JP3731298B2 - 乳酸系ポリマー組成物及びその消色安定化方法 - Google Patents

乳酸系ポリマー組成物及びその消色安定化方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、乳酸系ポリマー組成物の消色安定化方法に関し、より詳しくは、製造工程中に発生した着色を低減し、製品安定性を向上させる方法に関する。また、本発明は、この方法により得られた乳酸系ポリマー組成物にも関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自然環境保護の見地から、自然環境中で分解する生分解性ポリマー及びその成型品が求められ、脂肪族ポリエステルなどの自然分解性樹脂の研究が活発に行われている。特に、乳酸系ポリマーは融点が170〜180℃と十分に高く、しかも透明性に優れる為、包装材料や透明性を生かした成型品等として大いに期待されている。しかし、融点が高いが故180 ℃及びそれ以上の温度で加工される間、特にポリマーが完全に乾燥されずに加工中に乾燥環境に置かれる場合、かなり分解する。例えば、130 〜215 ℃で射出成形される間に分子量が著しく減少(50〜88%)する(S.Gogolewski, et al, Polymer Degradation and Stability, 40, 313-22, 1993)。
【0003】
又、ポリ乳酸を190℃より上に加熱した場合、加水分解、解重合及び環式オリゴマー化、並びに分子間及び分子内エステル交換が見られる。(K. Jamshidi, et al, Polymer,29, 2229-2234, 1988 )。この様に、ポリ乳酸の成形加工においては、加水分解や解重合により分子量低下が起こりやすく、更にはポリマーの着色も発生する。
【0004】
又、特開平7−499号公報に記載されるように、乳酸系ポリマーは低分子モノマーが存在すると解重合速度が加速される傾向に有ることが知られている。
【0005】
これらのことから、ポリ乳酸の成形加工においては、分子量低下やポリマーの着色は避けられず、その結果得られる成型品は黄色掛かり外観が劣るだけでなく、残留する低分子モノマーの影響でその製品安定性も低下する事になる。
【0006】
乳酸系ポリマーを安定化する方法として、特開平7−499号公報には、未反応モノマーと残留触媒をアセトンで抽出する方法、特開平7−62213号公報では、ホウ素化合物を添加することで安定化する方法が記載されている。しかしながら、両公報では、ポリマーの着色については言及されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、乳酸系ポリマー組成物の着色を低減し、製品安定性を向上させる方法を提供することにある。また、本発明のもう1つの目的は、この方法により得られる安定性の向上した乳酸系ポリマー組成物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討した結果、乳酸系ポリマーを120℃以上融点以下の温度で加熱処理することにより、上記目的を達成し得る事を見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、乳酸系ポリマーを120℃以上融点以下の温度で加熱処理する、乳酸系ポリマー組成物の消色安定化方法である。
【0010】
まず、乳酸系ポリマーについて説明する。
本発明における乳酸系ポリマーとは、乳酸ホモポリマーの他、乳酸コポリマー、ブレンドポリマーをも含むものである。
【0011】
乳酸系ポリマーの重量平均分子量は、一般に5〜50万である。また、乳酸系ポリマーにおけるL−乳酸単位、D−乳酸単位の構成モル比L/Dは、100/0〜0/100のいずれであっても良いが、高い融点を得るにはL乳酸あるいはD乳酸いずれかの単位を75モル%以上、更に高い融点を得るにはL乳酸あるいはD乳酸のいずれかの単位を90モル%以上含む事が好ましい。
【0012】
乳酸コポリマーは、乳酸モノマー又はラクチドと共重合可能な他の成分とが共重合されたものである。このような他の成分としては、2個以上のエステル結合形成性の官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等、及びこれら種々の構成成分より成る各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等が挙げられる。
【0013】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。
【0014】
多価アルコールの例としては、ビスフェノールにエチレンオキサイドを付加反応させたものなどの芳香族多価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のエーテルグリコール等が挙げられる。
【0015】
ヒドロキシカルボン酸の例としては、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、その他特開平6−184417号公報に記載されているもの等が挙げられる。
【0016】
ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0017】
乳酸系ポリマーは、従来公知の方法で合成させたものである。すなわち、特開平7−33861号公報、特開昭59−96123号公報、高分子討論会予稿集44巻3198−3199頁に記載のような乳酸モノマーからの直接脱水縮合、または乳酸環状二量体ラクチドの開環重合によって合成することが出来る。
【0018】
直接脱水縮合を行う場合、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、又はこれらの混合物のいずれの乳酸を用いても良い。又、開環重合を行う場合においても、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、又はこれらの混合物のいずれのラクチドを用いても良い。
【0019】
ラクチドの合成、精製及び重合操作は、例えば米国特許4057537号明細書、公開欧州特許出願第261572号明細書、Polymer Bulletin, 14, 491-495 (1985)及び Makromol Chem., 187, 1611-1628 (1986)等の文献に様々に記載されている。
【0020】
この重合反応に用いる触媒は、特に限定されるものではないが、公知の乳酸重合用触媒を用いる事が出来る。例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等のスズ系化合物、粉末スズ、酸化スズ;亜鉛末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物;テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物;ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物;三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物;酸化ビスマス (III)等のビスマス系化合物;酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウム系化合物等を挙げることができる。
【0021】
これらの中でも、スズ又はスズ化合物からなる触媒が活性の点から特に好ましい。これらの触媒の使用量は、例えば開環重合を行う場合、ラクチドに対して0.001〜5重量%程度である。
【0022】
重合反応は、上記触媒の存在下、触媒種によって異なるが、通常100〜220℃の温度で行う事ができる。また、特開平7−247345号公報に記載のような2段階重合を行う事も好ましい。
【0023】
本発明における乳酸系ポリマー組成物には、必要に応じて、従来公知の可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、各種フィラー、帯電防止剤、離型剤、香料、滑剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌・抗カビ剤、核形成剤等の各種添加剤が配合されていても良い。
【0024】
上記各種添加剤を配合する方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法によって行う事ができる。例えば、ミルロール、バンバリーミキサー、スーパーミキサー、単軸あるいは二軸押出機等を用いて混練すれば良い。この混合混練は、通常120〜220℃程度の温度で行われる。
【0025】
このように、乳酸系ポリマーの重合工程、ポリマー組成物の混合混練工程における熱によって、ポリマーの分解や着色が起こる。
【0026】
本発明では、この着色を成形前に120℃以上融点以下の温度、好ましくは、140℃以上でポリマー同士の融着が起こらない限り、できるだけ高温で加熱処理する事によって低減する。なお、融点は、ホモポリマーかコポリマーかによって相違するが、乳酸ホモポリマーの場合、通常175℃である。
又この処理により、低分子モノマー成分の低減も可能であるため、同時に乳酸系ポリマー組成物の安定性も向上される。
さらに本発明では、窒素雰囲気下において加熱処理する事で、ポリマーの熱劣化を抑制できるだけでなく、さらなる着色の低減、低分子モノマー成分の低減が可能となる。
【0027】
又、本発明では、200〜1000nmの領域に発光ピークを有する光源から光を照射しながら加熱処理する事により、より高い消色効果が得られる。
照射すべき光は、200〜1000nmの領域に発光ピークを有する光源からの光である。例えば、光源として、キセノンランプ、カーボンアーク、白熱電球、蛍光ランプ、水銀ランプ(高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ)、ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ等が挙げられる。これらのうち、キセノンランプ、カーボンアークが消色作用の点から好ましい。
【0028】
加熱時間及び光の照射時間は、消色安定化の対象となるポリマー組成物の着色度合いや、加熱温度、雰囲気、光源の種類、照射光の強度等による。例えば、本明細書の実施例で示されるように、数時間の処理によっても明らかに差は確認できる。一般には、製品の用途を考慮して、着色及び低分子モノマー量を所望の度合いに減少させる事ができる程度に処理を行えば良い。
【0029】
又、光の照射を行うに当たっては、乳酸系ポリマーの分解劣化の要因となりやすい、約280〜330nmの光を選択的に減少させて照射する事も好ましい。例えば、色ガラスフィルターや干渉フィルターを用いる事によって、光の選択制御を行う事ができる。
【0030】
乳酸系ポリマーの重合工程、ポリマー組成物の混合混練工程で発生する着色の原因は明らかで無いが、これらの工程における熱によって、加水分解・解重合が起こり、ラクチドや他の乳酸ダイマー等の低分子成分を含む何らかの着色成分が生成したためと思われる。
【0031】
本発明の方法によれば、120℃以上融点以下の温度で加熱処理することで、これらの成分が分解、昇華されたり、又は何らかの反応により乳酸系ポリマー中に組み込まれる事によって、ポリマー組成物の着色が低減されると共に、安定化されると考えられる。
【0032】
これらの方法で安定化された乳酸系ポリマー組成物は、一般のプラスチックと同様に、例えば成形温度150〜250℃程度で、押出成形、射出成形、真空成形、圧縮成形等の成形を行う事が出来、フィルム、テープ、シート、板、棒、ビン、容器等の各種成形品を得ることが出来る。
【0033】
本発明及び以下の実施例において、重合体の重量平均分子量(Mw)はGPC分析によるポリスチレン換算値であり、低分子モノマー(ラクチド)成分はLC分析により確認した。引張試験は、JIS K−7113に準じた。又、着色度はJIS K−7105に準じ、測色色差計によりb*値を測定し、指標とした。
【0034】
【実施例】
ポリL乳酸(島津製作所製「ラクティ」)を、表1に示す条件で加熱処理を行い、Mw、b*値、低分子成分の定量分析を行った。また、215℃で射出成形し、JIS K7113の1号試験片(厚さ3mm)を作成し、引張試験を行った。尚、光照射は、300 〜400nm の放射照度85W/m2 で行った。
【0035】
【表1】
Figure 0003731298
表1より、120℃以上で加熱処理することにより、また窒素雰囲気下で加熱処理することにより、さらには光を照射しながら加熱処理する事により、明らかにb*値は減少し、乳酸系ポリマー組成物の黄色がかった着色は低減している。又、分子量は処理方法によっては若干低下する場合もあるが、引張強度をみる限り実用上の問題は無い。
【0036】
又、主にラクチドと思われる低分子量成分が、加熱処理後のサンプルでは明らかに低減しており、乳酸系ポリマーとしての経時安定性は向上する。
【0037】
【発明の効果】
本発明の消色安定化方法によれば、上述のように機械的強度を損ねることなく、乳酸系ポリマー組成物の着色度合いを十分低減することが出来る。また、それと同時に低分子成分の低減が可能となり、乳酸系ポリマー組成物の製品安定性も向上できる。さらに、この処理方法は、簡易であると共に、乳酸系ポリマーの成形には必須である予備乾燥による水分除去も同時並行して行えるため非常に効率的である。

Claims (4)

  1. 乳酸系ポリマーを、200〜1000nmの領域に発光ピークを有する光源から光を照射しながら120℃以上融点以下の温度で加熱処理する、乳酸系ポリマー組成物の消色安定化方法。
  2. 乳酸系ポリマーを窒素雰囲気下中で加熱処理する、請求項1記載の乳酸系ポリマー組成物の消色安定化方法。
  3. 光源が、キセノンランプ又はカーボンアークである、請求項1記載の乳酸系ポリマー組成物の消色安定化方法。
  4. 請求項1〜3記載のうちのいずれか1項の方法で消色安定化された乳酸系ポリマー組成物。
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