JP3723102B2 - 有機ハロゲン化合物の分解処理装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機ハロゲン化合物の分解処理に関するものであり、より詳細にはPCBおよび/またはPCB含有物質を溶融処理してPCB気化ガスを発生させ、発生したPCB気化ガスを熱分解するPCBの分解処理装置およびその分解処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリ塩化ビフェニル(以下、PCBと記載する)は、酸やアルカリに対する耐性が高く化学的に安定であること、熱的に非常に安定で電気絶縁性に優れていること、存在形態が液体から固体までと幅広いこと等から、トランスやコンデンサなどの絶縁油、電線などの可塑剤、各種化学工業などの諸工程における熱媒体として用途を問わず幅広い分野において大量に使用されてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、PCBやPCBを含有した物質が燃焼すると有害物質が発生し環境汚染の原因となること、食物連鎖による生物濃縮により、特に魚介類を通してPCBに起因する有害物質が人体内に蓄積されることが判明し、PCBの製造は1972年に禁止されるに至った。その結果、PCBの製造などによる直接的な汚染問題は回避されたが、PCBはその汎用性の高さから多岐にわたって使用されており、またその分解され難い性質から、今度はPCBやPCB含有物質の処理・処分が新たな環境問題となっている。
【0004】
すなわち、PCBやPCB含有物質を処理・処分するために、通常の焼却処理を行うと、焼却温度が低いためにダイオキシンなどの有害物質が発生し、これら有害物質が排煙と共に大気中に放出されてさらなる大気汚染を生じる。一方、埋め立て処理を行うと、PCBは安定性に優れ非常に分解され難い性質を有しているので、PCBが土壌中へ溶出し土壌・河川・海洋汚染を生じるからである。
そのため、PCBおよびPCB含有製品を容易に処理・処分することができず、自治体などでは回収したPCBおよび/またはPCB含有物質を単に保管しているのが実状であった。
【0005】
このような事情のもと、PCBの処理方法が種々検討されている。代表的な分解処理方法としては、高温焼却処理法、酵素やバクテリアによる分解、化学薬品による処理(アルカリ分解法)などが挙げられるが、これらの中で最も有効な方法はPCBを高温で焼却処理する高温焼却法であった。
【0006】
しかし、この高温焼却法であっても、PCBの分解時に発生する塩素が炉を劣化させること、処理に高温(たとえば1600℃以上)を必要とするために炉体の管理が難しいこと、焼却熱が完全に被処理物に伝わらず焼却残渣に未分解のPCBが大量に含まれる場合があること、焼却温度の制御応答性が悪いので焼却温度が低下した際に迅速な温度制御ができず、結果として低温焼却に起因するコプラナーPCBやダイオキシンなどの新たな有害物質を発生させる場合があることなどの改善すべき問題点があった。
【0007】
また、トランスやコンデンサなどのように容器内に収容されたPCBを処理するには、一旦、トランスやコンデンサ内からPCBを取り出さなければ処理できず、その取り出し作業時の作業者の汚染問題や、PCB取り出し後のトランスやコンデンサ内に残されたPCBの処理といった問題点もあった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、有機ハロゲン化合物および有機ハロゲン化合物含有物質の処理に当たり、有害物質を発生することなく安全に無害化処理することのできる方法であって、トランスやコンデンサなどような容器内に収容された有機ハロゲン化合物でも、有機ハロゲン化合物を取り出す工程を経ることなく、容易かつ安全に有機ハロゲン化合物を処理することのできる有機ハロゲン化合物の分解処理装置およびその分解処理方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、次のように構成することで上記課題を解決するに至った。すなわち、有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質を溶融処理して、前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを発生させる気化手段と、前記気化手段において発生させた前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを発熱体と接触させて熱分解し、分解ガスとする熱分解手段と、前記分解手段において得られた前記分解ガス中の分解生成物を捕捉する捕捉手段と、前記気化手段、熱分解手段および捕捉手段内に減圧雰囲気を形成すると共に、前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを前記熱分解手段に導くと共に、当該熱分解手段内で分解されてなる分解ガスを前記捕捉手段に導く減圧手段とを備え、前記熱分解手段の発熱体は、前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを導入させる筒状体と、円錐台形状を有しており、前記筒状体の上流から下流に向かって、その外周面と前記筒状体の内壁面との間に形成される流路断面積が小さくなる向きで、前記筒状体内に設けられた分解部と、前記分解部を、前記筒状体に保持する保持材とを備えた構成とした。
【0010】
かかる構成によると、減圧手段の存在により有機ハロゲン化合物の分解処理装置内の酸素、窒素などの量が少なく保たれる。したがって、酸化物生成反応や窒化物生成反応が抑制され、有機ハロゲン化合物が燃焼する際のダイオキシン類などの有害物質の発生を抑制できる。また、燃焼を伴う急激な酸化が生じないことから有機物を処理しても二酸化炭素や窒素酸化物の発生量が少なくて済む。
さらに、減圧手段により形成された減圧雰囲気下で有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質の溶融および気化処理を行うので、常圧条件下で行う場合よりも低い溶融温度および気化温度での処理が可能となる。
また、かかる構成によると、有機ハロゲン化合物の気化ガスは発熱体内に形成された隙間を挿通するので、発熱体との接触による熱分解に加えて、流路断面積の狭い部分を通過する際に輻射熱によっても熱分解される。よって、有機ハロゲン化合物の気化ガスは、接触熱分解、輻射熱分解の二種類の分解方法をへて効率よく熱分解される。
すなわち、かかる構成によると、筒状体の内壁面と円錐台の外周面との間に形成される流路断面積すなわち隙間は、上流側から下流側に進むに従って小さく(狭く)なるので、筒状体の円筒内に導かれた有機ハロゲン化合物の気化ガスが筒状体の内壁面や円錐台の外周面に接触して熱分解する機会が増加すると共に、狭くなった隙間を通過する際に受ける輻射熱によっても分解される。したがって、有機ハロゲン化合物の気化ガスは、確実に熱分解される。
【0011】
さらに、前記気化手段、熱分解手段、および捕捉手段を一つの閉鎖系とし、当該閉鎖系に含まれる前記捕捉手段を構成する配管の一部を隔離して隔離部を形成し、この隔離部を冷却して、前記閉鎖系内の隔離部と非隔離部との間に圧力差を発生させる圧力差発生手段を備えた構成とした。
【0012】
かかる構成によると、有機ハロゲン化合物の分解処理装置の気化手段から捕捉手段までの空間を閉鎖系とした状態で、その閉鎖系内に隔離部を形成し、この隔離部を冷却すると、当該隔離部内の圧力が非隔離部よりも低くなる。よって、隔離部と非隔離部とを徐々に連通させると、圧力差により非隔離部から隔離部への気体の流れが生じる。
従って、前記気化手段内に発生した有機ハロゲン化合物の気化ガスが気化手段内に滞留することなく熱分解手段側に吸出されるので、有機ハロゲン化合物の気化ガスを効率よく接触熱分解できる。
【0013】
また、隔離空間内を冷却することにより、有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質の溶融および気化処理の際に、前記閉鎖系内の圧力が過度に上昇することを防止できる。
さらに、一連の有機ハロゲン化合物の分解処理を完全な閉鎖系内で行うことができるので、有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質中に含まれている重金属や、その他有害物質の周辺大気中への飛散を防止できる。
【0014】
また、前記気化手段は、高周波誘導加熱により有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質を加熱して溶融させる高周波誘導加熱手段を備えた構成とした。
かかる構成によると、高周波誘導加熱は、加熱対象の温度変化に対する電力供給量の追従性がよいので、加熱温度の制御が容易となる。
また、3000℃付近までの加熱が可能であるので、トランスやコンデンサなどのように容器に収容された有機ハロゲン化合物であっても、容器から取り出すことなく容器ごと溶融させて処理できる。
【0015】
また、前記気化手段に、有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質に含まれる低沸点成分を分離回収する回収手段を備えた構成とした。
かかる構成によると、回収手段を設けたことにより、潤滑油として使用された有機ハロゲン化合物のように、有機ハロゲン化合物がオイルとの混合物であっても、オイルだけを分離・回収して再利用することが可能となる。
【0020】
また、前記捕捉手段は、前記有機ハロゲン化合物の気化ガスの熱分解より生じた分解ガス中の分解生成物を吸着させて捕捉する乾式トラップおよび/または熱分解生成物に含まれるハロゲン類をアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩として捕捉する湿式トラップを備えた構成とした。
【0021】
かかる構成によると、前記熱分解手段の後流側に排出される分解ガスに含まれる炭素分を乾式トラップで捕捉すると共に、乾式トラップで捕捉されなかったハロゲン類を、たとえば水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カルシウム水溶液の噴霧中に導入させることにより、ハロゲン類をアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩として完全に捕捉することができる。
【0022】
また、本発明は、有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質を溶融処理して、前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを発生させる気化手段と、前記気化手段において発生させた前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを発熱体と接触させて熱分解し、分解ガスとする熱分解手段と、前記分解手段において得られた前記分解ガス中の分解生成物を捕捉する捕捉手段と、前記気化手段、熱分解手段および捕捉手段内に減圧雰囲気を形成すると共に、前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを前記熱分解手段に導くと共に、当該熱分解手段内で分解されてなる分解ガスを前記捕捉手段に導く減圧手段とを備え、前記発熱体は、外周面上に孔を有し、下流側が閉鎖された円管と、当該円管を収容し、外周面上にスリットを有する円筒とを備え、前記円管の上流側から前記有機ハロゲン化合物の気化ガスが導入され、この有機ハロゲン化合物の気化ガスを前記孔から排出させ、さらに、前記スリットから排出させるように構成した有機ハロゲン化合物の分解処理装置に関するものである。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。
図1は、有機ハロゲン化合物の分解処理装置1の概略説明図である。図2は、気化手段2の概略断面図、図3(a)は気化手段2の上部チャンバ11の要部拡大図、図3(b)は有機ハロゲン化合物の分解処理装置1に用いる加熱容器12の斜視図である。図4(a)、(b)は、熱分解手段3の構成斜視図である。図5乃至図7は、熱分解手段3の発熱体の一態様図である。
【0025】
本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置とは、本装置の排出口から有害物質を一切排出させずに、有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物の含有物質を無害化処理する装置である。
ここで、本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置で分解処理できる有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物の含有物質とは、有機ハロゲン化合物、すなわちPCBそのもの(固体、液体を問わず)に限らず、PCB含有物質(コンデンサ、トランス、紙、木材、土壌)や、化学プラントなどに用いられたPCBのように他の油分との混合物、ダイオキシン類やこれを含有する物質などをいう。
また、PCB気化ガスとは、PCBが気化して気体状となったものをいう。
【0026】
図1に示すように、本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1は、主要部として、気化手段2と、熱分解手段3と、捕捉手段4、圧力差発生手段5、減圧手段6を備えて構成されている。
【0027】
本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1の気化手段2は、PCBおよび/またはPCB含有物質P(以下、被処理物Pという)を加熱して、PCB気化ガスを発生させる。
【0028】
この気化手段2は、下部チャンバ10およびその上部に隣接させて設けられた上部チャンバ11より構成されている(図2参照)。
前記下部チャンバ10では、前記被処理物Pが収納された加熱容器12を収容して窒素置換する。一方、前記上部チャンバ11では、前記下部チャンバ10内より送出された窒素置換後の被処理物Pを減圧雰囲気下で溶融処理して、PCB気化ガスを発生させる。
【0029】
この上部チャンバ11および下部チャンバ10の形状および大きさは特に限定されるものではなく、たとえば、その形状としては円柱、四角柱など適宜選択可能である。
また、本実施の形態では上部チャンバ11の方が下部チャンバ10よりも大きさが小さい構成となっているが、同一の大きさであってもよい。
【0030】
この下部チャンバ10と上部チャンバ11との接続面には、上部チャンバ11と下部チャンバ10とを連通させる開口部13が設けられている。
この開口部13の形状は、前記被処理物Pを収容した加熱容器12が、下部チャンバ10内から上部チャンバ11内に搬入され得る形状であれば、特に限定されるものではない。好ましくは、後述する上部チャンバ11内に設けられた高周波コイル24の内周面の平面視断面と同一の形状(略円形)および大きさが良い。
【0031】
この気化手段2の下部チャンバ10の天井面、すなわち、前記開口部13の下面には、シャッタ14が水平方向に慴動自在となるように設けられ、上部チャンバ11と下部チャンバ10とが、適宜区画できるように構成されている。
【0032】
また、この気化手段2の下部チャンバ10の側面には、搬入口15が設けられている。よって、被処理物Pは加熱容器12に収容された後、この搬入口15を介して下部チャンバ10内に搬入される。
【0033】
ここで、この加熱容器12の材質は、被処理物Pに効率よく熱を伝えることのできるものであれば特に限定されるものではない。例えば、このようなものとして、モリブデン、ステンレス、誘電セラミックス、カーボンなどが挙げられる。なお、本実施の形態では、この加熱容器12としてモリブデン製のものを用いている。
【0034】
さらに、この加熱容器12の形状も特に限定されるものではない。しかし、従来の間接加熱法では、被処理物Pと加熱部分の距離が離間していると、温度制御の応答性が悪く、PCBやオイルが沸騰する温度を維持できないという欠点がある。
そこで、本実施の形態では、この欠点を解決するために、耐熱性金属からなる羽根16を加熱容器12の内周面に沿って容器中央方向に突出させて所定間隔をおいて複数設け、この羽根16が被処理物Pに触れて効率よく熱を伝えて加熱できるように構成された容器を用いている(図3(b)参照)。
【0035】
ここで、被処理物Pの大きさに関係なく羽根16が被処理物Pに接触できるように、羽根16の形状としては、矩形である薄肉の柔らかい板が好ましい。また、その羽根16の配設方法は、前記羽根16の長手方向の一端をそれぞれ適宜間隔で加熱容器12の内周面に沿って固設し、他端をそれぞれ前記加熱容器12の軸芯方向に臨んで、かつ、前記加熱容器12の底部に向かって撓んだ状態で設けた構成がよい。
また、被処理物Pを、加熱容器12ではなく、加熱容器12と同様の材質で作られたドラム缶に入れた状態で、気化手段2の下部チャンバ10内に搬入する構成とすることも可能である。
【0036】
この気化手段2の下部チャンバ10内には、リフト17が昇降自在に設けられている(図2参照)。このリフト17の上面略中央部には、搬入口15から搬入された加熱容器12をその上面に載置するためのアルミナ台座18が設けられている。
また、このリフト17の上部には、アルミナ台座18をその中央部に備えた状態で、上部チャンバ11の気密性を保ちながら下部チャンバ10と区画するための円形状のパッキン19が設けられている。
【0037】
したがって、下部チャンバ10と上部チャンバ11とを連通させる開口部13に設けられた前記シャッタ14を開放し、被処理物Pが収容された加熱容器12を、後述する上部チャンバ11内に設けられた高周波コイル24の内方に送出した際に、下部チャンバ10の天井面に前記円形状のパッキン19を当接させることで、上部チャンバ11内を密閉するように構成されている。
【0038】
また、この下部チャンバ10には、下部チャンバ10内の空気を排出するための真空排気管20と、アルゴンなどの不活性ガスが充填されたボンベ(図示せず)から不活性ガスを下部チャンバ10内に導入する不活性ガス導入管21が設けられている。この真空排気管20の下流側、および不活性ガス導入管21の上流側には、それぞれバルブ22、23が設けられている。
したがって、下部チャンバ10内を不活性ガス置換して、下部チャンバ10内に搬入された被処理物Pや、下部チャンバ10内の空気および空気に含まれる水分を除去できるように構成されている。
なお、これら真空排気管20および不活性ガス導入管21の配設位置は、下部チャンバ10内を不活性ガス置換できる位置であれば特に限定されるものではない。
【0039】
本実施の形態では、下部チャンバ10に設けられた前記真空排気管20は、後述する熱分解手段3、捕捉手段4、圧力差発生手段5を介して減圧手段6である真空ポンプ42に接続されている(図1参照)。したがって、この真空ポンプ42により、下部チャンバ10内に減圧雰囲気が形成されるように構成されている。
【0040】
なお、下部チャンバ10内に減圧雰囲気を形成する方法は、この構成に限定されるものではなく、前記下部チャンバ10内にのみ減圧雰囲気を形成させるための真空ポンプ(図示せず)を別途設けた構成であっても良い。
また、下部チャンバ10内への不活性ガスの供給を、不活性ガス導入管21に接続された不活性ガスが充填されたボンベ(図示せず)により行う構成ではなく、後述する圧力差発生手段5において使用する液体窒素供給装置(図示せず)や、圧力差発生手段5で使用した液体窒素の気化ガスにより行う構成としてもよい。
【0041】
気化手段2の上部チャンバ11内には、下部チャンバ10内からリフト17により送出された加熱容器12がその内側に挿入される高周波コイル24が、前記上部チャンバ11内の下部から上部まで、その内側の空間が略円筒形を有するように螺旋状に配設されている(図2、図3(a)参照)。
さらに、この上部チャンバ11内の圧力を測定する圧力センサ(図示せず)、たとえば、ピラニー真空計も上部チャンバ11内に配設されている。
【0042】
この高周波コイル24は、高周波による誘導加熱により被処理物Pを溶融させ、PCBを気化させるために、インバータ回路を備えた高周波電源(図示せず)に接続され、加熱温度の制御が適宜可能になるように構成されている。
なお、この高周波コイル24の制御は、電圧増幅方式で行うのが一般的である。しかし、電圧増幅方式の場合、電圧が400V以上になると真空チャンバ内で放電が発生し、温度制御に支障をきたす可能性がある。したがって、本実施の形態では、このような問題を生ずる可能性のない電流増幅方式を採用している。
【0043】
なお、被処理物Pを溶融させるための加熱は高周波誘導加熱法に限定されるものではない。たとえば、電気抵抗加熱、プラズマ、およびアーク方式による加熱法であってもよい。しかし、高周波誘導加熱法を用いると、常温から1000℃までの昇温時間が0.5秒程と短時間で済むこと、高周波コイル24の内側だけに加熱エネルギーを集中できること、供給する電力源と被処理物Pの耐熱温度により100℃〜3000℃(カーボンの耐熱温度)までの温度設定が可能であること、
さらに、インバータ回路による高周波電源を利用すると、被処理物Pの温度変化に対する電力供給量の追従性が良く、加熱温度を設定値の±5℃に保つことが可能であり、被処理物PからPCB気化ガスが発生した際に起こる炉内の圧力上昇に対して迅速かつ正確に温度を制御できるので、その圧力における被処理物Pの沸点を安定して維持することが可能であるなど種々有利な点が多い。よって、好ましくは高周波誘導加熱法を用いるのがよい。
【0044】
気化手段2の上部チャンバ11の後流側には、真空バルブ25が開閉自在に設けられている(図1参照)。
この真空バルブ25は、後述する圧力差発生手段5による負圧状態、または、真空ポンプ42による減圧状態が本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1内に形成されたときに、上部チャンバ11と前記熱分解手段3とを連通させて、気化手段2内に発生させたPCB気化ガスを、熱分解手段3に供給できるように構成されている。
【0045】
なお、本実施の形態の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1では、オイルトラップ26が、前記気化手段2と前記熱分解手段3とを接続する配管に、バイパス配管を介して接続されている。
したがって、前記気化手段2内で溶融処理するPCB含有物質が他の低沸点オイルなどとの混合物である場合、一旦、PCBの気化温度以下で被処理物Pを加熱することで、PCB含有物質に含まれている低沸点成分をオイルトラップ26内に分離回収できる。
【0046】
本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1の熱分解手段3は、前記気化手段2において発生させたPCB気化ガスを、発熱体との接触による接触熱分解、および発熱体に形成した孔を通過させる際の輻射熱による熱分解により、無害な分解ガスとする。
【0047】
この熱分解手段3は、前記気化手段2の後流側に真空バルブ25を介して接続されており、その内部にはPCB気化ガスを接触させて熱分解する発熱体30を備えている(図1,図4参照)。
この発熱体30は、その円筒内にPCB気化ガスを通過させる筒状体31と、当該筒状体31内に配置された分解部32と、前記分解部32を筒状体31内に保持する保持材33とを含んで構成される。
この発熱体30の分解部32は、前記筒状体31の円筒内に導いたPCB気化ガスを通過させる隙間が前記筒状体31の内壁面との間に形成されるように、この筒状体31内に設けられている。
【0048】
この熱分解手段3の発熱体30はPCB気化ガスを熱分解するために全体にわたって加熱されている。この発熱体30の加熱方法は、発熱体30が全体にわたって加熱される構成であれば特に限定されるものではない。よって、マイクロ波、誘電加熱、誘導加熱など適宜選択可能である。
また、発熱体30の加熱温度は、PCBのベンゼン環が熱により開裂され得る温度であれば特に限定されるものではなく、1000〜3000℃の範囲で適宜選択できる。
【0049】
よって、この発熱体30では、分解部32との接触による接触熱分解、分解部32と筒状体31との間を通過する際の輻射熱による熱分解という二つの熱分解法を用いて、PCB気化ガスが確実に熱分解されるように構成されている。
なお、この発熱体30を構成する各部材(筒状体31、分解部32、保持材33)は、モリブデン、SUS、インコロイなどの耐熱鋼により作られている。
【0050】
本実施の形態では、この分解部32の形状は円錐台である。この円錐台形状を有する分解部32は、前記筒状体31の内壁面との隙間が、筒状体31の上流から下流側に向かうに従って狭くなる向き、すなわち、PCB気化ガスの流路断面積が上流側から下流側に進むに従って小さくなる向きで、この筒状体31内に配置されている。
なお、この分解部32は、その一端が前記保持材33に固設され、この保持材33が筒状体31の円筒内に嵌合することで、筒状体31内に保持されている。
【0051】
また、発熱体30の加熱の際に熱が伝わり易いように、前記円錐台形状の分解部32の中央部を刳抜いた円錐台を用いる構成とすることも可能である。
さらに、この円錐台の代わりに、図5(a)に示すような、円柱の外周面上に複数の板35を放射状に設けて羽根としたものを、PCB気化ガスの流れ方向に沿って上流から下流に向かって多数円筒内に備えた構成や、PCB気化ガスとの衝突面積(接触面積)が多くなるように、前記羽根の板の位置が少しずつずれるように配置させた構成であってもよい。
【0052】
また、熱分解手段3の発熱体30は、図5(b)に示すような羽根をPCB気化ガスの流れ方向に沿って上流から下流に向かって軸棒36上に複数個設け、この複数の羽根を円筒内に収容し、この軸棒36をモータ等(図示せず)により回転させる構成としてもよい。
この場合、前記モータにより軸棒36を回転させることで、PCB気化ガスを前記気化手段2から強制的に熱分解手段3に供給しつつ、PCB気化ガスを熱分解できる。
【0053】
また、図6に示すように、PCB気化ガスを円管内に導き、その円管の外周面上に設けた孔から排出させ、つづいて、この孔の上面を覆うように設けられた板の隙間を挿通させて、PCB気化ガスを接触分解する構成。
図7に示すように、PCB気化ガスを円管内に導き、その円管の外周面上に設けた孔から排出させ、つづいて、この円管を収容する円筒の外周面上に設けたスリットから、PCB気化ガスを排出させて、接触熱分解、輻射熱による熱分解が順次行われるようにした構成とすることも可能である。
【0054】
熱分解手段3の配置方法は、PCB気化ガスの分解を確実に行える配置であれば特に限定されるものではなく、単独、または直列または並列に複数多段に設けた構成であってもよい。
なお、熱分解手段3の発熱体として、図4(a)に示す分解部32を備えた発熱体30を使用する場合には、熱分解手段3の配設方法は、同じ発熱体30を備えた熱分解手段3a、3bを直列に2段以上設けるのが好ましい。この場合、熱分解手段3内でのPCB気化ガスの流れが乱流となり、PCB気化ガスの気体分子が発熱体に接触する確率を上げるからである。
【0055】
本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1の捕捉手段4は、前記熱分解手段においてPCB気化ガスが熱分解されてなる分解ガスに含まれる分解物(ハロゲン類や炭素分など)を捕捉する。
【0056】
この捕捉手段4には、乾式トラップ40および湿式トラップ41が含まれている。
この捕捉手段4の乾式トラップ40は、円管内に充填剤を充填して形成され、この充填剤に前記分解ガスに含まれる分解物を吸着させて捕捉する。この充填剤として使用可能なものとして、スチールウールや活性炭、ニッケルチップなどが挙げられる。
本実施の形態では、ニッケルチップをこの充填剤として用いており、この場合、前記分解ガス中の炭素分が、ニッケルの触媒作用により主にすす(炭素粉)として吸着回収される。
なお、この乾式トラップ40は、前記熱分解手段3と後述する圧力差発生手段5のバタフライバルブ45との間に介設されている。
【0057】
捕捉手段4の前記湿式トラップ41は、前記乾式トラップ40で除去しきれなかった前記分解ガスに含まれる分解物を液体中に補足する。
具体的には、後述する圧力差発生手段5を挿通する際に、急速冷却された分解ガスを、水酸化ナトリウム水溶液をミスト状にした雰囲気下に導通させ、分解ガス中のハロゲン類を塩として回収すると共に、炭素分をすす(炭素粉)として回収する。なお、前記分解ガス中に含まれるハロゲン類の含有量が少ないと想定される場合には、前記水酸化ナトリウム水溶液の代わりに水を用いる構成とすることも可能である。
この湿式トラップ41は、後述するフィルター43と減圧手段6である真空ポンプ42の間に介設されている。
なお、本実施の形態の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1は、後述する圧力差発生手段5を備えた構成となっている。そのため、この湿式トラップ41が圧力差発生手段5の後流に位置している。よって、前記圧力差発生手段5を備えない装置構成とする場合には、前記乾式トラップ40の後流に直接接続する構成とする事も可能である。
【0058】
また、この湿式トラップ41で水溶液中に回収された塩類や炭素粉は廃液処理装置(図示せず)で分離回収される。そして、塩や炭素粉を分離した後の水酸化ナトリウム水溶液は、新たに水酸化ナトリウムを添加して所定濃度に調節する濃度調節装置(図示せず)を介して再び湿式トラップ41に再使用されるように構成されている。
【0059】
よって、この捕捉手段4の乾式トラップ40および湿式トラップ41の存在により、前記分解ガス中の分解物は、有機ハロゲン化合物の分解処理装置1の外部に放出されない。
【0060】
本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1の圧力差発生手段5は、前記気化手段2から熱分解手段3を経て捕捉手段4までの間を一つの閉鎖系とし、この閉鎖系内の前記捕捉手段4の一部を隔離して隔離部を形成させ、この隔離部を冷却して、閉鎖系内の隔離部と非隔離部との間に圧力差を発生させる。
【0061】
この圧力差発生手段5は、バタフライバルブ45と、真空バルブ46と、前記バタフライバルブ45と真空バルブ46とを接続する配管47と、この配管47内を冷却するために設けられたジャケット式の冷却管48とから構成される。
【0062】
この圧力差発生手段5の真空バルブ46は、閉じることにより前記気化手段2から熱分解手段3を経て、この真空バルブ46までの間を一つの閉鎖系とする。
【0063】
この圧力差発生手段5のバタフライバルブ45は、閉じることにより前記真空バルブ46により形成された閉鎖系内の、このバタフライバルブ45から前記真空バルブ46までの配管を隔離し、隔離部を形成する。
【0064】
この圧力差発生手段5の冷却管48は、その内部に液体窒素などの冷却媒体を挿通させることで、前記バタフライバルブ45と真空バルブ46とから形成された隔離部すなわち配管47内を急速冷却する。
【0065】
したがって、この圧力差発生手段5では、前記隔離部すなわち配管47内を急速冷却することで、前記閉鎖系の隔離部と、非隔離部との間に圧力差が発生する。
よって、圧力差が発生した状体で、この圧力差発生手段5のバタフライバルブ45を開けて、隔離部と非隔離部とを連通させると、前記気化手段2において発生させたPCB気化ガスは圧力差により吸引され、気化手段2の後流(熱分解手段3、捕捉手段4)に導かれる。
【0066】
すなわち、この圧力差発生手段5は、後述する減圧手段6の真空ポンプ42と同じ働きをすることになる。
ここで、PCB気化ガスの誘導をこの圧力差発生手段5により行うと、この有機ハロゲン化合物の分解処理装置1でのPCBの処理は総て閉鎖系内で行われることになる。
よって、仮に未分解のPCB気化ガスや他の有害物質が生じても、これらを装置1有機ハロゲン化合物の分解処理装置1の外部に漏出させることがない。
【0067】
なお、この圧力差発生手段5における前記配管47内の急冷は、上述した作用・効果に加えて次のような効果をもたらす。
すなわち、この圧力差発生手段5の上流に位置する乾式トラップ40で捕捉しきれなかった分解ガスが、前記配管47で急速冷却されるので分解ガスに含まれる分解物の再結合に起因する四塩化炭素(CCl4)の発生を防止できるという効果である。
【0068】
また、この配管47内での前記分解ガスの冷却をより効率的に行うために、多数のフィン44をこの配管47内に着脱自在に設け、前記分解ガスとの接触面積を多くすることや、このフィン44に前記分解ガスを吸着させて回収させる構成とすることも可能である。
ここで、このフィン44として各種材料が使用可能である。このようなものとしてSUS、ニッケル合金などが挙げられる。しかし、ニッケル合金を用いるとニッケルによる触媒効果により、分解ガス中のより多くの分解物が炭素として吸着される。よって、このフィン44の材質としては、ニッケル合金であることが好ましい。
【0069】
なお、前記配管47の急速冷却する方法は、配管47内を急速冷却して装置内に負圧を発生させることができる方法であれば特に限定されるものではない。
【0070】
また、本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1の減圧手段6は、前記気化手段2から、捕捉手段4までの間に減圧雰囲気を形成させると共に、前記気化手段2の下部チャンバ10内を不活性ガス置換する。
【0071】
具体的には、真空ポンプ42であり、この真空ポンプ42は、一端が前記圧力差発生手段5の後段に真空バルブ46を介して、他端が湿式トラップ41に接続され、本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1内に減圧雰囲気を形成すると共に、前記下部チャンバ10内を不活性ガスで置換する。
【0072】
前記捕捉手段4の後流には、活性炭が充填されたフィルター43が接続され、前記真空ポンプ42の稼働時に生ずる排ガスを、排ガス中の不純物などを完全に分離した後に装置外に排出するように構成されている(図1参照)。
【0073】
つぎに、本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理方法について説明する。
搬入口15を介して気化手段2の下部チャンバ10内に、前記加熱容器12内に収容された状態で搬入された被処理物Pは、まず前記下部チャンバ10内において窒素置換された後、上部チャンバ11内に配設された高周波コイル24の内方に送出される。ついで、負圧または減圧雰囲気下での高周波による誘電加熱により被処理物Pは溶融される。このとき、被処理物P中に含有されたPCBが気化してPCB気化ガスが発生する(気化工程)。
【0074】
前記気化手段2内に発生したPCB気化ガスは、本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1内が負圧または減圧雰囲気に保たれているので、気化手段2の後段に位置する熱分解手段3側に吸引される。この熱分解手段3内に供給されたPCB気化ガスは、この熱分解手段3内に配置されると共に、マイクロ波などによりPCBが熱分解される温度に加熱された発熱体30と接触した際にハロゲン類や炭素からなる分解ガスへと熱分解されると共に、発熱体30内の隙間を挿通する際に輻射熱により熱分解される(熱分解工程)。
【0075】
前記熱分解手段3で発生した分解ガスは、熱分解手段3の下流側に位置する捕捉手段4に供給される。捕捉手段4の前段に設けられたニッケルチップを充填してなる乾式トラップ40では、ニッケルによる触媒作用により、分解ガス中の炭素分はスス(炭素粉)として捕捉される。この乾式トラップ40で捕捉しきれなかった分解ガスは、後段に設けられた圧力差発生手段5で、分解ガスからの四塩化炭素の生成を抑えるために急速冷却される。そして、その後段に位置する湿式トラップ中6で、所定濃度に調整された水酸化ナトリウム水溶液のミスト中を通すことで、分解ガス中の塩素は塩化ナトリウム塩として、炭素分はカーボンとして回収される(捕捉工程)。
【0076】
【実施例】
つぎに、本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1を用いた有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質、すなわち、PCBおよび/またはPCB含有物質の処理方法について図1または図2を適宜参照しながら説明する。
【0077】
PCBの入ったコンデンサを加熱容器12に収容させる。この加熱容器12を気化手段2の下部チャンバ10に設けられた搬入口15から下部チャンバ10内に搬入し、下部チャンバ10内のリフト17上にあるアルミナ台座18上に載置する(図2参照)。
前記搬入口15を閉じた後、下部チャンバ10の真空排気管20の下流側にあるバルブ22を開け、真空ポンプ42により下部チャンバ10内を減圧し、下部チャンバ10内を100Pa(ゲージ圧)以下にする(図1参照)。
その後、バルブ22を閉じ、窒素ボンベと不活性ガス導入管21との間に介設されたバルブ23を開け、下部チャンバ10内に窒素ガスを導入し、窒素置換した後バルブ23を閉じる。そして、この一連の減圧−窒素置換操作を2回繰り返す。
【0078】
下部チャンバ10内の窒素置換完了後、シャッタ14を開き真空ポンプ42により常時減圧状態に保たれている上部チャンバ11と窒素置換された下部チャンバ10とを連通させる。リフト17を上昇させて、上部チャンバ11内に設けられた高周波コイル24の内側へ、被処理物Pが納められた加熱容器12を送出して収容させる。そして、リフト17を下部チャンバ10の天井面に当接させて上部チャンバ11内を密封する(図2参照)。
【0079】
真空バルブ46、バタフライバルブ45を閉じ、冷却管48に液体窒素を流して圧力差発生手段5を作動させる。そして、バタフライバルブ45および真空バルブ46により閉鎖された隔離空間の圧力を、閉鎖されていない非隔離空間の圧力よりも低くして、閉鎖された隔離空間内に負圧状態を発生させる。その後、バタフライバルブ45を徐々に開き、前記気化手段2の上部チャンバ11内の圧力を100Pa(ゲージ圧)にする。
同時に、熱分解手段3の発熱体30を加熱し、1400℃に安定させる。この際、加熱により温度が上昇し、前記気化手段2から前記バタフライバルブ45までの空間内の圧力が上昇するので、それに併せてバタフライバルブ45の開度を上げてゆき、圧力を調節する(図1参照)。
【0080】
熱分解手段3の発熱体30の温度が1400℃に安定した後、気化手段2の高周波電源を入れ、徐々に加熱容器12を加熱してゆき、被処理物Pを加熱溶融させてPCBを気化させる。この際、PCBの気化手段2の上部チャンバ11内の圧力を100Pa(ゲージ圧)に保つように、バタフライバルブ45の開度を調節しながら、PCBの気化を行う。
【0081】
PCBの完全蒸発後、バタフライバルブ45の開度を一定としたままで上部チャンバ11内の圧力が低下し始めたら、気化手段2の高周波電源を切り、加熱容器12を自然冷却する。また、熱分解手段3の電源も落とし、発熱体30も冷却させる。
【0082】
加熱容器12の冷却完了後、リフト17を下降させ、気化手段2の下部チャンバ10に加熱容器12を移動させる。その後、シャッタ14を閉じて上部チャンバ11と下部チャンバ10を分画し、上部チャンバ11内を常時減圧状態に保つようにする。
バルブ23を開放し、下部チャンバ10内を大気圧にした後、搬入口15より、加熱容器12を搬出し、加熱容器12内の残渣を取り出し、PCBおよび/またはPCB含有物質の分解処理が完了する。
【0083】
なお、本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置1の各手段は、それぞれブロック化され、配管を介して接続されている。
よって、運搬に際し各部ブロックに分けることができるので、運搬が容易であると共に装置の設置も簡便となる。
さらに、前記各パーツの並び替えやパーツの追加などにより、処理される被処理物の種類に応じて最適な装置構成とすることが可能である。したがって、有機ハロゲン化合物の分解処理装置1の配列は、前記構成、順序に限定されるものではなく適宜決定可能である。
また、本発明の方法または装置を用いることにより回収された塩化鉄は、工業用原料として、塩化ナトリウムや炭素粉は、無害なので道路の融雪剤などに使用できる。さらに、加熱容器内の残渣には有機ハロゲン化合物や有害物質などが全く含まれていないので、スラグとして回収し路盤材やブロックなどとしての使用も可能である。
【0084】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によると、減圧手段の存在により有機ハロゲン化合物の分解処理装置内に存在する酸素、窒素などの量が少なく保たれるので、酸化や窒化を伴う反応が抑制され、有機ハロゲン化合物の燃焼の際に生成するダイオキシン類などの有害物質の生成が抑えられる。また、燃焼を伴う急激な酸化が生じないことから有機物を処理しても二酸化炭素の発生量が少なくて済むので、環境への負荷を低減することができる。
さらに、減圧手段により形成された減圧雰囲気下で有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質の溶融および気化処理を行うので、常圧条件下で行う場合よりも低い溶融温度および気化温度での処理が可能となり、処理に要するエネルギーも少なくて済む。
また、被処理物を完全に溶融させて一旦液体状態とするので、従来の焼却処理のように被処理物内部に取り込まれ、気化、分解されない有機ハロゲン化合物を生ずることがない。よって、被処理物中に含まれる有機ハロゲン化合物のすべてを、その一部を熱分解しつつ、有機ハロゲン化合物の気化ガスとすることができる。
【0085】
請求項2に記載の発明によると、前記有機ハロゲン化合物の分解処理装置の前記気化手段から前記捕捉手段までの空間を閉鎖系とし、その閉鎖系内に圧力差を発生させるので、前記気化手段内に発生した有機ハロゲン化合物の気化ガスが気化手段内に滞留することなく熱分解手段側に強制的に送り出され、発熱体と接触し熱分解される。よって、従来の装置のように、気化手段内に滞留した有機ハロゲン化合物の気化物が再結合して有害物質を再生することや、有機ハロゲン化合物の熱分解により生じた塩素が炉内に滞留することがない。よって、従来の焼却炉のように顕著に炉内が腐食され劣化することなく、効率よく有機ハロゲン化合物の気化ガスの接触熱分解が行える。
さらに、一連の有機ハロゲン化合物の分解処理を完全な閉鎖系内で行うことができるので、有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質中に含まれている重金属や、有機ハロゲン化合物の気化ガスの熱分解ガス中に含まれるハロゲン類、および、炭素を装置の外部に漏洩することなく有機ハロゲン化合物の処理・処分が行える。
また、負圧または減圧条件下でこの気化工程が行われるので、常圧での処理に比べ、より低い温度での被処理物の溶融・気化処理が可能となる。
【0086】
請求項3に記載の発明によると、高周波誘導加熱装置による加熱は、短時間での昇温が可能であると共に、加熱対象の温度変化に対する電力供給量の追従性がよいので、加熱温度の制御が容易となる。また、供給する電力量と被処理物の耐久温度によりカーボンの耐熱温度(3000℃)までの温度設定が可能であるので、トランスやコンデンサなどのように容器に収容された有機ハロゲン化合物であっても、容器から取り出すことなく容器ごと溶融させて処理できる。よって、有機ハロゲン化合物の取り出し作業時の作業者の汚染問題を解消できる。
【0087】
請求項4に記載の発明によると、回収手段を設けたことにより、被処理物がオイルとの混合物であっても、インバータ回路による高周波電源は加熱温度を設定値の±5℃に制御することが可能であるので、オイルを分離・回収して再利用できる。また、コンデンサなどの電極部に使用されていたアルミや銅などの金属類も、金属類の沸点に合わせて加熱することで回収可能である。
【0088】
また、請求項5および請求項6記載の発明によると、有機ハロゲン化合物の気化ガスと発熱体との接触機会が多くなるので、効率よく有機ハロゲン化合物の気化ガスの接触による熱分解を行うことができ、加えて、隙間を挿通させることで輻射熱による熱分解も行われる。よって、2種類の熱分解法を組み合わせてPCB気化ガスを熱分解するので、有機ハロゲン化合物の気化ガスを確実に分解処理することができる。
【0089】
また、請求項7に記載の発明によると、分解ガス中の炭素分の多くは、捕捉手段の前段にある乾式トラップにおいてスス(炭素粉)として吸着され、この乾式トラップで捕捉できなかったものは、後段にある湿式トラップにおいて塩化ナトリウムおよび炭素粉として捕捉されるので、有機ハロゲン化合物の分解処理を安全かつ無害に行うことが可能となる。
【0090】
さらに請求項8記載の発明によると、有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質を完全に溶融させて液体状態とするので、含有された有機ハロゲン化合物のすべてを有機ハロゲン化合物の気化ガスとすることができる。そして、発生させた有機ハロゲン化合物の気化ガスが発熱体と接触させられて熱分解されると共に、輻射熱によっても熱分解される。よって、確実に有機ハロゲン化合物が熱分解される。さらに、有機ハロゲン化合物の気化ガスの熱分解ガス中に含まれるハロゲン類や、炭素を安定かつ安全な形態で捕捉するので、装置の外部に、ハロゲン類などが漏洩することなく有機ハロゲン化合物の処理・処分が行える。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置の概略説明図である。
【図2】本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置の気化手段の概略断面図である。
【図3】(a)は本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置の気化手段の上部チャンバの要部拡大図。(b)は本発明の有機ハロゲン化合物分解処理装置に用いる加熱容器の斜視図である。
【図4】(a)は本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置の熱分解処理装置の構成を上流側から見た斜視図である。(b)は本発明の有機ハロゲン化合物の分解処理装置の熱分解処理装置の一部を切り欠いた斜視図である。
【図5】(a)、(b)は、共に本発明の有機ハロゲン化合物分解処理装置の熱分解手段の発熱体の一態様図である。
【図6】(a)、(b)は、共に本発明の有機ハロゲン化合物分解処理装置の熱分解手段の発熱体の第2態様図である。
【図7】(a)、(b)は、共に本発明の有機ハロゲン化合物分解処理装置の熱分解手段の発熱体の第3態様図である。
【符号の説明】
1・・・有機ハロゲン化合物の分解処理装置
2・・・気化手段
3・・・熱分解手段
4・・・捕捉手段
5・・・圧力差発生手段
6・・・減圧手段
P・・・被処理物
10・・下部チャンバ
11・・上部チャンバ
12・・加熱容器
24・・高周波コイル
30・・発熱体
31・・筒状体
32・・分解部
40・・乾式トラップ
41・・湿式トラップ
42・・真空ポンプ
43・・フィルター
44・・フィン
45・・バタフライバルブ
46・・真空バルブ
47・・配管
48・・冷却管
Claims (6)
- 有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質を溶融処理して、前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを発生させる気化手段と、
前記気化手段において発生させた前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを発熱体と接触させて熱分解し、分解ガスとする熱分解手段と、
前記熱分解手段において得られた前記分解ガス中の分解生成物を捕捉する捕捉手段と、
前記気化手段、熱分解手段および捕捉手段内に減圧雰囲気を形成すると共に、前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを前記熱分解手段に導くと共に、当該熱分解手段内で分解されてなる分解ガスを前記捕捉手段に導く減圧手段とを備え、
前記熱分解手段の発熱体は、
前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを導入させる筒状体と、
円錐台形状を有しており、前記筒状体の上流から下流に向かって、その外周面と前記筒状体の内壁面との間に形成される流路断面積が小さくなる向きで、前記筒状体内に設けられた分解部と、
前記分解部を、前記筒状体に保持する保持材とを備える
ことを特徴とする有機ハロゲン化合物の分解処理装置。 - 有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質を溶融処理して、前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを発生させる気化手段と、
前記気化手段において発生させた前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを発熱体と接触させて熱分解し、分解ガスとする熱分解手段と、
前記熱分解手段において得られた前記分解ガス中の分解生成物を捕捉する捕捉手段と、
前記気化手段、熱分解手段および捕捉手段内に減圧雰囲気を形成すると共に、前記有機ハロゲン化合物の気化ガスを前記熱分解手段に導くと共に、当該熱分解手段内で分解されてなる分解ガスを前記捕捉手段に導く減圧手段とを備え、
前記発熱体は、
外周面上に孔を有し、下流側が閉鎖された円管と
当該円管を収容し、外周面上にスリットを有する円筒とを備え、
前記円管の上流側から前記有機ハロゲン化合物の気化ガスが導入され、
この有機ハロゲン化合物の気化ガスを前記孔から排出させ、
さらに、前記スリットから排出させるように構成した
ことを特徴とする有機ハロゲン化合物の分解処理装置。 - 前記気化手段、熱分解手段、および捕捉手段を一つの閉鎖系とし、当該閉鎖系に含まれる前記捕捉手段を構成する配管の一部を隔離して隔離部を形成し、この隔離部を冷却して、前記閉鎖系内の隔離部と非隔離部との間に圧力差を発生させる圧力差発生手段を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機ハロゲン化合物の分解処理装置。
- 前記気化手段は、高周波誘導加熱により有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質を加熱して溶融させる高周波誘導加熱手段を備えた
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れか一項に記載の有機ハロゲン化合物の分解処理装置。 - 前記気化手段に、有機ハロゲン化合物および/または有機ハロゲン化合物含有物質に含まれる低沸点成分を分離回収する回収手段を備えた
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れか一項に記載の有機ハ
ロゲン化合物の分解処理装置。 - 前記捕捉手段は、
前記有機ハロゲン化合物の気化ガスの熱分解より生じた分解ガス中の分解生成
物を吸着させて捕捉する乾式トラップおよび/または熱分解生成物に含まれるハ
ロゲン類をアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩として捕捉する湿式トラッ
プを備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れか一項に記載の有機
ハロゲン化合物の分解処理装置。
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