JP3719821B2 - エンジン潤滑油及び潤滑方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は各種内燃機関の潤滑に使用するエンジン潤滑油ないしエンジン潤滑剤並びにエンジン潤滑方法に関する。
本発明は、さらにベアリング、ギア、その他の回転ないし摺動部材、特に高負荷ないし高温にさらされる場合に対する一般的潤滑油にも関する。
【0002】
【従来の技術】
エンジン潤滑油として固体潤滑剤である二硫化モリブデン粉末を添加したものが提案されている。二硫化モリブデン粉末を添加したエンジン潤滑油には添加効果が認められるが、使用実績がそれほどないのは添加効果が顕著でなく、得られる効果の割りにコストがかかるためであると推定される。
【0003】
窒化硼素(BN)は硼素と窒素からなる化合物であるが、窒化硼素には炭素とほぼ同じ結晶構造を有する多形が存在する。炭素には無定形の炭素、六角形の網目層が積層した構造を有する六方晶系等の黒鉛及び立方晶系ダイヤモンドがある。これらの内、固体潤滑性を示すのは六角形の網目層が積層した構造を有する層間で顕著な劈開性を示す六方晶系等の黒鉛である。窒化硼素の場合にも無定形窒化硼素(以下、a−BNという)、六角形の網目層が二層周期で積層した構造を有する六方晶系の窒化硼素(以下、h−BNという)、六角形の網目層が三層周期で積層した構造の菱面体晶窒化硼素(以下、r−BNという)、六角形の網目層がランダムに積層した乱層構造窒化硼素(以下、t−BNという)及び高圧相の立方晶窒化硼素(以下、c−BNという)が知られている。
【0004】
h−BN結晶には六方晶系の黒鉛結晶と同様の劈開性があって良好な固体潤滑性を示すことが知られている。h−BN結晶の潤滑性の由来は、黒鉛結晶の場合と同じく二次元の六角網目層間の結合が弱いファンデアワールス結合であり、この面で顕著な劈開性を示し、層間で鱗片状に劈開した結晶粒子が互いに滑りやすいという性質があるためであると理解される。
【0005】
純度の高いh−BN粉末の焼結体は無色又は白色で電気絶縁性に優れ、黒鉛より耐酸化性が高く、黒鉛のように炭素が鉄系材料と反応して溶け込んだりせず、鉄系材料とは反応しにくいので鉄系材料には焼き付かないという好ましい性質がある。この意味で、h−BNは固体潤滑材として、特に鉄鋼系材料の潤滑に適した潤滑材である。
【0006】
h−BNの潤滑性を利用した用途の例として、特開昭61−261397号には窒化硼素微粉末をエステル類の油脂に0.01〜30重量%をホモジナイザー等で分散して添加した潤滑油が提案されている。また、特開昭63−135496号には、平均粒径がいずれも20μm以下のh−BN粉末とポリエーテルエーテルケトン粉末を流動性油脂中に分散させた耐熱性と摩擦低減効果の優れた潤滑油が開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
潤滑油に添加する窒化硼素粉末としては、a−BNの粉末には吸湿性があって不安定で適さないので、専ら吸湿性のないh−BN粉末が使用されている。しかし、h−BN粉末についても値段が安くないため、コストがかなり嵩んでも成り立つような特殊な用途の潤滑油としてしか使用されていない。また、r−BNやt−BNについてはまだ実験室的な試作段階にやっと到達したにすぎず、収率よく安価に合成できる方法が知られていないため、具体的な用途を論ずる以前の段階である。
【0008】
本発明の目的は、コストパーフォーマンスに優れたエンジン潤滑油ないし同添加用潤滑剤を提供することにある。また、本発明は別の視点として、かかるエンジン潤滑油(ないし、同添加用潤滑剤)を用いたエンジンの潤滑方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の視点において、本発明のエンジン潤滑油は、油中に結晶性t−BN微粉末を有効量分散して含有することを特徴とする。
第2の視点において、本発明のエンジン潤滑油は、油中に一次粒子の平均粒径が1μm以下の結晶性t−BN微粉末及び一次粒子の平均粒径が1μm以下のh−BN微粉末を分散して含有しており、窒化硼素微粉末の50重量%以上が結晶性t−BN微粉末であることを特徴とする。
さらに第3の視点において、本発明のエンジンの潤滑方法は、有効量の結晶性t−BN微粉末を含有するエンジン潤滑液を使用してエンジンを潤滑することを特徴とする。
【0010】
本発明では二次元の網目層からなる結晶構造が発達して[004]位置にシャープな回折線を示し、かつh−BN特有の網目層の規則的な積層構造の存在を意味する[102]位置の回折線が全く又は殆ど認められない窒化硼素を結晶性t−BNという。
【0011】
他方、資源・素材学会誌Vol.105,No2.p201,1989等にはa−BNをt−BNであると説明している。しかし、同文献中でt−BNと呼んでいる窒化硼素粉末のCuKα線による粉末X線回折図はh−BNの[002]回折線の位置と隣合う[100]及び[101]の位置に2つのブロードな回折線のみを示し(本明細書では、説明の便宜上窒化硼素粉末の粉末X線回折図の回折線の位置をh−BNの回折線の指数で表す。以下同じ)、[004]回折線の位置に回折線が全くあるいは殆ど認められない。上記a−BNの粉末X線回折図は図1に示したa−BNの粉末X線回折図と同様のものであり、上記a−BNをt−BNであるとするのは適当でない。
【0012】
窒化硼素は黒鉛等の他の固体潤滑剤と比べて化学的に安定であり、空気中では1000℃近くまで酸化ず、鉄鋼材料には焼き着きにくいという特徴がある。図1、図2及び図3に、a−BN粉末、h−BN粉末及び結晶性t−BN微粉末の粉末X線回折図の例をそれぞれ示す。窒化硼素を900℃以下の低温で合成すると、図1に示すように、粉末X線回折図のh−BNの[002]の位置と、隣接する[100]及び[101]の位置に対応する位置とに幅の広い(ブロードな)2つの回折線を示すa−BN粉末が得られる。このa−BN粉末を1050℃より高い温度で熱処理すると結晶化が始まる。結晶化が進むとh−BNの[002]回折線に対応する回折線が半価幅が小さく、強いピークの回折線に変化する。このとき同時に[004]回折線も半価幅が小さくシャープな回折線として現れる。
【0013】
【発明の実施の形態】
なお、本願において、数値範囲の記載は、上、下限のみでなく、その中間の任意の値を代表するものとする。特に少なくとも所定範囲の10分の1単位の任意の値を包含するものとする。
結晶性t−BN微粉末は、具体的には、無水硼酸、尿素及び任意成分として硼酸ナトリウム等の硼酸アルカリを含む混合原料を非酸化性雰囲気に保持した反応容器中で加熱し、1100℃以下(好ましくは950℃以下)で反応させてa−BNを生成させ、次いで(必要に応じ硼酸アルカリの共存する状態で)1200〜1500℃(好ましくは1200〜1400℃、より好ましくは1250〜1350℃)で加熱し、結晶性t−BNに結晶化させることによって高収率で合成できる。得られた反応物を(好ましくは熱水で)水洗(必要に応じ酸洗をも含む)して精製し、アルカリや酸化硼素等の可溶性成分を除けば、一次粒子の平均粒径が1μm以下の結晶性t−BN微粉末を高収率で製造でき、安価に量産できる。なお、1450℃以上(特に1500℃以上に温度を上げれば、h−BN化が始まり、さらに高温にすれば、h−BNが任意の量比で生成する。この合成方法によれば、結晶化させる温度と時間を変化させることによって一次粒子の粒径を変化させることができ、h−BNと結晶性t−BNが種々の割合で共存する窒化硼素微粉末を合成することができる。この新規な合成方法は先に出願された特願平9−21052号に説明済みであり、必要に応じその詳細は、本願に引用をもって援用される。
【0014】
上記により合成され、精製された結晶性t−BN微粉末は通常粒径が1μm以下の微細な一次粒子が凝集した二次粒子となっているが、強制的に分散させれば大部分が一次粒子である結晶性t−BN微粉末の分散体とすることができる。分散は必要に応じ(ジルコニア質等の)セラミックスのビーズやボールを粉砕メディアとするアトリションミル、ボールミル、その他(2本式又は3本式を含む)ロール式の剪断性ミル等を用いての湿式粉砕、或いはジェットミル等の乾式粉砕により、たとえば平均粒径が1μm以下(好ましくは平均粒径が0.5μm以下、0.3μm以下、さらには0.1μm以下)の微細な一次粒子にまで解砕、かつ解離できる。この結晶性t−BN微粉末にはa−BN粉末に見られるような吸湿性がなく、安定で耐酸化性もある。
前述の製造方法によれば、h−BNについても同様な粒度分布を有する微粉末の提供が可能であり、h−BNを部分的に含有する主として結晶性t−BNからなる結晶性窒化硼素微粉末も量産可能である。h−BNへの結晶化は、結晶性t−BNをさらに1500℃以上(好ましくは約1850℃程度まで、さらには1600〜1800℃、1750〜1800℃など)で所定時間熱処理することにより、工業的に実現できる。この製造方法により得られるh−BN微粉末及び結晶性t−BN微粉末の一次粒子はいずれも劈開性を有する微細な結晶からなり、h−BN微粉末及び結晶性t−BN微粉末、特に結晶性t−BN微粉末は一層優れた固体潤滑性を示す。
【0015】
本発明の特定の視点においてエンジン潤滑油に分散させる窒化硼素微粉末を一次粒子の平均粒径が1μm以下の微粉末とする理由は、窒化硼素微粉末が微細であればあるほど狭小な空間に入り込みやすく、エンジン潤滑油としての機能を発揮しやすいためである。油中に分散させる窒化硼素微粉末の一次粒子の平均粒径は細かい方が潤滑性に優れており、特には0.5μm以下、0.3μm以下、或いは0.2μm以下、さらには0.1μm以下のものが好ましい。特に結晶性t−BNの微細な一次粒子は二次粒子を形状してもその凝集力がそれほど大きくなく、エンジン潤滑油としての使用時の剪断力により次第に一次粒子又はより小さな二次粒子に解離して分散するので、一次粒子の粒径の小さなものを用いれば良好なエンジン潤滑油としての機能を発揮できる。二次粒子の粒径の目安としては、さらに、必要に応じエンジンオイルストレーナの網目が目詰まりしないよう考慮して定めればよく、通例10μm以下であればよいと考えられる。
【0016】
また、エンジン潤滑油中に分散させた窒化硼素微粉末は、結晶性t−BN微粉末を50重量%以上含む窒化硼素微粉末であるのが好ましい。本発明にいう結晶性t−BN微粉末とは、典型的には、二次元の網目層の結晶化が進んでいてh−BN結晶の[002]位置と[004]位置にある回折線に対応する回折線の半価幅がいずれも小さい(CuKα線で得られる粉末X線回折図の2θが約55°にある[004]回折線の半価幅が0.6°以下)シャープな回折線となっている一方、積層構造に規則性があることを示すh−BN結晶に特有の[102]回折線が殆ど又は全く認められず、h−BNの[100]回折線と「101」回折線に対応する回折線が一つの回折線(t−BNの[10]回折線)となっているものである。このt−BNの[10]回折線の高角度側が漸減するパターンのX線回折線となっていることは、二次元の結晶化が進んでいるけれども、六角網目層の積み重なり方(積層のパターン)に全く規則性がない乱層構造の結晶性t−BNであることを意味する。本発明において結晶性t−BNであるということは、典型的には、h−BN結晶の粉末X線回折図の[100]、[101]及び[102]の回折線に対応する各回折線の占める面積(各回折線の強度に比例する)S100、S101及びS102の間にS102/(S100+S101)≦0.02の関係があるものとして数値的に規定することができる。
【0017】
エンジン潤滑油の油中に分散させる窒化硼素微粉末は、たとえば分散性のよいアルコール等の媒体を用いて湿式で分散処理した二次粒子の平均粒径が5μm以下(さらに3μm以下、2μm以下、より好ましくは1μm以下)の微粉末を使用するのが好ましい。エンジン潤滑油中の窒化硼素微粉末の二次粒子は使用中に徐々に解砕が進んで微細な二次粒子、さらには一次粒子となり、次第に一次粒子の割合が増加し、より優れた潤滑性を発揮するようになる。したがって、初期には有る程度大きい二次粒子を多く含む窒化硼素微粉末が分散されたエンジン潤滑油であってもよい。本発明のエンジン潤滑油に用いる結晶性t−BN微粉末としては、一次粒子の平均粒径が0.5μm以下、0.2μm以下、さらには0.1μm以下(ナノメータオーダー)と極めて細かく、均一な粒度分布(粒径が揃った)を有するものが好適である。
【0018】
結晶性t−BN微粉末は、乾いた微粉末のままでも潤滑性を示すが、エンジン潤滑油では窒化硼素微粉末を潤滑がなされる狭小な局所に送り込めるように油と混合して油中に分散させる。但し、粉体のままBN微粉末を貯蔵し、必要に応じて油中に分散、混合して用いることもできる。エンジン潤滑油の油としては、石油系の油、分散性が良好なエステル類の合成油又は石油系の油とエステル類の合成油の混合油を用いることができ、油は使用の目的と条件によって最適な組み合わせを選定すればよい。
【0019】
なお、実用保存形態としては、添加用潤滑剤(ないしマスター液)として、高濃度に分散した状態で取扱うことができ、マスター液を所定量通常のエンジンオイルに添加することによって、実際のエンジン潤滑を行うことができる。しかし、当初からエンジンオイル中に所定のBN微粉末を分散含有させておくこともできる。添加用潤滑剤としての分散状態は、エンジンオイルへの添加時に易分散性を確保できること、沈降、凝集が生じないこと、流動性が確保できること、等を考慮して定めればよく、BNの濃度に特に制限はない。添加用潤滑剤中のBN量は有効量以上でおよそ、70重量%まで、好ましくは0.1〜50重量%、1〜30重量%等がその目安であるが、用いる液剤の粒度及び分散剤等の性能、量比によってこの範囲は適宜可変であり、またBNの濃度は使用目的に応じて選定することができる。
【0020】
結晶性t−BNないしh−BNは安定であるため、本発明のエンジン潤滑油の油には、市販されているエンジン潤滑油をそのまま使用できる。窒化硼素微粉末を安定な懸濁状態に保てるように、エンジン潤滑油には分散剤として、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、油溶性界面活性剤から選ばれる1種以上を添加するのが好ましい。市販のエンジン潤滑油には使用時に潤滑油中に生成する燃焼生成物の生成と凝集をを抑制したり、潤滑特性を向上させる等の目的で添加される分散剤、清浄剤、酸化防止剤、腐食防止剤、さび止め剤、油性剤、極圧添加剤、油膜強化剤、摩耗防止剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、あわ消し剤などの各種添加剤が含まれており、本発明のエンジン潤滑油についても、酸化防止剤、粘度指数向上剤、腐敗防止剤、防錆剤、極圧添加剤、あわ消し剤から選ばれる1種以上を添加するのが好ましい。
【0021】
窒化硼素微粉末、特に微細である結晶性t−BN微粉末を油中に均一に分散させるには、上述の分散剤あるいは界面活性剤を添加してホモジナイザーで高速撹拌したり、ロールで練ったり、ボールミルやアトリションミル中で剪断力の作用下に混合粉砕するのが好ましい。エンジン潤滑油は、好ましくは濃い窒化硼素微粉末の懸濁液の状態に予め調製して保存しておき、使用に際して必要とする濃度となるように油で薄めて使用すると運搬や保存に際して嵩張らないので便利である。本発明のエンジン潤滑油では、窒化硼素微粉末は微細な結晶粉末であるほど少量の添加でも優れた潤滑性を発揮する。
【0022】
二次元の結晶構造が発達した結晶性t−BN微粉末を懸濁させたエンジン潤滑油がh−BN微粉末を懸濁させた潤滑油と比べて良好な潤滑特性を示す理由は明白ではないが、少なくとも網目層の積層の規則性の差(結晶性t−BNでは基本的にランダム)が主因であると考えられる。つまり、結晶性t−BNでは六角網目層間の結合強度がh−BN結晶の六角網目層間の結合強度より小さいので層間で滑りやすく、あるいは層間で劈開しやすく、結晶の六角網目層に平行な方向に方向性がないことから劈開性の鱗片状の結晶は網目層に平行ないずれの方向にも滑りやすいと考えられる。さらには、前述の製造方法で合成される結晶性t−BN微粉末ではその一次粒子が微細であり(通常平均粒径1μm以下、0.3μm以下、さらには0.1μm以下であるナノメートルオーダーの微細な一次粒子からなる粒径10μm以下の二次粒子の微粉末として得られる)、微細であって結晶性である窒化硼素の粒子ほど固体潤滑剤としての機能を発揮しやすいからであると考えられる。
【0023】
結晶性窒化硼素微粉末は、1100℃以下、好ましくは950℃以下の低温で合成されたa−BNを結晶化するときの温度と時間によって種々の結晶化の程度を有する窒化硼素微粉末が得られる。t−BNへの結晶化は1200〜1500℃、好ましくは1200〜1400℃、より好ましくは1300±50℃で進行させられる。温度をさらに上げて結晶化させれば、窒化硼素は最終的に高温で安定なh−BNに転化する。結晶性t−BN微粉末は1450℃以上で熱処理するとh−BNへの転化が始まり、t−BNとh−BNが混在した粉末になる。エンジン潤滑油中に分散させる窒化硼素微粉末は結晶性t−BN微粉末の含有割合の多い方が優れた潤滑性を発揮する。優れた潤滑性を発揮させるため、好ましくは潤滑油に含まれる窒化硼素微粉末の50重量%以上、(70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上、さらに95重量%以上、99重量%以上、実質的には全て)を結晶性t−BN微粉末とするのが好ましい。窒化硼素微粉末中の結晶性t−BN微粉末の含有割合は、粉末X線回折により得られる回折線の強度(回折線の有する面積)を混合割合が既知の標準の窒化硼素混合粉末図の粉末X線回折の強度を比較することによって測定できる。
【0024】
h−BNや結晶性t−BN微粉末は、細かい方が少ない添加量でも良好な潤滑効果を示す。このため、潤滑油中の窒化硼素微粉末の二次粒子の平均粒径は10μm以下、5μm以下、さらには2μm以下(特に好ましくは1μm以下)とするのが好ましい。窒化硼素微粉末をアトリションミル等のミル中で粉砕すれば、二次粒子を主として一次粒子からなる微粉末にまで比較的容易に解砕できる。窒化硼素微粉末の粒度分布は、例えば沈降法によって測定でき、本発明において平均粒径は重量積算粒度分布の積算重量が50重量%の位置の粒径をいう。また、一次粒子の平均粒径を求めるには、微粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)の拡大写真を撮影して測定する。
【0025】
窒化硼素微粉末の平均粒径(二次粒径)が2μm以下、さらに1μm以下と細かければ、窒化硼素微粉末の粒子の多くが一次粒子にまで微細化されており、これによって潤滑油の潤滑性がさらに向上する。細かい窒化硼素微粉末は摺動面のミクロンオーダの小さな凹所に入り込むことができるので、エンジン潤滑油中には二次粒子の平均粒径が1μm以下、さらには0.5μm以下と細かい微粉末を分散させることによってさらに良好な潤滑性を付与できる。
【0026】
エンジン潤滑油中に分散させる窒化硼素微粉末の量は、その使用条件によって適切で経済的な含有量が存在するが、良好な潤滑効果を付与できるとともに広範な使用条件をカバーできることから、エンジン潤滑油中の窒化硼素微粉末の分散量は0.02〜50重量%とするのが好ましい。混合量が0.02重量%以下では得られる潤滑効果がはっきりせず、50重量%を超えて混合すると均一な懸濁液にするのが難しくなるきらいがある。潤滑性をコストパーフォーマンスよく発揮させるには、窒化硼素微粉末の混合量を0.05〜20重量%、さらには0.1〜10重量%とするのが好ましく、用途に応じては5重量%以下、或いは、2重量%以下、1重量%以下でもよい。
【0027】
二次元の結晶構造が発達した結晶性t−BN微粉末は、図5のSEM拡大写真に見られるように一次粒子の形状が略円板状又は略球形状を呈し、かつ優れた潤滑性能を有する。結晶性t−BN微粉末の添加がエンジン潤滑油に優れた潤滑特性を付与し得ることから、本発明の潤滑油では好ましくは潤滑油中に含まれる窒化硼素微粉末の一次粒子の50重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上(さらに80重量%以上、90重量%以上、最も好ましくは、実質的に全て)が略円板状又は略球形状である。窒化硼素微粉末の一次粒子の形状はSEMの拡大写真によって観察でき、前述の製造方法で得られる結晶性t−BN微粉末の一次粒子の粒径は、通常1μm以下と小さい。結晶性t−BN微粉末の一次粒子がh−BNの結晶粒子のように六角板状にならないのは、結晶性t−BNが二次元網目層の層間の積層関係に規則性を持たないためであると理解される。
【0028】
エンジン潤滑油の油は使用条件に合わせて適切なものを選択できる。窒化硼素微粉末に対する良好な分散性を有する油、又は分散剤を添加することによって良好な分散性を付与できる油であればよく、油としては安価な石油系の油、分散性がよいエステル類の合成油又は石油系の油とエステル類の合成油の混合油を使用するのが好ましい。その一例として、市販品が安価に入手できることから市販のエンジン潤滑油又は市販のエンジン潤滑油と同等の油を使用するのが好ましい。
【0029】
窒化硼素微粉末自体は油に対する分散性が必ずしも良好であるとは言えない。また、窒化硼素微粉末が細かくても、凝集している微粉末では安定して良好な潤滑性を発揮できない。窒化硼素微粉末を油中に分散させて潤滑性を発揮させるため、エンジン潤滑油中に分散剤を添加するのが好ましい。種々の分散剤を比較検討した結果、窒化硼素微粉末を油中に分散させるには非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、油溶性界面活性剤が特に有用であることを認めた。すなわち、本発明のエンジン潤滑油の分散剤としては、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、油溶性界面活性剤から選ばれる1種以上を使用するのが好ましい。エンジン潤滑油に分散剤を添加しておけば、油との比重差によって窒化硼素微粉末が油中で沈降分離することがあっても再分散が容易である。これらの分散剤の内、特に好ましい分散剤は両性界面活性剤と油溶性界面活性剤である。
【0030】
本発明のエンジン潤滑油には、使用される条件と油の種類に応じて分散剤以外の各種の添加剤を混合するのが好ましい。添加剤の具体的な例としては、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐敗防止剤、防錆剤、極圧添加剤及び消泡剤がある。これらの添加剤としては、市販されているエンジン潤滑油に添加されている公知の添加剤を好ましく使用できる。
【0031】
【実施例】
以下、本発明のエンジン潤滑油を実施例によって具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の一例であって、本発明のエンジン潤滑油は以下に説明する実施例に限定されない。即ち、本発明のエンジン潤滑油は、潤滑するエンジンの種類排気量、回転数、トルク、温度その他の各種条件に併せ、その各種視点に応じて適用可能である。
【0032】
[実施例1](結晶性t−BN微粉末の製造)
[実施例1A]
無水硼酸(B2O3)3.5kg、尿素((NH2)2CO)5.3kg、硼砂(Na2B4O7・10H2O)0.63kgからなる混合物を出発材料とし、この混合物を直径530mmの蓋付きのステンレス鋼製反応容器に入れ、この反応容器を炉内に入れて250〜500℃;500〜600℃、600〜700℃、700〜800℃、800〜900℃の多段階に各10分かけて昇温し、900±10℃で10分間保持して反応させた(合計1時間)。約100℃で水蒸気が噴出し初め、200℃で部分的に成分が溶融し始め反応が進みぶくぶくと泡だってガスの放出が続いた。さらに350〜400℃まで水蒸気を主として放出し、900℃に10分間保持したところ生成ガスの放出が減少した。この状態で放冷して反応容器の蓋を開けて反応物を反応容器から取り出した。このとき、反応容器中の反応物はB2O3がほぼ反応完了したことを示す乾燥したバサバサのカルメ焼き状になっていた。反応容器中で反応物を解砕し、真空吸引により取り出し、さらに粉砕機(クラッシャー)にかけて粉砕し、1mmパスの粉末を得た(以上、一次工程)。この生成粉末を、以下二次工程の出発材料とする。
【0033】
セラミック(アルミナ)耐火物製の蓋付き容器(蓋は軽く閉止)に移し、蓋付き容器ごと電気炉に装入した。電気炉にN2又はCO2を導入して非酸化性雰囲気とし温度を常温から1300℃に10時間かけて上げ、最後に約1300℃に2時間保持し、放冷した。
【0034】
蓋付き容器から取り出した粉末を80〜85℃のイオン中和し交換水(熱水)で十分に攪拌粉砕しつつ洗浄してアルカリ成分を除き、最後に酸(HCl)で洗い中和し、さらに水洗しその後乾燥した。二次工程の出発原料10kg当たり、洗浄後に約0.6〜0.65kgのt−BNが得られた。これは一次工程の出発硼素重量に対し約28.5%以上のt−BNとなり収率は70%以上の高率であり、しかも高純度であった。なお、一次工程産物から二次工程の熱処理まで10〜20%の重量ロスが認められた。
【0035】
[実施例1B]
実施例1Aとは別のサンプルであるが、実施例1Aとほぼ同様にして得た結晶性t−BN粉末をCuKα線による粉末X線回折で調べた。得られた合成粉末のX線回折図を図3に示す。図2に示す公知のh−BNのX線回折図形と、図3の粉末X線回折図を比べると、図3の粉末X線回折図の窒化硼素は相当t−BN結晶化が進んでいて図1のh−BNの[002]の回折線及び[004]回折線に対応する位置にシャープな回折線が夫々約26.6°、約55°に認められる。しかし、h−BNの[102]回折線に対応する位置に回折線が認められないことが分かる。また、h−BNの[100]回折線に対応する位置(41.55°)にかなりシャープな回折線がある。この[100]回折線はh−BNのシャープな[101]回折線のある高角度側で低い[101]回折線とすそで重なっており、、[101]回折線は高角度側ですそを引いてやや高まったバックグラウンドを描いている。この[101]回折線はシャープな突起として存在していない。このことはこの合成窒化硼素粉末が結晶化が進んだ純度の高いt−BN粉末であることを意味する。図3の粉末は本発明にいうところの結晶性t−BN粉末の一例である。
【0036】
図3の粉末X線回折図の各回折線の2θの位置と半価幅を調べたところ、[002]回折線は26.58°にあり、[004]回折線は55.0°にあり半価幅が0.47°であった。このことからh−BN[004]相当回折線の半価幅は約0.5°以下にできることがわかる。
【0037】
[実施例1C]
実施例1Aと同様にして得たt−BN微粉末のサンプルSEMによる拡大写真(×20000倍及び×10,000倍)を図5に示す。図5のSEM写真から、このt−BN合成粉末の一次粒子の平均粒径は約0.45μmであり、一次粒子の粒径は実質的に0.3〜0.75μmの範囲内に存在することが分かる。また、この一次粒子はh−BNの一次粒子に見られる六方晶系に特有の六角板状の結晶粒子形状を示さず、結晶性t−BN結晶に特有と考えられる円板状(大きなもの)ないし略球状(小さなもの)であることを認めた。
【0038】
[実施例1D]
実施例1Aと同様な方法で合成し、分散した一次粒子を多く含むt−BN粉末を種結晶として外掛けで原料中に1重量%添加した以外は実施例1Aと同様にしてt−BN粉末を合成した。この実施例では、一次反応の進行も早くなり、最終生成t−BNの収率に一層の改善が認められた。なお、仕込み無水硼酸に対する生成BNの収率は最高80%以上にも達する。
【0039】
[実施例1E]
実施例1Aと同様な条件で作成したt−BN粉の分散体を作成し粒度分布測定を行い、その結果を図4に示す。測定はHORIBA LA−700粒径アナライザを用いて行った。その結果メジアン径0.30μm、粒子径1μm以下の累積95.2%、90%粒子径は0.75μmであった。なおこの測定では、完全な一次粒子とは言えない(かなり凝集したまま測定される)点を留歩すると平均0.3μm以下であることは確実である。なお、その比表面積は23.4m2/cm3であった。なお、同様にして得た別のサンプルのSEM写真を図6に示す。粒子は略円板状ないし略球状をしており、平均一次粒子径は約0.3μmであり、一次粒子の粒径は実質的に0.2〜0.45μmのごく狭い範囲内にあることが分かる。
【0040】
[実施例1F]
無水硼酸と尿素の混合比を4:9(重量比)に変え、硼砂を用いることなく、一次工程加熱を1.5時間とし、最終温度を920〜950℃で15分間保持し、かつ密閉容器のガス抜き孔を十分にしぼって内部を加圧状態にした以外は実施例1A同様にしてBNを合成した。二次工程は実施例1Aとほぼ同様の条件で行い、洗浄も同様に行った。極めて高純度のt−BNが得られた。そのSEM写真を図7に示す。形状は略球形であり、平均一次粒子径は約0.25μmであり、一次粒子径は大部分が0.2〜0.3μmで実質的に0.15〜0.38μm(即ち凡そ0.1〜0.4μm)の範囲にあることが分かる。なお、無水硼酸と尿素の混合比(重量比)は4:6〜4:9が好ましいが4:9が最良の結果を与えた。
【0041】
[実施例1G]
実施例1Fと同様な条件で作成したサンプルt−BNのX線回折図を図8に示す。
図8と図2の粉末X線回折図を比べると、図8の粉末X線回折図の窒化硼素は相当t−BN結晶化が進んでいて図2のh−BNの[002]の回折線及び[100]回折線に対応する位置にシャープな回折線が夫々26.7°、41.8°に認められる。しかし、[002]の回折線の位置はh−BNの対応回折線位置と比べて若干高角度側にずれており、h−BNの[102]回折線に対応する位置(50°)に回折線が全く認められないことが分かる。また、h−BNの[100]回折線に対応する位置(41.8°)に余り高くないがシャープな回折線がある。この回折線はh−BNの[101]回折線のある高角度側に肩部を経てやや長いすそを引いている(以下(10)回折線という)が[101]回折線は明確な突起として存在しない。このことはこの合成窒化硼素粉末がt−BNとしての結晶化が進んだ純度の高い単相t−BN粉末であることを意味する。図8の粉末は本発明にいうところの高純度結晶性t−BN粉末の一例である(特に0.2〜0.3μmオーダーの超サブミクロンのもの)。バックグランドの低さから高純度であること、t−BN単相であることが十分うかがえる。即ち、図3、図8の回折線共B2O3を示すピークは全く現れていない点が注目されよう。
【0042】
[実施例2](エンジン潤滑油の調製及び実用テスト)
[実施例2A]
エンジン潤滑油を以下のようにして調製した。すなわち、潤滑油基油(石油系、引火点(coc)約218℃、40℃における動粘度約27.8mm2/s(cSt)64重量部、ポリオキシエチレンココナットアルキルアミン誘導体(花王アミート102)6重量部からなる混合液を直径10mmのアルミナボール7.6kgとともに容量7リットルのアルミナ製ポットミルに入れて60rpmで1時間混合した。次に、結晶性t−BN微粉末30重量部を同じアルミナ製ポットミル容器内に追加し、60rpmで24時間混合、粉砕して均一に分散させた1リットル中に約30重量%の硼砂を用いて製造した平均一次粒径0.3μmの結晶性t−BN微粉末を含む懸濁液(マスター液)を得た。この懸濁液を市販のエンジン潤滑油A(ペテロルブインターナショナル(株)製バービスネオSJ15W−40)で約30倍に希釈してt−BN微粉末を1.0重量%含むエンジン潤滑油とした。なお、市販のエンジン潤滑油A中には添加剤として少量の酸化防止剤、粘度指数向上剤及び防錆剤が添加されている。
【0043】
得られた結晶性t−BN微粉末入りエンジン潤滑油を富士重工(株)製のセダン(車名レガシー、排気量2,000ccのEFI−MT車)のエンジンに入れ、同時にオイルフィルタを新品と交換して走行試験を実施した。走行試験を15kmの高速道路走行を含む片道約37kmの通勤ルートで行なった結果、アイドリング時及び走行時、特に高速走行時には明瞭にエンジンの回転騒音が減少するのを認めた。また、加速性が向上したことからエンジンの馬力が向上したと判断でき、レギュラーガソリン1リットル当たりの平均走行距離が6.8km(市販のエンジン潤滑油Aの使用時)から8.9kmに伸びた。さらに、その後引き続き同じエンジン潤滑油を同セダンのエンジンの潤滑に継続して使用した結果、エンジン潤滑油自体の耐用も伸びており、2万kmを超える走行にも耐え得ると判断された。また、エンジン潤滑油を抜き取ってオイルフィルタを点検したが、異常は全く認められなかった。
【0044】
[実施例2B](エンジン潤滑油の調製及び実用テスト)
硼砂を用いることなく製造した結晶性t−BN(一次粒子径約0.25μm)を用い、この結晶性t−BN微粉末30重量部を実施例2Aと同様にして潤滑油基油64重量部及びポリオキシエチレンココナットアルキルアミン誘導体6重量部と混合し、1リットル中に約30重量%の結晶性t−BN微粉末を含む懸濁液(マスター液)を得た。この懸濁液を市販のエンジン潤滑油B(日本石油(株)製、商品名ZOA、SG、10W−30)に混合してt−BN微粉末を1重量%含むエンジン潤滑油を得た。このエンジン潤滑油を三菱自動車(株)製のRV車(車名パジェロ、排気量3,500ccのECI−AT車)のエンジンに入れ、同時にオイルフィルタを新品と交換して走行試験を実施した。走行試験を高速道路を多用する(約45%が高速道路である)走行区間で行なった結果、アイドリング時及び走行時、特に高速走行時におけるエンジンの回転騒音が明らかに減少するのを認めた。また、エンジンの馬力が向上したことによって加速性が向上し、市販のエンジン潤滑油B使用時のレギュラーガソリンによる1リットル当たりの走行距離が6.2kmであったのに対し、この結晶性t−BN微粉末入りエンジン潤滑油を使用したときには走行距離が7.8kmに伸びた。
【0045】
[実施例2C](エンジン潤滑油の調製及び実用テスト)
潤滑油基油(石油系、引火約218℃、40℃における動粘度約27.8mm2/s(cSt))64重量部、ポリオキシエチレンココナットアルキルアミン誘導体(花王アミート102)6重量部からなる混合液を容量7リットルのアルミナ製ポットミルの容器に直径10mmのアルミナボール7.6kgとともに入れて60rpmで1時間混合した。次に、例3と同手順で合成して精製し、実施例2Aと同様にして30重量%の結晶性t−BN微粉末が油中に均一に分散した懸濁液(マスター液)を得た。
【0046】
この懸濁液を市販のディーゼルエンジン潤滑油C(日本石油(株)製の商品名ZOAディーゼルRV、CF−SAE15W−40、添加剤として酸化防止剤、粘度指数向上剤及び防錆剤を含む)に混合して結晶性t−BN微粉末を1重量%含むエンジン潤滑油を得た。この結晶性t−BN微粉末入りエンジン潤滑油をトヨタ自動車(株)製の小型貨物車(ハイラックスピックアップ、排気量2,800ccのターボチャージャ付きMT車)のディ−ゼルエンジンに入れ、同時にオイルフィルタを新品と交換して走行試験を実施した。走行試験を高速道路を多用する(約20%が高速道路である)走行区間で行なった結果、アイドリング時及び走行時、特に高速走行時におけるエンジンの回転騒音が明らかに減少するのを認めた。また、加速性が向上した他、市販のディーゼルエンジン潤滑油Cを使用したときの軽油1リットル当たりの走行距離が9.5kmであったのに対し、本発明の結晶性t−BN微粉末入りエンジン潤滑油を使用したときには走行距離が10.9kmに伸びた。
【0047】
【発明の効果】
従来の窒化硼素の合成技術では、結晶性t−BN微粉末は勿論、h−BN粉末についても歩留りよく安価に提供できる量産方法が存在しなかった。このためh−BN粉末についても値段が高く、潤滑油としての応用も極く限られた用途のみに限定されていた。しかし、前述の合成技術が確立されたことによってh−BN粉末は勿論、特に固体潤滑性に優れた結晶性t−BN微粉末を安価に量産して提供できるようになった。本発明は前記合成技術の確立を契機として従来知られていないt−BN微粉末の新用途への展開、本発明ではエンジン潤滑油に応用し、エンジン潤滑油への結晶性t−BN微粉末の添加によって顕著な効果が得られることを確認した。すなわち、本発明のエンジン潤滑油をエンジンの潤滑に使用すれば、エンジンの回転騒音が明らかに低減すると同時に、燃料1リットル当たりの走行距離(燃費)が顕著に伸び、エンジン潤滑油自体の耐用寿命が延長し、エンジン潤滑油によるエンジンの冷却効果についても問題がないことを確認した。これらの試験結果に基づけば、エンジン本体の耐久性も当然延長されるはずである。よって本発明の結晶性t−BN微粉末入りエンジン潤滑油をエンジンの潤滑に使用することによって、エンジン内部における摩擦抵抗を顕著に低減でき、エンジンの回転騒音の低減によって特に起動時や加速時、さらには高速走行時における車室内の静粛性を顕著に向上させられ、燃費とエンジンの耐用を顕著に向上させられることになる。かくて本発明のエンジン潤滑油の産業上の利用価値は多大である。さらに、本発明の潤滑油は、ベアリング、ギア、その他の回転ないし摺動部材に対する一般的潤滑油としても優れた性能を発揮することは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のa−BN微粉末の一例の粉末X線回折図である。
【図2】従来のh−BN粉末の一例の粉末X線回折図である。
【図3】本発明のエンジン潤滑油に添加される結晶性t−BN微粉末の一例の粉末X線回折図である。
【図4】本発明のエンジン潤滑油に添加される結晶性t−BN微粉末の一例の粒度分布グラフである。
【図5】本発明のエンジン潤滑油に添加される結晶性t−BN微粉末の一例の走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大写真である。
【図6】本発明のエンジン潤滑油に添加される結晶性t−BN微粉末の他の一例の走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大写真である。
【図7】本発明のエンジン潤滑油に添加される結晶性t−BN微粉末の他の一例の走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大写真である。
【図8】本発明のエンジン潤滑油に添加される結晶性t−BN微粉末の他の一例の粉末X線回折図である。
Claims (11)
- 油中に結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末を有効量分散して含有することを特徴とするエンジン潤滑油。
- 油中に一次粒子の平均粒径が1μm以下の結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末及び一次粒子の平均粒径が1μm以下の六方晶系の窒化硼素微粉末を分散して含有しており、窒化硼素微粉末の50重量%以上が結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末であることを特徴とするエンジン潤滑油。
- 油中に分散している窒化硼素微粉末の一次粒子の平均粒径が0.5μm以下である請求項1又は2に記載のエンジン潤滑油。
- 油中に分散している窒化硼素微粉末の量が0.02〜50重量%である請求項1〜3のいずれかに記載のエンジン潤滑油。
- 電子顕微鏡で観察される前記窒化硼素微粉末の一次粒子の50重量%以上が略球形状又は略円板形状を有するものである請求項1〜4のいずれかに記載のエンジン潤滑油。
- 油が石油系の油、エステル類の合成油又は石油系の油とエステル類の合成油の混合油である請求項1〜5のいずれかに記載のエンジン潤滑油。
- 油中に窒化硼素微粉末の分散剤として非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、油溶性界面活性剤から選ばれる1種以上が添加されている請求項1〜6のいずれかに記載のエンジン潤滑油。
- 油中に酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐敗防止剤、防錆剤、極圧添加剤及び泡消し剤から選ばれる1種以上が添加されている請求項1〜7のいずれかに記載のエンジン潤滑油。
- 請求項1〜8のいずれかに記載のエンジン潤滑油を使用することを特徴とするエンジンの潤滑方法。
- 市販のエンジン潤滑油に混合して有効量の結晶性乱層構造の窒化硼素微粉末を含有するエンジン潤滑油とするための、結晶性乱層構造窒化硼素微粉末を油中に高濃度に分散させたことを特徴とするエンジンの潤滑剤。
- 有効量の結晶性乱層構造窒化硼素微粉末を油中に分散して潤滑を行うことを特徴とするエンジンの潤滑方法。
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