JP3711317B2 - 熱安定性の良好な溶融成形用ポリイミド樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融成形用途に適した溶融粘度を有し、溶融時の流動性の低下が小さく、さらに、結晶化速度が大きい結晶性ポリイミドと各種繊維とから成り、成形により得られた製品が熱処理を施さなくても十分に結晶化し、高い耐熱性、すなわち、ガラス転移温度以上の温度でも十分な機械強度を有する、熱安定性の高い溶融成形用ポリイミド樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリイミドは、その優れた耐熱性に加え、機械物性、耐薬品性、難燃性、電気特性等において優れた特性を有するため、成形材料、複合材料、電気・電子部品等の分野において幅広く用いられている。
【0003】
成形材料、複合材料用ポリイミドとしては、商品名Vespel(デュポン社製)、あるいは商品名Upimol(宇部興産社製)が知られているが、いずれのポリイミドも不溶不融であるため、前駆体であるポリアミド酸を経由する焼結成形などの特殊な手法を用いて成形しなければならず、成形加工性に難がある。さらにはこの手法では複雑な形状の加工品が得られ難く、満足な成形品を得るには更に切削等により仕上げ加工をしなければならないなど、加工工程、コスト等に大きな問題を抱えている。
【0004】
成形加工性が改善された、射出成形可能な熱可塑性ポリイミドとして、商品名Ultem(ゼネラルエレクトリック社製)が知られている(U.S.Pat.3.847,867、3,847,869)。しかしながら、このポリイミドは完全非晶性であり、ガラス転移温度(Tg)が215℃であることから、十分な耐熱性を有しているとは言えない。すなわち、実質的な使用限界温度である荷重たわみ温度(DTUL)を例にとると、ニートのUltemで200℃、炭素繊維30wt%含有(CF30)Ultemで212℃と、スーパーエンプラとしてはどちらも高い値ではない。
【0005】
更に新しく、成形加工性が改善された射出成形可能な熱可塑性ポリイミドとして、商品名AURUM(三井化学社製)が開発された(特開昭62−68817)。このポリイミドはガラス転移温度が250℃であるため、DTULは、ニートAURUMで238℃、CF30-AURUMで248℃と先に述べたポリイミド・Ultemよりも高耐熱性である。
【0006】
さらには、AURUMは388℃に融点を有する結晶性であり、成形後に熱処理(アニール処理)を施すことにより結晶化させることができる。結晶化させた場合のDUTLは、ニートAURUMで260℃、CF30-AURUMで349℃と格段に高い耐熱性を有している。
【0007】
しかしながら、結晶化させるために熱処理を施すことは、生産性を著しく低下させ、さらには、結晶化による寸法変化や変形、表面の粗化等の問題を有していた。
【0008】
成形により得られた製品が熱処理を施すことなく十分に結晶化していればこれらの問題は全く生じない。そのため、有機低分子量物や結晶性樹脂を添加し、結晶化を促進する手法が考案されている(特開平9−104756号公報、特開平9−188813号公報等)。しかし、これらの方法は低分子量物や耐熱性の低い樹脂を添加するため、耐熱性や耐薬品性が低下するといった問題を有していた。
【0009】
結晶性ポリイミドとしては、他に、特開昭61−143433号公報、特開昭62−11727号公報、特開昭63−172735号公報等に、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンと3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなるポリイミドおよびその共重合体が記載され、その融点が示されている。しかしながら、該ポリイミドの溶融流動性および結晶化速度に関する記載はない。
【0010】
また、Macromolecules 1997,30,1012-1022には、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンと3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなり、その末端が不活性化されたポリイミドの溶融流動性について記載されている。しかしながら、共重合体に関してはその溶融流動性および結晶化速度は明らかになっていない。
【0011】
さらに、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンと3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなるポリイミドは、溶融時の熱安定性が悪いという問題を有していた。特開平1−110530号公報、特開平1−123830号公報等に、芳香族モノアミンおよび/または芳香族ジカルボン酸無水物と反応させることで末端を不活性化することによるポリイミド樹脂の熱安定性向上方法が記載されているが、該ポリイミドは、末端を不活性化してもなお、溶融時に時間と共にその流動性が低下する。そのため、例えば射出成形時には、成形開始後時間と共に射出圧が上昇したり樹脂の流動長が低下し、安定した成形ができないばかりか、色調や物性の安定した製品を製造することができなかった。従って、該ポリイミドは押し出し成形や射出成形といった溶融成形には使用できず、その用途はホットメルト接着剤に限定されていた。
【0012】
以上のことから、結晶化速度が大きく、溶融時の流動性の低下が小さく、安定した溶融成形が可能で、安定した色調、物性を有する製品を製造することができる、熱安定性の高い結晶性ポリイミド樹脂が求められていた。さらに、該ポリイミド樹脂と各種繊維とから成り、安定した溶融成形が可能で、安定した色調、物性を有する製品を製造することができるとともに、成形により得られた製品が熱処理を施さなくても十分に結晶化し、高い耐熱性、すなわち、ガラス転移温度以上の温度でも十分な機械強度を有する、熱安定性の高い溶融成形用ポリイミド樹脂組成物が求められていた。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、安定した溶融成形が可能で、安定した色調、物性を有する製品を製造することができるとともに、成形により得られた製品が熱処理を施さなくても十分に結晶化し、高い耐熱性、すなわち、ガラス転移温度以上の温度でも十分な機械強度を有する、熱安定性の高い溶融成形用ポリイミド樹脂組成物を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、原料モノマーとして高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを用いた場合にのみ、式(1)で表される繰り返し単位90〜100モル%、および式(2)または(3)で表される繰り返し単位10〜0モル%で構成され、その分子末端が式(4)および/または(5)で表される420℃で5分間保持し溶融させた際の溶融粘度に比べ、420℃で30分間保持した際の溶融粘度の変化量が50%以内である結晶性ポリイミドを得ることができ、該ポリイミドと各種繊維とから成る樹脂組成物は、安定した溶融成形が可能で、安定した色調、物性を有する製品を製造することができるとともに、成形により得られた製品が熱処理を施さなくても十分に結晶化し、高い耐熱性、すなわち、ガラス転移温度以上の温度でも十分な機械強度を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明は、式(1)(請求項1に記載の式(1)を準用し、以下の式2〜5も同様とする)で表される繰り返し単位90〜100モル%、および式(2)または(3)で表される繰り返し単位10〜0モル%で構成され、その分子末端が式(4)および/または(5)で表される420℃で5分間保持し溶融させた際の溶融粘度に比べ、420℃で30分間保持した際の溶融粘度の変化量が50%以内である結晶性ポリイミド50〜95重量%と、ガラス繊維、炭素繊維、全芳香族ポリアミド繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、またはグラファイト繊維から選ばれた1種または2種以上の繊維50〜5重量%とからなる、溶融成形用ポリイミド樹脂組成物に関する。
【0016】
更に詳しくは、原料モノマーとして高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを用いる、式(1)で表される繰り返し単位90〜100モル%および、式(2)または(3)で表される繰り返し単位10〜0モル%で構成され、その分子末端が式(4)および/または(5)で表される420℃で5分間保持し溶融させた際の溶融粘度に比べ、420℃で30分間保持した際の溶融粘度の変化量が50%以内である結晶性ポリイミドと各種繊維とから成る、安定した溶融成形が可能で、安定した色調、物性を有する製品を製造することができるとともに、成形により得られた製品が熱処理を施さなくても十分に結晶化し、高い耐熱性、すなわち、ガラス転移温度以上の温度でも十分な機械強度を有する、溶融成形用ポリイミド樹脂組成物に関する。
【0017】
上記した本発明においては、420℃で5分間保持し溶融させた際の溶融粘度に比べ420℃で30分間保持した際の溶融粘度の変化量が50%以内である結晶性ポリイミドを1つの構成成分とする点で特徴的である。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられる結晶性ポリイミドは、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン90〜100モル%と、式(8)で表される芳香族ジアミン10〜0モル%、および3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を反応させて得られるポリアミド酸を熱的または化学的にイミド化する、
または、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、および、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物90〜100モル%と式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物10〜0モル%
を反応させて得られるポリアミド酸を熱的または化学的にイミド化することにより得ることができる。
【0019】
【化4】
(式中R1は2価の芳香族基であり、R2は4価の芳香族基である。)
本発明で用いる1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンは、高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンである。具体的には、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの濃度が5重量%、より好ましくは10重量%のテトラヒドロフラン溶液100μlを、RI検出器付きゲルパーミエーションクロマトグラフィー(カラム:ポリマーラボラトリー社製 PLgel 0.75×300mm 2本直列、移動層:テトラヒドロフラン、流速:0.75ml/min)に打ち込み観察した際に、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンより高分子量のピークが存在しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンであり、さらに好ましくは、
イ) 1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの濃度が5重量%以上のテトラヒドロフラン溶液100μlを、RI検出器付きゲルパーミエーションクロマトグラフィー(カラム:ポリマーラボラトリー社製 PLgel 0.75×300mm 2本直列、移動層:テトラヒドロフラン、流速:0.75ml/min)に打ち込み観察した際に、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンより高分子量のピークが存在せず、かつ、
ロ) 1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの10重量%ジメチルホルムアミド溶液の450nmにおける光線透過率をセル長10mmの視外可視分光高度計により測定した際に、その光線透過率が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上の
1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンである。
【0020】
1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンは、塩基の存在下、レゾルシンとp−ニトロクロロベンゼンを非プロトン性極性溶剤中で反応させ、得られた1,3−ビス(4−ニトロフェノキシ)ベンゼンを水素により還元することにより製造される。しかしながら、上記方法により得られた1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンは高分子量の不純物を含有し、さらに黄色あるいは褐色に着色している。このような1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを用いて得られるポリイミドは溶融時の熱安定性が悪く、溶融成形用途においては使用が困難である。すなわち、このようなポリイミドは、芳香族モノアミンおよび/または芳香族ジカルボン酸無水物と反応させることで末端を不活性化してもなお、溶融時に時間と共にその流動性が低下する。そのため、例えば射出成形時には、成形開始後時間と共に射出圧が上昇したり樹脂の流動長が低下し、安定した成形ができない。また、射出成形等により得られる成形物は、たとえば、1ショット目と100ショット目でその色調や物性が異なるといった問題を有する。一方、高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを用いて得られるポリイミドは溶融時の熱安定性が良好である。
【0021】
高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンは、定法により得られる1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを蒸留することにより得ることができる。蒸留は、高沸点不純物を除去することが可能であれば、蒸留塔を用いる精密蒸留や分子蒸留はもちろん、薄膜蒸発機を用いた単蒸発蒸留でも良い。蒸留条件に特に制限はなく、例えば、240℃、13.3Paあるいは300℃、67Paで蒸留することにより、留出分として溶融状態の高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンが得られる。なお、溶融状態の1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンは酸素により容易に着色するため、取り扱いは真空下もしくは不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。なお、本発明において用いられる高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンは、高分子量不純物の含有が無ければ、蒸留以外の方法によって得られたものでもよい。
【0022】
本発明で用いる式(8)で表される芳香族ジアミンとしては、具体的には、
a)ベンゼン環1個を有する、
p−フェニレンジアミン、
m−フェニレンジアミン、
b)ベンゼン環2個を有する、
3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、
3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、
3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、
3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、
4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、
3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、
3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、
4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、
3,3’−ジアミノベンゾフェノン、
3,4’−ジアミノベンゾフェノン、
4,4’−ジアミノベンゾフェノン、
3,3’−ジアミノジフェニルメタン、
3,4’−ジアミノジフェニルメタン、
4,4’−ジアミノジフェニルメタン、
2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、
2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、
2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、
2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、
2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、
2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、
1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、
1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、
1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、
c)ベンゼン環3個を有する、
1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、
1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、
1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、
1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、
1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、
1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、
1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、
1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、
1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、
1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、
1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、
1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、
2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、
d)ベンゼン環4個を有する、
4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、
4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、
ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、
ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、
ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、
ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、
2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、
2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、
2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン
等が挙げられる。本発明においては上記芳香族ジアミンの中でも、式(2)中のR1が式(6)
【化7】
となる4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニルが特に好ましい。
【0023】
本発明で用いる式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物としては、具体的には、
ピロメリット酸二無水物、
3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、
2,2',3,3'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、
2,3',3,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、
2,2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、
2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、
2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、
ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、
ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、
ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、
1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、
1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、
ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、
ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、
2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、
2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、
1,3−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、
1,4−ビス(3,4−ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、
1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、
1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、
2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、
2,2−ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、
ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ケトン二無水物、
ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ケトン二無水物、
4,4'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、
3,3'−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、
ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]エーテル二無水物、
ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]エーテル二無水物、
ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]スルホン二無水物、
ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]スルホン二無水物、
ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]スルフィド二無水物、ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]スルフィド二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、
2,2−ビス[3−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、
2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、
1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、
1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。本発明においては上記テトラカルボン酸二無水物の中でも、式(3)中のR2が、式(7)
【化8】
となるピロメリット酸二無水物が特に好ましい。
【0024】
本発明で用いる結晶性ポリイミドは、式(1)で表される繰り返し単位90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、および、式(2)または(3)で表される繰り返し単位10〜0モル%、好ましくは5〜0モル%から成るポリイミドである。式(2)または(3)で表される繰り返し単位の量が10モル%を越える場合、得られるポリイミドは結晶化速度が小さく、成形により得られた製品が十分に結晶化しないため、熱処理が必要となり好ましくない。
【0025】
なお、式(1)で表される繰り返し単位と、式(2)で表される繰り返し単位のモル分率は、モノマーとして用いる1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンと式(8)で表される芳香族ジアミンのモル分率を調整することにより制御できる。すなわち、例えば、式(1)で表される繰り返し単位95モル%および式(2)で表される繰り返し単位5モル%から成るポリイミドは、原料として1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン0.95モル当たり式(8)で表される芳香族ジアミン0.05モルおよび3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物0.9〜1.1モルを用いることにより得ることができる。
【0026】
また、式(1)で表される繰り返し単位と、式(3)で表される繰り返し単位のモル分率は、モノマーとして用いる3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物のモル分率を調整することにより制御できる。すなわち、例えば、式(1)で表される繰り返し単位95モル%および式(3)で表される繰り返し単位5モル%から成るポリイミドは、原料として3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物0.95モル当たり式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物0.05モルおよび1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン0.9〜1.1モルを用いることにより得ることができる。
【0027】
本発明で用いられる結晶性ポリイミドは、式(1)で表される繰り返し単位および式(2)または(3)で表される繰り返し単位の末端を、芳香族モノアミンおよび/または芳香族ジカルボン酸無水物と反応させ、熱的および化学的に不活性化することにより得られる。より具体的には、芳香族モノアミンおよび/または芳香族ジカルボン酸無水物と反応させることで、その分子末端が式(4)および/または(5)で示される熱的および化学的に不活性な構造となる。
【0028】
【化5】
(式中R3は下記式(10)で、R4は下記式(11)で示され、
【0029】
【化6】
R5は、水素および/またはフッ素、塩素、臭素、メチル、エチル、プロピル、ブチル、フェニル、フェノキシ、ベンゾイル、フェニルチオ、ベンゼンスルホニルを示す。)
末端を不活性化していないポリイミドは溶融時の熱安定性が悪く、溶融成形用途には使用できない。すなわち、末端がアミノ基および/または酸無水物基のポリイミドはシリンダー内で溶融させた際、その流動性が急激に低下し、成形が著しく困難あるいは不可能になる。
【0030】
本発明において用いられる芳香族モノアミンとしては、例えばアニリン、o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン、2,3-キシリジン、2,6-キシリジン、3,4-キシリジン、3,5-キシリジン、o-クロロアニリン、m-クロロアニリン、p-クロロアニリン、o-ブロモアニリン、m-ブロモアニリン、p-ブロモアニリン、o-アニシジン、m-アニシジン、p-アニシジン、o-フェネジン、m-フェネジン、p-フェネジン、2-アミノビフェニル、3-アミノビフェニル、4-アミノビフェニル、2-アミノフェニルフェニルエーテル、3-アミノフェニルフェニルエーテル、4-アミノフェニルフェニルエーテル、2-アミノベンゾフェノン、3-アミノベンゾフェノン、4-アミノベンゾフェノン、2-アミノフェニルフェニルスルフィド、3-アミノフェニルフェニルスルフィド、4-アミノフェニルフェニルスルフィド、2-アミノフェニルフェニルスルホン、3-アミノフェニルフェニルスルホン、4-アミノフェニルフェニルスルホン、α-ナフチルアミン、β-ナフチルアミン、1-アミノ-2-ナフトール、2-アミノ-1-ナフトール、4-アミノ-1-ナフトール、5-アミノ-1-ナフトール、5-アミノ-2-ナフトール、7-アミノ-2-ナフトール、8-アミノ-1-ナフトール、8-アミノ-2-ナフトール等が挙げられる。これらの芳香族モノアミンは、アミンまたはジカルボン酸無水物と反応性を有しない基で置換されても差し支えない。
【0031】
本発明において用いられる芳香族ジカルボン酸無水物として、無水フタル酸、クロロ無水フタル酸、ブロモ無水フタル酸、フルオロ無水フタル酸、2,3-ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、3,4-ベンゾフェノンジカルボン酸無水物、2,3-ジカルボキシフェニルフェニルエーテル無水物、3,4-ジカルボキシフェニルフェニルエーテル無水物、2,3-ビフェニルジカルボン酸無水物、3,4-ビフェニルジカルボン酸無水物、2,3-ジカルボキシフェニルフェニルスルホン無水物、3,4-ジカルボキシフェニルフェニルスルホン無水物、2,3-ジカルボキシフェニルフェニルスルフィド無水物、3,4-ジカルボキシフェニルフェニルスルフィド無水物、1,2-ナフタレンジカルボン酸無水物、2,3-ナフタレンジカルボン酸無水物、1,8-ナフタレンジカルボン酸無水物等が挙げられる。これらの芳香族ジカルボン酸無水物はアミンまたはジカルボン酸無水物と反応性を有しない基で置換されても差し支えない。
【0032】
本発明で用いる結晶性ポリイミドは、用いる1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、式(8)で表される芳香族ジアミンまたは式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、芳香族モノアミンおよび/または芳香族ジカルボン酸無水物の量比を調節することにより、生成ポリイミドの分子量を調節することができる。本発明において、用いる1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、式(8)で表される芳香族ジアミンまたは式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、芳香族モノアミンおよび/または芳香族ジカルボン酸無水物のモル比は、ジアミン類が過剰な場合、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンと式(8)で表される芳香族ジアミン計1モル当り、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物計0.9〜1.0モル、芳香族ジカルボン酸無水物0.001〜1.0モルである。また、酸二無水物が過剰な場合、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物計1.0モル当り、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンと式(8)で表される芳香族ジアミン計0.9〜1.0モル、芳香族モノアミン0.001〜1.0モルである。芳香族モノアミンおよび/または芳香族ジカルボン酸無水物が0.001モル未満では高温成形時に粘度の上昇がみられ、成形加工性低下の原因となる。また、1.0モルを越えると機械的特性が低下する。好ましい使用量は0.01〜0.5モルである。
【0033】
本発明で用いられるポリイミドの製造方法としては、ポリイミドを製造可能な方法が公知方法を含め全て適用できるが、中でも、有機溶媒中で反応を行うことが特に好ましい。このような反応において使用できる溶媒としては、例えばN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメトキシアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルカプロラクタム、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、1,2-ビス(2-メトキシエトキシ)エタン、ビス〔2-(2-メトキシエトキシ)エチル〕エーテル、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ピロリン、ピコリン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、フェノール、o-クレゾール、mークレゾール、p-クレゾール、3,5−キシレノール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、o−クロロフェノール、p-クロロフェノール、スルホラン、o−ジクロロベンゼン、ジフェニルエーテル、アニソール、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。特に好ましくは、フェノール、o-クレゾール、mークレゾール、p-クレゾール、p-クロロフェノールである。また、これらの有機溶媒は単独でも2種類以上混合して用いても差し支えない。
【0034】
本発明において、有機溶媒にジアミン類、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族ジカルボン酸無水物および/または芳香族モノアミンを添加、反応させる方法としては、
(イ)芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミン類を反応させた後に、芳香族ジカルボン酸無水物または芳香族モノアミンを添加して反応を続ける方法、
(ロ)ジアミン類に芳香族ジカルボン酸無水物を加えて反応させた後、芳香族テトラカルボン酸二無水物を添加し、更に反応を続ける方法、
(ハ)芳香族テトラカルボン酸二無水物に芳香族モノアミンを加えて反応させた後、ジアミン類を添加し、更に反応を続ける方法、
(ニ)芳香族テトラカルボン酸二無水物、ジアミン類、芳香族ジカルボン酸無水物または芳香族モノアミンを同時に添加し、反応させる方法等が挙げられ、いずれの添加方法をとっても差し支えない。また、ジアミン類である1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンと式(8)で表される芳香族ジアミン、あるいは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と式(9)で表されるテトラカルボン酸二無水物は、それぞれを同時に添加しても良く、一方を加えて反応させた後、他方を添加して更に反応を続けてもよい。
【0035】
反応温度は通常常温〜250℃である。反応圧力は特に限定されず、常圧で十分実施できる。なお、反応を加圧下に行うことで、溶媒の沸点を上げ、反応温度を高くすることもできる。反応時間は溶媒の種類および反応温度によって異なるが、通常4〜48時間で十分である。
【0036】
常温〜130℃で反応を行うことにより、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が生成される。このポリアミド酸を100〜400℃に加熱脱水するか、または通常用いられるイミド化剤、例えばトリエチルアミンと無水酢酸などを用いて化学イミド化することにより、式(1)で表される繰り返し単位90〜100モル%および、式(2)または(3)で表される繰り返し単位10〜0モル%で構成され、その分子末端が式(4)および/または(5)で表されるポリイミドが得られる。
【0037】
また、130〜250℃で反応を行うことにより、ポリアミド酸の生成と熱イミド化反応が同時に進行し、本発明のポリイミドを得ることができる。すなわち、ジアミン類、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族モノアミンおよび/または芳香族ジカルボン酸無水物を有機溶媒中に懸濁または溶解させ、130〜250℃の加熱下に反応を行い、ポリアミド酸の生成と脱水イミド化とを同時に行わせて、式(1)で表される繰り返し単位90〜100モル%および、式(2)または(3)で表される繰り返し単位10〜0モル%で構成され、その分子末端が式(4)および/または(5)で表されるポリイミドを得ることができる。
【0038】
本発明で用いられるポリイミドの溶融粘度に特に制限はないが、好ましくは420℃で5分間保持し溶融させた際の溶融粘度が400〜5000Pa・sec、より好ましくは600〜2000Pa・secである。溶融粘度が400Pa・sec未満のポリイミドは極めて脆く、成形品としての使用に耐えない。また、5000Pa・secより大きいポリイミドは流動性が極めて悪いため、射出成形が困難である。なお、本発明で用いられる結晶性ポリイミドは、重合時にジアミン類、芳香族テトラカルボン酸二無水物、芳香族モノアミンおよび/または芳香族ジカルボン酸無水物の量比を調整することで、その溶融粘度を所望の値とすることができる。
【0039】
本発明で用いられる結晶性ポリイミドは、420℃で5分間保持し溶融させた際の溶融粘度に比べ、420℃で30分間保持した際の溶融粘度の変化量が50%以内、好ましくは、40%以内、より好ましくは30%以内である。溶融粘度の変化量が50%より大きいと、溶融時に時間と共にその流動性が低下するため、例えば射出成形時には、成形開始後時間と共に射出圧が上昇したり樹脂の流動長が低下し、安定した成形ができないばかりか、色調や物性の安定した製品を製造することができない。なお、式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドは、原料モノマーとして高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを用い、繰り返し構造単位の末端を芳香族モノアミンおよび/または芳香族ジカルボン酸無水物と反応させることで、その分子末端を熱的および化学的に不活性な構造とした場合にのみ、その溶融粘度の変化量を50%以内とすることができる。
【0040】
ここで、ポリイミドの溶融粘度は、JisK7210流れ試験方法(参考試験)に準拠し、島津高架式フローテスター(CFT500A)により、荷重100kg(圧力9.8MPa)、420℃で測定する。また、溶融粘度の変化量は下記式により求める。
溶融粘度の変化量(%)=(420℃で30分間保持した際の溶融粘度−420℃で5分間保持し溶融させた際の溶融粘度)/(420℃で5分間保持し溶融させた際の溶融粘度)×100
なお、420℃で5分および30分保持するとは、420℃のフローテスタのシリンダー内に試料を充填し、5分間および30分間保持することを意味する。
【0041】
本発明で用いられる結晶性ポリイミドは、溶融状態から冷却速度50℃/minで冷却した際に結晶化が発現する、溶融成形用結晶性ポリイミドである。このような冷却条件においても結晶化が発現する、結晶化速度の大きい樹脂は、適当な溶融成形により十分に結晶化した成形品を得ることができる。一方、溶融状態から冷却速度50℃/minで冷却した際に結晶化が発現しない樹脂は、成形時に金型内で徐冷する、成形後にオーブン中でアニールする等、結晶化のための熱処理が必要となるため、生産性が著しく低い。なお、結晶化の発現は、例えば、溶融状態にあるサンプルを冷却速度50℃/minで冷却するDSC測定において、結晶化に伴う発熱ピークの有無を観察することにより確認できる。
【0042】
本発明の溶融成形用ポリイミド樹脂組成物は、上記結晶性ポリイミド50〜95重量%と、ガラス繊維、炭素繊維、全芳香族ポリアミド繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、またはグラファイト繊維から選ばれた1種または2種以上の繊維50〜5重量%とからなる、溶融成形用ポリイミド樹脂組成物である。
【0043】
本発明で使用される炭素繊維とはポリアクリルニトリル、石油ピッチ、レーヨン系等を主原料とし、炭化して得られる高弾性、高強度繊維を示す。本発明ではいずれも使用できる。炭素繊維の形状としてはトウや一方向長繊維、織布、マット、フエルト等の多方向連続繊維が用いられ、使用において制限はなく、いずれも使用可能である。炭素繊維は補強効果及び混合性等より、適当な直径と適当なアスペクト比(長さ/直径の比)を有するものを用いる。炭素繊維の直径は、通常5〜20μ、特に8〜15μ程度のものが好ましい。またアスペクト比は1〜600、特に混合性と補強効果より、100〜350程度が好ましい。アスペクト比が小さいと補強効果がなく、またアスペクト比が大きいと混合性が悪くなり、良好な成形品が得られない。また該炭素繊維の表面を種々の処理剤、例えばエポキシ樹脂、ボリアミド樹脂、ポリカ−ボネ−ト樹脂、ポリアセタ−ル樹脂等で処理したもの、その他目的に応じ公知の表面処理剤を使用したものも用いられる。
【0044】
本発明で使用されるガラス繊維は、溶融ガラスを種々の方法にて延伸しながら急冷し、所定直径の細い繊維状としたものであり、単繊維同志を集束剤で、集束させたストランド、ストランドを均一に引きそろえて束にしたロービング等を意味しており、本発明においてはいずれも使用できる。ガラス繊維の形状としてはヤーンやロービングがあり、種類としてはE−ガラス、S−ガラス、T−ガラス、C−ガラス、およびAR−ガラスなどがあり、使用に制限は特にない。該ガラス繊維は、本発明で使用されるポリイミドとの親和性をもたせるために、アミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤、クロミッククロライド、その他目的に応じた表面処理剤を使用することができる。ガラス繊維の長さは得られる成形品の物性及び成形品製造時の作業性に大きく影響する。一般にはガラス繊維長が大となるほど、成形品の物性は向上するが、逆に成形品製造時の作業性が悪くなる。この為、ガラス繊維の長さが本発明においては0.1〜6mm 、好ましくは0.3〜4mmの範囲にあるものが、成形品の物性と作業性とのバランスがとれているので好ましい。
【0045】
本発明で使用される芳香族ポリアミド繊維は、耐熱性有機繊維であり、多くのユニ−クな特性を生かして各分野への展開が期待されているが、例えば代表的な例として次の様な構造式などからなるものが挙げられ、少なくともこれらの1種または2種以上の混合物が用いられる。
(イ)式12
【0046】
【化7】
例)デュポン社製商品名Kevlar
(ロ)式13
【0047】
【化8】
例)デュポン社製商品名Nomexや帝人社製、商品名Comex
(ハ)
【0048】
【化9】
その他オルト、メタ、パラ位の異性構造により各種骨格の芳香族ポリアミド繊維があるが、中でも(イ)のパラ位−パラ位結合のものは軟化点及び融点が高く耐熱性有機繊維として本発明で最も好ましい。
【0049】
本発明で用いられるチタン酸カリウム繊維は高強度繊維(ウイスカー)の一種であり、化学組成として、K2O・6TiO2、K2O・6TiO2・1/2H2Oを基本とする針状結晶であり、代表的融点は、1300〜1350℃である。平均繊維長は5〜50μm、平均繊維径は0.05〜1.0μmのものが適用されるが、平均繊維長は20〜30μm、平均繊維径は0.1〜0.3μmのものが好ましい。該チタン酸カリウム繊維は、通常無処理で使用可能であるが、本発明で用いられるポリイミドとの親和性を向上させるために、アミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤、クロミッククロライド、その他目的に応じた表面処理剤を使用することができる。
【0050】
本発明で用いられる炭化ケイ素繊維、金属繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、またはグラファイト繊維には特に制限はなく、目的に合わせて、あらゆる形状、種類、繊維径および繊維長の繊維が使用可能であり、目的に応じて表面処理を実施してもよい。
【0051】
本発明で用いられる繊維は目的によって1種または2種以上組合せて使用ができ、量比関係は任意に設定できる。
【0052】
本発明で用いられる繊維の選択に当たっては繊維の持つ強度、弾性率、破断伸度といった機械的特性、電気的特性、比重等を基に要求特性に合わせて選択すべきである。例えば比強度、比弾性率への要求値が高い場合は、炭素繊維、ガラス繊維等を選択すべきであり、また電磁波シールド特性が要求される場合は炭素繊維、金属繊維等が好ましい。また更に電気絶縁特性が要求される場合はガラス繊維等が好適である。このように使用目的によって用いる繊維の種類を選択することができるが、本発明の目的の一つである高温での機械特性の向上を達成させるために効果がある繊維補強材は、ガラス繊維と炭素繊維であり、最も好ましくは炭素繊維である。
【0053】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、溶融成形用結晶性ポリイミド50〜95重量%と用いる1種または2種以上組合せた繊維50〜5重量%とからなる。重量%値は目的や要求性能によって決定されるものであるが、繊維特有の補強効果と成形加工性の両面を考慮すると、用いる繊維の好ましい量は10〜30重量%である。用いる繊維が5重量%未満では繊維特有の補強効果は得られず、また逆に50重量%を超える量を使用すると成形加工性が低下し満足な成形品を得ることが困難となる。
【0054】
本発明によるポリイミド樹脂組成物は通常公知の方法により製造できるが特に次に示す方法が好ましい。
▲1▼ポリイミドの粉末と用いる各種繊維を乳鉢、ヘンシェルミキサー、ドラムブレンダー、タンブラーブレンダー、ボールミル、リボンブレンダーなどを利用して予備混合した後、通常公知の溶融混合機、熱ロール等で混練したのち、ペレット又は粉状にする。
▲2▼ポリイミドの粉末をあらかじめ有機溶媒に溶解あるいは懸濁させ、この溶液あるいは懸濁液に用いる各種繊維を加えた後、有機溶媒を適当な方法乾燥して除去し、▲1▼と同様にしてペレット又は粉状にする。用いる有機溶剤の種類や溶液の濃度には特に制限がなく、有機溶媒は単独でも2種以上の有機溶媒を混合しても差支えない。
【0055】
本発明のポリイミド樹脂組成物は、溶融成形に供する際に、本発明の目的を損なわない範囲で他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリフェニルスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、変成ポリフェニレンオキシド、本発明で用いられるポリイミド以外のポリイミド等を目的に応じて適当量を配合することも可能である。
【0056】
更に、通常の樹脂組成物に使用する次のような充填剤等を発明の目的を損なわない範囲で用いてもよい。すなわち、グラファイト、カーボランダム、ケイ石粉、二硫化モリブデン、フッ素系樹脂などの耐摩耗性向上剤、三酸化アンチモン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の難燃性向上剤、クレー、マイカ等の電気的特性向上剤、アスベスト、シリカ、グラファイト等の耐トラッキング向上剤、硫酸バリウム、シリカ、メタケイ酸カルシウム等の耐酸性向上剤、鉄粉、亜鉛粉、アルミニウム粉、銅粉等の熱伝導度向上剤、その他ガラスビーズ、ガラス球、タルク、ケイ藻度、アルミナ、シラスバルン、水和アルミナ、金属酸化物、着色料等である。
【0057】
本発明の溶融成形用ポリイミド樹脂組成物は、押出成形、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形などの公知の溶融成形法により成形され、実用に供される。本発明の溶融成形用ポリイミド樹脂組成物は結晶化速度が大きいため、成形を適切な条件下に行うことにより、十分に結晶化した成形品を得ることができる。また、成形後に熱処理(アニール処理)を施すことにより結晶化させることもできる。本発明の溶融成形用ポリイミド樹脂組成物は結晶化させることにより、非晶質の状態に比べ軟化温度が大幅に上昇し、高い温度での使用が可能となる。このようにして成形された本発明で用いられる結晶性ポリイミドは、耐熱性、機械物性が優れており、構造部材、機械部品、自動車部品等に使用でき、たいへん有用である。
【0058】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
【0059】
なお、1,3−ビス(4−ニトロフェノキシ)ベンゼンおよび1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンは以下の方法により分析した。
見かけの純度:サンプルの25重量ppmアセトニトリル溶液を調整し、高速液体クロマトグラフィー(カラム:JASCO社製ODS系カラム CrestPak C18T-5 4.6×250mm、移動層:アセトニトリル/水=6/4、流速1.0ml/min、打ち込み量20μl)を用い、測定波長250nmにおける吸収エリアパーセントより求めた。
高分子量不純物の有無:サンプルの5重量%テトラヒドロフラン溶液を調整し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(カラム:ポリマーラボラトリー社製 PLgel 0.75×300mm 2本直列、移動層:テトラヒドロフラン、流速:0.75ml/min、打ち込み量100μl)を用い、RI検出器により確認した。
色調:サンプルの10重量%ジメチルホルムアミド溶液を調整し、視外可視分光高度計(セル長10mm)を用い、450nmにおける光線透過率(T%)を測定した。
【0060】
また、ポリイミドの物性は以下の方法により測定した。
5%重量減少温度:空気中にてDTG(島津DT−40シリーズ、DTG−40M)により測定。
対数粘度(ηinh):p−クロロフェノール/フェノール(重量比9/1)混合溶媒にポリイミド粉を0.5g/100gの濃度で溶解した後、35℃において測定。
溶融粘度:JisK7210流れ試験方法(参考試験)に準拠し、島津高架式フローテスター(CFT500A)により、荷重100kg(圧力9.8MPa)、420℃で測定。
熱安定性:溶融時の樹脂の熱安定性の指標として、420℃で5分間および30分間保持した際の溶融粘度の変化量を求めた。
溶融粘度の変化量(%)=(420℃で30分間保持した際の溶融粘度−420℃で5分間保持し溶融させた際の溶融粘度)/(420℃で5分間保持し溶融させた際の溶融粘度)×100
なお、420℃で5分および420℃で30分保持するとは、420℃のフローテスタのシリンダー内に試料を充填し、5分間および30分間保持することを意味する。
結晶化挙動:DSC(セイコー電子工業社EXSTAR6200)により、冷却時の結晶化温度(Tc)、結晶化エネルギー(ΔHc)、および、2回目の昇温時の結晶化温度(Tc)、結晶化エネルギー(ΔHc)、融点(Tm)、融解エネルギー(ΔHm)を測定。DSC測定時の加熱冷却パターンは以下の3段階ステップによる。
【0061】
▲1▼ 室温 → (昇温速度10℃/min) → 430℃
▲2▼ 430℃ → (冷却速度50℃/min) → 50℃
▲3▼ 50℃ → (昇温速度10℃/min) → 430℃
なお、冷却時の結晶化エネルギー(ΔHc)が大きいほど、冷却後のポリイミドの結晶化度が高いことを意味する。
【0062】
合成例1
和歌山精化社より購入した1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンをスミス型薄膜蒸発機(神鋼パンテック社製2−03型薄膜蒸留装置、加熱伝熱面積0.034m2、ローター回転数450rpm)にて単蒸発蒸留し、高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン9700gを得た。なお、蒸留は、伝熱面温度270℃、真空度17.3Pa(0.13Torr)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン供給速度4.2g/分で行った。留出物である高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンは溶融時は薄黄色透明で、冷却固化後は薄く橙がかった白色だった。蒸留残渣426gは黒褐色のタール状で流動性はほとんど無かった。
【0063】
得られた高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの見かけの純度は99.2%で高分子量不純物は確認されなかった。また、その光線透過率T%は69.3%であった(図2参照)。またGPCチャートを図1に示す(なお、図中、測定時期が異るため、リテンションタイムの異るものがある)。
【0064】
攪拌機、還流冷却器、および窒素導入管を備えた0.1m3の反応機に、該高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン877.1g(3.0mol)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物857.9g(2.916mol)、無水フタル酸24.88g(0.168mol)、m−クレゾール15.0kgを装入し、窒素雰囲気下において撹拌しながら200℃まで加熱昇温した。その後200℃で8時間反応を行い、無水フタル酸24.88g(0.168mol)を添加してさらに4時間反応を行った。その間に、約110mlの水の留出が確認された。なお、反応中、マスは薄黄色透明であった。
【0065】
反応終了後室温まで冷却し、トルエン37.5kgを約2時間かけて滴下してポリイミドを析出させた。該スラリー液を濾過、得られたポリイミドケーキをトルエンで洗浄した後、窒素中300℃で4時間乾燥して黄色のポリイミド粉1580g(収率95.6%)を得た。
【0066】
得られたポリイミド粉の対数粘度は1.00dl/gであった。また、このポリイミド粉の融点は398℃、5%重量減少温度は571℃であった。
【0067】
このポリイミド粉をフローテスターのシリンダー内で420℃で5分間および30分間保持し溶融させた際の溶融粘度は960および1120Pa・secであり、溶融粘度の変化量16%と良好な熱安定性を示した。
【0068】
合成例2
合成例1で得られた高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン833.2g(2.85mol)、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル55.3g(0.15mol)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物856.2g(2.91mol)、無水フタル酸26.7g(0.18mol)を用い、合成例1と同様にして黄色のポリイミド粉1589g(収率95.5%)を得た。
【0069】
得られたポリイミド粉の対数粘度は0.98dl/gであった。また、このポリイミド粉の融点は386℃、5%重量減少温度は570℃であった。
【0070】
このポリイミド粉をフローテスターのシリンダー内で420℃で5分間および30分間保持し溶融させた際の溶融粘度は1220および1400Pa・secであり、溶融粘度の変化量15%と良好な熱安定性を示した。
【0071】
実施例1〜8
合成例1または2で得られたポリイミド粉とガラス繊維または炭素繊維(東邦レイヨン製:HTA−C6−TX)、芳香族ポリアミド繊維またはチタン酸カリウム繊維(大塚化学薬品製:ティスモ−D,平均繊維長20μm)を表1に示した割合で混合した後、25mm径の単軸押出機により420℃で溶融押し出し、ペレットを得た。
【0072】
得られたペレットを用い、シリンダー温度420℃、金型温度210℃、射出圧147MPaで各種試験片を成形し、引張強度(ASTM D−638)および荷重たわみ温度(ASTM D−648)を測定した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
表1より明らかなように、本発明の溶融成形用ポリイミド樹脂組成物は、優れた耐熱性と高い強度を有している。
【0074】
参考例1
合成例1で得られたポリイミド粉を25mm径の単軸押出機により420℃で溶融押し出しし、黄色不透明のペレットを得た。なお、溶融状態で押し出された透明の樹脂はダイスを出た直後に結晶化し不透明になった。
【0075】
得られたペレットを用い、シリンダー温度420℃、金型温度200℃、射出圧147MPa、流動肉厚1mm、成形サイクル120秒でスパイラル流動長を測定した。1ショット目と10ショット目の流動長の比率を溶融時の流動性保持率とし、流動安定性の指標とした。結果を以下に示す。
【0076】
スパイラル流動長( 1ショット目) 390mm
スパイラル流動長(10ショット目) 380mm
流動性保持率 97%
また、得られたペレットを通常の射出成型機を用い、シリンダー温度420℃、金型温度200℃、射出圧147MPaで各種試験片を成形した。なお、得られた試験片は金型内で結晶化していた。
【0077】
1〜5ショット目で得られた試験片および20〜25ショット目で得られた試験片を用い、ASTM D−638に準じて引張強度を、D−790に準じて曲げ強度を、D−256に準じてアイゾット衝撃強度(ノッチ付き)を測定した。結果を以下に示す。
【0078】
1〜5ショット平均
引張強度 148 MPa
引張伸度 7 %
曲げ強度 310 MPa
曲げ弾性率 6420 MPa
アイゾット衝撃強度 70 N・cm/cm
20〜25ショット平均
引張強度 148 MPa
引張伸度 7 %
曲げ強度 310 MPa
曲げ弾性率 6420 MPa
アイゾット衝撃強度 70 N・cm/cm
本結果より明らかなように、本発明で用いるポリイミドは成型時の樹脂流動性の変化や物性の変化が無く、安定した成形や物性の安定した製品を製造することができる。
【0079】
参考例2
合成例2で得られたポリイミド粉を用い、参考例1と同様にしてペレットを得、流動安定性と、各種機械物性を測定した。結果を以下に示す。
【0080】
スパイラル流動長( 1ショット目) 280mm
スパイラル流動長(10ショット目) 280mm
流動性保持率 100%
1〜5ショット平均
引張強度 140 MPa
引張伸度 7 %
曲げ強度 290 MPa
曲げ弾性率 6040 MPa
アイゾット衝撃強度 70 N・cm/cm
20〜25ショット平均
引張強度 140 MPa
引張伸度 7 %
曲げ強度 290 MPa
曲げ弾性率 6020 MPa
アイゾット衝撃強度 70 N・cm/cm
本結果より明らかなように、本発明で用いるポリイミドは成型時の樹脂流動性の変化や物性の変化が無く、安定した成形や物性の安定した製品を製造することができる。
【0081】
参考比較例1
和歌山精化社より購入した1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(図1および図2参照)を用いた以外は合成例1に従い、ポリイミド粉1556g(収率94.2%)を得た。ここで、用いた1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンは淡茶色で、見かけの純度は99.7%であるが、GPCにより高分子量不純物の存在が確認された。また、そのT%は24.9%であった。
【0082】
得られたポリイミド粉の対数粘度は1.11dl/g、融点は397℃、5%重量減少温度は568℃であった。
【0083】
このポリイミド粉をフローテスターのシリンダー内で420℃で5分間および30分間保持し溶融させた際の溶融粘度は1820および3240Pa・sec、溶融粘度の変化量は78%であり、合成例1、2に比べ、明らかに熱安定性が劣っていた。
【0084】
合成例1と同様にしてペレットを得、流動安定性と、各種機械物性を測定した。なお、1〜5ショット目で得られた試験片に比べ、20〜25ショット目で得られた試験片は緑がかっていた。結果を以下に示す。
【0085】
スパイラル流動長( 1ショット目) 290mm
スパイラル流動長(10ショット目) 160mm
流動性保持率 55%
1〜5ショット平均
引張強度 125 MPa
引張伸度 5 %
曲げ強度 260 MPa
曲げ弾性率 9280 MPa
アイゾット衝撃強度 50 N・cm/cm
20〜25ショット平均
引張強度 130 MPa
引張伸度 4 %
曲げ強度 270 MPa
曲げ弾性率 12060 MPa
アイゾット衝撃強度 30 N・cm/cm
本結果より明らかなように、本例のポリイミドは成型時に時間の経過と共に樹脂の流動性が低下すると共に、得られた試験片の色調、物性も変化し、安定した成形や物性の安定した製品を製造することは困難であった。
【0086】
参考例3
和歌山精化社より購入した1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン130.2gをガラスキャピラリーにより窒素ガスを導入したナス型フラスコ中で270℃に加熱、溶解させ、油拡散ポンプにより内圧を13.3Paとすることで内容物を単蒸発留去し、留出物として高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン100.9gを得た(図1および図2参照)。なお、留出蒸気の温度は240℃で、留出した1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンは溶融時は無色透明、凝固後は白色であった。得られた高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの見かけの純度は99.2%で高分子量不純物は確認されなかった。また、そのT%は93.7%であった。
【0087】
攪拌機、還流冷却器、および窒素導入管を備えたフラスコに、該高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン8.595g(29.4mmol)、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル0.221g(0.6mmol)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物8.606g(29.25mmol)、無水フタル酸0.222g(1.5mmol)、m−クレゾール158.8gを装入し、窒素雰囲気下において撹拌しながら200℃まで加熱昇温した。その後200℃で8時間反応を行い、無水フタル酸0.222g(1.5mmol)を添加してさらに4時間反応を行った。その間に、約1.1mlの水の留出が確認された。なお、反応中、マスは薄黄色透明であった。
【0088】
反応終了後室温まで冷却し、トルエン330gを約1時間かけて滴下してポリイミドを析出させた。該スラリー液を濾過、得られたポリイミドケーキをトルエンで洗浄した後、窒素中300℃で4時間乾燥して黄色のポリイミド粉15.77g(収率95.2%)を得た。
【0089】
得られたポリイミド粉の対数粘度は1.04dl/gであった。また、このポリイミド粉の融点は390℃、5%重量減少温度は570℃であった。このポリイミド粉の結晶化挙動を表2に示す。
【0090】
このポリイミド粉をフローテスターのシリンダー内で420℃で5分間および30分間保持し溶融させた際の溶融粘度は1460および1750Pa・secであり、溶融粘度の変化量20%と良好な熱安定性を示した。なお、得られたストランドは結晶化しているため黄色不透明であった。
【0091】
参考例4
参考例3で得られた高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン7.894g(27.0mmol)と、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル1.105g(3.0mmol)を用いた他は参考例1に従い、ポリイミド粉15.90g(収率94.9%)を得た。
【0092】
得られたポリイミド粉の対数粘度は1.05dl/g、融点は382℃、5%重量減少温度は569℃であった。このポリイミド粉の結晶化挙動を表2に示す。
【0093】
このポリイミド粉をフローテスターのシリンダー内で420℃で5分間および30分間保持し溶融させた際の溶融粘度は1850および2260Pa・secであり、溶融粘度の変化量22%と良好な熱安定性を示した。なお、得られたストランドは結晶化しているため黄色不透明であった。
【0094】
参考比較例2
参考例3で得られた高分子量不純物を含有しない1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン7.017g(24.0mmol)と、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル2.211g(6.0mmol)を用いた他は参考例3に従い、ポリイミド粉16.06g(収率94.6%)を得た。
【0095】
得られたポリイミド粉の対数粘度は1.05dl/g、融点は360℃、5%重量減少温度は565℃であった。このポリイミド粉の結晶化挙動を表2に示す。表2に示した通り、このポリイミドは参考例3、4に比べ、結晶化が遅かった。
【0096】
このポリイミド粉をフローテスターのシリンダー内で420℃で5分間および30分間保持し溶融させた際の溶融粘度は2900および3490Pa・secであり、溶融粘度の変化量20%と良好な熱安定性を示したが、得られたストランドは結晶化が不十分のために透明であった。
【0097】
【表2】
【0098】
【発明の効果】
本発明は、安定した溶融成形が可能で、安定した色調、物性を有する製品を製造することができるとともに、成形により得られた製品が熱処理を施さなくても十分に結晶化し、高い耐熱性、すなわち、ガラス転移温度以上の温度でも十分な機械強度を有する、熱安定性の高い溶融成形用ポリイミド樹脂組成物を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】用いた1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンのGPCチャートである。
【図2】用いた1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの光線透過率チャートである。
Claims (5)
- 下記式(1)で表される繰り返し単位90〜100モル%、および下記式(2)または(3)で表される繰り返し単位10〜0モル%で構成され、その分子末端が式(4)および/または(5)で表される420℃で5分間保持し溶融させた際の溶融粘度に比べ、420℃30分間保持した際の溶融粘度の変化量が50%以内である結晶性ポリイミド50〜95重量%と、ガラス繊維、炭素繊維、全芳香族ポリアミド繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、金属繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、またはグラファイト繊維から選ばれた1種または2種以上の繊維50〜5重量%とからなる、溶融成形用ポリイミド樹脂組成物。
- 結晶性ポリイミドが、溶融状態から冷却速度50℃/minで冷却した際に結晶化が発現するポリイミドである、請求項1記載の溶融成形用ポリイミド樹脂組成物。
- 請求項1から4記載の溶融成形用ポリイミド樹脂組成物から得られる射出成形物。
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