JP3734872B2 - 伝動ベルト - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、伝動ベルトに関し、特に、VリブドベルトやVベルト等の摩擦伝動ベルトの走行寿命の向上に有利な発明である。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車のエンジンルーム内の雰囲気温度は従来に比べて上昇してきており、そこに使用される伝動ベルトに対する耐熱性の要求が高くなっている。そこで、このような伝動ベルトでは、そのゴム材として耐熱性に優れたクロロスルホン化ポリエチレン系のものを使用することが検討されている。しかし、この種のゴム材は、耐久性、低温特性(耐寒性)の面で問題があり、その改良が望まれている。
【0003】
これに対して、特開平4−211748号公報には、クロロスルホン化ポリエチレン分子の主鎖にアルキル基を導入して結晶化度を低減させるようにしたアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(以下、ACSMという略号を用いることがある)を伝動ベルトの圧縮ゴムとして用いることが記載されている。すなわち、このものは、上記ACSMの塩素含有量を15〜35重量%、硫黄含有量を0.5〜2.5重量%とすることにより、伝動ベルトの低温特性の向上を図るものである。
【0004】
また、特開昭63−57654号公報には、クロロスルホン化ポリエチレンにジマレイミド、ジチオカルバミン酸ニッケル及びチウラムポリスルフィドを配合することにより、その耐圧縮永久歪を改善することが記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記ACSMを用いた伝動ベルトの場合、その走行(使用)時間が長くなると、機械的刺激を繰り返し受けることから、次第にベルトの変形が大きくなってプーリへの沈み込み、所謂へたり(永久歪)を生ずるという問題があり、特に高負荷ないしは高張力下での使用においてこの問題が顕著になる。
【0006】
上記へたりは基本的にはゴムの劣化によって生じ、この劣化は熱が原因になるが、従来、伝動ベルトの走行寿命を左右する熱に係る要因としては、該伝動ベルトの雰囲気温度及びベルト走行時にプーリとの間での摩擦によって発生する摩擦熱というような外的な熱要因を問題とし、これに対策するという考えがとられている。
【0007】
しかし、伝動ベルトの走行寿命に関しては、上記外的な熱要因だけを問題にするのではなく、ベルトを構成するゴム自身が該ベルトの運動に伴って発熱し、内部に熱を蓄えることをも問題にする必要がある。すなわち、この発熱・蓄熱という内的な熱要因によってゴムの軟化・劣化が進み、これが上記へたりの一因になっている。そして、この発熱・蓄熱は、ベルトの圧縮ゴムにおいて顕著になり、ベルト寿命が短縮されてしまうのである。換言すれば、ベルトの外的要因としての熱に対する耐熱性を向上させたとしても、内的要因であるこの発熱・蓄熱量を小さくしない限り、ベルトの走行寿命を大幅に延長することはできない。
【0008】
一方、上記ACSMを用いた伝動ベルトは、その走行(使用)時間が長くなると、機械的刺激を繰り返し受ける結果、クラック(亀裂)を生ずる、という問題もある。このクラックは心線と接着ゴムとの界面から発生し易い。特に当該伝動ベルトを巻き掛けたプーリー径が小さい場合に、該プーリーを通過する際のベルトの屈曲変形が大きくなることから、上記クラック発生の問題が顕著になる。
【0009】
ここに、上記へたりの問題と上記クラックの問題とを考察すると、前者はベルトの運動に伴って外部から加わる機械的エネルギーが熱に変わってベルト内部に熱が蓄えられることが一因となるのに対し、後者は上記機械的エネルギーが熱に変わらずに心線と接着ゴムとの界面付近に局部的な応力集中を招くことが一因になる。従って、ベルトの耐発熱・蓄熱特性と耐クラック特性とは、一方が良くなれば他方が悪くなるというように、矛盾する方向で変化する関係にあり、両立させることが難しいという問題がある。
【0010】
先に従来技術を示すものとして掲げた特開平4−211748号公報は、ACSMを伝動ベルトのゴム材として用いることによって−30℃以下の低温時における塩素の凝集によるゴムの硬化を防止しようとするものであるが、上述のへたり及びクラックに対策することについて示唆するものではない。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであって、ACSMを伝動ベルトに用いるにあたり、上述の内的な熱要因及び応力集中の両者に対策して、その走行寿命を延ばすことを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題について種々の検討を加え、試作・実験を繰り返した結果、高分子の動的粘弾特性の指標であるtan δの値を種々に変えて伝動ベルトを製作すれば、該tan δの値によってベルトの走行寿命が大きく変化すること、しかし、圧縮ゴムに特定のtan δのACSM組成物を適用しただけでは上述の矛盾する特性の両者を満足させることは難しく、接着ゴムについても上記tan δの観点から見直す必要があることに想到し、本発明を完成するに至ったものである。以下、特許請求の範囲の各請求項に係る発明について具体的に説明する。
【0013】
<請求項1乃至請求項4の各発明>
請求項1に係る発明は、ベルト長手方向に延びる心線を適正位置に保持する接着ゴムと圧縮ゴムとを備え、
上記圧縮ゴムが、温度100℃、振動数10Hz でのtan δが0.04〜0.09である低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成され、
上記接着ゴムが、上記圧縮ゴムの上記tan δよりも高い高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成されていることを特徴とする伝動ベルトである。
【0014】
請求項2に係る発明は、ベルト長手方向に延びる心線を適正位置に保持する接着ゴムと圧縮ゴムとを備え、
上記接着ゴムが、温度100℃、振動数10Hz でのtan δが0.08〜0.22である高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成され、
上記圧縮ゴムが、上記接着ゴムの上記tan δよりも低い低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成されていることを特徴とする伝動ベルトである。
【0015】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が0.8〜2.0重量%であり、
上記高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が、上記低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物の上記硫黄含有量よりも少ないことを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る発明は、上記請求項1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が0.5〜0.8重量%であり、
上記低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が、上記高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物の上記硫黄含有量よりも多いことを特徴とするものである。
【0017】
上記各発明において、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物は、クロロスルホン化した直鎖状分子構造の低密度ポリエチレン組成物のことである。そうして、当該各発明においては、接着ゴム及び圧縮ゴムを共にACSM組成物によって形成し且つ接着ゴムを形成するACSM組成物の加硫状態でのtan δを圧縮ゴムを形成するACSM組成物の加硫状態でのtan δよりも高くしているから、耐へたり性の向上と耐クラック性の向上との両立が図れるものである。以下、この点を具体的に説明する。
【0018】
(tan δについて)
まず、上記tan δについて説明すると、加硫ゴムの動的性質試験(JIS K6394)において複素弾性率は以下の(1) 式によって表される
G* =G′+iG″ ……(1)
G* :複素剪断弾性率
G′:貯蔵弾性率(複素剪断弾性率の実数部)
G″:損失弾性率(複素剪断弾性率の虚数部)
【0019】
また、加えられた応力と歪みとの時間的遅れを表す角度δは、散逸率と呼ばれ次の(2) 式によって定義される。
tan δ=G″/G′ ……(2)
【0020】
このtan δは減衰項であって、振動の1サイクルの間に熱として散逸されるエネルギーと貯蔵される最大エネルギーとの比の尺度となっている。そして、損失弾性率G″は次の(3) 式で示されるように1サイクル当りに散逸される熱に正比例する。
H=πG″γ2 ……(3)
H:1サイクル当りに散逸される熱
γ:剪断歪みの最大値
【0021】
このように、tan δは、ゴム組成物に加えられる機械的エネルギーの熱としての散逸され易さを表わすものであり、tan δの値が高ければ、外部から加えられる機械的エネルギーが熱に変わって応力集中は少なくなるから耐クラック性の向上に有利になり、tan δの値が低ければ、上記機械的エネルギーが熱に変わる量が少なくなるから耐へたり性の向上に有利になる。
【0022】
そこで、当該発明では、上記tan δの性格とクラックやへたりが発生するメカニズムとに鑑み、クラック開始点(発生源)となり易い接着ゴムに高tan δのACSM組成物を用い、へたりを生じ易い圧縮ゴムに低tan δのACSM組成物を用いているものである。
【0023】
すなわち、接着ゴムは、高tan δのACSM組成物によって形成されているから、伝動ベルトがプーリにおいて繰返し屈曲されても、その機械的エネルギーが熱エネルギーに変わり易い。従って、この接着ゴムと心線との界面における応力集中度が低くなり、クラックの防止に有利になる。
【0024】
一方、圧縮ゴムは、低tan δのACSM組成物によって形成されているから、伝動ベルトがプーリによって繰返し屈曲されても、その機械的エネルギーが内部で熱エネルギーに変わる量が少なく、従って、内部での発熱・蓄熱が少なくないため変形回復能力が高く、上記へたりが防止される。
【0025】
ここに、上記接着ゴム自体は、圧縮ゴムに比べてボリュームが小さいため、そこでの発熱は圧縮ゴムの温度上昇にはほとんど影響せず、むしろ、応力集中の緩和によるクラックの発生・成長の防止に大きく貢献する。
【0026】
(tan δの上限・下限)
上記接着ゴムを形成する高tan δのACSM組成物の場合、上記クラック発生を抑制する観点から、温度100℃、振動数10Hz でtan δの下限を0.08とすることが好適である。該tan δの上限については、その値が高過ぎると、上記へたりの問題が出てくるため、0.22とすること、さらには0.15とすること、さらには0.13とすることが好適である。
【0027】
圧縮ゴムを形成する低tan δのACSM組成物の場合、上記へたりを抑制する観点から、温度100℃、振動数10Hz でtan δの上限を0.09とすること、さらには0.08とすることが好適である。該tan δの下限については、その値が低過ぎると、クラック発生の問題が出てくるため、0.04程度とすること、さらには0.05とすることが好適である。
【0028】
ここに、上記tan δの値を温度100℃、振動数10Hz で設定しているのは、一般的な伝動ベルト(例えば、自動車のタイミングベルト)の使用環境及び条件を考慮したためであり、特に振動数については伝動ベルトがプーリーを通過することによって曲げ伸ばしされるサイクルを考慮したものである。
【0029】
(硫黄含有量及び塩素含有量について)
硫黄含有量は、分子中のクロロスルホン基の量、つまり架橋点の数に密接に関係し、その量が多くなるほど架橋が密になる。従って、硫黄含有量はACSM組成物のtan δを変化させる大きな要因となる。
【0030】
請求項3に係る発明において、圧縮ゴム用のACSMの硫黄含有量の下限を0.8重量%としているのは、硫黄含有量がこれよりも少なくなると上記tan δの値が高くなって上記低い値に設定することが難しくなるためである。一方、該硫黄含有量の上限を2.0重量%にしているのは、硫黄含有量がこれよりも多くなると、tan δを低い値にする上では有利になるが、他の配合剤の配合設計が難しくなるためである。当該上限のより好ましい値は、1.0重量%である。
【0031】
一方、接着ゴム用のACSMの硫黄含有量の上限を0.8重量%としているのは、硫黄含有量がこれよりも多くなると上記tan δの値が低くなって上記高い値に設定することが難しくなるためである。一方、該硫黄含有量の下限を0.6重量%にしているのは、硫黄含有量がこれよりも少なくなると、tan δを高い値にする上では有利になるが、他の配合剤の配合設計が難しくなるためである。
【0032】
上述の如く、tan δの値は硫黄含有量によって変化するが、この硫黄含有量だけでなく塩素含有量も変化の要因となる。しかし、この塩素含有量は、ACSMの結晶化度とより密接な関係があり、塩素含有量が高くなるほどそのゴム弾性的性質が強まる一方、低温特性が悪化する。従って、この塩素含有量については、15〜35重量%、より望ましくは25〜32重量%に設定することが好適となる。すなわち、塩素含有量の上限を35重量%、より好ましくは32重量%に設定すれば、塩素の凝集エネルギーを低く抑えることができるため、ゴムの硬化を防ぐうえで有利になり、ベルトの耐寒性が向上する。また、塩素含有量の下限を15重量%、より好ましくは25重量%に設定すれば、ゴムの耐油性及び機械的な強度を確保するうえで有利になる。
【0033】
但し、注意しなければならないのは、先に従来技術として掲げた特開平4−211748号公報に記載されている伝動ベルトでも、これに用いるACSMの硫黄含有量及び塩素含有量が規定されているが、この硫黄と塩素の含有量だけではtan δの値は特定されないということである。
【0034】
すなわち、tan δの値は、上記硫黄含有量及び塩素含有量だけで決まるものではなく、架橋剤その他の配合剤の種類及びその量によっても変化するものである。
【0035】
例えば、架橋剤及び架橋促進剤の配合量を少なくすることによってtan δを所定の高い値に設定することができるが、カーボンブラック配合量やプロセスオイル配合量を増すことによっても、tan δを高い値に設定することができる。但し、これらの量を変化させるとそれに応じてベルトの他のゴム物性が変化するため、ベルトに必要される各種のゴム物性を考慮しながら各配合剤の量を調整する必要がある。
【0036】
(配合剤について)
上記ACSM組成物は、先のtan δの説明に関連して配合剤のことを述べたように、カーボンブラック等の補強剤、充填剤、受酸剤、可塑剤、粘着付与剤、加工助剤、老化防止剤、活性剤等の一般的なゴム配合物を任意に選択して配合したものとすることができる。カーボンブラックとしてはMAF、FEF、GPF、SRF等を、受酸剤としては酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム−酸化アルミニウム固溶体等を、軟化剤としてはプロセスオイル、ジオクチルアジペート(DOA)、ジオクチルセパケート(DOS)、ポリエーテル系可塑剤等を、粘着付与剤としてはクマロン樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂等を、老化防止剤としてはニッケルブチルジチオカボメート(NBC)、2,2,4−トリメチル−1,2−ジハイドロキノリンの縮合物(TMDQ)、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジハイドロキノリンの縮合物(ETMDQ)等を、それぞれ用いることができる。
【0037】
上記受酸剤として酸化マグネシウム−酸化アルミニウム固溶体を用いる場合、その配合量はACSM100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは4〜20重量部である。この酸化マグネシウム−酸化アルミニウム固溶体の配合量は、1重量部未満では、架橋中に発生する塩化水素を十分に除去することができないため、ACSMの架橋点が少なくなって所定の加硫物が得られず、耐熱性に欠けて早期にクラックが発生し易いベルトになってしまい、一方、50重量部を越えるとムーニー粘度が著しく高くなり加工仕上げに問題が生じる。
【0038】
上記ACSMと上記配合剤とを混合する方法としては、適宜の公知の手段、方法によって(例えばバンバリーミキサー、ニーダー等を用いて)混練することができる。
【0039】
(心線について)
上記心線については、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等を素材とする高強度で低伸度のコードによって形成することができる。この心線には、接着ゴムとの接着性を改善する目的で接着剤による処理を施すことができる。このような接着剤処理としては繊維をレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL液)に浸漬後、加熱乾燥して表面に均一に接着層を形成するのが一般的である。
【0040】
<請求項5に係る発明>
請求項5に係る発明は、上記請求項3または請求項4に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記圧縮ゴムを形成するアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物が、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン100重量部に対し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドが1〜7重量部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドが0.1〜4.0重量部配合されものであり、
上記接着ゴムを形成するアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物が、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン100重量部に対し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドが0.2〜5.0重量部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドが0.1〜4.0重量部、並びにペンタエリトリット(ペンタエリスリトール)が0.1〜5.0重量部配合されものであることを特徴とする。
【0041】
(加硫系配合剤について)
上記接着ゴムを形成する高tan δのACSM組成物において、上記N,N´−m−フェニレンジマレイミドは架橋剤として働き、その配合量が0.2重量部未満の場合は加硫不足になる。一方、この量が5重量部を越えた場合はtan δの値を上述の高い値に設定することが難しくなり、クラック防止に不利になる。このような観点から、当該配合量を上記範囲に設定したものであり、そのより好ましい範囲は1〜3重量部である。
【0042】
また、上記ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドは、上記N,N´−m−フェニレンジマレイミドとの併用により架橋を促進する促進剤であり、その配合量が0.1重量部未満では期待する促進効果が得られず、4重量部を越えるとtan δがかなり低いものになってしまう。このため、この促進剤の配合量を上記範囲に設定しているものであり、より好ましい範囲は1〜2重量部である。
【0043】
上記ペンタエリトリットは、その詳細な機能は不明である、ACSMの架橋を促進しながらその架橋状態を好適なものとすることによって、その耐屈曲疲労性を向上させるものと考えられる。
【0044】
すなわち、ACSMは、種々の架橋構造をとることができ、上記N,N´−m−フェニレンジマレイミドはマレイミド架橋、上記ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドは硫黄架橋、後述する実施例のように金属酸化物(酸化マグネシウム)を用いた場合には金属酸化物架橋を生じ、これら複数の架橋剤ないしは促進剤の併用により、複数種類の架橋構造が共存することになる。
【0045】
これに対して、上記ペンタエリトリットを配合するか否かは上記各架橋構造の存在割合に影響を与えてゴム物性を全く異なるものにするようであり、特に当該発明の如き配合によって、当該ゴムの耐屈曲疲労性が著しく向上する。
【0046】
ここに、上記ペンタエリトリットの配合量が0.1重量部未満では期待する改良効果が得られず、5重量部を越えると架橋が進み過ぎて耐屈曲疲労性が得られなくなる。このため、当該配合量を上記範囲に設定しているものであり、より好ましい範囲は1〜4重量部である。
【0047】
一方、上記圧縮ゴムを形成する低tan δのACSM組成物において、N,N´−m−フェニレンジマレイミドの配合量が1重量部未満の場合は加硫不足になる。一方、この量が7重量部を越えた場合はtan δの値が低くなるが、クラック発生の問題を生ずる。このため、当該配合量を上記範囲に定めているものであり、適切な加硫を行ないながらtan δを所定の低い値に設定するうえでは、当該配合量を2〜4重量部とすることがさらに好適である。
【0048】
また、上記ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドの配合量が0.1重量部未満では期待する促進効果が得られず、4重量部を越えるとtan δがかなり低いものになりクラック発生の問題が出てくる。このため、この促進剤の配合量を上記範囲に設定しているものであり、より好ましい範囲は1〜2重量部である。
【0049】
<請求項6に係る発明>
請求項6に係る発明は、上記請求項5に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記圧縮ゴムに短繊維が混入されていることを特徴とする。
【0050】
短繊維は、摩擦伝動ベルトにおいては一般にプーリとの摩擦面に対して垂直な方向に配向され、当該圧縮ゴムの耐側圧性を高め、へたり防止に寄与する。この短繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維等の有機繊維あるいは無機繊維を用いることができ、特に次のような形状及び物性のものが好適である。
【0051】
短繊維断面積 ;0.15×10-6cm2 〜100×10-6cm2
短繊維長さ ;0.10mm〜20mm
短繊維のアスペクト比;10〜2000
短繊維の引張弾性率 ;200kg/mm2 以上
【0052】
また、短繊維のさらに好ましい形状及び物性は次の通りである。
【0053】
短繊維断面積 ;0.50×10-6cm2 〜20×10-6cm2
短繊維長さ ;1.0mm〜5.0mm
短繊維のアスペクト比;50〜1000
短繊維の引張弾性率 ;1000kg/mm2 〜100000kg/mm2
【0054】
<請求項7に係る発明>
請求項7に係る発明は、請求項6に記載されている伝動ベルトがローエッジタイプのVベルトであることを特徴とする。
【0055】
当該発明において、上記請求項6の伝動ベルトをローエッジタイプのものに限定したのは、このタイプにおいて圧縮ゴムの発熱・蓄熱にへたりの問題やクラック発生の問題が顕著になるからである。
【0056】
<その他>
なお、本発明に係る伝動ベルトは、ローエッジタイプのVベルトに限定されることはなく、平ベルトであっても、上記圧縮ゴムに複数のリブを有するVリブドベルトであってもよい。
【0057】
【発明の実施の形態】
<ベルト構造についての好適な実施形態>
図1には伝動ベルトの一例としてVベルト1が示されている。このVベルト1は、上面のゴム引き上布2、上ゴム3、高強度で低伸度の心線4が配設された接着ゴム5、弾性体層である圧縮ゴム6及び下面のゴム引き下布7が上下に積層されてなり、かつこれらの積層部材の側面が露出しているローエッジタイプのものである。圧縮ゴム6には短繊維がベルト幅方向に配向して混入されている。
【0058】
<ACSM系加硫ゴムのtan δについて>
硫黄含有量が相異なる3種類のACSM(S=0.6%,0.8%及び1.0%の3種類)を準備し、これらのACSMを用いて表1に示すA〜Nの加硫系の配合が互いに異なるACSM組成物を調製して、それらの加硫後のtan δを調べた。これらACSM組成物の配合は次の通りである。
【0059】
ACSM 100重量部
MgO 5重量部
加工助剤 2重量部
老化防止剤 2重量部
カーボンブラック 50重量部
可塑剤 10重量部
加硫系配合剤 変量
【0060】
MgO以外の加硫系配合剤に関しては、架橋剤として、大内新興化学工業社のバルノックPM(N,N′−m−フェニレンジマレイミドの商品名)を用い、促進剤として、同社のノクセラーTRA(ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドの商品名)を用い、さらにペンタエリトリットを採用した。加硫には加硫缶を用い、加硫条件は160℃×40分とした。上記tan δについてはJIS K x6394により、試験片温度100℃、振動数10Hzで求めた。
【0061】
【表1】
【0062】
表1によれば、ACSMの硫黄含有量が多くなるに従ってtan δが低くなること、また、加硫系配合剤の量が増えるに従ってtan δが低くなることがわかる。
【0063】
<圧縮ゴム及び接着ゴムの種類とベルト寿命との関係>
上記表1のA〜NのACSM組成物から表2に示すように2種のACSM組成物を適宜選択して圧縮ゴム及び接着ゴムとして用いた実施例の供試Vベルト1〜12及び比較例の供試ベルトを作製し、これらの走行寿命を調べた。各供試Vベルトは図1に示すローエッジタイプとした。ベルト長は930mmである。
【0064】
また、上記供試ベルトに関し、圧縮ゴムには短繊維として繊維長3mmの6,6−ナイロンを混入した。混入量はACSM100重量部に対して短繊維20重量部である。心線としてはポリエステル繊維からなるものを用いた。この心線は、イソシアネート化合物を溶剤に溶かした接着剤液を含浸させ加熱・乾燥した後、RFL液をコーティングし加熱・乾燥させた。このRFL液は、RF液(レゾルシン−ホルマリン液)430.5重量部、2.3−ジクロロブタジエン787.4重量部、水716.4重量部、及び湿潤剤(ソジウムジオクチルスルホサクシネート2%)65.8重量部を混合したものである。
【0065】
供試ベルトの作製にあたっては、ベルト成形用の金型マントルに、ゴム引き上布、上ゴム用未加硫ゴムシート、接着ゴム用未加硫ゴムシート、心線、接着ゴム用未加硫ゴムシート、圧縮ゴム用未加硫ゴムシート、及びゴム引き下布を順に巻き付け、加硫缶内で160℃×40分の加硫を行ない、脱型した成形品を輪切りにし、さらにV形状に仕上げる、という方法をとった。
【0066】
なお、上記供試ベルトの構成は一例であり、本発明を限定するものと解釈してはならない。
【0067】
走行寿命試験は、図2に示すように、駆動プーリ21と従動プーリ22とアイドルプーリ23とに供試Vベルト20を巻き掛けて次の条件で該ベルト20を走行させ、クラックが発生して又はへたりを生じて伝動不良になるまでの時間(単位;hr)を測定するというものである。
【0068】
−ベルト走行試験条件−
駆動プーリ21の直径 ;125mm
従動プーリ22の直径 ;125mm
アイドルプーリ23の直径 ; 65mm
供試ベルト20の巻掛角度θ;90度
荷重W ;80kgf
雰囲気温度 ;25℃
駆動プーリ21の回転数 ;4800rpm
負荷 ;12PS
【0069】
試験結果は各供試ベルトの圧縮ゴム及び接着ゴムの種類と共に表2に示されている。
【0070】
【表2】
【0071】
同表によれば、接着ゴムに高tan δのACSM組成物を用い、圧縮ゴムに低tan δのACSM組成物を用いた実施例の供試ベルト1〜12は、これらとはtan δの高低が逆になっている比較例の供試ベルトよりもベルト走行寿命が長くなっている。これは、前者の場合は圧縮ゴムのtan δが低いことからそのへたりが防止され、しかもクラック開始点となり易い接着ゴムのtan δが高いことから当該クラックが防止されたためと認められる。比較例の供試ベルトは、圧縮ゴムの加硫系配合剤の量が少ないために該圧縮ゴムのtan δが高くなりすぎて、ベルト走行寿命が短くなっている。
【0072】
上記実施例の供試ベルト1〜12のうちでも、供試ベルト1〜3及び供試ベルト9が良い結果を示している。また、供試ベルト5,6も概ね良好である。これに対して、供試ベルト4は、圧縮ゴムのACSMの硫黄含有量が少ないために該圧縮ゴムのtan δが高くなって、ベルト走行寿命が短くなっている。供試ベルト7は、圧縮ゴムの架橋剤量が多いために、ベルト走行寿命が短くなっている。供試ベルト8は、接着ゴムの加硫系配合剤の量が少ないために、ベルト走行寿命が短くなっている。供試ベルト10は、接着ゴムの加硫系配合剤の量がさらに少ないために該接着ゴムのtan δが高くなり過ぎて、ベルト走行寿命が短くなっている。供試ベルト11は、接着ゴムの加硫系配合剤の量が多いために該接着ゴムのtan δが低くなり過ぎて、ベルト走行寿命が短くなっている。供試ベルト12は、圧縮ゴムの硫黄含有量が多いために、ベルト走行寿命が短くなっている。
【0073】
【発明の効果】
請求項1及び請求項2の各発明によれば、伝動ベルトの接着ゴムに高tan δのACSM組成物を用い、圧縮ゴムに低tan δのACSM組成物を用いたから、ベルトの耐へたり性の向上と耐クラック性の向上とを両立させることができる。
【0074】
請求項3に係る発明によれば、上記請求項1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、上記圧縮ゴム用のACSMの硫黄含有量を0.8〜2.0重量%とし、上記接着ゴム用のACSMの硫黄含有量を圧縮ゴム用の上記硫黄含有量よりも少なくしたから、圧縮ゴムのtan δを所期の値に設定して、これと高tan δの接着ゴムとを組み合わせるうえで有利になる。
【0075】
請求項4に係る発明によれば、上記請求項1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、上記接着ゴム用のACSMの硫黄含有量を0.5〜0.8重量%とし、上記圧縮ゴム用のACSMの硫黄含有量を接着ゴム用の上記硫黄含有量よりも多くしたから、接着ゴム用のtan δを所期の値に設定して、これと艇tan δの圧縮ゴムとを組み合わせるうえで有利になる。
【0076】
請求項5に係る発明によれば、上記請求項3または請求項4に記載されている伝動ベルトにおいて、上記接着ゴム用ACSM組成物が、ACSM100重量部に対し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドを0.2〜5.0重量部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドを0.1〜4.0重量部、並びにペンタエリトリットを0.1〜5.0重量部配合したものであり、上記圧縮ゴム用ACSM組成物が、ACSM100重量部に対し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドを1〜7重量部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドを0.1〜4.0重量部配合したものであるから、ゴムの加硫不足を招くことなく、各々のtan δを所期の値にして耐へたり性及び耐クラック性の向上を図るうえで有利になる。
【0077】
請求項6に係る発明によれば、上記請求項5に記載されている伝動ベルトにおいて、上記圧縮ゴムに短繊維を混入したから、該圧縮ゴムの耐へたり性の向上に有利になる。
【0078】
請求項7に係る発明によれば、上記請求項6に記載されている発明をローエッジタイプのVベルトに適用したから、その圧縮ゴムのへたり及びクラック発生を防止し、これらのベルトの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例に係るVベルトの断面図
【図2】伝動ベルトの走行寿命試験の態様を示す正面図
【符号の説明】
1 Vベルト
2 ゴム引き上布
3 上ゴム
4 心線
5 接着ゴム
6 圧縮ゴム
7 ゴム引き下布
【発明の属する技術分野】
本発明は、伝動ベルトに関し、特に、VリブドベルトやVベルト等の摩擦伝動ベルトの走行寿命の向上に有利な発明である。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車のエンジンルーム内の雰囲気温度は従来に比べて上昇してきており、そこに使用される伝動ベルトに対する耐熱性の要求が高くなっている。そこで、このような伝動ベルトでは、そのゴム材として耐熱性に優れたクロロスルホン化ポリエチレン系のものを使用することが検討されている。しかし、この種のゴム材は、耐久性、低温特性(耐寒性)の面で問題があり、その改良が望まれている。
【0003】
これに対して、特開平4−211748号公報には、クロロスルホン化ポリエチレン分子の主鎖にアルキル基を導入して結晶化度を低減させるようにしたアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(以下、ACSMという略号を用いることがある)を伝動ベルトの圧縮ゴムとして用いることが記載されている。すなわち、このものは、上記ACSMの塩素含有量を15〜35重量%、硫黄含有量を0.5〜2.5重量%とすることにより、伝動ベルトの低温特性の向上を図るものである。
【0004】
また、特開昭63−57654号公報には、クロロスルホン化ポリエチレンにジマレイミド、ジチオカルバミン酸ニッケル及びチウラムポリスルフィドを配合することにより、その耐圧縮永久歪を改善することが記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記ACSMを用いた伝動ベルトの場合、その走行(使用)時間が長くなると、機械的刺激を繰り返し受けることから、次第にベルトの変形が大きくなってプーリへの沈み込み、所謂へたり(永久歪)を生ずるという問題があり、特に高負荷ないしは高張力下での使用においてこの問題が顕著になる。
【0006】
上記へたりは基本的にはゴムの劣化によって生じ、この劣化は熱が原因になるが、従来、伝動ベルトの走行寿命を左右する熱に係る要因としては、該伝動ベルトの雰囲気温度及びベルト走行時にプーリとの間での摩擦によって発生する摩擦熱というような外的な熱要因を問題とし、これに対策するという考えがとられている。
【0007】
しかし、伝動ベルトの走行寿命に関しては、上記外的な熱要因だけを問題にするのではなく、ベルトを構成するゴム自身が該ベルトの運動に伴って発熱し、内部に熱を蓄えることをも問題にする必要がある。すなわち、この発熱・蓄熱という内的な熱要因によってゴムの軟化・劣化が進み、これが上記へたりの一因になっている。そして、この発熱・蓄熱は、ベルトの圧縮ゴムにおいて顕著になり、ベルト寿命が短縮されてしまうのである。換言すれば、ベルトの外的要因としての熱に対する耐熱性を向上させたとしても、内的要因であるこの発熱・蓄熱量を小さくしない限り、ベルトの走行寿命を大幅に延長することはできない。
【0008】
一方、上記ACSMを用いた伝動ベルトは、その走行(使用)時間が長くなると、機械的刺激を繰り返し受ける結果、クラック(亀裂)を生ずる、という問題もある。このクラックは心線と接着ゴムとの界面から発生し易い。特に当該伝動ベルトを巻き掛けたプーリー径が小さい場合に、該プーリーを通過する際のベルトの屈曲変形が大きくなることから、上記クラック発生の問題が顕著になる。
【0009】
ここに、上記へたりの問題と上記クラックの問題とを考察すると、前者はベルトの運動に伴って外部から加わる機械的エネルギーが熱に変わってベルト内部に熱が蓄えられることが一因となるのに対し、後者は上記機械的エネルギーが熱に変わらずに心線と接着ゴムとの界面付近に局部的な応力集中を招くことが一因になる。従って、ベルトの耐発熱・蓄熱特性と耐クラック特性とは、一方が良くなれば他方が悪くなるというように、矛盾する方向で変化する関係にあり、両立させることが難しいという問題がある。
【0010】
先に従来技術を示すものとして掲げた特開平4−211748号公報は、ACSMを伝動ベルトのゴム材として用いることによって−30℃以下の低温時における塩素の凝集によるゴムの硬化を防止しようとするものであるが、上述のへたり及びクラックに対策することについて示唆するものではない。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであって、ACSMを伝動ベルトに用いるにあたり、上述の内的な熱要因及び応力集中の両者に対策して、その走行寿命を延ばすことを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題について種々の検討を加え、試作・実験を繰り返した結果、高分子の動的粘弾特性の指標であるtan δの値を種々に変えて伝動ベルトを製作すれば、該tan δの値によってベルトの走行寿命が大きく変化すること、しかし、圧縮ゴムに特定のtan δのACSM組成物を適用しただけでは上述の矛盾する特性の両者を満足させることは難しく、接着ゴムについても上記tan δの観点から見直す必要があることに想到し、本発明を完成するに至ったものである。以下、特許請求の範囲の各請求項に係る発明について具体的に説明する。
【0013】
<請求項1乃至請求項4の各発明>
請求項1に係る発明は、ベルト長手方向に延びる心線を適正位置に保持する接着ゴムと圧縮ゴムとを備え、
上記圧縮ゴムが、温度100℃、振動数10Hz でのtan δが0.04〜0.09である低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成され、
上記接着ゴムが、上記圧縮ゴムの上記tan δよりも高い高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成されていることを特徴とする伝動ベルトである。
【0014】
請求項2に係る発明は、ベルト長手方向に延びる心線を適正位置に保持する接着ゴムと圧縮ゴムとを備え、
上記接着ゴムが、温度100℃、振動数10Hz でのtan δが0.08〜0.22である高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成され、
上記圧縮ゴムが、上記接着ゴムの上記tan δよりも低い低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成されていることを特徴とする伝動ベルトである。
【0015】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が0.8〜2.0重量%であり、
上記高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が、上記低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物の上記硫黄含有量よりも少ないことを特徴とする。
【0016】
請求項4に係る発明は、上記請求項1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が0.5〜0.8重量%であり、
上記低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が、上記高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物の上記硫黄含有量よりも多いことを特徴とするものである。
【0017】
上記各発明において、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物は、クロロスルホン化した直鎖状分子構造の低密度ポリエチレン組成物のことである。そうして、当該各発明においては、接着ゴム及び圧縮ゴムを共にACSM組成物によって形成し且つ接着ゴムを形成するACSM組成物の加硫状態でのtan δを圧縮ゴムを形成するACSM組成物の加硫状態でのtan δよりも高くしているから、耐へたり性の向上と耐クラック性の向上との両立が図れるものである。以下、この点を具体的に説明する。
【0018】
(tan δについて)
まず、上記tan δについて説明すると、加硫ゴムの動的性質試験(JIS K6394)において複素弾性率は以下の(1) 式によって表される
G* =G′+iG″ ……(1)
G* :複素剪断弾性率
G′:貯蔵弾性率(複素剪断弾性率の実数部)
G″:損失弾性率(複素剪断弾性率の虚数部)
【0019】
また、加えられた応力と歪みとの時間的遅れを表す角度δは、散逸率と呼ばれ次の(2) 式によって定義される。
tan δ=G″/G′ ……(2)
【0020】
このtan δは減衰項であって、振動の1サイクルの間に熱として散逸されるエネルギーと貯蔵される最大エネルギーとの比の尺度となっている。そして、損失弾性率G″は次の(3) 式で示されるように1サイクル当りに散逸される熱に正比例する。
H=πG″γ2 ……(3)
H:1サイクル当りに散逸される熱
γ:剪断歪みの最大値
【0021】
このように、tan δは、ゴム組成物に加えられる機械的エネルギーの熱としての散逸され易さを表わすものであり、tan δの値が高ければ、外部から加えられる機械的エネルギーが熱に変わって応力集中は少なくなるから耐クラック性の向上に有利になり、tan δの値が低ければ、上記機械的エネルギーが熱に変わる量が少なくなるから耐へたり性の向上に有利になる。
【0022】
そこで、当該発明では、上記tan δの性格とクラックやへたりが発生するメカニズムとに鑑み、クラック開始点(発生源)となり易い接着ゴムに高tan δのACSM組成物を用い、へたりを生じ易い圧縮ゴムに低tan δのACSM組成物を用いているものである。
【0023】
すなわち、接着ゴムは、高tan δのACSM組成物によって形成されているから、伝動ベルトがプーリにおいて繰返し屈曲されても、その機械的エネルギーが熱エネルギーに変わり易い。従って、この接着ゴムと心線との界面における応力集中度が低くなり、クラックの防止に有利になる。
【0024】
一方、圧縮ゴムは、低tan δのACSM組成物によって形成されているから、伝動ベルトがプーリによって繰返し屈曲されても、その機械的エネルギーが内部で熱エネルギーに変わる量が少なく、従って、内部での発熱・蓄熱が少なくないため変形回復能力が高く、上記へたりが防止される。
【0025】
ここに、上記接着ゴム自体は、圧縮ゴムに比べてボリュームが小さいため、そこでの発熱は圧縮ゴムの温度上昇にはほとんど影響せず、むしろ、応力集中の緩和によるクラックの発生・成長の防止に大きく貢献する。
【0026】
(tan δの上限・下限)
上記接着ゴムを形成する高tan δのACSM組成物の場合、上記クラック発生を抑制する観点から、温度100℃、振動数10Hz でtan δの下限を0.08とすることが好適である。該tan δの上限については、その値が高過ぎると、上記へたりの問題が出てくるため、0.22とすること、さらには0.15とすること、さらには0.13とすることが好適である。
【0027】
圧縮ゴムを形成する低tan δのACSM組成物の場合、上記へたりを抑制する観点から、温度100℃、振動数10Hz でtan δの上限を0.09とすること、さらには0.08とすることが好適である。該tan δの下限については、その値が低過ぎると、クラック発生の問題が出てくるため、0.04程度とすること、さらには0.05とすることが好適である。
【0028】
ここに、上記tan δの値を温度100℃、振動数10Hz で設定しているのは、一般的な伝動ベルト(例えば、自動車のタイミングベルト)の使用環境及び条件を考慮したためであり、特に振動数については伝動ベルトがプーリーを通過することによって曲げ伸ばしされるサイクルを考慮したものである。
【0029】
(硫黄含有量及び塩素含有量について)
硫黄含有量は、分子中のクロロスルホン基の量、つまり架橋点の数に密接に関係し、その量が多くなるほど架橋が密になる。従って、硫黄含有量はACSM組成物のtan δを変化させる大きな要因となる。
【0030】
請求項3に係る発明において、圧縮ゴム用のACSMの硫黄含有量の下限を0.8重量%としているのは、硫黄含有量がこれよりも少なくなると上記tan δの値が高くなって上記低い値に設定することが難しくなるためである。一方、該硫黄含有量の上限を2.0重量%にしているのは、硫黄含有量がこれよりも多くなると、tan δを低い値にする上では有利になるが、他の配合剤の配合設計が難しくなるためである。当該上限のより好ましい値は、1.0重量%である。
【0031】
一方、接着ゴム用のACSMの硫黄含有量の上限を0.8重量%としているのは、硫黄含有量がこれよりも多くなると上記tan δの値が低くなって上記高い値に設定することが難しくなるためである。一方、該硫黄含有量の下限を0.6重量%にしているのは、硫黄含有量がこれよりも少なくなると、tan δを高い値にする上では有利になるが、他の配合剤の配合設計が難しくなるためである。
【0032】
上述の如く、tan δの値は硫黄含有量によって変化するが、この硫黄含有量だけでなく塩素含有量も変化の要因となる。しかし、この塩素含有量は、ACSMの結晶化度とより密接な関係があり、塩素含有量が高くなるほどそのゴム弾性的性質が強まる一方、低温特性が悪化する。従って、この塩素含有量については、15〜35重量%、より望ましくは25〜32重量%に設定することが好適となる。すなわち、塩素含有量の上限を35重量%、より好ましくは32重量%に設定すれば、塩素の凝集エネルギーを低く抑えることができるため、ゴムの硬化を防ぐうえで有利になり、ベルトの耐寒性が向上する。また、塩素含有量の下限を15重量%、より好ましくは25重量%に設定すれば、ゴムの耐油性及び機械的な強度を確保するうえで有利になる。
【0033】
但し、注意しなければならないのは、先に従来技術として掲げた特開平4−211748号公報に記載されている伝動ベルトでも、これに用いるACSMの硫黄含有量及び塩素含有量が規定されているが、この硫黄と塩素の含有量だけではtan δの値は特定されないということである。
【0034】
すなわち、tan δの値は、上記硫黄含有量及び塩素含有量だけで決まるものではなく、架橋剤その他の配合剤の種類及びその量によっても変化するものである。
【0035】
例えば、架橋剤及び架橋促進剤の配合量を少なくすることによってtan δを所定の高い値に設定することができるが、カーボンブラック配合量やプロセスオイル配合量を増すことによっても、tan δを高い値に設定することができる。但し、これらの量を変化させるとそれに応じてベルトの他のゴム物性が変化するため、ベルトに必要される各種のゴム物性を考慮しながら各配合剤の量を調整する必要がある。
【0036】
(配合剤について)
上記ACSM組成物は、先のtan δの説明に関連して配合剤のことを述べたように、カーボンブラック等の補強剤、充填剤、受酸剤、可塑剤、粘着付与剤、加工助剤、老化防止剤、活性剤等の一般的なゴム配合物を任意に選択して配合したものとすることができる。カーボンブラックとしてはMAF、FEF、GPF、SRF等を、受酸剤としては酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム−酸化アルミニウム固溶体等を、軟化剤としてはプロセスオイル、ジオクチルアジペート(DOA)、ジオクチルセパケート(DOS)、ポリエーテル系可塑剤等を、粘着付与剤としてはクマロン樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂等を、老化防止剤としてはニッケルブチルジチオカボメート(NBC)、2,2,4−トリメチル−1,2−ジハイドロキノリンの縮合物(TMDQ)、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジハイドロキノリンの縮合物(ETMDQ)等を、それぞれ用いることができる。
【0037】
上記受酸剤として酸化マグネシウム−酸化アルミニウム固溶体を用いる場合、その配合量はACSM100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは4〜20重量部である。この酸化マグネシウム−酸化アルミニウム固溶体の配合量は、1重量部未満では、架橋中に発生する塩化水素を十分に除去することができないため、ACSMの架橋点が少なくなって所定の加硫物が得られず、耐熱性に欠けて早期にクラックが発生し易いベルトになってしまい、一方、50重量部を越えるとムーニー粘度が著しく高くなり加工仕上げに問題が生じる。
【0038】
上記ACSMと上記配合剤とを混合する方法としては、適宜の公知の手段、方法によって(例えばバンバリーミキサー、ニーダー等を用いて)混練することができる。
【0039】
(心線について)
上記心線については、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等を素材とする高強度で低伸度のコードによって形成することができる。この心線には、接着ゴムとの接着性を改善する目的で接着剤による処理を施すことができる。このような接着剤処理としては繊維をレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL液)に浸漬後、加熱乾燥して表面に均一に接着層を形成するのが一般的である。
【0040】
<請求項5に係る発明>
請求項5に係る発明は、上記請求項3または請求項4に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記圧縮ゴムを形成するアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物が、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン100重量部に対し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドが1〜7重量部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドが0.1〜4.0重量部配合されものであり、
上記接着ゴムを形成するアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物が、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン100重量部に対し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドが0.2〜5.0重量部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドが0.1〜4.0重量部、並びにペンタエリトリット(ペンタエリスリトール)が0.1〜5.0重量部配合されものであることを特徴とする。
【0041】
(加硫系配合剤について)
上記接着ゴムを形成する高tan δのACSM組成物において、上記N,N´−m−フェニレンジマレイミドは架橋剤として働き、その配合量が0.2重量部未満の場合は加硫不足になる。一方、この量が5重量部を越えた場合はtan δの値を上述の高い値に設定することが難しくなり、クラック防止に不利になる。このような観点から、当該配合量を上記範囲に設定したものであり、そのより好ましい範囲は1〜3重量部である。
【0042】
また、上記ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドは、上記N,N´−m−フェニレンジマレイミドとの併用により架橋を促進する促進剤であり、その配合量が0.1重量部未満では期待する促進効果が得られず、4重量部を越えるとtan δがかなり低いものになってしまう。このため、この促進剤の配合量を上記範囲に設定しているものであり、より好ましい範囲は1〜2重量部である。
【0043】
上記ペンタエリトリットは、その詳細な機能は不明である、ACSMの架橋を促進しながらその架橋状態を好適なものとすることによって、その耐屈曲疲労性を向上させるものと考えられる。
【0044】
すなわち、ACSMは、種々の架橋構造をとることができ、上記N,N´−m−フェニレンジマレイミドはマレイミド架橋、上記ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドは硫黄架橋、後述する実施例のように金属酸化物(酸化マグネシウム)を用いた場合には金属酸化物架橋を生じ、これら複数の架橋剤ないしは促進剤の併用により、複数種類の架橋構造が共存することになる。
【0045】
これに対して、上記ペンタエリトリットを配合するか否かは上記各架橋構造の存在割合に影響を与えてゴム物性を全く異なるものにするようであり、特に当該発明の如き配合によって、当該ゴムの耐屈曲疲労性が著しく向上する。
【0046】
ここに、上記ペンタエリトリットの配合量が0.1重量部未満では期待する改良効果が得られず、5重量部を越えると架橋が進み過ぎて耐屈曲疲労性が得られなくなる。このため、当該配合量を上記範囲に設定しているものであり、より好ましい範囲は1〜4重量部である。
【0047】
一方、上記圧縮ゴムを形成する低tan δのACSM組成物において、N,N´−m−フェニレンジマレイミドの配合量が1重量部未満の場合は加硫不足になる。一方、この量が7重量部を越えた場合はtan δの値が低くなるが、クラック発生の問題を生ずる。このため、当該配合量を上記範囲に定めているものであり、適切な加硫を行ないながらtan δを所定の低い値に設定するうえでは、当該配合量を2〜4重量部とすることがさらに好適である。
【0048】
また、上記ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドの配合量が0.1重量部未満では期待する促進効果が得られず、4重量部を越えるとtan δがかなり低いものになりクラック発生の問題が出てくる。このため、この促進剤の配合量を上記範囲に設定しているものであり、より好ましい範囲は1〜2重量部である。
【0049】
<請求項6に係る発明>
請求項6に係る発明は、上記請求項5に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記圧縮ゴムに短繊維が混入されていることを特徴とする。
【0050】
短繊維は、摩擦伝動ベルトにおいては一般にプーリとの摩擦面に対して垂直な方向に配向され、当該圧縮ゴムの耐側圧性を高め、へたり防止に寄与する。この短繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維等の有機繊維あるいは無機繊維を用いることができ、特に次のような形状及び物性のものが好適である。
【0051】
短繊維断面積 ;0.15×10-6cm2 〜100×10-6cm2
短繊維長さ ;0.10mm〜20mm
短繊維のアスペクト比;10〜2000
短繊維の引張弾性率 ;200kg/mm2 以上
【0052】
また、短繊維のさらに好ましい形状及び物性は次の通りである。
【0053】
短繊維断面積 ;0.50×10-6cm2 〜20×10-6cm2
短繊維長さ ;1.0mm〜5.0mm
短繊維のアスペクト比;50〜1000
短繊維の引張弾性率 ;1000kg/mm2 〜100000kg/mm2
【0054】
<請求項7に係る発明>
請求項7に係る発明は、請求項6に記載されている伝動ベルトがローエッジタイプのVベルトであることを特徴とする。
【0055】
当該発明において、上記請求項6の伝動ベルトをローエッジタイプのものに限定したのは、このタイプにおいて圧縮ゴムの発熱・蓄熱にへたりの問題やクラック発生の問題が顕著になるからである。
【0056】
<その他>
なお、本発明に係る伝動ベルトは、ローエッジタイプのVベルトに限定されることはなく、平ベルトであっても、上記圧縮ゴムに複数のリブを有するVリブドベルトであってもよい。
【0057】
【発明の実施の形態】
<ベルト構造についての好適な実施形態>
図1には伝動ベルトの一例としてVベルト1が示されている。このVベルト1は、上面のゴム引き上布2、上ゴム3、高強度で低伸度の心線4が配設された接着ゴム5、弾性体層である圧縮ゴム6及び下面のゴム引き下布7が上下に積層されてなり、かつこれらの積層部材の側面が露出しているローエッジタイプのものである。圧縮ゴム6には短繊維がベルト幅方向に配向して混入されている。
【0058】
<ACSM系加硫ゴムのtan δについて>
硫黄含有量が相異なる3種類のACSM(S=0.6%,0.8%及び1.0%の3種類)を準備し、これらのACSMを用いて表1に示すA〜Nの加硫系の配合が互いに異なるACSM組成物を調製して、それらの加硫後のtan δを調べた。これらACSM組成物の配合は次の通りである。
【0059】
ACSM 100重量部
MgO 5重量部
加工助剤 2重量部
老化防止剤 2重量部
カーボンブラック 50重量部
可塑剤 10重量部
加硫系配合剤 変量
【0060】
MgO以外の加硫系配合剤に関しては、架橋剤として、大内新興化学工業社のバルノックPM(N,N′−m−フェニレンジマレイミドの商品名)を用い、促進剤として、同社のノクセラーTRA(ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドの商品名)を用い、さらにペンタエリトリットを採用した。加硫には加硫缶を用い、加硫条件は160℃×40分とした。上記tan δについてはJIS K x6394により、試験片温度100℃、振動数10Hzで求めた。
【0061】
【表1】
【0062】
表1によれば、ACSMの硫黄含有量が多くなるに従ってtan δが低くなること、また、加硫系配合剤の量が増えるに従ってtan δが低くなることがわかる。
【0063】
<圧縮ゴム及び接着ゴムの種類とベルト寿命との関係>
上記表1のA〜NのACSM組成物から表2に示すように2種のACSM組成物を適宜選択して圧縮ゴム及び接着ゴムとして用いた実施例の供試Vベルト1〜12及び比較例の供試ベルトを作製し、これらの走行寿命を調べた。各供試Vベルトは図1に示すローエッジタイプとした。ベルト長は930mmである。
【0064】
また、上記供試ベルトに関し、圧縮ゴムには短繊維として繊維長3mmの6,6−ナイロンを混入した。混入量はACSM100重量部に対して短繊維20重量部である。心線としてはポリエステル繊維からなるものを用いた。この心線は、イソシアネート化合物を溶剤に溶かした接着剤液を含浸させ加熱・乾燥した後、RFL液をコーティングし加熱・乾燥させた。このRFL液は、RF液(レゾルシン−ホルマリン液)430.5重量部、2.3−ジクロロブタジエン787.4重量部、水716.4重量部、及び湿潤剤(ソジウムジオクチルスルホサクシネート2%)65.8重量部を混合したものである。
【0065】
供試ベルトの作製にあたっては、ベルト成形用の金型マントルに、ゴム引き上布、上ゴム用未加硫ゴムシート、接着ゴム用未加硫ゴムシート、心線、接着ゴム用未加硫ゴムシート、圧縮ゴム用未加硫ゴムシート、及びゴム引き下布を順に巻き付け、加硫缶内で160℃×40分の加硫を行ない、脱型した成形品を輪切りにし、さらにV形状に仕上げる、という方法をとった。
【0066】
なお、上記供試ベルトの構成は一例であり、本発明を限定するものと解釈してはならない。
【0067】
走行寿命試験は、図2に示すように、駆動プーリ21と従動プーリ22とアイドルプーリ23とに供試Vベルト20を巻き掛けて次の条件で該ベルト20を走行させ、クラックが発生して又はへたりを生じて伝動不良になるまでの時間(単位;hr)を測定するというものである。
【0068】
−ベルト走行試験条件−
駆動プーリ21の直径 ;125mm
従動プーリ22の直径 ;125mm
アイドルプーリ23の直径 ; 65mm
供試ベルト20の巻掛角度θ;90度
荷重W ;80kgf
雰囲気温度 ;25℃
駆動プーリ21の回転数 ;4800rpm
負荷 ;12PS
【0069】
試験結果は各供試ベルトの圧縮ゴム及び接着ゴムの種類と共に表2に示されている。
【0070】
【表2】
【0071】
同表によれば、接着ゴムに高tan δのACSM組成物を用い、圧縮ゴムに低tan δのACSM組成物を用いた実施例の供試ベルト1〜12は、これらとはtan δの高低が逆になっている比較例の供試ベルトよりもベルト走行寿命が長くなっている。これは、前者の場合は圧縮ゴムのtan δが低いことからそのへたりが防止され、しかもクラック開始点となり易い接着ゴムのtan δが高いことから当該クラックが防止されたためと認められる。比較例の供試ベルトは、圧縮ゴムの加硫系配合剤の量が少ないために該圧縮ゴムのtan δが高くなりすぎて、ベルト走行寿命が短くなっている。
【0072】
上記実施例の供試ベルト1〜12のうちでも、供試ベルト1〜3及び供試ベルト9が良い結果を示している。また、供試ベルト5,6も概ね良好である。これに対して、供試ベルト4は、圧縮ゴムのACSMの硫黄含有量が少ないために該圧縮ゴムのtan δが高くなって、ベルト走行寿命が短くなっている。供試ベルト7は、圧縮ゴムの架橋剤量が多いために、ベルト走行寿命が短くなっている。供試ベルト8は、接着ゴムの加硫系配合剤の量が少ないために、ベルト走行寿命が短くなっている。供試ベルト10は、接着ゴムの加硫系配合剤の量がさらに少ないために該接着ゴムのtan δが高くなり過ぎて、ベルト走行寿命が短くなっている。供試ベルト11は、接着ゴムの加硫系配合剤の量が多いために該接着ゴムのtan δが低くなり過ぎて、ベルト走行寿命が短くなっている。供試ベルト12は、圧縮ゴムの硫黄含有量が多いために、ベルト走行寿命が短くなっている。
【0073】
【発明の効果】
請求項1及び請求項2の各発明によれば、伝動ベルトの接着ゴムに高tan δのACSM組成物を用い、圧縮ゴムに低tan δのACSM組成物を用いたから、ベルトの耐へたり性の向上と耐クラック性の向上とを両立させることができる。
【0074】
請求項3に係る発明によれば、上記請求項1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、上記圧縮ゴム用のACSMの硫黄含有量を0.8〜2.0重量%とし、上記接着ゴム用のACSMの硫黄含有量を圧縮ゴム用の上記硫黄含有量よりも少なくしたから、圧縮ゴムのtan δを所期の値に設定して、これと高tan δの接着ゴムとを組み合わせるうえで有利になる。
【0075】
請求項4に係る発明によれば、上記請求項1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、上記接着ゴム用のACSMの硫黄含有量を0.5〜0.8重量%とし、上記圧縮ゴム用のACSMの硫黄含有量を接着ゴム用の上記硫黄含有量よりも多くしたから、接着ゴム用のtan δを所期の値に設定して、これと艇tan δの圧縮ゴムとを組み合わせるうえで有利になる。
【0076】
請求項5に係る発明によれば、上記請求項3または請求項4に記載されている伝動ベルトにおいて、上記接着ゴム用ACSM組成物が、ACSM100重量部に対し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドを0.2〜5.0重量部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドを0.1〜4.0重量部、並びにペンタエリトリットを0.1〜5.0重量部配合したものであり、上記圧縮ゴム用ACSM組成物が、ACSM100重量部に対し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドを1〜7重量部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドを0.1〜4.0重量部配合したものであるから、ゴムの加硫不足を招くことなく、各々のtan δを所期の値にして耐へたり性及び耐クラック性の向上を図るうえで有利になる。
【0077】
請求項6に係る発明によれば、上記請求項5に記載されている伝動ベルトにおいて、上記圧縮ゴムに短繊維を混入したから、該圧縮ゴムの耐へたり性の向上に有利になる。
【0078】
請求項7に係る発明によれば、上記請求項6に記載されている発明をローエッジタイプのVベルトに適用したから、その圧縮ゴムのへたり及びクラック発生を防止し、これらのベルトの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例に係るVベルトの断面図
【図2】伝動ベルトの走行寿命試験の態様を示す正面図
【符号の説明】
1 Vベルト
2 ゴム引き上布
3 上ゴム
4 心線
5 接着ゴム
6 圧縮ゴム
7 ゴム引き下布
Claims (7)
- ベルト長手方向に延びる心線を適正位置に保持する接着ゴムと圧縮ゴムとを備え、
上記圧縮ゴムが、温度100℃、振動数10Hz でのtan δが0.04〜0.09である低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成され、
上記接着ゴムが、上記圧縮ゴムの上記tan δよりも高い高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成されていることを特徴とする伝動ベルト。 - ベルト長手方向に延びる心線を適正位置に保持する接着ゴムと圧縮ゴムとを備え、
上記接着ゴムが、温度100℃、振動数10Hz でのtan δが0.08〜0.22である高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成され、
上記圧縮ゴムが、上記接着ゴムの上記tan δよりも低い低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成されていることを特徴とする伝動ベルト。 - 請求項1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が0.8〜2.0重量%であり、
上記高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が、上記低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物の上記硫黄含有量よりも少ないことを特徴とする伝動ベルト。 - 請求項1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が0.5〜0.8重量%であり、
上記低tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫黄含有量が、上記高tan δのアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物の上記硫黄含有量よりも多いことを特徴とする伝動ベルト。 - 請求項3または請求項4に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記圧縮ゴムを形成するアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物が、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン100重量部に対し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドが1〜7重量部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドが0.1〜4.0重量部配合されものであり、
上記接着ゴムを形成するアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組成物が、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン100重量部に対し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドが0.2〜5.0重量部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドが0.1〜4.0重量部、並びにペンタエリトリットが0.1〜5.0重量部配合されものであることを特徴とする伝動ベルト。 - 請求項5に記載されている伝動ベルトにおいて、
上記圧縮ゴムに短繊維が混入されていることを特徴とする伝動ベルト。 - 請求項6に記載されている伝動ベルトがローエッジタイプのVベルトであるもの。
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