JP3717649B2 - 押し花密封品 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、押し花密封品に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、樹脂に密封された自然な色合いと形状の乾燥押し花が、住宅やオフィス等の装飾品として、プラスチックやガラス、セラミックス、紙、金属等からなる家具、窓、壁、ボード、鏡、ドア、パーティション、テーブル、カウンター、電気・電子機器、ケース、文具、その他日用品や日用備品等の表面に自在に貼着され、その取り外しや交換も容易な、新しい押し花密封品に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
従来より、乾燥した押し花を樹脂によってラミネートしたシートやシール、あるいはカード等が数多く提案されている。また、これらのラミネート品を電報カバー紙、プラスチック板、あるいは木質板や、ガラス、金属板等に貼着一体化させた製品も知られている。
【0003】
だが、これら従来の押し花品については、これまでのところ、高級感があり、しかもより汎用的な性格を持つ装飾品としてはほとんど考慮されてこなかった。たとえば壁面や窓、ドア、鏡、家具等の表面に対して使用し、随時に、その配設位置を変化させたり、別種の押し花品に交換したりすることや、さらには、表面の汚れを取るために水洗い等の洗浄可能とすること、再利用のために、押し花の周囲近傍を切り取って利用可能とすること等は考慮されてこなかった。
【0004】
そこで、この出願の発明は、従来の乾燥押し花装飾品について以上のとおりの課題を解決し、より一層高級感のある装飾品としてその利用態様の汎用性を有し、切り取りによる再利用、さらには水洗い等の洗浄も可能な、新しい押し花密封品を提供することを課題としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、一方の面が吸盤吸着機能を持つ基板層の他方の面に乾燥された押し花品が溶融樹脂により密封されたシート状密封層が、積層一体化されている押し花密封品であって、シート状密封層は、溶融性多孔質樹脂フィルムが真空減圧下に加熱加圧され、溶融した樹脂が押し花品に密着してこれを密封したものであるとともに、溶融した樹脂により基板層に固着されている押し花密封品を提供する。
また、この出願の発明は、第2には、溶融性多孔質樹脂フィルムは、3次元の多孔連通構造を有している上記の押し花密封品を、また、第3には、溶融性多孔質樹脂フィルムは、平均孔径が1.0mm以下である上記の押し花密封品を、第4には、溶融性多孔質樹脂フィルムは、110℃以下で溶融する上記の押し花密封品を、また、第5には、溶融性多孔質樹脂フィルムの溶融により押し花品が密着密封されているシート状密封層の厚みは、4000μm以下である上記の押し花密封品を、第6には、シート状密封層は、真空乾燥された押し花品を実質的にその周辺に気泡がないように密封している上記の押し花密封品を、第7には、シート状密封層の上部には透明フィルム表面層を有する上記の押し花密封品を提供する。
【0006】
そして、この出願の発明は、第8には、透明フィルム表面層は、多層積層フィルムである上記の押し花密封品を、第9には、透明フィルム表面層は、最外表面層としてハードコート層またはソフトコート層を有している上記の押し花密封品を、また、第10には、透明フィルム表面層は、最外表面に微細凹部による吸盤吸着機能を有している上記押し花密封品を、第11には、上記の押し花密封品であって、基板層とシート状密封層とは溶融性樹脂材により溶着されている押し花密封品を、また、第12には、基板層は、樹脂、紙、木質材、または無機質材、もしくはそれらの複合材からなる基板と、この基板の一方の面に設けられた吸盤吸着機能層とからなる上記の押し花密封品を提供する。
【0007】
さらに、この出願の発明は、第13には、吸盤吸着機能層は、表面に微細凹部を有する発泡樹脂層である上記の押し花密封品を、第14には、吸盤吸着機能層は、表面に平面網目状の吸盤樹脂層である上記の押し花密封品を提供する。
【0008】
【発明の実施の形態】
この出願の発明は、以上のとおりの特徴を持つものであるが、以下、図面に沿って、さらに詳しくこの発明の実施の形態について説明する。
まず、添付した図面の図1は、この発明の形態の一例を示したものである。押し花密封品としての断面斜視図である。
【0009】
たとえばまず図1に例示したように、裏面において吸盤吸着機能を持つ基板層(1)の表面には、乾燥押し花(2)のシート状密封層(3)が一体化配設されている。基板層(1)は、吸盤吸着機能層(11)を設けた基板(12)により構成されている。
ここで、基板(12)は、樹脂をはじめ、紙や木質材、あるいはガラスや金属等の無機質材、もしくはこれらの二種以上のものの複合材等の各種のものであってよい。また、吸盤吸着機能層(11)については、たとえば表面に多数の微細凹部を有する発泡樹脂層として形成することができる。あるいはまた、この吸盤吸着機能層(1)は、スクリーン印刷法による樹脂の肉盛りやマスク材を用いた樹脂層のエッチング法等により多数の吸盤や微細凹部が所定の平面配置で設けられた樹脂層として形成することができる。
【0010】
いずれの場合でも、吸盤吸着機能層(11)には、接着剤や粘着剤は一切使用されていない。表面の形状と表面の構造のみによって、わずかの押圧にともなう微細負圧域の形成にともなう、いわゆる吸盤としての吸着という機能で、被着表面に貼着される。この吸盤吸着機能は特徴のあるものである。
固体被着表面への貼着については、従来よりマグネットシート品によるもの、あるいは粘着層を持った粘着シート品によるものがよく知られている。
【0011】
マグネットシート品は、一般的には、磁性体粉末を樹脂バインダーによって塩化ビニル樹脂等の樹脂シート上に固着一体化し、次いでこれを着磁させたものである。また、後者の粘着シート品は、樹脂シートに、粘着剤層を設けたものである。
マグネットシート品では、その片面に文字や記号、図案、動物、人物、風景、草花等のキャラクターがカラー印刷層等として設けられ、これらがアクセサリーやインテリア用品、文具、教育用品等として活用されてきている。
【0012】
しかしながら、従来のマグネットシート品では、高級感のあるインテリア用品、家具等に対して貼着して使用するには、前記樹脂シート上の印刷層の色合いや図柄に限界があり、装飾品としては満足できるものではなかった。
また、マグネットシート品は、金属や磁性材の表面でなければ貼着できないという制限があった。一方、粘着剤層を持つ粘着シート品は、テープやラベル等として利用されてきており、被貼着対象の種類に制限がなく、任意のものであってよいという特長を持つものの、貼着した後に剥離すると粘着剤層の一部が被貼着面に粘着して残り、汚れを生じさせるばかりか、剥離したシート品の貼着再利用が難しくなるという欠点があった。
【0013】
これに対し、この発明において利用する微細凹部による吸盤吸着機能は、マグネットシート品のように被貼着対象を選ばずに、任意の素材、材料からなる表面にも貼着でき、しかも粘着性シート品のように粘着剤層の残存と繰り返しての貼着と剥離が難しいという問題もない。
この発明においては、このような優れた特長のある吸盤吸着機能を利用して、これまでに全く知られていない乾燥押し花密封品を提供するのである。
【0014】
吸盤吸着機能層(11)については、これを微細凹部を持つ発泡樹脂層として形成する場合には、ポリウレタン、SBR樹脂、NBR樹脂、PVC樹脂、シリコーン樹脂、ポリブタジェン、ポリエチレン、アクリル樹脂等の発泡により実現することができる。
たとえば、これら合成樹脂のエマルジョンを機械発泡させ、これを基板(12)に塗布して発泡樹脂層からなる吸盤吸着機能層(11)を形成することができる。この際の基板(12)は各種のものでよい。たとえば、PVC、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ゴム、アクリル樹脂、メタクリル樹脂等のシートやフィルム、あるいはガラス、アルミニウムシート、紙、木板、さらには、合成樹脂の不織布や織布であってよい。
【0015】
吸盤吸着機能層(11)における微細凹部としての吸盤は、たとえばその径としては平均で1〜50μmm程度、最大径が30〜200μmm程度、吸盤の深さは平均で1〜20μmm程度とすることが考慮される。
吸盤吸着機能層(11)の全面に占める微細凹部の開孔面積としては、15〜60%程度とすることが考慮される。そして、微細凹部は吸盤吸着機能層(11)の表面から三次元的に連通する多数の微細な小孔であることがより適当でもある。また、粘着力は、0.8kg/cm幅以上であることを目安とすることができる。
【0016】
吸盤吸着機能層(11)は、グラビア印刷やスクリーン印刷の手法により基板(12)上に肉盛りした吸盤層として形成することもできる。複数の吸盤が肉盛り形成されることになる。この時、外縁、堤状の肉盛りがなされることになる。この場合には、前記のような基板(12)に対し、印刷インクとした合成樹脂を用いて印刷し、たとえば網目状の吸盤層を形成する。吸盤の形状は、たとえば円形、だ円、矩形、亀甲形等の任意であってよい。印刷インクとして吸盤層を形成する合成樹脂としては、たとえばPVC樹脂、シリコン樹脂、酢酸ビニル樹脂、ウレタン樹脂、メタアクリル樹脂等が代表的なものとしてある。これらはUV硬化型、熱硬化型、乾燥硬化型のいずれのタイプの合成樹脂であってもよい。
【0017】
基板(12)と吸盤吸着機能層(11)との間には接着層を介在させてもよい。たとえばエポキシ樹脂やアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ゴム、酢酸ビニル樹脂等である。これらは、基板(12)に対し、あらかじめ印刷法により、あるいはスプレー法やディップ法により塗布しておくことができる。
印刷により吸盤層を形成する場合には、肉盛りの膜厚は、たとえば20〜200μm程度が考慮される。
【0018】
図1の例に沿ってさらに説明すると、前記のとおり、基板層(1)には、乾燥押し花(2)のシート状密封層が一体化されるが、この場合、乾燥押し花(2)は、たとえばホットメルト材の溶融固着により密封固定されてシート状密封層(3)を構成する。シート状密封層(3)は、最外層として、カバーフィルム層(30)を有してもよい。
【0019】
図2は、より詳しくその構成を例示したものであって、前記の基板層(1)の上には、溶融性樹脂フィルム(31)、乾燥押し花(2)、溶融性樹脂フィルム(32)およびカバーフィルム(30)が載置され、減圧雰囲気下に加熱加圧して溶融性樹脂フィルム(31)(32)を溶融させ、乾燥押し花(2)を溶融密封して前記のとおりの乾燥押し花のシート状密封層(3)を形成している。このシート状密封層(3)は、基板層(1)およびカバーフィルム層(30)に一体化してもいる。
【0020】
なお、溶融性樹脂材としての溶融性樹脂フィルム(31)(32)を用いて溶融固着層を形成することに代えて、接着剤層を持つ樹脂フィルムにより袋状とした空隙内に押し花(2)を密封するようにしてもよいし、あるいは、接着剤層を持つラミネート樹脂フィルムにより押し花(2)をラミネート密封するようにしてもよい。
【0021】
ただ、これらの袋状フィルム被覆部内へ押し花品を装入したものや、押し花ラミネート品は、押し花の周囲に空気層を残存させやすく、しかも完全にも外部の空気や湿気との接触を遮断できない懸念があるため、押し花の色彩や形の劣化が進み、長期にわたって品質を保持するのが難しくなる。また、ラミネート品等は実際には、押し花の周囲の溶着シール部のみにおいて封止することになるため、このシール部内方の押し花の周囲近傍を切り取って再利用することは必ずしも現実的でない。シール状態が失われて押し花が直接外気と接触する状態に置かれやすく、その劣化が急速に進むからである。ただ、目的、用途によっては前記のラミネートによる押し花密封品等でも役割を果すことになる。
【0022】
一方、溶融性樹脂材によるものは、空気、湿気の遮断性に優れ、美しい色彩と形状とを長期にわたって保持することのでき、新しい乾燥押し花密封品を提供する。このものは、制御された減圧雰囲気下において乾燥押し花を樹脂の溶融により密封封入したものであって、高い品質を持つものとして注目される。
ホットメルト材は、前記のように溶融性樹脂フィルム(31)(32)として用いるのが取扱い性や、密封性の点でより好ましいが、パウダー状のものとして用いてもよい。たとえば図2において、溶融性樹脂フィルム(31)(32)のいずれか一方、もしくは両方に代わって、パウダー状の溶融性樹脂材を用いることもできる。
【0023】
この発明においては、乾燥押し花の密封性も良好とするためには、溶融性樹脂材としては乾燥押し花との密着性と脱気泡性に優れたものとして、熱可塑性のポリオレフィンや、ポリビニルアルコール系、ポリ酢酸ビニル系、ポリビニルエーテル系等のセルロース親和性に優れ、乾燥押し花の表面組織に密着し、減圧下での脱気性が良いものが好適に用いられる。
【0024】
なお、前記のカバーフィルム層(30)は、耐熱性のあるフィルムとして適宜なものを用いてもよいし、後加工として、基板層(1)に一体化されたシート状密封層(3)の最外表面に、塗布や、噴霧して硬化層を形成するようにしてもよい。この場合には、より耐光性に優れたアクリル系、メタクリル系等の樹脂を用いるようにしてもよい。
【0025】
カバーフィルム層(30)は硬質のハードコート層でもよいし、よりソフトなウレタン系、アクリル系、フッ素系等の樹脂のソフトコート層として構成されてもよい。
また、カバーフィルム層には、前記と同様の基板層(1)を持つように構成してもよい。この場合には、シート状密封層(3)が、基板層(1)により挾まれた形態となる。
【0026】
図3は、この発明の別の例を示している。この図3の例では、基板層(1)に対して、乾燥押し花を溶融性樹脂材の溶融固着により密封したシート状密封層(3)は、この密封層のための基板(33)を備え、このシート基板(33)の裏面を両面粘着テープ材(4)等の粘着材、接着材によって前記基板層(1)に貼着一体化している。
【0027】
また、図4に例示したように、溶融性樹脂材を用いたこの発明の押し花密封品の場合には、乾燥押し花(2)が、前記の溶融性樹脂材の溶融固着としてのシート状密封層(3)に密封されたままの状態で、その周囲近傍(A)まで、基板層(1)とシート状密封層(3)とがハサミ(5)等により一体として切り離し可能とされているものがこのましいものの一つとして挙げられる。
【0028】
この例の場合には、たとえばシート状の製品に複数の押し花(2A)(2B)・・・が密封されるものとし、適宜に、所望の押し花(2A)の周囲近傍(A)を切り離して各種の被貼着表面に、装飾品として貼着し、さらにこのものを適宜に他の切り離し装飾品に取り替えたり、あるいは貼着部位を変更することが可能となる。
【0029】
この発明の押し花密封品は、基板層(1)の微細凹部による吸盤吸着機能による貼着によって、着脱自在に、所望の位置に配設することができ、その汎用的性格が実現されるとともに、図4の例のように切り離し可能とすることで、さらに利便性、そして家具、各種インテリア用品等に対しての装飾効果が高まることになる。
【0030】
切り離し可能とするためには、前記基板層(1)そのものが切断容易であることになる。その意味では、基板層(1)を構成する前記の基板(12)は、柔軟性があって、切断可能とされる樹脂シートであることが適当となる。
また、シート状密封層(3)については、従来のラミネート品とは相違して、溶融性樹脂材により乾燥押し花をその表面部位まで緻密に密封することで、押し花(2)のごく近傍の位置で切断したとしても密封性が失われることはない。このようなことは従来の樹脂ラミネート品では全く実現されなかったことである。
【0031】
さらに、切断可能としたこの発明の押し花密封品では、所望範囲の切り離しにより再利用が可能となる。たとえばカードやボード、あるいはマットや名札シートとして使用したものであっても、所望の押し花の周囲を所望の平面形状、たとえば円形、多角形、さらには各種異形形状に切り出して、貼着による装飾品として再利用できることになる。
【0032】
基板層(1)を構成する基板(12)には、木質板やセラミック、ガラス等の硬質板を用いることもできる。この場合には、以上のような切断再利用は難しくなるにしても、貼着および剥離自在な新しい乾燥押し花品となる。
基板(12)が切断容易である場合、あるいはそうでない場合でも、この発明において溶融性樹脂材等により緻密に押し花を密封することで、押し花密封品の表面が汚れた場合の水洗い等の洗浄も可能となる。
【0033】
さらに具体的に例示説明すると、図1に示したシート状密封層(3)のための溶融性樹脂材の溶着による溶着固着については、溶融性の多孔質樹脂フィルムを用いることによってさらに効果的となる。
溶融性多孔質樹脂フィルムは、これを構成する微細孔によって、真空減圧下に溶融される際に、乾燥押し花(2)の周囲とその表面の空気、湿気を、この微細孔を通じて外部へと排出し、しかも押し花(2)に密着することを可能としている。より具体的には、溶融性多孔質樹脂フィルムの配設部位の全体を通じて効果的に空気、湿気を排出させるためには、3次元の多孔連通構造を持つものであることが好ましい。そして、その種類によって若干の差異はあるものの、乾燥した押し花の色合い、形状、組織を破壊することなしに埋め込むことを可能とするためには、適度な溶融溶着性をも備えていることが必要である。
【0034】
このような観点からは、溶融性多孔質樹脂フィルムは、3次元の微細孔連通構造を持ち、かつ、その平均孔径は、1.5mm以下、たとえば0.05〜1.5mm、より好ましくは1.0mm以下、たとえば0.1〜1.0mm程度であって、ASTMふる目規格としては18〜140メッシュに相当し、Tyler メッシュで16〜150に相当し、空隙体積率としては85%以下、たとえば30〜80%程度で、かつ、120℃以下、より好ましくは110℃以下、さらには60〜85℃程度の温度において溶融溶着するものが適当である。前記の溶融固着層(31)としての図6に示した中間層(30)の厚みは、4000μ以下、より一般的には100〜1000μm程度が適当であることから、溶融性多孔質樹脂フィルムは、その厚みが150〜1500μm程度のものを一枚もしくは複数枚用いるのが適当である。
【0035】
平均粒径は、このフィルムの厚みとも関係するが、一般的には、平均孔径が0.05mm未満の場合にはフィルムそのものの入手が容易でないばかりか、真空減圧による空気、湿気の除去効率は低くなる傾向にある。また、1.5mmを超えて大きくなると、溶融した樹脂の押し花品への密着度、すなわち埋め込みのための充填度が不足する傾向が見られる。このことから、厚み150〜1500μm程度の溶融性多孔質樹脂フィルムとしては、溶融温度が、好ましくは110℃、さらには60〜85℃程度であって、平均孔径が0.05〜1.5mm、より好ましくは1.0mm以下、0.1〜1.0mmを目安とするのが適当である。
【0036】
以上のような溶融性多孔質樹脂フィルムは、素材となる樹脂の微粉末の部分溶融体やその厚粉体として製造されたもの、発泡体として製造されたもの、あるいは、フィルムの光や、プラズマ、放射線照射により処理されて製造されたもの等として入手することができる。そして素材としての樹脂については、押し花品(2)との密着親和性や、溶融温度、溶融時のフロー性、そして多孔質フィルムの製造性等を考慮して選択されるのであって、たとえば、ポリエチレン、エチレン・エチルアクリレートコポリマー、エチレン・酢酸ビニルコポリマー、エチレン・アクリル酸コポリマー、エチレン・メタクリル酸コポリマー等々が適当なものとして挙げられる。
【0037】
エチレン・酢酸ビニルコポリマーは好適なものの一つであるが、その部分ケン化物、たとえば約10当量%以下のケン化物は押し花品との親和性において良好でもある。
これらの溶融性多孔質樹脂フィルム(なお、フィルムの用語については、シートと呼んでも実質的な差異はない)によって、押し花品(2)を埋め込んで密封することでシート状密封層(3)を形成するには、たとえば図5において、基板層(1)上に乾燥押し花(2)を載置し、その上に溶融性多孔質樹脂フィルムと、透明フィルム表面層(6)を形成する非溶融性の樹脂フィルムを順次置いて、高真空減圧下で加熱加圧するか、あるいは基板層(1)の上にまず溶融性多孔質樹脂フィルムを置き、その上に押し花(2)を置き、さらに再度溶融性多孔質樹脂フィルムを置いて、上記と同様にして非溶融性の透明樹脂フィルムを置いた後に高真空減圧下に加熱加圧するのが適当である。より好ましくは、後者の手段を採用するのがよい。
【0038】
なお、この際には、押し花(2)の表面やその近接周面には、溶融性多孔質樹脂フィルムと同種の樹脂の微粉末をあらかじめ散布して加熱加圧してもよい。より厚みのある押し花(2)の場合には、この微粉末の散布は有効でもある。この場合の粒径としては0.5mm以下、0.05mm以上のものであることが適当である。
【0039】
また、溶融性多孔質樹脂フィルム、さらには上記の微粉末は、溶融硬化してシート状密封層(3)を形成するものとしては透明性の高いものとするのが適当である。これは、密封した押し花(2)がその美しい自然の色をより鮮明に見せるためである。もちろん、所望によっては、色素等の添加によって、シート状密封層(3)が特有の色合いを持つものとし、押し花品(2)とともに相乗的にその美しさを発現するようにしてもよい。この場合にも透明度が高いことが適当であることは言うまでもない。
【0040】
たとえば以上の構成において、この出願の発明においては、前記のとおりの溶融性多孔質樹脂シートを用いることで、押し花(2)の密封に際して、真空減圧下に、押し花(2)の周囲、その表面近傍に空気溜りや気泡を残すことなしにこれらを効果的に外部に排出することができ、溶融した樹脂を押し花(2)のすべての表面にくまなく密着させてこれを埋め込み密封することを可能としている。このため、残存する空気中の酸素や、湿気によって押し花(2)が劣化して変退色することを長期にわたって防止し、自然の鮮明な色合いを保つことを可能とする。
【0041】
そして、このような埋め込み密封により、たとえ外力によって透明フィルム表面層(6)からの損傷があっても、押し花(2)にその傷が達しない限りは、密封性は破られることはなく、押し花品の劣化は生じない。また、前記の溶融性多孔質樹脂フィルムの使用によって、大きな平面積の押し花密封品を得ることも可能となる。真空減圧は、全平面域にわたってすみやかに空気を排出することになるからである。このことは、種類や厚みの異なる複数の押し花(2)を同一平面上に配置した場合でも同様であって、壁面ボード、間仕切り等の大きな面積で、装飾性に優れた押し花物品の提供も可能となる。
【0042】
さらに、この発明によって、前記したように切り取りによる再利用も可能となる。押し花(2)に接しない限り、所望の範囲を切り取って、別途利用することもできるからである。たとえば、メッセージカードや電報台紙にこの発明の押し花密封品を構成する場合、これを切り出して再利用できることになる。これは、押し花(2)が、くまなく溶融した樹脂に密着されてシート状密封層(3)を形成しているからである。
【0043】
押し花(2)については、真空乾燥した各種の草花であってよく、コスモス、パンジー、カスミ草、バラ、麦等の各種の花、葉、茎、実の適当な組合わせであってよい。
図5に示した透明フィルム表面層(6)については、シート状密封層(3)を形成する加熱加圧時にも溶融することのないものであって、透明性が高くしかもその最外表面は、外力によっても損傷、摩耗しにくく、光や温度によって劣化しないものであることが好ましい。
【0044】
その厚みについては特に限定はないが、製造コストや、透明度等を考慮して、通常は300μ以下、40〜300μm程度とするのが適当である。そして、この透明フィルム表面層(6)については、多層構造としてもよく、シート状密封層(3)に接する部分には、密着性が良いものとし、最外表面には、硬度があって傷が付きにくく、光、熱等に対して耐性の大きなハードコート層が配設されるようにしてもよい。たとえば透明フィルムのシート状密封層(3)側に接着層、特に熱接着層(ヒートシール層)を設け、最外層にハードコート層を設けることもできる。
【0045】
透明フィルム表面層(6)としては、透明性、耐熱性等の良好なものとしてポリエステル、ポリカーボネート、ポリプロピレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)等のフィルムや、いわゆるソフト系の透明フィルムとしてのウレタン、アクリル、フッ素系等のフィルムであって表面に傷がつきにくいもの等を用いることができる。熱接着層としては、一般的には、60〜100℃程度の、前記の加熱加圧下において接着性を示すフィルムを用いることが考慮される。たとえばこのようなフィルムとしては、ポリエチレン、エチレン・エチルアクリレートコポリマー、エチレン・酢酸ビニルコポリマー等が例示される。また、ハードコート層としては、酸化ケイ素膜等の無機膜、あるいは、アクリル系樹脂、有機ケイ素系樹脂、硬質ウレタン系樹脂等が例示される。そして、これらのハードコート層には、表面の耐摩耗性とともに、反射防止性を付与するために、シリカ微粒子や、TiO2 ,ZrO2 ,SnO2 等の微粒子を分散させておいてもよい。また、ITO(インジウム・スズオキサイド)等の導電性微粒子を分散させておくことで、表面に静電気によるほこりが付着しにくいようにしてもよい。
【0046】
反射防止性や帯電防止性を付与することで、密封された押し花(2)は、より鮮明にその色合いを発現することになる。
接着性のフィルムは、その厚みは、10〜200μm程度とし、ハードコート層は、1〜4μm程度とするのが適当である。
もちろん、接着性フィルムやハードコート層等は必ずしも必要としない。押し花密封品の用途に応じて透明フィルム表面層(5)の構成が定められることになる。
【0047】
図5に示した基板層(1)については、シート状密封層(3)との接着性をさらに良好とするために、前記のような接着層を設けてもよいし、あるいはプラズマや、エッチング液により粗面化し、アンカー効果を付与しておいてもよい。
基板層(1)を図1のように吸盤吸着機能層(11)と基板(12)により構成する場合には、基板(12)は、樹脂層の積層体であってよい。基板層(1)を形成する際に、この積層体を構成してもよいし、あるいは、形成後に、さらに樹脂層を積層するようにしてもよい。樹脂シートの積層については、たとえば吸盤吸着層(11)の上に、順次に、
Figure 0003717649
のように積層したものであってよい。
【0048】
ポリプロピレン、ポリエチレン等の表面に前記のようにプラズマ、コロナ等の処理を施してアンカー効果を増大させてもよい。
そして、フラットな基板(12)を用いる場合には、この発明によって、反り(カール)やねじれが生じない構成も提供される。また、密封された押し花(2)の色合いをより鮮明にするための背景として、基板層(1)の色合いをコントロールすることもできる。
【0049】
すなわち、この発明では、比較的、形状保持性に優れた塩化ビニル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリプロピレン等のフィルム(シート)を複数枚積層一体化することで、前記の加熱加圧にともなう基板層(1)の反りやねじれを効果的に抑止することができる。また、積層構造の中間層、最外層、あるいは両者にカラー印刷層やカラー練込み層を設けることで、基板による背景効果をより大きなものとすることができる。
【0050】
たとえば基板には、白色フィルム(シート)を用い、接着層としての熱接着層等を介してカラー印刷層とともに積層する。
カラー印刷層は、白色フィルムの地の背景色に対して押し花(2)の色合いをそのまま浮き出たせる場合には必ずしも必要でないが、背景色を変更する場合や、背景をデザイン地とする場合に設けられることになる。
【0051】
また、シート状密封層(3)の色合いが若干くすんでいる場合に、クリーム色のカラー印刷層やカラー練込み層を設けることで、押し花品の色合いを鮮明にすることも可能となる。
なお、接着層としては、前記と同様のものが考慮される。そして、基板(12)を構成する複数枚のフィルム(シート)の場合には、その厚みは、一般的には20〜200μm程度とし、接着層については10〜100μm程度とするのが適当である。
【0052】
基板層(1)についてはその厚みに制限はないが、実用上の観点からは、0.1〜10mm程度がたとえば考慮される。基板(12)として樹脂シートを用いる場合については、全体として、たとえば2000μm以下、さらには100〜1000μm程度とすることが考慮される。
なお、カラー印刷層、カラー練込み層については、適当な着色インク、顔料、色素が用いられ、さらには金属による粉末や、その固着、あるいは蒸着したデザインとしてもよい。
【0053】
以下、実施例を示し、さらに詳しくこの発明について説明する。
【0054】
【実施例】
実施例1
真空減圧圧着装置を用い、減圧吸引のための開孔を持つ支持台上で、四周に配置したゴムに囲まれた平面域(300×300mm)に、綿布を置き、次いで基板層を置いた。
【0055】
この基板層は、上層から下層に次の構成と厚みのものとした。
ポリエチレン(PE):20μm
ポリプロピレン(PP):30μm
白色塩化ビニル樹脂(PVC):1.0mm
発泡樹脂層:1.0mm
この場合、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびPVCについてはあらかじめ積層し、次いで発泡樹脂層をPVCの片面に形成した。発泡樹脂層は、ポリウレタン(固形分45%)100重量部に起泡剤として脂肪酸塩素活性剤10重量部、架橋剤としての水溶性エポキシ3重量部を混合し、発泡機で機械的に泡立てたものをドクターナイフにより前記PVC面に塗布し、次いで120〜165℃で熱処理して発泡倍率約3倍の塗膜として得た。
【0056】
この発泡樹脂層は、全面における開孔面積が約30%であり、微細孔凹部の平均径は25μmm、最大径は60μmm、粘着力は1.1kg/cm幅であった。
この発泡樹脂層を吸盤吸着機能層とした。
以上の基板層の上には、溶融温度75℃、平均孔径が約0.2mmで、厚み0.6mm(ASTM 70メッシュ相当)のエチレン・酢酸ビニルコポリマーからなる溶融性多孔質樹脂フィルム、パンジーの真空乾燥押し花、上記同様の溶融性多孔質樹脂フィルム、並びに厚み150μmPETフィルムからなる透明フィルムを順次重ね、約80℃の温度において、760mmHgの絶対真空度に限りなく近い状態に真空減圧して上方より約1atm程度に押圧した。
【0057】
得られた押し花密封品は、図5において、シート状密封層800μm、透明フィルム表面層150μmの厚みを有し、シート状密封層には、押し花が溶融した樹脂に密着されて密封されており、空気溜り、気泡は全く認められなかった。
また、基板層については反りやねじれが認められなかった。
押し花は、6ケ月以上の長期に渡って自然の色合いを保持し、その色合いは鮮明で美しいものであった。
【0058】
吸盤吸着機能を持った基板層の貼着は、上部からのわずかな手による押圧で可能とされ、確実に貼着されるとともに、手による剥離も容易とされた。
ガラス窓、テーブル、ボード、ドア、家具等の表面に貼着と剥離が容易な押し花密封装飾品が得られた。
実施例2
実施例1において、溶融性多孔質樹脂シートとして、5当量%部分ケン化物を用い、平均孔径0.5mmで、厚み1.3mm(ASTM 35メッシュ相当)のものを用い、厚みが約1000μmのシート状密封層を形成した。
【0059】
実施例1と同様に優れた品質の押し花密封品を得た。
また、上記いずれの実施例においても、所要の形にハサミで切り取っても密封性が破壊されずに、貼着可能な装飾品として再利用も可能であった。
もちろんこの発明は以上の例によって何ら限定されるものではない。その細部について様々な態様が可能である。
【0060】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、密封された押し花が、吸盤吸着機能による貼着によって、着脱自在に、その貼着位置の選択、変更、押し花の交換等の自由度が大きなものとされ、汎用性は大きく向上する。
切り離し可能のものについては、さらに以上の効果は大きなものとなり、また、使用済のものであっても再利用が可能となる。洗浄も可能とされることになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一例を示した断面斜視図である。
【図2】図1の例の分解斜視図である。
【図3】別の例を示した分解斜視図である。
【図4】切り離し可能なものの例を示した斜視図である。
【図5】さらに別の例を示した断面図である。
【符号の説明】
1 基板層
11 吸盤吸着機能層
12 基板
2 乾燥押し花
2A,2B 乾燥押し花
3 シート状密封層
31,32 溶融性樹脂フィルム
30 カバーフィルム
4 両面粘着テープ材
5 ハサミ
6 透明フィルム表面層

Claims (14)

  1. 一方の面が吸盤吸着機能を持つ基板層の他方の面に乾燥された押し花品が溶融樹脂により密封されたシート状密封層が積層一体化されている押し花密封品であって、シート状密封層は、溶融性多孔質樹脂フィルムが真空減圧下に加熱加圧され、溶融した樹脂が押し花品に密着してこれを密封したものであるとともに、溶融した樹脂により基板層に固着されていることを特徴とする押し花密封品。
  2. 溶融性多孔質樹脂フィルムは、3次元の多孔連通構造を有している請求項1の押し花密封品。
  3. 溶融性多孔質樹脂フィルムは、平均孔径が1.0mm以下である請求項1または2の押し花密封品。
  4. 溶融性多孔質樹脂フィルムは、110℃以下で溶融する請求項1ないし3のいずれかの押し花密封品。
  5. 溶融性多孔質樹脂フィルムの溶融により押し花品が密着密封されているシート状密封層の厚みは、4000μm以下である請求項1ないし4のいずれかの押し花密封品。
  6. シート状密封層は、真空乾燥された押し花品を実質的にその周辺に気泡がないように密封している請求項1ないしのいずれかの押し花密封品。
  7. シート状密封層の上部に透明フィルム表面層を有する請求項1ないしのいずれかの押し花密封品。
  8. 透明フィルム表面層は、多層積層フィルムである請求項の押し花密封品。
  9. 透明フィルム表面層は、最外表面層としてハードコート層またはソフトコート層を有している請求項の押し花密封品。
  10. 透明フィルム表面層は、最外表面に微細凹部による吸盤吸着機能を有している請求項7ないし9のいずれかの押し花密封品。
  11. 請求項1ないし10のいずれかの押し花密封品であって、基板層とシート状密封層とは溶融性樹脂材により溶着されている押し花密封品。
  12. 基板層は、樹脂、紙、木質材、または無機質材、もしくはそれらの複合材からなる基板と、この基板の一方の面に設けられた吸盤吸着機能層とからなる請求項1の押し花密封品。
  13. 吸盤吸着機能層は、表面に微細凹部を有する発泡樹脂層である請求項12の押し花密封品。
  14. 吸盤吸着機能層は、表面に平面網目状の吸盤樹脂層である請求項12の押し花密封品。
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