JP2002060779A - 金属の塑性加工用潤滑剤組成物と塑性加工方法 - Google Patents

金属の塑性加工用潤滑剤組成物と塑性加工方法

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JP2002060779A
JP2002060779A JP2001111547A JP2001111547A JP2002060779A JP 2002060779 A JP2002060779 A JP 2002060779A JP 2001111547 A JP2001111547 A JP 2001111547A JP 2001111547 A JP2001111547 A JP 2001111547A JP 2002060779 A JP2002060779 A JP 2002060779A
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soluble resin
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JP2001111547A
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Kunio Goto
邦夫 後藤
Masaru Izawa
勝 井澤
Norinobu Yamamoto
宣延 山本
Terunori Matsushita
輝紀 松下
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Nippon Shokubai Co Ltd
Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Shokubai Co Ltd
Sumitomo Metal Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 金属表面に密着性の高い潤滑皮膜を形成し
て、摩擦軽減、工具の寿命延長や製品品質の向上を実現
でき、水洗で除去できる潤滑剤を用いて、金属の冷間塑
性加工 (例、抽伸) を行う。 【解決手段】 ポリアルキレンオキシドと、4価カルボ
ン酸またはその塩もしくは無水物 (例、ピロメリット酸
二無水物) とを反応させて得られる高分子量ポリエーテ
ルポリエステルからなり、17〜23 meq/gの範囲のエーテ
ル結合と0.03〜2 meq/g の範囲の解離基 (カルボン酸
基) とを有する水溶性樹脂を潤滑皮膜形成成分として、
好ましくは微粒子と混合した組成物として使用する。こ
の組成物に水を加えて水溶性樹脂を溶解させて金属に塗
布するか、あるいは水で希釈せずに水溶性樹脂の融点以
上で塗布して、塑性加工を行う。塑性加工は、塗布した
樹脂が溶液または溶融状態にある間 (皮膜形成前) に実
施してもよく、樹脂が固化して皮膜を形成した後に実施
してもよい。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、金属の塑性加工用
潤滑剤組成物とそれを用いた金属の塑性加工方法とに関
する。より詳しくは、本発明は、金属の冷間塑性加工に
おいて、被加工材である金属の表面に密着性の高い潤滑
皮膜を形成して優れた潤滑性を発揮させ、それにより摩
擦軽減による加工動力の減少、摩耗や焼付きの抑制によ
るロールや工具の寿命延長と製品品質の向上を実現でき
る、金属の塑性加工用潤滑剤組成物とそれを用いた金属
の塑性加工方法とに関する。
【0002】
【従来の技術】金属の冷間塑性加工には、板圧延、管圧
延、条鋼(形鋼、棒線、線材)圧延、引抜き、鍛造、せ
ん断、プレス成形などがある。被加工材として塑性加工
に供される金属には、炭素鋼やステンレス鋼などの各種
の鋼、そしてアルミニウム、銅、チタニウムおよびそれ
らの合金もしくはそれらの複層クラッドなどが挙げられ
る。
【0003】通常、冷間での塑性加工における潤滑方法
は、被圧延材とロールや工具 (以下、ロールと工具を併
せて工具と称す) の材質、加工方法、面圧、加工速度、
表面粗度、作業環境等に応じて使い分けられている。例
えば、塑性加工直前に工具または被加工材に潤滑剤を供
給する方法や、予め工具表面に化成潤滑皮膜を形成して
から塑性加工する方法などが知られている。
【0004】潤滑剤の例としては、液体状のものから、
高粘度のグリース、さらには高温で溶融して流体潤滑作
用を発揮するガラス、あるいはそれらに黒鉛、雲母など
の固体潤滑物質を含有させた潤滑剤などが知られてい
る。
【0005】しかし、塑性加工直前に潤滑剤を供給する
潤滑方法では、高温、高面圧のような厳しい塑性加工条
件では、摩擦界面に潤滑剤を確実に導入したり、塑性加
工に伴う被加工材の表面積の増大に潤滑剤を追従させる
ことができないため、潤滑性が十分ではなかった。
【0006】一方、工具に予め化成潤滑皮膜を形成する
潤滑方法でも、加工が進むにつれて潤滑皮膜の摩耗およ
び剥離を生じるため、加工を一旦中止し、工具の交換を
余儀なくされるので、継続的に潤滑効果を得ることは難
しかった。さらに、塑性加工後に被加工材の表面に残っ
た化成皮膜は、脱脂等では容易には除去できず、次工程
に塗装等がある場合には、除去のための作業工程が必要
となるので、コスト高を招いている。
【0007】特開昭47−39965 号公報に記載されている
ように、水溶性樹脂皮膜を形成する種類の塑性加工用潤
滑剤が、薄鋼板に代表される被加工材表面の保護とプレ
ス成形時の潤滑性向上のためにプレス成形用に使用でき
る。しかし、プレス成形時には、防錆も兼ねた高潤滑油
を別に使用するのが普通であり、もともとこのような水
溶性樹脂皮膜そのものには、塑性加工時に必要な十分な
潤滑性はなく、また期待もされていなかった。
【0008】潤滑性および耐食性に優れる冷間鍛造用棒
鋼線材の製造方法として、特開平7−108319号公報に
は、水系樹脂を主体として、粒子径 0.1〜10μmのフッ
素系樹脂粒子 2.5〜50重量%および粒子径1〜30 nm の
シリカ粒子1〜30重量%を含有する潤滑皮膜を 0.5〜50
g/m2 の割合で表面に形成した後、伸線することが開示
されている。しかし、この水系樹脂は、潤滑性の高いフ
ッ素系樹脂粒子やシリカ粒子のバインダーとして使用さ
れており、水系樹脂自体に潤滑性を期待したものではな
い。
【0009】特開平3−231995号公報には、エチレンオ
キシド由来のポリエーテル部分を含むポリエーテルポリ
エステルまたはポリエーテルポリウレタンの水溶液また
は有機溶剤溶液を、金属のパイプ、線、板などの加工に
用いることが記載されている。しかし、金属と潤滑皮膜
との密着性が十分ではないため、負荷が高い場合や、焼
付きが発生しやすい金属材料を塑性加工する場合には、
潤滑性が不足することがあった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、水溶
性樹脂を金属の冷間塑性加工用潤滑皮膜として利用する
ことは知られていたが、従来のものでは、負荷が高い場
合や焼付きが発生しやすい条件では満足できる潤滑性能
を必ずしも得ることはできなかった。
【0011】これは、いかなる組成を有する水溶性樹脂
が金属との密着性に優れ、かつ潤滑性に優れているの
か、あるいは水溶性樹脂と微粒子との組合わせにおいて
いかなる効果が発現するか、についての知見がほとんど
なかったからである。
【0012】本発明の目的は、金属の冷間塑性加工にお
いて、被加工材である金属の表面に密着性の高い潤滑皮
膜を形成することができ、それにより塑性加工する際に
優れた潤滑効果を発揮し、摩擦軽減、工具の寿命延長や
製品品質の向上を実現できる金属の塑性加工用潤滑剤組
成物と、それを用いた金属の塑性加工方法を提供するこ
とにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、金属の冷
間塑性加工において高い潤滑性を得るため、水溶性樹脂
と微粒子を用いた潤滑法について検討した結果、 1) 特定構造を有する水溶性樹脂が、金属との密着性に
特に優れ、かつ加工条件の厳しい塑性加工においても高
い潤滑性を有すること、 2) この水溶性樹脂に微粒子を含有させることにより、 ・塑性加工時に極端な摩擦係数低下を起こさず、噛み込
み不良やスリップを抑制できること、 ・微粒子が摩擦界面での金属間直接接触を抑制し、焼付
き防止効果が一層高まること、 を究明し、本発明を完成した。
【0014】ここに、本発明は、17〜23 meq/gの範囲の
エーテル結合と0.03〜2 meq/g の範囲の解離基とを有す
る水溶性樹脂を含有することを特徴とし、好ましくはさ
らに微粒子も含有する、金属の塑性加工用潤滑剤組成物
である。
【0015】前記水溶性樹脂は、ポリアルキレンオキシ
ドと、4価カルボン酸またはその塩もしくは無水物、と
を反応させて得られる高分子量ポリエーテルポリエステ
ルでよく、これは具体的には、下記一般式(1)
【0016】
【化2】
【0017】(式中、R1 は炭素数2〜6の2価有機
基、Rは炭素数4 〜20の4価有機基であり、M1 および
2 はそれぞれ水素原子、金属原子、アンモニウム基お
よび有機アンモニウム基から選ばれ、nは25〜700 の範
囲の数である) で示されるポリマーでよい。
【0018】本発明によれば、(1) 上記潤滑剤組成物を
水と混合して樹脂を溶解させてから金属表面に塗布し、
該金属を塑性加工することを特徴とする金属の塑性加工
方法、および(2) 上記潤滑剤組成物を、該水溶性樹脂融
点以上の温度で金属表面に塗布し、該金属を塑性加工す
ることを特徴とする金属の塑性加工方法、もまた提供さ
れる。
【0019】上記(1) と(2) のいずれの方法において
も、塑性加工は、樹脂が固化する前、即ち、塗膜が流動
状態を保持している間に行ってもよく、あるいは樹脂が
固化して、固形皮膜が形成された後に行ってもよい。
【0020】
【発明の実施の形態】本発明に係る金属の潤滑剤組成物
において使用する水溶性樹脂は、エーテル結合 (−C−
O−C−) を17〜23 meq/g (ミリ当量/グラム) 、好ま
しくは20.0〜22.7 meq/gの割合で含有し、さらに解離基
を0.03〜2meq/g 、好ましくは0.05〜1meq/g の割合で
含有する、ポリエーテル系の水溶性樹脂である。この水
溶性樹脂は、金属との密着性に優れた潤滑性樹脂皮膜を
形成することができ、この樹脂皮膜は水溶性であるの
で、水洗で簡単に除去することができる。
【0021】上記水溶性樹脂中のエーテル結合は、柔軟
な骨格構造であるので、樹脂皮膜に潤滑効果を付与す
る。樹脂中のエーテル結合の含有量が17 meq/gより少な
いと、潤滑条件によっては樹脂皮膜が十分な潤滑効果を
発現せず、23 meq/gより多いと、結果的に解離基の含有
量が少なくなるので、樹脂皮膜の金属に対する密着性が
不足する。
【0022】上記水溶性樹脂中の解離基は、イオン的な
結合により金属と結合することで、樹脂皮膜の密着性を
改善する効果を発揮すると考えられる。樹脂中の解離基
の含有量が0.03 meq/gより少ないと、金属との密着性が
不十分な樹脂皮膜となり、解離基の含有量が2meq/g を
超えると、ポリエーテル本来の柔軟性が損なわれるた
め、良好な潤滑効果が得られないことがある。
【0023】本発明で用いる水溶性樹脂中のエーテル結
合と解離基の含有量は、NMRや酸価、水酸価等の一般
的な分析方法により求めることもできるが、合成に用い
た反応成分の分子式と使用量から算出することもでき、
その方が簡便である。
【0024】水溶性樹脂中の解離基としては、カルボキ
シル基 (カルボン酸基) 、アミノ基、メルカプト基、ヒ
ドロキシル基、リン酸基等が挙げられるが、密着性の点
でカルボキシル基が最も好ましい。一方、防錆効果を考
慮した場合、アミノ基やメルカプト基が好ましい。この
ような解離基を上記の割合で含有する樹脂は、一般に水
溶性となる。
【0025】水溶性樹脂としては、上記の含有量でエー
テル基と解離基とを含有する水溶性ポリマーであれば特
に限定されない。樹脂種としては、例えば、ポリエーテ
ル、ポリエーテルポリエステル、ポリエーテルポリウレ
タン、ポリエーテルポリアミン、セルロースおよびその
誘導体等が挙げられる。
【0026】本発明で用いる水溶性樹脂として好ましい
のは、解離基としてカルボキシル基を有するポリエーテ
ルポリエステルである。ポリエーテルポリエステルとし
ては、分子量が3万〜1,000 万、好ましくは4万〜100
万、より好ましくは5万〜50万の高分子量のものが適当
である。分子量が3万より小さいと、塑性加工時の変形
に樹脂皮膜が追随していかず、金属表面に疵や焼付きを
生じることがある。分子量が1,000 万よりより大きくな
ると、ポリマー製造に著しく長い反応時間が必要となる
こと、および塑性加工時に用いる溶液粘度が高すぎて、
扱いにくく、実用的ではなくなることがある。
【0027】本発明で好適に使用できる高分子量ポリエ
ーテルポリエステルは、ポリアルキレンオキシドに、4
価カルボン酸またはその塩もしくは無水物を反応させて
ポリエステル化することにより合成することが、生産効
率と経済性の点で好ましい。この方法により、上記一般
式(1) で示されるポリエーテルポリエステルを得ること
ができる。次に、この合成法について説明する。
【0028】前記高分子量ポリエーテルポリエステルの
合成において一方の反応成分として用いるポリアルキレ
ンオキシドとしては、例えば、ポリエチレングリコー
ル、ポリプロピレングリコール、ポリテトラエチレング
リコール、ポリエピクロルヒドリン、さらにはこれらの
共重合物が挙げられる。
【0029】ポリアルキレンオキシドは、エーテル結合
と解離基について上記条件を満たすものであれば特に制
限はないが、数平均分子量が 1,000〜30,000程度の低分
子量のものが製造上適当である。分子量があまりに低す
ぎると、十分な皮膜強度を有する高分子量ポリエーテル
ポリエステルを得るために長時間を要するため生産効率
が悪くなる。逆に、分子量が高すぎると、溶融粘度が高
くなるため、初期のポリアルキレンオキシドと多価カル
ボン酸等との混合が不均一となり、結果的に反応に長時
間を要するので、やはり生産効率が良くない。
【0030】前記高分子量ポリエーテルポリエステルの
合成におけるもう一方の反応成分として使用する4価カ
ルボン酸は、脂肪族、脂環式および芳香族のいずれでも
よい。4価カルボン酸の具体例としては、これらに限ら
れないが、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、ピロ
メリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、p−テルフ
ェニル−3,3',4,4'−テトラカルボン酸、 3,3',4,4'−
ベンゾフェノンテトラカルボン酸、 1,2,3,4−シクロペ
ンタンテトラカルボン酸、ナフタレン−1,4,5,−テトラ
カルボン酸、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸、
2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸、 3,
3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、ビシ
クロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6 −テトラカル
ボン酸等が挙げられ、1種または2種以上を用いること
ができる。
【0031】ポリアルキレンオキシドに遊離の4価カル
ボン酸を反応させて高分子量ポリエーテルポリエステル
を合成する場合、ポリアルキレンオキシドの水酸基1モ
ルに対して前記4価カルボン酸中のカルボキシル基が
1.0〜3.0 モルになるように仕込んで、圧力0.03 MPa以
下の減圧下、温度70〜250 ℃で反応させることにより高
分子量ポリエーテルポリエステルを合成することができ
る。
【0032】4価カルボン酸は、遊離形態ではなく、そ
の塩または無水物の形態で、ポリアルキレンオキシドと
の反応に使用することもできる。また、遊離の4価カル
ボン酸、その塩および無水物から選んだ2種以上の混合
物を4価カルボン酸原料として使用することもできる。
【0033】4価カルボン酸の塩を上記反応に使用する
と、生成した高分子量ポリエーテルポリエステルの解離
基であるカルボキシル基がその塩 (即ち、カルボン酸
塩) の形態となっている生成物が得られる。このように
高分子量ポリエーテルポリエステルの解離基をカルボン
酸塩にすることで、潤滑剤組成物のpH調整に加えて、そ
の皮膜強度の増強が図れる。
【0034】4価カルボン酸の塩は、4価カルボン酸を
カチオン供給源となる金属単体、金属化合物、アンモニ
ア、または有機アミンと反応させることにより得ること
ができる。金属化合物としては、酸化物、カルボン酸
塩、金属アルコキシド、炭酸塩、水酸化物、水素化物、
過酸化物、塩化物、硫酸塩、りん酸塩、亜硫酸塩、炭化
物等が挙げられる。
【0035】解離基がカルボン酸塩となっている高分子
量ポリエーテルポリエステルは、反応成分としては遊離
の4価カルボン酸を使用し、カチオン供給源となる金属
化合物(金属単体含む)またはアミン(アンモニアを含
む)を、高分子量ポリエーテルポリエステルの合成時ま
たは合成後に反応系に添加することによっても得ること
ができる。合成後に添加する場合には、一旦は前記一般
式(1) におけるMが水素原子である高分子量ポリエーテ
ルポリエステルを合成した後で、この生成物を塩に転化
することになる。いずれの場合も、得られたカルボン酸
塩型の解離基を有する高分子量ポリエーテルポリエステ
ルは、前述したpH調整や皮膜強度の増強効果を発揮する
ことができる。カチオン供給源となる金属化合物やアミ
ンの添加は、ポリアルキレンオキシドと4価カルボン酸
との反応時に行う方が、反応時間の短縮および生産工程
の簡略化を図ることができるので好ましい。
【0036】このように4価カルボン酸の塩を反応成分
として使用するか、或いは反応系に塩のカチオンを供給
する金属化合物またはアミンを添加する場合、4価カル
ボン酸またはその塩の使用量や反応条件は、前記の4価
カルボン酸を用いた場合の反応と同様でよい。高分子量
ポリエーテルポリエステルの合成中または合成後にカチ
オン供給源となる金属化合物またはアミンを添加して、
カルボン酸塩を解離基として含有する生成物を得る場
合、このカチオン供給源となる化合物は、4価カルボン
酸1モル、即ち、前記一般式(1) における有機R、に対
して 0.1〜3.0 倍モルの範囲で添加することが好まし
く、より好ましくは 1.5〜2.5 倍モルの範囲とする。こ
のように、遊離カルボキシル基のすべてを塩にしてもよ
く、或いはその一部を塩にしてもよい。
【0037】カルボン酸塩の形成に使用できる金属の具
体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビ
ジウム、セシウム、フランシウム、ベリリウム、マグネ
シウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジ
ウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウ
ム、ニオブ、クロム、モリブデン、タングステン、マン
ガン、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウ
ム、イリジウム、ニッケル、銅、銀、亜鉛、カドミウ
ム、水銀、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリ
ウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アンチモン、
ビスマス、スカンジウム等が挙げられ、これらは上記の
ように金属単体または金属化合物として使用できる。
【0038】カルボン酸塩の形成に使用できる有機アミ
ンは、第一、第二および第三アミンのいずれでもよく、
また脂肪族、脂環式および芳香族のどれでもよい。具体
例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ト
リプロピルアミン、ピリジン、ピロリジン、ピロール、
ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、
ヘキサメチレンジアミン、 1,4−ジアザビシクロ[2.2.
2]オクタン、ヒドラジン、 N,N−ジメチルシクロヘキシ
ルアミン、エチルアミン、アニリン、トルイジン、アリ
ルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、イソプ
ロピルアミン、ジイソプロピルアミン、3,3−イミノビ
ス (プロピルアミン) 、2−エチルヘキシルアミン、3
−(2−エチルヘキシルオキシ) プロピルアミン、3−
エトキシプロピルアミン、ジイソブチルアミン、3−
(ジエチルアミノ) プロピルアミン、ジ−2−エチルヘ
キシルアミン、3−(ジブチルアミノ) プロピルアミ
ン、テトラメチルエチレンジアミン、トリ−n−オクチ
ルアミン、t−ブチルアミン、2−ブチルアミン、モノ
エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノー
ルアミン、ピコリン、ビニルピリジン、ピぺコリン、ピ
ぺラジン、ピぺリジン、ピラジン等が挙げられる。
【0039】2価以上の金属または2以上のアミノ基を
有するポリアミンを用いた場合、生成した高分子量ポリ
エーテルポリエステルの分子内で、この金属またはアミ
ンがカルボン酸と架橋していても、していなくてもよ
い。
【0040】反応成分の4価カルボン酸を無水物として
使用する場合、使用できる酸無水物の具体例としては、
前述した4価カルボン酸の二無水物が挙げられる。反応
成分として特に好ましいのは、ピロメリット酸二無水物
およびブタン−1,2,3,4 −テトラカルボン酸二酸無水物
である。これらの一方または両方を使用すると、反応性
および製造効率が高くなる。
【0041】4価カルボン酸の無水物を反応に使用する
場合、その使用量は、ポリアルキレンオキシド1モルに
対して 0.1〜4.0 モルとし、好ましくは 0.5〜2.0 モ
ル、さらに好ましくは 0.8〜1.2 モルである。4価カル
ボン酸無水物の使用量が0.1 モルより少ないと、低分子
量のポリアルキレンオキシドを多く含むポリマーが生成
するため、その皮膜強度が低下する。一方、この量が4.
0 モルを越えると、多価酸無水物で封鎖された低分子量
のポリアルキレンオキシドが反応系内に多く生成するた
め、連鎖反応の成長因子である水酸基が反応系から消失
し、反応が停止してしまう。その結果、両末端を多価酸
無水物で封鎖された低分子量ポリアルキレンオキシドが
生成ポリマー中に数多く存在し、やはり皮膜強度が低下
する。
【0042】4価カルボン酸無水物とポリアルキレンオ
キシドとの反応温度は特に制限はないが、好ましくは90
〜200 ℃、さらに好ましくは 100〜160 ℃である。反応
温度がこの範囲であると、反応を効率良く行うことがで
き、生成した高分子量ポリエーテルポリエステルの熱に
よる劣化もほとんど起こらない。
【0043】反応圧は0.094 MPa 以上とするのがよい。
反応圧が0.094 MPa より小さいと、反応系は減圧状態と
なり、生成した高分子量ポリエーテルポリエステル中の
カルボキシル基とポリエステルアルキレンオキシド中の
水酸基等との間で副反応である脱水反応が促進され、副
生成物であるカルボキシル基がエステル化した生成物が
得られるため、高分子量ポリエーテルポリエステル分子
間のカルボキシル基やカルボン酸塩による凝集力が失わ
れ、皮膜強度が低下する。反応圧を大気圧より高くして
加圧状態で反応を行っても、生成する高分子量ポリエー
テルポリエステルへの悪影響は見られないため問題はな
いが、加圧反応を行うための製造設備にかかるコストが
増大する反面、加圧下で行うことによるメリットがほと
んど無いので、大気圧下での反応が好ましい。
【0044】4価カルボン酸無水物を用いた高分子量ポ
リエーテルポリエステルの合成でも、合成時または合成
後にカチオン供給源となる金属化合物またはアミンを添
加して、カルボン酸塩型の解離基を持つ、皮膜強度が向
上したポリマー生成物を得ることができ、その場合の金
属化合物やアミンの添加量は上記と同じでよい。
【0045】特に4価カルボン酸無水物を用いた高分子
量ポリエーテルポリエステルの合成を塊状重合で行う
と、反応初期は低粘度であるが、反応後期になると分子
量の増大とともに粘度が上昇して攪拌が困難になる。攪
拌を容易にするため、溶媒を使用して溶液重合で合成を
行ってもよい。
【0046】反応溶媒の具体例としては、ベンゼン、ト
ルエン、キシレン、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、酢
酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、テ
トラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アニソール、ア
セトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチル
プロピルケトン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩
化炭素、アセトニトリル、ピリジン、ジメチルホルムア
ミド、エチレンジアミン、プロピレンジアミン等を挙げ
ることができる。溶媒は1種または2種以上使用するこ
とができる。
【0047】溶液重合を行う場合の固形分濃度として
は、目的とする高分子量ポリエーテルポリエステルの分
子量にもよるが、質量%で5〜50%が目安となる。5%
より低濃度では、扱いは容易であるが、樹脂を取り出す
ための溶媒の除去に多大のエネルギーと時間を消費する
ため経済的でない。50%より高濃度では粘度低減効果が
大きくないため、一般的な製造装置では製造できない場
合がある。
【0048】本発明に係る金属塑性加工用潤滑剤組成物
は、以上に説明した水溶性樹脂だけを潤滑成分として含
有するものでもよいが、塑性加工時の潤滑効果をさらに
向上させるため、必要に応じて微粒子を混合することが
効果的である。微粒子をさらに含有させることにより、
樹脂皮膜のせん断強度および付着強度が高まるほか、加
工界面に微粒子が介在することにより金属間接触が抑制
され、焼付き防止効果が一層顕著になる。
【0049】本発明の潤滑剤組成物に使用できる微粒子
としては、例えば、マイカ、黒鉛、二硫化モリブデン、
二硫化タングステン、ステアリン酸カルシウム、ポリテ
トラフルオロエチレン(PTFE)その他の潤滑性樹脂、酸素
欠陥ペロブスカイト構造を持つ複合酸化物 (SrxCa1-xCu
y 等) のように、それ自体が潤滑性を有し、摩擦を軽
減させる作用が期待できるもの (いわゆる固形潤滑剤)
に加えて、摩擦係数を極端に低下させることなく金属間
直接接触を抑制して、焼付防止作用が期待できる、炭酸
塩、ケイ酸塩、酸化物、炭化物、窒化物、硫化物、フッ
化物、クラスターダイヤモンド、フラーレンC60 もしく
はC60 とC70 との混合物、等が挙げられる。
【0050】炭酸塩の例には、Na2CO3, CaCO3, MgCO3
どのアルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩があ
る。ケイ酸塩の例には、 MxOySiO2 (M:アルカリ金
属、アルカリ土類金属) がある。酸化物の例には、Al2O
3, TiO2, NiO, Cr2O3, CaO, ZnO, SnO, CdO, PbO, Bi2O
3, Li2O, K2O, Na2O, B2O3, SiO2, MnO2, ZrO2, Fe2O3,
Fe3O4, Y2O3, CeO2, Mn3O4, MgO, CuO, MoO3, In2O3, Z
rO2, SnO2, Nd2O3, Ho2O3などや、それらの複合酸化
物、例えば、Al2O3/MgO などがある。炭化物の例には、
SiC, TiCなどが、窒化物の例には、TiN, BN, AlN, Si3N
4 などが、硫化物の例には、PbS などが、フッ化物の例
には、CaF2, BaF2などがある。
【0051】必要に応じて使用する微粒子は、1種もし
くは2種以上を使用することができる。水溶性樹脂
(例、前述した高分子量ポリエーテルポリエステル)の
解離基が遊離形態(例、遊離カルボキシル基)である場
合には、この遊離基と反応性のある微粒子(例、金属化
合物)の使用は避けるか、遊離基との反応による微粒子
の溶解を見越して、その分だけ過剰に微粒子を使用す
る。
【0052】微粒子の量は、水溶性樹脂に対して合計で
80質量%以下とすることが好ましい。80質量%を超える
と、潤滑剤組成物全体の流動性や乾燥した際に皮膜のせ
ん断強度や付着強度が低下する。1質量%未満では微粒
子の添加効果が少ないことから、微粒子の添加量は1〜
80質量%の範囲がよく、付着強度の点からより好ましく
は1〜60質量%である。また、焼付き抑制、スリップ、
噛み込み不良防止の観点から、さらに好ましくは5〜50
質量%である。
【0053】微粒子は平均粒子径が 0.005〜10μmのも
のを使用することが好ましい。フレーク状の微粒子の場
合の平均粒子径は、最大粒子径の平均値とする。微粒子
の種類によっては、幅広い粒径分布を持つものもある
が、本発明においては体積で微粒子全体の80%が上記範
囲内に入っていれば所望の効果が得られる。微粒子の平
均粒子径が0.005 μm未満では、粒子同士が樹脂中で凝
集し易くなり均一分散が困難となるほか、使用後の粒子
の除去処理が難しくなる。一方、微粒子の平均粒径が10
μmを超えると、付着強度が低下する上、金属間接触に
よる焼付き防止効果が低下する。焼付き防止効果の点
で、微粒子の平均粒径は好ましくは 0.005〜5μm、よ
り好ましくは0.01〜2μmである。
【0054】上記の平均粒子径を有する微粒子は市販さ
れており、一緒に使用する水溶性樹脂への分散性等を考
慮して市販品の中から適宜選択すればよい。市販品 (カ
ッコ内は平均粒子径) の例としては、シーアイ化成製の
NanoTek から Al2O3 (33 nm)、TiO2 (30 nm)、Fe2O3 (2
1 nm) 、ZnO (31 nm) 、Y2O3 (20 nm)、CeO2 (11 nm)、
Mn3O4 (38 nm) 、SiO2 (12 nm)等、日本触媒製のシーホ
スターKE (非晶質シリカ) からP10 (70-130 nm) 、P50
(0.48-0.58μm)、P100 (0.9-1.1 μm)等、エスイーシー
製のSEC ファインパウダーSGP(高純度人造黒鉛3μm)、
日本アエロジル製のSiO2からAEROSIL 50 (30 nm)、AERO
SIL 200 (12 nm) 、AEROSIL 300 (7 nm)、Al2O3 からC
(13 nm) 、TiO2からT805やP25(共に21 nm)等、石原テク
ノ製の超微粒子酸化チタンからTTO-55(B)(30-50 nm)
等、神島化学工業製の活性炭酸カルシウムからカルシー
ズP (0.15 μm)、カルシーズPL10 (0.09μm)、PLS2301
(40nm) 、軽質炭酸カルシウムからEC (1.0-2.0 μm)
等、東京プログレスシステムから入手できるクラスター
ダイヤモンド(5 nm)等、ダイキン工業製のPTEFからルブ
ロンLDW-40 (0.18μm)、L-2 (5μm)等、三井・デュポン
フロロケミカルのテフロンからTLP-10F-1 (2μm)等、住
友セメント製のSiC (10 nm) 、ZrO2 (30 nm)、大阪造船
所製の二硫化モリブデンCパウダー(1.2μm)等が挙げら
れる。
【0055】微粒子と水溶性樹脂との混合方法は、微粒
子が均一に分散した混合物が得られる限り特に制限され
ない。微粒子が水溶性樹脂の合成に用いる反応成分と反
応性を持たない場合には、水溶性樹脂の合成時に微粒子
を含有させてもよい。微粒子を合成した水溶性樹脂と混
合する場合、溶融混練する方法や溶液状態で混合する方
法等が可能である。溶融混練する際の温度は特に制限さ
れないが、通常は100℃〜350 ℃で行うのが好ましい。
使用する樹脂にもよるが、100 ℃未満の場合には系の粘
度が非常に高く、混練に多大の動力を必要とする場合が
ある。混練温度が350 ℃を超えると、樹脂によっては劣
化する場合がある。溶液状態での混合は、水に水溶性樹
脂と固体微粒子とを同時に混合する方法や、水溶性樹脂
を水に溶解させた水溶液に固体微粒子を混合する方法に
より行うことができる。
【0056】本発明の金属の塑性加工用潤滑剤組成物に
は、前記微粒子以外にも、各種添加剤、例えば酸化防止
剤、腐食防止剤、防錆添加剤、増粘剤、分散剤、界面活
性剤、結晶核剤等から選んだ1種もしくは2種以上を含
有することができる。
【0057】本発明にかかる潤滑剤組成物が、水溶性樹
脂を主体としていることから、被加工材たる金属が炭素
鋼の場合には、潤滑剤組成物が発錆を防止するため防錆
添加剤を含有することが好ましい。例えば、三新化学工
業製のサンビットPMT のような水溶性防錆剤を潤滑剤組
成物に対して 0.1〜5.0 質量%程度の量で添加すればよ
い。
【0058】また、水溶性樹脂に対する微粒子の分散性
が悪い場合には、分散剤としてポリカルボン酸系やジプ
ロピレングリコールモノメチルエーテル等を使用するこ
とができる。例えば、共栄化学製のフローレンG-700 や
フローレンTG-745W 等を適宜使用すればよい。
【0059】本発明の塑性加工用潤滑剤組成物における
前記水溶性樹脂の配合量は、水溶性樹脂を前記微粒子の
バインダーとして使用する (即ち、潤滑性の主体は微粒
子となる) 場合には、1質量%以上であれば十分であ
る。しかし、この水溶性樹脂の本来の潤滑性を活かすた
めには、50〜100 質量%、好ましくは60〜100 質量%、
さらに好ましくは80〜100 質量%である。
【0060】本発明の塑性加工用潤滑剤組成物の利用形
態は特に制限されない。組成物中の樹脂の量がある程度
多ければ、この組成物を加熱して水溶性樹脂を溶融させ
ると、塗布可能な流動性のある溶融物が得られるので、
それを被加工材である金属の表面に塗布することができ
る。この方法を溶融塗布という。
【0061】別の、より普通の方法では、本発明の組成
物を適当な溶媒で希釈して樹脂を溶解させ、得られた液
状物を金属表面に塗布する。樹脂が水溶性であるので、
希釈溶媒として水を使用することが好ましい。この方法
を溶液塗布という。溶液塗布、特に水を溶媒とする溶液
塗布が、安全面および環境面からは好ましい。
【0062】金属表面への塗布手段は、ロール塗布、噴
霧、浸漬、ブラシ塗布、溶射等を含む慣用の塗布手段の
何れでもよく、被加工材の形状、溶液塗布か溶融塗布か
の種別、作業環境、生産規模等に応じて適宜選択すれば
よい。
【0063】溶融塗布と溶液塗布のいずれの場合でも、
金属表面の塗膜がまだ流動状態にある樹脂の固化前 (即
ち、溶融塗布の場合には樹脂の凝固前、溶液塗布の場合
には、溶媒が残っている、樹脂の乾燥前) の時点で、金
属の塑性加工を実施することができる。また、溶液塗布
の場合、乾燥温度を高くして、乾燥と同時に樹脂を溶融
させることができ、この樹脂の溶融状態で塑性加工して
もよい。本発明の潤滑剤組成物は、固形皮膜にしなくて
も (即ち、樹脂が溶融または溶液状態にあっても) 、金
属の塑性加工に十分な潤滑性を示すことができることが
わかった。それにより、潤滑剤組成物を塗布した後、直
ちに塑性加工を施すことが可能となり、作業効率が向上
し、コスト面でも有利となる。
【0064】もちろん、樹脂を固化させて (溶融塗布の
場合には冷却による凝固、溶液塗布の場合には乾燥によ
り) 、水溶性樹脂が結晶化した固形潤滑皮膜を形成して
から、塑性加工を実施することも可能である。その場合
には、被加工材となる金属の表面を、表面酸洗やショッ
トピーニング等の一般的な方法により粗面化処理をして
おくと、より高い皮膜の付着強度を実現できる。この時
の表面粗さは平均表面粗さRaが少なくとも0.4 μm以上
であることが好ましい。
【0065】溶液塗布の場合、溶媒で希釈した後の希釈
液の固形分濃度は、使用する樹脂の分子量にもよるが、
微粒子を除外した樹脂固形分の質量%で1〜50%程度が
適当である。樹脂固形分濃度が1%より低いと、固形皮
膜にする場合の乾燥に多大のエネルギーと時間を費やす
ことになり不経済であり、乾燥前に塑性加工する場合に
は、十分な潤滑性が得られないことがある。樹脂固形分
濃度が50%を超えると、液の粘度が非常に高く、金属表
面に対する塗布が効率的に行えない場合がある。塗布に
最適な粘度は 100〜10,000 cps程度であり、水溶液粘度
が低くて塗布が困難な場合は、一般的な増粘剤あるいは
ポリエーテル系樹脂と錯体を形成する尿素等の錯化剤を
添加することが効果的である。錯化剤は水溶性樹脂の合
成の途中で添加することもできる。
【0066】溶液塗布後に乾燥皮膜を形成する場合、乾
燥は70〜150 ℃程度の温度で30秒〜5分程度行うことが
好ましい。150 ℃より高温で長時間加熱すると、樹脂が
分解することがあり、70℃以下では乾燥に長時間がかか
り、生産効率が悪くなることがある。
【0067】本発明の潤滑剤組成物の塗布量は、この組
成物が微粒子を含まない場合、固化後の潤滑皮膜の膜厚
が1〜100 μmとなるようにすることが、優れた摩擦軽
減効果や焼付き防止効果を得るために好ましい。膜厚が
1μm未満では十分な潤滑効果が得られず、100 μmよ
り厚い皮膜を形成しても潤滑効果の顕著な向上が見られ
ないので経済的でない。より好ましい膜厚は5〜50μm
である。
【0068】潤滑剤組成物が微粒子を含む場合には、潤
滑皮膜の膜厚は500 μm程度まで厚くなってもよいが、
それを超えると潤滑効果は飽和し、不経済である上、皮
膜全体の強度も低下する。また、そもそもそのような厚
膜を形成させること自体容易ではなくなる。潤滑効果と
経済性の点で好ましい膜厚は10〜250 μmである。
【0069】塗膜が固化する前の流動状態にある間に塑
性加工を行う場合の塗布量は、乾燥後あるいは固化後の
潤滑皮膜が、計算上、上記の条件になるように決定すれ
ばよい。
【0070】前述したように、潤滑剤組成物を塗布した
後の塑性加工は、塗膜が固化する前の樹脂が溶融状態ま
たは溶液状態にある間に行っても、あるいは樹脂が固化
して結晶化し、固形皮膜となった後に行ってもよい。
【0071】作業効率やエネルギーコストの点からは、
溶液塗布後に未乾燥の状態で塑性加工を行うのが最も有
利である。但し、被加工材に対する溶液のハジキを考慮
すると、溶液粘度として最低0.1 Pa・sec 以上のものを
塗布に使用することが好ましい。
【0072】次に有利であるのは、溶融塗布後に未凝固
の状態で塑性加工する方法であり、結晶化工程を省略で
きる。この場合には、上述したハジキの問題もほとんど
なく、一般に上記方法より高い潤滑性が得られる。塑性
加工中に溶融樹脂が完全または部分的に凝固しても差し
支えない。
【0073】条件の厳しい加工の場合には、樹脂を固化
させて固形皮膜としてから塑性加工を行うことが好まし
い。この場合には、潤滑剤が被加工材に固定されて密着
するので、潤滑性能が最も高くなる傾向がある。本発明
で用いる水溶性樹脂は、固化すると結晶化する傾向があ
る。樹脂が結晶化した皮膜は、金属の塑性変形に対して
延伸されながら金属表面に追随できるため、加工の最後
まで十分な潤滑効果が持続し、潤滑性が高くなるものと
推測される。こうした皮膜強度を発揮させるためには、
樹脂の分子量が数平均分子量で30,000以上、好ましくは
50,000以上であるのが有利である。
【0074】本発明にかかる潤滑剤組成物は、板圧延、
管圧延、条鋼 (形鋼、棒線、線材)圧延、引抜き、鍛造
といった金属の冷間塑性加工に好適に利用できる。もち
ろん、塑性加工を受けない、単なる製品出荷時の防錆皮
膜処理としての用途や被加工材搬送時のローラー、ガイ
ドとの接触による疵防止のため表面保護および摩擦軽減
の用途として使用することもできる。いずれの場合も、
塑性加工後、あるいは塑性加工しない場合には皮膜が不
要になった場合、本発明の潤滑剤組成物から形成された
皮膜は水洗により簡単に除去することができる。
【0075】塑性加工を施す金属としては、炭素鋼、ス
テンレス鋼、アルミニウム、銅、チタン等の金属、それ
らの合金、それらの複層クラッドなど、塑性加工が可能
な任意の金属でよい。好ましくは、より高い密着性とそ
れによる潤滑効果の得られる炭素鋼やステンレス鋼に代
表される鋼である。
【0076】塑性加工用工具と被加工材との接触面の特
定個所において潤滑性を特に必要とするような塑性加
工、例えば、板圧延におけるロール通板エッジ部の焼付
や、管圧延における孔型ロールの管外形接触部での焼
付、の防止を目的とする場合には、その部位にだけ樹脂
皮膜が介在するようにすればよい。
【0077】冷間抽伸においては、抽伸用線材を本発明
に係る潤滑剤組成物の水溶液を入れたタンク内を通過さ
せるか、もしくはノズルを用いて線材に吹きつける等の
一般的な塗布方法により、該線材表面に該潤滑剤組成物
を塗布した後、必要に応じて100〜150 ℃の乾燥帯を通
過させ、所望厚みの皮膜を形成させた後、ダイスで抽伸
する。線材表面に残った皮膜は、その後の水洗いで完全
に除去される。
【0078】ハイドロフォーミング (液圧バルジ成形)
においては、被加工材である素管外面に本発明にかる潤
滑剤組成物を塗布、乾燥させた後、成形することにより
摩擦軽減、被加工材および金型表面の疵防止を達成する
ことができる。また、加工後、簡単な水洗いで樹脂皮膜
が除去されるため、リン酸亜鉛処理のような化成皮膜処
理に比べ、設備・ランニングコストの面でも有利とな
る。
【0079】
【実施例】以下、本発明に係る金属の塑性加工用潤滑剤
組成物とそれを用いた塑性加工方法を実施例に基づいて
具体的に説明する。実施例中、部はすべて質量部の意味
である。
【0080】まず、実施例の金属塑性加工用潤滑剤組成
物で使用する水溶性樹脂となる高分子量ポリヒドロキシ
ポリエーテルを次の製造例1〜6に示す方法で合成し
た。 (製造例1)1リットルの卓上ニーダーに、数平均分子量
14,000のポリエチレングリコールを500 部、ピロメリッ
ト酸二無水物を7.7 部 (ポリエチレングリコールの1倍
モル) および炭酸カルシウムを4.02部 (ピロメリット酸
二無水物の2倍モル) 仕込み、大気圧下で130 ℃、90分
間の反応を行った。得られた高分子量ポリエーテルポリ
エステルは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測
定結果から求めた数平均分子量が13.2万であり、反応成
分の使用量から計算して求めたエーテル結合含有量は2
2.4 meq/g、カルボン酸基含有量は0.14 meq/gであっ
た。このポリマーのカルボン酸基はすべてカルシウム塩
となっている。
【0081】(製造例2)1リットルの卓上ニーダーに、
数平均分子量13,000のポリエチレングリコールを500
部、およびピロメリット酸二無水物を7.5 部 (1倍モ
ル) を仕込み、大気圧下で145 ℃、30分間の化反応を行
った。得られた高分子量ポリエーテルポリエステルは、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定結果から求
めた数平均分子量が11.3万であり、計算値から、エーテ
ル結合22.3 meq/gおよびカルボン酸基0.15 meq/gであっ
た。カルボン酸基は遊離の状態である。
【0082】(製造例3)1リットルの卓上ニーダーに、
数平均分子量4,000 のポリエチレングリコールを500
部、ピロメリット酸二無水物を26.7部 (1倍モル) およ
び炭酸カルシウムを24.5部 (2倍モル) 仕込み、大気圧
下で120 ℃、2.5 時間の化反応を行った。得られた高分
子量ポリエーテルポリエステルは、ゲルパーミエーショ
ンクロマトグラフィ測定結果から求めた数平均分子量が
12.2万であり、計算値からエーテル結合21.5 meq/gおよ
びカルシウム塩として存在するカルボン酸基0.47 meq/g
であった。
【0083】(製造例4)1リットルの卓上ニーダーに、
数平均分子量4,000 のポリエチレングリコールを500
部、ピロメリット酸二無水物を26.7部および炭酸カルシ
ウムを24.5部仕込み、大気圧下で120 ℃、2.5 時間の反
応を行った。さらに尿素0.75部を添加し、120 で30分間
反応を続けた。得られた高分子量ポリエーテルポリエス
テルは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定結
果から数平均分子量が10.8万であり、計算値からエーテ
ル結合21.5 meq/gおよびカルシウム塩として存在するカ
ルボン酸基0.47 meq/gであった。
【0084】(製造例5)1リットルの卓上ニーダーに、
数平均分子量4,000 のポリエチレングリコールを500
部、ピロメリット酸二無水物を26.7部および炭酸カルシ
ウムを24.5部仕込み、大気圧下で110 ℃、1.5 時間の反
応を行った。得られた高分子量ポリエーテルポリエステ
ルは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定結果
から数平均分子量が7.3 万であり、計算値からエーテル
結合21.5 meq/gおよびカルシウム塩として存在するカル
ボン酸基0.47 meq/gであった。
【0085】(製造例6) 1リットルの卓上ニーダー
に、数平均分子量4,000 のポリエチレングリコールを50
0 部、ピロメリット酸二無水物を26.7部および炭酸カル
シウムを24.5部仕込み、大気圧下で110 ℃、1.5 時間の
反応を行った。その後、尿素50部を添加し、120 で30分
間反応を続けた。得られた高分子量ポリエーテルポリエ
ステルは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定
結果から数平均分子量が6.8 万であり、計算値からエー
テル結合21.5 meq/gおよびカルシウム塩として存在する
カルボン酸基0.47 meq/gであった。
【0086】また、比較例として次の製造例7および8
に示す高分子量ポリエーテルポリエステルを合成した。 (製造例7)1リットルの卓上ニーダーに、数平均分子量
500 のポリエチレングリコールを250 部、ピロメリット
酸二無水物を109 部 (1倍モル) および炭酸カルシウム
を100 部 (2倍モル) 仕込み、大気圧下で110 ℃、4.0
時間の反応を行った。得られた高分子量ポリエーテルポ
リエステルは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ
測定結果から数平均分子量が5.2 万であり、計算値から
エーテル結合15.4 meq/gおよびカルシウム塩として存在
するカルボン酸基2.7 meq/g であった。
【0087】(製造例8)1リットルの卓上ニーダーに、
数平均分子量100,000 のポリエチレングリコールを500
部、ピロメリット酸二無水物を1.1 部 (1倍モル) およ
び炭酸カルシウムを1.0 部 (2倍モル) 仕込み、大気圧
下で130 ℃、90分間の反応を行った。得られた高分子量
ポリエーテルポリエステルは、ゲルパーミエーションク
ロマトグラフィ測定結果から数平均分子量が19.2万であ
り、計算値からエーテル結合22.7meq/gおよびカルシウ
ム塩として存在するカルボン酸基0.02 meq/gであった。
【0088】さらに、以下の水溶性樹脂を入手して従来
例とし、潤滑性を比較した。 (従来例1)日本触媒製CX-PD2000 (ポリジオキソラン) (従来例2)クラレ製PVA-217 (ポリビニルアルコール) (従来例3)和光純薬工業製CMC (カルボキシメチルセル
ロース) 表1に、以上の製造例および従来例の潤滑剤組成物中の
水溶性樹脂のエーテル結合と解離基の含有量を整理して
示す。
【0089】
【表1】
【0090】(実施例1)上の製造例および従来例に記載
した、表1に示す水溶性樹脂を、表2に示すような割合
の水および場合により微粒子と混合して樹脂を水に溶解
させ、表2に示すNo.1〜26および31〜35の溶液塗布用の
潤滑剤組成物 (%はすべて質量%) を調製した。微粒子
を混合する場合、ペイントシェーカーを使って微粒子を
均一に分散させた。
【0091】表2に示したNo. 27〜30は、水溶性樹脂単
独、または水溶性樹脂に予め微粒子を溶融混練した混合
物を溶融塗布量の潤滑剤組成物として使用した例であ
る。これらの表2に示す各潤滑剤組成物を、以下に説明
するリング圧縮試験により、皮膜の付着強度、潤滑性
(摩擦係数、焼付き程度) 、水による洗浄性について調
べた。これらの試験結果も表2に併記する。
【0092】リング圧縮試験は、リング状試験片の表裏
面に潤滑剤を塗布した後、所定の圧縮変形を加える試験
である。実験に用いたリング状試験片の初期の寸法は、
外径20 mm 、内径10 mm 、厚み5mmで、材質はステンレ
ス鋼(SUS 304) である。このリング試験片は、予め粗面
化処理として酸洗を施すことにより、表面粗さを0.40μ
m Ra にしておいた。
【0093】樹脂を水に溶解させたNo.1〜26、31〜35の
溶液塗布用潤滑剤組成物については、これをリング状試
験片の両面に刷毛により塗布し、No.25, 26 を除いて、
100℃の熱風で強制乾燥させて樹脂皮膜を形成した。そ
の後、潤滑処理したリング状試験片を工具材 (SKD11)で
できた冶具で挟んで、材料試験機により圧縮した。この
方法で形成された樹脂皮膜の膜厚は10〜30μmの範囲内
であった。No.25, 26では、潤滑剤組成物を同様に塗布
した後、乾燥させずに、濡れた塗膜のまま、上記のよう
に治具で挟んで材料試験機により圧縮した。
【0094】No. 27〜30の、水で希釈しなかった溶融塗
布用の潤滑剤組成物については、これを水溶性樹脂の融
点以上である120 ℃の温度に加熱して樹脂を流動化させ
た後、リング状試験片の両面に刷毛により塗布した。N
o.27, 28 では、塗布後に自然冷却により樹脂皮膜を形
成させた後、上記と同様に冶具に挟んで材料試験機によ
り圧縮した。この場合の樹脂皮膜の膜厚は30〜60μmの
範囲内であった。No.29,30 では、溶融塗膜が凝固する
前に、治具に挟んで材料試験機による圧縮を行った。
【0095】リング状試験片に皮膜を形成した場合の各
樹脂皮膜の付着強度は、圧縮前のリング状試験片を用い
て、ダイプラ・ウィンテス製のSAICAS BN-1 により別途
測定した。
【0096】リング試験片の軸方向圧縮加工率は、約45
%を目標にした。圧縮平均速度は2mm/minとした。この
条件で1回圧縮した後、変形した試験片の内径変化率か
ら、工藤によるエネルギ法を適用して摩擦係数を算出し
た。
【0097】圧縮試験後のリング状試験片を水洗いし
て、樹脂皮膜の洗浄性を調べた。洗浄後のリング状試験
片の目視検査で、樹脂皮膜が全く残っていない場合を洗
浄性が良好 (○) 、ごく一部 (面積率で10%以下) が残
っている場合をやや不良 (△)、それより多い樹脂皮膜
が残っている場合を不良 (×) と評価した。
【0098】また、この洗浄後の樹脂皮膜を除去した試
験片の表面観察から、焼付きによる疵の有無やその長さ
を調べて、次の基準で焼付きの程度を評価した: ◎:焼付なし、 ○:軽微(1/4円周以内の疵) 、 △:中(1/2円周以内の疵) 、 ×:大(/2 円周以上の疵) 。
【0099】
【表2】
【0100】表2からわかるように、エーテル結合と解
離基の含有量がいずれも本発明の範囲である水溶性樹脂
を含有するNo.1〜30の潤滑剤組成物は、そうでないNo.
31〜35の潤滑剤組成物に比べて、付着強度が高く (皮膜
形成した場合) 、摩擦係数が低く、耐焼付き性にも優れ
ていることがわかる。
【0101】また、水溶性樹脂に微粒子を添加すること
により潤滑性 (摩擦係数、焼付き程度) が一層改善され
ることもNo.1, 25とNo.7〜24, 26とを比較することによ
りわかる。洗浄性に関しては、本発明例の潤滑剤組成物
はいずれも問題なかった。また、No. 27〜30から、溶液
塗布または溶融塗布した後に皮膜形成せずに、樹脂が溶
液状態または溶融状態のまま塑性加工を実施しても、摩
擦係数の低下や焼付きの防止が得られ、潤滑効果がある
ことがわかる。潤滑性の程度は、皮膜を固化させた場合
が最も高く、次に樹脂が溶融状態、その次に樹脂が溶液
状態、の順であった。
【0102】(実施例2)小型抽伸機により線材を冷間抽
伸する際の本発明に係る潤滑剤組成物の使用を例示す
る。被加工材となる線材は、炭素鋼 (S45C) とステンレ
ス鋼 (SUS304) であり、その寸法は直径9 mm×長さ2,00
0 mmである。試験に用いる線材は、予め酸洗により粗面
化処理を施した。ダイスの口径は直径7mmであり、加工
後の減面率は30.6%となる。
【0103】本発明に係る潤滑剤組成物としては表2の
No.1とNo.24 の組成物を使用した。炭素鋼の抽伸時に
は、錆防止のため潤滑剤組成物の水を含む全量に対して
1.0 質量%の割合で水溶性防錆剤として三新化学工業製
のサンビットPMT を加えた。
【0104】比較として、一般市販の冷間引抜き油 (主
な成分は、脂肪酸15質量%、硫化油脂70質量%) と、表
2の比較例であるNo.32 の潤滑剤組成物を準備した。試
験No.1, 24および32の水溶性樹脂を含む潤滑剤組成物を
用いた塑性加工方法を図1に示す。まず、被加工材であ
る線材を、潤滑剤組成物を収容したタンクに浸漬した
後、約150 ℃の均熱炉中を通過させて乾燥し、樹脂皮膜
を形成した。樹脂皮膜の厚みはいずれも約30μmであっ
た。その後、ダイスで抽伸を行った。
【0105】冷間引抜き油については、ダイス抽伸の直
前に線材表面に十分な量を原液のまま供給して使用し
た。加工後の線材表面の状態を調査したところ、炭素鋼
の抽伸では、冷間引抜き油と比較例のNo.32 の潤滑剤組
成物を使用した場合には、線材表面に線状の焼付き疵を
発生したのに対し、本発明に係るNo.1と24の潤滑剤組成
物では、焼付き等の表面疵を発生させずに抽伸できるこ
とを確認した。また、水による洗浄によって、残存した
水溶性樹脂または微粒子は完全に除去されることも確認
した。比較例のNo.32 では、抽伸後の金属表面の観察か
ら樹脂皮膜がほとんど残存しておらず、樹脂皮膜の金属
への付着性が悪いため、ダイス内に金属と共にほとんど
樹脂が引き込まれず、潤滑効果が発揮されなかったもの
と考えられる。
【0106】抽伸に必要な荷重も、本発明例のNo.1およ
び24の潤滑剤組成物では、冷間引抜き油使用時のそれに
比べて、それぞれ10%および25%の荷重が軽減されてい
ることが確認された。
【0107】ステンレス鋼線材の抽伸においては、減面
率30.6%では、冷間引抜き油と比較例のNo.32 の潤滑剤
組成物では、焼付きのために摩擦係数が高くなり、線材
が途中で破断して抽伸できなかった。それに対し、本発
明例のNo.1と24の潤滑剤組成物では、最後まで抽伸が可
能であった。また、微粒子を含有しているNo. 24の方
が、No.1に比べて、表面粗さが小さく、より品質の高い
線材が得られていることも確認された。
【0108】このように、本発明の潤滑剤組成物を使用
すると、従来の潤滑法では金属の塑性加工が困難とされ
ていた高減面率においても塑性加工が可能となり、それ
によって得られる金属製品の表面品質も高いことが立証
された。また、加工後、線材表面に残った樹脂および微
粒子は、洗浄水によって完全に洗い流されることも確認
した。
【0109】
【発明の効果】以上説明した通り、本発明の潤滑剤組成
物を使用すると、冷間における金属の塑性加工におい
て、被加工材たる金属に対する付着強度の高い潤滑性の
樹脂皮膜が形成され、焼付きが発生しやすい厳しい加工
条件においても優れた潤滑性を発揮し、塑性加工時の摩
擦軽減、工具の寿命延長や製品品質の向上を実現でき
る。この潤滑剤組成物は、皮膜形成せずに、樹脂が溶液
または溶融状態にある間に塑性加工を実施しても、かな
りの潤滑性を発揮することができ、それにより皮膜形成
に要する工程を省略することができる。
【0110】また、本発明によると、塑性加工時にスリ
ップや噛み込み不良等のトラブルを効果的に防止するこ
ともできる。さらに、本発明の潤滑剤組成物は、塑性加
工における潤滑だけでなく、単なる製品出荷時の防錆皮
膜処理としての用途や被加工材搬送用ロールの疵防止の
ための表面保護および摩擦軽減の用途としても使用する
ことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で採用した線材の連続伸線工程を例示す
る説明図である。
【符号の説明】
1:潤滑剤組成物、13:潤滑剤タンク、14:ダイス、1
5:水洗装置、16:乾燥装置、17:金属 (線材)
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) C10M 125/20 C10M 125/20 125/22 125/22 125/30 125/30 129/40 129/40 145/24 145/24 147/02 147/02 // B21C 9/00 B21C 9/00 K B21D 37/18 B21D 37/18 C10N 10:02 C10N 10:02 10:04 10:04 10:06 10:06 10:08 10:08 10:10 10:10 10:12 10:12 10:14 10:14 10:16 10:16 20:00 20:00 Z 20:06 20:06 Z 30:06 30:06 30:12 30:12 40:24 40:24 Z 50:02 50:02 (72)発明者 井澤 勝 大阪府大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友金属工業株式会社内 (72)発明者 山本 宣延 大阪府吹田市西御旅町5番8号 株式会社 日本触媒機能開発研究所内 (72)発明者 松下 輝紀 大阪府吹田市西御旅町5番8号 株式会社 日本触媒機能開発研究所内 Fターム(参考) 4E050 HA01 4E096 JA08 JA13 4H104 AA01 AA04 AA13 AA16 AA17 AA19 AA21 AA24 BB17 CB14 CD02 EA08 EA17 EA21 FA01 FA02 FA03 FA04 FA05 FA06 FA07 FA08 LA03 LA06 PA23 QA01 QA08

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 17〜23 meq/gの範囲のエーテル結合と0.
    03〜2 meq/g の範囲の解離基とを有する水溶性樹脂を含
    有することを特徴とする、金属の塑性加工用潤滑剤組成
    物。
  2. 【請求項2】 前記水溶性樹脂が、ポリアルキレンオキ
    シドと、4価カルボン酸またはその塩もしくは無水物、
    とを反応させて得られる高分子量ポリエーテルポリエス
    テルである、請求項1記載の潤滑剤組成物。
  3. 【請求項3】 前記高分子量ポリエーテルポリエステル
    が下記一般式(1) 【化1】 (式中、R1 は炭素数2〜6の2価有機基、Rは炭素数
    4 〜20の4価有機基であり、M1 およびM2 はそれぞれ
    水素原子、金属原子、アンモニウム基および有機アンモ
    ニウム基から選ばれ、nは25〜700 の範囲の数である)
    で示されるものである、請求項2記載の潤滑剤組成物。
  4. 【請求項4】 さらに微粒子を含有する請求項1〜3の
    いずれかに記載の潤滑剤組成物。
  5. 【請求項5】 請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑剤
    組成物を水と混合して樹脂を溶解させてから金属表面に
    塗布し、該金属を塑性加工することを特徴とする、金属
    の塑性加工方法。
  6. 【請求項6】 請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑剤
    組成物を、該水溶性樹脂の融点以上の温度で金属表面に
    塗布し、該金属を塑性加工することを特徴とする、金属
    の塑性加工方法。
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