JP3715100B2 - 生分解性を備えたセルロース誘導体混成グラフト化組成物の製造法 - Google Patents

生分解性を備えたセルロース誘導体混成グラフト化組成物の製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はセルロースアセテートを主とするセルロース誘導体の存在下にラクチドを含む環状エステルの2種以上を開環重合して得られる生分解性を備えたグラフト重合体、および該グラフト重合体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
セルロース誘導体の中で価格が低廉で工業生産量が最も多いものはセルロースアセテートであり、写真フィルムのベースポリマー、たばこ用のフィルター等、衣料用繊維等に従来より使われて来ており、近年、それらはアセトンなど溶剤に溶解したのちそれぞれ成形されており、いわゆる湿式加工により賦形されている。数%とマイナーな用途の加工として、セルロースジアセテートに可塑剤を加えた上で、熱可塑的に加工(乾式加工)することも行われて来ている。所謂、プラスチック材料としての加工であり、生分解性高分子材料の場合には殆どの場合、この様な加工が十分可能であることが前提となっている。
【0003】
ところで、現在環境の保全という立場から、プラスチック材料の内、ディスポーザブル用途のものなど少なくとも数%のものは生分解性であるべきであると考えられる様になって来ている。そこで微生物産製の脂肪族ポリエステル、合成高分子としてのもの、さらには天然高分子由来のものといった少なくとも三つの分野において、それぞれに生分解性プラスチック材料の開発を目的とした検討がこの数年世界的に行われて来ている。
【0004】
しかし、その開発状況は未だ十分でなく、多くの場合価格的に高価という問題を持ち、実用化にはかなり距離があると考えられ、なお数年の期間をかけて着実に進めるべきとされている。
【0005】
特に、天然高分子由来の生分解性高分子の開発の研究は立ち遅れている。即ち、水に弱いデンプン系の生分解性プラスチック材料を除いて考えると、数年前にキトサンを酢酸水溶液に溶解した上で、セルロースを充填剤として加えるという、必ずしも成形の能率の良くない湿式加工用の材料がまず提案され、引き続いてデンプンをアセチル化した上で低分子量ポリカプロラクトンを可塑剤として用いた材料が検討されて来ているといった程度である。その様な状況下で、1993年、米国のコダックケミカル社の研究所のC.M.Buchananらが、セルロースアセテートについて、置換度2.5までのものは活性汚泥を用いる集積培養で10〜12日、浄化槽浸漬で約10週間の処理で顕著に分解されることを学術誌上で発表した[C.M.Buchanan et al.:J.Appl. Polymer Sci.、47 1709―1719(1993)]。次いで、我が国でも、帝人(株)と大阪市工研の酒井らが、置換度2.3のセルロースアセテートを生分解する微生物としてNeisseria siccaを同定し、また、ダイセル化学工業(株)と大阪市工研の研究者は同様な作用をする微生物としてRizobium melilotiとAlcaligenes xylosoxydansとを見出している。そして、それらの微生物はacetyl esteraseとβ‐glucosidaseを酵素として持っており、前者によってセルロースアセテートの側鎖アセチル基を開裂ケン化させ、生成した酢酸により菌体を増殖し、セルロースアセテートの置換度が1以下になるなど十分小さくなると、後者のβ‐glucosidaseが働いてセルロース鎖を切り、グルコースとした上で、さらに炭酸ガスと水にまで変換するという生分解機構が提案されている。
【0006】
これらのうち、特にBuchananらの論文発表は、セルロースジアセテートの可塑化すなわちプラスチック材料化の検討の気運を醸成し、それによる生分解性プラスチック材料の開発を促している。学術誌上にはセルロースジアセテートと脂肪族ポリエステルの相溶性に関する論文が数多く出る様になり、たとえば示差走査熱量計による測定で両者の相溶が完全なものではないにしろ認められるといった知見が得られている。ただし、その延長線上で成形加工性が高く、物性の優れた複合材料が得られるという域には達していない様である。
【0007】
一方で、企業からも呼応して開発商品の発表という形でセルロースアセテート系の生分解性高分子が提案される様になっている。一つは、1995年9月に新聞報道されたもので、米国のプラネット・ポリマー・テクノロジーズ社(カリフォルニア州)が開発し、三菱商事(株)と日本触媒化学(株)がわが国での販売に係わるものとして、ルナーレという商品名のものが上市された。このものは、セルロースジアセテート77%、トリアセチン23%の組成のもので、成形加工性、力学物性に優れたものであることが知られた。価格が1500円/kgということで、高価格であることが欠点とされた。他の一つは、ルナーレの発表の直後、ダイセル化学工業(株)が新聞発表したもので、セルロースジアセテートを可塑剤として低分子量カプロラクトンにより可塑化したものである。この場合も生分解性の低分子量可塑剤を用いているという点でルナーレと似ているが、価格が500円/kg以下に抑えられるという点が強みとなっている。
【0008】
いずれにしても、酢酸セルロースは熱可塑性が十分でなく、そのまま加熱溶融させようとすると、軟化する前に分解あるいは着色を来す。従って、成形用組成物は可塑剤を加えないと、熱可塑的に加工することは出来ない。このために、熱可塑的加工の前に適当な可塑剤を混合せねばならない。この目的のために種々の可塑剤が使用される。前出の、1993年以降目立って多く学術誌に発表されている脂肪族ポリエステルをブレンドし、ブレンド性、相溶性を検討している諸例は、高分子量可塑剤の添加を検討していると云える。高分子量の可塑剤が使えれば、得られる熱可塑化セルロースアセテートに魅力的な物性を与えうることが低分子量可塑剤を使う場合より、より多く期待出来る。
【0009】
しかし、高分子量可塑剤の添加は低分子量のそれに比べてブレンドに対するエントロピー効果が約1桁小さくなることから、よい組合せを見出すのが極めて困難であることは良く知られている。そんなことから、セルロースアセテートの場合でもおいそれと画期的なものは見いだせず、上市されたものは可塑剤として低分子量のトリアセチンやオリゴカプロラクトンを用いたものとなったといえよう。これらは生分解性プラスチック材料を作り出すことを前提にした可塑剤の選択であるが、従来からもセルロースアセテートの可塑化は低分子量可塑剤が使われて来た。
【0010】
その代表的なものとしては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、ジグリセリンテトラアセテート、σ−トルエンスルホンアミド、ρ−トルエンスルホンアミド、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、さらには上記のトリアセチン、および低分子量カプロラクトンが挙げられる。すなわち、アルキル基の短いフタル酸エステル、グリコール酸誘導体、グリセリン誘導体、リン酸エステルなどであり、セルロースアセテートと相溶しうる可塑剤は限られている。
【0011】
しかも、良くなじませるためには、例えば90℃で6時間ニ−ダ中で撹伴し、一体化を図った後、210℃の混練エクストルーダで溶融ブレンドするといった手法が工業的にも行われるなど、可塑化には時間とエネルギーが多用されている。さらに、低分子量可塑剤を用いる欠点としては、まず、成形物の力学的特性など物性を低下させることが挙げられる外、加工時に熱のために可塑剤がミストとなり成形物の表面をくもらせたり、透明性を悪くしたり、またフィルムなど成形物となった後、可塑剤のブリードが起こるといったことが挙げられる。
【0012】
以上見て来たように、高分子量にせよ低分子量にせよ外部可塑剤を用いてセルロースアセテートの可塑化を問題なく行うことは必ずしも容易でない。そこで考えられる第3の可塑化法はセルロースアセテートの糖鎖の化学修飾ないしグラフト重合による方法である。
【0013】
セルロース誘導体を化学修飾ないしグラフト重合により可塑化しようとする試みはこれまでも幾つか試みられて来た。それらの中で魅力的なものとしては、特開昭59‐86621、特開昭60―188401、特開昭60―212422、特開昭61―37814などにみられるダイセル化学工業(株)の特許がある。そこではセルロースアセテートを主とするセルロース誘導体と開環重合触媒の存在下でε−カプロラクトンを重合させ、セルロース誘導体のグラフト重合体を生成せしめており、透明で可撓性を持った力学特性にも優れた生成物を得ている。その場合の問題点は、反応時間が実施例で見る限り6〜8時間と長い点、反応時に溶剤を用いる場合が多く、溶剤の回収とリサイクルの際に溶剤の逸散をまねきやすいことにある。
【0014】
これらのダイセル化学工業(株)の問題点を解決し、それを乗り越える技法として1997年、ドイツ国のAlbertーLudwigs大学とRhone Poulenc Rhodia社の共同研究の成果が発表された[H Warth et al.,J.Appl.Polymer Sci,64,231‐242(1997)]。そこでは、セルロースアセテート、ソルビトールなど多価アルコール、開環重合触媒(チタン酸テトラブチル)の存在下で、バッチ式ミキサー(IKAVSCバッチ・ミキサー)を用いる210℃、30分の反応によりε−カプロラクトンあるいはグリコリドあるいはラクチドを前二者、すなわちセルロースジアセテートと多価アルコールにグラフト重合させている。その際、ε−カプロラクトン25wt%、多価アルコール25wt%、触媒0.5wt%セルロースジアセテート50wt%という仕込みで反応を行っている。この場合、反応の後、真空留去により残存している揮発性モノマー類またはポリオールを除去している。得られたラクトングラフト化セルロースジアセテートは熱流動性を示す材料に変換されているが、みかけの融点(熱流動温度)は181〜210℃でかなり高温である。
【0015】
しかし、熱分解温度が249〜276℃と測定されており、それらの温度と熱流動温度には十分な差異があるので、プラスチック材料として十分使えるとされている。得られた材料の力学特性は引張強度が14.8〜17.5MPa、引張破壊伸び40〜81%、ヤング率が336〜496MPaと測定されており、工ラストマー的材料、可饒性の大きな材料といえる。なお、多価アルコール種を広く変化させた場合、これらの特性はかなり広く変えられる。熱流動温度は180〜222℃の範囲で変化させ得ており、また引張特性については,強度11.5〜34.6MPa、破壊伸び5〜64%、ヤング率458〜1408MPaの範囲の値が得られている。熱流動温度は先のラクチド種を変えたデータと比べむしろ高温側に振れており、また、引張特性はエラストマーからガラス状ポリマーまで広範囲の物性のものとなって来ている。
【0016】
一方、セルロースジアセテート63.60または57wt%、ε−カプロラクトンをそれぞれ31、30または29wt%、触媒チタン酸テトラブチル0.5wt%および充填剤(リグニンデンプン、セルロース、キチン、PEG、PE(GE/エチルエーテル、工ポキシ化大豆油)5、9または13部の組成のコンパウンドをそれぞれ二軸エクストルーダーを用いて、反応温度を190℃、滞留時間を5分、スクリュー速度を250rpmの条件でリアクティブプロセッシング的に調製する実験も行われ、データが論文中に表示されている。この場合、5分という短い反応操作でε―カプロラクトンがセルロースジアセテートと充填剤の水酸基(キチンの場合水酸基とアセチル化アミノ基)位を介してグラフト重合され、成形しうるコンパウンドが得られているが、コンパウンドの熱流動温度は245℃に達するものがあるなど高温になっている。なお、この場合は残留している揮発性モノマー類の除去は行つていない。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題の一つは、より高能率なセルロースアセテートを主とするセルロース誘導体へのグリコリドやラクチドを含む環状エステルの開環グラフト共重合法および該グラフト体を提供することにある。
【0018】
本発明が解決しようとする課題の一つは、ラクチドとε‐カプロラクトンなどを異なった環状エステル種を組み合わせて、セルロースアセテートを主とするセルロース誘導体に混成グラフト重合する方法および該グラフト体を提供することにある。
【0019】
本発明が解決しようとする課題の一つは、よりプラスチック性、熱可塑性に優れたセルロース誘導体を得るためのε‐カプロラクトンなどラクトン類開環グラフト法とそれにより得られるグラフト体を提供することである。
【0020】
本発明が解決しようとする課題の一つは、セルロースアセテートなどセルロース誘導体と開環重合触媒存在下、環状エステルを混成グラフトさせ、生分解性を備えたプラスチック材料とその製造方法を提供することにある。
【0021】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは本発明が解決しようとする課題のそれぞれについて、その解決のために既発表の文献の内容を詳細に検討し、それらが到達しているレベル以上の知見を得るべく、鋭意研究を重ねた。
【0022】
まず、より高能率な該グラフト反応法を求めるべくこれまでの実績を調べた結果、上記ダイセル化学工業(株)の特許(特開昭59-86621、特開昭60-188401、特開昭60‐212422、特開昭61‐37814)では、少なくとも実施例記載の内容で見る限り、触媒はチタン酸テトラブチルのみを用い、反応温度は140〜160℃、反応時間は6〜20時間といった反応を行い、生成物をアセトンに溶解した上で非溶剤に沈殿、精製したものについてε―カプロラクトングラフトの生起を確かめている。そして例えばグラフト鎖がε−カプロラクトンモノマー1.3〜3.5ないし4〜5単位から構成されているといった知見を得ると共に、生成グラフト化セルロースジアセテートの最適射出成形温度が160〜180℃であるといった知見を得ている。
【0023】
それに対して前出のAlbert‐Ludwigs大学とRhone Poulenc Rhodia社の論文[H,Warth et al.J.Appl.Polymer Sci.64,231‐242(1997)]では、ダイセル化学工業(株)の該特許と同じ触媒を使った上でIKAVISC Batch Mixerを用いて反応温度を210℃と大幅に上げて、反応時間を30分と大幅に下げ、該グラフト反応の高能率化に成功している。それでも、なお、グラフト生成物の熱流動温度という点では180〜222℃とやや高温側にあり、熱可塑化、プラスチック材料化という点では不満を残している。しかも、この場合、多価アルコールを25wt%とε−カプロラクトンと同量使用し、それらがε−カプロラクトンとの反応物となって、外部可塑剤として存在しているという状況の下においてであり、低分子量可塑剤の使用の前出の問題点の存在も考え合わせると、大いに改善すべき状況にあるといえる。
【0024】
そこで、本発明においては、まず、従来の特許実施例あるいは論文実験例で固定して使われていたチタン酸テトラブチルを他の開環重合触媒に変えての検討を行い、オクチル酸スズを触媒に用いることにより、ε−カプロラクトンを含む環状エステルのセルロースアセテートヘのグラフト重合速度が著しく改善されることを明確に知った。本発明のε―カプロラクトンとラクチドのセルロースアセテートヘの混成グラフト重合にも全く同様のことが起こること、またこの場合、ε―カプ口ラクトンとラクチドの反応速度が異なるが、その内容は反応温度の選択で調製でき、場合によっては反転もさせうることを知った。事実、フラスコ反応実験の範囲で反応時間5分のものでも精製後のものとして熱流動するグラフト化セルロースアセテートが得られている。それらの検討を経て、ラクチドとε―カプロラクトンなど異なった環状エステルを組み合わせてセルロース誘導体に混成グラフト共重合する方法およびそれらにより得られる広範な加工性及び物性のグラフト体を提供し得た。すなわち、このフラスコ実験の段階でも生成グラフト化セルロースアセテートは110〜195℃までの熱流動温度を示すものとなっており、従来のε―カプロラクトングラフト化セルロースジアセテートのそれらに比べ格段に低温のものが容易に得られ、かつ広範囲の熱可塑性、プラスチック性を示すものとなっている。
【0025】
引き続いて、HAAKE社製Poly Labo system PTW25エクストルーダーをL/D36で用いるリアクティブプロセシング手法によるセルロースジアセテートヘのラクチドとε‐カプロラクトンのオクチル酸スズによるグラフト重合を検討した。リアクティブプロセシングすなわち連続反応という特性と撹伴混合の高度化による反応の高能率化を図ったわけであるが、これにより反応速度の増大とより低い液比での反応が明確に行い得、生成物は精製して未反応モノマー、ホモオリゴマーを除去したもので、120〜140℃の熱流動温度を示すものが得られ、前出の従来の特許および論文文献に見られる値より格段に低温のものとなっている。
【0026】
他方、得られたグラフト化セルロースジアセテートをシート状に成形した上で、シロアリ食害性および生分解性について調べたが、PPフィルムが変化を受けない条件下で、本発明のラクチド/ε―カプロラクトン混成グラフト化セルロースジアセテートは明確な変化を示し、生分解性プラスチック材料であることを呈示した。
【0027】
以上の様に、反応に用いる触媒を最適化し、ラクチドとε―カプロラクトンを適宜の比率でグラフト重合反応に用い、100〜180゜Cまでの反応温度を目的に応じて選択し、さらに二軸エクストルーダ−を用いるリアクティブプロセシングも必要に応じ選択することにより、本発明を完成するに至った。
【0028】
【発明の実施の形態】
本発明は、セルロース誘導体の存在下で、環状エステルの開環重合触媒を加えて、二つ以上の環状エステルを従来よりも高能率に開環重合させることを特徴とする混成グラフト重合体の製造方法及びそれにより得られる熱可塑性ひいては成形加工性に優れ、同時に生分解性を有するグラフト重合体を提供するものである。
【0029】
本発明で用いられるセルロース誘導体としては、分子中に残存水酸基を有するものであれば良く、例えばセルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、および硝酸セルロース等のセルロースエステル類、あるいはエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエーテル類が挙げられる。
【0030】
これらのセルロース誘導体のうち、生分解性でありラクトン類への溶解性が良く、比較的安価で、工業的に入手しやすいことからセルロース脂肪族エステル類を本発明に使用することは好ましく、さらに取り扱い易いことからセルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートが特に好ましい。
【0031】
本発明においては上記のセルロース誘導体より少なくとも一種を選び、使用すればよい。
【0032】
本発明の環状エステルとしては、開環重合し得るものであれば良く、例えばβ―プロピオラクトン、δ‐バレロラクトン、ε―カプロラクトン、α,α−ジメチル−β−プロピオラクトン、β―エチル−δ−バレロラクトン、α―メチル−ε−カプロラクトン、β―メチル−ε−カプロラクトン、γ−メチル−ε―カプロラクトン、3,3,5―トリメチル―ε―カプロラクトンなどラクトン類およびグリコリド、ラクチドといったラクチド類である。とりわけ工業的に入手しやすく、比較的安価でセルロースジアセテートなど脂肪酸セルロースエステルと相溶性の優れたε‐カプロラクトンと他の環状エステルを組み合わせるのが有利である。そのε―カプロラクトンと組み合わせる他の環状エステルとしては、その重合体としての性質がポリカプロラクトンと大きく異なり、しかも相対的に安価なものがよく、それらの意味ではラクチドが最適である。
【0033】
本発明において、セルロース誘導体の存在下で二種以上の環状エステルを開環重合することによって混成グラフト重合体を得るに際して、セルロース誘導体と環状エステルの比率、および異なった環状エステル種間の比率は特に制限ない。しかし、一般に前者についてはセルロース誘導体1〜85重量%で環状エステル15〜99重量%が望ましい。セルロース誘導体の仕込み比率が大きくなると反応系の粘度が著しく高くなり取り扱いにくくなるが、その場合には本発明に含まれるリアクティブプロセシング的取り扱いは効果を発揮する。それでもなお取り扱い難いときには、補助的に第三成分としてセルロースジアセテート及び環状エステルとの相溶性の良い活性水素を持たない有機溶剤、あるいは反応性を有する多価アルコールを加えることによって系の粘度を取り扱いやすい範囲に下げて反応させることも可能である。
【0034】
本発明の重合反応においては、用いる触媒としては、通常環状エステルの開環反応に用いられる触媒、すなわち、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属及びそのアルコキシドなど誘導体;トリエチルアルミニウムで代表されるアルキルアルミニウム及びその誘導体、チタン酸テトラブチルで代表されるアルコキシチタン化合物、オクチル酸スズ、ジブチルスズラウレート等の有機金属化合物;塩化スズなどの金属ハロゲン化物を用いればよい。これらは一般論として、ダイセル化学工業(株)の特開昭59‐8662等に広く記載されている。
【0035】
グラフト重合体を得るための重合温度は、通常環状エステルの開環重合に適用されている温度であり、好ましくは100〜210℃の温度である。
【0036】
また反応時間は、セルロース誘導体と環状エステルの種類及び仕込み比率、また触媒の種類と量、反応温度、さらには反応装置により異なり特に制限はないが、一時間以内で十分である。特に二軸エクストルーダーなどリアクティブプロセシング装置を未反応モノマーの真空留去回収機構付きで用いるなど、合目的にし、グラフト率、重合率に留意せず、熱可塑性付与の効果、すなわちプラスチック材料への変換効果を中心に反応法(グラフト法、製造法)を組み立てる場合には、反応時間を6分以下など極端に短くして目的を達することも可能である。
【0037】
また、本発明のグラフト重合体を得るに際して用いる原料および窒素、反応機等については十分に乾燥させておくことが望ましい。
【0038】
この様にして得られる反応物はグラフト重合体と環状エステルのグラフトしていないセルロース誘導体および環状エステルのホモポリマーが一部含まれ得るが、その際、セルロース誘導体と環状エステルのホモポリマーとの相溶性が、例え、それほど良くなくても、グラフト重合体が仲介役(相溶化剤)となり、環状エステルのホモポリマーの混和性を良くするので、見かけ上均一な樹脂となる。
【0039】
本発明において得られるグラフト化組成物は、後述する実施例からも明らかになるが、105〜195℃の熱流動温度を有する。
【0040】
また、グラフト重合体のみを得て正確なグラフト量、熱可塑性といった特性を測定したいという場合も多いが、その場合には、常法に従って溶剤および非溶剤を用いて分別、精製することにより、グラフト重合体のみを得ることは容易に出来る。直接法でのポリ乳酸の製造などでこの種の精製は工業的にも行いうるものと考えられる様になって来ており、その重要性、実際性は増してきている。すなわち、リアクティブプロセシングの分離工程で、それなりの設備を用意して、未反応モノマーなど揮発性成分のみを除去する精製と、溶剤、非溶剤を用いて触媒の除去を含め精製を行う場合と、コスト的にも必ずしも前者が有利とは言い切れないと云われている。前者に関連する特許文献としては,特開平7ー304859があり、後者に関連するものとしては特開平6‐65360がある。
【0041】
環状エステルを付加することによる脂肪族セルロースエステルの内部可塑化効果は生成物の溶融温度を下げるとともに熱分解温度を上昇させ得る。このことにより、多量の可塑剤を添加することなく、通常の熱可塑性樹脂の加工に用いられる成形手段、例えば射出成形、押出成形、プレス成形などにより成形加工を行うことが出来る。この環状エステルによって内部可塑化された脂肪酸セルロースエステル系熱可塑性成形品は、脂肪酸セルロースエステルが生分解性であり、グラフト付加した化学種がそれぞれに重合により生成するポリカプロラクトンおよびポリ乳酸といったポリマーも生分解性であることがつとに知られている。むしろ、生分解性高分子である脂肪酸セルロースエステルに、生分解性高分子を与えるモノマーを意図的に付加グラフト重合した高分子材料という側面を本発明のグラフト化物は持っている。実際、実施例でも示されている様に、生分解性が証明されて来ている。従って、この環状エステルによって内部可塑化された脂肪酸セルロースエステル系熱可塑性成形材料による成形品は、例えば、シート、フィルム、パイプ、棒、工具類、食器具、包装材、電子部品材、玩具など生分解性プラスチック材料として多岐にわたり使用出来ると共に、物性が優れていることもあり、さらに眼鏡枠、自動車ハンドル、医療用器具等々を加えた多くの一般用途にプラスチック材料として使いうる。
【0042】
さらに、この本発明による成形材料は移行性もない。すなわち、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート等のフタル酸エステルで可塑化されたセルロースアセテートの成形品と、メタクリル酸系樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂などによる成形品を各々接触させ高温高湿下に放置すると、移行したフタル酸エステルによりメタクリル酸樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂等による成形品は著しくおかされ、白化したり、微細なクレージング等を発生する。しかしながら、本発明による環状エステルで内部可塑化された成形材料は上記成形品と高温高湿下に放置しても、おかすことなく、極めて優れた前記目的にかなった性質を具備している。また、通常、樹脂成形材料には熱劣化防止、熱着色防止のため各種安定剤が添加されているが、本発明の成形材料にもそれらを必要量単独、または数種混合して添加しても差し支えない。また、その他、可塑剤、充填剤、滑剤、帯電防止剤などを目的に応じて添加して差し支えない。
【0043】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を説明する。
なお、特にことわりのない限り、実施例中の部及び%は重量部および重量%を示す。また、GPC分析は、次の分析条件で行った。
【0044】
Figure 0003715100
[実施例1]
撹伴機、温度計、還流冷却器(上部に乾燥管付き)を備えた反応器に絶乾セルロースジアセテ−ト(ダイセル化学工業(株)製L-40、酢化度55%、置換度2.45)100部、ラクチド335部、精製ε―カプロラクトン265部(ラクチドとε‐カプロラクトンのモル比は1:1 )を加え、120℃に加温し、攪拌してセルロースジアセテートを均一に溶解させた。溶解を確かめたのち、オクチル酸スズ15部を加え、120℃で攪拌下に5分反応した。この反応時間の範囲では最後まで正常な攪拌が行えた。反応時間終了後、反応フラスコを油浴から引き上げ、過剰のアセトンを加えて全体を均一に溶解した後、濾過、大過剰のメタノール中に投入、グラフト化セルロースジアセテートを沈殿させて、未反応モノマーおよびラクチドとε−カプロラクトンとの何らかの重合物を除去した。この溶剤、非溶剤を用いる精製を3回繰り返した。
【0045】
得られたグラフト化セルロースジアセテートを風乾、引き続いて60℃で真空乾燥した後、まず、テトラヒドロフランを展開剤としてGPC分析を行った。その結果、標準ポリスチレン換算で、出発セルロースジアセテートが数平均分子量(Mn)57,000、重量平均分子量(Mw)156,000であったのに対し、本開環グラフト化セルロースジアセテートは反応時間が5分であったにもかかわらず、Mnが158,000、Mwが346,000であり、グラフト重合が十分進んでいることが知られた。このことはIR分析によっても確かめられた。事実、このグラフト化セルロースジアセテートは、明確な熱流動を示し、フローテスターで測った熱流動温度(Tf)は135゜Cであった。また、この生成物は室温でガラス状で硬い材料であつた。
【0046】
[実施例2]
反応温度を160℃とする以外、実施例1と同一条件、同一様式の開環グラフト化反応を行った。得られたグラフト化セルロースジアセテートのGPC分析の結果は、Mnが204,000、Mwが443,000であり、実施例1の生成物よりさらに開環グラフト反応が進んでいることが知られた。このことは、反応温度を実施例1の場合より40℃高め160℃にした結果としてまず理解できる。生成物の熱流動温度も110℃まで低下しており、グラフトが進んだ結果として一応理解できる。一方、得られた生成物は室温でゴム状であった。実施例1の場合はガラス状のものが得られており、大きな違いとなっている。もともと、ε−カプロラクトンのみをグラフトさせるとエラストマーないしゴム状のグラフト化セルロースアセテートが得られ、他方でラクチドのみをグラフトさせると硬いガラス状の生成物が得られる。このことより、実施例1の場合より反応温度を40℃高めたということが、ε―カプロラクトンの重合性をラクチドのそれに比べ大きく高めたと言える。このことは、ラクチドとカプロラクトンの共重合鎖から成るグラフト鎖の組成を反応温度でコントロールできるということを意味しており大変興味深いことである。
【0047】
[実施例3]
反応温度を140℃とする以外、実施例1と同一条件、同一様式のセルロースジアセテートに対するラクチドとε−カプロラクトン等モル混合系での開環グラフト化反応を行った。得られたグラフト化セルロースジアセテートのGPC分析結果は、Mnが172,000、Mwが379,000で、実施例1の生成物の分子量と実施例2のそれとの間に入り、反応温度の順に従っており、理解しやすい結果であるといえる。生成物の熱流動温度も実施例1と2のそれらの間の値をとっている。一方、得られた生成物は室温で硬めのゴム状であり、引張強度24.9MPa,引張破壊伸び39.7%、ヤング率667.8MPaの引張特性。 140℃、5分の反応では同一モル数で仕込まれているラクチドとε−カプロラクトンの反応が、生成物をエラストマー状にするに十分な量反応したといえる。
【0048】
[実施例4]
反応時間を10分間とする以外、実施例3と同―条件として、セルロースジアセテートヘのラクチドとε−カプロラクトン等モル混合系での開環グラフト化反応を行った。実施例1と比較すると、反応温度は140℃と20℃上げ、反応時間は10分と2倍にしている。得られたグラフト化セルロースアセテートのGPC分析結果は、Mnが183,000、Mwが432,000で、実施例3のそれらより大きく、温度が160℃と高く、反応時間は5分と半分である実施例2とほぼ同じか僅かに低いという結果になった。 140℃で反応時間を2倍の10分にする効果と、160℃と反応温度を20℃上昇する効果がほぼ等しいといえる。熱流動温度は105℃と実施例2の場合のそれとほぼ等しい値を示し、この点も整合性があった。この場合も得られた生成物はエラストマー状であった。
【0049】
[実施例5]
反応温度を140℃とし、反応時間を20分とする以外、実施例1と同一条件、同一様式の開環グラフト化反応を行った。実施例3および4と比較すると、反応温度を20分とそれぞれ4倍および2倍にする点のみ異なっている。
【0050】
得られた生成物のGPC分析結果は、Mnが230,000、Mwが543,000で、実施例4より大きな値になっており、整合性がある。出発原料のセルロースジアセテート(L‐40)のMnが57,000、Mwが156,000であったことと改めて比較すると、このグラフト化により、Mnが約4倍、Mwが約3,5倍にも数字上なっており、この種のグラフト化反応が短時間に効果的に進むことが再確認される。生成物はエラストマー状である。
【0051】
[実施例6]
反応温度を140℃とし、反応時間を30分とする以外、実施例1と同一条件の開環グラフト化反応を行った。実施例5と比較すると、反応温度を30分と10分多くしている点のみ異なっている。
【0052】
得られた生成物のGPC分析結果は、Mnが227,000、Mwが673,000となり、実施例5のそれらと比べMnがほぼ同じ、Mwが漸増という結果になっている。反応時間を長くするだけでのグラフト重合の度合いの進捗がレベルオフしつつある可能性を示す結果と成っている。熱流動温度は120℃と僅かに高めに出ている(この試料は精製が4回行われて完結しており、フィルム成形も行われている。ホモオリゴマーが完全にとれており、これまでの試料が精製2回まででホモオリゴマーがなお少量残っているとするとその差が出ているといえる。)とはいえ、120℃という熱流動温度はセルロースジアセテートのそれとしては画期的に低下した温度といえる。前出のH.Warthらの論文中の値180〜222℃と比べてはっきりとそういえる。熱流動温度を120℃まで下げられるということは多くの加工の可能性を生み、広範囲にセルロースアセテートを用いうることになる。
【0053】
生成物をホットプレスを用いてシート状に成形し、短冊試片を切り出して引張試験を行った。 10試片の平均として得られた引張強度は16.4MPa、引張破壊伸びは100.2%、ヤング率は83.7MPaであった。明らかにエラストマータイプの物性を持っていることが知られる。
【0054】
[実施例7]
触媒量を3重量部と1/5にする以外、実施例5と同一条件の開環グラフト化反応を行った。
【0055】
得られたグラフト化セルロースジアセテートのGPC分析結果は、Mnが160,000、Mwが366,000であり、両者とも実施例5の場合の約70%の値と小さくなっている。用いた触媒の量を1/5にしたためであり、当然の結果と考えられる。それでも出発物質であるL−40の値のそれぞれ3倍および2.5倍にはなっている。他方、熱流動温度は140℃であり、相対的に高温側にあるものの、触媒量がこの様に少なくても、熱流動性付与は十分に行い得、成形加工しうるプラスチック材料にセルロースジアセテートを変換しうるといえる。一方、非常に興味深いのは、生成物がガラス状になるということである。このことは等モルで仕込まれたラクチドとε−カプロラクトンのうちラクチドの開環重合が相対的に良く進んだということを示している。実施例1では反応温度が低く設定されたため生成物がガラス状になったが、ここでは触媒が少量であるためである。反応の条件が劣ったものになるとε‐カプロラクトンの反応が抑制されるという結果になっており、ラクチドの方が相対的に反応性に富むと結論できる。
【0056】
[実施例8]
ラクチドとε−カプロラクトンの仕込みモル比を1:1 から1:0.8に変更する以外、実施例5と同じ条件でセルロースジアセテートヘの開環グラフト化反応を行った。得られた生成物のGPC分折結果は、Mnが244,000、Mwが594,000で、実施例5の生成物のそれらよりそれぞれ1割弱大きいもののほぼ同じ値となった。熱流動温度は105℃で、若干低い値となっている。
【0057】
生成物をシート状にホットプレス成形した上で短冊状試片を切り出し、力学特性を測定した。 10試片の平均として得られた引張強度は14.6MPa、引張破壊伸びは130.6%、ヤング率は49.8MPaであった。生成物がエラストマーであることを示している。
【0058】
[実施例9]
ラクチドとε‐カプロラクトンの仕込みモル比を1:1から1:0.6に変更する以外、実施例5と同じ条件でセルロースジアセテートヘの開環グラフト化反応を行った。得られた生成物のGPC分析結果は、Mnが229,000、Mwが508,000で、実施例5の生成物のそれらとほぼ同じか僅かに低めであり、開環グラフト化反応は十分に進んでいることが知られた。熱流動温度は120℃で、反応度から考えて予期できる範囲の値となっている。
【0059】
生成物をシート状に成形した上で得た引張強度は28.1 MPa、引張破壊伸びは2.1%、ヤング率は1525MPaであった。生成物が室温でガラス状であることを示している。従って、仕込んだε―カプロラクトンをラクチド1モルに対し0.6モルまで低下させると、セルロースジアセテートヘ導入されるグラフト鎖中へのε−カプロラクトンの割合も少なくなり、生成物を室温でガラス状のものとするといえる。この場合は、仕込み組成的にε―カプロラクトンの反応を抑制した結果といえる。
【0060】
[実施例10]
ラクチドとε―カプロラクトンの仕込みモル比を1:1 から1:0.4に変更する以外、実施例5と同じ条件でセルロースジアセテートヘの開環グラフト化反応を行った。得られた生成物のGPC分析結果は、Mnが158,000、Mwが370,000で、実施例5の生成物のそれらの70%とそれぞれ低い値になって来ている。ただし、出発原料であるセルロースジアセテートL−40に比べると、Mnで約3倍、Mwで2.4倍で十分にグラフト化反応は進んでる。熱流動温度も125℃であり、加工性が高いプラスチック材料に変換されているといいうる。
【0061】
生成物は室温でガラス状を呈しており、前述同様、仕込み組成的にε―カプロラクトンの反応を抑制した形になっているといえる。
【0062】
[実施例11]
ラクチドとε−カプロラクトンの仕込みモル比を1:1 から1:0.2に変更する以外、実施例5と同じ条件でセルロースジアセテートヘの開環グラフト化反応を行った。生成物のGPC分析結果は、Mnが161,000、Mwが352,000で、実施例7とほぼ同程度か僅かに低い値になっている。熱流動温度は135℃であり、依然として加工性の高いプラスチック材料が得られている。
【0063】
生成物はやはり室温でガラス状であり、この点でも仕込み組成の変化に伴う規則性が認められる。
【0064】
[実施例12]
ラクチドとε−カプロラクトンの仕込みモル比を1:1 から1:0.4に変更すると共に、液比も6から4に変更する以外、実施例5と同じ条件でセルロースジアセテートヘの開環グラフト化反応を行った。
【0065】
仕込み比が同じ実施例10とほぼ同じ結果が得られ、液比を小さくした影響は殆どこの範囲では認められない。
【0066】
[実施例13]
ラクチドとε―カプロラクトンの仕込みモル比を1 :1 から1:0.2に変更すると共に、液比を6から4に変更する以外、実施例5と同じ条件でセルロースジアセテートヘの開環グラフト化反応を行った。
【0067】
仕込み比が同じ実施例11に比べ、Mn、Mwがやや大きくなり、グラフト化がより進んでいることが示されると共に、熱流動温度は130℃となり、グラフト鎖にラクチドが多く入って室温でガラス状の特性を示すプラスチック材料が得られている。
【0068】
[実施例14]
ラクチドとε―カプロラクトンの仕込みモル比を1:1から1:1.25とε―カプロラクトンを多くする方向で変更し、反応時間を20分から50分へと長くする以外、実施例5と同じ条件でセルロースジアセテートヘの開環グラフト化反応を行つた。
【0069】
得られた生成物のGPC分析結果は、Mnが210,000、Mwが578,000で、実施例5の生成物のそれらと同程度かやや大きくなっている。実施例6の場合(反応時間を30分と長くしている)の生成物に比べれば、生成物の分子量は小さくなっている。ε‐カプロラクトン分の大きい反応系、すなわち、ラクチドに比べ反応性が本質的には劣ると考えられるε‐カプロラクトンのモル比を多くした反応系での反応であるためと考えることが一応出来るが断言しがたい。熱流動温度は115℃で、熱流動しやすいプラスチック材料に変換されているといいうる。
【0070】
生成物のシート成形物について引張特性を測定し、引張強度10.3MPa、引張破壊伸び185.8%、ヤング率22.0MPaの値を得た。著しくエラストマー性の高い材料が得られており、これまで見てきた規則性を体現している。
【0071】
[実施例15]
撹伴機、温度計、還流冷却器(乾燥管付き)を備えた反応フラスコに絶乾セルロースアセテート(ダイセル化学工業(株)製、酢化度55%、置換度2.45)100部、ラクチド398部、精製ε‐カプロラクトン315部(ラクチドとε―カプロラクトンのモル比は1:1;液比7)を加え、110℃に加熱し、窒素を吹き込みながら撹伴してセルロースアセテートを均一に溶解させた。溶解を確かめたのち、オクチル酸スズ2部を加え、110℃で撹伴下に120分反応させた。この場合、反応時間約20分を経過すると、反応物の粘度が上昇し、撹伴棒にまきついた形で、撹伴棒と共にフラスコ座部に沿って回転するようになる。反応時間終了後、反応フラスコを油浴から引き上げ、過剰のアセトンを加え、撹伴して全体を均一に溶解した後、濾過、大過剰のメタノール中に投入、グラフト化セルロースアセテートを沈殿させて、未反応モノマーおよびラクチドとε―カプロラクトンとの何らかの重合物を除去した。この溶剤、非溶剤を用いる生成物の精製を3回繰り返した。
【0072】
得られたグラフト化セルロースジアセテートを風乾、引き続いて60℃で真空乾燥した後、まず、テトラヒドロフランを展開剤としてGPC分析を行った。その結果、標準ポリスチレン換算で、出発セルロースジアセテートがMn57,000、Mw56,000であったのに対し、ここでの生成物は、Mn93,000、Mw181,000であり、グラフト重合が進んでいることが知られた。しかし、実施例1さらには実施例2〜14のそれぞれの反応生成物のそれらと比べると格段に低分子量であり、グラフト化の程度は低い。これは反応温度が110℃と最も低い温度であると共に、触媒が2部と相対的に少量であるためである。この様に反応条件が劣ったものであることから、これまでも指摘されたようにε‐カプロラクトンの反応が抑制され、生成物はガラス状を示した。それでも熱流動温度は165℃で、十分にプラスチック材料に変換されたといえる。ちなみに、この165℃という熱流動温度は、H.Warthらの論文では得られていない。
【0073】
[実施例16]
液比を14、また触媒添加量を4部、さらに反応時間を35分とする以外、実施例15と同条件の開環グラフト化反応を行った。
【0074】
得られたグラフト化セルロースジアセテートのGPC分析結果は、Mnが110,000、Mwが214,000と実施例15の場合と比べると大きくなっている。液比と触媒量を大きくした結果と考えられる。しかしそれでも、生成物はガラス状であり、実施例7の結果も参照して考えると、触媒量がレベル以下であり、ε―カプロラクトンの反応が抑制された結果と考えられる。
【0075】
[実施例17]
HAAKE社製Poly Labo System PTW25 二軸エクストルーダーをL/D比36(D=25mm)で用いてセルロースジアセテートにε―カプロラクトンおよびラクチドをグラフト共重合させた。仕込量比がセルロースジアセテート(L―40)100部に対して、ラクチド201部、ε−カプロラクトン399部[ラクチド/ε−カプロラクトン(モル比)=1/2.5]となるようにエクストルーダーに供給した。すなわち、セルロースジアセテートは粉末定量供給器により、またラクチドとε―カプロラクトンを1対2.5のモル比で予め溶液とした上で、触媒であるオクチル酸スズをセルロースジアセテート100部に対し6部となる様に実験直前に秤り取って加え、送流ポンプを用いる液体定量供給器によってPTW 25エクストルーダーに供給した。この仕込みによると、セルロースジアセテートに対する溶液添加量比(即ち、液比)は6となる。反応温度は140℃とし、反応時間は滞留時間ということになるが、30分とした。
【0076】
反応物はPTW 25エクストルーダーの先端ノズル部から排出される形で出てくるが、十分定量状態となった後のものを生成物として採取した[本実験では原料供給後40分(滞留時間+10分)を経たのちサンプリング]。
【0077】
その後、まずグラフト化セルロースジアセテートの重量を精秤し、その5〜20倍量のアセトンを加えて均一に溶解した後、得られたアセトン溶液を大過剰のメタノールあるいはメタノールと脱イオン水の混合溶媒に滴下、投入し、再沈殿させた。得られた沈殿物を0,5μm PTFE製メンブレンフィルターを用いて濾集し、数回洗浄した。濾集物は60℃送風乾燥器及び60℃真空乾燥器で乾燥後、あるいは未乾燥のまま再びアセトンに溶かし、同様の再沈殿精製を行った。この様な精製を3回行った(但し;1回目の再沈殿の時のみ、触媒中のスズを取り除くために、再沈殿溶媒に1N・HClを1%量加えた)。最終精製後、60℃送風および真空乾燥器を順次用いて完全に溶解させた。
【0078】
得られた全乾生成物についてテトラヒドロフランを展開剤としてGPC分析を行った。
【0079】
その結果、標準ポリスチレン換算で、出発セルロースジアセテートがMn57,000、Mw156,000であったのに対し、ここで得られた開環グラフト共重合セルロースアセテートは、Mnが128,000、Mwが368,000と約2.3倍の値になっていた。この場合、触媒量が6部と相対的に小さいこと、ラクチドとε‐カプロラクトンの比が1:2.5と相対的に反応性が劣るε‐カプロラクトンの比率が高いものとなっていることが強調できる。それにも拘わらず、得られた分子量の値から考えて、見劣りのしないセルロースアセテートヘのグラフト共重合がなされていると言える。このことはIR分折でも確かめられた。事実、このグラフト化セルロースアセテートは、明確な熱流動を示し、フローテスターで測った熱流動温度(Tf)は145℃であった。
【0080】
また、この生成物は室温でエラストマー状であった。この点は、ε−カプロラクトンの仕込量が大きいためと理解できる。事実、得られた反応生成物の精製物をシート成形し、短冊試片を切り出して引張試験を行った結果、引張強度21.8 MPa、引張破壊伸び118.6%、ヤング率243 MPaというデータが得られ、精製物がやや硬いものの工ラストマー的な特性を有していることを裏付けた形になった。
【0081】
[実施例18]
オクチル酸スズ触媒量をセルロースジアセテート100部に対して8部と2部増やす以外、実施例17と同一条件、同一様式の開環グラフト化反応を行った。得られたグラフト化セルロースアセテートについてのGPC分析の結果は、Mnが134,000、Mwが354,000であり、実施例17の反応生成物と同等ないしやや大きな分子量を持つものとなった。触媒量を3割3分増しにした結果として、この様な数値が得られたわけである。生成物の熱流動温度も140℃であり、実施例17のそれに比べ5℃低下したものとなっており、グラフトが進んだ結果として理解できる。一方、得られた生成物は室温でエラストマー状であった。このことは、得られた反応生成物をホットプレスを用いてシート状に成形し、短冊試片を切り出して引張試験を行った結果によっても裏付けられた。すなわち、10試片の平均として得られた引張強度は18.4 MPa、引張破壊伸びは143%、またヤング率は101.7 MPaで、エラストマーであることが知られた。
【0082】
[実施例19]
実施例18と同一の条件でエクストルーダーを用いての反応を行い、反応が十分平衡状態に達したところでエクストルーダーの運転をとめ、その状態で40分間、140℃の加熱のみを継続した後、再びエクストルーダーの運転を行い、サンプルを順次採取した。
【0083】
その結果、Mn147,000、Mw358,000の生成物(グラフト化セルロースジアセテート)が得られ、実施例18の場合よりも明らかに高分子量のものとなることが知られた。熱流動温度も135℃であり、実施例18でのそれよりさらに5℃低下している。グラフト重合がさらに進んでいることを裏付けている。一方、得られた生成物は室温でエラストマー状であった。事実、ホットプレス成形して得られたシートは、引張強度13.7 MPa、引張破壊伸びは164.1%、またヤング率は27.2 MPaといった力学特性を室温で示した。実施例18の場合の対応する実験結果と比べると、より室温で柔らかくなり、エラストマー性が強まっていることが知られる。このことはε−カプロラクトンのグラフト鎖への導入が、40分の加熱処理時間に、より多く進んだことを示すものといえよう。
【0084】
なお、このグラフト生成物はエクストルーダーの排出ノズルから出て来た状態で引っ張られると10数mに渡り糸状を保ったまま保持でき、エンドレスに巻き取れることが知られた。このことはモノマーとして残存している割合が十分小さくなったことを少なくとも示すと言えよう。
【0085】
[実施例20]
オクチル酸スズをセルロースジアセテート100部に対して10部と4部増やす以外、実施例17と同一条件、同一様式の開環グラフト化反応を行った。得られたグラフト化セルロースジアセテートについてのGPC分析の結果は、Mnが147,000、Mwが371,000であり、実施例17および実施例18の生成物よりやや大きな分子量を持つものとなった。触媒量を多くした結果がそのまま現れている。生成物の熱流動温度も120℃と、実施例17および実施例18の場合がそれぞれ140および135℃であったことと比べて大幅に低い値となっている。
【0086】
一方、得られた生成物は室温でエラストマー状を呈しており、シート状に成形した試料について得られた力学特性は、引張強度10.6 MPa、引張破壊伸び138,1%、またヤング率1 8.4 MPaで、エラストマーであることが確認された。
【0087】
[実施例21]
オクチル酸スズをセルロースジアセテート100部に対して12部と2倍にする以外、実施例17と同一条件、同一様式の開環グラフト化反応を行った。得られたグラフト化セルロースジアセテートについてのGPC分析の結果は、Mnが165,000、Mwが459,000であり、実施例17〜20のいずれの生成物より大きな分子量を持つものとなった。これも触媒の量を多くすることにより、グラフト化生成量が多くなるという結果を示すものといえる。生成物の熱流動温度も125℃と、実施例17の145℃、実施例18の140℃、実施例19の135℃に比べて、随分と低い温度になっている。ただ、実施例20の熱流動温度(120℃)と比べると5℃の温度差で微妙であるが同等ないしやや高温側にあるものと言える。また、生成物は室温で高度にエラストマーであった。事実、シート状に成形した上で、力学特性を測定したところ、引張強度9.1 MPa、引張破壊伸び271.8%、またヤング率6.9 MPaというエラストマー性の高い値が得られた。
【0088】
これらは後出の実施例23の生成物に続く、エラストマー性の大きな材料になっていることを明確に示している。
【0089】
[実施例22]
液比を4(セルロースジアセテート100部に対して、ラクチド134部、ε−カプロラクトン266部の仕込みで液比4になる)とする以外、実施例17と同一条件、同一様式の開環グラフト化反応を行った。得られたグラフト化セルロ−スジアセテートについてのGPC分析の結果は、Mnが147,000、Mwが455,000で、液比6の対照試料での場合(実施例17)よりも大きな値をとっている。なお、ここで得られた生成物(精製後)は、室温でエラストマー状を呈した。
【0090】
[実施例23]
オクチル酸スズ触媒添加量をセルロースジアセテート100部に対して12部と、実施例17や実施例22の場合の2倍とする以外、実施例22と同一条件、同一様式の開環グラフト化反応を行った。得られたグラフト化セルロースジアセテートについてのGPC分析の結果は、Mn175,000、Mw499,000であり、実施例21(液比6の場合の対照例)で得られた生成物のそれよりやや大きな値となった。この点は、先の実施列22と同様でエクストルーダーを反応機として用いる場合に、液比より粘性が変わる効果など、練り込み反応の効果が変化し、液比に適値が存在する可能性がある。
【0091】
ここで得られた生成物の熱流動温度も125℃と実施例21と同等で、非常に低い値となっている。一方、得られた生成物は室温でエラストマー状を呈しており、シート状に成形した試料について得られた力学特性は、引張強度8.3 MPa、引張破壊伸び173.0%、またヤング率5.7MPaであり、今回得られた試料の中で最も柔らかく、最も大きなエラストマー性を発現するものとなっている。その点では、前出の様にここでの試料の対照試料となっている実施例21のものが、これに続く高いエラストマー性を持ったものになっている。
【0092】
結局、以上のことより、触媒量を多くすることにより、反応系中にラクチドに比べ2.5倍モル多く存在する相対的に反応性の低いε―カプロラクトンの重合を促し、これがグラフト鎖中に多量に入る結果、エラストマー性の高い生成物が得られるものと考えられる。
【0093】
[実施例24]
液比を2(セルロースジアセテート100部に対して、ラクチド67部、ε−カプロラクトン133部の仕込みで液比2になる)と著しく小さくし、オクチル酸スズ触媒量をセルロースジアセテート100部に対して10部とする以外、実施例17と同一条件、同一様式の開環グラフト化反応を行った。得られたグラフト化セルロースジアセテートについてのGPC分析の結果は、Mnが148,000、Mwが368,000で、液比が6の対照試料での場合(実施例20)とほぼ同等の値をとっている。液比2での反応は、反応機としてエクストルーダ−を使ってはじめて可能であり、フラスコ実験やバッチ式装置を使っての実験では十分に行い得ない。それにも拘わらず、ここで示されている様に液比が大きい(液比6;フラスコ実験可能)実施例20の場合と同等の反応物が得られたという結果は大いに注目でき、意義深い。但し、得られた生成物の熱流動温度は135℃であり、これも予期以上の成果であるが、実施例20の生成物のそれが120℃であることと比べると15℃高い温度になっている。
【0094】
他方、得られた生成物は室温でエラストマ−状であり、これも予期以上の処理効果である。シート状に成形した試料について得られた力学特性は、引張強度13.4 MPa、引張破壊伸び159.0%、ヤング率35.1 MPaであり、室温でエラストマーとして挙動するプラスチック材料となっている。
【0095】
[実施例25]
(株)栗本鉄工所製S1 KRCニーダをバッチ式反応器として用い、セルロースジアセテートにε―カプロラクトンおよびラクチドをグラフト共重合させた。
【0096】
仕込量比がセルロースジアセテート(Lー40)100部に対して、ラクチド335部、ε‐カプロラクトン265部[ラクチド/ε―カプロラクトン(モル比)=1/1]となるように、ニーダに供給した。そのさい、予め室温で固体であるセルロースジアセテートとラクチドを室温で液体であるε―カプロラクトンに溶解し、溶液とした上で、直前に開環重合触媒オクチル酸スズをセルロースジアセテート100部に対して4部加えて、140℃に調温されたS1KRCニーダに注入供給した。この仕込みによるとセルロースジアセテートに対する環状エステルモノマー添加量比(即ち、液比)は6となる。反応温度は140℃とし、反応時間は40分とした。
【0097】
得られた反応生成物の所用区分を精秤した上で、5〜20倍量のアセトンを加えて均一に溶解した後、得られたアセトン溶液を大過剰のメタノールに滴下、投入し、再沈殿させた。得られた沈殿物を0.5μm PTFE製メンブレンフィルターを用いて濾集し、数回洗浄した。濾集物は60℃送風乾燥器および60℃真空乾燥器で乾燥後、あるいは未乾燥のまま、再びアセトンに溶かし、同様の再沈殿精製を行った。この様な精製を3回行った。(但し、1回目の再沈殿時のみ、触媒中のスズを取り除くために、再沈殿溶媒に1N―HClを1%加えた。)最終精製後、60℃送風および真空乾燥器を順次用いて完全に乾燥させた。
【0098】
得られた全乾生成物についてテトラヒドロフランを展開剤としてGPC分析を行った。その結果、標準ポリスチレン換算で、出発セルロースジアセテートがMn57,000、Mw156,000であったのに対し、ここで得られた開環グラフト共重合セルロースジアセテートは、Mnが148,000、Mwが296,000と大幅に増加したものとなった。精製した生成物の熱流動温度は135℃と使いやすい温度となっている。一方、生成物は室温でガラス状であり、この点も含め、本反応は実施例7に対応したものといえ、リアクティブプロセシングによっても、ラクチドの反応がε−カプロラクトンのそれに比べ優勢になる条件を整えると、対応する条件下でのフラスコ実験で認められた反応の特徴が現れると言える。事実、反応直後の反応生成物中に含まれる未反応モノマー量をHPLCにより定量したところ、本実験例の場合、ラクチドの場合は2.5%、またε‐カプロラクトンは60.4%であり、圧倒的に後者が多く未反応のまま残り、生成物が室温でガラス状のプラスチックである理由を明確に示した。
【0099】
[実施例26]
反応温度と時間を110℃で18分、140℃で19分とより弱い反応条件とする以外、実施例25と同一条件、同一様式で開環グラフト反応を行った。
【0100】
得られたグラフト化セルロースジアセテートについてのGPC分析の結果は、Mnは113,000、Mwは232,000で実施例25の場合より小さくなった。得られた生成物(精製済)は実施例25の場合より硬いガラス状を呈しており、熱流動温度は145℃で実施例25の場合より10℃高い温度となっている。これらの結果は、ここでのグラフト化条件が実施例25のそれよりも緩和なものであることと対応した結果であり、考えやすい。また、反応後の残存モノマー量についてのHPLC定量結果を見ても、ラクチドのそれが4.9%、ε―カプロラクトンのそれが83.6%といずれも実施例25の対応する値よりも大きくなっており、同時にε‐カプロラクトンのグラフト鎖への導入がより抑制されたものとなっていることが知られ、上記の事柄を裏付けている。
【0101】
[比較例1]
ガラス瓶(直径45mm、高さ78mm)の底面に20メッシュパスの砂10gを敷き、蒸留水2mlを加えた。これを試験容器とする。試験容器には、重量既知のPPシート小片 (10×10×0.4mm)1枚とイエシロアリ(職蟻45頭、兵蟻5頭)を加えて試験を行った。試験容器にはポリエチレン製のふた(直径42mm)を軽くしめた。試験期間は3週間で、試験容器は温度30℃、相対湿度80%の暗所で静置した。試験終了後、PPシ−トを取り出し、丁寧に拭った後、秤量し、重量減少率を求めたところ、5枚の平均でー0.926%の重量減少を示した。マイナスの値になったのは、試験中の吸湿ないし、異物付着の影響と思われるが、いずれにしても上述の条件下では、PPはシロアリにより摂食されないことを示す結果である。
【0102】
[実施例27]
比較例1と同様の強制摂食試験を、実施例17で調製したグラフト化セルロースジアセテートを成形して得たシート小片(10×10×0.4mm)を紙片として行ったところ、5枚の平均で18.3%の重量減少率が得られた。この結果は、比較例1でPPシート小片が全くシロアリに摂食されなかったのに比べ、明確な差のある結果であり、実施例17で調製したグラフト化セルロースジアセテートは、生分解性があるものと考えられる。
【0103】
[実施例28]
(有)自然耕房製の20l容で38℃に調温されているコンポスト装置(ナチュレポケットNSー1)を用いた。装置内にはおがくずと好気性の炭水化物分解菌(NS菌)をまず仕込み、月〜土曜日に一日当たり1kgの残飯が投入されるという形で継続的に運転を行った。(10日に1日は菌を休ませるため何も投入しない方が良いとされている。そこで本実験では日曜日には残飯の投入を行わず休養日とした。)好気性菌による分解を行っているため、装置内での攪拌を4時間に―度行った。この攪拌に対処するため、用いたシート状の小型試片は、金属ないし硬質プラスチック性の網状のプロアクト容器に挟んで、投入試験した。シート状に熟圧成形した後、約20×20 mm に切り出した0.4mm厚のシートを試片として用いた。
【0104】
本実施例では、ラクチドとε−カプロラクトンのモル比を4:10としてとり、液比6、オクチル酸スズ(II)触媒量2.4%(セルロースジアセテート100部に対しては、12部に相当する)、反応温度140℃、反応時間30分の条件でフラスコ内でグラフト重合させ、アセトン溶解/メタノールヘの再沈殿を2回繰り返して精製して得た反応生成物を0.4 mm 厚シート状に成形し、上記の様に切り出して実験試料とした。この試料を金属の網状ホルダーで挟み、上記コンポスト中に投入した。コンポスト処理試験期間は1ヶ月とし、その期間終了後,試片を取り出し、注意深くまず洗浄を行い、水分を軽く拭った後、40℃送風乾燥器中で予備乾燥後、常温で真空乾燥を一昼夜行い、秤量した。
【0105】
コンポスト処理前後の重量差から、重量減少率を求めたところ、2.8%であった。コンポスト処理前は無色透明で平滑な表面を持っていた試片が、このコンポスト処理により全体的に褐色を帯び、極一部分、不透明で濁りを持った状態になった。表面も、平滑な状態が部分的に凸凹を持った状態となった。走査電子顕微鏡検査でも、表面状態に大きな変化が認められ、また、水洗したのにも拘わらず菌糸の残存が認められ、コンポスト処理によって微生物に侵されているという状況が認められ、裏付けられた。
【0106】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、熱可塑性、成形加工性に優れ、同時に生分解性を有するグラフト重合体を得ることができる。

Claims (13)

  1. セルロース誘導体の存在下で環状エステルの開環重合触媒を加えて、ラクトンとラクチドとを開環混成グラフト重合させることを特徴とする生分解性を備えたセルロース誘導体混成グラフト重合体の製造方法。
  2. ラクトンが、β−プロピオラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、α,α−ジメチル−β−プロピオラクトン、β−エチル−δ−バレロラクトン、α−メチル−ε−カプロラクトン、β−メチル−ε−カプロラクトン、γ−メチル−ε−カプロラクトン及び3,3,5−トリメチル−ε−カプロラクトンからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の製造方法。
  3. ラクトンがε−カプロラクトンである請求項1記載の製造方法。
  4. セルロ−ス誘導体がセルロースアセテートを主とするものである請求項1記載の製造方法。
  5. セルロ−ス誘導体が、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートフタレート、および硝酸セルロース等のセルロースエステル類、あるいはエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロースエーテル類である請求項4記載の製造方法。
  6. セルロース誘導体の重量%が1〜85である請求項4又は5記載の製造方法。
  7. セルロース誘導体の重量%を1〜85、環状エステルの重量%を15〜99として仕込むことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
  8. 100〜210℃で開環混成グラフト重合させることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
  9. リアクティブプロセシング装置を用いて開環混成グラフト重合させることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
  10. 開環重合触媒が、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属及びそのアルコキシドなどの誘導体;トリエチルアルミニウムで代表されるアルキルアルミニウム及びその誘導体、チタン酸テトラブチルで代表されるアルコキシチタン化合物、オクチル酸スズ、ジブチルスズラウレート等の有機金属化合物;塩化スズなどの金属ハロゲン化物からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1〜6のいずれか一項記載の製造方法。
  11. 請求項1〜10のいずれか一項記載の製造方法により製造されたセルロース誘導体混成グラフト重合体。
  12. 熱流動温度が105〜195℃である請求項11記載のセルロース誘導体混成グラフト重合体。
  13. 請求項11又は12に記載のセルロース誘導体混成グラフト重合体からなる成形品。
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