとしては、ジチオカルバミン酸モリブデン、ジチオリン酸モリブデン等の有機モリブデン化合物、ジチオカルバミン酸亜鉛、ジチオリン酸亜鉛、亜鉛フェネート等の有機亜鉛化合物、ジチオカルバミン酸アンチモン、ジチオリン酸アンチモン等の有機アンチモン化合物、ジチオカルバミン酸セレン等の有機セレン化合物、ナフテン酸ビスマス、ジチオカルバミン酸ビスマス等の有機ビスマス化合物、ジチオカルバミン酸鉄、オクチル酸鉄等の有機鉄化合物、ジチオカルバミン酸銅、ナフテン酸銅等の有機銅化合物、ナフテン酸鉛、ジチオカルバミン酸鉛等の有機鉛化合物、マレイン酸スズ、ジブチルスズスルファイド等の有機スズ化合物、あるいは、アルカリ金属、アルカリ土類金属の有機スルホネート、フェネート、ホスホネート、金、銀、チタン、カドミウム等の有機金属化合物も必要なら使用できる。硫黄系化合物としては、ジベンジルジスルフィド等のスルフィドあるいはポリスルフィド化合物、硫化油脂類、無灰系カルバミン酸化合物類、チオウレア系化合物、もしくはチオカーボネート類等を使用ことができる。
リン酸系極圧剤としては、トリオクチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート等のリン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル等のリン酸エステル系化合物を使用することができる。
また、その他、塩素化パラフィン等のハロゲン系の極圧剤、あるいは、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、PTFE、硫化アンチモン、窒化硼素などの硼素化合物等の固体潤滑剤を使用することができる。
【0015】
〔油性剤〕
油性剤として、例えば以下の化合物を使用することができる。
即ち、オレイン酸やステアリン酸等の脂肪酸、オレイルアルコール等の脂肪酸アルコール、ポリオキシエチレンステアリン酸エステルやポリグリセリルオレイン酸エステル等の脂肪酸エステル、リン酸、トリクレジルホスフェート、ラウリル酸エステルまたはポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸等のリン酸エステル等を使用することができる。
【0016】
〔酸化防止剤〕
一般に使用される酸化防止剤も必要に応じて併用出来る。例えば、ゴム、プラスチック、潤滑油等に添加する老化防止剤、オゾン劣化防止剤、酸化防止剤から適宜選択して使用する。例えば、以下の化合物を使用することができる。
即ち、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニル−p−フェニレンジアミン、ジピリジルアミン、フェノチアジン、N−メチルフェノチアジン、N−エチルフェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、p,p′−ジオクチルジフェニルアミン、N,N′−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N′−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン等のアミン系化合物、2,6−ジ−tert−ジブチルフェノール等のフェノール系化合物等を使用することができる。
【0017】
〔防錆剤・金属不活性化剤〕
防錆剤として、例えば以下の化合物を使用することができる。
即ち、有機スルホン酸のアンモニウム塩、バリウム、亜鉛、カルシウム、マグネシウム等アルカリ金属、アルカリ土類金属の有機スルホン酸塩、有機カルボン酸塩、フェネート、ホスホネート、アルキルもしくはアルケニルこはく酸エステル等のアルキル、アルケニルこはく酸誘導体、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル、オレオイルザルコシン等のヒドロキシ脂肪酸類、1−メルカプトステアリン酸等のメルカプト脂肪酸類あるいはその金属塩、ステアリン酸等の高級脂肪酸類、イソステアリルアルコール等の高級アルコール類、高級アルコールと高級脂肪酸とのエステル、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプトチアジアゾール等のチアゾール類、2−(デシルジチオ)−ベンゾイミダゾール、ベンズイミダゾール等のイミダゾール系化合物、あるいは、2,5−ビス(ドデシルジチオ)ベンズイミダゾール等のジスルフィド系化合物、あるいは、トリスノニルフェニルフォスファイト等のリン酸エステル類、ジラウリルチオプロピオネート等のチオカルボン酸エステル系化合物等を使用することができる。
また、亜硝酸塩等も使用することができる。
金属不活性化剤として、例えばベンゾトリアゾールやトリルトリアゾール等のトリアゾール系化合物を使用することができる。
【0018】
上記本発明のグリース組成物は、常法に従い、上記一般式〔I〕で表されるジウレア化合物を増ちょう剤として所定量を基油に添加し、更に必要に応じて上記の各種添加剤の所定量を添加して混練機により混練することにより得られる。
また、このグリース組成物は各種の転がり軸受に封入することにより、該軸受に優れた潤滑作用を付与することができるが、特に高温、高速回転での使用に供される転がり軸受に好適である。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜3及び比較例1〜9)
表1〜表4に示す所定量のモノアミン(一般式〔I〕のR1 ,R3 源)と、ジイソシアネート(一般式〔I〕のR2源)とを基油中で反応させ、試験グリースを合成した。尚、各試験グリースには、防錆剤としてバリウムスルホネートを2重量%、酸化防止剤として、p,p’−ジオクチルジフェニルアミンを2重量%、金属不活性化剤としてベンゾトリアゾールを0.05重量%を添加してある。
得られた試験グリースを軸受耐久試験に供し、寿命時間を測定した。試験方法は、ASTM D 1741の軸受寿命試験機に類似した試験機を用い、転がり軸受(呼び番号:6203VVC3)に各試験グリースを0.8g封入し、温度180℃、ラジアル荷重2kgf、アキシアル荷重20kgfの下で6800rpmの回転数で高速回転させ、焼き付きに至るまでの時間を測定した。
測定結果を表1〜表4に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
【表4】
【0024】
一般的に高温用グリースにはこの種の軸受耐久試験において600時間以上の寿命が要求されるが、表1〜表4の結果から判るように、比較例のグリースが何れも740時間以下であるのに対し、本発明に係る実施例のグリースは何れも830時間以上の寿命を示す満足すべき結果が得られた。
【0025】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のグリース組成物は、一般式〔1〕で表される縮合環炭化水素系アミンを有するジウレア化合物を含有することで、高温での潤滑寿命を大幅に改善でき、特に高温、高速回転に供される軸受に好適に使用することができる。
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