JP3725519B2 - 溶射面用の封孔剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶射面に存在する気孔を封鎖するための溶射面用の封孔剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、鉄鋼等の金属素材の防錆、防食、耐磨耗性、耐熱性、断熱性等の向上、装飾等の目的で、素材表面に溶融状態に熱せられた金属、合金、セラミック等の細かい粒子を吹きつけ、これを積層して皮膜を形成させる溶射法が知られている。
【0003】
この溶射法は、近年の種々の条件に耐える金属素材の要求の高まりと、溶射装置、溶射材、溶射施工法の改良に伴い、建築、土木、造船、機械、電気等の広範な分野で利用が拡大している。
【0004】
このような溶射法では、溶融状態の溶射材料の微粒子を被溶射面に吹き付けて被膜を形成する方法であるので、形成された溶射皮膜には、多数の微細な気孔が存在する。そして、空気や水分はこのような気孔を通じて皮膜表面から基材表面にまで浸透するので、たとえば基材が鉄等の場合には水分が基材を錆びさせる等、基材の材質や用途によっては溶射皮膜に存在する気孔を封鎖する必要がある。
【0005】
そこで、このような気孔を封鎖するために、従来より、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂等の種々の封孔剤が用いられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの合成樹脂製の封孔剤は、溶射皮膜中の小さな孔径の気孔の内部まで浸透することができず、その場合には封孔剤が溶射皮膜の表面のみを被覆することとなり、水分や空気の不用意な浸透を完全に防止できないという問題点があった。
【0007】
また、このような合成樹脂製の皮膜は剥離し易く、一旦剥離すると、気孔が再生されて水分や空気が素材表面まで浸透し、素材表面が鉄等の金属である場合には錆の発生等の原因となる。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、溶射皮膜中の気孔の内部まで浸透させることができ、また剥離等を生じさせにくく、従って気孔内への水分や空気の不用意な浸透を防止することができる封孔剤を提供することを課題とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その課題を解決するための手段は、アクリルシリコーン樹脂を封孔剤に含有させたことである。
【0010】
この場合のアクリルシリコーン樹脂としては、主鎖中に珪素を含有しないアクリル樹脂とシリコーン樹脂とを混合し、架橋反応して得られるものが用いられる。この場合、アクリル樹脂とシリコーン樹脂とは、封孔剤の気孔内にそれぞれ別々に侵入し、気孔の内部でアクリル樹脂とシリコーン樹脂とが架橋的に反応すると推定される。すなわち、次式(1)に示すようにアクリル樹脂の主鎖に付加している官能基Aにシリコン樹脂中のシラノール基に付加している官能基Bが結合し、そのシラノール基が連鎖的に反応することによって、次式(2)に示すようにアクリル樹脂とシリコーン樹脂とが架橋的に結合すると認められるのである。尚、式(1)、(2)に示すアクリル樹脂の主鎖に付加しているCは、触媒を表している。
【0011】
【化1】
Figure 0003725519
【0012】
このようなシラノール基の連鎖的な反応によって、アクリルシリコーン樹脂は、気孔の内部で徐々に分子量が大きくなり、気孔からの不用意な抜け出しが防止されることとなる。
【0013】
すなわち、アクリル樹脂とシリコーン樹脂とは、気孔の内部に侵入させる前は分子量が比較的小さいため、気孔の内部に侵入するのに支障を生じさせないが、一旦侵入すると、上記のようなアクリル樹脂の主鎖への付加反応及びシラノール基の連鎖的反応によって、分子量が大きくなり、気孔からの抜け出しが防止されるのである。
【0014】
アクリルシリコーン樹脂とは別に、オルガノシリカゾルも含有されている。このようなオルガノシリカゾルの粒子はその粒径が小さく気孔内に入り易い一方で、一旦気孔内に入ると、そのオルガノシリカゾル自体がアクリルシリコーン樹脂のシラノール基と反応し、より複雑な架橋構造となり、またオルガノシリカゾルが溶射金属とも反応し易いので、気孔からの抜け出しがより確実に防止されることとなる。
【0015】
さらに浸透剤も含有されている。浸透剤を併用することによって、アクリルシリコーン樹脂が気孔の内部により浸透し易くなる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態においては、道路の側部等に立設されるポールに溶射を施し、その溶射皮膜に封孔剤を塗布する場合について説明する。このポールは、細長い円筒状すなわちパイプ状のものであり、炭素鋼からなる板状の圧延鋼板を円筒状に加工して得られたものである。
【0018】
次に、このポールに溶射を施す。本実施形態では、溶射する金属としてアルミニウムの線材を用い、ガスフレーム溶射法で溶射した。そして上記のようにポールに溶射され乾燥された溶射皮膜に、アクリルシリコーン樹脂と、該アクリルシリコーン樹脂を気孔内に浸透させる浸透剤と、オルガノシリカゾルとを含有する封孔剤を塗布した。本実施形態では、アクリルシリコーン樹脂として、主鎖中に珪素を含有しないアクリル樹脂とシリコーン樹脂とを混合し、架橋反応して得られるタイプのものを用いた。また浸透剤としては、本実施形態ではアセチレングリコールを用いた。
【0019】
これによって、溶射材料を構成する粒子間の結合力が高まり、溶射材料の剥離が好適に防止されることとなる。特に、封孔剤が、上記のように主鎖中に珪素を含有しないアクリル樹脂とシリコーン樹脂とを混合し、架橋反応して得られるタイプのものであるため、塗布されたアクリル樹脂(主鎖中に珪素を含有しないもの)及びシリコーン樹脂が、それぞれ封孔剤の気孔内に別々に侵入し、気孔の内部でアクリル樹脂とシリコーン樹脂とが架橋的に反応し、気孔の内部で徐々に分子量が大きくなって、気孔からの樹脂の抜け出しが防止される。
【0020】
この結果、封孔剤は、単に溶射皮膜の表面を被覆しているのみならず、気孔の内部にまで侵入しているので、溶射皮膜から不用意に剥がれることがない。
【0021】
また、封孔剤には、アクリルシリコーン樹脂の他に浸透剤が含有されているので、アクリルシリコーン樹脂の気孔内への浸透がより容易に行われることとなる。
【0022】
さらに、上記のようなアクリル樹脂とシリコーン樹脂との反応に際しては、シラノール基の連鎖反応が生じるが、本実施形態の封孔剤にはオルガノシリカゾルが含有されているので、このオルガノシリカゾルがアクリルシリコーン樹脂のシラノール基と反応し、より複雑な架橋構造となり、またオルガノシリカゾルが溶射金属とも反応し、それによって気孔からの抜け出しがより確実に防止されることとなる。
【0023】
以上のように、本実施形態では、アクリルシリコーン樹脂と、該アクリルシリコーン樹脂を気孔内に浸透させる浸透剤と、オルガノシリカゾルとが封孔剤に含有されているので、上記のようにポールに溶射された溶射皮膜に封孔剤が塗布された場合、封孔剤が溶射皮膜の気孔の内部まで浸透し、従って封孔剤が剥離しにくく、しかも気孔内に水分や空気が不用意に浸透するのが防止されることとなる。
【0029】
さらに、上記実施形態では、溶射材料としてアルミニウムを用いたが、溶射材料の種類も該実施形態に限定されるものではなく、たとえば亜鉛のようなものを用いることも可能であり、さらにはコバルト、ニッケル、クロム、チタン、その他の種々の金属を用いることが可能である。さらに、単一の金属材料のみならず、たとえば亜鉛−アルミニウム合金やニッケル−コバルト合金等の合金を用いることも可能である。さらに、金属以外に、セラミックを溶射材料として用いることも可能である。セラミックとしては、たとえばアルミナ、ジルコニア、チタニア等を使用することが可能である。また、サーメットのようなものを使用することも可能である。
【0030】
さらには、ポリアミド系合成樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エポキシ樹脂等の合成樹脂を使用することも可能である。さらに、金属、セラミック、合成樹脂等の各種の溶射材料で、複数層の溶射被膜を形成することも可能である。
【0031】
さらに、上記実施形態では、線状の溶射材料を用いたが、これに限らずたとえば粉末状の溶射材料を用いることも可能であり、溶射材料の形態も問うものではない。
【0032】
さらに、該実施形態では、ガスフレーム溶射法によって溶射を行ったが、溶射法の種類も該実施形態に限定されるものではなく、たとえばアーク溶射法やプラズマ溶射法、その他の溶射法を採用することも可能であり、その種類は問わない。
【0033】
さらに、上記実施形態では、ポールを構成する基材として炭素鋼からなるものを用いたが、基材の材質も該実施形態の炭素鋼に限定されるものではなく、鉄板、ステンレス等を用いることも可能であり、またこれら以外の金属材料を用いることも可能である。
【0034】
さらには、金属以外の材料、たとえばセラミック等を基材として用いることも可能である。要は、溶射することができる材質のものであれば、その種類は問うものではない。
【0035】
さらに上記実施形態では、圧延鋼板等の圧延された材料を基材として用いたが、圧延された材料に限らず、鋳造,鍛造等された材料を用いることも可能である。
【0036】
さらに、上記実施形態では、筒状体を製品化する完成品として、道路の側部等に立設されるポールに適用する場合について説明したが、筒状体の製品化の用途も該実施形態に限定されるものではなく、その用途は問わない。たとえば水道管等の流体用のパイプに適用することも可能である。
【0037】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0038】
(実施例1)
縦2500mm、横400mm 、厚さ5mm の炭素鋼からなる圧延鋼板を準備し、その圧延鋼板の表裏両面にアルミニウムを溶射した。具体的には、直径1.5mm のアルミニウム線材をガスフレーム溶射機で溶射した。ガスとしては圧縮空気を用い、圧力は0.45Mpa 、流量は5000NL/H、溶射距離は250mm とした。
【0039】
上記のような鋼板の溶射皮膜に封孔剤を塗布した。封孔剤としては、アクリルシリコーン樹脂100 重量部に対して、浸透剤であるアセチレングリコールを0.1 重量部、オルガノシリカゾルを10重量部添加した組成のものを用いた。
【0040】
(実施例2)
本実施例では、封孔剤として、アクリルシリコーン樹脂100 重量部に対して、浸透剤であるアセチレングリコールを0.1 重量部添加した組成のものを用いた。
【0041】
溶射する基材は上記実施例1と同じ圧延鋼板を用い、同様に加工して同様の溶射条件でアルミニウムで溶射した。
【0042】
(実施例3)
本実施例では、封孔剤として、アクリルシリコーン樹脂100 重量部に対して、オルガノシリカゾルを10重量部添加した組成のものを用いた。
【0043】
溶射する基材は上記実施例1と同じ圧延鋼板を用い、同様に加工して同様の溶射条件でアルミニウムで溶射した。
【0044】
(実施例4)
縦2000mm、横600mm 、厚さ10mmの鍛造鋳鉄からなる基板を準備し、その基板の表裏両面に亜鉛を溶射した。具体的には、直径1.3mm の亜鉛線材をガスフレーム溶射機で溶射した。ガスとしてはアセチレンガスを用い、圧力は0.05Mpa 、流量は800NL/H 、溶射距離は250mm とした。
【0045】
上記のような鋼板の溶射皮膜に封孔剤を塗布した。封孔剤としては、上記実施例1と同様のものを用いた。
【0046】
(その他の実施例)
尚、上記実施例では、アクリルシリコーン樹脂100重量部に対して、浸透剤を0.1重量部、オルガノシリカゾルを10重量部添加したが、浸透剤やオルガノシリカゾルの添加量はこれに限定されるものではない。ただし、浸透剤の添加量はアクリルシリコーン樹脂100重量部に対して0.05〜0.2重量部であることが好ましく、オルガノシリカゾルの添加量はアクリルシリコーン樹脂100重量部に対して1〜20重量部であることが必要である
浸透剤の添加量が0.05重量部未満であると、気孔内部へのアクリルシリコーン樹脂の侵入が容易になるという効果の実効が薄れるおそれがあり、また0.2重量部を超えると、溶射皮膜上に異種のものを上塗りする場合に、上塗り剤が塗着されにくくなるという問題が生ずるからである。
一方、オルガノシリカゾルの添加量が1重量部未満であると、オルガノシリカゾルの添加による効果の実効が図りにくく、また20重量部を超えると、硬くなってクラックが入り易くなり、且つ気孔に比してオルガノシリカゾルの量が多くなると、気孔内に入りにくくなるという問題が生ずるからである。
【0047】
また、上記各実施例ではガスフレーム溶射法で溶射を行ったが、これに限らず、たとえばプラズマ溶射を用いることも可能である。溶射被膜としては、たとえばNi−Cr合金(80%Ni、20%Cr)を溶射した後に、アルミナ等のセラミックを溶射して形成される。
【0048】
プラズマ溶射の場合、たとえば次のような条件で行われる。
アルゴンガス:50L/min
水素ガス:9L/min
電流:500 A、
電圧:67V
アルゴン粉末供給ガス:2.6L/min
溶射距離:125mm
トラバース速度:100cm/sec
【0049】
また、アーク溶射法で溶射することも可能である。アーク溶射法の場合には、たとえば次のような条件で行われる。
電流:200A
空気圧:0.49Mpa
溶射距離:150〜250mm
【0050】
【発明の効果】
以上のように、本発明は、封孔剤にアクリルシリコーン樹脂を含有させたものであるため、このような封孔剤を溶射皮膜に塗布すると、封孔剤に含有されているアクリルシリコーン樹脂が溶射皮膜の気孔内に侵入した後に分子量が増大し、その結果、アクリルシリコーン樹脂は溶射皮膜の気孔から不用意に抜け出すことがなく、従って、このような封孔剤が溶射皮膜に塗布されると、封孔剤が剥離しにくく、しかも気孔内に水分や空気が不用意に浸透するのが防止されるという効果がある。
【0051】
特に、アクリルシリコーン樹脂が、主鎖中に珪素を含有しないアクリル樹脂とシリコーン樹脂とを混合し、架橋反応して得られるものであるので、気孔の内部へ侵入する前は、アクリル樹脂とシリコーン樹脂とはその気孔内にそれぞれ別々に侵入し、気孔の内部では、アクリル樹脂の主鎖に付加している反応基に、シラノール基が連鎖的に反応し、気孔の内部で徐々に分子量が大きくなるので、気孔の内部への侵入がより容易となり、且つ気孔からの不用意な抜け出しがより確実に防止される。しかも、このような主鎖中に珪素を含有しないアクリル樹脂とシリコーン樹脂との混合型のアクリルシリコーン樹脂を用いる場合、シリコーン樹脂がアクリル樹脂と反応する前に予め溶射金属と反応し、その後にアクリル樹脂と反応するので、反応後の溶射金属からのアクリルシリコーン樹脂の離脱がより確実に防止されることとなる。
【0052】
さらに、アクリルシリコーン樹脂の他にオルガノシリカゾルが含有されているので、オルガノシリカゾルの粒子の粒径が小さく気孔内に入り易い一方で、一旦気孔内に入るとオルガノシリカゾル自体がアクリルシリコーン樹脂のシラノール基と反応し、より複雑な架橋構造となり、またオルガノシリカゾルが溶射金属とも反応し易いので、気孔からの抜け出しがより確実に防止されるという効果がある。
【0053】
さらに、アクリルシリコーン樹脂の他に浸透剤が含有されているので、その浸透剤によって、アクリルシリコーン樹脂が気孔の内部により浸透し易くなるという効果がある。

Claims (2)

  1. アクリルシリコーン樹脂と、該アクリルシリコーン樹脂を気孔内に浸透させる浸透剤と、オルガノシリカゾルとが含有され、且つ前記アクリルシリコーン樹脂は、主鎖中に珪素を含有しないアクリル樹脂とシリコーン樹脂とを混合し、架橋反応して得られるものであり、しかも前記オルガノシリカゾルの添加量は前記アクリルシリコーン樹脂100重量部に対して1〜20重量部であることを特徴とする溶射面用の封孔剤。
  2. 浸透剤がアセチレングリコールである請求項1記載の溶射面用の封孔剤
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