JP3705666B2 - 有機白金インク - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミックスやガラス製品等の装飾、導電回路の形成、センサーの集電電極の形成等に使用しうる有機白金インクに関する。
【0002】
【従来の技術】
セラミックやガラス製品の表面に、装飾効果を高め、より審美的な雰囲気を醸し出すために、従来から貴金属インクを用いて文字、図形等を施すことが行われている。貴金属インクは、基本的には、金、白金、銀等の貴金属の化合物、樹脂バインダ及び溶剤からなり、白金インクに含まれる白金化合物としては、硫化バルサムと白金の化合物を主成分とする「水白金」、白金ピネンメルカプチド(特公平7−65014号公報)、白金精油メルカプチド(特公平7−65015号公報)等が知られている。
【0003】
しかし、これらの白金化合物はClやS等の元素を含有しており、該白金化合物を含有する白金インクをセラミックスやガラス製品上に施し、乾燥後焼成することによって形成される白金薄膜は密着性に乏しく、黒点状の残渣物が残ることがある等の欠点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、形成された白金薄膜のセラミックスやガラス製品等の表面に対する密着性に優れ、白金薄膜中に黒点状の残渣物が生ずることのない有機白金インクを提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の目的を、有機白金インクにおける白金化合物として、或る種の特定の白金アルコキシド錯体を使用することにより達成したものである。
【0006】
すなわち、本発明は、白金化合物、樹脂バインダー及び溶剤を含有してなる有機白金インクにおいて、該白金化合物が式
[Pt(NH3)x(NO2)y(OCnH2n+1)]Az (I)
式中、
AはH、NO2又はNO3を表わし、
nは1〜4の整数であり、
xは0、1又は2であり、
yは1、2又は3であり、
(x+y)は中心白金の電荷によって変化し、3〜5の範囲内の整数であり、
zは中心金属の電荷によって変化し、(x−3)〜(x−1)の範囲内の整数である、
で示される白金アルコキシド錯体であることを特徴とする有機白金インクを提供するものである。
【0007】
上記式(I)において、アルコキシ基(OCnH2n+1)は、直鎖状または分岐鎖状のいずれであってもよく、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ等が挙げられる。また、中心白金は2価又は4価の電荷をとることができる。
【0008】
しかして、上記式(I)の白金アルコキシド錯体の具体例としては次のものを挙げることができる。
【0009】
Pt(IV)(NH3)2(NO2)3(OC2H5)
Pt(IV)(NH3)3(OC2H5)
Pt(IV)(NH3)2(NO2)2(OC2H5)(NO3)
Pt(II)(NH3)(NO2)(OC2H5)
[Pt(II)(NH3)(NO2)2(OC2H5)]H
[Pt(II)(NO2)3(OC2H5)]H2、など。
【0010】
前記式(I)で示される白金アルコキシド錯体は、例えば、2価のジニトロアンミン白金塩を硝酸に溶解し反応させて、4価の白金錯体を生成せしめた後、アルコールと反応させることにより製造することができる。
【0011】
ここで出発原料として使用される2価のジニトロジアンミン白金塩は、それ自体概知の化合物であり、例えば白金を王水溶解し、その後脱硝を行い塩化白金酸水溶液とした後、亜硝酸を加え煮沸して亜硝酸白金溶液を得、次いでこの溶液にアンモニア水を加え反応させることにより製造することができる。上記の2価のジニトロジアンミン白金塩は平面4配位錯体であり、シス型及びトランス型の形態を持つが、式(I)の白金アルコキシド錯体を製造するにあたっては、いずれの形態の錯体を用いてもよくまたはその混合物を用いてもよく、あるいは市販品を用いることも可能である。
【0012】
このようにして得られる2価のジニトロジアンミン白金塩は、硝酸水溶液、通常、濃度が200〜700g/lの硝酸水溶液中に、60〜112℃において溶解し、約3〜16時間維持することにより、4価の白金錯体、例えばトリニトロジアンミン白金塩を生成させることができる。より具体的には、白金換算で350〜600g/lのジニトロジアンミン白金塩を、硝酸濃度が450〜700g/lの硝酸水溶液に溶解し、該溶液を常圧で107℃以上の煮沸条件下に3〜6時間維持することにより、4価の白金錯体を得ることができる。この4価の白金錯体の生成は、JIS−K8153に記載の方法に従い、JIS特級試薬に該当する塩化白金酸6水和物の吸光度と対比することにより確認することができ、その生成量は、通常、塩化白金酸6水和物の吸光度を100とした相対吸光度で92〜94%程度である。
【0013】
得られる4価の白金錯体溶液は、次いで、アルコールと反応させた後、乾固させるのが好ましい。例えば、4価の白金錯体溶液とアルコールとの反応は、両者を混合し、約20〜約50℃の温度に保持することにより行うことができる。その際のアルコールの使用量は厳密に制限されるものではないが、通常、4価の白金錯体中の白金重量に基づいて0.5〜20倍、好ましくは2〜15倍の重量で用いるのが適当である。
【0014】
この反応において、4価の白金錯体中の白金イオンがアルコールにより還元され、それと同時にアルコールは反応条件に依存してその一部はアルデヒド及び/又はカルボン酸に変化し、これらはそれぞれアルコキシ基、アルカノイル基、アルカノイルオキシ基として錯体中に導入させる。ここでアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコール等が挙げられ、中でもエタノールが好適である。
【0015】
次に、該溶液は、例えばロータリーエバポレーター等の乾燥機を用い、約25〜約80℃、好ましくは約35〜約60℃の温度で減圧下にて濃縮乾固し、白金アルコキシド錯体を粉末の形で得ることができる。
【0016】
かくして得られる白金アルコキシド錯体は、製造条件に応じて、アルコキシ基が対応する炭素数のアルカノイル基又はアルカノイルオキシ基と置き換った白金ニトロアンミン錯体、例えば
Pt(IV)(NH3)2(NO2)3(COCH3)
Pt(II)(NH3)2(NO2)(COCH3)
[Pt(II)(NH3)(NO2)2(COCH3)]H
Pt(IV)(NH3)2(NO2)3(OCOCH3)
Pt(II)(NH3)2(NO2)(OCOCH3)
[Pt(II)(NH3)(NO2)2(OCOCH3)]H
などを含むことがあるが、そのような白金ニトロアンミン錯体を含む白金アルコキシド錯体もまた、本発明において白金化合物として使用することができる。
【0017】
以上に述べた如くして取得しうる式(I)の白金アルコキシド錯体は、樹脂バインダー及び溶剤と混合することにより有機白金インクとすることができる。
【0018】
このインクの調製に使用しうる樹脂バインダーとしては、従来から貴金属インクに用いられているものが同様に使用可能であり、例えば、アクリル系樹脂、アルキド樹脂(例えば、アマニ油又はロジン変性アルキド樹脂)、フェノール樹脂(例えばノボラック樹脂)、尿素樹脂(例えばブチル化尿素樹脂)、セルロース誘導体(例えばメチルセルロース)、ロジン誘導体(例えばロジングリセリンエステル、水素添加ロジンのメチルエステル、マレイン酸変性ロジンエステル)、テルペン系樹脂(例えばテルペン重合体)、α−ピネン重合体)等が挙げられる。中でも特にアクリル系樹脂が好適である。
【0019】
また、溶剤としては、用いる樹脂バインダーを溶解しうるものが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の低級アルコール;リナロール、メントール、テルピネオール、カルペオール等のテルペンアルコールなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上混合して用いることができる。本発明においては、特に、テルピネオールとエタノールとの混合溶剤が好適である。
【0020】
本発明の有機白金インクには、さらに必要に応じて、樹脂酸の金属塩、例えば、金塩、銀塩、パラジウム塩、ロジウム塩、ルテニウム塩等の貴金属塩;クロム塩、ビスマス塩、スズ塩等の卑金属塩を配合することができる。さらに、酸化銅、酸化リチウム、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の金属酸化物や、金、銅、リチウム、ケイ素、ビスマス、バナジウム等の金属の水酸化物を添加してもよい。本発明の有機白金インクにおける前記式(I)の白金アルコキシド錯体の濃度は、インクの用途、該錯体の種類等に応じて広範囲にわたって変えることができるが、通常、インクの重量に基いて10〜75重量%、特に30〜65重量%の範囲内が好適である。また、樹脂バインダーの濃度は、一般に25〜90重量%、好ましくは35〜70重量%の範囲内とすることができる。樹脂酸の金属塩を用いる場合、その濃度は大体0.1〜5重量%程度とするのが適当である。
【0021】
【実施例】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0022】
実施例1
組成
白金アルコキシド錯体(註1) 10wt%
アクリル樹脂(註2) 25wt%
テルピオネール 60wt%
エタノール 5wt%
上記割合の各成分を3本ロールにて混練し、有機白金インクを得た。
【0023】
(註1) 白金エトキシド錯体
(註2) 三菱レイヨン製 アクリル樹脂 BR105
実施例2
組成
白金アルコキシド錯体(註3) 10.0wt%
アクリル樹脂(註4) 25.0wt%
樹脂酸ロジウム 0.03wt%
樹脂酸ビスマス 0.1wt%
テルピオネール 60.0wt%
エタノール 残部
上記割合の各成分を3本ロールにて混練し有機白金インクを得た。
【0024】
(註3) 白金エトキシド錯体
(註4) 三菱レイヨン製 アクリル樹脂 BR105
比較例1
実施例2における白金アルコキシド錯体の代りに、同量の水白金を用いる以外、実施例2と同様に処理して、有機白金インクを得た。
【0025】
<密着性試験>
上記の実施例及び比較例で得られた有機白金インクのガラス製品への密着性を以下の如くして評価した。
【0026】
有機白金インクを大きさ50×50mmで板厚2.0mmの硼硅酸ガラスに刷毛で塗布し、550℃で15分間加熱して焼成した。硼硅酸ガラス表面に形成された白金膜の密着性を、JIS H8504に準じたテープ試験方法で実施した。テープ試験後の白金膜の剥離割合を求めた結果、下記表−1に示すとおりであった。
【0027】
【表1】
【0028】
また、実施例1及び実施例2の有機白金インクを用いて形成された白金膜はきれいな表面状態であったが、比較例1の有機白金インクを用いて形成された白金膜中には黒点状のものが点在していた。
【0029】
実施例3
組成
白金アルコキシド白金錯体(註5) 12.0wt%
アクリル樹脂(註6) 25.0wt%
樹脂酸ロジウム 0.02wt%
樹脂酸ビスマス 0.05wt%
水酸化硅素 0.3wt%
テルピオネール 55.0wt%
エタノール 残部
上記割合の各成分を3本ロールで混練して有機白金インクを得た。
【0030】
(註5) 白金エトキシド錯体
(註6) 三菱レイヨン製 アクリル樹脂 BR105
得られた有機白金インクを陶器に刷毛で塗布し、750℃で15分間加熱して焼成し、陶器表面に形成された白金膜の密着性を、JIS H8504に準じたテープ試験方法で実施した結果、剥離が認められず良好であった。
【0031】
【発明の効果】
本発明の有機白金インクは、白金源として、ClやSの有害元素を含有していない白金アルコキシド錯体を使用することにより、セラミックスやガラス製品上への密着性が良好で、また、白金薄膜中に黒点状の残渣物が生じない白金膜を形成せしめることができ、装飾用及び工業用白金インクとして好適に使用することができる。
Claims (1)
- 白金化合物、樹脂バインダー及び溶剤を含有してなる有機白金インクにおいて、該白金化合物が式
[Pt(NH3)x(NO2)y(OCnH2n+1)]Az (I)
式中、
AはH、NO2又はNO3を表わし、
nは1〜4の整数であり、
xは0、1又は2であり、
yは1、2又は3であり、
(x+y)は中心白金の電荷によって変化し、3〜5の範囲内の整数であり、
zは中心金属の電荷によって変化し、(x−3)〜(x−1)の範囲内の整数である、
で示される白金アルコキシド錯体であることを特徴とする有機白金インク。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2728797A JP3705666B2 (ja) | 1997-01-28 | 1997-01-28 | 有機白金インク |
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---|---|---|---|
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Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH10212442A JPH10212442A (ja) | 1998-08-11 |
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ID=12216872
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2728797A Expired - Fee Related JP3705666B2 (ja) | 1997-01-28 | 1997-01-28 | 有機白金インク |
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TR201818865T4 (tr) * | 2014-10-13 | 2019-01-21 | Heraeus Deutschland Gmbh & Co Kg | Bakır Renkli Boya |
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1997
- 1997-01-28 JP JP2728797A patent/JP3705666B2/ja not_active Expired - Fee Related
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