JP3690617B2 - 超硬合金製複合ロール - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超硬合金製の外層を有する複合スリーブを軸材に嵌合固定した超硬合金製複合ロールに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
従来よりWC−Co系等の超硬合金が熱間圧延機用ロール材として用いられている。超硬合金は他のロール材である鋳鋼や工具鋼に比べて高価であるため、圧延時に被圧延材と直接接触し、耐摩耗性の要求される部分のみに使われるのが考えられる。また、超硬合金では大径・長尺化が難しいので、中空のスリーブを作り、このスリーブを金属製軸材に嵌合するのが望ましい。さらに、超硬合金単体ロールの場合、圧縮残留応力が殆どなく、耐クラック性に劣るという問題がある。
【0003】
超硬合金は硬くて耐摩耗性に優れ、圧縮応力に対しては強いが、衝撃や引張応力に対しては弱いという問題がある。このため、従来の金属製スリーブに対して行われていた焼嵌め、冷嵌め、圧入等の嵌合方法をそのまま適用することができない。すなわち、超硬合金製スリーブは弾性係数が大きく、変形能に乏しいため、嵌合面に僅かな凹凸があったりすると、嵌合によって局部的に過大な引張応力が発生し、超硬合金製スリーブの破壊強度を超え、スリーブが割れやすいという問題がある。
【0004】
そこで、超硬合金製スリーブを金属製軸材に嵌合する方法として種々提案されている。例えば特開昭60−83708号には、内周部より外周部が漸次厚肉に形成されたスペーサを加熱して膨張せしめた状態で、超硬合金製スリーブ及びディスクスプリングと共に軸材に装入して、固定部材の間に挟み込み、スペーサの冷却収縮によりディスクスプリングに大きい側圧を発生させて、スリーブの側面を押圧固定する方法が開示されている。しかしながら、このような嵌合方法はスペーサ、固定部材等の部材点数が多く組立構造が複雑であるという問題がある。また、焼嵌めた後の超硬合金製スリーブの表面に作用する引張応力による割れの防止についても十分なものとは言えない。
【0005】
また、従来の超硬合金製複合ロールとして、超硬合金リングとその内側の鋼製リングとの間にろう材を入れて加熱ろう付けしたものや、鋼製リングの外周に超硬合金を鋳包み法により溶着させたものがある。しかしながら、前者のろう付け法ではろう付け層の高温での疲労強度が弱く、圧延使用中に剥離等が発生するという問題がある。また、後者の鋳包み法ではその製造法の限界から高い耐摩耗性を得ることができないという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、このような問題点に鑑みてなされたもので、内層を形成するスリーブの外周に、焼結法を用いて外層材用の超硬合金の混合粉末を焼結すると同時に拡散接合させて、外層表面に適正な圧縮残留応力を付与することにより、耐亀裂性、耐割損性を向上させると共に、耐摩耗性、耐肌荒れ性に優れた熱間圧延機用の超硬合金製複合ロールを提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の超硬合金製複合ロールは、溶製の鋼系材からなる内層を形成するスリーブの外周に、周期律表のIVa〜VIa族の元素の炭化物、窒化物及び炭窒化物の硬質粒子の少なくとも1種または2種以上を60〜90重量%と、残部実質的にFe、Ni、Co、Cr、Mo及びWの少なくとも1種または2種以上の金属粉末とからなる混合粉末を焼結すると同時に拡散接合させた超硬合金製の外層を有し、前記内層が200〜600℃でベーナイト変態、もしくは200〜850℃でパーライト及びベーナイト変態を起こす鋳鋼、鍛鋼、黒鉛鋳鋼、炭素鋼及び合金炭素鋼のいずれかからなり、かつ前記外層表面に100MPa以上の円周方向の圧縮残留応力を付与した複合スリーブを、軸材に嵌合固定したことを特徴とする超硬合金製複合ロールであって、前記内層と前記外層との接合境界部に、外層の超硬合金よりは熱膨張係数が内層に近づくように、硬質粒子及び結合相の組成を変えた超硬合金の混合粉末を用いて0.01〜5mm厚さの傾斜合金層を形成することを特徴とする。
【0008】
また本発明の超硬合金製複合ロールは以下が望ましい。
【0009】
本発明の超硬合金製複合ロールにおいて、前記硬質粒子はWC、TiC、TaC、NbC及びVCからなる群から選ばれた少なくとも1種または2種以上である。また、前記金属粉末はさらにCr3Si、CrSi及びCrSi2の少なくとも1種または2種以上からなるCr−Si化合物を0.1〜3.0重量%含有するのが望ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の超硬合金製複合ロールを構成する複合スリーブの一例を示す横断面図である。図2は、図1の複合スリーブを軸材に焼嵌めた複合ロールを示す回転軸方向の断面図である。図3は、図2のA−A断面図である。本発明の複合スリーブ1は外層11及び内層12からなる。中空の内層12の内面には係止用キー5を嵌めるための長手方向の溝4が設けられている。本発明の超硬合金製複合ロールは複合スリーブ1と軸材3とからなり、両者は焼嵌めにより強固に嵌合固定されている。焼嵌めの際、軸材3の外周面に設けられた長手方向の溝内に挿入されたキー5は内層12の内周面に設けられた長手方向の溝4に係合し、焼嵌め後に複合スリーブ1が軸材3に対して回転するのを防止する。この例では、複合スリーブを軸材にキーを用いて焼嵌め固定しているが、キーを用いないで焼嵌め固定しても構わない。
【0011】
複合スリーブ1の外層11は、周期律表のIVa〜VIa族の元素の炭化物、窒化物及び炭窒化物の硬質粒子の少なくとも1種または2種以上を60〜90重量%と、残部実質的にFe、Ni、Co、Cr、Mo及びWの少なくとも1種または2種以上の金属粉末との混合粉末を焼結してなる。所望に応じてこの混合粉末にCr3Si、CrSi、CrSi2等のCr−Si化合物粉末を含有させることにより靭性及び耐酸化性を向上できる。
【0012】
複合スリーブ1の内層12は、鋳鋼、鍛鋼、黒鉛鋳鋼、炭素鋼、合金炭素鋼などの溶製の鋼系材からなるスリーブである。内層12に靭性のある鋼系材を用いることにより、外層11を形成する超硬合金の脆性を補うことができる。内層12の好ましい組成は、重量%でC:0.1〜2.0、Si:0.2〜1.2、Ni:0.1〜5.0、Cr:0.1〜2.0、Mo:0.1〜3.0、残部実質的にFeである。Cが2.0%を超えると炭化物量又は黒鉛量が過剰になるので、内層として必要な引張強度、靭性などが確保できない。また、Cが0.1%未満のときは軟弱すぎるので必要な強度が確保できない。このような鋼系材としてSCM鋼、SNCM鋼、SNC鋼等が挙げられる。
【0013】
複合スリーブ1は上記混合粉末を内層12の外周に真空焼結法等の焼結法により拡散接合させることにより形成される。本発明の複合ロールは、上記複合スリーブ1を軸材3に焼嵌め等で嵌合固定してなる。軸材3は鋳鋼、鍛鋼、鋳鉄等の金属製軸材からなり特に限定されない。
【0014】
外層11の超硬合金材の熱膨張率は、内層12の鋼系材の熱膨張率の約1/2〜1/3であるため、焼結の降温過程で両材層間に熱応力が発生し、この熱応力が各材層の強度を上回ると破壊に至る。複合スリーブ1の破壊を防止するために、内層12として、200〜600℃でベーナイト変態、もしくは200〜850℃でパーライト+ベーナイト変態を起こす鋼系材が好ましい。このような内層材を用いることにより、内外層間の収縮差が小さくなり、複合スリーブ1の破壊が起こらなくなる。
【0015】
本発明の複合スリーブ1では、拡散接合により超硬合金の外層表面に100MPa以上の円周方向の圧縮残留応力を付与させる。好ましくは200MPa以上の圧縮残留応力を付与させるのがよい。超硬合金の外層表面に100MPa以上の円周方向の圧縮残留応力を付与させると、嵌合後に作用する引張応力に対しても、異常圧延等により表面に引張応力が作用して亀裂が発生するような事態に遭遇しても、この圧縮残留応力により打ち消されるので、割れや亀裂の進展が阻止される。圧縮残留応力が100MPa未満のときは、この効果が十分に得られない。
【0016】
外層を形成する超硬合金の硬質相として、周期律表のIVa〜VIa族の元素の炭化物、窒化物及び炭窒化物の硬質粒子の少なくとも1種または2種以上の粉末を用いる。なかでも、炭化物であるWC、TiC、TaC、NbC、VC等の硬質粒子を用いるのが好ましく、特にWCが好ましい。これらの硬質粒子は、複合スリーブ1の外層11の基質となるもので、多いほど耐摩耗性に寄与する。硬質粒子の配合量が60重量%未満では耐摩耗性が不十分となり、耐肌荒れ性が不足する。また、90重量%を超えると破壊靭性が低下する。従って、硬質粒子の配合量は60〜90重量%とする。
【0017】
WC等の硬質粒子の平均粒径は1〜10μmとするのが好ましい。硬質粒子の平均粒径が1μm未満であると、外層11の破壊靭性が著しく低下する。また、10μmを超えると抗折強度が低下する。外層11に高靭性、高強度及び優れた耐摩耗性を付与するため、硬質粒子の平均粒径は3〜7μmとするのがより好ましい。また、硬質粒子を十分に均粒化することにより、外層の耐肌荒れ性及び靭性を向上させることができる。
【0018】
外層を形成する超硬合金の結合相として、Fe、Ni、Co、Cr、Mo、Wなどの金属は、固溶体の結合相を形成し、複合スリーブ1の外層11を強化する。これらの金属粉末はそれぞれ単独で添加してもよいが、複合添加するのが好ましい。金属粉末が10重量%未満では結合相が不十分である。また、40重量%を超えると、外層11は極端に硬度が低下するとともに、耐摩耗性が劣化する。従って、結合相を形成する金属粉末の配合量は10〜40重量%とする。より好ましい金属粉末の配合量は15〜25重量%である。
【0019】
上記金属粉末にさらにCr−Si化合物粉末を添加することができる。Cr−Si化合物としては、Cr3Si、CrSi、CrSi2等が好ましい。Cr−Si化合物粉末は外層11の破壊靭性及び耐酸化性を向上させる作用を有する。焼結過程で結合相に固溶したCr−Si化合物は冷却過程で硬質相と結合相との界面に析出するので、二相間の界面エネルギーは上昇し、圧延負荷により発生するクラックの進展を抑制するとともに機械的強度を向上させる。さらに、密着性のあるCr2O3粒子とSiO2粒子を形成して多硬質酸化層の成長を抑制する。このような作用により、Cr−Si化合物を含有する外層11は靭性及び耐酸化性を向上できる。
【0020】
Cr−Si化合物粉末の配合量が0.1重量%未満では上記効果が十分に得られず、また3.0重量%を超えるとM6C相(W3Co3C)が析出して靭性が低下する。より好ましいCr−Si化合物粉末の配合量は0.5〜1.0重量%である。
【0021】
上記配合比の各成分の粉末を、例えばボールミル等を用いて混合し、乾燥した後分級して、混合粉末を作製する。次いで、溶製の鋼系材からなる内層の外周に混合粉末を充填配備し真空焼結等により焼結する。焼結温度は混合粉末の液相出現温度+100℃から液相出現温度−100℃の温度範囲であるのが好ましい。混合粉末の液相出現温度は組成により多少異なるが、1250〜1350℃である。焼結時間は1〜5時間とするのが好ましい。
【0022】
また、溶製の鋼系材からなる内層を形成するスリーブの外周面に、外層の超硬合金よりは熱膨張係数が内層に近づくように、硬質粒子及び結合相の組成を変えた超硬合金の混合粉末を、ペースト状に塗布する等して、0.01〜5mm厚さで傾斜合金層を成形するのが好ましい。
【0023】
【実施例】
(実施例1)
平均粒径がそれぞれ5μmのWC粉末、1μmのCo粉末、1μmのNi粉末、1μmのCr粉末、1μmのCrSi2粉末を表1に示す割合(重量%)で配合し、ボールミルで20時間、混合した後、乾燥した。次いで、表1に示す焼結温度で2時間焼結を行い、超硬合金製の試験片を製作した。
【0024】
【0025】
得られた各試験片について、クラック抵抗試験、酸化試験、抗折試験、硬度試験、破壊靭性試験(K1C)を行った。これらの試験結果を表2に示す。
【0026】
クラック抵抗試験
平均粒径3μm及び1μmのダイヤモンド砥粒を用いて鏡面研磨した試験片の表面に、ビッカース圧子により荷重1.47kNで圧痕を5箇所打ち、圧痕端から延びたクラック長さ(mm)を測定し、荷重(kN)/クラック長さ(mm)の値をクラック抵抗(MN/m)とした。
【0027】
酸化試験
各試験片(13.5mm×13.5mm×4.6mm)について、800℃で1時間、酸化処理を行い、酸化減量(mg/cm2・h)を測定した。ここで酸化減量とは、加熱保持により形成された酸化物層を除去し、試験片の重量減少値を求め、これを単位面積で割った値である。酸化減量値が小さいほど耐酸化性がよいことを示す。
【0028】
抗折試験
各試験片(4mm×8mm×30mm)に支点間距離25mmの4点曲げ試験を行った。
【0029】
硬度試験
鏡面研磨した各試験片に、ビッカース圧子を荷重294Nで圧痕を3箇所打ち、圧痕長さを測定した。
【0030】
破壊靭性試験(K1C)
破壊靭性値K1CはSEPB法より求めた。
【0031】
【0032】
表2から、本発明の超硬合金はクラック抵抗、耐酸化性、抗折力、破壊靭性値(K1C)のいずれも良好であった。また、超硬合金中のWC粒子をSEMで観察した結果、実施例の試験片ではWC粒子は鋭い角を持たなかったが、比較例の試験片ではWC粒子は鋭い角を有するように成長していた。
【0033】
(実施例2)
SNCM鋼からなる外径300mm、内径200mmの内層の外周に、平均粒径5μmのWC粉末85重量%、1μmのCo粉末9重量%、1μmのNi粉末5.5重量%、1μmのCrSi2粉末0.5重量%からなる混合粉末を充填配備した。次に、温度1320℃、1時間の条件で焼結し、外径330mm、長さ500mmの複合スリーブを得た。この複合スリーブを外径200mm、長さ1500mmの鋼製軸材に焼嵌めて、本発明の超硬合金製複合ロールを得た。
【0034】
得られた複合スリーブについて、超硬合金の外層表面に歪ゲージを貼付け後、その部分を40mm×40mm×40mmのブロックに切断して、開放法により外層表面に作用している円周方向の圧縮残留応力を測定した。結果、200MPa以上の圧縮残留応力を示し、十分な耐亀裂性を有していることを確認できた。
【0035】
また、外層と内層との境界部の接合状態を超音波法により検査したところ、外層は内層に強固に拡散接合されており、接合不良及びクラックは全く認められなかった。本発明の超硬合金製複合ロールは、熱間薄板圧延機用ロール、熱間条鋼圧延機用ロール等に用いるのに適し、これらの圧延に使用したところ、優れた耐摩耗性、耐肌荒れ性、耐亀裂性、耐割損性を有することが分かった。
【0036】
【発明の効果】
本発明の超硬合金製複合ロールは、外層が内層に焼結と同時に拡散接合されているので、外層表面に適正な圧縮残留応力を付与でき、耐亀裂性、耐割損性に優れている。このため高温かつ高荷重下で使用される熱間圧延用ロールに用いる場合に優れた性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の複合スリーブの横断面図である。
【図2】 本発明の複合ロールの回転軸方向の断面図である。
【図3】 図2のA−A断面図である。
【符号の説明】
1 複合スリーブ、 11 外層、 12 内層、 3 軸材
Claims (3)
- 溶製の鋼系材からなる内層を形成するスリーブの外周に、周期律表のIVa〜VIa族の元素の炭化物、窒化物及び炭窒化物の硬質粒子の少なくとも1種または2種以上を60〜90重量%と、残部実質的にFe、Ni、Co、Cr、Mo及びWの少なくとも1種または2種以上の金属粉末とからなる混合粉末を焼結すると同時に拡散接合させた超硬合金製の外層を有し、前記内層が200〜600℃でベーナイト変態、もしくは200〜850℃でパーライト及びベーナイト変態を起こす鋳鋼、鍛鋼、黒鉛鋳鋼、炭素鋼及び合金炭素鋼のいずれかからなり、かつ前記外層表面に100MPa以上の円周方向の圧縮残留応力を付与した複合スリーブを、軸材に嵌合固定したことを特徴とする超硬合金製複合ロールであって、前記内層と前記外層との接合境界部に、外層の超硬合金よりは熱膨張係数が内層に近づくように、硬質粒子及び結合相の組成を変えた超硬合金の混合粉末を用いて0.01〜5mm厚さの傾斜合金層を形成することを特徴とする超硬合金製複合ロール。
- 前記硬質粒子がWC、TiC、TaC、NbC及びVCからなる群から選ばれた少なくとも1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載の超硬合金製複合ロール。
- 前記金属粉末がさらにCr3Si、CrSi及びCrSi2の少なくとも1種または2種以上からなるCr−Si化合物を0.1〜3.0重量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の超硬合金製複合ロール。
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