JP3725818B2 - 既存柱における免震装置の設置方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は既存建物を免震構造化する方法として、既存柱の一部の区間に免震装置を設置する既存柱における免震装置の設置方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
既存建物を耐震補強する方法は既存建物の外周にブレース等の耐震要素を付加し、建物の耐力と剛性を高める方法と、既存建物を免震構造化し、建物が負担する地震力を低減する方法に大別されるが、前者の方法によれば、建物の外周での補強で済む場合に、建物を使用状態に置いたまま施工することができる利点があるものの、耐震要素が建物の開口を遮る形になるため、建物内での採光や建物の外観を犠牲にする不利益を伴う。
【0003】
また耐震要素の付加のために、建物外周部の躯体断面を増すことが必要になるため、既存建物が敷地境界線付近に位置する場合等、耐震要素の付加が敷地上の制約を受ける場合には対応することができない。
【0004】
このため採光や外観を維持しようとする場合や、敷地上の制約がある場合には後者の方法に依らざるを得ないが、既存建物を免震構造化する場合、免震装置はそれより上の上部構造の鉛直荷重を負担することから、特開平4-231550号、特開平9-273163号、特開平11-22208号等のように既存の柱の一部の区間に免震装置を介在させることが多い。
【0005】
これらの場合、免震装置の設置区間を挟んで上下に区分される既存柱の上部構造側と下部構造側のそれぞれに反力台(ブラケット)を固定し、上下の反力台間にジャッキを設置し、ジャッキに上部構造の鉛直荷重を負担させた状態で柱を切断し、除去することになるが、反力台は鉛直荷重をジャッキに伝達させる役目を持つため、特開平4-231550号や特開平9-273163号のように既存柱の除去部分以外の部分の断面を欠損させずに、例えば貫通孔を形成することなく反力台を固定しようとする場合には鉛直荷重に対し、反力台全体で既存柱の表面との間の摩擦力のみによって固定状態を維持する必要がある。
【0006】
また既存柱の断面を拡大することなく、元の断面を維持したまま反力台を固定しようとする場合、既存柱の表面の周長が限られているため、必要な摩擦力を得る上では反力台を構成するブラケットを既存柱を包囲する形で、二方向に組み合わせ、多段に配置する必要があり、反力台の設置数が多い。
【0007】
それに伴い、各ブラケットを既存柱に接合するためのPC鋼材等の引張材も二方向に配置する必要があるため、設置作業と解体作業を含め、仮設作業が大掛かりになる。
【0008】
加えて特開平4-231550号や特開平9-273163号ではブラケットを二方向に組み合わせることから、上部構造の荷重を均等に下部構造に伝達するために、ジャッキを反力台の四隅位置に配置することになるが、隣接するジャッキ間には免震装置を差し込めるだけの距離を確保する必要があるため、ジャッキを既存柱に接近して配置することができない。
【0009】
従って既存柱と反力台との間で摩擦力を伝達する既存柱の表面とジャッキの中心との間の距離を縮めることができないため、ブラケットは捩じりモーメントを負担することになり、高い捩じり剛性を持つ必要がある。
【0010】
この発明は上記背景より、設置数が少なく、高い捩じり剛性を必要としないブラケットを用いた既存柱への免震装置の設置方法を提案するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明では免震装置の設置のために除去する既存柱の一部の区間を挟んだ上下の各位置において既存柱の周囲に補強コンクリートを付加し、ジャッキを受けるブラケットの接合面における摩擦力を大きくすることにより、ブラケットの設置数を削減すると共に、ジャッキを既存柱に接近して配置することを可能にし、各ブラケットの負担を軽減する。
【0012】
補強コンクリートは請求項2に記載のように既存柱の周囲にコンクリートを増打ちし、増打ちコンクリートを構築することにより付加される場合と、請求項3に記載のように既存柱の周囲にプレキャストコンクリートを接合することにより付加される場合がある。後者の場合、補強コンクリートは主にPC鋼材等の引張材を用いてプレキャストコンクリートを互いに、または既存柱に圧着接合することにより既存柱に付加される。
【0013】
ブラケットは補強コンクリートの一方向に対向する側面間に穿設等により形成される貫通孔を挿通する引張材の緊張により補強コンクリートの表面に直接、もしくは間接的に圧着接合され、ジャッキを設置し、既存柱の除去部分を除去したときには補強コンクリートとの間の摩擦力によって除去部分を挟んだ上側の上部構造の鉛直荷重を負担する。
【0014】
貫通孔は補強コンクリートの一方向に対向する側面間に、補強コンクリートと既存柱を貫通して形成される。ブラケットは貫通孔が形成された側面に対面する鉛直プレートと、鉛直プレートの除去部分側に一体化する水平プレートからなり、貫通孔が形成された補強コンクリートの側面に配置される。
【0015】
引張材は水平方向に対向するブラケットの鉛直プレート間に貫通孔を貫通して挿通し、緊張されることによりブラケットを補強コンクリートに圧着させ、ブラケットの鉛直プレートと補強コンクリートの側面との間で、既存柱の除去部分より上の上部構造の鉛直荷重を下部構造に伝達するのに十分な摩擦力を確保する。
【0016】
ジャッキは除去部分を挟んで上下に対向するブラケットの水平プレート間に設置され、既存柱の除去部分を除去したときに上側のブラケットを通じて伝達される上部構造の鉛直荷重を負担しながら、下側のブラケットを介して除去部分より下の下部構造に伝達する。この状態で既存柱の除去部分が除去され、除去部分に免震装置が設置される。
【0017】
既存柱の除去時、上部構造の鉛直荷重は除去部分を挟んだ上側のブラケットの鉛直プレートと補強コンクリートとの間における摩擦力によってその上側のブラケットに支持される。
【0018】
上側のブラケットからはその水平プレートと、その下に配置されるジャッキから下側のブラケットの水平プレートを通じ、そのブラケットの鉛直プレートと補強コンクリートとの間の摩擦力によって下部構造側の補強コンクリートに伝達される。
【0019】
補強コンクリートの付加により、既存柱のままの場合との対比で、ブラケットの鉛直プレートが対面する部分の表面積が拡大し、ブラケットとの間で得られる摩擦力が増大するため、上部構造から下部構造への鉛直荷重の伝達を図る上では各補強コンクリートに付き、一方向にのみ対向させてブラケットを設置すればよく、特開平4-231550号等のよう二方向に対向させて配置する必要はない。
【0020】
免震装置の設置に際しては、既存柱の除去部分を挟んだ上下に補強コンクリートを付加した上で、上下の各補強コンクリートに対して一方向にのみ対向するブラケットを設置し、一方向にのみ引張材を挿通すればよいため、ブラケットと引張材、及びジャッキを含めた仮設部材数が削減され、併せて設置と解体の仮設作業が単純化される。
【0021】
また既存柱の除去部分の上下に補強コンクリートを付加することと、ブラケットを一方向のみに対向させて設置することで、水平方向に対向するブラケット間に免震装置を設置するための十分な距離を確保することができることから、ジャッキの設置位置が免震装置の設置作業の面から制約されることがなく、上下のブラケットとジャッキが免震装置の設置の障害になることがない。
【0022】
この結果、既存柱の水平断面上、ジャッキを補強コンクリートの側面から外周側へ隔てた位置に配置する必要がなく、摩擦力の作用面である補強コンクリートの側面に寄せて配置することができるため、上部構造の鉛直荷重を下部構造に伝達する上で、ブラケットの水平プレートが受ける捩じりモーメントとジャッキが受ける偏心荷重を低減でき、水平プレートとブラケット全体に高い捩じり剛性を与える必要がない。
【0023】
特に請求項4に記載のようにブラケットの鉛直プレートを補強コンクリートから除去部分側へ張り出させ、ブラケットの水平プレートを鉛直プレートの表面側と背面側に跨って接合したときには、水平プレートに作用させる捩じりモーメントを低減すると共に、ジャッキへの偏心荷重の作用を低減する上でジャッキを合理的な位置に配置することができる。
【0024】
ジャッキを鉛直プレートの延長線上に設置すれば、水平プレートが受ける捩じりモーメントとジャッキが受ける偏心荷重は最小になり、理論上はジャッキの中心が鉛直プレートの中心線の延長線上に位置したときに捩じりモーメントと偏心荷重が0になる。
【0025】
貫通孔は増打ちコンクリートの場合は補強コンクリートの硬化後に穿設されるか、補強コンクリートの構築時に形成され、プレキャストコンクリートの場合はその製作時に予め形成されることから、ブラケットの設置時には鉛直プレートと硬化している補強コンクリートの側面との間の摩擦力が低下する可能性があるが、請求項5に記載のようにブラケットの鉛直プレートと補強コンクリートの側面との間に無収縮モルタル等の充填材を充填することにより摩擦力を高めることができる。
【0026】
この場合、ブラケットは鉛直プレートと補強コンクリートの側面との間に充填材を充填するためのクリアランスを確保した状態で設置されることになるが、請求項6に記載のようにブラケットの鉛直プレートが対面する補強コンクリートの側面に凹部を形成しておき、凹部に充填材を充填することで、充填材の充填作業とそれによる摩擦力の確保が確実になる。充填材はブラケットを補強コンクリートに仮止めした状態で凹部に充填され、その硬化後にブラケットが引張材により補強コンクリートに圧着される。
【0027】
鉛直プレートはその補剛のために必要によりそれに直交する面をなすリブプレートが接合され、鉛直プレートの立面がリブプレートで複数の領域に区分された場合、各区分された領域毎に引張材の端部を鉛直プレートに定着することになるが、請求項7に記載のように領域毎に、二本の引張材を領域の対角線上に配置すれば、同一水平線上に配置する場合より引張材の周囲に定着のための空間を稼ぐことができるため、例えばナット定着の場合にはナットの緊結に要する空間を各領域内に確保することができる。
【0028】
この場合は各領域に二本の引張材を配置できることで、ブラケットの補強コンクリートへの圧着力が増し、摩擦力が増大する利点もある。
【0029】
特開2000−179161号では既存の地中梁の側面にコンクリートの増打ちにより補強梁を構築し、PC鋼棒によって両者を一体化させているが、補強梁はその下の、地中梁と補強梁を合わせた平面積を持つ、スタッドボルトが埋め込まれたコンクリート板と共に支持梁を形成するためにあり、ジャッキは支持梁の底面とその下の耐圧版との間に設置されることから、上部構造の荷重はコンクリート板によって地中梁と補強梁に分散し、両者が分担することになる。
【0030】
よってジャッキを免震装置の周囲の、平面上、補強梁の下に配置するとしても、補強梁が単独で上部構造の荷重を負担することがないことから、地中梁と補強梁の一体化による両者間の摩擦力が上部構造の荷重を耐圧版に伝達する上で抵抗力として働かないため、補強梁は上部構造の荷重を負担するための反力台としては機能しない。反力台の機能はコンクリート板が果たすことになる。
【0031】
従って特開平4-231550号や特開平9-273163号においてブラケットの既存柱への接合面の摩擦力を稼ぎ、またはブラケットの負担を軽減することを目的としても、その反力台(ブラケット)及びジャッキに、特開2000−179161号における補強梁及びPC鋼棒を組み合わせることは考えられない。
【0032】
また反力台として使用されるコンクリート板が既存の地中梁と補強梁に跨る以上、既存柱の除去前にはコンクリート板を設置することができないため、既存柱の一部に免震装置を設置する特開平4-231550号,特開平9-273163号や本発明には特開2000−179161号を適用する余地がない。
【0033】
【発明の実施の形態】
この発明は図6〜図11等に示すように既存柱1の一部の区間を除去し、その除去部分2に免震装置5を設置する方法である。
【0034】
既存柱1は図示するような鉄筋コンクリート造の他、鉄骨鉄筋コンクリート造、または鉄骨造、あるいは鋼管コンクリート造等の場合があり、構造種別は問われない。
【0035】
既存柱1の除去に先立ち、図6,図7に示すように除去部分2を挟んだ上下の各位置において、既存柱1の周囲に後述のブラケット8を接合するために補強コンクリート6,6が付加される。
【0036】
図面では補強コンクリート6をコンクリートの増打ちにより構築した場合を示しているが、既存柱1を挟んでプレキャストコンクリートを対向させて配置し、対向するプレキャストコンクリートを、両者を貫通するPC鋼材等の引張材を用いて互いに、もしくは既存柱1に圧着接合することにより補強コンクリート6を付加することもある。
【0037】
図6,図7に示すように既存柱1に既存壁19が接続している場合には既存壁19の少なくとも一部の、補強コンクリート6との干渉部分はその構築の障害にならない程度に解体、撤去される。図7は既存柱1に接続する既存壁19の全体を解体し、撤去した場合を示している。
【0038】
補強コンクリート6は除去部分2を挟んで上下に区分される上側の上部構造3側の既存柱1と下側の下部構造4側の既存柱1の断面積を増した状態で、上部構造3の鉛直荷重を負担するジャッキ13を設置するためのブラケット8を接合し、そのブラケット8の接合面における摩擦力を稼ぐと共に、ブラケット8の設置位置にジャッキ13を設置するためと、ブラケット8を圧着接合するための引張材9を挿通するために構築、もしくは接合される。
【0039】
既存柱1は既存建物の地上階であるか地下階であるかを問わず、また免震装置5は既存柱1の1層の区間のいずれの部分であるかを問わずに設置される。図面では免震装置5を地上階、または地下階の1階の既存柱1の中間部に設置していることから、既存柱1の補強を兼ねて除去部分2を除く既存柱1の全区間に補強コンクリート6を付加しているが、ブラケット8を設置する上では少なくともその設置区間にのみ補強コンクリート6を付加すれば足りる。
【0040】
上下の各補強コンクリート6の付加後、図1,図8に示すようにその補強コンクリート6の周囲の、一方向に対向する側面間に貫通孔7を形成し、その貫通孔7が形成された側面にブラケット8,8を配置し、水平方向に対向するブラケット8,8間に引張材9を挿通し、緊張してブラケット8を補強コンクリート6に圧着接合する。
【0041】
対向する一組のブラケット8,8当たりに使用される引張材9の本数と貫通孔7の穿設数は対向するブラケット8,8の補強コンクリート6への圧着接合により、上部構造3の鉛直荷重を補強コンクリート6とブラケット8との間の摩擦力によって下部構造4に伝達するのに十分なように決められるが、その数に応じ、貫通孔7は図1−(b)、図4−(b)に示すように既存柱1の位置では補強コンクリート6と既存柱1を貫通し、既存柱1の両側においては補強コンクリート6のみを貫通する。
【0042】
貫通孔7は増打ちコンクリートの場合は補強コンクリート6の硬化後に穿設される他、構築の際に形成される。プレキャストコンクリートの場合は予め形成される。プレキャストコンクリートの場合はそれを既存柱1に接合している引張材との干渉がないように貫通孔7の位置が決められる。
【0043】
構築の際に形成する場合、貫通孔7は補強コンクリート6と既存柱1を貫通することから、例えば補強コンクリート6の打設時に、補強コンクリート6の貫通孔7の位置にシース等の中空管を埋設してコンクリートを打設し、補強コンクリート6の硬化後に既存柱1の部分を穿設することにより形成される。
【0044】
ブラケット8は図1〜図3に示すように補強コンクリート6の貫通孔7が形成された側面に、その側面に対面する鉛直プレート81と、鉛直プレート81の除去部分2側に一体化する水平プレート82からなり、鉛直プレート81には補強コンクリート6の貫通孔7に対応した貫通孔8aが形成される。
【0045】
図面ではジャッキ13を鉛直プレート81の延長線上に配置できるよう、水平プレート82を鉛直プレート81の表面側と背面側に跨って接合し、鉛直プレート81と水平プレート82からブラケット8をT形断面を形成しているが、必ずしもその必要はなく、鉛直プレート81の中心とジャッキ13の中心との偏心距離の大きさがブラケット8とジャッキ13の機能に影響しない程度に、水平プレート82を鉛直プレート81の表面側にのみ接合し、ブラケット8をL形断面に形成する場合もある。
【0046】
ブラケット8は図3に示すように独立したプレートを溶接することにより製作される他、H形鋼やT形鋼等の形鋼を利用し、そのまま、または一部を切断等することにより製作される。
【0047】
鉛直プレート81の面積は必要とする摩擦力の大きさによって決まり、鉛直プレート81の立面はそれに直交する面をなすリブプレート83で区分され、各区分された領域毎に貫通孔8aが形成され、引張材9の定着が行われる。
【0048】
引張材9には各種のPC鋼材や鉄筋等の鋼材の他、繊維強化材料が使用され、図面では端部の定着をナット9bによって行うために、引張材9の端部にねじを切ったスリーブ9a,9aを圧着により一体化させ、ナット9bによってスリーブ9aをアンカープレート9cを介して鉛直プレート81に定着している。
【0049】
図1〜図3はリブプレート83,83を二方向に配置し、二方向のリブプレート83,83に囲まれた一領域に付き、一本、もしくは二本の引張材9を配置し、計四本の引張材9を配置した場合、図4,図5は各領域に二本の引張材9,9を配置し、計六本の引張材9を配置した場合を示すが、一領域に二本の引張材9,9を配置する場合は端部の定着に要する空間を確保するために、図5に示すように領域の対角線上に配置される。
【0050】
ブラケット8は図1,図4に示すように鉛直プレート81が補強コンクリート6から除去部分2側へ張り出し、水平プレート82が除去部分2の区間に位置した状態で補強コンクリート6の側面に設置される。
【0051】
ブラケット8は鉛直プレート81の背面が補強コンクリート6の表面に直接密着した状態で、または両者間にクリアランスを確保した状態で設置される。図1,図4では鉛直プレート81と補強コンクリート6との間の摩擦力を大きくするために両者間にクリアランスを確保し、そのクリアランスに無収縮モルタル等のモルタルやセメントミルク、接着剤その他の充填材10を充填すると共に、図3−(b) ,(c) に示すように鉛直プレート81の背面に、鉛直方向に間隔をおいて鉄筋を水平に溶接する等によりシアコネクタ11を突設している。
【0052】
図1,図4では特に水平プレート82を除去部分2の中心側へ寄せて配置できるよう、補強コンクリート6の、鉛直プレート81に対向する面に凹部6aを形成することによりクリアランスを確保している。凹部6aは補強コンクリート6の打設時に型枠の形状により自由に形成できるため、図示するような平板状である必要はなく、凹凸状に形成することもある。
【0053】
鉛直プレート81の背面に充填材10を充填する場合は、充填材10の硬化後、図1,図2等に示すように貫通孔7,8aに引張材9を挿通させ、水平方向に対向するブラケット8,8の鉛直プレート81,81間に配置し、一方の端部をナット9b等により鉛直プレート81に定着した後、他方の端部を緊張装置12により緊張してブラケット8,8を補強コンクリート6に圧着接合する。
【0054】
引張材9はブラケット8の鉛直プレート81と補強コンクリート6との間の摩擦力を確保する目的で使用されるため、上部構造3の鉛直荷重をジャッキ13が負担したときに引張材9自身がせん断力を負担しないよう、引張材9と貫通孔7,8aとは縁が切られる。
【0055】
引張材9に補強コンクリート6と鉛直プレート81との間でせん断力を負担させ、両者間の摩擦力を低減することも可能であるが、ブラケット8と共に繰り返して使用することを考慮し、引張材9の損傷を防止すると共に、回収を容易に行うために、引張材9と貫通孔7,8aが絶縁され、引張材9がせん断力を負担しないようにされる。
【0056】
ブラケット8の接合後、図1,図9に示すように上下に対向するブラケット8,8の水平プレート82,82間にジャッキ13を設置し、ジャッキ13を揚重させてジャッキ13に鉛直荷重を負担させ、上部構造3の鉛直荷重を上下のブラケット8,8とジャッキ13を介して下部構造4に伝達する。
【0057】
ジャッキ13は水平プレート82に対する捩じりモーメントとジャッキ13自身に対する偏心荷重が許容される範囲内に納まるよう、鉛直プレート81の中心線の延長線を挟んだ一定の範囲内に中心が位置するように設置される。図9では特にジャッキ13の中心が鉛直プレート81の中心線の延長線上に位置するように配置し、捩じりモーメントと偏心荷重が0になるようにしている。
【0058】
このとき、上部構造3の鉛直荷重は上側のブラケット8の鉛直プレート81と補強コンクリート6との間の摩擦力によってその水平プレート82からジャッキ13に伝達され、ジャッキ13から下側のブラケット8の水平プレート82を通じて鉛直プレート81に伝達され、その鉛直プレート81からそれと補強コンクリート6との間の摩擦力によって下部構造4に伝達される。
【0059】
ジャッキ13に鉛直荷重を負担させた状態で、既存柱1の、免震装置5の設置区間を切断し、除去する。
【0060】
その後、図10,図12に示すように上部構造3側の既存柱1と補強コンクリート6の下端面、及び下部構造4側の既存柱1と補強コンクリート6の上端面に免震装置5の上端と下端を定着するための架台14,14を無収縮モルタル等のモルタルやコンクリートにより構築し、架台14の免震装置5側に免震装置5の上端と下端を受けるベースプレート15,15を定着させる。
【0061】
図示するように免震装置5が積層ゴム支承である場合、図12に示すように免震装置5は上下のフランジ51,51においてベースプレート15,15に接合される。下部のベースプレート15には免震装置5のレベル調整のためのレベル調整ボルト16が付属しており、レベル調整ボルト16は下部構造4の既存柱1、または補強コンクリート6中に埋設された袋ナット17に螺合し、袋ナット17への螺合長さが調整されることにより免震装置5のレベルが調整される。
【0062】
免震装置5が積層ゴム支承でない、滑り支承や転がり支承の場合にも除去部分2では同様の作業が行われる。
【0063】
免震装置5の設置後、ジャッキ13の揚重を解除し、上部構造3の鉛直荷重を免震装置5に負担させる。このとき、鉛直荷重の負担による免震装置5の沈下量を含めたレベル調整が行われる。
【0064】
その後、図11,図13に示すようにジャッキ13とブラケット8、及び引張材9を回収し、免震装置5の据付け作業が完了する。補強コンクリート6に形成されている貫通孔7は必要によりモルタルやコンクリート等によって埋められる。
【0065】
免震装置5の周囲、例えば補強コンクリート6の側面に連続する面には免震装置5の耐火被覆と除去部分2の外観の整備のために、図14に示すようにカバー材18が取り付けられる。
【0066】
前記の通り、図6〜図11に示すようには免震装置5を地下階の1階の既存柱1の中間部に設置した場合には、下部構造4側となる下側の補強コンクリート6に連続する地中梁21部分にも必要により補強コンクリート20が構築される。
【0067】
【発明の効果】
免震装置の設置のために除去する既存柱の一部の区間を挟んだ上下の各位置において既存柱の周囲に補強コンクリートを付加し、ジャッキを受けるブラケットの接合面における摩擦力を大きくするため、上部構造から下部構造への鉛直荷重の伝達を図る上で一方向にのみ対向させてブラケットを設置すればよく、二方向に対向させて配置する必要がない。併せて一方向にのみ引張材を挿通すればよいため、仮設部材数が削減され、仮設作業が単純化される。
【0068】
また既存柱の除去部分の上下に補強コンクリートを付加することと、ブラケットを一方向のみに対向させて設置することで、水平方向に対向するブラケット間に免震装置を設置するための十分な距離を確保することができるため、ジャッキの設置位置が免震装置の設置の面から制約されることがなく、上下のブラケットとジャッキが免震装置の設置の障害になることがない。
【0069】
この結果、既存柱の水平断面上、ジャッキを除去部分において補強コンクリートの側面に寄せて配置することができるため、上部構造の鉛直荷重を下部構造に伝達する上で、ブラケットの水平プレートが受ける捩じりモーメントとジャッキが受ける偏心荷重を低減でき、水平プレート、またはブラケット全体には高い捩じり剛性を要しない。
【0070】
特に請求項4ではブラケットの鉛直プレートを補強コンクリートから除去部分側へ張り出させ、ブラケットの水平プレートを鉛直プレートの表面側と背面側に跨って接合するため、捩じりモーメントと偏心荷重を低減する上でジャッキを合理的な位置に配置することができる。
【0071】
請求項5ではブラケットの鉛直プレートと補強コンクリートの側面との間に充填材を充填するため、両者間の摩擦力を高めることができる。
【0072】
請求項6ではブラケットの鉛直プレートが対面する補強コンクリートの側面に凹部を形成しておき、凹部に充填材を充填するため、充填材の充填とそれによる摩擦力の確保が確実になる。
【0073】
請求項7では鉛直プレートの立面がリブプレートで区分された各領域毎に引張材の端部を鉛直プレートに定着する上で、領域毎に、二本の引張材を領域の対角線上に配置することで、引張材の周囲に定着のための空間を稼ぐことができるため、例えばナット定着の場合にはナットの緊結に要する空間を各領域内に確保することができる。
【0074】
またこの場合、一領域に二本の引張材が配置されることで、ブラケットの補強コンクリートへの圧着力が増し、摩擦力が増大する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a) はブラケットを四本の引張材で補強コンクリートに圧着接合した場合の既存柱の除去前の様子を示した立面図、(b) は(a) のx−x線断面図である。
【図2】図1−(a) の側面図である。
【図3】 (a) は図1,図2で使用されるブラケットを示した立面図、(b) は(a) の側面図、(c) は(a) の背面図である。
【図4】 (a) はブラケットを六本の引張材で補強コンクリートに圧着接合した場合の既存柱の除去前の様子を示した立面図、(b) は(a) のy−y線断面図である。
【図5】図4−(a) の側面図である。
【図6】 (a) は補強コンクリートの構築前の既存柱を示した立面図、(b) は(a) の横断面図である。
【図7】 (a) は補強コンクリートの構築後の様子を示した立面図、(b) は(a) の横断面図である。
【図8】 (a) はブラケットの設置後の様子を示した立面図、(b) は(a) の横断面図である。
【図9】 (a) はジャッキを設置し、既存柱を除去した後の様子を示した立面図、(b) は(a) の横断面図である。
【図10】 (a) は免震装置を設置した後の様子を示した立面図、(b) は(a) の横断面図である。
【図11】 (a) ブラケットと引張材、及びジャッキを撤去した後の様子を示した立面図、(b) は(a) の横断面図である。
【図12】除去部分における架台の様子を示した立面図である。
【図13】図11の斜視図である。
【図14】免震装置の周囲にカバー材を付けた様子を示した斜視図である。
【符号の説明】
1……既存柱、2……除去部分、3……上部構造、4……下部構造、5……免震装置、6……補強コンクリート、6a……凹部、7……貫通孔、8……ブラケット、81……鉛直プレート、82……水平プレート、83……リブプレート、8a……貫通孔、9……引張材、9a……スリーブ、9b……ナット、9c……アンカープレート、10……充填材、11……シアコネクタ、12……緊張装置、13……ジャッキ、14……架台、15……ベースプレート、16……レベル調整ボルト、17……袋ナット、18……カバー材、19……既存壁、20……補強コンクリート、21……地中梁。
Claims (7)
- 既存柱の一部の区間を除去し、その除去部分に免震装置を設置する方法であり、前記除去部分を挟んだ上下の各位置において、既存柱の周囲に補強コンクリートを付加し、その補強コンクリートの一方向に対向する側面間に、前記補強コンクリートと前記既存柱を貫通する貫通孔を形成し、その補強コンクリートの側面に、その側面に対面する鉛直プレートと、鉛直プレートの前記除去部分側に一体化する水平プレートからなるブラケットを配置し、水平方向に対向するブラケットの鉛直プレート間に前記貫通孔を貫通させて引張材を挿通させ、緊張してブラケットを前記補強コンクリートに圧着接合すると共に、上下に対向するブラケットの水平プレート間にジャッキを設置し、前記除去部分より上の上部構造の荷重をブラケットとジャッキを介して除去部分より下の下部構造に負担させた状態で、除去部分を除去し、除去部分に免震装置を設置する既存柱における免震装置の設置方法。
- 既存柱の周囲にコンクリートを増打ちして補強コンクリートを付加する請求項1記載の既存柱における免震装置の設置方法。
- 既存柱の周囲にプレキャストコンクリートを接合して補強コンクリートを付加する請求項1記載の既存柱における免震装置の設置方法。
- ブラケットの鉛直プレートは補強コンクリートから除去部分側へ張り出し、ブラケットの水平プレートは鉛直プレートの表面側と背面側に跨って接合されている請求項2、もしくは請求項3記載の既存柱における免震装置の設置方法。
- ブラケットの鉛直プレートと、補強コンクリートの側面との間に充填材を充填する請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の既存柱における免震装置の設置方法。
- ブラケットの鉛直プレートが対面する補強コンクリートの側面に凹部が形成され、凹部に充填材を充填する請求項5記載の既存柱における免震装置の設置方法。
- 鉛直プレートの立面はそれに直交する面をなすリブプレートで区分され、各区分された領域毎に二本の引張材を領域の対角線上に配置する請求項2乃至請求項6のいずれかに記載の既存柱における免震装置の設置方法。
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