JP3692657B2 - 酸化物超電導線材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酸化物超電導線材に関し、特に高い臨界電流密度を有しかつマグネット等の用途に適した高い機械的強度を有する酸化物超電導線材に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸化物超電導体を製造する方法において、たとえば酸化物超電導体またはその原料の粉末を金属シースに充填した状態で塑性加工および熱処理を施す方法がある。このプロセスにより、金属シース内の粉末は焼結され超電導体となる。この方法は、パウダー・イン・チューブ法と呼ばれ、たとえば長尺の超電導線材を製造するとき有利に適用される。得られた線材は電力ケーブルや各種コイルへの応用が可能となる。
【0003】
パウダー・イン・チューブ法において、粉末が充填されたシースは、伸線および圧延等の塑性加工を受ける。シースとして純銀を用いた場合、銀の強度は相対的に低いため、1回の塑性加工において粉末に理想的な圧縮力を加えることは望めない。また、純銀シースを用いた線材について酸化物超電導体の焼結のため熱処理を行なう際、銀の軟化温度よりも高い温度を用いるため、焼結後の銀は強度が低くなる。このため、得られた線材を取扱うときや線材からコイルを形成するとき、過大な歪みが加わりやすく、臨界電流密度などの超電導特性が劣化しやすいという課題が生じている。
【0004】
特開平2−8335号公報は、1〜10at%のMnを含有するAg合金製パイプよりなる酸化物超電導線材製造用シースを開示する。このような合金は、Agよりも硬度が高い。同公報は、1〜10at%のMnを含有するAg−Mn合金パイプを粉末充填のためのシースに用いることにより、Agシースよりも肉厚が薄いものを使用することができ、そのため伸線加工が容易となり、酸化物超電導体の酸素欠損の回復が容易である旨記載する。また同公報は、このシースが、断面圧縮率が2〜50となるごとに100〜300℃の中間焼鈍を加える延伸加工法のシースとして適している旨記載する。しかしながら、このように高濃度のMnを含有するシースは、酸化物超電導体の焼結のため800℃〜900℃の高温を必要とするプロセスにおいて超電導体と反応し、超電導特性を著しく劣化させる。同公報は、この超電導特性の劣化を防止する手段について何ら触れていない。
【0005】
日本金属学会秋季大会一般講演概要、1987年10月、p236も、Y−Ba−Cu−O系のパウダー・イン・チューブ法におけるシース材としてAg−2at%MnおよびAg−5at%Mnを開示する。しかし、これらのシースを用いた従来技術も、800〜900℃の熱処理には適しておらず、特にビスマス系酸化物超電導線を作製する場合、従来技術では高い臨界電流密度を得ることは困難である。
【0006】
特開平5−74233号公報は、酸化物セラミックス超電導体を直接覆うための材料として、酸化物を分散して硬化されるかまたは硬化可能の銀合金を使用することを開示する。銀合金の具体例として、同公報は、0.1〜0.25重量%のMgおよび0.1〜0.25重量%のNiを含むAg−Mg−Ni合金およびAg−貴金属−Mg−Ni合金、ならびにMnおよびNiの総含有量が0.5〜1.5重量%であるAg−Mn−Ni合金およびAg−貴金属−Mn−Ni合金を開示する。たとえばAg−Mg−Ni合金の場合、熱処理により合金中に酸化マグネシウム粒子が生成される。また、ドクター・ブレード法によりBi−2212/Ag合金複合テープを調製する方法が開示されている(NOMURA他、“Properties of Bi2 Sr2 CaCu2 OX /Ag−Alloy Composite Tapes ”, Advances in Superconductivity VI, Proceedings of the 6th International Symposium on Superconductivity (ISS'93),October 26-29, 1993, Hiroshima, Vol.2, p715-718)。このプロシーディングスは、Bi−2212酸化物超電導体に直接接触させる銀合金として、Auを0.085〜31at%含有するAg−Au合金、Cuを0.026〜2.6at%含有するAg−Cu合金、MgとNiの総含有量が0.036〜1.3at%のAg−(Mg,Ni)合金、ならびに0.16at%および0.40at%のMnをそれぞれ含有するAg−Mn合金を開示する。以上述べてきた銀合金に含有される成分のうち、Mg、Ni、CuおよびMnは、酸化物超電導体との反応性が高く、多く含有させることができない。一方、これらの限られた含有量では、大型マグネットや高磁界マグネットに適した高い機械的強度を有する線材を得ることは困難である。また、Auは、他の成分に比べて機械的強度の向上に寄与する程度が小さい上に、コストが高い。
【0007】
特開平4−292816号公報は、ビスマス系酸化物超電導線材をパウダー・イン・チューブ法により製造する方法において、粉末を充填するための金属シースとして、内層が銀またはビスマス系酸化物超電導体の臨界温度を低下させない銀合金で構成され、外層が内層より剛性の高い金属で構成されたものを用いることを開示する。同公報は、剛性の高い金属の具体例として、2〜30%のPdを含有するAg−Pd合金を記載している。しかしながら、線材の機械的強度を顕著に向上させるためには、5%以上のより高いPd含有量が必要であり、コストも高くつく。
【0008】
特開平8−171822号公報は、酸化物超電導線材において、酸化物超電導フィラメントを覆う安定化金属が、フィラメントを直接覆う第1の部分、第1の部分を覆う第2の部分とを備え、かつ第1の部分は、第2の部分の成分が酸化物超電導フィラメントへ拡散し、それと反応することを防止するものであることを開示する。同公報は、第1の部分の具体例として、銀、Ag−Sb合金、Ag−Zr合金、Ag−Ti合金およびAg−Au合金を記載する一方、第2の部分の具体例として、0.01〜1at%のMnを含有するAg−Mn合金、1〜30at%のAuおよび0.01〜1at%のMnを含むAg−Au−Mn合金、0.01〜5at%のSbを含むAg−Sb合金、1〜30at%のAuおよび0.01〜5at%のSbを含有するAg−Au−Sb合金、0.01〜3at%のPbを含むAg−Pb合金、1〜30at%のAuおよび0.01〜3at%のPbを含むAg−Au−Pb合金、1〜30at%のAuおよび0.01〜3at%のBiを含むAg−Au−Bi合金、0.01〜3at%のBiを含むAg−Bi合金、Ag−Mg合金、Ag−Ni合金、Ag−Mg−Ni合金、ならびにAg−Zr合金を記載する。しかしながら、同公報に開示される構造もさらに改良の余地があった。特に、酸化物超電導線材の機械的強度に関して、さらなる向上が望まれていた。大型マグネットや高磁界マグネットを酸化物超電導線材を用いて作製する場合、線材は20kg/mm2 以上の引張り応力に耐える必要がある。上述してきたように、このような引張り応力に耐えるため合金成分の添加量を多くすると、超電導体と添加金属とが反応し、超電導特性、特に、臨界電流密度が顕著に低下する。一方、超電導特性を低下させないように添加金属元素量を調整すると、機械的歪みに対する耐性が低下する。超電導特性を低下させずにより高い機械的強度を有する線材の開発が望まれている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、優れた超電導特性、特に高い臨界電流密度と、高い機械的強度の両方を満足する酸化物超電導線材を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、大型マグネットや高磁界マグネットに実用可能なレベルの機械的強度を有し、かつ優れた超電導特性を示す酸化物超電導線材を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ビスマス系酸化物超電導体からなるフィラメントと、それを覆う安定化マトリックスとを備える酸化物超電導線材であって、安定化マトリックスが、フィラメントを直接覆う第1の部分と、第1の部分を覆う第2の部分とを備える線材を提供する。本発明は、第1の部分が、0.2at%〜0.7at%のSbを含むAg−Sb合金からなり、かつ第2の部分が、1.0at%〜8.0at%のMnを含有するAg−Mn合金からなることを特徴とする。第1の部分の断面積/フィラメントの断面積は、0.5〜2であり、第2の部分の断面積/フィラメントの断面積は、0.2〜4.5であり、第1の部分と第2の部分の断面積の合計/フィラメントの断面積は、0.7〜5である。本発明の線材において、第1の部分は、第2の部分の成分がフィラメントの部分と反応して超電導特性が劣化するのを防止し、かつ第2の部分は、第1の部分よりも機械的強度が高いものである。
【0014】
本発明では、大型マグネットや高磁界マグネットにより適した機械的強度を有する線材を得るため、第2の部分に1.0at%〜8.0at%のMnを含有するAg−Mn合金を用いている。
【0015】
本発明は、複数のフィラメントを有する多芯超電導線に好ましく適用されるが、単芯超電導線に適用してもよい。本発明は、特にBi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系等のビスマス系酸化物超電導体を用いた線材に好ましく適用され、中でも(Bi,Pb)2 Sr2 Ca2 Cu3 O10-X(0≦X<1)等のビスマス系2223酸化物超電導相をフィラメントとして用いる線材に好ましく適用される。
【0016】
本発明によれば、液体窒素温度において印加磁場が0の状態で、25,000A/cm2 以上の臨界電流密度を有しかつ20kg/mm2 の引張り応力に対して臨界電流密度が低下しない線材を提供することができる。
【0017】
本明細書において、濃度を示す「at%」は、原子百分率(atomic percentage )を表すものであり、すなわち組成物または混合物中の全原子数に対する特定の原子の割合(百分率)を示すものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明に従う線材には、安定化材中に酸化物超電導体からなるフィラメントが埋込まれた構造を有する単芯線または多芯線がある。線材の形態は特に限定されるものではなく、丸線またはテープ状線等を本発明に従って提供することができる。テープ状線は、超電導体結晶の高い配向性の点から好ましい形態である。酸化物超電導体には、たとえば、イットリウム系、ビスマス系またはタリウム系酸化物超電導体がある。本発明は、特にビスマス系セラミックス超電導体に好ましく適用することができる。本発明の線材は、酸化物超電導体の原料粉末の焼成および粉砕、粉末の安定化材シースへの充填、塑性加工ならびに焼結のプロセスを経て製造することができる。原料粉末の調製では、超電導体を構成する元素の酸化物または炭酸塩の粉末が所定の配合比で混合され、かつ焼結された後、焼結物が粉砕されて原料粉末を得る。粉末を充填するシースは、銀または後述するような銀合金から形成することができる。塑性加工には、伸線加工、スエジング加工および圧延加工等が用いられる。塑性加工の後、得られた線材は、たとえば約800℃〜約900℃、好ましくは約840℃〜850℃の温度において焼結され、シース材中の超電導体が、高い配向性および高い臨界電流密度を得るようになる。多芯線を製造する場合、伸線加工の後得られた複数の線材が嵌合され、塑性加工および焼結に供される。上述したプロセスにおいて、塑性加工と焼結の組合せにより、高い配向性を有するほぼ単一の超電導相を生成することができる。たとえば、このプロセスにより製造されたテープ状超電導線のフィラメントは、テープ線の長手方向にわたってほぼ均一な超電導相を有し、超電導相のc軸はテープ線の厚み方向にほぼ平行に配向している。また、フィラメントにおける結晶粒は、テープ線の長手方向に延びるフレーク状であり、結晶粒同士は強く結合している。フレーク状の結晶粒は、テープ線の厚み方向に積層される。テープ状超電導線のサイズは特に限定されるものではないが、たとえば幅1.0mm〜10mm、好ましくは2mm〜6mm、厚み0.05mm〜1mm、好ましくは0.1mm〜0.4mmである。
【0019】
図1〜図3に、本発明による酸化物超電導線材の具体例を示す。図1および3は多芯線の具体例、図2は単芯線の具体例をそれぞれ示している。図1(a)に示すテープ状酸化物多芯超電導線の断面において、複数のフィラメント1は、第1の安定化材2で直接覆われる。第1の安定化材は銀、またはフィラメント1の超電導特性を劣化させない程度の量および種類の金属を含有する銀合金からなる。第1の安定化材2は、1.0at%〜8.0at%のMnを含有するAg−Mn合金からなる第2の安定化材3で覆われる。第2の安定化材3は、線材の機械的強度の向上に主に寄与する。一方、第1の安定化材2は、第2の安定化材3の成分がフィラメント1の部分と反応して超電導特性が劣化するのを防止する。図1(b)は、丸線の例を示している。酸化物超電導体からなる複数のフィラメント11は、第1の安定化材12で直接覆われ、第1の安定化材12は第2の安定化材13で覆われる。第1の安定化材および第2の安定化材の組成および機能は図1(a)の場合と同様である。図2(a)に示すテープ状単芯線では、フィラメント21がまず第1の安定化材22で覆われ、さらに第2の安定化材23で覆われる。図2(b)に示す丸線の場合、フィラメント31はまず第1の安定化材32で覆われ、次いで第2の安定化材33で覆われる。図3(a)に示すテープ状線では、フィラメント41とそれを覆う第1の安定化材42とからなる部分40が、第2の安定化材43中に分散された構造を有している。すなわち、それぞれのフィラメントを覆う複数の安定化材の間に第2の安定化材が存在している。図3(b)に示す丸線においても、フィラメント51とそれを覆う第1の安定化材52とからなる部分50が、第2の安定化材53中に分散されている。
【0020】
本発明の線材では、フィラメントとそれを直接覆う第1の安定化マトリックスとからなる部分が主に優れた超電導特性を保持し、それを覆う第2の安定化マトリックスが主に優れた機械的強度を付与する。安定化マトリックスにおいて第1の部分は、第2の部分とフィラメントとの反応を抑制し、フィラメント部分の高い超電導特性を維持する。現在のところ、線材の焼結工程において酸化物超電導体と実質的に反応せず、かつ超電導体への十分な酸素の拡散を可能にする最良の材料は銀である。したがって、第1の部分は、銀、またはフィラメントの超電導特性を劣化させない程度の量および種類の金属を含有する銀合金で構成することが重要がある。第1の部分に銀合金を用いる場合、合金成分の種類および量について超電導特性の観点から留意しなければならない。たとえば、Ag−Au合金の場合、Auが30at%ぐらいまで含有されても超電導特性の低下を引起こさない。したがって、Ag−Au合金のAu含量は、30at%以下が好ましく、より好ましくは10at%以下である。Ag−Mn合金の場合、Mnの含量が0.1at%でもフィラメントの臨界電流密度の低下を引起こす。したがって、Ag−Mn合金は第1の部分としてあまり好ましくない。Ag−Mn合金を第1の部分に用いる場合、Mnの含有量は、0.01at%以下が望ましい。Ag−Cu合金の場合、0.02at%のわずかなCuでも臨界電流密度の低下を引起こし得る。したがって、Ag−Cu合金は第1の部分として好ましくない。
【0021】
本発明者らによる研究の結果、第1の部分に用いる銀合金としてAg−Sb合金がより好ましいことが明らかになった。Ag−Sb合金の場合、Sbの含有量を比較的高くすることができ、第1の部分でも線材の機械的強度をある程度向上させることができる。また、熱処理時におけるSbの酸化により、Ag−Sb合金の固溶体中に酸化物粒子を分散させることができる。このような酸化物粒子は、合金の強度をさらに向上させることができる。さらに本発明者らはAg−Sb合金について機械的強度の向上と高い臨界電流密度の維持との両方の観点から検討を行なった結果、0.2at%〜0.7at%のSbを含有するAg−Sb合金が両方の特性を満足する上で最も適していることを明らかにした。後述する実施例でも示すように、1〜8at%のMnを含有するAg−Mn合金とAg−Sb合金とを組合せる場合、Sbの含有量の範囲は0.2〜0.7at%が適している。Sbの含有量が0.2at%未満であると、第1の部分による機械的強度の顕著な向上を図ることが困難になってくる。一方、Sb合金の含有量が0.7at%を超えると、より高い臨界電流密度、特に液体窒素温度において25,000A/cm2 以上の臨界電流密度を得ることは困難になる。Sbを0.2〜0.7at%含有するAg−Sb合金とMnを1〜8at%含有するAg−Mn合金とを組合せることによって、機械的強度の飛躍的な向上と高い臨界電流密度とを両立させることができる。
【0022】
本発明の線材において、第1の部分の安定化マトリックス比(安定化マトリックス中第1の部分の断面積/フィラメントの断面積)は、たとえば、0.5〜2が好ましく、0.7〜1.5がより好ましい。第1の部分のマトリックス比をこの範囲とすることで、フィラメントを十分に保護し、高い臨界電流密度を得ることができる。
【0023】
本発明において、安定化マトリックス中第1の部分を覆う第2の部分には1〜8at%のMnを含有するAg−Mn合金が用いられる。本発明では、第2の部分にこの合金を用いることによって、従来のような臨界電流密度の低減を引起こすことなく、線材の機械的強度をさらに向上させることができた。Mnの含有量が1at%未満では、線材の用途、特にマグネットにおいて要求される20kg/mm2 以上の応力に対する耐性を臨界電流密度の低下なしに得ることは困難になる。一方、Mnの含有量が8at%を超えると、合金が過度に硬くかつ脆くなり、第1の部分とともに十分な加工を施すことが困難になる。第1の部分との組合せの観点から、1〜8at%のMnが適切である。
【0024】
マトリックス中第2の部分は、第1の部分だけでは不十分である機械的強度を補い、線材により高い機械的強度を付与する。第2の部分は、第1の部分よりも顕著に機械的強度が高い。本発明者らは、第2の部分に適した種々の合金を研究した結果、機械的強度の向上、加工性および優れた超電導特性の観点から、1〜8at%のMnを含有するAg−Mn合金がより適していることを明らかにした。この銀合金は、酸化物超電導体の焼結のための熱処理、たとえば800〜900℃の高温での熱処理後も、その形態を維持し、塑性加工を施すことが可能である。また、この合金は、熱処理時の酸化により、900℃以上の融点を有するMn酸化物を母材中に生成することができる。酸化物の析出により、合金の機械的強度がさらに向上する。
【0025】
本発明の線材において、第2の部分のマトリックス比(マトリックス中第2の部分の断面積/フィラメントの断面積)は、たとえば、0.2〜4.5が好ましく、0.5〜3.5がより好ましい。この範囲に第2の部分のマトリックス比を設定することで、高い加工性を維持しながら機械的強度の向上を図ることができる。
【0026】
したがって、本発明による線材の安定化マトリックス比(第1の部分の安定化マトリックスと第2の部分の安定化マトリックスの断面積の合計/フィラメントの断面積)は、たとえば0.7〜5が好ましく、2〜4がより好ましい。本発明では、超電導特性を主に維持する部分と、機械的強度を主に向上させる部分とに安定化マトリックスを分けている。この複合構造により、線材のサイズおよび安定化マトリックス比(安定化マトリックスの断面積/超電導体の断面積)を従来通りにしながら線材の強度を従来よりも顕著に向上させることができる。したがって、従来と変わらないコンパクトなサイズの線材において高い強度および優れた超電導特性が得られる。本発明によれば、従来必要としていた補強材を使わずにマグネット等を作製することもできる。補強材を使わなければ、製品における実質的なオーバオール臨界電流密度が高くなり、マグネット等の応用製品においてより高い性能を得ることが可能になる。
【0027】
以上述べてきた安定化マトリックスの複合化は、たとえば多芯超電導線の製造において容易に行なうことができる。多芯線の製造では、酸化物超電導体の原料粉末が第1の金属シースに充填され、塑性加工の後、素線が得られる。得られた素線を複数本、第2の金属シース内に束ねて充填し、塑性加工および熱処理を経て多芯線を調製することができる。このとき、第1のシースに高い超電導特性を維持するための銀または銀合金、第2のシースにMnを1〜8at%含有するAg−Mn合金をそれぞれ用いれば、本発明に従う構造を容易に得ることができる。また、単芯線を製造する場合、第1の部分を内側に、第2の部分を外側に有するシースに原料粉末を充填するか、または第1の部分で覆われた素線を第2のシース内に嵌め込むことにより、複合化を行なうことができる。
【0028】
本発明では、第1の部分および第2の部分における合金成分について酸化物粒子を析出させることができる。このような酸化物粒子は、たとえば線材の製造プロセスにおいて、酸化物超電導体の焼結のための熱処理により、第1の部分および第2の部分において析出させることができる。一方、予め酸化物粒子を析出させた金属シースを用いてもよい。この場合、原料粉末を充填するための金属シースおよび/または素線を嵌合するための金属シースを前もって熱処理することにより、酸化物によって強化された金属シースが得られる。このような金属シースを用いることにより、原料粉末の圧縮密度をより向上させることができ、より高い臨界電流密度をもたらすことができる。
【0029】
【実施例】
例1
Bi2 O3 、PbO、SrCO3 、CaCO3 、CuOを用いて、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.8:0.4:2.0:2.0:3.0の組成比を有する粉末を配合した。得られた粉末を700℃で12時間、次いで800℃で8時間熱処理を行なった後、850℃で4時間の熱処理をさらに行なった。それぞれの熱処理の後、配合物はボールミルで粉砕した。粉砕により得られた粉末を800℃で2時間加熱処理して脱気した後、外径12mmφ、内径10.5mmφのパイプに充填した。充填用パイプに用いた材料を表1に示す。粉末を充填したパイプを1.02mmφまで伸線加工した後、得られた線材を切断し、61本の線材を調製した。得られた61本の線材を束ねて外径12mmφ、内径9mmφのパイプに嵌合した。嵌合用パイプに用いた材料を表1に示す。線材を充填したパイプを1.15mmφまで伸線加工した後、厚さ0.24mmまで圧延加工した。得られたテープ状線材に845℃で50時間の熱処理を施した後、炉内において室温まで冷却した。次いで、得られた線材に再び0.2mmの厚みまで圧延加工を施し、840℃で50時間の熱処理を施して酸化物超電導線材を得た。粉末充填用パイプおよび嵌合用パイプの材質を変えて表1に示すような12種類の線材を得た。得られた線材について、液体窒素中で臨界電流密度を直流4端子法により測定した。さらに、液体窒素中で引張り試験を行ない、臨界電流密度が低下し始める応力Tε(kg/mm2 )を測定した。これらの測定結果をパイプの材質とともに表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
比較例であるサンプルNo.1〜7の結果を見て明らかなように、嵌合用パイプに銀またはMnの含有量が低いAg−Mn合金を用いると、高い機械的強度を得ることができない。また、粉末充填パイプに0.2at%のMnを含有する銀合金を用いると、高い臨界電流密度を得ることができなかった。さらに、1.0at%のSbを含有する銀合金と0.98at%のMnを含有する銀合金とを組合せると、高い臨界電流密度が得られなかった。一方、実施例であるサンプルNo.9〜12の結果を見ると、臨界電流密度を低下させずに20kg/mm2以上の応力に耐え得る線材が得られたことがわかる。特に本発明によれば、液体窒素温度において印加磁場が0の状態で25,000A/cm2以上、さらには30,000A/cm2以上の臨界電流密度を有する線材が得られる。
【0032】
例2
例1に示すサンプルNo.12と同じ材質の合金パイプを用いた。粉末を充填する前および嵌合を行なう前にそれぞれ合金パイプに600℃で100時間、大気中において熱処理を施した。以上の工程を除いて、例1と同様に線材を作製した。得られた線材について、液体窒素中で臨界電流密度を直流4端子法により測定した。さらに液体窒素中で引張り試験を行ない、臨界電流密度が低下し始める応力Tεを測定した。測定の結果、線材の臨界電流密度は31,000A/cm2 であり、限界応力Tεは32.0kg/mm2 であった。したがって、合金パイプを予め熱処理して酸化物粒子を析出することにより、より高い臨界電流密度および機械的強度を有する線材が得られることがわかった。
【0033】
【発明の効果】
以上示してきたように、本発明によれば、高い臨界電流密度と優れた機械的強度の双方を満足することのできる線材を提供することができる。したがって、本発明は、実規模クラスのマグネット等に要求される20kg/mm2 以上の応力に耐え、高い臨界電流密度を有する高性能の線材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に従う線材の一具体例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に従う線材の他の具体例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に従う線材の他の具体例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
1、11、21、31、41、51 フィラメント
2、12、22、32、42、52 第1の安定化マトリックス
3、13、23、33、43、53 第2の安定化マトリックス
Claims (3)
- ビスマス系酸化物超電導体からなるフィラメントと、それを覆う安定化マトリックスとを備える酸化物超電導線材であって、
前記安定化マトリックスが、前記フィラメントを直接覆う第1の部分と、前記第1の部分を覆う第2の部分とを備え、
前記第1の部分は、0.2at%〜0.7at%のSbを含むAg−Sb合金からなり、
前記第2の部分は、1.0at%〜8.0at%のMnを含有するAg−Mn合金からなり、
前記第1の部分の断面積/フィラメントの断面積が、0.5〜2であり、
前記第2の部分の断面積/フィラメントの断面積が、0.2〜4.5であり、
前記第1の部分と前記第2の部分の断面積の合計/フィラメントの断面積が、0.7〜5であり、
前記第1の部分は、前記第2の部分の成分が前記フィラメントの部分と反応して超電導特性が劣化するのを防止し、かつ
前記第2の部分は、前記第1の部分よりも機械的強度が高いものであることを特徴とする、酸化物超電導線材。 - 複数の前記フィラメントを有する多芯線であることを特徴とする、請求項1記載の酸化物超電導線材。
- 液体窒素温度において印加磁場が0の状態で、25,000A/cm2 以上の臨界電流密度を有しかつ20kg/mm2 の引張り応力に対して臨界電流密度が低下しないことを特徴とする、請求項1または2記載の酸化物超電導線材。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
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