JP3704728B2 - 1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランの製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、無水マレイン酸、マレイン酸、無水コハク酸、コハク酸、γ−ブチロラクトン又はこれらの混合物を原料とし、接触水素化反応により1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランを製造する方法に関する。1,4−ブタンジオールは、主にポリブチレンテレフタレートやポリウレタン等のプラスチック原料として使用されるほか、ピロリジン、アジピン酸等の製造中間体等として使用されている。また、テトラヒドロフランは、沸点が低く優れた溶解力をもつため溶媒として使用されるほか、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、テトラヒドロチオフェン等の原料として使用されている。
【0002】
【従来の技術】
従来、無水マレイン酸等の含酸素C4炭化水素を水素化する方法は数多く報告されている。
例えば、最も良く知られている方法として、銅系の触媒を用いる方法がある。しかしながら、この方法では、マレイン酸等の有機カルボン酸を直接還元することができず、カルボン酸を一旦エステルに転換後還元しなければならないので、製造工程が長くなる。また、この方法では、一般に200気圧以上の水素圧下で反応を行うので、エネルギー的にも設備的にも不経済な方法である。
【0003】
一方、マレイン酸等のカルボン酸を直接還元できる触媒もいくつか提案されている。例えば、特開昭63−218636号公報及び米国特許4,659,686号明細書には、活性炭に担持したパラジウム−レニウム触媒を用いてマレイン酸水溶液からテトラヒドロフラン又はγ−ブチロラクトンを製造する方法が記載されている。しかしながら、特開昭63−218636号公報に記載の方法では反応基質濃度が低く、米国特許4,659,686号明細書に記載の方法では、反応を行う際に150気圧以上の水素圧力が必要であるという欠点がある。
【0004】
また、米国特許4,827,001号明細書には、ルテニウム−鉄酸化物を触媒としてマレイン酸を直接還元する方法が提案されているが、この方法においては、1,4−ブタンジオール、テトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトンの選択率が十分でない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このように、従来、マレイン酸等の水素化反応においては、反応性を高めるために比較的高い水素圧の条件下又は低基質濃度の条件下で反応を行う必要があった。従って、本発明は反応活性の高い触媒を用いてマレイン酸等を水素化して、1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランを製造する方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明方法では、無水マレイン酸、マレイン酸、無水コハク酸、コハク酸、γ−ブチロラクトン又はこれらの混合物を原料とし、接触水素化反応により1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランを製造するに際し、白金(以下、「Pt」と表記する)及びロジウム(以下、「Rh」と表記する)から選ばれた少なくとも1種、ルテニウム(以下、「Ru」と表記する)並びに錫を担体に担持してなる触媒を用いることを特徴とする。
【0007】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明方法では、無水マレイン酸、マレイン酸、無水コハク酸、コハク酸、γ−ブチロラクトン又はこれらの混合物を反応原料とする。本発明方法では、推定される反応機構及び反応生成物の分析結果等からみて、(無水)マレイン酸が水素添加されて、(無水)コハク酸となり、次いで、γ−ブチロラクトンとなり、更に最終生成物として、1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランを生成するものと推定される。従って、本発明では、上記の化合物のいずれをも反応原料として用いることができるし、これらの2種以上の混合物であってもよい。
【0008】
本発明方法においては、Pt及びRhの少なくとも1種(以下、Ru、Pt、Rhを総称して、「貴金属成分」とする。)、Ru並びに錫を担体に担持してなる触媒を使用する。担体としては、活性炭、けいそう土、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の多孔質担体を単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0009】
触媒の調整法は特に制限はないが、通常、浸漬法が採用される。浸漬法によるときは、例えば、触媒原料化合物の上記貴金属成分の化合物及び錫化合物を溶解可能な溶媒、例えば、水に溶解して溶液とし、この溶液に別途調整した多孔質担体を浸漬して、担体に貴金属成分及び錫からなる触媒成分を担持させる方法がある。
【0010】
担体に各触媒成分を担持する順序については特に制限はなく、全ての金属成分を一度に同時に担持しても、各成分を個別に1つずつ担持しても、または成分のいくつかを組み合わせて複数回にわたって担持しても、本発明の効果は達成される。しかし、その中でも特に、まずRuと錫とを担体に担持し、次にPt及びRhから選ばれる少なくとも1種を追加して担体に担持すると、本発明の効果を更に高めることができる。Pt及びRhから選ばれた少なくとも1種をRuと錫の後から担持することによる反応活性向上の原因は、詳細には分かっていないが、水素の活性化能、又は水素化反応活性の高いPt、又はRhを他の成分よりも後から担持することで、これらの金属成分が触媒表面に担持され、この表面の金属成分が水素化反応において有効に機能しているためと考えられる。
【0011】
触媒成分の溶液を浸漬担持した後には(複数回にわたって浸漬担持処理を行う場合には、その都度)、乾燥する。該乾燥は、例えば減圧下、50〜100℃の温度条件下で処理した後、アルゴンガス等の不活性ガス気流下、100〜150℃の温度条件下で処理すること等によって行う。その後、必要に応じて焼成、還元処理を行う。焼成処理を行う場合には、通常100〜600℃の温度範囲で行われる。また、還元処理を行う場合には、公知の液相還元法、気相還元法が採用されるが、気相還元法の場合、通常100〜500℃の温度範囲、好ましくは200〜350℃の範囲で行われる。還元処理を行った後の触媒の構造に関しては、その詳細は不明であるが、上記のような還元条件では、貴金属成分は実質的に全てが金属に還元されると推定され、錫は、一部分が2価又は4価で残存すると推定される。
【0012】
貴金属成分(RuとPt又はRhの合計量)及び錫の担持量は、それぞれ金属元素換算で担体に対して、通常0.5〜50重量%、好ましくは1〜20重量%である。Pt及び/又はRhは、Ruに対して0.01〜10重量倍量共存させるのが活性向上の観点から好ましい。錫は、貴金属成分に対して、通常0.1〜5重量倍量共存させるのが、生成物の選択性向上の観点から好ましい。なお、貴金属成分と錫の原料化合物としては、それらの金属の硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸塩が一般的に使用されるが、酢酸等の有機酸塩、水酸化物、酸化物又は錯塩も使用することもできる。これらの原料化合物としては、担体に浸漬担持する際に使用する溶媒、例えば水等に可溶性のものが良く、例えば、塩化ルテニウム、塩化ロジウム、塩化スズ、硝酸ロジウム、酢酸錫、ヘキサクロロ白金酸等が挙げられる。
【0013】
本発明方法によって、1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランを製造するには、通常、温度130〜350℃、好ましくは160〜300℃、水素圧10〜300kg/cm2、好ましくは50〜200kg/cm2の条件が採用される。回分反応の場合には、使用される触媒の量は、無水マレイン酸等の反応原料100重量部に対し0.1〜100重量部であることが望ましいが、反応温度又は反応圧力等の諸条件に応じ、実用的な反応速度が得られる範囲内で任意に選ぶことができる。
【0014】
反応方式は、液相懸濁反応又は固定床反応のいずれであってもよい。また反応は、無溶媒で行ってもよいし、必要に応じて、反応に悪影響を与えない種類の溶媒を使用してもよい。この際使用できる溶媒としては、特に制限されないが、具体的には、水;メタノール、エタノール、オクタノール、ドデカノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;その他、ヘキサン、シクロヘキサン、デカリン等の炭化水素類が挙げられる。
【0015】
なお、反応で生成した1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランは、蒸留等の公知の方法により分離精製される。また、この分離精製後に残る未反応原料又は反応中間体としてのγ−ブチロラクトン等は、反応原料として再使用することができる。
【0016】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない、
なお、以下において「%」は「重量%」を示す。
実施例1
容量30mlのサンプル瓶に、RuCl3・3H2Oを0.790g、H2PtCl6・6H2Oを0.228g、SnCl2・2H2Oを0.476gそれぞれ秤量して入れ、更に5N−HCl水溶液を1.8ml入れて溶解後、担体としてSiO2(富士デヴィソン社製品、スペシャルグレード12、比表面積679m2/g、細孔容量0.37ml/g)を4.36g加え、よく振とうした。その後内容物を容量100mlナス型フラスコに移し、回転減圧乾燥器で60℃、25mmHg下で溶媒の水を除去した後、窒素雰囲気下150℃で2時間焼成処理し、ついで水素雰囲気下、300℃で2時間還元処理して、6.1%Ru−1.7%Pt−5%Sn/SiO2の触媒を調製した。
【0017】
容量200mlのオートクレーブに、水35gに無水マレイン酸15gを溶解した溶液を仕込み、更に上記方法で調製した触媒4gを仕込み、室温下攪拌しつつ20kg/cm2の水素を圧入し、240℃まで昇温した。オートクレーブ内温を240℃に維持しつつ、水素を圧入して水素圧を100Kg/cm2まで高め、この圧力で2時間反応を行った。反応終了後、反応生成物につきガスクロマトグラフィーで分析を行った。その結果を表1に示した。
【0018】
実施例2
RuCl3・3H2Oを0.680g、RhCl3・3H2Oを0.245g、SnCl2・2H2Oを0.475g、5N−HCl水溶液を1.8ml、及び担体としてSiO2を4.40g用い、実施例1におけると同様の手順で調製を行い、5.3%Ru−1.8%Rh−5%Sn/SiO2の触媒を調製した。
【0019】
この触媒を用い、実施例1に記載の例におけると同様の手順で無水マレイン酸の水素添加反応を行った。反応生成物についての分析結果を、表1に示した。
比較例1
RuCl3・3H2Oを0.906g、SnCl2・2H2Oを0.475g、5N−HCl水溶液を1.8ml、及び担体としてSiO2を4.40gを用い、実施例1におけると同様の手順で調製を行い、7%Ru−5%Sn/SiO2の触媒を調製した。
【0020】
この触媒を用い、実施例1に記載の例におけると同様の手順で無水マレイン酸の水素添加反応を行った。反応生成物についての分析結果を、表1に示した。
【0021】
【表1】
表1中、略号は以下の意味を示す。
CML:無水マレイン酸
THF:テトラヒドロフラン
GBL:γ−ブチロラクトン
BDO:1,4−ブタンジオール
【0022】
実施例3
容量50mlのサンプル瓶に、RuCl3・3H2Oを1.691g、H2PtCl6・6H2Oを0.226g、SnCl2・2H2Oを0.950gそれぞれ秤量して入れ、更に5N−HCl水溶液を3.6ml入れて溶解後、担体としてSiO2(富士デヴィソン社製品、スペシャルグレード12、比表面積679m2/g、細孔容量0.37ml/g)を8.76g加え、よく振とうした。その後内容物を容量100mlナス型フラスコに移し、回転減圧乾燥器で60℃、25mmHgの条件下で溶媒の水を除去した後、窒素ガス雰囲気下150℃で2時間焼成処理し、ついで水素雰囲気下、300℃で2時間還元処理して、6.5%Ru−0.85%Pt−5%Sn/SiO2の触媒を調製した。
【0023】
容量200mlのオートクレーブに、水35gに無水マレイン酸15gを溶解した溶液を仕込み、更に上記方法で調製した触媒4gを仕込み、室温下撹拌しつつ20kg/cm2の水素を圧入し、240℃まで昇温した。この温度を維持しつつ、水素を圧入して、水素圧を70kg/cm2まで高め、この圧力を保ちつつ水素ガスを約25リットル/時で反応液をバブリングしながら流通させ、揮発成分を系外に除去しながら2時間反応を行った。反応終了後、釜残成分と系外に除去した揮発成分について、ガスクロマトグラフィーで分析した。その結果を表2に示した。
【0024】
実施例4
容量50mlのサンプル瓶に、RuCl3・3H2Oを1.691g、SnCl2・2H2Oを0.950gそれぞれ秤量して入れ、更に5N−HCl水溶液を3.6ml入れて溶解後、担体としてSiO2(富士デヴィソン社製品、スペシャルグレード12、比表面積679m2/g、細孔容量0.37ml/g)を8.76g加え、よく振とうした。その後内容物を容量100mlナス型フラスコに移し、回転減圧乾燥器で60℃、25mmHgの条件下で溶媒の水を除去した後、窒素ガス雰囲気下150℃で2時間焼成処理し、ついで水素雰囲気下、300℃で2時間還元処理して、Ru−Sn/SiO2を得た。
【0025】
次に容量50mlのサンプル瓶に、H2PtCl6・6H2Oを0.226g、秤量して入れ、更に5N−HCl水溶液を3.6ml入れて溶解後、先に調製したRu−Sn/SiO2を全量加えてよく振とうした。その後内容物を容量100mlナス型フラスコに移し、回転減圧乾燥器で60℃、25mmHgの条件下で溶媒の水を除去した後、窒素ガス雰囲気下150℃で2時間焼成処理し、ついで水素雰囲気下、300℃で2時間還元処理して、Pt追加型の触媒(6.5%Ru−5%Sn)+0.85%Pt/SiO2を調製した。
【0026】
この触媒を用いて実施例3と同様に無水マレイン酸の水素化反応を行った。その結果を表2に示した。
実施例5
使用するSiO2の量を8.506g、H2PtCl6・6H2Oを0.903gとした以外は、実施例4と同様の方法で、Pt追加型の触媒(6.5%Ru−5%Sn)+3.4%Pt/SiO2を調製した。
【0027】
この触媒を用いて実施例3と同様に無水マレイン酸の水素化反応を行った。その結果を表2に示した。
【0028】
【表2】
表2中、略号は以下の意味を示す。
CML:無水マレイン酸
THF:テトラヒドロフラン
GBL:γ−ブチロラクトン
BDO:1,4−ブタンジオール
【0029】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、無水マレイン酸、マレイン酸、無水コハク酸、コハク酸、γ−ブチロラクトン又はこれらの混合物を原料とし、接触水素化反応により比較的温和な反応条件下で、1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランを高収率にて製造することができ、その工業的利用価値は極めて大である。
Claims (4)
- 無水マレイン酸、マレイン酸、無水コハク酸、コハク酸、γ−ブチロラクトン、又はこれらの混合物を原料とし、接触水素化反応により1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランを製造するに際し、白金及びロジウムから選ばれた少なくとも1種、ルテニウム並びに錫を担体に担持してなる触媒を用いる1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランの製造方法。
- 触媒が、担体にまずルテニウムと錫とを担持し、次に白金及びロジウムから選ばれた少なくとも1種を追加して担体に担持してなる触媒を用いる請求項1に記載の1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランの製造方法。
- 白金及びロジウムから選ばれた少なくとも1種の金属の化合物、ルテニウム並びに錫化合物の溶液を担体に浸漬させる工程を経て調製された触媒を用いる請求項1記載の1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランの製造方法。
- ルテニウム化合物と錫化合物の溶液を担体に浸漬させる工程と、引き続く白金及びロジウムから選ばれた少なくとも1種の金属化合物の溶液を担体に浸漬させる工程を経て調製された触媒を用いる請求項3記載の1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランの製造方法。
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