JPH09189344A - 伝動ベルト - Google Patents

伝動ベルト

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JPH09189344A
JPH09189344A JP150196A JP150196A JPH09189344A JP H09189344 A JPH09189344 A JP H09189344A JP 150196 A JP150196 A JP 150196A JP 150196 A JP150196 A JP 150196A JP H09189344 A JPH09189344 A JP H09189344A
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JP
Japan
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tan
acsm
low
weight
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JP150196A
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Inventor
Katsuya Yamaguchi
勝也 山口
Tsutomu Shioyama
務 塩山
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Bando Chemical Industries Ltd
Original Assignee
Bando Chemical Industries Ltd
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Publication date
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Abstract

(57)【要約】 【課題】Vベルト1の圧縮ゴム層5のへたりとクラック
発生とを防止する。 【解決手段】圧縮ゴム層5を、tan δが低いアルキル化
クロロスルホン化ポリエチレン組成物によって形成され
ている低tan δ相と、tan δが高いアルキル化クロロス
ルホン化ポリエチレン組成物によって形成されている高
tan δ相との混合相とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、伝動ベルトに関
し、特に、VリブドベルトやVベルト等の摩擦伝動ベル
トの走行寿命の向上に有利な発明である。
【0002】
【従来の技術】近年、自動車のエンジンルーム内の雰囲
気温度は従来に比べて上昇してきており、そこに使用さ
れる伝動ベルトに対する耐熱性の要求が高くなってい
る。そこで、このような伝動ベルトでは、そのゴム材と
して耐熱性に優れたクロロスルホン化ポリエチレン系の
ものを使用することが検討されている。しかし、この種
のゴム材は、耐久性、低温特性(耐寒性)の面で問題が
あり、その改良が望まれている。
【0003】これに対して、特開平4−211748号
公報には、クロロスルホン化ポリエチレン分子の主鎖に
アルキル基を導入して結晶化度を低減させるようにした
アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン(以下、AC
SMという略号を用いることがある)を伝動ベルトの圧
縮ゴムとして用いることが記載されている。すなわち、
このものは、上記ACSMの塩素含有量を15〜35重
量%、硫黄含有量を0.5〜2.5重量%とすることに
より、伝動ベルトの低温特性の向上を図るものである。
【0004】また、特開昭63−57654号公報に
は、クロロスルホン化ポリエチレンにジマレイミド、ジ
チオカルバミン酸ニッケル及びチウラムポリスルフィド
を配合することにより、その耐圧縮永久歪を改善するこ
とが記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記ACSM
を用いた伝動ベルトの場合、その走行(使用)時間が長
くなると、機械的刺激を繰り返し受けることから、次第
にベルトの変形が大きくなってプーリへの沈み込み、所
謂へたり(永久歪)を生ずるという問題があり、特に高
負荷ないしは高張力下での使用においてこの問題が顕著
になる。
【0006】上記へたりは基本的にはゴムの劣化によっ
て生じ、この劣化は熱が原因になるが、従来、伝動ベル
トの走行寿命を左右する熱に係る要因としては、該伝動
ベルトの雰囲気温度及びベルト走行時にプーリとの間で
の摩擦によって発生する摩擦熱というような外的な熱要
因を問題とし、これに対策するという考えがとられてい
る。
【0007】しかし、伝動ベルトの走行寿命に関して
は、上記外的な熱要因だけを問題にするのではなく、ベ
ルトを構成するゴム自身が該ベルトの運動に伴って発熱
し、内部に熱を蓄えることをも問題にする必要がある。
すなわち、この発熱・蓄熱という内的な熱要因によって
ゴムの軟化・劣化が進み、これが上記へたりの一因にな
っている。そして、この発熱・蓄熱は、ベルトの圧縮ゴ
ム層において顕著になり、ベルト寿命が短縮されてしま
うのである。換言すれば、ベルトの外的要因としての熱
に対する耐熱性を向上させたとしても、内的要因である
この発熱・蓄熱量を小さくしない限り、ベルトの走行寿
命を大幅に延長することはできない。
【0008】一方、上記ACSMを用いた伝動ベルト
は、その走行(使用)時間が長くなると、機械的刺激を
繰り返し受ける結果、ベルトにクラック(亀裂)を生ず
る、という問題もあり、このクラックは圧縮ゴム層に発
生し易い。特に当該伝動ベルトを巻き掛けたプーリー径
が小さい場合に、該プーリーを通過する際のベルトの屈
曲変形が大きくなることから、上記クラック発生の問題
が顕著になる。
【0009】ここに、上記へたりの問題と上記クラック
の問題とを考察すると、前者はベルトの運動に伴って外
部から加わる機械的エネルギーが熱に変わって圧縮ゴム
層が内部に熱を蓄えることが一因となるのに対し、後者
は上記機械的エネルギーが熱に変わらずに圧縮ゴム層に
局部的な応力集中を招くことが一因になる。従って、ベ
ルトの耐発熱・蓄熱特性と耐クラック特性とは、一方が
良くなれば他方が悪くなるというように、矛盾する方向
で変化する関係にあり、両立させることが難しいという
問題がある。
【0010】先に従来技術を示すものとして掲げた特開
平4−211748号公報は、ACSMを伝動ベルトの
ゴム材として用いることによって−30℃以下の低温時
における塩素の凝集によるゴムの硬化を防止しようとす
るものであるが、上述のへたり及びクラックに対策する
ことについて示唆するものではない。
【0011】本発明は、かかる点に鑑みてなされたもの
であって、ACSMを伝動ベルトの圧縮ゴム層に用いる
にあたり、上述の内的な熱要因及び応力集中の両者に対
策して、その走行寿命を延ばすことを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題に
ついて種々の検討を加え、試作・実験を繰り返した結
果、耐へたり性(耐永久歪性)に優れたゴム材と耐クラ
ック性(耐屈曲疲労性)に優れたゴム材とを組み合わ
せ、この両者が特定の相分離構造(混合相)を形成する
ようにすれば、期待する効果が得られることを見出だ
し、本発明を完成するに至ったものである。以下、特許
請求の範囲の各請求項に係る発明について具体的に説明
する。
【0013】<請求項1乃至請求項5の各発明>請求項
1に係る発明は、ベルトの少なくとも一部の要素が、温
度100℃、振動数10Hz でのtan δが0.05〜
0.09のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組
成物によって形成されている低tan δ相と、温度100
℃、振動数10Hz でのtan δが上記低tan δ相のtan
δよりも高いアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン
組成物によって形成されている高tan δ相との混合相に
よって形成されていることを特徴とする伝動ベルトであ
る。
【0014】請求項2に係る発明は、ベルトの少なくと
も一部の要素が、温度100℃、振動数10Hz でのta
n δが0.08〜0.15のアルキル化クロロスルホン
化ポリエチレン組成物によって形成されている高tan δ
相と、温度100℃、振動数10Hz でのtan δが上記
高tan δ相のtan δよりも低いアルキル化クロロスルホ
ン化ポリエチレン組成物によって形成されている低tan
δ相との混合相によって形成されていることを特徴とす
る伝動ベルトである。
【0015】請求項3に係る発明は、上記請求項1また
は請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、上記
低tan δ相のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン
の硫黄含有量が0.8〜2.0重量%であり、上記高ta
n δ相のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫
黄含有量が、上記低tan δ相の上記硫黄含有量よりも少
ないことを特徴とする。
【0016】請求項4に係る発明は、上記請求項1また
は請求項2に記載されている伝動ベルトにおいて、上記
高tan δ相のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン
の硫黄含有量が0.5〜0.8重量%であり、上記低ta
n δ相のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンの硫
黄含有量が、上記高tan δ相の上記硫黄含有量よりも多
いことを特徴とする。
【0017】請求項5に係る発明は、上記請求項3また
は請求項4に記載されている伝動ベルトにおいて、上記
低tan δ相を形成するアルキル化クロロスルホン化ポリ
エチレン組成物が、アルキル化クロロスルホン化ポリエ
チレン100重量部に対し、N,N´−m−フェニレン
ジマレイミドが1〜7重量部、ジペンタメチレンチウラ
ムテトラスルフィドが0.1〜4.0重量部配合された
ものであり、上記高tan δ相を形成するアルキル化クロ
ロスルホン化ポリエチレン組成物が、アルキル化クロロ
スルホン化ポリエチレン100重量部に対し、N,N´
−m−フェニレンジマレイミドが0.2〜5.0重量
部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドが0.
1〜4.0重量部、並びにペンタエリトリット(ペンタ
エリスリトール)が0.1〜5.0重量部配合されたも
のであることを特徴とする。
【0018】上記各発明において、アルキル化クロロス
ルホン化ポリエチレン組成物は、クロロスルホン化した
直鎖状分子構造の低密度ポリエチレン組成物のことであ
る。そうして、当該各発明においては、低tan δ相と高
tan δ相との混合相によってベルトの一部の要素が形成
されているから、当該要素については耐へたりの向上と
耐クラック性の向上との両立が図れるものである。以
下、この点を具体的に説明する。
【0019】(tan δについて)まず、上記tan δにつ
いて説明すると、加硫ゴムの動的性質試験(JIS K
6394)において複素弾性率は以下の(1) 式によって
表される G* =G′+iG″ ……(1) G* :複素剪断弾性率 G′:貯蔵弾性率(複素剪断弾性率の実数部) G″:損失弾性率(複素剪断弾性率の虚数部)
【0020】また、加えられた応力と歪みとの時間的遅
れを表す角度δは、散逸率と呼ばれ次の(2) 式によって
定義される。 tan δ=G″/G′ ……(2)
【0021】このtan δは減衰項であって、振動の1サ
イクルの間に熱として散逸されるエネルギーと貯蔵され
る最大エネルギーとの比の尺度となっている。そして、
損失弾性率G″は次の(3) 式で示されるように1サイク
ル当りに散逸される熱に正比例する。 H=πG″γ2 ……(3) H:1サイクル当りに散逸される熱 γ:剪断歪みの最大値
【0022】このように、tan δは、ゴム組成物に加え
られる機械的エネルギーの熱としての散逸され易さを表
わすものであり、tan δの値が高ければ、外部から加え
られる機械的エネルギーが熱に変わって応力集中は少な
くなるから耐クラック性の向上に有利になり、tan δの
値が低ければ、上記機械的エネルギーが熱に変わる量が
少なくなるから耐へたり性の向上に有利になる。
【0023】そこで、請求項1及び請求項2の各発明で
は、低tan δ相と高tan δ相との混合相によって当該要
素を形成し、耐へたり性と耐クラック性とを両立させた
ものである。この両立が図れる理由は明確ではないが、
次のように考えられる。
【0024】すなわち、伝動ベルトはプーリを通過する
ことによって繰返し屈曲されるが、耐へたり性に有利な
上記低tan δ相が混合相の一方の相を形成しているか
ら、当該要素の全体が低tan δのACSM組成物によっ
て形成された場合に匹敵する耐へたり性が得られる。一
方、当該要素の全体が低tan δのACSM組成物によっ
て形成されている場合には、上記機械的エネルギーが熱
に変わり難いから、クラックの発生が問題になるが、高
tan δ相では機械的エネルギーが熱に変わり易いから、
該高tan δ相が緩衝相として機能して応力集中が防止さ
れ、クラックの発生及び成長が防止される。
【0025】ここに、混合相の形態としては、低tan δ
相及び高tan δ相のうちの一方が連続相を形成し他方が
分散相を形成しているもの、この両相が共に連続相を形
成しているもの、あるいはこの両相が互いに分散しあっ
ているもののいずれの形態であってもよい。なかでも、
低tan δ相が連続相を形成し多数の高tan δ相が微細化
して分散している分散系、低tan δ相と高tan δ相とが
マーブル状に(墨流し模様を形成するように)互いに入
り交じったマーブル系が好適である。
【0026】(tan δの上限・下限)上記低tan δ相に
あっては、上記へたりを抑制する観点から、温度100
℃、振動数10Hz でtan δの上限を0.09とするこ
と、さらには0.08とすることが好適である。該tan
δの下限については、その値が低過ぎると、上記クラッ
ク発生の問題が出てくるため、0.05程度とすること
が好適である。
【0027】上記高tan δ相にあっては、上記クラック
発生を抑制する観点から、温度100℃、振動数10H
z でtan δの下限を0.08とすること、さらには0.
09とすることが好適である。該tan δの上限について
は、その値が高過ぎると、上記へたりの問題が出てくる
ため、0.15とすること、さらには0.13とするこ
とが好適である。
【0028】ここに、上記tan δの値を温度100℃、
振動数10Hz で設定しているのは、一般的な伝動ベル
ト(例えば、自動車のタイミングベルト)の使用環境及
び条件を考慮したためであり、特に振動数については伝
動ベルトがプーリを通過することによって曲げ伸ばしさ
れるサイクルを考慮したものである。
【0029】(硫黄含有量及び塩素含有量について)硫
黄含有量は、分子中のクロロスルホン基の量、つまり架
橋点の数に密接に関係し、その量が多くなるほど架橋が
密になる。従って、硫黄含有量は低tan δ相や高tan δ
相のtan δを変化させる大きな要因となる。
【0030】請求項3に係る発明において、低tan δ相
を形成するACSMの硫黄含有量の下限を0.8重量%
としているのは、硫黄含有量がこれよりも少なくなると
上記tan δの値が高くなって上記低い値に設定すること
が難しくなるためである。一方、該硫黄含有量の上限を
2.0重量%にしているのは、硫黄含有量がこれよりも
多くなると、tan δを低い値にする上では有利になる
が、他の配合剤の配合設計が難しくなるためである。
【0031】一方、請求項4に係る発明において、高ta
n δ相を形成するACSMの硫黄含有量の上限を0.8
重量%としているのは、硫黄含有量がこれよりも多くな
ると上記tan δの値が低くなって上記高い値に設定する
ことが難しくなるためである。一方、該硫黄含有量の下
限を0.5重量%にしているのは、硫黄含有量がこれよ
りも少なくなると、tan δを高い値にする上では有利に
なるが、他の配合剤の配合設計が難しくなるためであ
る。
【0032】上述の如く、tan δの値は硫黄含有量によ
って変化するが、この硫黄含有量だけでなく塩素含有量
も変化の要因となる。しかし、この塩素含有量は、AC
SMの結晶化度とより密接な関係があり、塩素含有量が
高くなるほどそのゴム弾性的性質が強まる一方、低温特
性が悪化する。従って、この塩素含有量については、1
5〜35重量%、より望ましくは25〜32重量%に設
定することが好適となる。すなわち、塩素含有量の上限
を35重量%、より好ましくは32重量%に設定すれ
ば、塩素の凝集エネルギーを低く抑えることができるた
め、ゴムの硬化を防ぐうえで有利になり、ベルトの耐寒
性が向上する。また、塩素含有量の下限を15重量%、
より好ましくは25重量%に設定すれば、ゴムの耐油性
及び機械的な強度を確保するうえで有利になる。
【0033】但し、注意しなければならないのは、先に
従来技術として掲げた特開平4−211748号公報に
記載されている伝動ベルトでも、これに用いるACSM
の硫黄含有量及び塩素含有量が規定されているが、この
硫黄と塩素の含有量だけではtan δの値は特定されない
ということである。
【0034】すなわち、tan δの値は、上記硫黄含有量
及び塩素含有量だけで決まるものではなく、架橋剤その
他の配合剤の種類及びその量によっても変化するもので
ある。
【0035】例えば、架橋剤及び架橋促進剤の配合量を
少なくすることによってtan δを所定の高い値に設定す
ることができるが、カーボンブラック配合量やプロセス
オイル配合量を増すことによっても、tan δを高い値に
設定することができる。但し、これらの量を変化させる
とそれに応じてベルトの他のゴム物性が変化するため、
ベルトに必要される各種のゴム物性を考慮しながら各配
合剤の量を調整する必要がある。
【0036】(配合剤について)上記低tan δ相や高ta
n δ相を形成するACSM組成物は、先のtan δの説明
に関連して配合剤のことを述べたように、架橋剤、架橋
促進剤、カーボンブラック等の補強剤、充填剤、受酸
剤、可塑剤、粘着付与剤、加工助剤、老化防止剤、活性
剤等の一般的なゴム配合物を任意に選択して配合したも
のとすることができる。
【0037】架橋系の配合剤については、上記低tan δ
相のACSM組成物の場合、ACSM100重量部に対
し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドが1〜7重
量部、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドが
0.1〜4.0重量部配合されものとすることが好適で
ある。
【0038】上記高tan δ相のACSM組成物の場合、
ACSM100重量部に対し、N,N´−m−フェニレ
ンジマレイミドが0.2〜5.0重量部、ジペンタメチ
レンチウラムテトラスルフィドが0.1〜4.0重量
部、並びにペンタエリトリットが0.1〜5.0重量部
配合されものとすることが好適である。
【0039】上記低tan δ相のACSM組成物におい
て、N,N´−m−フェニレンジマレイミドは架橋剤と
して働き、その配合量が1重量部未満の場合は加硫不足
になる。一方、この量が7重量部を越えた場合はtan δ
の値が低くなるが、クラック発生の問題を生ずる。この
ため、当該配合量を上記範囲に定めているものであり、
適切な加硫を行ないながらtan δを所定の低い値に設定
するうえでは、当該配合量を2〜4重量部とすることが
さらに好適である。
【0040】また、上記ジペンタメチレンチウラムテト
ラスルフィドは、上記N,N´−m−フェニレンジマレ
イミドとの併用により架橋を促進する促進剤であり、そ
の配合量が0.1重量部未満では期待する促進効果が得
られず、4重量部を越えるとtan δがかなり低いものに
なりクラック発生の問題が出てくる。このため、この促
進剤の配合量を上記範囲に設定しているものであり、よ
り好ましい範囲は1〜2重量部である。
【0041】一方、上記高tan δ相のACSM組成物に
おいて、上記N,N´−m−フェニレンジマレイミドの
配合量が0.2重量部未満の場合は加硫不足になる。一
方、この量が5重量部を越えた場合はtan δの値を上述
の高い値に設定することが難しくなり、クラック防止に
不利になる。このような観点から、当該配合量を上記範
囲に設定したものであり、そのより好ましい範囲は1〜
3重量部である。
【0042】また、上記ジペンタメチレンチウラムテト
ラスルフィドの配合量が0.1重量部未満では期待する
促進効果が得られず、4重量部を越えるとtan δがかな
り低いものになってしまう。このため、この促進剤の配
合量を上記範囲に設定しているものであり、より好まし
い範囲は1〜2重量部である。
【0043】上記ペンタエリトリットは、その詳細な機
能は不明であるが、ACSMの架橋を促進しながらその
架橋状態を好適なものとすることによって、その耐屈曲
疲労性を向上させるものと考えられる。
【0044】すなわち、ACSMは、種々の架橋構造を
とることができ、上記N,N´−m−フェニレンジマレ
イミドはマレイミド架橋、上記ジペンタメチレンチウラ
ムテトラスルフィドは硫黄架橋、後述する実施例のよう
に金属酸化物(酸化マグネシウム)を用いた場合には金
属酸化物架橋を生じ、これら複数の架橋剤ないしは促進
剤の併用により、複数種類の架橋構造が共存することに
なる。
【0045】これに対して、上記ペンタエリトリットを
配合するか否かは上記各架橋構造の存在割合に影響を与
えてゴム物性を全く異なるものにするようであり、特に
当該発明の如き配合によって、当該ゴムの耐屈曲疲労性
が著しく向上する。
【0046】ここに、上記ペンタエリトリットの配合量
が0.1重量部未満では期待する改良効果が得られず、
5重量部を越えると架橋が進み過ぎて耐屈曲疲労性が得
られなくなる。このため、当該配合量を上記範囲に設定
しているものであり、より好ましい範囲は1〜4重量部
である。
【0047】カーボンブラックとしてはMAF、FE
F、GPF、SRF等を、受酸剤としては酸化マグネシ
ウム、水酸化カルシウム、酸化マグネシウム−酸化アル
ミニウム固溶体等を、軟化剤としてはプロセスオイル、
ジオクチルアジペート(DOA)、ジオクチルセパケー
ト(DOS)、ポリエーテル系可塑剤等を、粘着付与剤
としてはクマロン樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェ
ノール樹脂等を、老化防止剤としてはニッケルブチルジ
チオカボメート(NBC)、2,2,4−トリメチル−
1,2−ジハイドロキノリンの縮合物(TMDQ)、6
−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジハイ
ドロキノリンの縮合物(ETMDQ)等を、それぞれ用
いることができる。
【0048】上記受酸剤として酸化マグネシウム−酸化
アルミニウム固溶体を用いる場合、その配合量はACS
M100重量部に対して1〜50重量部、好ましくは4
〜20重量部である。この酸化マグネシウム−酸化アル
ミニウム固溶体の配合量は、1重量部未満では、架橋中
に発生する塩化水素を十分に除去することができないた
め、ACSMの架橋点が少なくなって所定の加硫物が得
られず、耐熱性に欠けて早期にクラックが発生し易いベ
ルトになってしまい、一方、50重量部を越えるとムー
ニー粘度が著しく高くなり加工仕上げに問題が生じる。
【0049】上記ACSMと上記配合剤とを混合する方
法としては、適宜の公知の手段、方法によって(例えば
バンバリーミキサー、ニーダー等を用いて)混練するこ
とができる。
【0050】(ムーニー粘度について)上記高tan δ相
を形成する未加硫ACSM組成物の100℃におけるム
ーニー粘度は、低tan δ相を形成する未加硫ACSM組
成物の100℃におけるムーニー粘度よりも大きい方が
望ましく、1.2倍以上とすることがより好適である。
これは、低tan δ相を形成する未加硫のACSM組成物
と、高tan δ相を形成する未加硫のACSM組成物とを
混練することによって混合相を形成する場合、良好な相
分離を生ずるからである。
【0051】ムーニー粘度の調節は、ACSMの分子
量、アルキル基分岐度、塩素含有量の変更によって可能
である。すなわち、これらの諸量が増加すると、ムーニ
ー粘度が上昇する。
【0052】(両ACSM組成物の配合割合について)
上記高tan δ相を形成するACSM組成物と、低tan δ
相を形成するACSM組成物との配合割合は、前者が6
0重量%以下、特に40重量%以下となるようにするこ
とが好適である。これは、未加硫のACSM組成物同士
を混練する場合に、低tan δ相の連続相をでき易くする
ためである。
【0053】(混合相の形成方法について)上記混合相
については、上述の如く未加硫のACSM組成物同士の
混練によって形成することができるが、その他に、低ta
n δ相を形成するための未加硫のACSM組成物に、高
tan δ相を形成するための加硫された(もしくは半加硫
状態の)ACSM組成物を混合分散させてベルトの成形
に供するという方法を採用することもできる。この後者
の方法の場合は、上記ムーニー粘度及び両ACSM組成
物の混合割合についての制約がなくなる、もしくは制約
が少なくなる。
【0054】<請求項6に係る発明>請求項6に係る発
明は、ベルトの少なくとも一部の要素が、硫黄含有量が
0.9重量%以上のアルキル化クロロスルホン化ポリエ
チレンである高S−ACSMをゴム成分とする高S−A
CSM相と、硫黄含有量が0.75重量%以下のアルキ
ル化クロロスルホン化ポリエチレンである低S−ACS
Mをゴム成分とする低S−ACSM相との混合相によっ
て形成されていて、上記高S−ACSMと低S−ACS
Mとの重量比(高S−ACSM/低S−ACSM)が
(90/10)〜(35/65)であることを特徴とす
る伝動ベルトである。
【0055】(耐へたり性と耐クラック性の両立)AC
SMでは、分子中の塩化スルホニル基が架橋点として機
能する。このため、ACSMの硫黄含有量は架橋密度の
大小と密接な関係がある。すなわち、硫黄含有量の多い
高S−ACSMをゴム成分とする高S−ACSM相は、
架橋密度が高く、耐へたり性に優れ、硫黄含有量の少な
い低S−ACSMをゴム成分とする低S−ACSM相
は、架橋密度が低く、耐クラック性に優れている。
【0056】請求項6に係る発明では、伝動ベルトの当
該要素が、このような耐へたり性に優れた高S−ACS
M相と、耐クラック性に優れた低S−ACSM相との混
合相になっているから、先に説明した請求項1に係る発
明と同様に耐へたり性と耐クラック性との両立が図れる
ことになる。とりわけ、耐へたり性に優れた高S−AC
SM相が連続相を形成している場合には、クラックを防
止しながら耐へたり性を得るうえで特に有利になる。
【0057】(高S−ACSMと低S−ACSMとの重
量比について)上記高S−ACSMと低S−ACSMと
の重量比(高S−ACSM/低S−ACSM)について
は、これを(90/10)〜(35/65)とすること
が好適である。この重量比の上限よりも高S−ACSM
が多くなると、相対的に低S−ACSMの量が少なすぎ
ることになって、期待する耐クラック性が得られなくな
り、また、この重量比の下限よりも高S−ACSMが少
なくなると、期待する耐へたり性が得られなくなる。
【0058】また、上記重量比が上記範囲外になると、
未加硫の高S−ACSM組成物と未加硫の低S−ACS
Mとの混練によって混合相を形成しようとする場合、期
待する相分離、特に高S−ACSM相が連続相となるよ
うに相分離を得ることが難しくなる。
【0059】(ムーニー粘度について)上記請求項6に
係る発明において、上記低S−ACSM相形成用の未加
硫ACSM組成物の100℃におけるムーニー粘度を、
高S−ACSM相形成用の未加硫ACSM組成物の10
0℃におけるムーニー粘度の1.2倍以上とすることが
好適である。これは、未加硫ACSM組成物同士の混練
によって混合相を形成する場合、高S−ACSM相の連
続相をでき易くするためである。ムーニー粘度の調節
は、ACSMの分子量、アルキル基分岐度、塩素含有量
の変更によって行なうことができる。
【0060】(ACSM組成物の配合剤について)配合
剤については、先に説明した請求項1に係る発明等と同
様に考えることができ、特に上記高S−ACSM相及び
低S−ACSM相の各々を形成するゴム組成物について
は、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレン100重
量部に対し、N,N´−m−フェニレンジマレイミドが
0.2〜5.0重量部、ジペンタメチレンチウラムテト
ラスルフィドが0.1〜4.0重量部配合されたもので
あることが好適である。
【0061】(混合相の形成方法について)上記混合相
については、上述の如く未加硫のACSM組成物同士の
混練によって形成する他、高S−ACSM相形成用の未
加硫のACSM組成物に、低S−ACSM相を形成する
ための加硫された(もしくは半加硫状態の)ACSM組
成物を混合分散させてベルトの成形に供するという方法
を採用することもできる。
【0062】<請求項7乃至請求項10の各発明>請求
項7に係る発明は、上記請求項1乃至請求項6のいずれ
か一に記載されている伝動ベルトにおいて、ベルト長手
方向に延びる心線を適正位置に保持する接着ゴム層と圧
縮ゴム層とを備えていて、上記ベルトの一部の要素が圧
縮ゴム層であることを特徴とする。
【0063】請求項8に係る発明は、上記請求項7に記
載されている伝動ベルトにおいて、上記圧縮ゴム層に短
繊維が混入されていることを特徴とする。
【0064】請求項9に係る発明は、上記請求項8に記
載されている伝動ベルトがローエッジタイプのVベルト
であり、請求項10に係る発明は、上記請求項8に記載
されている伝動ベルトがローエッジタイプのVリブドベ
ルトであることを特徴とする。
【0065】上記請求項7に係る発明において、当該ベ
ルトの一部の要素を圧縮ゴム層に限定したのは、該圧縮
ゴム層に関して耐へたり性と耐クラック性との両立が特
に要求されるからである。
【0066】上記心線については、ポリエステル繊維、
アラミド繊維、ガラス繊維等を素材とする高強度で低伸
度のコードによって形成することができる。この心線に
は、接着ゴム層との接着性を改善する目的で接着剤によ
る処理を施すことができる。このような接着剤処理とし
ては繊維をレゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RF
L液)に浸漬後、加熱乾燥して表面に均一に接着層を形
成するのが一般的である。
【0067】一方、接着ゴム層には、耐熱性を有し、上
記心線と良好に接着するクロロプレンゴム組成物、水素
添加率80%以上の水素化ニトリルゴム組成物、ACS
M組成物、CSM組成物等を用いることができる。
【0068】請求項8に係る発明においては、上記圧縮
ゴム層に短繊維が混入されているから、クラック防止及
びへたり防止に有利になる。この短繊維については、プ
ーリとの摩擦面に対して垂直な方向に配向することが圧
縮ゴム層の耐側圧性を高めるうえで好適である。短繊維
としてはポリエステル繊維、ナイロン繊維、アラミド繊
維等の有機繊維あるいは無機繊維を用いることができ
る。
【0069】請求項9及び請求項10の各発明におい
て、伝動ベルトをローエッジタイプのものに限定したの
は、このタイプにおいて圧縮ゴム層の発熱・蓄熱による
へたりの問題やクラック発生の問題が顕著になるからで
ある。
【0070】また、本発明に係る伝動ベルトは、ローエ
ッジタイプのVベルトやVリブドベルトに限定されるこ
とはなく、平ベルトなど他の伝動ベルトであってもよ
く、また、ゴム付帆布がベルトの全周を被覆したラップ
ドタイプのベルトであってもよい。
【0071】
【発明の実施の形態】
<ベルト構造についての好適な実施形態>図1には伝動
ベルトの一例としてVベルト1が示されている。このV
ベルト1は、上面の3層のゴム付帆布2、高強度で低伸
度の心線3が配設された接着ゴム層4、弾性体層である
圧縮ゴム層5及び下面のゴム付帆布2が上下に積層され
てなり、かつこれらの積層部材の側面が露出しているロ
ーエッジタイプのものである。圧縮ゴム層5には短繊維
6,6,…がベルト幅方向に配向して混入されている。
【0072】図2には伝動ベルトの他の例としてのVリ
ブドベルト8が示されている。このVリブドベルト8
は、上面の2層のゴム付帆布2、高強度で低伸度の心線
3が配設された接着ゴム層4及び弾性体層である圧縮ゴ
ム層5が上下に積層されてなり、かつこれらの積層部材
の側面が露出しているローエッジタイプのものである。
圧縮ゴム層5は、複数のリブ7を有し、且つ短繊維6,
6,…がベルト幅方向に配向して混入されている。
【0073】<低tan δ相と高tan δ相との混合相>上
記圧縮ゴム層を低tan δ相と高tan δ相との混合相によ
って形成する場合について説明する。
【0074】表1に示すACSMの硫黄含有量、カーボ
ンブラック、N,N´−m−フェニレンジマレイミド、
ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド及びペンタ
エリトリットの配合量が互いに異なるA1〜A4,B1
〜B4の各ACSM組成物を準備した。これらのACS
M組成物においては、いずれにも次の配合剤を配合し
た。
【0075】 ACSM 100重量部 MgO 5重量部 加工助剤 2重量部 老化防止剤 2重量部 可塑剤 10重量部
【0076】これら組成物(未加硫)のムーニー粘度及
び加硫したときのtan δの値(JIS K 6394に
より、試験片温度100℃、振動数10Hzで求め
た。)は同表の下欄に示されている。
【0077】
【表1】
【0078】(未加硫ゴム組成物同士の混練によって混
合相を形成した場合)上記表1のACSM組成物のうち
から適宜選択した2種のものを組み合わせ混練によって
短繊維入りの未加硫複合ゴムシートを作製するととも
に、A1、A2、B3及びB4については各々単独で短
繊維入りの未加硫ゴムシートを作製し、これらを用いて
表2に示す圧縮ゴム層の構成が相異なる実1〜実5及び
比1〜比11の各供試ベルト(図1のVベルトと同じ構
造のもの)を作製した。
【0079】上記未加硫の各ゴムシートの作製にあたっ
ては、各配合の組成物と所定量の6,6−ナイロン短繊
維(長さ3mm)とを密閉型混練機によって混練しシー
ト状に成形するという方法をとった。上記短繊維の混入
量は、ACSM100重量部に対して短繊維が20重量
部となるようにした。
【0080】供試ベルトの作製にあたっては、ベルト成
形用の金型マントルに、ゴム付き上帆布、接着ゴム層用
未加硫ゴムシート、心線、接着ゴム層用未加硫ゴムシー
ト、圧縮ゴム層用の上記未加硫ゴムシート、及びゴム付
き下帆布を順に巻き付け、加硫缶内で160℃×40分
の加硫を行なった。そして、脱型した成形品を輪切りに
し、さらにV形状に仕上げる、という方法をとった。
【0081】また、上記供試ベルトに関し、心線として
はポリエステル繊維からなるものを用いた。この心線
は、イソシアネート化合物を溶剤に溶かした接着剤液を
含浸させ加熱・乾燥した後、RFL液をコーティングし
加熱・乾燥させた。このRFL液は、RF液(レゾルシ
ン−ホルマリン液)430.5重量部、2.3−ジクロ
ロブタジエン787.4重量部、水716.4重量部、
及び湿潤剤(ソジウムジオクチルスルホサクシネート2
%)65.8重量部を混合したものである。接着ゴム層
のゴム材としては、ACSM100重量部、カーボンブ
ラック40重量部、老化防止剤2重量部、促進剤2重量
部、MgO−Al2 3 固溶体8重量部、及びN−N´
−m−フェニレンジマレイミド1重量部よりなるACS
M組成物を用いた。
【0082】なお、上記供試ベルトの構成は一例であ
り、本発明を限定するものと解釈してはならない。
【0083】ベルト走行寿命試験は、図3に示すよう
に、駆動プーリ21と従動プーリ22とアイドルプーリ
23とに供試Vベルト20を巻き掛けて次の条件で該ベ
ルト20を走行させ、圧縮ゴム層にクラックが発生して
又はへたりを生じて伝動不良になるまでの時間(単位;
hr)を測定するというものである。
【0084】−ベルト走行試験条件− 駆動プーリ21の直径 ;125mm 従動プーリ22の直径 ;125mm アイドルプーリ23の直径 ; 65mm 供試ベルト20の巻掛角度θ;90度 荷重W ;80kgf 雰囲気温度 ;25℃ 駆動プーリ21の回転数 ;4800rpm 負荷 ;10PS
【0085】試験結果は表2に示されている。
【0086】
【表2】
【0087】まず、比較例1〜4をみると、比1及び比
2はへたりによって短命になったものであるが、これは
ACSMの硫黄含有量が少なく加硫物のtan δが高いこ
とが原因になっていると考えられる。これに対して、比
3及び比4はクラックによって短命になっているが、こ
れは逆にtan δが低いことが原因になっていると考えら
れる。
【0088】実1〜実3及び比5は、いずれも高tan δ
のA2と低tan δのB4とを複合させたものであって、
このA2とB4との配合比のみが互い相異なる。これら
を比較すると、低tan δのB4の配合割合が多い方が長
命になっている。これは、それらの故障モードからも明
らかなように、低tan δのB4が多くなると、その連続
相の形成に有利になり、へたりが防止されるためと考え
られる。
【0089】実1と実4とは、低tan δ相を形成するA
CSMの硫黄含有量のみが異なり、従って、そのtan δ
が互いに相異なる例である。この両者を比較すると実4
の方が長命になっている。これは、実4の場合は低tan
δ相のACSMの硫黄含有量が少なくtan δが高いから
クラックに強くなったったものと考えられる。
【0090】実1と実5とは、高tan δ相を形成するA
CSMの硫黄含有量及びカーボンブラック量のみが相異
なり、従って、そのtan δが互いに異なる例である。こ
の両者を比較すると実5の方が長命になっている。これ
は、実5の場合は、高tan δ相のACSMの硫黄含有量
が多くtan δが低いため、へたりに強くなったものと考
えられる。
【0091】比6は、tan δが同じA4とB2とを組み
合わせたものであるが、へたりによって短命になってい
る。
【0092】比7〜11は、高tan δ相のACSM組成
物と低tan δ相のACSM組成物のムーニー粘度比が低
い(両者の粘度の差が小さい)ものであるが、いずれも
短命になっている。これは、ACSM組成物同士を混練
した際の互いの相分離が不充分になったためと考えられ
る。
【0093】(加硫粒子を用いて混合相を形成した場
合)表1のA1〜A4の各々について、単独で加硫させ
た後、冷凍粉砕及び分級を行なうことによって、粒径1
00μm以下の弾性体粒子を得た。このA1〜A4の各
粒子と表1のB1〜B4の各ACSM組成物とを適宜組
み合わせ、これに所定量の6,6−ナイロン短繊維を加
えて、密閉型混練機を用いて混練し、先の供試ベルトの
場合と同様にして表3に示す実6〜実15の各供試ベル
トを作製し、ベルト走行試験を行なった。供試ベルトの
短繊維混入量、ベルト構造、ベルト作製方法その他は先
の供試ベルトと同じであり、試験の方法及び条件も先の
場合と同じである。試験結果は表3に示されている。
【0094】
【表3】
【0095】実6〜実10は、いずれも高tan δのA2
と低tan δのB4とを複合させたものであって、このA
2とB4との配合比のみが互い異なる。これらを比較す
ると、先の実1〜実3、比5の場合と同様に低tan δの
B4の配合割合が多い方が長命になっている。異なる点
は、さらに長命になった点にあり、特に実9、実10の
ように低tan δ相を形成するB4の割合が相当低くなっ
ても、ベルト走行寿命が比較的長い点にある。これは、
高tan δのA2が微粒子として混練されているから、低
tan δのB4は少量であるものの、連続相を形成するこ
とができたためと考えられる。
【0096】また、実11〜実15はムーニー粘度比が
1.2以下になっているが、先の比7〜比11とは違っ
て、長命である。これは、上述の如く高tan δのACS
M組成物を加硫した微粒子として混練したことによる効
果であり、この方式の場合はムーニー粘度比の制約はほ
とんどないということができる。
【0097】<高S−ACSM相と低S−ACSM相と
の混合相>上記圧縮ゴム層を高S−ACSM相と低S−
ACSM相との混合相によって形成する場合について説
明する。
【0098】表4に示す硫黄含有量、塩素含有量、アル
キル化度及び分子量が互いに異なるa〜jの各ACSM
を準備した。これらa〜jのムーニー粘度は同表の下欄
に示されている。
【0099】
【表4】
【0100】上記表4のACSMのうちから適宜選択し
た2種のものを組み合わせ混練によって短繊維入りの未
加硫複合ゴムシートを作製するとともに、a及びeにつ
いては各々単独で短繊維入りの未加硫ゴムシートを作製
し、これらを用いて表5に示す圧縮ゴム層の構成が異な
る実16〜実26及び比12〜比17の各供試ベルト
(図1のVベルトと同じ構造のもの)を作製し、ベルト
走行試験を行なった。上記未加硫の各ゴムシートの作製
に使用したACSM組成物の配合は次の通りである。
【0101】 ACSM 100重量部 MgO 5重量部 加工助剤 2重量部 老化防止剤 2重量部 可塑剤 10重量部 カーボンブラック 45重量部 N,N'-m- フェニレンジマレイミド 2重量部 ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド 1重量部
【0102】未加硫ゴムシートの作製は先の実施例等と
同様にして行ない、短繊維の種類及び混入量も同じにし
た。さらに、供試ベルトのベルト構造、ベルト作製方法
その他は先の供試ベルトと同じであり、試験の方法及び
条件も先の場合と同じである。試験結果は表5に示され
ている。
【0103】
【表5】
【0104】まず、比12及び比13をみると、比12
は圧縮ゴム層を高S−ACSM組成物のみによって形成
したものであるが、クラックによって短命になっている
が、これは圧縮ゴム層のtan δが低いことが原因になっ
ていると考えられる。一方、比13は圧縮ゴム層を低S
−ACSM組成物のみによって形成したものであるが、
へたりによって短命になっているが、これは逆にtan δ
が高いことが原因になっていると考えられる。
【0105】実16〜26は高S−ACSM相と低S−
ACSM相との混合相よりなり、長命になっている。実
16と実25とは低S−ACSM相の硫黄含有量が相異
なる例である。低S−ACSM相の硫黄含有量が実25
のように多くなると、クラックを発生し易くなることが
わかる。そして、比16は低S−ACSM相側の硫黄含
有量が0.90重量%とさらに多くなったものである
が、クラックによって短命になっており、低S−ACS
M相の硫黄含有量は実25のように0.75重量%以下
にすることが好適であると言える。
【0106】実25と実26と比17とは高S−ACS
M相の硫黄含有量が相異なる例である。高S−ACSM
相の硫黄含有量が比17ように少なくなると、へたりを
生じ易くなることがわかる。従って、高S−ACSM相
側の硫黄含有量は実26のように0.90重量%以上に
することが好適であると言える。
【0107】実17、実23、実24、比14及び比1
5は、高S−ACSMと低S−ACSMとの混合比が相
異なる例である。低S−ACSM量が多くなるに従って
クラックが防止されベルト寿命が延びてくるが、多くな
りすぎるとへたりによって短命になってくることがわか
る。従って、高S−ACSMと低S−ACSMとを未加
硫のまま混練する場合には、実17、実23及び実24
のように、高S−ACSMと低S−ACSMとの重量混
合比(高S−ACSM/低S−ACSM)を(90/1
0)〜(65/35)とすることが好適であると言え
る。但し、低S−ACSMを加硫状態で混練する場合に
は、該低S−ACSM量をもっと多くすることができ
る。
【0108】次に実16〜実22によってムーニー粘度
比の影響をみると、該粘度比は高くなる方が長命になる
ことがわかり、特に実17や実18のように粘度比を
1.2以上にすることが好適であることがわかる。
【0109】
【発明の効果】請求項1及び請求項2の各発明によれ
ば、ベルトの少なくとも一部の要素が低tan δ相と高ta
n δ相との混合相によって形成されているから、当該ベ
ルト要素の耐へたり性の向上と耐クラック性の向上とを
両立させることができる。
【0110】請求項3に係る発明によれば、上記請求項
1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおい
て、上記低tan δ相のACSMの硫黄含有量を0.8〜
2.0重量%とし、上記高tan δ相のACSMの硫黄含
有量を低tan δ相の上記硫黄含有量よりも少なくしたか
ら、低tan δ相のtan δを所期の値に設定して、これと
高tan δ相とを組み合わせるうえで有利になる。
【0111】請求項4に係る発明によれば、上記請求項
1または請求項2に記載されている伝動ベルトにおい
て、上記高tan δ相のACSMの硫黄含有量を0.5〜
0.8重量%とし、上記低tan δ相のACSMの硫黄含
有量を高tan δ相の上記硫黄含有量よりも多くしたか
ら、高tan δ相のtan δを所期の値に設定して、これと
低tan δ相とを組み合わせるうえで有利になる。
【0112】請求項5に係る発明によれば、上記請求項
3または請求項4に記載されている伝動ベルトにおい
て、上記低tan δ相のACSM組成物については、AC
SM100重量部に対し、N,N´−m−フェニレンジ
マレイミドを1〜7重量部、ジペンタメチレンチウラム
テトラスルフィドを0.1〜4.0重量部配合してなる
ものとし、上記高tan δ相のACSM組成物について
は、ACSM100重量部に対し、N,N´−m−フェ
ニレンジマレイミドを0.2〜5.0重量部、ジペンタ
メチレンチウラムテトラスルフィドを0.1〜4.0重
量部、並びにペンタエリトリットを0.1〜5.0重量
部配合してなるものとしたから、ゴムの加硫不足を招く
ことなく、低tan δ相及び高tan δ相の各々のtan δを
所期の値にして耐へたり性の向上及び耐クラック性の向
上を図るうえで有利になる。
【0113】請求項6に係る発明によれば、ベルトの少
なくとも一部の要素が、硫黄含有量が0.9重量%以上
の高S−ACSM相と、硫黄含有量が0.75重量%以
下の低S−ACSM相との混合相によって形成されてい
て、上記高S−ACSMと低S−ACSMとの重量比
(高S−ACSM/低S−ACSM)が(90/10)
〜(35/65)であるから、当該ベルト要素の耐へた
り性の向上と耐クラック性の向上とを両立させることが
できる。
【0114】請求項7に係る発明によれば、上記請求項
1乃至請求項6のいずれか一に記載されている伝動ベル
トにおいて、ベルト長手方向に延びる心線を適正位置に
保持する接着ゴム層と圧縮ゴム層とを備えていて、上記
ベルトの一部の要素が圧縮ゴム層であるから、該圧縮ゴ
ム層の耐へたり性と耐クラック性とを共に向上させるこ
とができる。
【0115】請求項8に係る発明によれば、上記請求項
7に記載されている伝動ベルトにおいて、上記圧縮ゴム
層に短繊維が混入されているから、該圧縮ゴム層の耐へ
たり性及び耐クラック性の向上に有利になる。
【0116】請求項9に係る発明または請求項10に係
る発明によれば、上記請求項8に記載されている伝動ベ
ルトがローエッジタイプのVベルトまたはローエッジタ
イプのVリブドベルトであるから、これらのベルトの圧
縮ゴム層の耐へたり性と耐クラック性とを共に向上させ
て、その寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例に係るVベルトの断面図
【図2】実施例に係るVリブドベルトの断面図
【図3】伝動ベルトの走行寿命試験の態様を示す正面図
【符号の説明】
1 Vベルト 3 心線 4 接着ゴム層 5 圧縮ゴム層 6 短繊維 7 リブ 8 Vリブドベルト 20 供試ベルト 21 駆動プーリ 22 従動プーリ 23 アイドルプーリ

Claims (10)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ベルトの少なくとも一部の要素が、 温度100℃、振動数10Hz でのtan δが0.05〜
    0.09のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組
    成物によって形成されている低tan δ相と、温度100
    ℃、振動数10Hz でのtan δが上記低tan δ相のtan
    δよりも高いアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン
    組成物によって形成されている高tan δ相との混合相に
    よって形成されていることを特徴とする伝動ベルト。
  2. 【請求項2】 ベルトの少なくとも一部の要素が、 温度100℃、振動数10Hz でのtan δが0.08〜
    0.15のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン組
    成物によって形成されている高tan δ相と、温度100
    ℃、振動数10Hz でのtan δが上記高tan δ相のtan
    δよりも低いアルキル化クロロスルホン化ポリエチレン
    組成物によって形成されている低tan δ相との混合相に
    よって形成されていることを特徴とする伝動ベルト。
  3. 【請求項3】 請求項1または請求項2に記載されてい
    る伝動ベルトにおいて、 上記低tan δ相のアルキル化クロロスルホン化ポリエチ
    レンの硫黄含有量が0.8〜2.0重量%であり、 上記高tan δ相のアルキル化クロロスルホン化ポリエチ
    レンの硫黄含有量が、上記低tan δ相の上記硫黄含有量
    よりも少ないことを特徴とする伝動ベルト。
  4. 【請求項4】 請求項1または請求項2に記載されてい
    る伝動ベルトにおいて、 上記高tan δ相のアルキル化クロロスルホン化ポリエチ
    レンの硫黄含有量が0.5〜0.8重量%であり、 上記低tan δ相のアルキル化クロロスルホン化ポリエチ
    レンの硫黄含有量が、上記高tan δ相の上記硫黄含有量
    よりも多いことを特徴とする伝動ベルト。
  5. 【請求項5】 請求項3または請求項4に記載されてい
    る伝動ベルトにおいて、 上記低tan δ相を形成するアルキル化クロロスルホン化
    ポリエチレン組成物が、アルキル化クロロスルホン化ポ
    リエチレン100重量部に対し、N,N´−m−フェニ
    レンジマレイミドが1〜7重量部、ジペンタメチレンチ
    ウラムテトラスルフィドが0.1〜4.0重量部配合さ
    れたものであり、 上記高tan δ相を形成するアルキル化クロロスルホン化
    ポリエチレン組成物が、アルキル化クロロスルホン化ポ
    リエチレン100重量部に対し、N,N´−m−フェニ
    レンジマレイミドが0.2〜5.0重量部、ジペンタメ
    チレンチウラムテトラスルフィドが0.1〜4.0重量
    部、並びにペンタエリトリットが0.1〜5.0重量部
    配合されたものであることを特徴とする伝動ベルト。
  6. 【請求項6】 ベルトの少なくとも一部の要素が、 硫黄含有量が0.9重量%以上のアルキル化クロロスル
    ホン化ポリエチレンである高S−ACSMをゴム成分と
    する高S−ACSM相と、硫黄含有量が0.75重量%
    以下のアルキル化クロロスルホン化ポリエチレンである
    低S−ACSMをゴム成分とする低S−ACSM相との
    混合相によって形成されていて、 上記高S−ACSMと低S−ACSMとの重量比(高S
    −ACSM/低S−ACSM)が(90/10)〜(3
    5/65)であることを特徴とする伝動ベルト。
  7. 【請求項7】 請求項1乃至請求項6のいずれか一に記
    載されている伝動ベルトにおいて、 ベルト長手方向に延びる心線を適正位置に保持する接着
    ゴム層と圧縮ゴム層とを備えていて、上記ベルトの一部
    の要素が圧縮ゴム層であることを特徴とする伝動ベル
    ト。
  8. 【請求項8】 請求項7に記載されている伝動ベルトに
    おいて、 上記圧縮ゴム層に短繊維が混入されていることを特徴と
    する伝動ベルト。
  9. 【請求項9】 請求項8に記載されている伝動ベルトが
    ローエッジタイプのVベルトであるもの。
  10. 【請求項10】 請求項8に記載されている伝動ベルト
    がローエッジタイプのVリブドベルトであるもの。
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