JP3709990B2 - 高性能水溶性金属加工油剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、切削、研削加工をはじめとし、塑性加工などの金属加工へも広く適用できる水溶性金属加工油剤に関し、特に、潤滑性能の向上した優れた効果を発揮する水溶性金属加工油剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
切削、研削加工分野に広く用いられる切削油剤には、鉱油をベースにした非水溶性切削油剤と、鉱油、界面活性剤、有機アミン等を含有し、水に希釈して使用する水溶性切削油剤とがある。そして、これらの切削油剤には、油剤の潤滑性能を向上させるために、極圧添加剤と呼ばれる化合物を添加処方する場合がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この極圧添加剤の代表的化合物としては、含塩素化合物、含硫黄化合物、含モリブデン化合物等が挙げられる。金属加工油剤は使用後には廃油が発生するため、例えば、その廃油を燃焼処理した場合には、塩素ガス、塩化水素ガス、硫黄酸化物ガス等の発生による焼却炉の損傷、及び寿命低下につながる。また、一部の塩素系添加剤においてはダイオキシンの発生が認められている。一方、モリブデン化合物は、PRTR法の規制対象となったため厳重な管理が必要とされる。
【0004】
これらの極圧添加剤は、油剤の潤滑性能を向上させるためには必要不可欠な化合物であるが、近年の地球資源の節約、地球環境悪化防止の観点から、従来よりも一層地球環境を汚染しない油剤、更にはできるだけ工具などの寿命を延ばすような油剤の開発が求められている。
【0005】
このような問題を解決するために、液成分中に窒化硼素微粉末を有効量分散含有させた高性能潤滑油が本発明者らによってすでに開発されている(例えば、特許文献2参照。)。これらの潤滑油は、含有する窒化硼素の効果によって切削用、研削用及び/又は研磨用に優れた性能を発揮することが確認されているが、非水溶性の切削油として使用する場合には優れた効果を発揮するものの、引火の危険性があり大量の油剤を必要とする大型の設備では火災対策上水溶性切削油が使用されることが多くなっている。一方、窒化硼素は切削油剤に極圧剤として使用すると刃物が長持ちしたり、切削速度を挙げられる等、コストや作業効率の面で多くの特徴があるが、固体であるため切削油剤に溶かし込むことができず、また、比重が約2.27と大きいために、切削油剤に直接分散させて使用すると沈降するという問題がある。また、無機系固体潤滑剤を含有する水分散型塑性加工用潤滑剤が報告されているが(例えば、特許文献3参照。)、鍛造、圧延、伸線、押出し等の塑性加工する際の潤滑油に限定され、油滴の大きさは使用される固体潤滑剤の粒径から推定すると、50μm強、小さくても5μm強とかなり大きな粒子状になるように意図されている。これに対して、切削用、研削用、及び研磨用等の金属加工では、性能の点から細かい方が好ましく、一般的なエマルジョンタイプと呼ばれる水溶性切削油剤の油滴の粒径は2〜5μmであり、循環再使用での濾過装置の使用を考えると、5μm以下に揃えることが望ましいが、これらに適応できない。従って、水溶性で且つ窒化硼素の分散性の良い高性能の金属加工用潤滑剤が求められている。
【0006】
【特許文献1】
特開平11−166190号公報
【特許文献2】
特許第2911113号公報
【特許文献3】
特開平10−316989号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、二硫化モリブデン等の重金属を含まず、且つ廃棄処理時にダイオキシン等の有害物質を発生しない、環境に優しい水溶性金属加工油剤を提供することを目的とする。
【0008】
また、極圧剤として用いる窒化硼素微粉末が凝集して沈降するという問題点を解決し、ユーザーの使用時における攪拌・再分散を不要にする等、取扱が容易な、かつ火災の心配の少ない水溶性金属加工油剤を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するものであって、水溶性金属加工油剤に含まれる極圧剤としての窒化硼素微粉末、特に、優れた分散性と潤滑性を有する結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末を基油に分散し、その混合物を微細化して水に乳化し、水中油滴型エマルジョンとすることによって、油と水の界面で窒化硼素微粉末をそれぞれ微量に分割・隔離して再凝集を防ぎ、その界面内に油とともに閉じこめることによって、油の浮力によって窒化硼素微粉末の沈降を抑えられることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、第一の視点において、本発明の水溶性金属加工油剤は、基油に結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末を有効量分散させた油系を、乳化剤を用いて水系に乳化させた形態からなり、前記油系の平均粒径は2μm未満であることを特徴とするものであって、前記窒化硼素微粉末が微粒子状に分散乳化されて沈降が抑えられることにより改善された分散性及び乳化安定性を有する。第二の視点において、本発明の水溶性金属加工油剤は、基油に一次粒子の平均粒径が1μm以下の結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末を有効量分散させた油系を、乳化剤を用いて水系に乳化させた形態からなり、前記油系の平均粒径は2μm未満であることを特徴とするものであって、前記窒化硼素微粉末が微粒子状に分散乳化されて沈降が抑えられることにより改善された分散性及び乳化安定性を有する。
【0011】
第三の視点において、本発明の水溶性金属加工油剤は、基油に結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末を有効量分散させた油系を、乳化剤を用いて水系に乳化させた混合液を希釈した形態からなり、前記油系の平均粒径は2μm未満であり、窒化硼素微粉末の含有量が全組成物を基準として0.001重量%以上0.1重量%未満であることを特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明の水溶性金属加工油剤を構成する潤滑油基油としては、鉱油、合成油、動植物油、又はこれらの混合物を用いることができる。この鉱油、合成油、動植物油については、一般に金属加工油の基油として用いられているものであればよく、特に制限はない。鉱油としては、例えば、ISO VG10からISO VG 460の精製鉱油が好ましく、パラフィン系、ナフテン系の何れでもよい。一方、合成油としては、ポリオールエステル、ポリグリコール、ポリαオレフィン、αオレフィン、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、アルキルベンゼン、及びポリエーテルなどを用いることができる。また動植物油としては、牛脂、菜種油、大豆油、ひまわり油、サンフラワー油、ひまし油、椰子油、椰子殻油などを用いることができる。これらの基油は、それぞれ単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油、合成油、動植物油を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
本発明の水溶性金属加工油剤を構成する窒化硼素微粉末は、黒鉛等の他の固体潤滑剤と比べて化学的に安定であり、空気中では1000℃近くまで酸化されないという特徴がある。窒化硼素(BN)は硼素と窒素からなる化合物であるが、窒化硼素には炭素とほぼ同じ結晶構造を有する多型が存在し、無定型窒化硼素(以下、「a−BN」という。)、六角形の網目層が二層周期で積層した構造を有する六方晶系の窒化硼素(以下、「h−BN」という。)、六角形の網目層が三層周期で積層した構造の菱面体晶窒化硼素(以下、「r−BN」という。)、六角形の網目層がランダムに積層した乱層構造の窒化硼素(以下、「t−BN」という。)及び高圧相の立方晶窒化硼素(以下、「c−BN」という。)が知られている。
【0014】
h−BN結晶には六方晶系の黒鉛結晶と同様の劈開性があって良好な固体潤滑性を示すことが知られている。h−BN結晶の潤滑性の由来は、黒鉛の場合と同じく二次元の六角網目層間の結合が弱いファンデアファールス結合であり、この面で顕著な劈開性を示し、層間で鱗片状に劈開した結晶粒子が互いに滑りやすいという性質があるためであると考えられる。
【0015】
本発明では二次元の結晶構造が発達しているが、層間の積層状態はh−BNほど発達せず、六角形の網目層がランダムに積層して乱層構造を有する結晶性窒化硼素を結晶性t−BNという。この結晶性t−BNの特徴的な構造は、粉末X線回折図を測定することにより得られる特徴的なピークによって規定することができ、例えば、特開平10−203807号公報の図2に示される回折パターンを有する。
【0016】
結晶性t−BN微粉末は、例えば、無水硼酸及び尿素(さらに任意成分として硼酸ナトリウム等の硼酸アルカリ)を含む混合原料を非酸化性雰囲気中とした反応容器中で加熱し、約1100℃以下(好ましくは950℃以下)で反応させてa−BNを生成させ、次いで反応生成物を1200℃以上1500℃以下(好ましくは1200〜1400℃、より好ましくは1250〜1350℃)で加熱し、a−BNをt−BNに結晶化させることによって高収率で合成できる。得られた反応物を(好ましくは熱水で)水洗(必要に応じ酸洗をも含む)して精製し、アルカリや酸化硼素等の可溶性成分を除けば、一次粒子の平均粒径1μm以下の結晶性t−BNの微粉末を高収率で製造でき、安価に量産できる。この合成方法によれば、結晶化させる温度と時間を変化させることによって一次粒子の粒径を変化させることができ、h−BNと結晶性t−BNの共存する窒化硼素粉末を合成することができる。この合成方法は、特開平10−203807号公報に詳細に説明されており、必要に応じその内容は本願に引用を持って援用される。
【0017】
上記により合成され、精製された結晶性t−BNは通常粒径が1μm以下の微細な一次粒子が凝集した二次粒子となっているが、強制的に分散させれば大部分が一次粒子である結晶性t−BN微粉末の分散体とすることができる。分散は必要に応じ(ジルコニア質等の)セラミックスのビーズやボールを粉砕メディアとするアトリションミル、ボールミル、その他(2本式又は3本式を含む)ロール式の剪断性ミル等を用いての湿式粉砕、あるいはジェットミル等の乾式粉砕により、例えば平均粒径が1μm以下(好ましくは平均粒径が0.5μm以下、さらに0.3μm以下、最も好ましくは0.1μm以下)の微細な一次粒子にまで解砕、かつ解離できる。この結晶性t−BN微粉末にはa−BN粉末に見られるような吸湿性がなく、安定で耐酸化性もある。前述の製造方法によれば、h−BNについても同様な粒度分布を有する微粉末の提供が可能であり、h−BNを部分的に含有する主として結晶性t−BNからなる結晶性窒化硼素微粉末も量産可能である。即ち、結晶性t−BN微粉末は1450℃以上で熱処理するとh−BNへの転化が始まり、t−BNとh−BNが混在した粉末になる。水溶性金属加工油剤中に分散させる窒化硼素微粉末は結晶性t−BN微粉末の割合が多ければ優れた潤滑性を発揮する。優れた潤滑性を発揮させるため、好ましくは水溶性金属加工油剤に含まれる窒化硼素微粉末の50重量%以上(70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上)を結晶性t−BN微粉末とするのが好ましい。窒化硼素微粉末中の結晶性t−BN微粉末の含有割合は、粉末X線回折により得られる回折線の強度(回折線の有する面積)を、混合割合が既知の標準の窒化硼素微粉末の粉末X線回折の強度と比較することによって測定できる。
【0018】
h−BN粉末及び結晶性t−BN微粉末はいずれも劈開性を有する結晶粒子からなり、h−BN微粉末及び結晶性t−BN微粉末、特に結晶性t−BN微粉末は優れた固体潤滑性を示す。
【0019】
h−BNや結晶性t−BNの窒化硼素微粉末は、細かい方が少ない添加量でも良好な潤滑効果を示す。このため、水溶性金属加工油剤中の窒化硼素微粉末の平均粒径は二次粒子を含めて、1μ以下とするのが好ましい。窒化硼素微粉末をミル等で粉砕すれば、二次粒子を細かい一次粒子からなる微粉末にまで比較的容易に分散できる。
【0020】
水溶性金属加工油剤中の窒化硼素微粉末の混合量は、その使用条件によって適切で経済的な含有量が存在するが、良好な潤滑効果を付与できると共に広範な潤滑条件をカバーできることから、加工時(希釈状態)での水溶性金属加工油剤中の窒化硼素微粉末の混合量は0.001重量%以上0.1重量%未満であり、その原液状態においては0.1〜35重量%とするのが好ましい。その理由は、(原液状態において)混合量が0.1重量%以下では得られる潤滑効果が小さく、35重量%を超えて混合すると均一に分散することが難しく、流動性が損なわれるので、良好な潤滑特性の発揮が難しくなるからである。潤滑性をコストパフォーマンスよく発揮させるためには、窒化硼素微粉末の混合量を0.1〜25重量%とするのが特に好ましい。
【0021】
二次元の結晶構造が発達した結晶性t−BN微粉末は、その一次粒子の形状が略円板状又は略球形状を呈し、且つ優れた潤滑性能を有する。その一次粒子の形状は走査型電子顕微鏡(SEM)の写真によって観察することができ、例えば、特開平10−203807号公報の図5のSEM写真のような形状である。結晶性t−BN微粉末の添加が水溶性金属加工油剤に優れた潤滑性を付与し得ることから、本発明においては好ましくは水溶性金属加工油剤中に含まれる窒化硼素微粉末の一次粒子の50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、(最も好ましくは実質的に全て)が略円板状又は略球形状である。結晶性t−BN微粉末の一次粒子がh−BNの結晶粒子のように六角板状にならないのは、結晶性t−BNが二次元網目層の層と層の間の積層関係に規則性を持たないためであると理解される。
【0022】
本発明の水溶性金属加工油剤を構成する乳化剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、又はこれらの混合物を用いることができる。乳化剤のHLB(hydrophile-lipophile balance、親水-親油平衡)は、潤滑油基油に鉱油を使用する場合、好ましくは10〜18程度、さらに好ましくは12〜16である。潤滑油基油に合成油や動植物油を使用したり、添加剤の添加量が多い場合は、HLBが異なる可能性があるので、都度確認を要する。また乳化剤の含有量は、全組成物を基準として好ましくは0.1〜30重量%、さらに好ましくは0.1〜20重量%である。
【0023】
陰イオン性界面活性剤としては、(1)天然の牛脂やヤシ油、パーム油などを原料とした石鹸、ロジン石鹸、アルキルエーテルカルボン酸塩等のカルボン酸塩、(2)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、αオレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ナフタレンスルホン酸塩等のスルホン酸塩、(3)アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩等の硫酸エステル塩、(4)リン酸エステル塩、アシル-N-メチルタウリン塩等があり、また非イオン性界面活性剤としては、(5)グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル等のエステル型、(6)ポリオキシエチレンアルキルエーテル、同成分中の酸化エチレンの一部を酸化プロピレンに代えたもの、ポリオキシエチレンアルキルフヱニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレングリコール等のエーテル型、(7)エステル・エーテル型、(8)脂肪酸アルカノールアミド型、アルキルポリグリコシド等、その他の非イオン性界面活性剤があるが、界面活性剤は基油や他の添加剤等との相性があり、組合せによっては乳化が不安定になることもあるので、適宜選択、確認して使用することが好ましい。
【0024】
本発明の水溶性金属加工油剤は、以上に述べた基油、窒化棚素微粉末、乳化剤を用い、基油に窒化棚素微粉末を分散含有させた油の系を水の系に加え、ミキサー、ホモジナイザー、又はコロイドミル等の攪拌混合機、好ましくはホモジナイザーを使って高速攪拌することにより微粒子状に分散乳化させる。
【0025】
この高速攪拌に先立ち、窒化棚素微粉末は、各種ミルやミキサー、ホモジナイザー等を使用して、基油と共に解砕混合して十分細かく均質に分散させる。好ましくは事前に、窒化棚素微粉末を少量の基油で解砕混合すると、窒化棚素微粉末同士の衝突が増え、より細かく解砕することができる。このようにして分散、乳化させた窒化棚素微粉末を含有する油滴の平均粒径は2μm以下、好ましくは1μm以下であり、細かくなることによって窒化棚素微粉末の沈降を防止し、分散が安定化すると同時に、より安定な潤滑作用を発揮する。
【0026】
乳化剤も、この高速攪拌前に、油の系又は水の系のどちらか一方にその全量を添加するか、又はこれらの両方の系に適宜分割して添加し、よく混合攪拌しておく。好ましくは選択された乳化剤が適度に溶解するまで、一般には60℃程度まで加熱して、混合攪拌する。また乳化剤の有無に関わらず、油系及び水系の両方を加熱しておくと、乳化がより容易となり好ましい。乳化後は、乳化状態を安定させるため、好ましくは常温近くまで強制的に冷却する。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、使用条件に合わせて前記油系及び/又は水系に酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐敗防止剤、防錆剤、油性向上剤、極圧添加剤、消泡剤等を添加する。
【0028】
油系に添加剤を添加する場合、60℃程度に加熱してから添加すると粘度が低下して扱いやすくなる。また添加後は油系を60℃まで加熱して混合すると分散しやすくなり好ましい。なお添加剤の添加は基油に窒化棚素微粉末を分散含有させた後に行うのが好ましい。これは先に添加剤を添加すると、窒化棚素微粉末の解砕が妨げられ、凝集を取り除きにくくなるためである。水系に添加剤を添加する場合、乳化冷却後、乳化状態が安定してから、乳化物にミキサーやホモジナイザー等を使って混練りすることが好ましい。乳化前に添加する場合は、事前に乳化安定を阻害しないことを確認する必要がある。また水に溶け難い添加剤を添加する場合は、他の水に溶けやすい添加剤に、事前に溶かしておいてから添加する等の対策が必要である。
【0029】
前記酸化防止剤としては、(1)2,6−ジターシャリー−ブチル−パラクレゾール(DBPC)のフェノール系ラジカル捕捉剤、(2)フェニル−アルファ−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミンのアミン系ラジカル捕捉剤、(3)ZnDTPのハイドロパーオキシド分解剤、(4)ペンゾトリアゾール、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類、ジアルキルセレン、金属フェネート類、有機窒素化合物類の金属不活性化剤等が使用可能である。
【0030】
前記粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリイソプチレン、オレフィン(コポリマー)共重合体、ポリアルキルスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ジエンコポリマーの水素化物等が使用可能である。
【0031】
前記流動点降下剤としては、(低分子量の)ポリメタクリレート、ポリアクリレート、塩素化パラフィン−ナフタレン縮合物、塩素化パラフィン−フェノール縮合物、ポリアルキルスチレン系等が使用可能である。
【0032】
前記腐敗防止剤としては、ベンゾイソチアゾリン系化合物、トリアジン系化合物、フェノール系化合物、ホルムアルデヒド供与体化合物、サリチルアニリド系化合物等が使用可能である。
【0033】
前記防錆剤としては、(1)金属石鹸、アミン塩のカルボン酸塩系、(2)アルケニルこはく酸誘導体のカルボン酸系、(3)金属スルフォネート塩、ジアルキルナフタレンスルホン酸塩のスルホン酸塩系、(4)オレイン酸とその塩のオレイン酸系、(5)ソルビタンモノオレエートのエステル系、(6)アルキルアミン、酸性アルキルリン酸エステル、ジブチル酸性リン酸エステルのリン酸およびリン酸塩系等が使用可能である。
【0034】
前記油性向上剤としては、高級脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸アミン、脂肪酸アミド、エステル等が使用可能である。
【0035】
前記極圧添加剤としては、(1)オレフィンポリサルファイド、硫化油脂、ジベンジルジサルファイド等の硫黄系、(2)アルキルおよびアリルリン酸エステル、アルキルおよびアリル亜エステル、りん酸エステルのアミン塩、チオリン酸エステル、チオリン酸エステルのアミン塩等のりん系、(3)ナフテン酸塩等の有機金属系等が使用可能である。
【0036】
前記消泡剤としては、シリコーン油、シリコーンポリマー類、エステル、多価脂肪族アルコール、アルケニルこはく酸誘導体、金属石鹸、ポリアクリレート、アシル化ポリアミド等が使用可能である。
【0037】
本発明の更に好ましい実施形態において、前記水系に水溶性アミン、油溶性アミン、及び脂肪酸を含有する水溶性金属加工油剤が提供される。この水溶性アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、2−アミノ2−メチル-1-プロパノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、ジエチルモノイソブロパノールアミン、N,N−ジブチルアミノエタノール、N,N−ジ−n−ブチルアミノイソプロパノール、N,N−ジ−n−プロピルアミノイソプロパノール、N,N−ジターシャリーブチルジエタノールアミン、N,N−エチレンジアミン(ジイソプロパノール)、N,N−エチレンジアミン(ジエタノール)、モノ−n−ブチルジエタノールアミン、モノエチルジイソプロパノールアミン、などがあげられるが、その他の水溶性アミンあるいは無機アルカリを含有してもかまわない。
【0038】
具体的には、トリイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミンから1種または2種と、モノイソプロパノールアミン、2−アミノ2−メチル−1−プロパノール、2−(2−アミノエトキシ)エタノールから1種または2種の組み合わせなどがあげられる。
【0039】
脂溶性アミンとしては、モノシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、メタキシレンジアミン、モルホリン、ラウリルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。
【0040】
また、脂肪酸としては、直鎖および/または分岐型の飽和および/または不飽和脂肪酸および/または二塩基酸が挙げられる。例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン醜、ペンタデカン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、べへン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、ヒドロキシラウリル酸、ヒドロキシミリスチン酸、ヒドロキシパルミチン酸、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシアラキン酸、ヒドロキシべへン酸、リシノレイン酸、ヒドロキシオクタデセン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ドデシルコハク酸、ラウリルコハク酸、ステアリルコハク酸、イソステアリルコハク酸、ダイマー酸などがあげられる。不飽和脂肪酸としては、例えば、へプテン酸、オクテン酸、ノネン酸、デシレン酸、ウンデシレン酸、ドデシレン酸、トリデシレン酸、ノナデセン酸、エイコセン酸、イソヘプテン酸、イソオクテン酸、イソノネン酸、イソデシレン酸、イソウンデシレン酸、イソドデシレン酸、イソトリデシレン酸、へプタンジエン酸、オクタンジエン酸、ノナンジエン酸、デカンジエン酸、ウンデカンジエン酸、ドデカンジエン酸、トリデカンジエン酸、イソヘプタンジエン酸、イソオクタンジエン酸、イソノナンジエン酸、イソデカンジエン酸、イソウンデカンジエン酸、イソドデカンジエン酸、イソトリデカンジエン酸、ネオデセン酸などが挙げられる。その他、動物、魚、植物、穀物などの天然油脂から得られる脂肪酸でもかまわない。
【0041】
【実施例】
以下に本発明の高性能水溶性金属加工油を用いて金属加工テストを行った結果について具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の一例であって、何ら限定するものではない。
【0042】
[実施例1]結晶性t−BN微粉末の製造
無水硼酸3.5kg、尿素5.3kg、硼砂(Na2B2O3・10H2O)0.63kgからなる混合物を密封できる容量を約12リットルのステンレス鋼製の耐圧容器に入れて900℃まで約1時間で昇温し、900℃に約10分間保って反応を完結させ、a−BNを合成した。この反応時には反応系から水と炭酸ガスが放出されて反応容器の内部の圧力が上昇するので、反応容器内は1気圧より高い水と炭酸ガスの混合ガスで満たされていた。次いで反応容器から取り出したカルメ焼き状の反応物を1mm以下の粒子に粉砕し、粉砕物を蓋付きのアルミナ製容器に収容して窒素ガス雰囲気とした電気炉中に入れ、10時間かけて1300℃まで昇温し、さらに1300℃に2時間保持してt−BNを結晶化し、結晶性t−BN微粉末を得た。この結晶化の際にa−BNと共存する硼酸ナトリウムはa−BNの結晶性t−BNへの転化を促進する働きをするので結晶性t−BN微粉末を高収率で合成できる。縫製された結晶性t−BN微粉末には硼酸ナトリウムその他の不純物が付着しているので、約80℃のイオン交換水で洗って精製し、約0.63kg(硼素換算収率約70%)の結晶性t−BN微粉末を得た。
【0043】
これらの結晶性t−BN微粉末をX線回折装置を用いて解析した結果、結晶性t−BNに特徴的なピークが認められ、特開平10−203807号公報の図2及び図7にその典型例が示されている。
【0044】
[実施例2] 高性能水溶性金属加工油剤の調製
高性能水溶性金属加工油剤を以下のようにして調製した。即ち、表1〜3に示したNo.1〜3の3種類の高性能水溶性金属加工油剤を調製した。原料は、油系、水系、石鹸の3種類に分けて調製した。
【0045】
先ず油系の調製を行った。マシン油No.46とt−BNを容器に取り分け、ホモジナイザー(KINEMATICA AG社製、ポリトロン低ノイズ型ホモジナイザー、本体型番:PT6100、ジェネレーターシャフト型番:DA6050/2、ただし乳化時のみDA6050/6を使用)を使って、7000rpmで10分間、良く攪拌、混合した。
【0046】
油系の残りの原料を、乳化剤の非イオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルを除いて、すべて前記混合物に添加し、湯煎で60℃まで温め、ホモジナイザーを使って、7000rpmで10分間、良く攪拌、混合した。
【0047】
この混合物に、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルを加え、湯煎で60℃まで温め、ガラス棒を使って、手で良く攪拌・混合した。
【0048】
平行して水系の調製を行った。水とポリオキシエチレンポリオキシポロピレンアルキルエーテルを容器に取り分け、湯煎で60℃まで温め、ガラス棒を使って、手で良く撹拌・混合した。
【0049】
この水系に先に調製した油系を加え、ホモジナイザーを使って、7000rpmで3分間、良く攪拌、混合し、乳化した。乳化物は容器のまま水道水に浸して、温度が30℃以下となるまで、攪拌しながら冷却した。この後石鹸を使わないものは、そのままシリーコン消泡剤を加えてホモジナイザーで、7000rpmで3分間、良く撹拌、混合した。
【0050】
別途、石鹸の調製を行った。量は、今回の調製に必要となる量より多い合計856gを調製した。ヤシ油脂肪酸を湯煎で溶かし、必要量を容器に取り分けた。その他の全ての原料を容器に取り分け、ホモジナイザーで、7000rpmで10分間、良く攪拌、混合した。
【0051】
前記乳化物にこの石鹸をそれぞれ所要量だけ加え、ホモジナイザーで、7000rpmで3分間、良く攪拌、混合した。以上により、表1〜3に示した組成の高性能水溶性金属加工油剤を調製した。このうちNo.1と2に関して、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD−2000)を使って、油滴の粒度分布を測定したところ、前者が平均値0.624μm、標準偏差0.103μmであり、後者が平均値0.699μm、標準偏差0.094μmであり、平均値+3σを計算すると、それぞれ0.933μmと0.981μmであることからも分かるように、その殆どの油滴の粒子径は1μm以下であった。
【0052】
【表1】
高性能水溶性金属加工油剤No.1の組成
【表2】
高性能水溶性金属加工油剤No.2の組成
【表3】
高性能水溶性金属加工油剤No.3の組成
【0053】
[実施例3]切削テスト1
試験条件は、
(1)使用機械:森精機製縦型マシニングセンター(MV−40A)
(2)被削材:AC8B−T6
(3)工具:OSG製ニューロールタップB−NRT M6×1.0RH7 B
(4)切削速度:10m/分
(5)下穴:φ5.48×30mm(リーマ仕上げ、止まり穴、引っかかり率100%)
(6)切削長:20mm
(7)水溶性切削油剤濃度:10%
(8)加工数:5回
で、市販の水溶性切削油剤Aと、表1の高性能水溶性金属加工油剤No.1とで、トルク評価による比較試験を行った。ただし、切削油剤は下穴に入れただけで行った。結果、高性能水溶性金属加工油剤No.1が市販の水溶性切削油剤Aより、15%低いトルクで切削加工できることが確認された。
【0054】
[実施例4]切削テスト2
試験条件は、
(1)使用機械:やまわエンジニアリング取扱の精密タッビングマシン(メガタップII−G8)
(2)被削材:AC4B
(3)工具:OSG製ニューロールタップB−NRT M6×1.0RH7 B
(4)切削速度:10m/分
(5)下穴:φ5.50±0.05×25mm(止まり穴)、
(6)切削長:15mm
(7)水溶性切削油剤希釈倍率:10倍、20倍、50倍、100倍
(8)加工数:20回
で、市販の水溶性切削油剤Bと、表2の高性能水溶性金属加工油剤No.2とで、トルク評価による比較試験を行った。ただし、切削油剤は下穴に入れただけで行った。結果は以下に示した表4の通りで、高性能水溶性金属加工油剤No.2は市販の水溶性切削油剤Bと比較して、高い希釈倍率での切削性能が高く、2倍以上の希釈で使用できることが分かった。
【0055】
【表4】
【0056】
[実施例5]切削テスト3
試験条件は、
(1)使用機械:ROKU−ROKU SANGYO製マシニングセンターMINIMAC−VA
(2)被削材:チタン合金(硬度HRC47〜48、寸法197×365×40mm)
(3)工具:日立ツールEpoch21 CEPU4100ユニバーサル(CEPU超硬エポックユニバーサルエンドミル)の再研磨品で超硬の表面処理は無し
(4)切削速度:回転数2000rpm、送り200mm/分
(5)切削深さ:1.5mm
(6)切削油剤:被削材平面を上向きにして、長手方向両端をマシニングセンターに固定し、固定箇所側30mm前後を避けて、樹脂で4周囲に、高さ40mm程度の壁を設け、内側に切削油剤を流し込んで試験を行った。
(7)切削パターン:右奥にある半円の凹み部分にエンドミルを落とし、[1]左に180mm切削、手前側へ10mm切削、[2]右へ160mm切削、手前側へ10mm切削、左へ160mm切削、手前側へ10mm切削、[3][2]をさらに2回繰り返す、[4]右へ180mm切削、奥へ70mm切削。合計1460mmを切削。
(8)水溶性切削油剤希釈倍率:最初の260mmを5倍希釈(t−BN濃度:約0.8重量%)、残りを3倍希釈(t−BN濃度:約1.3重量%)で、表3の高性能水溶性金属加工油剤No.3を使って切削試験を行った。
【0057】
従来、このような難削材は水溶性の切削油剤では切削できず、消火器を置いて、油性の切削油剤を使い、回転を落とし、送り20〜50mm/分程度で行われるが、本発明の高性能水溶性金属加工油剤No.3を使用すると、火災の心配のない水溶性で、しかも高速で切削加工できることが確認できた。また切削油剤の希釈倍率を落とすと、即ち切削油剤を濃くすると、切削面が滑らかになることも確認できた。試験後に刃先を確認したが、減りや偏摩耗等は全く認められなかった。
【0058】
【発明の効果】
本発明の水溶性金属加工油剤は、窒化硼素微粉末が微粒子状に分散、乳化されているため窒化硼素の沈降が抑えられ、性能が安定し、水溶性であるため火災対策上も好ましい切削、研削油剤が得られる。窒化硼素の固体潤滑作用と、水の冷却作用とにより、優れた切削性能と工具の耐磨耗性能を発揮し、特に、結晶性乱層構造の窒化硼素の配合を調整することにより、チタン合金やインコネル等の重切削の分野で使用することも可能である。
Claims (17)
- 基油に結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末を有効量分散させた油系を、乳化剤を用いて水系に乳化させた形態からなり、
前記油系の平均粒径は2μm未満であることを特徴とする、前記窒化硼素微粉末の改善された分散性及び乳化安定性を有する水溶性金属加工油剤。 - 基油に一次粒子の平均粒径が1μm以下の結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末を有効量分散させた油系を、乳化剤を用いて水系に乳化させた形態からなり、
前記油系の平均粒径は2μm未満であることを特徴とする、前記窒化硼素微粉末の改善された分散性及び乳化安定性を有する水溶性金属加工油剤。 - 前記窒化硼素微粉末の50重量%以上が結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末であることを特徴とする請求項2に記載の水溶性金属加工油剤。
- 前記窒化硼素微粉末の一次粒子の平均粒径が0.5μm以下であることを特徴とする請求項1〜3何れか一項に記載の水溶性金属加工油剤。
- 前記窒化硼素微粉末の含有量が全組成物を基準として0.1〜25重量%であることを特徴とする請求項1〜4何れか一項に記載の水溶性金属加工油剤。
- 前記窒化硼素微粉末の50重量%以上が平均粒径0.3μm以下の一次粒子であることを特徴とする請求項1〜5何れか一項に記載の水溶性金属加工油剤。
- 電子顕微鏡で観察される前記窒化硼素微粉末の50重量%以上が略球形状又は略円板形状を有するものである請求項1〜6何れか一項に記載の水溶性金属加工油剤。
- 前記乳化剤が、陰イオン性界面活性剤及び/又は非イオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1〜7何れか一項に記載の水溶性金属加工油剤。
- 前記乳化剤の含有量が全組成物を基準として0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1〜8何れか一項に記載の水溶性金属加工油剤。
- 前記油系及び/又は水系に、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐敗防止剤、防錆剤、油性向上剤、極圧添加剤、消泡剤からなる群から選択される1種以上添加されることを特徴とする請求項1〜9何れか一項に記載の水溶性金属加工油剤。
- 前記水系に、水溶性アミン、油溶性アミン、及び脂肪酸を含有することを特徴とする請求項1〜10何れか一項に記載の水溶性金属加工油剤。
- 請求項1〜11何れか一項に記載の水溶性金属加工油剤を希釈した形態であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。
- 水で希釈することを特徴とする請求項12に記載の水溶性金属加工油剤。
- 全組成物を基準として結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末の含有量が0.001重量%以上0.1重量%未満であることを特徴とする請求項12又は13に記載の水溶性金属加工油剤。
- 基油に結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末を有効量分散させた油系を、乳化剤を用いて水系に乳化させた混合液を希釈した形態からなり、
前記油系の平均粒径は2μm未満であり、
前記窒化硼素微粉末の含有量が全組成物を基準として0.001重量%以上0.1重量%未満であることを特徴とする水溶性金属加工油剤。 - 切削加工、研削加工、研磨加工又はこれらの組み合わせを含む金属加工用であることを特徴とする請求項1〜15何れか一項に記載の水溶性金属加工油剤。
- チタン合金又はインコネルの加工用であることを特徴とする請求項1〜16の何れか一項に記載の水溶性金属加工油剤。
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