JP2011084622A - エマルション組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】枯渇資源を使用することなく、環境負荷の無い安全性の高い成分で構成される水中油型(O/W型)又は油中水型(W/O)エマルション形態の潤滑剤組成物で、従来にない優れた潤滑性能を有し、取り扱い易く且つ経済性に富むトライボロジーの対象となる分野への潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】水又は油分散剤処理したダイヤモンド質超微粒子を油中水型(W/O型)エマルションの水相(W相)及び/又は油相(O相)に含有する潤滑剤組成物、また、水又は油分散剤処理したCBN超微粒子を水中油型(O/W型)又は油中水型(W/O型)エマルションの水相(W相)及び/又は油相(O相)に含有する潤滑剤組成物。
【選択図】なし

Description

本発明は、超微粒子を添加したエマルション組成物に関する。特に、ダイヤモンド質微粒子を添加した油中水型エマルション組成物、六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子を添加した水中油型又は油中水型のエマルション組成物、これを用いた潤滑剤組成物及びコーティング剤、製造方法に関する。
「水中油型エマルション組成物」には、(1)分散系の安定化のために添加する乳化剤の量が多く、強制的に攪拌しなくとも自己乳化する油滴粒子径が0.1から1ミクロンのサイズのマイクロエマルション(可溶化型)タイプ(透明のもの)、(2)乳化剤の量が少なく、強制的に転相乳化する必要のある油滴粒子径が1から10ミクロンのサイズのエマルションタイプ(乳濁色のもの)があるが、本明細書においては、特に断りのない場合は、これら全てを包含して「水中油型乳化組成物(以下、O/W型エマルション組成物)」と呼ぶことにする。ただし、詳細な記載が必要な場合はそれぞれを、(1)マイクロエマルションタイプ、(2)エマルションタイプと明記することとする。また、本明細書中で、(2)のエマルションタイプは、「水中油乳濁液」とも呼ぶ。エマルション、マイクロエマルションの粒径での分類に加え、さらに外観が液体及びペースト状がある。
「O/W型エマルション組成物」には、油相(O相)を構成する少なくとも一種類以上の基油と、一種類以上の乳化剤、水等から構成されるものを含む。本明細書においては、「基礎エマルション(A)」とも呼ぶ。更に、O/W型エマルション組成物には、構成成分のほか、各種添加剤も適時添加されうる。
「油中水型エマルション組成物」には、同様に、水滴粒子径が小さい可溶化型タイプとエマルションタイプ「油中水乳濁液」、液体及びペースト状がある。「W/O型エマルション組成物」には、油相(O相)を構成する少なくとも一種類以上の基油と、一種類以上の乳化剤、水等から構成されるものを含む。本明細書においては、「O/W型エマルション組成物」の場合と同様に「基礎エマルション(A)」とも呼ぶが、特に「O/W型エマルション組成物」の場合と区別する必要がある場合には、W/O型エマルションにおける「基礎エマルション(A)」とも呼ぶ。更に、W/O型エマルション組成物には、構成成分のほか、各種添加剤も適時添加されうる。
従来、水中油乳濁液(O/W型エマルション)からなる潤滑剤、より詳しくは、水性組成物及び水中油乳濁液を安定化できるシックナを含む高粘度潤滑剤とその製造法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ブルックフィールド粘度計で測定した特定の粘度を有する水中油乳濁液において、主要の水は、水不溶性油溶性EP剤(極圧剤)とEP剤を溶解し水中にEP剤を安定に分散するための水溶性液体有機分散剤を含み、不連続分散相の油が合成油である潤滑剤及びその製造方法が開示されている。該特許の主要構成要素である硫黄、クロロサルファー、塩素化脂肪族炭化水素、及び燐EP剤は、摺動摩擦面に硫化物、塩素化物、燐化物等の腐食生成物を作り、摺動摩擦面上に固体潤滑層を形成して潤滑特性を向上する機能を有している。その結果、その構成成分であるEP剤添加鉱油或いはグリース、水溶性液体有機分散剤の存在下でEP剤を安定分散させた該水性組成物のいずれより良好な潤滑特性を示すこと、又、本潤滑剤には、更にEP剤の潤滑作用を補うために、グラファイト、モリブデンジサルファイド、及び粉末ポリテトラフロロエチレンから選ばれる固体潤滑剤を腐蝕防止剤、摩擦変性剤(摩擦低減剤)、膜形成剤等他の物質として少量含むことができるとしていることが記載されている。
また、本願の発明者は、潤滑剤の製造に利用可能性のあるダイヤモンド質超微粒子分散体の製造方法を開発しており、分散媒がエマルション型溶媒を構成するものからなるスラリー状或いはベースト状のダイヤモンド質超微粒子分散体について開示している(特許文献2参照)。
なお、「ダイヤモンド質超微粒子」は、爆合法で製造されたダイヤモンド超微粒子並びに従来の静的超高圧法或いは気相合成法で得られる平均粒子径が100nm以下のダイヤモンド微粒子とその少なくとも一部が結合した非ダイヤモンド質、或いは、準ダイヤモンド質(アモルファス質)炭素を含んだもの、又は孤立した微粒子状非ダイヤモンド質、或いは、準ダイヤモンド質炭素を含む混合体である場合もあるが、本明細書においては、特に断りのない場合は、これらを全て包含するものとする。
また従来、ダイヤモンド超微粒子を潤滑オイルに分散して含有する潤滑剤が知られている(例えば、特許文献3、4、5、6参照)。より詳細には、特許文献3には、潤滑油に対して平均粒径が0.1μm以下のダイヤモンド超微粒子が0.05重量%以上、15重量%以下の割合で添加された転がり軸受用潤滑剤が記載されている。また、特許文献4には、基油と水酸基を有する添加剤と粒子径が10nm以下のダイヤモンドナノ粒子を含有するナノ粒子含有潤滑油組成物が記載されている。 特許文献5には、クラスターの大きさが1〜10nmで2〜99質量%の耐摩耗性ダイヤモンドおよび1〜98質量%のグラフアイトからなる固体摩擦改質剤をオイルベースに0.01〜1.0質量%添加した潤滑剤組成物が記載されている。特許文献6には、潤滑用オイルの基剤中に粒子径が10nm以下の丸みを帯びた形状のダイヤモンド超微粒子を分散して含有する潤滑剤が記載されている。
また従来、ダイヤモンド質超微粒子をリチウム石けんグリースに添加する潤滑剤が、知られている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1には、Falex試験の結果、ダイヤモンド質超微粒子添加は、耐摩耗性と耐焼付き性向上に効果があることが記載されている。
また、非特許文献3では潤滑特性が良好な圧延油は油膜厚さと大きく関係する、「プレートアウト特性」、すなわち、加工表面上でエマルションが破壊されて油のみで表面が濡れることが摩擦係数と相関関係にあり潤滑性能が良好になるとしている。具体的にはエマルション形態が(O/W)<(W/O)<(W/O/W)の順に潤滑特性が良好で、さらにワーク表面での最終のエマルション形態がW/O型であることが望ましいとしている。
更に、表面に二硫化モリブデンの微細粉末を衝突させることにより表面から深さ20μm以内の表層に、固体潤滑剤である二硫化モリブデンを含有する層を設けた金属摺動部材、その表面処理方法、及びその投射用材料が開示されている。(特許文献7、8)また、ピストンスカートなどの基材への密着性や摺動特性に優れる乾性被膜を形成しうる複層潤滑被膜用組成物と複層潤滑被膜及び該被膜を有するピストンが開示されている。(特許文献9)
特開平1−292096号公報 特許第3936724号公報 特開平7−118683号公報 特開2006−241443号公報 特開平4−502930号公報 特開平5−171169号公報 国際公開第WO2002/040743号パンフレット 特開2002−339083号公報 特開2008−56750号公報
広中清一郎、「固体潤滑剤としてのセラミックス」、工業製品技術協会予稿集、p18−21、1998年7月1日 Journal of the Japan Petroleum lnstitute,Vol.2 5, No.6,p376−379,Nov.1982 白田昌敬、酒井健二;潤滑,第27巻,第8号 p594−599,(1982)
本発明は、従来、切削加工油剤や塑性加工油剤として使用されてきたO/W型エマルションの未だ解明されていない潤滑挙動に着目し、ダイヤモンド質超微粒子をO/W型エマルション組成物に添加した際の潤滑挙動を詳細に調べ、ダイヤモンド質超微粒子をO/W型エマルジョンの構成相に各種分散制御することで、潤滑性能において従来にない優れた特性を発揮するという事実を得た結果なされたものである。
発明に至る過程でダイヤモンド質超微粒子を単に水に分散させる分散剤の選択のみでは該超微粒子添加による摩擦特性や摩擦疲労特性を全く向上できないこと、これを可能とするには、水分散剤が潤滑性能を有し、更には分散剤の複合効果を解明することが不可欠なこと、また、油中分散のための分散剤の選定とエマルション乳化剤の同様な選択、全体として分散剤と乳化剤の干渉を押さえて最適化する手法と製造法等々を鋭意検討した結果、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション潤滑剤組成物が従来品より格段に優れた潤滑性能を有することを解明し完成するに至ったものである。
O/W型エマルション組成物に、ダイヤモンド質超微粒子を分散させた分散形態には、例えば、ダイヤモンド質超微粒子が連続相である水中に安定分散したもの(O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション)、分散相である油中に安定分散したもの((O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション)、水中及び油中それぞれにダイヤモンド質超微粒子が分散したもの((O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション)、更には、個々の油粒子はその中にダイヤモンド質超微粒子を含む多数の水滴を含んだものがあるが、本明細書においては、特に断りのない場合は、これらを全て包含するものとする。
特許文献1では、固体潤滑剤の水中油乳濁液(O/W型エマルション)への添加における具体的課題とその効果については、単にEP剤の潤滑作用を補うためという記述があるのみであり、平均粒子径を特定したダイヤモンド質超微粒子の分散並びに分散剤の特定や複合添加による摩擦特性への効果、同超微粒子の分散形態、更には本発明で得られる従来にない優れた潤滑性能、生分解性と非環境ホルモン性を併せ持つ油の使用やダイヤモンド質超微粒子の分散剤とエマルション乳化剤との関係において適正な組み合わせ、また、これら潤滑剤組成物の製造方法等については全く明らかとしていない。
特許文献3、4、5、6いずれの従来技術も、粒子径範囲やその添加濃度、超微粒子中のグラフアイト含有量率、無灰系摩擦調整添加剤等々を特定し、想定する潤滑メカニズムにおける固体潤滑粒子の機能について各種記載はあるものの、鉱油や合成油系の潤滑油に、単に固体潤滑剤としてダイヤモンド超微粒子を添加したに過ぎない。このような該超微粒子の添加だけでは全く良好な摩擦係数や安定な摩擦疲労特性は達成し得ない。O/W型エマルション分散系に分散剤、エマルション乳化剤を最適に選択添加して、如何に優れた潤滑性能を達成するか、その技術思想、製造方法等については全く明らかとしていない。
非特許文献1には、耐焼付き性の向上について部分的に開示はしているものの、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルションからなる潤滑剤の構成とその製造方法、更には、摩擦特性を支配する分散剤及びその選択の重要性と本発明で得られる従来にない優れた潤滑性能については一切明らかとしていない。
耐摩耗性と耐焼付き性の向上や微粒子の転がり潤滑等のメカニズムの発揚を目的とした微粒子含有潤滑剤組成物については、特許文献4等、数多くの報告がなされている。従来技術として特にナノサイズ領域の微粒子添加潤滑剤については、転がり潤滑メカニズムの期待のもとに鉱油や合成油、それらから成るグリースにダイヤモンド超微粒子を添加した効果が開示されている。しかし、ダイヤモンド超微粒子添加による摩擦特性の向上に及ぼす分散剤の重要性とその効果に関する報告等はほとんどなく、開示されたものも、単にナノ微粒子の転がり作用を引き出す手法として、分散性を改善したり、摩擦調整剤等を添加しただけのものである。
即ち、ダイヤモンド超微粒子のナノサイズに由来する形状特性等から微粒子の転がり潤滑への期待はあるものの、実際の当該潤滑剤をどのように設計し、どのように効果的に作用させるか、又、製造するかが解らないままダイヤモンド超微粒子をただ単に添加しているに過ぎないといっても過言ではない。ダイヤモンド質超微粒子は、極限環境下で製造されるという特殊事情から産業用素材としては未だ高価であり、油等にただ漫然と添加するだけでは、希望的な潤滑効果発揚にも相当量の添加が不可欠であり、潤滑油にただ添加しただけでは、全くその添加効果は期待できず、焼き付き現象が発生するのみである。
従って、広く産業用途に普及させるためには、ダイヤモンド質超微粒子は可能な限り少量添加で効果的に摩擦面に作用させるその構成と、潤滑効果発揚のための分散剤、これらに基づく摩擦疲労特性も含めた一層の性能向上、それらを実現する製造法等々が必要とされてきているが、これらの課題を達成する解決策については未だ明確にされていない。
更にその上、生分解性を有し、環境ホルモン物質を廃した環境負荷の著しく低い成分構成の同時付与という課題については全く検討がなされていない。
一方、ダイヤモンド超微粒子を水分散したり、水系エマルションに添加してテクスチャリング等微細研磨加工に使用する目的の水溶性研磨剤が数多く報告されている。従来技術の延長として、ダイヤモンド超微粒子を使用する技術は、研磨微粒子として、微粒子の分散性を高め、使用する微粒子サイズ固有の微小切削切刃を確保しようとする界面活性剤の構成や、研磨屑処理に注目したものである。同時に、水系エマルションヘのダイヤモンド超微粒子添加への期待はあるものの、実際の水溶性研磨剤をどのように設計し、どのように効果的に作用させるか、又、製造するかが解らないままダイヤモンド超微粒子をただ単に水系エマルションに添加しているに過ぎないものである。
更に、塑性加工油剤としてのO/W型エマルションヘの微粒子添加による潤滑性能向上の取り組みには、ニ硫化モリブデンやグラファイト等従来固体潤滑剤添加の構想はあるものの、物質中で最高の硬さを有する研磨剤であるダイヤモンド超微粒子については全く注目されてきていない。従って、微粒子が水中、油中で潤滑性能を発揮するための分散剤の設計指針と乳化剤の最適選択等々の選択基準は基より、O/W型エマルションヘの微粒子分散形態の設計とそれを実現する製造方法等については当然皆無であり、全く解明されていない。
一方、加工の難易度で最高水準であるファインブランキング加工は、高負荷下の潤滑の代表例であり、金型表面は常時焼き付き状況に曝され加工精度を失う。更に、軸受への適用や線引き加工、深絞り加工への適用等においても、同様に、回転トルク変動の低減や加工精度の向上に対する潤滑機能の改善に限界がある。従来の油溶性潤滑剤組成物では、高精度化と高能率化を目的とする添加剤として、油性向上剤、極圧剤(EP剤)あるいは固体潤滑剤が使用されるが、いずれも潤滑性能の向上機構の限界、枯渇資源に対する配慮の欠如、更に生分解性に乏しく、PRTRやPoHS等に該当する成分を含む等の多くの問題がある。
とりわけ水溶性潤滑剤での潤滑性能が、極圧剤(EP剤)を含む油溶性潤滑剤に匹敵する高性能でしかも安全性を配慮した水溶性潤滑剤は未だ開発されていない。
非特許文献3は、ワーク表面での最終のエマルション形態が(W/O)型であることが望ましいとしているが、W/O/W型エマルション形態は乳化安定性に乏しく、実際の使用にあたって常時強制攪拌してスプレー供給する特殊な方法であることや乳化剤の量の調整等、作業性や粒子径の維持安定操作が難しく問題がある。
特許文献1〜6では、潤滑剤組成物において油性向上剤や固体潤滑剤を基油に添加することにより潤滑特性が向上することが記載されている。特に無機系固体潤滑剤の多くは比重が重く、非水系あるいは水系を問わず低粘度系での安定分散性への課題がある。これらを解決する手段は、高粘度グリースもしくは増粘性水溶性ポリマー等を利用して物理的に分散安定化を図っているものであり、エマルションの油相(O相)あるいは水相(W相)さらにはその両相に添加して分散安定化や潤滑性能を効果的に引き出した例は見られない。
特許文献7〜8では、固体潤滑剤として、平均粒子径1μm以上の二硫化モリブデン微粒子を用い、ショットピーニングの技術を応用して、摺動部材の摺動面に微粒子を衝突させ、衝突エネルギーで表面に微粒子を打ち込み、強固な固体潤滑剤層を形成する方法及びその投射用材料、更に前記固体潤滑剤層を有するピストンが開示され、長期に渡り摺動抵抗低減効果が維持できることが記載されている。更に、特許文献9には、バインダ樹脂や溶剤に固体潤滑剤微粒子を配合し乾性被膜潤滑剤を改良した密着性、耐摩耗性、耐焼付き性に優れ、低摩擦係数の複層潤滑剤組成物と複層潤滑皮膜が記載されている。しかし、前者の技術は固体潤滑剤層或いは被膜(或いはコーティング層)の抱える剥離の懸念や寿命の短さの課題は改善できるものの、衝突エネルギーによる微粒子打ち込みという形成手法の特徴から、潤滑性能は勿論、打ち込みに必要な衝突エネルギーを確保するための微粒子比重や粒子径に一定の制約があることは明白であり、その比重が約1/2で、ナノサイズの本発明のダイヤモンド質超微粒子を含有する被覆層(固体潤滑層に類似)や当該超微粒子を含有した複合被覆層の形成、更には、微粒子脱落時の自己修復機能の付与の概念や微小で複雑な形状への対応という、本発明が解決する多くの課題は全く明らかにされていない。また、後者の場合も、乾性被膜潤滑剤として一定の改善効果はあるものの、被膜の剥離や固体潤滑剤微粒子の脱落、摩耗量の低減と寿命の向上等々、潤滑コーティング部材(トライボロジー部材)への適用においてコーティング層やコーティング層を有する部材に求められる高い潤滑機能と耐久性という本質的な課題克服に充分な効果は期待できない。
本発明者らは、従来、切削加工油剤や塑性加工油剤として使用されてきたO/W型エマルションの未だ解明されていない潤滑挙動に着目し、ダイヤモンド質超微粒子をO/W型エマルション組成物に添加した際の潤滑挙動を詳細に調べ、超微粒子化しても本来研磨材であるダイヤモンド質超微粒子をO/W型エマルジョンの構成相に各種分散制御することで、潤滑性能において従来にない優れた特性を発揮するという知見を得た。この知見については、ダイヤモンド質超微粒子を添加したO/W型エマルション組成物としてすでに特許出願している(国際出願PCT/JP2009/001721)。本発明者らはさらに、研究を重ね、ここで得られた知見をW/O型のエマルションにも適用できること、また、ダイヤモンド質微粒子に変わって六方晶窒化ホウ素の高圧相であり同様に超微粒子化しても本来研磨材である立方晶窒化ホウ素(Cubic oron itride、以後CBNとも呼ぶ。)超微粒子、ウルツ鉱型結晶(Wurtzite−type oron itride、以後WBNとも呼ぶ。)超微粒子、更に、立方晶窒化ホウ素及びその一部を炭素で置換した高圧相(以後BCNとも呼ぶ。)超微粒子にも適用できることをつきとめ、本発明に至った。
本発明は、ダイヤモンド質超微粒子を含むW/O型エマルション組成物におけるダイヤモンド質超微粒子に優れた潤滑特性を付与する分散剤と該超微粒子の分散形態の構成、得られる潤滑特性、更に、その製造方法を明らかとし、上記従来技術からは得られなかった優れた潤滑性能を有する潤滑剤組成物を提供することを第一の目的とする。
また、本発明は、ダイヤモンド質微粒子に変えて、六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子を添加したO/W型又はW/O型エマルション組成物を用い、優れた潤滑性能を有する潤滑剤組成物を提供することを第二の目的とする。
本発明者らは、前記したようにダイヤモンド質超微粒子をW/O型エマルション組成物に添加した際の潤滑挙動を詳細に調べ、試行錯誤のうえ、ダイヤモンド質超微粒子をW/O型エマルションの各構成相に各種分散制御することに成功し、さらに、よりダイヤモンド質超微粒子の優れた摩擦特性を引き出す分散剤と乳化剤の構成とを見出し、各分散形態で従来にない潤滑特性を実証し、また優れた潤滑性能を実現する製造方法を見出し、さらに本方法によって再現性よく製造出来るとの知見を得たものである。また、ダイヤモンド質微粒子に変えて、CBN超微粒子を用いた場合についても検討を行い、同様な知見を得た。
詳細には、本発明の各態様は以下の通りである。
本発明の基本の態様は、O/W型エマルション組成物であって、平均粒子径が100nm以下のダイヤモンド質超微粒子であって分散剤で処理したダイヤモンド質超微粒子を含有することを特徴とするO/W型エマルション組成物である。この基本の態様は、後述するように潤滑剤として、あるいはコーティング剤として用いることができる。なお、以下の第1の態様から第9の態様はエマルション組成物の代表的な応用例として、潤滑剤組成物に関する態様であるが、「潤滑剤組成物」を「エマルション組成物」と置き換えて用いることができる。すなわち、潤滑剤組成物としての下記態様はエマルション組成物としての態様と共通している。
本発明の第1の態様は、乳化剤を含有するO/W型エマルション組成物であって、平均粒子径が100nm以下のダイヤモンド質超微粒子であって分散剤で処理したダイヤモンド質超微粒子を含有することを特徴とする潤滑剤組成物を提供する。
前記ダイヤモンド質超微粒子が、水相(W相)中及び/又は油相(O相)中に分散されていることが好ましい。前記ダイヤモンド質超微粒子が、水相(W相)中と油相(O相)中の両方に分散されていることが特に好ましい。
前記水相中に分散されている前記ダイヤモンド質超微粒子が、水分散用分散剤で処理したダイヤモンド質超微粒子であって、前記処理が、ダイヤモンド質超微粒子を水中で分散後或いは分散と同時に水分散用分散剤を添加する処理であることが好ましい。
前記水分散用分散剤が、陰イオン型、両性型、非イオン型のうち1または複数の種類の分散剤からなることがより好ましい。前記水分散用分散剤が、陰イオン型の分散剤と非イオン型の分散剤との組み合わせからなることがさらに好ましい。
ダイヤモンド質超微粒子の水分散用分散剤は、本明細書では、特に「水分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(WS)」と呼ぶ。水分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(WS)には、例えば、陰イオン型グループとしては、高級脂肪酸/ポリオキシエチレン(エチレンオキシドの付加モル数(n)が3以外のもので、特に断りのない限り、以下ポリオキシエチレンとする)・アルキル鎖(Cn(アルキル鎖R=8から24をCnとする。以下同じ。))・エーテルカルボン酸/ひまし油脂肪酸のヒドロキシル基部にアルキル鎖(Cn)脂肪酸が結合した2量体/α−オレフィン(Cn)・硫酸エステル/高級脂肪酸(Cn)メチルエステル・α一硫酸エステル/石油(分子量が400から1000)スルホネート、サルフェート/高級脂肪酸・硫酸エステル及びそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、重金属塩、モノ、ジ、トリエタノールアミン塩等が挙げられる。また、例えば、両性型グループとしては、ヒドロキシアルキル−αまたは、β位−アラニン型およびそのアルカリ金属塩、重金属塩、モノ、ジ、トリエタノールアミン塩、及びそれらのアルキル基にエチレンオキシド(EO)nの1mol以上が結合したもの/アルキルカルボキシベタイン型・四級アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム塩/レシチン等が挙げられる。また、例えば、非イオン型グループとしては、ポリオキシエチレン高級脂肪酸(Cn)エステル/高級脂肪酸(Cn)・モノ、ジ、トリエタノールアミド/ポリオキシエチレン高級アルコール(Cn)エーテル/ポリオキシエチレン高級アミン(Cn)エーテル/ポリオキシエチレン脂肪酸(Cn)アミド/ポリオキシエチレン・ポリプロピレンオキシドブロック共重合物(プルロニック系)/アルキル鎖(Cn)脂肪酸・プルロニックエーテル及びエステル/ポリオキシエチレン高級脂肪酸・ショ糖エステル等か挙げられる。これらが代表的なものであり、前記した基礎エマルション(A)用乳化剤と適合してダイヤモンド質超微粒子の分散を阻害しないものであればこれに限定されない。本明細書においては、特に断りのない場合は、これらを全て包含するものとする。
また、前記油相中に分散されている前記ダイヤモンド質超微粒子が、水分散用分散剤及び油分散用分散剤で処理したダイヤモンド質超微粒子であって、前記処理が、ダイヤモンド質超微粒子を水中で分散後或いは分散と同時に水分散用分散剤を添加した後、水分を除去し、さらに油分散用分散剤を添加する処理であることが好ましい。
前記油分散用分散剤が、極性基グループと非極性グルーブのうちいずれかまたは両方のグループの界面活性剤を含有することがより好ましい。前記界面活性剤が、HLB値8以下であることがさらに好ましい。
ダイヤモンド質超微粒子の油分散用分散剤は、本明細書では、特に「油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)」と呼ぶ。油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)は、ダイヤモンド質超微粒子表面を疎水性とし、油相(O相)中に安定分散する役割がある。これらの分散剤としては、界面活性を失わない範囲で且つ親水性/疎水性のバランス(HLB)が水溶性のものよりも小さく、界面活性の弱い界面活性剤、例えばHLB値が8以下の界面活性剤が好ましく、また、極性基グループと非極性グループで分類するとすれば、例えば、極性基グループとしては、ポリオキシエチレン・アルキル鎖(Cn)・エーテルカルボン酸/高級(アルキル鎖R=8から24以下)脂肪酸/ひまし油脂肪酸/脂肪酸スルホネート及びサルフェート/石油(分子量が400から1000)スルホネート及びこれらカルシウム塩以外のアルカリ土類金属、重金属塩/ヒドロキシアルキル(アルキル鎖がC12から18のもの)−α又は、β位−アラニン型/アルキルカルボキシベタイン型・四級アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム塩、アルカリ土類金属、重金属塩/高級脂肪酸アミドのアルキロール化硫酸エステル及びこれらのアルカリ金属塩、及びモノ、ジ、トリエタノールアミン塩/高級(Cn)アミンと高級(Cn)脂肪酸の塩等が挙げられる。また、例えば、非極性グルーブとしては、ポリオキシエチレン(n=3以上のもの)・アルキル鎖(Cn)・エーテルカルボン酸カルシウム塩/高級(Cn)脂肪酸カルシウム塩/脂肪酸スルホネート及びサルフェートのカルシウム塩/石油(分子量が400から1000)スルホネートカルシウム塩及びこれらカルシウム塩以外のアルカリ土類金属、重金属塩/高級(Cn)脂肪酸アミド/ヒドロキシアルキル(アルキル鎖がC12から18のもの)α一又は、β位−アラニン型カルシウム塩/アルキルカルボキシベタイン型・アルカリ土類金属、重金属塩/レシチン/高級(Cn)脂肪酸・高級(Cn)アルコールアミド/高級(Cn)脂肪酸・高級(Cn)アルコールエステル/ソルビタン・脂肪酸(Cn)エステル/ペンタエリスリトール・脂肪酸(Cn)エステル/高級(Cn)脂肪酸の部分エステル又は、フルエステル及びエーテル等が挙げられる。油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)は、これらから少なくとも一種以上選択することが好ましく、その他、P−1:炭化水素油系、V:動植物油脂系、S:合成油系、WSの中で、界面活性を失わない範囲で、且つ親水性/疎水性のバランス(HLB)が水溶性のものより小さい界面活性剤等が代表的なものであり、又下記する基礎エマルション(A)用乳化剤(EM)や本油分散用ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)間で適合してダイヤモンド質超微粒子の分散を阻害しないものであればこれに限定されない。本明細書においては、特に断りのない場合は、これらを全て包含するものとする。
エマルション形態を形成させるエマルション製造の基礎となる乳化剤(以下、「基礎エマルション(A)用乳化剤(EM)」とする)には、例えば、陰イオン型グループとしては、高級脂肪酸/ポリオキシエチレン(n=3以上のもの)・アルキル鎖(Cn)・エーテルカルボン酸/ひまし油脂肪酸のヒドロキシル基部にアルキル鎖(Cn)脂肪酸がエステル結合した2量体/α−オレフィン(Cn)・硫酸エステル/高級脂肪酸(Cn)メチルエステル・α−硫酸エステル/石油(分子量が400から1000)スルホネート、サルフェート/高級脂肪酸・硫酸エステル及びそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、重金属塩、モノ、ジ、トリエタノールアミン塩等か挙げられる。また、例えば、陽イオン型グループとしては、アルキル鎖(Cn)・第四級アンモニウム塩等が挙げられる。また、例えば、両性型グループとしては、ヒドロキシアルキル−α又は、β位−アラニン型およびそのアルカリ金属塩、重金属塩、及びモノ、ジ、トリエタノールアミン塩、及びそれらのアルキル鎖にエチレンオキシド(EO)nの1mol以上か結合したもの/アルキルカルボキシベタイン型・四級アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム塩/レシチン等か挙げられる。
また、例えば、非イオン型グループとしては、
ポリオキシエチレン高級脂肪酸(Cn)エステル/高級脂肪酸(Cn)・モノ、ジ、トリエタノールアミド/ポリオキシエチレン高級アルコール(Cn)エーテル/ポリオキシエチレン高級アミン(Cn)/ポリオキシエチレン脂肪酸(Cn)アミド/ポリオキシエチレン・ポリプロピレンオキシドプロック共重合物(プルロニック系)/アルキル鎖(Cn)脂肪酸・プルロニックエーテル及びエステル/ポリオキシエチレン高級脂肪酸・ショ糖エステル等が挙げられる。上述したものが代表的なもので、水中に油滴を乳化分散する所謂O/W型エマルションや油中に水滴を乳化分散する所謂W/O型エマルションヘの乳化剤であり、本発明では後述するダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を水中へ分散させる水分散用分散剤及び油中へ分散させる油分散用分散剤と干渉してダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子の分散を阻害して界面活性剤としての効果を阻害しないものであればこれに限定されない。本明細書においては、特に断りのない場合は、これらを全て包含するものとする。
また、前記基礎エマルション(A)製造の乳化剤が、陰イオン型、陽イオン型、両性型、非イオン型のうち1又は複数の種類の乳化剤祖成物からなることが好ましい。
また、前記ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子が、組成比で10wt%以下であることが好ましい。また、基油成分有効濃度が1wt%以上であることが好ましい。基油成分有効濃度とは、基油成分(乳化剤(EM)を含む)を基油成分と水成分の和で構成される「基礎エマルション(A)」の全成分で除することで得られる内油相比(重量パーセント:wt%)を表す。
エマルション組成物を構成する基油は、水に不溶のものを用いることが好ましい。基油としては、例えば、炭化水素系(P−1)としては、n−パラフィン/iso−パラフィン/シクロパラフィン/スクワレン等の炭化水素油が挙げられ、動植物油脂(以下Vとする)としては、モノ、ジ、トリグリセリド/ワックス/レシチン/コレステリン/ステロイド系/トール油/ラノリン等の一つ以上のものが挙げられ、合成油(以下Sとする)としては、低級(アルキル鎖R=1から8以下)及び高級脂肪酸(アルキル鎖R=8から24以下(Cn))とアルコール(アルキル鎖R=1から24以下)のエステル/ひまし油脂肪酸の誘導体/ボリオキシエチレン及びポリブロピレンオキシドの共重合物/ポリブテン(粘度:10から1000cStのもの)/α−オレフィン/α−オレフインオリゴマー(粘度:10から1000cStのもの)/高級脂肪酸(Cn)/高級アルコール(Cn)/シリコン油/ポリフェニルエーテル/フッ素油/リシノール酸、ソルビタン、ペンタエリスリトール等の水酸基(アルキル鎖R=1から24以下)とアルキル脂肪酸(アルキル鎖R=1から24以下)のエステル及びエーテル/石油(分子量400から1000)スルホネート/アルキルアミン(Cn)と高級脂肪酸(Cn)の塩等が代表例で、さらに、これら炭化水素系(P−1)、動植物油脂(V)、合成油(S)の化合物の酸化物、重合物(重合油)、縮合物、アミド、ワックス、硫酸塩、亜硫酸塩、硫化物、リン酸塩、金属塩、有機金属錯体等となるものも含み、これらから少なくとも一種以上選択するものが好ましいが、これに限定されない。また、動植物油脂のマイクロカプセル(ミヨシ油脂製)も含まれ、一方、これを水(W相)中に分散した場合には、固体微粒子としての挙動を示すものである。る。本明細書においては、特に断りのない場合は、これらを全て包含するものとする。また、前記O/W型エマルション組成物の構成は、基油、乳化剤、分散剤、水の4成分を主体とし、更にその成分は、PoHS(ノルウェー有害化学物質規制法)やPRTR(化学物質排出把握管理推進法)に該当しない組成から成ることが好ましい。
本発明の第2の態様は、水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子を含むエマルション組成物を製造する方法において、平均粒子径が100nm以下のダイヤモンド質超微粒子を水中に分散させたダイヤモンド質超微粒子水分散原料体を水分散用分散剤で水中に分散して分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を作製する工程、或いは水分散用分散剤を添加して凝集微粒子の分散と同時に分散剤処理して分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分敬体を作製する工程、基油に乳化剤を添加してエマルション基油を作製する工程、前記エマルション基油に水を加えてO/W型に転相乳化して基礎エマルション(A)を作製する工程、前記分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を前記基礎エマルション(A)に混合して水を加えて調整する工程を含むことを特徴とするエマルション組成物の製造方法を提供する。
「ダイヤモンド質超微粒子X分散体」(X:水、油(基油)等)とは、分散質であるダイヤモンド質超微粒子を分散剤処理し、これを分散媒である水や油中に分散した分散液を示すものであり、通常、「分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子X分散体」と呼ぶが、特に、本発明のエマルション組成物では、ダイヤモンド質超微粒子をエマルション分散媒(連続相)の水相(W相)側か、エマルション分散質(分散相)の油相(O相)側のどちらの側に分散処理を施したものであるかを示すものである。本実施例で作製する組成物には、水相(W相)側へ分散した場合には(DW)、油相(O相)側へ分散した場合には(DO)と明記する。
又、各実施例に記載するダイヤモンド質超微粒子の上述した各種分散態様の組成物製造においては、ダイヤモンド質超微粒子X分散体を次のように区別して使用することとする。
「ダイヤモンド質超微粒子水分散原料体」:
本発明のエマルション組成物の製造工程上、微粒子表面が既に親水化した出発原料を単に水中に機械的に分散したもの。
「分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体(DW)」:
水分散用ダイヤモンド質超微粒子分散剤(WS)で水中に分散処理した分散液。本分散体は水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子を分散したエマルション組成物の製造に使用するため、上述したダイヤモンド質超微粒子のエマルション組成物中の分散態様と関連づけて、DWと記号化することもある。
「分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子油分散体(DO)」:
上記(DW)を脱水処理して得られる親水性のダイヤモンド質超微粒子を、基油(P−1)中に油分散用ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)を溶解させた中で疎水化処理と同時に基油(P−1)に分散した分散液。 上述したダイヤモンド質超微粒子のエマルション組成物中の分散態様と関連づけて、DOと記号化することもある。本分散体は、油相(O相)中にダイヤモンド質超微粒子を分散したエマルション組成物の基油成分そのもの或いは基油成分の一部となるため、エマルション組成物製造の説明では、後述するようにダイヤモンド質超微粒子油分散体:基油P−2と簡略して呼ぶこととする。
なお、上記「分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体」を脱水処理して得られるものを「水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤」(或いは、「水分散用ダイヤモンド質超微粒子の固体潤滑剤微粒子」と呼ぶこともある)、それをn−ヘキサン等の分散媒中で油分散用分散剤(OS)で疎水化処理後、分散媒を蒸発したものを「油分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤」(或いは、「油分散用ダイヤモンド質超微粒子の固体潤滑剤微粒子」と呼ぶこともある)と以後明細書中で呼ぶことがある。
「転相乳化」とは、基油と乳化剤を混合し、そこに水を徐々に加えて攪拌し、この系で最高粘度(O:W=7:3前後)に達した時点で充分錬る乳化法である。この工程を完了させた後に所望の粘度(稠度5〜230程度)とするまで水を添加して調製する。この転相水や調整水に水成分としてグリコール類或いは水性塗料等を添加しても良い。油相(O相)中にダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルションの場合には、使用する基油成分には、特定した分散剤で処理されたダイヤモンド質超微粒子を含み、水相(W相)中に同超微粒子を含む場合には、特定した分散剤で処理されたダイヤモンド質超微粒子を、所望の基油成分有効濃度とする水に含む場合、及び/又は転相する水の中に含む場合もあり、本明細書においては、特に断りのない場合は、これらを全て包含するものとする。
前記エマルション基油に水を加えてO/W型に転相乳化して基礎エマルション(A)を作製する工程及び前記分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を前記基礎エマルション(A)に混合して水を加えて調整する工程の各工程の代わりに、前記分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を前記エマルション基油に混合して水を加えて水相(W相)と油相(O相)の比率を調整して自己乳化する工程を含むものであっても好ましい。
なお、基礎エマルション(A)にダイヤモンド質超微粒子を含む場合のO/W型エマルションは、例えば、「O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物」と呼ぶことができる。
本発明の第3の態様は、油相(O相)中にダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物を製造する方法において、当該ダイヤモンド質超微粒子を水中に分散させたダイヤモンド質超微粒子水分散原料体を水分散用分散剤で水中に分散して分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を作製する工程、或いは水分散用分散剤を添加して凝集微粒子の分散と同時に分散剤処理して分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を作製する工程、前記分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体から水を除去して親水性のダイヤモンド質超微粒子を作製する工程、基油に油分散用分散剤或いは更に乳化剤を添加して、前記親水性のダイヤモンド質超微粒子を基油中に分散して分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子油分散体を作製する工程、前記分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子油分散体に他の基油を混合し乳化剤を添加してエマルション基油成分を作製する工程、前記エマルション基油成分に水を徐々に加えて攪拌しO/W型に転相乳化する工程、さらに水を添加して水相(W相)と油相(O相)の比率を調整する工程を含むことを特徴とする潤滑剤組成物の製造方法を提供する。前記エマルション基油成分へ水を徐々に加えて攪拌しO/W型に転相乳化する工程と、さらに水を添加して水相(W相)と油相(O相)の比率を調整する工程との、いずれか又は両方の工程において、水の代わりに前記分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を加え、水相(W相)中にもダイヤモンド質超微粒子を含ませることがより好ましい。
前記分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子油分散体に他の基油を混合し乳化剤を添加してエマルション基油成分を作製する工程、前記エマルション基油成分に水を徐々に加えて攪拌しO/W型に転相乳化する工程及び、さらに水を添加して水相(W相)と油相(O相)の比率を調整する工程の各工程の代わりに、乳化剤を添加した他の基油に前記分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子油分散体を混合して水を加えて水相(W相)と油相(O相)の比率を調整して自己乳化するマイクロエマルションの作製工程をも含む。
本発明の第4の態様は、ダイヤモンド質超微粒子を水中で分散後或いは分散と同時に水分散用分散剤を添加した後、水分を除去して得られる固体微粒子を提供する。また、ダイヤモンド質超微粒子を核とし、表面に水分散用分散剤又は油分散用分散剤を有するものであってもよい。
前記水分散用分散剤が、陰イオン型、両性型、非イオン型のうち1または複数の種類の分散剤からなることが好ましい。前記水分散用分散剤が、陰イオン型の分散剤と非イオン型の分散剤との組み合わせからなることがより好ましい。
本発明者らは、さらに、潤滑特性の更なる向上を検討した結果、前記ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルションの水相(W相)中に油性向上剤を添加して、同系内に新たに生成されるO/W型エマルションと多重エマルション状態となる複成構成としたり、同様にO/W型エマルションの水相(W相)中に、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を一種以上添加して、固体が二種以上の複合構成とすることで、潤滑特性の向上と高い生分解性を併せ持つ構成及び製造方法を見出した。詳細には、本発明の別の各態様は以下の通りである。
多重エマルションとは、乳化が完了した同一系内に水中油型(O/W)、油中水型(W/O)、水中油中水型(W/O/W)、油中水中油型(O/W/O)等のエマルション形態が同じのものか、あるいは異なる形態のエマルションが新たに複成して混在(共存)する状態をいう。
他方、多相エマルションは、複合エマルションとも言い、複数の相からなる、水中油中水型(W/O/W)、油中水中油型(O/W/O)のことをいう。本願において多重のエマルション構成は、転相乳化で得られるO/W型エマルションの形成後に、添加物質の持つ特性を強調する目的で添加して得られる他のO/W型エマルションとの2種、またはそれ以上のO/W型エマルションが共存する複数のO/W型エマルション構成である。また、油中水中油(O/W/O)、または水中油中水(W/O/W)などの多相エマルションとの共存も含まれる。
複成とは、同一系内において、同一態様(例えば、エマルション)もしくは別種の態様が2種以上共存する状態のことで、複合とは、同一系内において、別種の物質が2種以上共存する状態をいう。本願では、油性向上剤を分散した状態の組成物を複成分散組成物といい、固体潤滑剤を分散した状態の組成物を複合分散組成物として区別する。油性向上剤は乳化分散するものであり、固体潤滑剤は単純に安定分散するだけという分散状態の違いを表現するために別々の名称を付与したが、分散物を限定する意図ではない。
本発明の第5の態様は、上述した本発明の第1の態様の潤滑剤組成物の水相(W相)中に、油性向上剤を一種以上含むことを特徴とする潤滑剤組成物である。かかる潤滑剤組成物は、前記ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物内の水相(W相)中に、油性向上剤を一種以上添加して、同系内に新たなO/W型エマルションを複成させて多重エマルション状態の複成分散組成物であることが好ましい。また、前記ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物と、別に作成した別態様の水中油型(O/W)、油中水型(W/O)、水中油中水型(W/O/W)、油中水中油型(O/W/O)の一種以上のエマルションを共存させて多重エマルションとしてもよい。
「油性向上剤」(Y)とは、摩擦面で吸着もしくは化学反応により膜を形成し、摩擦を低下させる性質を有する物質のことである。その膜が、有機金属錯体、有機金属化合物、無機物となることが好ましく、これ等を総称して「油性向上剤」(Y)と呼ぶ。これらの種類としては、アルキル鎖(Cn)脂肪酸/アルキル鎖(Cn)アルコール/アルキル鎖(Cn)脂肪酸エステル/アルキル鎖(Cn)アミン/多価アルコールの部分エステル、フルエステル等が代表例であり、又それらの一種以上の複合体、複合反応物、重合物、酸化物、縮合物、金属塩等が好ましく、境界潤滑領域で摩擦低減の性質を有するものであれば、これに限定されない。また、潤滑条件によって、上記化合物となり得るものであれば、上述の極性基を有しない基油成分の炭化水素系(P−1)、動植物油脂(V)、合成油(S)等であっても良い。また、一般に分類される極圧剤(EP剤)としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジチオカルバミン酸モリブデン(有機モリブデン)、PRTR、PoHSに該当しないパラフィンワックス系塩素化パラフィンが好ましいが、一例でありこれに限定されない。また、硫黄化合物としては、基油(P−1)、動植物油脂(V)、合成油(S)、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)等のアルキル鎖又は官能基の部分硫化物、更には、水分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(WS)の中で油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)に溶解するものであれば使用できる。燐化合物としては同様に、上述した基油(P−1)、動植物油脂(V)、合成油(S)、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)のアルキル鎖又は官能基に部分エステル、エーテル結合したもの等が代表例であり、又それらの一種以上の複合体、複合反応物、重合物、酸化物、縮合物、金属塩等が好ましい。なお、環境保全(PRTR、PoHS等)の法規制に該当する物質の使用は好ましくないが、今だ代替する物質が開発されていない場合や完全閉鎖系での使用においては許諾の特例がある。当該潤滑剤組成物の実施例8の態様の摩擦試験で使用した油性向上剤として、ジチオカルバミン酸モリブデン(有機モリブデン)がそれに該当するが、摩擦特性が優れていることから、法規制を遵守し、かつ、完全閉鎖系での使用においては使用しても構わない。
本発明の第6の態様は、上述した本発明の第1の態様の潤滑剤組成物の水相(W相)中に、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を一種以上添加したことを特徴とする潤滑剤組成物を提供する。かかる潤滑剤組成物は、O/W型エマルション組成物中に分散されたダイヤモンド質超微粒子とダイヤモンド質超微粒子以外の前記固体潤滑剤とがO/W型エマルション組成物中に共存して複合状態となる複合分散組成物であることが好ましい。また、前記ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物中のダイヤモンド質超微粒子と、前記O/W型エマルション組成物内の水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加して固体潤滑剤が一種以上の複合状態となることを特徴とする、上述した本発明の第1の態様の潤滑剤組成物でもよい。水相(W相)中に添加した、ダイヤモンド質超微粒子以外の前記固体潤滑剤が、有機質、無機質の中から選ばれる少なくとも一種以上からなり、いずれも平均粒子径が5.0μm以下で、ダイヤモンド質超微粒子濃度とダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤濃度との総和が50wt%以下であることが好ましい。
ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を、本明細書では、「ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)」と呼ぶ。ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の種類としては、例えば、アミノ酸ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フッ素樹脂、モノアシル、アミノカルボン酸、塩基性アミノ酸、ポリイミド、アミドイミド、ポリアミド、アルキド樹脂、ヒドロキシベンゼン、尿素(ウレア)、ポリアセタール、ポリウレタン、エーテルスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、メラミンシアヌレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、有機金属錯体等の有機系固体潤滑剤が代表例であり、無機系固体潤滑剤の例としては、雲母、二酸化ケイ素、ジルコニア等の金属酸化物、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、黒鉛、フッ化黒鉛、フラーレン等のセラミックス無機微粒子等、固体潤滑機能を発揮するすべての微粒子が使用可能であり、これらに限定されるものではない。更に、摩擦環境下で互いに反応して得られた生成物が固体潤滑機能を発揮するものであっても良い。また、これらの固体潤滑剤(Z)の一種以上が好ましく、さらには平均粒子径が5.0ミクロン以下のものが好ましく、特に断りのない場合はこれらを全て包含するものとする。
上記した平均粒子径は、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の水相(W相)中へ添加・分散する制約であるが、油相(O相)内に添加・分散する場合には、その平均粒子径については、油滴径に制約されることは明らかである。エマルション(乳濁色)タイプの場合は、その油滴径は、1から10ミクロンであり、マイクロエマルションタイプの場合は、0.1から1ミクロンである。従って、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を油相(O相)内に添加・分散する場合には、例えば、それぞれのエマルションタイプ油滴径の1/2から1/100以下の平均粒子径であることが好ましい。
水相(W相)中に添加した、ダイヤモンド質超微粒子以外の前記固体潤滑剤が、有機質、無機質の中から選ばれる少なくとも一種以上からなり、いずれも平均粒子径が5.0μm以下で、ダイヤモンド質超微粒子濃度とダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤濃度との総和が50wt%以下であることが好ましい。
本発明の第7の態様は、上述した本発明の第1の態様の潤滑剤組成物の水相(W相)中に、油性向上剤を一種以上添加し、かつ、ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子以外の固体潤滑剤を一種以上添加してあることを特徴とする潤滑剤組成物を提供する。かかる潤滑剤組成物は、1つのO/W型或いはW/O型エマルション組成物系内に、油性向上剤を含む0/W型或いはW/O型エマルション状態と、前記ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション状態の両方が共存する、多重エマルション状態となる複成分散組成物であり、かつ、O/W型エマルション組成物中に分散されたダイヤモンド質超微粒子とダイヤモンド質超微粒子以外の前記固体潤滑剤とが1つのO/W型エマルション組成物中に共存して複合状態となる複合分散組成物でもある、複成・複合分散組成物であることが好ましい。また、前記ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物と、前記O/W型エマルション組成物内の水相(W相)中に油性向上剤を添加して複成する油性向上剤を含むO/W型エマルションとが共存する多重エマルション状態と、かつ、前記O/W型エマルション組成物内の水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加して固体潤滑剤が一種以上の複合状態とが混成する状態であることを特徴とする、上述した本発明の第1の態様の潤滑剤組成物でもよい。
本発明の第8の態様は、当該ダイヤモンド質超微粒子を分散剤で処理したものを含有し油性向上剤を一種以上添加し及び/又はダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子以外の固体潤滑剤を一種以上添加した潤滑剤組成物中の水成分を含まない構成からなることか好ましい。また、上述した本発明の第1の態様の潤滑剤組成物であって、油性向上剤を一種以上添加し及び/又はダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子以外の固体潤滑剤を一種以上添加した潤滑剤組成物中の水成分を含まない構成からなることを特徴とするものでもよい。
本発明の第9の態様は、上述した本発明の第3の態様の潤滑剤組成物の製造方法で、さらに、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型やW/O型エマルション組成物の水相(W相)中に、油性向上剤及び/又はダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子以外の固体潤滑剤を一種以上後添加する工程を含むことを特徴とする潤滑剤組成物の製造方法を提供する。
本発明の第10の態様は、本発明の基本の態様であるダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を含有するO/W型或いはW/O型エマルション組成物をコーティング剤として用いるものである。本発明のコーティング剤は、本発明のエマルション組成物そのものであってもよいし、目的とされるコーティングの条件に応じて適宜コーティング剤として通常含まれる他の成分を含んでもよい。なお、主成分となるエマルション組成物については、上記潤滑剤組成物の態様をすべて利用することができる。
本発明の第11の態様は、本発明の基本の態様であるエマルション組成物を使用してコーティング処理後、乾燥或いは水乾燥することにより得られる、表面が改質された基材である。基材としては、動力伝達機構、動力吸収機構などの潤滑部材が挙げられ、動力伝達機構の具体例としては、リンク、カム、歯車、トラクションドライブ、送りねじ、案内が挙げられ、動力吸収機構の具体例としては、切削工具、塑性加工工具が挙げられる。
これらの潤滑部材は、基本的には、本発明のエマルション組成物からなるコーティング剤を基材表面に供給し、慣らし運転やその他の手法でコーティング処理後、乾燥することにより表面が改質された潤滑部材を製造することができる。
本発明の第12の態様は、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型やW/O型エマルション組成物の水相(W相)の一部が親水性溶媒からなるエマルション組成物である。親水性溶媒としては、グリセリンや少糖類・多糖類が挙げられる。親水性溶媒を用いれば、低温環境下での使用が可能となり、適用範囲が広がる。
上記は、本願発明の基礎となる、ダイヤモンド質超微粒子を添加したO/W型エマルション組成物に関する説明であるが、次に、本願のダイヤモンド質超微粒子を添加したW/O型エマルション組成物について説明する。
W/O型エマルション組成物は、例えば転相温度の違い等を除けば、基本的にはO/W型の構成を逆転させたものであり、界面活性剤(分散剤等)や乳化剤の使用については大きな違いはない。本構成のポイントは、本願発明の基礎となる、ダイヤモンド質超微粒子を添加したO/W型エマルション組成物の場合と同様に本来研磨剤であるダイヤモンド質超微粒子の研磨作用を最小限に抑える微粒子粒子径の最適化(凝集徑も含め100nm以下)とダイヤモンド質超微粒子被覆層、濃縮層の主たる形成機能の発揚である水相/油相界面への界面活性剤の助けによるダイヤモンド質超微粒子の選択配列と水滴の摩擦面への吸着を実現することである。W/O型エマルション組成物の代表例の一つは、ドライクリーニング剤であり、O相中に可溶化したのするにある。
次に、ダイヤモンド質超微粒子に変えて立方晶窒化ホウ素(Cubic oron itride、以後CBNとも呼ぶ。)超微粒子を用いた場合について説明する。
CBNとは、ダイヤモンドと同一の結晶構造を有することから、その硬さ特性は、ダイヤモンドに次ぐものであり、耐熱合金や鋼等の研削環境下でダイヤモンドと反応(ダイヤモンドの黒鉛化を通じて炭素質の被削材への溶解・吸収等)しやすい難削材の研削加工用砥粒として使用されているものである。従って、本願発明の基礎となる、ダイヤモンド質超微粒子の場合と同様に、潤滑作用へその使用仕様や機能を発揮するための作用構成を工夫することにより摩擦特性が大幅に向上することが期待できる。CBNの特徴は、前記したように摩擦環境下(研削環境に類似)で鋼を始めとする金属部材との摩擦反応性が極めて小さいことであり、黒鉛化(ダイヤモンド構造の立方晶から黒鉛構造の六方晶への構造相転移(温度)で、ダイヤモンド質超微粒子の場合は大気中で500℃〜700℃)に対応する構造相転移温度も1000℃と耐熱性が高い点にある。従って、潤滑剤やコーティング剤、潤滑作用や耐エロージョン作用等々を有する被覆層、濃縮層(コーティング層)や同層を有する部品への適用においては、摩擦特性の中でも特に耐荷重能(摩擦負荷)をダイヤモンド質超微粒子使用の場合に比べて大幅に向上できる可能性が高いことになる。 本被覆層、濃縮層の主たる形成機能は、エマルション組成物中に添加されたダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子が、界面活性剤(分散剤等)の助けで油滴或るいは水滴等の異相(水相と油相)界面へ選択配列する工夫と油滴、水滴の摩擦面への吸着、微粒子粒子径の最適化(凝集徑も含め100nm以下)で実現できるものである。微粒子の摩擦面への固定安定性には、その硬さ特性が不可欠であり、微粒子素材の摩擦係数、熱伝導特性も潤滑性能を左右するため、ダイヤモンド及びダイヤモンド構造のCBN超微粒子の選択は最適である。前記したようにCBN超微粒子はダイヤモンド質超微粒子と同様な結晶構造と化学結合やその特性を有することから、分散剤や乳化剤等の界面活性剤選択はダイヤモンド質超微粒子の結果を活用できる点も利点である。ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を選択配列する異相界面には、本発明では油滴、水滴等、環境に配慮したものをエマルション組成物という形態にて使用しているが、例えば、固体微粒子等の異相界面も使用可能である。
本発明のエマルション組成物は上述したように構成されており、これを用いた潤滑剤は、優れた潤滑性能を有し、またこれを用いたコーティング剤は優れた保護機能あるいは潤滑機能を有する。また、本発明の潤滑剤組成物の製造方法によれば、優れた潤滑性能を有する潤滑剤を製造できる。また、本発明の固体微粒子によれば、優れた潤滑性能を有する潤滑剤を得ることができる。
本発明の潤滑剤組成物によれば、摩擦疲労特性と摩耗特性において、従来品に比較して著しく低い摩擦係数と良好な耐摩耗特性を有することができる。また、以下の著しい効果が得られる。
1.著しく低い摩擦係数、良好な耐摩耗特性を示すことから、摩擦・摩耗現象が関与する過酷な環境下の摩擦応用分野にその応用範囲を大幅に拡大できる。
2.分散剤や乳化剤との組み合わせ、ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子の分散形態を制御することができ、極微量添加でも摩擦特性に著しい効果が得られ、高価なナノ超微粒子を使用しても製品コストを著しく低減できる。
3.基本的に生分解性が極めて高く、PoHS(ノルウェー有害化学物質規制法)やPRTR(化学物質排出把握管理推進法)に該当しない組成から成り、枯渇資源に頼らない再生可能なエネルギー資源を利用し、安全性が高く水洗可能なことから、環境負荷と洗浄負担を同時に低減できる。
4.ダイヤモンド質超微粒子濃縮層の生成で、低い摩擦係数と安定した摩擦疲労特性が得られることから、信頼性の高い潤滑剤組成物が提供できる。
5.CBN超微粒子濃縮層の生成で、摩擦面の耐熱性がダイヤモンド質超微粒子の場合よりも向上し、摩擦特性としての耐荷重能(摩擦負荷)が大幅に向上する。
また、本発明の潤滑剤組成物の製造方法によれば、従来、高価とされてきたダイヤモンド質超微粒子をW/O型エマルション各構成相に制御して分散添加すること、更にCBN超微粒子をO/W型エマルション、更にはW/O型エマルション各構成相に制御して分散添加することで、極く少量添加で従来にない優れた摩擦特性の発揮が可能なことから、潤滑剤組成物の著しい価格低減に寄与し、更には、枯渇資源に頼らない再生可能なエネルギー資源の利用と生分解性、非環境ホルモン性を備えることで、エネルギー資源の有効活用と環境負荷の著しい低減に多いに寄与できるものである。
また、本発明の固体潤滑剤微粒子によれば、上述したような優れた潤滑剤組成物を得ることかできる。また、自由な濃度で任意の添加剤を加え任意の潤滑剤組成物を得ることができる。
以下に示す図面は、参考例の簡単な説明である。
参考例発明の参考例2の潤滑剤組成物のエマルションタイプの摩擦疲労特性を示す図である。 参考例発明の参考例2の潤滑剤組成物のマイクロエマルションタイプの摩擦疲労特性を示す図である。 参考例発明の参考例1−3及び比較例1の潤滑剤組成物のエマルションタイプの摩擦疲労特性を示す図である。 ダイヤモンド質超微粒子の各種分散形態を示す模式図である。 参考例1−3、変形例1、比較例1の潤滑剤組成物のFalex試験における摩擦面の顕微鏡写真である。 参考例発明の参考例2の潤滑剤組成物のFalex試験ブロック摩擦面のEPMA分析結果である。 炭素質濃縮層の由来を検証した各態様のサンプルのシェル式高速四球摩擦試験ボール摩擦面(摩耗痕)の電子顕微鏡反射電子組成像である. (O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物のシェル式高速四球摩擦試験ボール摩擦面(摩耗痕)の高倍率電子顕微鏡反射電子組成像である。 参考例発明の参考例1−3、比較例1の潤滑剤組成物の摩擦疲労特性と潤滑剤枯渇試験による摩擦疲労特性を示す図である。 参考例発明の参考例2、変形例2と比較例2の潤滑剤組成物の摩擦疲労特性を示す図である。 変形例2と比較例2の各態様の潤滑剤組成物のFalex摩耗試験における摩擦面の顕微鏡写真である。 分散剤の有無・種類による潤滑剤組成物の摩擦疲労特性を示す図である。 ダイヤモンド質超微粒子、油性向上剤、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の各種分散形態を示す模式図である. 基礎エマルション(A)と複成分散組成物(A−DO−TY)のエマルション粒子の顕微鏡写真である。 参考例発明の参考例9及び比較例3、4の潤滑剤組成物の潤滑安定性の特性を示す図である。 基礎エマルション(A)の水相(W相)中への油性向上剤(Y)、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の添加の各態様(比較例5)によるシェル式高速四球摩擦試験の摩耗痕及び比摩耗量の比較を示す図である。 参考例発明の参考例8、9の潤滑剤組成物についてのシェル式高速四球摩擦試験の摩耗痕及び比摩耗量を示す図である。 参考例発明の参考例10の潤滑剤組成物についてのシェル式高速四球摩擦試験の摩耗痕及び比摩耗量を示す図である。 参考例発明の参考例8の潤滑剤組成物のシェル式高速四球摩擦試験ボール摩擦面(摩耗痕)のEPMA分析結果である。 参考例発明の参考例9の潤滑剤組成物のシェル式高速四球摩擦試験ボール摩擦面(摩耗痕)のEPMA分析結果である。 参考例発明の参考例9の潤滑剤組成物のシェル式高速四球摩擦試験ボール摩擦面(摩耗痕)表面の電子顕微鏡二次電子像である。 参考例発明の潤滑剤組成物の潤滑性能向上処理剤やコーティング処理剤としての効果を曾田式振子試験機による摩擦疲労特性の結果で示す図である。 参考例発明の参考例16の基油内(油性)/複合油分散組成物(AY−DO−TZ)のシェル式高速四球摩擦試験ボール摩擦面のEPMA分析結果である。 比較例9の各態様の潤滑剤組成物についてのシェル式高速四球摩擦試験の摩耗痕及び比摩耗量を示す図である。
発明者らは、ダイヤモンド質超微粒子或いはCBN超微粒子を含むW/O型エマルション組成物、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の製造実証テストを行ない、エマルションを構成する水相(W相)、油相(O相)のそれぞれに該超微粒子の分散形態、結果としては界面活性剤の助けで水滴或いは油滴の異相(水相と油相)界面へ該超微粒子を選択配列する工夫をした新しいタイプのダイヤモンド質超微粒子或るいはCBN超微粒子を含む潤滑剤組成物を開発したものである。ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子の摩擦特性に著しい効果を発揮する分散剤とそれらの複合効果を初めて検証して、もって効果的な潤滑剤組成物を開発し、ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を各種形態で分散添加するその製造法を開発した。
本発明におけるダイヤモンド潤滑剤組成物の構成の最良の実施形態としては、大別して基油(P−1:炭化水素系、V:動植物油脂、S:合成油等のうち1又は複数)、乳化剤、分散剤、水、ダイヤモンド質超微粒子の5成分系を主体とする。
上記5成分系の他、二次特性の向上、すなわち本潤滑剤組成物の効果を際限なく発揮する目的や、長期に亘り効果を維持するための補助剤としての添加剤として、消泡剤、金属イオン封鎖剤、防錆剤、酸化防止剤、殺菌剤等を任意に添加しうる。例えば、消泡剤としては、低級脂肪酸、高級アルコール、ジメチルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンのエマルション、アルキレンオキサイド系等、金属イオン封鎖剤としては、エデト酸のアルカリ金属塩及びモノ、ジ、トリエタノールアミン塩、リン酸塩等、防錆剤としては、ベンゾトリアゾールおよびその塩、高級脂肪酸アミド及びそのアルキロール化硫酸エステル金属塩等、酸化防止剤としては、ジブチルヒドロキシトルエン、殺菌剤としては、トリアジン系、チアゾール系等を含むことが好ましく、これらの添加量は、本O/W型エマルションやW/O型エマルションの構成成分の1wt%以下で、乳化物の安定性さらにはダイヤモンド質超微粒子の分散を阻害しないものであればこれに限定されない。更にその成分は環境に配慮した「PoHS(ノルウェー有害化学物質規制法)、PRTR(化学物質排出把握管理推進法)」に該当しない組成物からなるものが好ましい。
本発明の最良の実施形態では、分散相或るいは連続相である油相(O相)は、環境ホルモンとならない鉱物油、動植物油脂、合成油、ポリマー、高級アルコールの中から選択された少なくとも一つ以上の油から成る。ダイヤモンド質超微粒子或るいはCBN超微粒子が分散相である水中に安定分散したもの((W+ダイヤモンド質超微粒子或いはCBN超微粒子)/O型エマルション)、連続相である油中に安定分散したもの(W/(O+ダイヤモンド質超微粒子或いはCBN超微粒子)型エマルション)及び水中及び油中それぞれに安定分散したもの((W+ダイヤモンド質超微粒子或いはCBN超微粒子)/(O+ダイヤモンド質超微粒子或いはCBN超微粒子)型エマルション)、CBN超微粒子が分散相である油中に安定分散したもの((O+CBN超微粒子)/W型エマルション)、連続相である水中に安定分散したもの(O/(W+CBN超微粒子)型エマルション)及び水中及び油中それぞれに安定分散したもの((O+CBN超微粒子)/(W+CBN超微粒子)型エマルション)のいずれの構成も可能であるが、なかでも、水中及び油中それぞれに安定分散して、界面活性剤の助けで水滴或いは油滴の異相(水相と油相)界面へ選択配列する工夫をしたものが最も低い摩擦係数と安定した摩擦疲労特性を得られる最良の形態である。後述する本発明の実施形態の製造方法は、前記ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子をW/O型エマルション各相に構成したもの、CBN超微粒子をO/W型エマルション各相に構成したもの等、従来にない潤滑剤の製造方法である。得られた潤滑剤組成物は、生分解性が極めて高く、非環境ホルモン性で水洗が可能であることから環境負荷や洗浄負担が著しく低い。
以下の実施例で詳述する本発明の実施形態は、物質中最高の硬さを有し、極めて活性なため強い粒子凝集が不可避であるダイヤモンド質超微粒子をW/O型エマルション組成物に分散形態と分散を制御して添加した、従来にない新規な潤滑剤組成物並びにその製造法等であり、基礎エマルション(A)の各相にダイヤモンド質超微粒子を分散制御し、界面活性剤の助けで水滴の異相(水相と油相)界面へ選択配列する工夫をすることで、従来にない工業的価値の極めて高い優れた潤滑剤組成物を提供できる全く新しい発明である。更には、ダイヤモンドに次ぐ硬さを有し、耐熱性と耐反応性がダイヤモンドより優れたCBN超微粒子をO/W型エマルション組成物の各相に添加し、同様に界面活性剤の助けで水滴の異相(水相と油相)界面へ選択配列する工夫をすることで、従来にない耐荷重能の摩擦特性に優れた潤滑剤組成物を提供できる全く新しい発明である。
基油成分・界面活性剤成分・水成分からなる構成成分中の界面活性剤成分の量が極めて少ないW/O/W型エマルションは、エマルションの破壊で露出する油が加工表面に濡れ、潤滑特性や、二次特性(防錆性、洗浄性、抗酸化性、消泡性、金属イオン封鎖性、抗バクテリア性等)の向上が得られる。従って、「プレートアウト特性」に優れるエマルション形態が好ましい。
上記W/O/W型のエマルション形態を使用する代表例として圧延油があるが、この作製はW/Oを水相(W相)に低攪拌で分散させるため、エマルション粒子径は2〜20μmの範囲で、いわゆる安定性に乏しい粗乳化状態のエマルションとなり、乳化剤の量の調整やエマルション粒子径の維持安定操作が極めて難しく、常時強制攪拌してスプレー塗布する等実用性に乏しい。本発明者等は、エマルション形態及び製造方法の検討を行った結果、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルションの水相(W相)中に基油や油性向上剤及び固体潤滑剤を後添加することで、「プレートアウト性能」を有し、一方で、O/W型エマルションの水相(W相)中に固体潤滑剤を安定分散した潤滑剤組成物を完成するに至った。
以下、本発明の潤滑剤組成物、その製造方法並びに固体潤滑剤微粒子について、実施例を用いて具体的に説明するが、ダイヤモンド質超微粒子を添加したO/W型エマルション組成物としてすでに特許出願している(国際出願PCT/JP2009/001721)ので、CBN超微粒子をO/W型エマルション組成物の各相に添加した場合の参考例としてダイヤモンド質超微粒子添加の組成物につき説明する。本発明はこれらに限定されるものではない。
[参考例1:O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物]
(ダイヤモンド質超微粒子)
ダイヤモンド質超微粒子には、爆合法で得られたものを使用した。Forth Moment法によるX線解析で評価したダイヤモンド超微粒子の一次粒子径は4〜6nmであり、純度は99wt%以上である。
(ダイヤモンド質超微粒子水分散原料体とその特性)
該ダイヤモンド質超微粒子乾燥粉を湿式分散法で水分散処理して、平均粒子径が40nmで、固体濃度5wt%のダイヤモンド質超微粒子水分散原料体を作製した。該ダイヤモンド質超微粒子水分散原料体中のダイヤモンド質超微粒子のゼータ電位を計測したところ、―50mV付近であり、水分散安定性は一応達成できていること、本分散系でのゼータ電位の値は基本的に平均粒子径に依存しないこと(数nm〜100nmに渡り確認)を確認し、以後の基礎エマルション(A)にダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物製造の基本原料体とした。
該ダイヤモンド質超微粒子水分散原料体の摩擦特性を固体濃度を変えて評価した結果を表1に示す。すなわち、表1は、ダイヤモンド質超微粒子を含む水分散体の摩擦係数に及ぼす固体濃度依存性を示すものである。表1においては、「ND」はダイヤモンド質超微粒子を意味する。
摩擦係数の測定には曾田式振子試験機を使用した。測定条件は、20℃、荷重2.94N(ヘルツ圧:1,090N/mm2)である。水の摩擦係数0.412と比較してダイヤモンド質超微粒子の添加効果は、濃度を振ってもほとんどないと言える。(一般に摩擦係数の値は、乾燥時の摩擦係数0.45の1/2以下で潤滑効果が認められる。)
(分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体とその特性)
ダイヤモンド質超微粒子の固体濃度を1.0wt%とし、分散剤添加濃度を0.5wt%と一定にした際の各種分散剤を添加した分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を作製した。分散剤が脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤である分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を「サンプルND」とする。同様に、分散剤がポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩から成る陰イオン型分散剤であるものを「サンプルAD」、アラニン型ポリオキシエチレン付加物から成る両性型分散剤であるものを「サンプルRD」、高級アミン・低級脂肪酸塩から成る陽イオン型分散剤であるものを「サンプルCD」、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合物からなる非イオン型分散剤であるものを「サンプルBD」とする。
次に、ダイヤモンド質超微粒子の水分散安定性、摩擦特性に及ぼす分散剤添加の効果を明らかにした。これは、水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子を分散させる本タイプのエマルション組成物の重要な基本構成要素の一つであるからである。(後述する油相(O相)中にダイヤモンド質超微粒子を含むエマルション組成物製造にも不可欠な工程上の構成体となる。)
表2には、サンプルND、サンプルAD、サンプルRD、サンプルCD、サンプルBDのイオン別分散剤添加による水分散ダイヤモンド質超微粒子の分散状態を示した。これら分散剤は、それらの複合添加による相互作用や、本水分散体をO/W型エマルション化する際の乳化剤との相互作用等をも考慮して試験対象として選択した特定の分散剤群である。
表3には該分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体のゼータ電位、分散安定性の評価結果を示した。同表中には、エマルションタイプ並びにマイクロエマルションタイプの基礎エマルション(A)のゼータ電位も比較として併記した。すなわち、表3は、ダイヤモンド質超微粒子の水分散安定性に及ぼすイオン別分散剤添加の影響を示すものである。(ダイヤモンド質超微粒子固体濃度:1wt%、分散剤添加濃度:0.5wt%)
前記ポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤で該超微粒子を処理(サンプルAD)した場合のゼータ電位測定値は、−37.2mV、親水基原料としてエステル型を用い高級脂肪酸を疎水基原料とする脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤処理(サンプルND)の場合は−47、2mVのゼータ電位であった。更に、アラニン型ポリオキシエチレン付加物から成る両性型分散剤を用いた場合(サンプルRD)のゼータ電位は−49.3mVであった。高級アミン・低級脂肪酸塩から成る陽イオン型分散剤の場合(サンプルCD)は、分散安定性は大幅に低下した(−24.0mV)。ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合物からなる非イオン型分散剤(サンプルBD)は、分散安定性はさらに大幅に低下した(−22.5mV)。なお、ゼータ電位は、添加する分散剤濃度にほとんど依存しないことも確認した。
表4には、表3にてダイヤモンド質超微粒子の水分散安定性を評価した分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を、曾田式振子摩擦試験機を用い、摩擦係数評価を行った結果を示した。すなわち、表4は、各種分散剤を0.5wt%添加した、分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体(固体濃度:1wt%)の摩擦係数評価結果を示すものである。(曾田式振子摩擦試験機による)
5種の分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体の摩擦係数は、ポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤で処理したもの(サンプルAD)が0.116と最も低く、次いで、アラニン型ポリオキシエチレン付加物から成る両性型分散剤で処理したもの(サンプルRD)が0.161、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合物からなる非イオン型分散剤処理(サンプルBD)の場合が、0.236、脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤処理(サンプルND)の場合が、0.284、高級アミン・低級脂肪酸塩から成る陽イオン型分散剤処理(サンプルCD)の順であった。前述したようにNDはダイヤモンド質超微粒子と定義するが、非イオン型分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体はサンプルNDとし、区別して使用する。また、ゼータ電位や摩擦係数の比較のために表3、4に記載した基礎エマルション(A)の結果は、エマルションタイプ(E)、マイクロエマルションタイプ(ME)としてそれぞれ別様の記号を付記してあるが、これらは、基礎エマルション(A)の同基本物性について限定し、表3、4で限定的に使用する記号である。
表2に示したように高級アミン・低級脂肪酸塩から成る陽イオン型分散剤処理では、分散の安定性が劣る。ちなみに後述するように、水溶液のpHを高アルカリ(pH12)側に調整した四級アミン塩型の陽イオン型分散剤を使用することでダイヤモンド質超微粒子の分散安定性は改善するが、該分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体の摩擦係数は分散剤無添加の摩擦係数より更に高い値となり、陽イオン型分散剤添加による摩擦係数の低下とダイヤモンド質超微粒子の分散安定性の同時確保は不可能であることが明らかとなった。分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体に使用する分散剤(WS)の種類は、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物の水分散安定性の維持と潤滑特性を得る重要な要素である。従って、高級アミン・低級脂肪酸塩から成る陽イオン型分散剤やその他陽イオン型分散剤よりも、陰イオン型分散剤や両性型分散剤や非イオン型分散剤が、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物の構成要素としての水相(W相)中該超微粒子の分散剤として適する。
本テストを詳細に行った結果、本参考例のO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物の製造においては、ダイヤモンド質超微粒子の分散安定性の向上は基より、摩擦係数の低下による潤滑特性の発揚には分散剤の添加が極めて重要かつ不可欠であることが解った。
従って、ダイヤモンド質超微粒子の水分散用分散剤、すなわちWSは、
陰イオン型グループとしては、
高級脂肪酸/ポリオキシエチレン・アルキル鎖(Cn)・エーテルカルボン酸/ひまし油脂肪酸のヒドロキシル基部にアルキル鎖(Cn)脂肪酸が結合した2量体/α−オレフィン(Cn)・硫酸エステル/高級脂肪酸(Cn)メチルエステル・α−硫酸エステル/石油(分子量が400から1000)スルホネート、サルフェート/高級脂肪酸・硫酸エステル及びそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、重金属塩、モノ、ジ、トリエタノールアミン塩等、
両性型グループとしては、
ヒドロキシアルキル−α又は、β位−アラニン型およびそのアルカリ金属塩、重金属塩、モノ、ジ、トリエタノールアミン塩、及びそれらのアルキル基にエチレンオキシド(EO)nの1mol以上が結合したもの/アルキルカルボキシベタイン型・四級アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム塩/レシチン等、
非イオン型グループとしては、
ポリオキシエチレン高級脂肪酸(Cn)エステル/高級脂肪酸(Cn)・モノ、ジ、トリエタノールアミド/ポリオキシエチレン高級アルコール(Cn)エーテル/ポリオキシエチレン高級アミン(Cn)エーテル/ポリオキシエチレン脂肪酸(Cn)アミド/ポリオキシエチレン・ポリプロピレンオキシドブロック共重合物(プルロニック系)/アルキル鎖(Cn)脂肪酸・プルロニックエーテル及びエステル/ポリオキシエチレン高級脂肪酸・ショ糖エステル等、
から選ばれる分散剤の使用が適する。これらは、後述する基礎エマルション(A)用の乳化剤(EM)と干渉してダイヤモンド質超微粒子の分散を阻害しないものであればこれに限定されないことは当然のことである。
次に、分散剤間の複雑な相互作用による複合効果を調べた結果の一例を表5に示した。ゼータ電位の点からは分散安定性はやや劣るが、摩擦特性に優れたポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤で処理した、分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体の摩擦疲労特性を調べるため同様の振子試験機を使用して測定回数(往復摩擦回数)を増やす振子摩擦疲労試験を行った。その結果、測定回数が5回ごろから摩擦係数は右肩上がりに上昇し、摩擦特性は悪化した。本試験後に摩擦ピンとボールを詳細に調べたところ、陰イオン型分散剤で処理した該分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体には凝集が発生し、振子試験のピン並びにボールに付着していることが確認された。上記摩擦疲労試験の問題点の解決並びに摩擦係数の更なる低下を図る目的で、前記により選択した分散剤間の相互作用を考慮した複合添加処理効果を調査した。表5は、摩擦係数に及ぼす分散剤複合添加効果の一例として、ポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤(サンプルADに対応)と脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤(サンプルNDに対応)の複合添加処理による摩擦係数の変化をまとめたものである。陰イオン型分散剤、非イオン型分散剤の添加濃度は、それぞれ、0.5wt%、0.5wt%とした。ダイヤモンド質超微粒子固体濃度は同様に1wt%である。すなわち、表5は、ダイヤモンド質超微粒子水分散体の摩擦係数に及ぼす分散剤の複合添加効果を示すものである。
非イオン型分散剤と陰イオン型分散剤を複合添加処理することで、非イオン型分散剤処理の摩擦係数は単独添加処理の場合に比べ、更に低下し、0.126の結果が得られた。摩擦疲労特性を同様な振子摩擦疲労試験手法で調べたところ、ポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤の単独添加処理(サンプルADに対応)で確認されたような摩擦疲労特性の劣化やその原因である凝集の発生は認められなかった。
従って、ダイヤモンド質超微粒子水分散体の摩擦係数の更なる低下や摩擦疲労特性の改善に分散剤の複合添加処理は極めて有効であることが確認できた。本効果を詳細に調べたところ、陰イオン型、両性型、非イオン型から選ばれる分散剤を少なくとも一種以上添加することは、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルションの構成要素としてのダイヤモンド質超微粒子水分散体の摩擦係数の低減、摩擦疲労特性の改善双方に極めて大きな効果を持つことが明らかとなった。
次に、分散剤を添加処理したダイヤモンド質超微粒子水分散体を使用してO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物を製造するその手法と得られた摩擦特性について詳述する。
(O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物の乳化剤)
本参考例のエマルション組成物の製造においては、油滴が乳化分散した基礎エマルション(A)の水相(W相)中に、前記した分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体(DW:本分散体は水で希釈されることになるが、エマルション組成物の水相(W相)構成要素として以下同様に記号化)を水中に添加する。従って、本実施例では、前記水分散用ダイヤモンド質超微粒子分散剤(WS)と基礎エマルション(A)用乳化剤(EM)との界面活性剤のイオン関係において、分散安定性や摩擦特性に悪影響を及ぼさない、適合した組み合わせが好ましい。さらに好ましくは、本実施例では、生分解性に優れることと非環境ホルモン物質であることを前提として、前記ダイヤモンド質超微粒子の水分散処理で選択した分散剤との適合性を鋭意検討した。この乳化剤選択における最も重要な基準は、ダイヤモンド質超微粒子の安定分散、油滴の安定性、そして水相(W相)中に前記分散剤処理したダイヤモンド質超微粒子を含むエマルション組成物の摩擦特性である。
したがって、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション形態を形成させる乳化剤(EM)は、
陰イオン型グループとしては、
高級脂肪酸(Cn)/ポリオキシエチレン(n=3以上のもの)・アルキル鎖(Cn)・エーテルカルボン酸/ひまし油脂肪酸のヒドロキシル基部にアルキル鎖(Cn)脂肪酸がエステル結合した2量体/α−オレフィン(Cn)・硫酸エステル/高級脂肪酸(Cn)メチルエステル・α−硫酸エステル/石油(分子量が400から1000)スルホネート、サルフェート/高級脂肪酸・硫酸エステル及びそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、重金属塩、モノ、ジ、トリエタノールアミン塩等、
陽イオン型グループとしては、アルキル鎖(Cn)・第四級アンモニウム塩等、
両性型グループとしては、
ヒドロキシアルキル−α又は、β位−アラニン型およびそのアルカリ金属塩、重金属塩、及びモノ、ジ、トリエタノールアミン塩、及びそれらのアルキル鎖にエチレンオキシド(EO)nの1mo1以上が結合したもの//アルキルカルボキシベタイン型・四級アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム塩/レシチン等、
非イオン型グループとしては、
ポリオキシエチレン高級脂肪酸(Cn)エステル/高級脂肪酸(Cn)・モノ、ジ、トリエタノールアミド/ポリオキシエチレン高級アルコール(Cn)エーテル/ポリオキシエチレン高級アミン(Cn)/ポリオキシエチレン脂肪酸(Cn)アミド/ポリオキシエチレン・ポリプロピレンオキシドプロック共重合物(プルロニック系)/アルキル鎖(Cn)脂肪酸・プルロニックエーテル及びエステル/ポリオキシエチレン高級脂肪酸・ショ糖エステル等、から選ばれる一種類以上の乳化剤の使用が適するが、これに限定されるものではないことを明らかとした。
(潤滑剤組成物の製造)
次に、上記乳化剤及び分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を用いたO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物である潤滑剤組成物の製造実施例をタイプ別に以下に示す。
所謂、乳化物の粒径で分類すると、エマルション(乳濁色)タイプ、マイクロエマルション(可溶化型)タイプに分けられ、更にそれら双方の粘度を調製したペースト状(グリース様)タイプがあるが、それら製造方法を個別に記述する。先に記載したように、基礎エマルションを代表して記号(A)を使用したが、上述したような態様の分類にも、一部(A)を同様に使用する。エマルション(乳濁色)タイプ(A)、マイクロエマルション(可溶化型)タイプ(B)、ペースト状(グリース様)タイプ(C)として表記した(図4の形態の模式図に対応)。また、各分散剤処理されたダイヤモンド質超微粒子の添加相の区別であるが、水相(W相)中に分散している状態には(DW)を、油相(O相)中に分散している状態には(DO)の識別記号を使用する。これら使用における区別は、明細書中にて適時注釈する。
上記したように、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)や後述する(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物、複合分散組成物、複成・複合分散組成物、無水型潤滑剤組成物、更には、基油内(固体)/複合分散組成物や基油内(油性)/複合油分散組成物等々においては、当然のことながら、上述したように分散の安定化や摩擦係数の低減のために添加する水分散用分散剤は水相(W相)中に添加・分散されるダイヤモンド質超微粒子やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の固体濃度には含めない。また、本明細書においては、後述する親水性の固体潤滑剤微粒子(水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤)として添加・配合する場合も、当該ダイヤモンド質超微粒子やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の配合固体濃度には含めないこととし、その他の成分:水や基油等として取り扱う。
{エマルション(乳濁色)タイプ}
オレイン酸主体の油脂(ナタネ油)6wt%とオレイン酸メチルエステル3wt%を混合し、それに、乳化剤として、ポリオキシエチレン(n=6mol)・オレイン酸エステル2wt%、オレイン酸カリウム塩4wt%を混合、攪拌してエマルション基油成分を製造した。それに水を6wt%加えて油相(O相)と水相(W相)の比率が7:3の粘度が最大となったところで良く練り、W/OからO/Wへの転相乳化を完結し、基礎エマルション(A)を製造した。本タイプの組成物の製造には、ニーダーを用いた。次に、分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体(固体濃度は2wt%に、分散剤のポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤、脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤を、それぞれ1wt%ずつ複合添加処理したダイヤモンド質超微粒子水分散体)を15wt%加えて攪拌し、最後に残部の調整水を64wt%加える。本タイプでは基油成分有効濃度15wt%で、ダイヤモンド質超微粒子含有量(固体濃度)は0.3wt%とした。最後に消泡剤として、ジメチルポリシロキサンのエマルションを添加した。
(固体潤滑剤微粒子(水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤微粒子))
例えば、本手法で製造した分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体から水分を除去して得られる親水性の表面を有するダイヤモンド質超微粒子の固体潤滑剤微粒子、更には陰イオン型、両性型、非イオン型のうち少なくとも一種以上の水分散用分散剤を有するダイヤモンド質超微粒子を核とする固体潤滑剤微粒子、特に、陰イオン型の分散剤と非イオン型の分散剤の組み合わせからなる当該固体潤滑剤微粒子は、水や各種水溶性溶媒等への分散性は再現性を含めすこぶる良好であり、水分散用ダイヤモンド質超微粒子の固体潤滑剤微粒子として有用である。また、陰イオン型の分散剤と非イオン型の分散剤の組み合わせからなる当該固体潤滑剤微粒子は、水系溶媒に分散して摩擦係数を下げる必要がある使用環境仕様には本実施例に示すごとく最適な固体潤滑剤微粒子である。これらの当該固体潤滑剤微粒子は、保管容積の減少や、分散体保管中の経時変化(分散粒子表面の変質等による凝集(含むブラウン運動凝集)の発生等々)を防止できることも利点である。更に本発明のダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物製造に適用し、摩擦特性を確認した参考例について記載する。
(固体潤滑剤微粒子の参考例)
表面に水分散用分散剤を有する当該固体潤滑剤微粒子を前述の基礎エマルション(A)の水相(W相)中に0.15wt%(全配合組成として固体濃度にて)添加・攪拌し、参考例1に記載の基油成分有効濃度が15wt%とした(A−DW)組成物に類似の形態を作製した。振子式摩擦試験機で摩擦特性を調べた結果、摩擦係数が0.110と、良好な値を示した。従って、表面に水分散用分散剤を有する当該固体潤滑剤微粒子は、参考例1で使用する分散処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体と同等の水への容易分散性を示し、水に容易に再分散できることから、安全性に優れた従来にない固体潤滑剤として極めて利用価値が高いことを実証した。本参考例によれば、従来にない水分散安定性と安全性を併せ持つ水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤を提供できる。
{マイクロエマルション(可溶化型)タイプ}
精製n−パラフィン(粘度:10cSt)2wt%とオレイン酸メチルエステル4wt%を基油として混合し、それに乳化剤として、ポリオキシエチレン(n=6mo1)・オレイン酸エステル2wt%、ポリオキシエチレン(n=9mo1)・オレイルアルコールエーテル3wt%、オレイン酸カリウム塩4wt%を混合、攪拌してマイクロエマルション基油成分を製造した。次に上述したエマルション(乳濁色)タイプの場合と同じ分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体15wt%を加え、調整水を70wt%加えて調整して自己乳化させ、「基油成分有効濃度」を15wt%とした。なお、ダイヤモンド質超微粒子の平均粒子径、固体濃度、分散剤のポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤、脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤とその添加量はエマルション(乳濁色)タイプと同様である。最後に消泡剤として、ジメチルポリシロキサンのエマルションを添加した。本タイプの組成物の製造には、攪拌機を用いた。
{ペースト状(グリース様)タイプ}
上記したO/W型エマルションタイプ、マイクロエマルション(可溶化型)タイプの油相(O相)と水相(W相)の比率を適時調整することで、粘度特性の異なるペースト状(グリース様)タイプ(ペースト状エマルションタイプ)(ここでは、上述したようにエマルション(乳濁色)タイプ、マイクロエマルション(可溶化型)タイプを総称してエマルションタイプとして説明する)の組成物を製造できる。本実施例では、マイクロエマルション(可溶化型)タイプのペースト状組成物の製造法の一例を説明する。
精製n−パラフィン(粘度:10cSt)8wt%とオレイン酸メチルエステル12wt%を混合し、それに乳化剤として、ポリオキシエチレン(n=6mo1)・オレイン酸エステル8wt%、ポリオキシエチレン(n=9mo1)・オレイルアルコールエーテル10wt%、オレイン酸カリウム塩12wt%を混合、攪拌してエマルション基油成分を製造した。次に、上述したエマルション(乳濁色)タイプの場合と同じ分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体50wt%を加えた。なお、使用した分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体のダイヤモンド質超微粒子の平均粒子径、固体濃度、分散剤のポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤、脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤とその添加量は、上述したエマルション(乳濁色)タイプの場合と同様である。最後に消泡剤として、ジメチルポリシロキサンのエマルションを添加した。本タイプの組成物は粘度が高い(稠度:230程度)ので、その製造には、エマルションタイプ同様ニーダーを用いた。基油成分有効濃度は50wt%、ダイヤモンド質超微粒子含有量(固体濃度)は1.0wt%である。
(潤滑剤組成物の特性)
次に、本製造法にて得られたエマルション(乳濁色)タイプのダイヤモンド潤滑剤組成物の摩擦特性について説明する。
摩擦係数の測定には、曾田式振子試験機を使用したことを前記したが、本法は滑り合う2面間で摩擦が起こり始める時の静から動へ移行する境界潤滑領域での摩擦現象を捉えることが出来ることを特徴とする。通常は、三回の平均値で評価するが、テストピースを換えずに連続して十回の測定値をプロットした時に、摩擦係数が右肩上がりに上昇するもの、平衡に達し変化がないもの、低下する等が確認され、潤滑効果の持続性と関係することが解った。即ちこの繰り返し摩擦の実施は、摩擦疲労特性の評価法として応用できると判断し、以下にこの試験方法を「振子摩擦疲労試験法」とし、摩擦特性持続効果(摩擦疲労特性)の評価法として採用した。
従来技術で開示されている摩擦係数評価法は、統一されておらず、ボールオンディスクタイプのより実際的な計測法の開示が多い。これらの方法は、通常負荷できる荷重が小さく、潤滑剤の限界の潤滑能力、すなわち、高負荷(高ヘルツ圧)下(境界潤滑領域)での摩擦特性を評価することは難しい。本発明で使用する曾田式振子摩擦試験機は高負荷での試験が可能であり、測定条件を前記同様に、20℃、荷重2.94N(ヘルツ圧:1,090N/mm2)とした。
表6には、本O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物の摩擦係数結果を示した。基油成分有効濃度は15wt%とー定とした。すなわち、表6は、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物の摩擦係数を示すものである。なお、以降の図表において、記号で示すサンプル名等では、Dがダイヤモンド質超微粒子を意味し、Aはエマルション(乳濁色)タイプを意味し、数字の始めの2桁は基油成分有効濃度の重量%を意味し、残りの数字は、潤滑剤組成物中のダイヤモンド質超微粒子含有量(固体濃度)の重量%に関係する。すなわち、A−DW−1503は、エマルション(乳濁色)タイプの潤滑剤組成物で、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物で、基油成分有効濃度は15wt%、潤滑剤組成物中のダイヤモンド質超微粒子濃度(固体濃度)は、0.3wt%であることを示す。A−DW−15005では、潤滑剤組成物中のダイヤモンド質超微粒子濃度は、0.05wt%である。
基礎エマルション(A)の連続相(水)を分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体で置き換えた形のO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルションとすることにより、分散剤処理したダイヤモンド質超微粒子水分散体の摩擦係数より更に低い0.100という値が得られた。更に、ダイヤモンド質超微粒子の添加量も一桁下げられることが明らかとなった。前記基油であるオレイン酸主体の油脂(ナタネ油)の代わりに、合成油であるα−オレフィンオリゴマーを用いたO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物も作製し、その摩擦係数を評価したが、オレイン酸主体の油脂と同様の低い値が得られた。
次に本製造法にて得られたマイクロエマルション(可溶化型)タイプ、ペースト状タイプのダイヤモンド潤滑剤組成物の摩擦特性について説明する.
マイクロエマルション(可溶化型)タイプ、ペースト状タイプの上記O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション(B−DWやC−DW)構成からなるダイヤモンド潤滑剤組成物では、同様に摩擦係数を評価した。後述するペースト状タイプ(C−DW)では、従来の鉱油タイプグリースにダイヤモンド質超微粒子を添加したものより低い摩擦係数が得られることがわかった。評価にあたっては、ペースト状タイプでは、前記した約5:5から更に水を加えて4:6に調整して、基油成分有効濃度:40wt%とした。ダイヤモンド質超微粒子固体濃度は、0.8wt%である。この調整は、曾田式振子摩擦試験での流動性を確保するためのものである。特性比較サンプルには、以下の手法で調整した従来型鉱油グリース(Liグリース)を用いた。すなわち、後述するダイヤモンド質超微粒子油分散体(基油P−2:ダイヤモンド質超微粒子固体濃度10wt%):8wt%を従来型ストレート油(マシン油#68):42wt%に混合し、鉱油グリース(Liグリース):50wt%と混ぜ合わせて流動性のグリースとしたものである。粘度は、双方とも120cSt(40℃)である。本発明のペースト状タイプのO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(C−DW)の摩擦係数は、0.116であり、比較サンプルの上記ダイヤモンド質超微粒子を添加した従来型鉱油の流動性グリースの摩擦係数0.143より良好な潤滑性能を示した。
本ダイヤモンド潤滑剤組成物の製造評価には、純度99wt%以上の高純度ダイヤモンド質超微粒子を用いたが、純度が90wt%以下で残留炭素質の多い超微粒子や、更に炭素質の微粒子を分散共存させることも可能であり、摩擦試験環境に応じて、優れた潤滑性能が確認された。
また、ダイヤモンド超微粒子の製造・精製過程で制御・残留する炭素質(黒鉛質も含む)や分散共存させる広義の分類の炭素質は、優れた潤滑性能に加え、前記したO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物中では、防腐剤無添加でも水相の高い防腐作用を発揮する利点がある。検証するために、20℃で2年間密封保管した前記した実施例1タイプのO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物を、寒天培地のバイオチェッカー(三愛石油製)でバクテリアの有無を調べたが、存在に基づく発色が全く無かったことから、長期に亘り腐敗しないことが確認できた。
[参考例2:(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物]
(分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体)
本発明の実施例2の潤滑剤組成物は、実施例1にて詳述した分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を出発原料とする。
これは以下の観点からも好ましい。
1.爆合法並びに従来の静的超高圧法で製造されるダイヤモンド質超微粒子は通常湿式で高純度化の酸処理を行うため微粒子表面は親水化している。
2.本親水化表面を有する微粒子にあらかじめ安定な親水化の分散剤処理を施すことにより微粒子表面を均一性の高い疎水化処理表面として表面処理修飾が可能である。
(ダイヤモンド質超微粒子油分散体の作製)
ダイヤモンド質超微粒子を油相(O相)に分散したエマルション組成物の製造では、ダイヤモンド質超微粒子の安定した油中分散体を得る必要がある。そのためには、分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体から水分を除去して、前記した親水性の表面を有する「水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤」と同様の組成物を作製する。水分の除去は、本参考例では、分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を100℃に温めて行ったが、分散剤の機能を損なわない程度の温度で行うことが好ましい。その他、真空蒸留やフリーズドドライなど加温以外の方法で水分を除去してもよい。
なお、爆合法や静的超高圧法で得られたダイヤモンド質超微粒子の代わりに、疎水性に近い表面を有する気相合成法で得られる微粒子の場合には、水分散と同時に水分散用分散剤を添加する処理の後に水を除去して親水性の「水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤」とするか、或いは直接、以下に示す油分散用ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)を使用しても油分散体を作製できる。
(ダイヤモンド質超微粒子油分散体)
次に、親水性の「水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤」を油相(O相)に添加するために油分散体にする。油分散体にするには、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)を溶解した基油成分中に分散させ、ダイヤモンド質超微粒子油分散体を得る。本実施例では、エマルション組成物の油相(O相)中にダイヤモンド質超微粒子を容易に分散させる目的で、基油に予め分散させた当該油分散体(後述する基油P−2)を作製する。
ダイヤモンド質超微粒子用の油分散用分散剤、すなわち、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)は、ダイヤモンド質超微粒子表面を疎水性とし、油相(O相)中に安定分散する役割がある。これらの分散剤としては、界面活性を失わない範囲で且つ親水性/疎水性のバランス(HLB)が水溶性のものよりも小さく、界面活性の弱い界面活性剤が適する。例えば、HLB値が8以下であると、ダイヤモンド質超微粒子表面を疎水性とし、油相(O相)中に安定分散するので、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)に適する。
油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)は、極性基グループと非極性グループで分類するとすれば、
極性基グループとしては、
ポリオキシエチレン・アルキル鎖(Cn)・エーテルカルボン酸/高級(アルキル鎖R=8から24以下)脂肪酸/ひまし油脂肪酸/脂肪酸スルホネート及びサルフェート/石油(分子量が400から1000)スルホネート及びこれらカルシウム塩以外のアルカリ土類金属、重金属塩/ヒドロキシアルキル(アルキル鎖がC12からC18のもの)−α又は、β位−アラニン型/アルキルカルボキシベタイン型・四級アンモニウム、スルホニウム、ホスホニウム塩、アルカリ土類金属、重金属塩/高級脂肪酸アミドのアルキロール化硫酸エステル及びこれらのアルカリ金属塩、及びモノ、ジ、トリエタノールアミン塩/高級(Cn)アミンと高級(Cn)脂肪酸の塩、
非極性グループとしては、
ポリオキシエチレン(n=3以上のもの)・アルキル鎖(Cn)・エーテルカルボン酸カルシウム塩/高級(Cn)脂肪酸カルシウム塩/脂肪酸スルホネート及びサルフェートのカルシウム塩/石油(分子量が400から1000)スルホネートカルシウム塩及びこれらカルシウム塩以外のアルカリ土類金属、重金属塩/高級(Cn)脂肪酸アミド/ヒドロキシアルキル(アルキル鎖がC12から18のもの)α−又は、β位−アラニン型カルシウム塩/アルキルカルボキンベタイン型・アルカリ土類金属、重金属塩/レシチン/高級(Cn)脂肪酸・高級(Cn)アルコールアミド/高級(Cn)脂肪酸・高級(Cn)アルコールエステル/ソルビタン・脂肪酸(Cn)エステル/ペンタエリスリトール・脂肪酸(Cn)エステル/高級(Cn)脂肪酸の部分エステル又は、フルエステル及びエーテル等から少なくとも一種以上選択するもので、
その他、P−1:炭化水素油系、V:動植物油脂系、S:合成油系、WSの中で、界面活性を失わない範囲で、且つ親水性/疎水性のバランス(HLB)が水溶性のものより小さい界面活性剤等が代表的なものであり、上記する基礎エマルション(A)用乳化剤(EM)や本油分散用ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)間で適合してダイヤモンド質超微粒子の分散を阻害しないものであればこれに限定されない。また、水分散用ダイヤモンド質超微粒子分散剤の場合と同様に摩擦特性の阻害要因とならないよう十分検討して上記油溶性の分散剤から選ばれることが適切である。(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物において、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)の使用が必要不可欠である。
ダイヤモンド質超微粒子油分散体の具体的な製造例を以下に示す。
(ダイヤモンド質超微粒子油分散体:基油P−2の製造)
(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物を作製するにあたり、後述する油分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤を油相(O相)の基油中に直接添加しても良いが、添加量が微量であるため、基油中に予め規定量のダイヤモンド質超微粒子を分散した分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子油分散体を製造し、基油成分の一部として配合することが好ましい。
油中に添加・分散するダイヤモンド質超微粒子(前記したDO形態に使用)は、基本的には、前記した水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤の表面を油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)で疎水化したものである。当該水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤を目的とする組成物の粘度や潤滑性能に影響する基油成分(P−1)等中に油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)と共に所望量を添加・分散して油分散用ダイヤモンド質超微粒子を含有する基油P−2を製造する。ここで、水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤には、水分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(WS)が同時に添加されていることになるが、本分散剤(WS)は、基油成分の一部とし、すなわち、本実施例ではn−パラフィンの配合組成の中に含めることとし、特にことわりのない限りにおいては、以後も同様に取り扱い、該油分散体の配合組成としては明記しない。本実施例では、ダイヤモンド質超微粒子との重量比で0.6の水分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(WS)を使用している。(後述するようにダイヤモンド質超微粒子を固体濃度で10wt%基油(P−1)等中に添加すると、WS分散剤は結果的に6wt%添加されることになる。)
水分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(WS)は、ポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤50wt%と、脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤50wt%との複合の分散剤とし、本実施例ではこの複合分散剤で処理された水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤を使用した。
作製は、先ず、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)として6wt%の高級脂肪酸アミドのアルキロール化硫酸エステル塩を、20wt%のn−パラフィンで希釈し、良く溶解させた後、水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤をダイヤモンド質超微粒子固体濃度で10wt%添加し、残部のn−パラフィン64wt%で希釈して固体濃度が10wt%のダイヤモンド質超微粒子油分散体を製造する。これを基油P−2として以下の参考例に供する。
なお、本参考例でのダイヤモンド質超微粒子油分散体の製造での分散剤の組み合わせは一例であり、基油中にダイヤモンド質超微粒子を分散できる組み合わせで、後述する乳化剤と分散に関して干渉しないものであれば本実施例に限定されるものでないことは明らかである。
(固体潤滑剤微粒子(油分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤微粒子))
ダイヤモンド質超微粒子を核とし、表面に油分散用分散剤を有する油分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤微粒子は、次のように製造できる。例えば、上記84wt%のn−パラフィンの代わりに、n−ヘキサンに6wt%の高級脂肪酸アミドのアルキロール化硫酸エステル塩を希釈溶解し、前記水を除去した水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤を10wt%(固体濃度にて)添加して超音波で油(疎水)分散を確実に行った後に、n−ヘキサンを蒸発させればよい。n−ヘキサンに分散処理中の当該分散体の分散状態を粒度分布測定装置で確認することが更に好ましい。本手法で製造されたダイヤモンド質超微粒子を核とし、表面に油分散用分散剤を有する固体潤滑剤微粒子は、各種の油や疎水性溶媒等に再現よく再分散することが可能であり、油分散用ダイヤモンド質超微粒子の固体潤滑剤微粒子として有用である。また、水分散用ダイヤモンド質超微粒子の固体潤滑剤微粒子と同様に保管容積の減少や、分散体保管中の経時変化(ブラウン凝集等による分散粒子径の増大)を最小化できることも利点である。本例は参考の態様の一例であり油分散用分散剤(OS)は本例に限定されるものでないことは明らかである。更に、本発明のダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物製造に適用し、摩擦特性を確認した参考例について記載する。
(固体潤滑剤微粒子(油分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤微粒子)の摩擦特性)
表面に油分散用分散剤を有する固体潤滑剤微粒子を前述の基礎エマルション(A)の油相(O相)の基油中に0.3wt%(全配合組成として固体濃度にて)添加し、基油成分有効濃度が15wt%とした(A−DO)類似の形態を作製し、振子式摩擦試験機で摩擦特性を調べた結果、摩擦係数が0.103と、極めて良好な値を示した。従って、表面に油分散用分散剤(OS)を有する固体潤滑剤微粒子は、参考例2で使用する油分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子を含有する基油(P−2)と同等の分散挙動を示し、非極性溶媒や油に容易に再分散することから、利用価値が高いこと、特に、安全性に優れた従来にない油溶性固体潤滑剤として極めて利用価値が高いことを実証した。本参考例によれば、従来にない油分散安定性と安全性を併せ持つ油分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤を提供できる。
(潤滑剤組成物の製造)
次に、上記乳化剤及びダイヤモンド質超微粒子油分散体を用いた(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物である潤滑剤組成物の製造参考例をタイプ別に以下に示す。
{エマルション(乳濁色)タイプ}
本参考例で使用する乳化剤については、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション形態を形成させる乳化剤で詳述したように、乳化剤選択における最も重要な基準は、油滴の安定分散と油相(O相)中に前記油分散剤で処理したダイヤモンド質超微粒子を含むエマルション組成物の摩擦特性である。これらの基準で鋭意検討したところ、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション形態を形成させる乳化剤と同様なグループから選択できることが明らかとなった。本態様での具体的な製造例を以下に示す。なお、以下において、ダイヤモンド質超微粒子油分散体として基油に含有されるダイヤモンド質超微粒子を、特に区別したいときは、「油分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子」と呼ぶ場合もある。
前述したダイヤモンド質超微粒子油分散体:基油P−2を前記O/W型エマルションタイプの基礎エマルション(A)の製造法と同様に、他の基油と混合する。即ち、オレイン酸主体の油脂(ナタネ油)4wt%とオレイン酸メチルエステル4wt%、上記ダイヤモンド質超微粒子油分散体(基油P−2:ダイヤモンド質超微粒子固体濃度10wt%)を3wt%、乳化剤として、アルキル脂肪酸カリウム塩2wt%、ポリオキシエチレン(n=9mol)・オレイン酸エステル2wt%を添加し、混合、攪拌してダイヤモンド質超微粒子を分散したエマルション基油成分を製造した。次に調整水6wt%を加え、油相(O相)と水相(W相)の配合比率が7:3の粘度が最大となったところでW/O型からO/W型に転相乳化した。本タイプの潤滑剤組成物の製造には、ニーダーを用いた。更に、調整水を79wt%加え、ダイヤモンド質超微粒子をエマルション基油成分内に分散内包したエマルション組成物を得た。基油成分有効濃度は15wt%とした。最後に消泡剤として、ジメチルポリンロキサンのエマルションを添加した。この時のダイヤモンド質超微粒子の固体濃度は0.3wt%である。
{マイクロエマルション(可溶化型)タイプ}
更に、参考例1で記載したマイクロエマルション(可溶化型)タイプの組成物も製造した。即ち、基油としてn−パラフィン2wt%、オレイン酸メチルエステル2wt%、乳化剤として、ポリオキシエチレン(n=6mol)・オレイン酸エステル2wt%、ポリオキシエチレン(n=9mol)・オレイルアルコールエーテル3wt%、オレイン酸カリウム塩3wt%を混合、攪拌した中に、ダイヤモンド質超微粒子油分散体(基油P−2:ダイヤモンド質超微粒子固体濃度10wt%)を3wt%添加してマイクロエマルション基油成分を製造した。次に調整水85wt%を加え自己乳化させた。ダイヤモンド質超微粒子をマイクロエマルション基油成分内に分散内包する本潤滑剤組成物の基油成分有効濃度は15wt%であり、ダイヤモンド質超微粒子固体濃度は0.3wt%である。最後に消泡剤として、ジメチルポリシロキサンのエマルションを添加した。本タイプの組成物の製造には同様に攪拌機を用いた。
(潤滑剤組成物の特性)
次に、本製造法にて得られたエマルション(乳濁色)タイプ及びマイクロエマルション(可溶化型)タイプのダイヤモンド潤滑剤組成物の摩擦特性について説明する。
本参考例では、摩擦係数に及ぼすダイヤモンド質超微粒子の添加濃度(潤滑剤組成物全量に対するダイヤモンド質超微粒子の固体濃度範囲:0.05から0.5wt%)、ダイヤモンド質超微粒子、乳化剤等を含むエマルション基油成分或いはマイクロエマルション基油成分の対水を含む全配合比率(基油成分有効濃度)の影響を調べるため、それぞれ配合比率を変化させて評価サンプルを調整した。油相(O相)中にダイヤモンド質超微粒子を添加・分散する場合(例えば上述の基油P−2)には、常に当該超微粒子は基油成分有効濃度に含めることとする。
次に、本参考例にて製造した2種(エマルションタイプ、マイクロエマルションタイプ)の(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物の摩擦特性について記載する。
表7には、エマルションタイブ組成物のダイヤモンド質超微粒子添加濃度(固体濃度)、基油成分有効濃度変化に伴う摩擦係数結果を総括した。同様に表8にはマイクロエマルション(可溶化型)タイプの同様な結果を総括した。摩擦係数に及ぼすエマルション、マイクロエマルション基油成分有効濃度、ダイヤモンド質超微粒子濃度の影響は必ずしも明確ではないが、特徴として、ダイヤモンド質超微粒子の極微少量添加で摩擦係数は最も小さい値、それぞれ0.091、0.105が得られた。又、エマルションタイプとマイクロエマルションタイプの摩擦係数を比較すると、エマルションタイプの摩擦特性はより優れていることが解った。すなわち、表7は、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物のエマルションタイプの摩擦係数に及ぼす基油成分有効濃度、ダイヤモンド質超微粒子固体濃度の影響を示すものである。以下の図表において、DOとは、(O+ダイヤモンド質超微粒子)相を有することを意味する。サンプル名の末尾が00であるサンプルは、ダイヤモンド質超微粒子は添加されていない。
表8は、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物のマイクロエマルションタイプの摩擦係数に及ぼす基油成分有効濃度、ダイヤモンド質超微粒固体濃度の影響を示すものである。以下の図表において、Bとは、マイクロエマルションタイプであることを意味する。
なお、表1、4、5、6、7、8並びに後述する9における摩擦係数(μ)は、単に標準測定方法での3回の平均値であり、後述する振子摩擦疲労試験での摩擦係数(μ)ではない。
前記したように、曾田式振子試験では、テストピースを換えずに連続して測定することで潤滑効果の持続性を評価できることから、上記で作製した(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物の振子摩擦疲労試験を実施した。その結果を図1及び図2に示す。
図1は、本発明の参考例2の潤滑剤組成物のエマルションタイプの摩擦疲労特性を示す図である。また、図2は、本発明の参考例2の潤滑剤組成物のマイクロエマルションタイプの摩擦疲労特性を示す図である。
ダイヤモンド質超微粒子濃度は、0.05から0.3wt%、乳化剤を含む基油成分有効濃度は15wt%とした。エマルションタイプ、マイクロエマルションタイブ双方ともダイヤモンド質超微粒子無添加では、繰り返し回数の増加とともに摩擦係数は上昇する。一方ダイヤモンド質超微粒子添加エマルション組成物では繰り返し回数の増加に伴い摩擦係数が漸近的に低下すること、添加濃度が0.1wt%以下でも摩擦係数が0.09(エマルションタイプ)と極めて低い値となり、優れた摩擦疲労特性を示した。
極微少量添加で極めて低い摩擦疲労特性を達成できることは、本構成のダイヤモンド潤滑剤組成物が工業的に特に有用となる最大の特徴である。後に詳述するが、この低い摩擦疲労特性は従来技術として開示されている各種構成の潤滑剤では達成できない特徴的な優れた特性であることが解った。
[参考例3:(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物]
(潤滑剤組成物の製造)
次に、上述した、ダイヤモンド質超微粒子の水分散用分散剤(WS)で、複合分散処理したダイヤモンド質超微粒子水分散体と参考例2(エマルションタイプ)で製造したもの双方を、混合・調整して得られた(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物の製造参考例を以下に示した。
{エマルション(乳濁色)タイプ}
先に、分類したように、本タイプ組成物には、油滴粒子径にて、エマルションタイプ(乳濁色)、マイクロエマルションタイプ(可溶化型)があり、更に稠度によりペースト状(グリース様)タイプがあるが、本参考例ではエマルションタイプの製造方法を記述する。
第一に、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物の製造の場合と同様に基油成分を配合製造する。すなわち、オレイン酸主体の油脂(ナタネ油)5.5wt%、オレイン酸メチルエステル3wt%、前記ダイヤモンド質超微粒子油分散体(基油P−2:ダイヤモンド質超微粒子固体濃度10wt%)1.5wt%を混合し、それに、乳化剤として、ポリオキシエチレン(n=6mol)・オレイン酸エステル2wt%、オレイン酸カリウム塩3wt%を混合、攪拌してエマルション基油成分を製造した。油相(O相)と水相(W相)の比率が7:3の粘度が最大となったところでW/OからO/Wに転相乳化するために、水を6wt%添加し転相乳化を完了させる。本タイプの潤滑剤組成物の製造には、ニーダーを用いた。
次に、分散剤処理したダイヤモンド質超微粒子濃度(固体濃度)が0.19wt%のダイヤモンド質超微粒子水分散体(ポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤、脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤をそれぞれ0.075wt%、0.075wt%複合添加している)を79wt%加えて攪拌する。ダイヤモンド質超微粒子の全固体濃度は0.3wt%、基油成分有効濃度は15wt%とした。同様に、最後に消泡剤として、ジメチルポリシロキサンのエマルションを添加した。
表9には、本参考例のエマルションタイプの潤滑剤組成物のダイヤモンド質超微粒子濃度、基油成分有効濃度変化に伴う摩擦係数結果を同様に示した。摩擦特性に及ぼす基油成分有効濃度、ダイヤモンド質超微粒子濃度の影響は同様に明確ではないが、摩擦係数は、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物と同様、ダイヤモンド質超微粒子の極微少量添加で極めて小さい値が得られた。すなわち、表9は、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物のエマルションタイプの摩擦特性に及ぼす基油成分有効濃度、ダイヤモンド質超微粒子固体濃度の影響を示すものである。なお、以下の図表において、A−DW−DOは、エマルションタイプの、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルションの潤滑剤組成物を意味する。
[参考例1−3の特性評価:摩擦疲労特性]
図3は、参考例発明の参考例1−3及び比較例1の潤滑剤組成物のエマルションタイプの摩擦疲労特性を示す図である。なお、図において、Aは、水相(W相)中、油相(O相)中のいずれにもダイヤモンド質超微粒子を含まない基礎エマルション(A)サンプル、すなわち、表7のサンプルA一DO−1500で、これを比較例1とする。
参考例1、2、3それぞれでは、ダイヤモンド質超微粒子をO/W型エマルション組成物の各構成相、すなわち水相(W相)中、及び油相(O相)中に分散形態を制御した場合の摩擦特性結果を示したが、図3は、これら潤滑剤組成物の摩擦疲労特性を比較して示したものである。本潤滑剤組成物は、エマルションタイプであり、基油成分有効濃度は15wt%、ダイヤモンド質超微粒子濃度(固体濃度)は0.3wt%とした。前記したように、ダイヤモンド質超微粒子を含まない基礎エマルション(A)は、繰り返し回数の増加とともに摩擦係数は上昇するのに対し、W相(A−DW)、O相(A−DO)、W相とO相双方(A−DW−DO)にダイヤモンド質超微粒子を分散添加した本発明の潤滑剤組成物は、摩擦を繰り返すことにより摩擦係数は次第に低下して安定化することが明らかである。特に、W相とO相双方(A−DW−DO)にダイヤモンド質超微粒子を分散添加したタイプでは最も低い摩擦係数へ収束していく特徴を示した。本参考例に具体的に示した基油、乳化剤、分散剤等の選択は、ダイヤモンド潤滑剤組成物を構成する一例であり、本参考例に限定されるものではないことは明らかである。
[参考例1−3の特性評価:Falex試験による摩擦面潤滑挙動]
前記した参考例1−3の優れた摩擦疲労挙動を解明するために、Falex試験(ASTM D 2670)を実施し、潤滑剤組成物の違いによる摩擦面の特徴を観察した。試験条件は、20℃、290rpm、荷重1334N、45minである。
図4はダイヤモンド質超微粒子の各種分散形態を示す模式図である。参考例1はA−DW、実施例2はA−DO、参考例3はA−DW−DOに相当する。比較例1はAに相当する。変形例1(実施例1の変形例)は、実施例1を作製する途中の段階の分散体で、分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体で、図中のDWに相当する。なお、Aで示した模式図は、マイクロエマルションタイプ(B)、グリースタイプ(C)にも当てはまる模式図である。図5は、参考例1−3、変形例1、比較例1の潤滑剤組成物のFalex試験における摩擦面の顕微鏡写真である。形態名と参考例、変形例、比較例との対応関係は図4と同じである。図4及び図5においては、「ND」はダイヤモンド質超微粒子を意味する。
図5は、摺動するFalexブロック摩擦面部位の光学顕微鏡写真を示す。ダイヤモンド質超微粒子を含まないO/W型基礎エマルション(A)の摩擦面は、摩擦摩耗の進行でピンの接触する摺動幅は広がり抉れた状態となっている。O/W型基礎エマルション(A)のW相にダイヤモンド質超微粒子を添加・分散させたO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルションの場合は、摩擦摩耗が大幅に低減し、摩耗痕幅も小さくなっていることがわかる。更に、O/W型基礎エマルション(A)のO相にダイヤモンド質超微粒子を添加・分散させた(O+ダイヤモンド質超微粒子/W型エマルションでは、摩耗痕幅も大幅に縮小していた。
図6は、本参考例発明の参考例2の潤滑剤組成物のFalex試験ブロック摩擦面のEPMA分析結果である。図6は、上記(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物のFalex試験ブロック摩擦面をEPMA分析により更に詳細に調査した結果を示したものである。a)は摩擦面近傍の反射電子組成像であり、摩擦部位には原子番号の小さい元素が濃縮していることを示している。b)からe)は摺動部材の材質(快削鋼)を考慮して、摩耗痕部濃縮元素を判別するため、炭素(b)に対応)、鉄(c)に対応)、マンガン(d)に対応)、硫黄(e)に対応)についてそれぞれの特性X線の強度でマッピングした結果である。b)の結果は摩耗痕部に炭素質が濃縮していることを示している。その結晶構造を明らかとするため微小X線回折を行った結果、ダイヤモンドの(111)、(220)等の回折ピークが検出され、摩耗痕部に濃縮している炭素質はO相に添加・分散したダイヤモンド質超微粒子であることが明らかとなった。前記したダイヤモンド質超微粒子を含むその他のエマルションについても同様の結果が得られた。
以上のことから、形成されるダイヤモンド質超微粒子の濃縮層は、Falex試験における摩耗痕幅、振子摩擦疲労試験の摩擦係数結果と密接に関連するものである。
表10には、Falex試験におけるピン摩耗量についてそれぞれの潤滑剤組成物の結果を比較して示した。すなわち、表10は、本発明潤滑剤組成物のFalex試験(ASTM D 2670)におけるピン摩耗量の比較結果を示すものである。(タイプ:エマルションタイプ、ダイヤモンド質超微粒子固体濃度:0.3wt%、基油成分有効濃度:15wt%、試験条件:20℃、290rpm、荷重1334N、45min)
本結果は、平均粒子径が40nmのダイヤモンド質超微粒子を使用した場合の参考例であるが、平均粒子径の摩擦特性への影響について後述するように、平均粒子径の減少に伴い、ピン磨耗量は著しく減少することを確認したことで、本潤滑剤組成物の従来にない優れた潤滑性能がより明確となった。
(シェル式高速四球試験によるダイヤモンド質超微粒子濃縮層の形成確認とその検証)
参考例1〜3の潤滑剤組成物の良好な潤滑性能が摩擦面へのダイヤモンド質超微粒子の濃縮層形成に起因することを前述のFalex試験から説明した。しかし、EPMA分析から得られる炭素濃縮の情報には、相摩擦する試験片中に含まれる炭素やエマルションを構成する有機質成分に起因する炭素の何らかのメカニズムによる濃縮も同時に起こりうる。そこで、後述するシェル式高速四球試験を用いてダイヤモンド質超微粒子以外の炭素濃縮の有無を検証した。検証の対象とする炭素濃縮の可能性は、1)摩擦試験ボール中の微量炭素由来、2)基油構成成分の有機質出来の2種である。
シェル式高速四球試験の試験条件は、後に詳述するが、0.5inch SUJ2ボール、荷重490N、回転数1000rpm、時間1800secである。検証手法には同様にEPMAを使用した。
図7は、本検証に使用した水中試験(Water)、ダイヤモンド質超微粒子を含まない基礎エマルション(A)試験、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)試験におけるボール(以下、ことわりの無い限り、ボールとは固定球側をいう。)摩擦面の炭素特性X線強度の分布結果を示すものである。
1)の検証では、有機質を含まない蒸留水で摩擦し表面層を強制的に剥ぎ取ったボールの摩擦面の炭素の濃縮について調べたが、炭素特性X線強度は摩擦面以外の摩擦試験ボールと同様にバックグラウンドレベルであり炭素の濃縮は確認できなかった。すなわち、ボールの微量炭素に由来する炭素濃縮はないことが解った(図中Waterに対応)。
2)の検証では、摩擦中に有機質がボールに練り込まれる場合と、有機質反応物質が摩擦熱により生成するフリクションポリマー(重合物・炭化物)由来の可能性がある。これを検証するため、ダイヤモンド質超微粒子を含まない基礎エマルション(A)(基油成分有効濃度:15wt% 表13参照)にて摩擦試験ボールの摩擦面の炭素の濃縮について調べたが、水中試験と同様にバックグラウンドレベル以外に如何なる炭素の濃縮も確認できなかった(図中A(基礎エマルション(A))に対応)。
ダイヤモンド質超微粒子を油相(O相)に含む(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)(基油成分有効濃度:15wt%、ND濃度:0.3wt% 表13参照)について行った試験では、前述のFalex試験と同様に炭素濃縮が明らかに存在することが確認された(図中A−DOに対応)。
更に、濃縮層炭素の由来を確認するために、マイクロラマン分光法でその炭素構造を同定した。1332cm-1近傍のダイヤモンド結合に起因するラマンシフトが得られ、濃縮炭素は確かに油相(O相)に添加・分散したダイヤモンド質超微粒子であることが確認できた。WaterとA(基礎エマルション(A))の結果中の白丸は摩耗痕の径を示すために囲んだものである。また、Waterの摩耗痕が、A、A−DOに比較し小さい理由は、試験条件を同一にした場合、直ちに焼き付いたため、摩擦試験条件は1/2(荷重:245N、回転数:600rpm)に軽減しているためである。
図8には、図7に示した(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)のボール摩擦面の炭素濃縮部の高倍率(30,000倍)反射電子組成像を示した。100nm以下のダイヤモンド質超微粒子が点在していることが解る(図中矢印)。
本検証により、Falex試験(線接触)やシェル式高速四球試験(点接触)等の摩擦試験手法に依らず、基礎エマルション(A)に添加・分散したダイヤモンド質超微粒子が摩擦面に濃縮し、所謂、ダイヤモンド質超微粒子の被覆層(コーティング層)を形成することが解った。点接触、線接触の摩擦試験の進行に伴い、接触形態は面状接触に移行する(定常摩擦領域への移行)。設計上、面接触の試験環境においても、片あたり等の排除は事実上難しく、点接触から線接触の摩擦環境をへて、安定した面接触へと移行することが知られている。面状接触の摩擦環境にても同様な確認をおこなったが、この場合にもダイヤモンド質超微粒子の被覆濃縮層が形成できることが解った。後述するように、ダイヤモンド質超微粒子の被覆濃縮層は、比摩耗量の減少や摩擦係数の低下(静摩擦係数、動摩擦係数の双方)、摩擦トルクの低減に効果的に作用する。従って、ダイヤモンド質超微粒子を含む本エマルション組成物(A−DW、A−DO、A−DW−DO)は、ダイヤモンド質超微粒子のコーティング剤としても産業上極めて有用である。同時に、ダイヤモンド質超微粒子被覆濃縮層(ダイヤモンド質超微粒子コーティング層)やその形成方法、ダイヤモンド質超微粒子被覆濃縮層(同コーティング層)を有する各種摺動部材が、安価に且つ比較的容易に実現できることから、潤滑性能の高い被覆層並びにその形成技術等としても極めて有用であることが解った。
更に本検証では、ダイヤモンド質超微粒子濃縮層中にダイヤモンド質超微粒子以外の遊離炭素等の検出はできなかったが、本発明におけるダイヤモンド質超微粒子濃縮層の形成では、ダイヤモンド構造以外の炭素質(例えば、黒鉛、フラーレン等のsp、sp2結合、sp3結合とそれらの混成形態)との複合濃縮を排除するものではないことは明らかである。例えば、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物に油性向上剤やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を同時に添加・分散することで、潤滑性能向上に寄与できる黒鉛やフラーレンを始めとする各種炭素形態の複合濃縮も可能である。本件については、後述する。
[参考例1−3の特性評価:潤滑信頼性]
潤滑剤組成物に求められる特性として、低い摩擦係数、長時間の安定した摩擦疲労特性、少ない摩擦摩耗量等、優れた潤滑性能があげられることは当然のことである。しかし、各種デバイス、機械やシステムの稼働中に摩擦・摺動部位から潤滑剤組成物の漏れ出しによる無潤滑状態(潤滑剤の枯渇)のトラブル発生時にも最悪の事態としての焼付き等の危険を著しく低減できることは、潤滑剤性能として信頼性が高いと言えることは間違いない。特に、本参考例発明の潤滑剤祖成物は、水相(W相)と油相(O相)から成るエマルション組成物であるため、最も過酷な摩擦条件として、振子摩擦疲労試験途中で摩擦・摺動部から潤滑剤組成物を水洗にて取り除いた際の摩擦疲労挙動を調べる、所謂、潤滑剤枯渇の想定試験を行った。試験条件は、前記した摩擦疲労試験と同様であるが、本発明の潤滑剤中で10回の繰り返し摩擦の後に、摩擦・摺動部の潤滑剤組成物を超音波により水洗浄除去、乾燥後、再度、同一条件で10回の振子摩擦疲労試験を行うものである。
図9は、本発明の参考例1−3、比較例1の潤滑剤組成物の摩擦疲労特性と潤滑剤枯渇試験による摩擦疲労特性を示す図である。
図9は、本参考例発明の各参考例の潤滑剤組成物について、ダイヤモンド質超微粒子の各種分散形態の摩擦疲労特性と併記して、本潤滑剤枯渇試験による摩擦疲労特性のそれぞれの結果を示す。潤滑剤枯渇試験による摩擦疲労特性の結果は、図中、ダイヤモンド質超微粒子のそれぞれの分散形態を示すサンプルデータに「−Dry」を付記して示してある。例えば、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルションタイプ(A−DW−DO)(すなわち実施例3)の枯渇試験結果はA−DW−DO−Dryで示した。分散形態別のそれぞれの結果は、潤滑剤組成物を水洗除去後も、後述する従来のストレートタイプの潤滑剤よりはるかに低い摩擦特性を維持すること、Falex試験による摩擦面潤滑挙動のところで記載した摩擦面潤滑挙動が潤滑剤の枯渇状況下でも維持されることが明らかとなった。これらの試験結果から、本参考例発明の潤滑剤祖成物は、従来にない高い信頼性を有することを検証できた。各態様の潤滑剤組成物の基抽成分有効濃度、ダイヤモンド質超微粒子固体濃度は、図3と同様である。上記本潤滑剤枯渇試験における潤滑信頼性の特徴は、慣らし運転等で、潤滑が必要な部位に、あらかじめダイヤモンド質超微粒子被覆濃縮層を形成しておけば、本潤滑剤組成物を水洗にて取り除いても安定して潤滑機能を発揮することを示している。従って、例えば、潤滑剤(油)の付着が製品の品質仕様を損なうものと判断される紙製品等の加工・製造工程(例えば、和紙やポリマー処理した紙製品(薄型テレビ用新素材等)への穴の打ち抜き加工や紙巻きたばこの製造工程等)に適用することで、油汚染の問題を排除できる新しい有用な潤滑手段を提供する。
[参考例4〜7]
参考例1〜3では、本潤滑剤組成物に分散添加するダイヤモンド質超微粒子の平均粒子径は40nmを使用した。実施例4〜7では、摩擦特性に及ぼす平均粒子径の影響について記載する。平均粒子径以外の条件は、特に記載のない限り、参考例4、5は、参考例2と、参考例6、7は参考例3と同様な条件で作製した。
本参考例に用いたダイヤモンド質超微粒子は、爆合法で製造された一次粒子径自体は数nmレベルの自形が表れていない比較的丸みを帯びた微粒子であるが、それら一次粒子は凝集性が強く、前記した40nm平均粒子経は凝集平均径である。本発明に使用できるダイヤモンド質超微粒子の平均粒子径は参考例に開示した凝集平均粒子径に制限されるものではなく、少なくとも一次粒子径(例えば4nm)まで分散処理したものを使用できる。
本参考例では、平均粒子径が10nm及び4nmのダイヤモンド質超微粒子を用いて、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(10nm:参考例4、4nm:参考例5)、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルンョン組成物(10nm:実施例6、4nm:参考例7)を製造し、それぞれ平均粒子径40nmの場合とその摩擦係数を比較検討した。
それぞれ得られた摩擦係数は、0.1よりはるかに低い結果がえられ、40nmの平均粒子径を用いた参考例1〜3に比べ更にすぐれた摩擦特性を示した。平均粒子径の減少に伴い、ダイヤモンド質超微粒子の添加濃度も更に低下が可能であることも明らかとなった。ちなみに、本参考例では、0.02wt%添加で上記摩擦性能が充分達成できた。基油成分有効濃度は20wt%である。凝集粒子径としての平均粒子径が大きくなると、見掛け上、凝集体の不規則な形状は、所謂、加工用の微粒子切り刃を構成し、摩擦摺動面間でせん断力を受けた際、摩擦面を研磨することになる。平均粒子径が100nmを超えると、この研磨作用による摩擦摩耗が著しくなり、摩擦係数も上昇することが確認できた。
従って、ダイヤモンド質超微粒子の平均粒子径は100nm以下であることが不可欠である。爆合法以外の製造法である静的超高圧法や衝撃波合成法、更には気相合成法で得られるダイヤモンド質超微粒子についても同様な現象が確認できた。これらの製造法で得られる単結晶や多結晶微粒子を使用する場合、それらの鋭利な微細エッジ切り刃は、湿式分散処理や熱処理等にて微小化、更には改質しておくことが好ましい。
[添加する固体濃度について]
参考例1〜3では、添加するダイヤモンド質超微粒子濃度は、全配合組成濃度として最大1wt%程度について詳述した。特に水相(W相)中では、実施例1でゼータ電位に関して記載したように、粒子間の相互作用があり、所謂クラスター化(集合化)しやすい特性を持つ。この現象はダイヤモンド質超微粒子濃度を高めていくと顕著に現れるようになり、一次粒子或いは微小凝集粒子等の平均粒子径で超微粒子の仕様を決定しても、個々の超微粒子を電気的相互作用並びに分散剤等で安定して分散しておくことが難しくなる(例えばブラウン凝集)。すなわち、粒子間拘束の比較的小さな分散状態から凝集体へと変質していくこととなる。このような挙動が明らかに現れる濃度域は10wt%(全配合組成濃度でも同様)を超える濃度であり、この濃度領域で上述した参考例1〜3の潤滑剤につき摩擦特性を評価したところ、摩擦係数はかなり上昇した。
従って、ダイヤモンド質超微粒子の油相(O相)中、水相(W相)中双方における添加・分散の重量濃度の上限は10wt%とすることが適切である。添加濃度には必ずしも下限があるわけではないが、前記したように平均粒子径を一次粒子まで低下すると摩擦係数や摩擦疲労特性に効果を発揮する添加濃度は、0.01wt%以下まで下げられることが確認できた。
[基油成分有効濃度について]
参考例1〜3では、エマルション、マイクロエマルションを構成する基油成分有効濃度を5wt%から25wt%の範囲にて、又ペースト状タイプについては50wt%にて説明した。基油成分有効濃度の上限については、90wt%を超えると、もはやO/W型エマルションとしてその形態を維持することは困難になり、下限として1wt%以下となると基油成分の効果が期待できなくなる。従って、油相(O相)を構成する基油成分有効濃度は1wt%以上、90wt%以下であることが適切である。
[生分解性について]
上述した参考例の潤滑剤組成物の生分解性を、簡便法として国連にて取り組んでいる「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)」に関連して、経済協力開発機構(OECD)が定める測定方法を用いて評価した。本試験法は、化学構造が判っているものや他に分解性に関するデータが得られない場合にのみ、生物化学的酸素要求量(Biochemical oxygen demand):(BOD)を化学的酸素要求量(Chemical Oxygen Demand):(COD)で除して得られる比率(BOD/COD)の値を「生分解度」として生分解性の難易度を評価できるものである。(参考文献:オレオサイエンス第5巻第10号 2005)
試験評価サンプルとしては、実施例1のO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物並びに実施例2の(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物を用いた。また、測定の供した基油成分有効濃度は何れも表13に準じた15wt%である。双方の組成物とも、生分解度:生物化学的酸素要求量(BOD)/化学的酸素要求量(COD)=16,000/22,000=72.7%の値が得られた。本試験結果から、実施例1、2の潤滑剤組成物は、経済協力開発機構(OECD)が定める生分解度が60%以上であり易生分解性と判断でき、実際の好気的な水環境下では、速やかに分解されると言える。その他の、基油、乳化剤、分散剤を使用したダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物でも同様な結果が得られた。
[変形例2]
変形例2(参考例1の変形例)として、ダイヤモンド質超微粒子を含む従来型潤滑剤(ストレートタイプ)を作製した。基油には従来型ストレート油のマシン油#68を用い、表11に示す配合組成にて比較潤滑剤を製造した。この際、固体微粒子或いは極圧剤等の添加剤を添加する際には、ダイヤモンド質超微粒子油分散体の製造と同様に、基油としてn−パラフィン、分散剤としての高級アミド・アルキロール化スルホネート塩、ダイヤモンド質超微粒子等の各種添加剤を混合・攪拌して分散処理後、マシン油#68を混合して所望の固体粒子等濃度のストレートタイプ従来型潤滑剤を製造し、変形例2とした。固体微粒子としては、実施例1〜3で使用した平均粒子径40nmのダイヤモンド質超微粒子、平均粒子径が40nmの二酸化珪素(Si02)、500nmの二硫化モリブデン(MoS2)を、EP添加剤としては塩素化パラフィン(C1結合率:40%)を用いた。それらの添加濃度はそれぞれ1wt%とした。表11は、各種固体潤滑剤を添加した従来型潤滑油の配合組成を示すものである。以下の図表において、サンプル名がBOM、MOS2、MOSI、MOC1(MOCL)であるものは比較例として作製した。これらを総称して比較例2という。サンプル名がMOND(NDMO−1)であるものは変形例2である。
図10は、本発明の参考例2、変形例2と比較例2の潤滑剤組成物の摩擦疲労特性を示す図である。図10には、上記方法にて製造したストレートタイプ従来型潤滑剤と本発明の参考例2のダイヤモンド潤滑剤組成物の摩擦係数並びに摩擦疲労特性を比較して示した。A−DOで示された結果は、上記で参考例2の結果として詳述した(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物のエマルションタイプの結果(ダイヤモンド質超微粒子添加固体濃度:0.05wt%)である。ストレートタイプ従来型潤滑剤(NDMO−1)の場合、本発明に使用したダイヤモンド質超微粒子を添加しても摩擦係数やその疲労特性は0.13前後であり、本発明の油相(O相)中にOSグループの油溶性の分散剤で処理されたダイヤモンド質超微粒子を微量添加したエマルションタイプの組成物(摩擦係数:0.09)には、はるかに及ばない結果であった。
図11は、変形例2と比較例2の各態様の潤滑剤組成物のFalex摩耗試験における摩擦面の顕微鏡与真である。ストレートタイプ従来型潤滑剤のFalex試験によるブロック摩擦面部位の光学顕微鏡写真によれば、比較例2すなわち、従来型ストレート油にSiO2、MoS2、塩素化パラフィンを添加したストレートタイプ従来型潤滑剤の摩擦面は、摩擦摩耗の進行で摩耗痕幅も大幅に拡大していることが明らかとなった。図11には、同様に曾田式振子摩擦試験機による摩擦係数評価結果を伴記した。図11に示された結果と図5とを比較すると、本発明の各参考例の潤滑剤組成物の優れた潤滑特性が明らかである。
[陽イオン型分散剤添加によるダイヤモンド質超微粒子の分散挙動と摩擦特性]
本参考例発明構成の一つであるO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルションにおける水相(W相)中へのダイヤモンド質超微粒子の分散特性とその摩擦疲労挙動に及ぼす分散剤の効果を、陽イオン型分散剤を各種添加して確認した。図12は、分散剤の有無・種類による潤滑剤組成物の摩擦疲労特性を示す図である。図12には、参考例1で水分散安定性評価を実施した、高級アミン・低級脂肪酸塩から成る陽イオン型分散剤(C2ND)と電解質を含む四級アミン塩・RN(CH23・X-(ハロゲン)同イオン型分散剤(C1ND)をそれぞれダイヤモンド質超微粒子水分散原料体に添加、分散剤処理した場合の摩擦疲労特性を示した。ダイヤモンド質超微粒子の濃度(固体濃度)は1.0wt%、分散剤濃度は同様に0.5wt%とした。
図12には、分散剤無添加のダイヤモンド質超微粒子水分散原料体(WD:ダイヤモンド質超微粒子濃度(固体濃度)は1.0wt%)の摩擦疲労特性を比較標準として記載した。また、参考例1で示したポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤(前記サンプルADに対応)と脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤(前記サンプルNDに対応)で複合添加処理(AD・ND)した効果も同時に記載している。前記した陽イオン型分散剤で分散剤処理したダイヤモンド質超微粒子水分散体の摩擦係数は、無添加の場合と比較してほとんど変化しないか、むしろ上昇する傾向があり、その疲労特性も分散剤処理で安定化する傾向は全く確認できなかった。この結果は、陰イオン型、両性型、非イオン型分散剤の効果と対象的である。
一方、上記陽イオン型分散剤処理による分散安定性に関しては、高級アミン・低級脂肪酸塩の場合は、ゼータ電位の点からは必ずしも良好とはいえないものの、電解質を含む四級アミン塩・RN(CH23・X-(ハロゲン)分散剤の場合は極めて良好であった。その他各種陽イオン型分散剤を評価したが、摩擦係数の低下や摩擦疲労試験での安定化効果は得られなかった。
即ち、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物における陽イオン型分散剤以外の分散剤による分散剤処理の効果は、摩擦特性の改善にあった。
[参考例1〜3の潤滑剤組成物の効果]
ダイヤモンド質超微粒子をO/W型エマルションの各相に分散形態を制御することにより、従来のダイヤモンド超微粒子添加ストレートタイプ潤滑剤やグリースで開示されている摩擦係数を大幅に凌ぐ潤滑特性の向上を確認した。摩擦係数に及ぼすダイヤモンド質超微粒子添加効果を有効に引き出すための分散剤による効果を初めて明らかとし、それらの複合添加効果が更に有効である結果を得た。本発明は、バイオハザード問題のないダイヤモンド質超微粒子を用い、使用する基油、乳化剤、分散剤等はPoHS(ノルウェー有害化学物質規制法)やPRTR(化学物質排出把握管理推進法)に該当しない組成で、生分解性に極めて優位な(O/W)型エマルションであることから、極めて優れた潤滑特性を持ち、環境負荷を極限まで低下した従来に無い環境配慮型の潤滑剤組成物が提供できることとなり、以下の著しい効果がえられる。
1.従来の固体潤滑剤に比較してその価格が高価なダイヤモンド質超微粒子でも、極微量添加で大幅な潤滑効果の改善が可能であり、産業への活用においてコスト負担を増加させない。
2.水洗可能で、生分解性を有することから、洗浄、廃棄等でCO2抑制効果を発揮する。
3.摩擦係数が大幅に低下し、摩擦疲労特性が向上する。
4.本参考例発明の潤滑剤組成物は微粒子の濃縮層を形成させることから、従来のCVDやセラミックス処理といった摩耗防止のための耐摩耗性被膜のコーティング作業が、所謂、慣らし運転で容易に出来るので、複雑かつ高価なコーティング処理が不要であり、トラブル発生時も焼付き等のリスクが小さく、高い潤滑信頼性が得られることでその経済効果はすこぶる高い。
また、本参考例発明の製造方法によれば、油中にダイヤモンド質超微粒子を分散できるので、コストダウンが図れる。
[実施例1:(O+CBN超微粒子)/W型エマルション組成物]
以下に本発明の潤滑剤組成物、その製造方法並びに固体潤滑剤微粒子について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(潤滑剤組成物の製造)
(O+CBN超微粒子)/W型エマルション組成物の製造には、参考例1、2に記載した手法と分散剤等の界面活性剤や乳化剤がそのままで使用できるので、それらを活用して簡潔に説明する。
超微粒子化するCBNには、合成原料として六方晶窒化ホウ素、触媒として窒化リチウムを用いて超高圧合成し、精製処理後、分級した平均粒子径0−1ミクロンのサブミクロン砥粒を準備した。このサブミクロン砥粒を更にボールミルにて微細化し、湿式ビーズミルにて平均粒子径が10nmで、固体濃度5wt%のCBN超微粒子水分散原料体を作製した。
次に、参考例1と同様に、分散剤処理CBN超微粒子水分散体(固体濃度は2wt%に、分散剤のポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤、脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤を、それぞれ1.0wt%ずつ複合添加処理したCBN超微粒子水分散体)を作製する。 更に、参考例2のダイヤモンド質超微粒子油分散体の製造と同様な工程に従い、CBN超微粒子油分散体(P−2‘)を製造する。油分散CBN超微粒子分散剤(OS)として6wt%の高級脂肪酸アミドのアルキロール化硫酸エステル塩を、20wt%のn−パラフィンで希釈し、良く溶解させた後、水分散用CBN超微粒子固体潤滑剤(前記した分散剤処理CBN超微粒子水分散体から水を除去して得られる親水性の「水分散用CBN超微粒子固体潤滑剤」として添加)をCBN超微粒子固体濃度で10wt%添加し、残部のn−パラフィン64wt%で希釈して固体濃度が10wt%のCBN超微粒子油分散体を製造する。
本実施例におけるエマルション組成物の製造においては、エマルション(乳濁色)タイプの組成物を製造した。前述したCBN超微粒子油分散体:基油P−2‘を前記O/W型エマルションタイプの基礎エマルション(A)の製造法と同様に、他の基油と混合する。即ち、オレイン酸主体の油脂(ナタネ油)4wt%とオレイン酸メチルエステル4wt%、上記CBN超微粒子油分散体(基油P−2’:CBN超微粒子固体濃度10wt%)を3wt%、乳化剤として、アルキル脂肪酸カリウム塩2wt%、ポリオキシエチレン(n=9mol)・オレイン酸エステル2wt%を添加し、混合、攪拌してCBN超微粒子を分散したエマルション基油成分を製造した。次に調整水6wt%を加え、油相(O相)と水相(W相)の配合比率が7:3の粘度が最大となったところでW/O型からO/W型に転相乳化した。本タイプの潤滑剤組成物の製造には、ニーダーを用いた。更に、調整水を79wt%加え、CBN超微粒子をエマルション基油成分内に分散内包したエマルション組成物を得た。基油成分有効濃度は15wt%とした。最後に消泡剤として、ジメチルポリンロキサンのエマルションを添加した。この時のCBN超微粒子の固体濃度は0.3wt%である。
(シェル式高速四球試験による潤滑剤組成物の特性評価)
潤滑剤組成物に求められる特性として、低い摩擦係数、長時間の安定した摩擦疲労特性、少ない摩擦摩耗量等、優れた潤滑性能があげられることはダイヤモンド質超微粒子の参考例にて記載した。一方高負荷や高速摺動、高温下の摩擦環境は、単独で、或いはそれらの組み合わせにて特に過酷な潤滑環境といえる。本実施例では、これらの過酷な摩擦環境に対する摩擦特性として耐荷重能に着目し、後述するダイヤモンド質超微粒子を油相(O相)に添加した(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物の発展形として、更に、水相(W相)には、油性向上剤とダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレンを添加した潤滑剤組成物(A−DO−TY−TZ)との特性比較で焼付き発生までの負荷荷重(本発明ではこの荷重を耐荷重能と定義する)を調査した。
耐荷重能特性の評価にはシェル式高速四球試験を用いた。シェル式高速四球試験の試験条件は、0.5inch SUJ2ボールを用い、回転数1000rpm、自動昇圧法にて焼付きピークの発生荷重を計測した。
比較剤として試験した前記(O+ダイヤモンド質超微粒子)/Wエマルション組成物の発展形としての(A−DO−TY−TZ)タイプ潤滑剤組成物では、おおよそ3,500N付近で焼付き現象に対応するピークが観測されたが、本実施例の組成物では、試験機の限界負荷である4,500Nまで焼付き現象に対応するピーク発生の不安定さは観測されなかった。EPMA(ホウ素と窒素分布をマッピングした。)とマイクロラマン分光にて摩耗痕部を調査したところ、立方晶窒化ホウ素の被覆濃縮層の存在が確認され、摩擦試験中に摩擦部位にはCBN超微粒子がコーティングされていることが明らかとなった。
一方、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物の発展形の(A−DO−TY−TZ)タイプ潤滑剤組成物では、摩耗痕部にダイヤモンド構造に対応する炭素質の濃縮がわずかに確認できる程度であった。この結果は、摩擦試験中にダイヤモンド質超微粒子が黒鉛化を起こし、ガス化やSUJ2ボールへの溶解・固溶で消失したことを示している。
本試験法では同時に摩耗痕径も観察した。(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物の発展型の(A−DO−TY−TZ)タイプ潤滑剤組成物では、負荷荷重の増大とダイヤモンド質超微粒子濃縮層の消失に伴いその摩耗痕径は大幅に増加する傾向にあることが確認できた。
ちなみに、市販の極圧剤(塩素化パラフィン等)等を含む潤滑油についても同様な比較試験を行ったが、昇圧過程で焼付きに対応する小さなピークが多数観察された。摩耗痕径は圧倒的に本実施例の組成物の方が小さいことを明らかにした。
他方、本実施例の(O+CBN超微粒子)/W型エマルション組成物でははしされたものの
本実施例では油相(O相)に添加するCBN超微粒子に変えて、六方晶窒化ホウ素の同様な高圧相であるウルツ鉱型結晶(urtzite−type oron itride、以後WBNとも呼ぶ。)超微粒子や衝撃波合成法やCVD法で合成される炭素原子がその一部を置き換えたBCN超微粒子を用いて本実施例と同様なO/Wエマルション組成物を作製し、耐荷重能の評価を行ったが、同様にダイヤモンド質超微粒子添加の場合よりも各段に高い耐荷重能である結果が得られた。
その他の摩擦特性として、摩擦係数を評価した。摩擦係数の測定には、曾田式振子試験機を使用した。測定条件は、参考例の場合と同様に、20℃、荷重2.94N(ヘルツ圧:1,090N/mm2)である。得られた摩擦係数は、0.099であり、参考例2に示す同様な配合の(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(基油成分有効濃度:15wt%、ダイヤモンド質超微粒子固体濃度:0.3wt%)の値に比べ少々高くなる傾向はあるが遜色ない優れた摩擦特性を有することが解った。参考例2と同様に、基油成分有効濃度は15wt%、CBN超微粒子固体濃度は0.3wt%にてマイクロエマルションタイプの(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物を製造し、評価した摩擦係数は、0.114であった。 特に摩擦係数特性に関しては、上述した結果を基に(O+CBN超微粒子)/W型エマルション組成物のCBN超微粒子の一部をダイヤモンド質超微粒子で置き換えることで本組成物の優れた耐荷重能特性を大幅に低下することなく(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物の摩擦係数に近づけることができることも明らかとした。
なお、本実施例では、CBN超微粒子には平均粒子径が10nmのものを使用したが、100nmを超えると摩擦面上への立方晶窒化ホウ素被覆濃縮層の形成過程及び潤滑過程を通じて潤滑作用より研磨作用が支配的になるため、平均粒子径は100nm以下とすることが不可欠である。
更に、参考例2に示す処理を施すことで、ダイヤモンド質超微粒子の場合と同様な油分散性に優れたCBN超微粒子からなる固体潤滑剤微粒子を提供できる。
[実施例2:O/(W+CBN超微粒子)型エマルション組成物、(O+CBN超微粒子)/(W+CBN超微粒子)型エマルション組成物]
ダイヤモンド質超微粒子を実施例1に示したCBN超微粒子に変えた以外は参考例1、3に示す製造工程に従って、基油成分有効濃度は15wt%、CBN超微粒子固体濃度は0.3wt%にてそれぞれエマルション(乳濁色)タイプのO/(W+CBN超微粒子)型エマルション組成物、(O+CBN超微粒子)/(W+CBN超微粒子)型エマルション組成物を製造し、摩擦係数、参照例1−3の特性評価に示す摩擦疲労特性、潤滑信頼性(潤滑剤枯渇試験)を評価した。摩擦疲労特性、潤滑信頼性(潤滑剤枯渇試験)の評価では、実施例1に示す(O+CBN超微粒子)/W型エマルション組成物の特性も合わせて評価した。摩擦係数の測定には、前述した曾田式振子試験機を使用した。
O/(W+CBN超微粒子)型エマルション組成物の摩擦係数は、0.105、(O+CBN超微粒子)/(W+CBN超微粒子)型エマルション組成物では0.094の値が得られ、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の場合との比較にて遜色のない優れた摩擦特性を有することが解った。
本実施例の組成物と実施例1に示した(O+CBN超微粒子)/W型エマルション組成物につき参考例1−3の特性評価に示した潤滑信頼性の試験も実施した。本組成物である潤滑剤中で10回の繰り返し摩擦後に摩擦・摺動部に付着した本組成物をそのまま乾燥した以外は同様な条件にて試験を実施した。それぞれの組成物の枯渇試験結果は、上記条件の変更はあるもののダイヤモンド質超微粒子を各相に添加したO/W型エマルション組成物の結果よりも低い摩擦係数を維持し、枯渇状況下でも従来にない高い信頼性を有することを検証できた。中でも(O+CBN超微粒子)/(W+CBN超微粒子)型エマルション組成物では枯渇状況下でも最も摩擦係数(0.094)が低い
摩擦面潤滑挙動が維持されることが解った。この潤滑信頼性の特徴は、参考例1−3の潤滑信頼性において記述したように、枯渇試験の前に、潤滑剤組成物の存在の下、繰り返し摩擦という慣らし運転等で潤滑が必要な部位にあらかじめCBN超微粒子被覆濃縮層を形成することで潤滑剤組成物等の補給がなくても安定して潤滑機能を発揮することと言える。
更に、参考例1に示す処理を施すことで、ダイヤモンド質超微粒子の場合と同様に、水や水溶性溶媒への分散性に優れたCBN超微粒子からなる固体潤滑剤微粒子を提供できる。
[実施例3:(W+ダイヤモンド質超微粒子)/O型エマルション組成物、(W+CBN超微粒子)/O型エマルション組成物]
実施例1−2では、CBN超微粒子を添加したO/W型エマルション組成物について説明した。本実施例では、O/W型エマルション組成物の代わりにW/O型エマルション組成物(広義の意味でのW/O型エマルションにおける「基礎エマルション(A)」)の水相(含む結晶水)にダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を添加した(W+ダイヤモンド質超微粒子或いはCBN超微粒子)/O型エマルション組成物について説明する。
W/O型エマルション(広義の意味でのW/O型エマルションにおける「基礎エマルション(A)」)は、ドライクリーニングの洗浄液から乳濁色状態の参考例1−3やO/W型エマルションの実施例1−2で記述したタイプで水滴径が0.1−10ミクロンものまで含まれると本発明では定義するが、O/W型エマルションと比較すると総じて水滴の分散安定性は乏しい組成物である。本実施例では、ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子に参考例1や実施例1に記載した分散剤処理(親水性処理)を施し、このダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子水分散体溶液を陰イオン型、非イオン型界面活性剤や乳化剤とともに油中に溶解するタイプ(ドライクリーニング洗浄液型)の水中にダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を含むW/O型エマルション組成物について説明する。このタイプのW/O型エマルション組成物は、陰イオン型、非イオン型界面活性剤や乳化剤、所謂ソープがダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を含む水粒子を芯に包み込み、包み込んだ内側に親水基が、外側に親油基が球形に取り囲む所謂ミセルが油に溶解した状態を作り出し、油中への水粒子の添加で粘度は初期の油の粘度とほとんど変わらない。内包されたダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を保持する水分子は、正負イオンが内側の親水基に対応して配列するので、この配列した水分子を結晶水と呼んで通常の水滴と差別化するのが特徴となる。この結晶水中にダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を抱き込み保持する構造が本実施例の特徴であり、ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を保持する水微粒子の分散安定性は極めて高い。
ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子には平均粒子径が5−10nmのものを用いた。
ソープには特に指定はないが、前記した陰イオン型、非イオン型界面活性剤や乳化剤が適時複合して使用できる。油相を構成する油溶剤には、基油として前記したα−オレフインオリゴマー(粘度:10cStのもの)を用いた。ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子水分散体溶液の当該固体濃度は0.1wt%−0.5wt%で調整した。
以下に製造工程について説明する。本タイプのW/O型エマルション組成物の配合は、上記ソープ量が油溶剤の0.3%、ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を含む上記水成分がその1/10とした。水成分がこの量を超えると結晶水から乳濁色の通常のW/O型エマルション状態に遷移し、水相(水滴)の分散安定性も低下するためである。
本実施例の(W+ダイヤモンド質超微粒子)/O型エマルション組成物、(W+CBN超微粒子)/O型エマルション組成物の摩擦係数の測定には、曾田式振子試験機を使用した。ダイヤモンド質超微粒子を添加した場合は、0.090、CBN超微粒子の場合は、0.094と良好な摩擦特性が得られた。本実施例タイプのW/O型エマルション組成物は、マイクロマシン関連の微小な部品
やデバイスの比較的軽負荷下での摩擦摩耗の低減や摩擦抵抗の低減により効果を発揮することを確認した。
本実施例では、上記配合の結晶水タイプの(W+ダイヤモンド質超微粒子)/O型エマルション組成物、(W+CBN超微粒子)/O型エマルション組成物を製造し、摩擦特性を評価したが、参考例1−3と同様な製造工程の一部を活用してW/(O+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物、W/(O+CBN超微粒子)型エマルション組成物、(W+ダイヤモンド質超微粒子)/(O+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物、(W+CBN超微粒子)/(O+CBN超微粒子)型エマルション組成物を製造し、優れた摩擦特性を確認した。
更に、本実施例では、水微粒子の分散安定性は劣るが、ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を含む分散剤処理した当該水分散体溶液を上記規定割合より増加した所謂乳濁色タイプのW/O型エマルション組成物も製造し、摩擦特性を検証した。本タイプの組成物でも優れた摩擦特性を確認できた。
[参考例8〜10:発展型のエマルション組成物]
上述の参考例1〜3においては、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物からなる潤滑剤組成物の摩擦特性を引き出す最良の分散剤並びに組成物を作製する乳化剤等の重要な構成要素を見出した。本発明者らは、さらに当該CBN超微粒子を含むO/W型エマルション潤滑剤組成物の発展型として、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の水相(W相)側に、油性向上剤あるいはCBN以外の固体潤滑剤や前記したダイヤモンド質超微粒子等を後添加して系内に形成される複成状態、複合状態、また、その両方の状態が、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の潤滑性能より優れることを見出し、本発明を完成するに至っている。以下、これらの形態の実施例について説明する。(ダイヤモンド質超微粒子を含む本発展型は国際出願PCT/JP2009/001721に記載)
ここで、「後添加」とは、上述した「転相乳化法」で製造した当該CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物を第1の製造過程とすると、さらに油性向上剤(Y)またはCBN超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)、或いはその両方(本明細書において、記号は(Y−Z)と示す。)を水相(W相)中に所望重量添加して低攪拌で同系内に分散させる第2の製造過程を経て得られる潤滑剤組成物の製造方法のことを言う。この製造方法を「後添加法」と呼ぶこととする。この第2の製造過程で得られる複成、複合、また、その両方がCBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の水相(W相)中に分散する状態を総称して(T)とする。例えば、油性向上剤(Y)の当該CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物への後添加は「複成分散組成物」(TY)、CBN超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の場合は「複合分散組成物」(TZ)、その両方は「複成・複合分散組成物」(TY−TZ)と呼ぶこととする。
後添加のタイミングは、前記転相乳化法で油中水型(W/O)から水中油型(O/W)に相転移する段階で、例えば、油性向上剤を所望量添加して攪拌し、当該CBN超微粒子を含むO/W型エマルションの水相(W相)中に新たな油滴として分散させ、最後に所望の基油成分有効濃度とする水を加えて完結するものである。また、O/W型エマルションが完結した後に低速回転で徐々に添加攪拌する場合もある。後述する実施例において、特に不適切な旨の記載がない場合は、いずれのタイミングでもよい。なお、添加物質の持つ特徴を強調する目的で、例えば、O/W型エマルションの乳化が完了した後に、香料、収れん剤、防腐剤等を加えるのは有効な方法である。
(各種分散組成物の記号について)
上述したCBN超微粒子を油相(O相)に含むO/W型エマルションの水相(W相)中に「油性向上剤」(Y)を添加して複成状態となるものはダイヤモンド質超微粒子の場合の記号を流用して(A−DO−TY)、CBN超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を添加して複合状態となるものは(A−DO一TZ)、その両方が混成する状態に対しては(A−DO−TY−TZ)という記号を付与して説明を簡潔にする。
一方、当該CBN超微粒子を水相(W相)中に含むO/W型エマルションの水相(W相)中に(Y)を添加した(TY)に対しては(A−DW−TY)、(Z)を添加した(TZ)に対しては(A−DW−TZ)、その両方が混成する状態に対しては(A−DW−TY−TZ)という記号を付与する。また、(A−DO)及び(A−DW)の両相の形態(A−DW−DO)に(Y)を添加した(TY)に対しては、(A−DW−DO−TY)、(Z)を添加した(TZ)に対しては(A−DW−DO−TZ)、その両方が混成分散した(TY−TZ)に対しては、(A−DW−DO−TY−TZ)という記号を付与する。これ以外の組み合わせについても、上述のように同様に記号化して呼ぶことがある。
実施例1〜2の潤滑剤組成物の態様に更に上記発展形の展開をしたものは、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の水相(W相)中に油性向上剤(Y)を後添加して得られる複成分散組成物(TY)、CBN超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を後添加して得られる複合分散組成物(TZ)、又はその両方が混成する複成・複合分散組成物(TY−TZ)であり、いずれも、潤滑性能が、従来、水溶性潤滑剤では不可能とされていた回転トルク変動の安定化や加工公差の最小化、さらには高負荷条件での摩擦環境下においても優れた耐摩耗特性を有する潤滑剤組成物を提供することができることを更に明らかとした。また、W/O型エマルション組成物の水相(W相)を同様に発展させたダイヤモンド質超微粒子、或いはCBN超微粒子を含む同様な発展型のエマルション組成物も優れた潤滑特性を有することを確認した。
[参考例8:複成分散組成物(A−DO−TY)]
本発明者らは、前記した(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(エマルション(乳濁色)タイプ)(A−DO)の水相(W相)中に、油性向上剤(Y)、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を後添加して分散させた状態において潤滑性能が著しく向上することを見出した。以下には、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の発展型として(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物の水相(W相)中に、油性向上剤(Y)、当該ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を添加分散した複成分散組成物(TY)、複合分散組成物(TZ)、更には複成・複合分散組成物(TY−TZ)に関する潤滑特性の向上並びにその製造方法について検討を行った。
(摩擦試験機の選択基準について)
摩擦特性を評価する場合には、摩擦状態や潤滑剤組成物の外観等の違いにより摩擦試験機が異なる。低粘度の油性剤の評価には曾田式振子摩擦試験機、極圧(EP)剤を含む比較的低粘度の潤滑剤の評価には高速四球試験機が用いられ、この種はいずれも点接触系の試験機である。一方、Falex試験機は、線接触系の試験機であるため、極圧剤(EP剤)を含む潤滑剤及び高粘度グリースの評価に適する等、最も評価に適する摩擦試験機の選択が重要である。摩擦する接触面が異なる摩擦試験機の結果を組み合わせて得られる情報は、より広範囲な摩擦挙動を予想することが出来、実際に使用する実機に対応する。表12には、各参考例、比較例で評価する摩擦特性と試験機の種類、実施条件を示した。
表12において、本潤滑剤組成物の高速四球試験機で評価する潤滑特性は、一定条件下での摩耗量から算出される比摩耗量である。また、表12において、実施濃度とは、各種摩擦試験機で測定する時の基油成分有効濃度であり、油相(O相)中にダイヤモンド質超微粒子を含む場合には、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)と共に、当該超微粒子を基油成分有効濃度に含める濃度である。各種添加物の濃度(重量%)は表13の通りである。
上記の試験機の性格を熟慮した結果、潤滑性能を評価する基油成分有効濃度は、高速四球試験機では、一部の実施例を除き前述の曾田式振子試験機と同様の条件である15wt%としたが、Falex試験の枯渇試験に供する場合の基油成分有効濃度は、摩擦トルク安定性に関する摩擦試験の比較対象は回転ピンに固着するペースト状のグリースであり、15wt%濃度では回転ピンに固着せずに流れ落ちる問題がある。従って、Falex試験の枯渇試験に供する場合の対象サンプルは、基油成分有効濃度がペースト状の50wt%で行うこととした。
表13は、以下の摩擦試験に供する潤滑剤組成物中に含まれる分散物、すなわち、ダイヤモンド質超微粒子(ND)、油性向上剤(Y)、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の添加分散する各添加物の濃度(wt%)を形態別に示したものである。各サンプル別の基油成分有効濃度(wt%)も記号:AIで示してある。なお、A−DW−DO−TY−TZでは、ダイヤモンド質超微粒子(ND)添加量を潤滑剤組成物全体の中で水中(DW)分、油中(DO)分で分割して示した。参考例2の(ダイヤモンド質超微粒子油分散体:基油P−2の製造)や参考例1で前述したように、以後の参考例では、水分散用分散剤は当該ダイヤモンド質超微粒子やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の配合固体濃度(wt%)には含めないこととする。
なお、O/W型エマルションでの「基油成分有効濃度」は、水相(W相)へ添加分散する成分は含まない。しかし、実施例8、10、11、12、13(無水型であるが水の後添加もある)では、油溶性の基油成分と同種の油性向上剤(Y)を添加し、水相(W相)側に別種のO/W型エマルション(TY)が形成されて多重エマルションとなるため、油性向上剤(Y)成分は、「基油成分有効濃度」中に含め得る。一方、水相(W相)に分散させる分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)は、O/W型エマルションを形成しないため、「基油成分有効濃度」には含めない。例えば、参考例2の(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の製造で配合される、ダイヤモンド質超微粒子油分散体(基油P−2:ダイヤモンド質超微粒子固体濃度10wt%)は、基油成分の一部として扱うため「基油成分有効濃度」に含める。また、当然のことながら、後述する実施例15(基油内(固体)/分散組成物(A−DW−(D,Z)O))、参考例16(基油内(油性)/複合油分散組成物(AY−DO−TZ))記載の組成物では、それぞれ油相(O相)内に添加するダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)、油性向上剤(Y)は同様に「基油成分有効濃度」に含めることとする。
図13は、ダイヤモンド質超微粒子・油性向上剤・ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の各種分散形態を示す模式図である。図13は油性向上剤(Y)、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を、一例として、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の水相(W相)中に添加分散した時の油性向上剤(Y)、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の存在場所をわかりやすくするための模式図を示したものである。O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−DO)への添加では、各態様の水相(W相)中添加分散物の構成には、常にダイヤモンド質超微粒子が共存する。
(複成分散組成物(A−DO−TY)、複合分散組成物(A−DO−TZ)等の後添加製造方法について)
本組成物の作製は、大別して2つの工程からなる。第1工程とは、基油、乳化剤、界面活性剤(油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS))、油相(O相)中へ添加分散するダイヤモンド質超微粒子等の基油成分の混合工程、転相乳化工程、水を徐々に添加し所望の基油成分有効濃度とするエマルションを作製する一連の工程とし、第2工程とは、第1の工程で得られる組成物に、例えば、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)に油性向上剤(Y)或いはダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)またはその両方、さらには、参考例1に記載のO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)作製に使用する、分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体や参考例2に記載の(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)に使用する基油P−2をも含み、それらを後添加分散する工程として分けることとし、この第2の工程を「後添加法」と呼ぶこととする。第1の工程では、参考例2のエマルション(乳濁色)タイプの製造例に示すように、その配合成分及びその組成、転相乳化工程までは同様である。また、この第2工程では、第1の工程で得られる(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)を作製する過程で油と水との比率が7:3で転相乳化が完了した高粘度の段階で、油性向上剤(Y)や、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を添加して、最後に水を加えて所望の基油成分有効濃度とする方法と、後添加する所望の油性向上剤(Y)やダイヤ質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を差引いた残部の水を添加攪拌して得られる(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の中に、低速回転で徐々に油性向上剤(Y)やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を後添加して、「複成分散組成物」:(TY)や「複合分散組成物」:(TZ)の状態とする2通りの後添加法があるが、特に断りのない場合は、これら2種を適時選択できる。
(複成分散組成物(A−DO−TY)の製造)
本参考例の具体的な(A−DO−TY)の作製は、以下の通りである。
第1工程/オレイン酸主体の油脂:12.0wt%、オレイン酸メチルエステル:8.0wt%、実施例2に記載のダイヤモンド質超微粒子油分散体(基抽P−2:ダイヤモンド質超微粒子固体濃度10wt%):10.0wt%、ポリオキシエチレン(n=6mol)・オレイン酸エステル:3.0wt%、オレイン酸カリウム塩:7.0wt%を混合・攪拌して基油と乳化剤の混合組成物を作製し、転相水:17.0wt%を添加し転相乳化を完了させる。さらに、残部の水:33.0wt%を徐々に添加し攪拌して(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の乳濁色液体が得られる。
第2工程/油性向上剤(Y1):高級アミド・アルキロール化スルホネート・カルシウム塩:10.0wt%を徐々に添加し、攪拌する。最後に消泡剤として、ジメチルポリシロキサンのエマルションを0.01wt%添加して、基油成分有効濃度が50wt%のペースト状の複成分散組成物(A−DO−TY)が得られる。
消泡剤の添加量は、複成分散組成物に対する添加量であり、複成分散組成物自体の配合組成には含まれない。本件は本参考例発明の他の参考例においても同様である。このときの摩擦試験に使用する基油成分有効濃度15wt%中の各添加物の添加量は表13の通りである。
本実施例において、本タイプの潤滑剤組成物の製造には、乳化装置としてニーダーを用い、乳化温度を50℃、乳化時間を20min、攪拌速度を200rpmとし、室温(25℃)となるまで放置した。
(プレートアウト特性)
(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)に基油や油性向上剤を添加して得られる「プレートアウト特性」を確認する方法は、上述した非特許文献3に記載された試験方法と類似する方法で行った。具体的には、50mm2の白金坂を垂直に立てて比較対象の潤滑剤組成物を塗布し、乾燥後の油膜付着量を測定したところ、無添加の(A−DO)は0.24g/m2、後添加した本複成分散組成物(A−DO−TY)は1.72g/m2と、塗布した後の油膜付着量は約7.2倍も増加したことから、「プレートアウト特性」を得るには(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の水相(W相)中に油性向上剤を後添加することが好ましく、潤滑性能が向上することが示唆された。
図14は、基礎エマルション(A)と複成分散組成物(A−DO−TY)のエマルション粒子の顕微鏡写真である。図14は、転相乳化法と後添加法で新たに生成する油滴のエマルション状態を比較した顕微鏡写真である。図14中の基礎エマルション(A)は、転相乳化法で製造したものである。図14中の複成分散組成物(A−DO−TY)は、基礎エマルション(A)と同様に転相乳化法で製造する(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)と、それに油性向上剤(Y)を後添加したものである。後添加の油性向上剤のエマルション粒子(TY)は転相乳化法で製造した(A−DO)エマルション粒子と比較し明らかに大きかった。
(シェル式高速四球試験機による潤滑性能評価)
前述したように、摩擦特性評価試験方法として、摩擦係数評価には曾田式振子試験機を、摩耗痕挙動や摩耗量評価にはFalex試験機を使用した。しかし、曾田式振子試験機では、摩擦係数が0.1以下になるとその絶対値の信頼性は低下すること、更に、粘性の高い潤滑剤は評価が出来ない欠点もある。一方、Falex試験機においても負荷荷重や速度の試験条件に限界がある。特に油性向上剤やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤、さらにはその両方を添加した複成・複合分散組成物はその摩擦特性が一段と優れていることから、これらの手法でその特性を評価することは困難であることが解った。
本発明者は、油溶性の添加剤、グリース、極圧添加剤(EP剤)等の過酷な条件下で使用する潤滑剤を評価する、シェル式高速四球試験機が、油脂・セッケン系からなるO/W型水溶性潤滑剤の潤滑特性評価(非特許文献2参照)に充分適用可能であるとの知見を得ており、複成分散組成物、複合分散組成物、複成・複合分散組成物の潤滑特性評価には、シェル式高速四球試験機を用いることとした。
シェル式高速四球試験では、焼き付き荷重(耐焼き付き性)が高いほど良好な潤滑剤とされるが、最終焼き付きまでの昇圧の過程において、焼き付きに基づく耐荷重能にも匹敵するピークが初期あるいは中盤で発生する。この現象は、Falex摩耗試験でも同様に見られ、摩耗痕は、所謂、凝着摩耗やアブレッシブ摩耗の特徴を有している。このことは、一度焼き付いてから運良く終盤の焼き付きを迎えたに過ぎないことを意味するものであり、最終焼き付き荷重自体を信頼性の高い潤滑特性として比較評価することは適切とは言い難い。
そこで、思惟検討の結果、摩耗量での評価が適切であるとの結論に至り、しかも摩擦特性評価で必要とする時間(摩擦距離)設定が短時間でも評価精度が確保できる比摩耗量で評価することとした。比摩耗量(mm2/N)とは、摩耗痕の幅を測定し幾何学的に算出することで得られる摩耗体積(mm3)を荷重(N)×摩擦距離(mm)で除した値(摩耗体積(mm3)/荷重(N)×摩擦距離(mm))であり、荷重や摩擦距離を変数とする摩擦条件が異なる場合でも相対評価ができる特徴がある。また、本評価方法では、摩耗量の他に、高負荷条件下で起こる凝着摩耗やアブレッシブ摩耗の摩擦面を視覚的に観察することが出来ることも利点であることから、表面の部分破壊が直接その潤滑機能や特性に影響するマイクロマシンや超精密加工分野での特性評価には最適と言える。
摩耗痕幅の測定は、倍率を一定値とし、摩耗痕幅は固定球の摩擦方向に直角の方向を測定し、測定値の差が少ない球の2個の平均値を摩耗痕幅とした。幅の測定は、同縮尺としたガラス製マイクロメーター(0.1mm)画像の基準線間隔幅をノギスで計測し、比例計算により摩耗痕幅を算出した。
シェル式高速四球試験機の試験条件は、以下の通りである。
硬球径:0.5inch
材質:SUJ2
硬度:62−63HRC
表面粗度:0.02−0.04μm Rmax
荷重:490N(一定)
回転数:1000rpm(一定)
時間:1800秒(一定)
(シェル式高速四球試験機による複成分散組成物(A−DO−TY)の潤滑性能)
表13で説明した様に、摩擦試験に供した本分散組成物の基油成分有効濃度は15wt%であり、上記本分散組成物の製造にて作製した基油成分有効濃度50wt%物を蒸留水にて希釈して潤滑性能を評価した。表14には、シェル式高速四球試験機による潤滑性能評価を(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)と比較して示した。(A−DO)の水相(W相)中に油性向上剤を添加することにより、比摩耗量は大幅に低下する。本表には示していないが、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)の添加でも同様な比摩耗量の低下が確認できた。後添加する油性向上剤(Y)には油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)と基油の同時添加も可能である。
(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の水相(W相)中に油性向上剤(Y)として、ジチオカルバミン酸モリブデン(Y2)を添加した場合、その比摩耗量は、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の場合の1/2以下となる結果が得られた。表14は、複成分散組成物(A−DO−TY)の比摩耗量を(○+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)との比較で示すものである。
表15には、本実施例との比較のために油相(O相)中にダイヤモンド質超微粒子を含まない基礎エマルション(A)への油性向上剤の添加効果を示した。同表には、後述するダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の添加効果も合わせて示している。基礎エマルション(A)の水相(W相)中に油性向上剤を添加することにより、同様に比摩耗量は大幅に低下するが、その絶対値では、複成分散組成物(A−DO−TY)がはるかに優れていた。表15は、基礎エマルション(A)の水相(W相)中に油性向上剤、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加した場合の比摩耗量への影響を示すものである。
従って、複成分散組成物(A−DO−TY)に後添加する油性向上剤(Y)の種類としては、アルキル鎖(Cn)脂肪酸/アルキル鎖(Cn)アルコール/アルキル鎖(Cn)脂肪酸エステル/アルキル鎖(Cn)アミン/多価アルコールの部分エステル、フルエステル等が代表例であり、又それらの一種以上の複合体、複合反応物、重合物、酸化物、縮合物、金属塩等が好ましく、境界潤滑領域で摩擦低減の性質を有するものであれば、これに限定されない。また、潤滑条件によって、上記化合物となり得るものであれば、上述の極性基を有しない基油成分の炭化水素系(P−1)、動植物油脂(V)、合成油(S)等であっても良い。また、一般に分類される極圧剤(EP剤)としては、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジチオカルバミン酸モリブデン(有機モリブデン)、PRTR、PoHSに該当しないパラフィンワックス系塩素化パラフィンが好ましいが、一例でありこれに限定されない。また、硫黄化合物としては、基油(P−1)、動植物油脂(V)、合成油(S)、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)等のアルキル鎖又は官能基の部分硫化物、更には、水分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(WS)の中で油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)に溶解するものであれば使用できる。燐化合物としては同様に、上述した基油(P−1)、動植物油脂(V)、合成油(S)、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)のアルキル鎖又は官能基に部分エステル、エーテル結合したもの等が代表例であり、又それらの一種以上の複合体、複合反応物、重合物、酸化物、縮合物、金属塩等が好ましい。なお、環境保全(PRTR、PoHS等)の法規制に該当する物質の使用は好ましくないが、今だ代替する物質が開発されていない場合や完全閉鎖系での使用においては許諾の特例がある。当該潤滑剤組成物の参考例8の態様の摩擦試験で使用した油性向上剤として、ジチオカルバミン酸モリブデン(有機モリブデン)がそれに該当するが、摩擦特性が優れていることから、法規制を遵守し、かつ、完全閉鎖系での使用においては使用しても構わない。
さらに、HLB値が8以下の組成物から選ばれることが好ましいが、油性向上剤(Y)はこれらに限定されない。また、油性向上剤(Y)の添加重量濃度は、O/W型エマルション中に含まれる基油成分:P−1、P−2、油分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(OS)、基礎エマルション(A)用乳化剤(EM)等(水分散ダイヤモンド質超微粒子分散剤(WS)は参考例2のダイヤモンド質超微粒子油分散体:基油P−2の製造で説明したように配合する基油成分の中に含める)と新たに後添加する油性向上剤(Y)との重量濃度の総和が75wt%を超えると、所謂、(O/W/O)形態となり水溶性組成物にならない。従って、油性向上剤(Y)の重量濃度とO/W型エマルション組成物中に含まれる基油成分有効濃度との総和が75wt%以下であることが好ましい。但し、水への分散が不十分であっても使用する用途、例えば、潤滑性能及び二次特性を極端に向上させる目的等においては、75wt%以上であっても構わない。
[参考例9:複合分散組成物(A−DO−TZ)]
(複合分散組成物(A−DO−TZ)の製造)
次に、複合分散組成物(A−DO−TZ)の製造であるが、前述の複成分散組成物の製造の場合と同様に転相乳化した後に水を徐々に添加し所望の基油成分有効濃度とする。所望の基油成分有効濃度にする水量は、後添加する固体潤滑剤(Z)の重量%を差引いたものとする。
ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)には、参考例2に親水性のダイヤモンド質超微粒子(水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤)の製造に関して記載したと同様に、あらかじめ水中で同固体潤滑剤(Z)を親水性に分散剤処理し、水を除去したもの、微粒子の表面が親水性であれば無処理のもの等の親水性の固体潤滑剤微粒子等も同様に使用できる。この際、前記したように水分散用分散剤は水相(W相)中に添加・分散されるダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の固体濃度には含めない。この親水性の固体潤滑剤微粒子を、参考例8の複成分散組成物の場合と同様な製造工程に従い、後添加で、上述したダイヤモンド質超微粒子を油相(O相)に含むO/W型エマルション(A−DO)の水相(W相)中に添加して複合分散組成物(A−DO−TZ)を製造する。場合によっては、参考例3の(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−DO)の製造工程例と同様に、転相乳化により製造した(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)に前記親水性の固体潤滑剤微粒子を水に添加分散したものを後添加して攪拌し製造することもできる。本実施例の製造法に具体的に示した工程の選択は、本組成物の構成を得るための一例であり、特に本参考例に限定されるものではない。
第1工程/オレイン酸主体の油脂:20.0wt%、オレイン酸メチルエステル:15.5wt%、参考例2に記載のダイヤモンド質超微粒子油分散体(基油P−2:ダイヤモンド質超微粒子固体濃度10wt%):5.0wt%、ポリオキシエチレン(n=6mol)・オレイン酸エステル:3、5wt%、オレイン酸カリウム塩:6.0wt%を混合・攪拌して乳化組成物とし、転相水:21.0wt%を添加し転相乳化を完了させる。
第2工程/残部の水:28.5wt%を添加した後に、メラミンシアヌレート(Z1):0.5wt%を徐々に添加して所望の基油成分有効濃度が50wt%のペースト状の複合分散組成物(A−DO−TZ)を得る。最後に消泡剤として、ジメチルポリシロキサンのエマルションを0.01wt%添加した。このときの摩擦試験に使用する基油成分有効濃度15wt%中の各添加物の添加量は表13の通りである。
(シェル式高速四球試験機による複合分散組成物(A−DO−TZ)の潤滑性能)
[油相(O相)中のダイヤモンド質超微粒子と水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤とを複合させた場合の摩擦特性]
表16には、複成分散組成物の場合と同様にシェル式高速四球試験機による潤滑性能評価を(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)と比較して示した。(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加することにより、比摩耗量は大幅に低下する。一種類の固体潤滑剤(Z)添加の場合、ポリテトラフルオロエチレンでは(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の比摩耗量の1/2以下となる結果が得られた。表16は、複合分散組成物(A−DO−TZ)の比摩耗量を(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)との比較で示すものである。
参考例8の表15に示したように基礎エマルション(A)の水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加した場合、比摩耗量は大幅に低下するが、その絶対値では、複合分散組成物(A−DO−TZ)がはるかに優れていた。
従って、複合分散組成物(A−DO−TZ)を構成するダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の種類については、例えば、有機系固体潤滑剤としては、アミノ酸ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、アルキツド樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フツ素樹脂、モノアシル、アミノカルボン酸、塩基性アミノ酸、ポリイミド、アミドイミド、ポリアミド、アルキド樹脂、ヒドロキシベンゼン、尿素(ウレア)、ポリアセタール、ポリウレタン、エーテルスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、メラミンシアヌレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、有機金属錯体等が代表例であり、無機系固体潤滑剤の例としては、雲母、二酸化ケイ素、ジルコニア等の金属酸化物、二硫化タングステン、二硫化モリブデン、黒鉛、フッ化黒鉛、フラーレン等のセラミックス無機微粒子等、固体潤滑機能を発揮するすべての微粒子が使用可能であり、これらに限定されるものではない。更に、摩擦環境下で互いに反応して得られた生成物が固体潤滑機能を発揮するものであっても良い。また、これらの固体潤滑剤(Z)の一種以上が好ましく、さらには平均粒子経が5.0ミクロン以下のものが好ましく、特に断りのない場合はこれらを全て包含するものとする。上記した平均粒子径は、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の水相(W相)中へ添加・分散する制約であるが、油相(O相)内に添加・分散する場合には、油滴径に制約されることは明らかである。エマルション(乳濁色)タイプの場合は、前記したようにその油滴径は、1から10ミクロンであり、マイクロエマルションタイプの場合は、0.1から1ミクロンである。従って、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を油相(O相)内に添加・分散する場合には、例えば、それぞれのエマルションタイプ油滴の1/2から1/100以下の平均粒子径であることが好ましい。
ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の分散に際しては、平均粒子径が潤滑性能の向上において重要な要素となる。油相(O相)中のダイヤモンド質超微粒子と水相(W相)中のダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤との複合添加の場合には、相乗的に潤滑性能に影響を及ぼすが、水相(W相)中のダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の平均粒子径が5.0ミクロンより大きくなると、油相(O相)中のダイヤモンド質超微粒子(100nm以下)の作用を局所的に遮蔽するようになり、例えば、基礎エマルション(A)の水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加した(A−TZ)態様に相当する潤滑領域に移行し、潤滑性能の低下を引き起こす。従って、水相(W相)中に添加するダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤は5.0ミクロン以下が好ましく、更には、0.5−1.0ミクロン以下がより好ましい。
本参考例は複合分散組成物(A−DO−TZ)を構成する一例であり、参考例1や参考例3に記載のダイヤモンド質超微粒子との同時添加や複数の固体潤滑剤の添加も可能で、本参考例に限定されるものではない。
(使用可能な粘度の上限に関する外観と色調について)
外観や色は清潔感や安全性等の好感度に繋がるもので、特に外観が白色で潤滑性能を同時に付与できることが更に望ましい潤滑剤であると評価される。当該潤滑剤組成物の外観は白色の液状エマルションであり問題ない。しかし、所謂、外観がペースト状等の場合は軽荷重動作領域やトルク安定性が要求される軸受等での潤滑系には障害となる。そこで、使用可能な粘度の上限に関する潤滑挙動について調べた。
一例として、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)と(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の双方の複合分散組成物形態において、ダイヤモンド質超微粒子とダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤との総和において極限添加した配合量で作製した。ちなみに、本実施例における各添加物の濃度は表13には記載していない。
(A−DW−TZ(50)の作製の概要)(50とは全固体濃度wt%を意味する)
参考例1のO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)と同様な配合比率で、基油成分有効濃度が50wt%の基礎エマルション(A)を製造し、当該基礎エマルション(A):50wt%の水相(W相)中に、水分散用ダイヤモンド質超微粒子用固体潤滑剤の形態にてダイヤモンド質超微粒子を固体濃度で10wt%を徐々に添加し良く練る。次に、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(ポリテトラフルオロエチレン:Z2)を固体濃度で40wt%、同様に水相(W相)中に徐々に添加し良く練り、水相(W相)中に添加される2種の全固体濃度が50wt%で、水以外の全成分の総和が75wt%のペースト状の複合分散組成物(C−DW−TZ(50))が得られる。
外観は白色に近い淡い灰色で、稠度は4号以上(JIS規格に準拠)である。
(A−DO−TZ(50)の具体的作製方法)
本参考例では、参考例2の基油P−2の代わりに、油分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤を用いる以外は実施例2の(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)エマルション(乳濁色)タイプ基油成分の成分構成とその製造は同様である。当該態様組成物を製造後、後添加法でその水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加・分散する。製造工程の詳細は下記の通りである。
第1工程/ダイヤモンド質超微粒子の固体濃度が10wt%となるよう上記基油成分(乳化剤の基油成分に対する比率は2倍以上であることが望ましい)の配合を調整し、油分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤の形態にてダイヤモンド質超微粒子を分散したエマルション基油成分を製造する。次に、このダイヤモンド質超微粒子を含むエマルション基油成分:50wt%に、調整水21wt%を添加してO/W型に転相乳化する。最後に29wt%の調整水を徐々に添加して(A−DO)態様の組成物を得る。この時の基油成分有効濃度は50wt%である。
第2工程/第1工程で得られた(A−DO)態様組成物:50wt%中に、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(ポリテトラフルオロエチレン:Z2):47.5wt%を徐々に添加して、最後に2.5wt%の蒸留水を徐々に添加攪拌して、水以外の全成分総和が72.5wt%で、2種の全固体濃度の総和が50wt%の複合分散組成物(A−DO−TZ(50))が得られる。外観は稠度が4号以上のペースト状であり、摩擦面に容易には拡がらず使用上の制限を受けるが、その色調は白色に近い淡い灰色で、好感度は高いことを確認した。
シェル式高速四球試験機での摩擦試験においては、ボール4個に十分サンプルを塗り試験を実施したところ、(A−DW−TZ(50))複合分散組成物の比摩耗量は、16.82×10-9、(A−DO−TZ(50))複合分散組成物は、11.20×10-9と良好な潤滑特性を有することが確認できた。このことから、使用環境上、粘性抵抗の制約を受けない条件下であれば、色調の点から双方とも十分使用できる態様である。また、これ等の組成物に水を加えると自己乳化して水洗が可能であることも確認した。このダイヤモンド質超微粒子とダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の総和が50wt%を超えると黒色化か著しくなる。従って、複合分散組成物及び複成・複合分散組成物の水相(W相)中に添加分散させるダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤と、本ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物におけるダイヤモンド質超微粒子との総和が50wt%以下であることが潤滑剤組成物の色の好感度の点から好ましい。
(Falex試験機による複合分散組成物(A−DO−TZ)の潤滑性能)
図15は、本発明の参考例9及び比較例3、4の潤滑剤組成物の潤滑安定性の特性を示す図である。図15は、前述のFalex試験機で、市販のLiグリース(比較例3)、Liグリース中にダイヤモンド超微粒子を分散した市販品(比較例4)と、一例としてダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤として二硫化タングステンを水相(W相)中に添加(本参考例では後添加)した当該複合分散組成物(A−DO−TZ)(参考例9)の摩擦トルクより潤滑安定性について試験した結果を示す。
Falex試験は、試験機に付属の油カップに潤滑剤試料を入れ、その中にテストピースが浸った状態で摩耗試験を行うのが一般的な試験方法である。本発明者等は、過酷な条件として、先に曾田式振子試験機において、油カップにテストピースが浸った状態で、10回繰り返して摩擦係数を測定した後に、カップの潤滑剤試料を完全に除去したドライに近い状態で再度10回振子試験を繰り返して枯渇条件下での摩擦挙動を調べた。Falex試験での枯渇試験では、油カップには潤滑剤試料を入れず、始動開始から潤滑剤試料をテストピースに1mlを直接余り、その状態で摩耗試験を開始させ枯渇状況を想定して行った。図15は、Falex試験による本参考例発明潤滑剤組成物、市販のグリース等の摩擦トルク安定性を比較したもので、摩擦トルクのグラフである。このグラフの縦軸は、Falex試験の生出力(mv)であるが、式から誘導される摩擦トルク(N・m)に対応するものである。図15(a)は、市販のLiグリースで、後に詳述する摩擦トルク幅:0.41N・m、図15(b)は、Liグリース中にダイヤモンド超微粒子を分散した市販品で、摩擦トルク幅:0.46N・m、図15(c)は、上述した複合分散組成物(A−DO−TZ)で、摩擦トルク幅:0.07N・mである。
試験条件は、20℃、回転数:290rpm、荷重:1334N、時間:20minである。例えば、市販のLiグリース(a)の場合、試験時間(横軸)とともに摩擦トルクは極めて不安定となり、焼き付きを示唆するピークが随所に発生している。また、Liグリース中にダイヤモンド超微粒子を分散した市販品(b)の場合も、摩擦トルクの時間変化は同様に安定性を欠くものであった。
一方、(O+ダイヤモンド質超微粒子:固体濃度0.5wt%)/W型エマルション組成物(A−DO)の水相(W相)中に二硫化タングステン(WS2:平均粒子径0.5ミクロン)を0.5wt%添加した本複合分散組成物(A−DO−TZ:基油成分有効濃度は50wt%)(c)の摩擦トルクは、上記のものに比較して大幅に低下するとともに、耐荷重能に匹敵するピークは全く発生せず、経時安定性は極めて良好であった。又、各時間でのFalex試験の最大/最小生出力幅(mV)の結果から、本複合分散組成物(A−DO−TZ)の摩擦トルクの単位時間変動(摩擦トルク幅)も著しく小さくなった。上述した摩擦トルク幅は、Falex試験開始から5分経過時の最大/最小生出力幅(mV)から算出した各サンプルの摩擦トルク幅であるが、本複合分散組成物(A−DO−TZ)の摩擦トルク幅は、市販品に比べて約1/6であり、0.07N・mという極めて低い値であった。
従って、本複合分散組成物は回転トルク変動や加工公差を最小化できる潤滑性能の安定性が極めて高い潤滑剤組成物形態である。
一般に、水溶性潤滑剤の挙動は、水が摩擦熱で核沸騰する段階で焼き付くのが通例である。当該水溶性潤滑剤組成物は、摩擦熱により直ちに水が蒸発しても、油に類似する挙動を取り、安定して焼き付くことはなかった。このことは、本複合分散組成物(A−DO−TZ)は、たとえ水が蒸発する環境下においても極めて優れた潤滑性能を有することを実証した。
[参考例10:複成・複合分散組成物(A−DO−TY−TZ)]
(複成・複合分散祖成物(A−DO−TY−TZ)の作製概要)
本組成物の製造工程は、まず、前述の実施例2と同様に(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)を作製し、次に前記実施例9の複合分散組成物(A−DO−TZ)を作製した後に油性向上剤(Y)を添加して完成するものである。具体的には下記の通りである。
第1工程/オレイン酸主体の油脂:15.0wt%、オレイン酸メチルエステル:6.0wt%、実施例2に記載のダイヤモンド質超微粒子油分散体(基抽P−2:ダイヤモンド質超微粒子固体濃度10wt%):5.0wt%、ポリオキシエチレン(n=6mol)・オレイン酸エステル:6.0wt%、オレイン酸カリウム塩:8.0wt%を混合・攪拌して乳化組成物とし、転相水:17.0wt%を添加し転相乳化を完了させて(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)を得る。
第2工程/
1.残部の水:32.5wt%を添加した後に、メラミンシアヌレート(Z1):0.5wt%を徐々に添加し、混合・攪拌して実施例9と同様のペースト状の(A−DO−TZ)中間組成物が得られる。
2.さらに、上記(A−DO−TZ)中間組成物に、油性向上剤(Y1):高級アミド・アルキロール化スルホネート・カルシウム塩:10.0wt%を添加、攪拌して複成・複合分散組成物(A−DO−TY−TZ)の製造を完了する。また、最後に消泡剤として、ジメチルポリシロキサンのエマルションを0.01wt%添加した。基油成分有効濃度は50wt%である。
このときの摩擦試験に使用する基油成分有効濃度15wt%中の各添加物の添加量は表13の通りである。
(シェル式高速四球試験機による複成・複合分散組成物(A−DO−TY−TZ)の潤滑性能)
複成分散組成物(A−DO−TY)と複合分散組成物(A−DO−TZ)とが混成する複成・複合分散組成物(A−DO−TY−TZ)の潤滑効果を見るために、油性向上剤(Y)には高級アミド・アルキロール化スルホネート・カルシウム塩を代表例とし、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)にはメラミンシアヌレートとポリテトラフルオロエチレンの2種についての比較試験を行った。その結果を表17に示す。油性向上剤(Y1)には高級アミド・アルキロール化スルホネート・カルシウム塩、同固体潤滑剤(Z2)にはポリテトラフルオロエチレンを使用した複成・複合分散組成物(A−DO−TY1−TZ2)では、比摩耗量は0.42×10-9(mm2/N)であり、前述の複成分散組成物、複合分散組成物それぞれの比摩耗量の約1/3以下まで低下し、更に優れた特性を示した。
表17は、複成・複合分散組成物(A−DO−TY−TZ)の比摩耗量を(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物との比較で示すものである。
本参考例は複成・複合分散組成物(A−DO−TY−TZ)を構成する一例であり、参考例1や参考例3に記載の水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子を含む構成のO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)や(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−DO)への同時添加や複数の固体潤滑剤の添加も可能で、本参考例に限定されるものでないことは明らかである。本件については、後述する。
[参考例8〜10の特性評価:シェル式高速四球試験機による摩耗痕と比摩耗量の比較]
図16は、基礎エマルション(A)の水相(W相)中への油性向上剤(Y)、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の添加の各態様(比較例5)によるシェル式高速四球摩擦試験の摩耗痕及び比摩耗量の比較を示す図である。基礎エマルション(A)の水相(W相)中への油性向上剤、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の添加の各態様によるシェル式高速四球摩擦試験の摩耗痕と比摩耗量の比較を示す。比較例5は、油相(O相)中にダイヤモンド質超微粒子を含まない基礎エマルション(A)を用いる点以外は、それぞれ上述した参考例8、参考例9と同様である。油性向上剤(Y1)は高級アミド・アルキロール化スルホネート・カルシウム塩、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z2)は平均粒子径0.5ミクロンのポリテトラフルオロエチレンである。実施例8及び実施例9との比較のために、油相(O相)中にダイヤモンド質超微粒子を含まない基礎エマルション(A)の比摩耗量に及ぼす油性向上剤やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の水相(W相)中への添加効果として示した。
図17は、本発明の参考例8、9の潤滑剤組成物についてのシェル式高速四球摩擦試験の摩耗痕及び比摩耗量を示す図である。参考例8、9に記載の複成分散組成物、複合分散組成物のシェル式高速四球試験による摩耗痕の様子と比摩耗量を比較して示す。油性向上剤(Y)やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の水相(W相)中への添加効果(相乗効果)を比較するために、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の結果も同時に示してある。
(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物において油性向上剤(Y)やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を水相(W相)中へ添加することで摩耗痕径は大幅に小さくなることが解った。
図18は、本参考例発明の参考例10の潤滑剤組成物についてのシェル式高速四球摩擦試験の摩耗痕及び比摩耗量を示す図である。実施例10の複成・複合分散組成物のシェル式高速四球試験による摩耗痕の様子と比摩耗量を示す。実施例10は最適構成の一例であり、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物の水相(W相)中へ油性向上剤(Y)とダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を同時に添加することにより摩耗痕サイズは本実施例の中で最小化していた。
(参考例8−9潤滑剤組成物のシェル式高速四球試験による摩擦面の解析)
参考例8−9の優れた潤滑性能を解明するために、前記したFalex試験と同様に、シェル式高速四球試験における摩擦面の観察から潤滑機構を調査した。
図19は、本参考発明の参考例8の複成分散組成物(A−DO−TY2)のシェル式高速四球摩擦試験ボール摩擦面のEPMA分析結果である。a)はボール摩擦面の反射電子組成像であり、ボール同志の接触面には、原子番号の小さい元素の濃縮がみられる(黒色部)。b)からe)はボール材質(SUJ2)並びに本複成分散組成物の構成元素について摩耗痕部の濃縮元素を判別するため、鉄(b)に対応)、炭素(c)に対応)、モリブデン(d)に対応)、硫黄(e)に対応)についての特性X線強度の分布を調べた結果である。c)の結果は摩耗痕部に明らかに炭素が濃縮していること、またモリブデン(d))や硫黄(e))も炭素より均一さには欠けるが摩耗痕部に濃縮していることが解った。検出されたモリブデンや硫黄は、複成分散組成物中の油性向上剤(Y2)であるジチオカルバミン酸モリブデン(有機モリブデン)に由来するものである。
図20は、同様に本参考発明の参考例9の複合分散組成物(A−DO−TZ2)のシェル式高速四球摩擦試験ボール摩擦面のEPMA分析結果である。図19の複成分散組成物と同様、摩擦面への炭素の濃縮が確認できた(反射電子組成像a)と炭素特性X線像c)が良く対応)。炭素濃縮部(ボール同志の接触面)には更に、微量だがポリテトラフルオロエチレンのフッ素(d)に対応)の濃縮が検出された。
定性的ではあるが、炭素濃縮の度合いを特性X線像で比較すると、当該複成分散組成物(図19のc))、複合分散組成物(図20のc))それぞれの油相(O相)中へのダイヤモンド質超微粒子の添加・分散量によく一致する(表13参照)。興味深い点は、摩擦試験ボールの主元素である鉄の特性X線強度(図19、図20のb)に対応)の相対比較である。すなわち、実施例8の複成分散組成物の炭素濃縮層(被覆層)は、ダイヤモンド質超微粒子/鉄/微量のMo/微量のSから構成されるのに対し、実施例9の炭素濃縮層は、ダイヤモンド質超微粒子/ポリテトラフルオロエチレン由来の構成物、から主に構成されていることが解る。これらの結果から、本参考発明の潤滑剤組成物の態様や配合組成を各種変化させることで、炭素濃縮層(被覆層)の構成を自在に変化できることが明確となった。これらの検証結果は、炭素濃縮層(被覆層)の構成を潤滑剤組成物の各種態様や配合組成で設計することで、本発明の潤滑剤組成物の潤滑特性(例えば、比摩耗量)は、自在かつ容易に制御できることを明らかに示している。従って、トライボロジーの対象となるあらゆる分野で有効に活用できる指針を提供するものである。
図21には、参考例9の複合分散組成物(A−DO−TZ2)の上述した炭素濃縮層(被覆層)部の二次電子像を示した。シェル式高速四球試験の低い比摩耗量1.40×10-9を良く説明する極めて滑らかな表面性状を有することが解る。この特徴は、図24に比較例として後述するアブレッシブ(比摩耗量が1×10-7以上)な摩擦面の従来の潤滑剤組成物とは全く異なるものであり、比摩耗量と摩擦部位の表面性状(滑らかさ)は相関することも明確となった。
(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)でのFalex試験で形成された炭素濃縮層の炭素構造の検証と同様に、マイクロラマン分光法で濃縮炭素層の構造を同定した。1332cm-1近傍のダイヤモンド結合に起因するラマンシフトが観察された。
以上の結果から複成分散組成物、複合分散組成物における潤滑性能(比摩耗量の低下)の向上は、油相(O相)中に添加したダイヤモンド質超微粒子と水相(W相)中に添加した油性向上剤やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の摩耗痕部での複合濃縮に起因することがわかった。
図6では、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物のFalex試験において、ブロック摩擦面にダイヤモンド質超微粒子が濃縮層を形成すること(ピン側にも同様な効果が現れる)、更に、上記図19(複成分散組成物)、図20(複合分散組成物)では、ダイヤモンド質超微粒子に加えて、水相(W相)中に同時に添加・分散した油性向上剤からの生成物やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤が同様に摩擦部位に複合的に濃縮し、慣らし運転等を含む摩擦条件や摩擦時間の経過と共に、所謂、複合コーティング層を形成して、潤滑性能の向上に寄与することを解明した。これらの濃縮層は、洗浄処理やEPMA分析の前処理としての強力な超音波照射でも脱落することもなく、強固な被覆層として摩擦部位に存在する。ダイヤモンド質超微粒子は、前述したように平均粒子径が100nm以下で、分散剤処理にて摩擦特性を向上したナノ微粒子である。従って、たとえ摩擦・摺動中に摩擦部位から脱落しても新たな摩擦部位に損傷を与えず、むしろ新たな被覆濃縮層を形成する。この特徴は、自己修復機能と呼べるものであり、CVD、PVD、メッキ、その他のコーティング技術に代表される従来の表面処理技術(例えば、硬質被覆層の一部に割れや微小破壊が発生すると、その破片は摩擦面に致命的な破壊を引き起こす)で形成される被覆(コーティング)層とは全くその性質(新しい概念としての潤滑皮膜構築手法)を異にするものである。結果として、従来の硬質被覆層で密着性の低下や破壊感受性の増加(引張り歪に起因する微小割れ)等のトラブルの一因となる基材(被コーティング摩擦面材料)選択性(通常は中間層等の挿入で対処)の問題は、一切なく、金属、セラミックス、ガラス、ポリマー、ゴム等ほとんどの基材に対応可能であり、複雑形状の摩擦部位へのコーティング層形成も極めて容易で、安価である。
従って、本参考発明の潤滑剤組成物は、耐摩耗性や潤滑性能、冷却特性や潤滑成分の化学的安定性等が要求される各種用途分野、例えば、切削工具等(切削油剤として使用することで、すくい面と切屑間で発生する摩擦熱を低減し、クレータ摩耗を抑制して工具寿命を向上させる。また、加工変質層の残留歪を低減する。低速切削では、構成刃先の形成を抑制し、被削材切削面の寸法精度を向上する。また、工具の破壊防止に効果を発揮する。)の被覆(コーティング)層の形成に極めて有効であることがわかった。本解析では、複成分散組成物、複合分散組成物での複合被覆(コーティング)層形成について記載したが、本実施例は一例であり、本参考発明のその他の各態様の潤滑剤組成物について同様な被覆(コーティング)層形成効果が存在し、本参考例に限定されるものでないことは明らかである。
[参考例8〜10の潤滑剤組成物の効果]
参考例8〜10の潤滑剤組成物の態様は、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の水相(W相)中に油性向上剤(Y)、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を後添加して得られる複成分散組成物(TY)、複合分散組成物(TZ)、またその両方が混成する複成・複合分散組成物(TY−TZ)であり、潤滑性能が、従来、水溶性潤滑剤では不可能とされていた回転トルク変動の安定化や加工公差の最小化、さらには高負荷条件での摩擦環境下においても優れた耐摩耗特性を有する潤滑剤組成物を提供することができる。
[参考例11:複成・複合分散組成物の別様の形態(A−DW−DO−TY−TZ)]
参考例3の(O+ダイヤモンド質越微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−DO)の摩擦挙動については、表10に参考例1−3の各態様のFalex試験のピン摩耗量で比較評価した。ダイヤモンド質超微粒子の平均粒子径を40nmとした場合、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−DO)は、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)に比べてピン摩耗量が大きい問題があった。しかし、振子試験による摩擦疲労挙動の評価においては疲労の進行とともに摩擦係数が最も低下し、枯渇試験による摩擦疲労試験(A−DW−DO−Dry)においてもその摩擦係数は最も低く信頼性の高い潤滑剤であることを記述した。この摩擦特性が相拮抗したり逆相関となる原因が、平均粒子径に由来するものとすれば、ダイヤモンド質超微粒子の平均粒子径を40nm以下に微小化することで摩耗量が低下することは明らかであるが、この微小化分散は、当該潤滑剤組成物の価格上昇につながることとなる。そこで、現状のダイヤモンド質超微粒子の平均粒子径が40nmであっても微小化したダイヤモンド質超微粒子の場合と同等の摩擦性能が得られる可能性を明らかとするため本後添加の多種の形態や後添加成分との組み合わせによる相乗効果を検討した。平均粒子径40nmのダイヤモンド質超微粒子を油相(O相)中並びに水相(W相)中に分散した(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−DO)の水相(W相)中に、更に、油性向上剤やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加して複成・複合分散組成物(A−DW−DO−TY−TZ:ペースト状タイプ)を作製し、Falex試験におけるピン摩耗量の低減効果について検討した。
本参考例の具体的な複成・複合分散剤祖成物(A−DW−DO−TY−TZ)の製造工程は、以下の通りである。
初めに、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物を参考例2に従って製造する。前記したFalex試験での枯渇試験を行うには、流動性の観点からペースト状にする必要があり基油成分有効濃度は50wt%とした。また、具体的な製造は下記の通りである。
第1工程/オレイン酸主体の油脂(ナタネ油):18.0wt%、オレイン酸メチルエステル:15.0wt%、実施例2に記載のダイヤモンド質超微粒子油分散体(基油P−2:ダイヤモンド質超微粒子固体濃度10wt%):0.75wt%、ポリオキシエチレン(n=6mol)・オレイン酸エステル:5.25wt%、オレイン酸カリウム塩:8.0wt%を混合・攪拌して乳化組成物とし、転相水:20.0wt%を添加し転相乳化を完了させ(A−DO)を得る。本組成物の製造にはニーダーを用いた。
第2工程/
1.次に上記した(A−DO)組成物にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレン(Z2):0.15wt%を徐々に添加・攪拌して複合分散組成物(A−DO−TZ)を得る。
2.更に、水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子を含まない複成・複合分散組成物(A−DO−TY−TZ)を作製するために、上記複合分散組成物(A−DO−TZ)に油性向上剤として高級アミド・アルキロール化スルホネート・カルシウム塩(Y1):3.0wt%を徐々に後添加し攪拌し、複成・複合分散組成物(A−DO−TY−TZ)を得る。
3.次に、参考例1と同様な手法であるが、構成濃度が2.5倍のダイヤモンド質超微粒子:5wt%、ポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤:2.5wt%、脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤:2.5wt%、水90wt%からなる分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を作製する。(ダイヤモンド質超微粒子固体濃度:5wt%)
4.前記(第2工程の2)の水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子を含まない複成・複合分散組成物(A−DO−TY−TZ)に固体濃度5wt%の分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体(第2工程の3)を1.5wt%添加し、水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子とポリテトラフルオロエチレンを含む複成・複合分散組成物(A−DW−DO−TY−TZ)を得る。
5.最後に、前記(第2工程の4)で製造した複成・複合分散組成物(A−DW−DO−TY−TZ)に水を28.35wt%加えて攪拌し基油成分有効濃度50wt%の別様の複成・複合分散組成物(A−DW−DO−TY−TZ)を得た。消泡剤は、同様にジメチルポリシロキサンのエマルションを添加した。
このときの摩擦試験に使用する基油成分有効濃度50wt%中の各添加物の添加量は表13の通りである。
Falex試験の結果は、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−DO)の水相(W相)中に、更に、油性向上剤やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加して複成・複合分散組成物とすることで、ピン摩耗量は一桁低下した。
[参考例12:複成分散組成物の別様の形態(A−DW−TY)]
参考例11と同様に、本参考例では、Falex試験におけるピン摩耗量の低減効果を確認するため、水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子を分散した○/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)の水相(W相)中に、更に、油性向上剤を添加して別様の複成分散組成物(A−DW−TY)を作製した。Falex試験での枯渇試験のために、参考例11と同様に基油成分有効濃度は50wt%とした。
本参考例の具体的な(A−DW−TY)の製造工程は、以下の通りである。
第1工程/オレイン酸主体の油脂(ナタネ油):18.0wt%、オレイン酸メチルエステル:15.0wt%、ポリオキシエチレン(n=6mol)・オレイン酸エステル:6.0wt%、オレイン酸カリウム塩:8.0wt%を混合・攪拌して乳化組成物とし、転相水:20.0wt%を添加し転相乳化を完了させ基礎エマルション(A)を得る。本タイプの組成物の製造には、ニーダーを用いた。
第2工程/
1.次に前記した基礎エマルション(A)に油性向上剤として高級アミド・アルキロール化スルホネート・カルシウム塩(Y1):3.0wt%を徐々に後添加し攪拌し、水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子を含まない基礎エマルション(A)対応の複成分散組成物(A−TY)を得る。
2.さらに、参考例11と同様な手法でダイヤモンド質超微粒子:5wt%、ポリオキシエチレン・アルキルエーテルカルボン酸塩の陰イオン型分散剤:2.5wt%、脂肪酸エステル型の非イオン型分散剤:2.5wt%、水90wt%からなる分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を作製する。(ダイヤモンド質超微粒子固体濃度:5wt%)
3.次に、水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子を含まない前記基礎エマルション(A)対応の複成分散組成物(A−TY)に固体濃度5wt%の分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体を6.0wt%添加し、水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子と油性向上剤を含む複成分散組成物(A−DW−TY)を得る。
4.最後に、上記した水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子及び油性向上剤を含む複成分散組成物(A−DW−TY)に水を24.0wt%加えて攪拌し、基油成分有効濃度50wt%の別様の複成分散組成物(A−DW−TY)を得た。消泡剤は、同様にジメチルポリシロキサンのエマルションを添加した。このときの摩擦試験に使用する基油成分有効濃度50wt%中の各添加物の添加量は表13の通りである。
Falex試験の結果は、参考例11と同様にO/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)の本相(W相)中に油性向上剤を添加することでピン摩耗量は無添加に比べ約1/2まで低下した。
O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)の水相(W相)中に、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加した(A−DW−TZ)、油性向上剤とダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加した(A−DW−TY−TZ)は、それぞれ更に別様の複合分散組成物、複成・複合分散組成物であり、参考例11並びに本参考例12記載の工程を用いて製造できることを確認した。Falex試験での枯渇試験では、これら別様の複合分散組成物(A−DW−TZ)、複成・複合分散組成物(A−DW−TY−TZ)ともに、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)のピン摩耗量よりはるかに低い結果が得られた。
参考例8〜12では、参考例1〜3と同様に平均粒子径40nmのダイヤモンド質超微粒子を使用した。参考例4〜7に記載したように、ダイヤモンド質超微粒子の平均粒子径の減少により複成分散組成物、複合分散組成物、そして複成・複合分散組成物の摩擦係数は更に低い値となり、比摩耗量や摩耗痕の大きさ、摩擦トルク値とその変動幅は、それぞれ同一の配合組成でも、又参考例以外の油性向上剤や固体潤滑剤の使用においても参考例8〜12で得られた結果より更に優れた結果が得られた。水相(W相)中に添加するダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤平均粒子径の減少もダイヤモンド質超微粒子の平均粒子径減少の効果と同様な効果があることを確認した。
また、参考例8〜12にはエマルション(乳濁色)タイプの複成分散組成物、複合分散組成物、複成・複合分散組成物、そして更にそれらの別様の形態について記載したが、参考例1、2に示すようにマイクロエマルション(可溶化型)タイプ、ペースト状(グリース様)タイプ(参考例11、12に記載)も同様な潤滑性能を得ることが可能である。本参考例はダイヤモンド潤滑剤組成物を構成する一例であり、本参考例に限定されるものではないことは明らかである。
[参考例13:当該潤滑剤組成物の構成成分中の水成分を含まない無水型潤滑剤組成物]
参考例1から3、8から12、更に、後述する15、16に記載の転相水や所望の基油成分有効濃度にするために最後に加えて調製する水は、各態様のエマルション組成物を構成する構成成分の一つであった。一方、別様の態様として、上記ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物中の水成分を含まない成分構成からなる、無水型潤滑剤組成物がある。本無水型潤滑剤組成物は、用途に応じて無水の状態、もしくは、任意の水を加えて、所謂、所望の基油成分有効濃度としてO/W型エマルション状態で使用することが出来る。本無水型潤滑剤組成物の成分構成は、前述した基礎エマルション(A)の基油成分、乳化剤、水および油分散剤処理したダイヤモンド質超微粒子、油性向上剤(Y)、油相(O相)側及び/又は水相(W相)側に添加分散するダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)、水分散用分散剤、二次特性向上剤等からなる。本無水型潤滑剤組成物からは、本発明の全てのダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物が製造可能であり、特に断りのない場合はこれら態様の全てに適用できるものである。
但し、無水型潤滑剤組成物の油相(O相)及び/又は水相(W相)側に添加するダイヤモンド質超微粒子やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の総和の基油成分(前述した基油成分有効濃度の定義に基づく)に対する比率は、50wt%を超えると安定したO/W型エマルションが得られない。また、本組成物を製造するにあたり、油性向上剤(Y)を含めた基油成分(前述した基油成分有効濃度の定義に基づく)の総和も同様に、50wt%以上となるよう配合することが望ましい。すなわち、本無水型潤滑剤組成物の成分構成で重要な要素は自己乳化による水への分散であり、同基油成分中に含まれる乳化剤の添加量に大きく依存する。従って、水への分散性を促すためには、基油成分(前述した基油成分有効濃度の定義に基づく)中に含まれる乳化剤の添加比率が高いことが好ましく、乳化剤の同基油成分に対する比率が2倍以上であることが望ましい。これらの条件を満たすことで水分散性の良好な本無水型潤滑剤組成物が得られる。
本無水型潤滑剤組成物の乳化剤として非イオン系界面活性剤を使用すれば電流が流れないため、絶縁油としての利用は勿論のこと、ダイヤモンドの持つ非導電性と優れた潤滑性を併せ持つため、漏洩電流が懸念される電気系統等への潤滑油として提供できる。一方、有機導電性物質や非或いは準ダイヤモンド質炭素を一定割合含むダイヤモンド質超微粒子等で導電性を与えた成分構成とすれば、接点改質剤として利用できる。また、蒸留水を加えて所望の基油成分有効濃度としても同様に電流が流れないため(約8μS:マイクロジーメンス)利用の範囲は広い。さらに、本無水型潤滑剤組成物は、生分解性に優れることや水に容易に乳化分散することから、閉鎖系潤滑システムから漏洩する場合に適する。例えば、海洋汚染へのリスクが高い船舶のブロペラシャフトの潤滑油への適用や、人体に付着した場合でも容易に水洗ができる等、作業時の安全性が極めて高いことを特徴とする組成物である。
また、本無水型潤滑剤組成物の構成は、本実施例でも充分な安全性を有するが、所謂、食品添加物指定物質(食添グレード)成分構成とすることで、食品分野で使用される機械・装置等にも対応できる。
次に、上記無水型潤滑剤組成物の製造並びに潤滑性能について記述する。
(無水型潤滑剤組成物((D,Y,Z)O)の製造と潤滑性能)
高級アミド・アルキロール化スルホネート・カルシウム塩(Y1):3.0wt%、参考例2に記載のダイヤモンド質超微粒子油分散体(基抽P−2:ダイヤモンド質超微粒子固体濃度10wt%):10.0wt%、メラミンシアヌレート(Z1):1.0wt%に、ポリオキシエチレン(n=9mol)・オレイン酸エステル86.0wt%を混合、攪拌して、全成分濃度で100wt%の、水成分を含まない無水型潤滑剤組成物を得た。
このときの基油P−2と油性向上剤の総和((P−2)+Y1)に対する乳化剤成分の比率は、約7倍である。また、このときの粘度は、62.3cSt(40℃)であった。平均粒子径0.5ミクロンのダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(メラミンシアヌレート)の沈降時間を測定した結果、40cSt(40℃)以下では、1時間以内に固体潤滑剤が沈降した。従って、比重が大きく、かつ、平均粒子径の大きな固体潤滑剤の安定分散を保持するに必要な粘度は、40cSt(40で)以上であることが好ましい。
上記無水型潤滑剤組成物((D,Y,Z)O)の構成要素は、水を加えた時に容易に乳化・分散する自己乳化型(参考例1の乳化物の粒径で分類した、マイクロエマルションタイプ(B)もしくは、ペースト状(グリース様)タイプ(C))であることが絶対条件である。
従って、構成される基礎エマルション(A)用乳化剤(EM)の量は基油P−2と油性向上剤の総和の約7倍以上としている。この組成物は全ての成分構成と多種の形態要素を併せ持つことから、実施例1〜3および、参考例8〜12の形態以外に、参考例15〜16にて後述する油相(O相)内で油性向上剤(Y)、ダイヤモンド質超微粒子(或いは油分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤)、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)とが複成・複合したり(例えば、BY−(D,Z)O)、また、水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)やダイヤモンド質超微粒子(或いは水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤)が分散しているケース(同様に、例えば、B−DW−DO−TZ)もある。水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)やダイヤモンド質超微粒子(或いは水分散用ダイヤモンド質超微粒子固体潤滑剤)が分散するマイクロエマルションタイプ(B)を製造するには、参考例1の分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子水分散体(DW)やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を分散処理した水分散体で自己乳化し、更に水を加えて所望の基油成分有効濃度とするか、前述したような前記固体潤滑剤の後添加法を用いることができる。更に、基油成分,油性向上剤(Y)の添加、あるいは、その構成比率を変えることで更なる潤滑性能の向上が期待される。
無水型潤滑剤組成物の摩擦特性を高速四球式摩擦試験機で調べるにあたり、全成分濃度が100wt%の無水型潤滑剤組成物と、無水型潤滑剤組成物に水を加えて作製したダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の場合との両組成物を作製した。水を加えて作製した後者組成物の形態は、参考例16で後述するダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の油相(O相)側に油性向上剤、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加した(AY−(D,Z)O)類似のダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物(BY−(D,Z)O)である。後者の作製には、上述した無水型潤滑剤組成物15wt%に水成分85wt%を徐々に加えて均一になるまで良く攪拌した。このときのダイヤモンド質超微粒子の濃度は0.15wt%、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z1)も同様に0.15wt%で、全固体潤滑剤微粒子濃度は0.3wt%で、油性向上剤(Y1)は、0.45wt%である。
なお、本実施例で濃度調整する希釈成分を水としているが、水相(W相)の一部が、親水性溶媒であってもよい。親水性溶媒としては、市販の不凍液、グリセリン、少糖類・多糖類等が挙げられる。このようにO/W型エマルション組成物の水相(W相)は、水だけに限定されるものではない。また、上述した各参考例における所望濃度に希釈する水についても、同様に他の親水性溶媒を使用できることはいうまでもない。
無水型潤滑剤組成物に水を加えて得られたダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物での比摩耗量(mm2/N)は2.985×10-9であり、(A−DO)形態に近似する優れた潤滑性能を示すことを確認した。
一方、上記無水型潤滑剤組成物は、そのままでも優秀な潤滑性能を有することが予想される。そこで、同組成物について同様に高速四球式摩擦試験機で摩擦試験を行ったところ、本参考例の無水型潤滑剤組成物での比摩耗量(mm2/N)は7.42×10-9であった。この潤滑性能は、前記した基礎エマルション(A)の水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加した場合の潤滑性能と同等のレベルであり、比較例として後述するダイヤモンド超微粒子を含む市販のグリースやマシン油に塩素化パラフィンを添加した市販の鉱物油系潤滑剤(MOC1(MOCL))を、大幅に凌ぐものであることが解った。本参考例は、無水型潤滑剤組成物の構成の一例であり、本参考例に限定されるものではないことは明らかである。
〔参考例14:本発明潤滑剤組成物のコーティング機能を活用した潤滑性能向上処理剤或いはコーティング剤としての検証〕
前述したように、本潤滑剤組成物による従来潤滑剤の代替えが最良の方法であるが、本参考発明の潤滑剤組成物がダイヤモンド質超微粒子やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤等々を摺動する摩擦面に被覆層としてコーティングする機能は、環境保全に抵触しても潤滑性能向上を重視する分野や、潤滑不足が理由で従来その普及が進んでいない生分解性潤滑剤等で前処理剤(例えば慣らし運転にて)として潤滑効果を発揮できる。適用の例として、比較例2(図11)に示す鉱油系の従来型ストレート油や比較例3(図15)に示すグリースに代表され、所謂、潤滑剤カテゴリに分類される車両用潤滑油、船舶用エンジン油、工業用各種潤滑油、固体潤滑剤、合成潤滑油、グリース、工作油剤、さび止め油剤、熱媒体油やゴム加工油等の広範な潤滑剤で実現可能である。
コーティング処理方法は、例えば、本発明の潤滑剤組成物で慣らし運転を適時行い、その後、本潤滑剤組成物を水洗除去、乾燥(水洗を行わず、そのまま乾燥も可)するだけで、生分解性を有する潤滑被覆層が生成し、給油も従来型ストレート油と同様で済むことから、極めて簡易で優れた潤滑性能が得られる。
図22は、上述した本参考発明の潤滑剤組成物の潤滑性能向上処理剤やコーティング剤としての効果を参考例1−3に示した曾田式振子試験による摩擦疲労特性として示したものである。曾田式振子試験でのコーティング処理は、本参考発明の潤滑剤組成物にて試験片のピン側に施し、比較のために、Siをドーブしたダイヤモンド状炭素膜(iamond ike arbon膜(DLC膜))についても同様にピン側に成膜処理を施して摩擦疲労試験を行った。潤滑性能向上処理剤やコーティング剤としての本発明潤滑剤組成物には、参考例3で詳述した(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−DO)を用いた。基油成分有効濃度は15wt%、水相(W相)と油相(O相)に添加・分散したダイヤモンド質超微粒子の平均粒子径は40nm、添加濃度は総和で1wt%である。潤滑性能向上処理或いはコーティング処理は以下の手順で実施し、摩擦疲労特性を測定した。図22中の従来型ストレート油(Oi1に対応)の試験は、DLC膜が油中で潤滑性能が良好であるとのことから、リファレンスとして無処理のピン(通常仕様)を使用し、試供油はイソパラフィン(粘度2、4cSt、40℃にて)とした。
(本潤滑剤組成物でのコーティング処理工程)
第1工程(コーティング処理)/まず、試験片ピンにコーティング処理を施すため、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−DO)をカップに充填し、10回の繰り返し摩擦試験を行う。この時の測定は、試験片を換えずに続けて行う。
第2工程(コーティング処理試験片ピンの乾燥)/次に、上記10回の摩擦試験後のピンを取り出し、ピン上に本潤滑剤組成物をコーティング被覆層として定着させる工程であるが、水で洗浄した後、ドライヤーで乾燥させる方法と、摩擦後のピンを本潤滑剤組成物が付着したまま乾燥させる方法がある。本参考例では、後者の方法で水分のみを除去して、コーティング被覆処理ピンとして完結する。コーティング処理ピンは、以下の(1)無潤滑(−Dry)試験、(2)油中(−Oil)試験、(3)水中(−Water)試験に供する。
(摩擦試験方法)
(1)無潤滑状態(−Dry)試験方法/実施例1−3における潤滑信頼性としての潤滑剤枯渇試験(カップは空の状態)に対応する摩擦試験の更なる過酷な条件下での方法であり、コーティング処理被覆膜の寿命を調べるためのものである。振子摩擦疲労試験は、コーティング処理ピンをセットし、ボールを新品に換えて5回目ごとに測定し、30回を最終測定回数とした。(コーティング処理のケース)
(2)油中(−Oi1)試験方法/従来型ストレート油中での摩擦試験は、上記と同様にコーティング処理ピンをセットしボールを新品に換え、カップにはイソパラフィンを充填し、油中で振子摩擦疲労試験を継続する。(潤滑性能向上処理のケース)。
潤滑性能向上処理或いはコーティング処理後の振子摩擦疲労試験の測定条件は、上記と同様である。
(3)水中(−Water)試験方法/潤滑環境が無潤滑状態と水中摩擦の繰り返しとなるような後述する使用環境下、すなわち、コーティング処理後の本潤滑剤組成物が水への溶解に伴う潤滑性能の低下が懸念されたため、その潤滑寿命と信頼性を検証する目的で、カップに水を充填し、水中での振子摩擦疲労試験も実施した。測定条件は、上記と同様である。
図中、潤滑性能向上処理或いはコーティング処理後の異なった摩擦環境における振子摩擦疲労試験サンプルは、コーティング処理後に無潤滑状態(A−DW−DO−Dry)、潤滑性能向上処理後の油中摩擦(A−DW−DO−Oil)、コーティング処理後の水中摩擦(A−DW−DO一Water)で区別した。
コーティング処理後に無潤滑状態(A−DW−DO−Dry)の摩擦疲労特性は、参考例3の潤滑剤枯渇試験における結果と良く一致し、コーティング層形成の再現性、結果として、摩擦疲労特性の再現性が極めて高いことが解った。潤滑性能向上処理後の油中摩擦(A−DW−DO−Oi1)の結果は、たとえ潤滑性能の乏しい油(イソパラフィン:比較例6)を使用してもコーティング処理後に無潤滑状態(A−DW−DO−Dry)の摩擦疲労特性とほぼ同等の大幅な摩擦係数の低下が可能であることを示している(図中OilとA−DW−DO−Oilを比較参照)。この結果は、従来型ストレート油や参考例9:(Falex試験機による複合分散組成物(A−DO−TZ)の潤滑性能)に示すグリ−ス(比較例3)を始めとする上記した従来のあらゆる潤滑剤に対して、同様な前処理剤としての潤滑性能向上効果を発揮することを示すものである。上記市販の潤滑油剤について同様な手法で検証したところ優れた潤滑性能向上効果が確認できた。以上の結果は、潤滑性能向上処理後の油中摩擦(A−DW−DO−Oi1)とコーティング処理後に無潤滑状態(A−DW−DO−Dry)の摩擦疲労特性結果を組み合わせることで、潤滑油剤の境界潤滑状態が断続的に発生する不安定な油中の摩擦環境下でも、焼付き等のトラブル発生を防止するもので、機械システム等の稼働安定性を大幅に向上できることを示すものである。また、本実施例の曾田式振子試験の試験片ピンやボールは、硬質の耐摩耗材料として一般的な安価なクロム鋼を使用した。このことは、従来、軸受け等で使用されてきた高価な砲金や焼結合金、超硬等の代替が可能であり、経済効果は極めて高い。
図中に比較例7として記載したピンにDLC膜を成膜後、無潤滑状態(DLC(Dry))の摩擦疲労特性、同様に成膜後、イソパラフィン油中摩擦(DLC(Oil))の摩擦疲労特性(比較例8)は、双方とも本発明の結果を凌駕できるものではなかった。ちなみに、本摩擦疲労試験後のDLC膜にはかなりの損傷と部分剥離が観察された。
前述した無潤滑状態と水中摩擦の繰り返し環境の一例として、先行待機ポンプの軸受け環境がある。当該稼働環境は、水質汚染の防止を前提として、空運転の無潤滑状態と高負荷条件が避けられないことから、DLC膜を始めとする前記した従来の表面処理技術でも対処が難しいと考えられてきた。しかし、本発明の結果によれば、コーティング処理後の水中摩擦(A−DW−DO−Water)とコーティング処理後に無潤滑状態(A−DW−DO−Dry)の結果とを組み合わせることで、先行待機ポンプの軸受け稼働環境を再現できることになり、高価な材料を使用することなく、優れた潤滑性能が実現できる。
本潤滑剤組成物を定期的に充填し、空運転することで、コーティング層の補修も容易であり、水洗での水質汚染もないことから、メンテナンスを含めた経済効果は著しく高い。水中摩擦(A−DW−DO−Water)は、コーティング処理後に無潤滑状態(A−DW−DO−Dry)の結果と比較すると、その摩擦疲労特性は更に向上することが明確となった。従って、無潤滑状態と水中摩擦の繰り返しの過酷な摩擦環境下でも本潤滑剤組成物をコーティング剤として使用することで、軸受け部の高い潤滑性能が確保でき、システム稼働の信頼性を著しく高められることを実証できた。
当該コーティング剤、コーティング方法、コーティング層、コーティング層を有する部材やデバイス、それらを用いたシステムへの適用分野は幅広く、油汚染をきらう各種OA機器、ハードディスクの位置決めデバイス、高速ジャーナル軸受、精密位置決めや工作機械のボールねじ、生体適合性が求められる人工関節、ボールペンのボールやファスナー、自転車のチェーンやギヤ変換機構とライト、コンピュータのマウス、車のワイパーやタイヤ等へのコーティング等々、様々な産業、民生分野で使用できる。また、歯車やギヤのスポーリング、チッピング対策として、鉄道レールのシェリング対策、転がり軸受に生じる微小焼付きの集合であるスミアリング対策、船舶スクリューのキャビテーション対策、固体粒子によるエロージョン摩耗対策、フレッチング摩耗対策としてもその使用が可能である。また、せん断強度の低い固体(MoS2、黒鉛、PTFE、ポリイミド、銀、鉛、CaF2等)による従来の固体潤滑の形態を大幅に変革するものであり、潤滑油の温度特性である粘度指数や圧力による粘度変化の考慮も不要となる。更に、軸受けへの適用の場合、攪拌抵抗や転がり粘性抵抗等を低減するために潤滑油の量と流れを最適にする設計技術の負担も軽減される。本参考例は一例であり、本参考発明のその他の各態様の潤滑剤組成物を用いた潤滑性能向上処理或いはコーティング処理でも同様な効果が存在し、本参考例に限定されるものでないことは明らかである。
上述した発展型参考例に従い、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物、ダイヤモンド質超微粒子或いはCBN超微粒子を含むW/O型エマルション組成物を製造し、潤滑性能を評価したが、それぞれのタイプについて同様に優れた特性を有することを確認した。
〔参考例15〜16:別様の発展型のエマルション組成物 〕
更に、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物からなる潤滑剤組成物の別様の発展型として、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の油相(O相)側に、油性向上剤あるいはダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤等を添加して油相(O相)内を更に制御した形態が、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物(A−DO、A−DW、A−DW−DO)の潤滑性能より優れることを見出し、別様の本発明を完成するに至った。
(その他の本エマルション組成物の組合わせについて)
上述した別様の発展型の一例として、ダイヤモンド質超微粒子を油相(O相)に含むO/W型エマルション(A−DO)の油相(O相)内に「油性向上剤」(Y)を添加した形態のものは(AY−DO):基油内(油性)/油分散組成物、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を添加したものは(A−(D,Z)O):基油内(固体)/油分散組成物、その両方を添加したものは(AY−(D,Z)O):基油内(油性・固体)/油分散組成物という記号を付与して前記水相(W相)中に添加した形態と同様に説明を簡潔にする。名称である油分散組成物の油は、ダイヤモンド質超微粒子の添加・分散している相が油相(O相)側であることを示すものであり、水相(W相)側である場合には、例えば、(AY−DW):基油内(油性)/水分散組成物と呼ぶこととし、適時注釈する(油相(O相)、水相(W相)双方にダイヤモンド質超微粒子を添加・分散している場合には、例えば、単に、・・・/分散組成物と呼ぶ。後述する実施例15に対応)。更に、本発展型組成物例の水相(W相)中に(Z)を添加したものは、それぞれ(AY−DO−TZ):基油内(油性)/複合油分散組成物、(A−(D,Z)O−TZ):基油内(固体)/複合油分散組成物、(AY−(D,Z)O−TZ):基油内(油性・固体)/複合油分散組成物という記号が付与される。(A−DO)及び(A−DW)の両相の形態(A−DW−DO)の油相(O相)内に(Y)を添加した他の発展型は、(AY−DW−DO):基油内(油性)/分散組成物、(Z)を添加したものは、(A−DW−(D,Z)O):基油内(固体)/分散組成物、その両方を添加したものは、(AY−DW−(D,Z)O):基油内(油性・固体)/分散組成物という記号を付与することとなる。
一方、当該ダイヤモンド質超微粒子を水相(W相)中に含むO/W型エマルション(A−DW)の油相(O相)内に(Y)添加したものは、上述したように(AY−DW):基油内(油性)/水分散組成物、(Z)を添加したものは、(A−DW−ZO):基油内(固体)/水分散組成物、その両方を添加したものは、(AY−DW−ZO):基油内(油性・固体)/水分散組成物という記号となる。同様に、例えば、本発展型組成物(AY−DW)例の水相(W相)中に更に(Y)、(Z)を添加したものは、それぞれ(AY−DW−TY):基油内(油性)/複成水分散組成物、(AY−DW−TZ):基油内(油性)/複合水分散組成物、その両方を添加したものは、(AY−DW−TY−TZ):基油内(油性)/複成・複合水分散組成物という記号を付与し、これ以外の組み合わせについても、上述のように同様に記号化して呼ぶことがある。
参考例15〜16の潤滑剤組成物の態様は、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の油相(O相)内に油性向上剤(Y)を添加して得られる基油内(油性)組成物群、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を添加して得られる基油内(固体)組成物群、又その両方を添加した基油内(油性・固体)組成物群であり、更に本発展型組成物の水相(W相)中に油性向上剤(Y)を後添加したもの、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を後添加したもの、又その両方を添加した、それぞれ複成、複合、複成・複合水分散組成物或いは油分散組成物、更には、その両方が組み合わされた組成物である。いずれも、潤滑性能が、従来、水溶性潤滑剤では不可能とされていた優れた比摩耗量、低い摩擦係数を同時に満たす潤滑剤組成物を提供することができる。また、前記したダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の水相(W相)中に油性向上剤(Y)やダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)、又その両方が混成添加された複成分散組成物、複合分散組成物、複成・複合分散組成物と同様な優れた効果を提供できるものである。
[参考例15:O相並びにW相内にダイヤモンド質超微粒子を含む基油内(固体)/分散組成物(A−DW−(D,Z)O)]
上記したように、ダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物からなる潤滑剤組成物の別様の発展型として、当該O/W型エマルション組成物の油相(O相)側に添加・分散するダイヤモンド質超微粒子の一部を、同炭素安定同素体のフラーレンで置き換えた油相(O相)内のダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤と同相内のダイヤモンド質超微粒子並びに水相(W相)中のダイヤモンド質超微粒子が複合する(O+ダイヤモンド質超微粒子+ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−(D,Z)O)について試作し、摩擦試験を行った。フラーレンの平均粒子径は40nmとしたが、一次粒子径は数nmの凝集径である。基油成分有効濃度は参考例14と同様に15wt%とした。又、水相(W相)と油相(O相)に添加・分散する固体濃度は同様に総量で1wt%であり、油相(O相)内のダイヤモンド質超微粒子/フラーレンの重量配合比率は3/1である。測定した摩擦疲労特性は同様に優れたものであり、低い摩擦係数が得られることが解った。油相(O相)内にダイヤモンド質超微粒子と共に添加されるダイヤモンド質超微粒子以外の固潤滑剤は、複合被覆層を形成して、過酷な摩擦環境下でのダイヤモンド質超微粒子(又、ダイヤモンド質超微粒子被覆層微粒子)への摩擦荷重の集中を抑制し、摩擦荷重を分散することで被覆層の長期安定化(炭素質や黒鉛等への逆変態の抑制と摩擦材への固溶・吸収の防止)を促進する。前述した本組成物の更に発展した形態として、(O+ダイヤモンド質超微粒子+ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物の水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を添加・分散した(A−DW−(D,Z)O−TZ):基油内(固体)/複合分散組成物、また、油性向上剤(Y)を添加した(A−DW−(D,Z)O−TY):基油内(固体)/複成分散組成物、更に、その両方を添加・分散した(A−DW−(D,Z)O−TY−TZ):基油内(固体)/複成・複合分散組成物、また、(O+ダイヤモンド質超微粒子+ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤)/W型エマルション組成物の水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)や油性向上剤(Y)を添加・分散した(A−(D,Z)O−TZ):基油内(固体)/複合油分散組成物、(A−(D,Z)O−TY):基油内(固体)/複成油分散組成物、更に、その両方を添加・分散した(A−(D,Z)O−TY−TZ):基油内(固体)/複成・複合油分散組成物でも良い。上記した油相(O相)内にダイヤモンド質超微粒子とフラーレンが複合した場合の効果を、シェル式高速四球摩擦試験にて評価した。ダイヤモンド質超微粒子を含む油相(O相)内へフラーレンを複合添加・分散することで、ダイヤモンド質超微粒子の単独添加・分散の場合(A−DOやA−DW−DO)と比較して、摩擦特性の長期安定化がはかれることが解った。本組成物の潤滑性能を検証するため、参考例8、9と同様に摩擦面の解析を行い、摩擦面にダイヤモンド質超微粒子、フラーレンからなる複合濃縮層(コーティング層)の存在を確認した。従って、油相(O相)内にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を複合しても、同様に優れたコーティング層形成作用や潤滑性能の優れたコーティング層が得られることが解った。油相(O相)や水相(W相)内のダイヤモンド質超微粒子を完全にフラーレンで置き換えて、油相(O相)内にフラーレンが分散する(O+フラーレン超微粒子)/W型エマルション組成物(A−ZO)や(O+フラーレン超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−ZO)、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+フラーレン超微粒子)型エマルション組成物(A−ZW−DO)でも従来型潤滑剤を凌駕する潤滑性能が得られることも解った。上記した態様のエマルション組成物の油相(O相)内に更に油性向上剤を添加した場合(例えば、AY−DW−ZOやAY−ZO等)も、潤滑性能の一段の向上が図れることが解った。本実施例に具体的に示したダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物に添加・分散するダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤の選択は、ダイヤモンド潤滑剤組成物を構成する一例であり、本参考例に限定されるものではないことは明らかである。
また、本ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を油相(O相)内に添加・分散する場合には、その平均粒子径については、油滴径に制約されることは明らかである。本エマルション(乳濁色)タイプの場合には、エマルションタイプ油滴径の1/10から1/100以下の平均粒子径であることが好ましい。
上記の優れた潤滑性能を得るその他の構成として、A−DW−ZO−TY、A−DW−ZO−TZ、A−DW−ZO−TY−TZの群から選ばれるものでも良い。
[参考例16:基油内(油性)/複合油分散組成物(AY−DO−TZ)]
参考例8〜12までは、O/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW)と(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の形態、更には(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−DO)の形態において、水相(W相)中に油性向上剤(Y)又はダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)、更には、その両方を添加した組成物を作製し、その潤滑性能を評価した。また、参考例13では、無水型潤滑組成物(Y,D,Z)O)の潤滑性能を検討した(水を加えて自己乳化したダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の形態は、マイクロエマルションタイプの(BY−(D,Z)O)であった。)。
一方、参考例15には、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物(A−DW−DO)の油相(O相)内にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を添加し、固体微粒子が複合した態様(A−DW−(D,Z)O)(図13の模式図には表示せず)について記載したが、本参考例では、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の油相(O相)内に油性向上剤(Y)を添加してダイヤモンド質超微粒子と油性向上剤(Y)とが油相(O相)内で共存し、かつ、水相(W相)中にはダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を添加し複合状態となる態様(AY−DO−TZ)(同様に図13の模式図には表示せず)について記載する。
本基油内(油性)/複合油分散組成物(AY−DO−TZ)の製造は、下記の通りである。
第1工程/オレイン酸主体の油脂:12.0wt%、オレイン酸メチルエステル:16.0wt%、実施例2に記載のダイヤモンド質超微粒子油分散体(基油P−2:ダイヤモンド質超微粒子固体濃度10wt%):2.5wt%、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP):10.0wt%、ポリオキシエチレン(n=6mol)・オレイン酸エステル3.5wt%、オレイン酸カリウム塩:6.0wt%を混合・攪拌して乳化組成物とし、転相水:21.0wt%を添加し転相乳化を完了させる。
第2工程/残部の水:28.75wt%の中にポリテトラフルオロエチレン:0.25wt%を徐々に添加し、攪拌して基油成分有効濃度50wt%のペースト状の基油内(油性)/複合油分散組成物(CY−DO−TZ)を得た。消泡剤は同様にジメチルポリシロキサンのエマルションを0.01wt%添加した。
シェル式高速四球摩擦試験に使用する基油内(油性)/複合油分散組成物(AY−DO−TZ)の基油成分有効濃度は15wt%であり、ダイヤモンド質超微粒子濃度は0.075wt%、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)の濃度も0.075wt%で、油相(O相)、水相(W相)の固体濃度の合計は0.15wt%とした。又、油性向上剤の濃度は、3.0wt%である。
(シェル式高速四球試験機による基油内(油性)/複合油分散組成物(AY−DO−TZ)の潤滑性能と摩擦面の解析)
摩擦試験に供した本組成物の基油成分有効濃度は15wt%であり、上記本組成物の製造にて作製した基油成分有効濃度50wt%品を蒸留水にて希釈して潤滑性能を評価した。(A−DO)の油相(O相)内に更に油性向上剤を、水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤を添加することにより、比摩耗量は実施例10に記載した複成・複合分散組成物(A−DO−TY−TZ)より更に低下する。(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(A−DO)の油相(O相)内に油性向上剤(Y)として、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を、水相(W相)中にポリテトラフルオロエチレンを添加した場合、その比摩耗量は、0.38×10-9であった。
本参考例の更に優れた潤滑性能を解明するために、実施例8−9と同様にシェル式高速四球試験における摩擦面の観察から潤滑機構を調査した。
図23は本参考例の基油内(油性)/複合油分散組成物(AY−DO−TZ)のシェル式高速四球摩擦試験ボール摩擦面のEPMA分析結果である。
a)はボール摩擦面の反射電子組成像であり、実施例8、9と同様に原子番号の小さい元素の濃縮がみられる(黒色部)。b)は炭素の特性X線強度分布を、c)は硫黄、d)は亜鉛、e)はフッ素の同様な特性X線強度分布を示した結果である。マイクロラマン分光法の濃縮炭素層の同定結果と合わせると、摩擦面には、油相(O相)内に添加したダイヤモンド質超微粒子、油性向上剤(Y)としてのジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)由来の硫黄、水相(W相)中に添加したポリテトラフルオロエチレン由来のフッ素の複合濃縮層が形成していることが確認された。
従って、本基油内(油性)/複合油分散組成物の潤滑性能の向上は、油相(O相)内に添加したダイヤモンド質超微粒子と油性向上剤(Y)との混成効果、並びに同ダイヤモンド質超微粒子と水相(W相)に添加・分散したダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)との複合効果によるものであることが明確となった。本基油内(油性)/複合油分散組成物(AY−DO−TZ)の潤滑性能の向上において、特筆すべきはその耐荷重能の向上である。これは、従来、水溶性潤滑剤では不可能とされていた耐荷重性能を向上し、耐摩耗性と低い摩擦係数特性を同時に達成できる潤滑剤組成物を提供できるものである。従って、地球温暖化対策、環境保全を考えると画期的成果である。
本参考例では、(A−DO)の油相(O相)内に油性向上剤(Y)を、水相(W相)中にダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を添加・分散する(AY−DO−TZ)の構成について詳述したが、上記の優れた潤滑性能を得るその他の構成として、
基油内(油性)/油分散組成物:(AY−DO)、基油内(油性)/複成油分散組成物:(AY−DO−TY)、基油内(油性)/複成・複合油分散組成物:(AY−DO−TY−TZ)群、基油内(油性・固体)/油分散組成物:(AY−(D,Z)O)、基油内(油性・固体)/複合油分散組成物:(AY−(D,Z)O−TZ)、基油内(油性・固体)/複成油分散組成物:(AY−(D,Z)O−TY)、基油内(油性・固体)/複成・複合油分散組成物:(AY−(D,Z)O−TY−TZ)群、O相並びにW相内にダイヤモンド質超微粒子を含む基油内(油性)/分散組成物:(AY−DW−DO)、同基油内(油性)/複合分散組成物:(AY−DW−DO−TZ)、同基油内(油性)/複成分散組成物:(AY−DW−DO−TY)、同基油内(油性)/複成・複合分散組成物:(AY−DW−DO−TY−TZ)群、同基油内(油性・固体)/分散組成物:(AY−DW−(D,Z)O)、同基油内(油性・固体)/複合分散組成物:(AY−DW−(D,Z)O−TZ)、同基油内(油性・固体)/複成分散組成物:(AY−DW−(D,Z)O−TY)、同基油内(油性・固体)/複成・複合分散組成物:(AY−DW−(D,Z)O−TY−TZ)群から選ばれるものでも良い。
更には、基油内(油性)/水分散組成物:(AY−DW)、基油内(油性)/複成水分散組成物:(AY−DW−TY)、基油内(油性)/複合水分散組成物:(AY−DW−TZ)、基油内(油性)/複成・複合水分散組成物:(AY−DW−TY−TZ)群、基油内(油性・固体)/水分散組成物:(AY−DW−ZO)、基油内(油性・固体)/複成水分散組成物:(AY−DW−ZO−TY)、基油内(油性・固体)/複合水分散組成物:(AY−DW−ZO−TZ)、基油内(油性・固体)/複成・複合水分散組成物:(AY−DW−ZO−TY−TZ)群から選ばれるものでも良い。
[比較例9]
前述した実施例との比較のために、市販の鉱物油(マシン油#68(68cSt))に油性向上剤としてジチオカルバミン酸モリブデンを添加したもの(MO−Y2)及び塩素化パラフィンを添加したもの(MOCl)、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレンを添加したもの(MO−Z2)、塩素化パラフィン(Cl結合率:40%)単独(Y3)、Liグリース中にダイヤモンド超微粒子を分散した市販品(NDMO−2)を比較サンプル(比較例9)として実施例と同様な条件でシェル式高速四球摩擦試験を行った。
表18には比較材の水と市販の鉱物油の場合も含めて得られた比摩耗量の結果をまとめた。
表18は、比較例9の各態様の比摩耗量を示すものである。図24は、比較例9の各態様の潤滑剤組成物についてのシェル式高速四球摩擦試験の摩耗痕及び比摩耗量を示す図である。塩素化パラフィン単独(Y3)の場合には、実施例10にて油性向上剤として高級アミド・アルキロール化スルホネート・カルシウム塩を、ダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレンを添加した場合の複成・複合分散組成物(A−DO−TY−TZ)や実施例16の基油内(油性)/複合油分散組成物(AY−DO−TZ)と同程度の比摩耗量を示したが、PoHSやPRTR該当物質であり、腐食性が強く、大気中では有毒物質である。従って、その安全性を考慮すると、何れも本発明の潤滑組剤成物を凌ぐものはなかった。
本実施例では、更に、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物からなる潤滑剤組成物の別様の発展型として、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の油相(O相)側に、油性向上剤あるいはCBN超微粒子以外の固体潤滑剤等を添加して油相(O相)内を更に制御した形態が、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の潤滑性能より優れることを見出し、別様の本発明を完成するに至った。(ダイヤモンド質超微粒子を含む本発展型は国際出願PCT/JP2009/001721に記載)
(その他の本エマルション組成物の組合わせについて)
上述した別様の発展型の一例として、CBN超微粒子を油相(O相)に含むO/W型エマルションの油相(O相)内に「油性向上剤」(Y)を添加した形態のものは同様にダイヤモンド質超微粒子の参考例の記号を流用して(AY−DO):基油内(油性)/油分散組成物、CBN超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を添加したものは(A−(D,Z)O):基油内(固体)/油分散組成物、その両方を添加したものは(AY−(D,Z)O):基油内(油性・固体)/油分散組成物という記号を付与して前記水相(W相)中に添加した形態と同様に説明を簡潔にする。名称である油分散組成物の油は、CBN超微粒子の添加・分散している相が油相(O相)側であることを示すものであり、水相(W相)側である場合には、例えば、(AY−DW):基油内(油性)/水分散組成物と呼ぶこととし、適時注釈する(油相(O相)、水相(W相)双方にCBN超微粒子を添加・分散している場合には、例えば、単に、・・・/分散組成物と呼ぶ。後述する実施例15に対応)。更に、本発展型組成物例の水相(W相)中に(Z)を添加したものは、それぞれ(AY−DO−TZ):基油内(油性)/複合油分散組成物、(A−(D,Z)O−TZ):基油内(固体)/複合油分散組成物、(AY−(D,Z)O−TZ):基油内(油性・固体)/複合油分散組成物という記号が付与される。(A−DO)及び(A−DW)の両相の形態(A−DW−DO)の油相(O相)内に(Y)を添加した他の発展型は、(AY−DW−DO):基油内(油性)/分散組成物、(Z)を添加したものは、(A−DW−(D,Z)O):基油内(固体)/分散組成物、その両方を添加したものは、(AY−DW−(D,Z)O):基油内(油性・固体)/分散組成物という記号を付与することとなる。
一方、当該CBN超微粒子を水相(W相)中に含むO/W型エマルションの油相(O相)内に(Y)添加したものは、上述したように(AY−DW):基油内(油性)/水分散組成物、(Z)を添加したものは、(A−DW−ZO):基油内(固体)/水分散組成物、その両方を添加したものは、(AY−DW−ZO):基油内(油性・固体)/水分散組成物という記号となる。同様に、例えば、本発展型組成物(AY−DW)例の水相(W相)中に更に(Y)、(Z)を添加したものは、それぞれ(AY−DW−TY):基油内(油性)/複成水分散組成物、(AY−DW−TZ):基油内(油性)/複合水分散組成物、その両方を添加したものは、(AY−DW−TY−TZ):基油内(油性)/複成・複合水分散組成物という記号を付与し、これ以外の組み合わせについても、上述のように同様に記号化して呼ぶことがある。
実施例1〜2の潤滑剤組成物の態様に更に上記発展形の展開をしたものは、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の油相(O相)内に油性向上剤(Y)を添加して得られる基油内(油性)組成物群、CBN超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を添加して得られる基油内(固体)組成物群、又その両方を添加した基油内(油性・固体)組成物群であり、更に本発展型組成物の水相(W相)中に油性向上剤(Y)を後添加したもの、CBN超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)を後添加したもの、又その両方を添加した、それぞれ複成、複合、複成・複合水分散組成物或いは油分散組成物、更には、その両方が組み合わされた組成物である。いずれも、潤滑性能が、従来、水溶性潤滑剤では不可能とされていた優れた比摩耗量、低い摩擦係数を同時に満たす潤滑剤組成物を提供することができる。また、前記したCBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の水相(W相)中に油性向上剤(Y)やCBN超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)、又その両方が混成添加された複成分散組成物、複合分散組成物、複成・複合分散組成物と同様な優れた効果を提供できるものであることを明らかとした。
以上、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物の発展形の効果は、参考例に示す図面及び図面の簡単な説明で示したものとほぼ同程度の特性が得られた。ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を含むW/O型エマルションでも同様に本発展型組成物を製造し、優れた潤滑性能を確認した。
[実施例4:コーティング層を施した潤滑コーティング部材での特性評価:1]
本実施例では、CBN超微粒子を含むO/W型エマルション組成物をコーテイング剤として使用し、各種部材にコーティング層を形成し、摩擦特性への効果を検証した。
摩擦・摺動部材の一例として、ねじ機構を代表するボールねじや案内要素としてのリニアガイドの軸受け部(ベアリング等)、ねじやレール等へコーテイング層を形成した。 ボールねじやリニアガイド機構を使用する装置として、ボールねじ構造/リニアガイド構造を一体化した高剛性電動式一軸位置決め装置を準備し、ボールねじとリニアガイド一体の摩擦トルクや転がり疲れによるベアリングやねじ、レール等金属表面の微小剥離の発生に及ぼすダイヤモンド質超微粒子コーティング層の効果を調べた。
ボールねじは、日本精工(株)社製のクロム鋼からなるねじ径φ20mm、リード10mm、ストローク600mm、ナット部はアンギュラタイプの玉軸受け機構である。(精密級ボールねじ)。ベアリング(クロム鋼球)径は約φ15mmである。リニアガイドには高荷重型精密タイプを選定した。転がり疲労評価における位置決めテーブル(重量:19kg)への搭載荷重は30kgとし、ブランケットとカップリングを介してACサーボモータに直結し、コントローラ或いはコントローラを介してパソコンで制御する。
摩擦トルクは、ボールねじ及びリニアガイド並びに位置決めテーブルを装着した状態の動摩擦トルク並びにロストモーションに対応する起動時の静摩擦トルク(代用特性としてモータ起動トルクから評価)について評価した。なお、不可避的な部材摩擦特性のばらつきを排除するため、あらかじめ無潤滑状態で各部材の摩擦トルク特性を測定し、ばらつきが10%以内であることを確認した。コーティング効果は、複数台準備した位置決め装置構成で、従来潤滑剤についても同一条件で比較した。比較試料は、Li石鹸グリースで稠度207のものとし、本実施例で使用するコーティング剤には、(O+CBN超微粒子)/(W+CBN超微粒子)型エマルション組成物のグリースタイプを使用するが、比較グリースと同程度の稠度となる基油成分有効濃度は50wt%であり、統一した。CBN超微粒子の固体濃度は1wt%である。転がり疲労試験は、位置決めステージに負荷荷重30kgを搭載し、加減速(加速時間:0.05sec、減速時間:0.05sec、移動速度:2.0m/sec)を伴う10,000時間の水平往復運動後のナット部のベアリング、ねじ、リニアガイドのベアリング等を洗浄し、光学顕微鏡、電子顕微鏡で表面損傷の程度を観察した。
(コーティング層の形成と摩擦トルクと転がり疲労寿命の検証)
ボールねじやベアリング、レール等へのコーティング処理は、慣らし運転を行い完了させる。ボールねじナット部等のグリースニップルに本コーティング剤を充填し(或いは専用の給脂用カートリッジを装着)、定格荷重の搭載負荷で動作さた。本装置の位置決めステージに搭載する負荷荷重は、リニアガイドが受け持つため、ボールねじへの効果的なコーティング処理は加減速を伴う往複運動条件が好ましい。また、短時間でコーテイングを効果的に行う手法として、バックラッシュを減らすアンギュラ軸受け部(ボールねじ)、リニアガイドのベアリング部等に弾性変形域の予圧を与えることも良い。本実施例での慣らし運転条件は、位置決めステージへの搭載荷重:20kg、水平往復運動で、加速時間:0.1sec、減速時間:0.1sec、移動速度:1.0m/secにて20minとした。
慣らし運転後、負荷を除いた状態で動摩擦トルクを比較したところ、従来潤滑剤では、6.0N・cmに対し、4.3N・cmの結果が得られた。また、起動時の静摩擦トルク(代用特性としてモータ起動トルクから評価)を比較したところ、コーティング処理を施した場合、モータ起動トルクが25%程度低下した。
転がり疲労試験後に、位置決め装置から取り外し、洗浄したボールねじナット部のベアリングやねじ溝表面を調べたところ、従来潤滑剤使用の場合には、うろこ状の微小剥離の発生や位置決め精度低下につながる摩耗痕跡が確認された。本コーティング処理の場合には、摩擦痕跡はほとんどなく、EPMA分析からダイヤモンド質超微粒子由来の炭素が濃縮したコーティング層が形成されていることが確認された。潤滑コーティング部材上のコーティング層は、極めて低い摩擦係数に加え、放熱特性が良好なことから、高速走行時の熱変位(摩擦発熱による)を抑え、位置決め精度低下を防止できることを確認した。従って、ボールねじの強制冷却や、リードの変更、高速ウォーミングアップによる温度安定化等々、熱変位発生に係る位置決め精度維持の諸対策は、大幅に軽減される。
以上、動力伝達機構の代表例として送りねじ機構並びに案内要素としてのころがり案内や回転案内としての転がり軸受について、慣らし運転により形成した当該コーティング層を有する潤滑コーティング部材の優れた摩擦特性について説明したが、その他の動力伝達機構として、リンク機構、カム機構、歯車機構、摩擦伝動(ベルト伝動、巻き上げ機、トラクションドライブ等)、案内要素としての滑り案内、流体静圧案内、回転案内としてのジャーナル軸受等、トライボロジーが係るあらゆる部材にて同様の摩擦特性を発揮でき、ダイヤモンド質超微粒子を含むコーテイング層を有する潤滑コーティング部材の提供は、本実施例に限定されるものではないことは明らかである。
[実施例5:コーティング層を施した潤滑コーティング部材での特性評価:2]
本実施例では、実施例4に記載した基本的な慣らし運転可能な各種動力伝達機構には分類されない部材に対してコーティング層を形成し、同様に摩擦特性への効果を検証した。
本例は、平面上を移動する立方形の移動体の摩擦面と相対抗する平面間に発生する摩擦力に着目し、移動体が静止状態から動き出すときの最大静止摩擦力の摩擦係数から当該コーティング層形成による潤滑性能向上効果を検証した。 静止摩擦力の測定は、最も単純な方法として、傾斜角を自在に調整できる傾斜面(100mm×100mm×10mm平面)に上記立方形の移動体を載せて動き出す傾斜角から算出した。
(コーティング層の形成方法と摩擦特性)
コーティング層を形成する手法としては、摩擦面に摩擦力を負荷できる手段であれば特定の手段に限定されるものではなく、コーティング層を形成する摩擦面の形状等で適時選択できる。ここでは、クロム鋼とダイヤモンド粒子やCBN、或いはWBNと金属との焼結体、同微粒子とセラミックスの焼結体(本実施例では平均粒子径が25ミクロンのダイヤモンド微粒子30体積%を含むSUS316ステンレス焼結体を使用)とからなる上記傾斜面(平面)にコーティングした例について記載する。
CNCマシニングセンターの主軸に直径10mmのポリウレタン製円柱摩擦工具を取り付け、XYテーブル上には摩擦工具軸と平行に固定したクロム鋼平板や立方形の移動体(材質:同様にクロム鋼)を対向設置する。摩擦工具の回転数は300rpm、被コーティング材への切り込み深さ(X軸)は1―5ミクロンとし、Y軸方向の送り速度は150mm/minとした。(O+CBN超微粒子)/(W+CBN超微粒子)型エマルション組成物コーティング剤の基油成分有効濃度:20wt%、CBN超微粒子固体濃度:1wt%)をミスト状に供給しながら複数回、クロム鋼表面を摩擦工具にて摩擦し、コーティング層を形成した。当該コーティング層形成のための摩擦条件や、摩擦工具の形状、材質は一例であり、本実施例に限定されるものではなく適時選択できる。ダイヤモンド微粒子30体積%を含むSUS316ステンレス焼結体の場合には、予めダイヤモンド砥石等で摩擦面を研磨しておくことが望ましい。
コーティング処理を施した傾斜面上に、同じ処理をした30mm角立方移動体を載せて、上述の手法で評価した摩擦係数は0.01−0.02であり、同様にDLCを成膜した場合の摩擦係数をはるかに凌駕するものであった。傾斜面をEPMA分析で調査したところ、CBN超微粒子由来のホウ素、窒素が濃縮したコーティング層が確認できた。特に、ダイヤモンド微粒子30体積%のSUS316ステンレス焼結体の場合には,摩擦環境下の使用中に軟らかい金属相が優先的に摩耗し、硬質相であるダイヤモンド微粒子と金属相界面に段差が発生し、この硬質相の端部が切り刃となって相手摩擦面を損傷したり、硬質微粒子の脱落を加速し、ダイヤモンドやCBN焼結体の摩擦部品としての寿命や信頼性を損なう原因となる。本実施例に示したコーティング処理により、CBNの被覆濃縮層は優先的に金属相に形成されるため、上記した金属相の優先的摩耗は阻止されダイヤモンドやCBN焼結体の摩擦部品としての寿命向上や信頼性を大幅に向上し、安価で、優れた耐摩耗特性と摩擦特性を有するダイヤモンドやCBN等の焼結体部品を提供できる。本実施例では、傾斜面及び移動体双方の摩擦面にコーティング層を形成したが、移動体である立方体側の摩擦面や傾斜面側のそれぞれ一方のみにコーティングしても同様に優れた摩擦特性が得られることを確認した。コーティング方法としては、コーティング層を形成した後、そのまま乾燥するか、水洗・乾燥しても良い(実施例2の潤滑剤枯渇試験参照)。又、三次元を含めた特定の軌跡の軌道上にも同様なコーティング層を形成でき、かつ補修も容易なことから、従来にない優れた各種潤滑コーティング部材を提供できる。本実施例では、(O+CBN超微粒子)/(W+CBN超微粒子)型エマルション組成物のコーティング剤について記載したが、参考例に示した(O+ダイヤモンド質超微粒子)/(W+ダイヤモンド質超微粒子)型エマルション組成物)(A−DW−DO)を始めとするダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション組成物や実施例3に示すダイヤモンド質超微粒子やCBN等の超微粒子を含む各種W/O型エマルション組成物、前述した複合コーティング層を形成する組成物やその他の実施例に示す態様の組成物の使用も当然可能で、各種態様のコーティング層を有する潤滑コーティング部材を製造でき、本実施例に限定されるものではないことは明らかである。
慣らし運転等でコーティング層を施した本潤滑コーティング部材は、潤滑剤枯渇試験等で記載したように、無潤滑下でも極めて優れた潤滑特性を示すものであり、潤滑剤(油やグリース等)の使用が制限される用途には最適である。
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、その発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々と変形実施が可能である。また、上記実施の形態の構成要素を発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に組み合わせることができる。
[参考例19:低温条件下での潤滑特性]
本参考例では、無水型潤滑剤組成物実施例にて記載したように、寒冷地での使用を念頭に、濃度調整する希釈成分を毒性のないグリセリンや少・多糖類等からなる不凍液とした場合の低温で使用可能な潤滑剤組成物や更に不凍液へこれらを添加した構成の潤滑性能について検討する。
(摩擦試験方法)
本潤滑剤組成物の潤滑性能を評価する摩擦試験機の選定であるが、前述のシェル式高速四球試験機或いはFalex試験機では、摩擦条件が過酷で、摩擦面が高温となるため、潤滑剤温度を低温に維持してその摩擦特性を評価することが困難である。そこで、摩擦熱が発生しにくい曾田式振子試験機で、低温下の摩擦特性を評価することとした。また、摩擦試験環境を−20℃に保つために、曾田式振子試験機の試料カップの下に、ペルチェ素子を装着して温度が−20℃に達した時点で測定を開始した。摩擦係数の測定方法は標準法(3回測定の平均値)にて行った。
(本潤滑組成物の冷凍化と外観)
曾田式振子試験機の摩擦係数測定では、前の参考例でも説明したが、粘度が大きく影響する。そこで、冷凍庫に入れて冷却したときの試料の外観をまず調査した。評価する潤滑剤試料の態様は、リファレンスとしての前述したマイクロエマルション(可溶化型)タイプの基礎エマルション組成物(B)、(O+ダイヤモンド質超微粒子)/W型エマルション組成物(B−DO)、複成分散組成物(B−DO−TY)及び複合分散組成物(B−DO−TZ)とし、その基油成分有効濃度は50wt%(ペースト状(グリース様)タイプ(C))とした。冷凍庫(−20℃)で各試料を24hr放置して外観を確認したところ、氷結するサンプルはなかったが、グリース状であり、本組成物は曾田式振子試験には向かない。
そこで、上記試料にグリセリンを添加して行き、グリース状から流動液体になるまでのグリセリンの濃度を変えて同様に冷凍庫に入れ外観を調べたところ、グリセリン:60wt%、上記マイクロエマルションタイプ組成物試料(基油成分有効濃度が20wt%の場合):40wt%の比率で流動性を示すことが解った。従って、上記基油成分有効濃度50wt%組成物にグリセリンを添加して、流動化させ、曾田式振子試験機評価或いは実用上機能するグリセリン添加の配合限界比率は60wt%以上である。
次に、曾田式振子試験機により摩擦特性を評価するために、前述と同様に、上記基油成分有効濃度50wt%の各ペースト状(グリース様)タイプ組成物に水の代わりにグリセリンで稀釈して、基油成分有効濃度:15wt%の各組成物を作製した。主な構成成分濃度は、グリセリン:70wt%、基油成分有効濃度(AI):15wt%、水成分:15wt%であり、このときのダイヤモンド質超微粒子の固体濃度は0.3wt%で、(B−DO−TY)の油性向上剤(Y)にはジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)を、(B−DO−TZ)のダイヤモンド質超微粒子以外の固体潤滑剤(Z)にはポリテトラフロオロエチレン(PTFE)を用い、何れも表13に準じた添加量に設定した。表19には、比較として基礎エマルション組成物(B)のマイクロエマルション(可溶化型)タイプの場合も含め各エマルション組成物の配合組成や測定環境温度と同時にそれぞれの摩擦係数結果を示した。
本組成物の低温条件下での摩擦係数は、何れも常温での特性と変わらず良好な結果を示したことから、寒冷地あるいは、低温環境下での潤滑剤として機能することを実証した。
なお、本低温条件下で摩擦特性が最も優れていた試料(B−DO−TZ)の室温(20℃)での摩擦係数は、0.093と最も低い値を示し、通常の使用温度から低温(−20℃)に渡って安定した潤滑性能を発揮できる潤滑剤組成物であることが検証できた。本参考例は、低温下でも優れた潤滑機能を維持するダイヤモンド質超微粒子を含むO/W型エマルション潤滑剤組成物を構成する一例であり、その他の実施例に記載の各態様や配合構成でも優れた潤滑機能を発揮させることが可能であり、本参考例に限定されるものではないことは明らかである。
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、その発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々と変形実施が可能である。また、上記実施の形態の構成要素を発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に組み合わせることができる。
以上、CBN超微粒子を含む本O/W型エマルション組成物の効果は、参考例19に示す結果とほぼ同程度の特性が得られた。ダイヤモンド質超微粒子やCBN超微粒子を含むW/O型エマルションでも同様に優れた潤滑性能を確認した。
本発明の潤滑剤祖成物は、例えば、原子力、マイクロマシン、食品関連の潤滑剤として用いることができる。また、CVD、スパッタ等での表面処理よりも安価にコーティング効果を持たせることができ、従来の高価な複合摺動部材は不要となる。
また従来、油系の潤滑剤を使っていた、一般家庭やオフィスで使用される錆止め潤滑剤、今後家庭やオフィスに普及するロボットの摺動部やベアリングのグリース、風力発電や機械の軸受油、硬質粒子や土砂等微粒子を含む排水ポンプや粉体加工装置等でエロージョン対策が必要なメカニカルシール、完全循環型でメンテナンスフリー化が求められる宇宙往還機や宇宙ステーション等の機器への適用や電気自動車等の分野で、本発明により、環境に対して負荷の少ない水系に替えることが可能となる。
更に、摩耗量が少なく潤滑安定性が高いことから、この高性能潤滑剤組成物は、ファインブランキング加工や線引き加工、深絞り加工等の高負荷下での適用において、金型摩耗の減少により加工精度の維持に伴う生産性の大幅な向上が可能となる。本実施例の結果から、低摩擦トルク並びに摩擦トルクの安定化は、今後、さらに多用化する駆動伝達系のスピンドル回転用小型モーターの課題であるトルク不足によるエネルギー損失の問題が解消される等、あらゆる摩擦エネルギーの削減効果が期待される。
更に、近年マイクロマシン分野(半導体製造装置等)でナノレベルの位置決め精度と位置決め機構に対する要求が高まり、各種の機器やロボットの開発が加速している。一例として、インパクト駆動機構を装備するマニピュレータやロボット、遺伝子操作機器等では、50nm以下の微動位置決めにて静摩擦力の低減が最大の課題であり、本開発の潤滑剤組成物を使用することで、一桁ナノの位置決め精度が実現できる。その他の高精度位置決め(インパクトドライブのカメラ等々)用途等には本発明の潤滑剤組成物が極めて有用である。

Claims (16)

  1. 油中水(W/O)型エマルション組成物であって、平均粒子径が100nm以下のダイヤモンド質超微粒子であって分散剤で処理したダイヤモンド質超微粒子或いは六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子を含有することを特徴とするO/W型エマルション組成物。
  2. 前記ダイヤモンド質超微粒子或いは六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子が、水相(W相)中及び/又は油相(O相)中に分散されていることを特徴とする請求項1に記載のW/O型エマルション組成物。
  3. 前記ダイヤモンド質超微粒子或いは六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子が、水分散用分散剤で処理した分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子或いは六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子水分散体として水相(W相)中に添加されていることを特徴とする請求項2に記載のW/O型エマルション組成物。
  4. 前記ダイヤモンド質超微粒子或いは六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子が、油分散用分散剤で処理した分散剤処理ダイヤモンド質超微粒子或いは六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子油分散体として油相(O相)中に添加されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のW/O型エマルション組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載のW/O型エマルション組成物を含む潤滑剤。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載のW/O型エマルション組成物を含むコーティング剤。
  7. 請求項1〜4のいずれかに記載のエマルション組成物で被覆処理後、乾燥して得られる、部材の表面が改質されたコーティング部材。
  8. 請求項6に記載のコーティング剤を用い、部材への被覆処理を慣らし運転により行うことを特徴とするコーティング剤の部材への被覆方法。
  9. 水中油(O/W)型又は油中水(W/O)型エマルション組成物であって、平均粒子径が100nm以下の六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子であって分散剤で処理したCBN超微粒子を含有することを特徴とするO/W型又はW/O型エマルション組成物。
  10. 六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子が、水相(W相)中及び/又は油相(O相)中に分散されていることを特徴とする請求項9に記載のO/W型又はW/O型エマルション組成物。
  11. 六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子が、水分散用分散剤で処理した分散剤処理CBN超微粒子水分散体として水相(W相)中に添加されていることを特徴とする請求項10に記載のO/W型又はW/O型エマルション組成物。
  12. 六方晶窒化ホウ素の高圧相であるCBN超微粒子が、油分散用分散剤で処理した分散剤処理CBN超微粒子油分散体として油相(O相)中に添加されていることを特徴とする請求項9または請求項10に記載のO/W型又はW/O型エマルション組成物。
  13. 請求項9〜12のいずれかに記載のO/W型又はW/O型エマルション組成物を含む潤滑剤。
  14. 請求項9〜12のいずれかに記載のO/W型又はW/O型エマルション組成物を含むコーティング剤。
  15. 請求項9〜12のいずれかに記載のエマルション組成物で被覆処理後、乾燥して得られる、部材の表面が改質されたコーティング部材。
  16. 請求項14に記載のコーティング剤を用い、部材への被覆処理を慣らし運転により行うことを特徴とするコーティング剤の部材への被覆方法。
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